IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラクティガ,インコーポレイテッドの特許一覧

特表2024-521703呼吸器多核体ウイルスを処置するためのポリクローナル抗体
<>
  • 特表-呼吸器多核体ウイルスを処置するためのポリクローナル抗体 図1
  • 特表-呼吸器多核体ウイルスを処置するためのポリクローナル抗体 図2
  • 特表-呼吸器多核体ウイルスを処置するためのポリクローナル抗体 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】呼吸器多核体ウイルスを処置するためのポリクローナル抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240528BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K39/395 Y
A61K9/72
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571785
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 IB2022054763
(87)【国際公開番号】W WO2022243979
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】63/190,893
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523435680
【氏名又は名称】ラクティガ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】マネ,ヴィラージ
(72)【発明者】
【氏名】メータ,リキン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA25
4C076AA93
4C076BB27
4C076CC50
4C085AA33
4C085BA57
4C085BB33
4C085CC16
4C085DD33
4C085DD38
4C085EE01
4C085GG10
(57)【要約】
組成物およびその組成物を調製する方法が提供される。組成物は、呼吸器多核体ウイルスを処置するための吸入用である。組成物は、ヒト母乳由来のポリクローナル抗体を含む。特に、組成物は、抗体全体の約81%超を占めるインタクト抗体を含む。抗体全体は、インタクト抗体および分解された抗体を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸器多核体ウイルスを処置するための吸入用組成物であって、ヒト母乳由来のポリクローナル抗体を含み、抗体全体の約81%超を占めるインタクト抗体を含み、前記抗体全体が、前記インタクト抗体および分解された抗体を含む、吸入用組成物。
【請求項2】
約25℃で少なくとも約24時間安定である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
約25℃で少なくとも約2週間安定である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
送達のために霧化されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
約-20℃で少なくとも約1年間安定である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
約-20℃で少なくとも約3年間安定である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
呼吸器多核体ウイルスを処置するための組成物の使用であって、前記組成物が、ヒト母乳由来のポリクローナル抗体を含み、前記組成物が、抗体全体の約81%超を占めるインタクト抗体を含み、前記抗体全体が、前記インタクト抗体および分解された抗体を含む、使用。
【請求項8】
呼吸器多核体ウイルスを処置するために組成物を送達するための装置であって:
前記組成物を貯蔵するための貯蔵リザーバ;
前記組成物の投与量を送達するために前記組成物のミストを提供するためのネブライザ;および
前記投与量を送達するための送達システム
を含み、前記組成物がヒト母乳由来のポリクローナル抗体混合物を含む、装置。
【請求項9】
呼吸器多核体ウイルスを処置するための吸入用組成物を調製する方法であって:
哺乳動物ドナーから、ある量の乳を回収すること;
前記ある量の乳の非低温滅菌試料を精製し、約45%~65%の硫酸アンモニウム濃度を用いる硫酸アンモニウム沈澱を用いてポリクローナル抗体画分を抽出すること;
存在する抗体のタイプを決定するために前記抗体画分を特徴づけること;
吸入剤形の調製において使用するためにプールされた抗体の組成物を提供すること
を含む、方法。
【請求項10】
前記抗体画分が、存在する抗体の量を決定するためにさらに特徴づけられる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体画分が、非特異的である、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、約65%の硫酸アンモニウム濃度を用いる硫酸アンモニウム沈澱を使用して精製される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記プールされた抗体の組成物が、少なくとも約90%のIgAである、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
呼吸器多核体ウイルス(RSV)は、最も一般的な呼吸器系ウイルスの1つである。それは、一般的に、特に幼児で風邪様症状を引き起こす。多くの人にとって、その症状は軽く、一般に厄介なものとみなされている;RSVに罹患したほとんどの人は、数週間のうちに回復する。しかし、非常に幼い、非常に高齢、および/または免疫無防備状態であるものを含む他の個体にとっては、RSVは深刻で、気管支炎および肺炎となり、2020年12月からのCDC報告によると、米国で年間100,000人超の入院と、10,000人の死亡をもたらす。RSVは毎年冬に再発し、伝染性が強く、承認されたワクチンはなく、公衆衛生に対するその悪影響が強調されている。
【0002】
RSV感染の深刻なケースを処置するため、市販のモノクローナル抗体治療薬が開発されている。一例として、商標名SYNAGISで販売されているパリビズマブは、RSV感染により引き起こされる重篤な疾患を予防するために使用される組換えDNA技術により生産されるモノクローナル抗体である。しかし、生物学/免疫学、費用、および患者のアドヒアランスに関して、以下で説明されるように、組換えモノクローナル抗体のアプローチには重大な欠点がある。
【0003】
モノクローナル抗体は、1つの病原株に関連する1つの抗原のみを認識し、異なる表面特性を有する新たな変異体に対する有効性を保持していない可能性がある。
【0004】
公衆衛生の目的のために十分なスケールで治療薬を産出するために組換え抗体生産施設を強化するには、費用が高すぎ、時間がかかる。
【0005】
モノクローナル抗体投与の一例としてSYNAGISを服用すると、高リスクの小児には、北半球では通常11月から4月まで継続するRSVシーズン全体を通じて、毎月15mg/kgを大腿部に筋肉内投与し、そのため繰り返し病院や診療所に訪問する必要があり、高価な予防措置となる。
【発明の概要】
【0006】
既存のモノクローナル抗体治療薬の短所に対処するため、新規ポリクローナル抗体治療薬を本明細書で説明する。
【0007】
ここで、単に例として、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】人乳由来のポリクローナル抗体ありまたはなしでプレインキュベートしたGFPタグ付けRSVありまたはなしでのヒトHEp-2細胞からの顕微鏡写真の結果であり、これらの抗体は、本明細書ではLCTG-001と呼ばれる。
図2】HEp-2ヒト気道細胞でRSVを中和するために1年間凍結保存されたLCTG-001の有効性をテストするための、図1に記載のインビトロ実験のGFP定量から算出された細胞感染平均値および標準偏差である。
図3】HEp-2ヒト気道細胞でRSVを中和するために3年間凍結保存されたLCTG-001の有効性をテストするための、インビトロ実験からの細胞感染平均値および標準偏差である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
呼吸器多核体ウイルス(RSV)感染の処置は既知である。例えば、SYNAGISなどのモノクローナル抗体(ヒト化IgG1モノクローナル抗体)は、組換えDNA技術を使用して生産することが可能である。市販のモノクローナル抗体は、RSV感染の処置に成功している可能性があるが、いくらかの欠点が存在している。例えば、モノクローナル抗体は、一般に、1つの病原株の特異的な表面特性を認識するように遺伝子操作されており、高度に突然変異したインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスであるSARS-CoV-2に対して抗体治療薬で観察されているような、異なる表面特性を有する新たな変異体に対する有効性を保持していない可能性がある。
【0010】
別の例として、RSV治療薬を生産する最も一般的な形態の1つである組換え抗体生産のスケールアップは、一般的な公衆衛生目的で使用するには非常に費用が高く、時間がかかる。加えて、いくらかの治療薬について、送達方法は、北米では一般に11月から4月まで継続するRSV活性が高い期間中、定期的な筋肉内注射の形態である可能性があり、この季節に関連する院内感染のリスクがあるにも関わらず病院への訪問の必要が生じる。さらに、筋肉内注射が、気道または肺への治療薬の十分な送達と関連していないことが認識される可能性がある。
【0011】
RSVは、ヒト集団の間で広く循環し、頻繁に個人に再感染する。その結果、ほとんどの人が幼児期以降、RSVにすでに曝露されていることが広く受け入れられている。したがって、RSV感染に対して持続的で効果的な免疫をもたらす(またはそうではない)機構を定義することは困難であり、十分には理解されていない。さらに、RSVに特異的な抗体が、少なくともマウスモデルにおいては、RSV感染に対する免疫応答の主な構成要素ではないことが示唆されている。
【0012】
RSVを処置するためにポリクローナル抗体治療薬が提供され、モノクローナル組換え抗体治療薬に代わるものと位置づけられている。特に、ポリクローナル抗体は、人乳抗体に由来するものである。人乳抗体は、元来ポリクローナルであり、それらがRSVなどの単一の病原体上の複数の特性に結合することができることを意味する。これにより、1つの特異的抗原エピトープに結合することしかできない組換えモノクローナル抗体とは異なり、抗原をより大きくカバーし、既存の変異体および新たな変異体の両方に対して有効性を保持している可能性が高まる。本ポリクローナル抗体治療薬において、抗体は吸入されるものであり、RSVの複製および蓄積に関して一次感染組織である呼吸器に蓄積する。抗体が吸入で送達される方法は限定されず、吸入デバイス、ネブライザデバイス、または他の方法の使用を含む場合がある。この送達方法は、血液中に注射または点滴され、そのため呼吸器内に同程度に蓄積しないモノクローナル抗体と比較した場合、一次感染部位でRSVを中和させる抗体のより大きな蓄積となる可能性がある。
【0013】
人乳抗体が主に(約90%)二量体IgAアイソタイプであることが、本明細書により、当業者に理解されるべきである。二量体IgA構造は、典型的に単量体IgGアイソタイプ(例えばSYNAGIS)である組換えモノクローナル抗体とは異なる。二量体IgAは、IgGとは異なり、呼吸器において好ましい安定性プロファイを有していることが知られており、さらに生物製剤に典型的に使用される注射法または点滴法の代わりに、吸入による送達方法にも利点がある。母乳の種々の特性(粘度、抗体組成、抗体濃度、および抗体力価が含まれるがこれらに限定されない)は、血清またはハイブリドーマ上清とは異なり、そのため、移行抗体捕捉に特異的なプロセスは、当技術分野ではこれまで既知ではなく、(非移行)抗体捕捉の既存の方法とは異なる。本例において、組み合わせた場合、母乳からの移行抗体を抽出、精製、および安定化するために使用される種々のステップが説明されている。
【0014】
一例において、乳からの免疫グロブリン抽出は、乳の清澄化のステップ、および沈澱のための65%の硫酸アンモニウムの使用を含み、その両方とも、既知の血清またはハイブリドーマ関連技術とは異なる。
【0015】
本明細書に記載の製剤の好ましい例は、抗体調剤薬の開発において現在進行中の課題である、室温での抗体の長期保存を可能にする場合がある。加えて、以下でより詳細に説明されるように、室温より低い温度、例えば約-20℃で保存した場合、製剤は、長期保存を可能にする。
【0016】
本明細書に記載の例の製剤およびプロセスは、例えば、この抗体をパッケージングするためにIgAサブタイプ抗体の安定性を改善して、有益な耐熱性および容易な取り扱いを提供し、吸入を介した患者への送達を改善する。
【0017】
本明細書に記載のプロセスは、生化学および分析技術を組み合わせて、ヒトを含む哺乳動物の母乳から移行抗体を抽出する。本明細書に記載の製剤およびプロセスが、ヒトの消費用に処方されたヒト抗体に特異的であるが、この概念は、乳を産生する他の哺乳動物に適用される可能性がある。例えば、本明細書に記載の製剤およびプロセスは、呼吸器疾患を処置するための吸入用抗体を提供するために、ウシ用に処方されたウシ抗体またはヒツジ用に処方されたヒツジ抗体を送達するために提供される場合がある。さらに、ヒトレシピエントが、RSVを処置するためのヒト抗体の吸入から利益を得る場合があるので、異なる種からの抗体を吸入する有益性がある場合がある。例えば、ウシ免疫グロブリン製品の中には、消化能力が損なわれている人々の中のヒト患者で腸症管理に使用される血清由来のウシ免疫グロブリンのように、ヒトの使用のために設計されているものもある。
【0018】
一例において、移行抗体の抽出のプロセスは、哺乳動物ドナーからの母乳を回収することから開始される。母乳は、物理的刺激、機械式ポンプ装置、これらの組み合わせを使用することにより、または乳管からの母乳の流れを刺激する任意の他の方法により乳房から搾乳される可能性がある。この例において、プロセスは、試料を回収すること、冷蔵経由で試料を輸送すること、および乳を回収直後に吸入用製剤に処理することを含む。試料の処理が迅速に行えない状況では、例えば約24時間以内に、試料を輸送中に冷蔵し、処理の準備ができるまで凍結する場合がある。代わりに、試料はまた、取得後、直接凍結される場合もある。母乳全体が室温または室温付近にある時間を短縮することが目標になり得ることが、本明細書により、当業者には認識されるべきである。加えて、母乳の凍結/融解サイクルも、母乳中の抗体の構造を損傷する可能性があるので減らすべきである。
【0019】
母乳の滅菌回収を容易にするため、乳房および乳首を、アルコールワイプまたは他の洗剤で処置する。ヒトの皮膚表面の殺菌/消毒にすでに使用されているアルコールワイプまたは石鹸を含む洗剤は、この目的に適している。しかし、強酸および塩基は、試料処理前に回収した母乳試料のpHおよび/または酸性に影響する場合があるので回避されるべきである。同様に、母乳の流れを促進するために使用されるポンプ装置は、乳房に適用される前に洗剤を用いて拭うか、一般的な消毒技術を用いて滅菌されるべきである。
【0020】
この例において、母乳は、適切な袋または容器に回収される場合がある。袋または容器は、プラスチック、金属、ポリマー、またはそれらの組み合わせなどの材料で製造される場合があり、種々の温度に対する耐性および抗体との交差反応性の欠如に基づいて選択される場合がある。例えば、市販の母乳保存袋は、容易な保存のために典型的に可撓性であり、漏出を防止するためにダブルジッパーシールを有しており、室温(約25℃)、冷蔵(約4℃)、および凍結温度(約-18℃以下)を含む種々の温度で安定である。
【0021】
抗体の安定性を高め、抗体の分解を減少させるために、数日間にわたる母乳の保存は、凍結温度で実行されるべきである。しかし、他の条件下での母乳の保存は、特に冷蔵または室温下で過ごす保存時間が限定されている場合、抗体抽出方法と依然として適合している可能性がある。
【0022】
低温滅菌熱処理プロセスは、多くの場合、典型的な乳処理プロトコルの一部として実行される。しかし、低温滅菌は、抗体を変性および分解する場合があり、そのため、低温滅菌が抗体保全および安定化を最大化する目標とは相容れない場合があるので実行されない。
【0023】
抗体抽出または精製の方法は、粗なもの(非特異的なもの)から高度に特異的なものまで様々である場合がある。本明細書で使用されるように、「粗なもの」は、抗体のサブタイプの中で区別されず、複数の(またはすべての)抗体サブタイプを保持する方法を指す;しかし、「特異的なもの」は、後述するように、クラス特異的または抗原特異的親和性を意味することができる。
【0024】
一例において、抽出ステップの目標は、抗体、好ましくはすべての母乳抗体サブタイプなどの目的の構成要素を捕捉すること;水、脂肪、糖類、タンパク質、小分子、および任意の病原体または試料が汚染されている場合がある他の環境化合物などの他の不要な構成要素をすべて洗い流すこと;ならびに精製された抗体画分を溶出することである。本例の方法は、可能な限り幅広いスペクトルの抗体を捕捉するように設計される。そのため、最大限の抗体の捕捉を促進する非特異的方法が好まれる。好ましくは、すべての抗体は、病原体に対して保護を高めるため、および抗体の総回収率を高めるために各母乳試料から回収される可能性がある。そのため、粗なパン抗体精製法は、より制限的なクラス特異的アフィニティ精製法に対して、本発明の目的のために使用される。
【0025】
物理化学的画分は、母乳から抗体を捕捉するために使用される可能性がある抽出方法の一例である。このプロセスは、物理的方法、化学的方法、電気的方法、またはそれらの組み合わせを使用して、試料から抗体を構成要素、例えば抗体に分離することを含む。それは、抗体の沈澱(例えば、硫酸アンモニウム沈澱)、サイズ排除(例えば、高分子量カットオフを有する透析膜、サイズ排除樹脂、およびダイアフィルトレーション装置)、固相結合(例えば、固定化金属キレートクロマトグラフィ)、または電荷による分離(例えば、イオン交換クロマトグラフィ)を含む場合がある。硫酸アンモニウム沈澱、透析精製、および免疫グロブリンカラム結合精製が使用される場合がある。
【0026】
クラス特異的アフィニティ精製は、母乳から抗体を捕捉するために使用される可能性がある抽出方法の別の例である。クラス特異的アフィニティ精製は、特定の標的クラスの抗体をすべて捕捉する固相結合および/または生物学的リガンド(例えば、ジャカリン、プロテインA、プロテインG、およびプロテインL)を指す場合がある。5つの一次免疫グロブリンのクラスは、それらの重鎖により区別される、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。
【0027】
抗原特異的アフィニティ精製は、母乳から抗体を捕捉するために使用される可能性がある抽出方法の別の例である。抗原特異的アフィニティ精製は、特定の抗原を(抗体のクラスまたはアイソタイプに関係なく)単に結合する、抗体の抽出を指す場合がある。例えば、目的の抗原は、対応する抗原特異的抗体の精製および溶出を可能にする固体支持表面、樹脂の上に、またはビーズの上に固定される場合がある。
【0028】
負の選択は、母乳から抗体を捕捉するために使用される可能性がある抽出方法の別の例である。負の選択は、母乳の不要な構成要素(例えば、アルブミンおよびカゼイン)の除去を指す。有益な栄養学的および/または免疫の作用のいずれにも寄与していない、ある特定の構成要素を除去することが望ましい場合がある。加えて、いくらかの構成要素は、それらの存在が、目的の精製母乳抗体を安定化および/または処方する努力を複雑にする可能性がある場合、除去される可能性がある。
【0029】
種々の方法は、母乳由来の抗体を特徴づけるために使用される場合がある。これらの方法はそれぞれ、抗体試料の構造またはその純度についての独自の情報をもたらす。それらは、回収された抗体が完全性(分解)および汚染の要件を満足させることを確認するために使用される場合がある。
【0030】
例えば、質量分析(MS)は、タンパク質、ペプチド、およびアミノ酸残基のレベルでの抗体調剤薬の生物物理学的特徴づけのために使用される場合がある。この分析機器は、高次元の構造、凝集、および抗体複合化を評価するために使用される場合がある。例えば、MSは、抗体がインタクトであるかどうか、またはより小さいペプチドもしくはアミノ酸に分解されているかどうかを測定するために使用される場合がある。
【0031】
抗体を特徴づけるための方法の別の例として、収率および力価を決定して分析する可能性がある。収率および力価は関連しているが、重要な差異がある。収率は、抗体濃度に体積を乗じて算出された、最終の調剤薬中での抗体総量を指し、抗体濃度は、光学測定から導出される可能性がある。しかし、濃度および収率は、この調剤薬における抗体分子の機能活性を説明しない。機能活性、または力価は、特定の抗原に対する抗体溶液の機能的濃度または希釈係数である。ELISA免疫測定法に基づく希釈系列は、力価を決定する可能性がある一般的な方法である。
【0032】
抗体を特徴づけるための方法の別の例として、汚染の評価および封じ込めを決定して分析する可能性がある。抗体などの生物由来の抽出物は、多くの場合、ウイルス、真菌、寄生虫、細菌を含む微生物、およびエンドトキシンとしても既知である細菌性リポ多糖(LPS)により汚染についてテストされる。抗体精製プロトコルのエンドトキシン除染の有益性を示すアッセイが好ましい。商業用の抗体精製プロトコルは、製品を保護して汚染を防止するのを支援する予防措置および予防策として機能する医薬品適正製造基準(CGMP)要件にしたがう。CGMP粒子により与えられる保護のほかに、精製キットはまた、例えば、本明細書に記載の生物由来の抽出物からLPSを除去するために使用される場合がある。
【0033】
さらに、X線結晶学は、抗体を特徴づけるために使用される場合がある。結晶学は、分子の三次元構造を評価することができる技術であり、抗体の構造を導出するために歴史的に使用されてきている。それは、上述の精製ステップの後、精製抗体がそれらの典型的なY字型構造を保持しているかどうかを決定するために使用される場合がある。
【0034】
本実施例において、硫酸アンモニウムおよびカラム精製技術は、抗体を精製するために使用された。初乳および乳からすべての脂肪を除去するために、約13,000RPMで約60分間の遠心分離によりヒト母乳試料を清澄化した。清澄化(脂質およびカゼインなどの固体粒子の除去)の後、抗体の沈澱のために硫酸アンモニウム沈澱[ASP]を使用した。血清からのIgGの沈澱のために、約40~45%の硫酸アンモニウムの範囲が説明されているが、血清とは対照的に母乳から得られた抗体の最適条件を特定する本実施形態の目的のため、さらに広い範囲の硫酸アンモニウム濃度が使用された。
【0035】
ASPに続いて、試料をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で透析し、硫酸アンモニウムおよび他の残留物を除去し、その後さらにセファロース4Bに結合したIgA、IgGおよびIgMのためのパンヒト捕捉抗体を含む免疫グロブリン[Ig]精製カラムで抗体を濃縮した。ハイブリドーマ由来抗体溶出用のスタンダードなど、pH2.8のカラム溶出緩衝液を、pH4.0に対して比較した。pH2.8の緩衝液は、ウェスタンブロットにより示される抗体捕捉を促進したが、pH4.0では、溶出液中に検出可能な抗体は得られなかった。ウェスタンブロットにより検出された抗体試料を定量するため、最適密度測定[OD]を使用して、タンパク質濃度を測定し、0.1mg/mlの読み取り値が得られ、本明細書に記載のASPおよびIg精製法が、ヒト抗体を生じることが確認された。本明細書で概説された精製ステップの完了で、抗体試料を、当業者によって「生理食塩水」または単に「緩衝液」とも呼ばれるリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁した。
【0036】
本例において、硫酸アンモニウム免疫グロブリン沈澱の有効性は、約30%から約40%、約45%、約65%の硫酸アンモニウムまで、一貫して高まる。65%のアンモニウムの割合は、スタンダードの40%よりもはるかに大きく、血清抽出に由来するプロトコルが、母乳抽出にとって十分に有効ではないことが例証される。
【0037】
ASPプロセスが、タンパク質溶解度を変更し、凝集を進め、多くの場合、溶液からタンパク質を「析出させる」ことを指す、タンパク質の沈澱を支援することが、当業者に認識されるべきである。病原体および他の汚染物質のサイズ、凝集しやすさ、溶解度、および表面電荷が抗体と異なると、細菌、ウイルス、およびアレルゲンなどの汚染物質は、抗体画分と共沈しないことが予想される。しかし、上述したASPおよびIg精製法は、本例において、試料の除染という追加の予期していない有益性を提供する。
【0038】
本例において、以下および図で説明されるように、本明細書ではLCTG-001と呼ばれる人乳由来のポリクローナル抗体の抗ウイルス効果をRSVに対してテストするために、細胞中和アッセイを設計し、実行した。以下の条件のそれぞれを、4連のウェル:細胞のみ;細胞+GFP-RSV;LCTG-001とプレインキュベートした細胞+GFP-RSV;細胞+LCTG-001でテストした。
【0039】
細胞:96ウェルプレートで1ウェルあたり5,000個のHEp-2(ヒト気道上皮)細胞を播種し、12時間インキュベートする。
【0040】
LCTG-001:1ウェルあたり、90マイクロリットルに相当する10マイクログラムの乳抗体を使用した。
【0041】
ウイルス:GFP-RSVは、蛍光GFPタンパク質を発現するように遺伝子操作されたRSV株である。GFP-RSVを感染させた細胞は蛍光を発する。1ウェルあたりGFP発現RSVのおよそ2,500プラーク形成単位(PFU)に対応する0.5の感染多重度(MOI)でRSVをHEp-2細胞に添加した。各ウェルに添加する前、100マイクロリットルの全体積中、RSVをLCTG-001または滅菌生理食塩水のいずれかと1時間プレインキュベートした。
【0042】
細胞インキュベーション:標準の細胞培養条件下、HEp-2細胞を滅菌生理食塩水、RSV、RSV+LCTG-001、またはLCTG-001単独と90分間インキュベートし、RSV感染を可能にした。その後、上清を吸引し、新しい細胞培養培地を添加し、細胞をさらに48時間、標準の細胞培養条件下でインキュベートした。
【0043】
感染の定量:48時間のインキュベーション後、HEp-2細胞をHoechst33342(健康な細胞中の二本鎖DNAを結合する一般に使用される染料)で45分間染色し、37℃/4%CO2で撮像した。Cellomics ArrayScan VTIで1ウェルあたり10倍の画像8枚を得、その後CellProfilerソフトウェアで分析を実行した。RSVによる細胞感染の割合を定量するため、細胞を、Hoechst陽性だがGFP陰性(非感染)、またはHoechst陽性でGFP陽性(感染)に分類し、感染細胞の割合を算出した。各ウェルの平均GFPシグナルを、その8枚の対応する画像から算出し、その後、各実験条件の平均および標準偏差を、その対応する4つのウェルから算出した。
【0044】
図1の最上段を参照すると、Hoechst染色HEp-2核のパターンは、細胞生存率がすべての条件にわたって質的に同様であったことを確認し、すべての実験条件を通じてベースライン細胞の健康が維持されていたことを確認し、LCTG-001がヒト気道細胞の生存率に明白な悪影響がないことを初めて立証した。GFPシグナルに対応する最下段では、非感染細胞はシグナルを提示しなかったが、GFP-RSV感染細胞は、過去のアッセイ実績から予想されるように、強固なシグナルを示した。LCTG-001とプレインキュベートしているGFP-RSVに感染した細胞は、ごく僅かなGFPを示し、プレインキュベーションが、RSV感染性を実質的に低下させたことを示唆した。最後に、LCTG-001とインキュベートしたがウイルスとはインキュベートしていない細胞は、予想通りGFPシグナルを示さなかった。
【0045】
図2を参照すると、図1で説明された細胞からのGFPシグナルを定量し、LCTG-001とプレインキュベートしたGFP-RSVに感染した細胞と比較して、GFP-RSVに感染した細胞での細胞感染平均および標準偏差として算出した。LCTG-001が存在しない場合、RSVは、45.54%±1.90の細胞を感染させた(ここで、45.54は、感染細胞の平均割合であり、1.90は、標準偏差である)。LCTG-001の存在下では、わずかに6.58%±2.42の細胞が感染し、RSV感染において85%の低減に相当していた。これらの実験は、他の免疫因子または細胞が存在しない場合、HEp-2上皮細胞で実行され、乳抗体が固有の中和特性を保持することを示唆したことに留意する。このアッセイにおいて、1年間-20℃でLCTG-001を冷凍庫で保存し、実験を実行する前、凍結融解サイクルを1回行った。
【0046】
図3を参照すると、LCTG-001では、-20℃で3年間の長期保存を行い、凍結融解サイクルを2回行った(図2で説明されるように初回は1年後、2回目は3年後)。LCTG-001が存在しない場合、RSVは、52.22%±10.48の細胞を感染させた;注目すべきことにこれは、2年前に実行された研究(具体的には45.54%±1.90)と同様の感染割合であり、細胞アッセイの一貫性を示す。LCTG-001の存在下では、わずかに18.65%±3.86の細胞が感染し、RSV感染において64%の低減に相当していた。したがって、LCTG-001が、-20℃で複数年保存される場合があり、依然として効力の大部分を保持していることが示されている。
【0047】
要約すると、ヒト免疫の他の細胞または分子成分が存在しない場合、インビトロで64~85%までRSVを中和するポリクローナル人乳抗体の能力は、予防および/または処置の目的のRSV治療薬としての有用性を支持する。3年間の凍結保存にも関わらず、人乳抗体の生理活性が持続することは、生物学的製品に通常関連していない、望ましい予想外の特性である。
【0048】
上で提供された種々の実施例の特徴および態様が、本開示の範囲内でもある、さらなる実施例に組み合わされる場合があることが認識されるべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】