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特表2024-521702光ファイバ切断装置および光ファイバ切断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】光ファイバ切断装置および光ファイバ切断方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/25 20060101AFI20240528BHJP
   B26D 7/14 20060101ALI20240528BHJP
   B26F 3/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G02B6/25
B26D7/14
B26F3/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571784
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2022020976
(87)【国際公開番号】W WO2022244868
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2021086140
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】田中 省悟
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 祐也
【テーマコード(参考)】
2H038
3C060
【Fターム(参考)】
2H038CA14
3C060AA12
3C060CC13
3C060CC18
(57)【要約】
本発明の光ファイバ切断装置は、ガラス部が露出した部分を有する光ファイバを把持する一対の把持部と、把持力を変化させることが可能な把持力付与部と、前記光ファイバに張力を付与する張力付与部と、前記張力を測定する張力測定センサと、把持力を制御する制御部と、前記光ファイバに傷を加える刃とを備える。前記制御部は、前記光ファイバに所定の張力をかけた状態において、前記一対の把持部のうち少なくとも一方が前記光ファイバを滑らずに把持できる最小の把持力である最小無滑把持力に基づいて、設定把持力を決定する。前記一対の把持部のうち少なくとも一方は、前記設定把持力で光ファイバを把持した状態で、前記光ファイバに張力を加え、前記刃によって前記光ファイバに傷をつけることで切断する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス部が露出した部分を有する光ファイバを把持する一対の把持部と、
前記一対の把持部のうち少なくとも一方に設けられ、把持力を変化させることが可能な把持力付与部と、
前記一対の把持部を前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記光ファイバに張力を付与する張力付与部と、
前記張力を測定する張力測定センサと、
前記把持力付与部が生じさせる把持力を制御する制御部と、
前記長手方向において前記一対の把持部の間に位置し、前記光ファイバの前記ガラス部が露出した部分に傷を加える刃と、を備え、
前記制御部は、前記光ファイバに所定の張力をかけた状態において、前記一対の把持部のうち少なくとも一方が前記光ファイバを滑らずに把持できる最小の把持力である最小無滑把持力に基づいて、設定把持力を決定し、
前記一対の把持部のうち少なくとも一方が前記設定把持力で光ファイバを把持した状態で、前記光ファイバに張力を加え、前記刃によって前記光ファイバに傷をつけることで切断する、光ファイバ切断装置。
【請求項2】
前記最小無滑把持力、前記設定把持力、前記最小無滑把持力を印加させるための制御値、および前記設定把持力を印加させるための制御値のうち、少なくとも1つを記憶する記憶部を備える、請求項1に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項3】
前記把持力付与部は、
前記一対の把持部のうち一方の把持力を変化させることが可能な第1把持力付与部と、
前記一対の把持部のうち他方の把持力を変化させることが可能な第2把持力付与部と、
を備え、
前記制御部は、前記第1把持力付与部が生じさせる把持力と、前記第2把持力付与部が生じさせる把持力とを制御する、
請求項1又は請求項2に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1把持力付与部が生じさせる把持力と前記第2把持力付与部が生じさせる把持力とが互いに等しくなるように制御する、
請求項3に記載の光ファイバ切断装置。
【請求項5】
第1把持部および第2把持部によって、ガラス部が露出した部分を有する光ファイバを把持し、
前記第1把持部の把持力を変化させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記光ファイバに所定の張力をかけた状態において前記第1把持部が前記光ファイバを滑らずに把持できる最小の把持力である最小無滑把持力を求め、
前記第1把持部によって、前記最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力で光ファイバを把持し、前記第1把持部と前記第2把持部との間に位置する前記光ファイバの前記ガラス部が露出した部分に刃を当てて光ファイバを切断する、光ファイバ切断方法。
【請求項6】
前記第1把持部において滑りが生じるように前記光ファイバを把持し、前記第1把持部の把持力を上昇させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させ、
前記光ファイバに加わる張力が所定の閾値に到達するときの前記把持力を、前記最小無滑把持力とする、請求項5に記載の光ファイバ切断方法。
【請求項7】
前記第1把持部によって滑りが生じないように前記光ファイバを把持し、前記第1把持部の把持力を低下させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させ、前記第1把持部と前記光ファイバとの間で滑りが生じるときの前記把持力を、前記最小無滑把持力とする、請求項5に記載の光ファイバ切断方法。
【請求項8】
前記第1把持部の把持力及び前記第2把持部の把持力を変化させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記最小無滑把持力を求める、
請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の光ファイバ切断方法。
【請求項9】
前記第1把持部の把持力と前記第2把持部の把持力とが互いに等しくなるように、前記第1把持部の把持力及び前記第2把持部の把持力を変化させる、
請求項8に記載の光ファイバ切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ切断装置および光ファイバ切断方法に関する。
本願は、2021年5月21日に日本に出願された特願2021-086140号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、2つの把持部によって光ファイバを把持するとともに、光ファイバに張力を加えて、ガラス部に刃を押し当てることで光ファイバを切断する光ファイバ切断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2016-90943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らが鋭意検討した結果、光ファイバの把持力が大きすぎると切断時に所望の切断面が得られないという問題がある。また、光ファイバの把持力が小さすぎると、光ファイバと把持部との間で滑りが生じて適切な張力が印加されないという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、適切な把持力で光ファイバを把持することで良好に光ファイバを切断することができる光ファイバ切断装置および光ファイバ切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る光ファイバ切断装置は、ガラス部が露出した部分を有する光ファイバを把持する一対の把持部と、前記一対の把持部のうち少なくとも一方に設けられ、把持力を変化させることが可能な把持力付与部と、前記一対の把持部を前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記光ファイバに張力を付与する張力付与部と、前記張力を測定する張力測定センサと、前記把持力付与部が生じさせる把持力を制御する制御部と、前記長手方向において前記一対の把持部の間に位置し、前記光ファイバの前記ガラス部が露出した部分に傷を加える刃と、を備え、前記制御部は、前記光ファイバに所定の張力をかけた状態において、前記一対の把持部のうち少なくとも一方が前記光ファイバを滑らずに把持できる最小の把持力である最小無滑把持力に基づいて、設定把持力を決定し、前記一対の把持部のうち少なくとも一方が前記設定把持力で光ファイバを把持した状態で、前記光ファイバに張力を加え、前記刃によって前記光ファイバに傷をつけることで切断する。
【0007】
上記態様によれば、光ファイバを切断するにあたり、最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力により、光ファイバが把持される。このため、光ファイバを切断する際に、光ファイバの把持力が過剰に大きくなることが回避され、光ファイバの切断面角度が大きくなることを抑制できる。また、切断時に把持力が不足することで光ファイバの滑りが生じることも抑制できる。従来、把持力の大きさは、作業者の経験や勘に基づいて決定される場合があった。これに対して、上記態様の光ファイバ切断装置のように、最小無滑把持力に基づいて設定把持力を決定することで、切断作業における作業者ごとのばらつきを抑制し、より安定して良好に光ファイバを切断することが可能となる。
【0008】
ここで、上記態様の光ファイバ切断装置は、前記最小無滑把持力、前記設定把持力、前記最小無滑把持力を印加させるための制御値、および前記設定把持力を印加させるための制御値のうち、少なくとも1つを記憶する記憶部を備えてもよい。
【0009】
ここで、上記態様の光ファイバ切断装置においては、前記把持力付与部は、前記一対の把持部のうち一方の把持力を変化させることが可能な第1把持力付与部と、前記一対の把持部のうち他方の把持力を変化させることが可能な第2把持力付与部と、を備えてもよい。前記制御部は、前記第1把持力付与部が生じさせる把持力と、前記第2把持力付与部が生じさせる把持力とを制御してもよい。
【0010】
ここで、上記態様の光ファイバ切断装置においては、前記制御部は、前記第1把持力付与部が生じさせる把持力と前記第2把持力付与部が生じさせる把持力とが互いに等しくなるように制御してもよい。
【0011】
この場合、最小無滑把持力等を記憶部に記憶させることで、次回以降の作業の際に、最小無滑把持力等を読み出して用いることができる。同じ種類の光ファイバであれば、最小無滑把持力が略同じになると考えられる。つまり、最小無滑把持力を一度測定すれば、それ以降の同種の光ファイバの切断に際しては、同じ最小無滑把持力の値に基づいた設定把持力を採用することで適切な把持力とすることができる。したがって、光ファイバの切断を繰り返し行う際の効率を高めることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る光ファイバ切断方法は、第1把持部および第2把持部によってガラス部が露出した部分を有する光ファイバを把持し、前記第1把持部の把持力を変化させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記光ファイバに所定の張力をかけた状態において前記第1把持部が前記光ファイバを滑らずに把持できる最小の把持力である最小無滑把持力を求め、前記第1把持部によって、前記最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力で光ファイバを把持し、前記第1把持部と前記第2把持部との間に位置する前記光ファイバの前記ガラス部が露出した部分に刃を当てて光ファイバを切断する。
【0013】
上記態様の光ファイバ切断方法によれば、先述の光ファイバ切断装置と同様に、適切な把持力で光ファイバを把持して切断することができる。
【0014】
上記態様に係る光ファイバ切断方法において、前記第1把持部において滑りが生じるように前記光ファイバを把持し、前記第1把持部の把持力を上昇させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させ、前記光ファイバに加わる張力が所定の閾値に到達するときの前記把持力を、前記最小無滑把持力としてもよい。
【0015】
この場合、最小無滑把持力の測定にあたり、光ファイバの被覆に大きな把持力が加えられて塑性変形してしまうことを抑制できる。したがって、最小無滑把持力の測定後に、そのまま光ファイバの切断を行い、当該切断された光ファイバを利用することが可能となる。
【0016】
また、上記態様に係る光ファイバ切断方法において、前記第1把持部によって滑りが生じないように前記光ファイバを把持し、前記第1把持部の把持力を低下させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させ、前記第1把持部と前記光ファイバとの間で滑りが生じるときの前記把持力を、前記最小無滑把持力としてもよい。
【0017】
この場合、最小無滑把持力の測定にあたり、一対の把持部を互いに離間させる際のストロークを小さくすることができる。より具体的には、一対の把持部の間における光ファイバのたるみを解消し、光ファイバに張力が作用する状態となれば、それ以上に把持部を相対移動させることが不要となる。したがって、光ファイバ切断装置の長手方向におけるサイズを小さくすることができ、最小無滑把持力の測定に要する時間も短縮することができる。
【0018】
ここで、上記態様に係る光ファイバ切断方法において、前記第1把持部の把持力及び前記第2把持部の把持力を変化させながら、前記第1把持部と前記第2把持部とを前記光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、前記最小無滑把持力を求めてもよい。
【0019】
ここで、上記態様に係る光ファイバ切断方法において、前記第1把持部の把持力と前記第2把持部の把持力とが互いに等しくなるように、前記第1把持部の把持力及び前記第2把持部の把持力を変化させてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記態様によれば、適切な把持力で光ファイバを把持することで光ファイバを良好に切断することができる光ファイバ切断装置および光ファイバ切断方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る光ファイバ切断装置を示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る把持力導出工程を示すフローチャートである。
図3】把持力と切断された光ファイバの端面角度との関係を示すグラフである。
図4】第2実施形態に係る把持力導出工程を示すフローチャートである。
図5】第3実施形態に係る光ファイバ切断装置を示す斜視図である。
図6】第3実施形態に係る把持力導出工程を示すフローチャートである。
図7】第4実施形態に係る把持力導出工程を示すフローチャートである。
図8】第5実施形態に係る把持力導出工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態の光ファイバ切断装置について図面に基づいて説明する。
図1に示すように、光ファイバ切断装置1は、ベース2と、張力付与部Aと、張力測定センサ6と、刃7と、制御部8と、第1把持部10と、第2把持部20と、を備えている。第1把持部10および第2把持部20は、それぞれ、1本の光ファイバFを異なる箇所において把持できるように構成されている。
【0023】
光ファイバFは、ガラス部f1と、ガラス部f1を覆う被覆f2と、を有する。被覆f2は、樹脂などにより形成されている。光ファイバFのうち第1把持部10および第2把持部20の間に位置する部分では、光ファイバFの少なくとも一部において被覆f2が除去され、ガラス部f1が露出している。第1把持部10および第2把持部20が光ファイバFに所定の張力を加えた状態で、刃7がガラス部f1に当てられることで、光ファイバFが切断される。
【0024】
(方向定義)
本実施形態では、光ファイバFの長手方向を、単に長手方向Xという。長手方向Xは、第1把持部10および第2把持部20が並べられた方向でもある。長手方向Xにおける2つの把持部が配置される位置について、第1把持部10側を+X側と称し、第2把持部20側を-X側と称する。長手方向Xに直交する一方向を、上下方向Zという。上下方向Zにおける一方側(+Z側)を上方と称し、その反対側(-Z側)を下方と称する。
【0025】
第1把持部10および第2把持部20は、長手方向Xにおいて間隔を空けて配置されている。第1把持部10は、ベース2に対して長手方向Xに移動することが可能であり、第2把持部20は、ベース2に固定されている。したがって、第1把持部10は、第2把持部20に対して長手方向Xに移動可能である。
【0026】
第1把持部10は、第1載置台11、第1蓋12、第1ヒンジ13、および第1把持力付与部14を有している。第1蓋12は、第1載置台11に対して、第1ヒンジ13によって回動可能に連結されている。第1載置台11および第1蓋12は、第1把持力付与部14が生じさせる把持力によって、光ファイバFを把持するように構成されている。第1載置台11には、長手方向Xに沿って延び、下方に向けて窪むファイバ溝が形成されている。第1把持力付与部14は、モータ等の押圧付与アクチュエータ(不図示)と、押圧付与アクチュエータの動力を第1蓋12に伝えるギア列と、を含んでいる。詳細な説明は省略するが、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータが作動すると、その動力は、ギア列を介して第1蓋12に伝達され、第1蓋12に対して下方に向けた力が加わる。この力が、第1把持部10によって光ファイバFを把持する把持力となる。なお、第1把持力付与部14の構成は、把持力を変化させることができればよく、本実施形態の構成に限らず適宜変更可能である。
【0027】
第2把持部20は、第2載置台21、第2蓋22、および第2ヒンジ23を有している。第2蓋22は、第2載置台21に対して、第2ヒンジ23によって回動可能に連結されている。第2載置台21および第2蓋22は、所定の把持力で光ファイバFを把持するように構成されている。第2載置台21および第2蓋22による把持力は、例えば、バネによって生じさせてもよいし、第1把持部10と同様の押圧付与アクチュエータおよびギア列によって生じさせてよい。第2載置台21には、長手方向Xに沿って延び、下方に向けて窪むファイバ溝が形成されている。
【0028】
本実施形態では、図1に示すように、光ファイバFの-X側の端部から第1把持部10と第2把持部20との間の部分までの全体において、被覆f2が除去されている。第1把持部10は、被覆f2を把持する。第2把持部20は、ガラス部f1を把持する。
【0029】
張力付与部Aは、把持部移動アクチュエータ3と、シャフト4と、可動ベース5と、を有する。把持部移動アクチュエータ3は、ベース2に固定されており、シャフト4を長手方向Xに移動させることができる。把持部移動アクチュエータ3としては、例えば、直動型モータを用いることができる。シャフト4は、長手方向Xに沿って延びている。可動ベース5は、シャフト4の-X側の端部に固定されている。把持部移動アクチュエータ3が作動すると、シャフト4および可動ベース5がベース2に対して、長手方向Xにスライド移動する。可動ベース5とベース2との間に、スライドレール等が設けられていてもよい。
【0030】
可動ベース5は、第1載置台11を支持している。可動ベース5と第1載置台11との間にはスライドレール5aが設けられている。このため、第1載置台11は、可動ベース5に対して長手方向Xに沿って移動することができる。本実施形態の張力測定センサ6は、第1載置台11と可動ベース5との間に挟まれている。張力測定センサ6の具体的な種類としては、例えば、ロードセルを用いることができる。把持部移動アクチュエータ3がシャフト4を+X側に移動させると、張力測定センサ6を介して、第1載置台11にも+X側に向けた力が作用する。このとき、第1把持部10および第2把持部20が光ファイバFを把持した状態であれば、光ファイバFは、第1把持部10と第2把持部20との間で引っ張られる。そして、光ファイバFの張力に対応した圧縮力が張力測定センサ6に加わる。したがって、張力測定センサ6によって計測される圧縮力に基づいて、光ファイバFの張力を算出することができる。なお、光ファイバFの張力を測定することが可能であれば、張力測定センサ6の構造および配置は適宜変更してもよい。
【0031】
刃7は、不図示の支持部によって支持されており、光ファイバFに対して長手方向Xに直交する方向に移動することができる。すなわち、刃7は、光ファイバFに対して近づいたり遠ざかったりすることができる。図1に示す例では、刃7は、長手方向Xおよび上下方向Zの双方に直交する方向に移動する。ただし、刃7が上下方向Zあるいは上下方向Zに対して斜め方向に移動してもよい。
【0032】
制御部8は、把持部移動アクチュエータ3および第1把持力付与部14を制御する。制御部8としては、例えば、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路を用いることができる。
【0033】
制御部8は、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを駆動させることで、第1把持部10が光ファイバFを把持する把持力を制御することができる。制御部8は、把持力を制御するにあたり、例えば、押圧付与アクチュエータの駆動量から逆算することで把持力を求めてもよい。あるいは、第1把持部10に圧力センサを設けて、この圧力センサからの出力に基づいてフィードバック制御を行ってもよい。
【0034】
次に、光ファイバ切断装置1によって光ファイバFを切断する方法について説明する。
【0035】
光ファイバ切断装置1を用いて光ファイバFを切断する際には、把持力導出工程と、把持工程と、切断工程と、が行われる。
把持力導出工程では、最小無滑把持力を導出する。最小無滑把持力とは、光ファイバFに所定の張力を加えるために、被覆f2を把持する際に必要な把持力の最小値である。
把持工程では、第1把持部10および第2把持部20によって光ファイバFを把持する。このとき、少なくとも第1把持部10は、最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力によって、光ファイバFの被覆f2を把持する。第2把持部20は、光ファイバFの被覆f2を除去して露出したガラス部f1を把持する。言い換えると、光ファイバFは、ガラス部f1が露出した部分を有する。ガラス部f1が露出した部分をガラス露出部と称してもよい。
切断工程では、第1把持部10および第2把持部20によって光ファイバFが把持され、かつ光ファイバFに所定の張力が加わった状態で、ガラス部f1に刃7を押し当てる。これにより、ガラス部f1に初期傷がつけられ、この初期傷を起点にガラス部f1が破断することで光ファイバFが切断される。
【0036】
次に、本実施形態における把持力導出工程について、図2を用いて説明する。
まず、第2把持部20によって光ファイバFのガラス部f1を把持する(ステップS1)。このときの把持力は、光ファイバFに張力を加えた際に、第2把持部20と光ファイバFのガラス部f1との間で滑りが生じない、十分に強い力(以下、「無滑把持力」という)とする。無滑把持力の大きさは、予備実験等によって求めることができる。例えば、ガラス部f1の外径が250μmである場合には、無滑把持力を3kgfとすることができる。なお、ガラス部f1は、被覆f2と比較して剛性が高く、変形しにくい。このため、滑りが生じず、かつガラス部f1が変形しないような無滑把持力を設定することは容易である。
【0037】
次に、第1把持部10によって光ファイバFを把持する(ステップS2)。このときの把持力は、光ファイバFに張力を加えた際に、第1把持部10と光ファイバFの被覆f2との間で滑りが生じる、十分に弱い力(以下、「微小把持力」という)とする。微小把持力は、制御部8が第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを制御することで生じる。微小把持力の大きさは、設定可能な把持力の最小値(例えば、約0gf)であってもよい。
【0038】
次に、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を駆動させて、第2把持部20から離間する方向(+X側)に第1把持部10を移動させる(ステップS3)。この時点では、第1把持部10は、微小把持力によって被覆f2を把持しているため、第1把持部10と被覆f2との間には滑りが生じる。したがって、光ファイバFには張力が作用しないか、あるいは、第1把持部10と被覆f2との間の摩擦によって光ファイバFに微弱な張力が作用する。光ファイバFの張力は、張力測定センサ6によって随時測定される。
【0039】
次に、制御部8は、第1把持部10による被覆f2の把持力が徐々に上昇するように、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを駆動させる(ステップS4)。第1把持部10の把持力が上昇すると、第1把持部10と被覆f2との間の摩擦が大きくなり、光ファイバFに作用する張力が増加する。つまり、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力の大きさが上昇する。第1把持部10の把持力の上昇は、後述のステップS6において停止されるまで継続される。
【0040】
次に、制御部8は、張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力(読み値)が、所定の閾値に到達したか否かを判定する(ステップS5)。「所定の閾値」とは、光ファイバFを切断する際に、光ファイバFに印加すべき適切な張力の大きさである。「所定の閾値」の大きさは、光ファイバFの種類(例えば、光ファイバの品種、製品型番、仕様等)によって異なっており、予備実験等によって求めることができる。例えば、ガラス部f1の外径が125μmの空洞の無い石英ガラス製の光ファイバFにおいては、200gfを「所定の閾値」とするとよい。また、ガラス部f1の外径が400μmの光ファイバFにおいては、1kgfを「所定の閾値」とするとよい。
【0041】
張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値より小さい場合(ステップS5:NO)には、制御部8は、繰り返しステップS5の判定を行う。時間が経過するにつれ、第1把持部10の把持力は上昇するため、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力も上昇する。
張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値に到達した場合(ステップS5:YES)には、ステップS6に進む。このときの第1把持部10による把持力の大きさは、光ファイバFに所定の閾値の張力をかけた状態において、第1把持部10が光ファイバFを滑らずに把持できる最小の把持力(以下、「最小無滑把持力」という)である。
【0042】
ステップS6において、制御部8は、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータおよび把持部移動アクチュエータ3を停止させるとともに、その状態を維持(ホールド)させる。これにより、+X側に向けた第1把持部10の移動と、第1把持部10の把持力の上昇と、が停止する。したがって、光ファイバFに作用する張力の上昇も停止する。
【0043】
次に、制御部8は、その時点における第1把持部10の把持力を、最小無滑把持力として記憶部に記憶させる(ステップS7)。記憶部は、制御部8の内部に設けられてもよいし、制御部8の外部に設けられてもよい。記憶部としては、書き換え可能なメモリ(RAM: Random Access Memory, フラッシュメモリ等)を用いることができる。以上で、把持力導出工程が終了する。なお、ステップS7では、最小無滑把持力そのものを記憶してもよいし、最小無滑把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。「最小無滑把持力を印加させるための制御値」とは、例えば、押圧付与アクチュエータがモータである場合には、ステップS7の時点における当該モータの電流値である。また、ステップS7において、記憶部は、最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力を記憶してもよい。あるいは、記憶部は、設定把持力を印加させるための制御値(例えば、モータの電流値)を記憶してもよい。本明細書では、「最小無滑把持力、設定把持力、最小無滑把持力を印加させるための制御値、および設定把持力を印加させるための制御値のうち少なくとも1つ」を、単に「最小無滑把持力等」という場合がある。
【0044】
ステップS7の完了後、その状態のまま、切断工程を行ってもよい。この場合、先述の把持工程が把持力導出工程に含まれることとなる。より具体的には、ステップS6が把持工程に該当する。
あるいは、ステップS7の完了後、同一種類の別の光ファイバFを光ファイバ切断装置1にセットし直し、把持工程および切断工程を行ってもよい。この場合、得られた最小無滑把持力よりも大きい力を、第1把持部10の設定把持力としてもよい。この理由については後述する。なお、本明細書における「設定把持力」とは、最小無滑把持力に基づいて決定された、第1把持部10または第2把持部20が光ファイバFを把持する把持力の設定値である。
【0045】
(実験例)
次に、上記の切断方法によって適切な切断面を得られる理由について、図3に示す実験例の結果を用いて説明する。
【0046】
本実験例では、複数の光ファイバFを用意して、被覆f2に印加する把持力の大きさを異ならせて切断を行い、把持力と切断面の傾斜角度との関係を調べた。把持力は、最小無滑把持力に対して0~+2000gfの範囲で変化させた。図3の横軸は、被覆f2に印加した把持力を、最小無滑把持力に対するオフセット値として表示している。図3の縦軸は、各把持力で把持して光ファイバFを切断した際の、長手方向Xに垂直な面に対する切断面(端面)の角度を示している。端面角度が小さいほど、光ファイバFを融着接続したり、光ファイバFを他の光学系に突き当てたりした際の、光の接続損失を小さくすることができる。
【0047】
図3に示すように、把持力が大きくなるほど、端面角度が大きくなる結果となった。この原因は、過剰な力で被覆f2を把持すると、被覆f2が大きく圧縮変形するとともに、光ファイバFのガラス部f1が長手方向Xに対して傾くように曲がるためであると考えられる。より詳しくは、被覆f2が例えば、第1把持部10によって圧縮変形させられると、第1把持部10によって把持された部分と把持されていない部分との境界において、被覆f2に曲げ応力が生じる。把持力が大きいほど、この曲げ応力も大きくなり、光ファイバFに曲げが生じやすい。その結果、端面角度が大きくなる。
【0048】
図3の結果によれば、把持力を最小無滑把持力に対して0~+1000gfの範囲としたとき、端面角度を0.5°以下とすることができた。また、把持力を最小無滑把持力に対して0~+500gfの範囲としたとき、端面角度を0.3°以下とすることができた。このように、把持力を最小無滑把持力に近づけることで、端面角度を小さくできることが確認された。
【0049】
ただし、第1把持部10または第2把持部20の機械的な動作のばらつきにより、実際に生じる把持力の大きさは、設定把持力が同じであっても光ファイバFを把持するたびに一定とはならず、ある程度のばらつきが生じる場合がある。このため、最小無滑把持力に対して、ある程度(例えば、50gf~220gfだけ)大きな値を、設定把持力としてもよい。これにより、実際の把持力が、ばらつきによって最小無滑把持力を下回ってしまうことを抑制できる。また、図3によれば、最小無滑把持力に対して+500gfよりも小さい把持力であれば、最小無滑把持力で把持した場合と同等の切断精度を得ることができる。したがって制御部8は、把持力導出工程によって得られた最小無滑把持力に基づき、当該最小無滑把持力よりも大きな値を、設定把持力として決定するように構成されることが好ましい。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ切断方法は、一対の把持部10、20によって光ファイバFを把持し(ステップS1,S2)、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方の把持力を変化させながら、一対の把持部10、20を光ファイバFの長手方向Xに沿って互いに離間させ(ステップS3、S4)、光ファイバFに加わる張力が所定の閾値に到達したときの把持力を、最小無滑把持力とし(ステップS5~S7)、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方によって、最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力で光ファイバFを把持し、一対の把持部10、20の間に位置する光ファイバFのガラス部f1に刃7を当てて光ファイバFを切断する。
【0051】
また、本実施形態の光ファイバ切断装置1は、光ファイバFを把持する一対の把持部10、20と、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方に設けられ、把持力を変化させることが可能な把持力付与部14と、一対の把持部10、20を光ファイバFの長手方向Xに沿って互いに離間させることで、光ファイバFに張力を付与する張力付与部Aと、張力を測定する張力測定センサ6と、把持力付与部14が生じさせる把持力を制御する制御部8と、長手方向Xにおいて一対の把持部10、20の間に位置し、光ファイバFのガラス部f1に傷を加える刃7と、を備え、制御部8は、光ファイバFに所定の張力をかけた状態において、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方が光ファイバFを滑らずに把持できる最小の把持力(最小無滑把持力)に基づいて、設定把持力を決定し、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方が設定把持力で光ファイバFを把持した状態で、光ファイバFに張力を加え、刃7によって光ファイバFを切断する。
【0052】
このような光ファイバ切断方法または光ファイバ切断装置1によれば、最小無滑把持力に基づいて決定された設定把持力により、光ファイバFが把持される。このため、光ファイバFを切断する際に、光ファイバFの把持力が過剰に大きくなることが回避され、光ファイバFの切断面角度が大きくなることを抑制できる。また、切断時に把持力が不足することで光ファイバFの滑りが生じることも抑制できる。従来、把持力の大きさは作業者の経験や勘に基づいて決定される場合があった。これに対して、上記態様の光ファイバ切断装置のように、最小無滑把持力に基づいて設定把持力を決定することで、切断作業における作業者ごとのばらつきを抑制し、より安定して良好に光ファイバを切断することが可能となる。
【0053】
また、本実施形態の光ファイバ切断装置1は、最小無滑把持力、設定把持力、最小無滑把持力を印加させるための制御値、および設定把持力を印加させるための制御値のうち、少なくとも1つを記憶する記憶部を備えていてもよい。この場合、次回以降の作業の際に、最小無滑把持力等を読み出して用いることができる。同じ種類の光ファイバFであれば、最小無滑把持力が略同じになると考えられる。つまり、最小無滑把持力を一度測定して設定把持力を決定すれば、それ以降の同種の光ファイバFの切断に際しては、同じ設定把持力を採用することで適切な把持力とすることができる。したがって、光ファイバFの切断を繰り返し行う際の効率を高めることができる。
【0054】
また、本実施形態では、一対の把持部10、20の少なくとも一方において滑りが生じるように光ファイバFを把持し、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方の把持力を上昇させながら、一対の把持部10、20を光ファイバFの長手方向Xに沿って互いに離間するように移動させ、光ファイバFに加わる張力が所定の閾値に到達するときの把持力を、最小無滑把持力とする。この構成によれば、最小無滑把持力の測定にあたり、被覆f2に大きな把持力が加えられて塑性変形してしまうことを抑制できる。また、ガラス部f1に空洞が設けられた光ファイバFにおいては、過剰な把持力によって空洞部分が破損してしまうことを抑制できる。したがって、最小無滑把持力の測定後に、そのまま光ファイバFの切断を行い、当該切断された光ファイバFを利用することが可能である。
【0055】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0056】
図4は、第2実施形態における把持力導出工程を示すフローチャートである。図4に示すように、本実施形態では、まず第2把持部20によって光ファイバFを把持する(ステップS11)。このときの把持力は、第1実施形態のステップS1と同様に、無滑把持力とする。
次に、第1把持部10によって光ファイバFを把持する(ステップS12)。このときの把持力は、第1実施形態のステップS2と同様に、微小把持力とする。
【0057】
次に、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を駆動させて、第2把持部20から離間する方向(+X側)に第1把持部10を移動させる(ステップS13)。この点も第1実施形態のステップS3と同様である。
次に、制御部8は、所定時間が経過したか否かを判定する。あるいは、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動したか否かを判定する(ステップS14)。所定時間が経過していない場合、または、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動していない場合は、ステップS14を繰り返す(ステップS14:NO)。所定時間が経過した場合、または、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動した場合は、ステップS15に進む(ステップS14:YES)。
【0058】
ステップS15において、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を停止させる。次に、制御部8は、張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達したか否かを判定する(ステップS16)。「所定の閾値」については、第1実施形態のステップS5において述べた通りである。張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達していない場合(ステップS16:NO)、ステップS17に進む。
【0059】
ステップS17において、制御部8は、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを制御し、第1把持部10の把持力を1段階上げる(ステップS17)。「1段階」の大きさは任意に設定可能であるが、小さいほど最小無滑把持力の計測精度が向上するとともに、最小無滑把持力の計測時間が増大する。例えば、「1段階」の大きさを10gf~50gfの範囲内で設定すれば、最小無滑把持力の計測精度および計測時間を両立させることができる。
【0060】
ステップS17の後、制御部8は、再びステップS13~S16を繰り返す。これにより、第1把持部10の把持力は、段階的に上昇し、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力も上昇する。ステップS16において、張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達した場合(ステップS16:YES)、ステップS18に進む。
ステップS18において、制御部8は、その時点における第1把持部10の把持力を、最小無滑把持力として記憶部に記憶させる。第1実施形態におけるステップS7と同様に、記憶部は、最小無滑把持力そのものを記憶してもよいし、最小無滑把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。また、記憶部は、設定把持力を記憶してもよいし、設定把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。
【0061】
本実施形態によれば、把持部移動アクチュエータ3を停止した状態で、ステップS16の判定が行われる。したがって、第1把持部10と光ファイバFとの間に作用する動摩擦力と静摩擦力との差が大きい場合でも、最小無滑把持力を精度よく計測することができる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る第3実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
第1、第2実施形態では、第1把持部10が被覆f2を把持し、第2把持部20がガラス部f1を把持した。これに対して本実施形態では、図5に示すように、第1把持部10および第2把持部20の双方が被覆f2を把持する。光ファイバFは、第1把持部10と第2把持部20との間の部分において、被覆f2が除去されてガラス部f1が露出した状態とされる。
【0063】
図5に示すように、本実施形態の光ファイバ切断装置1Aは、第2把持力付与部24を有している。第2把持力付与部24は、モータ等の押圧付与アクチュエータ(不図示)と、押圧付与アクチュエータの動力を第2蓋22に伝えるギア列と、を含んでいる。詳細な説明は省略するが、第2把持力付与部24の押圧付与アクチュエータが作動すると、その動力はギア列を介して第2蓋22に伝達され、第2蓋22に対して下方に向けた力が加わる。この力が、第2把持部20によって光ファイバFを把持する把持力となる。なお、第2把持力付与部24の構成は、把持力を変化させることができればよく、本実施形態の構成に限らず適宜変更可能である。
【0064】
つまり、光ファイバ切断装置1Aは、第1把持力付与部14と第2把持力付与部24とで構成された把持力付与部を備える。言い換えると、光ファイバ切断装置1Aは、一対の把持力付与部を備える。第1把持力付与部14は、一対の把持部のうち一方である第1把持部10の把持力を変化させることが可能なように構成されている。第2把持力付与部24は、一対の把持部のうち他方である第2把持部20の把持力を変化させることが可能なように構成されている。
【0065】
本実施形態の制御部8は、第2把持力付与部24の押圧付与アクチュエータを駆動させることで、第2把持部20が光ファイバFを把持する把持力を制御することができる。制御部8は、把持力を制御するにあたり、例えば、押圧付与アクチュエータの駆動量から逆算することで把持力を求めてもよい。あるいは、第2把持部20に圧力センサを設けて、この圧力センサからの出力に基づいてフィードバック制御を行ってもよい。
【0066】
つまり、制御部8は、第1把持力付与部14が生じさせる把持力(第1把持力)と、第2把持力付与部24が生じさせる把持力(第2把持力)とを制御することができる。
特に、制御部8は、第1把持力付与部14が生じさせる把持力と第2把持力付与部24が生じさせる把持力とが互いに等しくなるように制御することができる。
【0067】
次に、本実施形態における把持力導出工程について、図6を用いて説明する。
図6に示すように、本実施形態では、まず第1把持部10および第2把持部20によって光ファイバFを把持する(ステップS21)。このとき、第1把持部10および第2把持部20の把持力は互いに等しく、かつ第1実施形態のステップS1と同様に微小把持力とする。
【0068】
次に、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を駆動させて、第2把持部20から離間する方向(+X側)に第1把持部10を移動させる(ステップS22)。この時点では、把持部10、20は微小把持力によって被覆f2を把持しており、把持部10、20と被覆f2との間には滑りが生じる。したがって、光ファイバFには張力が作用しないか、あるいは、把持部10、20と被覆f2との間の摩擦によって光ファイバFに微弱な張力が作用する。光ファイバFの張力は、張力測定センサ6によって随時測定される。
【0069】
次に、把持部10、20の把持力が互いに等しい状態を保ちながら、制御部8はそれぞれの把持力が徐々に上昇するように、把持力付与部14、24のそれぞれの押圧付与アクチュエータを駆動させる(ステップS23)。把持部10、20の把持力が上昇すると、把持部10、20と被覆f2との間の摩擦が大きくなり、光ファイバFに作用する張力が増加する。つまり、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力の大きさが上昇する。把持部10、20の把持力の上昇は、後述のステップS25において停止されるまで継続される。
【0070】
次に、制御部8は、張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力(読み値)が、所定の閾値に到達したか否かを判定する(ステップS24)。「所定の閾値」については、第1実施形態のステップS5において述べた通りである。張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値より小さい場合(ステップS24:NO)には、制御部8は、繰り返しステップS24の判定を行う。時間が経過するにつれ、把持部10、20の把持力は上昇するため、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力も上昇する。
【0071】
張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値に到達した場合(ステップS24:YES)には、ステップS25に進む。このときの把持部10、20による把持力の大きさが、最小無滑把持力である。つまり、第1把持部10の把持力及び第2把持部20の把持力を変化させながら、第1把持部10と第2把持部20とを光ファイバの長手方向に沿って互いに離間させることで、最小無滑把持力を求める。特に、第1把持部10の把持力と第2把持部20の把持力とが互いに等しくなるように、第1把持部10の把持力及び第2把持部20の把持力を変化させる。
【0072】
ステップS25において、制御部8は、把持力付与部14、24の押圧付与アクチュエータおよび把持部移動アクチュエータ3を停止させるとともに、その状態を維持(ホールド)させる。これにより、+X側に向けた第1把持部10の移動と、把持部10、20の把持力の上昇と、が停止する。したがって、光ファイバFに作用する張力の上昇も停止する。
【0073】
次に、制御部8は、その時点における把持部10、20の把持力を、最小無滑把持力として記憶部に記憶させる(ステップS26)。第1実施形態におけるステップS7と同様に、制御部8は、最小無滑把持力そのものを記憶部に記憶させてもよいし、最小無滑把持力を印加させるための制御値を記憶させてもよい。また、記憶部は、設定把持力を記憶してもよいし、設定把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。
【0074】
本実施形態によれば、把持部10、20の双方において、被覆f2に大きな把持力が加えられて塑性変形してしまうことを抑制できる。したがって、最小無滑把持力の測定後に、そのまま光ファイバFの切断を行い、2つに切断された双方の光ファイバFを利用することが可能である。
【0075】
(第4実施形態)
次に、本発明に係る第4実施形態について説明するが、第3実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0076】
図7は、第4実施形態における把持力導出工程を示すフローチャートである。図7に示すように、本実施形態では、まず第1把持部10および第2把持部20によって光ファイバFを把持する(ステップS31)。このとき、第3実施形態のステップS21と同様に、第1把持部10および第2把持部20の把持力は互いに等しく、かつ微小把持力とする。
【0077】
次に、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を駆動させて、第2把持部20から離間する方向(+X側)に第1把持部10を移動させる(ステップS32)。この点も第3実施形態のステップS22と同様である。
次に、制御部8は、所定時間が経過したか否かを判定する。あるいは、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動したか否かを判定する(ステップS33)。所定時間が経過していない場合、または、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動していない場合は、ステップS33を繰り返す(ステップS33:NO)。所定時間が経過した場合、または、把持部移動アクチュエータ3が所定量駆動した場合は、ステップS34に進む(ステップS33:YES)。
【0078】
ステップS34において、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を停止させる。次に、制御部8は、張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達したか否かを判定する(ステップS35)。「所定の閾値」については、第1実施形態のステップS5において述べた通りである。張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達していない場合(ステップS35:NO)、ステップS36に進む。
【0079】
ステップS36において、制御部8は、把持力付与部14、24のそれぞれの押圧付与アクチュエータを制御し、把持部10、20の把持力を、互いに等しい状態を保ちながら1段階上げる(ステップS36)。「1段階」の大きさについては、第2実施形態におけるステップS17と同様である。
【0080】
ステップS36の後、制御部8は、再びステップS32~35を繰り返す。これにより、把持部10、20の把持力は段階的に上昇し、張力測定センサ6によって測定される光ファイバFの張力も上昇する。ステップS35において、張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達した場合(ステップS35:YES)、ステップS37に進む。
ステップS37において、制御部8は、その時点における把持部10、20の把持力を、最小無滑把持力として記憶部に記憶させる。第1実施形態におけるステップS7と同様に、記憶部は、最小無滑把持力そのものを記憶してもよいし、最小無滑把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。また、記憶部は、設定把持力を記憶してもよいし、設定把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。
【0081】
本実施形態によれば、把持部移動アクチュエータ3を停止した状態で、ステップS35の判定が行われる。したがって、把持部10、20と光ファイバFとの間に作用する動摩擦力と静摩擦力との差が大きい場合でも、最小無滑把持力を精度よく計測することができる。
【0082】
(第5実施形態)
次に、本発明に係る第5実施形態について説明するが、第1実施形態と基本的な構成は同様である。このため、同様の構成には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
第1~第4実施形態では、少なくとも第1把持部10による把持力を、微小把持力を起点として上昇させ、光ファイバFの張力が所定の閾値に到達したときの把持力を、最小無滑把持力とした。これに対して本実施形態では、第1把持部10による把持力を、無滑把持力を起点として減少させ、光ファイバFの張力が所定の閾値を下回ったときの把持力を、最小無滑把持力とする。以下、図8を用いてより詳しく説明する。
【0083】
図8に示すように、本実施形態では、まず第2把持部20によって光ファイバFを把持する(ステップS41)。このときの把持力は、第1実施形態における無滑把持力と同様である。
次に、第1把持部10によって光ファイバFを把持する(ステップS42)。このときの把持力は、制御部8が第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを制御することで、無滑把持力に設定される。なお、光ファイバFに所定の張力をかけても第1把持部10および第2把持部20の双方において滑りが生じない把持力であれば、第1把持部10と第2把持部20とで把持力が異なってもよい。
【0084】
次に、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3を駆動させて、第2把持部20から離間する方向(+X側)に第1把持部10を移動させる(ステップS43)。このとき、第1把持部10および第2把持部20の双方が無滑把持力で光ファイバFを把持しているため、光ファイバFにたるみが無い限り、光ファイバFには速やかに張力が作用する。
【0085】
次に、制御部8は、張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力(読み値)が、所定の閾値に到達したか否かを判定する(ステップS44)。「所定の閾値」については、第1実施形態におけるステップS5で述べた通りである。張力測定センサ6の読み値が所定の閾値に到達していない場合(ステップS44:NO)、ステップS44が繰り返される。この間も把持部移動アクチュエータ3の駆動によって第1把持部10が+X側に移動されるため、やがて光ファイバFのたるみが解消され、光ファイバFの張力が作用する。
【0086】
張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値に到達した場合(ステップS44:YES)には、ステップS45に進む。
ステップS45において、制御部8は、把持部移動アクチュエータ3の駆動を停止し、その状態を維持(ホールド)する。これにより、第1把持部10が静止したまま、光ファイバFには所定の張力が印加された状態となる。
次に、制御部8は、第1把持部10による被覆f2の把持力が徐々に減少するように、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータを駆動させる(ステップS46)。第1把持部10の把持力を減少させると、第1把持部10と被覆f2との間の摩擦力が徐々に低下する。
【0087】
次に、制御部8は、張力測定センサ6の読み値が、所定の閾値を下回ったか否かを判定する(ステップS47)。張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値より大きい場合(ステップS47:NO)には、制御部8は、繰り返しステップS47の判定を行う。時間が経過するにつれ、第1把持部10の把持力は低下するため、やがて第1把持部10と被覆f2との間の摩擦力が光ファイバFの張力を下回る。このとき、第1把持部10と被覆f2との間で滑りが生じ、光ファイバFの張力が低下する。制御部8は、張力測定センサ6によって測定された光ファイバFの張力が所定の閾値を下回ったとき(ステップS47:YES)、ステップS48に進む。
【0088】
ステップS48において、制御部8は、第1把持力付与部14の押圧付与アクチュエータの駆動を停止する。
次に、制御部8は、その時点における第1把持部10の把持力を、最小無滑把持力として記憶部に記憶させる(ステップS49)。第1実施形態におけるステップS7と同様に、記憶部は、最小無滑把持力そのものを記憶してもよいし、最小無滑把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。また、記憶部は、設定把持力を記憶してもよいし、設定把持力を印加させるための制御値を記憶してもよい。
【0089】
以上説明したように、本実施形態では、一対の把持部10、20によって滑りが生じないように光ファイバFを把持し、一対の把持部10、20のうち少なくとも一方の把持力を低下させながら、一対の把持部10、20を光ファイバFの長手方向に沿って互いに離間させ、把持力を低下させた把持部10、20と光ファイバFとの間で滑りが生じるときの把持力を、最小無滑把持力とする。この構成によれば、最小無滑把持力の測定にあたり、把持部10、20を互いに離間させる際のストロークを小さくすることができる。より具体的には、第1把持部10と第2把持部20との間における光ファイバFのたるみを解消し、光ファイバFに張力が作用する状態となれば、それ以上に把持部10、20を移動させることが不要となる。したがって、光ファイバ切断装置1の長手方向Xにおけるサイズを小さくすることができ、最小無滑把持力の測定に要する時間も短縮することができる。
【0090】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0091】
例えば、前記第1~第5実施形態では、一対の把持部10、20のうち、第1把持部10のみが移動する構成であったが、第2把持部20が-X側に向けて移動する構成を採用してもよい。また、第1把持部10と第2把持部20との間の距離を変化させることができれば、その他の構成を採用してもよい。
また、第1~第5実施形態における把持力導出工程では、導出した最小無滑把持力等を記憶部に記憶させた(ステップS7、S18、S26、S37、S49)。しかしながら、記憶部が最小無滑把持力等を記憶することは必須ではない。例えば、作業者が最小無滑把持力等を記録して利用することもできる。したがって、光ファイバ切断装置1、1Aは記憶部を有していなくてもよい。
また、刃7に代えて、レーザーをガラス部f1に照射することで傷をつけてもよい。
【0092】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1、1A…光ファイバ切断装置 6…張力測定センサ 7…刃 8…制御部 10、20…把持部 14…把持力付与部 A…張力付与部 F…光ファイバ f1…ガラス部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】