(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】レンチウイルスによって特定の遺伝子が挿入されたボツリヌス毒素に敏感な細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/079 20100101AFI20240528BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240528BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240528BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C12N5/079
C12N5/10 ZNA
C12Q1/02
G01N33/543 545A
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572228
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2023-11-21
(86)【国際出願番号】 KR2022007323
(87)【国際公開番号】W WO2022250405
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2021-0066040
(32)【優先日】2021-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0063008
(32)【優先日】2022-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516359207
【氏名又は名称】エーティージーシー カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ATGC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン、ソン ス
(72)【発明者】
【氏名】イム、イル ホ
(72)【発明者】
【氏名】イ、ハク ソプ
(72)【発明者】
【氏名】アン、ヨン シク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ドゥ ジン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B063QR80
4B063QS33
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4B065AA90X
4B065AA90Y
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4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、SEPTIN2またはThioredoxin(TXN)を過剰発現するボツリヌス毒素活性測定用細胞、及び前記ボツリヌス毒素活性測定用細胞にボツリヌス毒素を処理して培養する段階、前記培養された細胞を溶解させて細胞溶解液を収集する段階、及び前記細胞溶解液内のSNAP-25切断生成物の量を測定する段階を含むボツリヌス毒素活性測定方法に関する。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEPTIN2またはThioredoxin(TXN)を過剰発現する、ボツリヌス毒素活性測定用細胞。
【請求項2】
前記細胞は、SEPTIN2またはTXN遺伝子が形質導入(transduction)されて過剰発現されることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞。
【請求項3】
前記細胞は、ボツリヌス毒素中毒(intoxication)に対する感受性が増加したことを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞。
【請求項4】
前記細胞は、SiMa細胞、LAN-2細胞、PC12細胞、Neuro-2a細胞、LA1-55n細胞、N18細胞、SH-SY5Y細胞、Kelly細胞、NB69細胞、N1E-115細胞、BE(2)-M17細胞、及びSK-N-BE(2)細胞からなる
群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞。
【請求項5】
前記ボツリヌス毒素は、ボツリヌスセロタイプ(serotype)A、B、C、D、E、F及びGからなる群から選ばれるいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞。
【請求項6】
a)請求項1~5のいずれか一項に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞にボツリヌス毒素を処理して培養する段階と、
b)前記培養された細胞を溶解させて細胞溶解液を収集する段階と、
c)前記細胞溶解液内のSNAP-25切断生成物の量を測定する段階と、を含む、ボツリヌス毒素活性測定方法。
【請求項7】
前記SNAP-25切断生成物の量は、サンドイッチ免疫検定法(ELISA)またはウェスタンブロット(Western blot)を用いて測定することを特徴とする、請求項6に記載のボツリヌス毒素活性測定方法。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のボツリヌス毒素活性測定用細胞を有効成分として含む、ボツリヌス毒素活性測定用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボツリヌス毒素活性測定用細胞及びこれを用いたボツリヌス毒素活性測定方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
ボツリヌス毒素(botulinum toxin)は、腐った缶詰や腐った肉で育つグラム陽性嫌気性バクテリアであるクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)が作り出す神経毒素である。これは8つの神経毒素に分類され、このうち7種(A、B、C、D、E、F、G)は、神経の麻痺を引き起こすことがある。サイズは約150kDaで、ボツリヌス毒素タンパク質以外に非毒素タンパク質(non-toxin)の複合体から構成され、各複合体のサイズは、神経毒素の種類に応じて最大900kDaまで生成される。ボツリヌス毒素型によって作用形態と対象、活性期間などが異なるが、そのうちボツリヌス毒素A型の場合、致命的な生物学的作用剤の1つとして知られている。このようなボツリヌス毒素は、筋肉の痙攣や収縮を誘発する信号を遮断して麻痺を引き起こす作用をするが、これらの機能に基づく生物学的作用剤として1989年に米国FDAの承認を受けてから、治療や美容目的で幅広く使用されている。治療目的としては、斜視(strabismus)、斜頸(torticollis)、顔面痙攣(blepharospasm)、弛緩不能、歯並び、腰痛などのような疾患に、美容目的としては、しわ、しかめっ面のしわの除去、四角あご治療、多汗症(hyperhidrosis)などの治療に使用されている。
【0003】
ボツリヌス毒素を治療及び美容に使用するために、使用前の生物学的検証が必要であり、そのような検証は一般にマウスを用いたマウスLD50、すなわち、致死性試験(lethality test)を通じて確認される。実質的に、薬剤学的製剤のラベル上のユニットは、マウスLD50ユニットである。しかし、統計学的に有用なマウスLD50データを提供するためには必要とするマウスの数が非常に多いだけでなく、検査のための費用が大きく、ボツリヌス毒素のセロタイプによる差が見えにくいという点などの限界点を持っている(韓国公開特許10-2012-0134154)。
【0004】
したがって、このような短所を克服するためには、動物を使用せずにボツリヌス毒素吸収に必要な一切のすべての段階を評価できる、簡単でありながら敏感度は高い新しい方式のボツリヌス毒素活性測定方法が必要なのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来技術上の問題点を解決するために案出されたもので、ボツリヌス毒素活性測定用細胞及びそれを用いたボツリヌス毒素活性測定方法などを提供することをその目的とする。前記細胞は、SEPTIN2またはThioredoxin(TXN)遺伝子を過剰発現する細胞であり、ボツリヌス毒素の結合、細胞吸収、細胞質内への転位及びプロテアーゼ活性をすべて評価できるだけでなく、ボツリヌス毒素に対する敏感度が著しく向上したため、低い容量のボツリヌス毒素も高い精度で検証できる。また、原料医薬品及び完製医薬品状態のボツリヌス毒素薬学的組成物の活性も測定しうる。
【0006】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、以下の記載から本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が明確に理解できるだろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、SEPTIN2またはThioredoxin(TXN)を過剰発現するボツリヌス毒素活性測定用細胞を提供する。
【0008】
本発明の一具体例において、前記細胞は、SEPTIN2またはTXN遺伝子が好ましくは、形質導入(transduction)、形質移入(transfection)などの方法で細胞内に挿入されて前記遺伝子が過剰発現されてもよいが、一般に知られている細胞内に遺伝子を挿入する方式であれば、これに制限されるものではない。前記SEPTIN2は、好ましくは、ヒトのSEPTIN2遺伝子であり、より好ましくは、NCBIのaccession number NM_001008491.2の3,726bpのmRNA配列を発現する遺伝子であるが、その変異体も本発明の範囲に含まれる。具体的には、NM_001008491.2のmRNA配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する配列を含んでもよい。「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域においてヌクレオチド配列の一部は、配列の最適配列に対する参照配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。次に、前記TXNは、好ましくは、ヒトのTXN遺伝子であり、より好ましくは、NCBIのaccession number NM_003329.4の737bpのmRNA配列を発現する遺伝子であるが、その変異体も本発明の範囲に含まれる。具体的には、NM_003329.4のmRNA配列と90%以上、より好ましくは、95%以上、最も好ましくは、98%以上の配列相同性を有する配列を含んでもよい。「配列相同性の%」は、最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認され、比較領域においてヌクレオチド配列の一部は、配列の最適配列に対する参考配列(追加または削除を含まない)に比べて追加または削除(すなわち、ギャップ)を含んでもよい。
【0009】
本発明の他の具体例において、前記細胞は、SEPTIN2またはTXN遺伝子が過剰発現されることにより、野生型(wild type)細胞に比べてボツリヌス毒素中毒(intoxication)に対する感受性が増加したことを特徴とする。
【0010】
本発明のさらに他の具体例において、前記細胞は好ましくは、SiMa細胞、LAN-2細胞、PC12細胞、Neuro-2a細胞、LA1-55n細胞、N18細胞、SH-SY5Y細胞、Kelly細胞、NB69細胞、N1E-115細胞、BE(2)-M17細胞、SK-N-BE(2)細胞などであってもよいが、一般にボツリヌス毒素活性を測定するのに使用できることが知られている細胞株であれば、これに制限されるものではない。
【0011】
本発明のさらに他の具体例において、前記ボツリヌス毒素は、ボツリヌスセロタイプ(serotype)A、B、C、D、E、F及びGからなる群から選ばれてもよい。
【0012】
また、本発明は、a)前記ボツリヌス毒素活性測定用細胞にボツリヌス毒素を処理して培養する段階、b)前記培養された細胞を溶解させ、細胞溶解液を収集する段階、及びc)前記細胞溶解液内のSNAP-25切断生成物の量を測定する段階を含む、ボツリヌス毒素活性測定方法を提供する。
【0013】
本発明の一具体例において、前記SNAP-25切断生成物の量は、サンドイッチ免疫検定法(ELISA)、ウェスタンブロット(Western blot)などを用いて測定することを特徴とするが、タンパク質を検出するのに使用する方法として知られている方法であれば、これに制限されるものではない。
【0014】
また、本発明は、前記ボツリヌス毒素活性測定用細胞を有効成分として含む、ボツリヌス毒素活性測定用キットを提供する。
【0015】
また、本発明は、前記ボツリヌス毒素活性測定用細胞のボツリヌス毒素活性測定のための用途を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるボツリヌス毒素活性測定用細胞は、SEPTIN2またはThioredoxinを過剰発現することにより、ボツリヌス毒素に対する敏感度が著しく向上したため、低用量のボツリヌス毒素も高精度で検証できるだけでなく、ボツリヌス毒素の結合、細胞吸収、細胞質内への電位及びプロテアーゼ活性をすべて評価できるため、多数の動物実験に代わることが期待される。また、ボツリヌス毒素だけでなく、原料医薬品及び完製医薬品状態のボツリヌス毒素薬学的組成物の活性も測定できるため、ボツリヌス毒素を用いる様々な分野の産業に容易に適用できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、SEPTIN2とThioredoxin(TXN)の機能について簡略に示す図である。
【
図2】
図2は、pLenti-C-Myc-DDK-P2A-Puroベクターマップを簡略に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例による培養された293FT細胞株を顕微鏡で確認した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例によるレンチウイルスを用いて形質導入された細胞株を作製する方法を簡略に示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例によるクローニングシリンダーを用いて細胞株をそれぞれの群体に分離して培養した方法を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例による形質導入された細胞株で発現されたタンパク質をウエスタンブロッティングで確認した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例によるPCRのために作製されたプライマーの結合位置を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例による導入された遺伝子をPCRで確認した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、サンドイッチELISAの原理を簡略に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施例による対照群及びSEPTIN2遺伝子が形質導入された細胞株間ボツリヌス毒素に対する敏感度をSNAP-25切断量の比較を通じて確認した結果を示す図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例による対照群及び形質導入された細胞株間ボツリヌス毒素に対する敏感度を各グループ間のローデータ比を通じて確認した結果を示す図である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施例による対照群及びThioredoxin遺伝子が形質導入された細胞株間ボツリヌス毒素に対する敏感度をSNAP-25切断量比較を通じて確認した結果を示す図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施例によるボツリヌス毒素薬学的組成物(原料医薬品)の力価を形質導入された細胞株を用いてその活性を測定した結果を示す図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施例によるボツリヌス毒素薬学的組成物(完製医薬品)の力価を形質導入された細胞株を用いてその活性を測定した結果を示す図である。
【
図15】
図15は、本発明の全体的な開発過程を簡略に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、ボツリヌス毒素活性測定方法について鋭意研究した結果、ボツリヌス毒素活性を測定できる敏感度が向上した細胞株を作製し、これを用いて安定的にボツリヌス毒素の活性を測定できることを確認して本発明を完成した。
【0019】
本明細書において、「ボツリヌス毒素」は、細菌によって産生されるか、または組換え技法によって産生されてもよいが、任意の公知の種類のボツリヌス毒素及び操作された変異体または融合タンパク質を含む、続いて発見できる種類のボツリヌス毒素を意味する。
ボツリヌス毒素8つの神経毒素に区分され、ボツリヌス毒素のセロタイプ(serotype)であるA、B、C、D、E、F及びGの7種は、神経麻痺を誘発することがある。このタンパク質は、複合体を含むタンパク質と含まないタンパク質に分けられ、純粋な毒素タンパク質の分子量は、150kDaであり、複合体の形成の有無に応じて300kDa、500kDa及び900kDaで多様にタンパク質が生成される。本発明のボツリヌス毒素は、代案的にボツリヌス毒素誘導体、すなわち、ボツリヌス毒素活性を有するが、天然または組換えの原型ボツリヌス毒素に比べて1つ以上の化学的変形または機能的変形を含む化合物であってもよい。例えば、ボツリヌス毒素は、変形された神経毒素(例えば、原型の、または組換えによって生成された神経毒素、その誘導体または断片に比べて1つ以上のアミノ酸の欠失、修飾または置換を有する神経毒素)であってもよい。例えば、ボツリヌス毒素は、その特性を強化するか、またはその望ましくない副作用を減少させるが、依然として望ましいボツリヌス毒素の活性を保有する方式で変形されたボツリヌス毒素であってもよい。代案的に、ボツリヌス毒素は組換えまたは合成化学技法を用いて製造された毒素であってもよい(例えば、異なるボツリヌス毒素のセロタイプのサブユニットまたはドメインから製造された、組換えペプチド、融合タンパク質、またはハイブリッド神経毒素(例えば、米国特許第6,444,209号参照)。ボツリヌス毒素は、また、必要なボツリヌス毒素活性を有することが実証された全分子の一部分であってもよく、そのような場合には、それ自体または組み合わせまたはコンジュゲート(conjugate)分子、例えば、融合タンパク質の一部として用いられてもよい。また、ボツリヌス毒素は、それ自体で非毒性でありうるボツリヌス毒素の前駆体、例えば、タンパク質加水分解による分解時に毒性となり得る無毒性亜鉛プロテアーゼ(zinc protease)の形態であってもよい。
【0020】
本明細書において、「細胞」とは、ボツリヌス毒素によるボツリヌス毒素中毒に脆弱なすべての真核細胞、またはボツリヌス毒素を吸収できるすべての真核細胞を意味する。真核細胞は、例えば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、霊長類及びヒトなどの様々な哺乳類に由来する細胞を意味する。本明細書において、「作製された細胞株」とは、確立された細胞株、不滅の細胞株、または形質転換細胞株と同義語であり、無限増殖のために選択された細胞を意味する。本明細書に開示された形質転換細胞株は、複数の細胞継代に対してボツリヌス毒素活性に対する一貫した敏感度を示し、「ボツリヌス毒素活性に対する敏感度」とは、非-処理対照群または背景(background)信号によって検出された信号を一貫して測定できる最低のボツリヌス毒素濃度を意味する。
【0021】
本明細書において、「ベクター」または「プラスミド」とは、細胞内に伝達されるDNA断片、核酸分子などを意味し、前記ベクターは、DNAを複製させ、宿主細胞から独立して再製造されてもよい。用語の「伝達体」と互換して使用されてもよい。「発現ベクター」とは、目的のコード配列と、特定の宿主生物において作動可能に連結されたコード配列を発現するのに必須的な滴定核酸配列を含む組換えDNA分子を意味する。また、本発明の組換えベクターまたはプラスミドは、SEPTIN2またはThioredoxinをコードする遺伝子が含まれており、細胞内でSEPTIN2またはThioredoxinを過剰発現させることができるすべてのベクターを総称する。
【0022】
本明細書において、「キット」とは、本発明のボツリヌス毒素活性測定用細胞を含むことにより、ボツリヌス毒素の活性を測定できる機器を意味し、ボツリヌス毒素そのもの、ボツリヌス毒素の原料医薬品、ボツリヌス毒素の完製医薬品などのボツリヌス毒素の活性を測定するのに使用されてもよく、本発明のキットには、本発明のボツリヌス毒素活性測定用細胞以外に細胞を溶解させるための細胞溶解剤、ELISA用抗体及び試薬、マニュアルなどをさらに含んでもよいが、本発明のボツリヌス毒素活性測定方法に使用できるものであればさらに含んでもよい。
【0023】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかし、以下の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものであり、以下の実施例によって本発明の内容が限定されるものではない。
【0024】
[実施例]
実施例1:レンチウイルス産生用細胞株293FTの培養
レンチウイルス産生に一般的に用いられる細胞株である293FTは、293F細胞株から由来したもので、pCMVSPORT6TAg.neo plasmidを通じてSV40 large T antigenを安定的に発現する細胞株で、レンチウイルスの産生に使用される代表的な細胞株である。293FT細胞株は、前記plasmid内にネオマイシン耐性遺伝子を暗号化しているため、細胞解凍を除くすべての細胞の培養時にはネオマイシン類似体であるgeneticinを含む培地を用いて培養した。より詳細には、293FT cell stock(Thermo,R700-07)を10% FBS(Gibco),1X NEAA(Gibco),2mM L-glutamine(Gibco)及び1% penicillin-streptomycin(Gibco)が添加されたDMEM(Gibco)培地に懸濁し、200xgで3分間遠心分離して上澄み液を除去し、細胞を得た。得られた細胞は培養培地を用いて再懸濁した後、100mm細胞培養皿に分注して37℃、5%CO2培養器で24時間培養した。その後、培養培地をすべて除去し、10%FBS(Gibco)、1X NEAA(Gibco)、2mM L-glutamine(Gibco)、1% penicillin-streptomycin(Gibco)及び500 μg/mL geneticin selective antibiotic(Gibco)が添加されたDMEM(Gibco)培地に交換した後、培養した。次に、細胞飽和度(cell confluency)が90%以上に増加すれば、再び継代培養を行った。継代培養は、まず従来の培養培地を除去し、DPBS(Gibco)を培養体積(culture volume)の50%である5mLを添加して水洗いした。次に、DPBSを除去し、TrypLE(Gibco)を培養体積の20%である2mLを添加し、37℃、5%CO2培養器で2分間反応させた。反応が完了した後、培養培地をさらに添加した後、800xg、4℃で2分間遠心分離して上澄み液を除去した。次に、培養培地を用いて再懸濁した後、Trypan blue(Gibco)とヘモサイトメーターを用いて細胞数を測定し、100mmの細胞培養皿に2×106個の細胞を10mLの培養培地とともに分注して継代培養し、継代培養は、3~4日ごとに前記と同じ方法で行った。
【0025】
実施例2:BoNT/A中毒に脆弱な細胞株の作製のための遺伝子選定及び暗号化プラスミドの作製
図1に示すように、SEPTIN2(SEPT2)は、BoNT/Aが細胞内で分解されることから保護する役割を果たし、Thioredoxin(TXN)は、BoNT/Aの重鎖と軽鎖間の二硫化結合を分離するのに作用することが知られている。前記2つのタンパク質を細胞内で過剰発現させるために、pLenti-C-Myc-DDK-P2A-Puroベクター内にそれぞれのタンパク質をコードする遺伝子が挿入されたpLenti-ORFプラスミド(SEPTIN2:RC224864L3、TXN:RC208876L3)をOrigene社に依頼して作製した。SEPTIN2作製のためには、配列番号9のアミノ酸配列(DNA配列:配列番号10)を利用し、Thioredoxin作製のためには、配列番号11のアミノ酸配列(DNA配列:配列番号12)を利用した。pLenti-C-Myc-DDK-P2A-Puroベクターマップを
図2に示した。凍結乾燥したpLenti-ORFプラスミドが入ったチューブを5000xgで3分間遠心分離した後、蒸留水100μLを添加し、ピペッティングした後、-20℃の冷凍庫で使用前まで保管した。
【0026】
pLenti-ORFプラスミドに形質転換された菌株を作製するために、プラスミドを常温で解凍し、水溶性細胞(competent cell,RBC bioscience)は、100μLを4℃で解凍した。次に、解凍されたプラスミド2μLを水溶性細胞に処理した後、4℃で10分間反応させた後、37℃で1分間熱ショック(heat shock)を加えた後、LB broth700μLを添加し、37℃振とう培養器で15分間培養した。培養が完了した後、34μg/mLのクロラムフェニコールが添加されたLB寒天平板(agar plate)に培養液20μLを添加し、スプレッダーで均一に広げた。菌を処理した寒天平板は、37℃培養器で16時間培養した。次に、寒天平板上に生成された群体(colony)をそれぞれクロラムフェニコールが添加されたLB broth1.5mLに接種し、37℃培養器で16時間振とう培養した。培養が完了した後、培養液を13,000rpmで1分間遠心分離して上澄み液を除去し、残ったペレットは、DNA-spin Plasmid DNA Purification Kit(iNtRON)を用いて提供されたプロトコルに従ってプラスミドの精製に使用した。次に、精製されたプラスミドの塩基配列は、コスモジンテックに依頼して分析した。塩基配列分析に用いたプライマー配列を表1に示した。塩基配列分析の結果、SEPTIN2は、NCBIのaccess number NM_001008491.2と、TXNは、NM_003329.4と正確に一致することを確認し、これにより、SEPTIN2またはTXN、すなわち、ターゲット遺伝子が正常に挿入されたプラスミドが作製されたことを確認した。
【0027】
【0028】
pLenti-ORFプラスミドを大量生産するために、プラスミドに形質転換された菌株培養液500μLを、34μg/mLのクロラムフェニコールが添加された100mLのLB brothに接種した後、37℃で16時間振とう培養した。次に、培養液を500mL Centrifuge bottle(Nalgene)に移した後、6000xg、4℃で15分間遠心分離し、上澄み液を除去した。次に、HiSpeed Plasmid Midi Kit(Qiagen)を用いてペレットからプラスミドを精製した。精製されたプラスミドは、Life Science UV/vis Spectrophotometer DU 730(Beckman Coulter)を用いて定量した。その結果を表2に示した。
【0029】
【0030】
実施例3:293FT細胞株内の形質移入によるレンチウイルスの作製
レンチウイルス生産効率の高い細胞株である293FT細胞株を前記実施例1と同じ方法で継代培養された2.5x10
6個の細胞を100mm細胞培養皿に分注した。次に、細胞飽和度が40~50%に達することを顕微鏡で確認した。その結果を
図3に示した。次に、形質移入(transfection)のために1.5mLのチューブにopti-MEM(Gibco)1.5mLとpLenti-ORFプラスミド5μgを添加して混合した。次に、蒸留水に含まれている0.5μg/μLのpackaging plasmid(Origene)を6μg添加して混合した後、TurboFectin(Origene)33μLをさらに添加して混合した。混合溶液を常温で15分間反応させた後、細胞培養皿にすべて処理し、2日間培養した。次に、ウイルスが含まれている培地上澄み液を回収して4℃で保管し、新しい培地を添加して再び1日間培養した。次に、再び培地上澄み液を回収し、前日回収した培地と混合した後、0.45μmシリンジフィルター(syringe filter,Sartorius)を用いてフィルタリングした後、使用前まで4℃で保管した。
【0031】
実施例4:レンチウイルスを用いた形質導入細胞株の作製
実施例1と同じ方法で継代培養した4x10
6個のSiMa(DSMZ,ACC164)細胞株10%FBS,2mM L-glutamine(Gibco)及び1% penicillin-streptomycin(Gibco)が添加されたRPMI1640(Gibco)培養培地4mLが添加された60mm細胞培養皿に分注し、16時間培養した。次に、培養液を除去した後、実施例3と同じ方法で得られたレンチウイルス溶液1mLと新しい培地3mLを混合して添加し、ポリブレン(Sigma-Aldrich)を最終濃度が8μg/mLとなるように添加して培養した。翌日、培養液を除去し、新しい培地を添加した後、再び1日間培養し、1μg/mLのピューロマイシン(Sigma-Aldrich)が添加された新しい培養培地に交換した。その後、3~4日間隔でピューロマイシンが含まれた培地に交換しながら、形質導入されたピューロマイシン薬剤耐性細胞のみを選別した。レンチウイルスを用いて形質導入された細胞株を作製する方法を
図4に簡略に示した。
【0032】
次に、培養された細胞株をそれぞれの群体に分離するために、
図5に示すように、クローニングシリンダー(Sigma-Aldrich)を用いて物理的に培養皿内に空間を区画した。より詳しくは、培養に使用した培地を除去し、DPBS3mLを処理して細胞を水洗いした後にそれぞれの群体にクローニングシリンダーを取り付け、シリンダー内のDPBSのみを別々に除去した。次に、クローニングシリンダー内にtrypLE50μLをそれぞれ処理し、37℃、5%CO
2培養器で3分間反応させた。その後、trypLE及び細胞混合液をピペッティングして混合した後、1μg/mLのピューロマイシンが添加された150μLの培養培地が含まれている96ウェルプレートにそれぞれ分注した。次に、分注された順序で細胞株の名前を命名した。その後、細胞の成長に応じてスケールアップして培養した。
【0033】
実施例5:形質導入された細胞株の確認
5.1.導入されたタンパク質の発現有無の検証
実施例4と同じ方法で作製された形質導入細胞株を確認するために、1次的に発現されるタンパク質をウェスタンブロッティングを用いて確認した。より詳しくは、スケールアップして培養した100mm細胞培養皿の培地を除去し、4℃のDPBS 5mLを用いて水洗いした。次に、DPBSを除去した後、cOmplete
TM及びEDTA-free Protease Inhibitor Cocktail(Roche)が添加されているRIPA溶解緩衝液(iNtRON)200μLを細胞に処理した。Cell lifter(SPL)を用いて細胞溶解液を1.5mL tubeに移した後、4℃で20分間動かさずに反応させた。次に、17,000rpm、4℃の条件で30分間遠心分離した後、上澄み液を新しい1.5mLのチューブに移した。pierce
TMBCA Protein Assay Kit(ThermoFisher)を用いて上澄み液内のタンパク質量を定量し、4X Laemmli Sample Buffer(Bio-Rad)でサンプリングした後、100℃で10分間加熱してウェスタンブロッティング用の試料を用意した。次に、15%ポリアクリルアミドゲルを用いてウェスタンブロッティングを行った。電気泳動により試料内のタンパク質をサイズに応じて分離し、100V、1時間条件でImmobilon-P PVDF Membrane(Merck)に移動させた。タンパク質の移動が完了したmembraneは、Ponceau S(Sigma-Aldrich)で染色してタンパク質発現パターンを確認した。Membraneを0.1% polysorbate 20 in PBS(PBST)に浸して5分ずつ4回Digital Orbital Shaker(DAIHAN Scientific)を用いて水洗いしてPonceau Sを除去し、ブロッキング緩衝液(5% BSA PBST)を添加し、常温で1時間、Digital Orbital Shakerを用いてブロッキングさせた。pLenti-C-Myc-DDK-P2A-Puroベクター内のターゲット遺伝子、すなわち、挿入された遺伝子が発現されると、発現されるタンパク質のC末端にはMycとDDK-TAGが一緒に発現される。したがって、ブロッキングが完了したmembraneにMycタグに特異的に結合する1次抗体(Myc-tag,Cell Signaling Technology,2278S,1:1000 v/v in 2%BSA PBST)を処理し、4℃でDigital Orbital Shakerを用いて16時間反応させた。反応が完了したmembraneは、PBSTに浸して5分ずつ4回、Digital Orbital Shakerを用いて洗浄した後、2次抗体(Anti-Rabbit HRP,abcam,ab6721,1:10000v/v in PBST)を処理し、常温で1時間反応させた。その後、PBSTにmembraneを浸して5分ずつ4回、Digital Orbital Shakerを用いて洗浄し、Pierce ECL Western Blotting Substrate(ThermoFisher)を処理した後、ImageQuant LAS 500(Cytiva)でタンパク質を検出した。その結果を
図6に示した。
【0034】
図6に示すように、形質導入されたSiMa細胞株においてThioredoxinタンパク質またはSeptin-2タンパク質が発現することを確認した。ただし、SEPTIN2-1細胞株では、Septin-2の他に未確認バンドが検出された。
【0035】
5.2.遺伝子導入可否の検証
実施例4と同じ方法で作製された形質導入細胞株においてターゲット遺伝子の導入を確認するために、細胞株から遺伝子DNAを分離した後、導入遺伝子部分をPCRを用いて増幅させた。PCRのためのプライマーは、形質導入された遺伝子と内在性(endogenous)遺伝子を区別するために、形質導入された遺伝子のみを有する3’末端の配列を用いてプライマーをデザインした後、コスモジンテックに依頼して作製した。PCRに用いたプライマー配列を表3に示した。
図7に示すように、TXNまたはSEPTIN2遺伝子の増幅のための順方向プライマー(forward primer)はそれぞれの遺伝子の5’末端配列に結合するようにデザインし、2つの遺伝子共通の逆方向プライマー(reverse primer)はDDK-tag配列に結合するようにデザインした。次に、ベータグロビン(β-globin)遺伝子を増幅させることができるプライマー(GH20及びGH21)を陽性対照群として用いた。
【0036】
【0037】
PCRのために、形質導入されたSiMa-TXN-3、SiMa-SEPTIN2-1、SiMa-SEPTIN2-2、及びSiMa-SEPTIN2-3細胞株をそれぞれ1μg/mLのピューロマイシンが添加された培養培地が入った100mm細胞培養皿に分注し、細胞飽和度が約80%に達したとき、Wizard(登録商標) Genomic DNA Purification Kit(Promega)を用いて提供されるプロトコルに従って各細胞株の誘電体DNAを抽出し、抽出された誘電体DNAは、Life Science UV/Vis Spectrophotometer DU 730(Beckman Coulter)を用いて定量した。その結果を表4に示した。
【0038】
【0039】
次に、誘電体DNA50ng、2X Platinum SuperFi PCR Master Mix 25μL、10μMのforward primerとreverse primerをそれぞれ2.5μLずつ混合し、最終的に50μLとなるように蒸留水を添加してPCR試料を準備した後にPCRを行った。PCR条件は、表5に示した。
【0040】
【0041】
PCRが完了した後、0.01%(v/v)EcoDye
TMNucleic Acid Staining Solution(Biofact)が混合された1.5%(w/v)DNAアガロースゲルと電気泳動キットであるMupid-One(Advance)を用いて電気泳動した。電気泳動は、100Vで35分間行っており、Gel Documentation System LSG1000(iNtRON)を用いてイメージングした。その結果を
図8に示した。
【0042】
図8に示すように、SiMa-TXN-3細胞株において陽性対照群に該当するベータグロビン遺伝子と、形質導入されたDDK-tagを含むTXN遺伝子がすべて正常に増幅されたことを確認した。また、SiMa-SEPTIN2-1、SiMa-SEPTIN2-2、SiMa-SEPTIN2-3、それぞれの細胞株においても形質導入されたDDK-tagを含むSEPTIN2遺伝子がすべて増幅されたことを確認した。前記結果を通じて、形質導入された遺伝子を過剰発現する形質導入細胞株が正常に製造されたことが確認できた。
【0043】
実施例6:サンドイッチELISAによるBoNT/A生物学的活性の検証
6.1.BoNT/Aを処理したSiMa-SEPTIN2-3細胞の細胞溶解液の製造
細胞ベースのボツリヌス毒素の生物学的活性検証システムを確認するために、1次的にボツリヌス毒素が処理された細胞の細胞溶解液を製造した。ボツリヌス毒素を処理するために、対照群としてはSiMa細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine及び1%penicillin-streptomycinが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに1.2×105cells/100μL/wellの濃度で、実験群としては、SiMa-SEPTIN2-3細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine及び1%penicillin-streptomycin及び1μg/mLピューロマイシンが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに1.2×105cells/100μL/wellの濃度でそれぞれ分注した。各細胞株を分注し、2日間培養した後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement(Gibco)、1X N-2 Supplement(Gibco)、2mM L-glutamine及び25μg/mL Trisialoganglioside GT1B(Matreya)が添加されている100μLの分化培地を処理し、2日間培養して分化を誘導した。分化2日後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement及び1X N-2 Supplement及び0.25% Human Serum Albumin(ミドリ十字)が添加されているRPMI1640にBoNT/A複合体を1.35倍ずつ連続希釈(serial dilution)し、最終的に100μLとなるように各ウェルに添加した。ボツリヌス毒素を処理し、4日間培養した後に培地を除去し、protease inhibitor cocktailが添加された溶解緩衝液(50mM HEPES(pH 7.4)、150mM NaCl,1.5mM MgCl2及び1%Triton X-100)110μLを各ウェルに処理して細胞を溶解させた。次に、細胞溶解液を1.5mLのチューブに移し、17,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上澄み液を得て、サンドイッチELISAに用いる細胞溶解液を製造した。
【0044】
6.2.サンドイッチELISAを用いたEC50の確認
ボツリヌス毒素セロタイプA(BoNT/A)は、神経筋接合部(neuromuscular junction)の前シナプス(presynapse)に作用し、前シナプス細胞膜に結合しているSynaptosomal-Associated Protein,25kDa(SNAP-25)分子の切断を引き起こすことが知られているため、この原理を適用して切断されたSNAP-25(cleaved SNAP-25)、及び完全なSNAP-25を認識できるそれぞれの抗体を用いたサンドイッチEnzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)試験法をデザインした。その原理は、
図9に簡略に示した。
【0045】
切断されたSNAP-25に特異的に結合する捕捉抗体(capture antibody)であるMouse Synaptosomal Protein 25kDa(SNAP-25,a.a.183-197)cleaved Monoclonal Antibody(Mybiosource,MBS312597)を0.1Mのsodium carbonateコーティング緩衝液(coating buffer, pH 9.6)を用いて0.2%(v/v)の濃度に希釈した後に100μLをClear Flat-Bottom Immuno Nonsterile 96-Well Plate(ThermoFisher)の各ウェルに処理し、4℃で16時間動かさずに反応させた。その後、ウェルに結合していない抗体を除去し、0.1%polysorbate 20 in PBS(PBST)200μLを用いて3回洗浄した。次に、ブロッキング緩衝液(5%BSA PBST)200μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件で1時間shakerに置いた。1時間後にブロッキング緩衝液を除去し、PBST 200μLを用いて3回洗浄し、実施例6.1と同じ方法で得た細胞溶解液 90μLを添加し、常温で75rpmの条件でshakerで2時間反応させた。次に、細胞溶解液を除去し、PBST 200μLで3回洗浄した。その後、検出抗体(detection antibody)であるAnti-SNAP-25 antibody(Sigma-Aldrich,S9684)をブロッキング緩衝液を用いて0.1%(v/v)の濃度に希釈した後、100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間反応させた。その後、PBST 200μLを用いて3回洗浄して結合していない抗体をすべて除去し、2次抗体であるAnti-Rabbit HRP(abcam,ab6721)をブロッキング緩衝液を用いて0.01%(v/v)に希釈し、希釈した抗体溶液100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間反応させた。次に、PBST 200μLを用いて3回洗浄した後、TMB Peroxidase EIA Substrate Kit(Bio-Rad)のTMB溶液と過酸化水素溶液を9:1で混合し、各ウェルに50μLを処理した後、37℃の培養器で30分間反応させた。その後、2Nの硫酸(sulfuric acid)50μLを各ウェルに処理した後、SpectraMax Plus 384 Microplate Reader(Moleculardevices)を用いて450nm波長帯の吸光度(OD450)を測定した。得られたローデータ(raw data)は、 GraphPad Prism Version 7.00(GraphPad Software,Inc.)を用いて用量反応曲線(four parameters)を作成し、自社のマウス力価試験結果(unit)を基準にEC
50値を算出した。その後、すべての実験を少なくとも3回以上繰り返し、結果を平均値±標準偏差で示した。その結果を
図10に示した。
【0046】
図10に示すように、対照群であるSiMa細胞株のEC
50は7.35U/mL(0.49pM)、SEPTIN2-3形質導入細胞株のEC
50は、5.38U/mL(0.36pM)の値を示すことを確認した。これにより、SEPTIN2を過剰発現させることにより、敏感度を向上させることができることが確認できた。
【0047】
また、より詳細に細胞株間の敏感度の差を比較するために、SiMa細胞株各グループのOD
450nm値をSEPTIN2-3細胞株各グループのOD
450nm値で割って、同じボツリヌス毒素処理に対する細胞株の反応程度を比較した。その結果を
図11に示した。
【0048】
図11に示すように、毒素を処理しないOD450
SEPTIN2/OD450
WT値は1であるのに対し、毒素を処理したときは約1.7程度までその値が上昇し、細胞株間の毒素に対する感度の差を示すことを確認した。これを通じて、SEPTIN2遺伝子を過剰発現する形質導入細胞株は、対照群(wild type)に比べてボツリヌス毒素に対する敏感度が増加したことが確認できた。
【0049】
6.3.BoNT/Aを処理したSiMa-Thioredoxin細胞の細胞溶解液の製造
細胞ベースのボツリヌス毒素の生物学的活性検証システムを確認するために、1次的にボツリヌス毒素が処理された細胞の細胞溶解液を製造した。ボツリヌス毒素を処理するために、対照群としてはSiMa細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine及び1%penicillin-streptomycinが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに8×104cells/100μL/wellの濃度で、実験群としてはSiMa-TXN3細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine及び1%penicillin-streptomycin及び1μg/mLピューロマイシンが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに、8×104cells/100μL/wellの濃度でそれぞれ分注した。各細胞株を分注し、2日間培養した後、培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement(Gibco)、1X N-2 Supplement(Gibco)、2mM L-glutamine及び25μg/mL Trisialoganglioside GT1B(Matreya)が添加されている100μLの分化培地を処理し、2日間培養して分化を誘導した。分化2日後に培地を除去し、RPMI1640にBoNT/A複合体を0、1、5、10、50、100、500、1000、2000(pM)濃度で調製し、最終的に100μLずつ各ウェルに添加した。ボツリヌス毒素を処理し、4日間培養した後に培地を除去し、protease inhibitor cocktailが添加された溶解緩衝液(50mM HEPES(pH 7.4)、150mM NaCl、1.5mM MgCl2及び1%Triton X-100)110μLを各ウェルに処理して細胞を溶解させた。次に、細胞溶解液を1.5mLのチューブに移し、17,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上澄み液を得て、サンドイッチELISAに用いる細胞溶解液を製造した。
【0050】
6.4.サンドイッチELISAを用いたEC50の確認
実施例6.2と同じ方法でTXN遺伝子を過剰発現する形質導入細胞株に対するボツリヌス毒素敏感度を実施例6.3の細胞溶解液を用いて確認した。その結果を
図12に示した。
【0051】
図12に示すように、Thioredoxin遺伝子を過剰発現する形質導入細胞株は、対照群(wild type)に比べてボツリヌス毒素に対する敏感度が増加したことが確認できた。
【0052】
実施例7:サンドイッチELISAによるBoNT/A薬学的組成物(原料医薬品)の生物学的活性の検証
細胞ベースのボツリヌス毒素の生物学的活性検証システムがボツリヌス毒素薬学的組成物(原料医薬品)にも適用が可能かどうかを確認するために、SiMa-SEPTIN2-3細胞株を用いてサンドイッチELISAを行った。より詳しくは、SiMa-SEPTIN2-3細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine、1% penicillin-streptomycin及び1μg/mLピューロマイシンが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに、1.2×105cells/100μL/wellの濃度で分注した。次に、2日間培養した後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement、1X N-2 Supplement、2mM L-glutamine及び25μg/ml Trisialoganglioside GT1Bが添加されている100μLの分化培地を処理し、2日間培養して分化を誘導した。分化2日後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement、1X N-2 Supplementが添加されているRPMI1640にBoNT/A複合体(ATGC-100から保存溶液などの他の物質が除去された原料医薬品であるボツリヌス毒素)を1.55倍ずつ連続希釈(serial dilution)して細胞に濃度別に処理した。ボツリヌス毒素を処理し、4日間培養した後に培地を除去し、protease inhibitor cocktailが添加された溶解緩衝液(50mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、1.5mM MgCl2及び1%Triton X-100)110μLを各ウェルに処理して細胞を溶解させた。次に、細胞溶解液を1.5mLのチューブに移し、17,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上澄み液を得て、サンドイッチELISAに用いる細胞溶解液を製造した。
【0053】
次に、切断されたSNAP-25に特異的に結合する捕捉抗体(capture antibody)であるMouse Synaptosomal Protein 25kDa(SNAP-25,a.a.183-197)cleaved Monoclonal Antibody(Mybiosource)を0.1Mのsodium carbonateコーティング緩衝液(coating buffer,pH9.6)を用いて0.8%(v/v)の濃度に希釈した後、100μLをClear Flat-Bottom Immuno Nonsterile 96-Well Plate(ThermoFisher)の各ウェルに処理し、4℃で16時間動かさずに反応させた。その後、ウェルに結合していない抗体を除去し、0.1%polysorbate 20 in PBS(PBST)200μLを用いて3回洗浄した。次に、ブロッキング緩衝液(5%BSA PBST)200μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件で2時間shakerに置いた。2時間後にブロッキング緩衝液を除去し、得られた細胞溶解液90μLを添加し、常温で75rpmの条件でshakerで2時間処理した。その後、細胞溶解液を除去し、PBST 200μLで3回洗浄した。その後、検出抗体(detection antibody)であるAnti-SNAP-25antibody(Sigma-Aldrich,S9684)をブロッキング緩衝液をを用いて0.1%(v/v)の濃度に希釈した後、100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間反応させた。その後、PBST 200μLを用いて3回洗浄して結合していない抗体をすべて除去し、2次抗体であるAnti-Rabbit HRP(abcam,ab6721)をブロッキング緩衝液を用いて0.01%(v/v)に希釈し、希釈した抗体溶液100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間処理した。次に、PBST 200μLを用いて3回洗浄した後、TMB(ThermoFisher,34028)溶液を各ウェルに100μL処理した後、常温で15分間反応させた。その後、2Nの硫酸(sulfuric acid)100μLを各ウェルに処理した後、SpectraMax Plus 384 Microplate Reader(Moleculardevices)を用いて450nm波長帯の吸光度(OD450)を測定した。得られたローデータ(raw data)は、GraphPad Prism Version 7.00(GraphPad Software,Inc.)を用いて用量反応曲線(four parameters)を作成し、自社のマウス力価試験結果(unit)を基準にEC
50値を算出した。その結果を
図13に示した
【0054】
図13に示すように、ボツリヌス毒素用量依存的にSNAP-25切断量が増加することを確認した。次に、EC
50値は16.98U/mLであることを確認した。
【0055】
実施例8:サンドイッチELISAによるBoNT/A薬学的組成物(完製医薬品)の生物学的活性の検証
細胞ベースのボツリヌス毒素の生物学的活性検証システムがさらに他のボツリヌス毒素薬学的組成物(完製医薬品)にも適用可能かどうかを確認するために、SiMa-SEPTIN2-3細胞株を用いてサンドイッチELISAを行った。より詳しくは、SiMa-SEPTIN2-3細胞株を10%FBS、2mM L-glutamine、1% penicillin-streptomycin及び1μg/mLピューロマイシンが添加されたRPMI1640培地が入った96ウェルプレートに1.2×105cells/100μL/wellの濃度で分注した。次に、2日間培養した後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement、1X N-2 Supplement、2mM L-glutamine及び25μg/ml Trisialoganglioside GT1Bが添加されている100μLの分化培地を処理し、2日間培養して分化を誘導した。分化2日後に培地を除去し、1X B-27TM Plus Supplement、1X N-2 Supplementが添加されているRPMI1640にBoNT/A完製医薬品(ATGC-100)を1.4倍ずつ連続希釈(serial dilution)して細胞に濃度別に処理した。ボツリヌス毒素を処理し、4日間培養した後に培地を除去し、protease inhibitor cocktailが添加された溶解緩衝液(50mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、1.5mM MgCl2及び1%Triton X-100)110μLを各ウェルに処理して細胞を溶解させた。次に、細胞溶解液を1.5mLのチューブに移し、17,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上澄み液を得て、サンドイッチELISAに用いる細胞溶解液を製造した。
【0056】
次に、切断されたSNAP-25に特異的に結合する捕捉抗体(capture antibody)であるMouse Synaptosomal Protein 25kDa(SNAP-25,a.a.183-197)cleaved Monoclonal Antibody(Mybiosource)を0.1Mのsodium carbonateコーティング緩衝液(coating buffer,pH9.6)を用いて0.8%(v/v)の濃度に希釈した後、100μLをClear Flat-Bottom Immuno Nonsterile 96-Well Plate(ThermoFisher)の各ウェルに処理し、4℃で16時間動かさずに反応させた。その後、ウェルに結合していない抗体を除去し、0.1%polysorbate 20 in PBS(PBST)200μLを用いて3回洗浄した。次に、ブロッキング緩衝液(5%BSA PBST)200μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件で2時間shakerに置いた。2時間後にブロッキング緩衝液を除去して得た細胞溶解液90μLを添加し、常温で75rpmの条件でshakerで2時間処理した。次に、細胞溶解液を除去し、PBST 200μLで3回手洗いした。その後、検出抗体(detection antibody)であるAnti-SNAP-25 antibody(Sigma-Aldrich,S9684)をブロッキング緩衝液を用いて0.1%(v/v)の濃度に希釈した後、100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間反応させた。その後、PBST 200μLを用いて3回洗浄して結合していない抗体をすべて除去し、2次抗体であるAnti-Rabbit HRP(abcam,ab6721)をブロッキング緩衝液を用いて0.01%(v/v)に希釈し、希釈した抗体溶液100μLを各ウェルに処理し、常温で75rpmの条件でshakerで1時間処理した。次に、PBST 200μLを用いて3回洗浄した後、TMB(ThermoFisher,34028)溶液を各ウェルに100μLを処理した後、常温で15分間反応させた。その後、2Nの硫酸(sulfuric acid)100μLを各ウェルに処理した後、SpectraMax Plus 384 Microplate Reader(Moleculardevices)を用いて450nm波長帯の吸光度(OD450)を測定した。得られたローデータ(raw data)は、GraphPad Prism Version 7.00(GraphPad Software,Inc.)を用いて用量反応曲線(four parameters)を作成し、自社のマウス力価試験結果(unit)を基準にEC
50値を算出した。その結果を
図14に示した
【0057】
図14に示すように、ボツリヌス毒素用量依存的にSNAP-25切断量が増加することを確認した。次に、EC
50値は5.42U/mLであることを確認した。
【0058】
前記結果を通じて、
図15に示すように、本発明のレンチウイルスを用いてSEPTIN2またはTXN遺伝子を過剰発現する細胞株を用いることにより、ボツリヌス毒素だけでなく、ボツリヌス毒素薬学的組成物、すなわち、原料医薬品及び完製医薬品の力価を細胞ベースで容易に測定することができ、その敏感度を著しく向上させることができることが確認できた。したがって、本発明の細胞株をボツリヌス毒素を用いる様々な産業分野に適用できるものと期待される。
【0059】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須的な特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形が可能であることが理解できるだろう。したがって、前述した実施例は、すべての面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のボツリヌス毒素活性測定用細胞は、ボツリヌス毒素に対する敏感性が著しく向上したため、多数の動物実験に代わって、ボツリヌス毒素だけでなく、原料医薬品または完製医薬品状態のボツリヌス毒素薬学的組成物の活性を測定する様々な産業分野に広く用いることができる。
【配列表】
【国際調査報告】