(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】網膜血管症を治療する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20240528BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240528BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20240528BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P27/02
A61P43/00 111
A61K31/4184
A61K31/437
A61K31/519
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572728
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 US2022030938
(87)【国際公開番号】W WO2022251370
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517274752
【氏名又は名称】ユニティ バイオテクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ラベルジュ レミ-マルタン
(72)【発明者】
【氏名】キムラ スコット
(72)【発明者】
【氏名】サピエハ プルゼミスラフ
(72)【発明者】
【氏名】ツルダ パメラ
(72)【発明者】
【氏名】バス-クワック ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ガシュワ ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】チャウ ティアナ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZC42
4C086AA01
4C086BC39
4C086CB05
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZC42
(57)【要約】
本発明は、とりわけ、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、並びに乾燥型及び新生血管型の加齢性黄斑変性症などの特定の網膜血管症を治療する方法に関する。いくつかの事例では、この方法は、薬剤を患者に投与することによって、網膜血管症に罹患している患者を治療することを含む。薬剤は、本明細書に記載されるような薬剤のうちの1つ以上であり得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
罹患した眼における病原性血管新生を阻害する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を投与することを含む、方法。
【請求項2】
罹患した眼における血管漏出を阻害する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を投与することを含む、方法。
【請求項3】
前記罹患した眼が、老化内皮細胞の結果である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記罹患した眼が、老化周細胞の結果である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記罹患した眼が、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、乾燥型加齢性黄斑変性症(dAMD)、及び新生血管型加齢性黄斑変性症(nvAMD)の結果である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
老化内皮細胞を除去する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストと前記細胞を接触させることを含む、方法。
【請求項7】
老化周細胞を除去する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストと前記細胞を接触させることを含む、方法。
【請求項8】
網膜血管症に罹患している患者を治療する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を前記患者に投与することを含む、方法。
【請求項9】
前記網膜血管症が、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、乾燥型加齢性黄斑変性症(dAMD)、及び新生血管型加齢性黄斑変性症(nvAMD)である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記剤が、低分子、抗体、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉リボ核酸である、請求項1~5、8~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記阻害剤又はアゴニストが、低分子、抗体、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉リボ核酸である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項12】
前記GPX4の阻害剤が、RSL3、ML210、ML162、JKE-1674、DPI-7、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、FIN56、オーラノフィン、エラスチン、アルテミシニン、スルファサラジン、アルテスネート、ジヒドロアテミシン、化合物#19、化合物#25、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルミトリン、アルテメーテル、アルテミゾン、ランペリゾンからなる群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記GLS1の阻害剤が、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、GK921、UPGL00004、テラグレナスタット、JHU395、エチル2-(2-アミノ-4-メチルペンタンアミド)-DON、IPN60090、及びBPTESである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記PAPP-Aの阻害剤が、抗体である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記抗体が、PAC-1scFV、PAC-1-D8scFv、PAC-2scFv、PAC-5scFv、及びmAb-PA1/41である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記PAPP-Aの阻害剤が、ポリペプチドである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリペプチドが、pro-MBP、スタンニオカルシン-1(STC1)、スタンニオカルシン-2(STC2)、及びビクニンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記PAPP-Aの阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記cGASの阻害剤が、3-(1-(6,7-ジクロロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-5-ヒドロキシ-3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)イソベンゾフラン-1(3H)-オン、1-(6,7-ジクロロ-9-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3-b]インドール-2-イル)-2ヒドロキシエタン-1-オン、1-[9-(6-アミノ-3-ピリジニル)-6,7-ジクロロ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3b]インドール-2-イル]-2-ヒドロキシ-エタノン、又は(1R,2S)-2-(7-オキソ-5-フェニル-4,7-ジヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3カルボキサミド)シクロヘキサン-1-カルボン酸である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記STINGの阻害剤が、H-151、C-178、C-176、及び化合物18である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記mTORの阻害剤が、ラパマイシン、Palomid529、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムス、ゾタロリムス、及びATP競合mTORキナーゼ阻害剤である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記GCN2のアゴニストが、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-メチルキノリン-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン、1-(5-(4-アミノ-2,7-ジメチル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)インドリン-1-イル)-2-(3-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)フェニル)-エタノン、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン、ロイセノール、ヒスチジノール、トレオニノール、SB-203207、SB-219383、ドビチニブ、ネラチニブ、スニチニブ、及びエロチニブ(elotinib)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月26日に出願された米国仮特許出願第63/193,327号、及び2021年7月12日に出願された米国仮特許出願第63/220,771号の利益を主張し、それらの各々の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜症及び加齢性黄斑変性症などの特定の網膜血管症を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
病理学的血管新生は、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、及び加齢性黄斑変性症(AMD)など、しばしば視力喪失及び失明につながる重篤な疾患である特定の網膜血管症の治療における主要な課題の1つのままである。
【0004】
DMEは、慢性的で制御不良な糖尿病に続く糖尿病性網膜症(DR)の合併症であり、糖尿病患者における視力を脅かす網膜症の最も一般的な形態である(Tan et al.2016,IDF2019)。糖尿病患者の約14人に1人は、ある程度のDMEを有する(Coney2019)。網膜画像を使用した糖尿病患者におけるDRの全体的な有病率は35%と推定され、視力を脅かすDRは12%に存在した(WHO2015)。有病率は、糖尿病のタイプ及び疾患の持続期間に依存する。糖尿病の両方のタイプ、1型糖尿病(T1D)及び2型糖尿病(T2D)について、25年の持続期間後、有病率は30%に近い(Browning et al.2018)。
【0005】
そのような眼疾患を有する患者の視力を安定させるための従来の標準的なケアには、レーザー光凝固療法、外科的硝子体切除術、及びベルテポルフィンによる光線力学療法が含まれていた。現在、抗血管内皮成長因子(抗VEGF)療法及びそのような眼血管疾患に罹患している患者の視力回復能力は、2006年のLucentis(登録商標)(ラニビズマブ)及び2011年のEylea(登録商標)(アフリベルセプト)の承認以来、広く使用されている。VEGFの機能を阻害する治療の最近の成功は、血管透過性及び成長に関与する成長因子の特異的標的化が、DR関連の血管機能障害、浮腫及び血管新生を治療する効果的な手段であることを実証している。
【0006】
しかしながら、そのような抗VEGF治療は、しばしば、健康な血管に対するオフターゲット効果をもたらした。したがって、健康な血管と病気の血管との間の分子的不一致を識別することは、生理学的組織機能に不可欠な血管を温存しながら、病理学的血管系を選択的に排除する標的治療を可能にするであろう。
【0007】
抗VEGF標準治療の別の欠点は、視力の向上を維持するために、頻繁な(例えば、毎月、更には月2回の硝子体内注射)及び長期投与を必要とすることである(Heier et al.Ophthalmology 2012;119:2537-48;the Comparison of Age-Related Macular Degeneration Treatment Trials[CATT]Research Group 2016 Ophthalmology 2016;123:1751-61)。これにより、この頻繁な治療レジメンに対する患者のコンプライアンスが低下した。
【0008】
また、一部の患者は、抗VEGF治療に対して最適ではない応答を経験していること、及び一部の患者は、抗VEGF治療にまったく応答しないことの証拠がある。Brown DM,et al.,Ophthalmology.2013;120:2013-2022、及びNguyen-Khoa BA,et al.,BMC Ophthalmol.2012;12:11を参照されたい。
【0009】
最近、個体における老化細胞の存在及び蓄積は、とりわけ、緑内障、白内障、糖尿病性膵臓及び変形性関節症などの加齢及び加齢関連の機能障害及び疾患に寄与し得る(van Deursen JM.,Nature.2014 May 22;509(7501):439-446;Childs,B.et al.,Nat Med.2015 December;21(12):1424-1435を参照されたい)。通常、有糸分裂細胞は、機能不全テロメア、DNA損傷、強力な有糸分裂シグナル、及び破壊されたクロマチンを含む細胞ストレスに応答して、細胞周期から恒久的に離脱することができる。この応答は、細胞老化と称され、機能不全又は損傷した細胞の増殖の阻害、特にがん悪性腫瘍メカニズムの発達の抑制に重要であることが示されている(Campisi J.,Cell120:513-22(2005);Campisi J.,Curr.Opin.Genet.Dev.21:107-12(2011)を参照されたい)。老化細胞は、有糸分裂刺激に対する不感受性、扁平な形態、増加した老化関連β-ガラクトシダーゼ活性(SA-β-gal)、上昇したp16発現、短縮されたテロメア、上昇したサイクリン依存性キナーゼ阻害剤発現、クロマチン構造の変化、広範囲のDNA損傷巣、アポトーシスに対する耐性、及び炎症誘発性老化関連分泌性表現型(SASP)の活性化を含む、多数の細胞表現型を特徴とする(Coppe,J-P,et al.,Annu Rev Pathol.2010;5:99-118を参照されたい)。
【0010】
最近、網膜の病理学的血管系が選択的に細胞老化に関与することが示された(Crespo-Garcia et al.,Cell Metabolism 2021,33,1-15を参照されたい)。老化細胞が、加齢に関連する健康の低下の特定の態様に因果関係があり、がんを含む特定の加齢関連疾患に寄与する可能性が高いことを考慮して、効果的な治療法が研究開発されている。いくつかの場合では、患部内及びその周辺に蓄積された老化細胞を選択的に除去し、結果として生じる状態の有害な徴候及び症状を緩和する低分子化合物が特定されている。老化細胞において活性であるいくつかの細胞内経路は、とりわけ、MDM2経路、Bcl経路、Akt経路、及びプロテアソーム経路など、標的化に適していることが示されている(WO/2015/171591:Zhou et al.、WO/2015/116740:Laberge et al.、WO/2019/133904:Hudson et al.を参照されたい)。
【0011】
網膜における老化細胞を標的とすることとは別に、又はそれに加えて、網膜血管症においてVEGF発現が増加し得る代替のメカニズムは、内皮小胞体(ER)ストレス及び活性化転写因子4(ATF4)が関与する。ATF4は、ストレスに対するアンフォールディングタンパク質応答(UPR)の一部として活性化されるいくつかの転写因子のうちの1つである。ATF4タンパク質へのATF4 mRNAの翻訳は、真核生物翻訳開始因子2(eIF2)のリン酸化を介して一般的なタンパク質合成の阻害をもたらすいくつかのストレスに応答して誘導される(Baird TD,et al.,Adv Nutr.2012;3:307-321を参照されたい)。これらのストレスには、栄養素欠乏、ERストレス、酸化ストレス、及び低酸素が含まれる(Abcouwer,Steven F.,J Clin Cell Immunol,;Suppl1(11):1-12,2013を参照されたい)。そのようなストレスに対する加齢に伴う適応反応及びホルメシスの低下は、このメカニズムを標的とする治療の機会を提供する。
【0012】
したがって、網膜血管症を治療するための代替方法を開発する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、網膜血管症を治療する新規の方法を提供する。以下のものが、開示される発明の一部として具体的に企図される。
【0014】
実施形態1.罹患した眼における病原性血管新生を阻害する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を投与することを含む、方法。
【0015】
実施形態2.罹患した眼における血管漏出を阻害する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を投与することを含む、方法。
【0016】
実施形態3.前記罹患した眼が、老化内皮細胞の結果である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0017】
実施形態4.前記罹患した眼が、老化周細胞の結果である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0018】
実施形態5.前記罹患した眼が、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、乾燥型加齢性黄斑変性症(dAMD)、及び新生血管型加齢性黄斑変性症(nvAMD)の結果である、実施形態1又は2に記載の方法。
【0019】
実施形態6.老化内皮細胞を除去する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストと前記細胞を接触させることを含む、方法。
【0020】
実施形態7.老化周細胞を除去する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストと前記細胞を接触させることを含む、方法。
【0021】
実施形態8.網膜血管症に罹患している患者を治療する方法であって、GPX4の阻害剤、GLS1の阻害剤、PAPP-Aの阻害剤、cGASの阻害剤、STINGの阻害剤、mTORの阻害剤、又はGCN2のアゴニストからなる群から選択される剤を前記患者に投与することを含む、方法。
【0022】
実施形態9.前記網膜血管症が、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)、乾燥型加齢性黄斑変性症(dAMD)、及び新生血管型加齢性黄斑変性症(nvAMD)である、実施形態8に記載の方法。
【0023】
実施形態10.前記剤が、低分子、抗体、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉リボ核酸である、実施形態1~5、8~9のいずれか1つに記載の方法。
【0024】
実施形態11.前記阻害剤又はアゴニストが、低分子、抗体、ポリペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉リボ核酸である、実施形態6又は7に記載の方法。
【0025】
実施形態12.前記GPX4の阻害剤が、RSL3、ML210、ML162、JKE-1674、DPI-7、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、FIN56、オーラノフィン、エラスチン、アルテミシニン、スルファサラジン、アルテスネート、ジヒドロアテミシン、化合物#19、化合物#25、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルミトリン、アルテメーテル、アルテミゾン、ランペリゾンからなる群から選択される、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0026】
実施形態13.前記GLS1の阻害剤が、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、GK921、UPGL00004、テラグレナスタット、JHU395、エチル2-(2-アミノ-4-メチルペンタンアミド)-DON、IPN60090、及びBPTESである、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0027】
実施形態14.前記PAPP-Aの阻害剤が、抗体である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0028】
実施形態15.前記抗体が、PAC-1scFV、PAC-1-D8scFv、PAC-2scFv、PAC-5scFv、及びmAb-PA1/41である、実施形態14に記載の方法。
【0029】
実施形態16.前記PAPP-Aの阻害剤が、ポリペプチドである、実施形態1~11のいずれか1つの方法。
【0030】
実施形態17.前記ポリペプチドが、pro-MBP、スタンニオカルシン-1(STC1)、スタンニオカルシン-2(STC2)、及びビクニンである、実施形態16に記載の方法。
【0031】
実施形態18.前記PAPP-Aの阻害剤が、アンチセンスオリゴヌクレオチドである、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0032】
実施形態19.前記cGASの阻害剤が、3-(1-(6,7-ジクロロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-5-ヒドロキシ-3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)イソベンゾフラン-1(3H)-オン、1-(6,7-ジクロロ-9-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3-b]インドール-2-イル)-2ヒドロキシエタン-1-オン、1-[9-(6-アミノ-3-ピリジニル)-6,7-ジクロロ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3b]インドール-2-イル]-2-ヒドロキシ-エタノン、又は(1R,2S)-2-(7-オキソ-5-フェニル-4,7-ジヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3カルボキサミド)シクロヘキサン-1-カルボン酸である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0033】
実施形態20.前記STINGの阻害剤が、H-151、C-178、C-176、及び化合物18である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0034】
実施形態21.前記mTORの阻害剤が、ラパマイシン、Palomid529、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムス、ゾタロリムス、及びATP競合mTORキナーゼ阻害剤である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【0035】
実施形態22.前記GCN2のアゴニストが、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-メチルキノリン-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン、1-(5-(4-アミノ-2,7-ジメチル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)インドリン-1-イル)-2-(3-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)フェニル)-エタノン、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン、ロイセノール、ヒスチジノール、トレオニノール、SB-203207、SB-219383、ドビチニブ、ネラチニブ、スニチニブ、及びエロチニブ(elotinib)である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】AMD、DR/DME又はそのいずれでもない死前診断を有していた患者からの死後網膜ドナー組織における、正常と比較したp16の免疫組織化学染色によって評価されるとおりの、AMD及びDR/DMEにおける老化細胞負荷の定量化を描画する。実施例2を参照されたい。
【
図2】PDR又はそのいずれでもない死前診断を有していた患者からの死後網膜ドナー組織における、正常と比較したp16の免疫組織化学染色によって評価されるとおりの、PDRにおける老化細胞負荷の定量化を描画する。実施例2を参照されたい。
【
図3A】
図3A~3Bは、用量依存的な非老化HRMEC細胞に対する照射された老化HRMEC細胞の選択的殺傷(
図3A)、及び用量依存的な非老化HUVEC細胞に対する照射された老化HUVEC細胞の選択的殺傷(
図3B)を示すGPX4阻害剤、RSL3を描画し、実施例1を参照されたい。
【
図4】用量依存的な非老化HUVEC細胞に対する照射された老化HUVEC細胞の選択的殺傷を示すGPX4阻害剤、JKE-1674を描画し、実施例1を参照されたい。
【
図5】用量依存的な非老化HRMEC細胞に対する照射された老化HRMEC細胞の選択的殺傷を示すGPX4阻害剤、ML210を描画し、実施例1を参照されたい。
【
図6A】
図6A及び6Bは、用量依存的な非老化HUVEC細胞に対する照射されたHUVEC細胞の選択的除去を示す2つのGPX4阻害剤、化合物#19(
図6A)及び化合物#25(
図6B)を共に描画し、実施例1を参照されたい。
【
図7】細胞株又は組織におけるGPX4の阻害を検出するために使用されるGPX4競合標的係合ゲルシフトアッセイの概略図であり、実施例7を参照されたい。
【
図8A】
図8A~8Cは、成体マウス網膜におけるGPX4阻害剤、RSL3の標的係合を描画する。ゲルシフトアッセイを行い、各レーンは、ゲルシフトのために、RSL3及びストレプトアビジンで標識された20μLの網膜溶解物を含有した(
図8A)。品質管理のために、等量のビヒクル処理された網膜溶解物を組み合わせ、100μMのRSL3又はDMSOで処理した(
図8B)。標的係合を、統合バンド密度測定(ImageJ(登録商標))に基づいて定量化した(
図8C)。実施例7を参照されたい。
【
図9A】
図9A~9Bは、老化HUVEC細胞と共に6時間インキュベートすることによるGPX4阻害剤化合物#19(
図9A)及び#25(
図9B)の標的係合を描画する。実施例7を参照されたい。
【
図11A】
図11A~11Cは、GCN2活性化因子、化合物39の全身投与が、網膜におけるGCN2を活性化することを描画する。
図11A及び
図11Bは、化合物39が、正常酸素及び酸素誘導性網膜症(OIR)マウスの両方において、様々な用量及び時点で網膜内のレポーター遺伝子ATF4及びDDIT3を活性化したことを示す。
図11Cは、腹腔内投与された化合物39が、マウス網膜において30及び60mpkでATF4タンパク質発現を活性化したことを示す。実施例9を参照されたい。
【
図12】
図12A及び12Bは、GCN2活性化因子である化合物39が、酸化還元因子であるSlc7a11(
図12A)及び抗血管新生因子であるSerpinf1(
図12B)の両方の発現を、正常酸素マウス及びOIR新生児マウスの両方において様々な用量及び時点で腹腔内投与後に活性化することによって、疾患関連遺伝子発現を調節することを示す。実施例10を参照されたい。
【
図13】30mpkでGCN2活性化因子である化合物39を腹腔内投与したことで、OIR新生児からの網膜において、早ければ処理後4時間でATF4タンパク質発現が活性化され、蛍光体-eIF2αレベルが増加し、HIF1αタンパク質発現が下方制御されたことを示す。実施例10を参照されたい。
【
図14】
図14A~14Bは、GCN2の活性化が、OIRマウスモデルにおける網膜血管系を改善することを示す。具体的には、GCN2活性化因子である化合物39は、全身投与されると、処置されたOIRマウスの網膜における新血管形成を改善することができる(
図14A)が、無血管領域を改善することはできない(
図14B)。実施例11を参照されたい。
【
図15】
図15A~15Bは、GCN2の活性化が、OIRマウスモデルにおける血管新生を改善することを示す。化合物39は、ビヒクル対照(
図15A)と比較して、処置されたOIRマウスの網膜における血管新生を改善することができる(
図15B)。実施例11を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、当業者に容易に知られるそれぞれの値の通常の誤差範囲を指す。本明細書における「約」を伴う値又はパラメータへの言及は、その値又はパラメータ自体を対象とする実施形態を含む(及び説明する)。
【0038】
本明細書で使用される場合、「投与すること」は、本明細書の網膜血管症に罹患している患者に、化合物-メグルミンの投薬量を投与する方法を意味する。本明細書に記載の方法で利用される組成物は、例えば、硝子体内(例えば、硝子体内注射によって)、経眼(例えば、経眼注射によって)、又は眼内(例えば、眼内注射によって)投与され得る。投与方法は、様々な要因(例えば、投与される化合物又は組成物、及び治療される状態、疾患、又は障害の重症度)に応じて変化し得る。
【0039】
「抗体」という用語は、最も広い意味で本明細書で使用され、それらが望ましい抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むがこれらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0040】
本明細書で使用される場合、「抗VEGF治療」又は「抗VEGF療法」という用語は、網膜血管症を治療するために示される任意の現在承認されている抗VEGF薬物を意味する。そのような承認された薬物としては、例えば、Lucentis(登録商標)(ラニビズマブ)又はEylea(登録商標)(アフリベルセプト)、及びラニビズマブ又はアフリベルセプトに対する任意の承認されたバイオ後続薬物が挙げられる。
【0041】
「アゴニスト」又は「活性化因子」又は「活性化」剤は、それが結合する標的又は抗原の生物学的又はシグナル伝達活性を活性化させるか、刺激するか、又は増加させるものである。いくつかの状況では、アゴニスト剤は、リガンドがその同族受容体と係合し、それを活性化させる様式と同様に作用可能であることが企図される。
【0042】
本明細書で使用される場合、「フェロプトーシス」は、鉄によって媒介される反応性酸素種の生成を伴い、部分的には脂質過酸化を特徴とする、当該技術分野で理解される細胞死の形態を指す。「フェロプトーシス誘導剤」又は「フェロプトーシス活性化因子」は、フェロプトーシスを誘導、促進又は活性化する剤を指す。
【0043】
本明細書で使用される場合、「網膜血管症」は、例えば、糖尿病性黄斑浮腫、糖尿病性網膜症、及び乾燥型又は新生血管(又は湿潤)型加齢性黄斑変性症などの病原性血管新生を伴う眼疾患を指す。他の眼疾患としては、例えば、地図状萎縮が挙げられ得る。
【0044】
「老化細胞」は、一般に、典型的には複製するが、細胞状態の変化を引き起こす老化又は他の事象の結果として、もはや複製しない細胞型に由来すると考えられる。換言すれば、老化細胞は、細胞増殖の不可逆的な停止に入る細胞である。老化細胞はまた、アポトーシスに耐性になり、したがって、対象に持続し、対象の加齢に伴い蓄積し得る。更に、老化細胞は、多面的な分泌表現型又は老化関連分泌表現型(SASP)を示し、これは、老化関連がんの初期提示又は進行中の病理学において役割を果たし得る病理学的可溶性因子であると考えられている。本発明の態様を実践する目的で、老化細胞は、例えば、p16、又はp16、老化関連βガラクトシダーゼ、若しくはp21から選択される少なくとも1つのマーカーを発現するものとして特定され得る。老化細胞はまた、これらに限定されないが、炎症因子(例えば、これらに限定されないが、MMP1、MMP3、TNF-α、IL-1β、プロスタグランジンなど)、及び/又は線維化促進因子(例えば、これらに限定されないが、TGFβ1、TGFβ2、CTGF、TIMP-1、MCP-1など)及び/又は成長因子(例えば、これらに限定されないが、VEGF-α、IL-6、IL-8、Pai-1など)などのSASP因子を分泌するものとして特定され得る。
【0045】
候補剤阻害剤又はアゴニストは、同じ組織型の複製細胞、又はSASPマーカーを欠く静止細胞と比較して、より選択的に老化細胞を排除する場合、典型的には「セノリティック」と称される。一態様では、非老化細胞上の老化細胞の除去のために、約2~10倍の選択性、又は約10~1000倍の選択性、又は約100~2000倍の選択性、又は約10~2000倍の選択性、又は約1000~2000倍の選択性、又は1000倍を超える選択性を達成することが、本発明の方法の一部として企図される。代替的に、又は追加的に、本発明の方法は、病態の最初の提示又は進行中の病理学において役割を果たす、又はその解消を阻害する老化関連分泌表現型(SASP)の一部として、病理学的可溶性因子又はメディエーターの放出を減少させる場合、効果的に使用され得る。この点で、「セノリティック」という用語は、本発明の化合物及び方法が、老化細胞(老化細胞阻害剤)を除去するのではなく、選択的に阻害することによって主に機能し得ることを理解した上で、例示的であり、そのようなものは、その後の利益を伴って本発明の方法で使用することができる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「治療」(及び「治療する)」又は「治療すること」)は、治療される個体の自然経過を改変する試みにおける臨床介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過中に実行され得る。本明細書で特許請求される治療方法の望ましい効果には、これらに限定されないが、DME、DR又はAMDの発生又は再発の予防、DME、DR又はAMDの症状の緩和、DME、DR又はAMDの任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の減少、DME、DR又はAMDにおける疾患の進行速度の低減、DME、DR又はAMDにおける疾患の状態の改善又は緩和、及びDME、DR又はAMDに対する寛解又は予後の改善が含まれる。
【0047】
特に明記又は要求されない限り、本明細書で使用される他の用語は、それらの通常の意味を有する。
【0048】
組成物及び方法
本発明は、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症(DR)、及び加齢性黄斑変性症(AMD)などの特定の網膜血管症を治療するための方法を提供する。
【0049】
DMEは、慢性的で制御不良な糖尿病に続く糖尿病性網膜症(DR)の合併症であり、糖尿病患者における視力を脅かす網膜症の最も一般的な形態である。糖尿病患者の約14人に1人は、ある程度のDMEを有する。世界保健機関(WHO)は2015年に、網膜画像を使用した糖尿病患者におけるDRの全体的な有病率は35%と推定され、視力を脅かすDRは12%に存在することを報告した。有病率は、糖尿病のタイプ及び疾患の持続期間に依存する。糖尿病の両方のタイプ、1型糖尿病及び2型糖尿病について、25年の持続期間後、有病率は30%に近い。米国では、40歳超の少なくとも550万人がDMEがない状態でDRを有すると推定され、更に80万人~100万人の患者がDMEを有する。いくつかの推定によると、それらのうち40%のみが診断及び治療され、約5%が診断及び観察されている。
【0050】
糖尿病性黄斑浮腫(DME)は、糖尿病性網膜症(DR)に続発する黄斑肥厚であり、血管漏出及び体液蓄積につながる血液網膜関門の欠陥に起因する。Bhagat N,et al.,Surv Ophthalmol.2009;54:1-32を参照されたい。DMEは、血管内皮成長因子(VEGF)、細胞間接着分子-1(ICAM-1)、インターロイキン-6(IL-6)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、及び白血球停滞を含むいくつかの炎症因子の発現に関連している。Funatsu H,et al.,Ophthalmology.2009;116:73-79、及びMiyamoto K,et al.,Proc Natl Acad Sci USA.1999;96:10836-10841を参照されたい。更に、これらの因子の発現は、網膜の血管透過性及び疾患の重症度の両方に関連しており、したがってそれらの重要な病原学的役割を裏付けている。
【0051】
DR:糖尿病性網膜症の有病率は年齢と共に増加し、50歳を超える人々における失明の最も一般的な原因である。これは多因子障害であり、高血糖は、糖尿病性眼疾患の多くの側面に関与する細胞及び炎症性サイトカインに毒性作用を及ぼす。糖尿病性網膜症は、毛細血管基底膜の肥厚を伴い、周細胞が毛細血管の内皮細胞に接触するのを防止する。周細胞の喪失は、毛細血管の漏出を増加させ、血液網膜関門の崩壊につながる可能性がある。毛細血管が弱くなると、動脈瘤が形成され、更に漏出する可能性がある。高血糖の期間及び重症度は、糖尿病性網膜症の発症に関連する要因である。高血糖のこれらの効果はまた、網膜の神経機能を損なう可能性がある。これは、非増殖性糖尿病性網膜症(NPDR)と呼称される糖尿病性網膜症の初期段階である。
【0052】
糖尿病性網膜症はまた、臨床的血管疾患の発症前の神経機能の変化に関連する、神経網膜の変性疾患である。網膜の毛細血管は、網膜の虚血領域を引き起こす糖尿病において閉塞する可能性がある。非灌流組織は、既存の血管から新しい血管の成長(すなわち、血管新生)を誘発することによって応答する。新しい血管は壊れやすく、眼に血液が漏れる傾向があるため、これらの新しい血管はまた、増殖性糖尿病性網膜症(PDR)と呼ばれる状態である視力喪失を引き起こす可能性がある。進行性増殖性糖尿病性網膜症では、網膜血管新生を伴う血管新生VEGF媒介性応答が続き、眼は、硝子体出血又は牽引網膜剥離の発症に起因する重篤な視力喪失の更なるリスクにさらされる。治療しないと不可逆的な血管又は神経損傷となり得、早期介入の必要性を強調している。
【0053】
AMD:加齢性黄斑変性症(AMD)は、視覚障害及び重度の視力喪失の主要な原因である。視覚障害の世界的な原因の中で3番目にランクされ、失明率は8.7%である。
【0054】
AMDは、網膜の中心部分の悪化によって引き起こされ、その病因に関与する補体、脂質、血管新生、炎症性、及び細胞外マトリックス経路の調節不全を伴う多因子障害である。AMDの病理学は、黄斑の網膜色素上皮と、時間の経過と共に網膜を損傷すると考えられているその下の脈絡膜との間の、ドルーゼン(例えば、細胞外タンパク質及び脂質の蓄積)と呼ばれる特徴的な黄色の沈着物の進行性の蓄積を特徴とする。
【0055】
AMDには、「乾燥」及び「湿潤」の2つの基本的なタイプがある(新生血管性AMD又はnvAMDとしても知られている)。AMDの症例の約85%~90%が「乾燥」(萎縮)型であり、10~15%が「湿潤」(滲出)型である。乾燥型AMD(dAMD)は、黄斑における網膜色素上皮(RPE)及び光受容体細胞の漸進的喪失によって定義される。乾燥型AMDに罹患する患者は、光受容体細胞及びそれらの密接に関連する網膜色素上皮(RPE)細胞の死に起因して、中心視力の漸進的喪失を有し、ドルーゼンの沈着を伴う。湿潤AMDは、黄斑上皮の下に異常な血管が増殖することを特徴とする。湿潤AMDは、Bruch膜を介した脈絡毛細血管の異常な血管増殖(例えば、脈絡膜新生血管)による視力喪失をもたらす。臨床的には、早期(中程度のドルーゼン及び網膜色素変化)から後期(新生血管型AMD及び萎縮型AMD)に分類される。
【0056】
セノリティックアッセイ:本発明の候補剤はまた、老化細胞を選択的に死滅させる能力について評価され得る。培養細胞が剤と接触され、細胞毒性又は細胞の阻害の程度が決定される。老化細胞を死滅させる又は阻害する剤の能力は、低密度で自由に分裂している正常細胞、及び高密度で静止状態にある正常細胞に対する剤の効果と比較され得る。非限定的な例として、実施例1は、本発明の候補剤を試験及び定量化するために、ヒト内皮HUVEC細胞株及びヒトRPE細胞株において照射誘発老化を使用する細胞ベースのアッセイの例示を提供する。同様のプロトコルが既知であり、候補となるセノリティック化合物が他の老化細胞型を死滅させる能力を試験するために開発又は最適化され得る。
【0057】
経路:本明細書に記載され、特許請求される本発明は、ある特定された生物学的経路の阻害剤又はアゴニストを使用して網膜血管症を治療することを企図する。本明細書に記載され、特許請求される本発明はまた、ある特定された生物学的経路の阻害剤又はアゴニストを使用して、網膜血管症を治療するために、老化内皮細胞及び/又は老化周細胞などの老化細胞を除去することを企図する。企図される生物学的経路は以下のとおりである。
【0058】
グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)経路:酸化ストレス及び酸化還元系の調節は、発がん及びがんの進行において重要な役割を果たしており、このため、がん治療標的の領域として多くの注目を集めている。グルタチオンペルオキシダーゼ4(GPX4)は、8つの既知の哺乳類アイソザイム(GPX1~8)からなるグルタチオンペルオキシダーゼのファミリーに属し、そのメンバーは、過酸化水素、有機ヒドロペルオキシド及び脂質ヒドロペルオキシドの還元を触媒し、それによって細胞を酸化ストレスから保護し、膜リン脂質の過酸化を抑制することによって細胞死をシグナル伝達する。GPX4活性が損なわれると、脂質過酸化は、非アポトーシス細胞死の酸化的鉄依存性形態であるフェロプトーシスを引き起こし得る。外因性剤によって誘導されるフェロプトーシスは、GPX4修復活性に中毒性の腫瘍細胞に対して選択的に致死的であり、これは、フェロプトーシスの誘導がいくつかのがんを治療するための有益なアプローチであり得ることを示唆している。Stockwell BR,et al.,Cell.2017;171:273-285を参照されたい。
【0059】
例示的なGPX4阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のGPX4阻害剤は、本発明に従って、老化関連疾患及び/又は加齢関連疾患の治療のために、老化活性について試験し、開発することができる。特に、本発明の方法で利用することができるGPX4阻害剤としては、例えば、RSL3、ML210、ML162、JKE-1674、DPI-7、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、FIN56、オーラノフィン、エラスチン、アルテミシニン、スルファサラジン、アルテスネート、ジヒドロアテミシン、ソラフェニブ、アルトレタミン、アルミトリン、アルテメーテル、アルテミゾン、又はランペリゾンが挙げられるが、これらに限定されない。他の非限定的な例示的GPX4阻害剤は、WO2019/168999開示され特許請求される化合物1~273、WO2020/176757に開示され特許請求される化合物1~102、及びWO2021/041536開示され特許請求される化合物1~12及び化合物A-1~A-19であり得、これらは各々、参照によりそれらの全体の各々が組み込まれる。
【0060】
GPX4生物学的アッセイ:研究は、フェロスタチンなどの親油性抗酸化物質が、GPX4阻害誘発性フェロプトーシスから細胞を救うことができることを示している。例えば、間葉系状態GPX4ノックアウト細胞は、フェロスタチンの存在下で生存することができるが、フェロスタチンの供給が終了すると、これらの細胞はフェロプトーシスを受ける(例えば、Viswanathan et al.,Nature547:453-7,2017を参照されたい)。また、GPX4iは、脂質ROSスカベンジャー(フェロスタチン、リプロキシスタチン)、リポキシゲナーゼ阻害剤、鉄キレート剤、及びカスパーゼ阻害剤などの、アポトーシス阻害剤が救出しないフェロプトーシス経路の他の構成要素をブロックすることによって救出され得ることが実験的に決定されている。これらの所見は、非アポトーシス鉄依存性酸化性細胞死(すなわち、フェロプトーシス)を示唆している。したがって、フェロプトーシスがん細胞死を誘導する分子の能力、及びそのような能力がフェロスタチンの添加によって警告されることは、その分子がGPX4阻害剤であることを明確に示している。候補剤GPX4阻害剤の阻害可能性を試験するために使用される例示的なアッセイは、以下のとおりである。GPX4ウェスタンブロットアッセイの移動度シフトを使用して、候補GPX4阻害剤とのインキュベーション後の細胞ベースのアッセイにおいて標的係合を直接評価することができる。移動度シフトは、GPX4不可逆的阻害剤の薬力学的マーカーとして使用することができる。更に、候補GPX4阻害剤は、GPX4の細胞ベースのウェスタンブロット分析において評価することができる。
【0061】
グルタミナーゼ阻害剤1(GLS1)経路:グルタミンは、最も豊富な血漿アミノ酸であり、多くの成長促進経路に関与する。特に、グルタミンは、TCAサイクルにおける酸化及び細胞の酸化還元平衡の維持に関与し、また、ヌクレオチド及びアミノ酸合成のための窒素も提供する(Curi et al.,Front.Biosci.2007,12,344-57;DeBerardinis and Cheng,Oncogene 2010,313-324)。グルタミナーゼは、グルタミンからグルタミン酸を生成するミトコンドリアアミドヒドロラーゼ酵素である。これは、ROSの解毒に関与している。
【0062】
例示的GLS1阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のGLS1阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用することができるGLS1阻害剤としては、限定されないが以下を含む:例えば、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(ジアゾオキソノルロイシン、L-6-ジアゾ-5-オキソノルロイシン、DON)、ストレプトマイセスから単離された抗生物質は、cKGA(腎臓型グルタミナーゼ)に対するIC50が約1mMであるグルタミナーゼアンタゴニストであり、GK921は、修飾されたアッセイ条件下でIC50が8.93μMであるトランスグルタミナーゼ2(TGase2)阻害剤であり、UPGL00004は、GLS2に勝るGACに対する高い選択性を示す、IC50が29nMである強力なグルタミナーゼC(GAC)であり、ビス-2-(5-フェニルアセタミド-1、2、4-チアジアゾール-2-イル)エチルスルフィド3(BPTES)は、IC50が0.16μMである強力かつ選択的グルタミナーゼGLS1阻害剤であり、テラグレナスタット(CB-839)は、組換えヒトGACに対するIC50が24nMである強力で選択的かつ経口的に生物学的に利用可能なグルタミナーゼ阻害剤であり、JHU395は、血漿中で不活性に循環するが、浸透して標的組織内で活性GAを放出するように設計された経口的に生物学的に利用可能なGA(グルタミン拮抗剤)プロドラッグであり、JHU-083(エチル2-(2-アミノ-4-メチルペンタンアミド)-DON)は、DONの新規プロドラッグであり、グルタミナーゼ活性を選択的に遮断し、IPN-60090二塩酸塩(IACS-6274としても知られる)は、GLS-2に対して活性が観察されない、グルタミナーゼ1の経口活性及び高選択的阻害剤(GLS1;IC50=31nM)である。
【0063】
GLS1生物学的アッセイ:候補剤GLS1阻害剤の阻害可能性を試験するために使用される例示的なアッセイは、以下のとおりである。グルタミン酸オキシダーゼ/AmplexRed(登録商標)結合アッセイを使用して、GLS1阻害剤化合物がインビトロで、精製された組換え6Hisタグ化GLS1に結合し、その活性を阻害する能力を測定することができる。結合反応は、試薬6-(2-ブロモエチニル)-2,3-ジメチル-キナゾリン-4-オン、Amplex Red、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、及びグルタミン酸オキシダーゼをTRIS緩衝液中に添加することによって停止させることができる。反応は、535/590nm光学フィルタを使用してPerkin Elmer EnVision(登録商標)で読み取ることができ、生データは、Genedata(登録商標)を使用して分析してIC50値を生成することができる。使用することができる別のアッセイは、AmplexRedを使用して細胞グルタミン酸枯渇を測定するPC3細胞結合アッセイである。PC3細胞は、候補剤阻害剤を含有するマルチウェルプレートに播種することができる。インキュベーション後、プレートは、535/590nmの光学フィルタを使用してPerkin Elmer EnVision(登録商標)で読み取り、独自のソフトウェアを使用して生データを分析してIC50値を生成することができる。
【0064】
妊娠関連血漿タンパク質-A(PAPP-A)又はパパリシン-1経路:亜鉛メタロプロテイナーゼであるPAPP-Aは、表面グリコアミノグリカン(GAG)に結合し、IGFBP-2、-4、及び-5を切断して、局所シグナル伝達のためにIGF1又はIGF2を放出する。妊娠血清中のPAPP-Aは、好酸球主要塩基性タンパク質(proMBP)のプロフォームにジスルフィド結合を介して連結され、PAPP-A/proMBPと表される約500kDaの2:2の複合体を形成する。PAPP-Aの血清形態は、推定22残基シグナルペプチド、58残基のpro-part、及び1547残基循環成熟ポリペプチドを含有するプレプロタンパク質に由来する。アミノ酸配列は、任意の既知のタンパク質との全体的な類似性を示さないが、メチンシンに共通する2つの配列モチーフ、メタロプロテアーゼのスーパーファミリー、ノッチタンパク質スーパーファミリーから知られている3つのLin-12/Notch反復、及び補体系の構成要素から知られている5つの短いコンセンサス反復を含有する。PAPP-Aのトランスジェクノックアウトは、おそらく循環IGF-Iレベルを低下させることによって、マウスの寿命延長をもたらし得る(Hotzenberger et al.,Nature(2002)Dec4及びConover et al.,Development,131(5):1187-1194(2004)を参照されたい)。
【0065】
例示的PAPP-A阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のPAPP-A阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、PAPP-Aに特異的に結合する抗体が挙げられる。これらには、例えば、WO2020/198166、米国特許第8,653,020号、Mikkelsen et al.,Oncotarget5,1014-1025(2014)、Mikkelsen et al.,J.Biol.Chem.283,16772-16780(2008)、及びMohrin et al.,bioRxiv,doi:https://doi.org/10.1101/2020.02.05.936310(このバージョンは、2020年2月6日に掲載された)において開示されるように、PAC-1scFV、PAC-1-D8scFv、PAC-2scFv、PAC-5scFvが含まれ得、これらは全て、参照によりそれらの全体の各々が本明細書に全て組み込まれる。本発明の方法で利用され得る他のPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、PAPP-Aの機能を阻害することができるポリペプチドが挙げられる。これらには、例えば、プロ-MBP、スタニオカルシン-1(STC1)、又はスタニオカルシン-2(STC2)が含まれ得る。本発明の方法で利用され得る更に他のPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、5’-GCCCAACTCCTGCTGGAA-3’(AS-PAPP-A)のアンチセンス配列からなるヒトPAPP-A mRNAに対応する18塩基ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドなどのPAPP-Aを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる(Tanaka et al.,Cancer Cell Biol Jan 2004を参照されたい)。本発明の方法で利用され得る更に他のPAPP-A阻害剤としては、限定されないが、クニッツ型プロテアーゼ阻害剤ビクニンが挙げられる。
【0066】
PAPP-A生物学的アッセイ:候補剤PAPP-A阻害剤の阻害可能性を試験するために使用される例示的なアッセイは、以下のとおりである。IGFBP-4タンパク質がIGF1と混合され、37℃で30分間インキュベートされる細胞pAKTアッセイを用いることができる。PAPP-Aタンパク質をIGFBP-4/IGF1混合物に添加し、37℃で4~5時間インキュベートする。HEK293細胞を血清なしでEMEM培地中に入れ、一晩接着させることができる。IGF1/IGFBP-4/PAPP-A混合物を、最終希釈1:30で細胞に添加し、37℃で20分間インキュベートする。細胞をMSDトリス溶解緩衝液中に溶解し、製造業者のプロトコルに従って、Phospho(Ser473)/Total Akt Whole Cell Lysateキット(MSD、K15100D)によって分析する。抗PAPP A抗体の中和効力を評価するために、IGF1/IGFBP-4混合物に添加する前に、PAPP-Aタンパク質を様々な濃度の抗PAPP-A抗体とプレインキュベートすることができる。
【0067】
使用され得る別のPAPP-A生物学的アッセイは、IGF結合タンパク質のインビトロPAPP-A酵素切断である。アッセイ等において、C末端C-myc及びFlagタグを有するヒト及びマウスPAPP-Aタンパク質は、安定的に形質導入されたHEK293細胞株によって発現され、ヘパリンカラムクロマトグラフィーによって精製される。ヒト及びマウスIGFBP-2、IGFBP-4及びIGFBP-5タンパク質は、N末端(ヒトタンパク質について)又はC末端(マウスタンパク質について)6Hisタグを有するHEK293細胞における一過性発現によって組換え的に産生され、Ni-セファロースカラムクロマトグラフィーによって精製される。酵素切断反応のために、IGFBP-2及びIGFBP-4タンパク質を、適切な種(R&D Systems、ヒト用291-G1-200及びマウス用791-MG-050)のIGF1と30分間37℃で予備インキュベートする。次いで、IGFBP2/IGF1、IGFBP-4/IGF1又はIGFBP-5タンパク質を様々な濃度のPAPP-Aと混合し、37℃で2~4時間インキュベートする。切断反応における最終濃度は、IGFBPでは90nM、IGF1では850nMであり得る。次いで、タンパク質を、キャピラリカートリッジキット(ProteinSimple、カタログ番号SM-W002-1)を使用してWes機器(ProteinSimple)でキャピラリ電気泳動により溶解し、THE HisTag抗体(GeneScript、カタログ番号A00186)でプローブし、抗マウス検出モジュール(ProteinSimple、カタログ番号DM-002)で可視化する。抗PAPP A抗体の中和効力を評価するために、IGF1/IGFBP-4混合物に添加する前に、PAPP-Aタンパク質を様々な濃度の抗PAPP-A抗体とプレインキュベートすることができる。これらのアッセイにおけるPAPP-A濃度は、IGFBP-4については0.4nM、IGFBP-2については3.5nM、及びIGFBP-5切断については0.08nMに固定することができる。
【0068】
cGAS-STING経路:微生物核酸の認識は、免疫系が病原体を検出する主要なメカニズムである。環状GMP-AMP(cGAMP)合成酵素(cGAS)は、インターフェロン遺伝子又はSTINGのアダプター刺激因子を活性化する第2のメッセンジャーcGAMPの産生によって先天性免疫応答を活性化する細胞質DNAセンサーである。次いで、STINGは、TANK結合キナーゼ1(TBK1)及びIκBキナーゼを動員して、それぞれ、IFN調節因子3(IRF3)及びNF-κBを活性化し、I型インターフェロン及び炎症性サイトカインの産生をもたらし、これもまた、自己免疫及び炎症性疾患につながり得る。cGASはまた、細胞老化に関与することが報告されており、cGas-/-マウス由来のマウス胚線維芽細胞(MEF)は、WTマウス由来のMEFと比較して、老化の徴候の低減を示し、より速い自発的不死化を生じた(Yang et al.,PNAS June 2017を参照されたい)。
【0069】
例示的cGAS阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のcGAS阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るcGAS阻害剤としては、例えば、限定されないが、3-(1-(6,7-ジクロロ-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-2-イル)-5-ヒドロキシ-3-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)イソベンゾフラン-1(3H)-オンであるRU.521(Vincent J.et al.,2017.Nat Commun.28(1):750を参照されたい)、又は1-(6,7-ジクロロ-9-(1-メチル-1H-ピラゾール-3-イル)-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3-b]インドール-2-イル)-2ヒドロキシエタン-1-オンであるG140、若しくは1-[9-(6-アミノ-3-ピリジニル)-6,7-ジクロロ-1,3,4,5-テトラヒドロ-2H-ピリド[4,3b]インドール-2-イル]-2-ヒドロキシ-エタノンであるG150(G140及びG150の両方について、L.et al.2019.Nat Commun.10,2261を参照されたい)、又は(1R,2S)-2-(7-オキソ-5-フェニル-4,7-ジヒドロピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3カルボキサミド)シクロヘキサン-1-カルボン酸であるPF-06928215(Hall et al.,PLOS ONE 2017,12,e0184843を参照されたい)が挙げられる。
【0070】
例示的STING阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のSTING阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るSTING阻害剤としては、例えば、限定されないが、CAS No.941987-60-6であるH-151、又はCAS No.329198-87-0であるC-178、又はCAS No.314054-00-7であるC-176(H-151、C-178、及びC-176について、Haag S.M.et al.,2018.Nature 559:269-73を参照されたい)が挙げられる。他のSTINGアンタゴニストは、化合物18又はC18である(Siu,et al.ACS Med.Chem.Lett.,10(1)(2019),pp.92-97を参照されたい)。
【0071】
cGAS又はSTING生物学的アッセイ:CGAS及び/又はSTINGの候補剤の阻害可能性を試験するために使用される例示的なアッセイは、以下のとおりである。cGAS阻害剤は、ATP、GTP、二本鎖DNA、及びCGASとの反応によって、質量分析アッセイを使用してcGAS活性について測定することができる。他のcGAS活性アッセイとしては、候補cGAS阻害剤がATP若しくはGTP、又は二本鎖DNA及びcGASと反応するCy5-cGAMP蛍光分極アッセイが挙げられる。Cy5標識cGAMP及びcGAMP抗体を添加し、反応をEnvisionプレートリーダーで620nmで読み取り、Kiを決定する(Hall et al.,PLOS ONE 2017,12,e0184843を参照されたい)。利用され得る他のアッセイは、候補cGAS阻害剤がヒトsACtタンパク質とインキュベートされ、次いでATPが添加される、可溶性アデニリルシクラーゼ(sAC)阻害アッセイである。cAMPの形成及びATPの消費を、RF-MSを使用する標準と比較し、IC50を計算する。
【0072】
mTOR経路:ラパマイシン(mTOR)のメカニズム的標的は、栄養素、成長因子、細胞エネルギー、及びストレスに応答して細胞の成長及び代謝を制御する、高度に保存されたセリン/トレオニンキナーゼである。
【0073】
例示的mTOR阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のmTOR阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るSTING阻害剤としては、例えば、限定されないが、ラパマイシン、Palomid529、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、リダフォロリムス、ウミロリムス、ゾタロリムス、及びATP競合mTORキナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0074】
一般制御非抑制2(GCN2)経路:細胞が育つためには、周囲を感知して適応することができる必要がある。低栄養環境に適応するための鍵は、統合ストレス応答(ISR)であり、これは、細胞が細胞の恒常性を回復するか、又はストレスの期間中にアポトーシスを促進することを可能にする経路である。ISRの中心は、セリン/スレオニンプロテインキナーゼGCN2であり、これは、飢餓を感知することに関与する。アミノ酸が欠乏するとGCN2は活性化されて、翻訳開始因子eIF2αをリン酸化し、タンパク質翻訳を停止させ、転写因子ATF4を活性化することによってISRを開始し、転写因子ATF4は次いで、自己貪食及び生合成経路を上方制御する。
【0075】
例示的GCN2活性化因子:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のGCN2活性化因子が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るGCN2のアゴニストとしては、限定されないが、例えば、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-メチルキノリン-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン塩酸塩又は化合物44、1-(5-(4-アミノ-2,7-ジメチル-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-5-イル)インドリン-1-イル)-2-(3-フルオロ-5-(トリフルオロメチル)フェニル)-エタノン又は化合物52、4-(2-アミノ-4-メチル-3-(2-(メチルアミノ)ベンゾ[d]チアゾール-6-イル)ベンゾイル)-1-メチル-2,5-ジフェニル-1H-ピラゾール-3(2H)-オン又は化合物39(化合物39、44及び52に関してSmith,Adrian L.,et al.,J of Med Chem.2015 Feb 12:58(3):1426-41を参照されたい)、ロイセノール、ヒスチジノール、スレオニノール、SB-203207、SB-219383(Cavener,D.,et al.,WO2008/085921を参照されたい)、ドビチニブ、ネラチニブ、スニチニブ、及びエロチニブが挙げられる。
【0076】
GCN2生物学的アッセイ:GCN2の候補剤の活性化可能性を試験するために使用される例示的なアッセイは、限定されないが、以下のとおりであってもよい。そのようなアッセイの1つは、GCN2、eIF2a及び候補GCN2活性化剤を組み合わせた反応がATPの添加時に行われる、eIF2aリン酸化アッセイである。反応をクエンチし、次いで沸騰によって変性させ、次いでタンパク質ゲル上で泳動させ、ニトロセルロース又はPVDF膜に移し、ブロックし、蛍光体-eIF2aに対する抗体と共にインキュベートし、次いで化学発光基質とのインキュベーション後に可視化する。候補GCN2活性化剤を試験するために使用され得る細胞アッセイは、例えば、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)に融合されたATF4レポーターでトランスフェクトされたHEK293T細胞などの安定した細胞株を使用して、組換えレトロウイルスを産生することである。そのような細胞を播種し、次いで適切な量の候補GCN2活性化因子で一定期間処理する。発光を測定し、EC50として表す。
【0077】
網膜血管症のモニタリング及び診断方法:当該技術分野で既知の標準化された眼科検査技術には、例えば、瞼、眼付属器、まつ毛、角膜表面、前房、瞳孔、水晶体、硝子体空洞、並びに視神経及び黄斑を含む中心網膜解剖学的構造の評価を可能にする詳細なスリットランプ生体顕微鏡評価が含まれる。別の方法は、前房角度の詳細な検査を可能にする隅角鏡検査である。間接眼科検査は、硝子体及び末梢網膜障害のモニタリングにおいて重要な網膜周辺部の評価を可能にする。
【0078】
視力の機能試験は、当該技術分野で既知であり、例えば、最善の補正された視力、対比視力、及び低輝度の視力、色覚(石原試験及びファルンスワース・マンセル試験を含む)及び視野評価(ハンフリー自動周囲測定及び微小周囲測定を含む)、涙液産生(シルマー試験)、並びに眼内圧(IOP)を測定するための眼圧測定が含まれる。これらは、例えば、前部及び後部セグメント写真、角膜厚さ測定、超音波、超音波生体顕微鏡検査、光学コヒーレンス断層撮影(OCT)、光学コヒーレンス断層撮影血管撮影(OCTA)、蛍光血管撮影(FA)、静脈内蛍光血管撮影(IVFA)、及び眼底自己蛍光(FAF)を含む構造試験と併せて使用される。コンピュータ断層撮影(CT)又は磁気共鳴画像(MRI)スキャンなどの画像撮影は、眼、眼球周囲及び眼窩構造、並びに脳内の視神経、視覚経路及び視覚野の頭蓋内部分を評価するために利用される。これらの試験は、眼及び周囲の構造の層の構造的完全性及び厚さの視覚化、並びに血流及び循環の評価を可能にする。全視野及び多焦点網膜検査、視覚誘発電位及び微小周囲測定などの電気生理学的試験を含む、網膜、視神経及び視覚経路/皮質の高度な機能試験もまた、疾患の進行及び治療の影響を診断及びモニタリングするために使用される。当業者は、本明細書に記載される網膜血管症を診断、測定、及びモニタリングするために、当該技術分野で既知の適切な方法論を展開することができるであろう。
【0079】
患者:特許請求される本発明のいくつかの実施形態では、DMEに罹患している患者を治療するために使用される本発明の候補剤阻害剤又はアゴニストは、DMEだけでなく、糖尿病性網膜症(DR)に罹患している患者に投与される。他の実施形態では、DME患者は、DMEだけでなく、非増殖性DRにも罹患している。他の実施形態では、DME患者はまた、増殖性DRにも罹患している。本発明の他の実施形態では、患者は、加齢性黄斑変性症(AMD)に罹患している。他の実施形態では、AMDに罹患している患者は、新生血管性AMDに罹患している。
【0080】
投与:硝子体内(IVT)は、硝子体液ゲルと呼ばれるゼリー状の流体で満たされた硝子体腔と呼ばれる眼の後部の空間に薬物を直接配置する手順において、本明細書に記載され、特許請求される剤の1つの例示的な投与経路である。この手順は、通常、オフィス環境で、訓練を受けた網膜専門家によって実行される。本明細書に記載され、特許請求される剤の別の投与経路は、眼房内(IC)である。眼房内注射は、通常、眼球の前房への注射である。本明細書に記載され、特許請求される剤の他の投与経路は、静脈内、筋肉内、経口、非経口、局所、及び皮下であり得る。
【実施例】
【0081】
以下は、本発明の方法及び組成物の例である。上記の一般的な説明を考慮すると、様々な他の実施形態が実践され得ることが理解される。
【0082】
実施例1:老化網膜血管細胞又は上皮細胞又は内皮細胞における候補剤の試験
老化網膜血管内皮細胞又は老化網膜色素上皮細胞を除去する候補剤の能力は、以下のアッセイで直接測定することができる。ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC)は、HEC09又はCell Systems ACBRI181の名称でNeuromics(登録商標)から入手することができる。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)は、CC-2519の名称でLonza(登録商標)から入手することができる。細胞は、3%のO2、10%のCO2、及び約95%の湿度で、ENDO-Growth(登録商標)培地(Neuromics(登録商標)、Edina MN)中75%未満のコンフルエンシーで維持及び増殖させることができる。ヒト網膜色素上皮細胞(RPE)は、194987の名称でLonza(登録商標)から得ることができる。RPE細胞は、3%のO2、10%のCO2、及び約95%の湿度の雰囲気中で、5%のFBS及びPen/Strepを含む2009年にSonodaらによって定義されたRPE培地中75%未満のコンフルエンシーで維持及び増殖させることができる。
【0083】
細胞は、照射細胞(使用前に照射後7日間培養)、増殖正常細胞(使用前に低密度で1日間培養)、及び静止細胞(4日間にわたってコンフルエンシーまで培養)の3つの群に分けることができる。
【0084】
0日目に、照射HRMEC又はRPE又はHUVEC細胞を、細胞が集まりプレートから分離し始めるまで、TrypLEトリプシン含有試薬(Thermofisher(登録商標)Scientific、Waltham、マサチューセッツ)とインキュベートすることができる。次いで、細胞を分散させ、カウントし、1mL当たり100,000個の細胞の濃度で培地中で調製することができる。この細胞懸濁液を、1mL当たり100,000個の細胞の密度でT175フラスコに配置し、10~15Gyで照射することができる。照射後、細胞を96ウェルプレート中で100μLで播種することができる。1日目、3日目、4日目、又は6日目に、各ウェル中の培地を吸引し、新鮮な培地と置き換えることができる。3日目に、静止した健康な非老化HRMEC又はRPE細胞を、上述のように培養フラスコからトリプシン化することができ、細胞を分散させ、カウントし、1mL当たり80,000個の細胞の濃度で培地中で調製することができる。96ウェルプレートの各ウェルに100μLの細胞を播種することができ、培地は1日目、3日目、6日目及び10日目に交換することができる。
【0085】
10日目に、候補剤を所望の濃度に適切に希釈し、次いで、培地から吸引した後、細胞と組み合わせることができる。候補剤は、細胞と共に、例えば、3~7日間などの適切日数の間培養することができる。アッセイシステムは、熱安定性ルシフェラーゼの特性を使用して、細胞溶解中に放出される内因性ATPaseを同時に阻害しながら、安定した発光シグナルを生成する反応条件を可能にし得る。培養期間の終了時に、プレートをインキュベータから取り出し、室温で20分間平衡化させ、次いで100μLのCellTiter-Glo(登録商標)試薬(Promega(登録商標)Corp.、Madison、Wisconsin)を各ウェルに加えることができる。細胞プレートをオービタルシェーカー上に30秒間置き、次いで室温で10分間放置してから、例えば、EnVision(登録商標)プレートリーダー(Perkin Elmer)を使用して発光を測定することができる。発光読み取り値を正規化して、%細胞生存/成長を決定し、候補剤濃度及び対照に対してプロットすることができ、効力(IC50値)をGraphpad(登録商標)Prismで非線形曲線フィッティングによって決定することができる。
【0086】
この実験は、GPX4阻害剤であるRSL3((1S,3R)-メチル2-(2-クロロアセチル)-1-(4-(メトキシカルボニル)フェニル)-2,3,4,9-テトラヒドロ-1H-ピリド[3,4-b]インドール-3-カルボキシレート;CAS No.1219810-16-8)を試験して行ったが、これは、DMSOの1~3希釈シリーズで200倍で調製し、次いで培地中で最終濃度の1.5倍に希釈し、照射された老化HRMEC細胞及び対照としての非老化HRMEC細胞に適用し、
図3Aを参照されたい。データは、RSL3が、非老化HRMECと比較して、老化HRMEC細胞に対して選択的にセノリティックであることを示している。同様に、RSL3は、照射された老化HUVEC細胞及び対照としての非老化HUVEC細胞に適用され、
図3Bを参照されたい。データは、RSL3が、非老化HUVECと比較して、老化HUVEC細胞に対して選択的にセノリティックであることを示している。
【0087】
この実験はまた、異なるGPX4阻害剤であるJKE-1674((E)-1-(4-(ビス(4-クロロフェニル)メチル)ピペラジン-1-イル)-2-(ヒドロキシイミノ)-3-ニトロプロパン-1-オン;CAS No.2421119-60-8)を試験して行ったが、これは、DMSO中の1~3希釈シリーズで200倍で調製し、次いで培地中で最終濃度の1.5倍に希釈し、照射された老化HUVEC細胞及び対象としての非老化HUVEC細胞に適用し、
図4を参照されたい。データは、JKE-1674が、非老化HUVECと比較して、老化HUVEC細胞に対して選択的にセノリティックであることを示している。
【0088】
この実験はまた、更に別のGPX4阻害剤であるML210(Eaton et al.,BioRxiv,September 5,2018を参照されたい;CAS No.1360705-96-9)を試験して行ったが、これはDMSO中の1~3希釈シリーズで200倍で調製し、次いで培地中で最終濃度の1.5倍に希釈し、照射された老化HRMEC細胞及び対照としての非老化HRMEC細胞に適用し、
図5を参照されたい。データは、ML210が、非老化HRMECと比較して、老化HRMEC細胞に対して選択的にセノリティックであることを示している。
【0089】
同様の実験を、2つの他の候補GPX4阻害剤である化合物#19(US2019/0263802に記載の化合物28を参照されたい)及び#25(US2019/0263802に記載の化合物156を参照されたい)を試験して行ったが、これは、DMSO中の1~3希釈シリーズで200倍で調製し、次いで培地中で最終濃度の1.5倍に希釈し、照射された老化HUVEC細胞及び対照としての非老化HUVEC細胞に適用し、
図6A及び
図6Bを参照されたい。データは、化合物#19(
図6A)及び#25(
図6B)の両方が、非老化HUVECと比較して、老化HUVEC細胞に対して選択的にセノリティックであることを示している。
【0090】
実施例2:AMD、DR/DME及びPDR組織における老化細胞の証拠
罹患した患者からのAMD、DR/DME、及びPDR組織試料における老化細胞の存在の証拠を得るために、p16について染色した。
【0091】
ヒトの死後全ドナー眼球は、様々な眼組織バンクからプロスペクティブに調達された。患者の診断は、患者の履歴を使用して確認した。摘出後、眼球を直ちにデビッドソンの試薬に入れ、少なくとも48時間固定した。固定後、溶液を70%エタノールと交換した。次いで、組織を組織学的カセットに入れし、パラフィン浸潤及び包埋のために処理した。パラフィンブロックをミクロトーム上に取り付け、5~9μmの厚さに切片化した。4mmの矢状切片で切断した組織切片を45℃の水浴に入れ、Superfrost(登録商標)Plus顕微鏡スライドを使用して切片を拾い、Kimwipe(登録商標)で余分な水分を除去した。次いで、スライドを直立させて室温で30分間乾燥させ、続いて37℃のインキュベータで一晩インキュベートした。スライドを60℃で15~20分間焼成し、次いで室温まで冷却した。スライドを、キシレン又はキシレン代替物(例えば、Histoclear(登録商標))を使用して4分間脱ろうし、合計3回インキュベーションを繰り返した。次いで、スライドを、次のように、低減濃度のエタノール中で連続的にインキュベーションすることにより再水和させた。100%エタノール中で各5分間を2回、90%エタノール中で各2分間を2回、75%エタノール中で各2分間を2回、50%エタノール中で各2分間を2回、次いで水で4分間洗浄した。
【0092】
抗原回収は、スチーマー又は圧力加熱器を使用して、酸性クエン酸ナトリウム緩衝液中で120℃で3分間(又は95℃で20分間)インキュベートすることによって行った。スライドを室温まで15分間冷却し、その後、0.1%のTriton-X100(TBST)を補充したTris緩衝生理食塩水で2回、各々2分間洗浄した。スライドをTBSTで各々5分間再度2回洗浄した後、使用する二次抗体の起源の種からの5%の正常血清を含有するTBST中で室温で1時間ブロックした。ブロック後、スライドを、TBST中で1:2に希釈したp16一次マウス抗ヒトp16INK4a抗体(CINtecクローンE6H4、Roche、カタログ番号705-4793)と共に、4℃で一晩(又は室温で2時間)インキュベートした。P16を、Roche Ventana Discovery Platform上でジエチルアミノクマリンDCC蛍光染色アッセイを使用して視覚化した。Zeiss Axioscan(登録商標)顕微鏡(Zeiss(登録商標)、Oberkochen、ドイツ)を使用したフルスライド走査後、p16INK4a陽性細胞の数をVisiopharm画像解析ソフトウェア(Visiopharm(登録商標)、Hoersholm、デンマーク)を使用して定量し、全細胞を全DAPI染色核から定量化した。ここで、正常に対するp<0.0001は、Dunnの多重比較試験を用いたKruskal-Wallisによる。
【0093】
図1及び2は、p16
INK4a陽性細胞の定量化を示し、対照網膜と比較した場合の、AMD、DR/DME及びPDRの患者の網膜における増加を示す。
【0094】
実施例3:ブレオマイシン誘発性緑内障モデルにおける候補剤の有効性
この実施例は、原発性開放隅角緑内障(POAG)のマウスモデルにおける本発明の候補剤の試験を示す。8~10週齢の雄C57Bl6/Jマウスを、イソフルオランチャンバ内で3分間鎮静化し、次いでノーズコーン内の手術台上に配置して、一定のイソフルオラン麻酔を維持することができる。2.5%フェニレフリン-トロピカミドの1滴を、拡張のために眼に滴下する。ベースライン眼内圧(IOP)の測定は、手術前にTonolab(商標)を使用して両眼で行うことができる。IOP値は、6つの測定値の平均として報告される。緑内障様表現型を誘導するために、2μLのブレオマイシン(0.25U/kg)又はPBS(対照)を右眼に眼房内注射することができる。
【0095】
IOP測定は、損傷後7日目(治療前)、14日目、及び21日目に行うことができる。治療は、ブレオマイシン傷害の7日後に行うことができる。マウスをイソフルオランチャンバ内で3分間鎮静化し、次いでノーズコーン内の手術台上に配置して、一定のイソフルオラン麻酔を維持することができる。2.5%フェニレフリン-トロピカミドの1滴を、拡張のために眼に滴下することができる。組み合わせた、又はビヒクル中の好適な濃度の候補剤のマイクロリットル体積を、片目に眼房内注射することができる。
【0096】
眼試料は、ブレオマイシン傷害の14日後及び21日後に採取することができる。小柱網を収集し、液体窒素中で迅速に凍結することができる。試料の保存は、RNA抽出まで-80℃であってもよい。RNA抽出は、クロロホルム抽出、続いてDirect-Zol Microprep(商標)RNA抽出キット(VWR(登録商標))を使用して実行することができる。High Capacity Reverse Transcriptase(商標)キット(ThermoFisher(登録商標))を使用して、500ナノグラムのRNAを用いてcDNAを調製することができる。cDNAの10分の1は、PerfeCTa qPCR ToughMix Low Rox(商標)及びTaqman(商標)プライマー/プローブ(QuantaBio(商標))を使用してRNA発現測定のレベルに使用することができる。
【0097】
実施例4:糖尿病誘発性網膜症モデルにおける候補剤の有効性
ストレプトゾトシン(STZ)げっ歯類モデル(Feit-Leichman et al,IOVS46:4281-87,2005)は、膵臓β細胞に対するSTZの直接細胞毒性作用を介した高血糖の誘導を通じて、糖尿病性網膜症及び糖尿病性黄斑浮腫の特徴を再現する。高血糖症は、STZ投与後数日以内に生じ、糖尿病性網膜症の表現型態様は、数週間以内に生じ、血管漏出、及びこれらのげっ歯類において示される視力及びコントラスト感度の低下を伴う。したがって、このモデルは、糖尿病性眼疾患における治療薬の評価に広く使用されている。
【0098】
6~7週のC57BL/6Jマウスの重量を測定し、それらのベースライン血糖を測定する(Accu-Chek(登録商標)、Roche)。マウスに、STZ(Sigma-Alderich(登録商標)、St.Louis,MO)を5日間連続して、55mg/Kgで腹腔内注射することができる。週齢が一致した対照には、緩衝剤のみを注射することができる。最後のSTZ注射の1週間後に再度血糖を測定することができ、非絶食性血糖が17mM(300mg/dL)よりも高い場合、マウスは糖尿病であるとみなされる。STZで処理された糖尿病C57BL/6Jマウスに、STZ投与の8及び9週間後に、候補剤のマイクロリットル体積を硝子体内注射することができる。網膜血管透過性は、以下のように、STZ処理10週後にエバンスブルー透過アッセイによって測定することができる。
【0099】
マウスを麻酔し、生理食塩水に溶解したエバンスブルー色素を尾静脈注射する。尾静脈注射の2時間後、マウスをケタミン及びキシラジンで麻酔し、生理食塩水を使用して左心室を通して灌流させることができる。灌流後、網膜を解剖し、重量を測定し、70℃で18時間ホルムアミド中に入れ、エバンス青色染料を抽出する。翌日、網膜を45分間遠心分離し、ホルムアミドから取り出す。エバンスブルーの血管外漏出を、A620でプレートリーダーを使用して測定する。標準曲線を使用して、ngエバンス青色/湿潤組織重量の単位に換算する。
【0100】
実施例5:レーザー誘導脈絡膜血管新生(CNV)マウスモデルにおける候補剤の有効性
レーザー誘発性CNVモデルは、Bruchの膜の破裂を伴い、炎症性/創傷治癒応答及びそれに伴うCNVをもたらし、それによって湿潤AMD又は新生血管AMDを模倣する。脈絡膜毛細血管は、新生血管応答に明示的に関与しており、このモデルは、湿潤又は新生血管AMDと同様の血管造影外観を生成する。
【0101】
雄のC57BL/6Jマウス(6~8週間)を、レーザー処置の前にケタミン/キシラジンカクテルで麻酔することができる。CNV病変は、ダイオードレーザー(IRIDEX(登録商標)、Oculight(登録商標)GL)及びスリットランプ(Zeiss(登録商標))を使用したレーザー光凝固によって誘導され、スポットサイズは50um、電力は180mW、曝露時間は100ミリ秒である。典型的には、4つのレーザー熱傷が、各眼の視神経盤の周りの3、6、9、及び12時の位置で誘導される。候補剤及び適切な対照を、レーザー誘導の1日前に腹腔内に注射し、3日ごとに合計3回注射することができる。レーザー誘導の9日後、マウスに、尾静脈を介してFITC-レクチン又はTRITC-デキストランを灌流させることができる。灌流の後、眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で15分間固定する。
【0102】
脈絡膜-強膜複合体及び網膜を分離することができ、抗CD31免疫蛍光(IF)を行って、網膜及び脈絡膜組織の両方の全マウント染色によって血管系を証明することができる。CD31IFについて、ラット抗マウス抗体BD550274を1:100で希釈し、4℃で一晩インキュベートした。二次抗ラット抗体(Life Technologies(登録商標)、A11006)との4時間のインキュベーション後、全マウントを488nmで画像化することができる。病変部における血管新生及び網膜における血管密度の定量化は、米国国立衛生研究所によって開発されたオープンソースソフトウェアであるImageJによって実施することができる。p値は、スチューデントt検定によって評価することができる(有意な変化、p<0.05)。
【0103】
実施例6:酸素誘導性網膜症(OIR)マウスモデルにおける候補剤の有効性
OIRモデルは、マウスの子の網膜血管系がまだ発達している段階での高酸素への曝露に基づいている。これは、毛細血管枯渇をもたらし、室内空気に戻ると、網膜虚血及び網膜血管系における増殖性血管疾患又は酸素誘発性網膜症をもたらす。
【0104】
C57BL/6Jの子を、出生後7日目(P7)に高酸素チャンバ(75%O2)内に5日間収容し(ケージごとにn=10)、網膜の中心部の血管退縮をもたらす。CD-1養育母体を、チャンバに入る前及び入ってから2~3日後に回転させる。P12において、子を室内空気に戻し、そこでは相対的な低酸素により異常な血管新生が誘発され、次いで、適切な量の対照及び候補剤を腹腔内投与する。P17において、ナイーブOIRマウスを含む全ての群を安楽死させることができる。眼を摘出し、4%パラホルムアルデヒドに1時間固定する。
【0105】
網膜を解剖し、Bandeiraea simplicifolia(Griffonia simplicifolia)からのローダミン標識レクチン(1:100)と共に、PBS中の1mM CaCl2中で一晩インキュベートして、血管消失(VO)領域又は血管新生(NV)領域を可視化する。染色された網膜を、スライド上に平らに取り付け、Zeiss(登録商標)AxioScan上で画像化する。Visiopharm(登録商標)上で画像を分析して、全網膜の%VO又は%NVを決定することができる。
【0106】
実施例7:GPX4競合標的係合ゲルシフトアッセイ
GPX4阻害剤のインビトロ細胞株又はインビボ組織標的係合(TE)のいずれかの検出のために、ゲルシフトアッセイを開発した。アッセイの概略図については、
図7を参照されたい。
【0107】
インビトロ標識化プロトコル:2つの凍結マウス網膜を、セラミックビーズを有する0.5mLのPrecellys(登録商標)チューブ、及び1×Roche EDTA不含プロテアーゼ阻害剤及び5mMのTCEPを有する200μLの低温mPERに直接加えた。網膜組織を、4℃で4500RPMで単一の15sバーストを使用して均質化した。発泡体を除去するために、チューブを5k×gで5分間、4℃で回転させた、次いで全ての液体を1.5mLのEppendorfs(登録商標)に移した。試料を20k×gで4℃で10分間回転させ、清澄化した溶解物を正常なチューブに移した。27.5μLの各ビヒクル対照を1つのチューブに組み合わせて、標識標準試料を提供した。
【0108】
標識対照については、50μLの試料を1μLの5mM RSL3に添加し、別の50μLの試料を対照としてDMSOに添加した。試料を混合し、室温(RT)で1時間インキュベートした。この1μLの5mM GPX4ビオチンプローブを各試料に添加した後、次いで短時間ボルテックスし、室温で更に1時間20分間インキュベートした。インキュベーション終了時に-20℃のアセトン300μLを添加し、試料を-20℃で保存した。他の全ての試料については、50μLの溶解物を1μLの5mM GPX4ビオチンプローブに添加し、混合した。反応を室温で2時間進めてから、上記のようにアセトン沈殿させた。
【0109】
試料を解凍し、4℃で20,000xgで10分間回転させた。上清を吸引し、廃棄した。500μLの氷冷アセトンを各チューブに添加し、バスソニケーターで短時間超音波処理を行ってペレットを破砕した。続いて、チューブを20,000xg及び4℃で5分間回転させ、180度回転させ、更に5分間回転させた。上清を吸引し、ペレットを約10分間空気乾燥させた。
【0110】
10μLのSDS溶液(0.5%のSDS、150mMのNaCl、50mMのTris7.4、5mMのTCEP、1×Rocheプロテアーゼ阻害剤)を各チューブに加え、室温で1時間放置した。次いで、チューブをバスソニケーターの焦点で個々に超音波処理し、次いでボルテックスし、短時間回転させて、チューブの底部で試料を統合した。40μLのNP40溶液(1.25%のNP-40、150mMのNaCl、50mMのTris7.4、5mMのTCEP、1xRocheプロテアーゼ阻害剤)を添加し、試料を再び短時間超音波処理し、ボルテックスし、チューブの底部に収集した。
【0111】
ストレプトアビジン結合反応のために、20μLの試料を5μLの5mg/mLのストレプトアビジン(Promega(登録商標))に添加した。各反応の第2の20μLを、5μLの150mMのNaClを含有する「モック」チューブに加えた。これら2つの25μLの試料を、4℃、550RPMで一晩振盪させた。
【0112】
ウェスタンブロット分析:試料を25μLの2×NuPAGE(登録商標)試料緩衝液(4×w dH2Oから希釈)で希釈し、4~12%のNuPAGE Midi、1mm、12+2ウェルのBis/Trisゲル(Invitrogen)に充填した。ゲルを150Vで1時間15分間溶出させ、次いでiBlot(登録商標)(ThermoFisher)を使用して、7分間プログラム3設定を使用してニトロセルロース膜に移した。
【0113】
ブロットをTBST中5%のミルクで1時間ブロックした。TBSTで洗浄した後、TBST中5%のBSA中で1:2000で希釈した抗GPX4抗体(Abcam#ab125066)を添加し、ブロットを振盪しながら4℃で一晩インキュベートした。抗ウサギHRPを、TBST中5%のミルク中で1:5000で約1時間室温で使用し、Western Pico(登録商標)ECL試薬を使用してシグナルを検出した。全ての分析は、Azure Biosystems(登録商標)c500からの5分間の曝露を使用して行った。ImageJ(登録商標)(米国国立衛生研究所)を使用して、+/-ストレプトアビジンのバンドの統合密度を定量化した。
【0114】
この実験は、成体マウス網膜におけるRSL3の用量依存性GPX4 TEを実証した。
図8A~8Cを参照されたい。
【0115】
この実験はまた、GPX4阻害剤の化合物#19及び#25(それぞれ、
図9A及び
図9Bを参照されたい)を使用して、老化HUVEC細胞と共に6時間インキュベートすることによって行った。データは、インビトロTEにおける強力なサブマイクロモルを示した。
【0116】
このゲルシフトアッセイは、上記のOIRモデルと並行して使用して、インビボ状況で候補GPX4阻害剤のTEを試験することができる。具体的には、異常な新生血管がマウスの子で引き起こされると、適切な量のビヒクル対照又は候補GPX4阻害剤を、例えば、硝子体内(IVT)に投薬することができる。一定期間後、マウスを安楽死させ、眼を収集し、本明細書に記載のゲルシフトアッセイで処理することができる。
【0117】
実施例8:GCN2インビトロ活性の決定
元々、オフターゲットGCN2阻害剤活性を有するPERK阻害剤として説明された(Smith,Adrian L.,et al.,J of Med Chem.2015 Feb 12:58(3):1426-41)特定の化合物である化合物39を試験して、様々なインビトロアッセイを使用してGCN2活性化活性を有するかどうかを判定した。あらゆる制限なしに、そのようなアッセイを使用して、GCN2経路活性化のための他の化合物を試験することができる。CRISPR-Cas12a技術及びHiBiTタグを担持する一本鎖オリゴDNAヌクレオチド(ssODN)テンプレートを使用したノックインアプローチを通して、高親和性ルシフェラーゼ相補性断片(HiBiT)によってH2122細胞(CRL-5985(商標))において活性化転写因子4(ATF4)をC末端タグ付けした。レポーター細胞株生成後(H2122 ATF4-HiBiT)、細胞を96ウェルプレートにほぼコンフルエンシーで播種し、翌日、化合物39で5時間処理した。開始濃度として10μMを使用して、4分の1対数希釈を使用して用量応答を生成した。Nano-Glo(登録商標)HiBiT溶解検出(Promega(登録商標))試薬を5時間後に添加し、添加-混合-読出しアッセイフォーマットを使用して、細胞ATF4タンパク質のプレートベースの生物発光定量化を可能にした。ATF4発現のピーク活性化は、化合物39の約250nMで検出された。
図10Aを参照されたい。
【0118】
次いで、マウス胚性線維芽(MEF)細胞をほぼコンフルエンシーまで培養し、固定濃度(250nM)の化合物39で5時間処理した。細胞をLSD溶解緩衝液中で採取し、ホモジネートをSDS-PAGEによって分離した。P-eIF2a(クローンD9G8)、ATF4(クローンD4B8)、及びDNA損傷誘導性転写産物3(DDIT3)(クローン9C8)を標的とする抗体を使用して、免疫ブロッティングを一晩行った。化合物39の処理は、ホスホ-eIF2a(p-eIF2a)、並びにATF4及びDDIT3(CHOP)のレベルを増加させる。
図10Bを参照されたい。
【0119】
初代ヒト網膜微小血管内皮細胞(HRMEC-Cell Systems(商標)Corp.、ACBRI181、ロット#181.04.02.02.02)を、Endothelial Cell Growth Kit-VEGF(ATCCロット80720201)を用いて血管細胞基底培地(ATCC(登録商標)ロット90909277)で培養し、追加のFBSを5%FBSの最終濃度に添加した。細胞を、96ウェルプレートにほぼコンフルエンシーで播種し、翌日、化合物39で5時間処理した。開始濃度として10μMを使用して、4分の1対数希釈を使用して用量応答を生成した。処理後、RNAをRNeasy(登録商標)96-Kit(Qiagen(登録商標))を使用して抽出し、次にSuperscript(商標)IV VILO(商標)Master Mix(Thermofisher(登録商標))を使用してcDNAを生成した。標準TaqMan(登録商標)試薬及び条件を使用して、qPCRを行った。プライマーHs00358796_g1を使用してDDTI3遺伝子発現を検出し、プライマー(Hs99999910_m1)を使用してTbpを対照遺伝子として使用した。DDIT3発現のピーク活性化は、約250nMの化合物39で検出された。
図10Cを参照されたい。
【0120】
化合物39によるDDIT3活性化が、PERKではなくGCN2活性化に依存するかどうかを決定するために、以下の実験を行った。GCN2ノックアウト細胞(CRL-2978(商標))、PERKノックアウト細胞(CRL-2976(商標))、又はWT対照細胞(ATCC CRL-2977(商標))をほぼコンフルエンシーまで培養し、固定濃度(250nM)の化合物39で5時間処理した。処理後、RNAをRNeasy(登録商標)96-Kit(Qiagen)を使用して抽出し、次にSuperscript(商標)IV VILO(商標)Master Mix(Thermofisher(登録商標))を使用してcDNAを生成した。標準TaqMan試薬及び条件を使用して、qPCRを行った。プライマーHs00358796_g1を使用してDDIT3遺伝子発現を検出し、プライマー(Hs99999910_m1)を使用してTbpを対照遺伝子として使用した。ノックアウト細胞株は、化合物39によるDDIT3誘導がGCN2に依存するが、PERKには依存しないことを示した。
図10Dを参照されたい。
【0121】
実施例9:GCN2インビボ活性の決定
化合物39を、ヒト虚血性網膜症、酸素誘導性網膜症(OIR)新生児マウスと多くの特徴を共有する動物モデルにおいて試験した。化合物39の薬力学的効果を調べるために、それを10、30、又は90mpkのいずれかで腹腔内(IP)投与した。投薬製剤は、1%のPluronic F-68/1%のHPMC、15%のカプチゾールを含むビヒクルに基づいた。正常酸素及びOIR新生児の両方をP12(高酸素症の終了)で処理し、4時間後、又は24時間後のP13で取り出した。網膜を解剖し、完全自動化されたスピンカラムベースの核酸抽出機器(Qiacube Connect(商標))を使用してRNAを抽出した。qPCRは、標準のTaqMan(登録商標)試薬及び条件を使用して行った。Atf4、Ddit3、及びTbp(対照)遺伝子発現を、それぞれ、プライマー:Mm00515324_m1、Mm00492097_m1、及びMm01277042_m1を使用して決定した。化合物39は、IP投与後、ATF4(
図11A)及びDDIT3(
図11B)の両方について、用量依存的な遺伝子発現の誘導を有することが示された。
【0122】
腹腔内投与された化合物39は、30及び60mpkでATF4タンパク質発現を活性化した。化合物39投与の4時間後に成体の眼網膜を解剖し、採取した試料を氷上に維持し、Precellys(商標)(500μLチューブ)組織ホモジナイザを使用して、Pierce Protease Inhibitor Complete Mini錠(ThermoScientific(商標)A32963)を含有する300uL MSD Tris溶解緩衝液中で均質化した。次いで、均質化された試料を遠心分離して、破片から上清を分離した。溶解物をSDS-PAGEによって分離し、ATF4(D4B8)及び対照タンパク質アクチニン(Cell Signaling、cat.3134S)について免疫ブロットした。
図11Cを参照されたい。結果は、化合物39がATF4のレベルを増加させたが、制御タンパク質アクチニンを増加させなかったことを実証している。
【0123】
実施例10:GCN2アゴニストを使用した網膜疾患との関連性を有するストレス応答遺伝子の調節
化合物39の薬力学的効果を調べるために、それを正常酸素及びOIR新生児マウスの両方において10、30、又は90mpkのいずれかで腹腔内投与した。投薬製剤は、1%のPluronic F-68/1%のHPMC、15%のカプチゾールを含むビヒクルに基づいた。正常酸素及びOIR新生児の両方をP12(高酸素症の終了)で処理し、4時間後、又は24時間後のP13で取り出した。網膜を解剖し、完全自動化されたスピンカラムベースの核酸抽出機器(Qiacube Connect(商標))を使用してRNAを抽出した。qPCRは、標準のTaqMan試薬及び条件を使用して行った。Slc7a11、Serpinf1、及びTbp(対照)遺伝子発現を、それぞれ、プライマーMm00442530_m1、Mm00441270_m1、及びMm01277042_m1を使用して決定した。網膜Slc7a11(
図12A)及び網膜Serpinf1(
図12B)の両方について、化合物39による遺伝子発現の用量依存的誘導を検出した。
【0124】
正常酸素及びOIR眼網膜を、化合物39投与の4時間後に解剖し、採取した試料を氷上に維持し、Precellys(500μLチューブ)組織ホモジナイザを使用して、300μLのLSD試料/溶解緩衝液中で均質化した。次いで、均質化された試料を遠心分離して、破片から上清を分離した。溶解物をSDS-PAGEによって分離し、ATF4(D4B8)、p-eIF2a(D9G8)、及びHIF1α(Novus(商標)、cat.NB100-449)及び対照タンパク質アクチニン(Cell Signaling(商標)、cat.3134S)について免疫ブロットした。
図13を参照されたい。化合物39の処置は、ATF4及びホスホ-eIF2αのレベルの増加、並びに低酸素ストレスシグナル伝達の低減を示すHIF1αタンパク質レベルの下方調節を特徴とする薬力学的応答をもたらした。
【0125】
実施例11:GCN2アゴニストを使用した網膜血管系の改善
化合物39の有効性を、マウスOIRモデルで研究した。高酸素環境への幼若マウスの曝露は、網膜血管系の閉塞をもたらし、その後、周囲の空気に戻ると病理学的血管新生(血管新生)をもたらす。化合物39を、示された時点(モデルのP12及びP14)で2回腹腔内投与(90mpk)、又は1回のみ(P12で、続いてP14でbtビヒクル対照)のいずれかで投与した。
【0126】
無血管領域及び新生血管領域を、モデルのP17における網膜平面標本の採取及び染色後に定量化した。化合物39の2回の90mpkの腹腔内投与を受けたOIRの子は、P17において、新血管形成の有意な拮抗(
図14A)を示したが、血管遮断(
図14B)は示さなかった。これらの結果は、全身投与された化合物39が、OIR疾患モデルにおいて病原性血管新生を機能的に阻害し得ることを示している。
【0127】
OIRの子を、P12で90mpkの化合物39の腹腔内注射で処理し、次いでこれらの子を、授乳中の母親と共に室内空気中に移し、P14で投与を繰り返し、P17で屠殺した。P17で眼を摘出し、血管染色のために網膜を解剖した。無血管又は新生血管領域を決定するために、網膜を平面にマウントし、蛍光顕微鏡検査のためにイソレクチンB4(IB4)で染色した。イソレクチン染色した平面標本は、ビヒクルで処理した子(
図15A)と比較して、化合物39で処理した子(
図15B)における網膜血管の保存を示している。ビヒクルで処理された子は、化合物39で反復処置された子と比較して、虚血性後部網膜を有し、90mpkの化合物39の2回の腹腔内投与が新生血管を有意に抑制したことを示している。
【0128】
前述の本発明は、理解を明確にする目的のために、解説及び例によってある程度詳細に説明されているが、説明及び例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書で引用される全ての特許及び科学文献の開示は、参照によりそれらの全体が明示的に組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
例示的PAPP-A阻害剤:当該技術分野で現在知られている、又は開発される任意のPAPP-A阻害剤が、本発明に従って開示される網膜血管症の治療のために試験及び開発され得る。特に、本発明の方法で利用され得るPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、PAPP-Aに特異的に結合する抗体が挙げられる。これらには、例えば、WO2020/198166、米国特許第8,653,020号、Mikkelsen et al.,Oncotarget5,1014-1025(2014)、Mikkelsen et al.,J.Biol.Chem.283,16772-16780(2008)、及びMohrin et al.,bioRxiv,doi:https://doi.org/10.1101/2020.02.05.936310(このバージョンは、2020年2月6日に掲載された)において開示されるように、PAC-1scFV、PAC-1-D8scFv、PAC-2scFv、PAC-5scFvが含まれ得、これらは全て、参照によりそれらの全体の各々が本明細書に全て組み込まれる。本発明の方法で利用され得る他のPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、PAPP-Aの機能を阻害することができるポリペプチドが挙げられる。これらには、例えば、プロ-MBP、スタニオカルシン-1(STC1)、又はスタニオカルシン-2(STC2)が含まれ得る。本発明の方法で利用され得る更に他のPAPP-A阻害剤としては、例えば、限定されないが、5’-GCCCAACTCCTGCTGGAA-3’(SEQ ID NO: 1)(AS-PAPP-A)のアンチセンス配列からなるヒトPAPP-A mRNAに対応する18塩基ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドなどのPAPP-Aを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドが挙げられる(Tanaka et al.,Cancer Cell Biol Jan 2004を参照されたい)。本発明の方法で利用され得る更に他のPAPP-A阻害剤としては、限定されないが、クニッツ型プロテアーゼ阻害剤ビクニンが挙げられる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】