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特表2024-521852MC3型脂質及び脂質ナノ粒子の調製におけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】MC3型脂質及び脂質ナノ粒子の調製におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/12 20060101AFI20240528BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240528BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C07C229/12 CSP
A61K9/14
A61K47/18
A61K47/28
A61K47/24
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023573381
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 CA2022050856
(87)【国際公開番号】W WO2022246571
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】63/194,471
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/214,995
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523447085
【氏名又は名称】ナノベーション・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・エー・チュフォリニ
(72)【発明者】
【氏名】ファリバ・サーダティ
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・シー・ワイ・タム
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・クレク
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ヴィツィヒマン
(72)【発明者】
【氏名】ジャイエシュ・クルカルニ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA95
4C076DD49
4C076DD52
4C076DD70
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA43
4C084NA13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA43
4C086NA13
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
(57)【要約】
MC-3型脂質及びそのような脂質を調製する方法が提供される。脂質は式(A)(式中、各Rは、独立して、1~3個のC=C二重結合を有するC12~C16のアルキレンであり、二重結合の少なくとも1つはZ配置であり;R'は、任意選択のアルキルであり;Wは、O、NH、又はNR"であり、式中、R"は、C1~C3アルキル基であり;Xは、O、NH、NR"、又は存在せず;Zは、[-(CH2)m-NG1G2G3]であり、式中、mは、1~5であり、G1及びG2は、独立して、C1~3アルキルであり、G3は、水素、C1~3アルキル、又は存在しない)の形態をとる。そのような脂質は、siRNA及び他の医薬物質用の送達ビヒクルの調製において有用である。選ばれた実施形態において、そのような送達ビヒクルは、脂質ナノ粒子の形態をとる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
nor-MC3:
【化1】
の構造を有する脂質。
【請求項2】
請求項1に記載の脂質を含む薬物送達ビヒクル。
【請求項3】
脂質ナノ粒子である、請求項2に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項4】
ヘルパー脂質及び親水性ポリマー-脂質複合体を含む、請求項3に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項5】
ヘルパー脂質が、ステロール、ジアシルグリセロール、セラミド又はそれらの誘導体である、請求項4に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項6】
ジアシルグリセロールが、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルグリセロール、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン、モノメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジエライドイル-ホスファチジルエタノールアミン、ステアロイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン、卵ホスファチジルコリン及びそれらの混合物から選択される、請求項5に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項7】
核酸を含む、請求項2から6のいずれか一項に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項8】
核酸が、siRNA、snRNA、miRNA及びmRNAから選択されるRNAである、請求項7に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項9】
核酸が、一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項7に記載の薬物送達ビヒクル。
【請求項10】
請求項1に記載のnor-MC3脂質を生成する方法であって、
(i)触媒の存在下でのクライゼン縮合反応においてリノール酸メチルを反応させて、式メチル(11Z,14Z)-2-((7Z,10Z)-ヘキサデカ-7,10-ジエン-1-イル)-3-オキソイコサ-11,14-ジエノエートのケトエステルを生成する工程と;
(ii)加水分解及び脱炭酸を介してケトエステルを反応させて、式(6Z,9Z,26Z,29Z)-ペンタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-18-オンのケトンを生成する工程と;
(iii)ケトンを還元して、式(6Z,9Z,26Z,29Z)-ペンタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-18-オールを有するアルコールを生成する工程と;
(iv)アルコールを4-(ジメチルアミノ)酪酸でエステル化し、それによりnor-MC3脂質を生成することによって、nor-MC3脂質をそのアルコールから調製する工程と
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、広範な治療薬剤又はプロドラッグ、例えば、限定されないが、核酸(例えばRNA又はDNA)、タンパク質、ペプチド、医薬、及びそれらの塩のカプセル化を容易にするように送達ビヒクル内に配合され得る脂質が提供される。
【背景技術】
【0002】
核酸ベースの治療法は、医学において極めて大きな可能性を有する。しかしながら、この可能性を実現するためには、核酸は患者の標的部位に送達されなければならない。これは、投与後に核酸が血漿中の酵素によって急速に分解されるため、課題を提示する。核酸が疾患部位に送達されたとしても、細胞内送達の課題がまだ残っている。これらの課題に対処するために、核酸をそのような分解から保護し、関連する翻訳機構が存在する細胞内区画にアクセスするための細胞膜を通した送達を容易にする脂質ナノ粒子が開発されている。
【0003】
脂質ナノ粒子(LNP)の重要な成分は、イオン化可能脂質である。イオン化可能脂質は、典型的には低いpHで正に帯電し、これは負に帯電した核酸との会合を容易にする。しかしながら、イオン化可能脂質は、生理学的pHでは中性であり、生体系においてより生体適合性となる。更に、脂質ナノ粒子がエンドサイトーシスによって細胞に取り込まれた後、低いpHでイオン化するこれらの脂質の能力により、エンドソーム脱出が可能となることが示唆されている。これは一方で、核酸が細胞内区画に放出されることを可能にする。カチオン性LNPに関するほとんどの研究は、核酸の製剤化に焦点を置いているが、核酸に加えて、他の治療薬剤又はプロドラッグの送達もまた、送達プラットフォームを使用して可能である。
【0004】
高い有効性を有するアミノ脂質の特定に、膨大な研究が重ねられている。DLin-MC3-DMA又は「MC3」(ジリノレイル-メチル-4-ジメチルアミノブチレート)と呼ばれるイオン化可能脂質は、siRNA製剤のための最新技術のイオン化可能脂質を構成する。このイオン化可能な脂質は、遺伝的トランスサイレチン媒介アミロイドーシスと呼ばれる遺伝性の神経変性疾患を引き起こす遺伝子をサイレンシングするsiRNAを組み込んだ脂質ナノ粒子製剤である、Onpattro(登録商標)の重要な成分である。MC3を含有するそのような製剤は、米国食品医薬品局(FDA)により承認される最初の低分子干渉RNA(siRNA)ベース治療を構成した。
【0005】
MC3イオン化可能脂質は、約3倍の効力を有する、KC2と呼ばれる別のアミノ脂質の改善型であると広く認識されている。50を超えるアミノ脂質の研究において、MC3は0.03のED50を有するものとして特定され、一方KC2のED50は、siRNAを使用したマウスにおけるFVII遺伝子サイレンシングに関して0.10であった。(Jayaramanら、2012、Angew. Chem. Int. Ed.、51:8529~8533。)これは、MC3を含有する製剤が、KC2をベースとする同様の製剤と同じ最終結果を達成するのに、約3分の1のsiRNAを必要とすることを意味する。核酸は高価であるため、これは、イオン化可能脂質の大規模製造のためのかなりの節約となる。
【0006】
MC3及びKC2アミノ脂質(構造は以下の通り)は両方とも、単一の炭素原子に収束する2つの炭素鎖(本明細書において「R」で示される)を有し、一方でこの単一の炭素原子はイオン化可能な末端「頭部」基の係止点として機能する。
【0007】
【化1】
【0008】
MC3及びKC2の両方において、炭素鎖は、リノール酸又は対応するエステルから得られる不飽和C18部分である。これらの18炭素不飽和鎖は、siRNA製剤の最大効力のためにこれまで特定されている最良の鎖である。(Sempleら、2010、Nat. Biotechnol. 28:172~176及びHeyesら、2005、J. Controlled Release、107:276~287。)更に、18個の炭素原子より短い鎖を有するアミノ脂質は、従来の合成経路を使用して調製するのが困難である。より短い鎖の脂質は、18個未満のC原子を組み込んだ不飽和脂肪酸のエステルから生成することができるが、そのようなエステルは天然では見られず、又は既知の方法を使用して合成するには極めて費用を要する。したがって、18個未満の炭素原子の不飽和鎖を有する核酸送達用アミノ脂質を研究することにはほとんど注意が向けられていなかった。
【0009】
本技術分野において、改善された、又は既知の脂質と同等の有効性を有し、また便利かつコスト効率的に製造され得る、治療薬剤又はプロドラッグの送達のためのイオン化可能脂質が必要とされている。
【0010】
定義
本明細書において使用される場合、「MC3型脂質」は、本明細書において式Aにより定義される構造又はその均等物を有する、イオン化可能脂質を含むがこれに限定されない任意の脂質を指す。
【0011】
本明細書において使用される場合、「イオン化可能脂質」という用語は、所与のpHにおいて静電的に中性の形態であり、プロトンを受容又は供与して、それにより静電的に帯電し得る脂質を指し、静電的に中性の形態は、水と1-オクタノールとの間の分配係数の8超の計算対数(すなわちcLogP)を有する。本明細書において使用される場合、本明細書に記載のR基に関連する「アルキル」という用語は、直鎖状又は分岐状の様々な飽和度を有する炭素含有鎖である。
【0012】
本明細書において使用される場合、「C1~C3アルキル」という用語は、任意選択で不飽和の、合計最大3個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐状炭素鎖を指す。
【0013】
本明細書において使用される場合、「ヘルパー脂質」という用語は、ステロール、例えばコレステロール又はその誘導体;ジアシルグリセロール又はその誘導体、例えばホスファチジン酸(ホスファチデート)(PA)、ホスファチジルエタノールアミン(セファリン)(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)等を含むグリセロリン脂質;及びスフィンゴ脂質、例えばセラミド、スフィンゴミエリン、セレブロシド、ガングリオシド、又はスフィンゴシン単位内の二重結合を欠くそれらの還元類似体から選択される化合物を意味する。この用語は、天然又は合成の脂質を包含する。
【0014】
本明細書において使用される場合、「送達ビヒクル」という用語は、本明細書に記載の脂質が製剤化され得る任意の調製物を含み、ヘルパー脂質を含む送達ビヒクルを含むが、これに限定されない。
【0015】
本明細書において使用される場合、「ナノ粒子」という用語は、脂質が製剤化され得、1つ又は複数のヘルパー脂質成分を含み得る任意の好適な粒子である。1つ又は複数の脂質成分は、本明細書に記載の方法により調製されたイオン化可能脂質を含んでもよく、及び/又はヘルパー脂質等の追加の脂質成分を含んでもよい。この用語は、多層ベシクル、単層ベシクル、及び高電子密度コアを有するベシクルを含む1つ又は複数の二重層を有するベシクルを含むが、これに限定されない。この用語はまた、脂質がポリマーに結合した粒子を含むポリマー-脂質ハイブリッドを含む。
【0016】
本明細書において使用される場合、送達ビヒクル内へのカーゴ分子の組込みに関連する「カプセル化」という用語は、ナノ粒子等の送達ビヒクルの任意の成分又は区画とカーゴとの任意の会合を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国仮特許出願第63/194,471号
【特許文献2】米国仮特許出願第63/195,269号
【特許文献3】米国仮特許出願第63/202,210号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Jayaramanら、2012、Angew. Chem. Int. Ed.、51:8529~8533
【非特許文献2】Sempleら、2010、Nat. Biotechnol. 28:172~176
【非特許文献3】Heyesら、2005、J. Controlled Release、107:276~287
【非特許文献4】Kulkarniら、2018、ACS Nano、12:4787
【非特許文献5】Kulkarniら、2017、Nanoscale、36:133347
【非特許文献6】Rebuffatら、2002、Faseb J. 16(11):1426-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本開示は、既知の技術分野の1つ又は複数の制限に対応すること、又はその有用な代替物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示は、18個未満の炭素原子を有する不飽和鎖を有する特定のMC3型アミノ脂質が、送達ビヒクル内に製剤化された場合向上した核酸送達効力を有するという驚くべき発見に、少なくとも部分的に基づく。そのような短鎖アミノ脂質の有効性は、最新技術のアミノ脂質、ジリノレイル鎖(不飽和C18)を有するMC3の有効性より良好であるか、又はそれと同等である。例えば、本発明者らは、短鎖MC3型脂質(例えば不飽和C17部分を有する)が、送達ビヒクル内に製剤化された場合、より長鎖のベンチマーク脂質MC3より優れた、又はそれと同等のin vitro及びin vivoでのmRNA効力を有することを見出した。本発明者らは、更に、短鎖MC3型脂質(例えば不飽和C17部分を有する)を含むsiRNA含有送達ビヒクルが、いくつかの場合において、MC3と同等の、又は更にはそれより若干良好な効力を有することを見出したが、これは、MC3脂質のジリノレイル鎖(不飽和C18)が活性に最適であると考えられることを示している研究とは対照的である。
【0021】
更に、本発明者らは、より長鎖の脂肪酸エステル(例えば市販の不飽和C18~C22)が短縮され、その後本明細書に記載のクライゼン縮合工程を含む合成経路においてMC3型脂質に変換される、本明細書に記載の方法によって容易に調製される短鎖(C18不飽和部分より短い)MC3型脂質のクラスを特定した。したがって、本開示は更に、18個未満の炭素原子を有するMC3型脂質の合成に関する以前の欠点に対応し、新たなクラスの短鎖脂質の調製を可能にする。
【0022】
本開示の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び図から当業者に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは、イオン化可能脂質nor-MC3又はDLin-MC3-DMA(MC3)を含むmRNA含有脂質ナノ粒子(LNP)の、捕捉(%)、粒径及び多分散性指数(PDI)を示す棒グラフである。LNPは、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMGで構成され、アミン対ホスフェート(N/P)は6であった。図1Bは、イオン化可能脂質nor-MC3又はMC3を含むmRNA含有LNPをHuH7細胞に加えた後の、mRNA濃度の関数としての発光強度を示すグラフである。LNPは、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMG(N/P=6)で構成され、mRNAは、ホタルルシフェラーゼをコードしている。図1Cは、C57Bl/6Jマウスへの静脈内投与から4時間後の、イオン化可能脂質nor-MC3又はMC3を含むmRNA含有LNPの肝臓(左のグラフ)又は脾臓(右のグラフ)における発光強度/mgを示すグラフである。LNPは、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMG(N/P=6)を含有する。
図2図2Aは、イオン化可能脂質nor-MC3又はMC3を含むsiRNA含有LNPの、捕捉(%)、粒径及びPDIを示す棒グラフである。LNPは、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMGを含有し、N/Pは3であった。図2Bは、ルシフェラーゼを安定に発現するように改変された22Rv1細胞にイオン化可能脂質nor-MC3又はMC3を含むsiRNA含有LNPを加えた後の正規化発光強度(%)を示すグラフである。LNPは、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMG(N/P=3)を含有し、siRNAは、ルシフェラーゼをコードしている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
MC3型脂質
本開示は、式Aの構造を有するMC3型脂質を提供する:
式A:
【0025】
【化2】
【0026】
各Rは、独立して、C12~C16の炭素骨格を有するアルキル基であり、各アルキル基は、1~3個のC=C二重結合又は1~2個の二重結合又は2個の二重結合を有し、二重結合の少なくとも1つがZ配置であり、最も有利にはRの各二重結合がZ配置であり;
R'は、C2~C24の骨格を有し、0~3個のC=C二重結合を有する任意選択のアルキル基であり;
各R、及び存在する場合にはR'アルキル基は、1つ又は複数の位置でC1~C3アルキル基で任意選択で置換され;
Wは、O、NH又はNR"であり、ここで、R"は、C1~C3アルキル、例えばメチルであり;
Xは、存在しないか又は存在し、存在する場合、O、NH、又はNR"であり、ここで、R"は、C1~C3アルキル、例えばメチルであり;
Zは、[-(CH2)m-NG1G2G3]で定義されるアルキルアミノ鎖であり、
ここで、mは、1~5、2~4又は2~3であり、G1及びG2は、独立して、C1~C3アルキル、例えばメチルであり、G3は、存在しない(すなわち孤立電子対である)、水素、又はC1~C3アルキル、例えばメチルである
【0027】
一実施形態において、各Rアルキル基は、Z配置の2つの二重結合を有する。
【0028】
一実施形態において、R、R'アルキル骨格又はNR"のR"上で置換された式AのC1~C3アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル及びtert-ブチルから選択される。C1~C3アルキル基は、存在する場合、典型的にはR及び/又はR'炭素骨格上の水素原子を置き換える。
【0029】
別の実施形態において、式Aの脂質は、以下の式Bの構造を有する。
式B:
【0030】
【化3】
【0031】
式中、Rアルキル基(式Aを参照されたい)は、R1-[CH2]n部分で表され、これはC12~C17である直鎖状アルキル基であり、[CH2]n部分のnは、2~7であり、各R1は、C15以下であり、R1-[CH2]n部分は、C1~C3アルキル基で任意選択で置換され;
各R1は、独立して、1~3個の二重結合又は1~2個の二重結合又は2個の二重結合を有し、二重結合の少なくとも1つがZ配置であり、最も有利にはR1の各二重結合がZ配置である。
【0032】
別の実施形態において、式BのXは存在せず、脂質は以下に記載の式Cの構造を有する。
式C:
【0033】
【化4】
【0034】
式中、mは、1~5、2~4又は2~3であり;
G1及びG2は、独立して、C1~C3アルキル基であり、最も有利には、各G1及びG2は、メチル基であり;
G3は、存在しない(すなわち孤立電子対である)、又は水素である(pHに依存して)。
【0035】
別の実施形態において、式Bの脂質は、以下に記載の式Dの構造を有する。
式D:
【0036】
【化5】
【0037】
式中、nは、2~7である。
【0038】
別の非限定的な例において、一般式Bの脂質は、以下に示される式Eの構造を有する。
式E:
【0039】
【化6】
【0040】
式中、nは、2~7である。
【0041】
更なる実施形態において、式Bの脂質は、以下の式Fの構造を有する。
式F:
【0042】
【化7】
【0043】
別の実施形態において、脂質は、nor-MC3の構造を有する。
【0044】
【化8】
【0045】
C17又はより短いRアルキル基を有するMC3型脂質を生成する方法
C17又はより短いRアルキル基を有するMC3型脂質は、以下に記載の方法を使用して調製され得る。リノール酸エステル(例えばリノール酸メチル)は、以下に記載の合成スキームにおける出発材料であるが、当業者には理解されるように、他の脂肪酸も出発材料として機能し得、以下に記載のスキームは、単に選ばれた実施形態の例示である。
【0046】
前述したように、KC2及びMC3イオン化可能アミノ脂質の両方において、炭素鎖は、リノール酸又は対応するエステルから得られる不飽和C18部分である。
【0047】
【化9】
【0048】
MC3 1及びその類似体は、一般式3で表され得る(以下のスキーム2)。本明細書に記載の方法は、MC3型脂質4の合成を提供し、鎖は、17個以下の炭素原子を組み込んでいる。
【0049】
【化10】
【0050】
式中、nは、2~7であり;
Wは、O、NH又はNR"であり、式中、R"は、C1~C3アルキル、例えばメチルであり;
Xは、存在しないか又は存在し、存在する場合、O、NH、又はNR"であり、式中、R"は、C1~C3アルキル、例えばメチルであり;
Zは、[-(CH2)m-NG1G2G3]で定義されるアルキルアミノ鎖であり、式中、mは、1~5、2~4又は2~3であり、G1及びG2は、独立して、C1~C3アルキル基、例えばメチルであり、G3は、存在しない(すなわち孤立電子対である)、水素、又はC1~C3アルキル、例えばメチルである。
【0051】
n=7である4型の脂質は、参照により本明細書に組み入れられる、同時係属及び共有の米国仮特許出願第63/194,471号、名称「Method for Producing an Ionizable Lipid」に記載されている。
【0052】
米国仮特許出願第63/194,471号はまた、一般的な脂肪酸エステル5からイオン化可能脂質を作製する方法を説明している(スキーム3)。それに記載されているように、脂肪酸エステルは、向山条件下でクライゼン縮合に供されてケトエステル6を生成し、これは任意選択でR2アルキル基を付加される。
【0053】
【化11】
【0054】
ケトエステルは、その後加水分解及び脱炭酸されてケトン7(又は7a)を生成し、これが更にアルコール8(又は8a)まで還元され得る。共有の同時係属米国仮特許出願第63/194,471号に記載のように、ケトン7のケタール化はKC2型脂質をもたらし、アルコール8のエステル化はMC3型脂質をもたらす。
【0055】
その化学は、その酸部分にn個の炭素原子を組み込んだエステルが、n-1個のC原子を有する疎水性鎖を有するイオン化可能脂質を提供するようなものである。例えば、C18脂肪酸エステルであるリノール酸メチルは、C17鎖を示すnor-MC3をもたらす(スキーム4)。そのようなnor-脂質の構造は、上記構造4として表され得、n=7である。
【0056】
【化12】
【0057】
4型のより短鎖の脂質は、18個未満の炭素原子を組み込んだ不飽和脂肪酸のエステルから得ることができる。
【0058】
送達ビヒクル内の脂質の製剤化
本開示のMC3型脂質は、当業者に知られる様々な薬物送達ビヒクル(本明細書において「送達ビヒクル」とも呼ばれる)内に製剤化され得る。送達ビヒクルの例は脂質ナノ粒子であり、これは、リポソーム、リポプレックス、脂質を含むポリマーナノ粒子、ポリマーベースナノ粒子、エマルジョン、及びミセルを含む。
【0059】
一実施形態において、本開示のMC3型脂質は、ベシクル形成脂質等のヘルパー脂質、及び任意選択で親水性ポリマー-脂質複合体(例えばPEG-脂質)等の凝集阻害脂質を含む追加の脂質と混合することによって、送達ビヒクル内に製剤化される。
【0060】
上に記載したように、ヘルパー脂質は、ステロール、ジアシルグリセロール、セラミド又はそれらの誘導体を含む。
【0061】
ステロールの例は、コレステロール又はコレステロール誘導体、例えばコレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2'-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4'-ヒドロキシブチルエーテル、ベータ-シトステロール、フコステロール等を含む。
【0062】
ジアシルグリセロールの例は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルグリセロール(POPG)、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、モノメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジメチル-ホスファチジルエタノールアミン、ジエライドイル-ホスファチジルエタノールアミン(DEPE)、ステアロイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、及びそれらの混合物を含む。ある特定の実施形態において、リン脂質は、DPPC、DSPC、又はそれらの混合物である。これらの脂質は、合成されてもよく、又は卵等の天然源から得られてもよい。
【0063】
好適なセラミド誘導体は、卵スフィンゴミエリン又はジヒドロスフィンゴミエリンである。
【0064】
本開示のMC3型脂質を組み込んだ送達ビヒクルは、これらに限定されないが、押出し、エタノール注入及びインライン混合を含む当業者に知られている多種多様な十分に説明された製剤化方法を使用して調製され得る。一実施形態において、調製方法は、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み入れられるKulkarniら、2018、ACS Nano、12:4787及びKulkarniら、2017、Nanoscale、36:133347に記載のような、水溶液及び有機溶液が急速混合デバイスを使用して混合されるインライン混合技術である。
【0065】
送達ビヒクルはまた、界面活性剤により安定化された脂質コアを含むリポプレックスであるナノ粒子であってもよい。安定剤としてベシクル形成脂質が利用され得る。別の実施形態における脂質ナノ粒子は、安定化脂質で囲まれたポリマーナノ粒子コアを含むポリマー-脂質ハイブリッド系である。
【0066】
本開示のMC3型脂質を含むナノ粒子は、代替として、脂質を含まないポリマーから調製されてもよい。そのようなナノ粒子は、ポリマーシェルで囲まれた治療薬剤の濃縮コアを含んでもよく、又はポリマーマトリックス全体に分散した固体又は液体を有してもよい。
【0067】
本明細書に記載のMC3型脂質はまた、油滴又は油のコアを含有する薬物送達ビヒクルであるエマルジョン内に組み込まれてもよい。エマルジョンは、脂質安定化されてもよい。例えば、エマルジョンは、脂質の単層又は二重層等の乳化成分で安定化された油充填コアを含んでもよい。
【0068】
MC3型脂質は、ミセルに組み込まれてもよい。ミセルは、疎水性コア内に存在する薬剤の送達に利用される両親媒性脂質又はポリマー成分で構成された自己集合性粒子である。
【0069】
本明細書におけるMC3型脂質を製剤化するために使用され得る当業者に知られた更なるクラスの薬物送達ビヒクルは、カーボンナノチューブである。
【0070】
核酸、遺伝物質、タンパク質、ペプチド又は他の荷電薬剤の送達
本明細書に開示されるMC3型脂質は、正味の負電荷又は正電荷を有する化合物又は分子(本明細書において「カーゴ」又は「カーゴ分子」とも呼ばれる)の送達ビヒクル内への組込み、及びその後のin vitro又はin vivoでの標的細胞への送達を容易にし得る。
【0071】
一実施形態において、カーゴ分子は、核酸等の遺伝物質である。核酸は、これらに限定されないが、低分子干渉RNA(siRNA)、核内低分子RNA(snRNA)、マイクロRNA(miRNA)、メッセンジャーRNA(mRNA)を含むRNA、又はDNA、例えばベクターDNA若しくは直鎖状DNAを含む。核酸の長さは様々となり得、5~50,000ヌクレオチドの長さの核酸を含み得る。核酸は、一本鎖DNA若しくはRNA、二本鎖DNA若しくはRNA、又はそれらのハイブリッドを含む任意の形態であり得る。一本鎖核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。
【0072】
一実施形態において、カーゴは、少なくとも1つのペプチド、ポリペプチド又はタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むmRNAである。mRNAは、参照により本明細書に組み込まれる同時係属米国仮特許出願第63/195,269号、名称「mRNA Delivery Using Lipid Nanoparticles」に記載のように、低分子活性化RNA(saRNA)及びトランス増幅RNA(taRNA)を含むが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書において使用されるmRNAは、修飾RNA及び非修飾RNAの両方を包含する。一実施形態において、mRNAは、1つ又は複数のコード及び非コード領域を含む。mRNAは、天然源から精製されてもよく、組換え発現系を使用して生成され任意選択で精製されてもよく、又は化学的に合成されてもよい。
【0074】
mRNAが化学的に合成された分子である実施形態において、mRNAは、ヌクレオシド類似体、例えば化学修飾された塩基若しくは糖、及び/又は骨格修飾を有する類似体を含んでもよい。いくつかの実施形態において、mRNAは、天然ヌクレオシド(例えばアデノシン、グアノシン、シチジン、ウリジン);ヌクレオシド類似体(例えば2-アミノアデノシン、2-チオチミジン、イノシン、ピロロ-ピリミジン、3-メチルアデノシン、5-メチルシチジン、C-5プロピニル-シチジン、C-5プロピニル-ウリジン、2-アミノアデノシン、C5-ブロモウリジン、C5-フルオロウリジン、C5-ヨードウリジン、C5-プロピニル-ウリジン、C5-プロピニル-シチジン、C5-メチルシチジン、2-アミノアデノシン、7-デアザアデノシン、7-デアザグアノシン、8-オキソアデノシン、8-オキソグアノシン、O(6)-メチルグアニン、2-チオシチジン、プソイドウリジン、及び5-メチルシチジン);化学修飾された塩基;生物学的に修飾された塩基(例えばメチル化塩基);インターカレーションされた塩基;修飾された糖(例えば2'-フルオロリボース、リボース、2'-デオキシリボース、アラビノース、及びヘキソース);並びに/又は修飾されたリン酸基(例えばホスホロチオエート及び5'-N-ホスホラミダイト連結)であるか、又はそれらを含む。
【0075】
本開示のmRNAは、様々な既知の方法のいずれかに従って合成されてもよい。例えば、ある特定の実施形態におけるmRNAは、in vitro転写(IVT)を介して合成されてもよい。簡潔に説明すると、IVTは、典型的には、プロモーターを含有する直鎖状若しくは環状DNAテンプレート、リボヌクレオチド三リン酸のプール、DTT及びマグネシウムイオンを含み得る緩衝系、並びに適切なRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7若しくはSP6 RNAポリメラーゼ)、DNAse I、ピロホスファターゼ、並びに/又はRNAse阻害剤を用いて行われる。
【0076】
いくつかの実施形態において、in vitroで合成されたmRNAは、mRNA合成中に使用された様々な酵素及び他の試薬を含む望ましくない不純物を除去するために、カプセル化の前に精製されてもよい。
【0077】
本開示は、様々な長さのmRNAをカプセル化するために使用され得る。いくつかの実施形態において、本開示は、約1~20kb、約1~15kb、約1~10kb、約5~20kb、約5~15kb、約5~12kb、約5~10kb、約8~20kb、又は約8~15kbの範囲の長さのin vitroで合成されたmRNAをカプセル化するために使用され得る。
【0078】
典型的には、mRNA合成は、5'末端の「キャップ」及び3'末端の「テール」の付加を含む。キャップの存在は、ほとんどの真核細胞に見られるヌクレアーゼに対する抵抗性を提供する上で重要である。「テール」の存在は、mRNAをエクソヌクレアーゼ分解から保護するのに役立つ。
【0079】
いくつかの実施形態において、mRNAは、5'及び/又は3'非翻訳領域を含む。いくつかの実施形態において、5'非翻訳領域は、mRNAの安定性又は翻訳に影響する1つ又は複数の要素、例えば鉄応答性要素を含む。いくつかの実施形態において、5'非翻訳領域は、約50~500ヌクレオチドの長さであってもよい。
【0080】
いくつかの実施形態において、3'非翻訳領域は、ポリアデニル化シグナル、細胞内のmRNAの場所の安定性に影響するタンパク質の結合部位、又はmiRNAの1つ若しくは複数の結合部位のうちの、1つ又は複数を含む。いくつかの実施形態において、3'非翻訳領域は、50~500ヌクレオチド以上の長さであってもよい。
【0081】
in vitro転写反応から生成されたmRNAは、ある特定の実施形態において望ましくなり得るが、他のmRNA源、例えば細菌、真菌、植物及び/又は動物から生成されたmRNAも企図される。
【0082】
mRNA配列はレポーター遺伝子配列を含み得るが、投与のための医薬製剤におけるレポーター遺伝子配列の包含は任意選択的である。そのような配列は、生体内分布を評価するために、動物モデルにおけるin vitro研究又はin vivo研究においてmRNAに組み込まれてもよい。
【0083】
別の実施形態において、カーゴは、siRNAである。siRNAは、内因性細胞機構に組み込まれてmRNA破壊をもたらし、それにより転写を防止する。RNAは容易に分解されるため、その送達ビヒクルへの組込みは、そのような分解を低減又は防止することができ、それにより標的部位への送達を容易にする。
【0084】
本開示の実施形態に包含されるsiRNAは、多種多様な標的ポリヌクレオチドの発現を特異的に阻害するために使用され得る。特定のポリヌクレオチドを標的化するsiRNA分子は、当技術分野において知られている手順に従って容易に調製され得る。siRNA標的部位が選択され得、対応するsiRNAが、化学的に合成され得るか、in vitro転写により形成され得るか、又はベクター若しくはPCR産物から発現され得る。多種多様な異なるsiRNA分子を使用して、特定の遺伝子又は転写産物が標的化され得る。siRNAは、二本鎖RNA、又はRNA及びDNAの両方、例えば1つのRNA鎖及び1つのDNA鎖を含むハイブリッド分子であってもよい。siRNAは、様々な長さ、例えば15~30ヌクレオチドの長さ、又は20~25ヌクレオチドの長さであってもよい。ある特定の実施形態において、siRNAは二本鎖であり、3'オーバーハング又は5'オーバーハングを有する。ある特定の実施形態において、オーバーハングは、UU又はdTdT 3'である。特定の実施形態において、siRNAは、ステムループ構造を備える。
【0085】
更なる実施形態において、カーゴ分子は、microRNA又は核内低分子RNAである。マイクロRNA(miRNA)は、ゲノムDNAから転写されるがタンパク質に翻訳されない短い非コードRNA分子である。これらのRNA分子は、標的mRNAの領域に結合することにより、遺伝子発現の制御において役割を果たすと考えられている。miRNAの標的mRNAへの結合は、例えば翻訳抑制、脱アデニル化又は標的mRNAの分解を誘導することにより、遺伝子発現を下方制御し得る。核内低分子RNA(snRNA)は、典型的には、遺伝子スプライシングに関与するより長い非コードRNA分子である。snRNA分子は、スプライシング欠陥の結果である疾患において治療上の重要性を有し得る。
【0086】
別の実施形態において、カーゴは、参照により本明細書に組み入れられる共有の同時係属米国仮特許出願第63/202,210号、名称「DNA Vector Delivery Using Lipid Nanoparticles」に記載のDNAベクターである。DNAベクターは、細胞タンパク質又はペプチドの発現の修復、向上、又は遮断若しくは低減を目的として対象に投与され得る。したがって、ヌクレオチドポリマーは、ゲノムDNA、cDNA、又はRNAを含むヌクレオチド配列であってもよい。
【0087】
当業者に理解されるように、ベクターは、プロモーター領域、オペレーター領域又は構造領域をコードし得る。DNAベクターは、二本鎖DNAを含有してもよく、又はDNA-RNAハイブリッドで構成されてもよい。二本鎖DNAの限定されない例は、構造遺伝子、オペレーター制御及び停止領域を含む遺伝子、並びにベクターDNA等の自己複製系を含む。
【0088】
一本鎖核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(DNA及びRNAに相補的)、リボザイム並びに三重鎖形成オリゴヌクレオチドを含む。長期活性を有するために、一本鎖核酸は、好ましくは、ヌクレオチド連結の一部又は全てが安定な非ホスホジエステル連結で、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、又はO-アルキルホスホトリエステル連結で置換されている。
【0089】
DNAベクターは、1つ若しくは複数の糖部分、及び/又はピリミジン若しくはプリン塩基の1つ若しくは複数において修飾がなされた核酸を含み得る。そのような糖修飾は、1つ又は複数のヒドロキシル基のハロゲン、アルキル基、アミン、アジド基での置換を含み得、又はエーテル若しくはエステルとして官能化されてもよい。別の実施形態において、糖全体が、アザ-糖及び炭素環糖類似体を含む立体的及び電子的に同様の構造で置換されてもよい。プリン又はピリミジン塩基部分における修飾は、例えば、アルキル化プリン及びピリミジン、アシル化プリン若しくはピリミジン、又は当業者に知られた他のヘテロ環置換を含む。
【0090】
DNAベクターは、ある特定の実施形態において、ペプチド、タンパク質、ステロイド又は糖部分等の修飾分子で修飾されてもよい。そのような分子によるDNAベクターの修飾は、対象となる標的部位への送達を容易にし得る。いくつかの実施形態において、そのような修飾は、DNAベクターを標的細胞の核にわたって移動させる。例として、修飾因子は、DNAベクター(典型的には対象となる遺伝子をコードしていない)の特定部分に結合することができてもよいが、核ホーミング作用、例えば核局在化シグナルを有するペプチド又は他の修飾因子も有する。修飾因子の限定されない例は、参照により本明細書に組み入れられるRebuffatら、2002、Faseb J. 16(11):1426-8により説明されるような、ステロイド-ペプチド核酸複合体である。DNAベクターは、異なるタンパク質又はペプチドをコードする配列を含有してもよい。プロモーター、エンハンサー、ストレス又は化学制御プロモーター、抗生物質感受性又は栄養感受性領域、及び治療タンパク質コード配列が、必要に応じて含まれてもよい。非コード配列もまたDNAベクターに存在してもよい。
【0091】
本方法において使用される核酸は、天然源から単離されてもよく、ATCC若しくはGenBankライブラリ等の源から得られてもよく、又は合成法により調製されてもよい。合成核酸は、様々な液相又は固相法により調製され得る。一般に、固相合成が好ましい。ホスファイト-トリエステル、ホスホトリエステル、及びH-ホスホネート化学による核酸の固相合成の手順の詳細な説明は、広く利用可能である。
【0092】
一実施形態において、DNAベクターは、二本鎖DNAであり、700超の塩基対、800超の塩基対、又は900超の塩基対、又は1000超の塩基対を含む。
【0093】
別の実施形態において、DNAベクターは、ナノプラスミド又はミニサークルである。
【0094】
荷電脂質を含む遺伝子編集系もまた送達ビヒクルに組み込まれ得る。これは、Cas9-CRISPR、TALEN及びジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集系を含む。Cas9-CRISPRの場合、Cas9タンパク質をコードするプラスミド又はmRNAと併せて、ガイドRNA(gRNA)が本明細書に記載のMC3型脂質を含む送達ビヒクルに組み込まれてもよい。任意選択で、リボヌクレオタンパク質複合体が、本明細書に記載の脂質を含む送達ビヒクルに組み込まれてもよい。同様に、本開示は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ又はTALEN系のDNA結合及び切断ドメインをコードする遺伝物質が、本開示のMC3型脂質と併せて送達ビヒクルに組み込まれる実施形態を含む。
【0095】
様々な核酸カーゴ分子が上述されているが、上記の例は非限定的であり、本開示は、送達ビヒクル内にカプセル化される特定のカーゴ分子に関して限定的であると見なされないことが理解されるだろう。
【0096】
例えば、本明細書に記載のMC3型脂質はまた、リボヌクレオタンパク質を含む送達ビヒクルへのタンパク質及びペプチドの組込みを容易にし得る。これは、直鎖状及び非直鎖状の両方のペプチド、タンパク質又はリボヌクレオタンパク質を含む。
【0097】
医薬組成物が上述されているが、本明細書に記載のMC3型脂質は、任意の栄養、化粧、洗浄又は食料製品の成分であってもよい。
【0098】
医薬製剤
いくつかの実施形態において、カーゴ分子を含む送達ビヒクルは、医薬組成物の一部であり、疾患状態を処置及び/又は防止するために投与される。処置は、予防(防止)、改善又は治療の利益を提供し得る。医薬組成物は、任意の好適な投薬量で投与される。
【0099】
一実施形態において、医薬組成物は、非経口で、すなわち動脈内、静脈内、皮下又は筋肉内に投与される。更なる実施形態において、医薬組成物は、腫瘍内又は子宮内投与用である。別の実施形態において、医薬組成物は、鼻腔内に、硝子体内に、網膜下に、くも膜下に、又は他の局所経路で投与される。
【0100】
医薬組成物は、薬学的に許容される塩及び/又は賦形剤を含む。
【0101】
本明細書に記載の組成物は、患者に投与され得る。患者という用語は、本明細書において使用される場合、ヒト又は非ヒト対象を含む。
【0102】
以下の実施例は、例示のためだけに提供され、本発明の範囲を限定することを目的としない。
【実施例
【0103】
材料
脂質1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(DSPC)及び1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(PEG-DMG)を、Avanti Polar Lipids社(Alabaster、AL)から購入した。コレステロール及び10×リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)を、Sigma Aldrich社(St Louis、MO)から購入した。イオン化可能アミノ脂質は、参照により本明細書に組み入れられる米国仮特許出願第63/194,471号、名称「Method for Producing an Ionizable Lipid」で以前に説明されたように合成した。
【0104】
APExBIO Technology LLC社(Houston、TX)から購入したホタルルシフェラーゼをコードするmRNAを使用して、ルシフェラーゼ活性を分析した。
【0105】
Integrated DNA Technologies社(IDT社、Coralville、IA)から購入したホタルルシフェラーゼを標的とするsiRNAを使用して、細胞株においてホタルルシフェラーゼをノックダウンするLNPの能力を評価した。
【0106】
方法
mRNA又はsiRNAを含有する脂質ナノ粒子(LNP)の調製
製剤化に使用される脂質、nor-MC3又はMC3、DSPC、コレステロール、及びPEG-DMGを、適切な比率で、合計10mMの脂質の最終濃度までエタノールに溶解した。核酸(siRNA又はmRNA)を、25mMの酢酸ナトリウム、pH4又はクエン酸ナトリウム、pH4等の適切な緩衝液に、適切なアミン対ホスフェート比率を達成するために必要な濃度まで溶解した。Kulkarniら、2018、ACS Nano、12:4787及びKulkarniら、2017、Nanoscale、36:133347(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように、急速混合デバイスを使用して、水溶液及び有機溶液を、3:1(それぞれv/v)の流速比率及び20mL/分の全流速で混合した。得られた混合物を、直接1000倍体積のPBS、pH7.4に対して透析した。製剤は全てAmicon遠心分離フィルタユニットを使用して濃縮し、以下に記載の方法を使用して分析した。
【0107】
LNPの分析
Malvern Zetasizer(Worcestershire、UK)による動的光散乱の後方散乱測定を使用して、PBS中のLNPの粒径分析を行った。報告された粒径は、数加重平均直径(nm)に対応する。Cholesterol E-Total Cholesterol Assay(Wako Diagnostics社、Richmond、VA)を使用して製造者の推奨に従い測定されたコレステロール含有量からの外挿により、全脂質濃度を決定した。Quant-iT RiboGreen Assayキット(Invitrogen社、Waltham、MA)を使用して、製剤のカプセル化効率を決定した。簡潔に説明すると、2%のTrioton Tx-100を含有するTEの溶液に脂質ナノ粒子を溶解することにより、溶液中の全siRNA又はmRNA含有量を測定し、Tritonを含まないTE溶液中のRiboGreen蛍光に基づいて溶液中の遊離DNAベクター(LNPの外部)を測定した。変更を加えたBligh-Dyer抽出手順を使用して、製剤中の全siRNA又はmRNA含有量を決定した。簡潔に説明すると、siRNA又はmRNAを含有するLNP製剤をクロロホルム、メタノール、及びPBSの混合物に溶解して単一相を形成し、分光光度計を使用して260nmでの吸光度を測定した。
【0108】
Huh7細胞におけるin vitro分析
10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で、Huh7細胞を培養した。細胞の処理のために、10,000の細胞を96ウェルプレートの各ウェルに加えた。24時間後、培地を吸引し、0.03~10μg/mL mRNAの範囲にわたる関連する濃度の希釈LNPを含有する培地で置き換えた。24時間後に発現分析を実行し、Steady-Glo Luciferaseキット(Promega社)を使用してルシフェラーゼレベルを測定した。Glo Lysis緩衝液(Promega社)を使用して細胞を溶解した。
【0109】
C57Bl/6マウスにおけるin vivo分析
ホタルルシフェラーゼをコードするLNP-mRNAを、6~8週齢のC57BL/6マウスに静脈内(尾静脈)に注射した。注射から4時間後、動物を安楽死させ、肝臓及び脾臓を取り出した。組織をGlo Lysis緩衝液中で均質化し、Steady Glo Luciferaseアッセイキットを使用してルシフェラーゼアッセイを行った(製造者の推奨に従う)。
【0110】
nor-MC3の有機合成
別段に指定されない限り、THF(Ar下でNa/ベンゾフェノンから新たに蒸留した)、CH2Cl2(Ar下でCaH2から新たに蒸留した)を除いて、試薬及び溶媒は全て市販の製品であり、それ以上精製することなく使用した。「乾燥メタノール」は、マグネシウム片から新たに蒸留した。反応は全て、アルゴン雰囲気下で行った。水性処理からの反応混合物を、フィルタ管に保持された無水Na2SO4のプラグ上に通すことにより乾燥させ、減圧下で回転蒸発させた。シリカゲルでコーティングされたシリカゲルプレート(Merck 60 F254プレート)上で薄層クロマトグラフィーを行い、230~400メッシュシリカゲル上でカラムクロマトグラフィーを行った。I2又は過マンガン酸カリウム溶液での染色により、展開したクロマトグラムの可視化を行った。核磁気共鳴スペクトル、1H(300MHz)及び13C NMR(75MHz)を、CDCl3溶液中室温で記録した。1H NMRスペクトルは残留CHCl3(7.26ppm)に対して参照され、13C NMRスペクトルは、CDCl3三重項の中央線(77.00ppm)に対して参照された。化学シフトは、δスケールでパーツパーミリオン(ppm)で報告される。多重度は、「s」(一重項)、「d」(二重項)、「t」(三重項)、「q」(四重項)、「m」(多重項)として報告され、更に「app」(明確)及び「br」(幅広)として分類された。低分解能及び高分解能質量スペクトル(m/z)を、エレクトロスプレー(ESI)及び電界脱離/電界イオン化(FD/FI)モードで得た。
【0111】
リノール酸メチルからのnor-MC3の合成を、以下に記載のように行った。議論されたように、nor-MC3の合成は、上記スキーム3に記載のように脂肪酸エステルを向山条件下でクライゼン縮合に供し、ケトエステル6を生成することを含む。ケトエステル6は、その後加水分解及び脱炭酸されてケトン7を生成し、これが更にアルコール8(又は8a)まで還元され得る。共有の同時係属米国仮特許出願第63/194,471号(参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように、また以下で説明されるように、アルコール8(又は8a)のエステル化はMC3型脂質をもたらす。
【0112】
(a)リノール酸メチル:メチル(11Z,14Z)-2-((7Z,10Z)-ヘキサデカ-7,10-ジエン-1-イル)-3-オキソイコサ-11,14-ジエノエートからのケトエステルの合成。
【0113】
【化13】
【0114】
トルエン(12mL)中のTiCl4(9.6g、5.7mL、45.0mmol)の溶液を、トルエン(50.0mL)中の適切なメチルエステル(例えばリノール酸メチル;30.0mmol、8.8g)及びトリブチルアミン(Bu3N)(10.2g、12.9mL、54.0mmol)の低温(0℃、氷浴)撹拌溶液に滴下により添加した。0℃で1.5時間撹拌した後、TLC及び1H NMRにより決定されるように反応は完了した。次いで反応溶液をヘキサン(60mL)で希釈し、水(60mL)を慎重に添加した。水の添加により熱が発生したため、混合物の温度を撹拌及び氷浴中での冷却によって制御した。有機相を分離し水性相を更なるヘキサン(2×40mL)で抽出した。合わせた有機抽出物を水で洗浄し、無水Na2SO4のプラグ上に通し、真空下で濃縮した。残渣のプロトンNMR分析では、いくらかの残留トルエンの存在が示された。懸濁した無機物質(おそらくはTiO2)もまた存在し得る。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(ヘキサン中3%ジエチルエーテル)により精製して純粋なケトエステル(96%)を生成してもよいが、次の工程に直接進めてもよい。NMRでは、生成物は典型的には2:1の比率のケト(主要)及びエノール誘導体の混合物として存在することが示された。1H NMR (ケト体) δ 5.37 (m, 8H), 3.77 (s, 3H), 3.45 (t, 1 H), 2.79 (t, 4H), 2.40 (t, 2H), 2.07 (m, 8H), 1.85-1.20 (m, 32H), 0.91 (t, 6H). 13C NMR (ケト体) δ 205.6, 170.6, 130.2, 130.1, 129.9, 129.8, 59.2, 52.4, 42.0, 32.1, 29.9, 29.8, 29.8, 29.7, 29.5, 29.4, 29.4, 29.3, 29.2, 29.1, 28.4, 27.6, 27.4, 27.3, 27.3, 23.6, 22.8, 14.3 (いくつかのピークが二重). LRMS: m/z 557 [M+H]+, 579 [M+Na]+
【0115】
(b)ケトン:(6Z,9Z,26Z,29Z)-ペンタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-18-オンを生成するためのケトエステルの加水分解及び脱炭酸。
【0116】
【化14】
【0117】
10%w/vol NaOH水溶液(5mL)を、95%エタノール(25mL)中の上記粗ケトエステル(5.0g)の溶液に添加した。混合物を室温で一晩撹拌した。3~4滴の反応混合物を3NのHCl水溶液(0.5mL)に添加し、混合物をヘキサンで抽出し、合わせた抽出物を乾燥するまで蒸発させ、残渣を1H NMRにより確認することによって、反応の完了を確認した。OCH3シグナルの消失、及び3.45(ケトエステル)の三重項の3.51(ケト酸)への下方シフトは、反応が完了したことを示した。反応混合物をロータリーエバポレータで濃縮してエタノールを除去した。水性残渣を氷浴中で冷却し、ヘキサン(60mL)で希釈し、濃HCl水溶液を慎重に滴下により添加しながら激しく撹拌した(熱が発生)。混合物のpHが約1となったら、相を分離し、水性相を更なるヘキサン(2×20mL)で抽出した。合わせた有機抽出物をDI水(30mL)で洗浄し、無水Na2SO4のプラグ上に通し、ロータリーエバポレータで濃縮した。粗生成物のNMRスペクトルを記録して、所望のケト酸の存在を確認した。回転蒸発からの残渣を含むフラスコをセプタムで栓をし、アルゴンで完全にパージした(バルーン;ニードルベント)。フラスコをヒートガンで熱くて触れなくなるまで(100~130℃)加熱すると(まだアルゴン下で封止してニードルで通気しながら)、脱炭酸が開始した。脱炭酸反応が進行するにつれて、残渣の発泡が顕著であった。約10分後、それ以上の発泡は明確に見られなかった。フラスコを室温まで冷却し、残渣を再び1H NMRにより分析すると、それがほぼ純粋なケトンであることが明らかとなった。所望により、粗ケトンをカラムクロマトグラフィーにより精製してもよい(勾配:ヘキサン中1→3%v/vエーテル;収率97%)。しかしながら、最も有利には、粗ケトンは次のステップに直接導入される。1H NMR δ 5.32 (m, 8H), 2.74 (t, 4H), 2.35 (t, 4H), 2.02 (m, 8H), 1.55-1.20 (m, 28H), 0.87 (t, 6H). 13C NMR δ 210.9, 130.0, 129.8, 128.0, 127.8, 42.6, 31.4, 29.5, 29.24, 29.22, 29.1, 29.0, 27.0 (2つの重なったピーク), 25.5, 23.7, 22.5, 14.0. LRMS m/z 499 [M+H]+, 521 [M+Na]+.
【0118】
(c)ケトンからアルコール:(6Z,9Z,26Z,29Z)-ペンタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-18-オールへの還元。
【0119】
【化15】
【0120】
0℃(氷浴)の95%エタノール(10mL)中のケトン(2mmol)の撹拌溶液に、固体NaBH4(2mmol)を少しずつ添加した。0℃で1時間撹拌した後、TCL(ヘキサン中5%エーテル)によって、又はより確実には、3~4滴の反応混合物を飽和NH4Cl水溶液(0.5mL)に添加し、ヘキサンで抽出し、合わせた抽出物を乾燥するまで蒸発させ、残渣を1H NMRにより確認することによって、反応の完了を確認した。いずれの方法も、反応が完了したことを示していた。飽和NH4Cl水溶液を慎重に添加することによって(H2発生及び起泡のために注意する必要がある)反応物をクエンチし、ロータリーエバポレータで濃縮してエタノールを除去した。水性残渣をヘキサン(3×10mL)で抽出した。合わせた抽出物を無水Na2SO4のプラグに通して濃縮すると粗アルコールが得られ、これをヘキサン中5→10%v/v酢酸エチルでのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した(収率91%)。1H NMR δ 5.36 (m, 8H), 3.58 (m, 1H), 2.78 (t, 4H), 2.1-1.9 (m, 8H), 1.6-1.2 (m, 36H), 0.89 (t, 6H). LRMS: m/z 501 [M+H]+, 523 [M+Na]+
【0121】
(d)(6Z,9Z,26Z,29Z)-ペンタトリアコンタ-6,9,26,29-テトラエン-18-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(=nor-MC3)を生成するためのアルコール(4-ジメチルアミノ)ブタノイル化のエステル化の手順。
【0122】
【化16】
【0123】
乾燥CH2Cl2(3mL)中の上記アルコール(1mmol、1.0当量)、4-ジメチルアミノ酪酸塩酸塩(1.2mmol、1.2当量)、ジイソプロピルエチルアミン(1.5mmol、1.5当量)、及びDMAP(0.1mmol、0.1当量)の溶液を室温で5分間撹拌してから、EDCI(1.5mmol、1.5当量)を添加した。混合物をアルゴン下で室温で一晩撹拌すると、TLC(CH2Cl2中5%MeOH)及び1H NMRは、反応が完了したことを示していた。溶液を更なるCH2Cl2(10mL)で希釈し、飽和NaHCO3水溶液(5mL)及び水(10mL)で順次洗浄した。有機相を無水Na2SO4のプラグ上に通し、真空中で濃縮した。粗生成物の残渣を、0.1%NEt3を含有するCH2Cl2中3%v/v MeOHでのフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した(収率78%)。1H NMR δ 5.33 (m, 8H), 4.85 (m, 1H), 2.75 (t, 4H), 2.40 (m, 2H), 2.34 (t, 2H), 2.20 (s, 6H), 2.02 (m, 8H), 1.77 (m, 2H), 1.50 (m, 6H), 1.39-1.17 (m, 36H), 0.87 (t, 6H). 13C NMR δ 173.3, 130.1, 130.0, 127.9, 127.8, 74.1, 59.0, 45.4, 34.1, 32.4, 31.5, 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.33, 29.30, 29.2, 27.15, 27.14, 25.3, 23.1, 14.8. LRMS: m/z 614 [M+H]+.
【0124】
(実施例1)
nor-MC3イオン化可能脂質を含むmRNA含有LNPは、MC3ベンチマークより優れたトランスフェクション効率を示す
ルシフェラーゼをコードするmRNAを含有する、イオン化可能脂質nor-MC3又はMC3、DSPC、コレステロール及びPEG-DMGを含有するLNP製剤を調製した。脂質ナノ粒子は、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMGを含み、窒素対リン比率(N/P)は6であった。
【0125】
nor-MC3対MC3ベンチマークイオン化可能脂質を含むLNPのトランスフェクション効率を、図1Bに示す。nor-MC3を含むLNPのトランスフェクション効率は、Huh7の添加後に測定されたmRNAの各濃度(μg/mL mRNA)において、MC3ベンチマーク脂質のものより優れており、測定された最高用量(10μg/mL mRNA)において著しく改善した。MC3は、核酸をカプセル化するLNP製剤のための最新技術のイオン化可能脂質であり、その炭素鎖はリノール酸から得られた不飽和C18部分であり、これはsiRNA製剤の最大効力についてこれまで特定されている最良の鎖であることが報告されているため、これらの結果は特に驚くべきものである。(Sempleら、2010、Nat. Biotechnol. 28:172~176及びHeyesら、2005、J. Controlled Release、107:276~287。)それによれば、より短鎖の脂質は低減された有効性を有することが推定されたが、反対の効果が観察された。
【0126】
nor-MC3及びMC3を含有するmRNA LNPのLNP径、PDI及びカプセル化効率の特性決定研究の結果を、図1Aに示す。有利には、nor-MC3脂質を含有するmRNA-LNPは、MC3を含有するmRNA-LNPと同様の径、PDI及びmRNAのカプセル化効率(捕捉)を示した。
【0127】
(実施例2)
nor-MC3を含むmRNA含有LNPは、MC3ベンチマークより優れた肝臓及び脾臓へのmRNAのin vivo送達を示す
50/10/38.5/1.5モル%のnor-MC3又はMC3イオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMG及びルシフェラーゼをコードするmRNAを含有するLNP製剤を、C57BL/6マウスへの注射後に肝臓及び脾臓におけるin vivo生体内分布について試験した。mRNA用量は1mg/kgであった。注射から4時間後に、肝臓又は脾臓における発光強度を測定した。
【0128】
図1Cに示される結果は、肝臓1mg当たりの発光強度が、MC3ベンチマークよりもnor-MC3において高かったことを示している。脾臓1mg当たりの発光強度についても同様の結果が見られた。
【0129】
C18不飽和炭素鎖(リノール酸から得られる)を有するMC3が、C17不飽和鎖を有するより短鎖のnor-MC3に比べて核酸送達の改善された効力を提供すると推定されたため、nor-MC3-LNPにより肝臓だけでなく脾臓にもmRNAの優れた送達を示す結果は、特に驚くべきものである。
【0130】
(実施例3)
nor-MC3を含有するsiRNA含有LNPは、MC3ベンチマークと同等のトランスフェクション効率を示す
実施例1及び実施例2で実証されたように、nor-MC3を有するmRNAカプセル化LNP製剤は、MC3製剤に比べて優れた又は同等のトランスフェクション効率及びin vivoでの生体内分布の著しい改善を有する。nor-MC3とMC3とを比較するin vitro物理的特性評価及びトランスフェクション研究を、siRNAを含有するLNPを用いて同様に行った。結果を以下で議論する。
【0131】
ルシフェラーゼをコードするsiRNAを含有する、イオン化可能脂質nor-MC3又はMC3、DSPC、コレステロール及びPEG-DMGを含有するLNP製剤を、上述のように調製した。脂質ナノ粒子は、50/10/38.5/1.5モル%のイオン化可能脂質/DSPC/chol/PEG-DMGを含み、窒素対リン比率(N/P)は3であった。
【0132】
トランスフェクション効率を図2Bに示す。nor-MC3を含有するsiRNA LNPのトランスフェクション効率は、全般的にMC3ベンチマーク脂質のものと同等であるが、0.5μg/mLのsiRNAではMC3より良好であった。nor-MC3及びMC3のLNP製剤の半最大有効siRNA濃度(EC50)は比較的同等であった(nor-MC3のEC50=0.1644μg/mL siRNA、MC3のEC50 =0.1308μg/mL siRNA)。リノール酸から得られたC18部分はsiRNA送達に関して最も高い有効性を提供することを報告している以前の研究を鑑みて、nor-MC3はin vitroトランスフェクションにおいてMC3よりも低い有効性を有すると推定されたため、これらの結果もまた驚くべきものである。
【0133】
LNP径、PDI及びsiRNAのカプセル化効率に関するnor-MC3対MC3の結果を図2Aに示す。有利には、nor-MC3脂質を含むLNPは、MC3と同様の径、PDI及びsiRNAのカプセル化効率(捕捉)を示した。
【0134】
実施例は短鎖MC3型脂質の調製、その製剤及び特性を例示することを意図するが、決して本発明の範囲を限定することを意図しない。
図1-1】
図1-2】
図2
【国際調査報告】