(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】アンモニア性窒素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01C 1/04 20060101AFI20240528BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C01C1/04 C
C07F5/02 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572093
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2022063538
(87)【国際公開番号】W WO2022243417
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500379381
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシャルシュ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】Centre National de la Recherche Scientifique
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, FR-75016 Paris, France
(71)【出願人】
【識別番号】523437835
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ トゥールーズ III ポール サバティエ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE TOULOUSE III PAUL SABATIER
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】メゼーユ,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ベナアマヌ,スケナ
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA03
4H048AB81
4H048VA12
4H048VA75
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、周期表の13族の少なくとも1つの元素を含む式(I)の化合物と還元剤の存在下で二窒素還元をする、アンモニア性窒素の製造方法、及び二窒素還元のための式(I)の化合物の使用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア性窒素の製造方法であって、前記アンモニア性窒素は、アンモニウム(NH
4
+)、アンモニア(NH
3)、及びこれらの混合物から選択され、少なくとも以下のステップ:
i)式(I):R
1R
2MY(I)に相当する化合物と、還元剤と、有機溶媒とを含む組成物を、二窒素(N
2)と接触させるステップであって、
前記式(I)において、
- Mは、周期表の13族の元素であり、
- R
1及びR
2は、同一であるか又は異なっており、アルキル基、アリール基、アリール-アルキル基、-OR基、及び-SR基から選択され、Rはアルキル基、アリール基又はアリール-アルキル基であり、
- Yは、ハロゲン-X、-OR
3基、-SR
3基、トリフラート基、メシラート基、及びトリフルイミダート基から選択され、R
3は、アルキル基、アリール基、又はアリール-アルキル基である、ステップ、及び
ii)酸性媒体中での加水分解ステップ、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記元素Mは、ホウ素、アルミニウム、及びこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記2つの基R
1及びR
2は、アルキル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
Yは、ハロゲンXであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記還元剤は、カリウム、ナトリウム、水銀ベース及びナトリウムベースのアマルガム、リチウム、並びにこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップi)は、-80℃~60℃の範囲の温度で実行されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップi)で使用される前記還元剤は、前記組成物の総重量の0.1重量%~20重量%に相当することを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップi)で使用される前記式(I)の化合物は、前記組成物の総重量の0.1重量%~10重量%に相当することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
酸性媒体中での加水分解のステップii)は、先行するステップi)で得られた反応粗生成物を、酸性溶液又はガス状酸と接触させることによって実施されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記酸性溶液は、0~6の範囲のpHを有することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップi)の前記有機溶媒は、無極性非プロトン性有機溶媒から選択されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップi)の後、かつステップii)の前に、前記有機溶媒を蒸発させるステップi’)を更に含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップi)の前記有機溶媒は、イオン液体から選択されることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップi)又は存在する場合にはステップi’)の後に、ステップi)又は存在する場合にはステップi’)において形成された反応混合物を、無極性有機溶媒を用いて抽出することによる、精製ステップi”)を含むことを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項で定義された式(I)の化合物の、二窒素還元のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表の13族の元素の少なくとも1つを含む化合物(I)及び還元剤の存在下で、二窒素還元を行うアンモニア性窒素の製造方法、並びに二窒素還元のための前記化合物(I)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
窒素(N)は、生命体の組成において欠くことのできない役割を果たしている。それは特にアミノ酸、酵素を含むタンパク質、及びDNAやRNAを構成する核酸の主成分の1つである。それはまた、作物の生長にとって必須の栄養素でもある。しかしながら、窒素は地球表面に非常に豊富に存在しているが(生物圏、水圏、及び大気圏の全体において、結合された炭素、水素及びリンよりも窒素は多く存在する。)、非常に安定なガスである二窒素(dinitrogen、N2)の形で基本的に存在している。ヒトはこの豊富さから、ほんのわずかだけ恩恵を受けることができる。マメ科植物による共生窒素固定に関与する根粒菌などの微生物だけがその形の窒素を利用して、それをアンモニア性窒素、その後有機窒素に変換することができる。この有機窒素は次に他の生物によって利用され、他の形の反応性窒素に変換されることができる。
【0003】
19世紀末の産業革命以来、食品製造のために反応性窒素に対する増大した需要に応じるため、2つの主要な過程がこの反応性窒素の状勢を劇的に変えた。第一に、エネルギー産生、輸送、産業及び国内活動のために、化石燃料(石炭、石油、天然ガスなど)の増大する大量の使用は、環境中に存在する酸化窒素の量を非常に増加させた。第二の最も重要な過程は、ハーバー・ボッシュ法(Harber-Bosch process)である。この方法は、固体、特に鉄を主体とする触媒の存在下、二窒素及び二水素(H2)から、アンモニアを工業規模で合成することを可能にする。20世紀の末以来、この方法は、世界的規模において約2億トン/年のアンモニアNH3を製造するものであり、これは共生窒素固定より多く、今日未だに使用されている。しかしながら、このハーバー・ボッシュ法には、次のような欠点がある。すなわち、該方法は高圧及び高温、例えば、100バール~300バールの圧力、300℃~550℃の温度で行うが、これは上記方法をエネルギー多消費型とし、集中化され安全性の高い生産を必要とし、高い操業費及び運送費がかかる。さらに、そのような方法は、非常に多くの二酸化炭素(全てのCO2産生量の約1.5%)を発生させ、環境問題を引き起こし、しかもその方法による収量は依然として低い。
【0004】
電気化学還元のような、より温和な条件で行うアンモニアの製造方法の研究が行われている。電気化学還元は、金又はルテニウムのような貴金属系の電極触媒に電位を印加することを含んでいる。しかしながら、収量は依然として低く、原材料は希少であり、非常に高価である。他の方法は、遷移金属の有機金属錯体又は有機金属化合物を用いて開発されている。特に、米国特許6037459号には、式M(NR1R2)3に相当する化合物(Mは遷移金属(例えば、モリブデン)、R1R2は3級アルキル基、フェニル基及び置換フェニル基から選択される。)と窒素を接触させて、ニトリド配位子を含む金属錯体を生成するステップ、及び該金属錯体を水素源の存在下で還元してアンモニアを生成するステップを含む方法が開示されている。この方法は周囲温度かつ圧力条件下で行われる。しかしながら、米国特許6037459号は、低収率であることを述べており、また、アンモニアの生成実証を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、本発明の目的は、先行技術の欠点を解消すること、特に簡便、経済的であり、工業化することができ、豊富な原材料を用い、リサイクルが可能であり、二酸化炭素の排出量を低減することができる アンモニア性窒素の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1形態は、アンモニア性窒素の製造方法であって、少なくとも以下のステップ:
i)式(I):R1R2MY(I)に相当する化合物と、還元剤と、有機溶媒とを含む組成物を、二窒素(N2)と接触させるステップであって、
前記式(I)において、
- Mは、周期表の13族の元素であり、好ましくはホウ素、アルミニウム、及びこれらの混合物から選択され、
- R1及びR2は、同一であるか又は異なっており、アルキル基、アリール基、アリール-アルキル基、-OR基、及び-SR基から選択され、Rはアルキル基、アリール基又はアリール-アルキル基であり、
- Yは、ハロゲン-X、-OR3基、-SR3基、トリフラート(triflate)基、メシラート基、及びトリフルイミダート(triflimidate)基から選択され、R3は、アルキル基、アリール基、又はアリール-アルキル基である、ステップ、及び
ii)酸性媒体中での加水分解ステップ、を含むことを特徴とする、方法である。
【0008】
本発明の方法は、簡便で、実施しやすく、経済的であり、比較的温和な条件下でアンモニア性窒素を得ることを可能にする。特に、上で定義された式(I)の化合物の使用により、二窒素の三重結合を還元媒体中で活性化して、中間体を生成することができ、該中間体はその後に加水分解によりアンモニア性窒素をもたらす。最後に、上記方法は、工業化し得るものであり、豊富な原材料を利用し、この原材料はリサイクルし得るものであり、そして、環境への影響を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ステップi)
式(I)R1R2MYの前記化合物
【0010】
本発明によれば、元素Mとしては、ホウ素が特に好ましい。
【0011】
式(I)R1R2MYの前記化合物は、ラジカル化合物ではない。
【0012】
式(I)の前記化合物において、R1は元素Mと1つの共有結合を形成し、R2は元素Mと1つの共有結合を形成する。
【0013】
前記R1基及びR2基
R1及びR2は、同一であるか又は異なっており、アルキル基、アリール基、アリール-アルキル基、-OR基、及び-SR基から選択され、Rはアルキル基、アリール基又はアリール-アルキル基である。
【0014】
R1基及び/又はR2基としてのアルキル基は、直鎖状又は枝分れ状、環状又は非環状であり得る。アルキル基は、1~14個の炭素原子、好ましくは2~10個の炭素原子を含み得る。アルキル基は、好ましくはエチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル基、及びイソピノカンフェニル基から選択される。これらの基のうち、特にシクロヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル基、又はイソピノカンフェニル基のいずれか1つが好ましい。
【0015】
R1基及び/又はR2基としてのアルキル基は、酸素原子や硫黄原子などの1個又は複数のヘテロ原子を含み得る。アルキル基の炭素原子は前記式(I)の元素Mに直接結合しており、また、アルキル基に存在するヘテロ原子は他のヘテロ原子に直接共有結合していないと了解される。
【0016】
R1基及び/又はR2基としてのアリール基は、置換又は非置換であり得る。アリール基は、6~30個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を含み得る。アリール基は、好ましくはフェニル基、-C6F5基、2,4,6-(Me)3-C6H2基、及び2,4,6-(iPr)3-C6H2基から選択される。これらの基のうち、特に2,4,6-(Me)3-C6H2基、又は2,4,6-(iPr)3-C6H2基のいずれか1つが好ましい。
【0017】
R1基及び/又はR2基としてのアリール基は、アリール基が置換されている(すなわち、前記アリール基の置換基において)場合は、酸素原子や窒素原子などの1個又は複数のヘテロ原子を含み得る。アリール基の炭素原子は前記式(I)の元素Mに直接結合していると了解される。
【0018】
R1基及び/又はR2基としてのアリール-アルキル基は、(アリール基の)炭素-(アルキル基の)炭素共有結合によって、又は酸素原子若しくは窒素原子を介して、直接結合した少なくとも1つのアルキル基と少なくとも1つのアリール基とを含む基であり、アリール基及びアルキル基は、R1基及びR2基に関して上に定義したとおりである。アルキル-アリール基は、アリール基の炭素原子を介して、又はアルキル基の炭素原子を介して、前記式(I)の元素Mに直接結合し得る。
【0019】
前記-OR基又は-SR基のR アルキル基は、直鎖状又は枝分れ状、環状又は非環状であり得る。R アルキル基は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~4個の炭素原子を含み得る。
【0020】
前記-OR基又は-SR基のR アリール基は、置換又は非置換であり得る。R アリール基は、6~30個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を含み得る。R アリール基は、好ましくはフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、又はピレニル基から選択される。
【0021】
前記-OR基又は-SR基のR アリール-アルキル基は、(アリール基の)炭素-(アルキル基の)炭素共有結合によって、又は酸素原子若しくは硫黄原子を介して、直接結合した少なくとも1つのアルキル基と少なくとも1つのアリール基とを含む基であり、アリール基及びアルキル基は、R基に関して上に定義したとおりである。
【0022】
R1基及びR2基は、特に炭素-炭素結合を介して共有結合して、一緒に二価基を形成してもよく、上記R1基及びR2基は上に定義したとおりである。この実施形態において、二価基は元素Mと共に平面環を形成しない。
【0023】
実施例によれば、前記二価基はアルキル基(すなわち、R1及びR2はアルキル基)、好ましくは9-ビシクロ[3.3.1]ノナン基であり得る。
【0024】
本発明の1つの実施形態によれば、R1及びR2は、同一であるか又は異なっており、アルキル基、アリール基、及びアリール-アルキル基から選択される。
【0025】
本発明の好ましい実施形態によれば、R1基及びR2基の少なくとも1つは、アルキル基であり、特に好ましくはR1基及びR2基の両方がアルキル基である。
【0026】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、R1及びR2は、同一である。
【0027】
化合物(I)のR1基及びR2基は、非安定化基(non-stabilising groups)である。換言すれば、それらの機能は、前記方法の間で発生したR1R2M〇ラジカルを安定化することではなく、結果として窒素N2に対してより反応性を高くすることである。
【0028】
前記Y基
Yは、ハロゲン-X、-OR3基、-SR3基、トリフラート(-OSO2CF3)基、メシラート(-OSO2CH3)基、及びトリフルイミダート(NTf2又はN(SO2CF3)2)基から選択され、R3は、アルキル基、アリール基、又はアリール-アルキル基である。
【0029】
Xは好ましくは塩素原子又は臭素原子であり、特に好ましくは塩素原子である。
【0030】
R3 アルキル基は、直鎖状又は枝分れ状、環状又は非環状であり得る。R3 アルキル基は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~4個の炭素原子を含み得る。
【0031】
R3 アリール基は、置換又は非置換であり得る。R3 アリール基は、6~30個の炭素原子、好ましくは6~18個の炭素原子を含み得る。R3 アリール基は、好ましくはフェニル基、2,4,6-(Me)3-C6H2基、及び2,4,6-(iPr)3-C6H2基、及びナフチル基から選択される。
【0032】
R3 アリール-アルキル基は、(アリール基の)炭素-(アルキル基の)炭素共有結合によって、又は酸素原子若しくは硫黄原子を介して、直接結合した少なくとも1つのアルキル基と少なくとも1つのアリール基とを含む基であり、アリール基及びアルキル基は、R3基に関して上に定義したとおりである。
【0033】
Yは好ましくはハロゲンXである。
【0034】
化合物(I)のY基は、離核性(nucleofugal)の性質をもつ基である。換言すれば、その機能は、R1R2M〇ラジカルの形成を容易にすることである。
【0035】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、式(I)の前記化合物は、ジアルキルクロロボラン、ジアルキルブロモボラン、ジアルキルクロロアルミニウム化合物、及びジアルキルブロモアルミニウム化合物から選択され、例えば、ジイソピノカンフェイルボラン、ジシクロヘキシルボラン、又はビス(ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル)ボランのハロゲン化物、又は9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナンをベースとするハロボランである。
【0036】
式(I)の前記化合物は、商業的に入手が容易であり、又は容易に合成して入手できるという利点がある。
【0037】
式(I)の前記化合物は、ルイス酸、すなわち、化学物質の構成元素の1つが空の電子軌道をもつ化学物質の特性を有する。
【0038】
前記還元剤は、カリウム、ナトリウム、水銀ベース及びナトリウムベースのアマルガム、リチウム、並びにこれらの混合物から選択することができる。好ましくはカリウムである。
【0039】
アマルガムの使用により、ステップi)で使用する還元剤の量を量ることがより容易になる。
【0040】
前記有機溶媒は、従来の有機溶媒、イオン液体、又は混合物であり得る。
【0041】
イオン液体は当業者によく知られており、室温(例えば、18-25℃)において溶融塩であると考えられる。イオン液体は有機カチオン部を有し、従来の有機溶媒と同じように、本発明において溶媒として機能する。
【0042】
本発明では、従来の有機溶媒は、ソルトフリーの有機溶媒又は塩の形態でない有機溶媒を意味する。
【0043】
ステップi)の前記有機溶媒は、好ましくは非プロトン性有機溶媒から選択される。
【0044】
本発明の1つの実施形態によれば、ステップi)の前記有機溶媒は、無極性非プロトン性有機溶媒(従来の有機溶媒のような)、イオン液体、及びこれらの混合物から選択される。
【0045】
この実施形態の第1の代替形態によれば、ステップi)の前記有機溶媒は、無極性非プロトン性有機溶媒から選択される。
【0046】
この実施形態の第2の代替形態によれば、ステップi)の前記有機溶媒は、イオン液体から選択される。
【0047】
ステップi)の前記無極性非プロトン性有機溶媒は、好ましくはTHF(テトラヒドロフラン)及びメチルーTHFから選択される。
【0048】
ステップi)の前記イオン液体は、好ましくはアンモニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、ピロリジニウム塩及びピペリジニウム塩、特に好ましくはアルキルアンモニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩、アルキルホスホニウム塩、アルキルピロリジニウム塩及びアルキルピペリジニウム塩から選択される。
【0049】
ステップi)の前記イオン液体は、好ましくはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート型のアニオン部を含む。
【0050】
イオン液体は、例として、トリエチルブチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、1-ブチルー3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、1-エチルー3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、トリメチルブチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、1-ブチルー1-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、N―プロピルーN―メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダート、又は1-ブチルー3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミダートを挙げることができる。
【0051】
前記イオン液体は、好ましくは水とは不混和性である。このことは、後の精製処理を容易にする。
【0052】
ステップi)の間は、式(I)の前記化合物と、前記還元剤と、前記有機溶媒とを含む組成物を、二窒素(N2)と接触させる。
【0053】
ステップi)は、乾燥媒体又は無水媒体中で行う。換言すると、ステップi)は、好ましくはグローブボックス又は空気及び/又は湿気との接触を避けるのに適切な装置内で行う。
【0054】
実際、空気及び/又は湿気との接触は、H2及び/又はR1R2MOMR1R2のような副生成物の形成をもたらす。
【0055】
ステップi)は、約1時間~20時間、好ましくは約2時間~12時間続けることができる。
【0056】
ステップi)は、好ましくは約-80℃~60℃、特に好ましくは約0℃~30℃の範囲の温度で行うことができる。
【0057】
ステップi)は、好ましくは撹拌下、例えば、メカニカルスターラー又はマグネチックスターラーを使用して実施する。撹拌は、前記組成物と二窒素との間の接触を促進し、その結果、反応を促進することを可能にする。
【0058】
二窒素と化合物(I)との間に反応をさせるため、該反応は好ましくは二窒素雰囲気下、特に乾燥二窒素雰囲気下で行う。
【0059】
ステップi)は、約0.1バール~200バール、好ましくは1バール~100バールの範囲の圧力で行うことができる。少なくとも20バール、好ましくは少なくとも40バールの圧力は、アンモニア性窒素の収量を向上させるうえで有利である。1バールの圧力は工業的観点から有利である。
【0060】
ステップi)で使用される前記還元剤は、前記組成物の総重量の0.1重量%~20重量%、好ましくは0.1重量%~10重量%に相当し得る。
【0061】
ステップi)で使用される前記式(I)の化合物は、前記組成物の総重量の0.1重量%~10重量%、好ましくは2重量%~6重量%に相当し得る。
【0062】
ステップi)の間は、前記化合物(I)は、二窒素と反応して、窒素と元素Mとをベースとする1つ又は複数の化学種、特に次の式(II):N(MR1R2)3-xHxの化学種、xは0~3の範囲の整数である、を形成する。
【0063】
窒素と、上で定義した元素Mとをベースとする1つ又は複数の化学種の形成は、二窒素の窒素と反応するのに十分に不安定である元素Mを少なくともベースとする1つ又は複数のラジカルを使用した、ラジカル連鎖反応の実行によって特に説明される。
【0064】
驚くことに、式(I)、すなわち、Y、M、R1、R2の定義による化合物(I)は、還元媒体中で二窒素の三重結合を活性化して、前記ラジカルの二量化を最小化する、又は回避さえする能力を有する。
【0065】
ステップii)
ステップii)の間は、窒素と元素Mとをベースとする化学種は酸性媒体中で加水分解されて、アンモニア性窒素を形成する。
【0066】
本発明では、アンモニア性窒素は、窒素の最も還元された2つの形態:アンモニウム(NH4
+)及びアンモニア(NH3)を含む。したがって、アンモニア性窒素は、アンモニウム(NH4
+)、アンモニア(NH3)及びこれらの混合物から選択される。一般には、ステップii)の条件、特に酸の量によれば、アンモニウム(過剰の酸)、又はアンモニア(N(MR1R2)3-xHxに対して化学量論量)が得られるであろう。
【0067】
酸性媒体中での加水分解のステップii)は、先行するステップi)で得られた反応粗生成物を、酸性溶液又はガス状酸(ガスの形態)と接触させることによって実施できる。
【0068】
前記酸性溶液は、水性溶媒(例えば、水)及び少なくとも1つの酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)、又は非プロトン性有機溶媒及び少なくとも1つの酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)を含み得る。
【0069】
前記非プロトン性有機溶媒は、ジエチルエーテル又はジオキサンなどのエーテル、及びヘキサン又はヘプタンなどのアルカンから選択し得る。
【0070】
前記ガス状酸は、塩酸ガスであり得る。
【0071】
ステップii)は、特に式(I)の前記化合物に対して過剰に前記酸が使用されたときには、有利にアンモニウムをもたらす。
【0072】
前記水性溶媒は、好ましくは水である。
【0073】
前記酸性溶液は、0~6の範囲のpHを有することができる。
【0074】
ステップii)は、約1分間~30分間、好ましくは約2分間~10分間続けることができる。ステップii)は非常に速く、ほとんど瞬時のステップである。
【0075】
ステップii)は、好ましくは約-20℃~40℃、特に好ましくは約0℃~20℃の範囲の温度で実行される。
【0076】
ステップii)は、好ましくは撹拌して行う。
【0077】
ステップii)は、好ましくは大気圧で行う。
【0078】
ステップii)は、アンモニア NH3及び/又はアンモニウム NH4
+をもたらすことを可能にする。
【0079】
前記方法の他のステップ
本方法は、ステップi)の後、かつステップii)の前に、前記有機溶媒を除去させるステップi’)を更に含むことができる。
【0080】
この実施形態は、特に前記有機溶媒が従来の有機溶媒であるときに採用される。
【0081】
ステップi’)は、従来の有機溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
【0082】
前記方法は、ステップi)又は存在する場合にはステップi’)の後に、精製ステップi”)を含むことができる。このステップi”)は、ステップi)において形成され得る副生成物(例えば、塩)のうちの少なくともいくらかを除去することを可能にする。換言すると、ステップi”)は、ステップi)において形成された、窒素と元素Mとをベースとする化学種を塩から分離することを可能にする。
【0083】
ステップi”)は、ステップi)又は存在する場合にはステップi’)において形成された反応混合物を、特に無極性有機溶媒を用いて抽出することにより行うことができる。前記化学種又はステップi)において形成された、窒素と元素Mとをベースとする化学種は、前記無極性有機溶媒に溶けやすく、前記塩からろ過により分離することができる。
【0084】
前記無極性有機溶媒は、ヘキサン、ペンタン又はヘプタンなどのアルカンから選択し得る。
【0085】
好ましい前記無極性有機溶媒は、ペンタンである。
【0086】
ステップi)の前記有機溶媒が従来の有機溶媒であるときは、上で説明したように、精製ステップi”)は、ステップi)又はステップi’)の後に、ステップi)又はステップi’)において形成された反応混合物を、特にろ過することにより行うことができる。
【0087】
ステップi)の前記有機溶媒がイオン液体であるときは、上で説明したように、精製ステップi”)は、ステップi)の後に、ステップi)において形成された反応混合物を、特にろ過することにより行うことができる。
【0088】
前記方法は、更にステップi)の前に、式(I)の前記化合物を調製するステップi0)を含むことができる。
【0089】
式(I)の前記化合物は、二重ヒドロホウ素化(double hydroboration)又は次の論文:H.C.Brown, N.Ravindran, J.Am.Chem.Soc. 1976, 98, 1798-1806及びH.C.Brown, N.Ravindran, J.Am.Chem.Soc. 1976, 98, 1785-1798に記載されたヒドロアルミネーションプロトコル(hydroalumination protocol)により、あるいは、THF中又はジエチルエーテル中で室温にて、2当量のアルケンと1当量のモノハロボラン(例えば、式YBH2に相当するもの。Yは本発明で定義したとおり。)の反応により調製することができる。
【0090】
一般に、化合物MH2Yの1当量はアルケンR’CH=CH2の2当量
と反応して、化合物(R’ CH2CH2)2MYを形成する。
【0091】
本発明の前記方法は、好ましくは開始剤として二窒素(N2)以外のガス状の化学種は用いない。
【0092】
前記方法は、更に化合物(I)をリサイクルするステップiii)を含むことができる。この実施形態では、ステップii)は、好ましくは先行するステップi)、i’)、又はi”)で得られた反応粗生成物を、不活性雰囲気下で、非プロトン性有機溶媒と少なくとも1つの酸を含む酸性溶液と又はガス状酸と接触させることによって実施される。前記酸性溶液と前記ガス状酸は上で定義したとおりである。
【0093】
したがって、ステップiii)は、以下のようにして、ステップii)の後に行うことができる。
- 前記有機溶媒が従来の有機溶媒であるときは、例えば、ステップi)、i”)、又は存在するときはii)からの前記溶媒を除去し、好ましくは蒸発させて除去し、無極性溶媒を用いてNH4
+を沈殿し、化合物(I)を分離/回収する;又は
- 前記有機溶媒がイオン液体であるときは、例えば、ステップi”)、又は存在するときはii)からの前記溶媒を除去し、NH3を回収するために蒸留システムを使用し、化合物(I)を分離/回収する。
【0094】
前記無極性溶媒は、前述したとおりとすることができる。
【0095】
本発明の第2形態は、本発明で定義された式(I)の化合物の、二窒素還元のための使用である。
【実施例】
【0096】
実施例1:ジシクロヘキシルクロロボランを式(I)の化合物として使用した、二窒素からアンモニア性窒素を製造する方法
Sigma-Aldrichから参照番号411124で販売されているジシクロヘキシルクロロボラン(ヘキサン中1M)の溶液120mgを、4mLの無水テトラヒドロフランに添加し、次いで15mgのカリウムを添加した。得られた組成物を、純粋な乾燥二窒素雰囲気下に置き、12時間撹拌した。反応終了時に、混合物は褐色である。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加し、Hx-N(BCy2)3-xを、NH4
+とCy2BClへと定量的に変換させた。溶媒及び揮発性化合物を蒸発によって除去すると、固体残渣が残る。この固体をヘキサンで抽出して、NH4
+からCy2BClを分離する。NH4
+は、白色固体として得られる。最初に導入したCy2BClを基準とした収率は38%である。
【0097】
実施例2:(+)-B-クロロジイソピノカンフェイルボランを式(I)の化合物として使用した、二窒素からアンモニア性窒素を製造する方法
Sigma-Aldrichから参照番号317012で販売されている(+)-B-クロロジイソピノカンフェイルボラン(Ipc2BCl)48mgを、4mLの無水テトラヒドロフランに添加し、次いで15mgのカリウムを添加した。得られた組成物を、純粋な乾燥二窒素雰囲気下に置き、12時間撹拌した。反応終了時に、混合物は褐色である。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加し、Hx-N(BIpc2)3-xを、NH4
+とCy2BClへと定量的に変換させた。溶媒及び揮発性化合物を蒸発によって除去すると、固体残渣が残る。この固体をヘキサンで抽出して、NH4
+からIpc2BClを分離する。NH4
+は、白色固体として得られる。最初に導入したIpc2BClを基準とした収率は15%である。
【0098】
実施例3:対照方法(本発明の一部ではない)
Sigma-Aldrichから参照番号411124で販売されているジシクロヘキシルクロロボラン(ヘキサン中1M)の溶液120mgを、4mLの無水テトラヒドロフランに添加し、次いで15mgのカリウムを添加した。得られた組成物を、純粋な乾燥アルゴン雰囲気下に置き、12時間撹拌した。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加した。NH4
+の形成は観察されなかった。
【0099】
実施例4:対照方法(本発明の一部ではない)
4mLの無水テトラヒドロフラン中の15mgのカリウムの懸濁液を、純粋な乾燥二窒素雰囲気下で12時間撹拌した。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加した。NH4
+の形成は観察されなかった。
【0100】
実施例5:ビス(ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル)クロロボランを式(I)の化合物として使用した、二窒素からアンモニア性窒素を製造する方法
Sigma-Aldrichから参照番号771880で販売されているビス(ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル)クロロボランの溶液38mgを、4mLの無水テトラヒドロフランに添加し、次いで15mgのカリウムを添加した。得られた組成物を、純粋な乾燥二窒素雰囲気下に置き、12時間撹拌した。反応終了時に、混合物は褐色である。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加し、Hx-N(BBCH2)3-xを、NH4
+とBCH2BClへと定量的に変換させた。溶媒及び揮発性化合物を蒸発によって除去すると、固体残渣が残る。この固体をヘキサンで抽出して、NH4
+からBCH2BClを分離する。NH4
+は、白色固体として得られる。最初に導入したビス(ビシクロ[2.2.1]―2-ヘプチル)クロロボランを基準とした収率は43%である。
【0101】
実施例6:ジシクロヘキシルクロロボランを式(I)の化合物として使用した、二窒素からアンモニア性窒素を製造する方法
オートクレーブ内にて、Sigma-Aldrichから参照番号41124で販売されているジシクロヘキシルクロロボラン(ヘキサン中1M)の溶液120mgを、4mLの無水テトラヒドロフランに添加し、次いで15mgのカリウムを添加した。その後オートクレーブをシールした。得られた組成物を、12時間撹拌下で純粋な乾燥二窒素とともに加圧した(20バール:実施例6-1、40バール:実施例6-2、80バール:実施例6-3)。反応終了時に、混合物は褐色である。過剰のHCI(2M)のEt2O溶液を不活性雰囲気下で添加し、Hx-N(BCy2)3-xを、NH4
+とCy2BClへと定量的に変換させた。溶媒及び揮発性化合物を蒸発によって除去すると、固体残渣が残る。この固体をヘキサンで抽出して、NH4
+からCy2BClを分離する。NH4
+は、白色固体として得られる。最初に導入したCy2BClを基準とした収率は以下のとおりである。
- 20バールの圧力に対し、60%(実施例6-1)
- 40バールの圧力に対し、76%(実施例6-2)
- 80バールの圧力に対し、94%(実施例6-3)
【国際調査報告】