(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】細胞間コミュニケーションを介して気管細胞中のミトコンドリア抗ウイルスタンパク質発現を増加させるUV A光曝露およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 13/00 20060101AFI20240528BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240528BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20240528BHJP
【FI】
C12N13/00
G01N33/68
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568091
(86)(22)【出願日】2022-05-05
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 US2022027915
(87)【国際公開番号】W WO2022235966
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514135801
【氏名又は名称】シーダーズ-サイナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ピメンテル マーク
(72)【発明者】
【氏名】レザイ アリ
(72)【発明者】
【氏名】リート ガブリエラ ギマラエス ソーサ
(72)【発明者】
【氏名】マサー ルチ
(72)【発明者】
【氏名】メルメド ギル ワイ.
【テーマコード(参考)】
2G045
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB01
2G045FB02
2G045FB03
4B033NG05
4B033NH10
4B033NJ10
4B033NK10
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC48
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質は自然抗ウイルス応答を媒介し、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)に対する応答の重要な構成要素である。上皮細胞をUVA療法へ曝露するための、または上皮細胞の第1セットとUVA療法へ曝露された上皮細胞の第2セットとを接触させるための、または上皮細胞の第1セットとUVA療法へ曝露された上皮細胞の第2セットの細胞溶解物とを接触させるための、UVA療法の使用によって、上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させるための方法を本明細書に提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象において上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法であって、
上皮細胞中のまたは有効量の紫外線A(UVA)へ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)へ曝露する工程であって、ここで、MAVSタンパク質の増加した発現が、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較されるか、または対照と比較される、工程
を含む、方法。
【請求項2】
上皮細胞が気管上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上皮細胞が線毛上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
上皮細胞が線毛気管上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
上皮細胞が、ヒト鼻腔上皮細胞、ヒト気管上皮細胞、または両方を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
上皮細胞がヒト肺上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
上皮細胞を有効量のUVAへ曝露する工程が、鼻腔上皮細胞、口腔上皮細胞、嗅上皮細胞、またはそれらの組み合わせを、有効量のUVAへ曝露することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
鼻腔上皮細胞、口腔上皮細胞、嗅上皮細胞、またはそれらの組み合わせを曝露することが、前記対象の気管、気管支、または両方における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
鼻腔上皮細胞、嗅上皮細胞、口腔上皮細胞、またはそれらの組み合わせを曝露することが、前記対象の肺における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
上皮細胞を有効量のUVAへ曝露する工程が、尿道上皮細胞、膀胱上皮細胞、膣上皮細胞、泌尿生殖器上皮細胞、直腸上皮細胞、直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞、外耳上皮細胞、中耳上皮細胞、またはそれらの組み合わせを、有効量のUVAへ曝露することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
尿道上皮細胞を曝露することが、前記対象の膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
膣上皮細胞を曝露することが、前記対象の子宮における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
泌尿生殖器上皮細胞を曝露することが、前記対象の尿道または膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
直腸上皮細胞を曝露することが、前記対象の直腸または結腸における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞を曝露することが、前記対象の胃腸管における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
外耳上皮細胞を曝露することが、前記対象の中耳または内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、
中耳上皮細胞を曝露することが、前記対象の内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる、または
それらの組み合わせである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、10日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状を呈する、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、7日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状を呈する、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、5日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状を呈する、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、3日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状を呈する、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
前記対象に、全身麻酔も、区域麻酔も、局所麻酔も、トワイライト麻酔も、鎮静剤も投与しない、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
上皮細胞を有効量のUVAへ曝露する工程の前に、それを必要とする対象として微生物感染の1つまたは複数の症状を呈する対象を選択する工程をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
微生物感染症が、ウイルス感染症、細菌感染症、または真菌感染症である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
有効量のUVAが1分間以上の持続期間の間5ミリワット/cm
2(mW/cm
2)以上を含み、または有効量のUVAが5mW/cm
2以上のUVA強度を含む、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
有効量のUVAが少なくとも20分間の持続期間の間2~5mW/cm
2を含み、または有効量のUVAが2~5mW/cm
2のUVA強度を含む、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
有効量のUVAへの曝露が、第1の期間にわたって曝露し、続いて後続の期間にわたって曝露することを含む、請求項1~18のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
対照が、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値、病原体との接触前の上皮細胞の基準値、または前記量のUVAへ曝露されておらずかつ病原体に感染していない上皮細胞の集団の基準値である、請求項1~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
それを必要とする対象における紫外線A(UVA)処置を評価する方法であって、
ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質発現レベルについて、UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルをアッセイする工程
を含み、
ここで、該対象のベースラインレベルよりも高いかまたは対照レベルよりも高いMAVSタンパク質発現レベルが、該処置が有効であることを示す、方法。
【請求項24】
それを必要とする対象において紫外線A(UVA)処置を施す方法であって、
UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルにおけるミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質発現をアッセイする工程;および
MAVSタンパク質発現が、該対象のベースラインレベルと比較して、または対照と比較して、または目標レベルと比べて低い場合、該対象へUVA処置を施し続ける工程
を含む、方法。
【請求項25】
それを必要とする対象において紫外線A(UVA)処置を施す方法であって、
対象がUVA処置を必要とすることを示す、対照と比較して低いミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質発現を有する対象において、請求項1~22のいずれか一項記載の方法を行う工程;または
UVA処置が有効であることを示す、対象のベースラインレベルよりも高いかまたは対照と比較して高いMAVSタンパク質発現を有する対象において、請求項1~22のいずれか一項記載の方法を行う工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月5日に出願された米国仮特許出願第63/184,749号の35 U.S.C. §119(e)の下での優先権の主張を含み、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、呼吸器感染症を処置するための紫外線療法についてのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
本明細書の全ての刊行物は、各個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられるように具体的かつ個々に示された場合と同程度に、参照により組み入れられる。以下の説明は、本発明を理解する上で有用であり得る情報を含む。本明細書に提供される情報のいずれかが先行技術であるか、もしくは現在特許請求されている発明に関連すること、または具体的もしくは暗黙的に参照される刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
人体は感染症に対して多くの防御を有し、その中で最もよく知られているものは、免疫細胞がサイトカインシグナル伝達を介して感染部位に動員される自然免疫応答を伴う。しかし、感染症に対する細胞内応答もまた、特にウイルスに対する防御において重要である。過去10年間で、ミトコンドリアは、ミトコンドリア抗ウイルス(MAVS、またはミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達)タンパク質の産生を含む、自然免疫応答および適応免疫応答の確立および維持を媒介できることが明らかになった。
【0005】
MAVSタンパク質は、主としてミトコンドリアの外膜に局在し、ウイルスRNAを認識する細胞質受容体であるRIG-I様受容体(RLR)からのシグナルを伝達する。具体的には、ウイルス成分の認識および結合後、RLR、レチノイン酸誘導遺伝子I(RIG-I)、およびメラノーマ分化関連遺伝子5(MDA5)は、MAVSと相互作用し、炎症誘発因子および抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する転写因子を活性化する。しかし、一部のウイルスは、MAVSの活性化に拮抗し、この自然免疫応答を回避するメカニズムを発達させた。例えば、SARS-CoV-2膜貫通糖タンパク質MはMAVSに拮抗し、したがってMAVS媒介自然抗ウイルス応答を損なうと考えられている。
【発明の概要】
【0006】
以下の態様およびそれらの局面は、組成物および方法と併せて記載および説明され、これらは例示的かつ説明的であり、範囲が限定されないように意図される。
【0007】
上皮細胞中のまたは有効量のUVAへ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)光へ曝露する工程を含む、上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法を提供する。好ましくは、本方法はそれを必要とする対象において行われ;かつ、本方法は、少なくとも335~350nm内のUV曝露を用いて、曝露細胞にUV誘発DNA損傷を引き起こさず、かつ、UVA光の曝露前、曝露中、または曝露後に対象への麻酔の投与を必要としない。様々な局面において、MAVSタンパク質発現の増加は、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較されるか、または対照と比較される。対照は、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値、病原体との接触前の上皮細胞の基準値、または前記量のUVAへ曝露されておらずかつ病原体に感染していない上皮細胞の集団の基準値であり得る。
【0008】
いくつかの態様において、上皮細胞は、気管上皮細胞、鼻咽頭上皮細胞、線毛上皮細胞を含む。いくつかの態様において、上皮細胞は、哺乳類鼻腔上皮細胞、哺乳類口腔上皮細胞、哺乳類嗅上皮細胞、哺乳類気管上皮細胞、哺乳類咽頭上皮細胞、哺乳類肺上皮細胞のうちの1つまたは複数である。追加の態様において、上皮細胞は、尿道上皮細胞、膀胱上皮細胞、膣上皮細胞、泌尿生殖器上皮細胞、胃腸上皮細胞(例えば、直腸上皮細胞、もしくは直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞)、外耳上皮細胞、および/または中耳上皮細胞である。
【0009】
本方法のいくつかの態様において、対象の気管上皮細胞をUVA光へ曝露すること、または気管上皮にUVA光を照射することは、対象の気管におけるMAVSタンパク質発現を増加させる。
【0010】
本方法のいくつかの態様において、対象の鼻腔上皮細胞、嗅上皮細胞、口腔上皮細胞、またはそれらの組み合わせをUVA光へ曝露すること、または対象の鼻上皮、嗅上皮、および/もしくは口腔粘膜上皮にUVA光を照射することは、対象の鼻上皮、嗅上皮、および/もしくは口腔粘膜上皮中、ならびに対象の肺中のMAVSタンパク質発現を増加させる。
【0011】
遠位上皮細胞(UVA光へ未曝露のものを含む)中のMAVSタンパク質の発現を増加させる追加の例として、本方法は、いくつかの態様において、以下を含み得る:尿道上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させ;膣上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の子宮における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させ;陰茎上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の尿道または膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させ;直腸上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の直腸または結腸における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させ;外耳上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の中耳または内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させ;および/または、中耳上皮細胞をUVA光へ曝露することが、対象の内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させる。
【0012】
いくつかの態様において、UVA光曝露を必要とするかまたはUVA光曝露を受けている対象は、微生物感染症の症状も徴候も有さず、または微生物感染症へ曝露されたことがない。いくつかの態様において、UVA光曝露を必要とするかまたはUVA光曝露を受けている対象は、3日間、5日間、7日間、または10日間以下の間、微生物感染症の症状または徴候を呈する。追加の態様において、本方法は、対象の上皮細胞を有効量のUVA光へ曝露する工程の前に、UVA光曝露を必要とする対象として微生物感染症の症状または徴候を呈する対象を選択する工程をさらに含む。
【0013】
いくつかの態様は、上皮細胞に感染した微生物の増殖を減少させるために、または、上皮細胞に感染した場合、微生物感染がより低い増殖速度を有するか、もしくはさらには減少した量を有するように微生物感染の前に上皮細胞を前処置するために、有効量のUVA光がMAVSタンパク質レベルを増加させることを提供する。有効量のUVA光投与は、いくつかの態様において、1つもしくは複数の連続曝露、または1つもしくは複数のパルス曝露を含み得る。
【0014】
それを必要とする対象においてUVA処置を評価する方法をまた提供し、これは、MAVSタンパク質発現レベルについて、UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルをアッセイする工程を含み、ここで、対象のベースラインレベルよりも高いかまたは対照レベルよりも高いMAVSタンパク質発現レベルは、処置が有効であることを示す。生物学的サンプルは、様々な実施において、上皮細胞を含む。
【0015】
それを必要とする対象においてUVA処置を施す方法をさらに提供し、これは、UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルにおけるMAVSタンパク質発現をアッセイする工程、およびMAVSタンパク質発現が、対象のベースラインレベルよりも、対照と比較して、または目標レベルと比較して低い場合、対象へUVA処置を施し続ける工程を含む。
【0016】
いくつかの態様において、それを必要とする対象において紫外線A(UVA)処置を施す方法は、対象がUVA処置を必要とすることを示す、対照と比較して低いMAVSタンパク質発現を有する対象において、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)へ曝露する工程を含み、ここで、曝露は、上皮細胞中のまたは有効量のUVAへ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させる。他の態様において、それを必要とする対象において紫外線A(UVA)処置を施す方法は、UVA処置が有効であることを示す、対象のベースラインレベルよりも高いかまたは対照と比較して高いMAVSタンパク質発現を有する対象において、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)へ曝露する工程を含む。
【0017】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面と合わせられた以下の詳細な説明から明らかになり、これらは、例として、本発明の態様の様々な特徴を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
例示的な態様を参照図において説明する。本明細書に開示される態様および図は、限定的ではなく説明的であると考えられるものとする。
【
図1A】初代気管上皮細胞(HTEpC)の100%コンフルエント単層プレートが2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間部分的に曝露された実験の設計を示す模式図を描写する。NB-UVAを領域1へのみ適用した。UVA療法後、細胞を領域4、3、2、および1からその順序で収集した。
【
図1B】2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露された30~40%コンフルエントHTEpC中、および未曝露対照中の正規化MAVSレベルを描写する。Y軸単位はポンソーによって正規化されたAU(任意単位)である。
【
図1C】2mW
2 mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露された100%コンフルエントHTEpC領域1中、および未曝露単層対照中の正規化MAVSレベルを描写する。Y軸単位はポンソーによって正規化されたAU(任意単位)である。
【
図1D】30~40%コンフルエントNB-UVA曝露HTEpC由来の上澄みで処理された30~40%コンフルエントナイーブHTEpC中、および未曝露30~40%コンフルエントHTEpC由来の上澄みと共にインキュベートされた対照中の正規化MAVSレベルを描写する。
【
図1E】30~40%コンフルエントNB-UVA曝露HTEpC由来の上澄みで処理された30~40%コンフルエントナイーブHTEpCから(レーン1、2、および3)、および30~40%コンフルエント未曝露HTEpC由来の上澄みで処理された対照から(レーン4、5、および6)抽出されたタンパク質のウエスタンブロットを描写する。
【
図1F】30~40%コンフルエントNB-UVA曝露HTEpC由来の溶解物で処理された30~40%コンフルエントナイーブHTEpC中、および30~40%コンフルエント未曝露HTEpC由来の溶解物と共にインキュベートされた対照中の正規化MAVSレベルを描写する。
【
図1G】30~40%コンフルエントNB-UVA曝露細胞由来の溶解物と共にインキュベートされた30~40%コンフルエントナイーブHTEpCの溶解物から(レーン1~4)、および30~40%コンフルエント未曝露HTEpC由来の溶解物と共にインキュベートされた対照の溶解物から(レーン5~8)直接調製されたウエスタンブロットを描写する。
【
図1H】2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間部分的に曝露された100%コンフルエントHTEpC中の正規化MAVSレベルを描写する。領域1をNB-UVAへ直接曝露したが、領域2、3、および4はNB-UVAへ曝露しなかった。
【
図1I】NB-UVAへ曝露された、3つの実験由来の100%コンフルエントHTEpCの細胞溶解物から(領域1 - レーン1、5、および9)、および同一の培養プレート由来のNB-UVAへ曝露されなかったコンフルエントHTEpCの溶解物から(領域2 - レーン2、6、および10;領域3 - レーン3、7、および11;領域4 - レーン4、8、および12)調製されたウエスタンブロットを描写する。
【
図1J】NB-UVAへ曝露された100%コンフルエントHTEpC(レーン1、2、および4)、およびNB-UVAへ曝露されなかった100%コンフルエントHTEpC(レーン5、6、および7)から抽出されたタンパク質のウエスタンブロットを描写する。レーン3(NB-UVAへ曝露された)は、不十分な総タンパク質倍率に起因して廃棄した。
【
図2】2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間(1、2、および3回)曝露された30~40%コンフルエントHTEpC細胞中、5mW/cm
2 NB-UVAへ20分間(1回)曝露されたHTEpC細胞中、および未曝露対照中の正規化MAVSレベルを描写する。
【
図3】
図3Aは、2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露された100%コンフルエントHTEpC細胞中の正規化MAVSレベルを描写する。
図3Bは、NB-UVAへ曝露された100%コンフルエントHTEpC細胞(レーン1~4)およびNB-UVAへ曝露されなかった100%コンフルエントHTEpC細胞(レーン5~7)から抽出されたタンパク質のウエスタンブロットを示す。
【
図4】
図4Aは、NB-UVA曝露HTEpC細胞由来の溶解物と共にインキュベートされたHTEpC細胞中、および未曝露HTEpC細胞由来の溶解物と共にインキュベートされた対照中の正規化MAVSレベルを描写する。
図4Bは、NB-UVA曝露細胞由来の溶解物と共にインキュベートされたHTEpC細胞の溶解物から(レーン1~5)、および未曝露細胞由来の溶解物と共にインキュベートされた対照HTEpC細胞の溶解物から直接調製されたウエスタンブロットを描写する。
【
図5】
図5Aは、2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間部分的に曝露された100%コンフルエントHTEpC細胞中の正規化MAVSレベルを描写する。領域1はNB-UVAへ直接曝露されたが、領域2、3、および4はNB-UVAへ曝露されなかった。
図5Bは、NB-UVAへ曝露された100%コンフルエントHTEpC細胞の細胞溶解物から(領域1 - レーン1、5、および9)、および同一の培養プレート由来のNB-UVAへ曝露されなかったコンフルエントHTEpC細胞の溶解物から(領域2、3、および4 - それぞれ、レーン2、3、4、6、7、8、ならびに10、11、および12)調製されたウエスタンブロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の説明
本明細書で引用された全ての参考文献は、あたかも完全に述べられているかのように、参照によりそれらの全体が組み入れられる。他に定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed., Revised, J. Wiley & Sons (New York, NY 2006); March, Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure 7th ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 2013); およびSambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (Cold Spring Harbor, NY 2012)は、本出願で使用される用語の多くへの一般的なガイドを当業者に提供する。
【0020】
当業者は、本明細書に記載のものと類似または同等の多くの方法および材料を認識し、これらは本発明の実施において使用することができる。実際、本発明は、記載された方法および材料に決して限定されない。本発明の目的のために、以下の用語を下記に定義する。
【0021】
本明細書において使用される場合、参照数値表示に関連して使用される場合の用語「約」は、本明細書において特に規定しない限り、参照数値表示プラスまたはマイナスその参照数値表示の最大5%を意味する。例えば、「約50%」という言語は、45%から55%の範囲をカバーする。様々な態様において、参照数値表示に関連して使用される場合の用語「約」は、請求項において特に規定されている場合、参照数値表示プラスまたはマイナスその参照数値表示の最大4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.25%を意味することができる。
【0022】
本明細書において使用される場合、上皮細胞に関して「遠位」という語句は、UVA曝露上皮細胞へ直接的に連結されている(例えば、ギャップジャンクション、タイトジャンクション、もしくはデスモソームによる)かまたは間接的に連結されている上皮細胞を指す。この文脈における間接的連結は、最終的にUVA曝露上皮細胞へ直接的に連結されている細胞へ細胞間連結されている細胞を指す。
【0023】
様々な態様において、遠位上皮細胞は、上皮細胞のUVA光曝露/照射領域または体積の周囲から最大30cm離れている。様々な態様において、遠位上皮細胞は、上皮細胞のUVA光曝露/照射領域または体積の周囲から最大20cm離れている。様々な態様において、遠位上皮細胞は、上皮細胞のUVA光曝露/照射領域または体積の周囲から最大10cm離れている。様々な態様において、遠位上皮細胞は、上皮細胞のUVA光曝露/照射領域または体積の周囲から最大5cm離れている。
【0024】
IPS1、KIAA1271、VISA、またはCARDIFとしても公知の「ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質(MAVS)」(タンパク質アクセッション番号Q7Z434)は、1つのカスパーゼ動員ドメイン(CARD)およびいくつかの膜貫通ドメインを含有し、ミトコンドリア外膜に局在する、540アミノ酸タンパク質である。特定の理論に束縛されることを望まないが、MAVSは、二本鎖(ds)ウイルス複製を検出するレチノイン酸誘導遺伝子(RIG-I)などのタンパク質の下流で機能し、dsウイルス感染に対する適切な免疫応答に必要であると考えられている。
【0025】
感染症の処置における紫外線A(UVA)療法の可能性を探究する本発明者らの研究の一環として、本発明者らは、コロナウイルス-229Eに感染したヒト線毛気管上皮細胞への特定の条件下でのUVA光の適用が細胞生存率を有意に改善し、ウイルス誘発細胞死を予防し、これがCoV-229Eスパイク(S)タンパク質のレベルの低下を伴うことを最近示した。さらに、UVA光で処理された細胞は、MAVSタンパク質の有意に増加したレベルを示し、これはUVAがMAVSを活性化し得ることを示した。さらに、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)を有する機械的に換気された対象を処置するために気管内送達UVA光を使用することの安全性に関する最初のヒト臨床試験において、対象は、療法の6日目までに気管内吸引液中のSARS-CoV-2ウイルス負荷の有意な減少を示し、これは、UVA光がSARS-CoV-2感染を減少させ得ることを示している。さらに、気管のごく一部のみがUVA光へ曝露されたという事実にもかかわらず、鼻腔スワブ中のウイルス負荷も減少した。
【0026】
本研究において、本発明者らは、インビトロでのヒト線毛気管上皮細胞中のMAVS発現に対するUVA光(例えば、狭帯域、NB、UVA光)の効果を探究した。本発明者らはまた、UVA光の効果がUVAへ直接曝露された細胞に限定されているのか、それともUVAへ直接曝露されなかった細胞にも見られるのかを探究した。
【0027】
一般に、狭帯域(NB)UV-A(またはUVA、またはUV A)光は、波長が345nm付近を中心とし、±1nm、±2nm、±3nm、±4nmまたは±5nmの範囲を含むことができる。いくつかの態様において、NB UV-Aは、343nm~345nmの範囲のピーク波長を有する。いくつかの態様において、NB-UVA LEDが使用され、それは343nm~345nmの範囲のピーク波長を放射する。いくつかの態様において、UV-A光は、315nm~400nm、または320nm~410nm、または335nm~350nmである。いくつかの態様において、UV-A光は335nm~345nmでピークに達する。いくつかの例において、341nm、342nm、343nm、344nm、345nm、346nm、347nm、348nm、および/または349nmのピーク波長を有するLEDである光源が用いられる。いくつかの例において、LEDのピーク波長は、それらの周りに+/- 3nm、2nm、または1nm誤差を有し得る。いくつかの態様において、UV-A光のみが対象の気管細胞へ曝露される。
【0028】
様々な態様が、それを必要とする対象における上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法を提供し、これは、上皮細胞中のまたは有効量のUVAへ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)へ曝露する工程を含み、ここで、MAVSタンパク質の増加した発現は、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較されるか、または対照と比較される。
【0029】
いくつかの実施において、上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量のUVAへ曝露することによって、それを必要とする対象における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させるための方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施において、有効量のUVAへ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量のUVAへ曝露することによって、それを必要とする対象における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させるための方法を提供する。
【0031】
他の実施において、上皮細胞中のおよび有効量のUVAへ未曝露の遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量のUVAへ曝露することによって、それを必要とする対象における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させるための方法を提供する。
【0032】
本方法のいくつかの態様において、上皮細胞は、気管上皮細胞および/または鼻咽頭上皮細胞を含むかまたはこれらである。気管上皮細胞および/または鼻咽頭上皮細胞は、本方法のいくつかの実施において、UVAへ曝露され得るか、またはUVAを照射される。
【0033】
本方法のいくつかの態様において、上皮細胞は線毛上皮細胞を含むかまたはこれらである。線毛上皮細胞は、本方法のいくつかの実施において、UVAへ曝露され得るか、またはUVAを照射される。
【0034】
本方法のいくつかの態様において、上皮細胞は、線毛気管上皮細胞および/または線毛鼻咽頭上皮細胞を含むかまたはこれらである。線毛気管上皮細胞および/または線毛鼻咽頭上皮細胞は、本方法のいくつかの実施において、UVAへ曝露され得るか、またはUVAを照射される。
【0035】
本方法のいくつかの態様において、上皮細胞はヒト鼻腔上皮細胞を含むかまたはこれらである。方法のいくつかの態様において、上皮細胞はヒト気管上皮細胞を含むかまたはこれらである。さらに本方法のいくつかの態様において、上皮細胞は、ヒト鼻腔上皮細胞およびヒト気管上皮細胞を含むかまたはこれらである。ヒト鼻腔上皮細胞、ヒト気管上皮細胞、または両方は、方法のいくつかの実施において、UVAへ曝露され得るか、またはUVAを照射される。
【0036】
本方法のいくつかの態様において、上皮細胞はヒト肺上皮細胞を含むかまたはこれらである。ヒト肺上皮細胞は、本方法のいくつかの実施において、UVAへ曝露され得るか、またはUVAを照射される。
【0037】
一態様において、対象における上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法は、少なくとも曝露された上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを増加させるために、鼻腔上皮細胞、嗅上皮細胞、口腔上皮細胞、またはそれらの組み合わせを有効量のUVAへ曝露する工程を含む。
【0038】
別の態様において、対象における上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法は、対象の気管、気管支、または両方においてMAVSタンパク質レベルを増加させるために、鼻腔上皮細胞、嗅上皮細胞、口腔上皮細胞、またはそれらの組み合わせを有効量のUVAへ曝露する工程を含む。
【0039】
さらに別の態様において、対象における上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法は、対象の肺における上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを増加させるために、鼻腔上皮細胞、嗅上皮細胞、口腔上皮細胞、またはそれらの組み合わせを有効量のUVAへ曝露する工程を含む。
【0040】
さらなる追加の態様において、上皮細胞はまた、尿道上皮細胞、膀胱上皮細胞、膣上皮細胞、泌尿生殖器上皮細胞、直腸上皮細胞、直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞、外耳上皮細胞、および中耳上皮細胞のうちの1つもしくは複数を含み得るかまたはこれらであり得る。胃腸系には、口、咽頭(喉)、食道、胃、小腸、大腸、直腸、および肛門の臓器が含まれる。したがって、直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞には、口腔粘膜上皮細胞、咽頭上皮細胞、食道上皮細胞、胃の表面を覆う分泌上皮細胞、および腸上皮細胞のうちの1つまたは複数が含まれ得る。したがって、いくつかの態様において、上皮細胞を有効量のUVAへ曝露する工程を含む、対象における上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させる方法は、尿道上皮細胞、膀胱上皮細胞、膣上皮細胞、泌尿生殖器上皮細胞、直腸上皮細胞、直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞、外耳上皮細胞、中耳上皮細胞、またはそれらの組み合わせを有効量のUVAへ曝露する工程を含む。
【0041】
好ましくは、上皮細胞の一つの領域をある量のUVA、または狭帯域UVAへ曝露することは、上皮細胞のこのUVA曝露領域においてだけでなく、上皮細胞のすぐ隣にあるが未曝露の、およびさらに遠位の領域を含む、上皮細胞の遠位領域においても、MAVSタンパク質レベルを増加させるのに有効である。より好ましくは、曝露領域から遠位領域までの上皮細胞の連続体(ここで細胞間接触が関与する)は、全て、増加したMAVSタンパク質レベルを示す。
【0042】
一実施は、尿道上皮細胞を曝露(または照射)することが、本明細書に開示される方法において、対象の膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0043】
別の実施は、膣上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の子宮における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0044】
別の実施は、泌尿生殖器上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の尿道または膀胱における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0045】
別の実施は、直腸上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の直腸または結腸における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0046】
別の実施は、直腸上皮細胞以外の胃腸上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の胃腸管における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0047】
別の実施は、外耳上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の中耳または内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0048】
さらに別の実施は、中耳上皮細胞を曝露(または照射)することが、対象の内耳における上皮細胞中のMAVSタンパク質発現を増加させることを提供する。
【0049】
本方法を必要とする対象は、いくつかの態様において、微生物感染症を経験しているヒトを含む哺乳動物である。いくつかの態様において、本方法を必要とする対象は、微生物感染症を発症する危険性があるか、または微生物感染症に感染したことがあるかもしくは微生物感染症の疑いがある別の人に曝露されたことがあるかもしくは接触したことがあるか、または微生物の存在が検出されたかもしくは微生物の存在が疑われる物体と接触したことがある、ヒトを含む哺乳動物である。さらにいくつかの他の態様において、本方法における対象は、10日間以下、または約9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1日間、または24時間未満の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状(または徴候)を呈する。例えば、対象は、7日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状(または徴候)を呈し得、本明細書に開示される方法へ供されるように選択される。別の態様において、対象は、5日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状(または徴候)を呈し得、本明細書に開示される方法へ供されるように選択される。別の態様において、対象は、3日間以下の間、微生物感染症の1つまたは複数の症状(徴候)を呈し得、本明細書に開示される方法へ供されるように選択される。
【0050】
微生物感染症は、ウイルス感染症、細菌感染症、および真菌感染症のうちの1つもしくは複数であり得、または寄生虫(例えば、膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis))によって引き起こされ得る。微生物感染症の症状および徴候は、医学分野の当業者に公知であるかまたはアクセス可能である。多くの場合、微生物感染症の症状は炎症反応に関連し得る。
【0051】
例示的なウイルス感染症は、コクサッキーウイルスB群、コロナウイルス(例えば、コロナウイルス-229E)、HIV、呼吸器合胞体ウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器アデノウイルス、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染し得るか、またはこれらの存在により引き起こされ得る。例示的なウイルス感染症としては、風邪、インフルエンザ(flu)、ヘルペス、水痘、おたふく風邪、HPV感染症、性器ヘルペス、性器疣贅、麻疹、風疹が挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
例示的な細菌感染症は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、クロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)、M.カタラーリス(M. catarrhalis)、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、ヘモフィルス種(Haemophilus)、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、B群レンサ球菌(group B Streptococcus)、ブドウ球菌(Staphylococcus)、Sサプロフィチカス(S saprophyticus)、プロテウス種(Proteus species)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、肺炎球菌、またはサルモネラ菌に感染し得るか、またはこれらの存在により引き起こされ得る。例示的な細菌感染症としては、百日咳、連鎖球菌性咽頭炎、副鼻腔炎、細菌性鼻副鼻腔炎、鼻前庭炎、毛包炎、せつ、肺炎、結核、耳感染症、中耳炎、細菌性膣炎、クラミジア、淋病、尿路感染症(UTI)、膀胱炎が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
例示的な真菌感染症は、カンジダ(例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis))、ブラストミセス属(Blastomyces)、クリプトコッカス・ガッティ(Cryptococcus gattii)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)、コクシジオイデス属(Coccidioides)、ヒストプラズマ属(Histoplasma)、アスペルギルス属(Aspergillus)、またはクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)に感染し得るか、またはこれらの存在により引き起こされ得る。例示的なイースト菌感染症としては、水虫、頑癬、白癬、イースト菌感染症(膣、口、喉、食道、耳、眼などの1つまたは複数の身体部分における)、カンジダ症、鵞口瘡、爪真菌症、ニューモシスチス肺炎(pneumocystic pneumonia)、ムーコル症、およびタラロマイセス症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
場合によっては、本明細書に開示される方法の対象は、肺炎桿菌、大腸菌、クロストリディオイデス・ディフィシル、カンジダ・アルビカンス、コクサッキーウイルスB群、またはコロナウイルスに感染していない。場合によっては、本明細書に開示される方法の対象は、肺炎桿菌、大腸菌、クロストリディオイデス・ディフィシル、カンジダ・アルビカンス、コクサッキーウイルスB群、およびコロナウイルス以外の微生物に感染している。
【0055】
それを必要とする対象について本明細書に開示される方法は、別の薬剤、例えば、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬、または感染症の症状を伴う疼痛を緩和するための鎮痛剤を伴ってもよいが、いくつかの態様において、上皮細胞にUVAを照射するステップ、または対象の身体部分をUVAへ曝露するステップは、好ましくは、全身麻酔も、区域麻酔も、局所麻酔も、トワイライト麻酔も、鎮静剤も投与を必要としない。いくつかの態様において、本明細書に開示される方法は、UVA曝露前、曝露中、および/または曝露後に麻酔または鎮静剤を対象へ投与する工程を含まない。
【0056】
UV線の異なる量または期間投与量が、感染症のタイプ、重症度、および場所に応じて投与され得る。例えば、いくつかの態様において、上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルの所望の量の増加をもたらすために、より高い強度のUVA線をより短い持続期間にわたって投与するか、またはより低い強度のUVA線をより長い持続期間にわたって投与して、一つのタイプの上皮細胞で投与量を実現してもよい。別の場合として、光源は、UVA強度に基づいて、かつ/または照射される組織、臓器、もしくは身体部分内の空間によって制限されて、標的上皮細胞から様々な距離に配置されるように操作され得る。
【0057】
UVA光源強度は、適用および処置有効性に関連する他の要因に依存して、少なくとも1,000マイクロワット/cm2(1,000μW/cm2、すなわち、1ミリワット/cm2)、1,100マイクロワット/cm2(すなわち、1.1ミリワット/cm2)、2,000マイクロワット/cm2、2,100マイクロワット/cm2、2,200マイクロワット/cm2、2,300マイクロワット/cm2、2,400マイクロワット/cm2、2,500マイクロワット/cm2、2,600マイクロワット/cm2、2,700マイクロワット/cm2、2,800マイクロワット/cm2、2,900マイクロワット/cm2、3,100マイクロワット/cm2、3100マイクロワット/cm2、3,200マイクロワット/cm2、1,000~5,000マイクロワット/cm2、または他の好適な強度であり得る。本発明らは、UV-A光の適用が、少なくとも約5,000マイクロワット/cm2の強度で安全であることを確認した。
【0058】
本明細書に開示される方法の様々な実施は、少なくとも335~350nmにおいてUV光曝露上皮細胞にUV誘発損傷を引き起こさない。例えば、UV誘発損傷の非存在は、曝露前のそれと比較して、またはUV光曝露へ曝露されない対照上皮細胞と比較して、UV光曝露後の細胞の生細胞数または増殖を定量化することによって評価することができ;かつここで、UV光へ曝露されない対照上皮細胞のそれと同様のレベルの生細胞数または細胞増殖は、UV誘発損傷の非存在を示す。別の例として、UV誘発損傷の非存在は、細胞中の8-オキソ-2'-デオキシグアノシン(8-OHdG)を測定することによって評価することができ、ここで、UV光へ曝露されない細胞中のそれと同様のレベルのUV曝露細胞中の8-OHdGは、UV誘発損傷の非存在を示す。さらに別の例において、UV誘発損傷の非存在は、粘膜の紅斑、脆弱性、潰瘍形成、もしくは出血の巨視的証拠の非存在についての内視鏡的評価によって、および/または慢性/急性炎症、膀胱炎、陰窩膿瘍、肉芽腫、潰瘍形成、もしくは異形成の非存在についての検体の組織学的分析によって、インビボで(またはUV光へ内部組織が曝露された哺乳動物対象において)評価することができる。したがって、いくつかの態様において、本明細書に開示される方法は、UVA光へ曝露された上皮細胞に対するおよび/またはUVA光へ未曝露の遠位上皮細胞に対するUV誘発損傷の非存在を評価または検出するためのステップをさらに含む。
【0059】
いくつかの例において、光は連続的に送達されるであろう。他の例において、光はパルス療法に組み込まれるであろう。追加の例において、光は、例えば、曝露間に一時停止(UVA曝露なし)を伴う2つ以上の連続曝露のために、繰り返し送達されるであろう。
【0060】
いくつかの態様において、UVA光は、各連続曝露において、1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、7分間、8分間、9分間、10分間、15分間、18分間、19分間、20分間、21分間、22分間、23分間、24分間、25分間、26分間、27分間、28分間、29分間、30分間、60分間、90分間、120分間、もしくは160分間、1~160分間の任意の範囲の分間、または他の好適な時間の間、投与される。いくつかの態様において、UVA曝露の閾値持続期間は少なくとも20分間である。いくつかの態様において、UVA曝露の閾値持続期間は少なくとも15分間である。いくつかの態様において、UVA曝露の閾値持続期間は少なくとも10分間である。いくつかの態様において、UVA曝露の閾値持続期間は少なくとも5分間である。いくつかの態様において、UVA曝露の閾値持続期間は少なくとも3分間である。
【0061】
加えて、本発明の方法は、少なくとも1分間、2分間、3分間、4分間、5分間、6分間、7分間、8分間、9分間、10分間、15分間、18分間、19分間、20分間、21分間、22分間、23,分間、24分間、25分間、26分間、27分間、28分間、29分間、30分間、または60分間の、閾値持続期間の間、または2つ以上の曝露が組み合わされる場合は総閾値持続期間の間、UVA光を投与する工程を含み得る。
【0062】
いくつかの態様は、本方法が、第1の期間にわたって上皮細胞を曝露する工程、およびその後に1つまたは複数の追加の期間にわたって上皮細胞を曝露する工程を含むことを提供し、ここで、各期間は、独立して、約1~5秒間、5~10秒間、10~30秒間、30~60秒間、1~5分間、5~10分間、10~15分間、約16分間、約17分間、約18分間、約19分間、約20分間、約21分間、約22分間、約23分間、約24分間、25~30分間、30~40分間、40~50分間、50~60分間、60~90分間、90~120分間、または120~240分間であり;かつここで、期間およびその直前または直後の期間は、秒、分、時間、日、または他の好適な経過時間より独立して選択される経過期間(ここでUVAは投与されない)を有し得る。
【0063】
いくつかの態様において、UVA曝露、療法または処置は、UVA光を送達するために身体部分(例えば、気管内チューブ;鼻咽頭エアウェイ;聴覚路;生殖管など)内に挿入され得るUVA発光ダイオード(LED)ベースのカテーテルデバイスを介して施される。例えば、UVA LEDベースのカテーテルデバイスは、UVA光源から放出される波長の強度および持続期間を調節および監視するためにシステムによって制御され得る。
【0064】
追加の態様は、上皮細胞についてのUVA療法の有効量が、それへ曝露されると、上皮細胞が、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値(「ベースライン」)と比較して、またはそれ以外の点では同一であるがUVAへ曝露されない上皮細胞の基準値と比較して、MAVSタンパク質レベルの少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または25%増加を有するものであることを提供する。換言すれば、上皮細胞についてのUVA療法の有効量は、それへ曝露されると、上皮細胞中のMAVSタンパク質発現レベルが目標レベルに達する(例えば、少なくとも目標レベルであると測定される)ものである。いくつかの局面において、目標レベルは、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値(「ベースライン」)と比較して、または対照と比較して、少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、または25%高い。いくつかの局面において、MAVSタンパク質発現の目標レベルは、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値(「ベースライン」)と比較して、または対照と比較して、少なくとも20%、21%、または22%高い。
【0065】
上皮細胞中のMAVSタンパク質のレベル、例えば、UVA曝露前のそれと比較したUVA曝露後のMAVSタンパク質の相対レベル、ならびに、微生物感染後のUVA曝露/療法後のそれと比較した微生物感染後だがUVA曝露/療法前のMAVSタンパク質の相対レベルは、いくつかの態様において、UVA曝露の有効性を評価し、かつ/または追加のUVA曝露の必要性を決定するための指標として使用することができる。
【0066】
いくつかの態様において、上皮細胞(例えば、ヒト線毛気管上皮細胞)中のMAVSタンパク質レベルの閾値増加は、ベースラインレベル(すなわち、UVA曝露前)と比較して、またはUVAへ曝露されなかったそれ以外の点では同一の上皮細胞と比較して、UVA曝露後、少なくとも20%、21%、または22%である。
【0067】
いくつかの局面において、UVA誘導閾値増加の対象となる上皮細胞は、微生物に感染していないか、または、少なくとも、上皮細胞が存在する臓器において、非感染の対象に由来し、ここで、MAVSタンパク質レベルの閾値増加は予防効果を提供し得る。
【0068】
追加の局面において、UVA誘導閾値増加は、上皮細胞が微生物に感染しているMAVSタンパク質レベルの増加である。例えば、微生物感染後のUVA曝露/療法後の上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルは、微生物感染後だがUVA療法前の上皮細胞中のそれと比較して、または微生物感染前かつUVA療法前の上皮細胞中のそれと比較して、閾値増加を有する。このようにして、閾値増加は、微生物に感染した上皮細胞におけるアポトーシスを減少させ、かつ/または上皮細胞における増殖または微生物負荷(例えば、ウイルス負荷)を減少させることができる。
【0069】
例えば、2mW/cm
2の強度で20分間の狭帯域UVA曝露へ曝露されたかまたはこれで照射されたヒト気管上皮細胞は、いくつかの態様において、細胞が100%コンフルエンシーである場合、約20%、21%、22%、または23%のMAVSタンパク質レベルの増加を有し(
図1Cに示される通り)、100%コンフルエンシーは哺乳動物中の健康な気管上皮を模倣する。別の場合において、2mW/cm
2の強度で20分間の狭帯域UVA曝露へ曝露されたかまたはこれで照射されたヒト気管上皮細胞は、いくつかの態様において、細胞が30~40%コンフルエンシーである場合、約8%、9%、または10%のMAVSタンパク質レベルの増加を有し(
図1Bに示される通り)、30~40%コンフルエンシーは哺乳動物中の損傷した気管上皮(恐らく既存の感染または他の以前の損傷に起因する)を模倣する。
【0070】
したがって、場合によっては、予防方法は、気管が感染性微生物へ曝露される前に、気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを少なくとも20%、21%、22%、または23%増加させるのに有効な量のUVA療法を、哺乳類気管上皮細胞、または気管もしくは哺乳動物に照射することを含み得る。いくつかの他の場合において、予防方法は、気管が感染性微生物へ曝露される前に、気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、または10%増加させるのに有効な量のUVA療法を、哺乳類気管上皮細胞、または気管もしくは哺乳動物に照射することを含み得る。任意で、UVA強度、持続期間、ならびにピーク波長は、MAVSタンパク質発現の目標レベルまたはMAVSタンパク質発現の閾値増加を誘導するために調整され得る。
【0071】
別の例において、介入方法は、気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを少なくとも20%、21%、22%、または23%増加させるのに有効な量のUVA療法を、哺乳類気管上皮細胞、または気管もしくは哺乳動物に照射することを含み得、ここで、気管は感染性微生物へ曝露されたことがあり、その結果、照射が感染上皮のアポトーシスを減少させる。さらに別の例において、介入方法は、気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを少なくとも5%、6%、7%、8%、9%、または10%増加させるのに有効な量のUVA療法を、哺乳類気管上皮細胞、または気管もしくは哺乳動物に照射することを含み得、ここで、気管は感染性微生物へ曝露されたことがあり、その結果、照射が感染上皮のアポトーシスを減少させる。任意で、UVA強度、持続期間、ならびにピーク波長は、MAVSタンパク質発現増加の目標量を誘導するために調整され得る。
【0072】
さらなる局面において、MAVSタンパク質レベルが目標レベルを下回るか、または閾値増加量に達しない場合、本方法は、上皮または上皮細胞をUVAへさらに曝露する工程、および任意で、上皮または上皮細胞のサンプルからのMAVSタンパク質発現レベルをアッセイする工程を含み得る。いくつかの実施において、アッセイされたMAVSタンパク質レベルが目標レベルを下回り続けるかもしくは閾値増加量を下回り続ける場合、または上皮細胞のアポトーシスが継続するかもしくは微生物増殖が継続する場合、本方法は、上皮または上皮細胞をUVAへまたは以前と比べてより高い強度および/もしくはより長い持続期間のUVAへさらに曝露する工程;ならびに任意で、対象を1つまたは複数の抗微生物薬で処置する工程を含み得る。他の実施において、アッセイされたMAVSタンパク質レベルが目標レベルに達するか、もしくは閾値増加量に達する場合、および/または、上皮細胞のアポトーシスが減少もしくは停止するか、または微生物増殖が減少もしくは停止する場合、本方法は、UVA曝露を中止し得るか、またはルーチンもしくは予防的利益のために以前と同様のUVA曝露を提供し得る。
【0073】
追加の態様において、それを必要とする対象においてUVA処置を施すための方法は、UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルにおけるMAVSタンパク質発現レベルをアッセイする工程、およびMAVSタンパク質発現が対象のベースラインレベルを下回るかまたは対照と比較される場合、対象へUVA処置を施し続ける工程を含む。別の態様において、それを必要とする対象においてUVA処置を施すための方法は、UVA処置へ曝露された対象から得られた生物学的サンプルにおけるMAVSタンパク質発現レベルをアッセイする工程、およびMAVSタンパク質発現が目標レベルを下回る場合、対象へUVA処置を施し続ける工程を含む。いくつかの実施において、対象は、対象の生物学的サンプル中のMAVSタンパク質発現レベルからアッセイされる前にUVA処置の第1用量へ曝露され、アッセイされたMAVSタンパク質発現が、ベースラインを下回るか、対照と比較されるか、または目標レベルと比較される場合、UVA処置の第2用量が(「継続」投与として)投与され;ここで、UVA処置の第1用量および第2用量は、同じであっても、異なっていてもよい。例えば、第2用量は、強度、持続期間、または強度および持続期間の両方において、第1用量よりも高くてもよい。
【0074】
したがって、いくつかの態様は、それを必要とする対象におけるUVA処置を評価する方法を提供し、これは、UVA処置に曝露された対象から得られた生物学的サンプルにおけるMAVSタンパク質発現をアッセイする工程を含み、ここで、対象のベースラインレベルよりも高いかまたは対照レベルよりも高いMAVSタンパク質発現レベルは、処置が有効であることを示す。生物学的サンプルは、様々な態様において、対象からの、呼吸腔もしくは管(例えば、気管、鼻咽頭、口腔、気管支)内、聴覚路もしくは感覚上皮内、生殖管もしくは子宮内腔上皮もしくは膀胱内、眼内、直腸/結腸腔内の上皮細胞もしくは上皮の一部、または別の上皮を含む。
【0075】
MAVSタンパク質発現レベルをアッセイする技術は、当技術分野において利用可能であり、以下に基づき、以下を含むがこれらに限定されない:ウエスタンブロッティング、ELISA、免疫沈降などの、1つまたは複数のタンパク質レベル定量化のための検出可能な標識を伴う抗MAVS抗体またはコンジュゲート化抗MAVS抗体;タンパク質の定量化における質量分析用の、同位体標識されたMAVSタンパク質またはペプチド;または、遺伝子転写レベル、例えば、mRNA定量化。いくつかの実施において、タンパク質レベル定量化は、哺乳動物から得られた生検試料を用いて行われる。
【0076】
本明細書に開示される方法における対照は、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値、病原体との接触前の上皮細胞の基準値、または前記量のUVAへ曝露されておらずかつ病原体に感染していない上皮細胞の集団の基準値であり得る。
【0077】
様々な態様が、上皮細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の発現を増加させるための方法を提供し、これは、上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞を有効量の紫外線A(UVA)へ曝露する工程を含む。様々な局面において、MAVSタンパク質発現の増加は、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較されるか、または対照と比較される。
【0078】
いくつかの態様において、上皮細胞は気管上皮細胞を含むかまたはこれらからなる。いくつかの態様において、上皮細胞は線毛上皮細胞を含むかまたはこれらからなる。いくつかの態様において、上皮細胞は線毛上皮細胞を含むかまたはこれらからなる。いくつかの態様において、上皮細胞は気管上皮細胞、線毛上皮細胞、および線毛上皮細胞のうちの1つまたは複数の組み合わせを含むかまたはこれらからなる。いくつかの態様において、上皮細胞はヒト気管上皮細胞である。いくつかの態様において、上皮細胞はヒト肺上皮細胞である。いくつかの態様において、上皮細胞はヒト鼻腔上皮細胞である。いくつかの態様において、上皮細胞は、ヒト気管上皮細胞、ヒト肺上皮細胞、およびヒト鼻腔上皮細胞のうちの1つまたは複数の組み合わせである。
【0079】
様々な態様が、上皮細胞の集団中のMAVSタンパク質の発現を増加させるための方法を提供し、本方法は、(1)上皮細胞の集団の第1部分における発現を増加させるために、上皮細胞の集団の第1部分を有効量のUVAへ曝露する工程、および(2)第2集団における発現を増加させるために、UVAへ曝露された第1部分をUVAへ曝露されなかった上皮細胞の集団の第2部分へ接触させる工程を含む。
【0080】
いくつかの態様は、上皮細胞の集団中のMAVSタンパク質の発現を増加させるための方法を提供し、本方法は、(1)上皮細胞の集団の第1部分を有効量のUVAへ曝露する工程、および(2)上皮細胞の集団の第2部分を提供する工程(ここで、第2部分はUVAへ曝露されたことがない)、または上皮細胞の集団の第2部分をUVAへ曝露しない工程を含み、ここで、第1部分および第2部分は集団中で細胞間接触をしており、その結果、上皮細胞の集団の第1部分および第2部分の両方が、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較して、または対照と比較して、MAVSタンパク質の増加した発現を有する。
【0081】
他の態様は、上皮細胞の集団中のMAVSタンパク質の発現を増加させるための方法を提供し、本方法は、上皮細胞の集団の第1部分を有効量のUVAへ曝露する工程、UVAへの曝露後に上皮細胞の集団の第1部分由来の細胞溶解物を取得する工程、および上皮細胞の集団の第2部分を集団の第1部分から取得された細胞溶解物へ曝露する工程(ここで、集団の第2部分はUVAへ曝露されたことがない)を含み、その結果、上皮細胞の集団の第1部分および第2部分の両方が、有効量のUVAへ曝露されなかったものと比較して、または対照と比較して、MAVSタンパク質の増加した発現を有する。
【0082】
さらなる態様は、気管、肺(肺の気管支)、または鼻腔の一部にUVA療法を照射することによって、対象の気管、肺(肺の気管支)、または鼻腔の一部を有効量のUVA療法に曝露することを提供し、これは、曝露された部分ならびにUVA療法へ曝露されなかった隣接部分の線毛上皮中のMAVSタンパク質の増加した発現をもたらし、それによって、呼吸器微生物感染症を処置し、その重症度を低減させ、かつ/またはそのリスクを低減させる。
【0083】
いくつかの局面において、UVAへ以前に曝露されていない第2部分は、UVAへ曝露された第1部分のサイズの10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~100%、100%~200%、または200%~300%である表面積を有する。いくつかの局面において、UVAへ以前に曝露されていない第2部分は、UVAへ曝露された第1部分中の量の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~100%、100%~200%、または200%~300%である細胞の量を有する。
【0084】
いくつかの態様において、有効量のUVA療法は、2~5ミリワット/cm2(またはmW/cm2)、5~10mW/cm2、0.5~2mW/cm2、または10~20mW/cm2のUVA強度を含む。様々な態様において、有効量のUVA療法は、2つ以上の用量/曝露を含み、各々は、例えば、30秒間~3分間、3分間~10分間、10分間~20分間、または20分間~30分間の範囲の期間の間、施される。いくつかの態様において、UVA療法は、0~1cm、0~1.5cm、0~2cm、0~2.5cm、0~3.0cm、0~3.5cm、0~4.0cm、0~5.0cm、もしくは0~10cm、または光の強度および標的病原体に基づく他の類似かつ好適な範囲の距離で、標的組織へ曝露される。したがって、いくつかの態様において、遠位上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させるために、上皮細胞をUVA光へ(例えば、治療、処置、または投与として)曝露することは、UVA光曝露領域/体積から、または場合によっては、上皮細胞のUVA光曝露領域/体積の周囲から、0~1cm、0~1.5cm、0~2cm、0~2.5cm、0~3.0cm、0~3.5cm、0~4.0cm、0~5.0cm、0~10cm、または0~30cmの間にある上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させることを含む。
【0085】
いくつかの局面において、対照は、UVAへの曝露前の上皮細胞の基準値である。いくつかの局面において、対照は、病原体との接触前の上皮細胞由来の基準値である。いくつかの局面において、対照は、前記量のUVAへ曝露されておらずかつ病原体に感染していない上皮細胞の集団由来の基準値である。
【実施例】
【0086】
以下の実施例は、特許請求された発明をより良好に説明するために提供され、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。特定の材料が言及されている限り、それは単に例示のためのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。当業者は、発明能力の行使なしに、また本発明の範囲から逸脱することなく、同等の手段または反応物をもたらすことができる。
【0087】
実施例1:紫外線A光は光源から離れていてもコンフルエントヒト気管細胞中のミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達タンパク質を増加させる
ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)などの特定のコロナウイルスに対する応答を含む、自然抗ウイルス応答を媒介する。本発明者らは、以前、紫外線A(UVA)療法がコロナウイルス-229Eに感染したヒト線毛気管上皮細胞(HTEpC)におけるウイルス誘発細胞死を予防できること、およびUVA処置がMAVSの細胞内レベルを増加させることを示した。本研究において、本発明者らは、UVA光がMAVSを活性化できるメカニズム、および局所的なUVA光適用が(例えば、細胞間コミュニケーションを介して)光源から離れた場所でMAVSを活性化できるかどうかを決定しようと試みた。MAVSレベルを、30~40%および100%コンフルエンシーで、2mW/cm2狭帯域(NB)-UVAへ20分間曝露されたHTEpC、および未曝露対照において、比較した。MAVSレベルをまた、UVA曝露細胞または未曝露対照由来の上澄みまたは溶解物で処理された未曝露HTEpCにおいて比較した。また、MAVSを、1つのセクションのみがNB-UVAへ曝露されたコンフルエント単層プレートの異なるセクションにおいて評価した。結果は、UVAがMAVSタンパク質の発現を増加させることを示している。UVAへ曝露されたコンフルエント単層中の細胞は、曝露されたセクションに隣接する細胞中、およびUVAへ曝露されなかった最も遠いセクションの細胞中でさえ、MAVSの上昇を与えることができた。本研究において、UVAへ曝露されたヒト線毛気管上皮細胞はMAVSタンパク質の増加を示し、光へ曝露されなかった遠位コンフルエント細胞にもこの影響を伝達するようである。
【0088】
導入
人体は感染症に対して様々な防御機構を有し、その中で最もよく知られているものは、免疫細胞がサイトカインシグナル伝達を介して感染部位に動員される自然免疫応答を伴う。感染症に対する宿主細胞内応答もまた、特にウイルスに対する防御において重要である。過去10年間で、ミトコンドリアは、ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質の産生を含む、いくつかのメカニズムを介して自然免疫応答および適応免疫応答を媒介できることが発見された。
【0089】
MAVSタンパク質は、主としてミトコンドリアの外膜に局在し、ウイルスRNAを認識する細胞質レチノイン酸誘導遺伝子I(RIG-I)様受容体(RLR)からのシグナルを伝達する。具体的には、ウイルス成分の認識および結合後、RLR、RIG-I、およびメラノーマ分化関連遺伝子5(MDA5)は、MAVSと相互作用し、炎症誘発因子および抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する転写因子を活性化する。しかし、一部のウイルスは、MAVSの活性化に拮抗し、この自然免疫応答を回避するメカニズムを発達させた。例えば、SARS-CoV-2膜貫通糖タンパク質MはMAVSに拮抗し、したがってMAVS媒介自然抗ウイルス応答を損なうと考えられている。
【0090】
本発明者らは、CoV-229Eに感染したヒト線毛気管上皮細胞への特定の条件下でのUVA光の適用が細胞生存率を有意に改善し、ウイルス誘発細胞死を予防し、これがCoV-229Eスパイク(S)タンパク質のレベルの低下を伴うことを最近示した。さらに、UVA光で処理された細胞は、MAVSタンパク質の有意に増加したレベルを示した。これはUVAがMAVSを活性化し得ることを示した。さらに、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)を有する換気された対象における最初のヒト臨床試験において、5日間の毎日20分間の気管内UVA処置は、呼吸器SARS-CoV-2ウイルス負荷を有意に減少させた。興味深いことに、この試験では期間限定の局所UVA療法にもかかわらず、ベースラインから6日目までの気管内ウイルス負荷の平均log10変化は-3.2であり、これは、即時の局所的な効果を超えた潜在的な抗ウイルス現象を示している。
【0091】
本研究において、本発明者らは、インビトロでの非感染ヒト線毛気管上皮細胞中のMAVS発現に対する狭帯域(NB)-UVA光の効果を探究する。本発明者らはまた、UVA光の効果がUVAへ直接曝露された細胞に限定されているのか、それともUVAへ直接曝露されなかった細胞にも見られるのかを探究する。
【0092】
材料および技術
MAVSに対するNB-UVA効果
ヒト気管の表面上皮から単離された初代ヒト気管上皮細胞(HTEpC、ロット番号454Z019.11、PromoCell GmbH, Heidelberg, Germany)を、SupplementMix (cat. C-39165, PromoCell)およびGibco抗生物質抗真菌薬溶液(cat. 15240096, ThermoFisher Scientific, MA, USA)を用いて調製された気道上皮細胞増殖培地(cat. C-21060, PromoCell)を含む60x15mm標準組織培養皿(cat. 351007, Corning, NY, USA)において37℃(5% CO2)で培養した。
【0093】
細胞が1プレート当たり105細胞(30~40%コンフルエンシー)に達したら、HTEpCを滅菌1x PBS pH 7.4 (cat. 10010072, ThermoFisher)で3回洗浄し、新鮮な培地を各プレートへ添加した。細胞を、以前に検証された理想的なUVA照射レベルに基づいて、2mW/cm2のNB-UVAへ20分間曝露した。未曝露細胞を対照として使用した。24時間後、上澄みを収集し、細胞を滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。残ったPBSを除去した後、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen, Hilden, Germany)からのRTLバッファー1mLを使用して、細胞をプレート中で溶解させた。実験を三つ組みで行った。
【0094】
未曝露UVAナイーブ細胞へのMAVSシグナル伝達に対するNB-UVA効果
NB-UVA光への曝露によって引き起こされたMAVSの活性化がナイーブ未曝露HTEpCへ伝達され得るかどうかを決定し、関与するメカニズムの解明を開始するために、3つの実験を行った:
- 細胞外メディエーターが関与したかどうかを決定するために、NB-UVAへ曝露された30~40%コンフルエントHTEpC由来の上澄みを30~40%コンフルエントナイーブHTEpCへ移した。
- 細胞内メディエーターが関与したかどうかを決定するために、NB-UVAへ曝露された30~40%コンフルエントHTEpC由来の細胞溶解物(上澄み除去後)を30~40%コンフルエントナイーブHTEpCへ移した。
- 細胞間シグナル伝達が関与したかどうかを決定するために、NB-UVAへ曝露されたまたは曝露されなかった100%コンフルエントHTEpCの領域を分析した。
【0095】
細胞外メディエーターを介したMAVSシグナル伝達に対するNB-UVA効果
前回の実験からのUVA曝露HTEpCおよび対照HTEpCから収集された上澄みを、105のナイーブHTEpC(すなわち、UVAへ曝露されなかった細胞)を含有する新しい60x15mm組織培養皿へ移した。UVA曝露細胞または対照細胞由来の上澄みを受け取る前に、ナイーブHTEpCを滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。PBSを完全に除去し、UVA曝露HTEpCまたは対照HTEpCから収集された上澄み4 mLをナイーブ細胞へ添加した。24時間のインキュベーション後、細胞を3回洗浄し、次いで、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen)からのRTLバッファー1mLを使用してプレート中で溶解させた。実験を三つ組みで行った。
【0096】
細胞内メディエーターを介したMAVSシグナル伝達に対するNB-UVA効果
HTEpCを、SupplementMix (cat. C-39165, PromoCell)およびGibco抗生物質抗真菌薬溶液(cat. 15240096, ThermoFisher Scientific, MA, USA)を含んだ気道上皮細胞増殖培地(cat. C-21060, PromoCell)を含む60x15mm標準組織培養皿(cat. 351007, Corning, NY, USA)において37℃(5% CO2)で培養した。
【0097】
細胞が1プレート当たり105細胞(30~40%コンフルエンシー)に達したら、HTEpCを滅菌1x PBS pH 7.4(cat. 10010072, ThermoFisher)で3回洗浄し、新鮮な培地を各プレートへ添加した。細胞を2mW/cm2のNB-UVAへ20分間曝露した。未曝露細胞を対照として使用した。24時間後、細胞を滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄し、培養皿から掻き取り、15mL滅菌チューブへ移した。細胞をペレット化し、新しい新鮮な気道上皮細胞増殖培地を添加した。単一の滅菌5mmステンレス鋼ビーズ(Qiagen)を各チューブへ添加し、チューブを5分間ボルテックスすることによって細胞を溶解させた。UVA曝露HTEpCおよび対照HTEpC由来の溶解物を、105のナイーブHTEpC(すなわち、UVAへ曝露されたことがないHTEpC)を含有する新しい60x15mm組織培養皿へ移した。UVA曝露細胞または対照細胞由来の溶解物を受け取る前に、ナイーブHTEpCを滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。PBSを完全に除去し、UVA曝露HTEpCまたは対照HTEpCのいずれかに由来する溶解物4mLをナイーブ細胞へ添加した。24時間のインキュベーション後、細胞を滅菌1x PBSで3回洗浄し、次いで、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen)からのRTLバッファー1 mLを使用してプレート中で溶解させた。実験を4回行った。
【0098】
細胞間シグナル伝達を介したMAVSシグナル伝達に対するNB-UVA効果
HTEpCを、それらが100%コンフルエンスに達するまで、SupplementMix (cat. C-39165, PromoCell)およびGibco抗生物質抗真菌薬溶液(cat. 15240096, ThermoFisher)を用いて調製された気道上皮細胞増殖培地(cat. C-21060, PromoCell)を含む150mm皿(cat. 430599, Corning)において37℃(5% CO2)で培養した。
【0099】
NB-UVA療法の日に、細胞を滅菌1x PBS、pH 7.4で2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。HTEpCの100%コンフルエント単層を含有する各150mm皿を縦方向に4つのセクションに分割し、それぞれ、領域1、2、3、および4と指定した(
図1A)。NB-UVA発光デバイスを皿の底部から2.3cmに配置し、およそ2mW/cm
2のNB-UVAを領域1へ20分間適用した。実験を4回行った。
【0100】
療法中のプレートの他の部分へのUVA漏れを防止するために、領域2、3、および4を、プレートの上部および側面を通る光の通過を遮断する滅菌バリアで覆った。療法の過程中、これらの領域にUVA光がないことを保証するために、NB-UVA強度を、UVメーター(SDL470, Extech, NH)を使用して培養プレートの未曝露領域(上部、底部、および側面)において常に確認した。UVA処理プレートを、次いで、37℃(5% CO2)で24時間再インキュベートした。
【0101】
UVA処理HTEpCプレートを、細胞を採取する前に、滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。10mLの滅菌1x PBS、pH 7.4をプレートへ添加し、領域4からの細胞を滅菌Corning Cell Lifter (cat. 3008, Corning)で注意深く掻き取り、15 mL滅菌チューブへ直ちに移した。細胞を低速(約1000 RPM)でペレット化し、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen)からの1mL RTLバッファーで溶解させた。
【0102】
領域1、2、および3からの残りのUVA曝露HTEpC(プレートに付着したまま)を、滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。10mLの滅菌1x PBS、pH 7.4をプレートへ添加し、領域3からの細胞を注意深く掻き取り、上記のように溶解させた。同じプロセスを使用して、領域2および1から(この順序で)細胞を採取した。
【0103】
タンパク質抽出およびウエスタンブロッティング
AllPrep DNA/RNA/タンパク質ミニキット(Qiagen)を使用して、製造業者のプロトコルに従って、すべての実験からのUVA曝露および非曝露HTEpCから総タンパク質を抽出した。Qubit Protein Assays (ThermoFisher)を用いて総タンパク質を定量化し、等しくロードした総タンパク質をNuPAGE 4-12% Bis-Trisミニゲル(NP0336BOX, ThermoFisher)上で分離し、次いでBiotrace NTニトロセルロース膜(27376-991, VWR)上へ転写した。総タンパク質をポンソーS溶液(P7170, Sigma-Aldrich)で染色した。膜を、3%ウシ血清アルブミン(cat. A7030, Sigma-Aldrich)および0.1% Tween 20 (P1379, Sigma-Aldrich)を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBS-T)でブロッキングし、ブロッキング溶液中に希釈されたマウス抗MAVS抗体(1:200; SC-166583, Santa Cruz Biotechnology)と共に4℃で一晩インキュベートした。TBS-T中で洗浄した後、次いで膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG抗体(1:300; 5220-0286, SeraCare)で覆い、TBS-T中で洗浄し、増強化学発光溶液(RPN2235, GE Healthcare)へ曝露した。免疫反応性タンパク質バンドを、iBright FL1500装置(ThermoFisher)を使用して画像化し、iBright解析ソフトウェア(ThermoFisher)を使用して解析した。サンプルを、ポンソーS染色(MilliporeSigma, St. Louis, MO, US)から決定した総タンパク質に対して正規化した。
【0104】
統計解析
グラフ構築および統計解析をGraphPad Prism V. 9 (GraphPad Software, CA, USA)で行った。すべての実験について、ニトロセルロース膜からの免疫反応性MAVSバンドを、iBright解析ソフトウェア(ThermoFisher)を使用して統計解析する前に総タンパク質(ポンソーS)に対して正規化した。MAVS相対密度(正規化後に得られた)を、対応のないt検定を適用した群間で比較した。100%コンフルエント細胞培養物を用いた実験からの各領域間の比較を、対応のあるt検定およびANOVA検定を用いて行った。有意水準はp<0.05とした。
【0105】
結果
狭帯域-UVA(NB-UVA)はヒト非コンフルエントおよびコンフルエント線毛気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを増加させる
2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露された30~40%コンフルエンシーの初代気管上皮細胞(HTEpC)中、および未曝露対照中で、MAVSのレベルを分析した。ウエスタンブロットによって検出された正規化MAVSレベルは、未曝露対照と比較した場合、NB-UVA曝露細胞中で増加した(P=0.0193、
図1B)。
【0106】
加えて、初代気管上皮細胞を(30~40%コンフルエンシーとは対照的に)100%コンフルエント単層に増殖させた場合、未曝露単層中のレベルと比較した場合、2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露した後、領域1中の正規化MAVSレベルも有意に増加した(P=0.0006、
図1C、1J)。
【0107】
MAVSはNB-UVA曝露後に細胞間シグナル伝達によって活性化される
ナイーブ30~40%コンフルエントHTEpCをNB-UVA曝露30~40%コンフルエントHTEpC由来の上澄みで処理した場合、MAVSレベルの変化は観察されなかった(P=0.4022、
図1D、1E)。しかし、ナイーブ30~40%コンフルエントHTEpCをNB-UVA曝露30~40%コンフルエントHTEpC由来の細胞溶解物と共にインキュベートした場合、MAVSの正規化レベルが増加する傾向があった(
図1F、1G、P=0.1256)。
【0108】
次に、プレートの一部のみ(領域1)を2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露した後、HTEpCの100%コンフルエント単層を含有する培養プレートの異なる領域中のMAVSのレベルを分析した(
図1A)。正規化MAVSレベルは、領域4(最も遠い未曝露領域)から領域1(NB-UVAへ曝露された)まで徐々に増加し(ANOVA P=0.08、
図1H、1I)、未曝露領域4と比較した場合、領域1(NB-UVAへ曝露された)においてMAVSレベルの統計的に有意な増加があった(P=0.0382、
図1H、1I)。重要なことに、MAVSのレベルはまた、未曝露プレート由来の対照と比較した場合、未曝露領域2および3中で有意に増加した(それぞれ、P=0.0289およびP=0.0402、
図1H)。領域4(最も遠い未曝露領域)中の正規化MAVSレベルもまた対照中よりも高いように見えたが、統計的有意性に達しなかった(P=0.1262、
図1H)。
【0109】
本研究において、本発明者らは、狭帯域UVA光が、インビトロで非感染ヒト線毛気管上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させることを示す。加えて、これらの細胞のコンフルエント単層培養物において、MAVSタンパク質の誘導は、NB-UVA光へ直接曝露されなかった細胞に伝達される。この伝達は、分泌細胞外メディエーターに起因していないようだが、直接的な細胞間シグナル伝達、および恐らく細胞質メディエーターから生じる可能性が高い。
【0110】
外部UVA療法は、乾癬、湿疹、および皮膚リンパ腫などの皮膚状態の処置において長い間使用されており、これらについてFDA承認を受けている。微生物感染症を処置するための内部UVA光療法の可能性を探究するために、本発明者らは最近、インビトロで様々な病原体に対するUVAの有効性を試験し、制御および監視された条件下で、UVA光が様々な細菌種(肺炎桿菌、大腸菌、クロストリディオイデス・ディフィシルなどを含む)、酵母カンジダ・アルビカンス、コクサッキーウイルスB群、およびコロナウイルス-229Eを効果的に減少させることを見出した。重要なことに、本発明者らは、コロナウイルス-229Eに感染し、次いでインビトロでNB-UVA光によって処理されたヒト線毛気管上皮細胞が、MAVSタンパク質の増加を示し、感染を生き延びることを見出した。これらの結果は、感染したが未処理の対照と比較しての、コロナウイルス-229Eに感染しそしてUVA処理された細胞の細胞生存率の増加が、MAVS媒介抗ウイルスシグナル伝達経路の活性化に起因し得ることを示した。本研究において、ヒト線毛気管上皮細胞をウイルス感染なしにUVA光へ曝露した。結果は、UVA光への曝露のみによってこれらの細胞中のMAVSタンパク質のレベルが上昇することを確認し、これがUVA光に対する応答であることを実証している。
【0111】
一般的な風邪、インフルエンザ、および他のウイルスは季節性であり、冬季により頻繁に発生し、夏季にはより少ないことが十分に認識されている。このメカニズムは不明であるが、データは日光およびビタミンDの生成が重要であり得ることを示している。日光は医学において歴史的重要性を有し - 例えば、1918~1919年のH1N1インフルエンザパンデミックの間、厳格な衛生およびフェイスマスクの使用との、日光および新鮮な空気へのアクセスの組み合わせは、ボストンの「野外」病院の患者およびスタッフの死亡率を低下させた可能性があることが示された。ビタミンDレベルおよび現在のCOVID-19パンデミックに関するデータの体系的レビューは、日光およびビタミンDレベルの上昇が転帰を改善し得ることを示している。後の研究において包含のために選択された試験は不均一な結果を有したが、これらおよび他の過去のデータは、日光への曝露、したがってUVAへの曝露がウイルス感染症との闘いに有益であり得ることを示している。
【0112】
通常の生理学的条件下では、MAVS mRNAの3’UTRにおけるエレメントへのヒト抗原RおよびマイクロRNAの結合に一部起因して、MAVSタンパク質レベルは低い。ウイルス成分の認識および結合に続いて、RIG-I様受容体(RLR)のN末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)がユビキチン化され、MAVSのCARDへ結合し、MAVSの凝集ならびに炎症性サイトカインおよび抗ウイルスインターフェロン遺伝子の活性化に至る。しかし、ウイルスはこれらの経路を回避することもでき - 例えば、COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2の膜糖タンパク質Mは、MAVSと相互作用し、MAVSの凝集および抗ウイルス応答の活性化を損なうことができる。本発明者らの前臨床試験において、CoV-229Eに感染し、UVA光で処理された気管細胞はまた、CoV-229Eスパイクタンパク質の減少を示し、これは、UVA光がSARS-CoV-2の効果的な処置でもあり得ることを本発明者らに示した。
【0113】
SARS-CoV-2感染の主要な部位は、下流の特徴的な両側のすりガラス陰影を伴う、線毛上皮細胞である。急性呼吸器ウイルス感染およびそれに続く炎症反応は、肺機能の低下および死をもたらし得る。二次的な細菌および真菌感染症も一般的であり、人工呼吸器関連肺炎(VAP)は機械的に換気された患者の31%で発生する。SARS-CoV-2の潜在的な治療法としてのUVA光の安全性および有効性を試験するために、本発明者らは、重症COVID-19対象にUVA光を送達するために気管内チューブに挿入することができる新しいUVA発光ダイオード(LED)ベースのカテーテルデバイスを開発した。機械的に換気されたCOVID-19対象の最初のヒト研究において、全員がベースライン時に世界保健機関(WHO)症状重症度スコア9を有しており(10は死亡である)、気管内送達UVA光で処置された(5日間毎日20分間処置された)対象は、気管内吸引液中で療法の6日目までに3.2のSARS-CoV-2ウイルス負荷の平均log10減少を示し(p<0.001)、ウイルス負荷のこれらの加速的な減少は、WHO症状重症度スコアの30日改善と相関した。さらに、気管のごく一部のみがUVA光へ曝露されたという事実にもかかわらず、改善の規模は、UVA光の抗ウイルス効果がUVAへ直接曝露された細胞に限定されず、しかし隣接する細胞にも伝達され得るという可能性を示した。
【0114】
この伝達の根底にある潜在的なメカニズムを探究するために、本発明者らは、最初にUVA曝露細胞から上澄みを採取し、それらをUVA光へ曝露されなかった細胞の新鮮なプレートへ添加した。これらの細胞ではMAVSタンパク質レベルの増加は見られず、分泌細胞外メディエーターは関与しなかったことを示している。次に、細胞質メディエーターが関与したかどうかを探究するために、本発明者らは、UVA曝露細胞および非曝露対照を溶解させ、溶解物をUVA光へ曝露されなかった細胞の新鮮なプレートへ添加した。UVA曝露細胞由来の溶解物と共にインキュベートされたナイーブHTEpCではMAVSタンパク質レベルの増加への傾向があったが、これは有意性には達しなかった。対照的に、UVA光へ直接曝露されたHTEpCのコンフルエント単層中、およびUVA光から遮断された同じプレート由来の隣接領域中のMAVSレベルを比較した場合、本発明者らは、MAVSは領域1(UVA光へ直接曝露された)における細胞中で増加しただけでなく、直接UVA光から遮断された隣接領域2、3、および4における細胞中でも、UVA曝露細胞からの距離の増加と共に減少する勾配で増加したことを見出した。これらの知見は、UVA光に応答したMAVSの増加が、直接曝露された細胞から隣接する未曝露細胞へ伝達され得ることを確認し、細胞間シグナル伝達が関与することを示しているが、関与するメカニズムを決定するにはさらなる研究が必要である。
【0115】
SARS-CoV-2はMAVSを抑制するが、UVA光曝露はこの抑制を無効にすることがここで示され、UVA光がこの抑制を無効にし、一本鎖ウイルスRNAに対する損傷を潜在的にさらに示すメカニズムがさらに探究され得る。このMAVS活性化の効果は、インビボモデルで研究するために重要であり得る。限られたデータは、MAVSおよびその結果として生じるインターフェロンαの細胞内産生が、感染細胞を攻撃するために循環免疫細胞応答を引き付け得ることを示している。興味深いことに、本発明者らの以前のインビトロ研究において、CoV-229Eは急激な細胞死を引き起こし、これはUVAによって軽減された。この細胞生存の増加は、恐らくMAVSが細胞サルベージ経路であることを示している。これはまた、COVID-19を有する挿管された重症対象におけるUVAの最初のヒト研究によって裏付けられている。2人の患者が5日間のUVA適用後に気管支鏡検査を受けた。炎症の巨視的証拠はなかった。本研究では取り上げられていないこれらの概念を探究するには、さらなる研究が必要である。
【0116】
結論として、本研究は、UVA光が自然細胞内免疫に影響を与えることができる可能性のあるメカニズムを解明し始める。本明細書のデータは、NB-UVAがヒト線毛気管上皮細胞中のMAVSタンパク質レベルを増加させることを示す。MAVSタンパク質のこの増加は、UVA光へ直接曝露されなかった隣接細胞へ伝達可能であるようである。さらに、本発明者らの結果は、MAVSシグナル伝達が、細胞間コミュニケーション、および恐らく細胞質(しかし分泌細胞外ではない)メディエーターを伴うことを示している。この知見は、インビトロにおいておよびCOVID-19を有する重症患者のヒト研究において見られたUVAの利点の基礎となり得る。この知見は、SARS-CoV-2、他のコロナウイルス、およびインフルエンザなどの他のRNA呼吸器ウイルスの処置について幅広い暗示を有し得る。このメカニズムが特定の呼吸器ウイルス性疾患の季節性における重要な要因であるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要である。
【0117】
実施例2.ミトコンドリア抗ウイルスシグナル伝達(MAVS)タンパク質に対するNB-UVA効果の研究
ヒト気管の表面上皮から単離された初代ヒト気管上皮細胞(HTEpC、ロット番号454Z019.11、PromoCell GmbH, Heidelberg, Germany)を、SupplementMix (cat. C-39165, PromoCell)およびGibco抗生物質抗真菌薬溶液(cat. 15240096, ThermoFisher Scientific, MA, USA)を用いて調製された気道上皮細胞増殖培地(cat. C-21060, PromoCell)を含む60x15mm標準組織培養皿(cat. 351007, Corning, NY, USA)において37℃(5% CO2)で培養した。
【0118】
細胞が1プレート当たり106細胞に達したら、HTEpC培養物を滅菌1x PBS、pH 7.4 (cat. 10010072, ThermoFisher)で3回洗浄し、新鮮な培地を各プレートへ添加した。細胞を、1、2、および3日間、24時間毎に0(対照)または20分間、2000μW/cm2のNB-UVAへ曝露した。UVA療法の最終日から24時間後、上澄みを収集し、細胞培養物を滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。残ったPBSを除去した後、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen, Hilden, Germany)からのRTLバッファー1 mLを使用して、細胞をプレート中で溶解させた。
【0119】
タンパク質抽出およびウエスタンブロッティング
AllPrep DNA/RNA/タンパク質ミニキット(Qiagen)を使用して、製造業者のプロトコルに従って、UVA曝露および未曝露気管細胞から総タンパク質を抽出した。タンパク質をNuPAGE 4-12% Bis-Trisミニゲル(NP0336BOX, ThermoFisher)上へロードし、Biotrace NTニトロセルロース膜(27376-991, VWR)上へ転写した。総タンパク質をポンソーS溶液(P7170, Sigma-Aldrich)で染色した。膜を、3%ウシ血清アルブミン(cat. A7030, Sigma-Aldrich)および0.1% Tween 20 (P1379, Sigma-Aldrich)を含有するトリス緩衝生理食塩水(TBS-T)でブロッキングし、ブロッキング溶液中に希釈されたマウス抗MAVS抗体(1:200; SC-166583, Santa Cruz Biotechnology)と共に4℃で一晩インキュベートした。TBS-T中で洗浄した後、膜を次いで西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG抗体(1:300; 5220-0286, SeraCare)で覆い、TBS-T中で洗浄し、増強化学発光溶液(RPN2235, GE Healthcare)へ曝露した。免疫反応性タンパク質バンドを、iBright FL1500装置(ThermoFisher)を使用して画像化した。
【0120】
分泌分子を介したMAVSに対するNB-UVA効果
UVA曝露および対照HTEpC細胞から収集された上澄みを、106のUVA未曝露HTEpC(ナイーブ)を含有する新しい60x15mm組織培養皿へ移した。UVA曝露または対照細胞由来の上澄みを受け取る前に、ナイーブHTEpCを滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。PBSを完全に除去し、UVA曝露または対照HTEpC細胞から収集された上澄み4mLをナイーブ細胞へ添加した。24時間のインキュベーション後、細胞を3回洗浄し、タンパク質を抽出し、前述のように分析した。
【0121】
細胞間シグナル伝達を介したMAVSに対するNB-UVA効果
HTEpCを、それらが100%コンフルエンスに達するまで、SupplementMix (cat. C-39165, PromoCell)およびGibco抗生物質抗真菌薬溶液(cat. 15240096, ThermoFisher)を用いて調製された気道上皮細胞増殖培地(cat. C-21060, PromoCell)を含む150mm皿(cat. 430599, Corning)において37℃(5% CO2)で培養した。
【0122】
NB-UVA療法の日に、細胞を滅菌1x PBS、pH 7.4で2回洗浄し、新鮮な培地を添加した。HTEpC細胞の単層を含有する各150mm皿を縦方向に4つのセクションに分割し、それぞれ、領域1、2、3、および4と指定した(
図1A)。NB-UVA発光デバイスを皿の底部の2.3cmに配置し、およそ2,000μW/cm
2のNB-UVAを領域1へ20分間適用した。
【0123】
療法中のプレートの他の部分へのUVA漏れを回避するために、領域2、3、および4を、プレートの上部および側面を通る光の通過を遮断する滅菌デバイスで覆った(
図1B)。療法の過程中、これらの領域にUVA光がないことを保証するために、NB-UVA強度を、UVメーター(SDL470, Extech, NH)を使用して培養プレートの未曝露領域(上部、底部、および側面)において常に確認した。UVA処理プレートを、次いで、37℃(5% CO
2)で24時間再インキュベートした。
【0124】
UVA処理HTEpCプレートを、細胞を採取する前に、滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。10mLの滅菌1x PBS、pH 7.4をプレートへ添加し、領域4からの細胞を滅菌Corning Cell Lifter (cat. 3008, Corning)で注意深く掻き取り、15 mL滅菌チューブへ直ちに移した。細胞を低速(約1000 RPM)でペレット化し、AllPrep DNA/RNA/タンパク質単離キット(Qiagen)からの1mL RTLバッファーで溶解させた。
【0125】
領域1、2、および3からの残りのUVA曝露HTEpC細胞(プレートに付着したまま)を、滅菌1x PBS、pH 7.4で3回洗浄した。10mLの滅菌1x PBS、pH 7.4をプレートへ添加し、領域3からの細胞を注意深く掻き取り、上記のように溶解させた。同じプロセスを使用して、領域2および1から(この順序で)細胞を採取した。総タンパク質を、AllPrep DNA/RNA/タンパク質ミニキット(Qiagen)を使用して抽出し、分析した。
【0126】
実施例3.狭帯域UVA光(NB-UVA)はヒト線毛気管上皮細胞中のMAVSレベルを増加させる
1処理当たり20分間、2mW/cm
2 NB-UVA(1~3回)または5mW/cm
2(1回)へ曝露された30~40%コンフルエンシーの初代気管上皮(HTEpC)細胞において、MAVSのレベルを分析した。ウエスタンブロットによって検出されたような、正規化MAVSレベルは、30~40%コンフルエンシーの細胞が5mW/cm
2のNB-UVA光で処理された場合は増加したが(P=0.0026)、これらの細胞が2mW/cm
2のNB-UVAへ曝露された場合、効果は観察されなかった(P>0.05、
図2)。
【0127】
対照的に、初代気管上皮細胞を(30~40%コンフルエンシーとは対照的に)100%コンフルエント単層に増殖させた場合、正規化MAVSレベルは、未曝露単層中のレベルと比較した場合、2mW/cm
2 NB-UVAによるたった1回の20分間処理後に有意に増加した(P=0.0079、
図3Aおよび3B)。
【0128】
実施例4.MAVSはNB-UVA曝露後に細胞間シグナル伝達によって活性化される
NB-UVA光への曝露によって引き起こされたMAVSの活性化がナイーブ未曝露HTEpC細胞へ伝達され得るかどうかを決定し、関与するメカニズムの解明を開始するために、3つの実験を行った:
(1)分泌因子が関与したかどうかを決定するために、コンフルエントNB-UVA曝露HTEpC細胞由来の上澄みをナイーブHTEpC細胞へ移した;
(2)細胞質因子が関与したかどうかを決定するために、曝露NB-UVA HTEpC細胞由来の細胞溶解物(上澄み除去後)をナイーブHTEpC細胞へ移した;および
(3)細胞間シグナル伝達が関与したかどうかを決定するために、NB-UVAへ曝露されたまたは曝露されなかった細胞の領域を培養プレートから分析し、ここで、プレートの一部をNB-UVAへ曝露した(
図1A)。
【0129】
NB-UVA曝露HTEpC細胞由来の上澄みをナイーブHTEpC細胞へ移した場合、MAVSレベルの変化は観察されなかった。しかし、MAVSの正規化レベルは、NB-UVA曝露HTEpC細胞から調製された細胞溶解物と共にインキュベートされたナイーブHTEpC細胞において増加する傾向があった(
図4Aおよび4B、P=0.2787)。
【0130】
次に、プレートの一部のみ(領域1)を2mW/cm
2 NB-UVAへ20分間曝露した後、HTEpC細胞の100%コンフルエント単層を含有する培養プレートの異なる領域中のMAVSのレベルを分析した(
図1A)。正規化MAVSレベルは、領域4(最も遠い未曝露領域)から領域1(NB-UVAへ曝露された)まで徐々に増加するようであった(ANOVA P=0.07、
図5Aおよび5B)。MAVSレベルは、領域1(NB-UVAへ曝露された)において、未曝露領域3(P=0.04)と比較した場合に増加し、未曝露領域2および4(それぞれP=0.1329およびP=0.1068)と比較した場合、より少ない程度に増加した(
図4A)。重要なことに、MAVSのレベルはまた、未曝露プレート由来の対照と比較した場合、未曝露領域2において増加するようであったが(
図5A)、P値は分析から1つの外れ値を省略した場合に統計的有意性に達しただけであった(P=0.02)。
【0131】
本研究において、データは、UVA光が、インビトロでヒト線毛気管上皮細胞中のMAVSタンパク質の発現を増加させることを示す。加えて、これらの細胞のコンフルエント単層において、MAVSタンパク質の誘導は、UVA光へ曝露されなかった細胞に伝達される。この伝達は、培地中へ分泌される因子に起因するようではなく、しかし、直接的な細胞間シグナル伝達、および恐らくまた細胞質因子から生じる可能性が高い。
【0132】
外部UVA療法は、乾癬、湿疹、および皮膚リンパ腫などの皮膚状態の処置において長い間使用されており、これらについてFDA承認を受けている。微生物感染症を処置するための内部UVA光療法の可能性を探究するために、本発明者らは最近、インビトロで様々な病原体に対するUVAの有効性を試験し、制御および監視された条件下で、UVA光が様々な細菌種(肺炎桿菌、大腸菌、クロストリディオイデス・ディフィシルなどを含む)、酵母カンジダ・アルビカンス、コクサッキーウイルスB群、およびコロナウイルス-229Eを効果的に減少させることを見出した。重要なことに、本発明者らは、コロナウイルス-229Eに感染し、次いでインビトロでUVA光によって処理されたヒト線毛気管上皮細胞が、MAVSタンパク質の増加を示すことを見出した。これらの結果は、感染したが未処理の対照と比較した、コロナウイルス-229Eに感染しそしてUVA処理された細胞の細胞生存率の増加が、MAVS媒介抗ウイルスシグナル伝達経路の活性化に起因し得ることを示した。本研究において、ヒト線毛気管上皮細胞をウイルス感染なしにUVA光へ曝露した。結果は、UVA光への曝露のみによってこれらの細胞中のMAVSタンパク質のレベルが上昇することを確認し、これがUVA光に対する応答であることを確認している。
【0133】
一般的な風邪、インフルエンザ、および他のウイルスは季節性に見える。特に、それらは冬季により頻繁に発生し、夏季にはより少なくなる。このメカニズムは不明であるが、データは日光およびビタミンDの生成が重要であり得ることを示している。日光は医学において歴史的重要性を有し - 例えば、1918~1919年のH1N1インフルエンザパンデミックの間、厳格な衛生およびフェイスマスクの使用との、日光および新鮮な空気へのアクセスの組み合わせは、ボストンの「野外」病院の患者およびスタッフの死亡率を低下させた可能性があることが示された。ビタミンDレベルおよび現在のCOVID-19パンデミックに関するデータの体系的レビューは、日光およびビタミンDレベルの上昇が転帰を改善し得ることを示している。後の研究において包含のために選択された試験は結果がまちまちであったが、これらおよび他の過去のデータは、日光への曝露、したがってUVへの曝露がウイルス感染症との闘いに有益であり得ることを示している。
【0134】
通常の生理学的条件下では、MAVS mRNAの3’UTRにおけるエレメントへのヒト抗原RならびにマイクロRNAの結合に一部起因して、MAVSタンパク質レベルは低い。ウイルス成分の認識および結合に続いて、RLRのN末端カスパーゼ動員ドメイン(CARD)がユビキチン化され、MAVSのCARDへ結合し、MAVSの凝集ならびに炎症性サイトカインおよび抗ウイルスインターフェロン遺伝子の活性化に至る。しかし、ウイルスはこれらの経路を回避することもでき - 例えば、COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2の膜糖タンパク質Mは、MAVSと相互作用し、MAVSの凝集および抗ウイルス応答の活性化を損なうことができる。本発明者らの前臨床試験において、コロナウイルス-229Eに感染し、UVA光で処理された気管細胞はまた、コロナウイルス-229Eスパイクタンパク質の減少を示し、これは、UVA光がまたSARS-CoV-2の効果的な処置であり得ることを本発明者らに示した。
【0135】
SARS-CoV-2感染の主要な部位は肺であり、これは特徴的な両側のすりガラス陰影を示し、急性呼吸器ウイルス感染およびそれに続く炎症反応は、肺機能の低下および死をもたらし得る。二次的な細菌および真菌感染症も一般的であり、人工呼吸器関連肺炎(VAP)は機械的に換気された患者の31%で発生する。SARS-CoV-2の潜在的な治療法としてのUVA光の安全性および有効性を試験するために、本発明者らは、気管内チューブに挿入されて重症COVID-19対象にUVA光を送達することができる新しいUVA LEDベースのカテーテルデバイスを開発した。全員がベースライン時に世界保健機関(WHO)症状重症度スコア9を有した(10は死亡である)、機械的に換気されたCOVID-19対象の小規模なパイロット研究において、気管内送達UVA光で処置された(5日間毎日20分間処置された)対象は、気管内吸引液中で療法の6日目までに3.2のSARS-CoV-2ウイルス負荷の平均log10減少を示し(p<0.001)、ウイルス負荷のこれらの減少は、WHO症状重症度スコアの改善と相関した。さらに、気管のごく一部のみがUVA光へ曝露されたという事実にもかかわらず、改善の規模は、UVA光の効果がUVAへ直接曝露された細胞に限定されず、しかし隣接する細胞にも伝達され得るという可能性を示した。本研究において、本発明者らは、30~40%コンフルエンシーの細胞をNB UVA光へ曝露した場合、より低いUVA強度(2mW/cm2)ではMAVSの増加は見られず、MAVSの増加が検出される前により高いUVA強度(5mW/cm2)が必要であることを見出した。対照的に、細胞をコンフルエント単層に増殖させた場合、MAVSレベルはより低い強度のUVA光(2mW/cm2)に応答して増加した。この知見は、UVA光に応答したMAVSの増加が他の細胞へ伝達され得るという仮説を支持した。
【0136】
この伝達の根底にある潜在的なメカニズムを探究するために、本発明者らは、最初にUVA曝露細胞から上澄みを採取し、それらをUVA光へ曝露されなかった細胞の新鮮なプレートへ添加した。これらの細胞ではMAVS発現レベルの増加は見られず、分泌因子は関与しなかったことを示している。次に、細胞質因子が関与したかどうかを探究するために、本発明者らは、UVA曝露細胞および非曝露対照を溶解させ、溶解物をUVA光へ曝露されなかった細胞の新鮮なプレートへ添加した。UVA曝露細胞由来の溶解物と共にインキュベートされたナイーブHTEpC細胞ではMAVSの増加への傾向があったが、本研究においてこれは有意性には達しなかった。UVA光へ直接曝露されたHTEpC細胞中、およびUVA光から遮断された同じプレート由来の隣接領域中のMAVSレベルを比較した場合、本発明者らは、MAVSは領域1(UVA光へ直接曝露された)における細胞中で増加しただけでなく、直接UVA光から遮断された隣接領域2、3、および4における細胞中でも、UVA曝露細胞からの距離の増加と共に減少する勾配で増加したことを見出した。これらの知見は、UVA光に応答したMAVSの増加が、直接曝露された細胞から隣接する未曝露細胞へ伝達され得ることを確認し、細胞間シグナル伝達が関与することを示しているが、関与するメカニズムを決定するにはさらなる研究が必要である。
【0137】
UVAは、ウイルスに対する自然細胞性免疫を増強する可能性を有し得る。例えば、SARS-CoV-2はMAVSを抑制し、したがって、UVA光がこの抑制を無効にするメカニズムを理解することが重要であろう。これは一本鎖ウイルスRNAに対する損傷を含み得る。加えて、このMAVS活性化の効果は、インビボモデルで研究するために重要であり得る。限られたデータは、MAVSおよびその結果として生じるインターフェロンγの細胞内産生が、感染細胞を攻撃するために循環免疫細胞応答を引き付け得ることを示している。興味深いことに、本発明者らの以前のインビトロ研究において、コロナウイルス229Eは急激な細胞死を引き起こし、これはUVAによって軽減された。この細胞サルベージは、恐らくMAVSが細胞サルベージ経路である(細胞溶解ではない)ことを示している。これはまた、COVID-19を有する挿管された重症対象におけるUVAの最初のヒト研究によって裏付けられている。2人の患者が5日間のUVA適用後に気管支鏡検査を受けた。細胞剥離の炎症の巨視的証拠はなかった。
【0138】
結論として、本研究は、UVA光が自然細胞性免疫に影響を与えることができる可能性のあるメカニズムを解明し始める。本研究において、UVAはヒト線毛気管上皮細胞中のMAVSの発現を増加させるようである。この発現は、光へ曝露されなかった隣接細胞へ伝達可能であるようである。さらに、本発明者らの結果は、MAVSの増加のこの伝達が、細胞間コミュニケーションおよび恐らく細胞質(しかし分泌ではない)因子を伴うことを示している。この知見は、インビトロにおいておよびCOVID-19を有する重症患者のヒト研究において見られたUVAの利点を支持し得る。この知見は、SARS-CoV-2、他のコロナウイルス、およびインフルエンザなどの他のRNA呼吸器ウイルスの処置について幅広い暗示を有し得る。このメカニズムが特定の呼吸器ウイルス性疾患の季節性における重要な要因であるかどうかを判断するには、さらなる研究が必要である。
【0139】
本発明の様々な態様が上記の詳細な説明に記載されている。これらの説明は上記の態様を直接記載するが、当業者は、本明細書に示され記載される特定の態様に対する改変および/または変形を想到し得ることが理解される。この説明の範囲内にある任意のそのような改変または変形は、同様にその中に含まれることが意図される。特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲中の単語および語句には、適用可能な技術分野の当業者に通常の慣れ親しんだ意味が与えられることが、本発明者らの意図である。
【0140】
本出願を出願するこの時点で本出願人に知られている本発明の様々な態様の前述の説明は、例示および説明の目的のために提示され、意図されている。本説明は、網羅的であるようにも、または本発明を開示された正確な形態に限定するようにも意図するものではなく、上記の教示に照らして多くの改変および変形が可能である。記載された態様は、本発明の原理およびその実用化を説明し、様々な態様において、また、企図される特定の使用に適している様々な改変を加えて、当業者が本発明を利用することを可能にするのに役立つ。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の態様に限定されるものではないことが意図される。
【0141】
本発明の特定の態様が示され記載されているが、本明細書の教示に基づいて、本発明およびそのより広い局面から逸脱することなく変更および改変が行われ得、したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲内にあるすべてのそのような変更および改変をそれらの範囲内に包含するであろうことが、当業者に明らかであろう。一般に、本明細書で使用される用語は、「オープンな」用語として一般的に意図されることが当業者によって理解されるであろう(例えば、用語「含む」は「含むがこれらに限定されない」と解釈されるべきであり、用語「有する」は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、用語「含む」は「含むがこれらに限定されない」と解釈されるべきであるなど)。
【0142】
本明細書において使用される場合、用語「含むこと」または「含む」は、態様に有用である、組成物、方法、およびその各成分(複数可)に関して使用され、しかし、有用であるかどうかにかかわらず、特定されていない要素を含めることに開放されている。一般に、本明細書で使用される用語は、「オープンな」用語として一般的に意図されることが当業者によって理解されるであろう(例えば、用語「含む」は「含むがこれらに限定されない」と解釈されるべきであり、用語「有する」は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、用語「含む」は「含むがこれらに限定されない」と解釈されるべきであるなど)。オープンエンドの用語「含む」は、包含する、含有する、または有するなどの用語の同義語として、本発明を記載および特許請求するために本明細書において使用されるが、本発明またはその態様は、代わりに、「からなる」または「本質的にからなる」などの代替用語を使用して記載されてもよい。
【国際調査報告】