(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】二本鎖RNA副生成物形成の低減方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20240528BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C12P19/34 A
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572711
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2022064233
(87)【国際公開番号】W WO2022248565
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】チャリス,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,ルボス
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA21
4B064CC24
4B064CD30
4B064DA01
4B064DA20
(57)【要約】
本発明は、核酸製造の分野、特にin vitro RNA転写に関する。より具体的には、本発明は、in vitro転写中の二本鎖RNA形成の低減方法、より特には、RNA転写プロセス中に特定量のMgを使用することによるそのような方法に関する。本発明は、更に、本発明に従う方法により得ることが可能なin vitro転写RNA組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitro転写反応中の二本鎖RNA(dsRNA)形成の低減方法であって、前記in vitro転写反応を、少なくとも約35 mMのマグネシウムの存在下で行うことを含む、方法。
【請求項2】
前記in vitro転写反応は、ピロホスファターゼの存在下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記in vitro転写反応は、EDTA等の金属キレート剤の添加により終了する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マグネシウム濃度は、約35 mM~約150 mM、好ましくは約40 mM~約100mM、より好ましくは約45 mM~約75 mM、最も好ましくは約55 mMである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ピロホスファターゼ濃度は、約0.01 U/ml~約40 U/ml、好ましくは約0.1 U/ml~約20 U/ml、より好ましくは約1 U/ml~約10 U/ml、最も好ましくは約5 U/mlである、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属キレート剤の濃度は、約10 mM~約50 mM、好ましくは約20 mM~約30mM、より好ましくは約24 mMである、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
マグネシウムは、塩化マグネシウム(MgCl
2)、酢酸マグネシウム(MgOAc
2)を含む群から選択される形態にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記in vitro転写反応の前記RNAは、更に、5'CAP、修飾ヌクレオシド(複数の場合もある)、及び/又はポリ(A)テールのうち1つ以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
IVT反応中の二本鎖RNA(dsRNA)形成を低減させる、前記IVT反応における少なくとも約35 mMのマグネシウムの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸製造の分野、特にin vitro RNA転写に関する。より具体的には、本発明は、in vitro転写中の二本鎖RNA形成の低減方法、より特には、RNA転写プロセス中に特定量のMgを使用することによるそのような方法に関する。本発明は、更に、本発明に従う方法により得ることが可能なin vitro転写RNA組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
invitro転写(IVT)の目立った利用法の1つに、生物製剤及び治療用途のためのmRNAの生成というのがあった。内在性mRNAに似ており関心対象タンパク質をコードするmRNAをin vitroで合成し、続いてそれをin vitro又はin vivoで送達及び発現させるという、手法の簡便性が、この手法を魅力的かつ応用性の広いものにしている。
【0003】
IVTRNAの(大規模)合成に使用される技術は、剛健であり、十分に確立されている。1つの重大な欠点は、in vitro合成プロセスで存在又は生成するある種の副生成物であり、そのような副生成物には、細胞性免疫応答を引き起こす二本鎖RNA(dsRNA)が含まれる。治療薬としてIVT RNAを利用するには、免疫原性の低い機能性RNAを大量に必要とする。したがって、細胞性免疫応答を最小限に抑えようとするin vivo用途用にmRNAを合成する場合、mRNA調製由来のdsRNA混入物を排除するか、dsRNA形成を低減するかのいずれかが極めて重要である。
【0004】
IVT反応完了後に副生成物を除去することに依存する方法が複数記載されているが、そこではクロマトグラフィーを利用した精製法等の分析的精製が最も一般的な手法である。この手法は、効率的であるものの、mRNA合成ワークフローに追加工程をもたらし、専用設備が含まれ、反応の規模拡大に適合しないことが多く、RNA産生量を低下させる可能性があり、手法の費用対効果を妨げる。合成後精製の代替手法は、IVT反応のdsRNA副生成物形成を、IVT反応条件の変更により防ぐものである。少数であるが特定テンプレートに関して、IVT反応中のマグネシウムレベルを低下させることで、dsRNA副生成物(アンチセンスRNAの合成により形成される)の形成が低減することが示唆されている(非特許文献1)。しかしながら、反応中のマグネシウム濃度を低下させることは、RNAの合計産生量にも影響を及ぼし、このことは、大量のmRNAが望まれる場合の用途に望ましくない。そのうえ、非特許文献1で使用されたdsRNA検出法(すなわち、天然ゲル電気泳動)は、dsRNAの巨大断片に偏っており、一方で短いdsRNA断片は、この方法を用いると未検出のままである可能性がある。したがって、非特許文献1の結果からは、反応におけるdsRNAの合計量に、どのような結論を出すこともできない。
【0005】
本発明の発明者らは、非特許文献1とは対照的に、反応においてマグネシウム濃度を上昇させることで、in vitro転写(IVT)中のdsRNA副生成物形成を低減させることができることを、期せずして見出した。特には、本発明は、従来濃度が略19 mMのマグネシウムであるのに比べて、少なくとも約35 mMのマグネシウムの存在下で、in vitro転写中の二本鎖RNA(dsRNA)形成を低減させる方法を記載する。IVT RNAを生成するこの方法の主な利点は、生成するRNAの産生量及び完全性を損なわずに、合計dsRNAを50%~70%低減することである。また、記載の方法は、無キャップRNA、CAP-0及びCAP-1有キャップRNA、ヌクレオシド修飾RNA(例えばN1-メチルプソイドウリジン修飾)、ポリAテールを持つ及び持たないRNAをはじめとする、様々な種類のmRNAの製造プロセスに適合性を持つ。
【0006】
dsRNA混入物の除去/予防に最も適した方法は、望まれる最終用途及びRNA産生量の規模に依存することになる。規模拡大が前提条件である用途の場合、合成後精製工程は、最終結果を損なう可能性がある。したがって、本発明は、合成プロセス中のdsRNA副生成物の形成を予防する又は少なくとも低減する解決策を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
第一の態様において、本発明は、in vitro転写(IVT)反応中の二本鎖RNA(dsRNA)形成の低減方法であって、上記IVT反応を、少なくとも約35 mMのマグネシウムの存在下で行うことを含む、方法を提供する。
【0009】
更なる実施の形態において、上記IVT反応は、ピロホスファターゼの存在下で行われる。
【0010】
別の実施の形態において、上記IVT転写反応は、EDTA等の金属キレート剤の添加により終了する。
【0011】
本発明の特定の実施の形態において、マグネシウム濃度は、約35 mM~約150 mM、好ましくは約40mM~約100 mM、より好ましくは約45 mM~約75 mM、最も好ましくは約55 mMである。
【0012】
本発明の方法の別の特定の実施の形態において、ピロホスファターゼ濃度は、約0.01 U/ml~約40 U/ml、好ましくは約0.1 U/ml~約20 U/ml、より好ましくは約1 U/ml~約10 U/ml、最も好ましくは約5 U/mlである。
【0013】
なおも別の特定の実施の形態において、上記金属キレート剤の濃度は、約10 mM~約50 mM、好ましくは約20mM~約30 mM、より好ましくは約24 mMである。
【0014】
なおも更なる実施の形態において、マグネシウムは、塩化マグネシウム(MgCl2)、酢酸マグネシウム(MgOAc2)を含む任意の塩の形態にあることができる。
【0015】
特定の実施の形態において、上記in vitro転写反応のRNAは、更に、5'CAP、修飾ヌクレオシド(複数の場合もある)、及び/又はポリ(A)テールのうち1つ以上を含んでもよい。
【0016】
更なる態様において、本発明は、IVT反応中の二本鎖RNA(dsRNA)形成を低減させる、上記IVT反応における少なくとも約35 mMのマグネシウムの使用を提供する。
【0017】
ここで図を具体的に参照すると、示される詳細は、例としてであり、本発明の異なる実施形態の例証的な論考のみを目的としたものであることが強調される。それらは、本発明の原理及び概念的側面の最も有用かつ容易な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点に関して、本発明の基本的な理解のために必要であるよりも詳細に本発明の構造的な詳細を示す試みはなされていない。説明は、図面と共に、本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化され得るかを当業者に明らかにするものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】無キャップRNA(パネルA)及び有CleanCap(cap-1)RNA(パネルB)についてマグネシウム濃度24 mM対55mMでin vitro転写した後に検出されたdsRNA量を示す図である。55 mMのMgを使用すると、24 mMのMgを使用した反応に比べて、平均で62%(パネルA及びパネルBの平均)、dsRNA量が低下した。縞模様のバーは、Mg濃度24 mMを表し、塗りつぶしバーは、Mg濃度55 mMを表す。同じ試料を互いに隣に並べたが、異なる量のMg(それぞれ、24 mM対55 mMのMg)で処理されている。試験した5種のmRNAは全て、異なるオープンリーディングフレームを持ち、共通するのは、長さ120ヌクレオチドの均一ポリAテールであった。
【
図2】24 mMのMg及び55 mMのMgで処理したin vitro転写反応後の試料について抗dsRNA J2抗体を利用した免疫ブロットを展開したバンド強度を示す図である。矢印は、同じ試料であるが異なる量のMg(それぞれ、24 mM対55 mMのMg)で処理された試料を示す。
【
図3】無キャップRNA(パネルA)及び有CleanCap(cap-1)RNA(パネルB)についてマグネシウム濃度24 mM対55mMでのin vitro転写反応産生量(μg)を示す図である。縞模様のバーは、Mg濃度24 mMを表し、塗りつぶしバーは、Mg濃度55 mMを表す。同じ試料を互いに隣に並べたが、異なる量のMg(それぞれ、24 mM対55 mMのMg)で処理されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に説明する。以下の節においては、本発明の様々な態様をより詳細に定義する。そのように定義された各態様は、逆に明確に示されない限り、任意の単数又は複数の態様と組み合わせることができる。特に、好ましい又は有利なものとして示される任意の特徴は、好ましい又は有利なものとして示される任意の他の単数又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別様に指示されない限り、複数の指示対象を含む。例として、「化合物(a compound)」は、1つの化合物又は2つ以上の化合物を意味する。
【0021】
パラメーター、量、持続時間等の測定可能な値に言及する場合に本明細書において使用される「約(about)」又は「略(approximately)」という用語は、指定された値の+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、更により好ましくは+/-0.1%以下の変動を、そのような変動が開示された発明において実施するのに適切である限り、包含することを意味する。「約」又は「略」という修飾語が言及する値は、それ自体も具体的に、かつ好ましく開示されることが理解されるべきである。
【0022】
本発明は、IVT反応中のdsRNA形成の低減法に関する。本発明は、更に、本発明に従う方法により得ることが可能な精製in vitro転写RNA組成物に関する。本発明の発明者らは、反応において最適なマグネシウム濃度を用いることでIVT中のdsRNA副生成物形成を低減させることが可能であることを、期せずして見出した。特には、本発明は、従来濃度が略19 mMのマグネシウムであることに比べて、少なくとも約35 mMのマグネシウムの存在下で、in vitro転写中のdsRNA形成を低減する方法を記載する。IVT RNAを生成するこの方法の主な利点は、生成するRNAの産生量及び完全性を損なわずに、dsRNAを50%~70%低減することである。また、記載の方法は、無キャップRNA、CAP-0及びCAP-1(Cleancap)RNA、ヌクレオシド修飾RNA(例えばN1-メチルプソイドウリジン)、RNA、又はポリAテールを持つ及び持たないRNAをはじめとする、様々な種類のmRNAの製造プロセスに適合性を持つ。
【0023】
第一の態様において、本発明は、in vitro転写(IVT)反応中の二本鎖RNA(dsRNA)形成の低減法を提供し、本方法は、少なくとも約35 mMのマグネシウムの存在下、上記IVT反応を行うことを含む。
【0024】
本発明の文脈において、「低減する(reducing)」又は代替的に「低減する(to reduce)」という用語は、dsRNAの形成を、「減らす」、「低下させる」、「最小限にする」、又は「減弱する」ことを意味する。したがって、試料が、通常の状況下、in vitro転写後に特定量のdsRNAを含有すると思われる場合において、「低減する(reducing)」という用語は、上記試料を本発明の方法に供した場合、dsRNAの上記量が、少なくなっていることを意味する。特には、dsRNAの量は、通常の状況と比べた場合、好ましくは、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減されている。
【0025】
本発明の文脈において、「形成」という用語は、上記in vitro転写反応におけるdsRNAの「出現」、「発生」、「始まり」、又は「生成」を意味する。具体的には、in vitro転写後に得られる分子は、典型的にはdsRNAを含むものの、本発明者らは、反応において増加した量のマグネシウムが存在することで、そのようなdsRNAの形成の低減がもたらされることを同定した。
【0026】
本発明の文脈において、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全に、又は実質的にリボヌクレオチド残基から構成されている分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2'位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。特に、この用語は、二本鎖RNAを指すが、一本鎖RNA、単離RNA、例えば部分的に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換えによって作製されたRNA、並びに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は変化によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを指すこともできる。そのような変化としては、例えばRNAの末端(複数の場合もある)への、又は内部での、例えば、RNAの1つ以上のヌクレオチドでの非ヌクレオチド物質の付加を挙げることができる。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば天然に存在しないヌクレオチド、又は化学的に合成されたヌクレオチド若しくはデオキシヌクレオチドもまた含むことができる。これらの変化したRNAは、類似体又は天然に存在するRNAの類似体と称される場合がある。
【0027】
本発明によれば、「RNA」という用語は、「mRNA」を含み、好ましくは「mRNA」に関し、「mRNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味し、鋳型としてDNAを使用して作製することができ、ペプチド又はタンパク質をコードする「転写物」に関する。mRNAは、典型的には、5'非翻訳領域(5'-UTR)、タンパク質又はペプチドのコード領域及び3'非翻訳領域(3'-UTR)を含む。mRNAは、細胞内及びinvitroで限られた半減期を有する。
【0028】
「修飾mRNA分子」という用語は、1つ以上の修飾ヌクレオシド(「修飾核酸」と名付ける)を有するmRNA分子を意味し、修飾ヌクレオシドは、有用な特性、例えば、mRNAが導入される細胞の自然免疫応答を実質的に誘導することがない等を有するものである。こうした修飾核酸は、タンパク質産生の効率、核酸の細胞内保持、及び接触した細胞の生存率を向上させるとともに、低下した免疫原性を持つ。適切な修飾ヌクレオシドの例としては、例えば、N1-メチルプソイドウリジンによるものが可能である。
【0029】
明白にする目的で、mRNAは、真核生物宿主によりタンパク質へと翻訳されることが可能な任意のコードRNA分子を包含する。
【0030】
好ましくは、mRNAは、DNAテンプレートを用いてinvitro転写により生成される。本発明の1つの実施形態において、RNAは、in vitro転写により得られる。in vitro転写法は、当業者に既知であり、精製直鎖DNAテンプレートを含むことができる。この精製直鎖DNAテンプレートは、プロモーターと、リボヌクレオチド三リン酸と、ジチオトレイトール(DTT)及びマグネシウムイオンを含む緩衝剤系と、スペルミジンと、T7 RNAポリメラーゼ等の適切なRNAポリメラーゼと、を含有する。転写反応に用いられる正確な条件は、特定用途に必要なRNA量に依存する。様々なin vitro転写キットが、市販されている。
【0031】
本発明の文脈において、「二本鎖RNA」又は「dsRNA」という用語は、お互いの内在相補配列が相補配列内のヌクレオチド塩基のワトソンクリック塩基対形成を介してハイブリダイズすることによりヘアピン等の顕著な二次構造を形成するのに十分な、内在相同性を持つ任意のRNA分子を意味する。顕著な二次構造は、一般に、略9塩基よりも長い相同性区間が関与するが、正確な長さは、ある程度、状況に及びそのような二次構造が分子に何かしらの生体機能を与えるかどうかに依存する。特に、in vitro転写後に得られる分子は、典型的には、2つの分離した相補性鎖を持つdsRNAを含み、大きさが、例えば、20ヌクレオチド~200ヌクレオチド、又は更には500ヌクレオチド超と様々である可能性がある。
【0032】
本発明の文脈において、dsRNAは、IVT反応で同定される副生成物として形成され、これは、T7 RNA依存性RNAポリメラーゼ活性に起因する可能性がある。特に、IVT反応の3種の主要な副生成物が、dsRNA分子の形成をもたらす可能性がある。1種目は、ランオフ生成物の3'伸長により形成され、ランオフ転写物の本体の相補配列に、シス(同じRNA分子に折り返すことによる)又はトランス(第二のRNA分子にアニーリングする)いずれかでアニーリングして、伸長した二本鎖を形成する。dsRNA分子の2種目は、アンチセンスRNA分子とランオフ転写物のハイブリダイゼーションにより形成される。アンチセンスRNA分子は、プロモーター非依存性及びランオフ転写物非依存性様式で形成されることが報告されている。あるいは、全長アンチセンスRNAのプロモーター非依存性転写もまた、T7 RNAPol駆動型IVT反応においてdsRNA生成の新規機構として報告されている。dsRNAの3種目は、シス(すなわち、同じ分子内)又はトランス(2つの異なる分子間)いずれかでの発育不全転写物のランダム対形成によるものである。本発明に従って、dsRNAは、IVT反応におけるRNA副生成物として記載される任意の種類のものを包含する。
【0033】
dsRNAの検出法は、免疫学的手法、例えば、免疫蛍光、ELISA、免疫ブロット、並びに抗体非依存性方法、例えば、核酸蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)等に、基本的に依存し、又はセルロース利用dsRNA単離もまた、dsRNA検出に使用されてきた。本明細書中使用される場合、及び実施例において記載される場合、免疫学的方法、例えば、抗dsRNA J2抗体免疫ブロット法は、抗体を、dsRNAが取り入れるA螺旋構造を特異的に認識する構造的プローブとして使用する。市販されているJ2抗dsRNA IgG2a(並びにそれより低頻度でIgG2a K1及びIgM K2のmAb又は9D5 mAb)が、dsRNA検出における絶対的標準となっている。そのうえさらに、無処置質量分析法が、異なる3'末端伸長dsRNA種の存在量及び長さの定量に使用可能である。
【0034】
本明細書中使用される場合、及び特に記載がない限り、「マグネシウム」又は「Mg」という用語は、全ての知られる生きた生物の全ての細胞の基礎核酸化学反応に必須の化学元素として理解されるはずである。300種を超える酵素が、それらの触媒作用にマグネシウムイオンを必要とし、そのような酵素として、ATPを使用する又は合成する酵素、並びにDNA及び/又はRNAを合成するのに他のヌクレオチドを使用する酵素が挙げられる。本発明に従って、Mg2+イオンは、記載されるマグネシウム形態のいずれかにより提供され、反応、例えば、T3、T7、SP6等のRNAポリメラーゼ、ピロホスファターゼ、及びDNアーゼIが駆動する反応を触媒するのに必要とされる。したがって、この要素は、全反応の全体を通じて提供される必要があり、酵素にとって特別な機能を有し、したがって、IVT産生量に影響を及ぼす。IVT反応にMgを高濃度で、好ましくは約35 mM~約150 mM、好ましくは約40mM~約100 mM、より好ましくは約45 mM~約75 mM、最も好ましくは約55 mMで添加すると、dsRNAの形成の低減がもたらされ、好ましくは、通常の状況と比較して、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減することが、特に見出された。
【0035】
特に、マグネシウム対NTPの比は、T7ポリメラーゼの触媒活性を通じた効率的IVTに影響を及ぼす極めて重要なパラメーターである。例えば、10 mMの各NTPと75 mMのマグネシウムアニオンとの組合せは、最適なIVT RNA産生量をもたらし、5 mMの各NTPでは、良さが半減し、20 mMの各NTPでは多すぎる。
【0036】
特定の実施形態において、IVT反応後の産生量は、通常の状況と比較して、損なわれていないか、又は好ましくは、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、少なくとも200%、更にはそれ以上増加している。特に、マグネシウムの量が多いほど、IVT反応からのRNA産生量が顕著に増加することが見出された。
【0037】
特定の実施形態において、IVT反応後のRNA完全性は、通常の状況と比較して、損なわれていないか、又は好ましくは、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、更にはそれ以上上昇している。RNA完全性は、任意の適切な手段により、例えば、キャピラリー電気泳動ピークプロファイルにより測定することができ、キャピラリー電気泳動ピークプロファイルは、バイオアナライザで得ることができる。具体的には、本明細書中行われた実験において、顕著な分解は観察されず、ピークプロファイルは、マグネシウムを24 mMと55 mMで対比して使用した条件でほぼ同一であった。
【0038】
本発明の特定の実施形態において、マグネシウム濃度は、約35 mM~約150 mM、好ましくは約40mM~約100 mM、より好ましくは約45 mM~約75 mM、最も好ましくは約55 mMである。
【0039】
幾つかの実施形態において、上記マグネシウム濃度は、少なくとも約35 mM、36 mM、37 mM、38 mM、39 mM、40 mM、41 mM、42 mM、43 mM、44 mM、45 mM、46 mM、47 mM、48 mM、49 mM、50 mM、51 mM、52 mM、53 mM、54 mM、55 mM、56 mM、57 mM、58 mM、59 mM、60 mM、61 mM、62 mM、63 mM、64 mM、65 mM、66 mM、67 mM、68 mM、69 mM、70 mMであることが可能である。特定の実施形態において、存在するマグネシウムの濃度は、好ましくは約35 mM、約45 mM、又は約55mMである。
【0040】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約35 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0041】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約40 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0042】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約45 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%低減する。
【0043】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約50 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0044】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約55 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0045】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約60 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0046】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約65 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0047】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約70 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0048】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約75 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0049】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約80 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0050】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約85 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0051】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約90 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0052】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約95 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0053】
幾つかの実施形態において、IVT反応において約100 mMのマグネシウムが存在すると、通常の状況と比較して、dsRNAの形成が、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減する。
【0054】
なおも更なる実施形態において、マグネシウムは、塩化マグネシウム(MgCl2)、酢酸マグネシウム(MgOAc2)を含む群から選択される形態にある。
【0055】
特定の実施形態において、マグネシウムは、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、オロト酸マグネシウム、グリシン酸マグネシウム、アスコルビン酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、ホウ酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、臭化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、又はそれらの任意の組合せを含む群から選択される形態にある。
【0056】
特に、in vitro転写(IVT)反応中、マグネシウムは、塩化マグネシウムの形態にある。
【0057】
更なる実施形態において、上記IVT反応は、ピロホスファターゼの存在下で行われる。
【0058】
本発明の方法の別の特定の実施形態において、ピロホスファターゼ濃度は、約0.01 U/ml~約40 U/ml、好ましくは約0.1 U/ml~約20 U/ml、より好ましくは約1 U/ml~約10 U/ml、最も好ましくは約5 U/mlである。
【0059】
幾つかの実施形態において、上記ピロホスファターゼ濃度は、少なくとも約0.01 U/mlであることが可能である。特定の実施形態において、存在するピロホスファターゼの濃度は、好ましくは約5 U/mlである。
【0060】
本明細書中使用される場合、「ピロホスファターゼ」という用語は、ジホスファターゼとしても知られており、ジホスフェート結合に作用する酸無水物ヒドロラーゼと理解されるはずである。この用語は、好ましくは、無機ピロホスフェートの加水分解を触媒してオルトホスフェートを形成する無機ピロホスファターゼに関連する。無機ピロホスフェートは、ヌクレオシド三リン酸が成長中の鎖に組み込まれる/重合する時に放出される。ピロホスフェートは、RNA重合の阻害剤であり、したがって、除去することで、IVTにおけるRNA産生量の増加を招く。Mgイオンは、結晶ピロホスファターゼの触媒活性に必要である。
【0061】
更なる態様において、ピロホスファターゼは、リン酸エステルの加水分解を触媒するタバコ酸ピロホスファターゼ、ピロホスフェート基を持つ有機分子に作用する各種有機ピロホスファターゼ(ただし、末端結合に作用するトリホスファターゼを除く)、チアミンピロホスファターゼを含む列挙からも、選択することができる。
【0062】
本発明の特定の実施形態において、上記IVT転写反応は、金属キレート剤の添加により終了し、金属キレート剤は、例えば、以下を含む列挙から選択されるものである:BAPTA(1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-テトラ酢酸)、DFOA(デフェロキサミンメシル酸塩)、ジメトキシニトロフェナミン(Dimethoxynitrophenamine)(1-(2-ニトロ-4,5-ジメトキシフェニル)-1,2-ジアミノエタン-N,N,N',N'-テトラ酢酸)、EDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-テトラ酢酸)、CDTA(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)テトラ酢酸)、DPTA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)、PIH(ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン)、TPEN(N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン)。
【0063】
特定の実施形態において、上記IVT転写反応は、EDTA等の金属キレート剤の添加により終了する。
【0064】
本明細書中使用される場合、「EDTA」という用語は、金属イオンのスカベンジャーとして作用するアミノポリカルボン酸と理解されるはずである。これは、金属依存性酵素の反応性のアッセイとして又はDNA、タンパク質、及び多糖類への損傷を抑制するためのいずれかで、金属依存性酵素の不活化をもたらす。EDTAは、金属イオンのキレート化に加えて、Taqポリメラーゼ、dUTPアーゼ、MutT等のdNTP加水分解酵素に対する、選択的阻害剤としても作用する。
【0065】
特に、本発明において使用する場合、EDTAは、マグネシウム等の二価カチオンをキレートし、RNAが酵素不活化中に分解することから保護するのに必要である。ヌクレアーゼ活性、特にRNAヌクレアーゼは、二価カチオンであるマグネシウムの濃度に高く依存する。特に、EDTA等の金属キレート剤1分子は、1つの金属イオンをキレートすることができることが知られている。金属キレート剤の添加は、したがって、潜在的に2つの利益を有する。1つとして、これは、補因子として金属イオンが存在することを必要とする酵素反応を止めることになり、2つとして、これは、金属イオンをキレートすることで、凝集体の形成を阻止することになる。
【0066】
なおも別の特定の実施形態において、上記金属キレート剤の濃度は、約10 mM~約50 mM、好ましくは約20mM~約30 mM、より好ましくは約24 mMである。
【0067】
特定の実施形態において、上記in vitro転写反応におけるRNAは、有キャップ及び無キャップRNA、修飾及び未修飾RNA、又はポリ(A)テールを持つ及び持たないRNA、あるいはそれらの任意の組合せであることが可能である。リボソームによる効率的翻訳がすぐにできる成熟したmRNAは、2つの主要な修飾、5'キャップ構造及びポリ(A)テールを有する。そのうえ、マグネシウムを増量して使用するIVT反応は、短鎖RNA分子に向かっても長鎖RNA分子に向かっても妨げられない、すなわち、これは、小さいテンプレート及び長いテンプレートで等しく上手くいく。
【0068】
本発明に従って、RNA分子、例えば、メッセンジャーRNA(すなわちmRNA)には、以下の種類が含まれる:無キャップ未修飾RNAでありポリ(A)テールを持たない、無キャップ未修飾RNAでありポリ(A)テールを持つ、無キャップ修飾RNAでありポリ(A)テールを持たない、無キャップ修飾RNAでありポリ(A)テールを持つ、有キャップ未修飾RNAでありポリ(A)テールを持たない、有キャップ未修飾RNAでありポリ(A)テールを持つ、有キャップ修飾RNAでありポリ(A)テールを持たない、有キャップ修飾RNAでありポリ(A)テールを持つ。
【0069】
本発明の文脈において、「有キャップRNA」という用語は、5'末端に、5'-5'トリホスフェート結合で接続したグアノシン若しくは修飾グアノシン、好ましくは7-メチルグアノシン(N7-メチルグアノシン、すなわちm7G)又は類似体が結合しているRNA分子と理解されるべきである。RNA構造の「キャップ付加」は、様々な細胞プロセスで重要な役割をになっており、そのような細胞プロセスとして、翻訳開始、スプライシング、細胞内輸送、及び代謝回転が挙げられる。有キャップmRNAのin vitro合成は、バクテリオファージRNAポリメラーゼ(T7、SP6、又はT3)介在型in vitro転写により行われ、この転写は、転写物の5'末端にキャップ類似体を同時転写で組み込む。あるいは、酵素による転写後キャップ付加を使用して、IVT生成したRNA分子に5'CAPを付加することもできる。
【0070】
本明細書中使用される場合、「キャップ類似体」とは、7-メチルグアノシン(m7G)と生物学的に等価なキャップであり、従来の類似体、例えば、G(5')ppp(5')G、m7G(5')ppp(5')G、又はm2,2,7G(5')ppp(5')Gを含むだけでなく、抗リバースキャップ類似体(ARCA)3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')G、非メチル化キャップ類似体G(5')ppp(5')G、A+1部位のメチル化キャップ類似体m7G(5')ppp(5')A;A+1部位の非メチル化キャップ類似体G(5')ppp(5')Aも含む。抗リバースキャップ類似体(ARCA)は、3'OH基(m7Gに近い)が-OCH3で置き換えられており、このため強制的にARCAが正しい方向で組み込まれ、続いて翻訳可能なmRNA集団をもたらす、修飾キャップ類似体である。
【0071】
一部の好適な実施形態において、本発明の方法で使用されるmRNAは、いわゆるCAP-1構造を持つ5'キャップ構造を有し(CleanCap)、このことは、キャップヌクレオチドに対して最後から2番目のヌクレオチドにおいてリボースの2'ヒドロキシルが、以下に図解するように、メチル化されていることを意味する。
【化1】
【0072】
本発明の文脈において、「無キャップRNA」という用語は、「有キャップRNA」の定義において定義されるとおりのキャップを持たない任意のRNA分子と理解されるはずである。すなわち、特定の実施形態において、「無キャップmRNA」は、5'末端に、5'-5'トリホスフェート結合を通じた7-メチルグアノシンとの連結、又は先に定義したとりの類似体との連結がないmRNAを指す可能性がある。
【0073】
本発明の文脈において、「修飾RNA」という用語は、少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、ヌクレオシド、又は塩基、例えば、修飾プリン若しくは修飾ピリミジンを有するRNA分子と理解されるはずである。修飾ヌクレオシド又は塩基は、A、U、C、又はG(それぞれ、ヌクレオシドの場合はアデノシン、ウリジン、シチジン、又はグアノシンであり、糖部分のみを指す場合は、アデニン、ウラシル、シトシン、又はグアニンである)ではない、任意のヌクレオシド又は塩基であることが可能である。
【0074】
本発明の文脈において、「未修飾RNA」という用語は、「修飾RNA」の定義において定義されるとおりの修飾を含まない、任意のRNA分子と理解されるはずである。
【0075】
本明細書中使用される場合、「ポリ(A)テール」という用語は、複数のアデノシン一リン酸を含む部分として理解されるはずであり、これは当該技術分野で既知である。ポリ(A)テールは、一般に、ポリアデニル化と呼ばれる工程中に生成し、ポリアデニル化は、翻訳後修飾の1つであって、一般に、成熟メッセンジャーRNAの生成中に起こる。そのようなポリ(A)テールは、上記mRNAの安定性及び半減期に寄与し、様々な長さが可能である。特に、ポリ(A)テールは、10アデノシンヌクレオチド以上であることができ、これには、20アデノシンヌクレオチド以上であることが含まれ、これには、100アデノシンヌクレオチド以上であること、例えば、約120アデノシンヌクレオチドであることが含まれる。
【0076】
本発明の文脈において、「ポリ(A)テールを持たない」という用語は、「ポリ(A)テール」の定義において記載されるとおりのポリ(A)テールを有さない任意のRNA分子と理解されるはずである。
【0077】
本発明の要旨として、「修飾及び未修飾」という用語は、「有キャップ及び無キャップ」とは異なって解釈され、後者は、具体的には、RNA分子の5'末端の塩基に関するものである。同じく、「修飾及び未修飾」という用語は、「ポリ(A)テールを持つ及びポリ(A)テールを持たない」とも異なって解釈される。
【0078】
更なる態様において、本発明は、IVT反応における少なくとも約35 mMのマグネシウムの使用を提供し、これにより上記IVT反応中の二本鎖RNA(dsRNA)の形成が低減される。
【実施例】
【0079】
材料及び方法
粗IVT反応物又は精製IVT RNA試料のスポットを、正電荷を帯びたナイロン膜(Zeta-Probeブロッティング膜、Bio-Rad)につけた。膜を、5%(w/v)脱脂粉乳含有TBS-T緩衝液(20 mMのTris、pH7.4、150 mMのNaCl、0.05%(v/v)Tween-20)でブロッキングした。dsRNA検出のため、膜を、J2抗dsRNA抗体(1:5000;Scicons)とともに、4℃で一晩インキュベートした。ブロットを、Ms IgG2a、HRPに対するヤギpAb(Abcam)でプローブ探査した。dsRNA標準希釈液(1000 bp)を用いて、線形標準曲線を作成した。
【0080】
結果
dsRNAの低減
二本鎖RNA(dsRNA)副生成物形成は、反応におけるマグネシウム濃度を上昇させることにより、invitro転写(IVT)中、低減させることが可能である。無キャップRNA並びにCleanCap RNAの両方について、IVT反応を24 mMのMgCl
2で行った場合、IVTにおいて55 mMのMgを用いて行った反応よりも多い量のdsRNA形成が示された(
図1)。MgCl
2濃度を55 mMにすると、24 mMのMgCl
2を用いたIVT反応に比べて、平均で62%、dsRNA形成が低減した。dsRNAの低減は、抗dsRNA J2抗体を用いた免疫ブロットで確認された(
図2)。使用した組成物の詳細及び
図2に該当する定量化データは、以下の表に見ることができる。
【0081】
【0082】
【0083】
RNA産生量及び完全性
IVT反応後のRNA産生量は、無キャップRNA並びにCleanCapRNAの両方について、24 mMのMgCl
2を用いた反応に比べて、55 mMのMgCl
2の存在下でも顕著に損なわれてはいない(
図3パネルA及びパネルB)。また、RNAの完全性は、IVTを55 mMのMgCl
2で行った場合、24 mMのMgCl
2を用いた反応に比べても、損なわれていない(データは示さず)。
【0084】
滴定結果
更に滴定実験を行った。この実験では、マグネシウムの濃度漸増を用いた。以下の表から明らかなとおり、dsRNA濃度は、マグネシウムの濃度を上昇させて用いた場合に顕著に低下し、35 mMのマグネシウムは、24 mMのマグネシウムに比べて50%、dsRNAの量を低減させる。
【0085】
【0086】
結論
in vitro転写ミックスに対し、マグネシウム濃度を増加させて付加することで、二本鎖RNAの形成が顕著に低減した。例えば、MgCl2濃度を55 mMにすると、24 mMのMgCl2を用いたIVT反応に比べて平均で62%、dsRNA形成が低減した。記載の方法は、無キャップRNA、CleanCap RNA、N1U修飾RNA、ポリAテールを持つ及び持たないRNAをはじめとする、様々な種類のmRNAの製造プロセスに適合性を持つ。主な利点は、組成物を更に精製するためのmRNA合成ワークフローへの追加工程を、最小限にすることが可能ということである。
【0087】
参照文献
MuX, Greenwald E, Ahmad S, Hur S. An origin of the immunogenicity of in vitrotranscribed RNA. Nucleic Acids Res. 2018 Jun 1;46(10):5239-5249.
【0088】
図面訳
図1A
quantified bandintensity 定量化バンド強度
Uncapped RNA 無キャップRNA
図1B
quantified bandintensity 定量化バンド強度
図3A
yield (μg) 産生量(μg)
Reaction yield (μg)uncapped RNA 反応産生量(μg)無キャップRNA
図3B
yield (μg) 産生量(μg)
Reaction yield (μg) 反応産生量(μg)
【国際調査報告】