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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】多結晶立方晶窒化ホウ素体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/5831 20060101AFI20240528BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20240528BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023572621
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2022064267
(87)【国際公開番号】W WO2022248582
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】21176226.5
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591106875
【氏名又は名称】セコ ツールズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ムソウビ, ラシッド
(72)【発明者】
【氏名】レンリック, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュヤ, ヴォロディミル
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF42
3C046FF43
3C046FF44
3C046FF51
3C046FF55
3C046FF57
3C046HH06
(57)【要約】
本発明は、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体(1,2)、およびその製造方法、ならびにその使用に関する。立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含む多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体(1,2)であって、上記結合剤相が、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含む、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体(1,2)。上記少なくとも1つの金属酸化物は、上記結合剤相の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含み、上記少なくとも1つの金属窒化物は、窒化アルミニウム(AlN)、ならびに、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含み、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される上記少なくとも1つの金属窒化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%であり、上記少なくとも1つの金属酸化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%である。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含む多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体(1,2)であって、結合剤相が、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含み、
少なくとも1つの金属酸化物が、結合剤相の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含み、少なくとも1つの金属窒化物が、窒化アルミニウム(AlN)、ならびに、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含み、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される前記少なくとも1つの金属窒化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%であり、前記少なくとも1つの金属酸化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%であることを特徴とする、多結晶立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
結合剤相が、少なくとも1つの金属酸化物のうちの1つと、少なくとも1つの金属窒化物のうちの1つとの反応生成物である少なくとも1つの金属酸窒化物をさらに含む、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項3】
結合剤相が、ジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))、ジルコニウムバナジウム酸窒化物((Zr,V)ON)、ジルコニウムニオブ酸窒化物((Zr,Nb)ON)およびジルコニウムハフニウム酸窒化物((Zr,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む、請求項2に記載のPCBN体。
【請求項4】
結合剤相がアルミニウム酸窒化物(Al(O,N))、アルミニウムバナジウム酸窒化物((Al,V)ON)、アルミニウムニオブ酸窒化物((Al,Nb)ON)およびアルミニウムハフニウム酸窒化物((Al,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む、請求項2または3に記載のPCBN体。
【請求項5】
結合剤相がZrO、Al、AlN、ならびにVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物からなる、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項6】
VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物が、全結合剤相の最大50体積%を構成する、請求項1から5のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項7】
結合剤相が、ZrO、Al、およびAlN、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびにZr(O,N)、(Zr,V)ON、(Zr,Nb)ON、(Zr,Hf)ON、Al(O,N)、(Al,V)ON、(Al,Nb)ONおよび(Al,Hf)ONからなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項8】
酸窒化物、ならびにVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物が、PCBN体の全結合剤相の10と50体積%の間である、請求項2から5のいずれか一項、または請求項7に記載のPCBN体。
【請求項9】
ZrOが結合剤相の金属酸化物の総含有量の20と90体積%の間である、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項10】
Alが結合剤相の5と25体積%の間である、請求項1から9のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項11】
PCBN体(1,2)が超硬合金の下地体(4)により裏打ちされている、請求項1から10のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項12】
PCBN体が、厚さが0.8μmと15μmの間であるPVD被覆またはCVD被覆で被覆されている、請求項1から11のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項13】
PCBN体(1,2)が切削工具(3)、または切削工具の切削チップ(2)である、請求項1から12のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のPCBN体(1,2)の製造方法であって、下記工程:
(a)平均粒子径が0.5μmと15μmの間である立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を準備する工程と、
(b)ZrO、またはZrOとAlとの混合物、結合剤混合物の少なくとも10体積%を構成するVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびに金属アルミニウムを含む結合剤構成物を準備する工程と、
(c)結合剤構成物をcBN粉末と混ぜ合わせて粉末混合物にする工程と、
(d)粉末混合物を粉砕する工程と、
(e)粉末混合物の未焼結体を形成する工程と
(f)減圧下で600℃超の温度で上記未焼結体を熱処理して十分な脱気および吸収種の除去を確実にする工程と
(g)未焼結泰を少なくとも1200℃の温度で、かつ少なくとも4GPaの圧力で焼結して、ソリッドPCBN焼結コンパクトを形成して、それからPCBN体(1,2)を形成する工程と
を含む、製造方法。
【請求項15】
ニッケルベースの超合金および/またはコバルトベースの超合金の機械加工のための、請求項1から13のいずれか一項に記載のPCBN体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)体、上記多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)体の製造方法、およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性ニッケルベース、またはコバルトベースの超合金(HRSA)等の機械加工が困難である材料のための現在の工具ソリューションは、通常、比較的低い切削速度で操作する、被覆された超硬合金工具の使用に限定されている。これが航空宇宙製造業界における現在の通常のプラクティスである。
【0003】
HRSA合金を機械加工する際にみられる主な摩耗形態は、クレーター摩耗、逃げ摩耗/ノーズ摩耗、ノッチング、クラッキング、チッピング、塑性変形、および壊滅的な欠損である。クレータリングは、多くの場合、平滑な摩耗面が観測される拡散摩耗または溶解摩耗メカニズムに属する。加えて、擦り減りは、高い切削温度での工具材料軟化に起因する逃げ摩耗の進行を伴う。切削工具の逃げ部は被削材の接触運動および逃げ摩耗に晒され、切削が進むにつれて被削材の表面品質の不足、切削プロセスの不正確性および摩擦の増大を招く。多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)の切削工具は高温で高い硬度を維持できるため、HRSA合金を機械加工する場合に高評価を得る。
【0004】
生産性向上の要望の高まりに伴い、例えば、切削速度の上昇、または高い金属除去率を有することにより、航空用エンジン製造において、被覆された超硬合金に対する代替の解決法が現れ、HRSA合金の高速機械加工の半仕上げ加工用途に用いることができる。現在用いられている代替の解決法の例は、炭化チタン(TiC)または炭化窒化チタン(TiCN)ベースの結合剤を有するPCBN切削工具である。
【0005】
依然として、PCBN材料は、超硬合金材料に比べて高いコストを有し、費用対効果を高めるには、結合剤としてTiCまたはTiCNを有する従来のPCBNソリューションを用いる場合よりもさらに高い生産性を示す必要がある。
【0006】
特許出願WO2011098556A1は、TiCまたはTiCNを含む従来の結合剤相を有するPCBN材料の例を開示している。従来のPCBN組成物からは外れるが、特許出願EP3239116A1は、cBNを40と85体積パーセント(体積%)および結合剤相を15と60体積%有するPCBN焼結体を示している。上記結合剤相は、主な構成物がAl、AlN等のアルミニウム(Al)化合物であり、酸化ジルコニウム(ZrO)等の酸化ジルコニウム(Zr)化合物である添加物、および立方晶窒化ホウ素焼結体全体の最大10体積%の量で二酸化ジルコニウム(ZrO)を有する。
【0007】
上記要望を満たすため、切削工具のボディに使用可能な新たなPCBN材料であり、機械加工操作中の工具寿命を向上させる高度な特性を有するPCBN材料の需要が存在する。より優れた逃げ摩耗抵抗および/または境界摩耗抵抗が得られる場合、いくつかの機械加工用途および操作のための、より長い工具寿命を得ることができる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、機械加工操作の性能が向上したPCBN焼結体を提供することである。
【0009】
この目的は、請求項1に規定されたPCBN体および請求項14に記載の方法により達成される。
【0010】
本開示は、立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含む多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体であって、上記結合剤相は、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含み、上記少なくとも1つの金属酸化物は、結合剤の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含み、上記少なくとも1つの金属窒化物は、窒化アルミニウム(AlN)、ならびに窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含み、上記金属窒化物の含有量は、結合剤相の少なくとも10体積%である、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体を提供する。これにより、機械加工操作の性能が向上したPCBN体が得られる。
【0011】
本開示はまた、立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含む多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体であって、上記結合剤相は、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含み、上記少なくとも1つの金属酸化物は、結合剤の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含み、上記少なくとも1つの金属窒化物は、窒化アルミニウム(AlN)、ならびに窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含み、上記の窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)の少なくとも1つから選択される金属窒化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%を構成し、上記少なくとも1つの金属酸化物が、全結合剤相の少なくとも10体積%、好ましくは、例えば少なくとも20体積%または少なくとも30体積%または少なくとも40体積%または少なくとも50体積%または少なくとも60体積%を構成する、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体を提供する。
【0012】
一つの実施形態によれば、多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体中のAlNの含有量は、全結合剤相の1から10体積%、例えば1から7体積%、例えば2から6体積%または3から5体積%の範囲である。一部の態様によれば、PCBN体の結合剤相は、さらに、少なくとも1つの金属酸化物のうちの1つと、少なくとも1つの金属窒化物のうちの1つとの反応生成物である少なくとも1つの金属酸窒化物を含む。言い換えると、結合剤相が少なくとも1つの金属酸窒化物を含む場合、少なくとも1つの金属酸窒化物は、ZrOおよびAlからなる群から選択される金属酸化物と、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物との反応生成物である。試験では、上記で開示された組成物による結合剤相を有するPCBN体の平均工具寿命は、他の種類の結合剤相組成物を用いた先行技術の解決法に比べて向上することを示した。PCBN体の結合剤相が上記で開示された組成物に従った組成物を有する場合、同じ切削パラメーターが使用される場合、機械加工の間、先行技術の解決法よりも高い逃げ摩耗抵抗、ならびに高い境界摩耗抵抗が得られる。
【0013】
一部の態様によれば、PCBN体は、cBN粒子を50と75体積%の間、好ましくはcBN粒子を60と75体積%の間、さらにより好ましくはcBN粒子を60と70体積%の間で含む。
【0014】
一部の態様によれば、PCBN体は、結合剤相を25と50体積%の間、好ましくは結合剤相を25と40体積%の間、さらにより好ましくは30と40体積%の間で含む。
【0015】
一部の態様によれば、PCBN体中のcBN粒子および結合剤相の含有量は、PCBN体の最大100体積%である。
【0016】
一部の態様によれば、結合剤相中の金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物の含有量は、結合剤相の最大100体積%である。
【0017】
一部の態様によれば、上記結合剤相は、ジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))、ジルコニウムバナジウム酸窒化物((Zr,V)ON)、ジルコニウムニオブ酸窒化物((Zr,Nb)ON)およびジルコニウムハフニウム酸窒化物((Zr,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む。
【0018】
一部の態様によれば、上記結合剤相は、アルミニウム酸窒化物(Al(O,N))、アルミニウムバナジウム酸窒化物((Al,V)ON)、アルミニウムニオブ酸窒化物((Al,Nb)ON)およびアルミニウムハフニウム酸窒化物((Al,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む。
【0019】
一部の態様によれば、上記結合剤相は、ZrO、Al、AlN、ならびにVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物からなる。
【0020】
一部の態様によれば、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物は、全結合剤の最大60体積%、例えば全結合剤相の最大50体積%、例えば全結合剤相の最大40体積%または最大30体積%または最大20体積%を構成する。VN、NbNおよびHfNからなる群からの金属窒化物である全結合剤相を最大60体積%または最大50体積%または最大40体積%または最大30体積%または最大20体積%を有することにより、金属酸化物相のみを含む結合剤に比べ、材料の機械特性および切削エッジの耐チッピング性が向上する。
【0021】
一部の態様によれば、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物は、全結合剤相の10と50体積%の間を構成する。VN、NbNおよびHfNからなる群からの金属窒化物である全結合剤相を10と50体積%の間で有することにより、金属酸化物相のみを含む結合剤に比べ、材料の機械特性および切削エッジの耐チッピング性が向上する。
【0022】
一つの実施形態によれば、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物は、全結合剤相の少なくとも20体積%または少なくとも30体積%または少なくとも40体積%を構成する。
【0023】
一つの実施形態によれば、窒化アルミニウムの含有量は本明細書でさらに特定される通りであるが、上記少なくとも1つの金属酸化物と窒化アルミニウムとを合わせて、全結合剤相の最大90体積%または最大80体積%または最大70体積%または最大60体積%または最大50体積%または最大40体積%または最大30体積%または最大20体積%を構成する。
【0024】
一部の態様によれば、上記結合剤相は、ZrO、Al、およびAlN、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびにZr(O,N)、(Zr,V)ON、(Zr,Nb)ON、(Zr,Hf)ON、Al(O,N)、(Al,V)ON、(Al,Nb)ONおよび(Al,Hf)ONからなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物からなる。試験は、ZrO、Al、およびAlN、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびにZr(O,N)、(Zr,V)ON、(Zr,Nb)ON、(Zr,Hf)ON、Al(O,N)、(Al,V)ON、(Al,Nb)ONおよび(Al,Hf)ONからなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物からなる結合剤相を含むPCBN体の平均工具寿命は、他の種類の結合剤相組成物を用いる先行技術の解決法に比べて上昇することを示した。
【0025】
一部の態様によれば、上記酸窒化物および金属窒化物は、PCBN体の全結合剤相の10と50体積%の間である。好ましくは、上記酸窒化物および金属窒化物は、PCBN体の全結合剤相の25と50体積%の間である。
【0026】
一部の態様によれば、ZrOは、結合剤相の金属酸化物の総含有量の20と90体積%の間である。好ましくはZrOは結合剤相の金属酸化物の総含有量の50と90体積%の間であり、さらにより好ましくはZrOは結合剤相の金属酸化物の総含有量の70と90体積%の間である。
【0027】
一部の態様によれば、Alは、全結合剤相の5と25体積%の間である。好ましくはAlは、全結合剤相の5と15体積%の間である。一つの実施形態によれば、さらなる構成物は、結合剤相、例えばTiCまたは他の従来から使用されている構成物中に含まれ得る。しかし、上記結合剤相は、本明細書でさらに特定される通りの金属酸化物および金属窒化物からなることが好ましい。
【0028】
一部の態様によれば、上記PCBN体は、超硬合金の下地体により裏打ちされている。
【0029】
一部の態様によれば、上記PCBN体は、厚さが0.8μmと15μmの間であるPVD被覆またはCVD被覆で被覆されている。
【0030】
一部の態様によれば、上記PCBN体は、単一の(Ti1―xAl)N(式中、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2)層である第1の(Ti,Al)ベースの窒化物サブコーティング、および、(Ti1―x1―y1Alx1Cry1)Nz1(式中、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2)層を含む積層構造である第2の(Ti,Al)ベースの窒化物サブコーティングを含むPVD被覆で被覆されている。好ましくは第1の(Ti,Al)ベースの窒化物サブコーティングの厚さは0.1μmと2μmの間である。積層構造を有する第2の(Ti,Al)ベースの窒化物サブコーティングは、A層とB層との交互体:A/B/A/B/A/B/...、(式中、層Aは(Ti1―xAl)N、0.1<x<0.4、0.6<z<1.2であり、層Bは(Ti1―x1―y1Alx1Cry1)Nz1、0.5<x1<0.75、0.05<y1<0.2、0.6<z1<1.2である)からなり得る。好ましくは第2の(Ti,Al)ベースの窒化物サブコーティングは、厚さが0.5μmと10μmの間である積層構造を有し、積層構造のA層およびB層は、平均個別層厚さが1nmと100nmの間、好ましくは5nmと50nmの間、最も好ましくは5nmと30nmの間である。
【0031】
一部の態様によれば、上記PCBN体は、層Aが(Ti1―xAlMe1)Naであり、ここで0.3<x<0.95、好ましくは0.45<x<0.75、0.90<a<1.10、好ましくは0.96<a<1.04、0≦p<0.15であり、Me1はZr、Y、V、Nb、MoおよびWのうちの1つまたは複数であり、層Bが(Ti1―y―zSiMe2)Nであり、ここで0.05<y<0.25、好ましくは0.05<y<0.18、0≦z<0.4、0.9<b<1.1、好ましくは0.96<b<1.04であり、Me2はY、V、Nb、Mo、WおよびAlのうちの1つまたは複数である、柱状でありかつA層とB層との交互体の多結晶性ナノ積層構造を含むPVD被覆で被覆されている。上記ナノ積層構造の厚さは0.5μmと10μmの間、好ましくは0.5μmと5μmの間であり、平均列幅は20nmと1000nmの間であり、A層とB層の平均個別厚さは1nmと50nmの間である。
【0032】
一部の態様によれば、上記PCBN体は、切削工具または切削工具の切削チップである。上記切削工具は、旋盤加工、フライス加工またはドリル加工操作において等、切り屑除去による機械加工に用いられる。切削工具の例はインデックス可能な切削インサート、ソリッドドリルおよびエンドミルである。
【0033】
本開示は、上記態様のいずれかによるPCBN体の製造方法であって、下記工程:
(a)平均粒子径が0.5μmと15μmの間である立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を準備する工程と、
(b)ZrO、またはZrOとAlとの混合物、結合剤混合物の少なくとも10体積%を構成するVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびに金属アルミニウムを含む結合剤構成物を準備する工程と、
(c)上記結合剤構成物をcBN粉末と混ぜ合わせて粉末混合物にする工程と、
(d)上記粉末混合物を粉砕する工程と、
(e)上記粉末混合物の未焼結体(green body)を形成する工程と、
(f)減圧下で600℃超の温度で上記未焼結体を熱処理して十分な脱気および吸収種の除去を確実にする工程と、
(g)上記未焼結体を少なくとも1200℃の温度で、かつ少なくとも4GPaの圧力で焼結して、ソリッドPCBN焼結コンパクトを形成して、それからPCBN体を形成する工程と
を含む、方法を提供する。
【0034】
一つの実施形態によれば、金属アルミニウムは、添加された成分の総量の1から10体積%または1から5体積%の量で添加される。
【0035】
一部の態様によれば、上記未焼結体の熱処理工程は1100℃未満の温度で実施される。
【0036】
一部の態様によれば、上記未焼結体の焼結工程は、2000℃未満の温度で実施される。
【0037】
一部の態様によれば、上記製造されたソリッドPCBN焼結コンパクトは、その後放電加工(EDM)またはレーザーを用いることによりピースごとに切り分けられる。
【0038】
本開示は、ニッケルベースの超合金および/またはコバルトベースの超合金を機械加工するための、上記の態様のいずれかによるPCBN体の使用を提供する。
【0039】
本発明は、本発明の各種実施形態の記載により、および添付の図面を参照して、以降でより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】ソリッドPCBN体の一例を示す図である。
図2】超硬合金インサートキャリアにろう付けされた超硬下地体を用いたソリッドPCBN体の別の例を示す図である。
図3】本発明の実施形態によるPCBN体上の逃げ摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図4】第1の比較のPCBN体上の逃げ摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図5】第2の比較のPCBN体上の逃げ摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図6】本発明の実施形態によるPCBN体上の境界摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図7】第1の比較のPCBN体上の境界摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図8】第2の比較のPCBN体上の境界摩耗の光学顕微鏡画像を示す図である。
図9】PCBN体の製造方法例のブロック図を示している。
図10】本発明の実施形態によるPCBN体のSEM画像および各種元素のXEDSマッピングを示す図である。
図11】本発明の実施形態によるPCBN体のX線θ―2θディフラクトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本開示の態様は、添付の図面を参照して以降でより十分に説明される。但し、本明細書に開示されたデバイスおよび方法は、多くの異なる形態により実現することができ、本明細書で説明された態様に限定されると解釈されるべきではない。全体において、図面における同様の付番は同様の要素を参照する。
【0042】
本開示に用いられる専門用語は、本開示の特定の態様を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書において使用されている通り、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに別の意味を指すと判断されない限り、複数形も含むことを意図する。
【0043】
用語「切削工具」は、本明細書において使用されている通り、旋盤加工、フライス加工またはドリル加工等の切り屑除去による金属切削に好適な切削工具を表すことを意図している。切削工具の例はインデックス可能な切削インサート、ソリッドドリルおよびエンドミルである。
【0044】
特に定義されていない限り、本明細書で用いられている全ての用語は、本開示の属する当業者により通常理解される意味と同じ意味を有する。
【0045】
切削工具インサートに共通することは、切削工具インサートがソリッド体、または、すくい面上の切削エッジ上、いわゆるチップが取り付けられたボディ上、もしくは切削工具インサートが全すくい面、いわゆるフルフェイス(full-face)ボディを覆うように、のいずれかにより追加の材料が配置された下地体を含むボディであってもよいことである。
【0046】
図1はPCBN焼結体1の例を示している。図1のPCBN体は、ソリッド体である。図1におけるソリッドPCBN焼結体1は、それ自体が切削工具インサートであってもよく、または、切削工具インサートの切削チップ等に使用されるピースに細かく切り分けてもよい。図2は、下地体4および本開示によるPCBN焼結体2の形態の切削チップを含む切削工具インサート3の例を示している。PCBN体2は、例えば、超硬合金製である下地体4に一体的に接合している。
【0047】
本開示は、立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含み、上記結合剤相は、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含む、PCBN焼結体1、2を提供する。上記少なくとも1つの金属酸化物は、結合剤の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含む。さらに、上記少なくとも1つの金属窒化物は、窒化アルミニウム(AlN)、ならびに、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含む。上記金属窒化物の含有量は、結合剤相の少なくとも10体積%である。
【0048】
PCBN焼結体1の結合剤相は例えば、少なくとも1つの金属酸化物のうちの1つおよび少なくとも1つの金属窒化物のうちの1つの反応生成物である少なくとも1つの金属酸窒化物を含んでいてもよい。
【0049】
上記結合剤相は例えば、ジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))、ジルコニウムバナジウム酸窒化物((Zr,V)ON)、ジルコニウムニオブ酸窒化物((Zr,Nb)ON)およびジルコニウムハフニウム酸窒化物((Zr,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含んでいてもよい。
【0050】
それに代えて、または加えて、上記酸窒化物は例えば、アルミニウム酸窒化物(Al(O,N))、アルミニウムバナジウム酸窒化物((Al,V)ON)、アルミニウムニオブ酸窒化物((Al,Nb)ON)およびアルミニウムハフニウム酸窒化物((Al,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含んでもよい。
【0051】
酸窒化物、ならびに窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)の少なくとも1つの金属窒化物の含有量は例えば、全結合剤相の10と50体積%の間である。
【0052】
図9は、PCBN体1、2の製造方法例のブロック図を示している。上記方法例に従い、下記工程
(a)平均粒子径が0.5μmと15μmの間である立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を準備する工程と
(b)ZrO、またはZrOとAlとの混合物、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物であって、上記結合剤混合物の少なくとも10体積%である金属窒化物、ならびに金属アルミニウム結合剤構成物を準備する工程と
(c)上記結合剤構成物をcBN粉末と混ぜ合わせて粉末混合物にする工程と
(d)上記粉末混合物を粉砕する工程と
(e)上記粉末混合物の未焼結体を形成する工程と
(f)減圧下で600℃超の温度で上記未焼結体を熱処理して十分な脱気および吸収種の除去を確実にする工程と
(g)上記未焼結体を少なくとも1200℃の温度で、かつ少なくとも4GPaの圧力で焼結して、ソリッドPCBN焼結コンパクトを形成して、それからPCBN体(1,2)を形成する工程と
が実施される。
【0053】
代替の方法例によれば、下記工程は、PCBN体を製造するために実施される:
― 六方晶窒化ホウ素(hBN)粉末から平均粒子径が0.5μmと15μmの間である立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を準備する工程であり、これが標準的なプラクティスに従って高温かつ高圧で実施される、工程、
― ZrO、またはZrOとAlとの混合物、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物であって、上記結合剤混合物の少なくとも10体積%である金属窒化物、ならびに金属アルミニウムを含む結合剤構成物の結合剤混合物を準備する工程、
― 上記結合剤混合物を粉砕して結合剤構成物の平均粒子径を0.5μmと10μmの間にする工程、
― 粉砕された上記結合剤混合物をcBN粉末と混ぜ合わせて粉末混合物にする工程、
― 平均粒子径を低減し、結合剤混合物中のcBN相の正確な混合および分散を確実にするために上記粉末混合物を粉砕する工程、
― 上記粉末混合物の未焼結体を形成する工程、
― 減圧下で600℃超の温度で上記未焼結体を熱処理して十分な脱気および吸収種の除去を確実にする工程、
― 未焼結体を少なくとも1200℃の温度で、かつ少なくとも4GPaの圧力で焼結して、ソリッドPCBN焼結コンパクトを形成して、それからPCBN体を形成する工程。
【0054】
ソリッドPCBN焼結コンパクトは、例えば、EDMまたはレーザーを用いることによりピースごとに切り分けられる。PCBN体1、2を形成する切り分けられたピースは、超硬合金下地体4にろう付けして、例えば、図2でみられるような切削工具等に形成してもよい。
【0055】
実施形態例によれば、PCBN体1、2は上記方法に従って製造され、上記PCBN体は、cBN粒子を約60体積%、ならびにZrO(立方晶および正方晶の両方)、Al、AlN、VNおよびジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))を含む結合剤相を有している。図10は、PCBN体中の各種元素のXEDSマッピングを示しており、XEDSマップから、BおよびNを含む上記cBN結晶粒がどのようにO、N、Al、VおよびZrを含む結合剤相中に存在するかが分かる。図11は、Cu―Kα放射線およびθ―2θスキャンを用いて測定される、PCBN体中の立方晶BN、ZrO(立方晶および正方晶の両方)、Al、AlN、VNおよびジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))のX線回折(XRD)強度を示している。用いられた回折計はSTOE STADI MPであった。図11におけるXRDパターンの分析に関し、下記Crystal Impact Entry(CIE)―カードが用いられた:
Al、CIE―カード:96―100―0018
AlN、CIE―カード:96―152―3096
BN、CIE―カード:96―035―1365(立方晶)
VN、CIE―カード:96―035―0768
ZrO、CIE―カード:95―050―1089(正方晶)
ZrO、CIE―カード:96―900―7449(立方晶)
Zr(O,N)、CIE―カード:96―050―1172
【実施例
【0056】
実施例1
表1の試料1に対応する組成物を有する本開示の実施形態によるPCBN切削工具は、上記製造方法の上記の代替の実施形態例に従って作製された。表1の試料2による組成物を有する従来のTiC―結合剤を有する第1の比較のPCBN切削工具、および、表1の試料3による組成物を有する従来のTiCN―結合剤を有する第2の比較のPCBN切削工具は、試料1と同一の粉末調製および焼結条件下で作製された。
【0057】
ISO RNGN090300インサート形状で切削工具を製造した。
試料1~3による組成物を有するPCBN切削工具を用いて、時効状態で供給され、かつ硬度がHRC45であるインコネル718被削材材料の旋盤加工を長手方向で実施した。
【0058】
用いられた切削データは下記の通りであった:
1.送り量f=0.10mm/回転で、切削速度v=300m/分
2.送り量f=0.10mm/回転で、切削速度v=350m/分
一方で、切込み深さは、両方のケースにおいて、高速仕上げ加工条件に相当するa=0.3mmであった。冷媒として8%オイル水エマルションを用いて、高圧局部冷却(HPDC)を適用し、切削工具のすくい面および逃げ面において冷媒圧力を90barに設定した。
【0059】
切削速度v=300m/分で3.2分、および切削速度v=350m/分で2.7分の切削時間に相当する950メートルの螺旋長さの後に逃げ摩耗を測定した。
【0060】
Olympus SZX7光学顕微鏡を用いて逃げ摩耗を測定した。
【0061】
300m/分および350m/分の切削速度で測定された逃げ摩耗が表2に示されている。
図3図4および図5のSEM画像は、切削速度350m/分、送り量f=0.1mm/回転および切込み深さa=0.3mmの2.7分後における試料1~3の逃げ摩耗を示している。
【0062】
実施例1に関する実験結果および観測から、本発明による組成を有するPCBN切削工具は、従来のTiC―結合剤およびTiCN―結合剤と比べて、性能において50%超の向上が実証されたと結論付けられた。
【0063】
実施例2
時効状態で供給され、かつ硬度がHRC45であるインコネル718被削材材料で、曲率半径がR38.5mmの曲線輪郭の旋盤加工を実施した。実施例1と同様の組成物を有するPCBN切削工具、すなわち表1の試料1~3による組成物を使用した。
【0064】
切削データの3つの異なるケースが用いられた:
1.送り量f=0.10mm/回転で、切削速度v=350m/分
2.送り量f=0.08mm/回転で、切削速度v=420m/分
3.送り量f=0.10mm/回転で、切削速度v=420m/分
一方で、切込み深さは、3つのケース全てにおいて、高速仕上げ加工条件に相当するa=0.3mmであった。冷媒として8%オイル水エマルションを用いて、高圧局部冷却(HPDC)を適用し、切削工具のすくい面および逃げ面において冷媒圧力を70barに設定した。
【0065】
ISO RNGN090300インサート形状で切削工具を製造した。
【0066】
0.89分±0.11分の時間間隔で逃げ摩耗および境界摩耗を測定し、最大逃げ摩耗が基準の250μmを超えた際、または境界摩耗が基準の1000μmを超えた際のいずれかにおいて性能試験を停止した。
【0067】
主な結合剤相としてTiCを有するPCBN切削工具、すなわち試料2は、送り量f=0.08mm/回転で切削速度v=420m/分の切削条件下で臨界境界摩耗が高速で進行し、エッジ破損により失敗したため、実施例2の工具摩耗を示している表3には含まれていない。
【0068】
Olympus SZX7光学顕微鏡を用いて逃げ摩耗および境界摩耗を測定した。
【0069】
表3は、逃げ摩耗または境界摩耗パラメーターが使用された3つの異なる切削データのセットのその制限基準に達した際のそれぞれの切削時間間隔で測定された逃げ摩耗を示している。
表4は、使用された3つの異なる切削データのセットで測定された境界摩耗を示している。
図6図7および図8のSEM画像は、切削速度v=350m/分、送り量f=0.1mm/回転および切込み深さa=0.3mmでの試料1、2および3のそれぞれの境界摩耗を示している。図6図7および図8の試料の境界摩耗(μm)および切削時間(分)の結果も表4の1列目に示されている。表4から分かる通り、試料1は7.50/分で最も長い切削時間、すなわちそれは試料2よりも2倍の長さを切削し、試料3よりも33%長い時間を有し、そして同時に試料1は、試料2および3のいずれかよりも低い境界摩耗を依然有していた。
【0070】
実施例2に関する実験結果および観測から、試料1、すなわち本開示によるPCBN切削工具は、従来のTiC―結合剤およびTiCN―結合剤と比べて、境界摩耗基準による110%超の向上を供する一方で、逃げ摩耗基準により、性能において31%超の向上が実証されたと結論付けられた。
【0071】
本発明は、開示された実施形態に限定されないが、下記特許請求の範囲の範囲内で変更、修正されてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-05-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素(cBN)粒子を40と85体積%の間、および結合剤相を15と60体積%の間で含む多結晶立方晶窒化ホウ素(PCBN)焼結体(1,2)であって、結合剤相が、少なくとも1つの金属酸化物および少なくとも1つの金属窒化物を含み、
少なくとも1つの金属酸化物が、結合剤相の金属酸化物の総含有量の体積パーセンテージで計算される酸化ジルコニウム(ZrO)を20と100体積%の間、およびアルミナ(Al)を最大80体積%含み、少なくとも1つの金属窒化物は、全結合剤相に対して窒化アルミニウム(AlN)を1~10体積%、ならびに、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物を含み、
窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)および窒化ハフニウム(HfN)からなる群から選択される前記少なくとも1つの金属窒化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%であり、前記少なくとも1つの金属酸化物の含有量が全結合剤相の少なくとも10体積%である
ことを特徴とする、多結晶立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
結合剤相が、少なくとも1つの金属酸化物のうちの1つと、少なくとも1つの金属窒化物のうちの1つとの反応生成物である少なくとも1つの金属酸窒化物をさらに含む、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項3】
結合剤相がジルコニウム酸窒化物(Zr(O,N))、ジルコニウムバナジウム酸窒化物((Zr,V)ON)、ジルコニウムニオブ酸窒化物((Zr,Nb)ON)およびジルコニウムハフニウム酸窒化物((Zr,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む、請求項2に記載のPCBN体。
【請求項4】
結合剤相がアルミニウム酸窒化物(Al(O,N))、アルミニウムバナジウム酸窒化物((Al,V)ON)、アルミニウムニオブ酸窒化物((Al,Nb)ON)およびアルミニウムハフニウム酸窒化物((Al,Hf)ON)からなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物を含む、請求項2または3に記載のPCBN体。
【請求項5】
結合剤相がZrO、Al、AlN、ならびにVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物からなる、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項6】
VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物が、全結合剤相の最大50体積%を構成する、請求項1から5のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項7】
結合剤相が、ZrO、Al、およびAlN、VN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびにZr(O,N)、(Zr,V)ON、(Zr,Nb)ON、(Zr,Hf)ON、Al(O,N)、(Al,V)ON、(Al,Nb)ONおよび(Al,Hf)ONからなる群から選択される少なくとも1つの酸窒化物からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項8】
酸窒化物、ならびにVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される金属窒化物が、PCBN体の全結合剤相の10と50体積%の間である、請求項2から5のいずれか一項、または請求項7に記載のPCBN体。
【請求項9】
ZrOが結合剤相の金属酸化物の総含有量の20と90体積%の間である、請求項1に記載のPCBN体。
【請求項10】
Alが結合剤相の5と25体積%の間である、請求項1から9のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項11】
PCBN体(1,2)が超硬合金の下地体(4)により裏打ちされている、請求項1から10のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項12】
PCBN体が、厚さが0.8μmと15μmの間であるPVD被覆またはCVD被覆で被覆されている、請求項1から11のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項13】
PCBN体(1,2)が切削工具(3)、または切削工具の切削チップ(2)である、請求項1から12のいずれか一項に記載のPCBN体。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか一項に記載のPCBN体(1,2)の製造方法であって、下記工程:
(a)平均粒子径が0.5μmと15μmの間である立方晶窒化ホウ素(cBN)粉末を準備する工程と、
(b)ZrO、またはZrOとAlとの混合物、結合剤混合物の少なくとも10体積%を構成するVN、NbNおよびHfNからなる群から選択される少なくとも1つの金属窒化物、ならびに金属アルミニウムを含む結合剤構成物を準備する工程と、
(c)結合剤構成物をcBN粉末と混ぜ合わせて粉末混合物にする工程と、
(d)粉末混合物を粉砕する工程と、
(e)粉末混合物の未焼結体を形成する工程と
(f)減圧下で600℃超の温度で上記未焼結体を熱処理して十分な脱気および吸収種の除去を確実にする工程と
(g)未焼結体を少なくとも1200℃の温度で、かつ少なくとも4GPaの圧力で焼結して、ソリッドPCBN焼結コンパクトを形成して、それからPCBN体(1,2)を形成する工程と
を含む、製造方法。
【請求項15】
ニッケルベースの超合金および/またはコバルトベースの超合金の機械加工のための、請求項1から13のいずれか一項に記載のPCBN体の使用。
【国際調査報告】