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特表2024-521815ALS及び関連する疾患を治療するための多部位ニューロモデュレーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ALS及び関連する疾患を治療するための多部位ニューロモデュレーション
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/20 20060101AFI20240528BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20240528BHJP
   A61N 1/378 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
A61N1/20
A61N1/36
A61N1/378
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573133
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 US2022030655
(87)【国際公開番号】W WO2022251165
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】17/331,142
(32)【優先日】2021-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】507248826
【氏名又は名称】リサーチ ファウンデイション オブ ザ シティー ユニヴァーシティ オブ ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(72)【発明者】
【氏名】アフメド,ザグルール
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053FF04
4C053GG01
4C053JJ06
4C053JJ13
4C053JJ14
4C053JJ24
(57)【要約】
多部位ニューロモデュレーションを用いたALS及び関連する運動ニューロン疾患を治療する方法並びにシステムが開示される。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物においてALSを治療するためのシステムであって、前記システムは、
脊椎動物における筋力低下と関連する末梢神経の末梢直流刺激を供給するように構成された第1の刺激コンポーネントであって、前記第1の刺激コンポーネントは、前記末梢神経を刺激するように構成された神経刺激極を有する神経刺激回路を含む、第1の刺激コンポーネント、
前記末梢神経の制御と関連する脊髄の位置に脊髄直流刺激を供給するように構成された第2の刺激コンポーネントであって、前記第2の刺激コンポーネントは、活性脊髄刺激極及び脊髄参照極を有する脊髄刺激回路を規定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄の位置を刺激するために前記脊髄刺激極と前記脊髄参照極の間に経脊髄直流刺激を供給するように構成され、前記活性脊髄刺激極は、前記脊髄の位置の比較的近位であり、前記脊髄参照極は、前記脊髄の位置の比較的遠位である、第2の刺激コンポーネント、並びに
前記活性脊髄極及び前記近位神経極が反対の極性を引き起こされ、結果として生じる分極回路を形成することを保証するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、前記結果として生じる分極回路は、分極電流に従ってALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、前記反対の極性に従って前記活性脊髄極と前記近位神経極の間に分極電流を供給するように構成された、コントローラーコンポーネント、
を備え、
前記コントローラーコンポーネントがまた、末梢直流刺激及び脊髄直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、前記システム。
【請求項2】
前記コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含む前記電流を供給するように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コントローラーコンポーネントが、前記第1の刺激コンポーネント及び前記第2の刺激コンポーネントにより供給される電流の範囲を同時に制御するように更に構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の刺激コンポーネントが、前記末梢神経を刺激するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、前記正極及び前記負極が、1つの電極が前記正極に動作可能に接続され、別の電極が前記負極に動作可能に接続されるように配置された、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2の刺激コンポーネントが、前記脊髄の位置を渡って刺激を伝達するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、前記正極及び前記負極が、1つの電極が前記正極に動作可能に接続され、別の電極が前記負極に動作可能に接続されるように配置された、請求項3に記載のシステム。
【請求項6】
前記刺激電極のうちの少なくとも1つが移植されている、請求項4又は5に記載のシステム。
【請求項7】
前記コントローラーコンポーネント及び電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記所定の期間、前記所定の回数、及び前記所定の日数が、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるように選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが低減される、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが増大される、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
脊髄、脳、又は末梢神経のうちの1つと関連する生物学的な活性を制御することにより運動ニューロン疾患を治療するための刺激装置であって、
複数の端子を有する直流電源、
第1の電極を前記直流電源に接続するための第1の前記端子であって、前記第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面にあるか若しくは近接するか、脊椎動物の頭蓋にあるか、又は脊椎動物の末梢神経にあるか若しくは近接する、第1の前記端子、
第2の電極を前記直流電源に接続するための第2の前記端子であって、前記第2の電極は前記第1の電極から遠い場所に配置されている、第2の前記端子、ここで、前記第1の電極及び前記第2の電極は逆に帯電し、前記脊髄、前記頭蓋、又は前記末梢神経を刺激するための電流路を形成するように構成されている、及び
前記電流路を渡る前記電極の間の電流を制御するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、前記コントローラーコンポーネントもまた、前記脊髄、前記頭蓋、又は前記末梢神経を渡る前記電流路を刺激するために前記直流を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、コントローラーコンポーネント、
を備えた、前記刺激装置。
【請求項12】
前記運動ニューロン疾患が、筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、進行性球まひ、脊髄性筋萎縮症、及びポリオ後症候群からなる群より選択される疾患である、請求項11に記載の刺激装置。
【請求項13】
前記コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含めた前記電流を供給するように構成された、請求項11に記載の刺激装置。
【請求項14】
前記第1の電極及び前記第2の電極のうちの少なくとも1つが移植されている、請求項11又は13に記載の刺激装置。
【請求項15】
前記コントローラーコンポーネント及び前記直流電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置されている、請求項11に記載の刺激装置。
【請求項16】
前記所定の期間、前記所定の回数、及び前記所定の日数が、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるように選択される、請求項11に記載の刺激装置。
【請求項17】
NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが低減される、請求項16に記載の刺激装置。
【請求項18】
HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが増大される、請求項16に記載の刺激装置。
【請求項19】
脊椎動物においてALSを治療する方法であって、
直流源のA電極とB電極の間に刺激を付与する工程であって、A電極は脊椎動物の脊髄の背側面の第1の位置にあるか若しくは近接するか、又はA電極は脊椎動物の頭蓋の第1の位置にある、工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を含み、
前記B電極は前記A電極から遠い第1の場所に配置され、前記A電極及び前記B電極は逆に帯電し、
前記直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである、前記方法。
【請求項20】
前記A電極を脊椎動物の脊髄の背側面の第2の位置又は脊椎動物の頭蓋の第2の位置に移動させる工程、
任意に、前記B電極を前記A電極から遠い第2の場所に配置させる工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を更に含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記工程を1回以上繰り返す工程を更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
複数のA電極が前記脊髄の前記背側面に沿った複数の場所に配置されるか又は前記複数の場所に近接して配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から遠い場所に配置される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
複数のA電極が運動制御と関連する前記頭蓋の複数の場所に配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から遠い場所に配置される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記複数のA電極と前記複数のB電極の間に付与される前記刺激が同時に又は連続的に付与される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
脊椎動物においてALSを治療する方法であって、
直流源のA電極とB電極の間に第1の刺激を付与する工程であって、A電極は脊椎動物の脊髄の背側面の第1の位置にあるか又は近接する、工程、
直流源のC電極とD電極の間に第2の刺激を付与する工程であって、C電極は脊椎動物の頭蓋の第1の位置にある、工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を含み、
前記B電極は前記A電極から遠い場所に配置され、前記A電極及び前記B電極は逆に帯電し、前記D電極は前記C電極から遠い場所に配置され、前記C電極及び前記D電極は逆に帯電し、
前記直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである、前記方法。
【請求項26】
前記第1及び第2の刺激が同時に又は連続的に付与される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記A電極を脊椎動物の脊髄の背側面の第2の位置に移動させる工程、
任意に、前記B電極を前記A電極から遠い第2の場所に配置させる工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記C電極を脊椎動物の頭蓋の第2の位置に移動させる工程、
任意に、前記D電極を前記C電極から遠い第2の場所に配置させる工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を更に含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記工程を1回以上繰り返す工程を更に含む、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
複数のA電極が前記脊髄の前記背側面に沿った複数の場所に配置されるか又は前記複数の場所に近接して配置され、複数のB電極が前記複数のA電極から遠い場所に配置される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
複数のC電極が運動制御と関連する前記頭蓋の複数の場所に配置され、複数のD電極が前記複数のC電極から遠い場所に配置される、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記複数のA電極と前記複数のB電極の間及び前記複数のC電極と前記複数のD電極の間に付与される前記刺激が同時に又は連続的に付与される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
直流源のE電極とF電極の間に第3の刺激を付与する工程であって、E電極が脊椎動物の第1の末梢神経の第1の位置にあるか又は近接する、工程を更に含み、
前記F電極が前記E電極から遠い場所に配置され、前記E電極及び前記F電極が逆に帯電している、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記第1の刺激、前記第2の刺激、及び前記第3の刺激が同時に又は連続的に付与される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記E電極を前記第1の末梢神経にあるか若しくは近接する第2の位置又は第2の末梢神経にあるか若しくは近接する位置に移動させる工程、
任意に、前記F電極を前記E電極から遠い第2の場所に配置させる工程、並びに
ALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを調節するのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程、
を更に含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記工程を1回以上繰り返す工程を更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
複数のE電極が前記末梢神経に沿った複数の場所に配置されるか又は複数の末梢神経に配置されるか若しくは前記複数の末梢神経に近接して配置され、複数のF電極が前記複数のE電極から遠い場所に配置される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記複数のE電極と前記複数のF電極の間に付与される前記刺激が同時に又は連続的に付与される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記末梢神経が骨格筋を支配する、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記期間が1日以上の一連の刺激期間を含み、前記日が連続的又は非連続的である、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるのに十分な強度で十分な期間、前記直流刺激を付与する工程を更に含む、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが低減される、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが増大される、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
脊椎動物においてALSを治療するためのシステムであって、前記システムが、
脊椎動物における末梢神経に沿った複数の位置に末梢神経の末梢直流刺激を供給するか又は複数の末梢神経の末梢直流刺激を供給するように構成された複数のA刺激コンポーネントであって、前記A刺激コンポーネントのそれぞれが、前記末梢神経又は前記複数の末梢神経を刺激するように構成された神経刺激極を有する神経刺激回路を含む、複数のA刺激コンポーネント、
前記末梢神経又は前記複数の末梢神経の制御と関連する複数の脊髄の位置に脊髄直流刺激を供給するように構成された複数のB刺激コンポーネントであって、前記B刺激コンポーネントのそれぞれが、活性脊髄刺激極及び脊髄参照極を有する脊髄刺激回路を規定し、前記脊髄刺激回路は、前記脊髄の位置を刺激するために前記脊髄刺激極と前記脊髄参照極の間に経脊髄直流刺激を供給するよう構成され、前記活性脊髄刺激極は、前記脊髄の位置の比較的近位であり、前記脊髄参照極は、前記脊髄の位置の比較的遠位である、複数のB刺激コンポーネント、並びに
前記活性脊髄極及び前記近位神経極が反対の極性を引き起こされ、結果として生じる分極回路を形成することを保証するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、前記結果として生じる分極回路は、分極電流に従ってALSと関連する標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、前記反対の極性に従って前記活性脊髄極と前記近位神経極の間に分極電流を供給するように構成された、コントローラーコンポーネント、
を備え、
前記コントローラーコンポーネントはまた、末梢直流刺激及び脊髄直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、前記システム。
【請求項45】
前記コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含めた前記電流を供給するように構成された、請求項44に記載のシステム。
【請求項46】
前記コントローラーコンポーネントが、前記A刺激コンポーネント及び前記B刺激コンポーネントにより供給される電流の範囲を同時に制御するように更に構成された、請求項44に記載のシステム。
【請求項47】
前記A刺激コンポーネントが、前記末梢神経の複数の位置又は前記複数の末梢神経を刺激するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、前記正極及び前記負極が、1つの電極が前記正極に動作可能に接続され、別の電極が前記負極に動作可能に接続されるように配置された、請求項44に記載のシステム。
【請求項48】
前記B刺激コンポーネントが、前記複数の脊髄の位置を渡って刺激を伝達するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、前記正極及び前記負極が、1つの電極が前記正極に動作可能に接続され、別の電極が前記負極に動作可能に接続されるように配置された、請求項46に記載のシステム。
【請求項49】
前記刺激電極のうちの少なくとも1つが移植されている、請求項47に記載のシステム。
【請求項50】
前記コントローラーコンポーネント及び電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置されている、請求項44に記載のシステム。
【請求項51】
前記所定の期間、前記所定の回数、及び前記所定の日数が、神経細胞の寿命を引き延ばすため、並びに/あるいはNKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために選択される、請求項44に記載のシステム。
【請求項52】
NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが低減される、請求項51に記載のシステム。
【請求項53】
HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の前記生物学的な活性又は前記レベルが増大される、請求項51に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[001]本願は、米国非仮特許出願第17/331,142号(2021年5月26日出願)についての優先権を主張し、その内容は、すべての目的で本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
[002]本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び関連する神経疾患を治療する多部位ニューロモデュレーションに基づく方法並びにシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
[003]筋萎縮性側索硬化症(ALS、ルー・ゲーリック病、シャルコー病)は、多数のニューロンネットワークに影響を及ぼし、速やかに死をもたらす進行性の神経変性疾患である。その疾患は運動ニューロン系の体系的な分解の結果であり、臨床症状は、発症部位、前部前頭葉、上位及び下位運動ニューロンの分解プロセスの相対的親和性、並びにネットワーク内の疾患の広がりの速度に依存する(Ravitsら、「ALS motor phenotype heterogeneity, focality, and spread:deconstructing motor neuron degeneration」、Neurology、2009)。ALSは、典型的には診断の2~5年以内に、筋力低下、痙性、まひ、及び最終的には死をもたらす。痙性は、脊髄運動ニューロンの過剰興奮性と関連する疼痛状態であり、ALS患者の約80%に見られ(Milinisら、「Development and validation of Spasticity Index-Amyotrophic Lateral Sclerosis」、Acta.Neurol.Scand.、2018)、注入ボツリヌス神経毒素又は経口バクロフェンにより主に治療される。診断されるのに十分なほど発現した後にALSを進行させるプロセスを対象とするメカニズム特異的な治療は、たかだか改善的な効果を有し得る(Millerら、「Practice parameter:the care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis (an evidence-based review):report of the Quality Standards Subcommittee of the American Academy of Neurology:ALS Practice Parameters Task Force」、Neurology、1999)。疾患の広がりを停止する治療は、影響を受けた運動ニューロンのサルベージを試みるものよりも効果的であり得るが、そのような治療は未だ実現されていない。現在、ALS治療の中心は疾患の臨床症状を対象とする適応治療からなる(Bedlack及びMitsumoto、「Amyotrophic lateral sclerosis:a patient care guide for clinicians」、Demos Medical、2012)。ALSを治療するためのFDAに承認された薬物は3つのみ存在し、すべて非常に限定された有効性を有する。ALSの非侵襲的な治療について、この上なく大きな満たされていない医療ニーズがある。
【0004】
[004]ALSの大部分の症例(90~95%)は特発性であり、ALSの家族歴が知られていない患者に起こるが、症例の残りの5~10%は家族性である。家族性ALSと関連付けられている少なくとも31の異なる遺伝子変異があり(Mathisら、「Genetics of amyotrophic lateral sclerosis:a review」、J.Neurol.Sci.,2019)、家族性ALSの最も一般的な種類を表1に示す。
【0005】
【表1】
【0006】
[005]ALSの臨床所見は、線維束性攣縮、筋けいれん、反射亢進、及び痙性を含み、典型的には、息切れ、換気機能障害、及び最終的には呼吸不全に進行する。ALS患者はUMN徴候及びLMN徴候の両方を示し得る。UMN徴候は痙性、衰弱、及び反射の増大を含み、一方でLMN徴候は筋委縮、衰弱、線維束性攣縮、及び反射の低減を含む。ALSの患者は痛みを伴う筋けいれん、けいれん及び痙性を訴えることが多い。主要なUMN障害と関連する表現型である原発性側索硬化症(PLS)の患者は、深刻な痙性を有し得る(Singerら、「Primary lateral sclerosis」、Muscle Nerve、2007)。
【0007】
[006]近年の研究は、ALSと運動ニューロンの過剰興奮性の間の重要な関係性を証明した(Baeら、「The puzzling case of hyperexcitability in amyotrophic lateral sclerosis」、J.Clin.Neurol.、2013;ElBasiounyら、「Persistent inward currents in spinal motoneurons:important for normal function but potentially harmful after spinal cord injury and in amyotrophic lateral sclerosis」、Clin.Neurophysiol.、2010;Kiernanら、「Amyotrophic lateral sclerosis:origins traced to impaired balance between neural excitation and inhibition in the neonatal period」、Muscle and Nerve、2019;Modolら、「Prevention of NKCC1 phosphorylation avoids downregulation of KCC2 in central sensory pathways and reduces neuropathic pain after peripheral nerve injury」、Pain、2014;Pieriら、「Altered excitability of motor neurons in a transgenic mouse model of familial amyotrophic lateral sclerosis」、Neurosci.Lett.、2003;Waingerら、「Intrinsic membrane hyperexcitability of amyotrophic lateral sclerosis patient-derived motor neurons」、Cell Rep.、2014)。過剰興奮した運動ニューロンは容易に脱分極し、疲労状態となり、最終的には死んで、それらの運動ニューロンにより支配される筋肉の衰弱及びまひを引き起こすことが前提となる。神経伝導試験を用いたヒトの神経生理学的な研究が、ALSの特発型及び家族型の両方において運動ニューロンの軸索過剰興奮性を実証し(Bostockら、「Axonal ion channel dysfunction in amyotrophic lateral sclerosis」、Brain、1995;Vucic及びKiernan、「Upregulation of persistent sodium conductances in familial ALS」、J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry、2010)、過剰興奮性が他のALSサブタイプにおいても報告され(Blairら、「FUS mutations in amyotrophic lateral sclerosis:clinical, pathological, neurophysiological and genetic analysis」、J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry、2010;Williamsら、「Pathophysiological insights into ALS with C9ORF72 expansions」、 J.Neurol.Neurosurg.Psychiatry、2013)、これらは運動ニューロンの過剰興奮性が異なるALSの異型に渡って一貫して見られることを示唆する。皮質過剰興奮性もまたALSにおいて示され、筋力低下の発症に先行するALSの初期の特徴である(Vucic及びKiernan、「Axonal excitability properties in amyotrophic lateral sclerosis」、Clin.Neurophysiol.、2006;Vucicら、「Cortical hyperexcitability may precede the onset of familial amyotrophic lateral sclerosis」、Brain、2008)。
【0008】
[007]我々のグループは2019年に、特定のニューロン共輸送体の過剰発現と、運動ニューロンの過剰興奮性とやはり関連する状態である痙性の発生の間の最初の直接的な関係性を報告した(Mekhaelら、「Repeated anodal trans-spinal direct current stimulation results in long-term reduction of spasticity in mice with spinal cord injury」、J.Physiol.,2019)。このNa-K-Cl共輸送体(NKCC1)は運動ニューロンにおいて見出され、塩化物イオン勾配の維持に関与する。我々は、脊髄損傷の動物モデルにおいてNKCC1が損傷後に高くなり、ニューロンの過剰興奮性及び痙性の増大をもたらすことを報告した。我々は、我々の非侵襲性多部位ニューロモデュレーション技術による刺激がNKCC1を抑制し、痙性を低減したことを報告した。
【0009】
[008]我々は本明細書において、SOD1-G93AマウスにおいてはNKCC1が高くなり、我々の非侵襲性多部位ニューロモデュレーション技術による刺激が、高くなったNKCC1レベルの低減をもたらし、それにより塩化物イオン勾配を正常化することでニューロンの過剰興奮性が低減することを記載する。我々は本明細書において、刺激後の脊髄運動ニューロンにおける更なる生化学的な変化、並びに刺激がSOD1-G93Aマウスにおいて震えの低減、疾患進行の遅延、運動機能の改善、脊髄運動ニューロンの維持の増大、及び生存の増加をもたらすという知見を更に記載する。
【発明の概要】
【0010】
[009]1つ以上の実施形態において、本発明は、直流(DC)源を、ヒト及び他の感覚のある生き物を含めた動物の神経軸に沿った多数の位置に付与することによって、筋萎縮性側索硬化症及び関連する疾患を治療する方法、装置、並びにシステムに関する。直流を付与する位置は、脊柱、末梢神経、及び頭蓋を含む。
【0011】
[010]我々の近年の研究は、ALSと運動ニューロンの過剰興奮性の間の重要な関係性を証明した。我々は、過剰興奮した脊髄運動ニューロンを抑制するため、非侵襲性ニューロモデュレーションの一形態である多部位DCS(直流刺激)を用いた新たな非侵襲性アプローチを開発した。
【0012】
[011]2019年3月22日に出願された国際特許出願PCT/US2019/023675(公開番号WO2019/183536)において、我々は、特定のニューロン共輸送体(NKCC1)の過剰発現と、運動ニューロンの過剰興奮性と関連する別の状態である痙性の発生の間の最初の直接的な関係性を開示している。このNa-K-Cl共輸送体(NKCC1)は運動ニューロンにおいて見出され、塩化物イオン勾配の維持に関与する。我々は、我々の非侵襲性の治療介入がNKCC1レベルを抑制し、痙性を低減することを報告した。WO2019/183536の内容は、本明細書によって本願に援用される。
【0013】
[012]国際特許出願PCT/US2016/18167(公開番号WO2016/133960)において、我々は、ALSの治療に対する我々のDCSに基づいた治療介入の出願を開示している。WO2016/133960の内容は、本明細書によって本願に援用される。
【0014】
[013]我々はまた、我々の非侵襲性多部位DCSアプローチを脳卒中における上肢痙性に適用する我々のヒトへのパイロット研究を公開し、5週間持続した痙性の著しい低減及び運動機能の改善を見出し、安全性を実証した。(Paget-Blanc 2019)。
【0015】
[014]概して、本発明は、経脊髄直流刺激(tsDCS)を組み込んだ多部位DCSの新たな付与を利用した、ALS及び関連する疾患を治療するための新たな方法、装置、並びにシステムに関する。結果として、ニューロンの過剰興奮性を抑制し、ALSの臨床症状の進行を低減又は防止する。特に、我々は、運動ニューロンの過剰興奮性を抑制する様式での非侵襲性ニューロモデュレーションを用いた、ALSの進行を遅延させる全く新しいアプローチを見出した。
【0016】
[015]我々はSOD1-G93Aマウス群体を確立し、このトランスジェニックALSモデルを多部位DCSの効果を特徴付ける前臨床試験に利用した。我々の技術により非侵襲的に治療されたSOD1-G93Aマウスにおいて、我々は、震えの低減、疾患進行の遅延、運動機能の改善、脊髄運動ニューロンの維持の増大、及び生存の増加を示した。
【0017】
[016]我々は、SOD1-G93AモデルにおいてNKCC1が過剰発現され、SOD1が過剰発現され、HSP70が低減され、リン酸化tauが過剰発現されることを見出した。我々は、陽極多部位DCSによる刺激が介入部位でのNKCC1の抑制をもたらすことを見出した。更に、我々は、陽極多部位DCSによる刺激が脊髄におけるSOD1の減少、HSP70の増加、LCB3発現の上方調節、及びリン酸化tauの減少をもたらすことを見出した。我々の新たな発明は、ALSの痙性の低減だけではなくヒトにおけるALSの進行を遅延させるために好ましく適用される。
【0018】
[017]本開示は、好ましくは運動ニューロンの過剰興奮性を抑制する様式での非侵襲性多部位ニューロモデュレーションを用いた、ALSの進行を治療及び遅延させる全く新しいアプローチを教示する。
【0019】
[018]本開示の他の特徴及び利益は、その好ましい実施形態の以下の記載及び特許請求の範囲から明らかとなる。別に定義されなければ、本明細書で用いられるすべての技術的用語及び科学的用語は、本開示が属する分野の当業者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本開示の実施又は試験において本明細書に記載されたものと同様又は同等の方法及び材料を用いることができるが、適切な方法及び材料が以下に記載される。本明細書に記載されたすべての公開された外国特許及び外国特許出願が本明細書に援用される。本明細書に記載されたすべての他の公開された参考文献、文書、原稿、及び科学文献が本明細書に援用される。更に、材料、方法、及び実施例は例示にすぎず、限定するものであることを意図されない。
【0020】
[019]適用可能な場合又は明確には放棄されていない場合、本明細書に記載された実施形態のうちのいずれか1つは、実施形態が本開示の異なる態様の下に記載されるとしても、いずれかの他の1つ以上の実施形態と組み合わせることができるものと考えられる。
【0021】
[020]これら及び他の実施形態が、以下の詳細な説明により開示及び/又は包含される。
[021]例として与えられるものの本開示を記載された特定の実施形態のみに限定することを意図されない以下の詳細な記載は、添付の図面とあわせて最も良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】[022]図1A~1Cは、マウスにおける多部位DCS刺激の設定を示す。図1Aは、マウスが脊柱に沿って配置された3つの電極、2つの座骨神経電極、及び腹部の戻り電極を有する、刺激の設定を記載する。この電極の配列の背後にある根拠は、脊髄を渡って、及び下肢を下って電流を送ることである。図1Bは、同等の電気回路を示す。図1Cは、筋肉抵抗及びEMGの記録を可能にしながらマウスが刺激を受けることができるようにする、マウスホルダーを示す。
図2】[023]図2A~2Bは、SOD1-G93Aマウスにおける伸展反射の筋肉抵抗及びEMG反応に対する陽極DCSの3セッションの効果を示す。図2Aはマウスホルダーの動物を示す。図2B(上)は、陽極多部位DCSによる刺激前に記録された筋肉抵抗及びEMG出力を示す。図2B(下)は、1日当たり50分間付与された陽極多部位DCSの3セッション後に記録された筋肉抵抗及びEMG出力を示す。
図3】[024]図3A~3Bは、症状の発現後のSOD1-G93Aマウスにおける伸展へのEMG反応に対する陽極多部位DCSの即時及び持続的な効果を示す。図3Aは、陽極多部位DCS(陽極で1.5mA、T9~L6に配置。EMGは後肢の下腿三頭筋から記録された)による刺激の前及び間に得られた2乗平均平方根の(緑)及び加工していない(ピンク)EMG出力を示す。疾患発症後のEMG出力において筋活動の増大が見られる。高いレベルの活動は刺激開始すぐに抑制され、スパイク振幅が低減される。図3Bは、それぞれの毎日のセッションが50分持続する陽極多部位DCSによる刺激の3日後に得られた2乗平均平方根の(緑)及び加工していない(ピンク)EMG出力を示す。EMGスパイクの振幅及び振動数は刺激が付与されない場合でも低減され、治療の持続的な効果を示している。
図4】[025]図4は、SOD1-G93Aマウスの後肢の震えに対する陽極多部位DCSの即時の効果を示す。ALSマウスは、症状の発現後に震え及びけいれんを示す。これらの震えは、マイクロゴニオメーター又は力変換器のいずれかを用いて測定することができる。図4(上)は、マイクロゴニオメーターを用いて記録された左後足の震えを示す。図4(中)は、力変換器を用いて記録された右後足の震えを示す。図4(下)は、右後肢の下腿三頭筋の震えのEMG出力を示す。すべての3つのプロットにおいて、斜線部分は陽極多部位DCSの付与前に対応する。震え及びけいれんは、両側で刺激開始直後に抑制される。この強化はすべての測定方法を用いて見ることができる。
図5】[026]図5は、症状の発現後のSOD1-G93Aマウスにおける無意識の筋収縮及び震えに対する陽極多部位DCSの持続的な効果を示す。上から下まで、図は、刺激前、刺激の間、刺激の2日後及び刺激の3日後に測定された(青の)EMG出力及び(力変換器により記録された黒の)力測定を示す。震えは刺激の間にすぐに抑制される。刺激の2日後に測定された活性は、震えの更なる低減を示す。刺激の3日後、震え及び筋けいれんは刺激なしでも更に低減される。
図6】[027]図6は、陽極多部位DCS後のSOD1-G93Aマウスにおける運動機能の改善を示す。刺激されたキャリアマウス及び刺激なしのキャリアマウス並びに非キャリアマウスにおいて、0~6のスコア基準(6は完全なスコアであり、手足の掌の中央部が横木に配置されて動物の全重量を負う)を有する改良された水平梯子スコアシステムを用いて運動機能を評価した。マウスを下からビデオ録画し、ビデオを保管してマウスの治療を知らない調査者により分析した。マウスは1週間当たり2日間、1日当たり1時間の刺激を受け、1.5mAが脊髄陽極により送られた。刺激は、この群において平均で106日の年齢の疾患発症後に開始した。刺激なしのALSマウスのグリッドウォーキングスコアは、非キャリアコントロール(黒)と比較して疾患発症後にすぐに低下する(青)。刺激されたキャリアマウス(赤)では、グリッドウォーキングスコアは刺激なしのキャリアマウスのスコアよりも顕著に高く、刺激後の運動機能の保護の高まりを反映している。N=2の非キャリア、4の刺激されたキャリア、2の刺激なしのキャリア。データは平均±SEMとして示される。
図7】[028]図7A~7Fは、SOD1-G93Aマウスにおける陽極多部位DCS後の脊髄運動ニューロンにおけるNKCC1発現を示す。NKCC1は、塩化物イオン勾配の維持に関与するニューロンの塩化物イオン共輸送体である。NKCC1の過剰発現は、運動ニューロンの過剰興奮性をもたらす。非キャリアマウス(図7A)、刺激なしのキャリアマウス(図7B)、刺激されたキャリアマウス(図7C)並びに同じ動物の腰部及び頸部の運動ニューロン(図7D及び7E)において、免疫化学検査を用いてNKCC1発現を評価した。(緑の)NKCC1発現は、非キャリアコントロールマウスと比較して刺激なしのALSマウスにおいて増大され、多部位陽極DCSにより低減される。刺激を受ける動物では、NKCC1発現は、電極の部位(腰部)の下部で低減される。図7Fは、3つの群に渡るNKCC1の相対発現レベルを示す。
図8】[029]図8A~8Fは、陽極多部位DCSにより治療されたSOD1-G93Aマウスにおける低減されたSOD1発現を示す。ALSマウスは変異SOD1(mSOD1)タンパク質を過剰発現し、病理学的な凝集をもたらす。図8A~8Eは、治療された動物及び治療されていない動物の脊髄の顕微鏡写真である。図8Fは、刺激なしのキャリアと比較した刺激されたキャリア動物における顕著に低いmSOD1発現を示す。N=コントロール:4匹の動物から8枚の薄片;刺激:5匹の動物から5枚の薄片。
図9】[030]図9は、HSP70発現が非キャリア動物と比較してキャリア動物において低減され、SOD1-G93Aマウスにおける陽極多部位DCSによる刺激後にキャリア動物において増大されることを示す。HSP70は、分解経路により基質の流れを促進することが知られているシャペロンタンパク質である。ImagJを用いて単一の脊髄運動ニューロンのHSP70免疫蛍光強度を計算した。脊髄におけるHSP70レベルは、コントロールマウス(左上)と比較して刺激なしのキャリアマウス(左下)において顕著に低減されるが、刺激後のキャリアマウス(右上)において顕著に増大される。これらの知見を棒グラフに要約する(右下;N=刺激:4匹の動物から27の運動ニューロン;コントロール:3匹の動物から19の運動ニューロン)。
図10】[031]図10は、リン酸化tauタンパク質(phTau)レベルに対する陽極多部位DCSの効果を示す。ALSにおいてはリン酸化tauの増加が報告されてきた(Stevensら、「Increased tau phosphorylation in motor neurons from clinically pure sporadic amyotrophic lateral sclerosis patients」、J.Neuropathol.Exp.Neurol.、2019)。非キャリアと比較して、刺激なしのキャリアマウスにおいてより多くのphTauが見られる。陽極多部位DCSによる治療が、キャリアマウスにおけるphTauレベルを低減させた。
図11】[032]図11は、SOD1-G93AマウスにおけるLC3Bの発現に対する陽極多部位DCSの効果を示す。LC3Bは、自食作用活性のタンパク質マーカーである。自食作用の異常調節がALSと関連しており、LC3Bの減少は、毒性タンパク質の異常な蓄積後の運動ニューロンの分解の加速をもたらし得る。LC3B発現は、刺激なしのキャリアマウス(コントロール)と比較して刺激後のキャリアマウスにおいて増大される。
図12】[033]図12は、SOD1-G93Aマウスの脊髄運動ニューロンの生存に対する陽極多部位DCSの効果を示す。同胞SOD1-G93Aマウスを刺激される群及び刺激なしの群に分けた。刺激されたマウスは、疾患発症後に5連続の毎日の60分の治療を受けた。疾患発症後10日目にマウスを犠牲にした。マウス当たり2枚の薄片を摘出した後、運動ニューロンをカウントした。顕微鏡写真は、それぞれの例のマウスの同じ薄片の4つの部分を示す。刺激は、刺激なしのキャリアと比較して、刺激後、より大きなアルファ運動ニューロンの保護、及び全体で34.8%の運動ニューロンのカウントの増加をもたらした。
図13】[034]図13は、症状の発現直後に治療が始まる(治療的刺激の枠組み)場合のSOD1-G93Aマウスの生存に対する陽極多部位DCSの効果を示すKaplan-Meierプロットである。症状の発現は、グリッドウォーキング試験における80以下のスコアとして定義された。刺激されたキャリアマウスは平均で20.5日(±2.1日)間生存し、一方で刺激なしのキャリアマウスは平均で11.1日(±1.2日)間生存し、刺激されたマウスの疾患発症後の平均生存時間が84%の増大となった。N=19の刺激されたマウス;23の刺激なしのマウス。Log Rank(Mantel-Cox)、カイ2乗=13.86、p=0.0002;Breslow(一般化Wilcoxon)カイ2乗=12.25、p=0.0005;Tarone-Ware、カイ2乗=13.12、p=0.0003。
図14】[035]図14は、多部位DCSを付与する制御ユニット並びに脊柱及び四肢の末梢神経に沿って適用される皮膚表面電極からなる、ALSの治療のための新たな過剰興奮性抑制アプローチの実施形態を説明する。
図15】[036]図15は、痙性を低減し、疾患の進行を遅延させるために頸部脊髄領域から腰部脊髄領域にALS患者を連続的に治療するために用いられる多チャンネルユニットの実施形態を示す。それぞれのチャンネルは5mA DC以下を供給するように制限され、最も小さい電極について最大電流密度0.56mA/cmである(適用規格により規定された安全限度より低い)。
図16】[037]図16は、同じ多部位DCS技術を用いて皮質ニューロンを保護するために利用された多チャンネル皮質刺激装置の実施形態を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[038]これらの教示の範囲は添付の特許請求の範囲により定義されるのが最も良いことから、説明は限定的な意味で理解されるものではなく、単にこれらの教示の一般原則を説明する目的のためになされる。
【0024】
[039]上記の説明及び更なる実施形態が、具体的に番号付けされたコンポーネントが記載されており、従って本開示のすべての図に記載されていると理解される、以下の図面とあわせて以下に記載される。
【0025】
[040]本明細書で用いられる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、その内容が明らかに他のものを示さない限り、複数の言及を含む。
【0026】
[041]本明細書で用いられる場合、用語「刺激」とは、上方調節又は下方調節とも呼ばれる、神経線維の興奮又は抑制のいずれかを言う。
[042]本明細書で用いられる場合、用語「電気刺激」とは、電圧をかけることによるか磁気的に電流を誘導することによるかにかかわらず、脊髄神経、ニューロン、回路又は経路への電流の生成又は導入を言う。
【0027】
[043]直流刺激(DCS)は、哺乳動物における疾患及び障害、特に脊椎動物の神経系に影響を及ぼす疾患及び障害を治療するために直流を用いることを包含する、非侵襲性ニューロモデュレーション方法論である。DCSは、経脊髄直流刺激(tsDCS)、経頭蓋直流刺激(tcDCS)、及び経末梢神経直流刺激(tpnDCS)を含む。
【0028】
[044]経脊髄直流刺激(tsDCS)は、脊髄ニューロン及び脊髄路を調節するために直流を用いる非侵襲性ニューロモデュレーション方法論である。tsDCSは、脊髄ニューロン内の特定のタンパク質の発現を誘導又は抑制することができる。特定のタンパク質の発現を調節することで、疾患の症状、例えば痙性、筋緊張亢進、及びジストニアに影響を与えることができ、ニューロンの過剰興奮性と関連する疾患の進行に影響を与えることができる。
【0029】
[045]本発明の実施形態によれば、tsDCSは、標的とする脊髄の位置の刺激を含む。刺激は、標的とする脊髄の位置を含む規定された電流路に沿って直流を付与することを含む。1つの例示的実施形態では、刺激が、閾値下レベルで実質的に連続的で非変動である。別の例示的実施形態では、刺激が全体的に又は部分的に変動する。別の例示的実施形態では、刺激が、変動する刺激及び非変動の刺激の組み合わせを含む。別の例示的実施形態では、刺激が、刺激のパルスを含む。更に別の例示的実施形態では、刺激が、電流が単一方向ではない連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0030】
[046]経頭蓋直流刺激(tcDCS)は、脳及び皮質経路のニューロン及びグリア細胞を調節するために直流を用いる非侵襲性ニューロモデュレーション方法論である。tcDCSは、脳のニューロン内及び他の細胞内の特定のタンパク質の発現を誘導又は抑制することができる。特定のタンパク質の発現を調節することは、ALS、他の運動ニューロン疾患及びアルツハイマー病を含む、CNSの一定の神経疾患及び神経障害を治療するために回復効果があり得る。
【0031】
[047]本発明の実施形態によれば、tcDCSは、標的とする頭蓋の位置の刺激を含む。刺激は、標的とする頭蓋の位置を含む規定された電流路に沿って直流を付与することを含む。1つの例示的実施形態では、刺激が、閾値下レベルで実質的に連続的で非変動である。別の例示的実施形態では、刺激が全体的に又は部分的に変動する。別の例示的実施形態では、刺激が、変動する刺激及び非変動の刺激の組み合わせを含む。別の例示的実施形態では、刺激が、刺激のパルスを含む。更に別の例示的実施形態では、刺激が、電流が単一方向ではない連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0032】
[048]末梢直流刺激(pDCS)は、末梢神経を調節するために直流を用いる非侵襲性ニューロモデュレーション方法論である。pDCSは、末梢神経内及び周辺細胞内の特定のタンパク質の発現を誘導又は抑制することができ、その神経の下行信号及び上行信号を伝える能力に影響を及ぼすことができる。特定のタンパク質の発現を調節することは、ALS及び他の運動ニューロン疾患を含めた一定の神経障害の治療に用いることができる。
【0033】
[049]本発明の実施形態によれば、pDCSは、標的とする末梢神経の位置の刺激を含む。刺激は、標的とする末梢神経の位置を含む規定された電流路に沿って直流を付与することを含む。1つの例示的実施形態では、刺激が、閾値下レベルで実質的に連続的で非変動である。別の例示的実施形態では、刺激が全体的に又は部分的に変動する。別の例示的実施形態では、刺激が、変動する刺激及び非変動の刺激の組み合わせを含む。別の例示的実施形態では、刺激が、刺激のパルスを含む。更に別の例示的実施形態では、刺激が、電流が単一方向ではない連続的な電流刺激のパルスを含む。
【0034】
[050]「多部位DCS」とは、神経軸に沿った多数の部位への同時の直流刺激の付与を言い、tsDCS、tcDCS、及びpDCSを含むことができる。
[051]本発明を行う際には、電極又は電極の配列が直流源に接続され、目的とする領域に、例えば、脊髄の背側面に渡って直接若しくはその近く、頭蓋、又は末梢神経若しくはその近くのいずれかに配置される。戻りの電極又は電極の配列は、そこから遠くに配置されて電流路を規定し、目的とする領域に配置された電極と正反対の身体の腹側面に実際はあり得るが、必ずしもそうではない。機能及び望まれる刺激に応じて、直流が、陽極又は陰極のいずれかとして目的とする領域に配置された治療電極に付与される。
【0035】
[052]以下の用語は、本明細書で提供された発明の実施形態の非限定的な記載による様々な説明において、少なくとも以下の定義を有することが理解され得る。
[053]「陰極刺激」とは、陰極が治療のための目的とする望ましい領域に配置されているDCSを言う。
【0036】
[054]「陽極刺激」とは、陽極が治療のための目的とする望ましい領域に配置されているDCSを言う。
[055]「痙性」は、伸展反射の速度依存的な活動亢進として定義される。従って、痙性とは、一定の筋肉が連続的又は散発的に収縮している症状を言う。この収縮は筋肉の凝り又は緊張を引き起こし、正常な動作、会話及び歩行を妨げ得るものであり、痛みを伴うものとなり得る。痙性は通常、脳又は脊髄の領域への損傷により引き起こされる。損傷が神経系と筋肉の間の信号の均衡の変化を引き起こす。この不均衡が筋肉の活動の増大をもたらす。
【0037】
[056]「筋緊張亢進」とは、秩序のない脊髄反射、筋紡錘の興奮性の増大、及びシナプス抑制の低減を生じさせる、損傷した運動ニューロンの下行経路を制御する正常に機能しない能力を言う。これらの結果は、症状を示す筋肉の筋緊張の異常な増大をもたらす。筋緊張亢進は、伸展反射活動亢進のない筋緊張の増大を示す患者を含み、これにより、痙性と筋緊張亢進を区別する。
【0038】
[057]「タンパク質発現」とは、細胞若しくは組織に含まれるか又は細胞若しくは組織により生成された、タンパク質若しくはペプチド(例えば分泌されたタンパク質若しくはペプチド)のレベル又は量を言う。「発現差異」、「タンパク質発現差異」、及び「異なって発現された」とは、細胞若しくは組織に含まれるか又は細胞若しくは組織により生成された、タンパク質若しくはペプチドのレベル又は量の変化を言う。タンパク質発現の変化は、特定の外部信号、例えば化学的信号、機械的信号、又は直流刺激に反応して起こり得る。そのような発現の変化は、細胞若しくは組織に含まれるか又は細胞若しくは組織により生成された、タンパク質若しくはペプチドのレベル又は量の増加であっても減少であってもよい。タンパク質若しくはペプチドのレベル又は量の増加はまた「上方調節」とも呼ばれ、タンパク質若しくはペプチドのレベル又は量の減少はまた「下方調節」とも呼ばれる。
【0039】
[058]「メッセンジャーRNA発現」(「mRNA発現」)とは、細胞若しくは組織に含まれるmRNAのレベル又は量を言う。「発現差異」、「mRNA発現差異」、「遺伝子発現差異」、及び「異なって発現された」とは、細胞若しくは組織に含まれるmRNAのレベル又は量の変化を言う。mRNA又は遺伝子発現の変化は、特定の外部信号、例えば化学的信号、機械的信号、又は直流刺激に反応して起こり得る。そのような発現の変化は、細胞若しくは組織に含まれるmRNAのレベル又は量の増加であっても減少であってもよい。mRNAのレベル又は量の増加はまた「上方調節」とも呼ばれ、mRNAのレベル又は量の減少はまた「下方調節」とも呼ばれる。用語「mRNA発現」及び「遺伝子発現」は、本開示を通して交換可能に用いられる。
【0040】
[059]運動ニューロン疾患とは、運動ニューロンに影響を及ぼす一定の神経疾患を言い、筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、進行性球まひ、脊髄性筋萎縮症、及びポリオ後症候群を含む。
【0041】
[060]本発明は、多部位DCSの付与が、疾患の症状を治療すること及び疾患の進行を遅延させることの両方により、ALS及び他の運動ニューロン疾患の患者において有益であり得るという仮説を支持する。
【0042】
[061]Na-K-Cl共輸送体アイソフォーム1(NKCC1)及びK-Cl共輸送体アイソフォーム2(KCC2)は、神経細胞膜を横切る塩化物イオン(Cl)濃度勾配の確立及び維持に関与する(Misgeldら、「The role of chloride transport in postsynaptic inhibition of hippocampal neurons」、Science、1986)。GABA-A及びグリシン受容体により仲介される抑制強度の決定においては電気学的なCl勾配が重要であるため、NKCC1及びKCC2のタンパク質レベル又は活性の不均衡は、過剰興奮性及び筋肉の機能不全、特に痙性を引き起こすことが予測された(Boulenguezら、「Down-regulation of the potassium-chloride cotransporter KCC2 contributes to spasticity after spinal cord injury」、Nat.Med.、2010;Modolら、「Prevention of NKCC1 phosphorylation avoids downregulation of KCC2 in central sensory pathways and reduces neuropathic pain after peripheral nerve injury」、Pain、2014)。脊髄又は脳の興奮性への直流刺激の長期的効果の基礎となる作用のメカニズムは、ほとんど知られていない。tsDCSが脊髄回路の興奮性の長期的な変化を引き起こし得ることが提案されてきた(Ahmed、「Electrophysiological characterization of spino-sciatic and cortico-sciatic associative plasticity:modulation by trans-spinal direct current and effects on recovery after spinal cord injury in mice」、J.Neurosci.、2013;Ahmed、「Effects of cathodal trans-spinal direct current stimulation on lower urinary tract function in normal and spinal cord injury mice with overactive bladder」、J.Neural.Eng.、2017;Bolzoni及びJankowska、「Presynaptic and postsynaptic effects of local cathodal DC polarization within the spinal cord in anaesthetized animal preparations」、J.Physiol.、2015;Samaddarら、「Transspinal direct current stimulation modulates migration and proliferation of adult newly born spinal cells in mice」、J.Appl.Physiol.、2016;Songら、「Combined motor cortex and spinal cord neuromodulation promotes corticospinal system functional and structural plasticity and motor function after injury」、Exp.Neurol.、2016;Wieraszko及びAhmed、「Direct current-induced calcium trafficking in different neuronal preparations」、Neural.Plast.、2016)。我々の近年の知見は、直流刺激が一定のタンパク質の発現レベルを調節し得ることを示す。従って、本発明は、脊髄におけるNKCC1、SOD1、HSP70、LCB3、tauのタンパク質発現の変化へのtsDCSを含む多部位DCSの効果の研究、並びに筋肉EMG、震え、運動機能、運動ニューロンの生存、及び動物の生存への多部位DCSの効果の研究を行った。
【0043】
[062]SOD1-G93Aマウスへの多部位DCSの影響を明らかにするため、電気生理学、自発運動分析、及び生存研究の組合せが用いられた。更に、マウス由来の刺激された脊髄組織におけるNKCC1、SOD1、tau、HSP70、及びLC3Bのタンパク質発現並びに/又は遺伝子発現の変化を同定するため、定量的リアルタイムPCR(qPCR)、ウエスタンブロッティング、及び免疫組織化学検査が行われた。
【0044】
[063]本発明の例示的実施形態は、運動ニューロンの疾患若しくは障害を治療することを含むか、又はNKCC1、SOD1、若しくはtauの高度な発現に関連付けられている。そのような疾患及び障害の代表例は、筋萎縮性側索硬化症、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、進行性球まひ、脊髄性筋萎縮症、ポリオ後症候群、パーキンソン病、及びアルツハイマー病を含む。
【0045】
[064]本発明の例示的実施形態は、NKCC1の遺伝子発現レベル及び/若しくはタンパク質発現レベルを低減させるか、SOD1の遺伝子発現レベル及び/若しくはタンパク質発現レベルを低減させるか、tauの遺伝子発現レベル及び/若しくはタンパク質発現レベルを低減させるか、又はHSP70の遺伝子発現レベル及び/若しくはタンパク質発現レベルを増大させる様式で非侵襲性ニューロモデュレーションを与える工程を含む、ALS及び他の運動ニューロン疾患を治療する方法を含む。
【0046】
[065]本発明の例示的実施形態は、脊椎動物において疾患を治療する方法であって、直流源の第1の電極と第2の電極の間に刺激を付与する工程であって、第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面にあるか若しくは近接するか又は第1の電極が脊椎動物の頭蓋にある工程、並びにNKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を含み、第2の電極は第1の電極から遠い場所に配置され、第1の電極及び第2の電極は逆に帯電し、直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである、方法を含む。
【0047】
[066]本発明の例示的実施形態は、二重刺激法である脊椎動物において疾患を治療する方法であって、直流源の第1の電極と第2の電極の間に第1の刺激を付与する工程であって、第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面にあるか又は近接する工程、直流源の第3の電極と第4の電極の間に第2の刺激を付与する工程であって、第3の電極のうちの1つは脊椎動物の末梢神経にあるか又は近接する工程、並びにNKCC1、SOD1、HSP70、tau、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を含み、第2の電極は第1の電極から遠い場所に配置され、第1の電極及び第2の電極は逆に帯電し、第4の電極は第3の電極から遠い場所に配置され、第3の電極及び第4の電極は逆に帯電し、直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである、方法を含む。
【0048】
[067]二重刺激法のいくつかの実施形態では、第1の刺激及び第2の刺激が同時に又は連続的に付与される。
[068]本発明の例示的実施形態は、三重刺激法である脊椎動物において疾患を治療する方法であって、直流源の第1の電極と第2の電極の間に第1の刺激を付与する工程であって、第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面にあるか又は近接する工程、直流源の第3の電極と第4の電極の間に第2の刺激を付与する工程であって、第3の電極のうちの1つは脊椎動物の末梢神経にあるか又は近接する工程、並びにNKCC1、SOD1、HSP70、tau、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を含み、第2の電極は第1の電極から遠い場所に配置され、第1の電極及び第2の電極は逆に帯電し、第4の電極は第3の電極から遠い場所に配置され、第3の電極及び第4の電極は逆に帯電し、直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである方法を含み、該方法は、直流源の第5の電極と第6の電極の間に第3の刺激を付与する工程であって、第5の電極が脊椎動物の頭蓋にある工程を更に含み、第6の電極が第5の電極から遠い場所に配置され、第5の電極及び第6の電極が逆に帯電している、方法を含む。
【0049】
[069]三重刺激法のいくつかの実施形態では、第1の刺激、第2の刺激、及び第3の刺激が同時に又は連続的に付与される。
[070]末梢神経が刺激される本発明の例示的な例では、末梢神経が骨格筋を支配する。いくつかの末梢神経の代表例は、脚の神経又は腕の神経を含み、これらに限定されないが、座骨神経、腓骨神経、底側指神経、大腿神経、伏在神経、腓腹神経、脛骨神経、正中神経、筋皮神経、掌側指神経、橈骨神経、及び尺骨神経を含む。
【0050】
[071]単一刺激法、二重刺激法、及び三重刺激法のいくつかの実施形態では、刺激が1日以上の日の一連の刺激期間を含む期間に渡って行われ、その日が連続的又は非連続的である。
【0051】
[072]単一刺激法、二重刺激法、及び三重刺激法のいくつかの実施形態では、治療される疾患が筋緊張疾患、例えば痙性、脊髄損傷後の痙性、筋緊張亢進、及びジストニアである。
【0052】
[073]単一刺激法、二重刺激法、及び三重刺激法のいくつかの実施形態では、NKCC1の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減されるか、SOD1の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減されるか、tauの遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減されるか、HSP70の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが増大されるか、あるいはLC3Bの遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減される。
【0053】
[074]本発明の例示的実施形態は、脊椎動物においてALSを治療する方法を含む。本明細書に記載された非侵襲性電気刺激法は、運動ニューロン及び皮質ニューロンが死ぬことを防ぐことによりALSの進行を停止させるように設計されており、即ち、本明細書に記載された方法は、神経細胞の寿命を引き延ばすか又は少なくとも運動ニューロン及び皮質ニューロンの細胞死の速度を遅らせる。理論により束縛されることを意図しないが、脊髄ニューロン及び皮質ニューロンにおいてNKCC、SOD1、若しくはtauの発現及び/又は活性を抑制すること、又はHSP70若しくはLC3Bの発現及び/又は活性を高めることのいずれかが、運動ニューロン細胞及び皮質ニューロン細胞の寿命を引き延ばすことによりALSの進行の停止を引き起こすと考えられる。
【0054】
[075]いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法は、直流源のA電極とB電極の間に刺激を付与する工程であって、A電極は脊椎動物の脊髄の背側面にあるか若しくは近接するか又はA電極は脊椎動物の頭蓋にある工程、及びALS病態と関連する神経細胞の寿命を引き延ばすのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を含み、B電極はA電極から遠い場所に配置され、A電極及びB電極は逆に帯電し、直流は一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動のうちの少なくとも1つである。
【0055】
[076]ALS患者を治療する場合、多数の位置で神経細胞の寿命を引き延ばすために、脊髄の長さに沿った多数の脊髄の位置が治療されることが考えられる。従って、いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法は、脊髄の背側面に沿った複数の場所に配置されているか又はそれら複数の場所に近接して配置されている複数のA電極、及び複数のA電極から遠い場所に配置された複数のB電極を含む。他の実施形態では、一組のA電極及びB電極が用いられ、電極が一連の治療において脊髄の長さに沿った異なる位置に移動させられる。
【0056】
[077]ALS患者を治療する場合、運動皮質(一次運動野としても知られる6野及び4野)、基底核、及び小脳を含めた運動制御と関連する脳の多数の領域が治療されることもまた考えられる。従って、いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法は、運動制御と関連する頭蓋の複数の場所に配置された複数のA電極を含み、複数のB電極が、複数のA電極から遠い場所に配置される。他の実施形態では、一組のA電極及びB電極が用いられ、電極が一連の治療において運動制御と関連する異なる頭蓋の場所に移動させられる。
【0057】
[078]ALSを治療する方法のいくつかの実施形態では、複数のA電極と複数のB電極の間に付与される刺激が同時に又は連続的に付与される。
[079]いくつかの実施形態では、ALS患者を治療する方法は、直流源のA電極とB電極の間に第1の刺激を付与する工程であって、A電極が脊椎動物の脊髄の背側面にあるか又は近接する工程、直流源のC電極とD電極の間に第2の刺激を付与する工程であって、C電極が脊椎動物の頭蓋にある工程、及び神経細胞の寿命を引き延ばすのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を含み、B電極はA電極から遠い場所に配置され、A電極及びB電極は逆に帯電し、D電極はC電極から遠い場所に配置され、C電極及びD電極は逆に帯電し、直流は一定又はパルスである。いくつかの実施形態では、第1及び第2の刺激が同時に又は連続的に付与される。
【0058】
[080]いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法が、脊髄の背側面に沿った複数の場所に配置されているか又はそれら複数の場所に近接して配置されている複数のA電極、及び複数のA電極から遠い場所に配置された複数のB電極を含む。他の実施形態では、一組のA電極及びB電極が用いられ、電極が一連の治療において脊髄の長さに沿った異なる位置に移動させられる。
【0059】
[081]いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法が、運動制御と関連する頭蓋の複数の場所に配置された複数のC電極、及び複数のC電極から遠い場所に配置された複数のD電極を含む。他の実施形態では、一組のC電極及びD電極が用いられ、電極が一連の治療において運動制御と関連する異なる頭蓋の場所に移動させられる。
【0060】
[082]いくつかの実施形態では、複数のA電極と複数のB電極の間及び複数のC電極と複数のD電極の間に付与される刺激が同時に又は連続的に付与される。
[083]いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法が、直流源のE電極とF電極の間に第3の刺激を付与する工程をであって、E電極が脊椎動物の末梢神経にあるか又は近接する工程を更に含み、F電極がE電極から遠い場所に配置され、E電極及びF電極が逆に帯電している。いくつかの実施形態では、第1の刺激、第2の刺激、及び第3の刺激が同時に又は連続的に付与される。
【0061】
[084]いくつかの実施形態では、ALSを治療する方法は、末梢神経に沿った複数の場所に配置されているか若しくはそれら複数の場所に近接して配置されているか又は複数の末梢神経に配置されているか若しくはそれら複数の末梢神経に近接して配置されている複数のE電極を含み、複数のF電極が、複数のE電極から遠い場所に配置されている。他の実施形態では、一組のC電極及びD電極が用いられ、電極が末梢神経に沿った異なる場所に移動させられるか又は異なる末梢神経に移動させられる。いくつかの実施形態では、複数のE電極と複数のF電極の間に付与される刺激が同時に又は連続的に付与される。末梢神経が刺激されるいくつかの実施形態では、末梢神経が骨格筋を支配する。いくつかの末梢神経の代表例が上記に開示される。
【0062】
[085]ALSを治療する方法のいくつかの実施形態では、期間が1日以上の一連の刺激期間を含み、その日が連続的又は非連続的である。
[086]ALSを治療する方法のいくつかの実施形態では、方法は、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるのに十分な強度で十分な期間、直流刺激を付与する工程を更に含む。いくつかの実施形態では、NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減され、一方で他の実施形態では、HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが増大される。
【0063】
[087]いくつかの実施形態では、それぞれがそれ自身の定電流源を有する、多数の脊髄電極(例えば陽極)を用いる。これは電流を分割し、1つの大きな長方形の脊髄電極と比較してより均一な刺激を伝達する。
【0064】
[088]他の実施形態では、それぞれがそれ自身の定電流源を有する多数の脊髄電極(例えば陽極)が、更なる定電流源を用いることにより両側末梢刺激の機能と組み合わせられる。
【0065】
[089]別の実施形態では、同時に起こる皮質刺激も含む。
[090]本発明の実施形態を行う際には、頸部及び腰部の刺激治療が別の日に行われ、例えばある日には上肢、翌日には下肢である。
【0066】
[091]動物、特にヒトを含めた哺乳動物が、本明細書で議論されるDCS治療の対象である。例示的かつ非限定的な実施形態では、本発明の実施におけるヒトの治療は、例えば、通常1mAを超えて6mAより下の範囲内、より具体的には約3.5~4mAの範囲内のDCSの付与を含むことができ、約20~60分/日の間付与され得る。他の例示的かつ非限定的な実施形態では、本発明の実施におけるヒトの治療は、経頭蓋DCS(tcDCS)又は末梢DCS(pDCS)の付与を含むことができる。DCS治療は、予定日に指示されるたびごとであっても隔日であってもよく、修復又は回復に影響を及ぼすことが意図されたあらゆる他の治療制度であってもよい。
【0067】
[092]本明細書に開示された本発明の方法を行う際には、以下のシステム又は装置が用いられる。
[093]本発明の例示的実施形態は、脊椎動物におけるALS又は他の運動ニューロン疾患の治療のためのシステムであって、該システムは、脊椎動物における運動ニューロン疾患と関連する末梢神経の末梢直流刺激を供給するように構成された第1の刺激コンポーネントであって、その第1の刺激コンポーネントは、その末梢神経を刺激するように構成された神経刺激極を有する神経刺激回路を含む、第1の刺激コンポーネント、末梢神経の制御と関連する脊髄の位置に脊髄直流刺激を供給するように構成された第2の刺激コンポーネントであって、その第2の刺激コンポーネントは、活性脊髄刺激極及び脊髄参照極を有する脊髄刺激回路を規定し、その脊髄刺激回路は、その脊髄の位置を刺激するためにその脊髄刺激極とその脊髄参照極の間に定電流経脊髄直流刺激を供給するように構成され、活性脊髄刺激極は、その脊髄の位置の比較的近位であり、脊髄参照極は、その脊髄の位置の比較的遠位である、第2の刺激コンポーネント、並びにその活性脊髄極及びその近位神経極が反対の極性を引き起こされ、結果として生じる分極回路を形成することを保証するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、その結果として生じる分極回路は、分極電流に従って標的タンパク質の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、その反対の極性に従ってその活性脊髄極とその近位神経極の間に分極電流を供給するように構成された、コントローラーコンポーネントを備え、そのコントローラーコンポーネントはまた、末梢直流刺激及び脊髄直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、システムを含む。
【0068】
[094]システムのいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含む電流を供給するように構成される。
【0069】
[095]システムのいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、第1の刺激コンポーネント及び第2の刺激コンポーネントにより供給された電流の範囲を同時に制御するように更に構成される。
【0070】
[096]システムのいくつかの実施形態では、第1の刺激コンポーネントが、末梢神経を刺激するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、その正極及び負極は、1つの電極が正極に動作可能に接続され、別の電極が負極に動作可能に接続されるように配置される。システムのいくつかの実施形態では、第2の刺激コンポーネントが、脊髄の位置を渡って刺激を伝達するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、その正極及び負極が、1つの電極が正極に動作可能に接続され、別の電極が負極に動作可能に接続されるように配置される。
【0071】
[097]システムのいくつかの実施形態では、刺激電極のうちの少なくとも1つが移植されている。
[098]システムの更なる他の実施形態では、コントローラーコンポーネント及び電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置される。
【0072】
[099]システムのいくつかの実施形態では、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるように、所定の期間、所定の回数、及び所定の日数が選択される。システムの一定の実施形態では、NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減され、一方で他の実施形態では、HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが増大される。
【0073】
[0100]本発明の例示的実施形態は、脊髄又は脳のうちの1つと関連する生物学的な活性を制御するための刺激装置であって、複数の端子を有する直流電源、第1の電極を直流電源に接続するための第1の端子であって、第1の電極は脊椎動物の脊髄の背側面のうちの1つ又は脊椎動物の頭蓋にある第1の端子、第2の電極を直流電源に接続するための第2の端子であって、第2の電極は第1の電極から遠い場所に配置されており、第1の電極及び第2の電極は逆に帯電している、第2の端子、並びに電極の間の電流を制御するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、コントローラーコンポーネントはまた、直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、コントローラーコンポーネントを備えた刺激装置を含む。
【0074】
[0101]刺激装置のいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含む電流を供給するように構成される。
【0075】
[0102]刺激装置のいくつかの実施形態では、第1の電極及び第2の電極のうちの少なくとも1つが移植されている。
[0103]刺激装置の更なる他の実施形態では、コントローラーコンポーネント及び直流電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置される。
【0076】
[0104]刺激装置のいくつかの実施形態では、所定の期間、所定の回数、及び所定の日数が、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために選択される。
【0077】
[0105]本発明の例示的実施形態は、脊椎動物においてALSを治療するためのシステムであって、該システムは、脊椎動物における末梢神経に沿った複数の位置に末梢神経の末梢直流刺激を供給するか又は複数の末梢神経の末梢直流刺激を供給するように構成された複数のA刺激コンポーネントであって、そのA刺激コンポーネントのそれぞれは、その末梢神経又は複数の末梢神経を刺激するように構成された神経刺激極を有する神経刺激回路を含む複数のA刺激コンポーネント、その末梢神経又は複数の末梢神経の制御と関連する複数の脊髄の位置に脊髄直流刺激を供給するように構成された複数のB刺激コンポーネントであって、そのB刺激コンポーネントのそれぞれは、活性脊髄刺激極及び脊髄参照極を有する脊髄刺激回路を規定し、その脊髄刺激回路は、その脊髄の位置を刺激するためにその脊髄刺激極とその脊髄参照極の間に定電流経脊髄直流刺激を供給するよう構成され、活性脊髄刺激極は、その脊髄の位置の比較的近位であり、脊髄参照極は、その脊髄の位置の比較的遠位である複数のB刺激コンポーネント、並びにその活性脊髄極及びその近位神経極が反対の極性を引き起こされ、結果として生じる分極回路を形成することを保証するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、その結果として生じる分極回路は、分極電流に従って標的分子の遺伝子発現及び/若しくはタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、その反対の極性に従ってその活性脊髄極とその近位神経極の間に分極電流を供給するように構成されたコントローラーコンポーネントを備え、そのコントローラーコンポーネントはまた、末梢直流刺激及び脊髄直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、システムを含む。
【0078】
[0106]システムのいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含む電流を供給するように構成される。
【0079】
[0107]システムのいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、A刺激コンポーネント及びB刺激コンポーネントにより供給された電流の範囲を同時に制御するように更に構成される。
【0080】
[0108]システムのいくつかの実施形態では、A刺激コンポーネントが、末梢神経の複数の位置又は複数の末梢神経を刺激するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、その正極及び負極が、1つの電極が正極に動作可能に接続され、別の電極が負極に動作可能に接続されるように配置される。
【0081】
[0109]システムのいくつかの実施形態では、B刺激コンポーネントが、複数の脊髄の位置を渡って刺激を伝達するために配置された刺激電極に刺激電流を供給するための正極及び負極を含み、その正極及び負極が、1つの電極が正極に動作可能に接続され、別の電極が負極に動作可能に接続されるように配置される。
【0082】
[0110]システムのいくつかの実施形態では、刺激電極のうちの少なくとも1つが移植されている。
[0111]システムの更なる他の実施形態では、コントローラーコンポーネント及び電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置される。
【0083】
[0112]システムのいくつかの実施形態では、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、所定の期間、所定の回数、及び所定の日数が選択される。システムの一定の実施形態では、NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減される。システムの一定の実施形態では、HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが増大される。
【0084】
[0113]本発明の例示的実施形態は、ALSを治療するための刺激装置であって、複数の端子を有する直流電源、複数のA電極を直流電源に接続するための複数のA端子であって、複数のA電極は脊椎動物の脊髄の背側面の複数の位置又は脊椎動物の頭蓋の複数の位置にある複数のA端子、複数のB電極を直流電源に接続するための複数のB端子であって、複数のB電極は複数のA電極から遠い場所に配置されており、A電極及びB電極は逆に帯電している複数のB端子、並びに電極の間の電流を制御するように構成されたコントローラーコンポーネントであって、コントローラーコンポーネントはまた、直流刺激を所定の期間供給し、刺激を所定の日数に渡って所定の回数繰り返すように構成された、コントローラーコンポーネントを備えた刺激装置を含む。
【0085】
[0114]刺激装置のいくつかの実施形態では、コントローラーコンポーネントが、一定、連続的、パルス、断続的、変動、及び非変動の電流のうちの少なくとも1つを含む電流を供給するように構成される。
【0086】
[0115]刺激装置のいくつかの実施形態では、A電極及びB電極のうちの少なくとも1つが移植されている。
[0116]刺激装置の更なる他の実施形態では、コントローラーコンポーネント及び直流電源のうちの少なくとも1つがウェアラブルなハウジングに配置される。
【0087】
[0117]刺激装置のいくつかの実施形態では、NKCC1、SOD1、tau、HSP70、若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルを変化させるために、所定の期間、所定の回数、及び所定の日数が選択される。刺激装置のいくつかの実施形態では、NKCC1、SOD1、若しくはtauの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが低減される。刺激装置のいくつかの実施形態では、HSP70若しくはLC3Bの遺伝子発現及び/又はタンパク質発現の生物学的な活性又はレベルが増大される。
【0088】
[0118]本発明のシステム及び刺激装置は、図面を参照して以下に更に記載される。
[0119]上述した実施形態は、それぞれの刺激コンポーネントにより適用される一組の電極を説明するが、1つの刺激コンポーネントにより複数の組の電極が適用される実施形態もまた、これらの教示の範囲内である。例えば、いくつかの実施形態では、複数の組の電極が第1の刺激コンポーネントにより適用され、それぞれの組の電極のうちの1つが、異なる脊髄又は頭蓋の位置に適用される。
【0089】
[0120]これらの教示は特定の実施形態の観点から記載されたが、上述の記載を考慮して、多数の代替、改変、及びバリエーションが当業者にとって明らかであることが明白である。従って、これらの教示は、本教示及び以下の特許請求の範囲の範囲及び精神の内にあるすべのそのような代替、改変及びバリエーションを包含することが意図される。
【実施例
【0090】
実施例1: 材料及び方法
動物
[0121]行われた動物実験のすべてに、CUNY/CSIで確立された繁殖コロニーに由来するトランスジェニックSOD1-G93Aマウスを用いた。トランスジェニックSOD1-G93Aマウスは、最も広く用いられているALSのマウスモデルであり、ヒトCu/Zn活性酸素分解酵素1(SOD1)の変異型を過剰発現するように操作されている。そのマウスは筋肉の震え、まひ、若すぎる死を発現し、運動ニューロン損失を示す。マウスは、60日齢で(発症前)遺伝子型決定及びコピー数に基づいて特定の群に割り当てられる。キャリア動物においてコピー数を定量するためにqPCRが用いられる。雌群及び雄群が含まれることは、雌のマウス及び雄のマウス(G93A)が異なる生存率を有することを見出した刊行物に基づく。治療的刺激実験のために、キャリア動物は2つの群に分けられた:1)陽極多部位DCS治療群;及び2)刺激なしのキャリア群。治療は、疾患及び運動機能障害の徴候を確認した第1日に開始する(初期段階)。これはグリッドウォーキング試験を用いて確認される。動物は30歩、歩行させられ、下側からビデオ録画される。ビデオは、知らされていない調査者により分析される。我々は、グリッドウォーキングを定量化するために6点のフットフォールトスコアシステムを用いた。グリッドウォーキングは脊髄又は皮質の機能障害に非常に敏感であることから(Ruegsegger、「Aberrant association of misfolded SOD1 with Na/K ATPase-α3 impairs its activity and contributes to motor neuron vulnerability in ALS」、Acta.Neuropathol.、2016)、このシステムは、マウスの疾患の初期段階を検出するのに非常に正確であることが見出された(予備データ)。研究プロトコールのすべてが、カレッジオブスタテンアイランドIACUC委員会の承認済みである。
【0091】
[0122]回路及び電源
[0123]電流を末梢神経に通過させることが、運動ニューロンの過剰興奮性を減衰及び調節するために必要とされる(Ahmed、「Trans-spinal direct current stimulation modifies spinal cord excitability through synaptic and axonal mechanisms」、Physiol.Rep.、2014)。更に、この電流の方向及び分布は制御され得る(Ahmed、「Effects of cathodal trans-spinal direct current stimulation on lower urinary tract function in normal and spinal cord injury mice with overactive bladder」、J.Neural.Eng.、2017)。本研究の多部位DCSプロトコールは、麻酔動物とともに用いられるために我々の研究所で元々設計された経脊髄回路を改良する必要があった(Ahmed、「Trans-spinal direct current stimulation alters muscle tone in mice with and without spinal cord injury with spasticity」、J.Neurosci.、2014)。簡潔には、回路は、図1Aに示すように皮膚の上の電極を用いることにより罹患した手足の脊髄及び座骨神経に電流(DC)を非侵襲的に通すように改良された。参照電流源が、3つの脊髄電極により分けられた脊髄電流を供給した。神経活動を呼び起こすことを防ぐために、脊髄電極から座骨神経電極を通る電流は、脊髄電流を3つの枝に分けることにより減衰させた。第1の枝は腹部電極に直接接続し、減衰されていない電流を運び、一方で第2及び第3の枝は、300kΩの抵抗器を通過し、座骨神経への電流を減衰させた。回路の概略を図1Bに示す。電流は、専用のDCユニットのあるGRASS刺激器(S88、GRASS Technologies/NATUS)により供給された。電流パラメーターのモニタリング及びDC減衰の確認が、卓上デジタルマルチメーター(34401A、Agilent/Keysight Technologies、CA USA)を用いることにより、それぞれの実験の初め、間及び完了時に行われた。
【0092】
[0124]マウスホルダー
[0125]マウスを動かないようにするシステムを、3つのコンポーネントから我々の研究所で組み立てた(図1C)。1)マウス保持チャンバーとして機能する透明プレキシグラスアクリル管。2)透明なアクリル凹形固定プレートからなる内部調節可能な支持システム。プレートの位置は、管の長さ全体を走る切り抜きから突き出たハンドルにより、チャンバーの長さに沿って直線的に調節することができた。更に、プレートの凹面を動物の背面に合うように設計し、従ってそれを背部に固定した。この表面はまた、様々な大きさのマウスに合わせるために外部から調節することができた。3)それぞれ芯が覆われた1cm×1.5cmのステンレス鋼プレートから構成される、4つの皮膚の上の刺激電極。電極のうちの1つは、(腹部参照電極として)保持チャンバーの床面に取り外せないように固定され、一方で第2の電極は、(背面活性脊髄電極として)固定プレートの中央に取り外せないように固定され、このプレートの位置は調節することができた。残りの2つの電極は、固定プレートの長い側面に存在する切り抜きに沿ってそれらを滑らかに動かすことにより直線的に調節することができ、これらはそれぞれ左及び右の座骨神経導体として機能した。保持チャンバーの腹部表面は、動物の後肢それぞれのためのものである2つの開口部を有していた。それぞれの開口部には、試験中に完全な膝の伸展を確保するために膝固定パッドが備えられた。試験前に、中央に開口部を有するキャップが、呼吸及びイソフルラン投与のために保持チャンバーの前端に配置された。伸展の間、後肢の動きを足首関節に限定するため、別のアクリル台を作って下腿遠位部を固定した。その台は、x軸、y軸、及びz軸に動かすことができ、押さえにより足の適切な整列を達成し、伸展前の動物の臀部の角度を調節する、調節可能なステンレス鋼の足首固定材締め具を有していた。
【0093】
[0126]
実施例2: 陽極多部位DCSはEMG活性の抑制をもたらす
[0127]症状の発現後のSOD1-G93Aマウスにおける伸展へのEMG反応に対する陽極多部位DCSの即時及び持続的な効果を、図2A~2B及び3A~3Bに示す。図2A~2Bは、SOD1-G93Aマウスにおける伸展反射の筋肉抵抗及びEMG反応に対する陽極DCSの3セッションの効果を示す。図2Aはマウスホルダーの動物を示す。図2B(上)は、陽極多部位DCS(1.5mA)による刺激前に記録された筋肉抵抗及びEMG出力を示す。図2B(下)は、1日当たり50分間付与された陽極多部位DCSの3セッション後に記録された筋肉抵抗及びEMG出力を示す。図3Aは、陽極多部位DCS(陽極で1.5mA、T9~L6に配置。EMGは後肢の下腿三頭筋から記録された)による刺激の前及び間に得られた2乗平均平方根の(緑)及び加工していない(ピンク)EMG出力を示す。疾患発症後のEMG出力において筋活動の増大が見られる。高いレベルの活動は刺激開始すぐに抑制され、スパイク振幅が低減される。図3Bは、それぞれの毎日のセッションが50分持続する陽極多部位DCSによる刺激の3日後に得られた2乗平均平方根の(緑)及び加工していない(ピンク)EMG出力を示す。EMGスパイクの振幅及び振動数は刺激が付与されない場合でも低減され、治療の持続的な効果を示している。
【0094】
[0128]
実施例3: 陽極多部位DCSは震えの抑制をもたらす
[0129]ALSマウスは、症状の発現後に震え及びけいれんを示す。これらの震えは、マイクロゴニオメーター又は力変換器のいずれかを用いて測定することができる。図4は、SOD1-G93Aマウスの後肢の震えに対する陽極多部位DCSの即時の効果を示す。図4(上)は、マイクロゴニオメーターを用いて記録された左後足の震えを示す。図4(中)は、力変換器を用いて記録された右後足の震えを示す。図4(下)は、右後肢の下腿三頭筋の震えのEMG出力を示す。すべての3つのプロットにおいて、斜線部分は陽極多部位DCSの付与前に対応する。震え及びけいれんは、両側で刺激開始直後に抑制される。この強化はすべての測定方法を用いて見ることができる。図5は、症状の発現後のSOD1-G93Aマウスにおける無意識の筋収縮及び震えに対する陽極多部位DCSの持続的な効果を示す。上から下まで、図は、刺激前、刺激の間、刺激の2日後及び刺激の3日後に測定された(青の)EMG出力及び(力変換器により記録された黒の)力測定を示す。震えは刺激の間にすぐに抑制される。刺激の2日後に測定された活性は、震えの更なる低減を示す。刺激の3日後、震え及び筋けいれんは刺激なしでも更に低減される。
【0095】
[0130]
実施例4: 陽極多部位DCSは運動機能の改善をもたらす
[0131]刺激されたキャリアマウス及び刺激なしのキャリアマウス並びに非キャリアマウスにおいて、0~6のスコア基準(6は完全なスコアであり、マウスの手足の掌の中央部が横木に配置されて動物の全重量を負う)を有する改良された水平梯子スコアシステムを用いて運動機能を評価した。マウスを下からビデオ録画し、ビデオを保管してマウスの治療を知らない調査者により分析した。図6は、陽極多部位DCS後のSOD1-G93Aマウスにおける運動機能の改善を示す。マウスは1週間当たり2日間、1日当たり1時間の刺激を受け、1.5mAが脊髄陽極により送られた。刺激は、この群において平均で106日の年齢の疾患発症後に開始した。刺激なしのALSマウスのグリッドウォーキングスコアは、非キャリアコントロール(黒)と比較して疾患発症後にすぐに低下する(青)。刺激されたキャリアマウス(赤)では、グリッドウォーキングスコアは刺激なしのキャリアマウスのスコアよりも顕著に高く、刺激後の運動機能の保護の高まりを反映している。N=2の非キャリア、4の刺激されたキャリア、2の刺激なしのキャリア。データは平均±SEMとして示される。
【0096】
[0132]
実施例5: 陽極多部位DCSはNKCC1の発現を低減させる
[0133]NKCC1は、塩化物イオン勾配の維持に関与するニューロンの塩化物イオン共輸送体である。NKCC1の過剰発現は、運動ニューロンの過剰興奮性をもたらす。図7A~7Fは、SOD1-G93Aマウスにおける陽極多部位DCS後の脊髄運動ニューロンにおけるNKCC1発現を示す。非キャリアマウス(図7A)、刺激なしのキャリアマウス(図7B)、刺激されたキャリアマウス(図7C)並びに同じ動物の腰部及び頸部の運動ニューロン(図7D及び7E)において、免疫化学検査を用いてNKCC1発現を評価した。(緑の)NKCC1発現は、非キャリアコントロールマウスと比較して刺激なしのALSマウスにおいて増大され、多部位陽極DCSにより低減される。刺激を受ける動物では、NKCC1発現は、電極の部位(腰部)の下部で低減される。図7Fは、3つの群に渡るNKCC1の相対発現レベルを示す。
【0097】
[0134]ウエスタンブロット
[0135]脊髄組織を回収し、すぐにドライアイスに置いた。続いて、サンプルを、プロテアーゼ阻害剤カクテル(SC-29131、Santa Cruz Biotechnology Dallas Texas、U.S.A.)、ホスファターゼ阻害剤カクテル11(カタログ番号:BP- 480、Boston Bio Products)、100mMのPMSF(カタログ番号:BP-481、Boston Bio Products)及び500mMのEDTAを含むRIPA緩衝液(カタログ番号:BP-115、Boston Bio Products、Ashland、MA、USA)中で均質化した。それぞれのサンプル(100mg/ml)へのRIPAカクテルの添加後、溶解物を15分間氷上でインキュベートし、Sonic Dismembrator(Fisher Scientific Springfield Township、NJ USA)を用いて0.5~1分間超音波で分解して完全な均質化を達成した。次いで、サンプルを30分間Sorvall Legend Micro 21R Centrifugeにおいて13000rpmで遠心分離し、それぞれのサンプルの上清画分を回収した。iMarkTMマイクロプレート吸光度リーダー(Bio-Rad、Hercules CA)を用いて総タンパク質濃度を決定した。20μgのそれぞれのサンプルを等容積の2×サンプル緩衝液と混合し、10%SDSポリアクリルアミドゲルにおいて電気泳動させた。分離されたタンパク質をPVDF膜(Bio-Rad)に移動させた後、膜を5%スキムミルク緩衝液中で2時間ブロッキングし、次いで、適切な一次抗体とともに一晩4℃でインキュベートした。用いた一次抗体は、ウサギポリクローナル熱ショックタンパク質70(HSP70)/HSC-70(H-300)抗体(1:1000;SC-33575、Santa Cruz Biotechnology)、マウスモノクローナルNKCC1(A-6)抗体(1:1000;SC-514774、Santa Cruz Biotechnology)、及びウサギポリクローナル抗ホスホNKCC1 Thr212/Thr217抗体(1:1000;ABS 1004、EMD Millipore、Burlington、MA、USA)を含んでいた。続いて、膜を1×TTBSで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液中で適切な二次抗体とともにインキュベートした。二次抗体は、ヤギ抗ウサギIgG西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)抗体(1:5000;SC-2004、Santa Cruz Biotechnology)及びヤギ抗マウスIgG-HRP抗体(1:5000;SC-2005、Santa Cruz Biotechnology)を含んでいた。室温で1時間後、膜を1×TTBSで3回洗浄した。結合した抗体をHRPに基づく化学発光基質であるルミノール/酸化溶液(Boston Bio Product)により可視化し、Image Jソフトウェア(ImageJ、U.S.National Institutes of Health.Bethesda、Maryland、USA)により定量化した。続いて、ブロットを1×ストリッピング緩衝液、1×リン酸緩衝食塩水(PBS)及び1×TTBSとともに30分間インキュベートし、次いで、ブロッキング緩衝液中で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液中での1時間のマウスモノクローナルIgG(i-アクチン(C4)HRP抗体(1:2500;SC-47778、Santa Cruz Biotechnology)との更なるインキュベーションの後、ブロットを1×TTBSで3回洗浄し、次いで、ルミナール/酸化溶液(Boston Bio Product)で画像化した。バンドをImage Jソフトウェアで定量化した。
【0098】
[0136]
実施例6: 陽極多部位DCSはSOD1タンパク質の発現を低減させる
[0137]SOD1の凝集は家族性ALSの部分集合の病理学的特徴であり(Pareら、「Misfolded SOD1 pathology in sporadic amyotrophic lateral sclerosis」、Sci.Rep.、2018)、トランスジェニックSOD1-G93Aマウスモデルは変異SOD1(mSOD1)タンパク質を過剰発現し、病理学的な凝集をもたらす。図8A~8Fは、陽極多部位DCSにより治療されたSOD1-G93Aマウスにおける低減されたSOD1発現を示す。図8A~8Eは、治療された動物及び治療されていない動物の脊髄の顕微鏡写真である。図8Fは、刺激なしのキャリアと比較した刺激されたキャリア動物における顕著に低いmSOD1発現を示す。N=コントロール:4匹の動物から8枚の薄片;刺激:5匹の動物から5枚の薄片。
【0099】
[0138]
実施例7: 陽極多部位DCSはHSP70の反応を誘導する
[0139]HSP70は、分解経路により基質の流れを促進することが知られているシャペロンタンパク質である。図9は、HSP70発現が非キャリア動物と比較してキャリア動物において低減され、SOD1-G93Aマウスにおける陽極多部位DCSによる刺激後にキャリア動物において増大されることを示す。ImagJを用いて単一の脊髄運動ニューロンのHSP70免疫蛍光強度を計算した。脊髄におけるHSP70レベルは、コントロールマウス(左上)と比較して刺激なしのキャリアマウス(左下)において顕著に低減されるが、刺激後のキャリアマウス(右上)において顕著に増大される。これらの知見を棒グラフに要約する(右下;N=刺激:4匹の動物から27の運動ニューロン;コントロール:3匹の動物から19の運動ニューロン)。
【0100】
[0140]免疫組織化学検査
[0141]HSP70免疫組織化学検査:多部位DCSによる刺激後の運動ニューロンにおけるHSP70発現を調べるため、動物をケタミン/キシラジン溶液で麻酔し、次いで、室温でPBS、その後4%パラホルムアルデヒドによりかん流させた。切断した脊髄部分を同じ固定剤中で一晩、後固定し、次いで、凍結防止のために30%スクロースに移動させた。脊髄部分をドライアイスで凍結させ、薄片にし、リン酸緩衝食塩水(PBS)に回収した。Tris A緩衝液における3回の洗浄後、切片を15分間、Tris Bで1回洗浄し、次いで、Tris B中に希釈された10%正常ヤギ血清(NGS)中でブロッキングした。1時間後、一次マウスモノクローナルHSP70(F-3)抗体を添加し(1:500、sc-373867、Santa Cruz Biotechnology)、切片を4℃で撹拌器において一晩インキュベートした。翌日、切片を3回洗浄し、次いで、ビオチン化ヤギ抗マウス抗体(1:500:BA-9200、Vector Laboratories Burlingame、CA USA)とともにインキュベートした。1時間後、DyLight 488(1:2000:SA-5488、Vector Laboratories)を添加した。更に30分後、切片をTris Aで2回洗浄し、薄片をDAPI(H-1200:Vector Laboratories)を含む培地で標本にした。
【0101】
[0142]コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)免疫組織化学検査:脊髄の切片をPBSで3回洗浄し、室温で1時間、10%ウサギ血清/0.1’Y° Triton X-100/0.1M PBSとともにインキュベートした。次いで、切片を4℃で48~72時間、0.1% Triton X-100/0.1M PBS中の抗ChAT一次抗体(1:500、AB144P、EMD Millipore Corp.)とともにインキュベートした。切片をPBSで3回十分に洗浄し、次いで、室温で1時間、0.1% Triton X-100/0.1M PBS中のウサギ抗ヤギ568nm抗体(1:500)とともにインキュベートした。PBSで更に3回洗浄後、切片をDAPI(H-1200;Vector Laboratories)を含む培地で標本にした。
【0102】
[0143]q-PCR
[0144]Trizolに基づく方法(Rioら、2010)を用いてRNAを脊髄サンプルから単離し、続いて、クロロホルム及びイソプロピルアルコールによる抽出を行った。簡潔には、それぞれのRNAサンプルをジエチルジカーボネート(DEPC)水に溶解し、次いで、製造業者の指示に従ってQiagen RNAeasyキット(Qiagen、Hilden Germany)により精製した。Nanodrop 2000c機器(Thermofisher Scientific、Waltham、MA、USA)を用いてRNA濃度を測定した。総RNAをiScriptT” Reverse Transcription Supermix(Bio-Rad、Hercules、CA、USA)により相補的DNA(cDNA)に変換した。それぞれの反応について、2pgの総RNAを遺伝子特異的プライマー(PrimePCR Assay Slc12a2)と合わせた。刺激された動物及び刺激されていない動物から得られたサンプルを常に同じプレートで分析した。それぞれのサンプルについて、それぞれの転写産物についての増幅産物の差を、SYBR Green化学に基づく検出を用いることにより3回の反復から測定した。β-アクチン(ACTB)、TATAボックス結合タンパク質(TBP)及びヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)を内在性参照遺伝子として用い、これらの遺伝子の増幅に用いたプライマーは、それぞれPrimePCR Assay ACTB、PrimePCR Assay TBP及びPrimePCR Assay HPRT1であった。中枢神経系においてそれらが安定的に発現した以前の実証(Valenteら、2014;Walderら、2014)に基づく分析のために、得られた3つの転写産物を選択した。総反応容積は10μlであり、それは5μlのsupermix、プライマー、cDNA鋳型、及びヌクレアーゼを含まない水を含んでいた。384ウェルプレートにおいてCFX384 Real Time System(Bio-Rad)及びSsoADVANCED Universal SYBR Green Supermix(Bio-Rad)によりqPCR反応を行った。CFX管理ソフトウェア(Hercules、California USA)を用い、自動ベースライン及び閾値検出オプションを選択した。得られたデータをMicrosoft Excelに移し、規格化因子としての内在性参照遺伝子に対する相対的な正規化した発現量を、3回の幾何平均を用いることによりそれぞれのサンプルについて計算した。
【0103】
[0145]
実施例8: 陽極多部位DCSはリン酸化tauの発現を低減させる
[0146]ALSにおいてはリン酸化tauタンパク質(phTau)の増加が報告されてきた(Stevensら、「Increased tau phosphorylation in motor neurons from clinically pure sporadic amyotrophic lateral sclerosis patients」、J.Neuropathol.Exp.Neurol.、2019)。図10は、リン酸化tauタンパク質(phTau)レベルに対する陽極多部位DCSの効果を示す。非キャリアと比較して、刺激なしのキャリアマウスにおいてより高いレベルのphTauが見られる。陽極多部位DCSによる治療が、キャリアマウスにおけるphTauレベルを低減させた。
【0104】
[0147]
実施例9: 陽極多部位DCSはLC3Bの発現の増大を誘導する
[0148]我々は、SOD1-G93AマウスにおけるLC3B(微小管結合タンパク質-1軽鎖3β)の発現を調査した。LC3Bは、自食作用活性のタンパク質マーカーである。自食作用の異常調節がALSと関連しており、LC3Bの減少は、毒性タンパク質の異常な蓄積後の運動ニューロンの分解の加速をもたらし得る。図11は、SOD1-G93AマウスにおけるLC3Bの発現に対する陽極多部位DCSの効果を示す。LC3Bは、自食作用活性のタンパク質マーカーである。LC3B発現は、刺激なしのキャリアマウス(コントロール)と比較して刺激後のキャリアマウスにおいて増大される。
【0105】
[0149]
実施例10: 陽極多部位DCSは脊髄運動ニューロンの生存を増加させる
[0150]ALSでは、運動ニューロンの過剰興奮性が最終的には運動ニューロン死をもたらす。我々は、運動ニューロンの生存に対する多部位DCSの効果を試験した。図12は、SOD1-G93Aマウスの脊髄運動ニューロンの生存に対する陽極多部位DCSの効果を示す。同胞SOD1-G93Aマウスを刺激される群及び刺激なしの群に分けた。刺激されたマウスは、疾患発症後に5連続の毎日の60分の治療を受けた。疾患発症後10日目にマウスを犠牲にした。マウス当たり2枚の薄片を摘出した後、運動ニューロンをカウントした。顕微鏡写真は、それぞれの例のマウスの同じ薄片の4つの部分を示す。刺激は、刺激なしのキャリアと比較して、刺激後、より大きなα運動ニューロンの保護、及び全体で34.8%の運動ニューロンのカウントの増加をもたらした。
【0106】
[0151]
実施例11: 陽極多部位DCSはSOD1-G93Aマウスの生存を増加させる
[0152]多部位DCSは過剰興奮した脊髄運動ニューロンを抑制することができることから、それは運動機能を超える効果を有し得るというのが我々の前提である。(疾患発症時に開始する)SOD1-G93Aマウスにおける治療的刺激の枠組み(5日/週、3.3A/mの電流密度)を用いて、我々は(群の間で性別を均衡化した)コントロールマウスに対する刺激されたマウスの生存を評価した。図13は、症状の発現直後に治療が始まる場合のSOD1-G93Aマウスの生存に対する陽極多部位DCSの効果を示すKaplan-Meierプロットである。症状の発現は、グリッドウォーキング試験における80以下のスコアとして定義された。刺激されたキャリアマウスは平均で20.5日(±2.1日)間生存し、一方で刺激なしのキャリアマウスは平均で11.1日(±1.2日)間生存し、刺激されたマウスの疾患発症後の平均生存時間が84%の増大となった。N=19の刺激されたマウス;23の刺激なしのマウス。Log Rank(Mantel-Cox)、χ=13.86、p=0.0002;Breslow(一般化Wilcoxon)、χ=12.25、p=0.0005;Tarone-Ware、χ=13.12、p=0.0003。
【0107】
[0153]
実施例12: ALSを有するヒトにおける過剰興奮性抑制アプローチの実施形態
[0154]図14は、多部位DCSを付与する制御ユニット並びに脊柱及び四肢の末梢神経に沿って適用される皮膚表面電極からなる、ALSの治療のための新たな過剰興奮性抑制アプローチの実施形態を説明する。陽極は脊柱に沿って配置され、戻りの電極は前腸骨稜に配置される。末梢電極はそれぞれの手足に配置され、陰極は陽極よりも近位に配置される。脊髄陽極からの電流は、脊髄を渡って(戻りの電極へ)及び手足を下って(末梢陰極へ)それらの両方に流れる。図15は、痙性を低減し、疾患の進行を遅延させるために頸椎から腰椎にALS患者を連続的に治療するために用いられる多チャンネルユニットの実施形態を示す。それぞれのチャンネルは5mA DC以下を供給するように制限され、最も小さい電極について最大電流密度0.56mA/cmである(適用規格により規定された安全限度より低い)。図16は、同じ多部位DCS技術を用いて皮質ニューロンを保護するための二つの半球皮質刺激を用いる実施形態を説明する。電流は皮質の陽極から脊髄の陰極に流れる。
【0108】
[0155]要約すると、本結果は、陽極多部位DCSが(a)長期的にニューロンの脊髄の興奮性を低減し、(b)筋力低下の進行を遅延させ、(c)刺激されたSOD1-G93Aマウスの生存期間を84%まで著しく増加させることを実証する。更に、我々は、陽極多部位DCSによる治療が(a)変異SOD1タンパク質の発現を低減し、(b)高くなったNKCC1の発現を低減し、(c)高くなったtauの発現を低減し、(d)HSP70の発現を増大させ、(e)LC3Bの発現を増大させることを見出した。あわせると、これらのデータは、陽極多部位DCSが自食作用及びプロテアソームのタンパク質分解系を調節することにより異常に折り畳まれたタンパク質のクリアランスを促進するという証拠を提供する。脊髄の興奮性を低減し、毒性タンパク質を脊髄細胞から除去することにより、多部位DCSはALSに対する病態修飾治療介入となることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】