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特表2024-521602光安定性が向上したインドール酢酸の農業用組成物、その製造方法および使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光安定性が向上したインドール酢酸の農業用組成物、その製造方法および使用
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/38 20060101AFI20240528BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240528BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240528BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240528BHJP
   C12P 17/10 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
A01N43/38
A01N61/00 D
A01P21/00
A01G7/06 A
C12P17/10
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023526164
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(85)【翻訳文提出日】2023-10-05
(86)【国際出願番号】 BR2021050145
(87)【国際公開番号】W WO2022213163
(87)【国際公開日】2022-10-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523148285
【氏名又は名称】トタル・ビオテクノロジア・インドゥストゥリア・エ・コメルシオ・ソシエダージ/アノニマ
【氏名又は名称原語表記】TOTAL BIOTECNOLOGIA INDUSTRIA E COMERCIO S/A
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】フカミ,ジョジアーニ
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス,ドグラス ファビアーノ
(72)【発明者】
【氏名】マルコリーナ ゴメス,ジュリアーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヒッポリート ジ アシス フィーリョ,ジョナス
【テーマコード(参考)】
2B022
4B064
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B022EB10
4B064AE48
4B064CA02
4B064CD13
4B064DA11
4H011AB03
4H011BA01
4H011BA04
4H011BB09
4H011BC19
4H011DA12
4H011DC05
4H011DD03
4H011DE15
4H011DG06
4H011DH15
(57)【要約】
本発明は、生物学的および/または合成起源のインドール酢酸(IAA)と窒素源および還元糖とを含む混合物中の該IAAの光安定化を含む、農業用組成物の製造方法に関する。本発明による農業作物対象への適用のためのIAA植物ホルモンの光安定化は、前記混合物に高温を適用して、メイラード反応を介して前記窒素源および還元糖をメラノイジン型色素に変換させてIAA光分解を低減させることによって達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
IAAとメラノイジン型色素との組み合わせを含むことを特徴とする、農業用組成物。
【請求項2】
IAAが合成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
IAAが生物源由来であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
IAA産生細菌の発酵によって得られることを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
農業上許容される添加剤または担体をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
添加剤が、種子および播種溝を処理するための添加剤、噴霧タンク用の細胞保護剤、土壌改良剤、混合補助剤、種子コーティング用ポリマー、化学肥料または有機肥料の顆粒をコーティングするためのポリマー、葉物用製剤に使用される液体肥料、固形肥料、および内生胞子活性化剤、からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
農業用組成物を製造する方法であって、前記組成物中においてIAAとメラノイジン型色素との組み合わせを処方化することを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
インドール酢酸(IAA)植物ホルモンおよび窒素源および還元糖を含む混合物を、メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件に供することを含むことを特徴とする、請求項7に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項9】
IAAが合成物であることを特徴とする、請求項7に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項10】
IAAが、IAA産生菌の発酵により得られることを特徴とする、請求項7に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の農業用組成物の製造方法であって、以下の工程:
(a)インドール酢酸(IAA)の生合成のために、1つ以上のIAA産生細菌株およびトリプトファンを含む培養物を発酵させる工程;および、
(b)メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件下で安定化する工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
IAA産生細菌が、1つ以上のアゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)株を含むことを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項13】
1つ以上のアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株が、Ab-V5およびAb-V6からなる群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項14】
メイラード反応が、発酵槽環境内で起こることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項15】
発酵が、バッチ培養または流加培養であることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項16】
前記生成物の安定化のプロセスが、約15分~約120分間行われることを特徴とする、請求項7に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項17】
前記生成物の安定化のプロセスが、約100℃~約130℃の温度で行われることを特徴とする、請求項8に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項18】
前記生成物の安定化のプロセスが、約0.5~2.0Kgf/cmの圧力で行われることを特徴とする、請求項8に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項19】
発酵培養物の植菌のためのアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)培養物の逐次の拡大をさらに含むことを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項20】
アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)Ab-V5株とAb-V6株が、別々に植菌されることを特徴とする、請求項19に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項21】
逐次の拡大が、約100mLから約10L、約180Lから約2000Lの体積で行われることを特徴とする、請求項19に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項22】
アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株を、オービタルシェーカー上で約80rpm~約150rpmでインキュベートすることにより増殖させることを特徴とする、請求項21に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項23】
アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株を、約18時間~約96時間インキュベートすることにより増殖させることを特徴とする、請求項22に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項24】
アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株を、約10Lの培地を含むステンレス鋼丸型フラスコ内で増殖させることを特徴とする、請求項23に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項25】
前記菌株を、約18~約96時間インキュベートすることを特徴とする、請求項24に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項26】
前記菌株を、約0.25Nm/h~約1.0Nm/h(=0.41~1.66vvm)の空気流量でインキュベートすることを特徴とする、請求項25に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項27】
約10Lの2つのステンレス鋼製丸型フラスコ内で前記菌株を分離培養した後、前記2つのフラスコを、約180Lの培地が入ったタンクに植菌させることを特徴とする、請求項24~26のいずれか1項に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項28】
前記菌株を、約18~約96時間インキュベートすることを特徴とする、請求項27に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項29】
前記菌株を、約1.25~約3.0Nm/h(=0.1~0.25vvm)の空気流量でインキュベートすることを特徴とする、請求項27に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項30】
インキュベートの温度が、約22℃~約38℃であることを特徴とする、請求項8~29のいずれか1項に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項31】
発酵工程が、約0.5~約1.2kgf/cmの圧力で行われることを特徴とする、請求項8に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項32】
発酵工程が、約40hz~約45hzの撹拌下で行われることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項33】
発酵工程が、約22℃~約38℃の温度で行われることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項34】
発酵工程が、約1.0Nm/h~約2.5Nm/h(=0.0085~0.021vvm)の空気流量で行われることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項35】
発酵工程が、約18時間~約96時間行われることを特徴とする、請求項11に記載の農業用組成物の製造方法。
【請求項36】
請求項8~35のいずれか1項に記載の方法によって得られ、任意に1つ以上の農業上許容される添加剤および/または担体をさらに含んでもよいことを特徴とする、農業用組成物。
【請求項37】
農作物に適用するためのものであることを特徴とする、請求項1または36に記載の農業用組成物の使用。
【請求項38】
種子、植栽溝、灌漑または葉面施用に適用するためのものであることを特徴とする、請求項37に記載の使用。
【請求項39】
請求項1または36に記載の組成物でコーティングされていることを特徴とする、植物、植物部分および/または種子。
【請求項40】
本特許出願において最初に開示、記載または説明されている主題に包含される、その実施形態のいずれかまたは該当する請求項カテゴリー、例えば、製品、方法または使用、によって特徴付けられる、発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光安定性が向上した生物由来および/または合成由来のインドール酢酸(IAA)を含む、植物の成長を促進するための農業用組成物、ならびにその製造方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌による植物ホルモンの産生は、植物の成長促進をつかさどる主な要因の1つである。植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、エチレン、およびアブシジン酸)は、植物の成長を調節する役割を果たす有機物質である(Raven et al., 2001)。天然に存在する主なオーキシンはインドール酢酸(IAA)であり、植物の成長調節剤としての使用に大きな可能性を秘めている。土壌中のおよび/または植物に関連する細菌や真菌などのいくつかの微生物は、インドール酢酸(IAA)を含む、植物で見られるものと同じ成長ホルモンを合成する。したがって、IAAなどの植物ホルモンを含む農業用組成物の使用は、作物の成長を促進するために望ましい。
【0003】
植物において、微生物のIAAは、アゾスピリルム属(Azospirillum spp.)、アルカリゲネス・フェカリス属(Alcaligenes faecalis)、クレブシエラ属(Klebsiella sp.)、エンテロバクター属(Enterobacter sp.)、ザントモナス属(Xanthomonas sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas spp.)、バチルス属(Bacillus spp.)、ハーバスピリルム・セロペディカエ属(Herbaspirillum seropedicae)、リゾビウム属(Rhizobium spp.)、およびブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium spp.)の細菌によって産生され、これは、植物の成長刺激と関連付けられている(Patten and Glick, 1996; Idris et al., 2007; Kochar et al., 2011; Shao et al., 2015)。
【0004】
微生物は、環境に応じて、利用可能ないくつかのIAA生合成経路の中から特定のIAA生合成経路を選択できると考えられている。また、多くの細菌において、IAA合成経路は複数あり、そのほとんどがトリプトファン依存性経路であることも報告されている(Patten and Glick, 1996)。トリプトファン依存性経路を介したIAA生合成の誘導はよく知られており、研究されている(Tullio et al., 2019; Iamada et al., 2017)。アゾスピリルムの発酵によるインドール酢酸の生成は、例えばCN104975052に記載されている。IAA分子は、培地の温度やpHなどの物理的要因に対して比較的安定性が高いが(Hiratsuka et al., 1989)、植物ホルモンの光分解は、IAAを含む農業用組成物の使用に関する主要な障害の1つである(Dunlap and Robacker, 1988; Stasinopoulos and Hangarter, 1990 and Hiratsuka et al., 1989)。光分解は、波長と強度に応じて、合成されたIAAの最大90%減少させる。
【0005】
したがって、当技術分野において、商業規模で植物作物に組成物を適用した後、化合物が長期間安定で活性を維持できるように、光安定性が向上したIAA植物ホルモンを含有する農業用組成物が求められている。
【0006】
[図面の簡単な説明]
図1]特定の温度および圧力の条件下で安定化プロセスを受けた、UV光へのさまざまな曝露時間における合成IAAと生物学的IAAの濃度を示している。化合物の光安定性におけるメラノイジンの関与の証拠となる。
図2]さまざまな安定化時間とUV光への曝露下での生物学的IAAの濃度を示している。
【発明の概要】
【0007】
驚くべきことに、本発明は、インドール酢酸(IAA)を含む組成物において、IAA(indoleacetic acid)をメラノイジン型色素(melanoidin type pigment)と組み合わせることにより、光安定性が向上した農業用途向けのIAA含有組成物を達成できることを教示する。本発明の組成物および方法で使用されるIAAは、生物学的および/または合成起源のものであり得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書で示されるように、メラノイジン型色素とIAAを組み合わせることによる安定化は、生物学的供給源および/または合成供給源からのIAAに光保護を提供する。
【0009】
一実施形態において、本発明は、IAAとメラノイジン型色素との組み合わせを含む組成物を提供する。本発明の組成物は、任意に、添加剤または農業上許容される担体、例えば、種子および播種溝を処理するための添加剤、噴霧タンク用の細胞保護剤、土壌改良剤、グラウト補助剤、種子コーティング用ポリマー、化学肥料または有機肥料の顆粒をコーティングするためのポリマー、葉物産物用の製剤に使用される液体肥料、固形肥料、内生胞子活性化剤(endospore activators)、その他の目的のものを含有してもよい。
【0010】
本発明の組成物は、当技術分野で知られている適切な包装方法(パッケージング)によって包装することができる。好ましくは、最終製品の酸素交換を必要としないバッグおよび/またはプラスチックボトルを使用することができる。本発明の製品の包装は、光安定性があるため、遮光の必要性が除去される。好ましくは、包装の体積は約1~20Lであり、冷蔵環境または約10~35℃の範囲の室温で保存できる。
【0011】
本発明はさらに、IAAをメラノイジンと組み合わせることによって光安定性が向上したIAA農業用組成物を製造する方法を提供する。本発明の特定の実施形態において、IAAとメラノイジン型色素との組み合わせは、IAAおよび窒素源および還元糖を含む混合物を、メイラード反応を介した窒素源および還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件に供することによって行われる。別の実施形態において、IAAおよびメラノイジン型色素は、メイラード反応による前記色素の形成後に組み合わされる。
【0012】
「窒素源」という用語には、これに限定されるものではないが、当技術分野で公知の生物学的または合成起源の、アミノ酸、ペプチドおよびタンパク質、ならびにそれらを含む混合物または生物学的抽出物が含まれる。
【0013】
「還元糖」という用語には、これに限定されるものではないが、当技術分野で公知の遊離アルデヒド基または遊離ケトン基を有するため還元剤として作用することができる任意の糖、およびそれらを含む混合物または生物学的抽出物が含まれる。
【0014】
本発明の好ましい実施形態において、前記IAA、および窒素源および還元糖を含む混合物は、IAA産生細菌をトリプトファン含有培地中で発酵させることによって得られる。発酵から得られるブロス(培養液)は、細菌によって生成されるIAA、および発酵した培地からの還元糖および窒素源を含む。前記発酵後、ブロスは、メイラード反応を介して窒素源および還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件に供され、それにより、メラノイジン型色素が組成物のIAAに光保護を与える。
【0015】
「IAA産生細菌」という用語には、これに限定されるものではないが、アゾスピリルム属(Azospirillum spp.)、アルカリゲネス・フェカリス属(Alcaligenes faecalis)、クレブシエラ属(Klebsiella sp.)、エンテロバクター属(Enterobacter sp.)、ザントモナス属(Xanthomonas sp.)、ハーバスピリルム・セロペディカエ属(Herbaspirillum seropedicae)、リゾビウム属(Rhizobium spp.)、およびブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium spp.)の細菌が含まれる(PattenとGlick, 1996)。好ましくは、IAA産生細菌は、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)である。
【0016】
したがって、本発明の好ましい特定の実施形態には、農業用組成物の工業的な製造方法であって、インドール酢酸(IAA)の生合成のために、1つ以上のIAA産生細菌株およびトリプトファンを含む培養物を発酵させる工程;および、メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件下で安定化する工程、を含む方法が含まれる。
【0017】
本発明はさらに、本発明の方法によって製造される組成物、およびその使用を提供する。
【0018】
有利なことに、好ましい実施形態において、本発明は、合成成分を含まず、生物学的経路のみによって得られる、光安定性が向上したIAA農業用組成物を提供する。
【0019】
本発明はさらに、圧力、温度、酸素化(空気量および撹拌)、およびIAA産生細菌の発酵のための培地パラメータなどの、IAA農業用組成物を工業的に製造する方法の追加パラメータを含む、高濃度のIAA濃縮物を生成するための、好ましい実施形態を提供する。
【0020】
当業者に理解されるように、さまざまなIAA産生細菌株、好ましくは、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)を使用することができ、またさまざまな培養パラメータおよび発酵パラメータを、本発明と組み合わせることができる。
【0021】
好ましい実施形態において、本発明は、以下の工程:
(a)インドール酢酸(IAA)の生合成のために、1つ以上のIAA産生細菌株およびトリプトファンを含む培養物を発酵させる工程;および、
(b)メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件下で安定化する工程、
を含む、農業用組成物の製造方法を提供する。
【0022】
驚くべきことに、本発明の組成物におけるIAA光安定性は、メラノイジンとの組み合わせによって達成され、それは、光による分解のため農業においてバイオプロダクトの使用ができなくなることがなくなる。上述の色素は、最終製品に当たる光をフィルタリングして、IAA植物ホルモンを保護することができ、それは、トリプトファン誘導経路で生合成されたものであっても、合成起源のものであってもよい。
【0023】
本発明の好ましい実施形態において、メラノイジン色素は、メイラード反応として知られるプロセスから得られる。この反応には強度に応じて3段階があり、最も進行した段階では、アミノ化合物と糖断片との重合(ポリメリゼーション)が起こり、茶色の色素であるメラノイジンが生成する(Van Boekel, 1998)。IAA産生細菌を発酵させることによって得られるブロスからなる混合物の使用を含む実施形態において、この反応は、前記発酵後に、発酵プロセス中に挿入された窒素源および還元糖を、IAAの安定性をもたらす色素に変換することによって、起こる。これにより、最終製品中の高い植物ホルモンレベルは、光照射条件下でも、製品が保管および販売されるパッケージ内でも、または、種子、植栽溝、灌漑、または葉への農業用途においても、また、UV波長の強い照射下の環境においても、農業上の効率を損なうことなく、非常に安定して維持される。
【0024】
特定の実施形態において、IAA産生細菌は、アゾスピリルム属(Azospirillum sp.)、より好ましくは、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)である。好ましい実施形態において、1つ以上のアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株は、Ab-V5、Ab-V6、Sp6、Sp7、Sp245、Cd、8-I、Az39からなる群から選択される。より好ましい実施形態において、Ab-V5株およびAb-V6株の両方が使用される。
【0025】
好ましい実施形態において、植物ホルモンの安定化は、発酵槽環境内で行われる。好ましくは、安定化のプロセスは、約100℃~約130℃の温度で、約15分~120分間行われる。好ましくは、生成物の安定化は、約0.5~2.0kgf/cmの圧力で行われる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、アゾスピリルム・ブラシレンセ培養物のバッチ発酵または流加発酵(フェッドバッチ発酵)は、約18~96時間行われる。
【0027】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、発酵培養物の植菌のためのアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)培養物の逐次の拡大(アップスケーリング)を含む。好ましくは、逐次の拡大は、約10Lのための植菌物として機能する100mLの体積で開始する。次に、これらを約180Lに植菌し、次いで、最終的に約2,000Lの反応器に移す。
【0028】
好ましい実施形態において、アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株培養物は、約100mLのフラスコ内で、オービタルシェーカー上で約80rpmないし約150rpmでインキュベートすることにより、増殖される。インキュベーション時間は、好ましくは、約18時間~約96時間である。好ましくは、次いで、アゾスピリルム・ブラシレンセ株を、約10Lの培地を含むステンレス鋼丸型フラスコ内で増殖させる。インキュベーション時間は、好ましくは、約0.25Nm/h~約1.0Nm/h(=0.41~1.66vvm)の空気流量で、約8~約96時間である。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明によるアゾスピリルム・ブラシレンセ株の培養増殖のための培養温度は、約22℃~約38℃である。
【0030】
好ましい実施形態において、本発明について記載した180Lの培養物からのアップスケーリングプロセスにおいて、アゾスピリルム・ブラシレンセAb-V5株およびAb-V6株を一緒に植菌する。この目的のために、好ましい態様では、約10Lの2つのステンレス鋼丸型フラスコ中でそれらの菌株を増殖させた後、前記フラスコを、約180Lの培地が入ったタンクに植菌し、約18~約96時間インキュベートする。空気流量は、好ましくは、約1.25~約3.0Nm/h(=0.1~0.25vvm)である。
【0031】
好ましい実施形態において、発酵工程は、約22℃~約38℃の温度で行われる。空気流量は、好ましくは、約1.0Nm/h~約2.5Nm/h(=0.0085~0.021vvm)である。圧力は、好ましくは、約0.5~約1.2kgf/cmである。撹拌は、好ましくは、約40hz~約45hzである。発酵工程は、好ましくは、約18時間~約96時間行われる。
【0032】
好ましい実施形態において、100mLスケールのためのアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)の培養および/または発酵をスケールアップするために使用される培地は、NFb培地である(Dobereiner, 1995)。他の生産スケール、すなわち、10L、180L、および2000Lの場合、好ましい態様では、表1に記載の培地が使用される。
【0033】
別の実施形態において、本発明は、上述の本発明による方法によって得ることができる、光安定性が向上した、IAA農業用組成物を提供する。
【0034】
別の実施形態において、本発明はさらに、植物成長促進剤または生化学物質として農作物に適用するための、本発明の農業用組成物の使用を提供する。好ましくは、その使用は、種子、植栽溝、灌漑、または葉面施用に噴霧により適用するためのものである。
【0035】
別の実施形態において、本発明は、農作物の成長を最適化し、および/または農作物の収量を増加させるための農業用組成物を製造するための、本発明の光安定化IAA植物ホルモンの使用を提供する。
【0036】
別の実施形態において、本発明は、本発明により得られる組成物でコーティングされた、植物、植物部分および/または種子を提供する。
【実施例
【0037】
実施例1:培養のスケールアップ
アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)Ab-V5株およびAb-V6株を、100mLのNFb培地(Dobereiner, 1995)を含むフラスコに別々に植菌し、オービタルシェーカーにおいて、80~150rpm、22~38℃で、約18~96時間インキュベートする。次のスケールアップステップは、10Lの培地(表1)が入ったステンレス鋼丸型フラスコに植菌し、この中で菌株を別々に増殖させ、空気流量0.25~1.0Nm/h(=0.41~1.66vvm)、温度約22~37℃で、約18~96時間インキュベートすることにより構成される。その後、各培養物を180Lの培地を含むタンクに植菌し、空気流量0.25~3.0Nm/h(=0.1~0.25vvm)、温度22~38℃の範囲で、約18~96時間インキュベートする。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
実施例2:バイオリアクターでの発酵
2,000L発酵槽での増殖には、表1に示すアミノ酸トリプトファンを含む培地を使用する。2,000L発酵槽でのアゾスピリルム・ブラシレンセの増殖パラメータは次のとおりである:圧力0.5~1.2kgf/cm、振盪範囲40~45hz、温度22~38℃、空気流量1.0~2.5Nm/h(=0.0085~0.021vvm)、18~96時間。
【0041】
実施例3:安定化
18~96時間の発酵後、微生物を含む培地を、100~130℃、0.5~2.0kgf/cmの圧力で、約15~120分間滅菌することにより、代謝産物を安定化させるプロセスが実施される。
【0042】
実施例4:光安定性
インドール酢酸植物ホルモンの光安定性をもたらす配合物を検証するために、2つの手順を実施した。第1のアッセイでは、以下を比較した:i)水を用いた合成IAA(メラノイジンによる保護なし);ii)本発明の生物学的IAA製造プロセスで使用されるのと同じ培地を用いた合成IAA、および、iii)生物学的IAA;メイラード反応によるメラノイジンの生成によるインドール化合物の安定化を目的として、すべてのサンプルは121℃で約1時間の滅菌プロセスに供されている。安定化に必要な時間が経過した後、GlickmannとDessaux(1994)によって提案された方法に従って、Sakwolski試薬を使用して、IAA濃度を評価した。
【0043】
グラフ1に示す結果は、本クレームの安定化プロセスを有さない合成IAAは、UV光に4時間暴露した後に完全に分解されることを示している。暴露後最初の1時間以内に、光分解はすでに74.5%に達する。しかしながら、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)によって生物学的に生成されたIAAを評価すると、特に1、2、および4時間のUV光の曝露後に、それぞれ、0.7%、17.2%、および29.1%の分解しかなく、安定化なし(水で希釈)のIAAと比較して、濃度の減少が少なかったため、より高い安定性が確認された。同様に、技術解決手段に示されている配合物に合成IAAを添加し、続いて安定化の工程を行うと、UV光に対する光保護の同じ挙動が得られた。これは、メイラード反応によって生成される色素であるメラノイジンが、生物学的および合成起源の植物ホルモンであるインドール酢酸を光分解から保護するという驚くべき能力を示している。Leasureら(2013)は、インドール酢酸は光分解速度が高いため、植物での使用が難しいことを報告しており、これは、持続可能なアグリビジネスに貢献することができる天然由来の強力な植物成長促進剤であるIAAを商業的規模で農業利用できるようにするため、本クレームの実用的な解決手段の重要性を証明している。
【0044】
第2の手順(グラフ2)では、光保護におけるメラノイジン濃度の役割を評価するために、生物学的IAAを用いた製剤を安定化するプロセスを異なる時間にして、15分、1時間、1時間30分の範囲で評価した。
【0045】
第1のアッセイと同様に、IAA植物ホルモンの安定化が効果的であり、UV光照射に対する化合物の安定性が向上した。また、インドール化合物を異なる安定化時間に曝露すると、正比例の比率で光保護が生じること、すなわち、プロセスの時間が長いほど、より大きな安定性が得られること、特に生物学的IAA安定化の処理時間が1時間30分である場合に、アゾスピリルム・ブラシレンセによって合成されるIAAの高い安定性が提供すされることも注目される。IAA安定性の向上の驚くべき効果は、スコット・ノット平均検定(p≦0.05)を適用することによって、本アッセイで試験された紫外線への曝露のすべての時間において有意差があったことにより、確認された。安定化のプロセスを実施しない場合、生物学的IAAの光分解が54.85%で発生するが、生物学的IAAの部分的な保護は微生物の増殖前の培地の滅菌によるものであることを指摘することが重要である。
【0046】
得られた結果は、光照射を受けたIAA植物ホルモンの安定性を向上する技術解決手段によって示された、安定化プロセス中に生成される色素であるメラノイジンの有効性を実証している。この解決手段は、植物成長促進化合物の応用にいくつかの可能性をもたらし、環境に優しいと同時に重要な作物に改良をもたらす革新的で応用可能な解決手段によってプラスの影響を受けた、社会環境バランスに不可欠な農業の持続可能性に貢献するものである。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インドール酢酸(IAA)とメラノイジン型色素との組み合わせを含む農業用組成物であって、メラノイジンを含まないIAA組成物と比べて光安定性が向上している、農業用組成物。
【請求項2】
IAAが合成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
IAAが生物源由来であり、好適には、IAAがIAA産生細菌の発酵によって得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
農業上許容される添加剤または担体をさらに含み、好適には、添加剤が、種子および播種溝を処理するための添加剤、噴霧タンク用の細胞保護剤、土壌改良剤、混合補助剤、種子コーティング用ポリマー、化学肥料または有機肥料の顆粒をコーティングするためのポリマー、葉物用製剤に使用される液体肥料、固形肥料、および内生胞子活性化剤、からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
光安定性が向上したIAA農業用組成物を製造する方法であって、前記組成物中においてIAAとメラノイジン型色素との組み合わせを処方化することを含み、前記組成物がメラノイジンを含まないIAA組成物と比べて向上した光安定性を示す、方法。
【請求項6】
インドール酢酸(IAA)植物ホルモンおよび窒素源および還元糖を含む混合物を、メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件に供することを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
IAAが合成物である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
IAAが生物源由来であり、好適には、IAAがIAA産生菌の発酵により得られる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、以下の工程:
(a)インドール酢酸(IAA)の生合成のために、1つ以上のIAA産生細菌株およびトリプトファンを含む培養物を発酵させる工程;および、
(b)メイラード反応を介した窒素源と還元糖のメラノイジン型色素への変換を促進する温度および圧力の条件下で安定化する工程、
を含む、方法。
【請求項10】
IAA産生細菌が、1つ以上のアゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense)株を含み、好適には、1つ以上のアゾスピリルム・ブラシレンセ株が、Ab-V5およびAb-V6からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
メイラード反応が、発酵槽環境内で起こる、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
発酵が、バッチ培養または流加培養である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記生成物の安定化のプロセスが、
(i)約15分~約120分間;
(ii)約100℃~約130℃の温度で;および/または
(iii)約0.5~2.0Kgf/cmの圧力で、
行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
発酵培養物の植菌のためのアゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)培養物の逐次の拡大をさらに含み、好適には、アゾスピリルム・ブラシレンセAb-V5株とAb-V6株が、別々に植菌される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
逐次の拡大が、約100mLから約10L、約180Lから約2000Lの体積で行われ、好適には、アゾスピリルム・ブラシレンセ(A. brasilense)株を、オービタルシェーカー上で約80rpm~約150rpmでインキュベートすることにより増殖させ、より好適には、アゾスピリルム・ブラシレンセ株を、約18時間~約96時間インキュベートすることにより増殖させ、さらに好適には、アゾスピリルム・ブラシレンセ株を、約10Lの培地を含むステンレス鋼丸型フラスコ内で増殖させる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記菌株を、約18~約96時間インキュベートし、好適には、前記菌株を、約0.25Nm/h~約1.0Nm/h(=0.41~1.66vvm)の空気流量でインキュベートし、より好適には、約10Lの2つのステンレス鋼製丸型フラスコ内で前記菌株を分離培養した後、前記2つのフラスコを、約180Lの培地が入ったタンクに植菌させ、さらに好適には、前記菌株を、約1.25~約3.0Nm/h(=0.1~0.25vvm)の空気流量で約18~約96時間インキュベートする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
インキュベートの温度が、約22℃~約38℃である、請求項8~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
発酵工程が、約0.5~約1.2kgf/cmの圧力で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項19】
発酵工程が、
(i)約40hz~約45hzの撹拌下で;
(ii)約22℃~約38℃の温度で;
(iii)約1.0Nm/h~約2.5Nm/h(=0.0085~0.021vvm)の空気流量で;および/または
(iv)約18時間~約96時間、
行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
請求項5~19のいずれか1項に記載の方法によって得られる光安定性が向上したIAA農業用組成物であって、該組成物がメラノイジンを含まないIAA組成物と比べて向上した光安定性を示し、任意に1つ以上の農業上許容される添加剤および/または担体をさらに含んでもよい、組成物。
【請求項21】
請求項1または20に記載の農業用組成物の使用であって、農作物に適用するためのものであり、好適には、該組成物が、種子、植栽溝、灌漑または葉面施用に適用するためのものである、該組成物の使用。
【請求項22】
請求項1または20のいずれかに記載の組成物でコーティングされている、植物、植物部分および/または種子。
【国際調査報告】