(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】HAPLN1を含む血管疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240528BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240528BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20240528BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20240528BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240528BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240528BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61P9/00
A61P9/12
A61P9/10 101
A23L33/18
C07K14/47
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573673
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 KR2022007649
(87)【国際公開番号】W WO2022255749
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0069822
(32)【優先日】2021-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】512291064
【氏名又は名称】チュンアン ユニバーシティー インダストリー アカデミック コアポレイション ファウンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】キム デキョン
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018MD20
4B018ME14
4B018MF14
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA22
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA42
4C084ZA45
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA01
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、HAPLN1を有効成分として含む血管退行化、損傷血管の修復及び血管疾患の予防または治療用組成物に関するものであって、より詳細には、HAPLN1を有効成分として含有する血管疾患の予防または治療用薬学組成物及び健康機能食品組成物を提供する。HAPLN1は、血管壁のエラスチン線維症の損傷とトランスゲリンの損失とを抑制し、改善させ、血管平滑筋細胞(VSMC)でNF-κBまたはFAKのリン酸化を効果的に抑制するので、それを活用して老化や高脂肪食餌による血管損傷及び多様な血管疾患を予防、改善または治療することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HAPLN1を有効成分として含有する、血管疾患の予防または治療用薬学組成物。
【請求項2】
前記HAPLN1は、
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質断片であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項3】
前記組成物は、
血管壁のエラスチン線維層の損傷を抑制し、改善させることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項4】
前記組成物は、
トランスゲリンの損失を改善させることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項5】
前記組成物は、
血管平滑筋細胞(VSMC)でNF-κBまたはFAKのリン酸化を抑制することを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項6】
前記血管疾患は、
動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、出血、血管壁障害による脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、心筋梗塞、及び末梢血管疾患からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項1に記載の薬学組成物。
【請求項7】
HAPLN1を有効成分として含有する、血管疾患の予防または改善用健康機能食品組成物。
【請求項8】
前記HAPLN1は、
配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質断片であることを特徴とする、請求項7に記載の健康機能食品組成物。
【請求項9】
前記血管疾患は、
動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、出血、血管壁障害による脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、心筋梗塞、及び末梢血管疾患からなる群から選択される1つ以上であることを特徴とする、請求項7に記載の健康機能食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HAPLN1(hyaluronan and proteoglycan link protein 1)を有効成分として含む血管退行化、損傷血管の修復及び血管疾患の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
血管(blood vessel)は、動物の体内に存在する大小の管であって、酸素と栄養分とを積んだ血液を体の隅々に流し、末梢細胞と組織とが排泄する二酸化炭素と老廃物とを受け入れる役割を果たす。血管は、構造と機能とによって、動脈、静脈及び毛細血管に分けられる。動脈は、酸素や栄養を含有した血液を心臓から全身に送る管であって、次第に細くなって毛細血管に移行する。毛細血管と組織との間で物質交換が行われる。毛細血管は、再び集まって静脈になって心臓に戻る。ヒトの血管の全長は、120,000kmに至る。
【0003】
全世界的に高齢化が加速化されながら、健康長寿(Healthy longevity)に対する関心が高まっている中、老化関連老人性及び慢性疾患の予防と治療需要とが増大している。大韓民国の死亡者10人のうち、8人の主要死亡原因は、癌と心/脳血管疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患などの慢性疾患であると表われ、その中、血管疾患は、大韓民国の死亡原因2位であり、全世界の死亡原因1位である。このような血管疾患は、人口高齢化によってさらに増加するが、50歳以後に急に増加して、韓国人の平均寿命に該当する75~79歳に最大になった後、85歳まで比較的高いレベルに保持されている。「ヒトは血管と共に老いる」、「老いた血管は心/脳血管疾患の種を育てる沃土である」とする程度に血管疾患は、老化と密接な関連がある。
【0004】
血管疾患は、血管が詰まるか、破れながら、組織に血液供給の障害を誘発する疾患であって、動脈硬化症、動脈瘤、高血圧/出血、虚血及び血管壁障害を起こして脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、心筋梗塞、高血圧など多様な疾病を誘発する。代表的な血管疾患として動脈硬化症と高血圧とが挙げられるが、動脈硬化症は、古い水道管に異物が積もって詰まるように、血管内側にコレステロールが積もって狭くなるか、詰まってしまう疾患であって、狭心症や心筋梗塞を招いて激しい場合、突然死を起こしたりする慢性炎症性心血管疾患である。
【0005】
米国国立保健院(NIH)によって1958年設立された「ボルチモア老化縦断研究」(BLSA;Baltimore Longitudinal Study of Aging)によれば、年を取るにつれて表われる血管の主な変化を「血管エイジング」または「血管老化(vascular aging)」と呼び、その主な特徴は、血管壁の肥厚、弾力性の低下、血管内皮細胞機能異常などであり、このような構造及び機能的変化を動脈硬化と高血圧との究極的な主な要因として提示している。2003年サイエンス誌でワシントン大学のMartin博士は、このような血管疾患を老化(aging)と関連付けながら、それを克服するためには、治療よりも予防の重要性と共に老化遅延(Aging delay)を強調した。したがって、血管疾患を克服するためには、血管老化を遅延または予防することができる技術や薬物を開発する研究が非常に重要である。また、2016年Peterなどは、心血管疾患に対する予防の必要性を強調し、その核心概念として早期血管老化(Early vascular aging)を提唱した。
【0006】
血管老化の主要な変化である血管中膜肥厚化(vascular media thickness)と弾力性消失(elasticity loss)とを予防するか、逆転させることができる薬物の発見と開発は、血管関連疾患を克服する核心鍵として知られているが、現在のところ、このような薬物の出現は行われていない。このような病理学的変化の中心的役割を行う細胞が、まさに血管平滑筋細胞(vascular smooth muscle cells、VSMC)である。VSMCは、正常血管壁内、特に、中膜(media)に最も多く存在し、血管の収縮(contractility)と膨張(distensibility)作用において中心役割を担当する一種の筋肉細胞であって、血管病変の生成に主導的に関与する。
【0007】
正常血管でVSMCは、収縮及び膨張に必要な主要タンパク質であるエラスチン(elastin)の重合体であるエラスチン線維(elastin fiber)を作り、元気な正常細胞のバイオマーカーであるトランスゲリン(transgelin、SM22α、TAGLN)が豊かな細胞に分化(differentiation)しながら同時に増殖を止める。このような形態の細胞を収縮型平滑筋細胞(contractile phenotype of VSMC)と呼ぶ。しかし、老化や退行化で血管機能に慢性的異常が生じて脱分化(de-differentiation)状態に変わって分化以前段階に戻れば、細胞は、増殖型平滑筋細胞(synthetic or proliferative phenotype of VSMC)に転換(switching)されて増殖(proliferation)と移動(migraton)とを再開することにより、動脈硬化に発展する始発点となり、このような病理学的変化は、トランスゲリンの損失が主な原因としてよく知られており、特に、重要な指標(key biomarker)になる。このような生化学的な変化の結果、病変部位の血管壁が厚くなり、硬くなり、同時に多様な単核細胞(monocyte)など炎症細胞を動員し、活性化し、このような一連の過程を経た結果、動脈硬化症(atherosclerosis)と高血圧、静脈瘤(aneurysm)、血管再狭窄(restenosis)など多様な血管疾患を起こす。
【0008】
本HAPLN1タンパク質と関連した従来技術を説明すれば、前記タンパク質のレベルを測定することにより、バイオマーカーとしての用途と役割とを提案しているか、血管疾患を抑制するよりはむしろ疾病を誘発する可能性がある物質として報告されている。したがって、このようにHAPLN1が高血圧、動脈硬化症のような血管疾患を抑制することにより、関連疾患を治療または予防することができる医薬品としての可能性を提示した報告はまだない実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、血管老化及び損傷抑制の効果を有したタンパク質を利用した血管疾患治療組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を果たすために、本発明は、HAPLN1を有効成分として含有する血管疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、HAPLN1を有効成分として含有する血管疾患の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるHAPLN1は、血管壁のエラスチン線維症の損傷とトランスゲリンの損失とを抑制し、改善させ、血管平滑筋細胞(VSMC)でNF-κBまたはFAK(Focal Adhesion Kinase)のリン酸化を効果的に抑制するので、老化や高脂肪食餌による血管損傷及び多様な血管疾患の予防または治療のための薬学組成物または健康機能食品組成物として活用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実験例による高脂肪食餌マウスのヒト組換えHAPLN1(rhHAPLN1)投与有無による胸部動脈壁の変化を示した図面である。
【
図2】高脂肪食餌マウスのrhHAPLN1投与によるエラスチン線維の含量変化を観察するために、定量的レベル測定が可能なEVG(Elastic tissue fibers-Verhoeff’s Van Gieson)染色を行った結果である。
【
図3】統計的な有意性を評価するために、Victoria-blue van Gieson染色及びエラスチン分解段階を用いて高脂肪食餌マウスの胸部大動脈でエラスチン線維の回復効果を確認した結果である。
【
図4】エラスチン分解段階に対して評価基準によるエラスチン回復効果を確認した結果である(
**P<0.01)。
【
図5】動脈硬化性動脈血管壁の重要指標であるトランスゲリンの定量的変化を観察するために、蛍光物質が結合された赤色のトランスゲリン抗体(anti-transgelin antibody labeled with Alexa Fluor)を用いて染色した結果である。
【
図6】前記
図5におけるトランスゲリン領域の赤色面積(Transgelin+Area)をImage J softwareを用いて測定した結果である。
【
図7】血管老化誘導物質として知られたインターロイキン-1β(IL-1β)処理されたヒト大動脈平滑筋細胞(Human aortic smooth muscle cells、HASMC)でrhHAPLN1投与によるリン酸化型NF-κB(p-NF-κB)の変化を確認した結果であって、互いに独立した実験5回を進行し、毎回類似している結果を導出し、代表的な結果を提示した。
【
図8】
図7のようにIL-1β処理されたHASMCでrhHAPLN1投与によるリン酸化型FAK(p-Focal adhesion kinase、p-FAK)の変化を確認した結果であって、互いに独立した実験5回以上を進行し、毎回類似している結果を導出し、代表的な結果を提示した。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明者は、HAPLN1タンパク質が多様な機転によって血管疾患を治療することができるということを確認することにより、本発明を完成した。
【0016】
本発明は、HAPLN1を有効成分として含有する血管疾患の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0017】
本明細書において、「HAPLN1」は、ヒアルロン酸をプロテオグリカンに連結してヒアルロン酸を安定化するタンパク質であって、脊椎動物の関節で最初に見つけられた細胞外基質内の構成タンパク質である。
【0018】
望ましくは、前記HAPLN1は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質断片であり、組換えヒトHAPLN1(rhHAPLN1)である。
【0019】
配列番号1:
【0020】
DHLSDNYTLDHDRAIHIQAENGPHLLVEAEQAKVFSHRGGNVTLPCKFYRDPTAFGSGIHKIRIKWTKLTSDYLKEVDVFVSMGYHKKTYGGYQGRVFLKGGSDSDASLVITDLTLEDYGRYKCEVIEGLEDDTVVVALDLQGVVFPYFPRLGRYNLNFHEAQQACLDQDAVIASFDQLYDAWRGGLDWCNAGWLSDGSVQYPITKPREPCGGQNTVPGVRNYGFWDKDKSRYDVFCFTSNFNGRFYYLIHPTKLTYDEAVQACLNDGAQIAKVGQIFAAWKILGYDRCDAGWLADGSVRYPISRPRRRCSPTEAAVRFVGFPDKKHKLYGVYCFRAYN
【0021】
本発明において、前記組成物は、老化または高脂肪食餌などの原因による血管損傷または多様な血管疾患を予防または治療することができる。
【0022】
本明細書において、「予防」とは、本発明による薬学組成物または健康機能食品組成物の投与によって血管疾患、または、前記疾患の少なくとも1つ以上の症状の発生を抑制させるか、発病を遅延させるあらゆる行為を意味する。また、再発を予防または防止するために、前記疾病に快方に向かう対象の治療を含む。
【0023】
本明細書において、「治療」とは、本発明による薬学組成物の投与によって血管疾患、または、前記疾患の少なくとも1つ以上の症状を緩和、減少、または消滅させるなど、その症状を好転させるか、有利に変更するあらゆる行為を意味する。
【0024】
より詳細には、前記組成物は、血管壁のエラスチン線維層の損傷を抑制し、改善させることができ、トランスゲリンの損失を抑制し、改善させることができる。また、前記組成物は、血管平滑筋細胞(VSMC)でNF-κBまたはFAKのリン酸化を抑制することができる。
【0025】
本発明の一実施例によれば、高脂肪食餌によって損傷したマウスの動脈血管壁が、前記HAPLN1投与によって正常食餌マウスの動脈血管壁とほぼ類似した形状に回復され、減少したトランスゲリン面積が増加し、血管平滑筋細胞の一種であるヒト大動脈平滑筋細胞でNF-κB及びFAKのリン酸化が抑制されるということを確認することができる。
【0026】
このような効果を有した前記組成物は、老化または高脂肪食餌などの原因による血管損傷を含む、血管疾患の予防または治療用途として使われ、例えば、前記血管疾患は、動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、出血、血管壁障害による脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、心筋梗塞、及び末梢血管疾患からなる群から選択される1つ以上であるが、これに制限されるものではない。
【0027】
本発明による薬学組成物は、薬学的分野の通常の方法によって製造可能である。前記薬学組成物は、前記有効成分以外に、剤型によって薬学的に許容可能な適切な担体と配合される、必要に応じて、賦形剤、希釈剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、結合剤、崩壊剤、溶剤などをさらに含んで製造可能である。前記適切な担体などは、本発明によるHAPLN1の活性及び特性を阻害しないものであって、投与形態及び剤型によって異なるように選択されうる。
【0028】
前記薬学組成物は、如何なる剤型でも適用可能であり、より詳細には、通常の方法によって経口型剤型、外用剤、坐剤及び滅菌注射溶液の非経口型剤型で剤形化して使われる。
【0029】
前記経口型剤型のうち、固型剤型は、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などの形態であって、少なくとも1つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース、ラクトース、ソルビトール、マンニトール、セルロース、ゼラチンなどを混ぜて調剤することができ、単純な賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も含まれうる。また、カプセル剤型の場合、前記言及した物質以外にも、脂肪油のような液体担体をさらに含みうる。
【0030】
前記経口型剤型のうち、液状剤型は、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、よく使われる単純希釈剤である水、流動パラフィン以外に、さまざまな賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれうる。
【0031】
前記非経口剤型は、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤が含まれうる。非水性溶剤、懸濁剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが使われる。坐剤の基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴール、トゥイーン61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが使われる。これに制限されず、当該技術分野に知られた適した製剤をいずれも使用可能である。
【0032】
また、本発明による薬学組成物は、治療効能の増進のためにカルシウムやビタミンD3などをさらに添加することができる。
【0033】
本発明による薬学組成物は、薬学的に有効な量で投与される。
【0034】
本明細書において、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/危険の比率で疾患の治療に十分であり、副作用を起こさない程度の量を意味する。
【0035】
前記薬学組成物の有効容量レベルは、使用目的、患者の年齢、性別、体重及び健康状態、疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与方法、投与時間、投与経路及び排出比率、治療期間、配合または同時使われる薬物を含む要素及びその他の医学分野によく知られた要素によって異なるように決定される。例えば、一定ではないが、一般的に0.001~100mg/kgであって、望ましくは、0.01~10mg/kgを一日1回ないし数回投与される。前記投与量は、如何なる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
前記薬学組成物は、血管疾患が発生する任意の動物に投与することができ、前記動物は、例えば、ヒト及び霊長類だけではなく、牛、豚、馬、犬などの家畜などを含みうる。
【0037】
前記薬学組成物は、製剤形態による適当な投与経路で投与され、目的組織に到達することができる限り、経口または非経口の多様な経路を通じて投与される。投与方法は、特に限定する必要なしに、例えば、経口、直腸または静脈、筋肉、皮膚塗布、皮下、呼吸器内吸入、子宮内膜または脳血管内(intracere-broventricular)注射などの通常の方法で投与される。
【0038】
前記薬学組成物は、血管疾患の予防または治療のために、単独で使われ、手術または他の薬物治療などと併用して使われる。
【0039】
また、本発明は、HAPLN1を有効成分として含有する血管疾患の予防または改善用健康機能食品組成物を提供する。
【0040】
望ましくは、前記HAPLN1は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質断片であり、組換えヒトHAPLN1(rhHAPLN1)である。
【0041】
前記組成物は、血管壁のエラスチン線維層の損傷を抑制し、改善させることができ、トランスゲリンの損失を抑制し、改善させることができる。また、前記組成物は、血管平滑筋細胞(VSMC)でNF-κBまたはFAKのリン酸化を抑制することができて、老化または高脂肪食餌などの原因による血管損傷または多様な血管疾患を予防または改善しうる。
【0042】
本明細書において、「改善」とは、本発明による健康機能食品組成物の摂取によって血管疾患、または、前記疾患の少なくとも1つ以上の症状が緩和、減少、または消滅させるなど、その症状を好転させるか、有利に変更するあらゆる行為を意味する。
【0043】
前記血管疾患は、動脈硬化症、高血圧、動脈瘤、出血、血管壁障害による脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、心筋梗塞、及び末梢血管疾患からなる群から選択される1つ以上であるが、これに制限されるものではない。
【0044】
本発明による健康機能食品組成物において、前記健康機能食品は、血管疾患の予防または改善の目的であって、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、シロップまたは飲料などで製造可能であり、前記食品が取ることができる形態には制限がなく、通常の意味の食品をいずれも含みうる。例えば、飲料及び各種のドリンク、果実及びその加工食品(フルーツ缶詰、ジャムなど)、魚類、肉類及びその加工食品(ハム、ベーコンなど)、パン類及び麺類、クッキー及びスナック類、乳製品(バター、チーズなど)などが可能であり、通常の意味での機能性食品をいずれも含みうる。また、動物のための飼料として用いられる食品も含みうる。
【0045】
前記健康機能食品組成物は、当業者に通常使われる食品学的に許容可能な食品添加剤(食品添加物)及び適切なその他の補助成分をさらに含んで製造可能である。
【0046】
前記食品添加物としての適否は、他の規定がない限り、食品医薬品安全処に承認された食品添加物公典の総則及び一般試験法などによって当該品目に関する規格及び基準によって判定することができる。前記「食品添加物公典」に収載された品目としては、例えば、ケトン類、グリシン、クエン酸カルシウム、ニコチン酸、ケイ皮酸などの化学的合成物;紺色素、甘草抽出物、結晶セルロース、コウリャン色素、グアーガムなどの天然添加物;L-グルタミン酸ナトリウム製剤、麺類添加アルカリ剤、保存料製剤、タール色素製剤などの混合製剤類などが挙げられる。
【0047】
前記その他の補助成分は、例えば、香味剤、天然炭水化物、甘味剤、ビタミン、電解質、着色剤、ペクチン酸、アルギン酸、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸化剤などをさらに含有することができる。特に、前記天然炭水化物としては、ブドウ糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、及びデキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド、キシリトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖アルコールを使用することができ、甘味剤としては、タウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤やサッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを使用することができる。
【0048】
本発明による健康機能食品に含有されたHAPLN1の有効容量は、血管疾患の予防または改善など、その使用目的によって適切に調節される。前記組成物は、食品を原料として一般薬品の長期服用時に発生する副作用などがない長所があり、携帯性に優れて、血管疾患の予防または改善のための補助剤として摂取される。
【0049】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。但し、下記の実施例は、本発明の内容を例示するものであり、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものではない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0050】
<実施例1>組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)の生産
【0051】
1-1.組換えヒトHAPLN1タンパク質のアミノ酸配列
【0052】
組換えHAPLN1タンパク質を構成するアミノ酸配列は、次の通りである。
【0053】
DHLSDNYTLDHDRAIHIQAENGPHLLVEAEQAKVFSHRGGNVTLPCKFYRDPTAFGSGIHKIRIKWTKLTSDYLKEVDVFVSMGYHKKTYGGYQGRVFLKGGSDSDASLVITDLTLEDYGRYKCEVIEGLEDDTVVVALDLQGVVFPYFPRLGRYNLNFHEAQQACLDQDAVIASFDQLYDAWRGGLDWCNAGWLSDGSVQYPITKPREPCGGQNTVPGVRNYGFWDKDKSRYDVFCFTSNFNGRFYYLIHPTKLTYDEAVQACLNDGAQIAKVGQIFAAWKILGYDRCDAGWLADGSVRYPISRPRRRCSPTEAAVRFVGFPDKKHKLYGVYCFRAYN(配列番号1)
【0054】
1-2.組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)の発現、精製及び保管
【0055】
組換えヒトHAPLN1(rhHAPLN1;gene number 2678736)の製造のために、組換えヒトHAPLN1アミノ酸配列が符号化されたDNAベクター(vector)を宿主細胞としてExpiTM 293細胞(ThermoFisher Scientific Co.,Waltham,MA,USA)を使用した。精製のために、アミノ末端に分泌シグナルペプチド(signal peptide)及び10個のヒスチジン(H、His、histidine)、そして、TEVタンパク質分解酵素(TEV protease)-認知配列(TEV recognition site)を挿入した状態で発現させた。ベクター感染3日後、培養液を収集してHisTrap column(GE Healthcare,IL,USA)を通じて精製した後、TEV proteaseでTEV protease-認知配列を切断し、ヒスチジンを含む分子をDynaBeads(Thermo Fisher Scientific)を使用して除去した。このように得た溶液を40mM Tris-HCl、1M NaCl、pH8.0に対して16時間透析を行った。最終精製品のタンパク質濃度は、0.11mg/mlであって、溶媒は、20mM Tris-HCl、0.5M NaCl、pH8.0、50%グリセロール(glycerol)として1回投与量として小分け後、-20℃冷蔵庫に保管して使用した。
【0056】
<実施例2>組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)の繰り返し腹腔投与による高脂肪食餌マウスの動脈血管構造の改善効果の確認
【0057】
2-1.実験動物の準備及び飼育
【0058】
実験動物は、9週齢の雌C57BL/6J(韓国基礎科学研究院(KBSI)、大田市、大韓民国)マウスを対照群(PBS)と投与群(rhHAPLN1)として設定した。水は、二日に一回ずつ交換し、自在に食べるようにし、マウスは、4匹ずつ1ケージに置き、高脂肪飼料は、毎日22gずつ給与し、飼育室内の温度は、21~24℃、湿度は、40%~60%に保持し、昼と夜との周期は、それぞれ12時間とした。対照群と投与群は、それぞれ8匹ずつ割り当てた。投与群(rhHAPLN1)は、リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline;PBS)に希釈した組換えrhHAPLN1を1回100μlの容量で0.1mg/kgの投与量として腹腔内注射(intraperitoneal injection;IP injection)し、3日ごとに1回、総30日間10回投与で進められた。残りの2つの対照群は、同量のPBSを同じ方法で投与した。
【0059】
2-2.高脂肪食餌摂取マウス動脈壁H&E染色法によるヒト組換えHAPLN1の血管構造の改善効果の確認
【0060】
高脂肪食餌マウスは、16週間atherogenic Paigen diet(PD;15.8%脂肪:ココアバター約半分、コレステロール1.25%及びコレステロール0.5%)飼料を食べさせた(製品番号TD88051)。前記高脂肪食餌マウスにPBSまたはrhHAPLN1を腹腔内注射した後、各群のマウスを麻酔後、腹腔を切開してマウス胸部動脈血管を採取して動脈壁を観察した。
【0061】
その結果、
図1に示されたように、正常食餌(Normal diet)マウスの胸部動脈壁と高脂肪食餌投与群マウス(rhHAPLN1)の胸部動脈壁とに比べて、真ん中の図面の高脂肪食餌PBS群の胸部動脈壁で典型的な動脈硬化病変が鮮明に表われるということを確認することができる。特に、中膜と内膜とのエラスチン線維層が分解されるか、破壊されているということを確認することができる。一方、ヒト組換えHAPLN1タンパク質を投与した群の同じ部位の胸部動脈壁は、正常食餌マウスの動脈壁とほぼ類似した形状に著しく回復されているということを確認した。
【0062】
2-3.rhHAPLN1による高脂肪食餌摂取マウス動脈壁エラスチン線維の改善効果の確認
【0063】
動脈壁の老化と疾患とがある時、エラスチン線維は、漸次的に分解され、壊れる(Cardiovascular Research,Volume 110,Issue 3,1 June 2016,Pages 298-308)。
【0064】
これにより、前記2-2のように製造された高脂肪食マウスの胸部大動脈(Thoracic aorta)サンプルにVerhoeff’s Van Gieson/EVG(ab150667、USA)染色法を用いてエラスチン線維層の変化を確認した。前記大動脈サンプルスライドは、脱パラフィン化と再水和過程とを経た後、エラスチン線維染色試薬及び差別化試薬を使用した。チオ硫酸ナトリウム溶液とVan Gieson溶液とで染色した後、最後にアルコール中に脱水した。最終的にカナダバルサム(Canada balsam、C1795、Sigma)を用いて固定した。
【0065】
測定の正確性を保持するために、動脈染色部分に同じ領域を選択し、測定した。エラスチン線維層(elastic lamina)は、大動脈壁の断面によって変わりうるということを考慮して上から下に約40%地点の同じ断面を選択し、400倍の倍率を使用してエラスチン線維層の分解及び回復を評価した。一般飼料を食べさせたマウスを陰性対照群として、高脂肪食を食べさせたマウスをエラスチン線維層は、陽性対照群として使用した。
【0066】
また、エラスチン分解段階に対して評価基準は、下記のように4段階で施行した:
【0067】
1段階:エラスチン分解がなく、組織にエラスチン層が完全に存在する。
【0068】
2段階:薄片(lamina)エラスチンの軽微な分解または破裂現象がある。
【0069】
3段階:薄片エラスチンの中等度分解またはいくつかの破裂現象が出る。
【0070】
4段階:エラスチンが激しく分解、損失されるか、大動脈壁が破裂する。
【0071】
前記
図3から観察されたエラスチン線維の黒色面積(elastin+Area)をImage J softwareを用いてエラスチン線維の回復効果を判断した。データは、平均±SDで表示された(
**P<0.01)。
【0072】
その結果、
図2ないし
図4に示されたように、rhHAPLN1処理群は、対照群(control)に比べて高脂肪食餌によって分解されたエラスチン線維層を統計的に有意に抑制するということを確認した。
【0073】
2-4.マウス動脈壁トランスゲリン(SM22α)染色及び定量
【0074】
動脈硬化性動脈血管壁の重要指標(key biomarker)であるトランスゲリン(SM22α)の定量的変化を観察した。4ヶ月間高脂肪食餌を摂取させたマウス群(n=8)別のrhHAPLN1腹腔投与群のトランスゲリンレベル変化を観察するために、蛍光物質が結合された赤色のトランスゲリン抗体(anti-transgelin antibody labeled with Alexa Fluor)を用いて染色した。また、赤色のトランスゲリン領域の赤色面積(Transgelin+Area)をImage J softwareを用いて測定した。
【0075】
その結果、
図5及び
図6に示されたように、rhHAPLN1処理群でトランスゲリンの面積が増加するということを確認した。
【0076】
<実施例3>組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)の血管平滑筋細胞(VSMC)への投与による信号伝達経路の変化効果の確認
【0077】
3-1.ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC;VSMCの一種)の細胞培養
【0078】
ヒト大動脈平滑筋細胞(304-05a、Cell Applications、USA)をHASMC成長培地(#311-500)に培養し、T75フラスコを用いて培養した。細胞は、37℃で5% CO2がある加湿インキュベーターに培養した。HASMC細胞が約80~90%育つ時、継代培養された。パッセージ回数4-8の細胞を実験に使用した。
【0079】
3-2.HASMCでのNF-kBリン酸化の抑制効果の確認
【0080】
HASMCの炎症及び過多増殖は、再狭窄、アテローム性動脈硬化症及び高血圧を含む多様な血管疾患で核心的な役割を果たす。培養されたHASMCで炎症性及び細胞増殖性サイトカインIL-1βは、VSMC抗動脈硬化性マーカー遺伝子の発現を抑制し、炎症遺伝子の発現を誘導する。NF-κBが活性化すれば、HASMCの増殖を促進させ、HASMCの移動を誘導することができ、細胞外基質(ECM)の損傷及びプラーク破裂を起こすその他の基質金属タンパク分解酵素(Matrix Metalloproteinase、MMP)が上向き調節される。したがって、NF-κBの発現を抑制することは、動脈硬化症の調節に重要な意味を有する。
【0081】
血管老化誘導物質として知られたインターロイキン-1β(IL-1β)を培養されたHASMC細胞に処理してNF-κBの活性化とリン酸化の変化とを確認した結果、
図7に示されたように、IL-1βによって増加したリン酸化型NF-κB(p-NF-κB)が組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)によって抑制されることを確認した。これは、NF-κBが炎症因子と関連があるだけではなく、VSMC細胞の増殖に影響を与えることができるということを意味する。
【0082】
3-3.ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)でのFAKリン酸化の抑制効果の確認
【0083】
HASMCの過度な増殖及び移動は、動脈硬化症のような閉鎖性心血管疾患に寄与する。成熟した血管のHASMCは、増殖及び移動活動が抑制されるが、血管損傷後、炎症刺激は、成長因子の分泌と基質合成とを増加させてHASMCの増殖と血管内膜への移動とを促進して動脈狭窄などで動脈硬化症を誘発する。
【0084】
FAK(核焦点付着キナーゼ)は、GATA4媒介Cyclin D1転写を通じて血管平滑筋細胞(VSMC)の増殖と新たな内膜(neointima)の増殖とを調節する。FAKは、細胞増殖及び移動と関連したインテグリン(integrin)及び成長因子信号伝達経路を媒介するタンパク質チロシンキナーゼの一種であって、HASMCの移動、増殖及び炎症反応に関与する。したがって、リン酸化を通じたFAKの活性化を抑制することは、動脈硬化症の発病を抑制することができるということを意味する。
【0085】
血管老化誘導物質として知られたインターロイキン-1β(IL-1β)を培養されたHASMC細胞に処理してFAKの活性化とリン酸化の変化とを確認した結果、
図8に示されたように、IL-1βによって増加したリン酸化型FAK(p-FAK)が組換えヒトHAPLN1タンパク質(rhHAPLN1)によって抑制されることを確認した。
【0086】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者にとって、このような具体的な記述は、単に望ましい実施形態に過ぎず、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。すなわち、本発明の実質的な範囲は、特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。
【配列表】
【国際調査報告】