(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-03
(54)【発明の名称】脳障害を検出するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240527BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20240527BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B3/113
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571473
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2023-11-27
(86)【国際出願番号】 CA2022050784
(87)【国際公開番号】W WO2022241554
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520210169
【氏名又は名称】クィーンズ ユニバーシティー アット キングストン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ムニョス ダグラス ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ブライエン ドナルド クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】コー ブライアン チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト ブライアン ジョセフ
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA21
4C316AA22
4C316AA28
4C316AA30
4C316AB16
4C316FA01
4C316FB21
4C316FZ03
(57)【要約】
対象における脳障害を検出するための装置及び方法は、プロセッサに動作可能に接続された、ディスプレイデバイス及び視線追跡装置を含み、ディスプレイデバイスは、少なくとも1つのビューイングタスクに従って対象に視覚シーンを表示する。視線追跡装置は、対象がビューイングタスクを実行している間に対象の眼球の少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力する。プロセッサは、1つ以上の選択された特徴についてのデータを抽出し、分類器を使用して1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析して、1つ以上の条件を決定し、決定された条件を、メタデータ及び利用可能であれば真の条件との比較を通じて検証し、選択された特徴についての決定された条件に基づいて出力を生成し、ここで、出力は、対象が脳障害を有する可能性を示す。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための装置であって、
プロセッサに動作可能に接続された、ディスプレイデバイス及び視線追跡装置を備え、
前記ディスプレイデバイスが、少なくとも1つのビューイングタスクに従って前記対象に視覚シーンを表示し、
前記視線追跡装置が、前記少なくとも1つのビューイングタスク中に前記対象の眼のうちの少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力し、
前記プロセッサが、前記視線追跡データを受信し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを抽出し、前記1つ以上の選択された特徴についての前記データを分析し、
前記プロセッサが、分類器を使用して前記1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析して条件を決定し、前記1つ以上の選択された特徴についての前記決定された条件に基づいて出力を生成し、
前記出力が、前記対象が脳障害を有する可能性を示す、装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つのビューイングタスクが、構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングタスクのうちの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記構造化ビューイングタスクが、プロサッカードタスク及びアンチサッカードタスクのうちの少なくとも一方を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記非構造化ビューイングタスクが、自由ビューイングタスクを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記ディスプレイデバイスが、前記対象にユーザインタフェースを表示する、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記1つ以上の選択された特徴が、眼球運動、瞬き、瞳孔挙動、及びそれらの間の協調又は相互作用から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記眼球運動が、サッカード、円滑追跡、及び固視のうちの1つ以上を含む、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記分類器が、機械学習モデルを用いて実施される、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記機械学習モデルが、サポートベクターマシンを含む、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記脳障害が、神経変性疾患、神経発達障害、神経非定型障害、精神障害、及び脳損傷のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記脳障害が、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症スペクトル、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害、多系統萎縮症、本態性振戦、血管認知障害、胎児アルコールスペクトル症候群、注意欠陥過活動性障害、トゥレット症候群、自閉症スペクトラム障害、オプソクローヌスミオクローヌス運動失調症候群、視神経炎、副腎白質ジストロフィー、多発性硬化、大うつ病性障害、双極性、拒食症及び過食症から選択される摂食障害、読書障害、境界性パーソナリティ障害、アルコール使用障害、不安、神経COVID障害、精神分裂症、及び無呼吸のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための方法であって、
視線追跡装置を使用して、前記対象が少なくとも1つのビューイングタスクを実行している間に前記対象の眼のうちの少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力することと、
プロセッサを使用して、前記視線追跡データを受信し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを抽出し、前記1つ以上の選択された特徴についての前記データを分析することと
を含み、
前記プロセッサが、分類器を使用して前記1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析して条件を決定し、前記1つ以上の選択された特徴についての前記決定された条件に基づいて出力を生成し、
前記出力が、前記対象が脳障害を有する可能性を示す、方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのビューイングタスクが、構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングタスクのうちの少なくとも一方を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記構造化ビューイングタスクが、プロサッカードタスク及びアンチサッカードタスクのうちの少なくとも一方を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記非構造化ビューイングタスクが、自由ビューイングタスクを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記1つ以上の選択された特徴が、眼球運動、瞬き、瞳孔挙動、及びそれらの間の協調又は相互作用から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記協調が、眼球運動と瞬きとの間の相対速度を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記眼球運動が、サッカード、円滑追跡、及び固視のうちの1つ以上を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記分類器が、機械学習モデルを用いて実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記機械学習モデルが、サポートベクターマシンを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記脳障害が、神経変性疾患、神経発達障害、神経非定型障害、精神障害、及び脳損傷のうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記脳障害が、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症スペクトル、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害、多系統萎縮症、本態性振戦、血管認知障害、胎児アルコールスペクトル症候群、注意欠陥過活動性障害、トゥレット症候群、自閉症スペクトラム障害、オプソクローヌスミオクローヌス運動失調症候群、視神経炎、副腎白質ジストロフィー、多発性硬化、大うつ病性障害、双極性、拒食症及び過食症から選択される摂食障害、読書障害、境界性パーソナリティ障害、アルコール使用障害、不安、神経COVID障害、精神分裂症、及び無呼吸のうちの少なくとも1つを含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は、ビューイングタスク中の眼球挙動を監視することによる、対象における脳障害の検出及び診断に関する。より具体的には、本発明は、ビューイングタスク中の対象の眼球挙動の特徴を選択及び分析することによって、脳障害を検出及び診断することに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
ビューイングタスク中の視線追跡に基づいて脳障害を検出するための現行の手法(例えば、Perkins et al.2021、Tseng et al.2013)は、参加者受け入れ数の少なさ、高額な機器、高度に訓練された個人の必要性、及び分析の転換の遅さなどの制限を受ける。加えて、現行の手法(例えば、Coe et al.2022)は、挙動喪失及び追跡喪失の同様の処置に部分的に起因してデータ喪失を起こしやすく、その結果、瞬きやサッカードに関連する重要な情報の喪失をもたらす。
【発明の概要】
【0003】
概要
本発明の一態様によれば、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための装置が提供され、本装置は、プロセッサに動作可能に接続された、ディスプレイデバイス及び視線追跡装置を備え、ディスプレイデバイスは、構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングのうちの少なくとも一方に従って対象に視覚シーンを表示し、視線追跡装置は、対象が構造化ビューイングタスク及び/又は非構造化ビューイングを実行している間に対象の眼の少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力し、プロセッサは、視線追跡データを受信し、複数の選択された特徴についてのデータを抽出し、複数の選択された特徴についてのデータを分析し、プロセッサは、分類器を使用して、選択された特徴の各々についてのデータを分析して条件を決定し、決定された条件を検証し、選択された特徴についての決定された条件に基づいて出力を生成し、出力は、対象が脳障害を有する可能性を示す。
【0004】
本発明の別の態様によれば、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための装置が提供され、本装置は、プロセッサに動作可能に接続された、ディスプレイデバイス及び視線追跡装置を備え、ディスプレイデバイスは、少なくとも1つのビューイングタスクに従って対象に視覚シーンを表示し、視線追跡装置は、少なくとも1つのビューイングタスク中に対象の眼のうちの少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力し、プロセッサは、視線追跡データを受信し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを抽出し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析し、プロセッサは、分類器を使用して、1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析して条件を決定し、1つ以上の選択された特徴についての決定された条件に基づいて出力を生成し、出力は、対象が脳障害を有する可能性を示す。
【0005】
本発明の別の態様によれば、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための方法が提供され、本方法は、視線追跡装置を使用して、対象が構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングのうちの少なくとも一方を実行している間に対象の眼のうちの少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力することと、プロセッサを使用して、視線追跡データを受信し、複数の選択された特徴についてのデータを抽出し、複数の選択された特徴についてのデータを分析することと、を含み、プロセッサは、分類器を使用して、選択された特徴の各々についてのデータを分析して条件を決定し、決定された条件を検証し、選択された特徴についての決定された条件に基づいて出力を生成し、出力は、対象が脳障害を有する可能性を示す。
【0006】
本発明の別の態様によれば、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための方法が提供され、本方法は、視線追跡装置を使用して、対象が少なくとも1つのビューイングタスクを実行している間に対象の眼の少なくとも一方を追跡し、視線追跡データを出力することと、プロセッサを使用して、視線追跡データを受信し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを抽出し、1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析することと、を含み、プロセッサは、分類器を使用して、1つ以上の選択された特徴についてのデータを分析して条件を決定し、1つ以上の選択された特徴についての決定された条件に基づいて出力を生成し、出力は、対象が脳障害を有する可能性を示す。
【0007】
いくつかの実施形態は、メタデータ及び真の条件との比較を通じて、決定された条件(複数可)を検証することを含み得る。いくつかの実施形態では、決定された条件(複数可)の検証は省略され得る。
【0008】
いくつかの実施形態によれば、構造化ビューイングタスクは、プロサッカードタスク及び/又はアンチサッカードタスクを含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態によれば、非構造化ビューイングは、自由ビューイングタスクを含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態によれば、非構造化ビューイングは、ビデオクリップの自由ビューイングを含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態によれば、ディスプレイデバイスは、ユーザインタフェースを対象に表示し得る。
【0012】
いくつかの実施形態によれば、選択された尺度は、眼球運動、瞬き、及び瞳孔挙動、並びにそれらの間の協調又は相互作用を含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態によれば、眼球運動は、サッカードを含み得る。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、眼球運動は、サッカード及び円滑追跡を含み得る。
【0015】
いくつかの実施形態によれば、分類器は、機械学習モデルを用いて実施され得る。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、機械学習モデルは、サポートベクターマシンを含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態によれば、脳障害は、神経変性疾患、神経発達障害、神経非定型障害、精神障害、及び脳損傷のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態によれば、脳障害は、軽度認知障害、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、進行性核上性麻痺、レビー小体型認知症スペクトル、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害、多系統萎縮症、本態性振戦、血管認知障害、胎児アルコールスペクトル症候群、注意欠陥過活動性障害、トゥレット症候群、自閉症スペクトラム障害、オプソクローヌスミオクローヌス運動失調症候群、視神経炎、副腎白質ジストロフィー、多発性硬化、大うつ病性障害、双極性、拒食症及び過食症から選択される摂食障害、読書障害、境界性パーソナリティ障害、アルコール使用障害、不安、神経COVID障害、精神分裂症、及び無呼吸のうちの少なくとも1つを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本発明のより深い理解のために、また本発明がどのように実施され得るかをより明確に示すために、例として、添付の図面を参照して実施形態を説明する。
【0020】
【
図1A】実施形態による、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための装置及び方法に基づくプロセスフローを示す図である。
【
図1B】実施形態による、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための装置及び方法に基づくプロセスフローを示す図である。
【
図2】一般化された実施形態による、対象における脳障害を検出、診断、及び/又は評価するための特徴を抽出及び分類するために視線追跡処理装置データを処理する工程を示すフロー図である。
【
図3】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクのためのショートクリペット動画シーケンスのシーケンスから作成された動画の一例を示す図である。
【
図4】A~Dは、サッカード速度(A)、マイクロサッカード速度(B)、瞬き速度(C)、及び瞳孔サイズ(D)に関して、パーキンソン病(PD)については灰色で、対照(CTRL)については黒色で、クリペットの開始に対する視線追跡動態を示す、非構造化ビューイングタスクから生成されたプロットである。
【
図5】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクについて得られたデータについての瞳孔動態の関数主成分分析(FPCA)の結果を示すプロットである。
【
図6】一実施形態による、理論上の個々の走査経路がオーバーレイされた、非構造化ビューイングタスクのための1つの動画の1つのフレームに対する制御のグループレベルの注視マップである。
【
図7】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクのための顕著性マップの例(右)及び顕著性マップが基づく動画クリペットのフレームの例(左)を示す。
【
図8】一実施形態による、サポートベクターマシン(SVM)を使用するモデル構築プロセスを示す図である。
【
図9】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクからの生データのt分布型確率的近傍埋め込み(tSNE)次元削減を示すプロットである。
【
図10】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクからのデータに基づく混同行列である。
【
図11】一実施形態による、非構造化ビューイングタスクからのデータに基づく、10分割データのROC分析であり、各分割のROCが細い線で示され、平均が太い実線で示され、平均周辺の標準偏差が網掛けで示されている。
【
図12】一実施形態による非構造化ビューイングタスクからのデータに基づく、MDSサブグループにおけるパーキンソン病(PD)の確率を示すプロットであり、PDの信頼度の増加は、より認知障害の高いサブグループにおいて見ることができる。平均±標準誤差は、線を有する小さな黒いボックスとして表示され、CN_CTRL=対照である。
【
図13】一実施形態による、生視線追跡装置データから抽出され得る眼球挙動の特徴を示す図である。
【
図14】インターリーブプロサッカード及びアンチサッカードタスクに基づく一実施形態による構造化ビューイングタスクのための方法を示す図である。
【
図15】一実施形態による、
図14の構造化ビューイングタスクのためのサッカード分類スキームを示す図である。
【
図16】構造化ビューイングタスクを実行している間に様々な患者群において見出された動眼欠損の表である。矢印の数は、対照参加者からの差の大きさを示し、矢印の方向は、差の方向を示す(上、増加;下、減少;ダッシュ、変化なし)。
【
図17】非構造化ビューイングタスクを実行している間の様々な患者群において見出された動眼欠損の表である。矢印の数は、対照参加者からの差の大きさを示し、矢印の方向は、差の方向を示す(上、増加;下、減少;ダッシュ、変化なし)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
態様の詳細な説明
対象における脳障害を検出するための装置及び方法が本明細書に記載される。本明細書で使用される場合、「検出すること」という用語は、脳障害を診断すること及び/又は評価することも指し得る。本明細書で使用される場合、「脳障害」は、限定するものではないが、神経変性疾患、神経発達障害、神経非定型障害、精神障害、又は脳損傷(脳卒中、虚血、外傷、脳震盪など)、脳がん、てんかん、発作などのうちの1つ以上から生じ得る脳機能における障害を指す。例えば、これらに限定されないが、軽度認識障害、筋萎縮性側索硬化症、前頭側頭型認知症、進行性核上麻痺、レビー小体型認知症スペクトル、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、急速眼球運動(REM)睡眠行動障害、多系統萎縮症、本態性振戦、血管認識障害、胎児アルコールスペクトル症候群、注意欠陥多動性障害(全タイプ)、トゥレット症候群、自閉症スペクトラム障害、オプソクローヌスミオクローヌス運動失調症候群、視神経炎、副腎白質ジストロフィー、多発性硬化、大うつ病性障害、双極性、摂食障害(拒食症、過食症など)、読書障害、境界性パーソナリティ障害、アルコール使用障害、不安、神経COVID障害、精神分裂症、及び無呼吸が挙げられる。
【0022】
観察タスク中の視線追跡に基づいて脳障害を検出するための従来の手法は、試験に伴う不便さ、高額な機器、高度に訓練された個人の必要性、及び遅い分析転換に部分的に起因する、参加者受け入れ数の少なさなどの制限を被る。加えて、従来の手法は、挙動損失及び追跡損失の同様の処置に部分的に起因して、データ損失を起こしやすい。本明細書で説明される実施形態は、参加者が使用するのに容易かつ便利であり、重要なデータを失うことなくデータをクリーニング/処理し、分析のための特徴を識別及び選択するための方法を含む試験プラットフォームを提供することによって、そのような制限を克服する。例えば、本明細書の実施形態は、瞬きを単にデータ損失のタイプではなく特徴として扱い、瞬きによるデータ損失対他の理由によるデータ損失を具体的に分離することによって重要な情報を抽出する方法及びアルゴリズムを提供する。更なる例として、本明細書の実施形態は、ビデオベースの視線追跡装置からのデータを使用する従来の手法では問題であった眼球サッカード終点の検出に関する問題に対処する方法及びアルゴリズムを提供する。実施形態は、構造化タスク及び非構造化ビューイングの両方における眼球運動挙動の正確な分類を可能にするタスクベースの処理を提供し、より強力でよりロバストな学習機械をもたらす。
【0023】
図1Aは、本明細書に記載される脳障害を検出するための一般化された装置及び方法による特徴及びプロセスフローを示す。この説明は、
図1Aに概して示される特徴の全て、又は
図1Aに示される特徴のうちのいくつか、例えば、
図1Bを含み得る、方法及び装置の実施形態を提供する。
図1A及び1Bは、一般的な概略を提示し、限定するものではないことが理解されるであろう。すなわち、他の特徴が実施形態に含まれてもよく、又は図示されるいくつかの特徴が実施形態に含まれなくてもよい。
【0024】
図1Aを参照すると、101において、コンピュータモニタ、ラップトップコンピュータ、タブレット、スマートフォン、投影型ディスプレイ、ウェアラブルディスプレイ、ホログラム、VR又はARディスプレイなど(本明細書では概して「ディスプレイ」と呼ぶ)を使用して表示される視覚シーンが対象に提示され、視線追跡装置(図示せず)が対象の眼のうちの少なくとも一方の挙動を追跡する。本明細書で使用される場合、「視線追跡装置」という用語は、ビデオベース、レーザベースなどにかかわらず、カメラ(例えば、ラップトップコンピュータ、スマートフォン、又はタブレットの内蔵カメラ)、デバイスに接続されたカメラ、視線追跡システム、ウェアラブル視線追跡眼鏡、又はヘッドセットなど、対象の眼を追跡するために使用され得るハードウェアを含む。視覚シーンの提示は、ローカルコンピュータ若しくはリモートサーバなどのディスプレイに接続されたデバイス上で実行される、又はディスプレイと一体のデバイス(例えば、ラップトップコンピュータ、スマートフォン、又はタブレット)上で実行されるソフトウェアアプリケーションを介してもよい。ソフトウェアアプリケーションは、情報及び命令を対象に提供し、対象に情報を入力するように促すなどのユーザインタフェース102を含み得る。視覚シーン103は、以下で詳細に説明される構造化ビューイングタスク及び/又は非構造化ビューイングタスクを含み得る。デバイスは、任意選択的に、対象情報や視線追跡データなどを記憶するために、インターネット、遠隔サーバ、クラウドなど105に接続され得る。
【0025】
構造化ビューイングタスク及び/又は非構造化ビューイングタスクとして実施され得る、対象に提示される視覚シーン103の変化は、脳の視覚野を掃引し、対象の眼球挙動を変化させる視覚摂動をもたらし、これは、視線追跡装置によって取得される生データに取り込まれる。生の視線追跡データの処理は、デバイス上でローカルに実行されてもよいし、サーバ上などでリモートに実行されてもよく、前処理(例えば、フィルタリング、外れ値の除去など)を含み得る。処理は、選択された特徴に対応するデータを抽出することと、選択された特徴についてデータを分析することとを含む。特徴及び分析方法については、以下の実施例1、2、3、及び4で詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0026】
例えば、
図1Aの110に示されるように、選択された特徴は、サッカード、瞬き、及び瞳孔挙動を含み得る。
図2は、抽出された特徴がサッカード反応時間(SRT)、マイクロサッカード、瞬き、及び瞳孔挙動を含む実施形態に従う、データ処理フロー又は「パイプライン」である。以下の実施例1、2、3、及び4に詳細に記載されるように、他の特徴が抽出され得る。
図1Aにおいて120に示されるように、更なる処理は、例えば、プロセッサが、条件を決定するために分類器を使用して、選択された特徴の各々についてのデータを分析することと、メタデータ及び利用可能であれば真の条件との比較を通じて、決定された条件(複数可)について分類器を検証することと、選択された特徴についての決定された条件(複数可)に基づいて出力を生成することとを含み得る。メタ分析は、人口統計情報、バイタル、医療検査、及び状態に対する確立された医療検査のうちの1つ以上に基づき得る。バイタルは、限定するものではないが、血圧(座位及び立位の両方)、脈拍数(座位及び立位の両方)、呼吸数、腹囲と腰回りの比を含み得る。検証は、分類器を開発する(すなわち、訓練する)ために実行され得る。分類器が訓練され、検証が完了すると、検証はもはや使用されなくてもよい。したがって、対象を評価及び診断するために使用される実施形態では、分類器は、既に訓練されていてもよく、分類器出力は、データベース内、例えば、サーバ内、クラウド内などの記憶装置に向けられ、患者報告などの出力を判定するために使用され得る。その結果、例えば
図1Bに示すように、メタデータとの比較を通じて検証する工程が省略され得る。実施形態は、例えば、深層学習、決定木、又はサポートベクターマシン(SVM)などの人工知能技術を使用する機械学習に基づき得る。
【0027】
更なる分析において、脳障害のサブタイプが検出され得、実施形態によって達成され得る障害における認知機能障害の程度に対する感度を実証する。例えば、実施例3は、パーキンソン病(PD)について検出されたサブグループを記載する。実施例4は、4つのPD関連状態の検出を説明する。同様の結果がアルツハイマー病(AD)についても得られた。動眼バイオマーカ(すなわち、特徴)が見出されており、本明細書に記載されている様々な神経変性障害を診断するために使用されている。例えば、実施例1~5並びに
図13、15、16、及び17を参照されたい。
【0028】
最後に、再び
図1Aを参照すると、対象が脳障害を有する可能性、及び任意選択で障害の程度又は重症度などの他の情報を示す出力130を、対象及び/又は医療専門家に提供し得る。
【0029】
本明細書で使用される場合、「サッカード」という用語は、視覚シーンの1つの部分から別の部分へ注視の中心をシフトさせる急速な共役性眼球運動を指す。サッカードは、2度以上の視角の注視変位を指すマクロサッカード、又は2度未満の視角の注視変位を指すマイクロサッカードを含み得る。
【0030】
本明細書で使用される場合、「円滑追跡」という用語は、動いている視覚物体を注視の中心に維持する円滑な共役性眼球運動を指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「視覚シーン」という用語は、ディスプレイ上で対象に提示されるシーンを指す。視覚シーンは、構造化ビューイングタスク又は非構造化ビューイングタスクに関連付けられたコンテンツを含み得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、「構造化ビューイングタスク」という用語は、対象が、提示された刺激に基づいてタスクを実行するように指示される、能動的ビューイングタスクを指す。視覚シーン内に刺激を提示することができる。いくつかの実施形態では、刺激はまた、聴覚刺激又は触覚刺激などの1つ以上の他のモダリティを含み得る。例えば、構造化ビューイングタスクは、対象が視覚シーン内の刺激の方を見ることを必要とする場合があり(すなわち、「プロサッカード」タスク)、又は対象が視覚シーン内の刺激から目を離すことを必要とする場合がある(すなわち、「アンチサッカード」タスク)。いくつかの実施形態では、構造化ビューイングタスクは、プロサッカードタスク及びアンチサッカードタスクの両方を含み得る。そのような構造化ビューイングタスクの例は、実施例3に提示される。他の実施形態では、構造化ビューイングタスクは、予測(Calancie et al.2022)又はメモリベースモデル、円滑追跡モデル、固視タスク、読み取りタスク(Al Dahhan et al.2017;2020)などに基づき得る。いくつかの実施形態では、タスクは、手動でボタンを押すこと、又はタッチスクリーンに接触することなど、他のモダリティを使用してアクションを行うことを対象に要求し得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「非構造化ビューイングタスク」又は単に「非構造化ビューイング」又は「自由ビューイング」という用語は、任意の他のガイダンス又は特定の指示が提供されることなく、視覚シーンを見る又は観察するように指示される受動的ビューイングタスクを指す(Tseng et al.2013、Habibi et al.2022)。例えば、非構造化ビューイングタスクでは、視覚シーンは、ビデオクリップ、又はクリップが次々に提示される一連のビデオクリップ(本明細書では「クリペット(clippet)」とも呼ばれる)であり得る。ビデオクリップは、任意の利用可能なコンテンツ(例えば、オンラインで利用可能なビデオ、動画など)から作成され得るか、又はカスタムメイドされ得る。そのような非構造化ビューイングタスクの例は、実施例1に示される。
【0034】
本明細書に記載の実施形態によれば、非構造化ビューイングタスクは、一連の動画/ビデオクリップに基づく視覚シーンを含み得、クリップのコンテンツは、調査されている脳障害の性質を考慮して選択される。更に、対象から検出可能な応答を引き出すために、ビューイング時に対象に脳経路を切り替えさせると予想されるコンテンツが選択され得る。例えば、摂食障害を有する対象には、食物に関するコンテンツが提示され得、読書障害を有する対象には、文字、記号、及びオブジェクトの読み取り又は視覚的及び音声的に混乱させる組み合わせに関するコンテンツが提示され得、情緒障害を有する対象には、感情を表示する顔に関するコンテンツ又は他の感情関連コンテンツなどが提示され得る。
【0035】
実施
実施形態は、コンピューティングデバイス(例えば、スマートフォン、タブレット、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、サーバなど)、又は本明細書では概してコンピュータと呼ばれるコンピューティングデバイスのネットワークによって実行可能なコンピュータコードで少なくとも部分的に実施され得る。そのようなコンピュータは、コンピュータコードを記憶した非一時的コンピュータ可読記憶媒体、すなわち、記憶デバイス又はコンピュータシステムメモリ(例えば、1つ以上の磁気記憶ディスク、1つ以上の光ディスク、1つ以上のUSBフラッシュドライブ)などを含み得る。コンピュータコードは、コンピュータ実行可能命令、すなわち、本明細書では概してコンピュータのプロセッサと呼ばれるコントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサなどによってアクセスされ得るソフトウェアプログラムやアプリケーション(「アプリ」)などを含み得る。コンピュータ可読媒体にアクセスすることは、プロセッサが媒体上に符号化されたコンピュータ実行可能命令を取り出すこと及び/又は実行することを含み得、これは、プロセッサがコンピューティングデバイス上でアプリを実行することを含み得る。
【0036】
記憶された命令を実行することにより、コンピュータは、本明細書に記載の実施形態による処理工程、例えば、
図1A、
図1B、及び
図2の実施形態に関して説明したように、ユーザインタフェース、構造化及び/又は非構造化ビューイングタスク、データ前処理及び処理パイプライン、データ分析及び分類などの1つ以上の特徴を実施し、患者レポートを出力する処理工程を実行することができる。いくつかの処理工程は、ユーザに入力を促すことを含み得る。いくつかの実施形態では、プログラムされた媒体は、ビューイングタスクと共に使用するための記憶されたビデオクリップを含み得る。いくつかの実施形態では、コンピュータコードは、
図1A及び1Bの実施形態の特徴が同じコンピュータ上で、例えば、対象が構造化及び/又は非構造化ビューイングタスク、データ処理、分析、及び患者レポートの出力が全てローカルに実行される臨床現場におけるローカルコンピュータ上で実施されるように実行され得る。他の実施形態では、
図1A及び1Bの実施形態の特徴は、少なくともいくつかの特徴が対象のコンピュータ上で実施されるように、対象のコンピュータが遠隔コンピュータ又はサーバに(例えば、有線又は無線ネットワーク、インターネットなどを介して)接続された状態で、遠隔で(例えば、サーバ上で)実施され得る。いくつかの実施形態は、構造化及び/又は非構造化ビューイングタスクを実行するために、対象が遠隔コンピュータ又はサーバにログインすることを要求し得る。
【0037】
したがって、プロセッサと共に使用するためのプログラムされた媒体も本明細書で提供され、プログラムされた媒体は、コンピュータと互換性のある非一時的コンピュータ可読記憶媒体上に記憶されたコンピュータコードを含み、コンピュータコードは、本明細書で説明される実施形態による処理工程、例えば、
図1A、1B、及び2に関して説明される特徴に対応する処理工程を実行するようにプロセッサに指示する命令を含む。
【0038】
以下の非限定的な実施例によって実施形態を更に説明する。
【実施例】
【0039】
実施例1
本実施例は、サポートベクターマシン(SVM)をコアモデルとする、機械学習に基づく視線追跡分類器に関する。方法は、非構造化ビューイングタスクを実行する対象から得られた視線追跡装置データに適用されるものとして説明される。しかしながら、本方法は、構造化ビューイングタスクを実行する対象から取得される視線追跡装置データにも適用され得ることが理解されるであろう。
【0040】
非構造化ビューイングタスク
カナダ、オンタリオ州全域の診療所で、Ontario Neurodegenerative Disease Research Initiative(ONDRI;https://ondri.ca/)の一環として、140人の初期パーキンソン病患者がこのタスクを完了した。これらの対象のうち128人(男性98人、平均年齢67.8±6.6歳)が、視線追跡プラットフォームを完了することができた。98人の年齢適合対照(男性35人、平均年齢67.7±8.1歳)についてのデータを、カナダ、オンタリオ州キングストンのクイーンズ大学において同一条件下で収集した。
【0041】
SR Research Eyelink 1000 Plus視線追跡装置(SR Research Ltd.、オンタリオ州ミシソーガ)を使用して、各対象の眼を追跡した。片眼(右)を500Hzのサンプル速度で追跡した。頭部を安定させるために、対象は、顎及び額置きに頭を置いた。Viewsonic VG732M 17”画面を関節アームに取り付けた。このアームはまた、視線追跡装置のカメラ及び赤外線照明器を支えた。これにより、カメラとモニタの相対位置を一定に保つことができ、診療所での使用を容易にすることができる。
【0042】
タスクのために、Dell Latitude E7440ラップトップを使用して、自由ビューイングタスクを展開した。タスクは、30fps及び1280×1024ピクセルの解像度で再生される10個の1分間の高精細度動画(すなわち、ビデオクリップ)で構成した(例えば、
図3を参照)。作業の開始前に、黒色背景上のモニタ上の9点の規則的な間隔のグリッドを用いて右眼を較正した。眼は、0.57±0.21度の平均視角誤差に較正された。各動画は、屋内で作成され、長さが約2~4秒の16又は17のクリペット(短いサブ動画)で構成した。したがって、動画は、参加者が見ているときに数秒ごとにチャネルが変更されているかのように参加者に見え、これは、対象が新しい風景に注意を継続的に移動させることを促す。シーンは、コンテンツが様々であり、概して心地よい性質のものであり、自然シーン、漫画、動物、人間を様々な相互作用で含んでいた。対象は、「動画を見て注目する」ように指示されただけであった。他のガイダンス又は指示は必要としなかった。
【0043】
特徴の抽出及び分析
生の視線追跡データ(x位置、y位置、瞳孔面積)を抽出し、Matlab(The Mathworks,Inc.、マサチューセッツ州ナティック)のカスタムソフトウェアパイプラインを使用して処理した。データ処理は、急速眼球運動(例えば、マクロサッカード及びマイクロサッカード)、平滑眼球運動(平滑追跡)、固視、瞳孔動態、及び瞬きの検出を含んでいた。
【0044】
このモデルの中核は、非構造化自由ビューイングデータからの説明的特徴の抽出である。特徴のカテゴリは、脳のボトムアップ及びトップダウン眼球運動回路に及ぶ脳領域の連続体をカバーするように選択された。合計58個の特徴が以下に説明される。
【0045】
特徴には、表1に列挙されるように、眼球運動、瞬き、及び瞳孔動態(すなわち、挙動)の基本的な動眼尺度を含めた。
【0046】
【0047】
第2に、データを試行へと処理し、各クリペット変更の開始時に始め、次のクリペットが開始する前のフレームまで延長した。クリペットの変化では、視覚入力は、脳に突然の視覚摂動を引き起こす新しい風景によって突然変化する。この摂動の初期に、脳は、シーンの低レベル又は基本的な視覚特性(例えば、色、動き、エッジ、コントラスト)に応答して、よりボトムアップの自動処理を使用する。一例として、10個の動画全体にわたる全てのクリペット変化に関する各対象の全てのデータを整列させると、
図4A~
図4Dのプロットが得られる。
図4A~4Dに見られるように、サッカード(A)、マイクロサッカード(B)、瞬き速度(C)、及び瞳孔サイズ(D)の動態は、クリペット全体にわたって複雑な関数的様式で変化する。しかしながら、新しい風景(
図4A)に関するサッカード抑制及びリバウンド、並びに異なる量の収縮を伴う瞳孔光反射(
図4D)などの明確な構造を依然として観察することができる。
【0048】
このデータの課題は、それが本質的に関数的であることである。特徴を抽出するために、Functional Data Analysis(FDA)(Ramsay及びSilverman、2002)を使用して調和スコアを生成した。FDAは、関数を従来の統計変数として扱うことを可能にし、従来の統計分析をそれらに対して実行することができる。この手法は、機能主成分分析(FPCA)を使用して、これらの特徴における変動性の約95%を記述する各機能動態について4つの調和スコアを抽出することであった。従来のPCAと同様に、これらの4つのスコアは、直交的に次元を減少させる。バリマックス関数を適用して、スコア間の変動性をより均一に捕捉した(例示的な出力として
図5を参照)。各クリペット変更後の最初の2秒間、サッカード速度、マイクロサッカード速度、瞬き速度、及び瞳孔動態にFPCAを適用した(表2参照)。
図5では、全ての対照及びPD個体の瞳孔動態についてのPCA成分1が示されている。太い曲線は平均瞳孔サイズである。FPCA調和を使用した、平均から-2標準偏差離れた曲線及び平均から+2標準偏差離れた曲線が示されている。第1の調和は、収縮に関連する変動を明確に捕捉するが、いくつかのより小さな関連振動も捕捉する。各対象に、これらの関数に対する調和スコアを与えた。
【0049】
【0050】
特徴の第3のセットは、互いに対する、及びシーンの内容に対する対象の注視の相関に関連した。注視の相関は、比較に関係なく、対象の固視と何らかのヒートマップとの対応として計算した。これは、正規化走査経路顕著性(NSS)を使用して測定される(Peters et.al.、2005)。目的は、何らかの興味深い特性に関して、動画の各フレームにわたって正規化されたマップ(平均を減算し、標準偏差で除算する)を生成することである。次に、対象の各固視点におけるこのマップの値をサンプリングする(較正における誤差に匹敵する少量の誤差を許容する)。これらの値の平均は、対象の注視がマップの平均より上又は下にどのくらいの標準偏差があるかを示す。この値が高いほど、対象の注視は特定のマップとの相関性が高い。
図6は、理論的な個々の走査経路が重ねられた、1つの動画の1つのフレームに対する制御のグループレベルの注視マップである。グループ注視位置は、ガウスブロブとして表され、集団レベル上で合計される。より明るい領域は、注視が対象間で相関した場所を示す。図示されるように、この個々の走査経路は、フレーム全体にわたって様々なNSS値を有する4つの固視を生成した。このプロセスは、平均NSSスコアを得るために、各個人の全ての動画の全てのフレームについて実行され得る。
【0051】
注視は2つのタイプのマップで比較された。第1のマップは、観察者間マップであり、注視の判定基準を表す。これらは、全てのフレームに対する全ての対象の注視を平均してヒートマップにすることによって構築される。対象の注視は、いくらかの誤差を許容するために、小さな1.5度ガウスパッチとして表される。次いで、これらの個々の注視マップを合計し、正規化して、グループ注視マップを生成する(
図6の背景を参照されたい)。各対照対象を、除外した群マップと比較した。このマップは、ボトムアップ処理とトップダウン処理の両方を測定する。特に、この判定基準マップは、グループの意志的な動きを捕捉する。標準挙動として対照群を考慮すると、NSSスコアは、意志的処理の無傷性を捕捉する。
【0052】
様々な形態のボトムアップ顕著性マップも生成した。これらのマップは、参加者が新しいクリペットなどの新しい刺激に応答して行う最初の数回のサッカードを強く予測することが示されている(Itti,et.al.、2001)。これらのサッカードは、大部分が自動的であり、動き、強度、及び色などのシーンの基本的な特徴に応答する。
図7は、顕著性マップ(右)及びそれが基づくフレーム(左)の例である。色で示されていないが、このマップは赤/緑の色の顕著性を表す。したがって、これらのマップに関するNSSスコアは、これらの自動プロセスの完全性を捕捉する。これらのマップは、Laurent Itti研究所からの自動ツールを使用して生成した(iLab Neuromorphic Vision C++ Toolkit,http://ilab.usc.edu/toolkit/)。表3は、比較されたマップのリストを提供する。
【0053】
【0054】
更なる特徴のセットは、生のx位置、y位置、及び瞳孔面積データに基づいた。生データの構造のみが記述的であり、手作りの特徴で見逃された群間のいくらかの変動性を捕捉し得ることが観察された。表4に概要を示すように、これらのデータの従来の統計的尺度を調べた。
【0055】
【0056】
分類器モデル
この例では、分類器モデルはサポートベクターマシン(SVM)上に構築された。SVMは、異なるカテゴリ間の距離(マージン)が最大化されるようなカテゴリに属するものとしてデータを割り当てた。
【0057】
モデルを構築するために、上述した58個の特徴全てを使用した。データを最初にクリーニングして、いくつかの対象を除外した。対照については、主成分分析を介して高次元データに作用するロバストで客観的な外れ値検出アルゴリズム(Filzmoser,et.al.、2008)を適用した。外れ値検出の根拠は、対照のサブセットが実際には対照ではないと仮定されたことであった。地域社会からのサンプリングにより、高齢参加者の一部は、PD又は他の認知変性の前駆症状である可能性が高かった。視線追跡尺度はこれらの障害に敏感であるため、目的は、外れ値であった対象のサブセットを客観的に除去することであった。
【0058】
更に、対照(CTRL)群及びPD群については、良好な品質の視線追跡で少なくとも5回の動画を完了しなかった(すなわち、彼らは注目しており追跡されていた)対象、又は較正が不十分であった(平均誤差が2度を超える)対象は除外した。全体で、クリーンデータは、117人のPD対象及び76人のCTRL対象からなった。
【0059】
モデルを試験するために、入れ子交差検証(CV)スキームを採用して、データ漏れを回避し、実世界の性能をより正確に予測した(
図8参照)。全てのモデルは、sklearnパッケージを使用してPythonで構築した。外側CVでは、データの1つの試験セットが除外され、他の分割は、モデルを訓練及び検証するために使用される。内部CVでは、データが標準化され、SVM正則化パラメータのグリッド探索が、トレーニングデータへの最良適合のために実行される。SVMは放射基底関数を使用し、バイアスを回避するために群番号の非対称性に対して重み付けされたことに留意されたい。10分割の反復後、バイナリ分類のための平均精度尺度が得られた。
【0060】
予備結果
定性的には、t分布型確率的近傍埋め込み(tSNE)次元削減(van der Maaten,et.al.2008)を使用して特徴を分析し、結果を2Dでプロットした(
図9)。この場合、群間の明確な分離を見ることができる。抽出された特徴は、グループ間の良好な分離を提供するように見え、SVMなどの従来の分類器によく適している。
【0061】
各テストセットにおける各対象のクラスを予測することによって、
図10に示すような近似混同行列を構築することができる。87%の感度及び80%の特異度で84.5%の全体的な精度が達成される。更に、10分割ROC分析(
図11)は、89%±0.1%の平均AUC値を示す(結果は、CVにおけるランダム性に起因して、実行ごとにわずかに変動することに留意されたい)。
図11では、各分割についてのROCを細い線で示し、平均を太い実線で示す。平均付近の標準偏差を網掛け領域に示す。
【0062】
最後に、偽陰性(及び偽陽性)を調査し、病気の進行に対する視線追跡尺度の感度について更に理解するために、SVMからのPDの予測確率を、それらのMDS認知分類(ONDRI研究によって提供された)と共にプロットした。MDSスケールでのサブ分類の基準を表5に示す。
図12は、対照及びPDのサブグループに対してこの分類子によって割り当てられたPDの確率を示し、平均±標準誤差は、線を有する小さな黒いボックスとして表示される。上の列は、対照(CN_CTRL)、続いて認知的に正常な(CN)PDを表すが、偽陰性が存在する。次の列は、PD+軽度認知障害(MCI)、続いてPD+認知症サブタイプである。図から分かるように、より大きな認知低下を有する群に割り当てられたPDの信頼度が増加しており、偽陰性がより少なく、予測の信頼度がより高いという一般的な傾向がプロットの下方に移動している。CN PD対全ての他のPD群の片側t検定は、確率の有意差を示す(p=0.032)。したがって、分類子は、PDに敏感であるだけでなく、認知低下のレベルを測定する。また、ほとんどの偽陰性はCN PD群にある。興味深いことに、対照群のサブセットは、PDを偽陽性として予測され、一部はPDにおいてほぼ100%信頼でき、診断されていない可能性がある何らかの形態の認知低下の可能性を示す。
【0063】
(表5)MDS分類基準(iADL=手段的日常生活動作)
【0064】
実施例2
本実施例は、生の視線追跡装置データから抽出され得る眼球挙動の特徴を説明する(実施例4及び5も参照)。特徴は、サッカード、瞬き、及び瞳孔挙動(すなわち、瞳孔収縮及び拡張、他の瞳孔応答などの特徴)を含む、カテゴリに従ってグループ化され得る。特徴は、非構造化ビューイングタスクのために得られたデータに適用されるものとして説明される。しかしながら、特徴は構造化ビューイングタスクのために得られるデータにも適用可能であることが理解されるであろう。抽出される特徴A~Qは、
図13を参照して以下のように定義される。
【0065】
特徴A~D.マクロサッカードの尺度
マクロサッカードは、2度以上の振幅の全てのサッカードとして定義され、マクロサッカード速度は、まず、シーン(例えば、クリップ)変化に対する各対象のサッカードのタイミングをカウントし、次いで、対象にわたって平均化することによって計算される(
図13)。
A.クリップ変化の瞬間における定常状態サッカード速度定常状態速度は、年齢及び多くの神経疾患によって変化する。
B.サッカード抑制。クリップ変更の約60ms後に開始し、健康な若年成人では90~100msで最小値に達し、高齢者ではわずかに遅くなる。抑制のタイミング及び深さは、異なる神経学的状態において変化し得る。
C.サッカードリバウンドバースト。健康な若年成人では約100msで始まり、高齢者では最大20~30ms遅くなる。サッカードリバウンドバーストは、2つの独立した成分からなる。C1はクリップ変更後100~150msであり、C2はクリップ変更後150~250msである。C1及びC2のタイミング及び大きさは、神経疾患において変化し得る。
D.クリップ変更後の1000~3000msからの定常状態サッカード速度(エポックAと同様)。定常状態速度は、多くの神経疾患において変化する。
【0066】
特徴E~H.マイクロサッカードの尺度
マイクロサッカードは、2度未満の振幅の全てのサッカードと定義され、マイクロサッカード速度は、まず、シーン(例えば、クリップ)変化に対する各対象のサッカードのタイミングをカウントし、次いで、対象にわたって平均化することによって計算される(
図13)。
E.クリップ変更時の定常状態マイクロサッカード速度
F.クリップ変更後約60msで始まるマイクロサッカードの抑制。この抑制は、異なる神経疾患で変化する。
G.マイクロサッカード速度の遅いリバウンド。この遅いリバウンドは、疾患によって異なる。
H.クリップ変更後の1000~3000msからのマイクロサッカードの定常状態速度(エポックEと同様)。定常状態速度は、多くの神経疾患において変化し得る。
【0067】
特徴I~K.瞬き速度の尺度
最初に、シーン(すなわち、クリップ)変化に対する各対象の眼の瞬きのタイミングをカウントし、次いで、対象にわたって平均することによって、瞬き速度を計算する(
図13)。
I.クリップ変更時の定常状態瞬き速度。
J.クリップ変更後の瞬き速度約100~200msにおける一過性阻害。抑制のタイミング及び深さは、サッカードリバウンドバーストに相互に関連しており、神経疾患において大きく変化する。
K.1000~3000msの定常状態瞬き速度(エポックIと同様)。
【0068】
特徴L~N.瞳孔拡張応答
最大輝度減少を有するシーン(例えば、クリップ)遷移(例えば、遷移の20%)を分離し、次いで、クリップ変化のこのサブセットについて各対象の瞳孔応答を平均して、瞳孔拡張応答を分離し最適化する。
L.前のクリペットの終了時の瞳孔サイズ。
M.相拡張応答のタイミング、大きさ、及び速度。
N.定常状態拡張応答。
【0069】
特徴O~Q.瞳孔収縮応答
最大輝度増加を有するシーン(例えば、クリップ)遷移(例えば、遷移の20%)を分離し、次いで、クリップ変化のこのサブセットについて各対象の瞳孔応答を平均して、瞳孔収縮応答を分離し最適化する。
O.前のクリペットの終了時の瞳孔サイズ。
P.位相性収縮応答のタイミング、大きさ、及び速度。
Q.定常状態収縮応答。
【0070】
追加の特徴は以下を含む。
瞳孔上の視覚的顕著性応答。シーン(例えば、クリップ)に時間的にロックされた瞳孔に対する小さな応答は変化し、約130msで開始する。この小さな瞳孔応答は、短いパルスの拡張とそれに続く収縮からなる。
【0071】
瞳孔上のサッカードコマンド。サッカードに時間的にロックされた瞳孔上の小さな応答(サッカードの約150ms後に生じる)。このサッカード整合応答は、サッカード振幅に対応する。
【0072】
サッカード-瞬き抑制。サッカード及び瞬きはほとんど排他的であり、中枢脳回路はサッカード挙動と瞬き挙動との間の抑制を確実にする。
【0073】
実施例3
本実施例は、生視線追跡装置データから抽出され得る眼球挙動の特徴を説明する。特徴は、構造化ビューイングタスクのために取得されたデータに適用されるものとして説明される。しかしながら、特徴は、非構造化ビューイングタスクのために得られるデータにも適用可能であることが理解されるであろう。
【0074】
構造化ビューイングタスク
対象は、頭をヘッドレストに快適に置き、眼を17インチ1280×1024ピクセル解像度のコンピュータ画面から約60cm離して、暗室に座った。赤外線ビデオベースの視線追跡装置(Eyelink 1000 Plus,SR Research Ltd、カナダ、オンタリオ州オタワ)を使用して、500Hzのサンプリング速度で単眼の眼の位置を追跡した。
【0075】
各対象についての基本的な人口統計学的情報を、命名規則に対してエラーチェックを行い、タスクを自動的に開始し、次いでデータ及び人口統計学的情報を共通フォルダに保存してデータ収集におけるエラーを低減するカスタムソフトウェアプログラムを使用してデジタル的に収集した。
【0076】
IPAST(Interleaved Pro and Anti Saccade Task)と呼ばれるタスク(
図14参照)は、120回の試行の2つのブロックからなり、合計で約20分間継続した。
図14は、プロサッカードタスク(左側)及びアンチサッカードタスク(右側)についての表示のシーケンスを示す。各試行は、1000msの試行間間隔(「ITI」)、典型的にはブランクの黒い画面(0.1cd/m2)で開始し、その間、対象は自由に眼を動かし、及び/又は瞬きをする。これに続いて、中心固視点(FP.直径0.5°、42cd/m
2)が出現し、黒色背景(0.1cd/m2)上で1000ms持続した。各試行の状態は、中央固視点の色によって明らかにした(緑色:プロサッカード、PRO;赤色:アンチサッカード、ANTI)。1000msの固視(「FIX」)後、FPを画面から除去し、画面を200ms(「GAP」期間)の間空のままにした。ギャップ期間の後、周辺刺激(0.5°直径ドット;グレー、62cd/m
2)は、FP位置(「STIM」)に対して左又は右に水平に10°現れた。PRO試行では、対象は、それが現れたらすぐに刺激位置にサッカードを行うように指示された(「正しい」、左下)。ANTI試行では、対象は、刺激の方を見ず、代わりに刺激とは反対の方向を見るように指示された(「正しい」、右下)。対象が、(例えば、ANTIの場合、刺激に対するサッカードをもたらす駆動を抑制するために)正しいサッカードを行うことに失敗した場合、これを方向エラー(「エラー」)と称した。サッカード条件(PRO又はANTI)並びに刺激位置(左又は右)を、等しい頻度で擬似ランダムに交互配置した。特別なコードをEDFファイルに記録して、事象のタイミング及び各試行の性質を表した。
【0077】
状況によっては、個人の行動及び能力の有効な表現を作成するために収集された試行が少なすぎた。ここで、本発明者らは、参加者あたりプロタスク及びアンチタスクの両方から少なくとも30回の使用可能な試行のカットオフを使用した。これは、予想されるデータカウントの1/4(すなわち、タスク当たり30/120)に等しい。
【0078】
データ前処理
データ処理は、カスタムソフトウェアIn MATLAB(The Mathworks)を使用して完了した。平滑化は、Matlabのfiltfilt関数を使用して(0位相方式で)、全てのフィルタリングに対して箱形カーネルを用いて実行した。これは、全てのデータ点を等しく扱い、最も少ない仮定を有するので、平滑化の最も単純な形態であった(例えば、3のカーネルは[111]/3であり、5のカーネルは[11111]/5である。したがって、カーネルが大きいほど、ウィンドウが広くなり、平滑化が大きくなる)。
【0079】
同様に、X及びY速度の差分計算も行った。所与の時点についての瞬間微分を計算するために、前のデータ点を次のデータ点から減算し、次いで2で除算した。最初と最後のデータ点については、単純な2点差を使用した。
ここで、Xは水平位置のベクトルであり(垂直データについてはYで置き換える)、nはデータポイントの数であり、dsは各データポイント間の秒単位のデルタである(500Hz記録についてはds=0.002)。眼の速度(度/秒)は、3点平滑化速度ベクトルの両方を使用して、通常のユークリッドプロセスによって決定された。
【0080】
瞬き検出
瞬きは一般に、瞳孔領域データ上にステレオタイプの持続時間及びパターンを有する。データが失われたときをよりよく分離するために、2つの工程を行って瞳孔面積データを明確にした。瞳孔面積データ(A)は非常に可変であり得るので、第1の工程は、同じ平均面積を有するように各試行を正規化することであった。
【0081】
瞳孔面積値は、数百から数千の範囲であった。したがって、10未満の値は平均の定義に含めず、数300を任意に選択した。これにより、瞳孔面積の非0平均が300(A300)に固定された。次の工程は、経時的なA300の低周波数変調をモデル化し、それを除去して平滑化A300を作成することであった。この目標は、眼の損失を示すデータのセクションを明確にするのを助けることである。次の工程は、A300(SVA)の変化に対する平滑化速度を作成することであり、これは、低周波変調のモデルからの除去及び置換のために高速データにフラグを立てるために使用された。3点カーネルをSVAに使用して、除去及び置換のために高速データにフラグを立てた。高速(SVA>1000)及び小面積(A300<2)データが、先行するデータ点と後続のデータ点との間の線形補間を使用して置き換えられた、A300データのコピーが作成された。次いで、充填されたA300コピーを、50点カーネルを使用して平滑化して、低周波変調をモデル化した。このモデルをA300から減算して、非線形傾向を除去し、領域における高速変化を誇張するより平坦なプロファイルを作成し、これは、失われたデータを検出するのに役立った。データ損失が検出されると、面積速度(A300データについての測定あたりの面積の変化)を使用して、データ損失の開始及び終了を決定した。平滑化された絶対速度を、試行ごとの動的閾値と共に使用した。面積の2点導関数を計算し、3点カーネルで平滑化した。絶対値を取り、再び平滑化して、平滑化絶対速度(SAV)を生成した。
【0082】
サッカード検出
サッカードの開始の検出(比較的良好なデータが与えられた場合)は、速度閾値を決定し、次いで、その閾値を上回る第1のデータ点を見出す単純なプロセスであり、所与の持続時間にわたって連続するデータ点が、閾値を上回ったままである。眼速度が固定閾値未満であった既知の固視エポックの間の背景ノイズを使用して、各試行の動的閾値を決定した。したがって、よりノイズの多い試行は、多数の偽陽性を回避するためにより高い閾値を有していた。50dpsを固定閾値として使用して、背景ノイズの平均及び標準偏差を求めた。各試行の動的閾値は、平均+標準偏差の2.5倍として定義されたが、決して20dps未満ではなかった。
【0083】
サッカードの終了点は、ビデオベースの記録の周知の態様に起因して、適切に決定することが非常に困難であり得る。ビデオ視線追跡は、視線を推定するために瞳孔を使用し、瞳孔は、絶えず変化する虹彩によって定義される。虹彩は、瞳孔の直径を変化させるために拡張及び収縮するだけでなく、流体力学及び回転加速に起因して、眼の残りの部分に対する虹彩の配向も変化し、これは、瞳孔配向が、眼の配向と必ずしも一致しないことを意味する。この流体-構造相互作用によれば、眼の回転加速及び減速は、間に可撓性構造を有する2つの流体塊間に揺れ(slosh)の動力学的問題を生じさせる。虹彩は可撓性であるので、眼の回転加速度及び房水の慣性は、眼の2つの液体部分の間にある眼の固体構造に圧力ひずみを誘発する。固定(又は0)速度に達すると、この圧力は振動性であり、再び平衡に達するまで各サイクルで減少する。健康な眼であっても、この動きを有し、サッカードの終わりの適切な検出を妨げる。したがって、サッカードの終了点を正確に測定するためには、振動が終了するのを待たなければならない。これは、体液の揺れの大きい個人のサッカードの持続時間を人為的に延長する。結果として、持続時間の測定精度は、終了点のより良い精度のために犠牲にされる。
【0084】
検出された全てのサッカードは、それらがいつ発生したか、並びにそれらの開始点及び終了点によって、
図15に示されるように分類された。実行可能なサッカードについて、サッカード反応時間(SRT)を、刺激の出現とその後の最初のサッカードの開始との間の時間として測定した。刺激出現前及び固視オフセット後に発生した潜在的な刺激位置に対するサッカードは、「早発」と呼ばれ、推測挙動を示す正しい又は方向エラーのいずれかである可能性が等しい。一実施形態では、刺激出現に起因する感覚インパルスは、刺激出現の約90ms後までサッカードをトリガすることができない。したがって、早発ウィンドウは-110msから89msである。エクスプレス及び通常潜時サッカードは分離され、この実施形態では、2つは140msで描写される。800ms後に起こるサッカードは極めて稀であるが、時々起こる。これらの遅いサッカードは、外れ値であり、それらの影響が個人の行動及び能力の表現を弱めるので、潜時及びサッカード測定基準の測定から除去される。
【0085】
実施例4
本実施例は、パーキンソン病と関連疾患とを識別及び区別するために視線追跡を使用する実施形態を説明する(Habibi et al.2022)。この研究では、1)顕性αシヌクレイノパチー(αSYN:パーキンソン病(PD)、多系統萎縮症(MSA))及びタウオパチー(進行性核上性麻痺(PSP))を有する患者におけるサッカード及び瞳孔異常を記載及び比較する、2)急速眼球運動睡眠行動障害(RBD)、αSYNの前駆期を有する患者が、PD又はMSAを発症するリスクを示し得る異常な応答を既に有するかどうかを判定する。αSYNコホート対タウオパチーであるPSPにおける重要な差異を同定することが重要である。疾患過程の初期において、パーキンソン関連疾患をPSPから区別することは、それらが類似の総体的症状を示すために困難である。本実施例は、本明細書で説明される視線追跡及び方法が、適切な診断のための重要な構成要素を提供することを実証する。
【0086】
90人のαSYN患者(46人のRBD、27人のPD、17人のMSA)、10人のPSP患者、及び132人の健康な年齢が一致した対照(CTRL)を、10個の1分ビデオ(それぞれ15~17クリペット)ベースの視線追跡タスク(自由ビューイング)を使用して検査した。参加者は、固視、様々なサッカードパラメータ(マクロサッカード、サッカード頻度、サッカードリバウンド、垂直サッカード速度を含む)、瞳孔収縮、瞳孔拡張、及び垂直注視麻痺を含む選択された特徴を使用してサッカード及び瞳孔の挙動を測定しながら、ディスプレイ画面上のどこでも自由に見ることができた。これらの特徴は、本明細書の他の箇所で定義される。垂直サッカードは、垂直経線のサッカード±45°として定義され、垂直注視麻痺は、垂直サッカード形成能力の有意な低下として定義された。
【0087】
PD、MSA、及びPSPは、CTRLよりも画面の中心を固視するのにより多くの時間を費やした。全ての患者群は、CTRLよりも小さい振幅を有するより少ないマクロサッカード(2度超の振幅)を生じた。サッカード頻度は、他の患者よりもRBDにおいて高かった。クリップ変更後、サッカードは一時的に抑制され、次いで、全ての患者群においてCTRLよりも遅いペースでリバウンドした。RBDは、PD、MSAにおいてより顕著であり、PSPにおいて更に顕著であった別個ではあるが別個のサッカード異常を有していた。垂直サッカード速度は、全ての患者において減少し、PSPにおいて最も減少した。クリップ変更は、瞳孔の収縮又は拡張をそれぞれ必要とする画面輝度の大幅な増加又は減少をもたらした。PSPはCTRLよりも小さい瞳孔収縮/拡張応答を誘発したが、MSAは反対の応答を誘発した。RBD患者は、既に離散しているが、PD及びMSA患者よりも顕著でないサッカード異常を有する。垂直注視麻痺及び変化した瞳孔制御は、αSYNからPSPを区別する。
【0088】
全体として、データは、使用した方法と共に自由ビューイングタスクを使用して前駆αSYNを同定し、初期顕性αSYNを初期PSPから区別するのを助けることができることを確認する。したがって、異なる神経変性群を同定するために使用された選択されたバイオマーカ/特徴は、処理工程において分類器に組み込まれ得る。この例では、これらの臨床群は上記のように関連しており、これにより、選択された特徴の使用が群を互いに区別し、かつ/又はRBDなどの前駆障害を有する群がPD又はMSAに進行するかどうかを予測する能力を提供するので、結果がより強力になる。
【0089】
実施例5
本実施例は、様々な神経障害において変化することが特定され、対象における脳障害を検出及び/又は診断するために構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングタスクにおいて使用され得る、眼球挙動の特徴を説明する。
【0090】
構造化ビューイングタスク-特徴
図16は、構造化ビューイングタスク、例えば、インターリーブプロ/アンチサッカードタスク(IPAST)を使用して、様々な脳障害(「グループ」)を検出するための選択された特徴を示す。他のタイプの脳疾患を検出するために、特徴の他の組み合わせが選択され得る。以下、その特徴について説明する。
【0091】
固視中断(Fix Break)は、対象が固視中に固視を中断した試行のパーセンテージである。
【0092】
プロサッカード試行(Pro SRT)におけるサッカード反応時間(SRT)は、刺激開始からプロサッカード試行における正しいサッカードの開始までの潜時である。
【0093】
プロサッカード試行におけるエクスプレスサッカード(Pro Express)は、プロサッカード試行における正しいプロサッカードがエクスプレスサッカード潜時範囲(刺激開始後90~140ms、
図15参照)内で開始される試行のパーセンテージである。
【0094】
アンチサッカード試行におけるSRT(Anti SRT)は、刺激開始からアンチサッカード試行における正確なサッカードの開始までの潜時である。
【0095】
アンチサッカード試行におけるエクスプレスサッカードエラー(Exp Anti Error)は、誤ったサッカード(例えば、刺激から離れる代わりに向かうサッカード)がエクスプレスサッカード潜時範囲(刺激開始後90~140ms、
図15参照)内で開始されたアンチサッカード試行のパーセンテージである。
【0096】
アンチサッカード試行における通常のサッカードエラー(Reg Anti Error)は、誤ったサッカード(例えば、刺激から離れる代わりに向かうサッカード)が通常のサッカード潜時範囲(刺激開始後>140ms、
図15参照)内で開始されたアンチサッカード試行のパーセンテージである。
【0097】
瞳孔ベースラインは、固視期間の開始時の瞳孔サイズである(例えば、
図14「FIX」を参照)。
【0098】
瞳孔収縮は、固視刺激の出現に応答した瞳孔収縮の大きさ及び速度である。
【0099】
瞳孔拡張は、瞳孔収縮後の瞳孔拡張であり、末梢刺激開始時の速度及び大きさとして測定される。
【0100】
瞬きは、試行間間隔及び固視エポックの間の瞬き速度である(例えば、それぞれ
図14の「ITI」及び「FIX」を参照)。
【0101】
構造化ビューイングタスク-結果
脳血管疾患(CVD)を有する患者は、固視中断の増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、エクスプレスサッカードエラーの増加、通常潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、及び瞳孔拡張の減少を示した。
【0102】
行動変化型前頭側頭認知症(bvFTD)を有する患者は、固視中断の増加、エクスプレスプロサッカードの頻度の増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、エクスプレスサッカードエラーの増加、通常の潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張の減少、及び瞬き速度の減少を示した。
【0103】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者は、固視中断の増加、プロサッカード試行におけるSRTの減少、エクスプレスプロサッカードの頻度の増加、通常の潜時サッカードエラーの増加、及び瞳孔収縮応答の減少を示した。
【0104】
アルツハイマー病(AD)又は軽度認知障害(MCI)を有する患者は、固視中断の増加、プロサッカード試行におけるSRTの減少、エクスプレスプロサッカードの頻度の増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、エクスプレスサッカードエラーの増加、通常潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、及び瞳孔拡張の減少を示した。
【0105】
パーキンソン病(PARK)の患者は、固視中断の増加、プロサッカード試行におけるSRTの減少、エクスプレスプロサッカードの頻度の増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、エクスプレスサッカードエラーの増加、レギュラーサッカードエラーの増加、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張の減少、及び瞬き速度の減少を示した。
【0106】
LRRK2遺伝子突然変異キャリア(LRRK2)は、固視中断の増加、エクスプレスプロサッカードの頻度の増加、通常の潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、及び瞳孔拡張の減少を示した。
【0107】
急速眼球運動睡眠行動障害(RBD)を有する患者は、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張の減少、及び瞬き速度の減少を示した。
【0108】
進行性核上性麻痺(PSP)を有する患者は、固視中断の増加、プロサッカード試行におけるSRTの増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、エクスプレスサッカードエラーの増加、通常潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張の減少、及び瞬き速度の増加を示した。
【0109】
ハンチントン病(HUNT)を有する患者は、固視中断の増加、プロサッカード試行におけるSRTの増加、アンチサッカード試行におけるSRTの増加、通常の潜時サッカードエラーの増加、ベースライン時の瞳孔サイズの減少、瞳孔収縮応答の減少、及び瞳孔拡張の減少を示した。
【0110】
非構造化ビューイングタスク-特徴
図17は、非構造化ビューイングタスク、例えば、自由ビューイングタスクを使用して、様々な脳障害(「グループ」)を検出するための選択された特徴を示す。他のタイプの脳疾患を検出するために、特徴の他の組み合わせが選択され得る。以下、その特徴について説明する。
【0111】
メインシーケンス(Main Seq)は、サッカード振幅、サッカード持続時間、及びサッカード速度の間の関係を記述する。これらの関係は健康な個体において明確に定義されており、偏差は神経障害のバイオマーカであり得る。
【0112】
サッカードリバウンドバースト(Sacc Rebound)は、クリップ変更に応答してサッカード速度が短時間減少した後の、ベースラインを上回る増加したサッカード速度の期間である(例えば、実施例2、
図13、特徴Cを参照)。
【0113】
定常状態サッカード速度(Sacc Rate)は、クリップ変更時及びクリップ変更後1000~3000msにおけるサッカードの速度である(例えば、実施例2、
図13、特徴A及びDを参照)。
【0114】
マイクロサッカードの抑制(μsacc Inhib)は、クリップ変更後のマイクロサッカード速度の減少期間である(例えば、実施例2、
図13、特徴Fを参照)。
【0115】
定常マイクロサッカード速度(μsacc Rate)は、クリップ変更時及びクリップ変更後1000~3000msにおけるマイクロサッカード速度である(例えば、実施例2、
図13、特徴E及びHを参照)。
【0116】
瞳孔ベースラインは、前のクリペットの終了時の瞳孔サイズである(例えば、実施例2、
図13、特徴L及びOを参照)。
【0117】
瞳孔感度は、瞳孔サイズと画面輝度との間の関係である。
【0118】
瞳孔収縮は、輝度の増加をもたらしたクリップ変更のサブセットに対する瞳孔収縮の大きさである。
【0119】
瞳孔拡張は、輝度の減少をもたらしたクリップ変更のサブセットに対する瞳孔拡張の大きさである。
【0120】
定常状態瞬き速度(Blink Rate)は、クリップ変更時及びクリップ変更後1000~3000msにおける瞬き速度である(例えば、実施例2、
図13、特徴I及びKを参照)。
【0121】
瞬き速度の一時的抑制(Blink Inhib)は、クリップ変更後の瞬き速度の減少である(例えば、実施例2、特徴Jを参照)。
【0122】
非構造化ビューイングタスク-結果
脳血管疾患(CVD)を有する患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的なサッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張応答の減少、瞬き速度の増加、及びクリップ変更後の瞬き抑制の減少を示した。
【0123】
行動変化型前頭側頭認知症(bvFTD)を有する患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度を減少させ、全体的なサッカード速度を減少させ、ベースライン瞳孔サイズを減少させ、輝度に対する瞳孔感度を減少させ、瞳孔収縮応答を減少させ、瞳孔拡張応答を減少させ、瞬き速度を増加させた。
【0124】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者は、メインシーケンスの勾配の減少(所与の振幅に対するより遅い速度のサッカード)、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的なマイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの増加、輝度に対する瞳孔感度の減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張応答の減少、クリップ変更後の瞬き抑制の増加を示した。
【0125】
軽度認知障害(MCI)を有する患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的なサッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的マイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの減少、輝度に対する瞳孔感度の減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張応答の減少、及び瞬き速度の増加を示した。
【0126】
アルツハイマー病(AD)の患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的なサッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的なマイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの減少、輝度に対する瞳孔感度の減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張応答の減少、及び瞬き速度の増加を示した。
【0127】
パーキンソン病(PARK)の患者は、メインシーケンスの傾きの減少(所与の振幅に対するより遅い速度のサッカード)、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的サッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的マイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの増加、輝度に対する瞳孔感度の増加、瞳孔収縮応答の増加、瞳孔拡張応答の増加、瞬き速度の増加、及びクリップ変更後の瞬き抑制の増加を示した。
【0128】
多系統萎縮症(MSA)を有する患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的なサッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的マイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの増加、輝度に対する瞳孔感度の増加、瞳孔収縮応答の増加、瞳孔拡張応答の増加、瞬き速度の増加、及びクリップ変更後の瞬き抑制の増加を示した。
【0129】
急速眼球運動睡眠行動障害(RBD)を有する患者は、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の低下及びクリップ変更後のマイクロサッカード抑制の低下を示した。
【0130】
進行性核上性麻痺(PSP)を有する患者は、メインシーケンスの勾配の減少(所与の振幅に対するより遅い速度のサッカード)、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、全体的なサッカード速度の減少、クリップ変更後のマイクロサッカード抑制の減少、全体的マイクロサッカード速度の増加、ベースライン瞳孔サイズの減少、輝度に対する瞳孔感度の減少、瞳孔収縮応答の減少、瞳孔拡張応答の減少、瞬き速度の減少、及びクリップ変更後の瞬き抑制の減少を示した。
【0131】
ハンチントン病(HUNT)を有する患者は、メインシーケンスの勾配の減少(所与の振幅に対するより遅い速度のサッカード)、サッカードリバウンドにおけるサッカード速度の減少、ベースライン瞳孔サイズの増加、輝度に対する瞳孔感度の増加、瞳孔収縮応答の増加、瞳孔拡張応答の増加、瞬き速度の増加、及びクリップ変更後の瞬き抑制の増加を示した。
【0132】
概説
結果は、構造化ビューイングタスク及び非構造化ビューイングタスクの両方における様々な臨床群間の眼球挙動のパターンにおける有意差を明らかにする。具体的には、PARK群とPSP群との間などの特定の群間の差異は、本明細書に記載される視線追跡及び分析方法を使用して、症候学評価尺度などの他の手法を使用して区別することが困難なこれらの2つの障害を区別することができることを示唆する。
【0133】
全ての引用された刊行物の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0134】
等価物
本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された実施形態に対して修正がなされ得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、記載された特定の実施形態によって限定されるべきではなく、全体として本明細書の教示と一致する最も広い解釈が与えられるべきである。
【0135】
参考文献
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