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特表2024-521634発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン
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  • 特表-発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン 図1
  • 特表-発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン 図2
  • 特表-発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン 図3
  • 特表-発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン 図4A
  • 特表-発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン 図4B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】発熱活性が低い架橋性官能化ゼラチン
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
C07K14/78
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023567109
(86)(22)【出願日】2022-06-09
(85)【翻訳文提出日】2023-12-08
(86)【国際出願番号】 EP2022065716
(87)【国際公開番号】W WO2022258763
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】BE2021/5461
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(31)【優先権主張番号】BE2021/5534
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523411020
【氏名又は名称】ルースロ ビーヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フェルガウウェン、ビョルン
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA50
4H045GA20
(57)【要約】
本発明は、アミド結合を介して置換架橋性カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)で官能化され、さらにリポ多糖含有量が100EU/g未満であるゼラチン、並びに前記置換架橋性カルボン酸のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用した前記ゼラチンの調製方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド結合を介してカルボン酸部分R-(CH-COOHで官能化されたゼラチンであって、nは1~10の整数であり、さらにリポ多糖含有量が、100EU/g未満、好ましくは50EU/g未満、より好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満であり、Rは4-フェノール、ノルボルネニル又はSHからなる群から選択される、ゼラチン。
【請求項2】
nが1~5、好ましくは2又は3である、請求項1に記載のゼラチン。
【請求項3】
前記カルボン酸部分が、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸、3-(SH)-プロピオン酸、及び2-(5-ノルボルネニル)-酢酸のうちの1つ又は複数であり、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸である、請求項1又は請求項2に記載のゼラチン。
【請求項4】
前記官能化ゼラチンの、前記カルボン酸部分による修飾度が、5%~100%、好ましくは25%~100%、より好ましくは50%~100%、さらに好ましくは75~100%である、請求項1~請求項3に記載のゼラチン。
【請求項5】
前記官能化ゼラチンが、100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは20ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満、さらに好ましくは5ppm未満、さらに好ましくは2ppm未満、最も好ましくは1ppm未満の量の遊離カルボン酸R-(CH-COOHを含有する、請求項1~請求項4に記載のゼラチン。
【請求項6】
前記官能化ゼラチンがA型ゼラチンである、請求項1~請求項5に記載のゼラチン。
【請求項7】
前記官能化ゼラチンが、さらに、(メタ)アクリレート基若しくは(メタ)アクリレート部分、アセチル基若しくはアセチル部分、フェノール基若しくはフェノール部分、チオール基若しくはチオール部分、ノルボルネン基若しくはノルボルネン部分、テトラジン基若しくはテトラジン部分、アジド基若しくはアジド部分、フラン基若しくはフラン部分、アリル基若しくはアリル部分、マレイミド基若しくはマレイミド部分、又はそれらの任意の組合せで修飾されている、請求項1~請求項6に記載のゼラチン。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の官能化ゼラチンを提供する方法であって、
a.反応媒体中で、カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(R-(CH-COO-NHS)を含有する試薬とゼラチンとを反応させることによって、ゼラチンを修飾する工程と、
b.前記反応媒体のpHを、2.0~4.0、好ましくは2.5~3.5、より好ましくは3.0~3.5の値に低下させる工程と、
c.前記の酸性の反応媒体に、0.01~1.5w/w%のミセル形成界面活性剤を添加する工程と、
d.前記ミセル含有媒体を吸着剤に、好ましくは活性炭に接触させる工程と、
e.前記吸着剤を前記媒体から分離する工程と、
f.前記官能化ゼラチンを含む前記媒体を回収する工程と
を含み、
式中、Rは、4-フェノール、ノルボルネニル及びSHからなる群から選択される、
方法。
【請求項9】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の官能化ゼラチンを調製する方法であって、
a)反応媒体中で、カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(R-(CH-COO-NHS)を含有する試薬とゼラチンとを反応させることによって、ゼラチンを修飾する工程と、
b1)反応媒体のpHを4.0~9.0、好ましくは4.0~6.0、より好ましくは4.0~6.0、さらに好ましくは4.5~5.5の値に低下させる工程と、
c)前記反応媒体に、0.01~1.5w/w%のミセル形成界面活性剤を添加する工程と、
b2)前記反応媒体のpHを、2.0~4.0、好ましくは2.5~3.5、より好ましくは3.0~3.5の値に低下させる工程と、
d)工程b2)の媒体を固体吸着剤に接触させる工程と、
e)工程d)の固体吸着剤を前記媒体から分離する工程と、
f)前記官能化ゼラチンを含む前記媒体を回収する工程と
を含み、
式中、Rは、4-フェノール、ノルボルネニル及びSHからなる群から選択される、
方法。
【請求項10】
nが1~5、好ましくは2又は3である、請求項8又は請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを含有する前記試薬が、R-(CH-COO-NHSである、請求項8~請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記カルボン酸部分が、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸、3-(SH)-プロピオン酸及び2-(5-ノルボルネニル)-酢酸のうちの1つ又は複数であり、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸である、請求項8~請求項10に記載の方法。
【請求項13】
ゼラチンの第一級アミン基が前記カルボン酸部分で修飾されている、請求項8~請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記官能化ゼラチンの第一級アミン基が、アミド結合を介して前記カルボン酸部分にカップリングされている、請求項8~請求項13に記載の方法。
【請求項15】
透析工程を含まない、請求項8~請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ミセル形成界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含み、好ましくは前記界面活性剤が、Triton X-100若しくはTriton X-102、又はそれらの混合物である、請求項8~請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記官能化ゼラチンのリポ多糖含有量が、100EU/g未満、好ましくは50EU/g未満、より好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満である、請求項8~請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記官能化ゼラチンの、前記カルボン酸部分による修飾度が、5%~100%、好ましくは25%~100%、より好ましくは50%~100%、さらに好ましくは75~100%である、請求項8~請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記官能化ゼラチンに含まれる遊離カルボン酸R-(CH-COOHが、100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは20ppm未満、さらに好ましくは10ppm未満、さらに好ましくは5ppm未満、さらに好ましくは2ppm未満、最も好ましくは1ppm未満である、請求項8~請求項18に記載の方法。
【請求項20】
遊離カルボン酸の量が、pHが9.5の50mMリン酸緩衝液に溶解した前記ゼラチンの試料で定量される、請求項8~請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記官能化ゼラチンが、さらに、(メタ)アクリレート基若しくは(メタ)アクリレート部分、アセチル基若しくはアセチル部分、フェノール基若しくはフェノール部分、チオール基若しくはチオール部分、ノルボルネン基若しくはノルボルネン部分、テトラジン基若しくはテトラジン部分、アジド基若しくはアジド部分、フラン基若しくはフラン部分、アリル基若しくはアリル部分、マレイミド基若しくはマレイミド部分、又はそれらの任意の組合せで修飾される、請求項8~請求項20に記載の方法。
【請求項22】
請求項1~請求項7のいずれかに記載の官能化ゼラチンと、架橋剤と、を含むヒドロゲル。
【請求項23】
請求項22に記載のヒドロゲル又は請求項1~請求項7に記載の官能化ゼラチンを含む、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、化学的に官能化されたゼラチン、特に架橋性の置換カルボン酸(cross-linkable, substituted carboxylic acid)で官能化されたゼラチンに関する。より詳細には、本発明は、発熱活性が低く(low pyrogenic activity)、特にリポ多糖含有量が低い架橋性置換カルボン酸官能化ゼラチン、架橋性置換カルボン酸官能化ゼラチンを含むヒドロゲル、架橋性置換カルボン酸官能化ゼラチンの調製方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床、診断又は医薬の研究用の機能的な生体組織、生体インプラント、及び細胞ベースの多臓器モデルの再構築に、高い注目が集まっている。様々な組織工学用途の主要な候補として、天然の細胞外マトリックスと類似性があることから、ヒドロゲルが上がっている。
【0003】
ゼラチンヒドロゲルが、その生体適合性及び生分解性のために特に魅力的である。体内で最も豊富なタンパク質であり、細胞外マトリックスの最も一般的な分子であるコラーゲンが部分加水分解されることによって、ゼラチンは生成される。細胞認識配列であるアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)が豊富に存在することにより、ゼラチンには細胞が付着しやすく、その細胞の拡散と増殖が促進される。この細胞-マトリックス相互作用が、複雑な組織の構築にとって重要である。ゼラチンは、医薬品業界において信頼できる添加剤(excipient)として長い歴史があるため、安全性及び法令遵守の最高基準を満たしている。さらに、遊離アミノ基、ヒドロキシル基、及びカルボキシレート基が存在することにより、特定用途にむけた所望の特性を得るために化学修飾することが可能である。
【0004】
ゼラチンヒドロゲルは、その側基を事前に修飾せずに、又は、その側基を官能化した後に、ゼラチンポリマーを架橋することによって作製される。ゼラチン骨格への官能基の付加とは、ヒドロゲルの設計及び特性に対する高度な制御を伴う架橋戦略である。ゼラチンを架橋するために最も広く使用され研究されている修飾は、メタクリロイル化である。MA修飾ゼラチンは、一般にゲルMAと呼ばれる。十分に確立されているメタクリロイルゼラチンの代替としては、アクリロイルゼラチン(Billiet et al.2013「Quantitative Contrasts in the Photopolymerization of Acrylamide and Methacrylamide-Functionalized Gelatin Hydrogel Building Blocks」Macromolecular Bioscience 13:1531-45)がある。
【0005】
他の官能化ゼラチンとしては、例えばチラミン官能化ゼラチン(Wang et al.,2010,Biomaterials.31(6):1148-57)がある。Wangらは、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸(3-(4-hydroxyphenyl)-propionic acid:HPA)、過剰のN-ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide:NHS)、及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide hydrochloride:EDC)の組合せを用いた修飾によるゼラチンの官能化について開示している。国際公開第2006/010066号には、チラミンのゼラチンへのカルボジイミド媒介カップリングを用いたゼラチンの修飾が開示されている。他の関連刊行物としては国際公開第2020/050779号があり、チラミン又はヒドロキシフェニルプロピオン酸ベースの架橋剤に基づく調整可能な特性を有するヒドロゲルが開示されている。化合物3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(3-(4-hydroxyphenyl)propanoic acid)(HOC(CHCOHは、HPAと略されることもあり、またフロレト酸又はデスアミノチロシン(desaminotyrosine)(DATと略されることもある)としても知られている。これらの表記は、互換的に使用されうる。
【0006】
Elvin et al.2010,Biomaterials.31(6):8323-8331には、遊離アミンと3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸とのカップリングにより、ゼラチンの結合性部分、パラ-ヒドロキシルフェニル(チロシン様)の含有量が増加することに基づいて、光重合性ゼラチンベースの材料を作製することが記載されている。DAT含有量は、ゼラチンとボルトンハンター試薬(N-スクシンイミジル-3-[4-ヒドロキシフェニル]プロピオナート)との反応によって増加した。これが、カルボン酸官能化ゼラチンの例である。
【0007】
ゼラチンベースのヒドロゲルは、官能化度及びポリマー濃度に応じて、その物理的特性(架橋密度、膨潤性、及び剛性)を調整することができ、このことにより、この材料が様々な組織工学用途のための汎用基盤となっている。架橋は、様々な方法で開始され得る。これらの方法の1つに、使用される光開始剤に応じてUV又は可視光によって発生するラジカルによるものがある。あるいは、チオール-エン光クリックケミストリ、チオール-マイケル付加、逆電子要求ディールス・アルダー反応、ディールス・アルダークリック反応、ジスルフィド架橋形成、シッフ/の塩基、π-π環化付加、光酸化、及び/又は酵素的架橋を介するものがある。
【0008】
(生体)医療用途のゼラチンベースのヒドロゲルの主な欠点の1つは、従来法で製造されたゼラチン中に、エンドトキシン(本明細書ではリポ多糖とも呼ばれる)が存在することである。エンドトキシンは、高度に免疫原性である大きな分子であり、グラム陰性菌の外膜の主成分である。エンドトキシンは耐熱性が高いため、不活性化しにくい。エンドトキシンは、免疫系に曝露されると免疫応答を開始し、このことが組織の炎症、他のアレルゲンに対する感受性の増加、及び致命的ショックのリスクをもたらす可能性がある。ほとんどの研究は、現在、エンドトキシンレベルが高いゼラチンに基づく架橋官能化ゼラチンについて行われている。
【0009】
従来法で製造されたゼラチンはまた、エンドトキシン以外の微生物成分によって汚染される可能性があり、その一部は、エンドトキシンのように、ヒトで有害な免疫応答を引き起こす可能性がある。非エンドトキシン発熱物質としては、例えば、グラム陽性菌に由来するリポテイコ酸(lipoteichoic acid:LTA)、並びにその他、真菌、酵母、ウイルス、細菌及び寄生虫に由来する化合物などの物質が挙げられる(Hasiwa et al.(2013)「Evidence for the detection of nonendotoxin pyrogens by the whole blood monocyte activation test.ALTEX 30:169-208)。これらの非エンドトキシン発熱物質、及び、好ましくは一般的な発熱物質又は病原体関連分子パターン(Pathogen-Associated Molecular Pattern:PAMP)はまた、自然免疫受容体が活性化した際の不必要な副作用を防ぐために、ゼラチンベースのヒドロゲルの(生体)医療用途では、最小限にとどめられるべきである。
【0010】
また、ゼラチンを官能化及び架橋してゼラチンヒドロゲルにする間に、複数の試薬が使用される。試薬及び反応生成物の残存物が、官能化ゼラチン中に存在する可能性がある。例えば、Elvinら(上記を参照されたい)によって記載されているように、ゼラチンをN-スクシンイミジル-3-[4-ヒドロキシフェニル]プロピオナートと反応させると、3-[4-ヒドロキシ]プロピオン酸(HPA、フロレト酸)などの加水分解生成物、及び、N-スクシンイミジル-3-[4-ヒドロキシフェニル]プロピオナートなどの未反応試薬が、官能化ゼラチン組成物中に存在する可能性がある。これらの残留物は望ましくないと考えられる。化学修飾したゼラチンを用いて解決すべき他の問題は、化学プロセスが、ゼラチンの劣化若しくは加水分解(Mwの低下)、又は望ましくない架橋(分子量の増加)をもたらす場合があることである。したがって、化学修飾により、結果的に、官能化の前後でMwがほぼ同じであるゼラチンが得られることが望ましい。
【0011】
従来の手順は、蒸留水に対する透析によって反応混合物を精製することに依拠している。通常、透析は1週間かけて行われる。したがって、この時間のかかる工程は、官能化ゼラチンを大規模生産するのに効率的ではない。さらに、この透析の期間に、微生物汚染及びゼラチン分解のリスクが増加する。ゼラチンベースのヒドロゲルの(生体)医療用途では、所望の機械的特性(例えば、強度及び弾性)を有するヒドロゲルを調整することが可能な生体適合性の(例えば、生体組織に対して非毒性であり、非免疫原性である)官能化ゼラチンが必要とされている。工業規模での生産を可能にする効率的なプロセスによってかかるゼラチンを製造する需要もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の上記問題の1つ又は複数を解決する。特に、発熱物質含有量が低く、特にエンドトキシン含有量が低く、かつ、試薬、副生成物及び加水分解生成物の汚染が少ないカルボン酸修飾ゼラチン(置換カルボン酸で官能化された第一級アミンを含む修飾ゼラチン)が提供される。カルボン酸官能化ゼラチンは、発熱物質含有量が低く、特にエンドトキシン含有量が低いため、生体適合性が向上している。本発明のカルボン酸官能化ゼラチンは、架橋プロセスを妨害することが知られている反応物による汚染が少ないため、特に架橋に有用である。また有利なことに、カルボン酸官能化ゼラチンは、長時間の透析工程を必要としない単純な製造プロセスによって調製することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、特に、以下の番号付けした態様及び実施形態(i)~(xv)のうちのいずれか1つ又は1つ若しくは複数の組合せのいずれかによって表現される。
(i)アミド結合を介しカルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)で官能化されたゼラチンであって、さらに、リポ多糖含有量が、100EU/g未満、100EU/g、好ましくは50EU/g未満、より好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満である、ゼラチン。
(ii)含んでいる反応物及び試薬、好ましくは遊離の置換カルボン酸が100ppm未満である、(i)に記載のゼラチン。
(iii)グラム陽性細菌由来の発熱物質、鞭毛細菌由来の発熱物質、一本鎖ウイルスRNA、及び非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNAの含有量が低い、好ましくはグラム陽性細菌由来及び鞭毛細菌由来の発熱物質の含有量が低い、より好ましくはグラム陽性細菌由来の発熱物質の含有量が低い、(i)又は(ii)に記載のゼラチン。
(iv)前記ゼラチンがA型ゼラチンである、(i)~(iii)のいずれか1つに記載のゼラチン。
(v)カルボン酸置換度が、5%~100%、好ましくは25%~100%、より好ましくは50~100%、さらに好ましくは80%~100%である、(i)~(iv)のいずれか1つに記載のゼラチン。
(vi)前記ゼラチンが、(メタ)アクリロイル基若しくは(メタ)アクリロイル部分、アセチル基若しくはアセチル部分、フェノール基若しくはフェノール部分、チオール基若しくはチオール部分、ノルボルネン基若しくはノルボルネン部分、テトラジン基若しくはテトラジン部分、アジド基若しくはアジド部分、フラン基若しくはフラン部分、アリル基若しくはアリル部分、マレイミド基若しくはマレイミド部分、又はそれらの任意の組合せでさらに修飾されている、(i)~(v)のいずれか1つに記載のゼラチン。
(vii)(i)~(vi)のいずれか1つに記載のカルボン酸で修飾されたゼラチンと、架橋剤とを含むヒドロゲル。
(viii)(vii)に記載のヒドロゲル又は(i)~(vi)のいずれか1つに記載のゼラチンを含むフィルム。
(ix)(i)~(vi)のいずれか1つに記載の官能化ゼラチンを提供する方法であって、
a.反応媒体中で、カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(好ましくはR-(CH-COO-NHS)を含有する試薬とゼラチンとを反応させることによって、ゼラチンを修飾する工程と、
b.前記反応媒体のpHを、2.0~4.0、好ましくは2.5~3.5、より好ましくは3.0~3.5の値に、低下させる工程と、
c.0.01~1.5w/w%のミセル形成界面活性剤を、前記の酸性の反応媒体に添加する工程と、
d.前記ミセル含有媒体を吸着剤に、好ましくは固体吸着剤に、好ましくは固体吸着剤に、好ましくは活性炭に、接触させる工程と、
e.前記吸着剤を前記媒体から分離する工程と、
f.前記官能化ゼラチンを含む前記媒体を回収する工程と
を含む、方法。
(x)前記ミセル形成界面活性剤が非イオン性界面活性剤を含み、好ましくは前記界面活性剤が、Triton X-100若しくはTriton X-102、又はそれらの混合物である、(ix)に記載の方法。
(xi)前記固体吸着剤が疎水性吸着剤、好ましくは活性炭である、(ix)又は(x)に記載の方法。
(xii)前記カルボン酸修飾ゼラチンを含む前記媒体を乾燥させる工程をさらに含む、(ix)~(xi)のいずれか1つに記載の方法。
(xiii)医薬に使用するための、(i)~(vi)のいずれか1つに記載のゼラチン、又は(vii)に記載のヒドロゲル。
(xiv)組織若しくは器官、又はそれらの一部、コーティング、足場、又は制御放出剤形などの生物学的構築物を製造するための、(i)~(vi)のいずれかに1つに記載のゼラチン、又は(vii)に記載のヒドロゲルの、インビトロ又はエクスビボの使用。
(xv)(i)~(vi)のいずれか1つに記載のゼラチン、又は(vii)に記載のヒドロゲルの、バイオインク又はバイオ樹脂としての使用。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸修飾ゼラチンの透析を用いた精製についてグラフで表したものであり、透析後T=5で98%減少している。
図2図2はミセル形成、吸収、及び濾過を用いた3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸修飾ゼラチンの精製について、グラフで表したものである。
図3図3はAC濾過試料について検出されたHPLCシグナルである。PAは検出されていない。
図4A図4は出発ゼラチンのMW分布(1)、並びに、NHS、HPA及びEDCのin situ混合物を使用する経路を介した修飾と、それに続いて1段階透析を用いて精製を行った結果のMW分布(2)、及び、2段階透析を用いて精製を行った結果のMW分布(3)を示した図である。
図4B】同じ出発ゼラチン(1)のMW分布、及びEDCが本質的に存在しない状態でNHS-HPAを使用する経路を介した修飾と、それに続いてミセル形成に基づく精製を用いた2段階精製を行った結果のMW分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
他に定義されない限り、技術用語及び科学用語を含み、本発明の開示に使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有する。さらなる指針によって、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「前記(the)」には、文脈により他に明確に指示されない限り、単数の指示物及び複数の指示物の両方が含まれる。
【0016】
本明細書で使用される「含む(comprising、comprises)」、及び「構成される(comprised of)」という用語は、「含む(including、includes)」、「含有する(containing、contains)」と同義であり、包括的又は無制限であり、列挙されていない追加の構成物、要素、又は方法の工程を排除しない。ある要素又は工程を含む実施形態について言及する場合、この言及には、列挙された要素又は工程から本質的になる実施形態も包含される。端点により列挙される数値範囲には、それぞれの範囲内に包含されるすべての数及び分数、並びに列挙された端点が含まれる。パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される「約」という用語は、開示する発明で実行するのに以下のばらつきが適切である場合に限り、特定の値の+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらに好ましくは+/-0.1%以下のばらつきを包含することを意味する。「約」という修飾語が指す値は、それ自体も具体的でありかつ好ましく、開示されていることを理解されたい。本明細書で引用されるすべての文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0017】
本出願は、一般に、例えばゼラチンベースのヒドロゲル及びフィルムを調製する目的でゼラチンを架橋するための官能化ゼラチンに関する。より詳細には、本出願は、カルボン酸官能化ゼラチンに関する。
【0018】
ゼラチンは、コラーゲンに由来する水溶性タンパク質の混合物である。ゼラチンは、例えば、当技術分野で既知のように、例えばウシ、ブタ、家禽又は魚の、皮膚、腱、靭帯、骨などを、酸又はアルカリ条件下で水性抽出することによって得られるコラーゲンの部分加水分解又は酵素加水分解によって得られる。酸処理によって得られるゼラチンは「A型ゼラチン」と呼ばれ、「B型ゼラチン」はアルカリベースのプロセスに由来する。B型ゼラチンではアスパラギン及びグルタミンの脱アミノ化がより多く生じるため、A型ゼラチン及びB型ゼラチンの等電点(isoelectric point:IEP)はそれぞれ、pH7.0~9.0及びpH4.9~5.1にあり、このことにより、中性の生理学的pHでは、それらのゼラチンが正及び負に帯電することが可能である。好ましい実施形態では、本発明はA型ゼラチンに関する。
【0019】
ゼラチンは、均一なタンパク質分子を構成しているのではなく、長さが不定のタンパク質分子を不定の量含んでいる。好ましくは、本明細書で使用されるゼラチンは、平均分子量が、1500Da~300kDaの範囲内、好ましくは2000Da~300kDa、4000Da~300kDa、5000Da~300kDa、10kDa~300kDa、又は20kDa~300kDa、より好ましくは50kDa~300kDa、最も好ましくは100kDa~300kDa、例えば100kDa~275kDa又は100kDa~250kDaである。ゼラチンの分子量分布は、通常、サイズ排除高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography:HPLC)技術によって測定され、溶出画分はUV吸着によって検出され、測定データは適切なソフトウェアによって評価される。すべての技術は当技術分野で既知であり、Olijve et.al.(2000.Journal of Colloid and Interface Science 243:476-482)を参照されたい。
【0020】
本明細書で使用される場合、「ゼラチン」という用語は、化学修飾ゼラチンを含む「ゼラチン誘導体」も包含する。本明細書で使用される「化学基又は化学部分(例えば、カルボン酸基又はカルボン酸部分、チラミン基又はチラミン部分、メタクリロイル基又はメタクリロイル部分、アクリロイル基又はアクリロイル部分、アセチル基又はアセチル部分、フェノール基又はフェノール部分など)で修飾されたゼラチン」という表現は、例えばゼラチンの少なくとも1つのアミン基、少なくとも1つのヒドロキシル基、少なくとも1つのカルボキシル基、及び/又は少なくとも1つのフェノール基に結合した前記化学基又は化学部分(例えば、カルボン酸基、チラミン基又はチラミン部分、メタクリロイル基又はアクリロイル基、アセチル基又はアセチル部分、フェノール基又はフェノール部分など)を含むゼラチンを表す。
【0021】
本明細書で使用される場合、「カルボン酸基で修飾されたゼラチン」又は「架橋性置換カルボン酸基で修飾されたゼラチン」は、本明細書では、「カルボン酸修飾ゼラチン」、「カルボン酸置換ゼラチン」又は「カルボン酸-ゼラチン」又は「ゼラチンカルボン酸」とも呼ばれ、好ましくはアミド結合を介して、少なくとも1つのカルボン酸基で置換された遊離アミンを有するゼラチンとして定義される。ゼラチンはアミノ酸を含み、その一部は、末端アミン(例えば、リシン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン)を含有する側鎖を有し、又は、ヒドロキシル(例えば、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、チロシン、ヒドロキシプロリン)を含有する側鎖を有する。さらに、ゼラチンは、N末端アミンも含有する。これらの末端アミンのすべてをカルボン酸基で置換して、カルボン酸基を含む官能化ゼラチンを生成することができる。アミド結合を形成するために、カルボン酸でN末端アミンを置換することが好ましい。
【0022】
本発明のゼラチンの官能化に使用されるカルボン酸は、式R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)を有するカルボン酸である。
【0023】
実施形態では、ゼラチンの官能化に使用されるカルボン酸において、Rは、4-フェノール、ノルボルネニル、又はSHからなる群から選択される。実施形態では、nは1~5、好ましくは2又は3である。好ましい実施形態では、ゼラチンの官能化に使用されるカルボン酸において、カルボン酸部分は、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸、3-(SH)-プロピオン酸、及び2-(5-ノルボルネニル)-酢酸のうちの1つ又は複数であり、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸である。
【0024】
ゼラチンの「官能化度(degree of functionalization:DoF)」は、一般に、全第一級アミン基に対する官能化された第一級アミン基の割合を指す。本明細書で使用される場合、「カルボン酸置換度」は、カルボン酸基で置換された、ゼラチン中の遊離アミン基の割合を指す。
ゼラチンのカルボン酸置換度などの官能化度は、それ自体既知の方法によって定量することができる。
【0025】
例えば、Fe(III)-アセトヒドロキサム酸法は、ヒドロキシル基での置換の定量に用いることができる。Habeeb法((メタ)アクリルアミドのトリニトロベンゼンスルホン酸(trinitrobenzenesulfonic acid:TNBS)ベースの分光光度定量、Habeeb 1996.Anal.Biochem.14:328-336)、1H-NMR及びフルオロアルデヒドアッセイ(遊離アミンのo-フタルジアルデヒド(o-Phthaldialdehyde:OPA)ベースの蛍光定量としても知られている)は、アミン基におけるカルボン酸置換の定量に用いることができる。アミン基変換を定量化するためのフルオロアルデヒドアッセイと、ヒドロキシル基を定量化するためのFe(III)-アセトヒドロキサム酸法との組合せなど、前述の方法の組合せを用いることもできる。実施形態では、遊離アミンを定量することによるカルボン酸置換度の定量に、フルオロアルデヒドアッセイが用いられる。
【0026】
本明細書に開示するカルボン酸官能化ゼラチンでは、好ましくは遊離アミン基で、カルボン酸官能化が生じる。実施形態では、カルボン酸官能化ゼラチンは、カルボン酸置換度が20%~100%、好ましくは50%~100%、より好ましくは80%~100%、例えば85%~100%、90%~100又は95%~100%である。実施形態では、カルボン酸官能化ゼラチンは、カルボン酸置換度が20%未満、好ましくは10%未満、9%、8%、7%又は6%、より好ましくは5%未満、4%、3%、2%又は1%である。
【0027】
本明細書に開示するカルボン酸官能化ゼラチンは、さらに修飾及び/又は官能化されてもよい。実施形態では、カルボン酸-ゼラチンは、(メタ)アクリロイル基若しくは(メタ)アクリロイル部分、アセチル基若しくはアセチル部分、フェノール基若しくはフェノール部分、チオール基若しくはチオール部分、ノルボルネン基若しくはノルボルネン部分、テトラジン基若しくはテトラジン部分、アジド基若しくはアジド部分、フラン基若しくはフラン部分、アリル基若しくはアリル部分、マレイミド基若しくはマレイミド部分、又はそれらの任意の組合せ、好ましくはアセチル基で、さらに修飾される。二重化学官能化ゼラチンは、Hoch et al.(2012.Chemical tailoring of gelatin to adjust its chemical and physical properties for functional bioprinting.J.Mater.Chem.B 1:5675)に記載されているように生成されてもよい。
【0028】
本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンは、発熱活性が低い。発熱活性は、当技術分野で既知の単球活性化試験(Monocyte Activation Test:MAT)アッセイを用いて測定することができる。MATアッセイにより、エンドトキシン及び非エンドトキシンである発熱物質レベルの両方の定量化が可能であるが、PAMP汚染の型は区別されない。種々のPAMP、また種々の非エンドトキシンを検出及び定量化するために、Fraunhofer Institute for Interfacial Engineering and Biotechnology IGBによって、細胞ベースの発熱物質検出アッセイ(PAMPアッセイ)が開発された。この細胞ベースの試験システムでは、ヒトToll様受容体(Toll-like receptor:TLR)を使用してPAMPを検出する(Burger-Kentischer et al.(2010)A new cell-based innate immune receptor assay for the examination of receptor activity,ligand specificity,signaling pathways and the detection of pyrogens.J Immunol Methods,358:93-103)。より詳細には、細胞、例えばNIH3T3細胞は、種々のPAMPの検出を可能にする種々のTLRの組合せを発現する。例えば、受容体の組合せTLR1/2、TLR2/6、TLR4/CD14、TLR5、TLR7、及びTLR9を有する細胞株により、グラム陽性細菌由来の発熱物質(TLR1/2、TLR2/6)、鞭毛細菌由来の発熱物質(TLR5)、一本鎖ウイルスRNA(TLR7)の検出が可能であり、細胞株TLR4/CD14はグラム陰性細菌由来のエンドトキシンの検出が可能であり、TLR9細胞株により非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNAが検出される。実施形態では、本明細書に開示するHPA-ゼラチンは、グラム陽性細菌由来の発熱物質、鞭毛細菌由来の発熱物質、一本鎖ウイルスRNA、グラム陰性細菌由来のエンドトキシン、及び非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNAの含有量が低い。
【0029】
特定の実施形態では、カルボン酸-ゼラチンは、グラム陽性細菌由来及び鞭毛細菌由来の発熱物質の含有量が低く、とりわけグラム陽性細菌由来の発熱物質の含有量が低い。特定の実施形態では、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンは、エンドトキシン又はリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)の含有量が低く、特に、LPS含有量が、100EU/g未満、より好ましくは50EU/g未満、さらに好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満5、最も好ましくは1EU/g未満であることを特徴とする。さらに特定の実施形態では、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンは、A型ゼラチン(由来)であり、LPS含有量が、100EU/g未満、より好ましくは50EU/g未満、さらに好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満であることを特徴とする。さらなる特定の他の実施形態では、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンは、B型ゼラチン(由来)であり、LPS含有量が、20EU/g未満未満、好ましくは10EU/g未満、より好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満であることを特徴とする。EUという用語は当技術分野で既知であり、「エンドトキシン単位」を表す。1EUは、約104~105個の細菌に存在する量である100pgの大腸菌リポ多糖にほぼ等しい。本明細書において、EU/gという用語は、カルボン酸官能化ゼラチンの乾燥重量当たりのEU数を表す。リムルスアッセイ(LAL)は、サブピコグラム量までのLPSを測定するための当技術分野で周知のバイオアッセイである。リムルス試薬(Limulus amebocyte lysate:LAL)は、アメリカカブトガニ、リムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)由来の血球(アメボサイト)の水性抽出物である。LALは、細菌エンドトキシン又はリポ多糖と反応する。この反応がLAL試験の基礎であり、そして、細菌エンドトキシンの検出及び定量化に用いられる。例えば、LPSレベルを定量化するための適切なLAL法としては、例えば米国Charles River社の発色エンドセイフ法がある。許容され推奨される他の方法としては、Hyglos GmbH社(ドイツ)のエンドザイム・リコンビナントC因子法がある。前記のいずれの方法でも同様又は同一の測定値が得られるため、両方法は互換的に用いることができる。
【0030】
また有利には、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンには、試薬及び反応生成物が実質的に含まれない。実施形態では、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンに含まれる遊離カルボン酸、すなわちゼラチンに結合していないカルボン酸は低レベルであり、含まれるのは150ppm未満のカルボン酸、又は100ppm未満のカルボン酸、又は50ppm未満のカルボン酸、好ましくは30ppm未満のカルボン酸、より好ましくは25ppm未満のカルボン酸、さらに好ましくは20ppm未満のカルボン酸である。実施形態では、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンに含まれるのは、150ppm未満のカルボン酸、例えば140ppm未満のカルボン酸、130ppm未満のカルボン酸、120ppm未満のカルボン酸、又は110ppm未満のカルボン酸、好ましくは100ppm未満のカルボン酸、例えば、90ppm未満のカルボン酸、80ppm未満のカルボン酸、70ppm未満又は60ppm未満のカルボン酸であり、ここで好ましくは、カルボン酸含有量は、50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解したカルボン酸-ゼラチンの試料で定量される。実施例に詳述されているように、特に、カルボン酸-ゼラチンの試料を、水、又は50mMのリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解し、溶解した試料の限外濾過(例えば、10kDaアミコンウルトラ遠心式フィルタを使用)、及び濾液のHPLC分析によって、カルボン酸を測定することができる。カルボン酸官能化ゼラチン中のカルボン酸の残基により、カルボン酸官能化ゼラチン分子の架橋が妨害される可能性がある。したがって、本明細書に開示するカルボン酸官能化ゼラチンは、そのカルボン酸含有量が低いため、ヒドロゲル又はフィルムを形成するための架橋に特に適している。それゆえに、さらなる態様は、架橋カルボン酸-ゼラチン又は本明細書に開示する架橋カルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルに関する。本明細書ではさらに、前記ヒドロゲルから誘導されるフィルム、生体接着剤などの製品を開示する。本明細書で使用される「ヒドロゲル」という用語は、ゲルを形成する架橋カルボン酸-ゼラチンなどの親水性ポリマー鎖のネットワークを指す。「ゲル」という用語は、定常状態にある場合に、流れを示さない実質的に希薄な架橋系を表す。
【0031】
カルボン酸-ゼラチンの架橋プロセスは、当技術分野で周知である。通常、光開始剤の存在下での光への曝露により、1つのゼラチン分子のカルボン酸基が、別のゼラチン分子のカルボン酸基と反応して、カルボン酸-ゼラチンを架橋することができる。
【0032】
本明細書で使用される「光開始剤」という用語は、光、例えば紫外線(UV)又は可視光(VIS)に曝露されるとフリーラジカルに分解する任意の化学化合物、又は化合物の混合物を指す。紫外線光開始剤の非限定的な例としては、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(イルガキュア(Irgacure、登録商標)2959の商品名でも知られる)、及びリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィナート(LAP)が挙げられる。可視光光開始剤(visible light photoinitiators)は、可視光に曝露されるとフリーラジカルを生成する。可視光光開始剤を励起するのに有用な可視光の例示的な範囲には、緑色、青色、藍色、及び紫色が含まれる。好ましくは、可視光は、450~550nmの範囲内の波長を有する。可視光光開始剤の非限定的な例としては、エオシンY、リボフラビン/トリエタノールアミン、ビニルカプロラクタム、dl-2,3-ジケト-1,7,7-トリメチルノルカンファン(CQ)、1-フェニル-1,2-プロパジオン(PPD)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキシド(TPO)、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-(4-プロピルフェニル)ホスフィンオキシド(Ir819)、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2-クロロチオキサンテン-9-オン、4-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、フェナントレンキノン、フェロセン、ジフェニル1(2,4,6トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド/2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン(50/50ブレンド)、ジベンゾスベレノン、(ベンゼン)トリカルボニルクロム、レサズリン、レゾルフィン、5ベンゾイルトリメチルゲルマン(イボセリン(Ivocerin、登録商標))、それらの誘導体、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。
【0033】
光照射時間は、ポリマーの架橋が可能な任意の適切な時間であってよい。例えば、照射時間は、10秒~20分、好ましくは1分~20分、より好ましくは2~15分の範囲(例えば、2分、3分、4分、5分、6分、7分、8分、9分、10分、11分、12分、13分、14分又は15分)であってもよい。
【0034】
ゼラチンベースのヒドロゲルの機械的特性は、例えば、使用するゼラチンの分子量によって、HPA置換度、カルボン酸-ゼラチン濃度、光開始剤の量、及び光曝露時間を変えることによって、様々な用途に合わせて調整することができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、カルボン酸置換ゼラチンの濃度は、カルボン酸置換ゼラチンの重量を溶媒の体積で割ったもの(w/v)として定義され、パーセンテージで表される。溶媒は、医薬的に許容されるキャリアであってもよい。ヒドロゲルの実施形態では、カルボン酸置換ゼラチンは、5%~25%(w/v)、17%~25%(w/v)、17%~23%(w/v)、又は約20%(w/v)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、カルボン酸置換ゼラチンは、5%~15%(w/v)、8%~12%(w/v)、又は約10%(w/v)の濃度で存在する。いくつかの実施形態では、カルボン酸置換ゼラチンは、10%~40%(w/v)、15%~35%(w/v)、20%~30%(w/v)、又は約5%、10%、15%、20%、若しくは25%(w/v)の濃度で存在する。
【0036】
本発明による化学修飾ゼラチン、特にカルボン酸-ゼラチン、及びヒドロゲルは、様々な用途に使用されてもよく、例としては、以下に限定されないが、ヒト又は非ヒト動物の組織(例えば、軟骨、軟組織)の製造又は修復、及び生物学的構築物の3次元バイオファブリケーション又は3次元バイオプリンティングのためのバイオインク又はバイオ樹脂としての使用が挙げられる。生物学的構築物は、例えば多孔質又は非多孔質であってもよい細胞含有の足場が挙げられるバイオファブリケーション技術又はバイオプリンティング技術を用いて製造することができる、任意の動物の組織若しくは器官又はその一部であってもよい。
【0037】
「バイオインク」という用語は、3D印刷、3Dプロット、又は加工を施して、特定の形状又は構築物にすることができる細胞適合性のヒドロゲルを指す。ヒドロゲルは、生細胞及び/又は成長因子などを組み込んでも組み込まなくてもよい。「バイオ樹脂」という用語は、レーザー又は光投射ベースの光ステレオリソグラフィ、又は同様のリソグラフィ技術を用い、3D印刷又は加工を施して特定の形状又は構築物にすることができる細胞適合性のヒドロゲルを表す。ヒドロゲルは、生細胞、薬物、及び/又は成長因子などを組み込んでも組み込まなくてもよい。
【0038】
カルボン酸A関連の態様は、組織若しくは器官又はそれらの一部を製造するための、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチン、又は本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルの、インビトロ又はエクスビボの使用に関する。実施形態では、組織又は器官は、骨組織、軟骨、及び血管組織から選択される。本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチン、又は本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルを含み、組織工学的に設計された組織若しくは器官又はそれらの一部も、本明細書に開示する。
【0039】
別の態様は、徐放性投薬剤又は生物学的構築物を製造するための、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチン、又は本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルの、インビトロ又はエクスビボの使用に関する。生物学的構築物は、例えば、細胞の接着及び増殖に適した(固体)支持体のコーティング、又は、細胞若しくは薬物及び/若しくは媒介物を含有するのに適した足場であり得る。
【0040】
またさらなる態様は、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチン、又は本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルの、バイオインク又はバイオ樹脂としての使用に関する。
【0041】
さらなる実施形態では、バイオインク又はバイオ樹脂は、生物学的構築物の3次元バイオファブリケーション又は3次元バイオプリンティングに使用される。生物学的構築物は、動物の組織若しくは器官、又はそれらの一部であり得る。生物学的構築物はまた、細胞を含有するのに適した足場、又は、例えば薬物及び/又は媒介物(例えば薬物送達/遺伝子治療の用途)を含有するのに適した足場であり得る。生物学的構築物はまた、生体吸収性スクリュー、又は他の生体材料(例えば生体接着剤)であり得る。実施形態では、生物学的構築物は、細胞を含有するのに適した足場である。実施形態では、生物学的構築物はコーティングである。本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含む生物学的構築物、又は本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを含むヒドロゲルを含む生物学的構築物もまた、本明細書で開示する。またさらなる態様は、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンの調製方法に関する。本発明者らは、驚くべきことに、国際公開第2016/085345号に記載されている方法の改変版に従ってカルボン酸-ゼラチンの水性反応媒体を精製すると、その媒体からリポ多糖が除去されるだけでなく、他の発熱物質、並びに、ゼラチン反応のカルボン酸官能化の間に形成されるか又はゼラチン反応のカルボン酸官能化の後に残る遊離カルボン酸及び他の反応物質も、除去されることを見出した。したがって、反応媒体の透析が必要ではなく、その結果、本明細書の他の箇所で明記したように、LPS含有量が低く、発熱物質含有量が低く、かつカルボン酸含有量が低いカルボン酸-ゼラチンを提供するプロセスが、より速いものとなる。
【0042】
それゆえに、さらなる態様では、本発明は、本明細書に開示するカルボン酸-ゼラチンを調製する方法であって、前記方法は、以下の工程、すなわち、
a.反応媒体中で、カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(R-(CH-COO-NHS)を含有する試薬とゼラチンとを反応させることによって、ゼラチンを修飾する工程と、
b.前記反応媒体のpHを、2.0~4.0、好ましくは2.5~3.5、より好ましくは3.0~3.5の値に低下させる工程と、
c.前記の酸性の反応媒体に、0.01~1.5w/w%のミセル形成界面活性剤を添加する工程と、
d.前記ミセル含有媒体を吸着剤に、好ましくは活性炭に接触させる工程と、
e.前記吸着剤を前記媒体から分離する工程と、
f.官能化ゼラチンを含む前記媒体を回収する工程と、
g.所望により、工程f)の官能化ゼラチンを含む前記媒体を乾燥させる工程と
を含む、方法に関する。
【0043】
本明細書に開示するカルボン酸官能化ゼラチン-ゼラチンを調製する代替方法は、以下の工程、すなわち、
a)反応媒体中で、カルボン酸部分R-(CH-COOH(式中、nは1~10の整数である)のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(R-(CH-COO-NHS)を含有する試薬とゼラチンとを反応させることによって、ゼラチンを修飾する工程と、
b1)前記反応媒体のpHを、4.0~9.0、好ましくは4.0~6.0、より好ましくは4.0~6.0、さらに好ましくは4.5~5.5の値に低下させる工程と、
c)前記反応媒体に、0.01~1.5w/w%のミセル形成界面活性剤を添加する工程と、
b2)前記反応媒体のpHを、2.0~4.0、好ましくは2.5~3.5、より好ましくは3.0~3.5の値に低下させる工程と、
d)工程b2)の媒体を固体吸着剤に接触させる工程と、
e)工程d)の固体吸着剤を前記媒体から分離する工程と、
f)官能化ゼラチンを含む前記媒体を回収する工程と、
g)所望により、工程f)のカルボン酸官能化ゼラチン-ゼラチンを含む前記媒体を乾燥させる工程と
を含む。
【0044】
本明細書に記載の方法においては、任意の種類のゼラチン、例えばウシ、ブタ、家禽又は魚が起源の、例えばA型ゼラチン又はB型ゼラチンを使用することができる。実施形態では、A型ゼラチンが使用される。他の実施形態では、B型ゼラチンが使用される。
【0045】
N-ヒドロキシ-スクシンイミジル活性化カルボン酸を用いたゼラチンのカルボン酸官能化は、適切な緩衝液、例えばpH9.0の炭酸塩緩衝液又はリン酸緩衝生理食塩水(phosphate-buffered saline:PBS)において、50℃の温度で60~180分間、例えば60分間又は120~180分間、それぞれのN-ヒドロキシ-スクシンイミジル活性化カルボン酸とゼラチンとを反応させることによって行うことができる。ゼラチンのカルボン酸官能化度は、Shirahama et al.(2016)に記載されているように、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル活性化カルボン酸試薬とゼラチンとの比を変えることによって調整することができる。反応中、カルボン酸-ゼラチンと共に遊離カルボン酸が形成される。
【0046】
実施形態では、本発明のゼラチンの官能化に使用されるN-ヒドロキシ-スクシンイミジル活性化カルボン酸は、好ましくは本質的に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)がない状態において、式R-(CH-COO-NHS(式中、nは1~10の整数である)を有するN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-(NHS)活性化カルボン酸である。
【0047】
実施形態では、ゼラチンの官能化に使用されるN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-(NHS)-活性化カルボン酸において、Rは、4-フェノール、5-ノルボルネニル、又はSHからなる群から選択される。実施形態では、nは、1~10、好ましくは1~5、好ましくは2又は3である。好ましい実施形態では、ゼラチンの官能化に使用されるN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-(NHS)-活性化カルボン酸において、カルボン酸部分は、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸、3-(SH)-プロピオン酸、及び2-(5-ノルボルネニル)-酢酸のうちの1つ又は複数であり、好ましくは3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸である。好ましい実施形態では、ゼラチンの官能化に使用されるN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-(NHS)活性化カルボン酸は、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナート、N-ヒドロキシ-スクシンイミジル-3-(SH)-プロピオナート、及びN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-2-(5-ノルボルネニル)-アセチルからなる群から選択され、好ましくはN-ヒドロキシ-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナートである。
【0048】
反応媒体のpHは、ミセル形成界面活性剤を添加する前に、2.0~5.0の値、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは3.0~4.0、例えば約3.5又は2.0~3.5の値、例えば約3.0の値、さらに好ましくは3.0~3.5に低下させうる(本明細書に記載の方法における工程b))。あるいは、反応媒体のpHは、ミセル形成界面活性剤を添加する前に、4.0~9.0の値、好ましくは4.0~6.0、より好ましくは4.0~6.0、さらに好ましくは4.5~5.5に低下させてもよく(本明細書に記載の方法における工程b1))、ミセル形成界面活性剤を添加した後、媒体を固体吸着剤と接触させる前に、2.0~4.0の値、より好ましくは3.0~4.0、例えば約3.5又は2.0~3.5の値、例えば約3.0の値、さらに好ましくは3.0~3.5にさらに低下させてもよい(本明細書に記載の方法における工程b2))。有利には、低いpHで次の方法の工程を行うと、LPS、発熱物質、及びカルボン酸がより効率的に除去される。
【0049】
本明細書に記載の方法では、ミセル形成界面活性剤を反応媒体に添加する。ミセル形成界面活性剤は、溶液中でミセル(可溶性凝集体)を形成することができる。ミセル形成界面活性剤は、当技術分野で既知である。ミセル形成界面活性剤は、カチオン性又はアニオン性の界面活性剤などのイオン性界面活性剤であり得る。好ましくは、界面活性剤は非イオン性界面活性剤であり、そのような界面活性剤は、イオン性界面活性剤と比較して、より低い濃度でミセルを形成する傾向がある。さらに、イオン性界面活性剤は、イオン結合によってゼラチンと相互作用する可能性があり、除去がより困難である。
【0050】
好ましくは、ミセル形成非イオン性界面活性剤は、エトキシル化界面活性剤、好ましくはアルキルフェノールエトキシレートであり、好ましくは式C2x-1-C-O-(CO)nHで表されるアルキルフェノールエトキシレートであって、式中、xは4~12であり、nは7.5~14であり、Xは好ましくは8であり、nは好ましくは8~13、より好ましくは8.5~12.5、最も好ましくは9~12であるアルキルフェノールエトキシレートであり、特にTriton X-100、Triton X-102、又はそれらの混合物である。Triton Xシリーズの非イオン性界面活性剤は、オクチルフェノールとエチレンオキシドとの反応によって調製される。その生成物は、通常、アルキルアリールポリエーテルアルコールとして記載される種類のものであり、C17(CHCHO)9.7(Triton X-100)、及びC19(CHCHO)12.3(Triton X-102)の構造式を有する。適切な他の非イオン性界面活性剤は、ノニルフェノキシポリエトキシエタノールC1524O(CO)であって、nは3~40であり、例えばノノキシノール-4、ノノキシノール-15、及びノノキシノール-30であるノニルフェノキシポリエトキシエタノール、又は、C12-C18脂肪酸のポリエチレングリコールソルビタンモノエステル、例えばTWEENを含む。CHAPSO(3-([3-コラミドプロピル]ジメチルアンモニオ)-2-ヒドロキシル-1-プロパンスルホナートは、適切な別の非イオン性界面活性剤である。
【0051】
ミセル形成界面活性剤を添加した結果、LPSはモノマー化され、前記モノマーは界面活性剤と相互作用し、界面活性剤及びLPSを含むミセル複合体を形成すると考えられる。LPSと、好ましくはまた他の発熱物質、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質及び鞭毛細菌由来の発熱物質、とりわけグラム陽性細菌由来の発熱物質との効率的な除去を可能にするために、ゼラチン、特にカルボン酸-ゼラチンと、添加される界面活性剤、特に非イオン性界面活性剤との重量比は、好ましくは2000:1以下、より好ましくは500:1以下、さらに好ましくは250:1以下、最も好ましくは50:1以下である。実際、より高い重量比では、すなわち比較的多くのゼラチンが存在する場合は、すべてのLPSが界面活性剤によって結合されるわけではない。好ましくは、界面活性剤は、0.01~1.5w/w%、好ましくは0.015~1.0w/w%、より好ましくは0.020~0.50w/w%の濃度で反応媒体に添加される。
【0052】
本明細書に記載の方法の工程d)において、界面活性剤、LPS及びそのモノマー、並びに/又は他の発熱物質、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質及び鞭毛細菌由来の発熱物質、とりわけグラム陽性細菌由来の発熱物質を含む可溶性凝集体を含有し得る工程c)の媒体又は工程b2)の媒体を、(固体)吸着剤と接触させる。吸着剤はまた、界面活性剤と結合すること、好ましくはLPSとも結合することに加えて、好ましくは他の発熱物質、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質、鞭毛細菌由来の発熱物質、一本鎖ウイルスRNA、並びに非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNA、及びHPAとも結合する。
【0053】
固体吸着剤は、界面活性剤と結合することが可能な、好ましくはLPS、他の発熱物質及びカルボン酸とも結合することが可能な吸着剤であって、疎水性吸着剤などの当業者に既知の適切な任意の吸着剤であり得る。吸着剤は、好ましくは不溶性であり、適切な吸着剤は、粘土、例としては(活性)珪藻土又は粘土、フィロケイ酸塩、例としてはフィロケイ酸アルミニウム、スメクタイト鉱物及び疎水性吸着剤、例としては活性炭、例えばノーリットSXプラス若しくはノーリットROX 0.8(オランダ、Cabot社)、又は3Mゼータカーボン・フィルタ・カートリッジ、例としてはタイプR55S若しくはR30L3S(米国、3M社)を含む。また、1つ又は複数の吸着剤の混合物も適用することができる。好ましい実施形態では、固体吸着剤は活性炭である。
【0054】
媒体と固体吸着剤との接触は、例えば、粒子状吸着剤を媒体に添加することによって、又は、前記吸着剤を含むフィルタエレメントに媒体を通すことによって、又は、吸着剤を積層したカラムに通すことによって、又は、その外面に吸着剤が存在する担体と共に媒体をインキュベートすることによって行うことができる。
【0055】
固体吸着剤は、界面活性剤に対する重量比が、少なくとも2.5:1、より好ましくは少なくとも3.0:1、最も好ましくは少なくとも3.5:1で、好ましくは媒体に添加される。固体吸着剤は、濃度が0.1~3w/w%、好ましくは0.5~1w/w%で、好ましくは媒体に添加される。フィルタエレメント又はフィルタシステムが使用される場合、フィルタシステムにおいて同様の量の吸着剤を使用することが好ましい可能性がある。
【0056】
接触工程を十分な時間をかけて行うことにより界面活性剤が適切に吸着され、その結果、界面活性剤と、界面活性剤に結合しているLPS並びに/又は他の発熱物質、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質及び鞭毛細菌由来の発熱物質、とりわけグラム陽性細菌由来の発熱物質とが除去され、好ましくはまた、吸着剤に結合するHPA、LPS並びに他の発熱物質、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質、鞭毛細菌由来の発熱物質、一本鎖ウイルスRNA、及び非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNA、及びメタクリル酸が吸着される。好ましくは、吸着剤を(水性)媒体と5分~1時間、より好ましくは10~30分間接触させる。
【0057】
本明細書に記載の方法の次の工程(e))において、固体吸着剤を媒体から除去する。水性媒体を固体吸着剤と接触させ、その吸着剤を媒体から分離する適切な方法については、当業者であれば承知している。前記分離には、例えば、吸着剤が微粒子として媒体に添加される場合には遠心又は濾過を含めることができ、工業上の利用可能性の観点から濾過が好ましい。例えば、固体吸着剤を(工程c)又は工程b2の)媒体に添加し、界面活性剤を吸着剤に結合させ、好ましくはLPS、他の発熱物質及びカルボン酸も吸着剤に結合させた後、吸着剤を、例えば濾過、沈降、又は遠心などによって除去することができる。別の実施例では、固体吸着剤をフィルタ内に存在させることができ、(本明細書に記載の方法の工程c)又は工程b2)の)媒体を、前記フィルタ、又は一連のそのようなフィルタを通過させ、同時に、濾液の収率を最大限にするために、所望によりそのフィルタを洗浄することができる。このようにして、本明細書に記載の方法の工程d)、工程e)及び工程f)は、単一の濾過工程で組み合わせることができる。固体吸着剤の分離に続いて、カルボン酸-ゼラチンを含む媒体が回収される。
【0058】
好ましくは、本明細書に記載の方法の工程c)~工程f)は、使用される界面活性剤の曇点より低い温度で行われる。本明細書で使用される場合、「曇点」という用語は、界面活性剤が媒体中で不溶性凝集体を形成する温度を指す。前記温度は、塩濃度など、媒体の条件によって異なる。特定の条件が与えられない場合、曇点は、本明細書において、1w/w%水溶液が不溶性凝集体を形成する温度として定義される。したがって、温度が界面活性剤の曇点より低いと記載されている場合、前記温度は68~69℃(すなわち、1w/w%Triton X-100溶液について)であるが、16~25w/w%NaCl溶液の場合、前記曇点は室温である。曇点は、界面活性剤を添加せずに620nmでの溶液の吸光度を測定し、想定量の界面活性剤を添加した時に吸光度が増加するかどうかを確認することによって、所与の状況下で簡便に決定することができる。吸光度は、曇点より上で増加する。
【0059】
実施形態では、工程c)~工程f)は、温度が65℃以下、より好ましくは62℃以下、さらに好ましくは60℃以下で行われる。実施形態では、工程c)~工程f)は、温度が30℃~65℃、好ましくは30℃~60℃、より好ましくは30℃~50℃又は30℃~40℃、さらに好ましくは30℃~35℃で行われる。
【0060】
いくつかの実施形態では、媒体のpHは、当該方法の工程c)~工程f)を通じて、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは3.0~4.0、例えば約3.5、又は2.0~3.5、例えば約3.0、さらに好ましくは3.0~3.5である。そのようなpHでは、温度は、好ましくは35℃より低く、より好ましくは30℃~35℃、例えば約30℃である。
【0061】
他の実施形態では、媒体のpHは、当該方法の工程d)~工程f)を通じて、2.0~5.0、好ましくは2.0~4.0、より好ましくは3.0~4.0、例えば約3.5、又は2.0~3.5、例えば約3.0、さらに好ましくは3.0~3.5である。そのようなpHでは、温度は、好ましくは35℃より低く、より好ましくは30℃~35℃、例えば約30℃である。
【0062】
カルボン酸-ゼラチンを含む媒体の回収に続いて、当該方法は、媒体のpHを3.5~9.0、好ましくは4.0~8.0、より好ましくは5.0~7.0に上昇させる工程をさらに含んでもよい。前述のように、本明細書に記載の方法により、LPS含有量が、特に100EU/g未満、より好ましくは50EU/g未満、さらに好ましくは20EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、さらに好ましくは5EU/g未満、さらに好ましくは2EU/g未満、最も好ましくは1EU/g未満の、LPS含有量が低いカルボン酸-ゼラチンが得られる。特に、カルボン酸-ゼラチン-ゼラチンは、工程a)の出発材料として使用されるゼラチンのLPS含有量と比較して、含まれるLPSが50分の1以下、好ましくは100分の1以下、より好ましくは150分の1以下、さらに好ましくは200分の1以下、最も好ましくは250分の1以下である。LPS数(LPS count)は、例えば、本明細書の他の箇所に記載のLALアッセイを用いて、回収された媒体で定量することができる。
【0063】
得られるカルボン酸-ゼラチンはさらに、非エンドトキシン発熱物質の含有量が低いこと、特にグラム陽性細菌由来の発熱物質、鞭毛細菌由来の発熱物質、一本鎖ウイルスRNA、グラム陰性細菌由来のエンドトキシン、及び非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNAの含有量が低いこと、とりわけグラム陽性細菌由来及び鞭毛細菌由来の発熱物質の含有量が低いこと、さらにとりわけグラム陽性細菌由来の発熱物質の含有量が低いことを特徴とする。特に、カルボン酸-ゼラチンは、工程a)の出発材料として使用されるゼラチンのグラム陽性細菌由来の発熱物質の含有量と比較して、含まれるグラム陽性細菌由来の発熱物質が10分の1以下、好ましくは20分の1以下、より好ましくは50分の1以下、さらに好ましくは100分の1以下、150分の1以下、200分の1以下、又は250分の1以下である。特に、カルボン酸-ゼラチンは、工程a)の出発材料として使用されるゼラチンの鞭毛細菌由来の発熱物質の含有量と比較して、含まれる鞭毛細菌由来の発熱物質が10分の1以下、好ましくは20分の1以下、より好ましくは50分の1以下、さらに好ましくは100分の1以下、150分の1以下、200分の1以下、又は250分の1以下である。特に、カルボン酸-ゼラチンは、工程a)の出発物質として使用されるゼラチンの非メチル化CpGモチーフに富む少ない細菌DNAの含有量と比較して、含まれる非メチル化CpGモチーフに富む細菌DNAが10分の1以下、好ましくは20分の1以下、より好ましくは50分の1以下、さらに好ましくは100分の1以下、150分の1以下、200分の1以下、又は250分の1以下である。少ない一本鎖ウイルスRNA。
【0064】
さらに、本明細書に記載の方法により、遊離(非ゼラチン結合)カルボン酸含有量が低く、特に、カルボン酸が100ppm未満、好ましくは50ppm未満、より好ましくは30ppm未満であるカルボン酸修飾ゼラチンが得られる。遊離(非ゼラチン結合)3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸含有量を定量するために、カルボン酸が少ない官能化ゼラチンを、50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解した。
【0065】
好ましくは、水に溶解したカルボン酸-ゼラチンの試料で定量したように、50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解したカルボン酸-ゼラチンの試料で定量した場合、カルボン酸は150ppm未満、好ましくは100ppm未満である。
【0066】
したがって、当該方法により、上記の(6工程又は7工程の)工程a)~工程f)を1回行うことで、精製カルボン酸-ゼラチンが提供される。
【0067】
本明細書に記載の方法により、透析工程を必要とせずにカルボン酸含有量が低いカルボン酸-ゼラチンが得られるので、当該方法は、好ましくは透析工程を含まない。そのような透析工程は一般に時間がかかるので、本発明の方法は、精製カルボン酸-ゼラチンを特に大規模生産するのにより効率的である。
【0068】
実施形態では、当該方法は、カルボン酸-ゼラチンを含む回収媒体を、所望により前記媒体のpHを上昇させた後に、例えば白色多孔質発泡体に凍結乾燥することにより(Van Den Bulcke et al.,2000.,Biomacromolecules,1:31-38)乾燥させる工程をさらに含む。
【0069】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例
【0070】
実施例1:3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナート官能化ゼラチンの調製方法及び3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナート官能化ゼラチンの特性
材料及び方法
15~20%ゼラチン(ブタの皮膚、A型、ブルーム200)をpH9.0の1.25M炭酸塩緩衝液に溶かした溶液を、N-ヒドロキシスクシンイミド-3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオナートと、ゼラチン中の全有効アミノ基に対して1:1の比で、50℃で120~180分間反応させた。反応の間に、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸(PA)が形成された。反応媒体のpHをpH3.5に低下させた。HClを使用して炭酸塩を除去した。1.12%(ゼラチンの重量に対して)のTriton X100を前記媒体に添加し、媒体を1時間撹拌しながら維持した。次いで、前記媒体を、活性炭を充填したカラムで濾過した。カルボン酸の他のN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを同様に反応させた。
【0071】
LPS含有量の定量
エンドザイムIIアッセイキット(Hyglos社)を製造業者の説明書に従って使用し、LPS含有量を定量した。簡潔に述べると、官能化ゼラチンの超純水溶液を、想定されるLPS含有量に応じて2.50%(w/w)、及び10倍、20倍、50倍、100倍などの希釈で調製した。各試料100μLをマルチウェルプレートのウェルに添加し、製造業者の説明書に従って調製したアッセイ試薬100μLと混合した。得られた混合物の蛍光強度を、マイクロプレート蛍光リーダ(BopTek社、励起/発光=380nm/455nm)でモニタした。エンドトキシンを含まない水で再構成した50EU/mLのエンドトキシン標準液(大腸菌055:B5)の希釈系列を較正標準液として使用し、官能化ゼラチン(GelDAT)試料の4-ヒドロキシフェニル-プロピオン酸含有量8%(w/w)の水溶液又は50mMリン酸緩衝溶液(pH9.5)の空試験として、エンドトキシンを含まない水を使用した。室温で15分かけて試料を膨潤させ、次いで試料が外観上、完全に溶解するまで50℃で30分間置いた。試料溶液0.5mLを10kDaアミコンウルトラ遠心式フィルタ(ミリポア)に添加し、50℃(オーブン)に10分間置き、その後、12000xg、40℃で30分間遠心した。その後、HPLC分析のために濾液を採取した。1%(w/w)の4-ヒドロキシフェニル-プロピオン酸の水溶液又は50mMリン酸緩衝溶液(pH9.5)を調製し、水又は50mMリン酸緩衝液(pH9.5)で2倍希釈を行うことによって、0.1ppm~100ppmの範囲の4-ヒドロキシフェニル-プロピオン酸の希釈系列を作製し、標準液として使用した。
【0072】
DNA含有量の定量
TE緩衝液(1mMのEDTAを含む10mMのTris-HCl水溶液、pH=8)で、ストック濃度が0.1mg/mLのサケ精巣dsDNA標準液を調製し、ストック濃度10μg/mLにさらに希釈した。TE緩衝液中10μg/ml~0μg/mlの範囲の定量標準液とした。10%(w/w)ゼラチン試料をTE緩衝液で調製し、試料を30分かけて膨潤させ、水浴を使用して40℃で溶解した。黒色ウェル蛍光96ウェルプレートのウェルに、TE緩衝液94μL及びサイバーグリーン1μLを含有するマスターミックス(100倍)95μlと、試料又は標準液5μlとを添加し、吸入及び吐出のピペッティングにより混合した。前記96ウェルプレートを覆い、37℃、700rpmで30分間インキュベートした。シナジー(Synergy、商標)Mx蛍光光度計(BioTek社)を使用して、製造業者の説明書に従い、25℃、Ex535nm/Em617nmで蛍光を測定した。
【0073】
実施例2:本発明の実施形態による方法で調製された官能化ゼラチンと、透析に基づく方法で調製された官能化ゼラチンとの比較。
材料及び方法
ゼラチンを本明細書に記載の方法に従って修飾した。出発ゼラチンを、ゼラチン(Hyglosエンドザイム)1グラム当たり2229エンドトキシン単位(endotoxin unit:EU)で汚染した。3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸残基及びLPS汚染をそれぞれ、ppm及びゼラチン1グラム当たりのEUで、実施例1に記載したように測定した。3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸含有量を定量するために、官能化ゼラチンを50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解した。比較方法例では、超純水(ミリQ、Merck Millipore社)に対する透析によって、官能化ゼラチン溶液から3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸副生成物を除去した。3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸溶液の20ミリリットルのアリコートを5本の透析チューブ(透析チュービングセルロース膜、MWCO 14kDa、カタログ番号:D9527-100FT、Sigma-Aldrich社)に移し、透析チューブのそれぞれを2.5リットルの水に浸した。透析を40℃で進め、水を24時間ごとに交換した。T1=1日目、T2=2日目、T3=3日目、T4=4日目、及びT5=7日目に、1本ずつチューブを取り出し、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸及びLPSの含有量を、実施例1に記載したように測定した。3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸含有量を定量するために、官能化ゼラチンを50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解した。本発明の一実施形態による方法では、官能化ゼラチン溶液の40mlアリコート5つに、希釈HClを添加することによって、pHを2.0、2.5、3.0、3.5及び4.0に調整し(すべて40℃で測定)、(ゼラチン含有量に対して)0.1%のTriton X100を各アリコートに添加した。次いで、各アリコートを2つに分け、これらのうちの1つを、メタクリル酸含有量及びLPS汚染へのpH低下及びTriton X100添加の影響に関しての陰性対照として用いた。ノーリット活性炭粉末(S268、活性炭ノーリットSXプラス8013-1)5グラムを実験用チューブのそれぞれに添加し、これらのチューブを、回転振とう機にて40℃で1時間インキュベートした。次に、これらのチューブを2000rpmで30分間遠心し、上清を濾過し(0.45μm)、実施例1に記載したように、3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸及びLPSの含有量について分析した。遊離(非ゼラチン結合)3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸の含有量を定量するために、官能化ゼラチンを50mMリン酸緩衝液(pH9.5)に溶解した。
【0074】
結果
表1に、本明細書の他の箇所に開示する方法によって得られた精製官能化ゼラチンの3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸(PA)含有量(ppm)及びLPS含有量(EU/g)を示す。図1は、グラフで表したものである。
【0075】
【表1】
【0076】
ミセル形成及び濾過を介した精製
表2に、透析に基づく方法又は本発明の実施形態による方法によって得られた精製官能化ゼラチンの3-(4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸含有量(PA、ppm)及びLPS含有量(EU/g)を示す。図2は、グラフで表したものである。図3に、HPLCを示す。
【0077】
【表2】
【0078】
図4は、図4Aにおいて、出発ゼラチンのMW分布(1)、並びに、NHS、HPA及びEDCのin situ混合物を使用する経路を介した修飾と、それに続いて1段階透析を用いて精製を行った結果のMW分布(2)、及び、2段階透析を用いて精製を行った結果のMW分布(3)を示す。修飾ゼラチンは、出発ゼラチンと比較してMw分布がより広く、望ましくない架橋のあることが示されている。
【0079】
図4Bは、図4Aにおいて、同じ出発ゼラチンのMW分布(1)、及び、EDCが本質的に存在しない状態でNHS-HPAを使用する経路を介した修飾と、それに続いてミセル形成に基づく精製を用いて精製を行った結果のMW分布を示す。修飾ゼラチンは出発ゼラチンとほぼ同一のMw分布を有しており、望ましくない架橋が本質的に存在しない状態で誘導体化が成功したことが示されている。
【0080】
EDCがない状態でNHS-HPAを用いて誘導体化すると、NHS、HPA及びEDCの混合物を用いた誘導体化と比較して、元のゼラチンにより近く、異なるMwプロファイルを有する生成物になる。ミセル形成を介した精製によって、LPSが少なく、かつHPAが少ない生成物になり、品質が向上している。
図1
図2
図3
図4A
図4B
【国際調査報告】