(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】生体試料を分析するためのマーカー、方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20240528BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20240528BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240528BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20240528BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20240528BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20240528BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240528BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G01N21/64 F
G01N21/78 C
G01N33/53 M
G01N33/536 D
G02B21/00
C12Q1/6806 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571595
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2021087558
(87)【国際公開番号】W WO2022242896
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/063310
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/066645
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/073819
(32)【優先日】2021-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ゼーレン アルスハイマー
(72)【発明者】
【氏名】カイ ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ブラドル
【テーマコード(参考)】
2G043
2H052
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA02
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2H052AA09
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2H052AC15
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4B063QS28
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4B063QX02
(57)【要約】
生体試料(702)中の所定の構造体(102)をマーキングするためのマーカー(100)は、マーカーベース(104)を含む。マーカーベース(104)は、試料(702)の所定の構造体(102)に付着するように構成されたアフィニティ試薬(106)と、少なくとも2つの付着部位(110a,110b,110c)を有する、アフィニティ試薬(106)に連結された付着構造体(108)と、を有する。付着構造体(108)は、付着部位(110a,110b,110c)同士の間に配置された少なくとも1つの開裂部位(112a,112b)を含む。マーカーベース(104)から少なくとも1つの付着部位(110a,110b,110c)を切り離すために、付着構造体(108)を、少なくとも1つの開裂部位(112a,112b)において開裂剤によって切断することができる。マーカー(100)は、少なくとも2つのレポーター(114a,114b,114c)をさらに含み、各レポーター(114a,114b,114c)は、付着部位(110a,110b,110c)のうちの1つに付着するように構成された相補的付着部位(118a,118b,118c)を有するリンカー構造体(116)と、リンカー構造体(116)に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素(120a~120e)の組み合わせと、を含む。色素の組み合わせは、各レポーター(114a,114b,114c)にとって一義的である。相補的付着部位(118a,118b,118c)は、各レポーター(114a,114b,114c)にとって一義的であり、かつ各レポーター(114a,114b,114c)がマーカーベース(104)のそれぞれ異なる付着部位(110a,110b,110c)に付着するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料(702)中の所定の構造体(102)をマーキングするためのマーカー(100)であって、
前記マーカー(100)は、マーカーベース(104)および少なくとも2つのレポーター(114a,114b,114c)を含み、
前記マーカーベース(104)は、
前記試料(702)の前記所定の構造体(102)に付着するように構成されたアフィニティ試薬(106)と、
少なくとも2つの付着部位(110a,110b,110c)を有する、前記アフィニティ試薬(106)に連結された付着構造体(108)と、
を有し、
前記付着構造体(108)は、前記付着部位(110a,110b,110c)同士の間に配置された少なくとも1つの開裂部位(112a,112b)を含み、
前記マーカーベース(104)から少なくとも1つの付着部位(110a,110b,110c)を切り離すために、前記付着構造体(108)は、前記少なくとも1つの開裂部位(112a,112b)において開裂剤によって切断可能であり、
各レポーター(114a,114b,114c)は、
前記付着部位(110a,110b,110c)のうちの1つに付着するように構成された相補的付着部位(118a,118b,118c)を有するリンカー構造体(116)と、
前記リンカー構造体(116)に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素(120a~120e)の組み合わせと、
を含み、
前記蛍光色素の組み合わせは、各レポーター(114a,114b,114c)にとって一義的であり、
前記相補的付着部位(118a,118b,118c)は、各レポーター(114a,114b,114c)にとって一義的であり、各レポーター(114a,114b,114c)が前記マーカーベース(104)のそれぞれ異なる付着部位(110a,110b,110c)に付着するように構成されている、
マーカー(100)。
【請求項2】
前記リンカー構造体(116)は、オリゴヌクレオチドまたはペプチドによって形成されている、
請求項1記載のマーカー(100)。
【請求項3】
前記開裂部位(112a,112b)は、酵素開裂部位(112a,112b)であり、前記付着構造体(108)を、前記開裂部位(112a,112b)において酵素開裂剤によって切断することができる、
請求項1または2記載のマーカー(100)。
【請求項4】
前記酵素開裂部位(112a,112b)は、制限酵素の標的部位、CRISPR/Cas標的、リコンビナーゼ標的部位、特にloxP部位もしくはフリッパーゼ標的部位、またはカスパーゼ標的部位である、
請求項3記載のマーカー(100)。
【請求項5】
前記開裂部位(112a,112b)は、光開裂部位(112a,112b)であり、前記付着構造体(108)を、前記開裂部位(112a,112b)において光分解、特にUV光によって切断することができる、
請求項1または2記載のマーカー(100)。
【請求項6】
前記付着部位(110a,110b,110c)および/または前記相補的付着部位(118a,118b,118c)は、オリゴヌクレオチドである、
請求項1から5までのいずれか1項記載のマーカー(100)。
【請求項7】
生体試料(702)を分析するための方法であって、前記方法は、次のステップ、すなわち、
a)請求項1から6までのいずれか1項記載の少なくとも1つのマーカー(100)を提供するステップと、
b)マーカーベース(104)および第1のレポーター(114a,114b,114c)を前記試料(702)内に導入するステップと、
c)前記第1のレポーター(114a,114b,114c)の蛍光色素(120a~120e)を励起するために、少なくとも1つの第1の励起光を前記試料(702)に向けるステップと、
d)前記試料(702)の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素(120a~120e)によって放出された蛍光光から、少なくとも1つの第1の読み出しを生成するステップと、
e)前記マーカーベース(104)から前記第1のレポーター(114a,114b,114c)を切り離すために、少なくとも1つの開裂剤を前記試料(702)内に導入するステップと、
f)第2のレポーター(114a,114b,114c)を前記試料(702)内に導入するステップと、
g)前記第2のレポーター(114a,114b,114c)の蛍光色素(120a~120e)を励起するために、少なくとも1つの第2の励起光を前記試料(702)に向けるステップと、
h)前記試料(702)の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素(120a~120e)によって放出された蛍光光から、少なくとも1つの第2の読み出しを生成するステップと、
i)前記第1の読み出しと前記第2の読み出しとに基づいて、前記読み出された体積体内に前記マーカー(100)が存在するか否かを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項8】
前記方法は、前記マーカー(100)の前記アフィニティ試薬(106)を、架橋剤によって前記所定の構造体(102)に架橋するさらなるステップを含む、
請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記第1の読み出しおよび/または前記第2の読み出しを生成するステップは、励起された前記蛍光色素(120a~120e)によって放出された前記蛍光光を、複数の検出チャネルに分けることを含み、
前記検出チャネルは、前記蛍光色素(120a~120e)の少なくとも1つの発光特性に対応し、
前記発光特性は、発光スペクトル、蛍光強度および蛍光寿命のうちの1つである、
請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記マーカー(100)は、前記第1のレポーターおよび第2のレポーター(114a,114b,114c)の各蛍光色素がそれぞれ前記第1の読み出しおよび前記第2の読み出しの1つの検出チャネルに対応するように提供される、
請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記レポーター(114a,114b,114c)のすべての蛍光色素(120a~120e)は、色素の複数の集合に分割され、
同じ集合内の各蛍光色素は、実質的に1つの波長スペクトルまたは同じ波長スペクトルによって励起可能であり、
ステップc)およびステップg)において、各前記集合の前記蛍光色素(120a~120e)を励起するために、色素の集合ごとに少なくとも1つの励起光が前記試料(702)に向けられ、
ステップd)およびステップh)において、前記試料(702)の前記読み出された体積体内に位置する、励起された前記蛍光色素(120a~120e)によって放出された蛍光光から、色素の集合ごとに少なくとも1つの読み出しが生成される、
請求項7から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
ステップc)およびステップd)において、前記励起光は、互いに時間的に追従するシーケンスで前記試料(702)に向けられる、
請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記第1のレポーター(114a,114b,114c)は、前記第2の励起光が前記試料(702)に向けられる前に、前記試料(702)から洗い流される、
請求項7から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記第1の読み出しおよび/または前記第2の読み出しは、前記読み出された体積体の少なくとも1つの画像、または前記読み出された体積体の読み出された画像データストリームを含んでいる、
請求項7から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記第1の読み出しおよび/または前記第2の読み出しを生成するために、前記試料(702)のハイパースペクトル画像を捕捉するさらなるステップを含む、
請求項7から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記方法は、特に、カプセル化、ポリマーマトリクス埋め込み、および共結晶化のうちの少なくとも1つによって遮蔽された環境内に前記蛍光色素を配置することによって、少なくとも1つの蛍光色素の蛍光寿命を安定化させるさらなるステップを含む、
請求項7から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
請求項7から16までのいずれか1項記載の方法を実施するように適合させられた、生体試料(702)を分析するための装置(700)。
【請求項18】
前記装置(700)は、第1の読み出しおよび第2の読み出しを生成するように構成された、顕微鏡、プレートリーダー、細胞測定器、イメージング細胞測定器または蛍光活性化細胞選別機を備える、
請求項17記載の装置(700)。
【請求項19】
前記装置(700)は、前記蛍光色素(120a~120e)の蛍光発光強度、蛍光寿命、蛍光寿命を表す値、発光スペクトル、励起指紋および蛍光異方性のうちの少なくとも1つを決定するように構成されている、
請求項17または18記載の装置(700)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料内の所定の構造体をマーキングするためのマーカーに関する。本発明はまた、生体試料を分析するための方法に関する。本発明はさらに、生体試料を分析するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学の分野における重要な問題に取り組むために、生体試料、例えば組織試料または細胞培養内の特定の構造体を正確に識別しかつその位置を特定することが重要である。マーカーを、特定の構造体、例えば特定の生体分子に結合している試料内に導入することによってこれを行うことができる。これらのマーカーは、概して、対象の構造体に付着するアフィニティ試薬と、アフィニティ試薬に直接的に結合されているか、または他の手段、例えば、二次アフィニティ試薬によってアフィニティ試薬に付着するか、のいずれかである1つまたは複数の蛍光色素と、を備える。
【0003】
蛍光顕微鏡法は、例えば、高い空間分解能での試料のイメージングを可能にするのに、概して1個~5個の少ない数の異なる蛍光色素しか必要としない。利用可能な色素は、同じ実験において、細胞の種類を識別するために使用されるすべてのマーカー、関心対象のタンパク質などの機能マーカー、および一般的な形態マーカーに分配されなければならない。このことは、多くのイメージング実験において、細胞の種類の識別が単に不十分であることを意味している。例えば、遺伝子制御ネットワーク(GRN)の分析に基づいて、より信頼性が高く、堅牢な、細胞の種類の識別を可能にするアプローチが近年は存在しているが、これらのアプローチは、試料から読み出される、極めて多くの数の異なるマーカーを必要とする。
【0004】
文献PCT/EP2021/063310およびPCT/EP2021/073819は、それぞれ、1回の蛍光顕微鏡法実験において使用可能なマーカーの数を増やすためのマーカーおよび方法を提案している。各マーカーは、原則的に、各マーカーを識別するコードを形成する色素の一義的な組み合わせを含んでいる。しかし、特に、多数のマーカーが互いに近接している場合には、ある程度の曖昧さが残る。これらの曖昧さを解消するために、これらのマーカーを切り離し、マーカーの種々異なる集合での画像取得を繰り返す必要がある。このプロセスには、時間および費用がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、低いコストおよび時間消費で、多数の所定の構造体の確実な識別を可能にする、生体試料中の所定の構造体をマーキングするためのマーカー、生体試料を分析するための方法、および生体試料を分析するための装置を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題は、独立請求項の主題によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項および以降の説明において規定されている。
【0007】
生体試料中の所定の構造体をマーキングするための提案されるマーカーは、マーカーベースを含む。マーカーベースは、試料の所定の構造体に付着するように構成されたアフィニティ試薬と、少なくとも2つの付着部位を有する、アフィニティ試薬に連結された付着構造体と、を有する。付着構造体は、付着部位同士の間に配置された少なくとも1つの開裂部位を含む。マーカーベースから少なくとも1つの付着部位を切り離すために、付着構造体を、少なくとも1つの開裂部位において開裂剤によって切断することができる。マーカーは、少なくとも2つのレポーターをさらに含み、各レポーターは、付着部位のうちの1つに付着するように構成された相補的付着部位を有するリンカー構造体と、リンカー構造体に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素の組み合わせと、を含む。色素の組み合わせは、各レポーターにとって一義的である。相補的付着部位は、各レポーターにとって一義的であり、かつ各レポーターがマーカーベースのそれぞれ異なる付着部位に付着するように構成されている。
【0008】
アフィニティ試薬は、特に、抗体、単分域抗体(ナノボディとしても知られる)、少なくとも2つの単分域抗体の組み合わせ、アプタマー、オリゴヌクレオチド、モルホリノ、所定のRNAに相補的なPNA、DNA標的シーケンス、リガンド(例えば薬剤または薬剤様分子)、または毒素、例えば、ファロイジン、アクチンフィラメントに結合する毒素であり得る。所定の構造体は、特定の生体分子、例えば、タンパク質、RNAシーケンス、ペプチド、DNAシーケンス、代謝産物、ホルモン、神経伝達物質、ビタミンまたは微量栄養素であってよい。所定の構造体は、1つの分析物、例えば、金属イオン、特に重金属イオン、Cd(II)、Co(II)、Pb(II)、Hg(II)またはU(VI)などであってもよい。
【0009】
マーカーベースのアフィニティ試薬は、試料内に導入される際に、所定の構造体に自身を付着させる。所定の構造体は、分析物または標的または標的分子とも称される。アフィニティ試薬は、付着構造体に連結されているので、付着構造体も同様に、所定の構造体に連結されることとなる。これによって、マーカーベースは、種々異なるレポーターが所定の構造体に付着することを可能にする。各レポーターは、複数の色素の一義的な組み合わせを含み、この一義的な組み合わせが、各レポーターを識別するコードを形成する。これによって、所定の構造体が蛍光イメージングのために可視化される。
【0010】
開裂部位は、リンカー構造体に沿って付着部位同士の間に配置されている。開裂部位において付着構造体を切断することによって、付着部位のうちの1つが付着構造体から切り離される。切り離された付着部位にレポーターのうちの1つが連結されている場合には、そのレポーターも同様に切り離される。つまり、切り離されたレポーターは、もはや所定の構造体には連結されておらず、試料から洗い流すことができる。切り離されたレポーターが洗い流された後、残っている付着部位に自身を付着させる別のレポーターを試料内に導入することができる。したがって、マーカーによって、所定の構造体をサイクル式にまたはラウンドに基づいた方式で順次にマーキングまたはエンコードすることが可能になる。これによって、第1のラウンドのマーキングにおいて生じる曖昧さを、以降のラウンドのマーキングにおいて、アフィニティ試薬の切り離しまたは再導入を必要とせずに解消することができる。これによって、結果として、多数のマーカー、すなわち識別されるべき多数の所定の構造体を伴う実験のコストおよび時間の浪費が減る。
【0011】
好ましい実施形態では、リンカー構造体は、オリゴヌクレオチドまたはペプチドによって形成されている。リンカー構造体は、蛍光色素を保持し、これらの蛍光色素を付着部位に連結することを可能にする。蛍光色素は、直接的に、すなわち共有的に、または間接的に、例えばアフィニティタグ-アフィニティリガンドの組み合わせによって、リンカー構造体に結合されていてよい。リンカー構造体自体は、1つまたは複数のオリゴヌクレオチド、例えばDNA、RNA、LNA、PNA、モルホリノまたは別の人工オリゴヌクレオチドを含んでいてよい。リンカー構造体は、ペプチドまたは他のDNA類似体もしくはRNA類似体も含んでいてよい。オリゴヌクレオチドとペプチドとが同様に、標準化された方法によって特定のニーズに適合するように合成されてよい。したがって、レポーターは簡単かつコスト効率よく製造され得る。
【0012】
別の好ましい実施形態では、開裂部位は、酵素開裂部位であり、付着構造体を、開裂部位において酵素開裂剤によって切断することができる。好ましくは、酵素開裂部位は、制限酵素の標的部位、CRISPR/Cas標的、リコンビナーゼ標的部位、特にloxP部位もしくはフリッパーゼ標的部位、またはカスパーゼ標的部位である。1つまたは複数のレポーターをマーカーから切り離すために、酵素開裂剤が試料内に導入される。酵素開裂剤が開裂部位において付着構造体を切断した後、付着構造体のうちの切断された部分と、付着構造体のこの部分に連結されているレポーターと、を試料から洗い流すことができる。酵素的開裂には、開裂部位のみを標的とし、これによって他の構造体への損傷を減らすという利点がある。
【0013】
別の好ましい実施形態では、開裂部位は、光開裂部位であり、付着構造体を、開裂部位において光分解、特にUV光によって切断することができる。光分解によって付着構造体を切断することは、非常に効率的であり、自動化が容易である。
【0014】
別の好ましい実施形態では、付着部位および/または相補的付着部位は、オリゴヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは、容易に、一義的なバーコード状の構造体にすることができる。したがって、特定のレポーターだけが特定の付着部位に自身を付着させるように、各付着部位とそれらの各相補的付着部位とを構成することができる。
【0015】
本発明はまた、生体試料を分析するための方法であって、この方法は、次のステップ、すなわち、a)上述のような少なくとも1つのマーカーを提供するステップと、b)マーカーベースおよび第1のレポーターを試料内に導入するステップと、c)第1のレポーターの蛍光色素を励起するために、少なくとも1つの第1の励起光を試料に向けるステップと、d)試料の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素によって放出された蛍光光から、少なくとも1つの第1の読み出しを生成するステップと、e)マーカーベースから第1のレポーターを切り離すために、少なくとも1つの開裂剤を試料内に導入するステップと、f)第2のレポーターを試料内に導入するステップと、g)第2のレポーターの蛍光色素を励起するために、少なくとも1つの第2の励起光を試料に向けるステップと、h)試料の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素によって放出された蛍光光から、少なくとも1つの第2の読み出しを生成するステップと、i)第1の読み出しと第2の読み出しとに基づいて、読み出された体積体内にマーカーが存在するか否かを決定するステップと、を含む方法にも関する。
【0016】
マーカーを試料内に導入する際には、第1のレポーターがマーカーベースの付着構造体に既に付着させられていてよい。択一的に、マーカーベースと第1のレポーターとは、試料内に別々に導入される。第1の励起光は、第1のレポーターの特定の蛍光色素に関連する1つの波長または波長スペクトルの光を含み得る。2つ以上の第1の励起光、例えば種々異なる光源によって放出される光が同時にまたは順次に使用されてよい。開裂剤は、開裂部位が前述した酵素開裂剤にとっての標的である場合には、酵素開裂剤であってよい。択一的に、開裂剤は、開裂部位が光分解によって切断可能である場合には、光、特にUV光であってよい。
【0017】
特に、生体試料を分析するための方法が適用される際には、請求項1記載のマーカーは、好ましくは少なくとも1つのレポーターを含み、この少なくとも1つのレポーターは、この少なくとも1つのレポーターにとって一義的であって、かつ付着部位のうちの1つに付着するように構成された相補的付着部位を有するリンカー構造体と、リンカー構造体に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素の組み合わせと、を含み、色素の組み合わせは、この少なくとも1つのレポーターにとって一義的である、ということが留意される。その後、好ましくは上述した方法のステップa)~e)が適用された後には、マーカーは、少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターを含み、この少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターは、この少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターにとって一義的であって、かつ別の異なる付着部位に付着するように構成された相補的付着部位と、リンカー構造体に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素の組み合わせと、を有し、この少なくとも1つのさらなるレポーターは、別の異なる付着部位に付着させられるように適合させられている。したがって、マーカーを少なくとも2つの部分から構成することが適している場合があり、第1の部分は、アフィニティ試薬を有するマーカーベースと、少なくとも2つの付着部位を有する、アフィニティ試薬に連結された付着構造体と、を含み、付着構造体は、付着部位と少なくとも1つのレポーターとの間に配置される少なくとも1つの開裂部位を含む。マーカーの第2の(および任意のさらなる)部分は、少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターを含むことができ、この少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターは、この少なくとも1つのさらなる(例えば、第2の)レポーターにとって一義的であって、かつ別の異なる付着部位に付着するように構成された相補的付着部位と、リンカー構造体に配置された少なくとも2つの異なる蛍光色素の組み合わせと、を有し、この少なくとも1つのさらなるレポーターは、別の異なる付着部位に付着させられるように適合させられている。
【0018】
この方法は、試料を分析するために上述の1つまたは複数のマーカーを使用する。マーカーは、試料中の所定の構造体を標的にして、これらの所定の構造体を視認可能かつ識別可能とするために使用される。個々のマーカーは、自身に付着させられたレポーターによって、放出された蛍光光に関する情報、特に蛍光色素の発光スペクトル、蛍光発光強度、または蛍光寿命、または励起指紋を含む第1の読み出しおよび第2の読み出しによって識別される。少なくとも2つの異なる読み出しが生成され、かつ各読み出しを生成するためにそれぞれ異なるレポーターが使用されるので、第1の読み出しの捕捉の間に生じる曖昧さを、後続の読み出しにおいて解消することができる。これによって、識別されるべき多数のマーカー、ひいては多数の所定の構造体を確実に識別すること、および分けることが可能になる。
【0019】
好ましい一実施形態では、この方法は、マーカーのアフィニティ試薬を、架橋剤によって所定の構造体に架橋するさらなるステップを含む。架橋剤、例えばグルタルアルデヒドは、アフィニティ試薬と所定の構造体との間の相互作用を安定化させる。これによって、レポーターを導入して切り離すサイクルを、アフィニティ試薬と所定の構造体との結合が破壊されることなくより多くの回数、実施することが可能になる。
【0020】
別の好ましい実施形態では、第1の読み出しおよび/または第2の読み出しを生成することは、励起された蛍光色素によって放出された蛍光光を、複数の検出チャネルに分けることを含む。検出チャネルは、蛍光色素の少なくとも1つの発光特性に対応する。発光特性は、発光スペクトル、蛍光強度および蛍光寿命のうちの1つである。好ましくは、マーカーは、第1のレポーターおよび第2のレポーターの各蛍光色素がそれぞれ第1の読み出しおよび第2の読み出しの1つの検出チャネルに対応するように提供される。これらのチャネルは、1回の読み出しに対する種々異なる蛍光色素の寄与を分けるために生成される。チャネルの生成は、スペクトルアンミキシング、蛍光寿命の決定、および蛍光色素の励起指紋の決定のうちの少なくとも1つを含み得る。スペクトルアンミキシング(スペクトルイメージングおよびリニアアンミキシングまたはチャネルアンミキシングとも称される)は、リニアアンミキシング、主成分分析、スペクトルの教師なし学習手段、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、(スペクトル)フェーザーアプローチ、およびモンテカルロアンミキシングアルゴリズムを含むさまざまな様式で実行され得るが、これらに限定されない。種々異なるマーカーに関連する蛍光色素間のクロストークを減らすために、これらの技術のうちのいくつかが使用されてよい。種々異なる蛍光色素からの寄与、すなわち、例えば読み出しの1つの画素における、オーバラップする発光スペクトルに起因するクロストークを分けるためにアンミキシング技術を使用することもできる。これらの技術を用いることによって、ノイズの低減に起因して、この方法の感度を大幅に上げることができる。さらに、蛍光色素、ひいてはレポーターを正確に識別するために、蛍光色素の蛍光寿命および励起指紋を使用することができる。これは、読み出しごとに、マーカーのより多くの集合を使用するために使用可能である。結果として、これは、1回の実験において使用することができるマーカーの総数を大幅に増やす。
【0021】
別の好ましい実施形態では、レポーターのすべての蛍光色素は、色素の複数の集合に分割される。同じ集合内の各蛍光色素は、実質的に1つの波長スペクトルまたは同じ波長スペクトルによって励起可能である。ステップc)およびステップg)において、各集合の蛍光色素を励起するために、色素の集合ごとに少なくとも1つの励起光が試料に向けられる。ステップd)およびステップh)において、試料の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素によって放出された蛍光光から、色素の集合ごとに少なくとも1つの読み出しが生成される。蛍光色素の各集合は、種々異なる励起光によって独立して励起され得るので、各集合によって放出される蛍光光を独立して検出することもできる。これは、それぞれが種々異なる集合によって放出された蛍光光を捕捉する複数の読み出しを生成するために使用される。各読み出しにおいて、種々異なる蛍光色素が励起され、これによって、種々異なる色素のより堅牢な識別、ひいてはレポーターと、試料の関連する所定の構造体と、のより堅牢な識別が可能になる。
【0022】
別の好ましい実施形態では、ステップc)およびステップd)において、励起光は、互いに時間的に追従するシーケンスで試料に向けられる。好ましくは、異なる励起光の適用の間の時間は、蛍光色素の蛍光寿命よりも長い。これによって、異なる蛍光色素間のクロストークを減らすことができ、さらにこの方法の感度が向上する。
【0023】
別の好ましい実施形態では、第1のレポーターは、第2の励起光が試料に向けられる前に、試料から洗い流される。結合されていないレポーターを洗い流すことによって、確実に、自身の関連する所定の構造体に実際に付着させられたマーカーのみが検出される。したがって、結合されていないレポーターを洗い流すことによって、試料中の構造体の誤識別が防止され、この方法はより信頼性のあるものとなる。
【0024】
別の好ましい実施形態では、第1の読み出しおよび/または第2の読み出しは、読み出された体積体の少なくとも1つの画像、または読み出された体積体の読み出された画像データストリームを含んでいる。特に、この方法は、第1の読み出しおよび/または第2の読み出しを生成するために、試料のハイパースペクトル画像を捕捉するさらなるステップを含む。限られた数の波長帯域、典型的には10未満または10前後の波長帯域を捕捉するマルチスペクトルイメージングとは対照的に、ハイパースペクトルイメーシングは、1ピクセル当たり数十または数百の波長帯域を捕捉する。換言すれば、ハイパースペクトルイメージングは、非常に高いスペクトル分解能を有する。これによって、蛍光色素の発光スペクトルに基づいて、蛍光色素をより微細に区別することが可能になり、これによって、この方法の感度および信頼性が向上する。
【0025】
別の好ましい実施形態では、この方法は、特に、カプセル化、ポリマーマトリクス埋め込み、および共結晶化のうちの少なくとも1つによって遮蔽された環境内に蛍光色素を配置することによって、少なくとも1つの蛍光色素の蛍光寿命を安定させるさらなるステップを含む。蛍光寿命の安定化によって、安定した蛍光色素の寿命に基づいて、安定した蛍光色素の識別の信頼性を大幅に高めることができる。他の点では等しい蛍光色素のうちのいくつかの蛍光色素の蛍光寿命を延ばすためにこの方法を使用することもでき、これは、さらなる区別化特徴を提供し、これによって、1回の実験で使用することができる蛍光色素の数が増える。
【0026】
本発明はさらに、生体試料を分析するための装置に関する。装置は、上述の方法を実施するように適合させられている。
【0027】
装置は、上述の方法と同じ利点を有し、方法に関する従属請求項の特徴を利用して補足され得る。
【0028】
好ましい実施形態では、装置は、第1の読み出しおよび第2の読み出しを生成するように構成された、顕微鏡、プレートリーダー、細胞測定器、イメージング細胞測定器または蛍光活性化細胞選別機を備える。好ましくは、顕微鏡は、レンズレス顕微鏡、ライトフィールド顕微鏡、ワイドフィールド顕微鏡、蛍光ワイドフィールド顕微鏡、ライトシート顕微鏡、走査型顕微鏡、スピニングディスク顕微鏡、または共焦点走査型顕微鏡である。
【0029】
別の好ましい実施形態では、装置は、蛍光色素の蛍光発光強度、蛍光寿命、蛍光寿命を表す値、発光スペクトル、励起指紋および蛍光異方性のうちの少なくとも1つを決定するように構成されている。
【0030】
以降では、特定の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態による、生体試料内の所定の構造体をマーキングするためのマーカーの概略図を示す図である。
【
図2】第1の開裂剤を導入した後の、
図1によるマーカーの概略図を示す図である。
【
図3】第2のレポーターを導入した後の、
図1および
図2によるマーカーの概略図を示す図である。
【
図4】第2の開裂剤を導入した後の、
図1~
図3によるマーカーの概略図を示す図である。
【
図5】第3のレポーターを導入した後の、
図1~
図4によるマーカーの概略図を示す図である。
【
図6】
図1~
図5を参照して上述したマーカーを利用して生体試料を分析するための方法のフローチャートを示す図である。
【
図7】生体試料を分析するための装置の概略図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1は、一実施形態による、生体試料内の所定の構造体102をマーキングするためのマーカー100の概略図である。
【0033】
所定の構造体102は、試料702(
図7を参照)内に位置する、特定の生体分子、または1つの分析物、例えば金属イオンであり得る。
図1では、所定の構造体102は、五角形として示されている。
【0034】
マーカー100は、マーカーベース104を有し、マーカーベース104は、アフィニティ試薬106と、アフィニティ試薬106に連結された付着構造体108と、を含む。アフィニティ試薬106は、所定の構造体102に自身を付着させ、これによって、付着構造体108を所定の構造体102に連結するように構成されている。架橋剤、例えばグルタルアルデヒドを、アフィニティ試薬106と所定の構造体102との間の結合を強化するために使用することができる。付着構造体108は、長鎖として例示的に形成されており、この長鎖に沿って3つの付着部位110a,110b,110cが形成されている。各付着部位110a,110b,110cは、各付着部位110a,110b,110cにとって一義的であるそれぞれ異なる分子を含む。例えば、付着部位110a,110b,110cは、ヌクレオチドの一義的なシーケンスを含むオリゴヌクレオチドなどのオリゴマーによって形成されてよい。3つの付着部位110a,110b,110cの間には、2つの開裂部位112a,112bが配置されている。付着構造体108を、2つの開裂部位112a,112bにおいて、開裂剤200,400(
図2および
図4を参照)によって、付着部位110a,110b,110cを付着構造体108から切り離すために切断することができる。第1の開裂剤200によって第1の開裂部位112aが切断されると、第1の付着部位110aが切り離される。第2の開裂剤400によって第2の開裂部位112bが切断されると、第2の付着部位110bが切り離され、第3の付着部位110cだけがマーカーベース104に連結されたまま残る。付着構造体108の切断を、
図2および
図4を参照して、以降でより詳細に説明する。
【0035】
マーカー100は、レポーター114a,114b,114cをさらに含み、
図1には、これらのレポーター114a,114b,114cのうちの1つが示されている。レポーター114a,114b,114cは、長鎖として例示的に形成されたリンカー構造体116を含む。リンカー構造体116は、付着構造体108の第1の付着部位110aに付着するように構成された相補的付着部位118aを含む。相補的付着部位118aは、関連する付着部位110aの分子に対して相補的な分子を含む。リンカー構造体116に沿って、蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eが配置されている。この実施形態では、蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eは、二次構造体を介してリンカー構造体116に間接的に結合されている。
図1では、蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eは、オリゴヌクレオチドシーケンスに結合されており、このオリゴヌクレオチドシーケンスは、リンカー構造体116上に配置された相補的なオリゴヌクレオチドシーケンスに付着させられている。しかし、蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eが、リンカー構造体116に直接的に、すなわち共有的に結合されてもよい。これらのレポーター114a,114b,114cの各々の蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eの組み合わせは、各レポーター114a,114b,114cにとって一義的である。これによって、レポーター114a,114b,114cを一義的に識別することができる。1つの色素の代わりに蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eの組み合わせを用いることによって、一義的に識別可能なレポーター114a,114b,114cの数が大幅に増える。例えば、10個の異なる蛍光色素が使用される。2つの色素の一義的な組み合わせは、45通りあり、5つの色素の一義的な組み合わせは、252通りある。つまり、252個までの異なる所定の構造体102がマーキング可能であり、かつ10個の蛍光色素のみによって一義的に識別可能である。
【0036】
図2は、第1の開裂剤200を導入した後の、
図1によるマーカー100の概略図である。
【0037】
この実施形態では、開裂剤200,400は、酵素開裂剤である。択一的に、開裂剤は、光分解によって開裂部位112a,112bにおいて付着構造体108を切断する光、特にUV光であってもよい。
図2では、付着構造体108は、第1の開裂剤200によって第1の付着部位110aと第2の付着部位110bとの間で切断される。これによって、第1の付着部位110aおよび第1のレポーター114aがマーカー100から切り離される。次いで、切り離されたレポーター114aが、試料702から洗い流されてよい。次のステップでは、第2のレポーター114b(
図3を参照)を試料702内に導入することができる。これについては、
図3を参照しながら以降で説明する。
【0038】
図3は、第2のレポーター114bを導入した後の、
図1および
図2によるマーカー100の概略図である。
【0039】
第2のレポーター114bは、第1のレポーター114aとは異なる、蛍光色素120a’,120b’,120c’,120d’,120e’の組み合わせを含む。第2のレポーター114bの相補的付着部位118bは、付着構造体108の第2の付着部位110bに自身を付着させるように構成されている。したがって、第2のレポーター114bは、
図3では第2の付着部位110bに付着させられている。
【0040】
図4は、第2の開裂剤400を導入した後の、
図1~
図3によるマーカー100の概略図である。
【0041】
図4では、付着構造体108は、第2の開裂剤400によって再切断される。この切断は、第2の付着部位110bと第3の付着部位110cとの間で行われ、これによって、第2の付着部位110bおよび第2のレポーター114bがマーカーベース104から切り離される。次いで、切り離された第2のレポーター114bが、試料702から洗い流されてよい。次のステップでは、第3のレポーター114c(
図5を参照)を試料702内に導入することができる。これについては、
図5を参照しながら以降で説明する。
【0042】
図5は、第3のレポーター114cを導入した後の、
図1~
図4によるマーカー100の概略図である。
【0043】
第3のレポーター114cは、第1のレポーター114aおよび第2のレポーター114bとはさらに異なる、蛍光色素120a’’,120b’’,120c’’,120d’’,120e’’の別の組み合わせを含む。第3のレポーター114cの相補的付着部位118cは、付着構造体108の第3の付着部位110cに自身を付着させるように構成されている。したがって、第3のレポーター114cは、
図5では第3の付着部位110cに付着させられている。
【0044】
図1~
図5には、生体試料702を分析するためにマーカー100を使用する方法が示されており、この方法では、所定の構造体102をサイクル式にまたはラウンドに基づいた方式でマーキングするために、3つの異なるレポーター114a,114b,114cが使用される。この方法を、
図6を参照して以降で説明する。この方法を、
図7を参照して以降で説明する装置によって実施することができる。
【0045】
図6は、
図1~
図5を参照して上述したマーカー100を利用して生体試料702を分析するための方法のフローチャートである。
【0046】
ステップS600において、プロセスが開始される。ステップS602において、上述のような少なくとも1つのマーカー100が提供される。マーカー100は、例えば、溶液または凍結乾燥固体で提供されてよい。特に、マーカーベース104と種々異なるレポーター114a,114b,114cとは、別々に提供されている。
【0047】
ステップS604において、マーカーベース104が試料702内に導入される。マーカーベース104を試料702内に導入する際には、第1のレポーター114aがマーカーベース104の付着構造体108に既に付着させられていてよい。択一的に、マーカーベース104と第1のレポーター114aとは、試料702内に別々に導入される。マーカーベース104が、自身の各所定の構造体102に自身を付着させる時間を有し、第1のレポーター114aが、自身の各マーカーベース104に自身を付着させる時間を有した後、結合されていないマーカーベース104およびレポーター114a,114b,114cは、任意のステップS606において試料702から洗い流される。マーカー100が自身を付着させるはずの特定の所定の構造体102が、試料702内に存在しない場合がある。したがって、結合されていないマーカーベース104およびレポーター114a,114b,114cを洗い流すことによって、以降において、自身の関連する所定の構造体102に実際に付着させられたマーカー100のみが確実に検出される。また、すべてのマーカーベース104が、自身の関連する所定の構造体102に結合するというわけではない場合、またはすべてのレポーター114aが、自身の関連する付着部位110a,110b,110cに結合するというわけではない場合もある。この場合には、結合されていないマーカーベース104およびレポーター114a,114b,114cを洗い流すことによって、試料702中の構造体の誤識別が防止される。
【0048】
ステップS608において、第1のレポーター114aの蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eを励起するために、少なくとも1つの第1の励起光が試料702に向けられる。第1の励起光は、第1のレポーター114aの特定の蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eに関連する1つの波長または波長スペクトルの光を含み得る。2つ以上の第1の励起光、例えば種々異なる光源によって放出される光が同時にまたは順次に使用されてよい。励起された蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eは、蛍光光を放出し、この蛍光光は、ステップS610において、少なくとも1つの第1の読み出しを生成するために使用される。第1の読み出しは、蛍光光に関する情報、特に、蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eの発光スペクトル、蛍光発光強度または蛍光寿命を含む。第1の読み出しからの情報は、ステップS612において、第1のレポーター114a,114b,114cの蛍光色素120a,120b,120c,120d,120e、したがって、試料702の読み出された体積体内に存在するマーカー100を識別するために使用される。ステップS604~S612は、試料702を染色してイメージングする第1のサイクルまたはラウンドに対応する。
【0049】
任意選択的に、試料702内のすべてのマーカー100が、第1の読み出しのみから、少なくとも所定の確実性で識別された場合、プロセスは、ステップS612の後に終了してよい。択一的に、プロセスは、ステップS614において継続される。
【0050】
ステップS614において、第1の開裂剤200が試料702内に導入される。開裂剤200,400は、開裂部位112a,112bが前述した酵素開裂剤にとっての標的である場合には、酵素開裂剤であってよい。択一的に、開裂剤200,400は、開裂部位112a,112bが光分解によって切断可能である場合には、光、特にUV光であってよい。第1の付着部位110aと第2の付着部位110bとの間で付着構造体108が切断された後、ステップS616において、切り離された第1のレポーター114aが洗い流される。ステップS618において、第2のレポーター114bが試料702内に導入される。ステップS620において、第2のレポーター114bの蛍光色素120a’,120b’,120c’,120d’,120e’を励起するために、第2の励起光が試料702に向けられる。第2の励起光も、第2のレポーター114bの特定の蛍光色素120a’,120b’,120c’,120d’,120e’に関連する1つの波長または波長スペクトルの光を含み得る。同様に、2つ以上の第2の励起光が使用されてよい。ステップS622において、試料702の読み出された体積体内に位置する、励起された蛍光色素120a’,120b’,120c’,120d’,120e’によって放出された蛍光光から、少なくとも1つの第2の読み出しが生成される。ステップS624において、第2の第1のレポーター114a,114bの蛍光色素120a,120b,120c,120d,120e,120a’,120b’,120c’,120d’,120e’、ひいては試料702内に存在するマーカー100を識別するために、第2の読み出しからの情報が使用される。ステップS614~S624は、試料702を染色してイメージングする第2のサイクルまたはラウンドに対応する。
【0051】
第1の読み出しおよび第2の読み出しから、試料702内のすべてのマーカー100が、少なくとも所定の確実性で識別された場合、プロセスはステップS626において終了する。択一的に、ステップS614~S624が、第3のレポーター114cに関して、試料702を染色してイメージングする第3のサイクルまたはラウンドにおいて繰り返される。
【0052】
図7は、生体試料702を分析するための装置700の概略図を示している。
【0053】
特に、装置700は、
図1~
図5を参照して上述したマーカー100を利用して、
図6を参照して上述した生体試料702を分析するための方法を実施することができる。図では、装置700は、顕微鏡システム704の一部として例示的に示されている。
【0054】
装置700は、試料702内にマーカー100を導入するための染色ユニット706を備える。この目的のために、染色ユニット706は、自動化されていてもよいし、自動化されていなくてもよい1つまたは複数のピペットを備えていてよい。また、装置700は、種々異なるレポーター114a,114b,114cの蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eを励起するための励起ユニット708を備える。励起ユニット708は、少なくとも1つの光源、好ましくはコヒーレント光源を備える。少なくとも1つの光源は、レポーター114a,114b,114cの蛍光色素120a,120b,120c,120d,120eを励起するために用いられる励起光を放出するように構成されている。種々異なる波長または波長スペクトルの励起光を放出するために、光源は、調整可能な光源であってよい。択一的に、装置700は、種々異なる波長または波長スペクトルの光を放出する2つ以上の光源を備えていてよい。
図7に示されている実施形態では、励起ユニット708によって放出された励起光は、ビーム分割ユニット710によって試料702に向けられる。
【0055】
装置700のイメージングユニット712は、励起された色素によって放出された蛍光光から画像を生成するように構成されている。画像は、この実施形態における読み出しである。イメージングユニットは、蛍光光を捕捉するために試料702に向けて配向された対物レンズ714を備える。捕捉された蛍光光は、続いて、ビーム分割ユニット710によって検出ユニット716に向けられる。検出ユニット716は、少なくとも1つの検出要素と、蛍光光を種々異なる検出チャネルに分割するための回折要素と、を備える。
【0056】
読み出しを生成した後、レポーター114a,114b,114cを、自身の各マーカー100および試料702から切り離す必要がある。これは、開裂剤200,400によって行われる。開裂剤200,400は、酵素開裂剤であってよく、酵素開裂剤は、染色ユニット706によって試料702内に導入可能である。択一的に、光分解によって付着構造体108を切断するために、励起ユニット708の光源または付加的な光源が使用されてよい。
【0057】
装置700は、染色ユニット706、励起ユニット708および検出ユニット716に連結されたプロセッサ718をさらに備える。プロセッサ718は、生体試料702を分析するための方法を実施する目的で、装置700の各要素をコントロールするように構成されている。特に、プロセッサ718は、少なくとも1つのユーザ入力に基づいてこの方法を実施するように構成されている。
【0058】
同一または類似に作用する要素は、すべての図において同じ参照符号で示されている。本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆるすべての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0059】
いくつかの態様を装置の文脈において説明してきたが、これらの態様が、対応する方法の説明も表していることが明らかであり、ここではブロックまたは装置がステップまたはステップの特徴に対応している。同様に、ステップの文脈において説明された態様は、対応する装置の対応するブロックまたは項目または特徴の説明も表している。
【符号の説明】
【0060】
100 マーカー
102 所定の構造体
104 マーカーベース
106 アフィニティ試薬
108 付着構造体
110a,110b,110c 付着部位
112a,112b 開裂部位
114a,114b,114c レポーター
116 リンカー構造体
118a,118b,118c 相補的付着部位
120a,120b,120c,120d,120e,120a’,120b’,120c’,120d’,120e’,120a’’,120b’’,120c’’,120d’’,120e’’ 蛍光色素
200 開裂剤
400 開裂剤
700 装置
702 試料
704 顕微鏡システム
706 染色ユニット
708 励起ユニット
710 ビーム分割ユニット
712 イメージングユニット
714 対物レンズ
716 検出ユニット
718 プロセッサ
【国際調査報告】