(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】シリコン-カーボン複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/029 20060101AFI20240528BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240528BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240528BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C01B33/029
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573357
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2022063683
(87)【国際公開番号】W WO2022248347
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523446561
【氏名又は名称】アンワイヤー
【氏名又は名称原語表記】ENWIRES
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ブルチャーク・オルガ
(72)【発明者】
【氏名】ラセグ・ピエール
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA50
4G072BB05
4G072BB20
4G072DD06
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH04
4G072JJ02
4G072JJ09
4G072LL02
4G072MM01
4G072NN13
4G072RR11
4G072UU30
5H050AA07
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050CB11
5H050EA08
5H050FA17
5H050GA02
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】シリコン-カーボン複合材料を高い収率で回収でき、生産規模の拡大にも適用できる製造方法を提供する。
【解決手段】
長手方向軸回りに回転可能な管状チャンバを備えた反応器を使用し、シリコン-カーボン複合材料を製造する方法において、
(1)管状チャンバに、カーボン担体を含み、任意で、さらに、触媒を含むカーボン系材料を供給する工程と、
(2)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×105Pa以上の圧力の熱処理を施す工程と、
(6)得られた生成物を回収する工程と、
を含む方法とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン-シリコン複合材料を製造する方法であって、
長手方向軸(X-X)回りに回転可能な管状チャンバを備える反応器の、
前記管状チャンバ内で製造を行う方法において、
(1)前記管状チャンバに、カーボン担体と、任意でさらに触媒とを含むカーボン系材料を少なくとも導入する工程と、
(2)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×10
5Pa以上の圧力で熱処理を施す工程と、
(6)得られた生成物を回収する工程と、
を含む方法。
但し、前記工程(3)は、工程(1)の前または後、工程(2)の前または後の、いずれの段階で開始してもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、工程(5)の圧力が、1.05×10
5~10
6Paである、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、工程(5)の温度が、350℃~850℃の範囲である、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記カーボン系材料が、黒鉛、グラフェンおよびカーボンから、好ましくは、平均粒径0.01~50μmの黒鉛粉末から選択される、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法において、前記カーボン系材料が、その表面に触媒粒子を保持する、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法において、前記触媒が、金属、二元系金属化合物、金属酸化物、金属窒化物、金属塩および金属硫化物から選択される、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法において、前記反応性シリコン含有混合ガス流が、少なくとも、反応性シリコン種およびキャリアガスを含む、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、前記反応性シリコン種がシラン化合物から選択され、好ましくは、前記反応性シリコン種がシラン(SiH
4)である、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、前記カーボン担体を含み、任意で、さらに、前記触媒を含む前記カーボン系材料の、前記管状チャンバの容積を基準とした体積比が、10%~60%、より好ましくは20%~50%、なお好ましくは30%~50%である、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、工程(5)の、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量が、0.1~50SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5~40SLMの範囲である、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法において、前記管状チャンバの回転速度が、1~40RPM(回転毎分)の範囲である、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法において、工程(6)の後に、さらに、
(1’)未処理のカーボン系材料を前記管状チャンバに再投入する工程と、
(2’)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3’)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4’)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5’)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×10
5Pa以上の圧力の熱処理を施す工程と、
(6’)得られた生成物を回収する工程とを、
少なくとも1サイクル行う、方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の方法において、シリコン-カーボン複合材料が、カーボン系材料およびナノメートル大のシリコン材料を含有し、好ましくは、前記ナノメートル大のシリコン材料が、ナノワイヤまたはナノアイランド、さらに好ましくは、ナノワイヤである、方法。
【請求項14】
集電体を含む電極を製造する方法であって、
(i)請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実施し、カーボン-シリコン複合材料を調製する工程と、
(ii)電極活物質として、前記カーボン-シリコン複合材料を含む組成物で、前記集電体の少なくとも一方の表面を被覆する工程と、
を備える、方法。
【請求項15】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを具備した、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子を製造する方法であって、
請求項14に記載の方法を実施し、少なくとも一方の電極、好ましくは、前記負極を形成する工程、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転型反応器の管状チャンバ内で大気圧を超える圧力で実施される、カーボン系材料及びシリコンナノ材料(特に、ナノワイヤまたはナノアイランド)を含有したカーボン-シリコン複合材料の製造方法に関する。本発明は、また、リチウムイオン電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)技術のエネルギー貯蔵能力は、1991年に市場投入されて以降、上昇を続けている。しかしながら、次世代のLIBには、所定の電池体積におけるエネルギー密度(kWh/L)のさらなる向上やさらなる低価格化($/KWh)が、特に、電気車両の用途で要求されている。現行の電池活物質(負極部と正極部の両方)は既に理論的な限界に達しており、電池製造業者は、市場の要求に応えるために、より高効率な材料を所望している。
【0003】
今日では、黒鉛が、ほぼ唯一無二の負極材料として使用されているが、他のどの構成要素よりも多くの空間を占有することから、電池の弱点となっている。過去二十年の間に、蓄電容量を向上させる負極材料が幾つか開発されてきた。なかでも、シリコン(Si)は、黒鉛の10倍近いエネルギー貯蔵を可能にすることから、新規の負極材料として最も有望な候補となっている。シリコンは、理論比容量が高い反面、体積膨張が大きく、リチウム挿入やリチウム脱離時の安定性に乏しい。
【0004】
シリコンナノワイヤ(SiNW)は、完璧な歪み・体積順応性を有することから、比容量及びサイクル寿命の面でLIBの負極材料の優れた候補である。Cui et al., Nature Nanotechnology, 2008, 31-35(非特許文献1)には、集電体に直接成長させたシリコンナノワイヤを用いた高性能リチウム電池用負極が開示されている。ただし、この新たな電極技術を現行の電池製造ラインに合わせようとすると、電池製造業者に多大な負担を強いることになる。これに対し、シリコンナノワイヤと黒鉛/カーボンの併用は、完全な「ドロップインソリューション(簡易解決法)」として望ましい戦略の一つとなり得る。このような複合材料を許容可能な価格で工業的に製造することが、電池市場にとって重要な課題となる。
【0005】
各種SiNW製造技術は、主に、ボトムアップ(単体シリコンからのナノワイヤ成長)とトップダウン(バルクシリコンのエッチング)の2種類の合成法に大別される。トップダウン法は、原料シリコンの多くが廃棄されるほか、有害化学物質の使用が避けられないという特徴がある。ボトムアップ法は、一般的に化学気相成長法(CVD)に基づいたものであり、高品質のナノワイヤを製造することができる。
【0006】
SiNW成長用の現行の「固定床」CVD機器では、金属ナノシードで修飾された2次元的表面と前駆体ガスに限られた接触しか起こらず、少量しか製造することができないので、市場の要求に応えるには不十分である。
【0007】
縦型の「流動床」CVD反応器でSiNWを合成することにより、3次元で接触面を増加させるという試みが幾つかなされている(例えば、米国特許出願公開第2011/309306号明細書(特許文献1)等)。残念なことに、古典的な「流動床」CVD反応器は、1)製造規模が拡大すると体積生産性(生成物の質量/反応器の容積)が低下するほか、2)極めて大量の反応ガス/キャリアガス及び複合材料を取り扱うことになり、ナノサイズやミクロサイズの物質とガスとの分離を工業的規模で行うためコストが高騰し、経済性や技術的な実現可能性が極めて限定的なものになることが分かっている。
【0008】
国際公開第2018/013991号(特許文献2)には、バッチモードでも半連続モードでも使用できる機械式の回転型の流動床反応器で、カーボン-SiNW複合材料を製造する製法が開示されている。この製法は、カーボン系材料で充填されたタンブラの使用に基づく方法であり、低圧下で実施される。この製法では、Siを32質量%まで含有する物質が、キログラム規模で得られる。この製法の欠陥として、CVDチャンバの反応ゾーンがタンブラの小さなサイズにより制約される点や、タンブラの接続や制御にレール、ガス流入部、ガス流出部、歯車機構及び圧力調整装置が必要なため技術的、プロセス的、および経済的な観点から見て複雑な装置になる点といった、いくつかの大きな制約がある。この機構にはサイクロンが装備されて、風篩で粒径5μmよりも大きな粒子を捕集するようになっており、そのため、この製法に使用することのできる粉末の範囲は限られている。
【0009】
近年、カーボン-SiNW複合材料の別の製法例が報告された(Energy&Fuels, 2021, 35, 2758-2765(非特許文献2))。その著者達は、簡単な回転式加熱炉を用いて、クロロメチルシランと黒鉛粉末からSiNW/黒鉛の複合材料を製造する可能性を示した。報告された条件下では、反応時にシリコン/黒鉛の複合材料の大部分が失われる。収率が低いことに加え、ガスラインの排気部に気体固体分離装置(フィルターやサイクロン)が必要となる点が、この製法を工業化する上で不都合である。
【0010】
国際公開第2013/016339号(特許文献3)には、銅系の触媒材料によりナノ構造体、特に、シリコンNWを製造する方法が開示されている。混合又は攪拌下で、圧力を制御しながら、反応が実施され得る。圧力は、極めて低くすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/309306号明細書
【特許文献2】国際公開第2018/013991号
【特許文献3】国際公開第2013/016339号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cui et al., High-performance lithium battery anodes using silicon nanowires. Nature Nanotechnology, 2008, 31-35
【非特許文献2】Liu, B.; Huang, P.; Xie, Z.; Huang, Q. Large-Scale Production of a Silicon Nanowire/Graphite Composites Anode via the CVD Method for High-Performance Lithium-Ion Batteries. Energy Fuels 2021, 35, 2758-2765
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上から、リチウムイオン電池の負極活物質として使用される高性能のシリコン-黒鉛負極材料を高い収率で製造することができ、かつ、工業的規模で実施することが可能な、高効率の新規の方法についての需要が存在していた。
【0014】
既存の工業用反応器/機器を使用し、若干変更する程度で実施することが可能な方法についての需要が存在していた。
合成後の粉末類とガスを簡単に分離することのできる方法についての需要が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、エネルギー貯蔵用、すなわち、LIB用の、シリコンナノワイヤ-カーボン/黒鉛の複合材料の新規の製造方法について開陳する。該複合材料は、大規模/工業的規模で且つ優位な価格で製造が可能である。
【0016】
本発明の第1の構成は、カーボン-シリコン複合材料を製造する方法にあり、
当該方法は、反応器の管状チャンバ内で実施され、前記管状チャンバは、その長手方向軸(X-X)回りに回転可能であり、当該方法は、
(1)前記管状チャンバに、少なくとも、カーボン担体を含み、任意で、さらに触媒を含むカーボン系材料を導入する工程と
(2)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×105Pa以上の圧力で熱処理を施す工程と、
(6)得られた生成物を回収する工程と、
を含む方法である。
但し、前記工程(3)は、工程(1)の前または後、工程(2)の前または後のいずれの段階で開始してもよい。
【0017】
本発明の他の構成は、集電体を含む電極を製造する方法であって、当該方法は、
(i)上記開示の方法を実施して、カーボン-シリコン複合材料を調製する工程と、
(ii)前記集電体の少なくとも一方の表面を、前記カーボン-シリコン複合材料を活物質として含む組成物で被覆する工程と、
を備える方法である。
【0018】
他の態様において、本発明は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを具備した、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子を製造する方法に関し、当該方法は、
上記開示の方法を実施し、少なくとも一方の電極、好ましくは、前記負極を形成する工程、
を備える方法である。
【0019】
好適な一実施形態において、工程(5)の圧力は、1.05×105~106Paである。
好適な一実施形態において、工程(5)の温度は、350℃~850℃の範囲である。
【0020】
好適な一実施形態において、前記カーボン系材料は、黒鉛、グラフェンおよびカーボンから、好ましくは、平均粒径0.01~50μmの黒鉛粉末から選択される。
【0021】
好適な一実施形態において、前記カーボン系材料は、その表面に触媒粒子を保持する。
その実施形態の好適な一例において、前記触媒は、金属、二元系金属化合物、金属酸化物、金属窒化物、金属塩および金属硫化物から選択される。
【0022】
好適な一実施形態において、前記反応性シリコン含有混合ガス流は、少なくとも、反応性シリコン種およびキャリアガスを含む。
【0023】
好適な一実施形態において、前記反応性シリコン種はシラン化合物から選択され、好ましくは、前記反応性シリコン種がシラン(SiH4)である。
【0024】
好適な一実施形態において、前記カーボン担体を含み、任意で、さらに、前記触媒を含む前記カーボン系材料の、前記管状チャンバの容積を基準とする体積比が、10%~60%、より好ましくは20%~50%、なお好ましくは30%~50%である。
【0025】
好適な一実施形態において、工程(5)における、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量は、0.1~50SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5~40SLMの範囲である。
【0026】
一例において、工程(5)における、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量は、0.1~10SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5~5SLMの範囲である。
【0027】
好適な一実施形態において、前記管状チャンバの回転速度は、1~40RPM(回転毎分)の範囲である。
【0028】
好適な一実施形態において、前記管状チャンバの長手方向軸X-Xは、水平軸と0°~20°の範囲の角度をなす。
【0029】
好適な一実施形態において、前記方法は、さらに前記工程(6)の後に実施される、
(1’)未処理のカーボン系材料を前記管状チャンバに再投入する工程と、
(2’)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3’)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4’)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5’)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×105Pa以上の圧力の熱処理を施す工程と、
(6’)得られた生成物を回収する工程とを、
少なくとも1サイクル含む。
【0030】
好適な一実施形態において、前記シリコン-カーボン複合材料は、カーボン系材料およびナノメートル大のシリコン材料を含有する。
【0031】
好適な一実施形態において、ナノメートル大のシリコン材料は、ナノワイヤまたはナノアイランド、より好ましくは、ナノワイヤである。
【0032】
本発明に係る方法により、カーボン系担体および該カーボン系担体上に成長したシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤを含有した負極活物質が得られる。この物質は、さらに、前記カーボン系担体の表面および前記シリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤの表面に形成されたカーボン被覆層を含有していてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る方法には、数多くの利点がある:機械的な回転型の流動床反応器は、古典的なものよりも融通性に優れている。回転型の反応器では、熱や物質の移動を古典的な流動床構成よりも小さくすることにより、粒径30μm未満、さらには、5μm未満の粒子であっても良好な効率で化学気相成長反応に使用することができるようになる。固体の挙動は、カラム状部分の姿勢(水平、あるいは、傾斜)しだいでガス流の影響を受けなくなるか又は受け難くなって反応種の滞留時間が長くなり、ガス消費量が抑えられるほか気体固体分離装置も不要になるか又は省略可能となる。実際、この種の反応器では、微粉の発生が大幅に抑制される。高圧耐性に優れ、機構全体も複雑でないため、工業的生産への規模拡大も簡単である。本発明の発明者達は、大気圧を超える圧力で本方法を実施することにより、最終的な複合材料の化学収率が極めて高くなることを確認した。さらに、このような手順により、前記反応器の排気部で粒子や微粉を回収する必要性も低減する。
【0034】
本発明に係る方法により、カーボン系担体および該カーボン系担体上に堆積したシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤを含有した負極活物質が得られる。カーボン系担体上にシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤを直接成長させることにより、電池の充放電時のシリコン/カーボンの接触ロスを抑えることができる。この物質がカーボン系担体の表面およびシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤの表面に形成されたカーボン被覆層も有している場合には、このような追加の層によってカーボン系担体とシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤとの接合力が増加し、電池の性能をさらに向上することができる。
【0035】
本発明に係る方法には、機器の寸法に応じて、実験室規模(1日あたり最大1kg)でも、パイロット生産規模(1日あたり最大100kg)でも、工業生産規模(1日あたり数トン)でも実施できるという利点がある。
【0036】
本発明に係る方法により、カーボン系材料、好ましくは、黒鉛の表面にシリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤが均質に堆積してなる負極活物質を、工業的規模で且つ経済的に製造することが可能になる。シリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤが均質に堆積することにより、最終的なシリコン-カーボン複合材料、好ましくは、シリコン-黒鉛複合材料の導電率が向上する結果、二次電池のサイクル性も向上する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】回転型流動床反応器でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法の図式である。
【
図3】シリコン-カーボン複合材料の微細構造の製造例1(比較例)をナノメートルスケールで示した顕微鏡写真である。
【
図4】シリコン-カーボン複合材料の微細構造の製造例1(比較例)をミリメートルスケールで示した顕微鏡写真である。
【
図5】本発明に係る方法(製造例2)で得られたシリコン-カーボン複合材料の微細構造をナノメートルスケールで示した顕微鏡写真である。
【
図6】本発明に係る方法(製造例2)で得られたシリコン-カーボン複合材料の微細構造をミリメートルスケールで示した顕微鏡写真である。
【
図7】レーディゲ(Lodige)式の回転型流動床反応器の概略断面図である。
【
図8】レーディゲ式の回転型流動床反応器でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法の図式である。
【
図9】レーディゲ式の工業用回転型流動床反応器の一変形の概略断面図である。
【
図10】
図9に示すレーディゲ式の回転型流動床反応器の変形でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法の図式である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
「本質的に…(1つ以上の特徴)…からなる」という表現は、明記されている構成要素や工程以外に、本発明の性質や特性に大きな影響を及ぼさない構成要素や工程が本発明の方法や物質に含まれていてもよいことを意味する。
【0039】
「X~Y」という表現は、特に明記されていない限り、境界値を含むものとする。この表現は、対象となる範囲がXとYの値、さらに、XからYまでの全ての値を含んでいることを意味する。
【0040】
本発明の第1の構成は、化学気相成長法(CVD)に基づく方法を回転型の流動床反応器内で実施することによって、リチウムイオン電池の負極活物質として使用するのに適したシリコン-カーボン複合材料を製造する方法である。
【0041】
この方法で得られたシリコン-カーボン複合材料は、製造後そのままの状態で、あるいは、製造後に処理されてから、負極用のシリコン-カーボン複合材料として使用され得る。
【0042】
本発明は、シリコン系ナノ構造材料を製造する方法に関する。本発明は、キャリアガスと混合した反応性シリコン含有ガス種(以降、この混合物を反応性シリコン含有混合ガスと称する)の化学分解によって高温で得られる、ナノ構造シリコン材料及びカーボン系材料を含有したシリコン-カーボン複合材料の製造方法に関する。つまり、この方法は、化学気相成長法(CVD)の原理に基づくものである。
【0043】
本発明の意味において「ナノ構造材料」という用語は、凝結体の形態または凝集体の形態の単体粒子を含む材料であって、この材料の総重量を基準として5重量%以上、好ましくは10重量%以上の該粒子について、その1つ以上の外形寸法が1nm~100nmの範囲である材料のことを意味するものと理解されたい。
【0044】
「複合材料」とは、物理的特性又は化学的特性が大幅に異なる2種以上の構成材料からなる材料のことを指す。
【0045】
粒子の外形寸法は、任意の既知の方法、特には、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られた本発明に係る複合材料の写真の分析によって測定され得る。
【0046】
(カーボン系材料)
本発明に係る方法は、少なくとも1種のカーボン系材料を出発原料として使用する。
【0047】
有利には、カーボン系材料は、触媒が任意で結び付けられてなる「カーボン担体」または「カーボン系担体」からなる粉末の形態のマイクロメートル大のカーボンで構成されている。
【0048】
本発明において、カーボン系材料は、シリコンナノ材料、特に、シリコンナノアイランドまたはシリコンナノワイヤ、好ましくはシリコンナノワイヤを成長させる担体として用いられる。
【0049】
カーボン系担体は、黒鉛、グラフェン、カーボン、より具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブもしくはアモルファスカーボン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、膨張黒鉛、グラフェン、またはこれらの2種以上の混合物からなる群から選択される任意の材料であってもよい。
【0050】
本発明には、黒鉛製造(粉砕工程や丸め工程)の副産物である超微細黒鉛粉末をカーボン系担体として使用できるという利点がある。実際に、回転チャンバ型反応器はこのような材料の使用に適している。これは、5μm未満の粒子が反応チャンバに導入されると動作が困難になる、フィルタ及び/又はサイクロンを装備した他種の反応器と対照的である。
【0051】
好ましくは、カーボン担体の物質は、本質的に天然黒鉛又は人造黒鉛で構成され、より好ましくは、天然黒鉛又は人造黒鉛のみで構成される。
【0052】
好ましくは、カーボン担体の全質量を基準として、カーボン担体の75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、なお好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、有利には99質量%以上が、黒鉛で構成されている。
【0053】
好ましくは、カーボン担体はマイクロメートルスケールである。有利には、カーボン担体は、平均粒径が0.01~50μm、好ましくは0.05~40μm、さらに好ましくは0.1~30μm、有利には0.1~20μmである。例えば、カーボン担体の平均粒径は、レーザ回折法を用いて測定され得る。
【0054】
好ましくは、カーボン担体は、粒子、粒子凝集体、非凝集フレークまたは凝集フレークの形をとる。
【0055】
有利には、カーボン担体は、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)比表面積が1~100m2/gの範囲、より好ましくは3~70m2/gの範囲、さらに好ましくは5~50m2/gの範囲である。
【0056】
好適な一例において、カーボン系材料は、その表面に触媒粒子を保持する。触媒が存在する場合、さらに有利には、カーボン系材料の表面がナノメートル大の触媒粒子又はその前駆体で一様に飾り付けられている。
【0057】
(触媒)
本発明に係る方法は、触媒有りでも触媒なしでも実施され得る。
【0058】
好適な一例において、本発明に係る方法は、反応器の回転チャンバに少なくとも1種の触媒を導入する。
【0059】
触媒の機能は、カーボン担体の表面に成長箇所を形成させることである。
【0060】
好ましくは、この例の触媒は、金属、二元系金属化合物、金属酸化物、金属窒化物、金属塩、金属硫化物および有機金属化合物から選択される。
【0061】
金属触媒としては、金(Au)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)、錫(Sn)、鉄(Fe)、インジウム(In)、アルミニウム(Al)、マンガン(Mn)、イリジウム(Ir)、銀(Ag)、銅(Cu)、カルシウム(Ca)、およびこれらの混合物を挙げることができる。
【0062】
二元系金属化合物としては、マンガン白金(MnPt3)または鉄白金(FePt)を挙げることができる。
金属硫化物としては、硫化錫(SnS)を挙げることができる。
金属酸化物としては、酸化第二鉄(Fe2O3)および酸化錫(SnO2-x)(0≦x<2)を挙げることができる。
より好ましくは、この例の触媒は、金属および金属酸化物から選択される。
【0063】
触媒が存在する場合、好ましくは、該触媒が金(Au)、錫(Sn)および二酸化錫(SnO2)から選択される。
触媒が存在する場合、有利には、該触媒が二酸化錫(SnO2)である。
好ましくは、この例の触媒は粒子の形態、より好ましくはナノ粒子の形をとる。
【0064】
好ましくは、この例の触媒ナノ粒子は、最長サイズが1nm~100nm、より好ましくは1nm~50nm、なお好ましくは5nm~30nmの範囲である。
【0065】
触媒ナノ粒子が存在する場合、有利には、該触媒ナノ粒子が球状である。
好適な一実施形態において、触媒は、粒径が1~30nm、好ましくは5nm~30nmの範囲のナノメートル大の球状粒子の形をとる。
【0066】
本発明に係る方法で使用され得る金ナノ粒子は、例えば、M. Brust et al., J. Chemical Society, Chemical Communications, 7(7) :801-802, 1994に開示されているように調製される。
【0067】
好ましくは、触媒を構成する金属は、薄い金属層の形態で導入されている。本方法が開始されると、該金属層は、熱の作用で液化して液体金属の液滴を形成することで担体から分離する。また、この金属は、成長基材を被覆する金属塩層の形態で導入されていてもよい。成長工程が始まると、この金属塩層は、例えば水素ガス(H2)等の還元性ガスの作用で還元される。
【0068】
この金属は、有機金属化合物の形態で導入されていてもよい。この化合物は、粒子成長時に分解してカーボン担体上にナノ粒子又は滴状物の形態の金属を析出させる。
【0069】
この例において、触媒ナノ粒子は、カーボン担体の表面上に分散していることが好ましい。
触媒とカーボン担体は、接触していてもよく接触していなくてもよい。
【0070】
好ましい一実施形態において、カーボン担体と触媒は、反応器への導入に先立って結合されている。
【0071】
本発明の目的上「結合されている」という表現は、カーボン担体の表面の少なくとも一部に触媒の少なくとも一部を付着又は堆積させることに相当する結合工程が、カーボン担体および触媒に既に施されていることを意味する。すなわち、触媒の少なくとも一部が、例えば物理的接合、吸着等によってカーボン担体の表面に連結している。
【0072】
好ましくは、この例の触媒とカーボン担体は、質量比(触媒/カーボン担体)にして、0.01~1、より好ましくは0.02~0.5、なお好ましくは0.05~0.1の範囲で使用される。
【0073】
触媒をカーボン担体に結び付けることにより、カーボン担体の表面上に、複数の粒子成長箇所を形成させることができる。
他の例では、本発明に係る方法が、触媒なしで実施される。
【0074】
(シリコンナノ材料、特に、ナノワイヤの前駆体組成物)
本発明に係る方法は、ナノメートル大のシリコン材料の前駆体組成物(「反応性シリコン含有ガス種」とする)、好ましくはシリコンナノアイランド又はナノワイヤの前駆体組成物、さらに好ましくはシリコンナノワイヤの前駆体組成物を、回転する流動床反応器に導入する。
【0075】
シリコン粒子の前駆体組成物は、シリコンナノ材料、特に、シリコンナノワイヤの、少なくとも1種の前駆体化合物を含む。
【0076】
「ナノメートル大のシリコン材料の前駆体化合物」や「シリコンナノ材料の前駆体化合物」とは、本発明に係る方法の実施によってカーボン担体の物質の表面上にナノメートル大のシリコン材料を形成することが可能な化合物のことを指す。
【0077】
「シリコンナノアイランド又はナノワイヤの前駆体化合物」とは、本発明に係る方法の実施によってカーボン担体の物質の表面上にシリコンナノアイランド又はナノワイヤを形成することが可能な化合物のことを指す。
【0078】
好ましくは、前駆体化合物は、キャリアガスと混合された(反応性シリコン含有混合ガスを構成する)反応性シリコン含有ガス種の形をとる。
【0079】
好ましくは、ナノメートル大のシリコン材料(特には、シリコンナノワイヤ)の前駆体化合物(すなわち、「反応性シリコン含有ガス種」)は、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である。
【0080】
本発明の目的上「シラン化合物」という用語は、次の式(I)で示される化合物を示す。
R1-(SiR2R3)n-R4 (I)
式中、nは、1~10の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、C1-C15アルキル基、C6-C12アリール基、C7-C20アラルキル基および塩化物から選択される。
の化合物のことを指す。
【0081】
この実施形態のシリコン含有ガス種は、式(I)の化合物の中でも、
nが1~5の整数であり、
R1、R2、R3およびR4が、互いに独立して、水素、C1-C3アルキル基、フェニル、および塩化物から選択される、
化合物から選ばれることが好ましい。
【0082】
さらに好ましくは、nが1~3の整数であり、R1、R2、R3およびR4が互いに独立して水素、メチル、フェニルおよび塩化物から選択される。
【0083】
好ましくは、この実施形態の反応性シリコン含有ガス種は、シラン、ジシラン、トリシラン、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランまたはこれらの混合物から選択される。
好ましい一実施形態において、反応性シリコン含有ガス種は、シラン(SiH4)である。
【0084】
最も好ましい実施形態において、反応性シリコン含有ガス種は、ナノメートル大のシリコン材料、特には、シリコンナノワイヤの、1種以上の前駆体化合物から本質的に構成されており、より良くは、該1種以上の前駆体化合物のみで構成されている。
【0085】
好ましい一実施形態において、反応性シリコン含有ガス種は、キャリアガスと混合した状態で反応器に導入される。
【0086】
(反応性シリコン含有混合ガス)
シリコン材料は、反応性シリコン含有ガス種の高温での化学分解によって得られるが、そのガス種は、キャリアガスと混合した状態であってもよい。以降、この混合物を「反応性シリコン含有混合ガス」と称する。
【0087】
「キャリアガス」とは、還元性ガス、不活性ガスまたはこれらの混合物から選択されるガスのことを指す。
好ましくは、還元性ガスは、水素(H2)である。
好ましくは、不活性ガスは、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)またはこれらの混合物から選択される。
【0088】
好ましくは、還元性ガス及び不活性ガスで構成されるキャリアガス組成物は、0~99体積%の還元性ガス、より好ましくは20~99体積%の還元性ガスを含む。
【0089】
好ましい一実施形態において、シリコン含有混合ガスは、0.5体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは50体積%以上、なお好ましくは100体積%がシリコン含有ガス種である。
【0090】
本方法の工程(2)で使用されるキャリアガスは、工程(5)でシリコン含有ガス種と混合して使用されるキャリアガスと同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0091】
シリコン含有ガス種とキャリアガスの比率は、本方法の各工程で異なるレベルに調節されてもよい。
【0092】
(回転型流動床反応器)
前述並びに後述の回転型流動床反応器は、加熱炉により加熱される管状チャンバで少なくとも構成されており、該管状チャンバにカーボン系材料が投入される。反応器には、回転機構が組み込まれている。反応器は、2つの管状チャンバを備えていてもよい。管状チャンバは、傾斜させることができる。反応器は、さらに、生成物供給機構および生成物排出機構を備え、シリコン-カーボン複合材料の半連続的な製造を可能にする。回転型流動床反応器は、例えばニードルバルブ、圧力コントローラ等のような反応器圧力制御装置を有する。
【0093】
機械式流動床反応器は、古典的な流動床反応器とは異なり、ガスを流すこと以外に、反応器をその長手方向軸に沿って回転させることで粉末床を流動化させるという外的動作を利用する。典型的な機械式流動床反応器としては、管状チャンバの回転によって流動化を引き起こすレーディゲ(L〇dige:〇はウムラウト付きのオー)式の回転型流動床反応器が挙げられる。
【0094】
本発明に係る方法の利点の一つは、レーディゲ式の回転型流動床反応器に基づく化学気相成長法(CVD)によるカーボン-シリコン複合材料の製造規模を、工業的規模に拡大できるという点である。
【0095】
[流動床反応器-バッチモード]
図1に、回転型流動床反応器の装置を示す。この反応器は、中心の長手方向軸X-Xに沿って延びる石英製の管状チャンバ106で構成されている。チャンバ106は、加熱炉107によって取り囲まれて加熱される。該加熱炉は、抵抗加熱、誘導加熱または赤外線ランプで加熱される。カーボン粉末材料108が投入されると、チャンバ106は、その両端にある2つのフランジ103,109で閉じられる。各フランジは軸受機構104,110上に位置している。軸受機構104は、モータ105に接続しており、モータ105は、軸受機構104を介してチャンバ106を長手方向軸X-X回りに回転させることができる。
【0096】
回転型流動床反応器は、チャンバ106の一方の端部(チャンバ106の入口とも呼ぶ)にキャリアガス流入部101を有し、かつ、チャンバ106のキャリアガス流入部101と同じ端部に反応性シリコン含有混合ガス流入部102を有する。チャンバ106の反対側の端部(チャンバ106の出口とも呼ぶ)には、管状のガス冷却装置111、および反応器の圧力の完全制御のためのニードルバルブ112が存在している。ニードルバルブ112と管状のガス冷却装置111の間には、バルブ保護と微粉/シラン副生成物回収のための二重槽の液体トラップ114a,114bが設けられており、一方の容器114aには油が溜められている。ニードルバルブ112の出口には、全ガス流出部113が設けられている。チャンバ106の前記出口には圧力計115が設けられていて、反応器の圧力を計測する。
図1では、温度、キャリアガス流量、反応性シリコン含有混合ガス流量、回転速度といったプロセスパラメータを監視する反応器制御装置の図示は省略している。
【0097】
[連続モードの反応器]
図7に、レーディゲ式の工業用回転型流動床反応器を示す。該反応器は、中心の長手方向軸X-Xに沿って延びる管状のチャンバ701で構成されている。チャンバ701は、シングルゾーン又はマルチゾーン加熱炉702によって取り囲まれて加熱される。該加熱炉は、抵抗加熱、誘導加熱または赤外線ランプで加熱される。管状チャンバ701は、該チャンバ701の両端にある少なくとも2つの境界機構703によって閉じられる。生成物供給機構705により、チャンバ701の一方の端部でカーボン材料704が投入される。モータ706は、境界機構703が動かない状態のままチャンバ701を回転させることができる。加熱炉702は、装置支持部707に固定されたままの状態である。
【0098】
レーディゲ式の回転型流動床反応器は、傾斜機構708によって傾斜させることができる。好ましくは、水平面との反応器の長手方向軸X-Xの傾斜角度αは20°以下である。傾斜機構708により、カーボン系材料を、生成物供給機構705からチャンバ701の反対側の端部に位置した生成物排出機構709へと回転速度および傾斜角度に応じた速度で滑り落とすことが可能である。
【0099】
レーディゲ式の回転型流動床反応器は、キャリアガス流入部710、少なくとも1つの反応性シリコン含有混合ガス流入部711、および不活性ガス流入部712を有し、これら3種類は、いずれも、生成物供給機構705とは反対側のチャンバ701の端部に位置している。反応器は、さらに、生成物供給機構705と同じ端部に位置した全ガス流出部713を有する。これらのガス流入部および流出部は、対応する機構で予熱されてもよい。また、これらのガス流入部および流出部は、バルブ714,718を組み込んだものであってもよい。全ガス流出部713のバルブ718は、反応器の圧力の制御を可能にし、かつ、使用される反応性シリコン含有ガス源の数に応じて、少なくとも1つの反応性シリコン含有ガス検出器715により管理することができる。圧力計719は、反応器の圧力を示す。
【0100】
ガス安全タンク717は、境界機構703に位置した破裂板式安全機構716を介して管状チャンバ701に接続されている。破裂板式安全機構716は、圧力センサ(図示せず)が組み込まれたものであってもよい。反応性シリコン含有混合ガス流入部711のバルブ714は、破裂板式安全機構716のその圧力センサによって安全性とプロセス効率・プロセス自在性の双方の目的で制御できる。実際に、管状チャンバ701内のシリコン含有ガス種の圧力を上げることにより、シリコン材料の成長、つまり、その構造の制御が可能になる。
図7では、温度、キャリアガス流量、反応性シリコン含有混合ガス流量、傾斜角度、回転速度といったプロセスパラメータを監視する反応器制御装置、および生成物収集タンクの図示を省略している。
【0101】
生成物供給機構705は、供給用エンドレススクリュー機構、分注機構、または漏斗型機構であってもよい。生成物排出機構709についても同様である。後者は、冷却機構を具備したものであってもよい。
【0102】
管状回転チャンバ701および/またはプロセス支持部707および/または境界機構703には、製造運転の複雑性に応じて、さらなる装置が組み込まれ得る。このような装置としては、熱電対、圧力センサ、光学系、密封機構、サンプリング機構、さらには、ガス又は生成物の制御のための分析装置が挙げられる。
【0103】
管状回転チャンバ701は、固定フィン、可動ロッド、可動ボールなどの内部構造を具備してもよい。フィンの幾何形状、レイアウトおよび数、ならびにロッドやボールのサイズおよび数は、カーボン系材料の粉末704の物理的特性に応じたものとされる。
【0104】
本発明に係る方法の利点の一つとして、機械式の流動床反応器により、古典的な流動床反応器に比べて製造規模を工業的な規模に容易に拡大できるという点が挙げられる。古典的な流動床反応器では処理が難しい粒径30μm未満(ゲルダートの粉体分類のCグループ)の粉末も、この種の流動床反応器では容易に処理することが可能である。しかも、回転型流動床反応器では固体粒子の挙動がガス流の影響を受けないか又は受け難くなって反応種の滞留時間が遥かに長くなり、化学的な観点、つまり、経済的な観点からみて生産効率を上げることが可能となる。反応器が動くことで、固体粒子が移動する。
【0105】
[二重チャンバ型の反応器]
図9に、上記のレーディゲ式の工業用回転型流動床反応器の一変形例を示す。この場合の反応器は、中心の長手方向軸X-Xに沿って延びる2つの管状チャンバ901.a,901.bで構成されており、それぞれ、シングルゾーン又はマルチゾーン加熱炉902によって加熱される。管状チャンバ901.a,901.bは、固定された少なくとも2つの境界機構903によって閉じられるとともに、分離機構918によって分かたれている。管状チャンバ901.aは、シリコン-カーボン複合材料の調製用である。管状チャンバ901.aには、生成物供給機構905によってカーボン材料が投入される。管状チャンバ901.b(以降、造粒チャンバと称する)は、シリコン-カーボン複合材料の造粒に用いられる。造粒とは、粉末状の物質から顆粒または粒状物を形成する過程のことであり、これにより、造粒物が生じる。造粒チャンバには、未処理のシリコン-カーボン複合材料904が分離機構918で投入され、これにより、シリコン-カーボン複合顆粒919が得られる。モータ906は、チャンバを回転させることができる。加熱炉902は、プロセス支持部907に固定されたままの状態である。
【0106】
レーディゲ式の回転型流動床反応器は、傾斜機構908によって傾斜させることができる。傾斜機構908により、カーボン系材料を管状チャンバ901.a内に広げるとともに、シリコン-カーボン複合材料904をチャンバ901.aから分離機構918経由でチャンバ901.bへと滑り落とし、シリコン-カーボン複合顆粒919を生成物排出機構909側へと回転速度および傾斜角度に応じた速度で滑り落とすことができる。レーディゲ式の回転型流動床反応器は、キャリアガス流入部910、調製チャンバ901.aに接続された少なくとも1つの反応性シリコン含有混合ガス流入部911、不活性ガス流入部912および全ガス流出部913a,913bを有する。これらのガス流入部および流出部は、対応する機構で予熱されてもよい。また、これらのガス流入部および流出部は、バルブ914a,914b,914cを組み込んだものであってもよい。チャンバ901.aの全ガス流出部913bのバルブ918は、反応器の圧力の完全な制御を可能にし、かつ、使用される反応性シリコン含有ガス源の数に応じて、少なくとも1つの反応性シリコン含有ガス検出器915により管理できる。
【0107】
圧力計919は、反応器の圧力を測定する。ガス安全タンク917は、境界機構903に位置した破裂板式安全機構916を介して管状チャンバ901.aに接続されている。破裂板式安全機構916は、圧力センサが組み込まれたものであってもよい。反応性シリコン含有混合ガス流入部911のバルブ914cは、破裂板式安全機構916のその圧力センサによって安全性とプロセス効率・プロセス自在性の双方の目的で制御できる。実際に、管状チャンバ901.a内のシリコン含有ガス種の圧力を上げることにより、シリコン材料の成長、つまり、その構造の制御が可能になる。
図9では、温度、キャリアガス流量、反応性シリコン含有混合ガス流量、傾斜角度、回転速度といったプロセスパラメータを監視する反応器制御装置、および生成物収集タンクの図示を省略している。
【0108】
生成物供給機構905は、供給用エンドレススクリュー機構、分注機構、または漏斗型機構であってもよい。生成物排出機構909についても同様である。後者は、冷却機構を具備したものであってもよい。
【0109】
分離機構918は、管状チャンバ901.a,901.b間のリンクとして機能し、モータ906の使用時には同様に回転する。分離機構918は、3層歯車機構を組み込んだものであり、管状チャンバ901.aでの調製工程および管状チャンバ901.bでの造粒工程がそれぞれ行われるときは閉じたままで、これらの工程が終了すると開いてシリコン-カーボン複合材料が一方のチャンバから他方のチャンバへと滑り入ることができるようにする。つまり、管状チャンバ901.aでシリコン-カーボン複合材料の任意のバッチを調製しつつ、管状チャンバ901.bでシリコン-カーボン複合材料の別のバッチの造粒を行うことが可能となっている。
【0110】
管状回転チャンバ901および/またはプロセス支持部907および/または境界機構903には、製造運転の複雑性に応じて装置が組み込まれ得る。このような装置としては、熱電対、圧力センサ、光学系、密封機構、サンプリング機構、さらには、ガス又は生成物の制御のための分析装置が挙げられる。
【0111】
管状チャンバ901.aは、可動ロッド、可動ボールなどの内部構造を具備してもよい。ロッドやボールのサイズや数は、出発物質のカーボン系材料粉末の物理的特性に応じたものとされる。管状チャンバ901.bは、固定フィンなどの内部構造を具備してもよい。フィンの幾何学的形状、レイアウトおよび数は、シリコン-カーボン複合材料904の物理的特性に応じたものとされる。
【0112】
(カーボン-シリコン複合材料の製造方法)
本発明に係る方法は、
(1)管状チャンバに少なくともカーボン系材料、任意で、さらに、触媒を導入する工程と、
(2)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×105Pa以上の圧力の熱処理を施す工程と、
(6)得られた生成物を回収する工程と、
を備える。
【0113】
大部分の工程は、上記の順番で実施しなければならないが、工程(3)の回転は、工程(1)の前または後、あるいは工程(2)の前または後のいずれの段階で開始してよい。
【0114】
[工程(1)]
好ましくは、管状チャンバの容積を基準とした(カーボン担体、さらに、任意で、触媒を含む)カーボン系材料の投入体積比は、10%~60%、より好ましくは20%~50%、なお好ましくは30%~50%である。
【0115】
[工程(2)~工程(5)]
好ましくは、工程(2)における、前記チャンバが所望の温度値に達するまでの昇温率は、1℃~50℃/分、より好ましくは5℃~30℃/分の範囲であり、なお好ましくは10℃/分前後である。
【0116】
好ましくは、工程(5)で、前記管状チャンバが、200℃~900℃、より好ましくは350℃~850℃、なお好ましくは450℃~750℃の範囲の温度に維持される。
加熱炉は、抵抗加熱、誘導加熱または赤外線ランプで加熱できる。
【0117】
工程(5)では、前記管状チャンバ内の圧力が制御されて、好ましくは1.02×105Pa~5×106Paの範囲、より好ましくは1.05×105Pa~106Pa、さらに好ましくは1.1×105Pa~106Paの範囲とされる。
【0118】
好ましくは、工程(5)の、前記反応性シリコン含有混合ガスによる処理と前記回転するチャンバ内での加熱を合わせた処理の時間は、1分から10時間、有利には5分から5時間、さらに好ましくは15分から10時間である。
【0119】
好ましくは、工程(2)の、前記キャリアガスの流量は、0.1SLM~50SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5SLM~40SLMの範囲である。
【0120】
一例において、工程(2)の、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量は、0.1SLM~10SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5SLM~5SLMの範囲である。
【0121】
好ましくは、工程(5)の、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量は、0.1SLM~50SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5SLM~40SLMの範囲である。
【0122】
一例において、工程(5)の、前記反応性シリコン含有混合ガスの流量は、0.1SLM~10SLM(標準リットル毎分)、より好ましくは0.5SLM~5SLMの範囲である。
【0123】
キャリアガスの流量と反応性シリコン含有混合ガスの流量は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0124】
本方法の工程(2)で使用されるキャリアガスは、工程(5)でシリコン含有ガス種と混合して使用されるキャリアガスと同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0125】
工程(2)のガス流により、反応器のチャンバ内の酸素量が減少する。
【0126】
工程(5)のガス流により、反応器のチャンバ内のカーボン系担体上にナノ構造シリコンが成長する。
【0127】
好ましくは、工程(5)が終わると、前記反応性シリコン含有混合ガス流は停止され、前記管状チャンバがキャリアガス流下で室温まで冷却させられる。
【0128】
好ましくは、前記管状チャンバの回転速度は、1RPM~40RPM(回転毎分)、好ましくは1RPM~30RPM、さらに好ましくは1RPM~20RPM、より好ましくは1RPM~15RPMの範囲である。
【0129】
一例において、前記管状チャンバの回転速度は、1RPM~40RPM(回転毎分)、好ましくは10RPM~30RPM、さらに好ましくは15RPM~25RPMの範囲である。
【0130】
第1の実施形態において、前記管状チャンバの長手方向軸X-Xは、水平である。
【0131】
第2の実施形態において、前記管状チャンバの長手方向軸X-Xは傾斜しており、水平面と角度αをなす。有利には、この実施形態において、その傾斜角度が1~20°、より好ましくは5~15°の範囲であり、有利には10°前後である。
【0132】
有利な一実施形態において、本発明に係る方法では、工程(6)の後に、さらに、
(1’)(カーボン担体、さらに、任意で、触媒を含む)未処理のカーボン系材料を前記管状チャンバに再投入する工程と、
(2’)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(3’)前記管状チャンバを回転させる工程と、
(4’)反応性シリコン含有混合ガスを、回転する前記管状チャンバに導入する工程と、
(5’)前記回転する管状チャンバ内において、反応性シリコン含有混合ガス流下で、200℃~900℃の範囲の温度及び1.02×105Pa以上の圧力の熱処理を施す工程と、
(6’)得られた生成物を回収する工程とが、
少なくとも1サイクル行われる。
【0133】
工程(1’)~工程(6’)の好適な実施形態は、工程(1)~工程(6)の好適な実施形態とそれぞれ同じものである。
【0134】
有利には、2つのサイクル間で、前記管状チャンバの加熱は継続して行われる一方で、前記管状チャンバの回転は減速又は完全に停止させられ得て、キャリアガス流としてのガス流は継続し得る。
【0135】
工程(3’)の回転は、工程(1’)、工程(2’)のいずれの工程の前でも後でも開始されてよい。変形例として、あるサイクルから次のサイクルにかけて回転を継続してもよく、回転速度がサイクル間で変化していてもよい。
【0136】
[追加工程]
実施形態によっては、任意で、工程(5)と工程(6)の間に工程が追加で実施されてもよく、例えば、シリコン-カーボン複合材料の表面にカーボン被覆層を形成してもよい。この場合、カーボン系ガス種用の1つ以上のさらなるガス流入部付きバルブを追加で設けてもよい。
【0137】
例えば、本方法は、工程(5)の終了時に得られたシリコン-カーボン複合材料をカーボン源の存在下で熱処理する追加の工程を備えていてもよい。
【0138】
例えば、本方法は、工程(6)の前に、酸素汚染を防ぐために前記管状チャンバ内に不活性ガスを注入するさらなる工程を備えていてもよい。
【0139】
一実施形態において、本発明に係る方法は、さらに、工程(5)又は工程(5’)の終結時に得られた生成物について造粒を行う工程(G)を備える。この実施形態では、工程(5)又は工程(5’)で得られた生成物が造粒チャンバに導入されて、該造粒チャンバが所定の時間のあいだ回転される。造粒が完了したと判断した後、生成物を回収して(工程(6))、例えば熱処理等のようなさらなる後処理工程に供してもよい。
【0140】
[方法-バッチモード]
図2に、
図1の反応器のようなレーディゲ式の回転型流動床反応器でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法を示す。ステップ201では、フランジ109を取り外すことにより、触媒を任意で含むカーボン系粉末材料108が石英製の管状チャンバ106に投入される。カーボン系粉末材料108が投入されると、チャンバ106がフランジ109で閉じられて軸受機構110に設置される。そして、管状の冷却装置111、ニードルバルブ112および全ガス流出部113が、
図1に示した配置に従ってフランジ109に接続される。ステップ202では、キャリアガスがキャリアガス流入部101を介してチャンバ106に供給される。ステップ203で、チャンバ106の回転が、ステップ204で、チャンバ106の加熱が、それぞれ開始される。反応器が所望の温度に達すると、ステップ205で、一定の時間量のあいだ温度の安定化が行われる。
【0141】
ステップ206では、キャリアガス流入部101が閉じられ、代わりに反応性シリコン含有混合ガス流入部102が開かれる。不活性ガス流下で加熱が行われる間、ニードルバルブ112によって圧力が監視される。反応性シリコン含有混合ガスの流量は、ステップ202のキャリアガスの流量と同じ値であってもよい。ステップ207では、反応性シリコン含有混合ガス由来のシリコン源がカーボン系粉末材料と所定時間のあいだ反応することにより、シリコン-カーボン複合材料が形成される。処理の時間は、シリコン源およびガス流中の該シリコン源の濃度に応じたものとなる。
【0142】
シリコン-カーボン複合材料の製造が完了すると、ステップ208で、反応性シリコン含有混合ガス流入部102が閉じられ、代わりにキャリアガス流入部101が開かれる。キャリアガスの流量は、ステップ202と同じ値であってもよい。それと同時に、加熱炉107がオフに切り替えられて、チャンバ106がキャリアガス流下で室温まで冷却される(ステップ209)。室温に達すると、回転が停止されて(ステップ210)、ステップ211で、管状の冷却装置111をフランジ109から切り離し、かつ、フランジ109を軸受装置110及びチャンバ106から取り外すことにより、シリコン-カーボン複合材料が取り出される。
【0143】
[方法-連続モード]
図8に、
図7の反応器のようなレーディゲ式の回転型流動床反応器でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法を示す。この製造方法は、まず、ステップ801で、プロセス支持部707が傾斜機構708によって傾けられる。次に、管状回転チャンバ701の所望の回転速度の回転が開始されるとともに、チャンバが所望の温度に加熱される。その後、ステップ802で、生成物供給機構705を開くことにより、触媒を任意で含むカーボン系粉末材料704が、石英製の管状チャンバ701に投入される。ステップ803で、生成物供給機構705が閉じられる一方で、キャリアガス流入部710によってキャリアガスが管状回転チャンバ701内に供給される。一定の時間のあいだ、温度の安定化が行われる。
【0144】
反応器が所望の温度に達すると、ステップ804で、キャリアガス流入部710が自動的に閉じられ、代わりに反応性シリコン含有混合ガス流入部711が開かれる。反応性シリコン含有混合ガスの流量は、ステップ801のキャリアガスの流量と同じ値であってもよい。ステップ805では、反応性シリコン含有混合ガス由来のシリコン源が、該シリコン源と、ガス流中のその濃度に応じて、所定時間のあいだカーボン系粉末材料と反応することにより、シリコン-カーボン複合材料が形成される。全ガス流出部713を閉じたままにすることで、管状チャンバ716内部の反応性シリコン含有ガスの圧力を上昇させることができる。シリコン-カーボン複合材料の製造が完了したと判断すると、反応性シリコン含有混合ガス流入部711が閉じられ、代わりに不活性ガス流入部712が全ガス流出部713と共に開かれる。これにより、管状回転チャンバ701及びシリコン-カーボン複合材料に対してパージが行われ、残存する全ての反応性ガス種が排出される。
【0145】
不活性ガス・キャリアガスの流量および反応性シリコン含有混合ガスの流量は、ステップ803及び/又はステップ804及び/又はステップ806で同じ値であってもよい。ステップ807で、生成物排出機構709を開くことにより、シリコン-カーボン複合材料が取り出される。
【0146】
この時点で、以上のステップを、生成物供給機構705を開いてカーボン系材料の粉末704を管状回転チャンバ701に再投入するというステップ802から始めて全部繰り返せば、半連続的な製造モード809を実施することが可能である。チャンバ701の温度は維持されるのに対し、チャンバ701の回転は2つのサイクル間で減速又は停止してもよい。
【0147】
ステップ808により、機構の保守又は保安上の理由から、この製造プロセスを停止できる。不活性雰囲気下で、加熱炉702がオフに切り替えられて、管状チャンバ701の回転が停止されると共に室温にまで冷却され、かつ、必要に応じて反応器の傾斜が水平に戻される。
【0148】
[方法-造粒モード]
図10に、
図9に係るレーディゲ式の回転型流動床反応器の変形でシリコン-カーボン複合材料を製造する方法を示す。この製造方法は、まず、ステップ1001で、傾斜機構908によってプロセス支持部907が傾けられ、管状回転チャンバ901.a,901.bの回転が所望の回転速度で開始されるとともに、それぞれの管状チャンバ901.a,901.bが所望の温度に加熱される。ステップ1002では、不活性ガス流入部912から不活性ガスが両方のチャンバに供給されるとともに、一定時間、温度の安定化が行われる。次に、ステップ1003で、生成物供給機構905を開くことにより、カーボン系粉末材料が一方の管状チャンバ901.aに投入される。ステップ1004で、生成物供給機構905が閉じられる一方で、キャリアガス流入部910によってキャリアガスが管状回転チャンバ901.a内に供給される。
【0149】
所望の温度に達すると、ステップ1005で、キャリアガス流入部910が閉じられ、代わりに反応性シリコン含有混合ガス流入部911が開かれる。ステップ1006では、反応性シリコン含有混合ガス由来のシリコン源がカーボン系粉末材料と反応することにより、該シリコン源、およびガス中におけるその濃度に応じて、所定時間のあいだ、シリコン-カーボン複合材料が形成される。全ガス流出部913を閉じることにより、管状チャンバ901.a内部の反応性シリコン含有ガスの圧力が上昇する。ステップ1007で、シリコン-カーボン複合材料904の製造が完了したと判断されると、反応性シリコン含有混合ガス流入部911が閉じられ、代わりに不活性ガス流入部912が全ガス流出部913と共に開かれる。これにより、管状回転チャンバ901.a及びシリコン-カーボン複合材料に対してパージが行われ、残存する全ての反応性ガス種が排出される。
【0150】
管状チャンバ901.aが不活性ガスによりパージされると、ステップ1008で、分離機構918が開かれて、シリコン-カーボン複合材料904が造粒チャンバ901.bに移される。この時点で、この方法をステップ1002からステップ1008にかけて繰り返せば、半連続的な製造1012を実施することが可能である。
【0151】
ステップ1009で、不活性ガス流入部910やキャリアガス流入部912によって不活性ガスやキャリアガスを必要に応じて供給することでシリコン-カーボン複合材料904の造粒が開始されて且つ予め定めた時間のあいだ実行される。そして、生成物排出機構909により、得られたシリコン-カーボン複合材料顆粒919が造粒チャンバ901.bから取り出される。この時点で、この方法をステップ1009からステップ1010にかけて繰り返せば、半連続的な造粒1013を実施することが可能である。
【0152】
ステップ1011により、機構の保守や保安上の理由から、この製造プロセスを停止させることができる。不活性雰囲気下で、加熱炉902がオフに切り替えられて、管状チャンバ901の回転が停止されると共に室温にまで冷却され、かつ、必要に応じて反応器の傾斜が水平に戻される。
【0153】
(シリコン-カーボン複合材料)
本発明によれば、上記の方法を実施することでシリコン-カーボン複合材料を得ることができる。
【0154】
本方法で得られるシリコン-カーボン複合材料は、カーボン系材料およびナノメートル大のシリコン材料を含有する。カーボン系材料は、前述のカーボン担体、さらに、任意で、触媒を含む。
【0155】
触媒とカーボン担体は、接触していてもよいし接触していなくてもよい。触媒が存在する場合、好ましくは、該触媒がカーボン担体の表面と接触している。触媒とカーボン担体の接触は、化学吸着、物理吸着のいずれに起因するものであってもよい。
【0156】
触媒が存在する場合、より好ましくは、該触媒が粒子の形態でカーボン担体の表面上に良好に分散している。
【0157】
好ましくは、ナノ構造シリコン材料は、その外形寸法の少なくとも1つが10nm~500μmの範囲、好ましくは10nm~500nmの範囲のシリコン粒子で構成されている。
【0158】
シリコン含有ガス種の化学気相成長法で得られるシリコン材料は、ワイヤ、ワーム、ロッド、フィラメント、アイランド、粒子、膜、シートまたはスフィアの形をとる。
【0159】
触媒の有無で、得られるシリコン粒子の種類に影響が生じる。
【0160】
好ましい一実施形態において、シリコン粒子は、ナノワイヤの形をとる。好ましくは、シリコンナノワイヤは、触媒を用いた方法によって得られる。
【0161】
本発明の意味において「ナノワイヤ」という用語は、ワイヤに似た形状をした、ナノメートル径の細長い物体のことを意味するものと理解されたい。
【0162】
好ましくは、シリコンナノワイヤは、1nm~100nmの範囲、より好ましくは10nm~100nmの範囲、なお好ましくは10nm~50nmの範囲の直径を有する。
【0163】
好ましくは、シリコンナノワイヤの平均直径は、5nm~5μm、より好ましくは10nm~50nmの範囲である。
好ましくは、シリコンナノワイヤの平均長さは、50nm~500nmの範囲である。
【0164】
ナノワームとは、ナノワイヤの中でもアスペクト比(平均直径に対する平均長さの比)が低い範囲に入る、一部の特定の好適な部類のナノワイヤのことを言う。そのアスペクト比は、L/D比が10以下、より好ましくは5以下、有利には2以下である。
【0165】
他の実施形態において、シリコン粒子は、ナノアイランドの形をとる。好ましくは、シリコンナノアイランドは、触媒なしで実施される方法によって得られる。
【0166】
本発明の意味において「ナノアイランド」という用語は、丸みを帯びた形状の、ナノメートル径の物体のことを意味するものと理解されたい。
【0167】
好ましくは、シリコンナノアイランドは、1nm~100nmの範囲、より好ましくは10nm~100nmの範囲、なお好ましくは10nm~50nmの範囲の直径を有する。
【0168】
好ましくは、シリコンナノアイランドの平均直径は、5nm~5μm、より好ましくは10nm~50nmの範囲である。
【0169】
シリコン材料のサイズは、例えば、カーボン-シリコン複合材料の1つ以上のサンプルから走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られた写真の分析などといった、当業者が良く知る数種類の手法で測定され得る。
【0170】
シリコン粒子、好ましくはシリコンナノワイヤまたはシリコンナノアイランドは、シリコン-カーボン複合材料のうちの1重量%~70重量%、好ましくは10重量%~70重量%、より好ましくは20重量%~70重量%、さらに好ましくは30重量%~70重量%、有利には50重量%~70重量%を構成する。
【0171】
好ましくは、シリコン-カーボン複合材料は、粉末の形で得られる。
【0172】
(カーボン-シリコン複合材料の使用)
本発明に係るシリコン-カーボン複合材料は、負極活物質として、また、リチウムイオン電池の製造に使用され得る。
【0173】
集電体を含む電極は、当該技術分野で従来用いられる製造方法によって製造される。例えば、本発明のカーボン-シリコン複合材料からなる負極活物質が、バインダー、溶剤および導電剤と混合される。必要に応じて、分散剤が添加され得る。該混合物を攪拌することにより、スラリーが調製される。次に、集電体にスラリーを塗布してプレス成形することにより、負極が製造される。
【0174】
ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HEP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルなどといった、様々な種類のバインダーポリマーが、本発明におけるバインダーとして使用され得る。
【0175】
前記電極は、当該技術分野で一般的に使われて正極と負極との間に配置されるセパレータ及び電解液を備えたリチウム二次電池の製造に使用できる。
【実施例】
【0176】
(実験)
以下では、シリコン-カーボン複合材料の製造例を2つ示す。
製造例では、4L石英管を反応室として装備したNabertherm社製のヒンジ付き回転管加熱炉RSRB 120-750/11で製造を行った。
【0177】
いずれの製造例でも、シラン濃度が0.9体積%になるように窒素と混合されたシランをシリコン源として、シリコン-カーボン複合材料を得る。窒素は、回転型流動床反応器の加熱(ステップ202,203,204,205)・冷却(ステップ208,209)時の単独のキャリアガスとしても用いる。キャリアガスの流量および反応性シリコン含有混合ガスの流量は、いずれも1SLMとする。圧力は制御されている。いずれの製造も、6時間実施した。回転速度は20RPMとする。温度上昇量は10℃/分として、温度を650℃に到達させる。これら2つの製造例では、シリコン-カーボン複合材料のカーボン系材料中のマイクロメートル大の黒鉛担体を、黒鉛KS4(Imerys社製)とする。該黒鉛には、触媒ナノ粒子を一様に被覆させている。カーボン系材料を30gとして、運転を行う。いずれの製造例でも、シリコンの目標値は10質量%とする。いずれの製造例でも、シリコンナノワイヤの直径は20~50nmとする。
【0178】
(製造例1(比較例))
この製造例1では、圧力P=1.013×10
5Pa(大気圧)とした。
図3及び
図4は、シリコン-カーボン複合材料の製造例1を示した図である。触媒金ナノ粒子302で一様に被覆されたマイクロメートル大の黒鉛KS4担体(30g)301上に、シリコンナノワイヤ303が合成されている。金/黒鉛の質量比は、0.05である。
【0179】
走査型電子顕微鏡観察で、シリコンナノワイヤが得られたことを確認した(
図3)。
図4は、この過程中に生じた造粒現象を示している。球状の凝集体401が、1~3mmの大きさで存在している。さらに、より大きな「バリ状」の凝集体402も、3~5mmの大きさで存在している。
【0180】
(製造例2(本発明))
製造例1と共通する実施条件は、次のとおりである:
T=650℃、t=6時間、回転=20rpm、窒素ガスおよび窒素/シラン混合ガス(シラン:0.9体積%)の各流量=1SLM、粉末=金ナノ粒子付きの黒鉛KS4(KS4も変わらず30g)。
【0181】
製造例1とは異なり、製造例2では、圧力P=1.2×10
5Paとした。
図5は、シリコン-カーボン複合材料の製造例2を示した図である。触媒金ナノ粒子502で一様に被覆されたマイクロメートル大の黒鉛KS4担体501上に、シリコンナノワイヤ503が合成されている。金/黒鉛の質量比は、0.05である。走査型電子顕微鏡観察で、シリコンナノワイヤ(推定直径:50~100nm、推定長さ:100nm)が得られたことを確認した(
図5)。
図6は、シリコン-カーボン複合材料の製造例2を示した図である。この顕微鏡写真では、この過程中に生じた造粒現象を確認することができる。球状の凝集体601が、1~3mmの大きさで存在している。
【0182】
【0183】
上記の比較から、請求項に記載したパラメータに従って本方法を実施することにより、得られる複合材料の収率が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0184】
106、701、901.a、901.b 管状チャンバ
107、702、902 加熱炉
108 カーボン粉末材料
103,109 フランジ
104,110 軸受機構
101、710、910 キャリアガス流入部
102、711、911 反応性シリコン含有混合ガス流入部
111 ガス冷却装置
112 ニードルバルブ111
114a,114b 液体トラップ
113、713、913a,913b 全ガス流出部
115、919 圧力計
703、903 境界機構
705、905 生成物供給機構
704 カーボン材料
706、906 モータ
707 装置支持部
708、908 傾斜機構
709、909 生成物排出機構
712、912 不活性ガス流入部
714,718、914a、914b、914c、918 バルブ
715、915 反応性シリコン含有ガス検出器
716、916 破裂板式安全機構
717、917 ガス安全タンク
918 分離機構
904 シリコン-カーボン複合材料(未処理)
919 シリコン-カーボン複合顆粒
907 プロセス支持部
【国際調査報告】