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特表2024-521749大規模な示差走査熱量測定分析の方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】大規模な示差走査熱量測定分析の方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/20 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
G01N25/20 A
G01N25/20 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572518
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 NL2022050282
(87)【国際公開番号】W WO2022250533
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】2028305
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523440134
【氏名又は名称】ベリディス テクノロジーズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッサー,ナイジェル ダーフィット ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ゲリッツェン,フロリス イェレ アントン
(72)【発明者】
【氏名】グランズドルプ,ジェローン デニス
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AA02
2G040AB08
2G040AB10
2G040AB12
2G040BA02
2G040BA25
2G040CA02
2G040DA02
2G040DA13
2G040DA15
2G040EA02
2G040EB05
2G040EC04
2G040EC09
2G040FA01
2G040FA04
2G040GA04
2G040HA01
2G040HA11
2G040HA16
(57)【要約】
本出願により、示差走査熱量測定の方法及び入力補償示差走査熱量測定の為の装置が提供される。該方法は、
試料及び基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、及び/又は該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料及び/又は該試料の組成物の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
の工程を含む。
該方法において、該試料は、第1の試料面において加熱及び/又は冷却され、該試料の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において決定され、並びに、
該基準物質は、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却され、該基準物質の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において決定される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量測定の方法であって、
試料及び基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
の工程を含み、
ここで、該試料は、第1の試料面において加熱及び/又は冷却され、該試料の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において決定され、並びに、該基準物質は、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却され、該基準物質の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において決定される、
前記方法。
【請求項2】
該第1の試料面において該試料の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、及び/又は、
該第1の基準物質面において該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
示差走査熱量測定の方法、特には請求項1又は2に記載の方法、であって、
試料及び基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
の工程を含み、
ここで、該試料は、第1の試料面において加熱及び/又は冷却され、該基準物質は、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却され、該方法が更に、該当する場合に、該第1の試料面及び/又は第2の試料面の複数の位置における該試料の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、及び/又は、該当する場合に、該第1の基準物質面及び/又は第2の基準物質面の複数の位置における該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定することを含む、
前記方法。
【請求項4】
該試料は、第2の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、また可能性としては、第3の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、第1の次元における大きさを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該試料の少なくとも一部は、直立した試料容器に入れられ、該試料容器は、液体試料部分を保持する為に液密であってもよく、該第1の試料面及び該第2の試料面は、該試料容器の水平方向反対側の各面によって定められる、及び/又は、
該基準物質の少なくとも一部が、直立した基準物質容器に入れられ、該基準物質容器は、液体基準物質部分を保持する為に液密であってもよく、該第1の基準物質面及び該第2の基準物質面は、該基準物質容器の水平方向反対側の各面によって定められる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
下記の式
【数1】
に基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質を決定することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
装置であって、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の、
該試料及び該基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
を実行するように適合された手段と
を備えている、前記装置。
【請求項8】
請求項7に記載の装置に請求項1~6のいずれか1項に記載の方法の工程を実行させる命令を備えているコンピュータプログラム。
【請求項9】
請求項8に記載のコンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体。
【請求項10】
入力補償示差走査熱量測定の為の装置であって、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御する為に構成されたコントローラと
を備えており、
ここで、該試料ヒータは、該試料を第1の試料面において加熱及び/又は冷却するように構成されており、該試料温度検出器は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において該試料の該温度及び/又は該温度変化を決定するように構成されており、
該基準物質ヒータは、該基準物質を第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却するように構成されており、該基準物質温度検出器は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において該基準物質の該温度及び/又は該温度変化を決定するように構成されている、
前記装置。
【請求項11】
該第1の試料面に配置された、該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の更なる試料温度検出器、及び/又は、
該第1の基準物質面に配置された、該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の更なる基準物質温度検出器
を備えている、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
入力補償示差走査熱量測定の為の装置、特には請求項10又は11に記載の装置、であって、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御する為に構成されたコントローラと
を備えており、
ここで、該試料温度検出器、存在する場合には更なる試料温度検出器、該基準物質温度検出器、及び存在する場合には更なる基準物質温度検出器のうちの少なくとも1つが、位置の関数として温度及び/又は温度差を決定する為に構成されており、及び/又は、該第1の試料面、第2の試料面、第1の基準物質面、及び第2の基準物質面のうちの1以上のそれぞれにおける複数の位置に複数の温度センサを備えている、
前記装置。
【請求項13】
該試料容器の該第1の面と該第2の面とが、第1の次元において互いの反対側にあり、該試料容器が、第2の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、また可能性としては、第3の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、第1の次元における大きさを有する、請求項10~12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
該試料容器及び/又は該基準物質容器は、該第1及び第2の面を、該試料容器の概ね水平方向に反対の各側にある直立した面として定める、直立した試料容器を備えている、及び/又は、
該試料容器が、液体試料部分、例えば該試料の液化可能な画分、を保持する為に液密である、
請求項10~13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
該試料容器を収納する試料チャンバと、ガス組成及び/又はガス湿度、ガス温度、該試料容器の周りの及び/又は該試料容器の少なくとも一部を通るガス流のうちの少なくとも1つを制御する為の、該チャンバに接続されたガスシステム及び/又は真空システムとを備えている、請求項10~14のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物質の熱力学的性質の決定、例えば熱量測定(calorimetry)、特には示差走査熱量測定(differential scanning calorimetry)、より特には入力補償示差走査熱量測定(power compensated differential scanning calorimetry)、に関する。本開示は更に、特にはポリマーの、物質分析及び同定に関する。
【背景技術】
【0002】
示差走査熱量測定(「DSC」(differential scanning calorimetry))は、物質の熱容量、特には該物質の比熱容量及び比エンタルピー、を決定する為の、及び/又は物質特性、例えば、ガラス転移温度、融解、結晶化、硬化過程、純度、酸化挙動及び/又は熱的安定性、を決定する為の、分析技術である。DSCにおいて、温度変化を受ける試料に出入りする熱流が、基準物質との比較で測定される。
【0003】
一般に、DSC技術は、「熱流束DSC」(heat flux DSC)と「入力補償DSC」(power compensation DSC)(「入力平衡DSC」(power balanced DSC)と呼ばれることもある)とに分けて考えられうる。熱流束DSCは、加熱力の関数としての試料と基準物質との間の温度差の検出に関係する。逆に、入力補償DSCは、温度の関数としての試料と基準物質との間の加熱力からの熱効果の差の検出に関係する。入力補償DSCにおいて、該試料と該基準物質は、それぞれ独立した試料容器内で加熱され、各試料容器への該加熱力が、熱容量の差に起因する該試料と該基準物質との間の温度差を最小にするように制御及び調節される。典型的に、該試料は、該基準物質よりもゆっくりと加熱及び/又は冷却し、試料と基準物質両方の所望の温度経路を得る為に該試料への加熱/冷却力の対応する調節が必要とされ、この調節が、熱容量差の尺度となる。該基準物質は、関心対象の温度範囲にわたって実質的に不活性の物質でありうる。大きい温度範囲にまたがる実験において、該温度範囲の幾つかの異なる区間を調査する為に複数の基準物質が使用されうることに留意されたい。
【0004】
例えば、DSCの様々な観点が、E.S.Watson et al.,“A differential scanning calorimeter for quantitative differential thermal analysis”,Anal.Chem.36(7): 1233-1238 (1964); K.V.Kodre et al.,“Differential scanning calorimetry: a review”,Res.and Rev.: J.Pharma.Anal.3(3): 11 -22 (2014);及びJ.Drzezdzon et al.,“Characterisation of polymers based on differential scanning calorimetry based techniques”,Trends Anal.Chem.110:51-56 (2019)で論じられている。(入力補償)DSC及びDSCにおける試料への熱流の決定の観点が、米国特許第6428230号明細書、米国特許第6497509号明細書、米国特許出願公開第2007/0286769(A)号明細書、独国特許出願公開第102015217636(A1)号明細書、及び米国特許出願公開第2020/0124548号明細書に更に開示されている。
【0005】
既知の入力補償DSCの方法及び装置に伴う一般的な重要点は、該試料中の温度勾配を最小にする為に、及び/又は急速な温度変化の為に、試料の大きさを可能な限り小さく保つことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
物質の熱力学的性質、例えば相変化、のより正確な決定、及び/又は熱力学的性質の小さな差に基づく物質のより正確な同定に対する継続的な要望が存在する。加えて、現在のミリグラム又はマイクログラムの大きさと比較して、大きい試料、可能性としては大量試料、の正確な分析に対する要望が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述に鑑みて、本明細書において示差走査熱量測定の方法及び入力補償示差走査熱量測定の為の装置が提供される。
【0008】
該方法は、
試料及び基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、及び/又は、該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
を含む。
【0009】
該方法において、該試料は、第1の試料面において加熱及び/又は冷却され、該試料の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において決定され、並びに、
該基準物質は、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却され、該基準物質の該温度及び/又は該温度変化は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において決定される。
【0010】
よって、該方法は、
該試料を第1の試料面において加熱及び/又は冷却し、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において該試料の該温度及び/又は該温度変化を決定すること、並びに、
該基準物質を、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却し、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において、該基準物質の該温度及び/又は該温度変化を決定すること
を含む。
【0011】
該基準物質の加熱及び/又は冷却、並びにそれに関連する温度及び/又は温度変化の決定は、それぞれ独立して行われるか、該試料の該加熱及び/又は冷却と少なくとも部分的に同時に行われ得、この後者のオプションは、利用される装置内の起こりうる小さな逸脱を考慮すると好ましいものでありうる。
【0012】
該方法は入力補償DSCを含み得、該入力補償DSCは、該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差を最小にするように、該試料への該加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への該加熱力及び/又は冷却力を制御することを含む。これは特には、試料と基準物質の両方が所定の温度変化、特には同じ所定の温度変化、を受ける場合に行われ得、該所定の温度変化の少なくとも一部は、好ましくは時間に対して線形でありうる。該方法において、既知のDSC方法とは異なり、該試料の該温度及び/又は温度変化を、その該加熱及び/又は冷却と反対側において決定することにより、相対的に大きい試料が調査され得、熱的挙動の分解(例えば、エンタルピー変化の検出)が、大量試料についても高められうる。
【0013】
該方法において、該試料を加熱する為に、試料ヒータが、該試料と熱的に密に接触して、又は更には該試料と直接接触して、配置されうる。これは、ヒータからの熱が試料を加熱する為に温度センサを通過しなければならないように、該ヒータと該試料との間に該センサが配置される、又はTian-Calvet型の機構のように該試料の加熱が間接的である、今日のDSC機構と比べて改善を提供しうる。
【0014】
更に、該試料及び/又は基準物質をそれぞれ通る熱流が決定され得、これは、別個の、そして可能性としては相補的な測定を並行して可能にしうる。
【0015】
該方法は、一般にスケールフリーであり、大きい試料の1以上の熱力学的性質の決定を可能にしうる。該方法において、既知の加熱勾配に関する補償が達成されうる。
【0016】
加えて又は代替的には、該方法は、熱流DSCという、新しい形態の示差走査熱量測定を可能にする。そのような熱流DSCにおいて、通常の入力補償DSCと異なり、該試料への(及び/又は基準物質それぞれへの)加熱力及び/又は冷却力は、絶対的な温度差の関数及び/又は温度変化(若しくは温度変化率)の差の関数としてではなく、該試料を通る(及び/又は該基準物質を通る)熱流束の関数として制御される。
【0017】
熱力学的性質、特には(比)熱容量、は物質に固有である傾向がある為、決定された該熱力学的性質を基準値と比較することは、試料物質及び/又は該試料物質の組成の同定を可能にしうる。例えば、ポリエチレンとポリプロピレン及び/又は他のポリマー(の性質)との差が、容易に検出可能となりうる。
【0018】
該方法は、該第1の試料面において該試料の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、及び/又は、該第1の基準物質面において該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定することを含みうる。
【0019】
これは、該試料にわたる検出された温度及び/又は温度変化の平均化を可能にするので、該試料の該温度及び/又は温度変化の決定を向上させうる。これは、該基準物質についても同様に当てはまる。試料と基準物質の両方へのそのような改良された決定は、全体として該方法に追加的な利益をもたらす。
【0020】
更に、これは、該温度及び/又は該温度変化を該第1の試料面と該第2の試料面とで比較することにより、該試料を通る熱流の決定の精度を向上させる。これは、該基準物質についても同様に当てはまる。試料と基準物質の両方についてのそのような向上された精度は、該方法、特には熱流DSC、に追加的な利益をもたらす。
【0021】
上記で述べられたように、場合によっては、該第1の試料面には温度センサを省略することが好ましいことがありうるが、これは、温度及び/又は温度変化が該試料の両側で決定される場合の該方法の精度及び/又は柔軟性の増大の方が重要であると考えられる。これは、該基準物質についても同様に当てはまる。
【0022】
更に、可能性としては本明細書に開示されている任意の方法との組み合わせで、示差走査熱量測定の方法が提供され、該方法は、
試料及び基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、及び/又は、該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
の工程を含み、
ここで、該試料は、第1の試料面において加熱及び/又は冷却され、該基準物質は、第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却される。
【0023】
この方法は、該第1の試料面の複数の位置における該試料の、及び/又は該第1の基準物質面の複数の位置における該基準物質の、温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定することを含みうる。加えて又は代替的には、該方法は、それぞれの第2の面(すなわち、第2の試料面及び/又は第2の基準物質面それぞれ)の複数の位置における該試料及び/又は該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定することを含みうる。
【0024】
例えば、該試料温度及び/又は基準物質温度は、温度検出器を使用して決定され得、該温度検出器は、位置の関数として温度及び/又は温度差を決定する為に構成された1つのセンサ、及び/又は、規則的な若しくは不規則的なアレイとして配置されうる複数のセンサを備えており、これは、該複数の位置における同時の検出を可能にし、時間的な差異を防止しうる。加えて又は代替的には、複数の位置における位置の関数として温度及び/又は温度変化を並行して決定する為のセンサとして、熱カメラが用いられうる。好適な熱カメラは、赤外線に反応するものであってもよく、また可能性としては可視波長及び/又は紫外線波長にも反応しうる。
【0025】
これは、該試料及び/又は基準物質の少なくとも一部にわたる、該温度及び/又は温度変化の平均化を容易にする。これは、局所的な変動が測定に影響するのを防止することにより、精度を向上させうる。例えば、それは、熱の放射、対流、又は伝導のうちの1以上の不均一な発生を考慮に入れることを単純化しうる。
【0026】
しかしながら、加えて又は代替的には、これは、1以上の位置固有の決定を容易にする。そのような空間的に分解される決定は、例えば、ヒータとの熱的接続の差の場合に、該方法が行われる為に用いられる該装置内の差及び/又は変化のうちの1以上に関する情報を提供しうる。加えて又は代替的には、そのような空間的に分解される決定は、試料の性質及び/又は挙動の局所的な差、例えば局所的な熱流差、に関する情報を提供しうる。そのような差は、試料の組成及び/又は均一性の差を示し得、これらは、該試料中の不純物及び/又は密度むらの信号でありうる。
【0027】
本明細書における任意の方法において、該試料は、第2の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、また可能性としては、第3の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、第1の次元における大きさを有しうる。
【0028】
そして、該試料の該第1の面と該第2の面とは、第1の次元において互いの反対側にありうる。同じことが、該基準物質について当てはまりうる。好ましくは該試料及び基準物質は、少なくとも該第1の次元において、好ましくは該第2の次元及び第3の次元の一方又は両方においても、同じ形状及び/又は同じ大きさを有する。
【0029】
よって、該試料は、細長く、及び/又は好ましくは板状でありうる。該試料をそのような形状で設け、該第1の次元において該決定を提供することにより、分析の少なくとも一部の提供が、該第2及び第3の次元において概してスケールフリーとなり得、特には、該第2及び/又は第3の次元における温度勾配が存在しないか又は少なくとも該第1の次元よりも有意に小さい場合に、そうである。
【0030】
少なくとも該第1の次元における該大きさは、熱的な物質性質、加熱率、調査される該試料の必要とされる感度、のうちの1以上の関数として決定されうる。
【0031】
少なくとも該第1の次元において、該試料の該大きさ及び/又は形状は一定であってもよく、及び/又は該第1の面と第2の面とは互いと平行でありうる。1以上の次元における一定した大きさ及び/又は形状は、大きさの変化の影響及び/又はアーチファクトを防止しうる。例えば、これは、空間的に分解される測定において複数の位置での検出結果の比較を容易にしうる。
【0032】
異なる試料、特には異なる材料及び/又は異なる組成の試料、については、試料容器が交換されうることに留意されたい。加えて又は代替的には、異なる基準物質も使用され得、その選択は、1以上の(予想される)試料性質に依存しうる。
【0033】
本明細書における任意の方法において、該試料の少なくとも一部が、直立した試料容器に入れられ得、該第1の試料面及び該第2の試料面は、該試料容器の水平方向反対側の各面によって定められる。加えて又は代替的には、該試料の少なくとも一部が、液体試料部分を保持する為に液密である試料容器に受けられうる。同様に、該基準物質の少なくとも一部が、直立した基準物質容器に入れられ得、該基準物質容器は、液体基準物質部分を保持する為に液密であってもよく、該第1の基準物質面及び該第2の基準物質面は、該基準物質容器の水平方向反対側の各面によって定められうる。
【0034】
該試料の少なくとも一部は、例えば、1以上の塊、破片、フレーク等の形態の、及び/又は微粒子粉を包含しうる粒状形態の、1以上の物体として提供されうる。
【0035】
本明細書における任意の方法は、該試料の少なくとも一部を融解させ、水平方向に、及び/又は、融解した該試料物質の液位に対して平行な方向、例えば液体メニスカスの平均位置に対して平行な方向に、該試料を通る熱流を決定することを含みうる。
【0036】
そのようにして、試料表面及びガス障壁の妨害なしに、該試料及び試料容器を通る該熱流が決定されうる。該試料は、特には該試料が、粒状、少なくとも部分的に液体状、及び/又は液化されている、のうちの1以上である場合、該試料容器の形状を取りうる。
【0037】
特には、1以上の物体として提供される、例えばフレーク及び/又は粒状形態である、試料の場合、該方法は、可能性としては少なくとも部分的には該試料の加熱及び/又は冷却の間に、ガス、特には不活性ガス、を、該試料の少なくとも一部の上に及び/又はそれを通して流すことを含みうる。
【0038】
これは、該試料物質から解離した状態になりうる、及び/又は蒸発しうる物質の除去を可能にする。加えて又は代替的には、該ガスの組成の適切な選択及び/又はそれに対する制御により、該試料物質の化学反応、例えば酸化、が引き起こされるか、又はむしろ防止されうる。
【0039】
本明細書における任意の方法は、該試料及び/又は該基準物質の所定の加熱率及び/又は冷却率を与えるように、該加熱力及び/又は冷却力を制御することを含みうる。
【0040】
本明細書における任意の方法は、該試料及び/又は該基準物質に所定の加熱率変調を与えるように、該試料への該加熱力及び/又は冷却力、及び/又は該基準物質への該加熱力及び/又は冷却力に対する変調を提供することを含み得、これは、結果として温度変調及び/又は温度変化変調(変動する温度変化率)を生じさせうる。該変調、例えば加熱率変調、は周期的であってもよく、例えば該加熱率変調は、次の形態を取る。
【0041】
【数1】
【0042】
該方法は、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質のヒステリシス、該試料中の相変化、該試料中の化学反応、及び該試料中の不可逆的変化、のうちの1以上を検出することを含みうる。そのような検出は、試料温度、試料温度変化、及び該試料を通る熱流のうちの少なくとも1つにおける、1以上の可逆信号成分と1以上の不可逆信号成分との間の差に基づきうる。該検出は、該加熱率変調のロックイン検出及び温度検出(1以上の温度センサの)を含み得、及び/又は、それは、該加熱率変調、該試料及び/又は該基準物質への該加熱力及び/又は冷却力、該試料温度、試料温度変化、及び該試料を通る熱流、該基準物質温度、基準物質温度変化、及び該基準物質を通る熱流、のうちの少なくとも1つにフーリエ変換を行うことを含みうる。
【0043】
該方法の任意の実施態様と関連して、入力補償示差走査熱量測定の為の装置が本明細書において提供される。
【0044】
特には、該装置は、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、及び/又は、該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御する為に構成されたコントローラと
を備えている。
【0045】
該装置において、該試料ヒータは、該試料を第1の試料面において加熱及び/又は冷却する為に構成されており、該試料温度検出器は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面において該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為に構成されており、
該基準物質ヒータは、該基準物質を第1の基準物質面において加熱及び/又は冷却する為に構成されており、該基準物質温度検出器は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面において該基準物質の該温度及び/又は温度変化を決定する為に構成されている。
【0046】
例えば、該試料ヒータは、第1の試料面に配置され、該試料温度検出器は、該第1の試料面と反対側の第2の試料面に配置され、該基準物質ヒータは、第1の基準物質面に配置され、該基準物質温度検出器は、該第1の基準物質面と反対側の第2の基準物質面に配置され、
該第1の試料面において該試料を、及び該第1の基準物質面において該基準物質を、加熱及び/又は冷却し、
該第2の試料面において該試料の該温度及び/又は該温度変化を決定し、該第2の基準物質面において該基準物質の該温度及び/又は該温度変化を決定する。
【0047】
そのような装置は、本明細書に記載されている該方法を実施することを容易にし、またそれは向上した精度で入力補償DSCを提供しうる。
【0048】
該ヒータコントローラは、該試料ヒータ及び/又は該基準物質ヒータに、又は試料ヒータコントローラ及び/又は基準物質ヒータコントローラに、接続されうる。加えて又は代替的には、該ヒータコントローラは、該試料温度検出器及び/又は該基準物質温度検出器に接続されうる。よって、該装置の動作との該コントローラの直接の相互作用が容易にされうる。
【0049】
該試料容器は、該第1の面及び/又は第2の面に、相対的に高い熱伝導率の壁、例えば金属の壁、を備えていてもよい。1以上の他の面に、該試料容器は、例えばポリマー材料、例えば、k=0.2未満、好ましくは0.1未満、より好ましくは0.05未満、の熱伝導度を有する、及び/又は該試料物質の予想される熱伝導度の50%未満、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、例えば、該試料物質の予想される熱伝導度の10%未満、若しくは更には5%未満、である熱伝導率を有する材料、からなる1以上の断熱壁を備えていてもよい。熱伝導度が低いほど、該試料容器を取り囲む空間からの該試料物質の断熱が良好になり、それ故に、測定がより高精度になりうる。何故ならば、該ヒータから該試料に入る熱が、そのような面において該試料から流れ出ることができず、それ故に、該熱流が該第1の面から該第2の面へとより良好に誘導されるからである。
【0050】
該装置は、該試料容器を該ヒータによって接触加熱する為に構成されうる。例えば該ヒータは、該ヒータと該試料容器との間に気体層を伴わずに該試料容器と接触している。同じことが、該基準物質の(接触)加熱についても当てはまりうる。
【0051】
該試料ヒータ及び/又は該試料温度検出器は、該試料容器に接続されているか又はその一部でありうる。例えば、該試料ヒータは、該試料容器の側壁を画定する、及び/又は提供しうる。同様に、該基準物質ヒータ及び/又は該基準物質温度検出器は、該基準物質容器に接続されているか又はその一部でありうる。
【0052】
該装置は、該第1の試料面に配置された、該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の更なる試料温度検出器、及び/又は、該第1の基準物質面に配置された、該基準物質の温度及び/又は温度変化のうちの少なくとも一方を決定する為の更なる基準物質温度検出器を備えていてもよい。そのような装置は、該試料及び/又は該基準物質にわたる熱勾配の決定を可能にする。これは、該試料及び/又は基準物質を通る熱流の決定を容易にする。
【0053】
更に、本明細書において入力補償示差走査熱量測定の為の装置が提供され、該装置は、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、及び/又は、該試料と該基準物質との間の該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御する為に構成されたコントローラと、を備え得、
該試料温度検出器、更なる試料温度検出器、基準物質温度検出器、及び更なる基準物質温度検出器のうちの少なくとも1つは、位置の関数として温度及び/又は温度差を決定する為に構成された1つのセンサ、及び/又は、該第1の試料面、第2の試料面、第1の基準物質面、及び第2の基準物質面のうちの1以上のそれぞれにおける複数の位置にある複数の温度センサを備えていてもよい。該複数の温度センサのうちの1以上は、位置の関数として温度及び/又は温度差を決定する為に構成されたセンサであってもよく又はそれを備えていてもよい。
【0054】
該検出器は、光学検出器、例えば該試料容器及び/又は基準物質の少なくとも一部がイメージングされうる熱カメラ、を備えていてもよい。例えば分散ブラッグ反射器を備えている、光ファイバー検出器も、位置に反応する検出を可能にしうる。
【0055】
複数のセンサを備えているそのような検出器を備えた装置が、例えば信号強化及び/又は平均化の目的で、該複数のセンサのうちの少なくとも幾つかのセンサの1以上の信号が共に検出可能となるように構成されうる。加えて又は代替的には、そのような装置は、例えば位置に固有の及び/又は空間的に分解された決定の為に、該複数のセンサのうちの少なくとも幾つかのセンサの1以上の信号が個々に、及び/又はそれぞれの複数の温度センサのサブグループとして、検出可能となるように構成されうる。
【0056】
該検出器及び/又は該コントローラのうちの少なくとも1つは、それぞれのセンサの集合的な検出、個々の検出、及び/又はサブグループに基づく検出の中から選択を可能にしうる。
【0057】
熱電対、サーミスタ、サーモパイル、ボロメータ、光ファイバー検出器は、単独で又は任意の好適な組み合わせで、好適なセンサを形成しうる。
【0058】
該装置において、該試料容器の該第1の面と第2の面とは、第1の次元において互いの反対側にあってもよく、該試料容器は、第2の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、また可能性としては、第3の次元におけるよりも少なくとも1桁小さい、好ましくは複数桁小さい、第1の次元における大きさを有しうる。
【0059】
同じことが、必要な変更を加えて、該基準物質及び/又は該基準物質容器に当てはまりうる。
【0060】
該試料容器及び/又は該基準物質容器は、該第1及び第2の面を、該試料容器の概ね水平方向に反対の各側にある直立した面として定める、直立した試料容器を備えていてもよい。加えて又は代替的には、該試料容器は、液体試料部分、例えば該試料の液化可能な画分、を保持する為に液密でありうる。
【0061】
該試料の少なくとも一部は、例えば微粒子粉形態を包含する粒状形態の、1以上の物体として提供されうる。そして、決定、例えば熱流の決定、は、水平方向に、及び/又は、該粒状の試料物質の充填高さに対して平行な方向に、行われうる。
【0062】
該装置は、試料オーブン及び基準物質オーブンを備え得、該試料オーブンは該試料容器、該試料ヒータ及び1以上の該試料温度検出器を含み、該基準物質オーブンは、該基準物質及び/又は該基準物質容器、該基準物質ヒータ、並びに1以上の該基準物質温度検出器を含む。
【0063】
該試料オーブンと基準物質オーブンとは、好ましくは互いから断熱されているべきであり、より好ましくは互いから実質的に熱的に独立しており、それにより、該試料及び該基準物質のうち一方の加熱及び/又は冷却が、該試料及び該基準物質のうち他方の加熱及び/又は冷却に影響しないか、又は少なくとも実質的に影響しない(すなわち、本明細書で論じられる該方法で予見されるように、該他方の該温度及び/又は温度変化に基づく、該一方の制御された加熱及び/又は冷却(の効果)以外は)。該DSCの為の該制御された加熱及び/又は冷却を介する以外の該オーブン同士の熱的相互作用は、検出の精度を劣化させ得、それ故に低減される又は防止されるべきである。幾つかの場合において、該オーブン同士を物理的に分離することが好ましいことがありうるが、両オーブンを単一の筐体内の別々の区画として組み合わせるのが実際的でありうる。
【0064】
該装置は、該試料容器を収納する試料チャンバと、少なくとも1つのガス性質、例えば、ガス圧、ガス組成及び/又はガス湿度、ガス温度、並びに該試料容器の周りの及び/又は該試料容器の少なくとも一部を通るガス流、を制御する為の、該チャンバに接続されたガスシステム及び/又は真空システムと、を備えていてもよい。該試料チャンバは、該試料オーブンでありうる。
【0065】
同様に、該装置は、該基準物質容器を収納する基準物質チャンバと、ガス組成及び/又はガス湿度、ガス温度、該基準物質容器の周りの及び/又は該基準物質容器の少なくとも一部を通るガス流のうちの少なくとも1つを制御する為の、該チャンバに接続されたガスシステム及び/又は真空システムと、を備えていてもよい。該基準物質チャンバは、該基準物質オーブンでありうる。
【0066】
それぞれ該試料チャンバ及び/又は該基準物質チャンバにおいて、該ガスシステムは、例えば、ガス流量及び/又は別のガス性質に対するあるガス性質の変化率に関して、該それぞれのチャンバの一方又は両方の中のガスを制御するように構成されうる(例えば、ガス組成及び/又はガス湿度及び/又はガス温度を変化させる)。
【0067】
上記で説明された観点は、幾つかの実施態様を例として示す図面を参照しながら、更なる詳細及び利益と併せて以下で更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1図1は、板状の試料を示す。
図2図2は、本発明の原理に従う入力補償示差走査熱量測定の為の装置の一部を示す。
図3図3は、複数のセンサを備えた検出器の一部を示す。
図4図4は、ヒータを備えた実施態様の詳細を示す。
図5図5は、装置の例示的実施態様の幾つかの要素及びそれらの間の関係をいくらか詳細に概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
図面は概略的なものであり、必ずしも実際の縮尺ではないこと、及び本発明を理解する為に必要とされない細部は省略されている場合もありうることが留意される。語「上方に」、「下方に」、「~の下に」、「~の上に」等は、特に断らない限り、図面中で方向付けされている実施態様に関係する。更に、少なくとも実質的に同一である又は少なくとも実質的に同一の機能を行う要素は、同じ数字によって表され、有用な場合はアルファベットの添え字で個別化される。
【0070】
更に、特に断らない限り、「着脱可能な」及び「取り外し可能に連結される」のような語は、それぞれの部分が基本的にはどちらの部分の損傷又は破壊をも伴わずに切り離されうることを意味することが意図され、例えば、該部分が一体である(例えば、1つの部片として溶接又は成型されている)構造は除外し、各部分が嵌合コネクタ、締結具、解除可能な自動締結機能、等によって取り付けられる又はそのようなものとして取り付けられる構造を包含する。
【0071】
図1は、第1の次元Zに大きさLの厚みを有し、第2及び第3の次元X、Yにそれぞれ大きさL及びLの長さ及び幅を有する板状の試料1を示す(図中の参照座標系も参照されたい)。該試料1の該厚みは、該幅及び高さよりもそれぞれ数桁小さい。好適な試料厚みLは、1~25mmの範囲、特には2~20mmの範囲、より特には3~15mmの範囲、好ましくは4~10mm、例えば5~7mmの範囲、でありうる。例えば2~5mmの範囲の厚みを有する薄い試料は、局所的な精度を向上させうるが、試料の大きさを平均化するというコストが伴う。また、介在物、密度むら、及び/又は不純物は、約4~6mmの厚みを有する試料中で最も良く検出可能でありうるのに対し、厚い試料は、大量分析を可能にしうる。横の大きさ(X、Y次元)は、(望ましくない)不均一な加熱及び/又は縁効果が無視されることができるように、及び/又は熱流が少なくとも主として該第1の次元にあるように、好ましくは該大きさが熱流の方向よりも十分に大きい限り、随意に選択されうる。
【0072】
使用時、該試料1は、第1の試料面Sにおいて加熱及び/又は冷却される。該試料1の温度T及び温度Tが、該第1の試料面Sと、該第1の試料面Sと反対側の第2の試料面Sとでそれぞれ決定されうる。
【0073】
試料に対する有限の継続時間のDSC測定の為には、該試料(より厳密には、試料及び該試料を保持している試料容器)中の熱勾配を最小にすることが望ましい。次によって与えられる体積の非圧縮性を考え、
【0074】
【数2】
ここで、Liは、特定の方向における長さであり(i=1,2,3、図中ではそれぞれZ、X、及びYに対応しうる)、Vは、一定である体積であり、λは、それぞれの方向への伸縮率であり、そして次によって拡散方程式を近似し、
【0075】
【数3】
ここで、τは、拡散の時間尺度であり、Lは検討される方向における長さであり、Dは拡散係数であり、これは一般に試料物質の性質に依存する。すると、本明細書において提供される概念は、該試料及び試料容器の円筒形の設計に依拠する一般に既知の方法及び装置、例えばTian-Calvet示差走査熱量計、と比べて、検出感度を犠牲にすることなく、τの低減及び/又は該試料の大きさの増大を可能にする。
【0076】
どの特定の理論にも束縛されることは望まないが、単純化された形態では、本明細書において提示される概念において、該第1の面Sにおける該試料1の均一な加熱を仮定し、非平衡効果を無視すると、支配方程式は、
【0077】
【数4】
及び、
【0078】
【数5】
であると考えられ、ここで、Qは熱であり、
【0079】
【数6】
は、熱の時間導関数であり、kは、該試料物質の熱伝導率であり、Aは、該第1の面Sの表面積であり、ΔTは、温度差であり、mは該試料の質量であり、cは、一定の圧力における該試料の比熱容量であり、Hは該試料のエンタルピーであり、Cは、一定の圧力における該試料の熱容量であり、∂は、時間に対する偏導関数を表し、f(T,t)は、該試料物質中の相変化を表す。
【0080】
該試料を通る既知で一定の熱流を誘発することにより、物質の熱容量c及び該物質の相変化f(T,t)の影響が決定されることができる。よって、式3より、以下が導出されることができ、
【0081】
【数7】
【0082】
この結果、
【0083】
【数8】
となり、ここで、Δtは時間差であり、ρは密度である。
【0084】
上記を時間に依存する挙動に拡張すると次が得られる。
【0085】
【数9】
【0086】
そして、流れ込む熱は該試料の質量によって吸収されるので、
【0087】
【数10】
であることになり、これは、互い及び関連する熱力学的な物質性質の依存関係として、加熱率(∂T)、感度(ΔT)、及び試料チャンバ厚み(L;図1ではL)の制約を与える。ここで、これと上記の式4とを使用して次を得る。
【0088】
【数11】
【0089】
これは、熱容量c、相転移反応f(T,t)、及び先に与えられた各パラメータの関数として、温度刻み当たりのエンタルピー∂Hを与える。
【0090】
本概念は、本質的に、指定される体積Vにスケールフリーで依存することに留意されたい。よって、高体積DSC又は非常に繊細なナノDSCが両方とも本概念の中で実現されることができる。更に、試料のΔT、ρ、k及びLがより良く知られるほど、相変化反応f(T,t)が良好に決定されうる。
【0091】
該試料に関する先行する説明はまた、図1に従う基準物質に等しく当てはまる。
【0092】
図2は、入力補償示差走査熱量測定の為の装置10の一部を示す。該装置は、熱的に隔離されたオーブンの形態の試料チャンバ11を備えている。該装置10は、基準物質R(ごく大まかに示されている)を収容している基準物質チャンバ12を備え得、該基準物質チャンバは、該試料チャンバ11と実質的に同一であってもよく、そのような場合、以下の単語「試料」は、「基準物質」に置き換えられる又は置き換え可能であると理解されうる。加えて又は代替的には、該試料チャンバ11と実質的に同一でありうる、1以上の更なる試料チャンバ及び/又は基準物質チャンバが該装置10に備えられうることに留意されたい。該チャンバ同士が似ているほど、そのようなチャンバでの測定がより容易及び/又は良好に比較可能になり得、結果がより正確になりうる。
【0093】
図示される該試料チャンバ11は、試料1を保持する為の試料容器13と、試料ヒータ15と、該試料1の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器17とを備えている。該試料温度検出器17は、ヒータコントローラ21に各々接続されている、複数の温度センサ19を備えている。
【0094】
該温度センサ19は、例えば、熱電対、温度依存抵抗、及び赤外線カメラ、のうちの1以上を備えていてもよい。一部の測定には、特定の温度の決定が必要とされるか又は望まれることがあってもよく、他の測定には、温度変化の決定が十分でありうる。
【0095】
隣接するセンサ19間の空間は、空いたままにされ得、又は、図示されるように、断熱材料の断熱体を備えていてもよい取り付けフレーム23が設けられうる。該取り付けフレーム23は、該センサ19を支持する、及び/又は該センサの位置を定めうる。加えて又は代替的には、該取り付けフレーム23(の該断熱体)が、該試料チャンバ11の少なくとも一部に沿ったガス乱流及び/又はガス流に起因する熱的差、及び/又は該試料チャンバ11からの放射損失を低減又は防止しうる。
【0096】
図3は、該検出器17内で、該センサ19は、好ましくは該フレーム23の中に規則的なアレイとして配置されることを示している。
【0097】
該試料容器13は、図示されるように直立して配置され、該第1及び第2の面S、Sを、該試料容器13の概ね水平方向に反対の各側にある直立した面として定めうる。好ましくは、該試料容器13は、液体試料部分、例えば該試料の液化可能な画分、を保持する為に液密である。
【0098】
該試料ヒータ15は、該第1の試料面Sにおいて該試料1を加熱及び/又は冷却する為に構成されており、該試料温度検出器17は、該第1の試料面Sと反対側の該第2の試料面Sにおいて該試料1の温度及び/又は温度変化を決定する為に構成される。
【0099】
該試料ヒータ15は、加熱素子、冷却素子、又は加熱素子と冷却素子の両方を備え得、それらは一体化され得、それらはいずれも、電流ループ、誘導ヒータ等のような電気ヒータ、高温の及び/又は低温のガス及び/又は液体を流す為の導管、ペルチェ素子のような熱電素子等を備えていてもよい。下記も参照されたい。赤外線放射体及び/又はマイクロ波放射体のような1以上の放射線加熱素子も使用されうる。加熱素子と冷却素子の組み合わせは、特には異なる大きさスケール及び/又は加熱/冷却力スケールの場合に、該ヒータによって確立される温度及び/又は該試料1に伝達される熱に対する制御を単純化する及び/又は増大させて、例えば、加熱される試料表面にわたって均一な温度分布(図1図2のX及びY方向における)を達成する。
【0100】
該装置10は、該試料の重さを決定する為のはかりのような重量センサを備えていてもよい。該重量センサは、該試料及び/又は該基準物質の少なくとも一部の重量変化が、可能性としては該試料及び/又は該基準物質の少なくとも一部の温度及び/又は温度変化との関係で、決定されうるように、該試料チャンバ及び/又は試料容器の中に含められ得、及び/又は、反復的な決定の為に構成されうる。そのような装置は、特には熱重量分析(TGA:Thermo-Gravimetric Analysis)の為に(も)使用されうる。
【0101】
図4は、ヒータ15を備えた実施態様の詳細を示し、該ヒータ15は、オプションとして、ヒータ表面S15を均等に加熱する為の第1のヒータ15Aと、該試料又は他の加熱される物体を追加的に局所的に加熱する又は冷却する為の複数の第2のヒータ15Bと、の組み合わせを備えている。例えば、該試料ヒータ15は、該第1のヒータ15Aを形成する第1の層25と、該第2のヒータ15Bを構成する、該第1の層の上の第2の層27とを有する層状の構造を備え得、これらの層は、同じ大きさを有することも有さないこともありうる。該第1の層25は、該加熱表面(X及びY方向)にわたって温度及び/又は加熱を均一にする為の異なる熱伝導率を有する複数の材料の積層、例えば、相対的に高い熱伝導率を有する金属層と、相対的に低い熱伝導率を有する金属及び/又は非金属の層との並び、を備えていてもよい。該第2の層27は、複数の別個のヒータ15B、例えば熱電ヒータ、例えばペルチェ素子、を備え得、そのうちの1以上は、個々に及び/又はグループとして制御され得、これは、制御された加熱及び/又は加熱の変化を提供するのを容易にする又は単純化し得、それは、該試料の局所的性質、例えば該試料中の1以上の他の位置に対する密度及び/又は組成の局所的なむら、に関連しうる。
【0102】
任意的に、該局所ヒータ15B間の急激でありうる温度勾配を防止する為に、第2のヒータ15B同士の間の空間に、相対的に高い熱導電性を有する材料が充填され得、及び/又は、任意的に、相対的に高い熱導電性を有する更なる層29が設けられうる。第3の層のそのような機能は、該試料容器13の壁部分W、Wの一部によって提供されうることに留意されたい。
【0103】
局所的に加熱が制御可能なヒータ15、例えば図3の該ヒータ15、を有する装置10において、温度検出器17の該温度センサ19のうちの少なくとも幾つかの配置は、局所的に制御可能な加熱位置のうちの少なくとも幾つかの配置に一致し得、例えば、センサ位置が該第2のヒータ15Bと合わせられる。加えて又は代替的には、該温度検出器17の温度センサ31はむしろ、該第2のヒータ15B同士の間の各位置と合わせられ得、及び/又は、追加的な温度検出器34の他の温度センサ33が、該第2のヒータ15B同士の間に直に置かれうる。互いのちょうど反対側にある温度センサ31、33は、熱流に対する感度を増大し得、少なくとも幾つかの温度センサ33を該第2のヒータ15Bの間に配置することは、該ヒータ15から該試料1への該センサ33を通る熱流を必要とすることなく、ヒータ側における温度検出を提供しうる。
【0104】
図2を再度参照すると、該装置10は、該試料ヒータ15と該試料温度検出器17とに接続されたコントローラ35を備えている。該コントローラ35はまた、該基準物質チャンバ12(の該ヒータ及び温度検出器)にも接続されている。該コントローラ35は、該試料1と該基準物質Rとの間の温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料1への加熱力及び/又は冷却力を制御し、また該基準物質Rへの加熱力及び/又は冷却力を制御する為に構成されている。該コントローラ35は専用の装置でありうるが、該コントローラの少なくとも一部は、本明細書に開示される方法の工程を実行する、及び/又は、本明細書に開示される数式を使用して計算を行うように適合されたコンピュータでありうる。
【0105】
更に、該装置10は、該チャンバに接続された任意的なガスハンドリングシステム37を備えており、これは、ガス組成及び/又はガス湿度、ガス温度、並びに該試料容器13の少なくとも一部の周りで該チャンバ11を通る、及びそれに加えて又は代替的には該試料容器13及びその中の試料物質を通るガス流、のうちの少なくとも1つを制御する為のものである。典型的に、該ガスは、空気、又は好ましくは窒素及び/又は別の不活性ガス若しくはガス混合物である。
【0106】
該チャンバは、該試料容器及び試料の真空断熱を得る為に任意的な真空システムによって排気され得、図2において、該真空システムは、更なるオプションとして、該ガスハンドリングシステム37に一体化されている。該ガスハンドリングシステム37は、1以上のガス供給源(例えば、タンク)、ガス脱水及び/又は加湿システム、ガス混合システム、圧力調整等(図示せず)を備えていてもよい。該ガスハンドリングシステムはまた、1以上の熱交換器及び/又は1以上の渦管を備えていてもよい、1以上のガスヒータ及び/又はガスクーラを備えていてもよい。オプションとして、該ガスハンドリングシステム37は、ガスハンドリング及び/又は該ガスの温度を制御する為に該コントローラ35及び/又は該コントローラ21に接続される。
【0107】
該ガスハンドリングシステム37及び該チャンバの少なくとも一部は、該ガスが該装置に追加されないように及び/又は該ガスが該装置から失われないように及び/又は該ガスが測定の間に追加されないように閉じられてもよく、そうでなければ、それは、該システムに対して変更を生じ、そして、測定精度に影響を与えうる。また、試料からの一部の揮発性物質が、適切な処置を行わないと作業者及び/又は環境に対して有害でありうる。
【0108】
図5は、装置100の例示的実施態様の幾つかの要素及びそれらの間の関係をいくらか詳細に概略的に示す。該装置100は、2つの実質的に同一で、同一に動作するチャンバ110、112を備えており、1つは検査試料用であり、及びもう1つは基準試料用である。
【0109】
各チャンバ110、112に対応付けて、該装置は、加熱素子を有するヒータを備えており、ヒータコントローラ内の制御システム電子機器と接続された加熱・冷却システム115、116を備えている。該ヒータは、加熱力を提供する為の電源140に接続されている。加熱・冷却システム115、116には、オプションとして、共通の冷却システム142が設けられている。該冷却システムは、該ヒータに空気流を提供してもよい及び/又は渦冷却を備えていてもよい圧縮空気冷却システムであってもよく又はそれを備えていてもよい。ガスの渦冷却が、該装置の少なくとも一部の加熱の為に使用されうる高温のガス流をも提供しうることに留意されたい。
【0110】
各チャンバ110、112に対応付けて、該装置は、試料容器113、114を備えており、これは好ましくは、該ヒータ及び温度検出器に関連する各反対側の側壁に金属メッキを備えており、該試料容器の他の面を画定する壁には断熱材料を備えている、
【0111】
任意的なガス洗浄システム144(オプションとして該加熱システム及び/又は該冷却システムに接続される及び/又は一体化されうる)が設けられ、これを用いて、該チャンバ110、112及び/又は試料容器113、114並びにその中に収容された試料(又は基準試料)を通る窒素流が提供されうる。
【0112】
任意的な真空ポンプシステム146が、一方又は両方のチャンバ110、112を少なくとも部分的に排気する為に設けられる。真空は、時間及び/又はポンプ能力を与えられて、10kPa未満、好ましくは5kPa未満、より好ましくは1kPa未満、又は500Pa未満、若しくはそれより更に低い圧力のように更に低い、圧力に達しうる。真空レベルは、可能性としては、該試料及び/又は試料チャンバ内容物からの不純物及び/又は混入物を煮沸で取り除くことを包含する、ガス及び/又は揮発性物質の除去の為に、及び/又は、周囲の壁及び/又は他の物体からの該試料の断熱を提供する為に、決定されうる。
【0113】
該試料及び基準物質の温度検出の為に、各チャンバ110、112には、フレームとして形成されうる取り付け具に取り付けられた、複数の温度センサのセンサアレイ117、118が設けられている。該センサは、データ記録及び/又はデータのワイヤレス伝送の為に構成され得、及び/又は、それらは、1以上の信号導体、例えば回路板に実装された導体及び/又は、耐熱性であり、熱効果、例えば断熱材料のガス抜け、を防止すべきケーブル、に接続され得、例えば電気絶縁が、相対的に不活性の物質、例えば導体の周りのガラス及び/又はセラミックビーズ、によって提供されうる。
【0114】
更に、読み出し電子機器119、120が該温度センサと接続されて設けられる。該読み出し電子機器119、120は、可能性としては他の電子コンポーネントを支持するプリント回路基板(「PCB」)に接続された、データ獲得(「DAQ:data acquisition」)コンポーネントを備えている。該センサアレイ119のうちの1以上のセンサは、アナログ信号を提供するように構成されており、例えばサーミスタ及び/又は熱電対、であってもよく、それはノイズを防止し得、及び/又はそれは該センサへのエネルギー供給源を不要にしうる。データ獲得の為に、1以上のアナログ-デジタル変換器が使用されうる。また、他のセンサ、例えば、該試料ホルダー及び/又は試料と直接(熱的及び/又は物理的に)接触することなく該チャンバ内に配置された1以上の温度及び/又は温度変化センサ、例えば(赤外線及び/又は可視放射線)カメラ、ガス圧検出器、ガス組成検出器、も設けられうることに留意されたい。
【0115】
動作中、該ヒータからの熱は、該試料チャンバ、特にはその中に収容されている該試料容器及び試料、に流入する。試料の温度を示すデータは、該温度センサを使用して測定される。該測定されたデータは、データ信号として該読み出し電子機器に送信され、該読み出し電子機器は、該データを温度データに変換し、このデータ(変換されているものでもそうでなくても)は、次いで、該データの(更なる)変換及び/又は該データを用いた計算及び/又は制御の為に、該装置のコントローラとして機能する、コンピュータ及び/又はマイクロコントローラ148(及び/又は任意の他の好適なコントローラ)に送信される。該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラは、該ヒータにも接続されており、該ヒータへ/から、制御データ及び/又は動作データを送信及び/又は受信する。該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラで受信される及び/又はそれらから送信される、該データ及び/又は他のデータ、例えば、該装置の動作及び/又は温度プログラムの状態を示すデータ、の少なくとも一部は、任意的なディスプレイ150に表示されうる。
【0116】
同様に、同じ配置及び動作に起因して、該第2のチャンバからのデータ信号、温度データ、制御データ及び/又は動作データの少なくとも一部は、該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラ148で受信される及び/又はそれらから送信され、任意的なディスプレイ150に表示されうる。
【0117】
本明細書に記載されている装置の任意のコントローラ、特には該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラ、は、装置100に該方法の1以上の工程を実行させる命令を含むコンピュータプログラムを記憶する及び/又は検索する為のメモリを備えていてもよい。
【0118】
該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラ148はまた、ガス洗浄システム152に接続され得、該ガス洗浄システム152は、閉じられている、及び/又はガスハンドリングシステムの一部であってもよく、該ガスハンドリングシステムも、該真空システム146及び/又は該圧縮空気冷却システム144及び/又は更なる試料容器ガスシステムを備えている。
【0119】
そのようなガス洗浄システム152は、該チャンバからの及び/又は該チャンバへのガス流の少なくとも一部を評価する為の質量流量コントローラ154、該ガスの少なくとも一部を加熱及び/又は冷却する為の加熱及び/又は冷却素子156(しかしながら、該ガス流は、それに加えて又は代替的には該加熱/冷却システム115を通りうる)、試料チャンバ158及び/又は試料容器(との接続)、並びに、ガス浄化システム、例えば、該ガスの少なくとも一部を浄化する(濾過する)為の活性炭フィルタ160を含みうる、物理フィルタ及び/又は化学フィルタ、のうちの1以上を備え得、それらは可能性としては示されるようにループとして配置される。
【0120】
一般に、DSC測定は、試験される該試料を粒子状物質、例えば粉体、として該試料容器に供給し、該試料容器を該試料チャンバに入れることを含みうる。好適な構成の基準物質が、該基準物質チャンバに入れられる。該基準物質は、特定の物体及び/又は基準物質容器の特定の充填物でありうる。該試料チャンバと基準物質チャンバ及び該試料容器と基準物質容器は、相互に同一であり、各自の識別を、単に各容器の内容物の性質からの暫定的な標識として「試料チャンバ」/「基準物質チャンバ」、及び「試料容器」/「基準物質容器」として得てもよい。
【0121】
次に、該試料チャンバ及び基準物質チャンバは、1回以上、ガスで洗浄されて、排気され、これは、例えば(水)蒸気及び/又は他の揮発性物質を除去する為に、該試料容器(の中の該試料)を通るガス洗浄を包含する。該チャンバ及び/又は試料を通過したガスは、該試料の化学組成及び/又は化学反応及び/又は質量損失を決定する為の処置及び/又は調査にかけられうる。加えて又は代替的には、該試料の質量が、はかりで決定されうる。
【0122】
次に、該試料及び基準物質は、ある温度範囲にわたる制御された加熱及び同じく制御されうる冷却を含む温度プログラムにかけられ、該温度範囲は数百ケルビンに及びうる。該温度プログラムの間、加熱及び/又は加熱率、並びに該試料及び該基準物質の温度及び/又は該温度変化が決定され得、該試料の該加熱及び/又は加熱率は、該試料ヒータへの該加熱力及び/又は冷却力を制御することにより、該基準物質(の加熱及び/又は加熱率)に対して制御され得、該基準物質の同じ温度変化と比べて特定の量だけ該試料温度を変化させるのに必要とされる相対的に高い又は低い力は、該試料の該比熱容量c及び/又は1以上の相変化f(T,t)の変化を意味しうる。そのような温度プログラムの間にも、好ましくは処置及び/又は調査、例えば上記で説明されたもの、を包含する、ガス洗浄が使用されうる。
【0123】
1回以上のそのような「実行」(そのような温度プログラムの実行)が連続して行われ得、1回目の実行は、該試料を1回以上のその後の実行の為に設定する、調整する、及び/又はその他の方法で準備する為に、使用されうる。1回目の実行の少なくとも一部の間、ガス洗浄制御が行われて、該試料及び/又は試料チャンバからガス及び/又は揮発性物質を除去しうる(これは該基準物質及び/又は基準物質チャンバにも行われることができるが、十分に不活性であれば、これは必要でないことがありうる)。その後の実行の間及び/又はその後に、該チャンバは、排気及び/又は圧力制御されうる。該試料に対する複数回の実行の該温度プログラムは、異なることも同じであることもありうる。差は、及ぶ温度範囲の差、及び/又は該温度範囲の1以上の部分における異なる温度変化率であることができ、それらの任意のものが特定の効果の詳細な研究に使用され得、よりゆっくりした加熱率(該試料温度のよりゆっくりした上昇)は、該試料の熱容量c及び/又は相変化f(T,t)の変化(の効果)に対する増大した感度につながりうる。
【0124】
該コンピュータ及び/又はマイクロコントローラは、
該試料を、所定の加熱率で、第1の所定の温度から第2の所定のより高い温度、例えば最大温度、に加熱し、
該試料全体、試料チャンバ、ヒータ、及びセンサのうちの少なくとも幾つか及び/又は一部について均質な温度を得る為に、該試料を第1の所定の時間、例えば所定の分数、にわたってこの第2の所定の温度に保ち、
該試料を、所定の冷却率で、該第1の所定の温度と等しい又は異なりうる第3の所定の温度まで再度冷却し、
該試料を第2の所定の時間、例えば所定の分数、にわたってこの第3の所定の温度に保つ
ように構成されうる。
【0125】
このようなサイクルが多数回繰り返されることができるが、最小で2回のサイクルが推奨される。
【0126】
アナログ測定信号が、デジタル信号に変換され、続いて温度値に変換されうる。次いで、様々な計算及び分析が行われることができる。例えば、単位時間当たりの試料チャンバと基準物質チャンバとの間の温度差の変化が構築されて、特徴的な相転移を見つけることができる。
【0127】
本開示は、特許請求の範囲内で多数の形で異ならせることができる、上記で説明された実施態様に限定されない。例えば、複数の試料が、並行して又は順次のいずれかで、単一の基準物質との比較で調査されうる。決定は、同時の又は非同時の測定に基づきうる。加えて又は代替的には、例えば異なる(可能性としては部分的に重なる)温度範囲について異なる基準物質が好ましい場合、試料は、幾つかの基準物質との比較で調査されうる。ガス組成の制御は、1以上の化学反応、例えば酸化、の影響を調査する為に、不活性ガスから反応性ガス、例えば酸素を含有するガス、の混合物、に変更することを含みうる。
【0128】
様々な実施態様は、コンピュータシステムと共に使用する為のプログラム製品として実装され得、該プログラム製品の1以上のプログラムは、実施態様の機能を定義する(本明細書に記載されている方法を包含する)。一つの実施態様において、1以上の該プログラムは、各種の非一時的コンピュータ可読記憶媒体に収容されることができ、ここで、本明細書において使用される場合、表現「非一時的コンピュータ可読記憶媒体」は、一時的な伝搬信号を唯一の例外として、全てのコンピュータ可読媒体を含む。別の実施態様において、1以上の該プログラムは、各種の一時的コンピュータ可読記憶媒体に収容されることができる。例示的なコンピュータ可読記憶媒体は、これらに限定されないが、(i)情報が恒久的に記憶される、書き込み不能記憶媒体(例えば、コンピュータ内部の読み出し専用メモリデバイス、例えばCD-ROMドライブによって読み出し可能なCD-ROMディスク、ROMチップ、又は任意種類のソリッドステート不揮発性半導体メモリ)、及び、(ii)改変可能な情報が記憶される、書き込み可能な記憶媒体(例えば、フラッシュメモリ、ディスケットドライブ内のフロッピーディスク、又はハードディスクドライブ、又は任意種類のソリッドステートランダムアクセス半導体メモリ)、を包含する。
【0129】
特には、装置であって、
試料を保持する為の試料容器と、
基準物質及び/又は基準物質を保持する為の基準物質容器と、
試料ヒータ及び基準物質ヒータと、
該試料の温度及び/又は温度変化を決定する為の試料温度検出器と、
該基準物質の温度及び/又は温度変化を決定する為の基準物質温度検出器と、
本明細書において提供される任意の方法の、
該試料及び該基準物質を加熱及び/又は冷却すること、
該加熱及び/又は冷却の間に、
該試料及び該基準物質の温度及び温度変化のうちの少なくとも一方を決定すること、
所定の温度及び/又は温度変化に対する該温度及び/又は該温度変化における差に基づいて、該試料への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、及び該基準物質への加熱力及び/又は冷却力を制御すること、
該基準物質の温度、該基準物質の温度変化、並びに該基準物質への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに対する、該試料の温度、該試料の温度変化、並びに該試料への加熱力及び/又は冷却力のうちの少なくとも1つに基づいて、該試料の少なくとも1つの熱力学的性質及び/又は該試料の組成を決定すること
を実行するように適合された手段と
を備えている上記の装置が提供されうる。
【0130】
更に、上記で言及された該装置に、本明細書において提供される任意の方法の工程を実行させる命令を備えているコンピュータプログラムが提供される。
【0131】
また、上記で言及された該コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体が提供される。
【0132】
特定の実施態様について又はそれとの関連で論じられた要素及び観点は、別途明示的に述べられない限り、他の実施態様の要素及び観点と好適に組み合わせられうる。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】