(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】mRNA組成物の貯蔵法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240528BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
B01J45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572726
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2022064237
(87)【国際公開番号】W WO2022248566
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520265930
【氏名又は名称】イーザアールエヌーエー イムノセラピーズ エンヴェー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】チャリス,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】バウアー,ルボス
(57)【要約】
本発明は、RNA含有組成物の分野に、特には凍結貯蔵用にin vitro転写mRNA含有組成物を安定化する分野に関する。具体的には、本発明は、そのようなRNA含有組成物において、凍結及びそれに続いて解凍した場合でさえも、凝集物/沈殿物の形成を低減又は回避する解決策を提供する。このため、本発明は、凍結又は解凍されるRNA含有組成物の凍結前に、上記組成物に金属結合キレート剤を添加することによる、上記組成物において凝集物/沈殿物の形成を阻止する手段及び方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5'CAP-1構造を有するin vitro転写mRNAを含む凍結又は解凍された組成物において、凝集の形成を低減及び/又は阻止する方法であって、前記組成物を凍結する前に、前記組成物に金属結合キレート剤を添加することを含む、方法。
【請求項2】
前記組成物は、二価金属イオンを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属結合キレート剤は、二価金属イオンと結合することができる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記二価金属イオンは、Ca
2+イオン、Cu
2+イオン、Fe
2+イオン、Zn
2+イオン、及びMg
2+イオンを含む列挙から選択され、好ましくはMg
2+イオンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属結合キレート剤は、前記組成物中の前記二価金属イオンの等モル濃度(mol/dm
3)以上で使用される、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属結合キレート剤は、BAPTA(1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)、DFOA(デフェロキサミンメシル酸塩)、ジメトキシニトロフェナミン(1-(2-ニトロ-4,5-ジメトキシフェニル)-1,2-ジアミノエタン-N,N,N',N'-四酢酸)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EDTAカルシウムナトリウム、EDTA四ナトリウム、EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸)、CDTA(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)四酢酸)、DPTA(ジエチレントリアミン五酢酸)、PIH(ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン)、TPEN(N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン)を含む列挙から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記凍結又は解凍された組成物は、-20℃以下で貯蔵されることになる、又は貯蔵されていた、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記解凍された組成物は、約20℃~30℃で解凍されることになる、又は解凍されていた、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
CAP-1構造を有するin vitro転写mRNA分子を含む凍結又は解凍された組成物における凝集の形成を低減及び/又は阻止するための金属結合キレート剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNA含有組成物の分野に、特には凍結貯蔵用にin vitro転写mRNA含有組成物を安定化する分野に関する。具体的には、本発明は、そのようなRNA含有組成物において、凍結及びそれに続いて解凍した場合でさえも、凝集物/沈殿物の形成を低減又は回避する解決策を提供する。このため、本発明は、凍結又は解凍されるRNA含有組成物の凍結前に、上記組成物に金属結合キレート剤を添加することによる、上記組成物において凝集物/沈殿物の形成を阻止する手段及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
mRNA/RNA含有組成物のin vivo利用分野における主な課題の1つは、RNAの安定性である。本質的に、二本鎖DNAは一本鎖に比べてはるかに安定であり、一本鎖は、二本鎖よりもずっと柔軟であり弱い内部結合を形成し得る。また、RNAは、リボース糖の第二炭素にヒドロキシル基を有し、これが、糖リン酸骨格の切断の可能性を高める。また、RNAは、内在リボヌクレアーゼによる分解に対して非常に敏感であるが、内在リボヌクレアーゼはRNA試料を凍結する際に迅速に不活化し得る。したがって、RNAは、典型的には、長期貯蔵用に凍結される。
【0003】
invitro転写RNAは、更なるプロセシング又は精製に直接使用される可能性がある一方で、場合によっては、例えば、更なるプロセシングが別の施設で行われる場合、又は更なるプロセシング用に大量のバッチを蓄積させる等、最初にRNAを凍結することが有利である場合がある。しかしながら、in vitro転写後であるが更なるプロセシング前にRNAを凍結するような場合において、本出願の発明者らは、特定のmRNA分子の低温貯蔵が、試料の解凍後にそれらの凝集をもたらすことを特定した。明らかに、解凍後のmRNA分子の凝集は、非常に望ましくなく、特に、更なるプロセシング/精製がなおも必要とされる場合にそうである。例えば、試料を引き続きカラム精製工程に供する場合、沈殿は、in vitro転写mRNAの損失の主な原因であると考えられている。したがって、この問題の解決策を提供することが、本発明の目的であった。
【0004】
凝集物の形成は、CAP-1構造を有するin vitro転写mRNA試料において、最も顕著には、二価金属イオンの存在下で特に観察された。そのような金属イオンは、典型的には、in vitro転写プロセス中、そこで使用される酵素の補因子として存在する。
【0005】
本発明の発明者らは、期せずして、金属イオン、特にMg2+等の二価金属イオンが、mRNA_IVTミックスを0℃より低温で貯蔵した後に解凍した後の、ミックスの沈殿プロセスに関与する要素の1つであることを見出した。EDTA等の金属結合キレート剤を添加してMg2+等の金属イオンを捕捉することが、CAP-1構造を有するmRNA分子の沈殿問題を効率的に解決した。本発明者らは、少なくとも3つの状況下で沈殿が生じることを示す。第一に、CAP-1構造を含むmRNA試料は、沈殿を示す。第二に、沈殿は、0℃より低温で貯蔵した後に解凍された試料においてのみ生じる。第三に、沈殿は、Mg2+カチオン等の金属イオンを含有する試料において生じる。
【0006】
したがって、本発明は、そのようなRNA含有組成物において、凍結及びそれに続いて解凍した後でさえも、凝集物/沈殿物の形成を低減又は回避する解決策を提供する。IVT反応の終了時に、EDTA等の金属結合キレート剤が存在することは、少なくとも3つの大きな利益をもたらす。金属結合キレート剤の存在は、(i)RNAの電荷及び立体配座均一性の維持、並びに(ii)或る特定条件での凝集物形成の阻止に加えて、(iii)RNA分解も阻止する。理由は、ヌクレアーゼとして作用する金属依存性酵素が不活化するからである。EDTAが凝集及びRNA分解を阻止する能力は、mRNA IVTミックスの長期貯蔵が必要になるシナリオにおいて、非常に重要な役割を担う可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
第一の態様において、本発明は、5'CAP-1構造を有するin vitro転写mRNAを含む凍結又は解凍された組成物において、凝集の形成を低減及び/又は阻止する方法であって、前記組成物を凍結する前に、前記組成物に金属結合キレート剤を添加することを含む、方法を提供する。
【0008】
本発明の特定の実施の形態において、前記組成物は、二価金属イオンを更に含む。
【0009】
本発明の別の特定の実施の形態において、前記金属結合キレート剤は、二価金属イオンと結合することができる。
【0010】
特定の実施の形態において、前記二価金属イオンは、Ca2+イオン、Cu2+イオン、Fe2+イオン、Zn2+イオン、及びMg2+イオンを含む列挙から選択され、好ましくはMg2+イオンである。
【0011】
更に別の特定の実施の形態において、前記金属結合キレート剤は、前記組成物中の前記二価金属イオンの等モル濃度(mol/dm3)で、又はその濃度より高い濃度で使用される。
【0012】
本発明の特定の実施の形態において、前記金属結合キレート剤は、BAPTA(1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)、DFOA(デフェロキサミンメシル酸塩)、ジメトキシニトロフェナミン(1-(2-ニトロ-4,5-ジメトキシフェニル)-1,2-ジアミノエタン-N,N,N',N'-四酢酸)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EDTAカルシウムナトリウム、EDTA四ナトリウム、EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸)、CDTA(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)四酢酸)、DPTA(ジエチレントリアミン五酢酸)、PIH(ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン)、TPEN(N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン)を含む列挙から選択される。
【0013】
本発明の特定の実施の形態において、前記凍結又は解凍された組成物は、-20℃以下で貯蔵されることになる、又は貯蔵されていた。
【0014】
別の特定の実施の形態において、前記解凍された組成物は、約20℃~30℃で解凍されることになる、又は解凍されていた。
【0015】
更なる態様において、本発明は、CAP-1構造を有するin vitro転写mRNA分子を含む凍結又は解凍された組成物における凝集の形成を低減及び/又は阻止するための金属結合キレート剤の使用も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書中、上記で既に詳細を記載したとおり、本発明は、凍結貯蔵用にin vitro転写mRNA含有組成物を安定化することに関する。特には、本発明は、凍結試料における沈殿を回避又は低減し、それによりその後の精製、例えばカラム沈殿等の後のmRNA産生量を著しく増加させることに関する。特には、IVT(in vitro転写)後、得られるmRNA組成物を、更なるプロセシングの前に、更なるプロセシングが異なる場所/施設で行われる場合等に、一定期間貯蔵することが有益である場合がある。しかしながら、mRNAの性質ゆえに、そのような貯蔵は、好ましくは、-20℃以下の低温で行われる。しかしながら、本発明者らは、IVT mRNAミックスを低温で貯蔵することが、凝集物/沈殿物の形成をもたらすことを見出したが、凝集物/沈殿物は、更なるプロセシングにとって明らかに望ましくない。これに対して、本発明者らは、そのような沈殿物の形成の原因、及びそのような沈殿物を回避/低減する解決策を特定する研究計画を設定した。その詳細は、本明細書中、以下の実施例部分で見ることができる。
【0017】
これらの知見に基づき、本発明の第一の態様は、5'CAP-1構造を有するin vitro転写mRNAを含む凍結又は解凍された組成物における凝集の形成を低減及び/又は阻止する方法に関し、上記方法は、上記組成物を凍結する前に、上記組成物に金属結合キレート剤を添加することを含む。
【0018】
本発明の文脈において、「低減する(reducing)」又は代替的に「低減する(to reduce)」という用語は、上記試料における凝集の形成を「減らす」、「低下させる」、「最小限にする」、又は「減弱する」ことを意味する。したがって、試料が、通常の状況下、凍結後に特定量の凝集物を含有すると思われる場合において、「低減する(reducing)」という用語は、上記試料を本発明の方法に供した場合、凝集物の上記量が、少なくなっていることを意味する。特には、凝集物の量は、未処理試料と比べた場合、好ましくは、少なくとも10%、例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%低減されている。
【0019】
本発明の文脈において、「阻止する(preventing)」又は代替的に「阻止する(to prevent)」という用語は、上記試料における凝集の形成を、完璧に(すなわち100%)又は少なくとも著しく、「止める」、「防ぐ」、「抑止する」、「遮断する」、又は「中断する」ことを意味する。この場合、著しくとは、未処理試料と比べた場合、少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%であることを意味する。
【0020】
凝集物の量は、試料の目視検査、又は代替的に適切な技法を用いた実験測定により、特定することができる。例えば、沈殿物形成/濁度の尺度として特定波長(例えば、600 nm)でのUVスペクトルの変化を測定することにより、UVスペクトル分析を凝集の測定に使用することができる。シグナル測定の基本原則は、特定波長での光散乱の検出であり、この場合、曇った(沈殿形成試料)試料の方が沈殿物不含試料よりも電気信号が弱くなるようにすることで、試料を通過する光透過率が、濁度計として機能する。
【0021】
本発明の文脈において、「形成」という用語は、上記試料における凝集物の「出現」、「発生」、「始まり」、又は「生成」を意味する。具体的には、in vitro転写後に得られる試料は、典型的には凝集物を含まないものの、本発明者らは、特定要素の存在が、凍結/解凍サイクルに際してそのような凝集物の形成をもたらす可能性があることを同定した。
【0022】
本発明の文脈において、「凝集物」又は代替的に「凝集」という用語は、組成物中に存在する要素が、凝集物、クラスター、凝集塊等を形成するほどに互いに非常に接近するような、それら要素の「凝塊」、「クラスター形成」、「凝集塊形成」、又は「集積」を意味し、それらの形成は目視検査に十分な程大きいかどうかを問わず、例えば、曇った外観の試料のような形態もあれば、それよりも大きくて視認可能な凝集物の群れの形態もある。上記凝集は、上記組成物を含む試験管の底に凝集物の層を形成するのに十分な大きさの沈殿物の形成をもたらす場合もある。
【0023】
本発明の文脈において、「凍結した」又は代替的に「凍結する」という用語は、0℃未満に「冷やす」、「凍らせる」、又は「温度を下げる」ことを意味する。好ましくは、本発明の組成物は、温度約-20℃以下で凍結させる。特定の実施形態において、本発明の組成物は、温度約-80℃で凍結させる場合がある。
【0024】
本発明の文脈において、「解凍した」又は代替的に「解凍する」という用語は、約0℃以上に「脱霜する」、「脱氷する」、又は「温度を挙げる」ことを意味する。好ましくは、本発明の組成物は、室温、例えば、約20℃~25℃、又はそれ以上で解凍させる。特定の実施形態において、本発明の組成物は、温度約30℃、例えば、約35℃、約40℃、約45℃、約50℃、約55℃、約60℃、約65℃、約70℃、又は約75℃で解凍させる場合がある。
【0025】
凍結及び解凍のサイクル1回で、in vitro転写mRNA試料において、特に5'CAP-1構造を有するものにおいて、凝集物の形成がもたらされることが、特に見出された。明白に、複数回の凍結及び解凍のサイクルは、この観察された効果を悪化させるばかりである。
【0026】
本発明の文脈において、「金属キレート剤」という用語は、金属イオンと結合することができる分子を意味する。したがって、金属キレート剤は、組成物中の金属イオンが、上記組成物中の負電荷を帯びたイオンとそれ以上相互作用し得ないように、上記組成物中の金属イオンを捕捉するために使用することができる。
【0027】
観察された凝集は、金属陽イオンを含む組成物において特に顕著であった。本発明の文脈において、「金属陽イオン」は、カチオン、特に、正味の電荷が正である金属を意味する。カチオンは、プロトンより少ない電子を持つ正電荷を帯びたイオンである、すなわち電子を失っている。本発明の文脈において、凝集は、2の電荷を帯びた(すなわち二価)金属イオン又はカチオンで最も顕著であった。2電子を失ったイオンは複数存在し、典型的には、M2+と注記付けられる。ここで、「M」は、金属原子を表し、「2+」は二価の電荷を表す。
【0028】
したがって、本発明の具体的な実施形態において、組成物は、金属陽イオン、特に二価金属イオンを更に含むことができる。特定の実施形態において、上記二価金属イオンは、Ca2+イオン、Cu2+イオン、Fe2+イオン、Zn2+イオン、及びMg2+イオンを含む列挙から選択され、好ましくはMg2+イオンである。代替的に、適切な二価金属イオンとしては、例えば、Ba2+イオン、Be2+イオン、Pb2+イオン、Mn2+イオン、及びSn2+イオンが可能である。
【0029】
したがって、本発明の文脈において、二価金属イオンと結合することができる金属結合キレート剤を使用することが有利である。本発明の具体的な実施形態において、上記金属結合キレート剤は、BAPTA(1,2-ビス(2-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N',N'-四酢酸)、DFOA(デフェロキサミンメシル酸塩)、ジメトキシニトロフェナミン(Dimethoxynitrophenamine)(1-(2-ニトロ-4,5-ジメトキシフェニル)-1,2-ジアミノエタン-N,N,N',N'-四酢酸)、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EDTAカルシウムナトリウム、EDTA四ナトリウム、EGTA(エチレングリコール-ビス(β-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸)、CDTA(1,2-シクロヘキシレンジニトリロ)四酢酸)、DPTA(ジエチレントリアミン五酢酸)、PIH(ピリドキサールイソニコチノイルヒドラゾン)、TPEN(N'-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン)を含む列挙からのものが可能である。
【0030】
特に、EDTA等の金属キレート剤1分子は、1つの金属イオンをキレートすることができることが知られている。したがって、凝集を最大限低減する目的で、組成物から二価金属イオンを十分な量捕捉するためには、上記組成物中の上記二価金属イオンの等モル濃度(mol/dm3)以上で金属結合を使用することが有利である。
【0031】
金属キレート剤の添加は、潜在的に3つの利益を有する。第一に、これは、補因子として金属イオンが存在することを必要とする酵素反応を止めることになり、第二に、これは、金属イオンをキレートすることで、凝集物の形成を阻止することになる。最後に、金属キレート剤の添加は、RNAの均一性を維持する助けとなる。理由は、二価イオンが、RNAの電荷及び立体配座不均一性を創出する非特異的相互作用に寄与するからである。
【0032】
特定の実施形態において、in vitro転写mRNA分子は、5'CAP-1、5'CAP-2、5'm6Am構造、又はそれらの誘導体を有する可能性がある。真核生物の5'キャップは、トリホスフェート架橋により第一ヌクレオチドに接続した7-メチルグアノシン(m7G)からなり、ARCAキャップ類似体(5'CAP-0類似体)として知られる構造を形成する。本発明の文脈において、「5'CAP-1」という用語は、第一のキャップ近位ヌクレオチドのリボース糖の第二炭素に追加のメチル基を持つ(2'モノメチル化)CAP-0構造を意味し、例えば、本明細書中、以下で表される:
【化1】
【0033】
本発明の文脈において、「5'CAP-2」という用語は、第二のキャップ近位ヌクレオチドのリボース糖の第二炭素に追加のメチル基を持つ(2'ジメチル化)CAP-1構造を意味する。本発明の文脈において、「5'm6Am」構造という用語は、第一のヌクレオチドが第六窒素にメチル基を持つアデノシンであってN6-メチルアデノシン(m6Am)を形成しているCAP-1構造を意味する。本明細書中において使用される場合、キャップ付加は、mRNA製造中のキャップ付加戦略が関与する場合がある。具体的な実施形態において、キャップ付加は、転写中にキャップ類似体を組み込む「同時転写キャップ付加」を指す場合がある。例えば、CleanCap(商標)技術は、天然のCap1構造を生成する同時転写5'キャップ付加の専売解決策である。別の実施形態において、キャップ付加は、「転写後キャップ付加」を指す場合があり、この場合、キャップ類似体は、酵素を利用した方法を用いて、mRNA合成後に組み込まれる。
【0034】
更なる態様において、本発明は、CAP-1構造を有するin vitro転写mRNA分子を含む凍結又は解凍された組成物における凝集物の形成を低減及び/又は阻止するための、金属結合キレート剤の使用も提供する。
【実施例】
【0035】
以前の知見から、CleanCap(商標)(すなわち、5'CAP-1構造の1種)を含有するin vitro転写mRNAミックス(すなわちIVT_mRNAミックス)は、冷却パックに移送中若しくは移送後又は-20℃で貯蔵後、沈殿を生じることが示されている。この沈殿は、特に、試料が引き続きカラム精製工程に供される場合、in vitro転写mRNAの損失の主な原因であると考えられている。したがって、本明細書中、以後で詳細に記載される実施例は、そのような沈殿を招く条件、及び沈殿を回避するか少なくとも低減させ、それにより更なる精製工程後でさえもmRNA産生量を増加させる解決策を解説する。
【0036】
実施例1:5'CAP-1を持つin vitro転写mRNAの貯蔵後の沈殿
この実験では、DNAアーゼI処理の直後にIVT_mRNAミックスを1.5倍量のWFI(注射用水)で希釈することにより、試料の沈殿が回避可能であるかどうかを調べた。この希釈は、IVT_mRNAミックスの2.5倍希釈に相当する。そのうえさらに、このプロトコルは、IVT_mRNAミックスの貯蔵条件(4℃及び-20℃で24時間)及びその後の解凍がmRNAの完全性に対して及ぼす影響を試験する目的もあった。さらに、mRNAがIVT_mRNAミックスにおいて共沈殿することの、可能性の高い根本的原因を検証した。ヒトgp100、huCD40L、huCD70、及びTLR4caをコードする4種の異なるIVT_mRNAミックスの小規模生成に、プロトコルを適用した。これら4種の例は、長さ、GC含有量、及び二次構造の最小自由エネルギーの異なるmRNAを代表する。陰性対照として、線形化DNAテンプレートの代わりにWFIを用いた。
【0037】
実験の設定及び結果
gp100、huCD40L、huCD70、及びTLR4cacoをコードする未修飾mRNAにCleanCap(商標)構造をmRNAの5'末端に持たせたものを、0.8ml生成させた。陰性対照として、DNAテンプレートをWFIで置き換えた反応物0.8 mlを行う。DNアーゼ処理(800U/mlを30分間)後直ちに、4種のIVT_mRNAミックスそれぞれ(0.8ml)及び対照反応物を、十分に混合し、エッペンドルフ管に分注する(各0.2 mlの分量の試料20本)。
0.2mlの各IVT_mRNAミックス及び対照ミックスを、4℃で24時間維持
0.2mlの各IVT_mRNAミックス及び対照ミックスを、直ちに1.5倍量のWFI(0.3 mlのWFIに等しい)で希釈し、4℃で24時間維持。
0.2mlの各IVT_mRNAミックス及び対照ミックスを、-20℃で24時間維持。
0.2mlの各IVT_mRNAミックス及び対照ミックスを、直ちに1.5倍量のWFI(0.3 mlのWFIに等しい)で希釈し、-20℃で24時間維持。
【0038】
24時間後、試料を、30℃に設定したブロックヒーターに10分間入れておいた。次の工程では、試料を室温にして、沈殿の兆候について目視で評価した。沈殿物の存在について、写真で記録した(表1)。
【0039】
【表1】
表1:IVT_mRNAミックスの沈殿を目視評価。(-)沈殿なし(+)沈殿あり
【0040】
表1に詳細に示したとおり、4℃で貯蔵した試料は、希釈に関係なく、沈降沈殿物の可視兆候が観察されなかった。唯一の例外はgp100であり、これは、未希釈及び希釈状態両方で、4℃で曇っていた。驚いたことに、希釈され(2.5倍)及び-20℃で貯蔵された試料全てにおいて、沈降沈殿物が形成された。-20℃で貯蔵された未希釈試料のうち2種(gp100及びWFI陰性対照)で、沈降沈殿物が形成された。結果に基づき、IVT_mRNAミックスをWFIにただ希釈するだけでは、-20℃で貯蔵する際の沈殿問題を解決するには不十分であると結論づけることができる。4℃での貯蔵は、より有望であるように思われる。理由は、この温度で沈降沈殿物が検出されなかったからである。しかしながら、4℃で貯蔵することの主な短所は、RNA分解のリスクが高くなることである。
【0041】
表1にあるとおり、全ての試料が沈殿物を形成した唯一の条件は、希釈し-20℃で貯蔵した後であった。更に分析するため、これらの沈降沈殿物を遠心し(13000 rpmで10分間)、WFIに溶解させた。溶解した沈殿物中のRNA量を特定した(表2)。最も大量にRNAが見つかったのは、gp100試料であった。このRNAは、貯蔵後の沈殿物形成に対して最も敏感であることがわかった。なお、これらの試料が依然としていくらかの遊離NTPを含有している可能性があることに注意しなければならない。理由は、これらにはなにも精製を行っていなかったからである。このことは、陰性対照反応物中にNTPが存在することにより裏付けられる。
【0042】
【0043】
実施例2:凍結/解凍したIVT_mRNAミックスの沈殿の原因
IVT_mRNAミックスを2.5倍希釈しても、-20℃で貯蔵後の試料の沈殿を阻害しなかったため(実施例1を参照)、沈殿の根本的原因の調査を開始した。なお、CleanCap(商標)(すなわちCC)キャップ類似体(5'CAP-1類似体)を反応に用いたmRNA IVTミックスでのみ、沈殿が生じたことに注意が必要である。ARCAキャップ類似体(5'CAP-0類似体)を用いるレガシーIVT手順は、貯蔵後の沈殿の兆候を何も示さなかった(データは示さず)。DNAテンプレートを持たず、論理的にRNAを持たない陰性対照もまた、-20℃で貯蔵及び続く解凍後に沈殿物を形成したため、核酸自身が、沈殿を開始させる一因ではないと仮定することは、合理的である。反応物に存在する他の成分は、以下のとおりである:T7反応緩衝剤、NTP/キャップミックス(ARCA又はCleanCap(商標))、及びT7酵素ミックス(T7ポリメラーゼ、RNasinリボヌクレアーゼ阻害剤、及びピロホスファターゼ)。これらの成分のどれが沈殿の一因であるかを見つけるため、成分を除いたモックIVTミックスを調製した。モックIVTミックスは以下のとおり定義することができる:in vitro転写のプロセスで使用されるDNAテンプレート及びタンパク質を持たないIVTミックス。反応物は、37℃でインキュベートしない。第一の調査は、T7反応緩衝剤及びNTP/CleanCap又はARCAミックスに焦点を当てた。T7反応緩衝剤は、以下の成分を含有する:HEPES pH7.8(452 mM)、MgCl2(120 mM)、スペルミジン(10 mM)、ジチオトレイトール(DTT)(200 mM)、及びWFI。NTP/CleanCapミックスは、以下の成分を含有する:ATP(20 mM)、CTP(20 mM)、UTP(20 mM)、GTP(20 mM)、及びCleanCap(20 mM)。NTP/ARCAミックスは、以下の成分を含有する:ATP(12 mM)、CTP(12 mM)、UTP(12 mM)、GTP(2.4 mM)、ARCA(9.6 mM)、及びWFI。
【0044】
テンプレートDNA及びT7酵素ミックスを除いたモックIVTミックスで、NTP/キャップの存在下又は不在下で、第一の調査を行った。反応物から除外される成分の代わりにWFIを用いた。モックIVTミックスは、表3に従って調製した。
【0045】
【0046】
構築後、希釈は行わず、反応物を-20℃で20時間貯蔵し、30℃で10分間解凍した。比較のため、2種の異なるバッチのT7反応緩衝剤を使用した。エッペンドルフ管1、3、及び4には、第一バッチのT7反応緩衝剤を使用した。エッペンドルフ管2、5、及び6には、第二バッチのT7反応緩衝剤を使用した。これらの実験結果を、表4に詳細に示す。
【0047】
【表4】
表4:表3のミックスのIVT_mRNA沈殿の目視評価(-)沈殿なし。(+)沈殿あり
【0048】
表4に示す結果に基づき、NTP/CleanCap(商標)ミックス(すなわちNTP/CCミックス)が存在した反応物においてのみ沈殿が生じると結論づけることができる。T7反応緩衝剤及びNTP/ARCAミックスを補充したT7反応緩衝剤では、沈殿は見られなかった。NTP/CCミックスのみがT7反応緩衝剤の存在下で沈殿物を形成したため、沈殿は、CleanCap(商標)キャップ類似体の存在下、T7反応緩衝剤の成分の一部により引き起こされたと仮定するのが合理的である。この時点で、NTPが沈殿の一因である可能性を除外することは、単純明快である。T7反応緩衝剤のどの成分が、CleanCap(商標)の存在下での沈殿の一因であったのかという疑問を解決するため、一連のT7反応緩衝剤を調製した。各成分を、体系的に配合物から除外してWFIで置き換えた。4種の緩衝剤を調製した:全成分を含むT7緩衝剤;T7緩衝剤-DTT;T7緩衝剤-スペルミジン;T7緩衝剤-MgCl2。続いて、これらのT7反応緩衝剤を使用して、表5に詳細に示すとおりのモックIVTミックスを調製した。構築後、希釈は行わず、混合物を-20℃で72時間貯蔵した。続いて、試料を30℃で10分間解凍した。
【0049】
【0050】
表6に示す結果から、以前の知見が確認された。
【0051】
【表6】
表6:表5のミックスのIVT_mRNA沈殿の目視評価(-)沈殿なし。(+)沈殿あり
【0052】
またしても、NTP/CCとNTP/ARCA(反応物1及び2)を互いに比較する場合、沈殿物は、CleanCap(商標)を含む配合物においてのみ検出された。MgCl2を欠くT7反応緩衝剤(反応物5)のみが、沈殿の兆候を示さなかった。結論として、この結果は、MgCl2にCleanCap(商標)類似体を合わせることが、沈殿物形成の一因となる重要な要素であることを示唆する。
【0053】
プロセスにおけるMgCl2の役割を更に調査するには、CleanCap(商標)存在下でMg2+とCl-のどちらのイオンが、沈殿の一因であったかを明らかにすることが重要であった。このため、120 mMのMgCl2を120 mMのLiCl又は120 mMのNaClに置き換えた5倍T7反応緩衝剤を調製した。Li+及びNa+は、Mg2+カチオンの代替物であることを目的とし、沈殿が生じない場合には、Cl-アニオンを沈殿の原因の可能性から除外することができる。合理的に、これは、プロセスにおけるMg2+の役割を確認すると思われる。この場合、モックIVTミックスを、4℃及び-20℃の両方で24時間貯蔵し、30℃で10分間解凍した。モックIVTミックス配合物は、上記の実験で使用したものと同じであった。唯一の変更は、MgCl2をLiCl又はNaClに置き換えたことであった(表7)。
【0054】
【0055】
表8に示す結果から、以前の知見が確認された。
【0056】
【表8】
表8:表7のミックスのIVT_mRNA沈殿の目視評価(-)沈殿なし。(+)沈殿あり
【0057】
MgCl2、LiCl、又はNaClの存在に関係なく、4℃で沈殿は観察されなかった。-20℃では、MgCl2+NTP/CCを含むモックIVTミックスのみが、沈殿物を形成した(反応物1)。このことは、Cl-が沈殿を引き起こしてはいないことを示唆する。したがって、Mg2+及びCleanCap(商標)が、沈殿を引き起こす重要な要素として同定される。驚いたことに、凍結及び解凍サイクルも、沈殿が生じるために必要である。
【0058】
実施例3:凍結/解凍されたIVT_mRNAミックスの沈殿を低減する解決策
したがって、実施例2で詳細に記述したとおり、Mg2+とCleanCap(商標)の組み合わせが、沈殿を引き起こす重要な要素であることが同定された。したがって、この実施例において、本発明者らは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)の量を増加させながら用いてMg2+をキレートすることにより、そのような沈殿を回避する解決策を試験した。EDTAは、医薬及び分子生物学において、二価及び三価金属イオン、例えば、カルシウム、マグネシウム、鉛、及び鉄等を捕捉するのに広く使用されるキレート化剤である。EDTAの使用は、EDTAがDNA及びRNAの分解を阻止する能力という点からも、更に有利である可能性がある。というのも、ヌクレアーゼとして作用する金属依存性酵素が不活化される見込みがあるからである。
【0059】
配合後、モックIVTミックスを、WFI-EDTA溶液の濃度を高めながら2倍希釈し(表9)、4℃及び-20℃の両方で24時間貯蔵し、室温で10分間解凍した。30℃の代わりに室温を選択したのは、温度が高くなると沈殿物が部分的に溶解する傾向が観察されたからである。
【0060】
【表9】
表9:希釈後のモックIVTミックス中のEDTA濃度
【0061】
またしても、ARCA又はCleanCapの存在に関係なく、4℃で沈殿は観察されないことが確認された(表10)。
【0062】
【表10】
表10:表9のミックスのIVT_mRNA沈殿物の目視評価(-)沈殿なし。(+)沈殿あり
【0063】
そのうえさらに、沈殿は、CleanCap(商標)を使用し、混合物を-20℃で貯蔵した条件のみに限定されるように見えることが確認された。CleanCap(商標)をARCAに置き換えた場合、凝集は観察されなかった。目視検査から、わずか6 mMのEDTA(反応物3)で沈殿を止めることができることが示唆される。6 mMのEDTAを添加した後に視認できる沈殿物はなかったものの、長期の貯蔵時間後に沈殿が或る程度起こる可能性は依然としてあり得る。EDTAを含むIVTミックスを-20℃で最長3ヶ月間貯蔵した待機時間試験では、RNAの分解は観察されなかった(データは示さず)。2倍希釈後、24 mMのMgCl2は、12 mMに希釈された。この仮定に基づいて、12 mMのEDTAは、溶液中の全てのMg2+をキレートするはずである。これらの実験は核酸及びタンパク質の存在しないモックIVTミックスで行ったため、実施面ではより高濃度のEDTAを使用して、沈殿物形成の可能性を完全に回避する可能性がある。
【0064】
結論
まとめると、結果から示唆されるのは、沈殿が生じるためには3つの条件を満たさなければならいことである。第一の条件は、CleanCap(商標)類似体の使用であった。ARCAキャップ類似体を使用した場合、調査中に沈殿は観察されなかった。第二の条件は、反応物中にMg2+カチオンが存在することであった。Mg2+をNa+又はLi+に置き換えると、沈殿が付随しなかった。第三の条件は、-20℃の貯蔵温度であった。4℃では沈殿は観察されなかった。mRNA_IVTミックスの貯蔵後の沈殿の根本的解決策は、Mg2+がプロセスに関与する要素のうちの1つであったことを認識したのち浮上してきた。キレート化剤としてEDTAを添加してMg2+を捕捉することで、沈殿問題が効率的に解決された。EDTAが、ヌクレアーゼとして作用する金属依存性酵素を不活化することでRNA分解を阻止する能力は、mRNA IVTミックスの長期貯蔵が必要になるシナリオにおいて、非常に重要な役割を担う可能性がある。
【国際調査報告】