(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するためのケルセチン含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/352 20060101AFI20240528BHJP
A61K 31/404 20060101ALI20240528BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240528BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K31/404
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K31/519
A61K31/455
A61P43/00 111
A61K31/375
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572076
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-06
(86)【国際出願番号】 IB2022054707
(87)【国際公開番号】W WO2022243942
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523437569
【氏名又は名称】クエルシス ファーマ エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】ラインズ、トーマス クリスチャン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BA18
4C086BC13
4C086BC19
4C086CB09
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA01
4C086ZC20
4C086ZC75
(57)【要約】
【要約】
【解決手段】 対象における筋萎縮性側索硬化症の治療に使用するための、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量。また、筋萎縮性側索硬化症またはその症状の進行を軽減、減速または緩和するために使用するための前記組み合わせも開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、前記方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、およびザフィルルカストの有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、前記組成物は約250mg~約2500mgのケルセチンを含む、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、前記組成物は約20μg~約3gのビタミンB3を含む、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、前記組成物は約200μg~約3gのビタミンCを含む、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、前記組成物は葉酸をさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記組成物は約1000μg~約3000μgの葉酸を含む、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法において、前記組成物は約5mg~約320mgのザフィルルカストを含む、方法。
【請求項8】
請求項1記載の方法において、前記組成物は約80mg~約160mgのザフィルルカストを含む、方法。
【請求項9】
請求項1記載の方法において、前記有効量は、ALSの1つまたはそれ以上の症状の進行を止めるのに十分である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年5月19日に出願された米国仮特許出願第63/190,697号の35 U.S.C. §119(e)に基づく利益を主張する。本出願の内容は、あらゆる目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を処置する方法に関し、前記方法は、それを必要とする対象に、有効量のケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を投与する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0003】
この特許のファイルには,カラー図面のための写真が少なくとも1枚含まれている。本特許のカラー図面または写真を含む写しは,請求および必要な手数料の支払により国内官庁に提供される。
【0004】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明の実施形態を示すものであり、本明細書とともに本発明の原理、特徴、および特徴を説明するのに役立つ。
【0005】
【
図1】イソケルセチンによるアストロサイトーシスの改善に関する例示的な評価を示している。GFAPおよびNissl染色で染色した脊髄切片からの共焦点画像である。イソケルセチン処理したラット脊髄では、ビヒクル処理したものと比較して、運動ニューロンを取り囲むアストロサイト(白色)が有意に減少していることに注目されたい。スケールバーは5μmと20μmである。
【
図2】イソケルセチンによるミクログリオーシスの改善に関する例示的な評価を示している。ミクログリアマーカーIba1の共焦点画像である。イソケルセチン処理したラット脊髄では、ビヒクル処理したものと比較して、ミクログリア細胞が有意に減少している。
【
図3】イソケルセチンによる運動ニューロン病態の改善に関する例示的な評価を示している。ミスフォールドしたSOD1およびユビキチンに対する抗体で染色した脊髄運動ニューロンの共焦点画像である。イソケルセチン処理したラット脊髄では、ビヒクル処理したものと比較して、両マーカーが有意に減少していることに注目されたい。
【0006】
(定義)
本明細書で使用される場合、「筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)」または「ALS」とは、一次性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、仮性球麻痺および進行性球麻痺(PBP)などの運動ニューロン障害、ならびに前頭側頭型認知症(FTD)を指す。
【0007】
本明細書で使用される場合、「ケルセチン(quercetin)」は、ケルセチンアグリコンおよびケルセチン誘導体の両方を指す。例えば、ケルセチン-3-O-グルコシド(「イソケルセチン(isoquercetin)」としても知られ、本明細書において「IsoQ」、「IsoQ」または「Iso-Q」とも称される)、ケルセチン-5-O-グルコシド、ケルセチン-7-O-グルコシド、ケルセチン-9-O-グルコシド、ケルセチン-3’-O-グルコシド、ケルセチン-4’-O-グルコシド、ケルセチン-3-O-ルチノシド(ルチンとしても知られる)、ケルセチン-3-O-[a-ラムノシル-(1->2)-a-ラムノシル-(1->6)]-I3-グルコシド、ケルセチン-3-O-ガラクトシド、ケルセチン-7-O-ガラクトシド、ケルセチン-3-O-ラムノシド、ケルセチン-7-O-ガラクトシド、ケルセチン-グリコシド、7-ヒドロキシフラボン、およびそれらの薬学的に許容される塩がある。「ケルセチン」はまた、イソケルセチンもしくはルチン、またはルチンもしくはイソケルセチンの構成成分、またはルチンもしくはイソケルセチンもしくはケルセチンの代謝物、ルチンもしくはケルセチンの硫酸化、グルクロン酸化、またはメチル化形態、およびそれらの薬学的に許容される塩を指すこともある。
【0008】
本明細書で使用される場合、「ビタミンB3(Vitamin B3)」は、様々な形態のビタミンB3を指し、これに限定されるものではないが、ナイアシンアミド、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、イノシトールヘキサニアシネート、またはそれらの組み合わせを含む。
【0009】
本明細書で使用される場合、「ビタミンC(Vitamin C)」は、これに限定されるものではないが、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、もしくはその両方、およびその塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム)、またはそれらの組み合わせを含む、ビタミンCを指す。
【0010】
本明細書で使用される場合、「葉酸(Folic acid)」は、これに限定されるものではないが、ビタミンB9、葉酸、プテロイルグルタミン酸、およびL-メチル葉酸、5-MTHF(5-メチルテトラヒドロ葉酸)、またはそれらの組み合わせを含む、ビタミンBを指す。
【0011】
本明細書で使用される場合、「チオール異性化酵素(thiol isomerases)」は、これに限定されるものではないが、「細胞外チオール異性化酵素」および「血管チオール異性化酵素」を含み、酸化還元酵素、異性化酵素、およびシャペロン活性を介してタンパク質の構造に影響を及ぼす多機能酵素である。これらの酵素は、すべての真核細胞の小胞体に高濃度で局在し、ジスルフィド結合形成を仲介することによって、新生タンパク質の折り畳みに不可欠な機能を果たしている。しかしながら、チオール異性化酵素は小胞体での保持を免れて分泌され、細胞膜上に局在することもある。これに限定されるものではないが、プロテインジスルフィド異性化酵素(PDI)、ERp57、ERp5を含むいくつかのチオール異性化酵素は、血小板や内皮細胞から分泌され、その膜に局在する。これらの血管チオール異性化酵素は血管の傷害後に放出され、血栓形成に関与することが知られている。血管チオール異性化酵素は酸化還元センサーとしても働く。血管チオール異性化酵素は局所の酸化還元環境に応答し、血小板や内皮細胞の表面タンパク質のS-ニトロシル化に影響を与える。タンパク質のフォールディングにおける役割に加え、チオール異性化酵素は細胞内外のタンパク質のアロステリックなジスルフィド結合を修飾し、それによってタンパク質の機能を制御することができる。ジスルフィド結合の形成と切断の過程は厳密に制御されており、酸化還元条件に反応する。PDIはこれらのチオール異性化酵素の原型であり、分子量57,000を有し、508アミノ酸を含む。P4HB遺伝子によってコードされ、4つのチオレドキシン様ドメインa-b-b’-a’から構成され、aおよびa’は活性部位にCGHCモチーフを持つ触媒活性ユニットであり、その前にシグナル配列がある。「チオール異性化酵素」は、これに限定されるものではないが、プロテインジスルフィド異性化酵素(PDI)、PDIA2、PDIA3(グルコース調節タンパク質58kD(GRP58)としても知られている)、PDIA4、PDIA5、PDIA6、PDIALT、PPIA、チオレドキシン(TRX)、AGR2、AGR3、CASQ1、CASQ2、DNAJC10、P4HB、TMX1、TMX2、TMX3、TMX4、TXNDC5、およびTXNDC12、ならびに以下の小胞体常在タンパク質:ERp5、ERp27、ERp57、ERp72、ERp44、ERp46、ERp29を含む。
【0012】
本明細書で使用される場合、「チオール異性化酵素阻害化合物(thiol isomerase inhibitor compound)」は、1つまたはそれ以上のチオール異性化酵素の阻害剤である。例示的なチオール異性化酵素阻害化合物としては、ザフィルルカスト、モンテルカスト、CGP-13501(CAS登録第56189-68-5号)、CGP-7930(CAS登録第57717-80-3号)、アロセトロン、バルサラジド、ベンセラジド、ブタクラモール、レバドパ、メサラジン、オクスカルバゼピン、それらの薬学的に許容される塩、プロドラッグ、および/または固体形態を含む。チオール異性化酵素の1つまたはそれ以上の阻害剤として、これらの化合物の1つもしくはそれ以上、またはこれらの化合物の2つもしくはそれ以上の組み合わせは、抗血栓剤、抗凝固剤、抗炎症剤、抗ウイルス剤、化学療法剤もしくは抗癌剤等、またはこれらの組み合わせとして使用することができる。ザフィルルカストは、化学名4-(5-シクロペンチルオキシカルボニルアミノ-1-メチルインド1-3-イルメチル)-3-メトキシ-N-o-トリルスルホニルベンズアミドを有する合成の選択的ペプチドロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)である。我々は、ザフィルルカストが血小板機能、血栓形成および癌細胞増殖を阻害する幅広いチオール異性化酵素阻害剤であることを見出した。ザフィルルカストの合成および医薬形態については、さらに米国特許第4,859,692号;第5,294,636号;第5,319,097号;第5,482,963号;第5,583,152号;第5,612,367号;第6,143,775号;第6,333,361号;および第6,399,104号に記載されており、これらの内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。モンテルカストは、化学名[R-(E)]-1-1-[[[1-[3-[2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル]フェニル]-3-[2-(7-クロロ-2-キノリニル)エテニル]フェニル]-3-[2-(1-ヒドロキシ-1-メチルエチル)フェニル]プロピル]チオ]メチルシクロプロパン酢酸を有する合成ペプチドロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)である。モンテルカストおよびモンテルカストナトリウムの合成および医薬形態については、さらに米国特許第5,565,473号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0013】
本明細書で使用される場合、「医薬剤(pharmaceutical agent)」または「化合物(compound)」という用語は、疾患または病態を治療または予防もしくは制御するために人に投与される、化学的実体または生物学的産物、あるいは化学的実体または生物学的産物の組み合わせを指す。
【0014】
本明細書で使用される場合、「活性剤(active agent)」という用語は、単独で、または他の化合物、要素、もしくは混合物と組み合わせて患者に投与した場合に、患者に直接的または間接的に生理学的効果を与える化合物、要素、または混合物を意味する。間接的な生理学的効果は、代謝産物または他の間接的な機序を介して生じる場合がある。活性剤が化合物である場合、遊離化合物の塩、溶媒和物(水和物を含む)、結晶形、非結晶形(すなわち、非晶質)、および化合物のあらゆる多形が含まれる。すべての形態は、それらを得るために使用される方法に関係なく、本明細書で企図される。
【0015】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩(pharmaceutically acceptable salt)」という用語には、親化合物をその無機塩および有機塩、酸付加塩または塩基付加塩にして修飾した開示化合物の誘導体が含まれる。本発明化合物の塩は、塩基性または酸性部分を含む親化合物から通常の化学的方法により合成することができる。一般に、このような塩は、これらの化合物の遊離酸形態を化学量論量の適切な塩基(Na、Ca、Mg、またはKの水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩など)と反応させることによって、あるいはこれらの化合物の遊離塩基形態を化学量論量の適切な酸と反応させることによって調製することができる。このような反応は、通常、水中または有機溶媒中、あるいは両者の混合溶媒中で行われる。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリルのような非水性媒体が、可能であれば使用される。本発明化合物の塩には、さらに、本発明化合物および本発明化合物塩の溶媒和物が含まれる。
【0016】
薬学的に許容される塩の例としては、これに限定されるものではないが、アミンのような塩基性残基の鉱酸塩または有機酸塩、カルボン酸のような酸性残基のアルカリ塩または有機酸塩を含む。薬学的に許容される塩には、従来の非毒性塩および例えば非毒性の無機酸または有機酸から形成される親化合物の第4級アンモニウム塩が含まれる。例えば、従来の無毒性酸塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸から誘導されるもの、および酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸塩、メシル酸塩、エシル酸塩、ベシル酸塩、スルファニル酸塩、2-アセトキシ安息香酸塩、フマル酸塩、トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンジスルホン酸塩、シュウ酸塩、イセチオン酸塩、HOOC-(CH2)n-COOH(n=0~4)などの有機酸から調製される塩が含まれる。追加の適切な塩のリストは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、1418頁(1985年)に見出すことができる。
【0017】
本明細書で使用される場合、数値の直前の「約(about)」という用語は、その数値のプラスマイナス10%の範囲を意味し、例えば、「約50」は45~55を意味し、「約25,000」は22,500~27,500を意味するが、本開示の文脈がそうでないことを示すか、またはそのような解釈と矛盾する場合を除く。
【0018】
本明細書で使用される場合、「剤形(dosage form)」という用語は、活性剤の投与単位を意味する。剤形の例としては、錠剤、カプセル剤、注射剤、懸濁剤、液剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、坐剤、吸入剤、経皮剤などが含まれる。例示的な剤形は、固形の経口剤形である。
【0019】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物(pharmaceutical compositions)」という用語は、少なくとも1つの活性剤またはその薬学的に許容される塩、および担体などの少なくとも1つの他の物質を含む組成物である。医薬組成物は、ヒトまたは非ヒト医薬品のための米国FDAのGMP(適正製造規範)基準を満たす。医薬組成物は、剤形に製剤化することができる。
【0020】
本明細書で使用される場合、医薬組成物に適用される用語「担体(carrier)」は、活性剤が提供される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。本明細書で使用される場合、医薬組成物に適用される用語「担体(carrier)」は、活性剤が提供される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。担体のクラスには、例えば、緩衝剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、香味剤、潤滑剤、保存剤、安定剤、界面活性剤、打錠剤、および湿潤剤が含まれる。いくつかの担体は1つまたはそれ以上のクラスに記載され、例えば、植物油は、ある製剤では潤滑剤として使用され、他の製剤では希釈剤として使用される。例示的な薬学的に許容される担体としては、糖、デンプン、セルロース、粉末トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、および植物油が含まれる。医薬組成物には、活性剤の活性を実質的に阻害しない、任意の追加活性剤が含まれていても良い。化合物と共に使用される担体の量は、活性剤の単位用量当たりの投与に実用的な量の物質を提供するのに十分である。担体の種類としては、例えば、緩衝剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、香味剤、潤滑剤、保存剤、安定剤、界面活性剤、打錠剤、湿潤剤などが含まれる。いくつかの担体は1つまたはそれ以上のクラスに記載され、例えば、植物油は、ある製剤では潤滑剤として使用され、他の製剤では希釈剤として使用される。例示的な薬学的に許容される担体としては、糖、デンプン、セルロース、粉末トラガカント、麦芽、ゼラチン、タルク、および植物油が含まれる。医薬組成物には、活性剤の活性を実質的に阻害しない、任意の追加活性剤が含まれていても良い。
【0021】
本明細書で使用される場合、「患者(patient)」または「対象(subject)」という用語は、医学的治療を必要とするヒトまたはヒト以外の動物である。医学的治療には、病気や障害などの既存の病態の治療、阻止、減速、改善、予防的治療、あるいはALSの家族歴のある患者における診断的治療などが含まれる(研究によると、ALS患者の約10%において、ALSの明らかな家族歴があり、遺伝的素因が強いことが示唆されており、現在、これらの症例の半数以上で病因となる突然変異が発見されている)。一方、散発性ALSは遺伝率が40-50%と推定される複雑な形質と考えられている。)いくつかの実施形態においては、患者はヒト患者である。
【0022】
本明細書で使用される場合、「投与する(administer)」、「投与する(administering)」または「投与(administration)」という用語は、化合物または組成物を対象に直接投与することを指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「提供する(providing)」という用語は、贈与、管理、販売、配布、譲渡(営利目的か否かを問わない)、製造、配合、または調剤を意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、「チオール異性化酵素阻害化合物またはその薬学的に許容される塩を、少なくとも1つの追加の治療剤とともに提供する」という用語は、活性剤またはその薬学的に許容される塩と追加の活性剤(単数または複数)が、単一の剤形で同時に提供されるか、別々の剤形で同時に提供されるか、または活性剤またはその薬学的に許容される塩と少なくとも1つの追加の活性剤の両方が患者の血流内に存在する時間以内のある時間だけ隔てて投与するための別々の剤形で提供されることを意味する。活性剤またはその薬学的に許容される塩および追加の活性剤は、同一の医療従事者によって患者に処方される必要はない。追加の活性剤または薬剤は処方箋を必要としない。活性剤またはその薬学的に許容される塩、あるいは少なくとも1つの追加活性剤の投与は、例えば経口錠剤、経口カプセル剤、経口液剤、吸入、注射、坐剤、または局所接触など、任意の適切な経路で行うことができる。
【0025】
「治療(treatment)」という用語は、本明細書で使用される場合、活性剤またはその薬学的に許容される塩を、唯一の活性剤として、または少なくとも1つの追加の活性剤とともに提供することを含み、これは、(a)疾患または病態の素因を有する可能性があるが、まだ疾患または病態を有すると診断されていない患者(ALSの家族歴を有する患者)において、疾患もしくは病態または疾患もしくは病態の症状が生じるのを予防する、(b)疾患または病態を抑制する、すなわち、(いくつかの実施形態においては、ALSの診断後に)その発症を阻止または遅らせる、および(c)疾患または病態を緩和する、すなわち、疾患または病態の退行を引き起こす、のに十分である。「治療(Treating)」および「治療(treatment)」も、1つまたはそれ以上の活性剤の活性により影響を受ける疾患または状態に罹患している患者に、唯一の活性剤として、または少なくとも1つの追加の活性剤と共に、治療上有効量の活性剤またはその薬学的に許容される塩を提供することを意味する。「1つまたはそれ以上の活性剤の活性に影響される疾患または病態」とは、1つまたはそれ以上の活性剤が疾患または病態に関与していることを意味する。
【0026】
本明細書で使用される場合、「有効量(effective amount)」という用語は、特定の障害または病理学的プロセスの少なくとも1つの症状またはパラメータの測定可能な阻害をもたらす量を指す。本明細書で使用される場合、本願組成物の「治療上有効量(therapeutically effective amount)」という用語は、任意の医学的治療に適用可能な妥当な利益/リスク比で、治療対象に治療効果を与える量である。治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験もしくはマーカーによって測定可能)または主観的(すなわち、対象が効果を示すか、もしくは効果を感じるか、もしくは医師が変化を観察する)である。
【0027】
本明細書で使用される場合、活性剤の「治療上有効量(therapeutically effective amount)」とは、患者に投与された時に、例えば、ALSに罹患している患者において、肥満細胞の活性化を防止し、肥満細胞活性化サイトカインの形成を防止するような、(ALSの家族歴を有する患者における)症状の予防、減速、抑制、または改善などの治療上の利益を提供するのに有効な量を意味する。治療上有効量は、患者の健康状態、年齢、体重などの因子、および患者において所望の応答を引き出す化合物の能力に応じて変化する。最適な治療効果が得られるように投与量を調節することもできる。治療上有効量とはまた、活性剤の毒性または有害作用(例えば、副作用)が、治療上有益な作用によって凌駕される量である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「相乗効果(synergistic effect)」という用語は、単体の合計よりも大きい全体を生じさせる相互作用または協調作用を指す。本明細書で使用される場合、イソケルセチンまたはケルセチンとザフィルルカストとの効果は、ケルセチンまたはザフィルカスト単体よりも大きな効果をもたらす。
【0029】
「予防する(preventing)」という用語は、特定の障害、疾患または状態を予防すること、および/または特定の障害、疾患または状態の再発を予防することを意味する。いくつかの実施形態において、「予防する」とは、ALSの家族歴を有する患者において、特定の障害、疾患または状態を予防すること、および/または特定の障害、疾患または状態の再発を予防することを意味する。
【0030】
本明細書で使用される場合、「予後(prognosis)」という用語は、ある疾患の予想される経過と結果、特に回復の可能性を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「治療する(treat)」、「治療(treatment)」、「治療される(treated)」、または「治療する(treating)」という用語は、治療的処置および予防的処置(ALSの家族歴を有する患者の場合)の両方を意味し、その目的は、望ましくない生理学的状態、障害または疾患から(部分的または全体的に)保護すること、または遅らせること(例えば、発症を軽減または延期すること)、あるいは、異常であった、または異常となるパラメータ、値、機能または結果の部分的または全体的な回復または低下抑制などの有益なまたは所望の臨床結果を得ることを意味する。本出願の目的上、有益または所望の臨床結果には、これに限定されるものではないが、症状の緩和、状態、障害または疾患の程度または勢いまたは発症速度の減少、状態、障害または疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、状態、障害または疾患の発症の遅延または進行の遅延、状態、障害または疾患の状態の改善、および寛解または再発(部分的または全体的であるか否かを問わない)を含み、それが実際の臨床症状の即時的な軽減、または状態、障害もしくは疾患の増強または改善につながるか否か、状態、障害または疾患の状態の蔓延を防止するか否かを問わない。治療は、過度の副作用を伴わずに臨床的に有意な反応を引き出すことを目指す。「単位剤形(unit dosage form)」という用語は、ヒト対象および他の動物に対する単位投与量として適した物理的に不連続な単位を指し、各単位は、適切な医薬賦形剤と関連して、所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性物質を含む。
【0032】
用語「改善する(improving)」、「増強する(enhancing)」、「治療する(treating)」、および「低下させる(lowering)」は、対象への、本発明に係る組成物の有効量の投与を指す。前記対象は、上記状態の1つまたはそれ以上を改善する必要がある、または上記障害の1つまたはそれ以上を有する、または上記障害若しくは状態の1つまたはそれ以上の症状もしくは素因を有し、これらの状態の1つまたはそれ以上を改善する目的で、あるいはこれらの障害の1つまたはそれ以上、またはこれらの症状もしくは素因の1つまたはそれ以上を予防、治癒、緩和、救済、改善する目的で投与される。
【0033】
「投与(administration)」という用語は、任意の適切な形態、例えば、食品、飲料、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、および溶液で、本発明の組成物を対象へ経口送達または非経口送達することを指す。
【0034】
「非経口(parenteral)」という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸腔内、鼻腔内、髄腔内、および頭蓋内注射、ならびにさまざまな注入技術を指す。
【0035】
「有効量(effective amount)」とは、身体的利益(例えば、疾患によってもたらされる疲労の軽減および/または持久力の向上)または治療的利益(例えば、ALS疾患の進行を遅らせる)を提供するのに十分な組成物の用量を指す。最適な投与経路および投与量を決定するために、in vivo試験およびin vitro試験の両方を実施することができる。
【0036】
本明細書で使用される「疾患(disease)」という用語は、一般的に、「障害(disorder)」、「機能不全(dysfunction)」、「症候群(syndrome)」、および「(医学的状態における)状態(condition)」という用語と同義であり、互換的に使用されることが意図される。
【0037】
「併用療法(combination therapy)」という用語は、本開示に記載される医学的状態または障害を処置するための2つまたはそれ以上の治療剤の投与を意味する。このような投与は、実質的に同時の様式でのこれらの治療剤の共投与を包含し、例えば、活性成分の一定の比率を有する単一のカプセル、または剤形表示、または各活性成分についての複数の別個のカプセルでの共投与が含まれる。さらに、このような投与は、個々の治療薬の送達を1~24時間、1~7日、または1週間以上離して、同じ患者において各タイプの治療薬を順次使用することも包含する。いずれの場合においても、治療レジメンは、本明細書に記載される状態または障害の治療において、薬剤の組み合わせの有益な効果を提供する。
【0038】
本開示は、本出願に記載された特定の実施形態で限定されるものではなく、これらは様々な態様の例示として意図されている。当業者には明らかなように、その精神および範囲から逸脱することなく、多くの修正および変形を行うことができる。本明細書に列挙したものに加えて、本開示の範囲内にある機能的に等価な方法および装置は、前述の説明から当業者には明らかであろう。このような修正および変形は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。本開示は、添付の特許請求の範囲の条件によってのみ限定され、そのような特許請求の範囲が権利を有する等価物の全範囲と共に限定される。本開示は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物学的系に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的のみのためのものであり、限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0039】
本明細書において、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形の文献を含む。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本開示のいかなる内容も、本開示に記載された実施形態が、先行発明によりかかる開示に先行する権利を有していないことを認めるものとして解釈されるものではない。本明細書で使用される場合、用語「含む(comprising)」は、「含むが、これに限定されない」ことを意味する。
【0040】
様々な組成物、方法、および装置は、様々な成分または工程を「含む(comprising)」(「含むが、これらに限定されない」と解釈される)という用語で記載されているが、組成物、方法、および装置はまた、様々な成分または工程「から本質的に成る(consist essentially of)」または「から成る(consist of)」こともでき、このような用語は、本質的に閉じたメンバー群を定義するものとして解釈されるべきである。
【0041】
本明細書における実質的に任意の複数および/または単数の用語の使用に関して、当業者であれば、文脈および/または用途に応じて、複数形から単数形へ、および/または単数形から複数形へ解釈することができる。様々な単数/複数の順列は、明確化のために本明細書で明示的に規定される場合がある。
【0042】
一般に、本明細書、特に添付の特許請求の範囲(例えば、添付の特許請求の範囲本体)において使用される用語は、一般に「開かれた(open)」用語として意図されることが当業者には理解されるであろう(例えば、「含む(including)」という用語は「含むが、これに限定されない」と解釈されるべきであり、「有する(having)」という用語は「少なくとも有する」と解釈されるべきであり、「含む(includes)」という用語は「含むが、これに限定されない」などと解釈されるべきである)。当業者にはさらに、導入された請求項の特定の数の記載が意図される場合、そのような意図は請求項に明示的に記載され、記載がない場合、そのような意図は存在しないことが理解されよう。例えば、理解の一助として、以下の添付の特許請求の範囲には、特許請求の範囲の記載を導入するために「少なくとも1つ(at least one)」および「1つまたはそれ以上(one or more)」という導入句が使用されている場合がある。しかしながら、このような語句の使用は、不定冠詞「a」または「an」による請求項の繰り返しの導入が、そのような導入された請求項の繰り返しを含む特定の請求項を、そのような繰り返しを1つだけ含む実施形態に限定することを意味すると解釈されるべきではなく、たとえ同じ請求項が導入語句「1つまたはそれ以上」または「少なくとも1つ」および「a」または「an」などの不定冠詞を含む場合であっても解釈されるべきではない(例えば、「a」および/または「an」は、「少なくとも1つ」または「1つまたはそれ以上」を意味すると解釈されるべきである)。また、請求項の冒頭に使用される定冠詞の使用についても同様である。さらに、導入された請求項の繰り返しの特定の数が明示的に復唱されている場合であっても、当業者は、そのような復唱は、少なくとも復唱された数を意味すると解釈されるべきであることを認識するであろう(例えば、他の修飾語を伴わない「2回の列挙」は、少なくとも2回の列挙、または2回もしくはそれ以上の列挙を意味する。)。さらに、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つなど」に類似する慣用句が使用される場合、一般的に、そのような構成は、当業者がその慣用句を理解する意味で意図される(例えば、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、A単独、B単独、C単独、AおよびB共に、AおよびC共に、BおよびC共に、および/またはA、B、およびC共に等を有するシステムを含むが、これに限定されない)。A、B、またはCのうちの少なくとも1つ等」に類似する慣例が使用される場合、一般に、そのような構成は、当業者がその慣用句を理解する意味で意図される(例えば、「A、B、またはCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、A単独、B単独、C単独、AおよびB共に、AおよびC共に、BおよびC共に、および/またはA、B、およびC共に等を有するシステムを含むが、これに限定されない)。当業者にはさらに、明細書、特許請求の範囲、または図面のいずれにおいても、2つ以上の代替的な用語を提示する実質的に任意の接続詞的な単語および/または語句は、用語の一方、用語のいずれか、または両方の用語を含む可能性を企図するものであることが理解されるだろう。例えば、「AまたはB」という語句は、「A」または「B」、あるいは「AおよびB」の可能性を含むものと理解される。
【0043】
加えて、本開示の特徴または態様がマーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本開示がそれによってマーカッシュ群の任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブ群の観点からも記載されていることを認識するであろう。
【0044】
当業者には理解されるように、本明細書で開示されるすべての範囲は、書面による説明を提供するという観点など、あらゆる目的のために、あらゆる可能な部分範囲およびその部分範囲の組み合わせも包含する。どのような列挙された範囲も、同じ範囲が少なくとも等しい半分、3分の1、4分の1、5分の1、10分の1などに分解されることを十分に説明し、可能にするものとして容易に認識することができる。非限定的な例として、本明細書で議論される各範囲は、下位3分の1、中位3分の1、および上位3分の1などに容易に分解することができる。また、当業者には理解されるであろうが、「最大(up to)」、「少なくとも(at least)」などのすべての文言は、言及された数を含み、上述したように、その後サブ範囲に分解することができる範囲を指す。最後に、当業者には理解されるであろうが、範囲は個々のメンバーを含む。従って、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1、2、または3個の細胞を有する群を指す。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1、2、3、4、5個の細胞を有する群を指す。
【0045】
上記に開示された様々な特徴および機能、またはそれらの代替物は、他の多くの異なるシステムもしくは用途に組み合わされても良い。当業者によって、現在予見されていない、または予期されていない様々な代替、修正、変形、または改良がその後なされる可能性があり、それらの各々もまた、開示された実施形態によって包含されることが意図される。
【発明の詳細な説明】
【0046】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、または原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮症(PMA)、仮性球麻痺および進行性球麻痺(PBP)、多発性硬化症(MS)、前頭側頭型認知症(FTD)およびハンチントン病から選択される関連障害の治療のための様々な方法が本明細書に記載される。本方法は、対象へ少なくとも1つの医薬組成物を投与する工程を含む。本治療により、ALSの症状を軽減または除去することができる。本治療により、ALSの症状(例えば、肺機能障害および/または肺を十分に拡張できないこと)のさらなる進行を阻止することができる。本治療により、ALSの症状(例えば、肺機能障害および/または肺を十分に拡張できない症状)のさらなる進行を遅らせることができる。チオール異性化酵素阻害剤、特にPDI阻害剤は、肥満細胞の活性化を抑制または停止させ、肥満細胞の過剰活性を低下させ、ミトコンドリア機能を維持し、神経細胞を変性から保護することができるとともに、ALSでみられる肺機能の低下および/または肺を十分に拡張できない状態を予防または軽減することができる。
【0047】
一実施形態において、本発明が記載するのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する方法であって、前記方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、方法である。本発明の組成物は、種々の形態であっても良い。いくつかの実施形態において、ケルセチン、ビタミンB3、およびビタミンC、ならびに任意選択で葉酸は、単剤で投与され、ザフィルルカストおよび任意選択で葉酸は、別々に投与される。いくつかの実施形態において、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸は、別々に投与される。いくつかの実施形態において、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸は、単剤で投与される。いくつかの実施形態において、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸は、1つまたはそれ以上の製剤で投与され、ここで、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカストおよび任意選択で葉酸のいずれか1つは、組み合わせてまたは単独で投与される。
【0048】
本発明は、少なくとも部分的には、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカストおよび任意に葉酸を有効成分として含む組成物が、ALS患者の治療において、イソケルセチンもしくはケルセチンまたはザフィルルカスト単独による治療と比較して相乗効果を示すという予期せぬ知見に基づいている。幅広いチオール異性化酵素阻害剤であるザフィルルカスト、およびイソケルセチンまたはケルセチンは、主に異なるチオール異性化酵素に作用する。一般に、チオール異性化酵素は、肥満細胞の活性化、肥満細胞の異常活性化、ミトコンドリアの機能障害を通じて脊髄に損傷を与え、神経炎症、ミクログリアの活性化と損傷、細胞死を引き起こす。ザフィルルカストは、ALSにおける神経変性の病因のひとつである神経炎症から運動ニューロンを保護する。ザフィルルカストはまた、異常な肥満細胞の活性を抑制し、ALS患者にみられる肺機能の低下や肺を十分に膨らませることができない状態を抑制する可能性がある。ケルセチンとイソケルセチンはミトコンドリアの機能障害を防ぎ、ALSにおける神経変性のもう一つの病因であるミトコンドリアの生合成を維持することが知られている。また、ケルセチンおよびイソケルセチンは、ザフィルルカストとは異なるチオール異性化酵素を阻害することによってではあるが、ALS患者に認められる肺機能の低下および/または肺を十分に膨らませることができない状態を抑制する。さらに、本発明者らは、これらの化合物が低用量で相乗的に作用して運動単位を効率的に保護するという驚くべき結果を観察した。さらに、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカストおよび任意選択で葉酸を有効成分として含む組成物は、ALSの動物モデルにおいて、In vivoで麻痺の発症を遅延させ、生存期間を延長することができる。ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を有効成分とする組成物は、ALS対象の治療において驚くべき実質的な改善を示すものである。
【0049】
医薬組成物
いくつかの実施形態において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、チオール異性化酵素阻害剤は、ザフィルルカスト、モンテルカスト、CGP-13501、CGP-7930、アロセトロン、バルサラジド、ベンセラジド、ブタクラモール、レバドパ、メサラジン、オクスカルバゼピン、それらの薬学的に許容される塩、プロドラッグ、および/またはそれらの固体形態である。いくつかの実施形態において、ALSを治療する方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量を、それを必要とする対象に投与する工程を含む。
【0050】
いくつかの実施形態において、ALSを処置する方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含み、前記組成物は、約250mg~約1000mgのケルセチンを含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、約20μg~約3gのビタミンB3を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、約200μg~約3gのビタミンCを含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、約1000μg~約3000μgの葉酸を含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、約5mg~約160mgのザフィルルカストを含む。いくつかの実施形態において、前記組成物は、約5mg~約320mg、約80mg~約160mg、または約5mg~約80mgのザフィルルカストを含む。
【0051】
本発明の組成物におけるケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、葉酸、およびザフィルルカストの重量比は、1:0.02~1:0.2~2.5、またはその間の任意の比とすることができる。例えば、重量比は、1:0.04~0.5:0.3~2.0、1:0.05~0.3:0.4~1.5、1:0.05~0.2:0.5~1、および1:0.1~0.2:0.5~1であっても良い。好ましい比としては、約1:0.02:1、約1:0.04:1、約1:0.08:1、約1:0.05:1.5、および約1:0.16:1を含む。典型的には、対象は、1日1回または定期的に、100mg~2g(好ましくは、250mg~1g)のケルセチンを提供する量の組成物を投与されても良い。
【0052】
消化後、ケルセチン誘導体はケルセチンアグリコンと他の活性誘導体に変換され、体内に吸収される。上記ケルセチンの量は、ケルセチンアグリコンまたはケルセチン誘導体のケルセチン部分の量を意味する。ケルセチンは、純粋な形態で、または混合物(例えば、植物抽出物)の成分として、組成物に添加することができる。市販のケルセチンの例としては、Quercegen Pharmaceuticals LLC(マサチューセッツ州ボストン)から入手できるQU995(99.5%のケルセチン含有)およびQU985(98.5%のケルセチン含有)が含まれる。市販のイソケルセチンの例としては、Quercis Pharma AG(スイス、Zug)から入手できるISQ950AN(95%以上のイソケルセチン含有)およびISQ995AN(99.5%のイソケルセチン含有)が含まれる。
【0053】
本発明の組成物は様々な形態とすることができ、これに限定されるものではないが、ソフトチュウ(soft chews)、カプセル、錠剤などを含む。例えば、組成物は、ケルセチン、ナイアシンアミド、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、砂糖、コーンシロップ、スクラロース、大豆レシチン、トウモロコシデンプン、クリセリン、パーム油、キシリトール、カラギーナン、FD&C Yellow#6、FD&C Yellow#5、ならびに天然および/または人工香料を含むソフトチュウ組成物である。このソフトチュウ組成物の例示的な一食分(5.15g)には、250mgのケルセチン、12.9mgのビタミンB3(すなわち、ナイアシンアミド)、および382.8mgのビタミンC(すなわち、L-アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム)が含まれる。葉酸は、約1000μg~約3000μgの量でソフトチュウに含有させるか、または別個に提供することができる。ザフィルルカストは、約5mg~約320mg、約80mg~約160mg、または約5mg~約80mgの量をソフトチュウに含有させるか、または別個に提供することができる。対象は、このソフトチュウ組成物を1日1~8回(例えば、4回)摂取することができる。摂取量は、例えば、治療すべき障害または状態および対象の身体状態に応じて変化しても良い。このソフトチュウの別の例示的な組成物は、5.25重量%のケルセチン、0.25重量%のビタミンB3、および7.81重量%のビタミンC(すなわち、L-アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム)を含む。
【0054】
本発明の組成物は、イソフラボン(例えば、ゲニステインまたはゲニスチン)、クルクミン、レスベラトロール、イソケルセチン、ルテオリン、エピガロカテキンガレート(EGCG)、CoQ10、エイコサペンタエン酸(EPA)、およびドコサヘキサエン酸(DHA)などの1つまたはそれ以上の活性成分をさらに含むことができる。これらの有効成分は、純粋な形態で、または混合物(例えば、植物もしくは動物からの抽出物)の成分として、組成物に添加することができる。これらの各成分の適切な1日投与量は、例えば、治療される障害または状態および対象の身体状態に応じて変化しても良い。これらの成分のいくつかの例示的な1日投与量は、クルクミン20~2,500mg(好ましくは250~1,000mg)、レスベラトロール10~1,000mg(好ましくは100~500mg)、イソケルセチン10~1,000mg(好ましくは100~250mg)、EGCG50~1,000mg(好ましくは100~700mg)、ゲニスチン/ゲニステイン25~300mg(好ましくは50~100mg)、ルテオリン10~1,000mg(好ましくは100~200mg)、EPA50~1,000mg(好ましくは70~500mg)、DHA50~1,000mg(好ましくは80~700mg)である。さらに、必要に応じて、ソルビトール、マルチトール、水素化グルコースシロップおよび水素化デンプン加水分解物、高フルクトースコーンシロップ、サトウキビ糖、甜菜糖、ペクチン、スクラロースなどの甘味料を添加して甘味を付与することができる。本組成物はまた、アミノ酸、脂肪酸、タンパク質、繊維、ミネラル、風味増強剤、または着色剤を含むことができる。例示的なアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アルギニン、ならびにこれらのL-およびD-体が含まれる。消化を助けるためにアミノ酸を添加しても良い。例示的な脂肪酸としては、オメガ3脂肪酸(例えば、リノレン酸)、オメガ6脂肪酸(例えば、リノール酸)、オメガ9脂肪酸(例えば、オレイン酸)、ヒマワリ油、ヒマワリレシチン、大豆油、および大豆レシチンが含まれる。消化を助けるためにアミノ酸を添加しても良い。例示的なタンパク質としては、大豆タンパク質およびチアシードタンパク質などの植物タンパク質が含まれる。例示的な繊維としては、大豆繊維、チアシード繊維などの植物繊維が含まれる。これらの成分は、純粋な形態で、または混合物(例えば、植物または動物からの抽出物)中の成分として、上記組成物中に添加することができる。
【0055】
いくつかの例において、医薬組成物は、1つまたはそれ以上の例示的な充填剤をさらに含むことができる。例示的な充填剤の例としては、微結晶セルロースなどのセルロースおよびセルロース誘導体、乾燥デンプン、加水分解デンプン、およびコーンスターチのようなデンプン誘導体などのデンプン、シクロデキストリン、粉糖並びにラクトース、マンニトール、スクロース、およびソルビトールのような糖アルコールなどの糖類、水酸化アルミニウムゲル、沈降炭酸カルシウム、炭酸塩、アルミノケイ酸マグネシウム、二塩基性リン酸カルシウムなどの無機充填剤、および塩化ナトリウム、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化チタン、リン酸二カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、アルミナ、カオリン、タルク、またはそれらの組み合わせを含む。充填剤は、組成物の総重量に対して、約20重量%~約65重量%、約20重量%~約50重量%、約20重量%~約40重量%、約45重量%~約65重量%、約50重量%~約65重量%、もしくは約55重量%~約65重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0056】
いくつかの例において、医薬組成物は1つまたはそれ以上の崩壊剤をさらに含む。崩壊剤の例としては、デンプン、アルギン酸、架橋ポリビニルピロリドンなどの架橋ポリマー、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸カリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クレー、セルロース、デンプン、ガム、またはそれらの組み合わせが含まれる。崩壊剤は、組成物の総重量に対して約1重量%~約10重量%、約1重量%~約9重量%、約1重量%~約8重量%、約1重量%~約7重量%、約1重量%~約6重量%、もしくは約1重量%~約5重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0057】
いくつかの例において、医薬組成物は1つまたはそれ以上の結合剤をさらに含む。結合剤は、これに限定されるものではないが、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース、トウモロコシデンプン、プレゼラチン化デンプン、およびヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン、アカシア、トラガカント、アルギン酸ナトリウムなどのワックス、天然および合成ガム、ポリメタクリレート、ポリビニルピロリドンなどの合成ポリマー、ならびにポビドン、デキストリン、プルラン、寒天、ゼラチン、トラガカント、マクロゴール、またはそれらの組み合わせを含む。結合剤は、組成物の総重量に対して、約0.5重量%~約5重量%、約0.5重量%~約4重量%、約0.5重量%~約3重量%、約0.5重量%~約2重量%、もしくは約0.5重量%~約1重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0058】
いくつかの例において、医薬組成物は1つまたはそれ以上の湿潤剤をさらに含む。湿潤剤は、これに限定されるものではないが、オレイン酸、モノステアリン酸グリセリル、モノオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキサマー、ポロキサマー188、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリソルベート、セチルアルコール、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、トリアセチン、モノステアリン酸グリセリンなど。)、ポリオキシメチレンステアレート、ラウリル硫酸ナトリウム、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、塩化ベンザルコニウム、ポリエトキシル化ヒマシ油、およびそれらの組み合わせを含む。湿潤剤は、組成物の総重量に対して、約0.1重量%~約1重量%、約0.1重量%~約2重量%、約0.1重量%~約3重量%、約0.1重量%~約4重量%、もしくは約0.1重量%~約5重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0059】
いくつかの例において、医薬組成物は1つまたはそれ以上の潤滑剤をさらに含む。潤滑剤は、これに限定されるものではないが、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、水酸化カルシウム、タルク、トウモロコシデンプン、フマル酸ステアリルナトリウム、アルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩、ワックス、ホウ酸、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール、プロピレングリコール、オレイン酸ナトリウム、グリセリル、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ポリエチレングリコール(PEG)、メトキシポリエチレングリコール、プロピレングリコール、オレイン酸ナトリウム、ベヘン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセリル、安息香酸グリセリル、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびこれらの組み合わせを含む。潤滑剤は、組成物の総重量に対して、約0.1重量%~約5重量%、約0.1重量%~約4重量%、約0.1重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%、もしくは約0.1重量%~約1重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0060】
いくつかの例において、医薬組成物は1つまたはそれ以上の流動化剤をさらに含む。流動化剤は、これに限定されるものではないが、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム、ネイティブスターチ、およびそれらの組み合わせを含む。流動化剤は、組成物の総重量に対して、約0.05重量%~約1重量%、約0.05重量%~約0.9重量%、約0.05重量%~約0.8重量%、約0.05重量%~約0.5重量%、もしくは約0.05重量%~約0.1重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0061】
いくつかの例において、医薬組成物は錠剤とすることができ、これに限定されるものではないが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースコーティングまたはポリビニルアルコールコーティングなどのトップコートをさらに含み、Opadry White、Opadry II(Opadryは、米国デラウェア州WilmingtonにあるBPSI Holdings LLCの登録商標)などのOpadryという商品名で入手可能である。トップコートは、組成物の総重量に対して約1重量%~約10重量%、約1重量%~約9重量%、約1重量%~約8重量%、約1重量%~約7重量%、約1重量%~約6重量%、もしくは約1重量%~約5重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0062】
いくつかの例において、医薬組成物は、1つまたはそれ以上の保存剤をさらに含むことができる。防腐剤の例としては、これに限定されるものではないが、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、メチル、エチル、ブチルおよびプロピルパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸、塩化ベンザルコニウム(BKC)、塩化ベンゼトニウム、フェノール、硝酸フェニルメルカプタン、チメロサール、またはそれらの組み合わせを含む。保存剤を液体剤形に含めることができる。保存剤は、液体剤形の貯蔵寿命もしくは貯蔵安定性、またはその両方を延長するのに十分な量である。保存剤は、組成物の総重量に対して約0.05重量%~約1重量%、約0.05重量%~約0.9重量%、約0.05重量%~約0.8重量%、約0.05重量%~約0.5重量%、もしくは約0.05重量%~約0.1重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0063】
いくつかの例において、医薬組成物は、1つまたはそれ以上の香味剤をさらに含むことができる。香味剤の例としては、これに限定されるものではないが、合成香味油および香味芳香剤および/または天然油、植物の葉、花、果実などからの抽出物、またはそれらの任意の組み合わせを含む。その他の例としては、シナモンオイル、ウィンターグリーンオイル、ペパーミントオイル、クローブオイル、ベイオイル、アニスオイル、ユーカリ、タイムオイル、シダーリーフオイル、ナツメグオイル、セージオイル、ビターアーモンドオイル、カシアオイルなど、またはそれらの組み合わせが含まれる。また、香料として有用なのは、バニラ、レモン、オレンジ、グレープ、ライム、グレープフルーツなどのシトラスオイル、アップル、バナナ、洋ナシ、ピーチ、ストロベリー、ラズベリー、チェリー、プラム、パイナップル、アプリコット、ストロベリーフレーバー、トゥッティフルーティーフレーバー、ミントフレーバーなどのフルーツエッセンス、またはそれらの組み合わせである。香料は、組成物の総重量に対して、約0.1重量%~約5重量%、約0.1重量%~約4重量%、約0.1重量%~約3重量%、約0.1重量%~約2重量%、もしくは約0.1重量%~約1重量%、またはこれらの範囲の間の任意の値で、組成物中に存在する。
【0064】
医薬組成物は一般に、対象の治療に使用するのに適した任意の物理的形態とすることができる。これらの形態は、個々の丸薬または錠剤のような単位剤形と呼ばれる。いくつかの例において、医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、液剤、懸濁剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、坐剤、パッチ剤、点鼻剤、エアゾール剤、注射剤、移植可能な徐放性製剤、または粘液付着性フィルムとして製剤化される。いくつかの例において、医薬組成物は、錠剤、二層錠剤、カプセル剤、多粒子剤、薬物被覆球剤、マトリックス錠剤、または多核錠剤として形成される。物理的形態は、所望の治療方法に応じて選択することができる。
【0065】
医薬組成物は、従来の混合、溶解、造粒、ドラジェ化、浮遊化、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥工程などの様々な従来の方法によって製造することができる。医薬組成物は、活性剤を薬学的に使用可能な製剤に加工することを容易にする1つまたはそれ以上の生理学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤または補助剤を用いて、従来の方法で製剤化することができる。適切な製剤は、選択された投与経路に応じて選択することができる。
【0066】
上記の組成物が粉末状である場合、飲料、ペースト、ゼリー、カプセル、錠剤の調製に便利に使用できる。乳糖およびトウモロコシデンプンは、カプセルの希釈剤として、また錠剤の担体として一般的に使用される。ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤は、一般的に錠剤に含まれる。
【0067】
本発明の組成物は、栄養補助食品または医薬製剤とすることができる。栄養補助食品として、ミネラルまたはアミノ酸などの追加の栄養素を含めることができる。組成物はまた、食品であっても良い。本明細書で使用する場合、「食品(food)」という用語は、ヒトおよび動物に栄養を与えるため、正常なまたは加速された成長を維持するため、またはスタミナもしくは覚醒を維持するために使用される、あらゆる種類の液体および固体/半固体の材料を広く指す。ヒト用食品の例としては、これに限定されるものではないが、茶系飲料、ジュース、コーヒー、牛乳、ゼリー、クッキー、シリアル、チョコレート、スナックバー、ハーブエキス、乳製品(アイスクリーム、ヨーグルトなど)、大豆製品(豆腐など)、米製品などを含む。
【0068】
筋萎縮性側索硬化症の治療方法
いくつかの実施形態において、筋萎縮性側索硬化症を治療する方法であって、前記方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の治療上有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、方法である。いくつかの実施形態において、ALSを治療する方法であって、前記方法は、ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、チオール異性化酵素阻害剤、および任意選択で葉酸の治療上有効量を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、方法であって、前記細胞外チオール異性化酵素阻害剤は、ザフィルルカスト、モンテルカスト、CGP-13501、CGP-7930、アロセトロン、バルサラジド、ベンセラジド、ブタクラモール、レバドパ、メサラジン、オクスカルバゼピン、薬学的に許容される塩、プロドラッグ、および/またはそれらの固体形態である、方法である。
【0069】
ALSの診断は、病歴、神経細胞喪失の局所的分布、いくつかの特徴的な細胞学的変化の所見に基づいて神経科医によって確立される臨床的徴候に基づいて行われる。記載された方法および医薬組成物の使用は、対照集団(例えば、記載された方法および材料による治療なし)と比較して、対象における疾患、症状、または他の望ましくない特性の減速、軽減、または除去をもたらすことができる。記載された方法および医薬組成物の使用は、対照集団と比較して、対象における疾患、症状、または他の望ましくない特性の進行の停止または減速をもたらすことができる。肥満細胞の調節異常は、ALSの病態生理学と関連している。記載された方法および医薬組成物の使用は、肥満細胞誘導性IL-17、トリプターゼ、サブスタンスP、およびヒスタミンのダウンレギュレーションをもたらすことができる。この結果、肺機能が改善し、肺を十分に膨らませる能力の喪失を防ぐことができる。減少量は一般に任意の量で良い。例えば、減少は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、および理想的な状況では、約100%の減少(疾患、症状、または他の望ましくない特性の完全な除去)であることができる。
【0070】
いくつかの実施形態において、ALSを治療する方法は、患者におけるサイトカイン産生を阻害または予防する工程を含み、前記方法は、治療上有効量のケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を投与する工程を含む。炎症の初期に病原体や他の種類の傷害の形で危険を感知するセンチネル細胞として、肥満細胞は免疫反応の開始と伝播において極めて重要な役割を果たす。調節不全に陥った肥満細胞機能は、ALSの病態に決定的に関与している。一実施形態において、患者におけるサイトカイン産生を阻害または予防する方法であって、治療上有効量のケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を、それを必要とする患者に投与する工程を含む方法。いくつかの実施形態において、治療上有効量のケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸は、筋力低下、胸部膨張能力の喪失による肺機能の喪失の発症を低減または遅らせることができる。
【0071】
いくつかの実施形態において、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する方法であって、前記方法は、治療上有効量のケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を、それを必要とする患者または対象に投与する工程を含み、前記治療する方法は、変性脊髄における神経炎症の減少、反応性アストロサイトの数の減少、腰髄における肥大化アストロサイトの数の減少、ミクログリオーシスの減少、およびミスフォールドしたSOD1およびユビキチンを発現する腹角運動ニューロンの数の減少、ならびに肥満細胞活性のマーカーの減少、筋力低下の発症の減少または遅滞、胸部拡張能の喪失による肺機能の喪失、のうちの少なくとも1つをもたらす、方法。
【0072】
本発明の方法は、コレステロールおよびレベルを有意に低下させ、ヘモグロビンレベル、網状赤血球数、および赤血球の質量を増加させ、また肥満細胞活性のマーカーを減少させる。さらに、この組成物は、ミトコンドリアの生合成または保持の増加(例えば、筋肉および脳細胞において)、ミトコンドリアDNA損傷およびミトコンドリアの損失の減少、またはシトクロムCレベルおよびクエン酸合成酵素活性の増加をもたらす。したがって、ヒトおよび動物の両方におけるミトコンドリア欠損に関連する疾患の治療に有用である。この組成物はまた、T-ヘルパーリンパ球(Th-1)サイトカイン(例えば、インターフェロンガンマ)の遺伝子発現および活性を誘導することができ、T-ヘルパーリンパ球2(Th-2)サイトカイン(例えば、インターロイキン13)をダウンレギュレートすることができる。さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ1(MMP1)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)の3つの酵素のうち1つまたはそれ以上の発現および/または活性を阻害することができる。また、エピレグリンが介在する経路など、上皮成長因子受容体が介在する経路も阻害することができる。この組成物は、神経細胞における過剰な鉄の蓄積をキレートすることにより、神経変性を予防するために用いることができる。また、サーチュインの活性化剤でもあり、SIRT1、2、3、4、PGC1α、クエン酸合成酵素、シトクロムCの発現が増加し、ミトコンドリアのサイズ、効率、産生を増加させることができる。
【0073】
この方法は、神経疾患や神経変性疾患(例えば、失読症、失行症、自閉症、アスペルガー病、アルツハイマー病、軽度認知障害、ハンチントン病)などの疾患や障害の治療にも用いることができる。
【0074】
さらに、この方法は、上記の疾患または障害の特定の症状を治療するために使用することができる。例えば、筋力低下、特に脚、足、足首の筋力低下、歩行や日常動作の困難さ、筋肉の衰え、痛み(顔面痛や原因のはっきりしない痛みなど)、筋肉のけいれん、腕、肩、舌の痙攣、電撃感、体の部位の位置の認識喪失、協調性の喪失(発話など)、不明瞭な発話、嚥下障害、転倒の頻度の増加、姿勢の喪失、細かい動作をする時の震え、急速に交互に動く運動(例えば、リズムを刻む運動)をする能力の喪失、短期または長期の記憶喪失を含む、ALSの特定の症状を軽減するために使用することができる。この方法は、ALS患者の肺機能と胸部拡張を改善するために用いることができる。さらに、この方法は患者の生活の質を改善するための栄養補助食品としても使用できる。
【0075】
上述した方法は、in vitroアッセイによって上述した状態の治療における有効性を予備的にスクリーニングし、その後、動物実験および臨床試験によって確認することができる。他の適切な分析的および生物学的アッセイは、当業者に明らかである。例えば、ケルセチンの生物学的利用能は、薬物動態学的研究を実施することによって測定することができ、血漿-薬物濃度時間曲線における曲線下面積によって評価することができる。
【0076】
本明細書に記載の化合物および医薬組成物は、治療上有効な投与量で投与して、前述の状態、障害、および疾患を治療することができる。
【0077】
本明細書に記載された化合物および医薬組成物は、言及された状態、障害、および疾患を軽減または予防するために、予防的に有効な投与量で投与することができる。
【0078】
投与は、数日間(例えば約2~約7日間)、数週間(例えば約1~約4週間、具体的には約2または約3週間)、または数ヶ月間(例えば約1~約36ヶ月間、具体的には約2~約24ヶ月間、さらに具体的には約6~約12ヶ月間)、毎日実施することができる。いくつかの実施形態において、投与は、患者の残りの生涯にわたって毎日実施することができる。
【0079】
治療上有効量は、約0.001pg/kg/日~約500mg/kg/日、好ましくは0.01pg/kg/日および100mg/kg/日の範囲である。当業者は、特定の因子が、疾患または障害の重症度、以前の治療、患者の一般的な健康および/または年齢、および存在する他の疾患を含むがこれらに限定されない、患者を効果的に処置するのに必要な投与量に影響を及ぼす可能性があることを理解するであろう。さらに、治療上有効量の化合物による患者の治療は、1回の治療を含むこともできるし、一連の治療を含むこともできる。また、治療に使用される化合物の有効量は、特定の治療の過程で増加または減少することが理解されよう。
【0080】
ケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸の有効量を投与する方法は、それを必要とする患者に対して、1日に1回、2回、もしくは3回、またはそれ以上、実施しても良い。この実施形態内では、投与は経口的に行うことができる。
【0081】
投与は、一般にどのような方法でも実施できる。投与方法には、組成物の注入または注射が含まれる。例示的な投与方法としては、局所送達、皮下送達、静脈内注射(IV)送達、筋肉内注射(IM)送達、髄腔内注射(IT)送達、腹腔内注射(IP)送達、経皮送達、皮下送達、経口送達、経粘膜経口送達、肺送達、吸入送達、鼻腔内送達、頬送達、直腸送達、膣送達、およびこれらの組み合わせが含まれる。いくつかの実施形態において、投与は、経口送達を含む。
【0082】
注射の場合、医薬組成物は水溶液、好ましくはハンクス液、リンゲル液、生理的食塩水緩衝液などの生理学的に適合性のある緩衝液中、および/または特定の乳剤中に製剤化することができる。溶液は、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの1つまたはそれ以上の処方剤を含むことができる。特定の例において、医薬組成物は、使用前に適切なビヒクル、例えば滅菌パイロジェンフリー水で構成するための粉末形態で提供される。経粘膜投与の場合、浸透させるバリアに適切な1種以上の浸透剤を製剤に使用することができる。このような浸透剤は一般に当該技術分野で知られている。
【0083】
経口投与の場合、組成物は、治療される患者による経口摂取のために、錠剤、丸薬、ドラジェ、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化される。例えば、経口固形製剤の場合、組成物は、粉末、カプセルおよび錠剤の形態をとることができる。経口投与の場合、組成物は従来の方法で製剤化された錠剤、トローチなどの形態をとることができる。
【0084】
吸入による投与のために、医薬組成物は、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスのような適切な噴霧剤を使用して、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で送達されても良い。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、計量された量を供給するバルブを設けることによって決定することができる。吸入器または送気器で使用するための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物の粉末ミックスと、ラクトースまたはデンプンのような適切な粉末基剤を含めて処方することができる。
【0085】
対象は一般に哺乳類である。対象の例としては、霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ウサギ、フェレットを含む。いくつかの例において、対象はヒトである。「対象(subject)」、「個体(individual)」、または「患者(patient)」という用語は、互換的に使用され、本明細書で使用される場合、ヒトおよび非ヒト動物を含むことが意図される。非ヒト動物には、すべての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ラット、ネコ、ウシ、ウマ、フェレット、ニワトリ、両生類、爬虫類などの哺乳類および非哺乳類が含まれる。哺乳類の例としては、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、フェレット、ウマなどが含まれる。
【実施例】
【0086】
実施例1:ALSマウスモデルにおけるイソケルセチン投与後の神経保護効果の証明
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、上下の運動ニューロンの進行性変性を特徴とする麻痺性神経変性疾患である。診断後の生存期間は1年から5年以上と幅があり、その大部分は運動ニューロン病態の拡大速度によって決まる。ALSのげっ歯類モデルにおける麻痺の進行は、少なくとも部分的には、変性している脊髄で反応性を示し、増殖し、炎症性メディエーターを発現するグリア細胞によって調節されているようである(Barbeito,et al.,2004;Ilieva et al.,2009;Lobsiger,et al.,2007)。ALSのSOD1G93A変異モデルラットは、この疾患のモデルとしてよく特徴付けられている(Howland,et al.,2002)。このモデルの特徴は、麻痺発症後、麻痺が急速に広がることであり、グリア細胞の顕著な活性化と、変性した運動ニューロンの周囲で活発に増殖する異常グリア細胞の出現が関連している(Howland,et al.,2002;Diaz,et al.,2011)。さらに、異常グリア細胞は培養運動ニューロンに対して顕著な神経毒性を示すことから(Diaz,et al.,2011;Trias,et al.,2013)、ALSラットの麻痺の急速な拡大に直接寄与している可能性が示唆される。
【0087】
チロシンキナーゼ阻害剤マシチニブによって異常グリア細胞と反応性ミクログリアの薬理学的ダウンレギュレーションを行うと、ALSのラットモデルにおいて麻痺の進行が遅くなる(Trias,et al.,2016)われわれは、ALS脊髄におけるミクログリアの活性化が、SOD1G93AラットにビタミンCおよびナイアシンとともに経口投与されたケルセチン誘導体(イソケルセチン)に対して感受性を示す可能性があると推論した。ケルセチンは、フェニルベンゾ(y)ピロン由来の構造を特徴とする天然由来のフラボノールで、強い抗酸化作用、神経保護作用、免疫調節作用を有する。ケルセチンの生物学的利用能は時に制限されるが、その誘導体であるイソケルセチン(ケルセチン-3-O-β-d-グルコピラノシド)は、薬物動態プロファイルが改善され、in vivoで効率的にケルセチンに変換される(Stopa,et al.,2017)アルツハイマー病やALSの動物モデル(Jung,et al.,2010;Sabogal-Guaqueta,et al.,2015)におけるケルセチンの神経保護効果について、いくつかの報告が証拠を示している(Lazo-Gomez and Tapia,2017)。
【0088】
材料および方法:動物:雄のSOD1G93Aの子孫を系統維持のための繁殖に使用した。ラットは12時間の明暗サイクルで、餌と水を自由に摂取できる中央動物飼育施設に収容した。固定剤による灌流は90%ケタミン-10%キシラジン麻酔下で行い、動物の苦痛、不快感、ストレスを最小限に抑えるよう努力した。実験動物を用いたすべての処置は、国内および国際的なガイドラインに従って行われ、動物実験に関する施設動物委員会の承認を得た。Howland et al.(2002)により開発された雄性半接合体NTac:SD-TgN(SOD1-G93A)L26Hラット(Taconic)を、野生型非トランスジェニックSprague-Dawley雌ラットと交配し、局所的に繁殖させた。
【0089】
イソケルセチンによる治療:すべてのラットの体重を測定し、運動量を毎日評価した。疾病の発症は、顕著な筋萎縮に歩行異常が伴う時とし、典型的には片方の後肢の微妙な引きずりとして表現された。終末期は、直立反射の欠如、あるいは餌や水に手が届かなくなることで定義された。
【0090】
ラット脊髄の免疫組織化学染色:30mg/kg/日のイソケルセチンを麻痺発症後から15日間投与した後、動物を深く麻酔し、0.1M PBS(pH 7.2~7.4)中の0.9%生理食塩水と4%パラホルムアルデヒドで経心筋灌流を行った。固定した脊髄を取り出し、24時間浸漬後固定し、ライカのクライオスタットで横断切片(30μm)を作成した。免疫組織化学のために、連続切片を100mMのPBS中に集めた。浮遊切片をPBS中の0.3% Triton X-100で室温30分間透過処理し、洗浄緩衝液に通し、5% BSA:PBSで室温1時間ブロックし、一次抗体を含む0.3% Triton X-100とPBSの溶液中で4℃で一晩インキュベートした。一次抗体は、ウサギ抗GFAP(1:500、Sigma)、マウス抗S100β(1:400、Sigma)、ウサギ抗Iba1(1:300、abcam)、マウス抗CD68(1:200、abcam)、マウス抗ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)(1:300、Millipore)を用いた。洗浄後、切片をAlexa Fluor 488および/またはAlexa Fluor 633(1:1000、Invitrogen)を結合させた1:1000希釈二次抗体でインキュベートした。抗体は、共焦点ZEISS LSM 780を用いた共焦点顕微鏡で検出した。
【0091】
結果:脊髄麻痺後のイソケルセチン投与は、変性脊髄における神経炎症を軽減する。我々は、イソケルセチンによる麻痺後治療が、変性脊髄における反応性アストロサイトの数を減少させるかどうかを検討した。アストロサイトは、前述のように運動ニューロンの周囲に位置する大きなGFAP陽性細胞として同定可能であった。ラットにイソケルセチン(30mg/kg/日)を経口投与し、麻痺発症直後から15日間投与したところ、ビヒクル投与ラットと比較して、イソケルセチン(IsoQ)は腰髄の肥大化アストロサイトの数を有意に減少させた(
図1;スケールバー5μmおよび20μm)。
【0092】
麻痺後のイソケルセチン投与はミクログリオーシスを有意に減少させた。ビヒクル投与動物と比較し、腰髄の腹角でIba1+細胞を発現している細胞数を評価することで、ミクログリオーシスを評価した。注目すべきは、運動ニューロンを取り囲む肥大化したIba1+ミクログリア細胞の減少であった(
図2)。
【0093】
イソケルセチンは運動ニューロンの病理を改善する。運動ニューロンの死は、症状のあるげっ歯類モデルやヒトALSの主な病理学的特徴であるため、同じ実験設定を用いて、運動ニューロンの病理がイソケルセチン処理によって影響を受けるかどうかを調べた。
図3に示すように、ビヒクル処理したSOD1G93Aラットにおいて、ミスフォールディングしたSOD1とユビキチンを発現している腹角運動ニューロンの数を麻痺発症15日後に測定すると、ビヒクル処理したラットと比較して、イソケルセチン処理では明らかに減少した。ミスフォールディングしたSOD1とユビキチンはALSの運動ニューロン病理の信頼できるマーカーと考えられている(Light,et al.,1991)。
【0094】
イソケルセチンは、多面的な抗酸化作用、抗炎症作用、神経保護作用(Lazo-Gomez and Tapia,2017;Jung,et al.,2010;Sabogal-Guaqueta,et al.,2015)を有するフラボノイドの一種である。ここでは、イソケルセチンがALSの進行に関連する神経炎症を治療的に調節するという証拠を示す。特に、すでに麻痺しているラットにイソケルセチンを投与すると、変性している脊髄においてアストロサイトーシスとミクログリオーシスが明らかに減少した。このような治療的アプローチは、明らかな運動症状が出てから薬物治療が開始されるALSの臨床場面では魅力的である。
【実施例】
【0095】
実施例2:ALSマウスモデルにおけるイソケルセチンとザフィルルカストによる麻痺後治療の相乗的神経保護効果の証明
材料および方法:イソケルセチンとザフィルルカストによる治療:疾患の発症は、顕著な筋萎縮が異常な歩行を伴い、典型的には片方の後肢の微妙な引きずりとして表現される時に、各動物について決定される。終末期は、直立反射の欠如または餌や水に到達できないことで定義される。
【0096】
ラット脊髄の免疫組織化学染色:イソケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を含む組成物を用いて15日間処理した後、動物から脊髄を取り出し、実施例1に記載されているように免疫組織化学のために調製する。一次抗体には、ウサギ抗GFAP(1:500、Sigma)、マウス抗S100β(1:400、Sigma)、ウサギ抗Iba1(1:300、abcam)、マウス抗CD68(1:200、abcam)、マウス抗ChAT(コリンアセチルトランスフェラーゼ)(1:300、Millipore)が含まれる。洗浄後、切片をAlexa Fluor 488および/またはAlexa Fluor 633(1:1000、Invitrogen)を結合させた1:1000希釈二次抗体でインキュベートする。抗体は、共焦点ZEISS LSM 780を用いた共焦点顕微鏡で検出する。
【0097】
結果:イソケルセチン、ビタミンB3、ビタミンC、ザフィルルカスト、および任意選択で葉酸を含む組成物による治療は、イソケルセチンまたはザフィルルカスト単独よりも、肥満細胞の活性化と神経炎症を減少させる相乗効果を有する。肥満細胞の活性化を抑制することは、IL-17、トリプターゼ、サブスタンスP、ヒスタミンの抑制またはダウンレギュレーションをもたらす。この組成物による麻痺後治療は、運動ニューロンの周囲に位置する大きなGFAP陽性細胞として同定可能な、変性脊髄における反応性アストロサイトの数の減少によって測定される、変性脊髄における神経炎症を減少させる。この組成物による治療は、腰髄における肥大化アストロサイトの数も減少させた。イソケルセチンは運動ニューロンの病理を改善する。運動ニューロン病理は、ビヒクル投与ラットと比較して、麻痺発症15日後にミスフォールドしたSOD1およびユビキチンを発現する腹角運動ニューロン数の減少によって測定されるように、組成物による治療によって影響を受ける。
【国際調査報告】