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特表2024-521817小体積脳卒中のための細胞療法及び治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】小体積脳卒中のための細胞療法及び治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240528BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20240528BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
C12N5/0775
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573150
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 US2022072530
(87)【国際公開番号】W WO2022251829
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,021
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517328479
【氏名又は名称】サンバイオ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ビジャン・ネジャドニク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087MA23
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
(57)【要約】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法、及び脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法が開示される。小体積虚血性脳卒中を治療するための組成物も開示される。一態様において、小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法は、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含み、細胞は、ノッチ細胞内ドメインをコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法であって、
対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
方法。
【請求項2】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積50立方センチメートル(cc)未満を有する虚血中心部である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積約2cc~50ccを有する虚血中心部である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
小体積の虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
小体積の虚血中心部の少なくとも一部が、対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
治療有効量の細胞が、およそ250万個の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
治療有効量の細胞が、およそ500万個の細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法であって、
対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び
虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
方法。
【請求項22】
虚血中心部の体積が約2cc~50ccである場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
虚血中心部の少なくとも一部が、対象の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項21に記載の方法
【請求項33】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
脳卒中誘導性の運動障害が、対象が罹患した虚血性脳卒中の結果である、請求項21に記載の方法。
【請求項35】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項38】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項39】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項21に記載の方法。
【請求項40】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項41】
小体積虚血性脳卒中を治療するための組成物であって、
ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、治療有効量の細胞、及び
薬学的に許容される担体又は希釈剤
を含む、組成物。
【請求項42】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項41に記載の組成物。
【請求項44】
間葉系幹細胞が、NICDをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドにより一過性トランスフェクトされている、請求項41に記載の組成物。
【請求項45】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項41に記載の組成物。
【請求項46】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項41に記載の組成物。
【請求項47】
治療有効量の細胞が、およそ200万個の細胞~およそ500万個の細胞である、請求項41に記載の組成物。
【請求項48】
薬学的に許容される担体又は希釈剤が無菌等張晶質液を含む、請求項41に記載の組成物。
【請求項49】
密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液であり、細胞懸濁液が、体積およそ0.3mLであり、細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項45に記載の組成物。
【請求項50】
密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液であり、細胞懸濁液が、体積およそ0.3mLであり、細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項46に記載の組成物。
【請求項51】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、
対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
使用。
【請求項52】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積50立方センチメートル(cc)未満を有する虚血中心部である、請求項51に記載の使用。
【請求項53】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積約2cc~50ccを有する虚血中心部である、請求項51に記載の使用。
【請求項54】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項55】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項56】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項57】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項58】
小体積の虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項51に記載の使用。
【請求項59】
小体積の虚血中心部の少なくとも一部が、対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項51に記載の使用。
【請求項60】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項51に記載の使用。
【請求項61】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項51に記載の使用。
【請求項62】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項61に記載の使用。
【請求項63】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項51に記載の使用。
【請求項64】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項63に記載の使用。
【請求項65】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項51に記載の使用。
【請求項66】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項51に記載の使用。
【請求項67】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項68】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項51に記載の使用。
【請求項69】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項51に記載の使用。
【請求項70】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項51に記載の使用。
【請求項71】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、
対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び
虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
使用。
【請求項72】
虚血中心部の体積が約2cc~50ccである場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項73】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項74】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項75】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項76】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項77】
虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項71に記載の使用。
【請求項78】
虚血中心部の少なくとも一部が、対象の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項71に記載の使用。
【請求項79】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項71に記載の使用。
【請求項80】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項71に記載の使用。
【請求項81】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項80に記載の使用。
【請求項82】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項71に記載の使用。
【請求項83】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項82に記載の使用。
【請求項84】
脳卒中誘導性の運動障害が、対象が罹患した虚血性脳卒中の結果である、請求項71に記載の使用。
【請求項85】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項84に記載の使用。
【請求項86】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項85に記載の使用。
【請求項87】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項88】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項71に記載の使用。
【請求項89】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項71に記載の使用。
【請求項90】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項71に記載の使用。
【請求項91】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞であって、方法が、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む、細胞。
【請求項92】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積50立方センチメートル(cc)未満を有する虚血中心部である、請求項91に記載の細胞。
【請求項93】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積約2cc~50ccを有する虚血中心部である、請求項91に記載の細胞。
【請求項94】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項95】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項96】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項97】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項98】
小体積の虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項91に記載の細胞。
【請求項99】
小体積の虚血中心部の少なくとも一部が、対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項91に記載の細胞。
【請求項100】
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項91に記載の細胞。
【請求項101】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項91に記載の細胞。
【請求項102】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項101に記載の細胞。
【請求項103】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項91に記載の細胞。
【請求項104】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項103に記載の細胞。
【請求項105】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項91に記載の細胞。
【請求項106】
小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項91に記載の細胞。
【請求項107】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項108】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項91に記載の細胞。
【請求項109】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項91に記載の細胞。
【請求項110】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項91に記載の細胞。
【請求項111】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞であって、方法が、
対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び
虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
細胞。
【請求項112】
虚血中心部の体積が約2cc~50ccである場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項113】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項114】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項115】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項116】
治療有効量の細胞を投与する工程が、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項117】
虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項111に記載の細胞。
【請求項118】
虚血中心部の少なくとも一部が、対象の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項111に記載の細胞。
【請求項119】
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項111に記載の細胞。
【請求項120】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項111に記載の細胞。
【請求項121】
およそ250万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項120に記載の細胞。
【請求項122】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項111に記載の細胞。
【請求項123】
およそ500万個の細胞を投与する工程が、第1の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含み、細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射され、細胞懸濁液が細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項122に記載の細胞。
【請求項124】
脳卒中誘導性の運動障害が、対象が罹患した虚血性脳卒中の結果である、請求項111に記載の細胞
【請求項125】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した、請求項124に記載の細胞。
【請求項126】
虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した、請求項125に記載の細胞。
【請求項127】
対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を評価する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【請求項128】
間葉系幹細胞がヒト骨髄由来細胞である、請求項111に記載の細胞。
【請求項129】
治療有効量の細胞が無菌等張晶質液中に懸濁されている、請求項111に記載の細胞。
【請求項130】
対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含む、請求項111に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容がその全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、2021年5月27日に申請された米国仮出願第63/194,021号の利益を主張する。
【0002】
本開示は概して、再生細胞療法の分野、より詳細には、小体積脳卒中のための細胞療法及び治療方法に関する。
【背景技術】
【0003】
世界中で、脳卒中は、2番目に多い死因であり能力障害の3番目に多い原因である[1]。虚血性脳卒中後、急性期は、脳卒中イベント又はインシデントから数時間~数日後と一般的に定義される。急性虚血性脳卒中に対する即時の脳卒中後治療介入は、血圧の呼吸及び心臓コントロール、酸素飽和度及び血中グルコースレベルのモニタリング、代謝障害の予防、臓器機能の維持、並びに頭蓋内圧上昇の管理による救命処置に焦点を当てる。
【0004】
米国において急性虚血性脳卒中に対し唯一承認された療法のうちの1つは、脳卒中の発症から3時間以内に患者に投与される血栓溶解剤である。一部の研究が、おそらく、血栓溶解治療介入の厳密な基準、適切な施設がないこと、及び対象が3時間の時間枠を超えて到着することにより、急性虚血性脳卒中対象のうちの5%未満しか、実際にはこの療法を受けていないと推定している[2]。最初の脳卒中に罹患した患者のうちのおよそ70%~85%が、片麻痺又は少なくとも患者の体の片側での何らかの麻痺を発症する。脳卒中イベント又はインシデント後の6ヶ月で、不全片麻痺を発症し入院患者リハビリケアを必要とする患者のうちの60%しか、単純な日常活動を実施するのに機能的自立を達成しない[3]。
【0005】
脳卒中患者が、脳卒中イベント又はインシデントから数ヶ月より後と一般的に定義される慢性期に入ると、理学療法がしばしば、患者にとって唯一の処方されるリハビリレジメンである。これらの慢性脳卒中患者にとって、損傷を顕著に元に戻し、患者の運動機能を改善することが示されている、証明された生物学的又は薬学的療法は存在しない。各種細胞療法が提唱及び研究されてきたが、これらの療法についての治験は今のところ、そのような治験がわずかな改善しか示さない患者に限定されている[4-6]。更に、ある特定の療法が、特定の患者亜集団、例えば様々な虚血中心部サイズ又は体積を有する脳卒中患者を治療するのにより有効であるか否かに関しての調査は行われていない。
【0006】
ゆえに、慢性脳卒中患者又は慢性の脳卒中誘導性の運動障害に罹患した患者の治療のための、安全で有効な療法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許公開第2003/0003090号
【特許文献2】米国特許第5,486,359号
【特許文献3】WO 2005/100552
【特許文献4】米国特許第8,092,792号
【特許文献5】米国特許第10,245,286号
【特許文献6】米国特許第7,682,825号
【特許文献7】米国特許出願公開第2010/0266554号
【特許文献8】WO 2009/023251
【特許文献9】米国特許出願公開第2011/0229442号
【特許文献10】米国特許公開第2019/0290846号
【特許文献11】米国特許第6,534,261号
【特許文献12】米国特許第6,607,882号
【特許文献13】米国特許第6,785,613号
【特許文献14】米国特許第6,794,136号
【特許文献15】米国特許第6,824,978号
【特許文献16】米国特許第6,933,1 6,979,539号
【特許文献17】米国特許第7,013,219号
【特許文献18】米国特許第7,177,766号
【特許文献19】米国特許第7,220,719号
【特許文献20】米国特許第7,788,044号
【特許文献21】米国特許第7,026,462号
【特許文献22】米国特許第7,067,317号
【特許文献23】米国特許第7,560,440号
【特許文献24】米国特許第7,605,140号
【特許文献25】米国特許第8,071,564号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Prockop (1997) Science 276:71~74頁
【非特許文献2】Jiang (2002) Nature 418:41~49頁
【非特許文献3】Pittengerら (1999) Science 284:143~147頁
【非特許文献4】Dezawaら (2001) Eur. J. Neurosci. 14:1771~1776頁
【非特許文献5】Campagnoliら (2001) Blood 98:2396~2402頁
【非特許文献6】Ericesら (2000) Br. J. Haematol. 109:235~242頁
【非特許文献7】Houら (2003) Int. J. Hematol. 78:256~261頁
【非特許文献8】Artavanis-Tsakonasら (1995) Science 268:225~232頁
【非特許文献9】Mumm及びKopan (2000) Develop. Biol. 228:151~165頁
【非特許文献10】Ehebauerら (2006) Sci. STKE 2006 (364)、cm7
【非特許文献11】Del Amoら (1993) Genomics 15:259~264頁
【非特許文献12】Weinmasterら (1991) Development 113:199~205頁
【非特許文献13】Schroeterら (1998) Nature 393:382~386頁
【非特許文献14】NCBI参照配列第NM_017167
【非特許文献15】SwissProt P46531
【非特許文献16】SwissProt Q01705
【非特許文献17】GenBank CAB40733
【非特許文献18】Dezawaら (2004) J. Clin. Invest. 113:1701~1710頁
【非特許文献19】R. I. Freshney 「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」第5版、Wiley、New York、2005
【非特許文献20】Sambrookら 「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001
【非特許文献21】Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、 John Wiley & Sons、New York、1987
【非特許文献22】Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版. 1985
【非特許文献23】Bruntonら、「Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics」、McGraw-Hill、2005
【非特許文献24】University of the Sciences in Philadelphia (編)、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins、2005
【非特許文献25】University of the Sciences in Philadelphia (編)、「Remington: The Principles of Pharmacy Practice」、Lippincott Williams & Wilkins、2008
【非特許文献26】Vincentら (2007) Gene Therapy 14:781~789頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法、及び脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法が開示される。小体積虚血性脳卒中を治療するための組成物も開示される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一態様において、小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法は、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む。細胞は、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来していてよい。
【0011】
細胞は、間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程、ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及びポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程を含む方法により作製されてよい。間葉系幹細胞はヒト骨髄由来細胞であってよい。更に、NICDをコードするポリヌクレオチドは、全長ノッチタンパク質をコードしない。
【0012】
小体積の虚血中心部は、虚血中心部体積50立方センチメートル(cc)未満を有する虚血中心部であってよい。例えば、小体積の虚血中心部は、虚血中心部体積約2cc~50ccを有する虚血中心部であってよい。
【0013】
一部の例において、治療は、小体積の虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域、例えば対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、又は皮質下灰白質に位置する場合に特に有効である。
【0014】
一部の例において、治療は、小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した場合でも有効である。例えば、治療は、小体積虚血性脳卒中が、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した場合でも有効でありうる。
【0015】
治療有効量の細胞を投与する工程は、対象の脳内における沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液は、無菌等張晶質液中に懸濁された細胞を含んでいてよい。
【0016】
治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含んでいてよい。例えば、治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラに対し近位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を含んでいてよい。
【0017】
治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含んでいてよい。一部の例において、治療有効量の細胞を投与する工程は、虚血性ペナンブラ/慢性虚血性ペナンブラに対し遠位の又は小体積の虚血中心部内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を含んでいてよい。
【0018】
治療有効量の細胞を投与する工程は、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含んでいてよい。
【0019】
治療有効量の細胞は、およそ2500万個の細胞(すなわち2500万個の細胞±10万個の細胞)であってよい。およそ2500万個の細胞を投与する工程は、第1の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。細胞懸濁液は細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有していてよい。
【0020】
治療有効量の細胞は、およそ500万個の細胞(すなわち500万個の細胞±10万個の細胞)であってもよい。およそ500万個の細胞を投与する工程は、第1の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。細胞懸濁液は細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有していてよい。
【0021】
方法は、対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含んでいてよい。
【0022】
方法は、対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を決定する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含んでいてよい。
【0023】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法も開示される。方法は、対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含んでいてよい。例えば、方法は、虚血中心部の体積が約2cc~50ccである場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含んでいてよい。
【0024】
脳卒中誘導性の運動障害は、対象が罹患した虚血性脳卒中の結果であってよい。一部の例において、虚血性脳卒中は、細胞を投与する工程の6ヶ月より前に発生した。例えば、小体積虚血性脳卒中は、細胞を投与する工程の6ヶ月~90ヶ月前に発生した。
【0025】
ある特定の例において、方法は、虚血性脳卒中が6ヶ月より前(例えば、6ヶ月~90ヶ月前)に発生した場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む。
【0026】
細胞は、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来していてよい。
【0027】
細胞は、間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程、ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及びポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程を含む方法により作製されてよい。間葉系幹細胞はヒト骨髄由来細胞であってよい。更に、NICDをコードするポリヌクレオチドは、全長ノッチタンパク質をコードしない。
【0028】
ある特定の例において、方法は、虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む。例えば、方法は、虚血中心部の一部が、対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含んでいてよい。
【0029】
治療有効量の細胞を投与する工程は、対象の脳内における沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液は、無菌等張晶質液中に懸濁された細胞を含んでいてよい。
【0030】
治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含んでいてよい。例えば、治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラに対し近位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を含んでいてよい。治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を含んでいてもよい。一部の例において、治療有効量の細胞を投与する工程は、虚血性ペナンブラ/慢性虚血性ペナンブラに対し遠位の又は小体積の虚血中心部内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を含んでいてよい。
【0031】
治療有効量の細胞を投与する工程は、単一バーホール開頭術により治療有効量の細胞を定位的に投与する工程を更に含んでいてよい。
【0032】
治療有効量の細胞は、およそ2500万個の細胞(すなわち2500万個の細胞±10万個の細胞)であってよい。およそ2500万個の細胞を投与する工程は、第1の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。細胞懸濁液は細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有していてよい。
【0033】
治療有効量の細胞は、およそ500万個の細胞(すなわち500万個の細胞±10万個の細胞)であってもよい。およそ500万個の細胞を投与する工程は、第1の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、第2の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位、及び第3の沈着軌跡又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射する工程を含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。細胞懸濁液は細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有していてよい。
【0034】
方法は、対象に細胞を投与する工程の前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかける工程を更に含んでいてよい。
【0035】
方法は、対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を決定する工程、及び対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、治療有効量の細胞を投与する工程を更に含んでいてよい。
【0036】
小体積虚血性脳卒中を治療するための組成物も開示される。組成物は、治療有効量の細胞、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含んでいてよい。細胞は、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来していてよい。
【0037】
細胞は、間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程、ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及びポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程を含む方法により作製されてよい。間葉系幹細胞は、NICDをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドにより一過性トランスフェクトされていてよい。
【0038】
間葉系幹細胞はヒト骨髄由来細胞であってよい。更に、NICDをコードするポリヌクレオチドは、全長ノッチタンパク質をコードしない。
【0039】
薬学的に許容される担体又は希釈剤は、無菌等張晶質液(例えば、Plasma-Lyte A)を含んでいてよい。組成物は、投与される前に、密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液であってよい。
【0040】
治療有効量の細胞はおよそ250万個の細胞であってよい。治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である場合、組成物は、細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する細胞懸濁液およそ0.3mLであってよい。
【0041】
治療有効量の細胞はおよそ500万個の細胞であってもよい。治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である場合、組成物は、細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する細胞懸濁液およそ0.3mLであってよい。
【0042】
一部の例において、治療有効量の細胞は、およそ200万個の細胞~およそ500万個の細胞であってよい。
【0043】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含み、細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、使用も開示される。
【0044】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含み、細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、使用が更に開示される。
【0045】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞であって、方法が、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む、細胞も開示される。
【0046】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞であって、方法が、対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含み、細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、細胞が更に開示される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法を示す図である。
図2】虚血性ペナンブラにより取り囲まれた、脳卒中患者の虚血中心部を示す図である。
図3図3Aは、各種処理及び対照群についての、ベースラインFMMSと脳卒中の体積との間の関係を示すグラフである。図3Bは、各種処理及び対照群についての、ベースラインmRSとベースラインFMMSとの間の関係を示すグラフである。図3Cは、各種処理及び対照群についての、ベースラインmRSと脳卒中の体積との間の関係を示すグラフである。
図4】様々な投薬量群についての、脳卒中体積に対するデルタ複合率を示すグラフである。
図5】特に、皮質下白質、皮質下灰白質、皮質前頭部、皮質頭頂部、及び皮質側頭部を含む、脳の各種領域又は区域を示す図である。
図6】集団パーセンテージにより分割された研究集団の、脳卒中の位置、ベースライン特性、及びデルタ応答率に関する情報を含む表である。
図7】集団パーセンテージに対してプロットされた、図6のデルタ複合応答率を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下の用語が、本開示の目的について以下のように定義される。
【0049】
定義
「血管新生」又は「血管新生性の」は、新たな血管系(例えば、血管;例えば、静脈、動脈、細静脈、細動脈、毛細血管)の形成を指す。血管新生は、既存の血管から新たな血管が出芽すること、及び/又は内皮細胞がin situで癒着して新たな血管を形成することにより発生しうる。血管新生は、マトリックスリモデリング及び細胞動員(例えば、平滑筋細胞、単球及び/又は周皮細胞の動員)という付随的な工程も含む。血管新生は、内皮細胞の増殖及び/又は遊走を更に含む。
【0050】
用語「DNTT-MSC」(「NICDを一過性トランスフェクトされたMSCの子孫」)及び「SB623細胞」は、MSCにおける外来性ノッチ細胞内ドメイン(NICD)の一過性発現後に得られる細胞の集団を指す。例えば、DNTT-MSCの集団は、全長ノッチタンパク質をコードせず、NICD(例えば、ヒトノッチ1タンパク質由来)をコードする配列を含むベクターによるMSCの一過性トランスフェクション、その後の選択(例えば、G418による)により得られる。選択された細胞は、任意の添加される成長因子又は分化因子(血清が培養培地中に存在する場合、血清中に存在しうる因子以外)の非存在下で、任意で血清を添加した標準的な培養培地において更に培養されてよい。DNTT-MSCは、NICD(例えば、ヒトノッチ1細胞内ドメイン(NICD1))によるヒト骨髄MSCの一過性トランスフェクション、その後の選択、及びそれに続く増殖によるヒト骨髄MSCに由来していてよい。この工程は、親であるMSCと比較して優れた血管新生性及び神経新生性性質をin vitroで示す細胞集団を生成する[7-9]。DNTT-MSCの神経新生効果は、FGF1、FGF2、及びBMPの発現の増大、並びにそれに応じた分泌の増大による[7、9]。
【0051】
「Fugl-Meyer評価」又は「FMA」は、脳卒中を有した個体における感覚運動障害を評価するのに使用される指標又は尺度である。FMA指標又は尺度は、障害の重症度を決定し、運動回復を評価し、治療を計画するのに臨床的に適用される。FMA指標又は尺度は、脳卒中後回復についての標準化された評価として、1975年にAxel Fugl-Meyer及び彼の同僚により最初に提唱された[10]。評価は、(1)運動機能(両腕及び両脚運動機能)、(2)感覚機能、(3)バランス、(4)関節可動域、及び(5)関節痛を含む5つの域からなる。5つの域全てにわたって最大スコア226ポイントで、合計155項目が評価される。
【0052】
「Fugl-Meyer運動尺度又はスコア」又は「FMMS」は、上肢及び下肢両方の可動域を含む、脳卒中を有した個体の運動機能又は障害を評価するのに使用される下位尺度である。FMMSは、0ポイント(片麻痺)~100ポイント(正常な運動能)の範囲である。FMMSの最大スコアである100ポイントは、5つの域全てにわたる最大の合計FMAスコア(226ポイント)のほぼ半分にあたる。FMMSの最大スコアは、両腕についての66ポイント(33項目の評価に基づく)及び両脚についての34ポイント(17項目の評価に基づく)に分けられる。
【0053】
「FMMS両腕」又は「FMMS UE」は、脳卒中を有した個体の両腕又は上肢の運動機能を評価するのに使用されるより具体的な下位尺度である。
【0054】
「FMMS両脚」又は「FMMS LE」は、脳卒中を有した個体の両脚又は下肢の運動機能を評価するのに使用されるより具体的な下位尺度である。
【0055】
用語「移入」及び「移植」は、対象又は患者への、外来性細胞の導入を指すのに使用される。外来性細胞は、自己(すなわち対象から得られる)又は同種(すなわち、対象以外の個体から得られる)であってよい。
【0056】
「間葉系細胞」は、間葉系組織(例えば、軟骨芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、骨細胞、脂肪細胞)及びそれらの前駆体の細胞を指し、例えば、線維芽細胞(例えば、ヒト包皮線維芽細胞)、MSC(本明細書で定義される)及び例えば本明細書で定義されるDNTT-MSC等のMSCに由来する細胞を含む。
【0057】
「臨床上重要な最小変化量」又は「MCID」は、患者又は個体が有意義又は重要であると知覚又は識別する、治療成績の最小の変化である。例えば、MCIDは、FMAに関連することから、5つのFMA域のうちの1つ又は複数において脳卒中患者を評価するのに使用されるスコアの最小の変化であってよい。より具体的な例として、脳卒中治療を評価するためのMCID閾値は、脳卒中患者が、ベースライン測定値から、患者のFMMS UEスコアの少なくとも6ポイントの改善を呈することを必要としうる。
【0058】
「修正Rankin尺度」又は「mRS」は、脳卒中を有した患者の能力障害の度合又は能力障害レベルを測定するのに使用される、臨床医により報告される順位尺度である。尺度は、グレード又はスコア0(全く症状がない)~6(死亡)の範囲である。グレード又はスコア1を有する患者は、顕著な能力障害を有さず、通常の動作及び活動全てを行うことができる。グレード又はスコア2を有する患者は、わずかな能力障害を有し、以前の活動を全て実施することはできないが、援助なしに自分の身の回りの世話をすることができる。グレード又はスコア3を有する患者は、中程度に能力障害を負っており、ある程度の助けを必要とするが、援助なしに歩行することができる。グレード又はスコア4を有する患者は、中程度の重症度の能力障害を呈し、歩行することができず、援助なしに自分の身体的な要求の世話をすることができない。グレード又はスコア5を有する患者は、重症の能力障害を負っており、寝たきりで、失禁状態であり、常時の看護及び注意を必要とする。
【0059】
「MSC」(「間葉系幹細胞」)は、骨髄から得られる接着性の、非造血多能性細胞を指す。これらの細胞は、間葉系幹細胞、間葉系間質細胞、骨髄接着間質細胞、骨髄接着幹細胞及び骨髄間質細胞として様々に知られる。MSCは、例えば、臍帯血、脂肪組織、歯髄、ワルトンゼリー、及び各種結合組織から得られてもよい。MSCは、骨髄から接着細胞(すなわち、組織培養プラスチックに接着する細胞)を選択することにより(例えば、培養物中での成長により)得られてよい。療法における使用のための十分な数の細胞を有するMSC集団を得るため、接着細胞の集団が、接着性についての選択の後、培養物中で増殖される。培養物中での増殖は、混入した細胞(単球等)が培養条件下で増殖しないゆえに、MSCを濃縮させもする。
【0060】
MSCの例示的な開示が、米国特許公開第2003/0003090号; Prockop (1997) Science 276:71~74頁及びJiang (2002) Nature 418:41~49頁において提供される。MSCを単離及び精製する方法は、例えば、米国特許第5,486,359号; Pittengerら (1999) Science 284:143~147頁及びDezawaら (2001) Eur. J. Neurosci. 14:1771~1776頁で分かる。ヒトMSCは市販されており(例えば、BioWhittaker、Walkersville、Md.)、又は例えば、骨髄穿刺によりドナーから得て、その後培養し接着骨髄細胞を選択してもよい。例えば、WO 2005/100552を参照のこと。
【0061】
MSCは、臍帯血から単離されてもよい。例えば、Campagnoliら (2001) Blood 98:2396~2402頁; Ericesら (2000) Br. J. Haematol. 109:235~242頁及びHouら (2003) Int. J. Hematol. 78:256~261頁を参照のこと。MSCの更なる供給源は、例えば、脂肪組織、歯髄及びワルトンゼリーを含む。
【0062】
「神経新生」又は「神経新生性の」は、神経前駆細胞(NPC)の、ニューロン及び/又はグリア細胞(例えば、アストロサイト、オリゴデンドロサイト)への成長及び/又は分化を指すか又はこれらに関する。神経新生工程の例は、NPC増殖、神経発生(例えば、新たなニューロンの形成)及びグリア発生(例えば、アストロサイト及び/又はオリゴデンドロサイトの形成)を含むがこれらに限定されない。他の工程は、例えば、神経突起伸長、軸索伸長、及び樹状突起伸長を含む、ニューロン発達に関する。
【0063】
「ノッチタンパク質」(例えば、ノッチ1タンパク質)は、全ての後生生物にみられ、細胞内シグナル伝達を介して細胞分化に影響を及ぼす膜貫通受容体である。ノッチ細胞外ドメイン(例えば、ノッチ1タンパク質の細胞外ドメイン)をノッチリガンド(例えば、デルタ、セレート、ジャギド)と接触させると、ノッチタンパク質の2回のタンパク質分解性切断が起こり、2回目の切断はγ-セクレターゼにより触媒され、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)を細胞質に放出する。マウスノッチタンパク質では、この切断は、アミノ酸gly1743とval1744との間で発生する。NICDは核に移動し、そこで転写因子として作用し、更なる転写調節タンパク質(例えば、MAM、ヒストンアセチラーゼ)を動員して、各種標的遺伝子(例えば、Hes1)の転写抑制を軽減する。ノッチシグナル伝達に関する更なる詳細及び情報が、例えばArtavanis-Tsakonasら (1995) Science 268:225~232頁; Mumm及びKopan (2000) Develop. Biol. 228:151~165頁及びEhebauerら (2006) Sci. STKE 2006 (364)、cm7で分かる。[DOI: 10.1126/stke.3642006cm7]。
【0064】
「脳卒中」は、脳における血流の障害から生じる状態に与えられる名称である。そのような脳血管障害は、例えば、頭蓋内出血から、又は脳における血流の減少若しくは閉塞(すなわち、脳虚血)から生じうる。虚血性閉塞は、血栓症(すなわち、頭蓋血管又は脳に補給する血管における、in situでの血餅の形成)、又は脳塞栓症(脳の部位への血餅の遊走)から生じうる。虚血性又は出血性脳卒中から生じる損傷は大抵、特定の神経学的及び生理的機能の障害をもたらす。様々な種類の脳卒中、及びそれらの特性に関する更なる情報は、様々な種類の脳卒中及びそれらの特性について記載する目的で、それらの開示が、それらの全体にわたって本明細書に参照により組み込まれる、共有の米国特許第8,092,792号及び第10,245,286号で分かる。
【0065】
治療
図1は、脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法100を示す。脳卒中誘導性の運動障害は、対象が罹患した虚血性脳卒中の結果であってよい。方法100は、虚血性脳卒中後に対象を治療する方法又は小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法と考えられてもよい。
【0066】
方法100は、作業102において、脳卒中誘導性の運動障害を有する対象の虚血中心部の体積を決定することを含んでいてよい。一部の例において、作業102は、対象の虚血中心部の体積に関するデータ又は情報を受け取ることを含んでいてよい。
【0067】
本開示の目的について、虚血中心部又は梗塞中心部は、既に梗塞形成した(すなわち、壊死又は組織死を起こした)か、又は対象が罹患した虚血性脳卒中の結果として梗塞形成することを不可逆的に運命づけられた脳組織を指すことができる。
【0068】
虚血中心部の体積は、コンピュータ断層撮影(CT)灌流(CTP)、拡散強調磁気共鳴画像法(DWI)、又は一部の場合、ベースライン非造影CT(NCCT)を使用して決定可能である。CTPを使用して測定される場合、虚血中心部は、正常な脳血流の30%未満の相対脳血流(CBF)レベルを有する脳組織と定義されうる。DWIを使用して測定される場合、虚血中心部は、620μm2/s未満の見かけの拡散係数を有する脳組織と定義されうる[11]。
【0069】
一部の例において、虚血中心部が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、方法100は、細胞療法又は治療を進めることを含んでいてよい。例えば、虚血中心部が約2cc~50ccであると決定された場合に、方法100は、細胞療法又は治療を進めることのみを含んでいてよい。
【0070】
方法100は、作業104において、対象のmRSスコアを決定することにより対象の能力障害の度合を決定することを更に含んでいてよい。一部の例において、作業104は、対象のmRSスコアに関するデータ又は情報を受け取ることを含んでいてよい。
【0071】
図1は作業104が作業102に続くと示すが、そのような作業の順序が入れ替わってもよく、作業が並行して行われてもよいことが、当業者によって理解されるべきである。
【0072】
一部の例において、方法100は、対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、細胞療法又は治療を進めることを含んでいてよい。例えば、mRSスコア2未満を有する対象は、本明細書で開示される細胞療法に値するのに十分な能力障害を十分には負っていないと考えられ、mRSスコア4超を有する対象は、治療について能力障害を重症に負い過ぎていると考えられる。
【0073】
方法100は、作業106において、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与することを更に含んでいてよい。一部の例において、虚血中心部を取り囲む脳領域は、対象の虚血性ペナンブラであってよい。方法100は、虚血中心部に直接注射することなく、虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0074】
本開示の目的について、虚血性ペナンブラは、灌流低下した脳組織、又は不可逆的な損傷のリスクがあるが、まだ救済可能な脳組織を指しうる。一部の研究は、虚血性ペナンブラをCBFが減少した領域と定義し、その領域ではCBFレベルがおよそ10及び15ml/100g/min~およそ25mL/100g/minに減少している[12]。
【0075】
方法100は、作業106において、対象の虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。一部の例において、方法100は、虚血中心部の体積が50cc未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。例えば、方法100は、虚血中心部の体積が約2cc~50ccであると決定された場合にのみ、対象の虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0076】
これらの及び他の例において、方法100は、対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、対象の虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。方法100は、虚血中心部の体積が50cc未満であると決定され、対象のmRSスコアが2~4である場合にのみ、対象の虚血性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてもよい。
【0077】
以下のセクションでより詳細に論じられるが、出願者は、小体積脳卒中に罹患した、mRSスコア2~4を有する対象(例えば、虚血中心部体積50cc未満)において、運動機能に臨床的に重要な改善を呈した、処理群のそのような対象(すなわち、細胞を投与された対象)の、偽/対照群の同じ対象に対する割合に、統計上有意な差(p値=0.02)が観察されることを発見した。
【0078】
ある特定の例において、方法100は、慢性的な脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法、又は慢性脳卒中を治療する方法と考えられる。例えば、方法100は、虚血性脳卒中が、細胞を投与する6ヶ月より前(例えば、6ヶ月~90ヶ月前)に発生した場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0079】
方法100は、小体積慢性脳卒中(急性脳卒中に対立するものとして)を治療する方法とも考えられる。例えば、方法100は、虚血性脳卒中が、細胞を投与する6ヶ月より前(例えば、6ヶ月~90ヶ月前)に発生した場合にのみ、及び虚血中心部の体積が50cc未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0080】
脳卒中インシデントが治療(例えば、細胞を投与すること)の6ヶ月より前に発生した場合、対象の慢性虚血中心部を取り囲むペナンブラは、慢性ペナンブラ(急性ペナンブラに対立するものとして)と考えられる。慢性ペナンブラは、最近脳卒中に罹患した対象の急性ペナンブラが呈するものより更に小さいCBFレベルを呈しうる。これらの例において、そのような患者を治療する方法100は、対象の慢性虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。一部の例において、方法100は、慢性虚血中心部の体積が50cc未満であると決定された場合にのみ、対象の慢性虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0081】
DNTT-MSC
投与される細胞は、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する同種の細胞であってよい。細胞は、間葉系幹細胞の培養物を用意すること、間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させること(ポリヌクレオチドは全長ノッチタンパク質をコードしない)、ポリヌクレオチドを含む細胞を選択すること、及びポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養することを含む方法により作製されてよい。間葉系幹細胞はヒト骨髄由来細胞であってよい。本開示の目的について、投与される細胞はDNTT-MSCと呼ばれることがある。
【0082】
先に論じられたように、DNTT-MSCは、MSCとしても知られる骨髄接着間質細胞から、MSCにおいてノッチタンパク質の細胞内ドメインを一過性に発現させることにより得られる。MSCにおけるノッチ細胞内ドメイン(例えば、ヒトノッチ1タンパク質由来のNICD)の一過性発現は、MSCの集団をDNTT-MSCの集団に変換するのに十分でありうる。成長及び/又は分化因子による更なる処理は必要でない。このように、MSCの集団は、NICDをコードする(ただし全長ノッチタンパク質をコードしない)配列を含むベクターによるMSCの一過性トランスフェクションによりDNTT-MSCの集団に変換され、その後ベクターを含む細胞が選択され、更なる成長及び/又は分化因子への曝露の非存在下で、血清含有培地において選択された細胞が更に培養されてよい。例えば、間葉系幹細胞の単離及び間葉系幹細胞のDNTT-MSC(以下の文書では「神経前駆細胞」及び「神経再生細胞」と表記される)への変換について記載する目的で、それらの開示がそれらの全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,682,825号(3月23日、2010); 米国特許出願公開第2010/0266554号(10月21日、2010);及びWO 2009/023251(2月19日、2009)を参照のこと。
【0083】
これらの方法において、ノッチ細胞内ドメインをコードする任意のポリヌクレオチド(例えば、ベクター)が使用可能であり、トランスフェクトされた細胞の選択及び濃縮のための任意の方法が使用可能である。例えば、MSCは、ノッチ細胞内ドメイン(例えば、ヒトノッチ1細胞内ドメイン)をコードする配列を含有し、選択マーカー(例えば薬物耐性、例えばG418に対する耐性)をコードする配列も含有するベクターによりトランスフェクトされてよい。一部の例において、一方はノッチ細胞内ドメインをコードする配列を含有し、他方は薬物耐性マーカーをコードする配列を含有する2つのベクターが、MSCのトランスフェクションに使用可能である。これらの例において、選択は、単一のベクター又は複数のベクターによる細胞培養物のトランスフェクション後に、ベクターを含まない細胞を死滅させるが、ベクターを含む細胞は生存させるのに十分な量の選択薬剤(例えば、G418)を細胞培養物に添加することにより達成される。選択の非存在は、前記選択薬剤の除去、又はベクターを含まない細胞を死滅させないレベルまで前記選択薬剤濃度を低下させることを伴う。選択後(例えば、7日間)、選択薬剤は除去されてよく、細胞は血清含有培養培地で更に培養されてよい(例えば、2回継代する間)。
【0084】
使用される選択マーカーの性質及び/又は選択薬剤の濃度次第で、選択マーカーをコードするベクターを欠く細胞全てを選択工程中に必ずしも死滅させないことも可能である。例えば、選択薬剤は、選択マーカーを含まない細胞の成長を阻害することができ、選択薬剤の除去後、その細胞は回復し成長を再開することができる。
【0085】
このように、DNTT-MSCの調製は、MSCにおける外来性ノッチ細胞内ドメインの一過性発現を伴う。この目的のため、MSCは、ノッチ細胞内ドメイン(例えば、ヒトノッチ1細胞内ドメイン)をコードする配列を含むベクターによりトランスフェクトされてよく、前記配列は、全長ノッチタンパク質をコードしない。そのような配列は全て既知であり、当業者にとって容易に入手することができる。例えば、Del Amoら (1993) Genomics 15:259~264頁は、マウスノッチタンパク質の完全なアミノ酸配列を提示し、Mumm及びKopan (2000) Devel. Biol. 228:151~165頁は、マウスノッチタンパク質由来の、細胞内ドメインを放出するいわゆるS3切断部位を取り囲むアミノ酸配列を提供する。まとめると、これらの参考文献は、全長ノッチタンパク質でない、ノッチ細胞内ドメインを含有するあらゆるペプチドを当業者に提供し、それゆえに全長ノッチタンパク質をコードしない、ノッチ細胞内ドメインをコードする配列を含むあらゆるポリヌクレオチドも当業者に提供する。前述の文献(Del Amo及びMumm)は、全長ノッチタンパク質のアミノ酸配列及びノッチ細胞内ドメインのアミノ酸配列それぞれを開示する目的で、それらの全体にわたって参照により組み込まれる。
【0086】
同様の情報が、ラット、ツメガエル、ショウジョウバエ及びヒトを含む更なる種から、ノッチタンパク質及び核酸について入手可能である。例えば、Weinmasterら (1991) Development 113:199~205頁;Schroeterら (1998) Nature 393:382~386頁;NCBI参照配列第NM_017167(及びそこに引用される参考文献);SwissProt P46531(及びそこに引用される参考文献);SwissProt Q01705(及びそこに引用される参考文献);及びGenBank CAB40733(及びそこに引用される参考文献)を参照のこと。前述の参考文献は、複数の異なる種における、全長ノッチタンパク質のアミノ酸配列及びノッチ細胞内ドメインのアミノ酸配列を開示する目的で、それらの全体にわたって参照により組み込まれる。
【0087】
一部の例において、DNTT-MSCは、MSCが外来性ノッチ細胞外ドメインを発現しないように、ノッチ細胞内ドメインをコードする配列を含む核酸を、MSCに導入することにより調製されてよい。そのようなことは、例えば、ノッチ細胞内ドメインをコードする配列を含むベクターによりMSCをトランスフェクトすることにより実現可能であり、前記配列は全長ノッチタンパク質をコードしない。
【0088】
DNTT-MSCの調製、及び本明細書で開示される方法において使用可能な、DNTT-MSCの性質と同様の性質を有する細胞を作製するための方法についての更なる詳細が、米国特許第7,682,825号(3月23日、2010);及び米国特許出願公開第2010/0266554号(10月21日、2010)及び第2011/0229442号(9月22日、2011)で分かり、それらの開示は、DNTT-MSCの調製のための代替方法について記載する目的で、及びDNTT-MSCの性質と同様の性質を有する細胞を作製するための方法を提供するため、それらの全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる。Dezawaら (2004) J. Clin. Invest. 113:1701~1710頁も参照のこと。
【0089】
細胞培養
細胞培養のための標準的な方法は、当技術分野で既知である。例えば、R. I. Freshney 「Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique」第5版、Wiley、New York、2005を参照のこと。
【0090】
トランスフェクション
細胞への外来性DNAの導入のための方法(すなわち、トランスフェクション)、及びトランスフェクトされた細胞の選択も、当技術分野で既知である、例えば、Sambrookら 「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001; Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、 John Wiley & Sons、New York、1987及び定期的な更新を参照のこと。
【0091】
図2は、虚血性脳卒中に罹患した対象の虚血中心部200を図示する。図2に示されるように、虚血中心部200は、虚血性ペナンブラ202により取り囲まれうる。虚血性脳卒中が治療の開始の6ヶ月より前に発生した場合、虚血中心部200は慢性虚血中心部と考えられ、虚血性ペナンブラ202は慢性虚血性ペナンブラと考えられる。
【0092】
先に論じられたように、虚血中心部200は、中心部体積又は虚血中心部体積を有していてよい。中心部体積は、他の画像化技法の中で、コンピュータ断層撮影灌流又は拡散強調磁気共鳴画像法を使用して決定可能である。中心部体積が50cc未満(例えば、約2cc~50cc)であると決定された場合、虚血性脳卒中は小体積虚血性脳卒中と考えられる。
【0093】
また、先に論じられたように、小体積虚血性脳卒中を治療する方法は、小体積虚血性脳卒中に罹患した対象の小体積の虚血中心部200を取り囲む虚血性ペナンブラに、治療有効量の同種の細胞を投与することを含んでいてよい。細胞は、NICDをコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来していてよい。本開示の目的について、細胞はDNTT-MSCと呼ばれうる。更に、虚血性脳卒中が治療の開始の6ヶ月より前に発生した場合、方法は、小体積慢性虚血性脳卒中を治療する方法と考えられる。
【0094】
図2に示されるように、方法は、対象の脳内の1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液を注射することにより、治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射することを更に含んでいてよい。例えば、治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラに対し近位の1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射することを含んでいてよい。
【0095】
治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部を取り囲む虚血性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射することを含んでいてもよい。一部の例において、治療有効量の細胞を投与する工程は、虚血性ペナンブラ又は虚血性慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射することを含んでいてよい。これらの及び他の例において、治療有効量の細胞を投与する工程は、小体積の虚血中心部内の1つ又は複数の沈着部位204に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射することを含んでいてよい。
【0096】
細胞懸濁液は、薬学的に許容される担体又は希釈剤中に懸濁された細胞を含んでいてよい。一部の例において、薬学的に許容される担体又は希釈剤は、無菌等張晶質液であってよい。例えば、細胞懸濁液は、Plasma-Lyte(商標)A(Baxter Healthcare Corporation)中に懸濁された細胞を含んでいてよい。細胞は、リン酸緩衝生理食塩水等の別の生理的に適合する担体中に懸濁されていてもよい。
【0097】
細胞は、単一バーホール開頭術により定位的に投与されてよい。細胞の定位投与についての更なる詳細は、DNTT-MSCの定位投与及びそのような目的のため使用される設備について記載する目的で、その内容がその全体にわたって参照により本明細書に組み込まれる、米国特許公開第2019/0290846号(9月26日、2019)で分かる。
【0098】
方法は、対象に細胞を投与する前に、製剤化された用量の細胞を放出後試験にかけることを更に含んでいてよい。
【0099】
治療有効量の細胞(又はDNTT-MSC)は、およそ250万個の細胞(すなわち250万個の細胞±10万個の細胞)であってよい。投与される細胞の量がおよそ250万個の細胞である場合、治療方法は、第1の沈着軌跡206A又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位204(図2を参照のこと)、第2の沈着軌跡206B又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位204、及び第3の沈着軌跡206C又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射することを含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。更に、細胞懸濁液は細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有していてよい。
【0100】
治療有効量の細胞(又はDNTT-MSC)は、およそ500万個の細胞(すなわち500万個の細胞±10万個の細胞)であってよい。投与される細胞の量がおよそ500万個の細胞である場合、治療方法は、第1の沈着軌跡206A又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位204(図2を参照のこと)、第2の沈着軌跡206B又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位204、及び第3の沈着軌跡206C又は注射軌跡に沿った5つの沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液を注射することを含んでいてよい。細胞懸濁液およそ20μLが各沈着部位に注射されてよい。更に、細胞懸濁液は細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有していてよい。
【0101】
一部の場合では、治療有効量の細胞(又はDNTT-MSC)は、およそ250万個の細胞~500万個の細胞であってよい。例えば、治療有効量の細胞(又はDNTT-MSC)は、およそ300万個の細胞(すなわち300万個の細胞±10万個の細胞)、350万個の細胞(すなわち350万個の細胞±10万個の細胞)、400万個の細胞(すなわち400万個の細胞±10万個の細胞)、又は450万個の細胞(すなわち450万個の細胞±10万個の細胞)であってよい。
【0102】
図2に示されるように、沈着軌跡又は注射軌跡のうちの各々に沿った沈着部位204のうちの少なくとも一部は、虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラ内であってよい。一部の例において、沈着軌跡又は注射軌跡のうちの各々に沿った沈着部位204のうちの少なくとも1つ又は複数は、虚血性ペナンブラ若しくは慢性虚血性ペナンブラに対し近位であるか、又は虚血性ペナンブラ若しくは慢性虚血性ペナンブラの外周部であってよい。他の例において、沈着軌跡又は注射軌跡の全てが、虚血性ペナンブラ又は慢性虚血性ペナンブラ内であってよい。更なる例において、沈着軌跡又は注射軌跡のうちの各々に沿った沈着部位204のうちの少なくとも1つ又は複数は、虚血中心部若しくは慢性虚血中心部内であるか、又は虚血中心部若しくは慢性虚血中心部の外周部であってよい。
【0103】
ある特定の例において、治療は、虚血中心部200が、頭頂部又は葉以外の、対象の脳の領域、葉、又は区域に位置する場合に特に有効である。例えば、小体積虚血性脳卒中を治療する方法は、虚血中心部200の一部が対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する場合にのみ、対象の虚血中心部200を取り囲む脳領域(例えば、虚血性ペナンブラ202)に治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい(例えば、図5を参照のこと)。一部の例において、方法は、虚血中心部200が頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する場合にのみ、対象の虚血中心部200を取り囲む脳領域(例えば、虚血性ペナンブラ202)に治療有効量の細胞を投与することを含んでいてよい。
【0104】
組成物、製剤、及びキット
小体積虚血性脳卒中又は小体積慢性虚血性脳卒中を治療するための、組成物、製剤、及びキットも開示される。組成物は、治療有効量の細胞及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含んでいてよい。先に論じられたように、細胞は、DNTT-MSCとも呼ばれ、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来していてよい。細胞(DNTT-MSC)は、間葉系幹細胞(例えば、ヒト骨髄由来細胞)の培養物を用意すること、及び間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させることを含む方法により作製されてよい。例えば、間葉系幹細胞は、NICDをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドにより一過性トランスフェクトされていてよい。方法は、ポリヌクレオチドを含む細胞を選択すること、及びポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養することを更に含んでいてよい。ある特定の例において、ポリヌクレオチドは全長ノッチタンパク質をコードしない。本明細書で開示される組成物は、とりわけ、神経前駆細胞及び/又は内皮細胞の増殖及び分化を刺激するのに有用であってよい。
【0105】
組成物の「治療有効量」は、とりわけ、神経前駆細胞及び/又は内皮細胞の増殖及び分化を刺激することによる、小体積虚血性脳卒中又は小体積慢性虚血性脳卒中の治療に好適な量の細胞を含んでいてよい。一部の例において、治療有効量の組成物は、およそ250万個の細胞(すなわち250万個の細胞±10万個の細胞)を含んでいてよい。治療有効量の組成物は、およそ500万個の細胞(すなわち500万個の細胞±10万個の細胞)を含んでいてもよい。治療有効量の組成物は、およそ200万個の細胞~およそ500万個の細胞を含んでいてもよい。
【0106】
他の例において、治療有効量の組成物は、損傷の性質及び重症度、対象の体重及び全身の健康状態、並びに当業者にとって既知の他の基準に基づいて変動してよい。例えば、投薬量は、約100、500、1,000、2,500、5,000、10,000、20,000、50;000、100,000、500,000、1,000,000、2,500,000、5,000,000~10,000,000細胞以上(又はそれらの間の任意の整数値)で変動してよく、例えば、単回投与、1日1回、週2回、週1回、1月2回、1月1回の投与頻度は、例えば、体重、投与経路、疾患の重症度等によって決まる。
【0107】
本明細書で記載される細胞は、細胞懸濁液を形成するように、薬学的に許容される担体又は希釈剤中に懸濁されていてよい。薬学的に許容される担体は、移入に生理的に適合する担体であってよい。本明細書で使用される場合、用語「生理的に適合する担体」は、製剤の他の成分と適合し、製剤のレシピエントにとって有害でない担体を指すことができる。好適な担体又は希釈剤の例は、細胞培養培地(例えば、イーグル最小必須培地)、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液+/-グルコース(HBSS)、及び多電解質溶液を含む。薬学的に許容される担体又は希釈剤は、Plasma-Lyte(商標)A(Baxter Healthcare Corporation)等の無菌等張晶質液であってもよく、又はこれを含んでいてもよい。
【0108】
各種医薬組成物、並びにそれらの調製及び使用のための技法は、本開示の観点から当業者にとって既知である。好適な薬理学的組成物及びそれらの投与のための技法の詳細な列挙については、Remington's Pharmaceutical Sciences、第17版. 1985; Bruntonら、「Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics」、McGraw-Hill、2005; University of the Sciences in Philadelphia (編)、「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」、Lippincott Williams & Wilkins、2005;及びUniversity of the Sciences in Philadelphia (編)、「Remington: The Principles of Pharmacy Practice」、Lippincott Williams & Wilkins、2008等の教科書を参照することができる。
【0109】
組成物は、密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液を含んでいてよい。一部の例において、密封されたバイアルは、細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する細胞懸濁液0.3mLを含んでいてよい。代わりに、密封されたバイアルは、細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する細胞懸濁液0.3mLを含んでいてよい。
【0110】
糖、例えばラクトース、グルコース及びスクロース;デンプン、例えばトウモロコシデンプン及びジャガイモデンプン;セルロース及びその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース及び酢酸セルロース;トラガント末;バクガ;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばココアバター及び坐剤ワックス;油、例えばラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油及びダイズ油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトール及びポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチル及びラウリン酸エチル;カンテン;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質不含の水;等張生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;及び医薬製剤に利用される他の非毒性適合物質を含む、薬学的に許容される担体として機能しうる物質の他の例も開示される。湿潤剤、乳化剤及び滑沢剤、例えばラウリル硫酸ナトリウム及びステアリン酸マグネシウム、更に着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味料、香味料及び香料、保存料及び抗酸化剤も、組成物中に存在してよい。
【0111】
例示的な製剤は、ミセル、リポソーム又は薬物放出カプセルに被包された製剤(低速放出のために設計された生体適合性のコーティング内に組み込まれた活性薬剤);摂取可能な製剤;局所使用のための製剤、例えば点眼薬、クリーム剤、軟膏剤及びゲル剤;及び他の製剤、例えば吸入薬、エアロゾル及び噴霧薬を含む、非経口投与、例えば、肺内、静脈内、動脈内、眼内、頭蓋内、髄膜下、又は皮下投与に好適な製剤を含むがこれらに限定されない。本開示の組成物の投薬量は、治療の必要性の程度及び重症度、投与される組成物の活性、対象の全身の健康状態、並びに当業者にとって周知の他の考慮すべき事項に従って変動してよい。
【0112】
更なる実施形態において、本明細書で記載される組成物は、局所的に送達されてもよい。局所的送達は、非全身的に組成物の送達を可能にし、それゆえに全身送達と比較して組成物の体内負荷を減少させる。そのような局所送達は、例えば、ステント及びカテーテルを含むがこれらに限定されない、各種医学的に埋め込まれる機器の使用により達成されてもよく、吸入、注射又は手術により達成されてもよい。コーティング、埋め込み、組み込みのための、並びに別様に、ステント及びカテーテル等の医療機器に所望の薬剤を取り付けるための方法は、当技術分野で確立され本明細書で意図される。
【0113】
本開示の別の態様は、対象に細胞の投与を行うためのキットに関する。例えば、キットは、1つ又は複数の別個の医薬調製物として、必要に応じて製剤化された(例えば、医薬担体中の)細胞の組成物を含んでいてよい。
【0114】
DNTT-MSCを含む組成物は、血管新生を刺激する物質(「血管新生促進剤」)を含む他の組成物と組み合わせて使用可能である。組成物は、任意の順序で順次、又は並行して投与されてよい。したがって、本明細書で開示される治療用組成物は、DNTT-MSC及び血管新生促進剤の両方を含有していてよい。更なる実施形態において、一方はDNTT-MSCを含み、他方は血管新生促進剤を含む、別個の治療用組成物が、別々に又は一緒に対象に投与されてよい。
【0115】
一部の例において、血管新生促進剤は、タンパク質(例えば、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、トランスフォーミング成長因子アルファ、肝細胞成長因子、血管内皮成長因子、ソニックヘッジホッグ、MAGP-2、HIF-1、PR-39、RTEF-1、c-Myc、TFII、Egr-1、ETS-1)、又はそのようなタンパク質をコードする核酸であってよい。例えば、Vincentら(2007) Gene Therapy 14:781~789頁を参照のこと。他の例において、血管新生促進剤は、血管新生の阻害物質をコードする核酸を標的とする低分子RNA分子(例えば、siRNA、shRNA、マイクロRNA)又はリボザイムであってよい。更に、血管新生促進剤は、血管新生を阻害するタンパク質の発現を調節するDNA配列に、例えばそのタンパク質をコードする遺伝子の転写を遮断するように結合する三本鎖形成核酸であってよい。
【0116】
血管新生促進剤は、血管新生促進性分子(例えば、タンパク質)の発現を活性化する転写因子であってよい。血管新生促進性タンパク質の発現を調節する、天然に存在する転写因子(例えば、HIF-1アルファ等)が既知である。更に、合成転写調節タンパク質が、遺伝子操作により構築されてよい。例えば、目的の配列に結合するジンクフィンガーDNA結合ドメインの設計のための方法、及びそのようなジンクフィンガーDNA結合ドメインの、転写活性化及び抑制ドメインへの融合のための方法が記載されている。例えば、米国特許第6,534,261号:第6,607,882号;第6,785,613号;第6,794,136号;第6,824,978号;第6,933,1 6,979,539号;第7,013,219号:第7,177,766号;第7,220,719号;及び第7,788,044号を参照のこと。これらの方法は、血管新生促進性タンパク質をコードする任意の遺伝子の転写を活性化する、天然に存在しないタンパク質を合成するのに使用されてよい。更に、血管内皮成長因子(VEGF)遺伝子の合成ジンクフィンガー転写活性化因子が記載されている。例えば、米国特許第7,026,462号;第7,067,317号;第7,560,440号:第7,605,140号;及び第8,071,564号を参照のこと。したがって、VEGF遺伝子の転写を活性化する、天然に存在しない(すなわち、合成)ジンクフィンガータンパク質は、例えば脳卒中の治療において、血管新生を増強するためにSB623細胞と組み合わせて使用可能である。更に、抗血管新生性分子の転写を阻害する天然又は合成転写調節タンパク質(例えば、合成ジンクフィンガー転写調節タンパク質)が、血管新生促進剤として使用されてもよい。
【0117】
治験
虚血性脳卒中の結果として慢性運動障害に罹患した対象における、DNTT-MSC(SB623細胞としても知られる)の定位頭蓋内注射の安全性及び有効性を評価する、ランダム化二重盲検偽手術対照治験を実施した。対象を、(1)およそ250万個のDNTT-MSC、(2)およそ500万個のDNTT-MSC、又は(3)偽手術(対照群)を受けるように、およそ1:1:1の比で、治験の一部としてランダム化した。合計158名の対象を、偽手術を受ける51名の対象、およそ250万個のDNTT-MSCを受ける52名の対象、及びおよそ500万個のDNTT-MSCを受ける55名の対象でランダム化した。
【0118】
研究集団及び投与手順
研究集団は、6ヶ月~90ヶ月(7.5年)前に発生した虚血性脳卒中イベントにより引き起こされた慢性運動障害を有する成人対象を含んでいた。6ヶ月~90ヶ月の脳卒中後間隔は、虚血性脳卒中対象の90%超が脳卒中後90日までは安定であることを示した研究に基づいて選択された。対象は全てスクリーニング時点でmRSスコア2~4も有していた。mRSスコア2未満を有する対象は、そのような手順のリスクの正当な理由となるのに十分な能力障害を負っているとはみなされず、MRSスコア4超を有する対象は、重度の能力障害によるリスクが増大すると考えられた。
【0119】
先に論じられたように、合計158名の対象を、偽手術を受ける51名の対象、及び処理(およそ250万個又はおよそ500万個のDNTT-MSCのいずれか)を受ける107名の対象で治験の一部としてランダム化した。158名の対象のうち、77名の対象が、小体積虚血性脳卒中又は虚血中心部体積50cc未満(対象の病歴の一部として含まれるCT又はMRIスキャンに基づく)を有する脳卒中に罹患したことがあった。
【0120】
対象は、偽手術、又はおよそ250百万個のDNTT-MSC若しくはおよそ500万個のDNTT-MSCの頭蓋内投与のいずれかを受けた。DNTT-MSCは、単一バーホール開頭術により定位的に投与された。
【0121】
単一バーホール開頭術(約1cm~約1.5cm)を、局所麻酔及び鎮静下で行った。対象の硬膜を開き、埋め込みカニューレを挿入した。5回分の20μL体積の、DNTT-MSCを含む細胞懸濁液を、定位ターゲティングにより選択された5つの移入部位にゆっくりと注射した(ゆえに、合計100μLの細胞懸濁液を、単一の沈着軌跡に沿った5つの移入部位に注射した)。この手順を、同じバーホール開頭術により挿入された異なる軌道を有する2つの他の沈着軌跡で繰り返した(例えば、図2を参照のこと)。およそ250万個のDNTT-MSCを投与される対象には、目標濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する細胞懸濁液を注射し、およそ500万個のDNTT-MSCを投与される対象には、目標濃度およそ17*106細胞/mLを有する細胞懸濁液を注射した。
【0122】
偽手術群は、同じ定位計画手順、部分的な厚さの頭蓋外板バーホール、及び頭蓋縫合で、ただし硬膜の浸透も細胞移入もなしで、局所麻酔及び鎮静下で偽手術を受けた。偽手術手順は、処理群に施された手順を可能な限り模倣するように計画された。
【0123】
DNTT-MSC又はSB623細胞を、単位体積1mLに8*106細胞/mL以上を含有する無菌の細胞懸濁液として用意し、2mLバイアル中のCryoStore(商標)凍結培地で凍結保存した。凍結保存された細胞を解凍し、洗浄し、遠心処理し、Plasma-Lyte A中に再懸濁して、上述の目標濃度を達成した。投与前に、注射用に製剤化された用量に放出後試験を行い、注射用に製剤化された用量を、放出後試験の3時間以内に対象に投与した。
【0124】
治験の結果
安全性に関して、およそ250万個の細胞又はおよそ500万個の細胞の用量で対象に頭蓋内投与されたDNTT-MSCは、脳卒中誘導性の慢性運動障害を有する全ての対象において忍容性が良好であった。
【0125】
有効性に関して、本研究は、24週目(約6ヶ月)の対照/偽群に対する、合計FMMSにおいて少なくとも10ポイントの改善を呈した「組み合わせ処理群」(約250万個の細胞又は約500万個の細胞のいずれかを投与された対象)における対象の割合の統計上有意な差についての主要有効性評価項目を満たさなかった。応答率は、偽手術群(約15.6%)及び組み合わせ処理群(約15.0%)で同様であり、一般化線形混合モデル(GLMM)解析又はロジスティック回帰解析を使用する統計解析に基づくと、組み合わせ処理群応答率と偽手術応答率との間に統計上有意な差はなかった。
【0126】
治験データの後ろ向き解析
上述の治験から収集されたデータについて、後ろ向き解析を実施した。
【0127】
有効性に関して、後ろ向き解析から出願者により発見されたある予期されない結果が、小体積脳卒中(例えば、虚血中心部体積50cc未満)に罹患した対象において、偽/対照群と比較した、運動機能の臨床的に重要な改善を呈した組み合わせ処理群(すなわち、約250万個の細胞又は約500万個の細胞のいずれかを投与された対象)における対象の割合に、統計上有意な差(p値=0.02)が観察されたことであった。これらの予期されない所見を考慮すると、DNTT-MSCの投与は、小体積虚血性脳卒中により引き起こされる慢性運動障害に罹患した対象にとって有効な治療と考えられる。
【0128】
更に、出願者により発見された別の予期されない結果が、頭頂部/葉ではない脳の領域/葉における脳卒中に罹患した(すなわち、脳卒中の虚血性部分が頭頂部/葉ではない脳の領域/葉に位置する)対象において、偽/対照群と比較した、運動機能の臨床的に重要な改善を呈した組み合わせ処理群における対象の割合に、統計上有意な差(p値=0.05)が観察されたことであった。
【0129】
更に、出願者により発見された更に別の予期されない結果が、頭頂部/葉ではない脳の領域における小体積脳卒中(例えば、虚血中心部体積50cc未満)に罹患した対象において、偽/対照群と比較した、運動機能の臨床的に重要な改善を呈した組み合わせ処理群における対象の割合に、更に大きな統計上有意な差(p値<0.01)が観察されたことであった。
【0130】
後ろ向き解析の一部として、治験対象は、以下のMCID閾値(「MCID閾値」)のうちの少なくとも1つを達成することにより、運動機能の臨床的に有意義な改善を呈した場合、「複合応答者」と考えられた:
1.24週(「W24」)時点での、少なくとも9ポイントの合計FMMSのベースラインからの変化(「CFB」)改善(W24 CFB合計FMMS改善9ポイント以上)
2.24週時点での、少なくとも6ポイントの合計FMMS UEのCFB改善(W24 CFB FMMS UE改善6ポイント以上)
3.24週時点での、少なくとも4ポイントの合計FMMS LEのCFB改善(W24 CFB FMMS LE改善4ポイント以上)
【0131】
以下のTable1及び2(表1及び2)は、集団全体及び小体積脳卒中亜集団、それぞれについての複合応答率、平均ベースラインスコア、及び平均脳卒中体積を示す。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
以下のTable3(表3)は、集団全体及び小体積脳卒中亜集団についての、デルタ複合応答率及びそれらに付随するp値を示す。本開示の目的について、「デルタ複合応答率」は、処理群と対照群との間の応答率の差を指す。
【0135】
【表3】
【0136】
上記Table1~3(表1~3)により示されるように、小体積脳卒中を有する集団亜区分(例えば、虚血中心部体積50cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)は、対照群(約19%)と比較して、処理群において有意に高い応答率(約49%)を有した。この集団亜区分についての約30%というデルタ複合応答率は、GLMM及びロジスティック回帰解析に基づき統計上有意である(p値=0.02)と決定された。このことは、統計上有意ではない(p値=0.42)と決定された、集団全体についての8%というデルタ複合応答率とは全く対照的である。
【0137】
後ろ向き解析は、この統計上有意なデルタ複合応答率が、対象のベースラインmRSではなく対象の脳卒中の体積により推進されることも決定した。より具体的には、対象の脳卒中の体積は、対象のベースラインmRSに大きな効果を何ら有しなかった(かつ実質的に影響を及ぼさなかった)。
【0138】
図3A~3Cは、250万個(2.5M)の投薬量群、500万個(5.0M)の投薬量群、及び対照群についての、ベースラインFMMSと、ベースラインmRSと、脳卒中の体積(例えば、脳卒中患者の虚血中心部の体積)との間の関係を示すプロットである。図3Aは、2.5M投薬量群、5.0M投薬量群、及び対照群についての、ベースラインFMMSと脳卒中の体積との間の関係を示す。これらの2つの因子間でスピアマン相関を算出し、p値0.002で相関-0.23をもたらした。このことは、対象のベースラインFMMSが対象の脳卒中の体積と有意に相関することを示し、より小さい脳卒中体積を有する対象が概して、より大きい脳卒中体積を有する対象よりも優れた運動機能を呈したことを意味する。
【0139】
図3Bは、2.5M投薬量群、5.0M投薬量群、及び対照群についての、ベースラインmRSとベースラインFMMSとの間の関係を示す。これらの2つの因子間のスピアマン相関を算出し、p値0.001未満で相関-0.34をもたらした。このことは、対象のベースラインmRSが対象のベースラインFMMSと有意に相関することを示し、より劣ったベースライン運動機能を有する対象が概して、より優れたベースライン運動機能を有する対象よりも大きな能力障害を負っていたことを意味する。
【0140】
図3Cは、2.5M投薬量群、5.0M投薬量群、及び対照群についてのベースラインmRSと脳卒中の体積との間の関係を示す。これらの2つの因子間のスピアマン相関を算出し、p値0.44で相関0.06をもたらした。このことは、対象のベースラインmRSが、対象の脳卒中の体積とは有意に相関しないことを示す。
【0141】
投薬量比較
以下のTable4(表4)は、処理投薬量、対照集団、及び集団全体により分割された、全ての対象の複合応答率、平均ベースラインスコア、及び平均脳卒中体積を示す。
【0142】
【表4】
【0143】
以下のTable5(表5)は、処理投薬量、対照集団、及び集団全体により分割された、小体積脳卒中を有する対象(例えば、虚血中心部体積50cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)の複合応答率、平均ベースラインスコア、及び平均脳卒中体積を示す。
【0144】
【表5】
【0145】
以下のTable6(表6)は、処理投薬量、対照集団、及び集団全体により分割された、脳卒中体積50cc以上を有する対象(例えば、虚血中心部体積50cc以上を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)の複合応答率、平均ベースラインスコア、及び平均脳卒中体積を示す。
【0146】
【表6】
【0147】
以下のTable7(表7)は、処理投薬量、対照集団、及び集団全体により分割された、脳卒中体積100cc以上を有する対象(例えば、虚血中心部体積100cc以上を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)の複合応答率、平均ベースラインスコア、及び平均脳卒中体積を示す。
【0148】
【表7】
【0149】
上記Table4~7(表4~7)は、処理集団が、投薬量(例えば、2.5M細胞投薬量又は5.0M細胞投薬量)により細分され、かつ対照集団と比較された場合、およそ250万個のDNTT-MSCを投与された対象が、およそ500万個のDNTT-MSCを投与された対象よりも良好に応答したことを示す。これは、Table5~7(表5~7)に示されるように、全ての脳卒中体積亜集団にわたって維持された。
【0150】
図4は、ほとんど全ての対象脳卒中体積にわたって、2.5M投薬量集団についてのデルタ複合応答率(すなわち処理群と対照群との間の複合応答率の差)が、5.0M投薬量集団についてのデルタ複合応答率を上回ったことを示す。図4から分かるように、デルタ複合応答率の差は、小体積脳卒中を有する対象(例えば、虚血中心部体積50cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)において特に顕著である。これらの結果は予期されず、250万個のDNTT-MSCの投薬量が、500万個のDNTT-MSCの投薬量よりも、後者がより多くの細胞を有するにもかかわらず、慢性虚血性脳卒中の治療において更により治療上有効な用量でありうることを示唆する。このことは、小体積脳卒中を有する対象(例えば、虚血中心部体積50cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)において特に当てはまる可能性がある。
【0151】
図4のグラフは、相対的な観点から、対照群における脳卒中体積2cc未満を有する対象の数が5.0M投薬量群におけるそのような対象の数を大幅に上回ったため、脳卒中体積2cc未満を有する対象(例えば、虚血中心部体積2cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)についての結果を除外した。
【0152】
Table5~7(表5~7)は、小体積脳卒中亜集団(例えば、虚血中心部体積50cc未満を有する虚血性脳卒中に罹患した患者)(Table5(表5)を参照のこと)を除いて、実際には対照群が、脳卒中体積50cc以上(Table6(表6)を参照のこと)又は100cc以上(Table7(表7)を参照のこと)を有する対象についてのいずれかの投薬量群より良好に応答したことも示す。これらの結果は、DNTT-MSCが、虚血中心部体積50cc超を有する慢性脳卒中患者を治療するのにはあまり有効でない可能性があることを示す。
【0153】
脳卒中の位置
後ろ向き解析は、脳卒中位置に基づく治療の有効性も調査した。対象集団の中で、脳卒中(又は、より適切には、そのような脳卒中の虚血中心部)は、脳の以下の領域/区域において記録された:(1)皮質下白質、(2)皮質下灰白質、(3)皮質前頭部、(4)皮質頭頂部、及び(5)皮質側頭部。図5は、脳の他の領域/区域とともに、脳のこれらの領域/区域を示す。
【0154】
先に言及されたように、出願者により発見されたある予期されない結果が、皮質頭頂部/葉ではない脳の領域における脳卒中に罹患した対象において、偽/対照群と比較した、運動機能の臨床的に重要な改善を呈した組み合わせ処理群における対象の割合に、統計上有意な差(p値=0.05)が観察されたことであった。
【0155】
更に、出願者により発見された更に別の予期されない結果が、皮質頭頂部/葉ではない脳の領域における小体積脳卒中(例えば、虚血中心部体積50cc未満)に罹患した対象において、偽/対照群と比較した、運動機能の臨床的に重要な改善を呈した組み合わせ処理群における対象の割合に、更に大きな統計上有意な差(p値0.01未満)が観察されたことであった。
【0156】
以下のTable8(表8)は、集団全体及び皮質頭頂部における脳卒中に罹患しなかった対象集団についての、デルタ複合応答率及びそれらに付随するp値を示す。
【0157】
【表8】
【0158】
以下のTable9(表9)は、皮質頭頂部における脳卒中に罹患したか又は罹患しなかった小体積脳卒中集団(虚血中心部体積50cc未満)の対象についての、24週時点での各種デルタ応答率及びスコアを示す。
【0159】
【表9】
【0160】
上記Table8(表8)により示されるように、皮質頭頂部における脳卒中に罹患しなかった研究集団の対象は、対照群(約19%)と比較して、処理群において有意により高い応答率(約42%)を有した。この集団亜区分についての約23%というデルタ複合応答率は、GLMM又はロジスティック回帰解析に基づき統計上有意である(p値=0.05)と決定された。
【0161】
上記Table9(表9)は、皮質頭頂部における脳卒中に罹患しなかった、小体積脳卒中(虚血中心部体積50cc未満)を有する集団の区分において、最大のデルタ複合応答率(45.8%)が観察されたことを示す。
【0162】
これらの予期されない所見を考慮すると、DNTT-MSCの投与は、虚血中心部が対象の皮質頭頂部に位置していなかった虚血性脳卒中により引き起こされた慢性運動障害に罹患した対象に対する、有効な治療と考えられる。更に、DNTT-MSCの投与は、小体積(中心部体積50cc未満)虚血中心部が対象の皮質頭頂部に位置していなかった小体積虚血性脳卒中により引き起こされた慢性運動障害に罹患した対象に対する、更により有効な治療となりうる。
【0163】
図6は、集団パーセンテージにより分割された研究集団の、脳卒中位置、ベースライン特性、及びデルタ応答率に関する情報を含む、後ろ向き解析の一部として作成された参考表である。
【0164】
図7は、集団パーセンテージに対してプロットされた、図6のデルタ複合応答率を示すプロットである。図6に示されるように、グラフ上のポイントP1は集団のおよそ9%に相当し、小脳卒中体積(虚血中心部体積50cc未満)を有し、脳卒中が対象の皮質下灰白質又は皮質前頭部において発生しなかった対象を含み、グラフ上のポイントP2は集団のおよそ11%に相当し、小脳卒中体積を有し、脳卒中が対象の皮質頭頂部において発生しなかった対象を含み、グラフ上のポイントP3は集団のおよそ25%に相当し、小脳卒中体積を有し、脳卒中が対象の皮質側頭部において発生しなかった対象を含み、グラフ上のポイントP4は集団のおよそ31%に相当し、小脳卒中体積を有し、脳卒中が皮質頭頂部においても皮質側頭部においても発生しなかった対象を含み、グラフ上のポイントP5は集団のおよそ47%に相当し、小脳卒中体積(脳卒中位置にかかわらず)を有する全ての研究対象を含み、グラフ上のポイントP6は集団のおよそ51%に相当し、脳卒中が対象の皮質頭頂部において発生しなかった全ての研究対象を含み、グラフ上のポイントP7は集団のおよそ63%に相当し、脳卒中が対象の皮質下白質において少なくとも部分的に発生した全ての研究対象を含み、グラフ上のポイントP8は集団のおよそ79%に相当し、180分未満で処理された細胞(短い細胞処理時間と考えられる)を投与された全ての研究対象を含み、グラフ上のポイントP9は集団のおよそ97%(本質的に、研究集団全体)に相当する。
【0165】
図6及び図7は、ポイントP5(小脳卒中体積)及びP6(皮質頭頂部における脳卒中なし)により表される集団区分が、デルタ複合応答率を含む応答率が全研究集団の50%近くから算出され、両方のデルタ複合応答率が統計上有意である、ただ2つの集団区分であったことを示す。
【0166】
皮質頭頂部における脳卒中を有しない83名の対象のうちの55名が小体積の脳卒中も有していたことから、P5(小脳卒中体積)及びP6(皮質頭頂部における脳卒中なし)集団の間に注目すべき重複が存在することも留意されるべきである。
【0167】
48週時点での複合応答者の進行
W24複合応答者であった対象が、24週間後(すなわち、48週時点又はW48)にも能力障害スコアの改善を示したかどうかを確立するために、集団全体、及び小脳卒中体積(虚血中心部体積50cc未満)を有する亜集団について、mRS CFBについてのW48時点での治験データも解析した。
【0168】
以下のTable10及び11(表10及び11)は、集団全体及び小脳卒中体積亜集団、それぞれについてのW48 mRS変化を示す。対象のmRSの減少が、対象の能力障害の度合又は能力障害レベルの改善であることに留意することが重要である。
【0169】
【表10】
【0170】
【表11】
【0171】
上記Table10及び11(表10及び11)に示されるように、小脳卒中体積(虚血中心部体積50cc未満)亜集団の複合応答者は、集団全体よりも、48週時点で良好なデルタmRS CFBを呈した。対象の運動応答の改善は対象の能力障害の改善に不可欠である(これは「リードラグ効果」として知られる)ため、結果は、リードラグ効果が48週時点で集団全体及び小脳卒中体積亜集団の両方の複合応答者に存在し、効果が小脳卒中体積亜集団の複合応答者でより顕著であることを示す。
【0172】
複数の実施形態が記載されている。それにもかかわらず、実施形態の趣旨及び範囲から逸脱することなく、各種変化及び改変が本開示に対してなされてよいことが当業者により理解されるはずである。任意の実施形態により示される機構、機器、装置、及び方法の要素は、特定の実施形態について例示的であり、本開示内の他の実施形態と組み合わせて、又は他の実施形態に対して別様に使用可能である。例えば、図において図示されるか又は本開示において記載される任意の方法についての工程は、所望の結果を達成するために示されたか又は記載された特定の順序又は一連の順序を必要としない。更に、他の工程作業が与えられてもよく、工程又は作業が、所望の結果を達成するために記載される方法又は工程から削除又は省略されてもよい。更に、本開示において記載されるか又は図において図示される任意の装置又は機構の任意の成分又は部分が、所望の結果を達成するために、除去、削除、又は省略されてもよい。更に、本明細書で示されるか又は記載される機構、機器、又は装置の特定の成分又は部分が、簡潔さ及び明瞭さのために省略されている。
【0173】
したがって、他の実施形態は以下のクレームの範囲内であり、本明細書及び/又は図は、限定的な意味ではなく例示的な意味で考えられてよい。
【0174】
本明細書に記載されかつ示される個々の変化形態又は実施形態のうちの各々は、他の変化形態又は実施形態のいずれかの特質と容易に分離されうるか又は組み合わされうる個別的な成分及び特質を有する。特定の状況、物質、組成物、方法、方法操作又は工程を、本発明の目的、趣旨又は範囲に適合させるために、改変がなされてもよい。
【0175】
本明細書で列挙される方法は、出来事の列挙される順序だけでなく、論理的に可能な、列挙される出来事の任意の順序で行われてもよい。更に、所望の結果を達成するため、更なる工程又は作業が与えられてもよく、工程又は作業が削除されてもよい。
【0176】
更に、値の範囲が与えられる場合、その範囲の上限及び下限の間に介在する各値、並びにその明記される範囲の明記されるか又は介在する任意の他の値が、本発明内に包含される。また、記載される本発明の変化形態の任意選択の特質が、独立的に示され請求権を主張されてもよく、本明細書で記載される特質のうちの任意の1つ又は複数と組み合わされてもよい。例えば、1~5の範囲の記載は、1~3、1~4、2~4、2~5、3~5等の開示される部分範囲、及びその範囲内の個々の数、例えば1.5、2.5等及びその間の任意の全体又は部分増加分を有すると考えられるべきである。
【0177】
本明細書で言及される全ての既存の主題(例えば、出版物、特許、特許出願)が、主題が本発明の主題と矛盾する可能性がある場合(本明細書に存在するものが優先される場合)を除いて、その全体にわたって本明細書に参照により組み込まれる。参照された項目は、本出願の申請日前にそれらを開示するためだけに提供される。本明細書におけるいずれも、本発明が、先行発明によりそのようなものに先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。
【0178】
単一の項目への言及は、同じ項目の複数が存在する可能性を含む。より具体的には、本明細書及び添付のクレームで使用される場合、単数形「a」、「an」、「前記」及び「the」は、文脈が別途明確に規定しない限り、複数の指示対象を含む。クレームが、任意選択の要素を除外するように起草される可能性があることが更に留意される。ゆえに、この記述は、クレーム要素の列挙に関連して「単独で」、「~のみ」及び同様のもの等の排他的な専門用語の使用、又は「否定的」限定の使用についての先行詞として機能することを意図される。別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術及び科学用語は、本発明が属する分野の技術者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0179】
句「のうちの少なくとも1つ」への言及は、そのような句が複数の項目若しくは成分(又は項目若しくは成分の列挙されたリスト)を修飾する場合、それらの項目又は成分のうちの1つ又は複数の任意の組み合わせを意味する。例えば、句「A、B、及びCのうちの少なくとも1つ」は、(i)A、(ii)B、(iii)C、(iv)A、B、及びC、(v)A及びB、(vi)B及びC、又は(vii)A及びCを意味する。
【0180】
本開示の範囲を理解するにあたって、用語「を含む」及びその派生語は、本明細書で使用される場合、明記される特質、要素、成分、群、整数、及び/又は工程の存在を指定するが、他の明記されていない特質、要素、成分、群、整数及び/又は工程の存在を除外しないオープンエンドな用語であることを意図される。前述のことは、用語「を含む」、「を有する」及びそれらの派生語等と同様の意味を有する語にも適用される。また、用語「部分」「セクション」、「一部」、「部材」「要素」、又は「成分」は、単数形で使用される場合、単数の部分又は複数の部分の二重の意味を有しうる。本明細書で使用される場合、以下の方向を示す用語「前方の、後方の、上方の、下方の、垂直の、水平の、下に、横の、横に、及び垂直に」及び任意の他の同様の方向を示す用語は、機器若しくは設備の一部の位置、又は移されるか若しくは移動される機器若しくは設備の一部の方向を指す。
【0181】
最後に、「実質的に」、「約」及び「およそ」等の度合の用語は、本明細書で使用される場合、指定される値、又は指定される値及び指定される値からの妥当な量のずれ(例えば、最大±0.1%、±1%、±5%、又は±10%のずれ、そのような変動が適切であれば)を意味し、その結果、最終結果は顕著に又は実質的に変化しない。例えば、「約1.0cm」は、「1.0cm」又は「0.9cm~1.1cm」を意味すると解釈されてよい。「約」又は「およそ」等の度合の用語が、範囲の一部である数又は値を指すのに使用される場合、用語は、最小及び最大の数又は値の両方を修飾するのに使用されてよい。
【0182】
本開示は、示される特定の形態の範囲に限定されることを意図されないが、本明細書で記載される変化形態又は実施形態の代替、改変、及び同等物を対象として含むことを意図される。更に、本開示の範囲は、本開示を考慮すると当業者にとって明らかとなりうる他の変化形態又は実施形態を完全に包含する。
(参考文献)
【符号の説明】
【0183】
100 方法
102 作業
104 作業
106 作業
200 虚血中心部
202 虚血性ペナンブラ
204 沈着部位
206A 第1の沈着軌跡
206B 第2の沈着軌跡
206C 第3の沈着軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-01-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小体積虚血性脳卒中を治療するための組成物であって、
ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、治療有効量の細胞、及び
薬学的に許容される担体又は希釈剤
を含む、組成物。
【請求項2】
細胞が、
間葉系幹細胞の培養物を用意する工程、
間葉系幹細胞の培養物を、NICDをコードするポリヌクレオチドと接触させる工程であって、ポリヌクレオチドが全長ノッチタンパク質をコードしない、工程
ポリヌクレオチドを含む細胞を選択する工程、及び
ポリヌクレオチドの選択の非存在下で、選択された細胞を更に培養する工程
を含む方法により作製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
間葉系幹細胞が、NICDをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドにより一過性トランスフェクトされている、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
治療有効量の細胞がおよそ250万個の細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液であり、細胞懸濁液が、体積およそ0.3mLであり、細胞濃度およそ8.5*106細胞/mLを有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
治療有効量の細胞がおよそ500万個の細胞である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
密封されたバイアル中にパッケージングされた細胞懸濁液であり、細胞懸濁液が、体積およそ0.3mLであり、細胞濃度およそ17.0*106細胞/mLを有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、
対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
使用。
【請求項9】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積50立方センチメートル(cc)未満を有する虚血中心部である、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
小体積の虚血中心部が、虚血中心部体積約2cc~50ccを有する虚血中心部である、請求項8に記載の使用。
【請求項11】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項8に記載の使用。
【請求項12】
治療有効量の細胞を投与する工程が、小体積の虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し遠位の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項8に記載の使用。
【請求項13】
小体積の虚血中心部が、頭頂部以外の、対象の脳の領域に位置する、請求項8に記載の使用。
【請求項14】
小体積の虚血中心部の少なくとも一部が、対象の脳の皮質前頭部、皮質側頭部、皮質下白質、及び皮質下灰白質のうちの少なくとも1つに位置する、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療するための医薬の製造における細胞の使用であって、
対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び
虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
使用。
【請求項16】
虚血中心部の体積が約2cc~50ccである場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を更に含む、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラの外周部における1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項15に記載の使用。
【請求項18】
治療有効量の細胞を投与する工程が、虚血中心部を取り囲む慢性ペナンブラに対し近位の又は慢性ペナンブラ内の1つ又は複数の沈着部位に、細胞を含む細胞懸濁液の少なくとも一部を注射する工程を更に含む、請求項15に記載の使用。
【請求項19】
対象が罹患した小体積虚血性脳卒中後に対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞を含む組成物であって、方法が、対象の小体積の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程を含む、組成物
【請求項20】
脳卒中誘導性の運動障害を有する対象を治療する方法における使用のための、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する細胞を含む組成物であって、方法が、
対象の虚血中心部の体積を決定する工程、及び
虚血中心部の体積が50立方センチメートル(cc)未満であると決定された場合にのみ、対象の虚血中心部を取り囲む脳領域に治療有効量の細胞を投与する工程
を含み、
細胞が、ノッチ細胞内ドメイン(NICD)をコードするポリヌクレオチドにより一過性トランスフェクトされた間葉系幹細胞に由来する、
組成物
【国際調査報告】