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特表2024-521881非アルコール性脂肪性肝疾患のための線維症バイオマーカー
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  • 特表-非アルコール性脂肪性肝疾患のための線維症バイオマーカー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪性肝疾患のための線維症バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240528BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/53 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574171
(86)(22)【出願日】2021-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 IB2021054808
(87)【国際公開番号】W WO2022254239
(87)【国際公開日】2022-12-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501372798
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ホンコン
【氏名又は名称原語表記】The University of Hong Kong
【住所又は居所原語表記】Pokfulam Road Hong Kong
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】リー,チ‐ホ
(72)【発明者】
【氏名】ラム,シウ‐リン・カレン
(72)【発明者】
【氏名】シュー,アイミン
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する対象における肝線維症の正確な非侵襲的な診断または予後のためのバイオマーカーおよび方法が開示されている。バイオマーカーにはトロンボスポンジン2(TSP2)の循環レベルが含まれており、疾患の経過中いつでも測定できる。本方法には、TSP2の循環レベルを単独での非侵襲的評価、または他の分子バイオマーカー、生理学的バイオマーカーまたは放射線撮影バイオマーカーと組み合わせた非侵襲的評価のいずれか一つが含まれる。本方法は、感度が高く、進行肝線維症を約80%以上の感度で検出する。本方法は、TSP2の循環レベルを単独で、または他の分子バイオマーカー、生理学的バイオマーカーまたは放射線撮影バイオマーカーと併用して、対象における進行肝線維症の発症リスクを正確に予測できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する対象における進行肝線維症を非侵襲的に検出する方法であって、
(a)前記対象からのサンプル中のバイオマーカートロンボスポンジン2(TSP2)の循環レベルを測定する工程、および
(b)前記対象からの前記サンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlを超える場合に、前記進行肝線維症を検出する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記測定する工程が、前記対象からの前記サンプルを捕捉試薬のセットと接触させる工程を含み、前記捕捉試薬のセットが、TSP2に対する結合特異性を有する一つ以上の抗体結合断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定することが、前記対象からの前記サンプルを捕捉試薬のセットと接触させる工程を含み、前記捕捉試薬のセットが、TSP2に対する結合特異性を有するがTSP1、TSP3、TSP4およびTSP5に対する結合特異性は有さない一つ以上の抗体結合断片を含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定する工程が、前記対象からの前記サンプルを、TSP2の異なる部位に対する結合特異性を各々が有する二つの抗体結合断片を含む捕捉試薬のセットと接触させる工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記TSP2がヒトTSP2である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが、希釈または未希釈の血液または血清である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルが、サンプル対サンプル希釈緩衝液の約1:5~1:500(v/v)の比で希釈された希釈サンプルである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記進行肝線維症が、振動制御一過性エラストグラフィー(VCTE)によって測定される約F3以上の線維症を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記進行肝線維症が、Mプローブにおいて約9.6キロパスカル(kPa)またはXLプローブにおいて9.3kPa以上の肝硬度(LS)の測定カットオフ値によって等級付けされる約F3以上の線維症を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記進行肝線維症が、前記対象からの前記サンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlより大きい場合、約80%以上の感度および約60%以上の特異性で検出される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記進行肝線維症が、約90%以上の陰性的中率で検出される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記測定する工程が、約0.01ng/ml~約0.18ng/mlのTSP2の最低検出限界を有するイムノアッセイによるものである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、NAFLDと、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患(CVD)、および慢性腎臓病(CKD)からなる群より選ばれる一つ以上の疾患とを有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を有する対象における進行肝線維症の発症リスクを検出する方法であって、
(a)前記対象からのサンプル中のバイオマーカートロンボスポンジン2(TSP2)の循環レベルを測定する工程、および
(b)ng/mlで測定される、前記対象からの前記サンプル中のTSP2の対数変換された循環レベルにおける単位増加あたりの前記進行肝線維症の発症リスクを検出する工程、
を含む方法。
【請求項15】
前記対象からの前記サンプル中のTSP2の対数変換された循環レベルにおける単位増加当たり、2.82倍以上の進行肝線維症発症リスクを検出する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記進行肝線維症の発症リスクの検出が、前記工程(a)から約0.1年~約3年の期間内のリスクについてである、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記測定する工程が、前記対象からの前記サンプルを、捕捉試薬のセットと接触させることを含み、前記捕捉試薬のセットが、TSP2に対する結合特異性を有する一つ以上の抗体結合断片を含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記測定する工程が、前記対象からの前記サンプルを、捕捉試薬のセットと接触させることを含み、前記捕捉試薬のセットが、TSP2に対する結合特異性を有するがTSP1、TSP3、TSP4、およびTSP5に対する結合特異性は有さない一つ以上の抗体結合断片を含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記測定する工程が、前記対象からの前記サンプルを、TSP2の異なる部位に対する結合特異性を各々が有する二つの抗体結合断片を含む捕捉試薬のセットと接触させる工程を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記TSP2がヒトTSP2である、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記サンプルが、希釈または未希釈の血液または血清である、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記サンプルが、サンプル対サンプル希釈緩衝液の約1:5~1:500(v/v)の比率で希釈された希釈サンプルである、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、NAFLDと、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患(CVD)、および慢性腎臓病(CKD)からなる群より選ばれる一つ以上の疾患とを有する、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象を肝線維症の処置が必要であると確認することを含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記対象を、肝線維症を軽減するように処置することを含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項1および請求項6~25のいずれか一項に記載の方法で使用するための、請求項2~5のいずれか一項に記載の捕捉試薬のセットを含むキット。
【請求項27】
請求項2~5のいずれか一項に記載の捕捉試薬のセットを含むイムノアッセイ。
【請求項28】
請求項1および請求項6~25のいずれか一項に記載の方法において使用するための、請求項27に記載のイムノアッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、肝臓の線維性疾患の非侵襲的診断または予後のためのバイオマーカーおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トロンボスポンジン(Thrombospondin:TSP)は、細胞外マトリックス(extracellular matrix:ECM)構造タンパク質、細胞受容体、成長因子、およびサイトカインを含む多数のリガンドと相互作用するマトリクス細胞タンパク質の一種である。TSPは細胞とマトリックスの相互作用を調節し、抗血管新生特性を持っている。五つのトロンボスポンジン(TSP1~5)のうち、TSP1とTSP2は構造が似ている。それにもかかわらず、以前の研究は、TSP1およびTSP2が異なるリガンドに結合し、それらの発現には空間的および時間的な差異があり、それらの役割が交換可能ではないことを報告した(Agah et al.,Am J Pathol;161:831-839(2002);Helkin et al.,Biochem Biophys Res Commun;464:1022-1027(2015);Zhang et al.,Int J Mol Med;45:1275-1293(2020))。
【0003】
高血糖はTSP1とTSP2の両方の発現を誘導する可能性があり、2型糖尿病患者においてTSP1とTSP2の組織発現の増加が見られた。非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)に関しては、TSP1の遺伝的阻害がマウスの非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)の発症を防ぐことが示され、TSP1の血清レベルがNAFLD患者の肝臓脂肪変性の程度と正の相関があることが判明した(Min-DeBartolo et al.,PLoS One;14:e0226854(2019);Bai et al.,EBioMedicine;57:102849(2020))。ある研究では、進行線維症患者では、そうでない患者と比較して、TSP2をコードするTHBS2遺伝子の肝臓発現が有意に上方制御されていることが明らかになったが(Lou et al.,Sci Rep;7:4748(2017))、循環しているTSP2の臨床的な関連性はまだ不明である。
【0004】
2型糖尿病は、NAFLDの進行の重要な危険因子である(Younossi et al.,Clin Gastroenterol Hepatol;2:262-265(2004);Kim et al.,Clin Gastroenterol Hepatol;17:543-550 e542(2019);および、Zoppini et al.,Am J Gastroenterol;109:1020―1025(2014))。NAFLDの範囲におけるさまざまな病期の中で、肝線維症は、全死亡率および肝臓関連の有害転帰の主な決定要因である(Angulo et al.,Gastroenterology;149:389-397 e310(2015);Ekstedt et al.,Hepatology;61:1547-1554(2015))。驚くべきことに、70%以上の2型糖尿病患者がNAFLDを併発しており、より具体的には、最近提案された定義を使用すると、代謝機能不全関連脂肪肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease:MAFLD)を患っている(Eslam et al.,J Hepatol.,73:202-209(2020))。NAFLDは米国で最も蔓延している慢性肝疾患である。NAFLDは、二つの主要な組織学的サブタイプ、すなわち非アルコール性脂肪性肝(nonalcoholic fatty liver:NAFL)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)として存在する(Kleiner et al.,Hepatology.;41(6):1313―1321(2005))。NAFLは比較的良性の臨床経過と関連しているが、NASHは進行性線維症および肝硬変のリスク増加と関連している。NASHは、線維症の有無にかかわらず、肝臓脂肪変性および、肝細胞傷害(バルーニング)を伴う炎症の存在によって定義され得る(Chalasani et al.,Hepatology;55:2005-23(2012))。
【0005】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、孤立性肝臓脂肪変性から、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、進行線維症、肝硬変、および肝細胞癌(HCC)発症に至る一連の肝臓疾患からなる(Chalasani et al.,Diagnosis and Management of NAFLD:Practice Guidance from AASLD;Hepatology 2018)。NAFLDは、肝の脂肪蓄積の二次的原因を除外した後、画像診断または組織診断で肝臓脂肪変性の存在によって診断できる。しかしながら、NASHは、肝生検でのみ診断できる組織学的診断であり、線維症を伴うまたは伴わない、肝細胞損傷(バルーニング)を伴う炎症の存在が含まれる。肝線維症は、臨床的な決定支援手段(例えば、NAFLD線維症スコア)や、画像検査(例えば、VTCE、MRエラストグラフィー)を使用して、非侵襲的に評価できる。
【0006】
NAFLDでは、肝生検が依然として組織学的診断、活動性の評価、線維症の病期の分類ためのゴールドスタンダードである。しかし、肝生検の日常的な使用は、その侵襲性、合併症のリスク、コスト、サンプリングエラー、および患者の受け入れの悪さによって制限されている。これは、病気の検出と病期分類のための非侵襲的で正確な方法が緊急に必要であることを強調している。現在、NAFLをNASHから区別する信頼できる非侵襲的手段はない(Siddiqui et al.,Clin Gastroenterol Hepatol.;17(1):156―163(2019))。また、進行した線維症を患っている一部の個人では、NASHが比較的少ない(Caldwell et al.,Annals of Hepatology,8,346-352(2009))。
【0007】
したがって、病気の進行、特に進行線維症の発症のリスクが高い患者は長期にわたる肝臓に関する罹患および死亡率を示すリスクが高いため、これらの患者を特定するための予後バイオマーカーが緊急に必要とされている。(Lee et al.,J Diabetes Investig;8:131-133(2017))。
【0008】
したがって、本発明の目的は、NAFLDにおける線維症の非侵襲的検出および線維症進行の予後予測のためのバイオマーカーを提供することである。
【0009】
本発明のもう一つの目的は、NAFLDにおける線維症の非侵襲的検出および線維症進行の予後予測のための方法を提供することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Agah et al.,Am J Pathol;161:831-839(2002)
【非特許文献2】Helkin et al.,Biochem Biophys Res Commun;464:1022-1027(2015)
【非特許文献3】Zhang et al.,Int J Mol Med;45:1275-1293(2020)
【非特許文献4】Min-DeBartolo et al.,PLoS One;14:e0226854(2019)
【非特許文献5】Bai et al.,EBioMedicine;57:102849(2020))
【非特許文献6】Lou et al.,Sci Rep;7:4748(2017)
【非特許文献7】Younossi et al.,Clin Gastroenterol Hepatol;2:262-265(2004)
【非特許文献8】Kim et al.,Clin Gastroenterol Hepatol;17:543-550 e542(2019)
【非特許文献9】Zoppini et al.,Am J Gastroenterol;109:1020―1025(2014)
【非特許文献10】Angulo et al.,Gastroenterology;149:389-397 e310(2015)
【非特許文献11】Ekstedt et al.,Hepatology;61:1547-1554(2015)
【非特許文献12】Eslam et al.,J Hepatol.,73:202-209(2020)
【非特許文献13】Kleiner et al.,Hepatology.;41(6):1313―1321(2005)
【非特許文献14】Chalasani et al.,Hepatology;55:2005-23(2012)
【非特許文献15】Chalasani et al.,Diagnosis and Management of NAFLD:Practice Guidance from AASLD;Hepatology 2018
【非特許文献16】Siddiqui et al.,Clin Gastroenterol Hepatol.;17(1):156―163(2019)
【非特許文献17】Caldwell et al.,Annals of Hepatology,8,346-352(2009)
【非特許文献18】Lee et al.,J Diabetes Investig;8:131-133(2017)
【非特許文献19】Kwok et al.,Gut;65:1359-1368(2016)
【非特許文献20】Chistiakov et al.,Int.J.Mol.Sci.,18,1540:1-29(2017)
【非特許文献21】Tian et al.,JBUON;23(5):1331-1336(2018)
【非特許文献22】Karlas et al.,J Hepatol;66:1022-1030)(2017)
【非特許文献23】Fulton, et al.,Clinical Chemistry,43(9):1749-1756(1997)
【非特許文献24】Chalasani et al.,Hepatology;67:328-357(2018)
【非特許文献25】Vilar-Gomez and Chalasani,J Hepatol;68:305-315(2018)
【非特許文献26】Wong et al.,J Hepatol;67:577-584(2017)
【非特許文献27】Chen et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol;316:G744-G754(2019)
【非特許文献28】Daniel et al.,J Am Soc Nephrol;18:788-798(2007)
【非特許文献29】Tian et al., Am J Pathol;179:860-868(2011)
【非特許文献30】Park et al.、Am J Pathol;165:2087-2098(2004)
【非特許文献31】Abu El-Asrar.Acta Ophthalmol;91:e169-177(2013)
【非特許文献32】Bae et al.,Arterioscler Thromb Vasc Biol;33:1920-1927(2013)
【非特許文献33】Castera et al.,Gastroenterology;156:1264-1281e1264(2019)
【発明の概要】
【0011】
対象における進行肝線維症を非侵襲的に検出する方法が記載される。対象において進行肝線維症を発症するリスクを検出するための方法も記載される。これらの方法には、典型的には、対象からのサンプル中のバイオマーカーであるトロンボスポンジン2(TSP2)の循環レベルを測定することが含まれる。TSP2の循環レベルの測定は、TSP2、好ましくはヒトTSP2、に対する結合特異性を有する一つ以上の抗体結合断片を含む捕捉試薬のセットを用いて行われ得る。捕捉試薬のセットは、TSP2に対して結合特異性を有し、TSP1、TSP3、TSP4およびTSP5に対しては結合特異性を有さない結合断片を含み得る。一般に、この方法は、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルをナノグラム/ml範囲、例えば0.2ng/mlから10ng/mlの間で検出する。測定方法は、約0.156ng/ml~約1ng/ml、例えば約0.2ng/ml~約0.5ng/ml、または約0.5ng/mlのTSP2の最低検出限界を有するイムノアッセイであり得る。
【0012】
一般的に、この方法は、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlを超える場合に、進行肝線維症を検出する。典型的には、対象は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を患っている。対象はまた、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)、および慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)などの一つ以上の他の疾患または症状を患っている可能性がある。対象はNAFLDおよび2型糖尿病を患っている可能性がある。対象は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を患っている場合もあれば、患っていない場合もある。
【0013】
この方法は典型的には、対象からの血液または血清サンプルを利用して、TSP2の循環レベルを測定する。
【0014】
典型的には、この方法は、進行肝線維症の非侵襲的検出、またはグレードF3以上の肝線維症への進行のリスクの非侵襲的検出を提供する。典型的には、グレードF3以上の進行肝線維症は、振動制御一過性エラストグラフィー(vibration controlled transient elastography:VCTE)によって測定される。グレードF3以上の進行肝線維症は、Mプローブで約9.6キロパスカル(kPa)またはXLプローブで9.3kPa、およびそれ以上のカットオフ値を有するVCTEでの肝硬度(liver stiffness:LS)測定によって等級付けされる線維症である。
【0015】
この方法は、典型的には、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlを超える場合に、約80%以上の感度および約60%以上の特異性で進行肝線維症を検出する。この方法は、典型的には、進行肝線維症を約90%以上の陰性的中率で検出する。
【0016】
また、対象において経時的に進行肝線維症が発症するリスクを検出する方法も記載される。典型的には、この方法は、対象からのサンプル中のバイオマーカーTSP2の循環レベルを測定することを含む。この方法は、経時的に進行肝線維症を発症するリスクが、ng/mlで測定される対数変換された血清TSP2レベルにおける単位増加当たり2.82倍大きいことを検出する。典型的には、この期間は、サンプルの入手から、TSP2の循環レベルの測定から、またはその両方から、約0.1年から約3年の間である。
【0017】
また、TSP2、好ましくはヒトTSP2、に対する結合特異性を有する一つ以上の抗体結合断片を含む捕捉試薬のセットを用いたキットおよびイムノアッセイも記載される。
【0018】
NAFLDにおけるグレードF3以上の線維症の新規線維症バイオマーカーとして循環TSP2レベルを使用すると、付随2型糖尿病の有無にかかわらず、多数のNAFLD患者の早期肝リスク層別化が可能になる。進行した線維症および線維症の進行を抱えるリスクが高いことを示す高い循環TSP2レベルの患者は、さらなる評価のために肝臓専門医に紹介されて、肝臓への有害転帰(肝硬変、静脈瘤、肝がんなど)の発現についてより注意深く監視するように、特定されることができる。さらに、これらの患者には、肝線維症、肝機能障害および/または脂肪含有量を改善する可能性のある抗糖尿病薬を、および、特に医療資源が限られている場所では、臨床的に利用可能な場合には新しいNAFLD処置薬を優先的に投与できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】循環TSP2レベルを臨床危険因子に加えた場合と加えない場合の、研究参加者におけるF3以上の線維症を特定するための受信者動作特性曲線のグラフである。示されているデータはAUROCであり、括弧内にその95%CIが示されている。AUROCは受信者動作特性曲線の下の領域;TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
I.定義
本明細書で使用される場合、「進行線維症」という用語は、LSカットオフ:F3が9.6~11.4kPaおよびF4が≧11.5kPa(Mプローブ);F3が9.3~10.9kPaおよびF4が≧11.0kPa(XLプローブ)によって等級付けされるグレードF3以上の線維症を有するとして、振動制御一過性エラストグラフィーを使用する非侵襲的検出によって特徴付けられる肝臓の線維症を指す(Kwok et al.,Gut;65:1359-1368(2016))。
【0021】
本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」という用語は、正常な生物学的プロセス、病原性プロセス、または処置的な介入を含む介入もしくは曝露に対する反応についての指標として測定される、分子的、組織学的、放射線写真的、および/または生理学的特徴を指す。バイオマーカーは、組織状態または疾患の検出、組織状態または疾患のモニタリング、および/または組織状態または疾患の予測に使用される診断バイオマーカーおよび/または予後バイオマーカーであり得る。例えば、バイオマーカーである生体分子の測定値は、診断バイオマーカーとして組織状態に関する情報を提供するだけでなく、予後バイオマーカーとして組織状態の将来の変化についての情報を提供しても良い。バイオマーカーの他の例には、生理学的なバイオマーカーとしての肥満指数(BMI)、または放射線撮影のバイオマーカーとしての組織弾性が含まれ、どちらも診断用バイオマーカーおよび予後バイオマーカーとなり得る。
【0022】
本明細書で使用される場合、検出の場合における「非侵襲的」または「非侵襲的に」という用語は、注目の器官からサンプルを物理的に採取することなく、例えば注目の器官の生検を行わずに、注目の器官に関する情報を取得する形態を指す。例えば、進行肝線維症を非侵襲的に検出するとは、肝臓の生検を行わずに進行肝線維症を検出することを指す。
【0023】
本明細書で使用され場合、「抗体」という用語は、ポリクローナルまたはモノクローナル免疫グロブリン分子などの抗体を指す。無傷の免疫グロブリン分子に加えて、分子がTSP2エピトープなどのエピトープと結合する能力を維持している限り、これらの免疫グロブリン分子の断片またはポリマー、および免疫グロブリン分子またはその断片のヒトまたはヒト化のバージョンも含まれる。抗体は、in vitroアッセイまたは類似の方法を使用して所望の活性について試験することができ、その後、それらのin vivo処置活性および/または診断活性を既知の臨床試験方法に従って確認および定量することができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、抗体はモノクローナル抗体またはその結合断片である。モノクローナル抗体とは、集団内の個々の抗体が同一である抗体を指す。
【0025】
本明細書で使用される場合、「単離された抗体」という用語は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指す(例えば、TSP2に特異的に結合する単離された抗体は、TSP2以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。単離された抗体は、TSP2のエピトープ、アイソフォーム、または変異体に特異的に結合する。さらに、単離された抗体は、他の細胞物質および/または化学物質を実質的に含まなくても良い。
【0026】
本明細書で使用される場合、「結合断片」、「抗原結合断片」、「抗体結合断片」などの用語は、抗体のCDR、および随意に、抗体の「可変領域」の抗原認識部位を構成するフレームワーク残基を含み、抗原に免疫特異的に結合する能力を示す、抗体の一つまたは複数の部分を指す。このような断片には、Fab’、F(ab’)2、Fv、単鎖Fv(ScFv)など、ならびにそれらの突然変異体および変異体、天然に存在する変異体が含まれる。
【0027】
本明細書で使用される場合、「断片」という用語は、少なくとも5個の連続したアミノ酸残基、少なくとも10個の連続したアミノ酸残基、少なくとも15個の連続したアミノ酸残基、少なくとも20個の連続したアミノ酸残基、少なくとも25個の連続したアミノ酸残基、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基、少なくとも50個の連続したアミノ酸残基、少なくとも60個の連続したアミノ酸残基、少なくとも70個の連続したアミノ酸残基、少なくとも80個の連続したアミノ酸残基、少なくとも90個の連続したアミノ酸残基、少なくとも100個の連続したアミノ酸残基、少なくとも125個の連続したアミノ酸残基、少なくとも150個の連続したアミノ酸残基、少なくとも175個の連続したアミノ酸残基、少なくとも200個の連続したアミノ酸残基、または少なくとも250個の連続したアミノ酸残基、のアミノ酸配列を含むペプチドまたはポリペプチドを指す。
【0028】
可変領域は、可変領域またはCDRの結合および結合特異性を排除しない方法で置換および改変することもできる。可変領域以外(またはCDR以外)の抗体の部分の置換、改変、除去などを有する開示された抗体およびポリペプチドについては、可変領域の配列およびCDR配列が、開示されたモノクローナル抗体の可変領域またはCDRであるか、またはそれらをモデルとすることが好ましい。
【0029】
本明細書で使用される場合、「結合特異性」、「特異性」、「特異的に反応する」、「特異的に相互作用する」、または「に特異的な」という用語は、TSP2のエピトープなどの抗原上に提示されるエピトープに検出可能に結合するが、他の構造との検出可能な反応性は比較的わずかである、抗体または他の薬剤の能力を指す。特異性は、例えばBiacore機器を使用した結合アッセイまたは競合アッセイによって相対的に決定することができる。特異性は、例えば、約5:1、約10:1、約20:1、約50:1、約100:1、または約10000:1、またはそれ以上の、特定の抗原への結合と他の無関係な分子への非特異的結合における親和性/親和力の比によって示される。開示された抗体およびポリペプチドの場合、「二重特異性」および類似の用語は、それぞれが異なるエピトープまたはリガンドに特異的に結合する少なくとも二つの異なる特異的結合要素を含む抗体またはポリペプチドを指す。
【0030】
本明細書で使用される場合、「検出する」、「検出」、「決定する」、または「決定」という用語は、通常、情報を取得することを指す。検出または決定には、例えば本明細書で明示的に言及される特定の技術を含む、当業者が利用可能な様々な技術のいずれかを利用することができる。検出または決定には、物理サンプルの操作、データまたは情報の考慮および/または操作、例えば関連する分析を実行するように適合されたコンピュータまたは他の処理装置の利用、および/または、情報源からの関連する情報および/または資料の受信が含まれる場合がある。検出または決定は、得られた値を、既知の試験値、既知の対照値、または閾値などの既知の値と比較することも意味し得る。検出または決定は、取得された値と既知の値との差に基づいて結論を形成することを意味する場合もある。
【0031】
本明細書で使用される場合、「感度」という用語は、真の陽性者、すなわち肝線維症を有する対象を正確に識別する検査の能力を指す。例えば、感度はパーセンテージ、つまり正しく識別される実際の陽性者の割合として表すことができる(例えば、肝線維症を患っている対象のうち、肝線維症を患っていると検査によって正確に特定された対象の割合)。感度の高い検査では、偽陰性率、つまり肝線維症が肝線維症であると特定されない症例の率が低くなる。一般に、開示されたアッセイおよび方法は、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の感度を有する。
【0032】
本明細書で使用される場合、「特異性」という用語は、真の陰性者、すなわち肝線維症の有さない対象を正確に識別する検査の能力を指す。例えば、特異性は、正しく識別される実際の陰性の割合であるパーセンテージとして表すことができる(例えば、肝線維化を有さない対象の試験によって肝線維化を有さないと正しく識別される割合)。特異性の高い検査では、偽陽性、つまり、肝線維症を持っていないのに、検査によって肝線維症があることが示唆される患者の割合が低くなる。一般に、開示された方法は、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の特異性を有する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「正確な」という用語は、約80%を超える感度および約60%を超える特異性、約85%を超える感度および約65%を超える特異性、または約90%を超える感度および約80%を超える特異性などの、高感度および高特異性の結果をもたらす検査の能力を指す。
【0034】
本明細書で使用される場合、「サンプル」という用語は、対象から単離された体液、身体塗抹標本、細胞、組織、器官、またはそれらの一部を指す。サンプルは単一の細胞であっても複数の細胞であってもよい。サンプルは、生検(例えば、外科的生検)によって得られた標本であってもよい。サンプルは、組織培養に配置されている、または組織培養に適応されている対象からの細胞であり得る。サンプルは、細胞、組織、血清、血漿、尿、唾液、痰、および便のうちの一つまたは複数であり得る。サンプルは、唾液、痰、涙、汗、尿、滲出液、血液、血清、血漿、または膣分泌物の一つまたは複数であり得る。
【0035】
本明細書で使用される場合、「対象」、「個体」または「患者」という用語は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物を指す。対象は、ヒト以外の霊長類、家畜、飼育場動物または実験動物であり得る。例えば、対象は、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ウサギなどであり得る。対象は人間であってもよい。対象は、健康であっても、病気、障害、または状態に苦しんでいる、またはそれらにかかりやすい場合もある。患者とは、病気または障害に苦しむ対象を指す。「患者」という用語には、人間および獣医学の対象が含まれる。
【0036】
「対照」サンプルまたは値は、試験サンプルとの比較のための参照、通常は既知の参照として機能するサンプルを指す。例えば、試験サンプルは試験対象から採取することができ、対照サンプルは既知の正常な(非疾患の)個体などの対照対象から採取することができる。対照は、同様の個人、例えば、同様の医学的背景、同じ年齢、体重などを有する疾患患者または健康な個人、の集団から収集された平均値を表すこともできる。当業者は、任意の数のパラメータを評価するために対照を設計できることを認識するであろう。
【0037】
本明細書で使用される場合、「処置」または「処置すること」という用語は、疾患の一つまたは複数の症状を処置するために、組成物を対象またはシステムに投与することを指す。対象への組成物の投与の効果は、状態の特定の症状の停止、状態の症状の軽減または予防、状態の重症度の軽減、状態の完全な除去、特定の事象または特性の発現または進行の安定化または遅延、または、特定のイベントまたは特性が発生する可能性を最小限に抑えること、であり得るが、これらに限定されない。
【0038】
本明細書で使用される場合、「有効量」および「処置上有効量」という用語は、本明細書に記載のナノ粒子、処置薬、および医薬組成物に適用される場合、互換的に使用され、所望の処置結果をもたらすのに必要な量を指す。例えば、有効量は、組成物および/または処置薬、または医薬組成物が投与されている疾患の症状を処置、治癒、または軽減するのに有効なレベルである。求められる特定の処置目標によって、有効な量は、処置される疾患およびその重症度および/または発症/進行の段階、使用される特定の化合物および/または抗悪性腫瘍剤、または医薬組成物の生物学的利用能および活性、投与経路または投与方法および対象における導入部位、を含む様々な要因に依存する。
【0039】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の記載がない限り、その範囲内にあるそれぞれの個別の値を個別に参照する簡略的な方法として機能することを単に意図しており、個別の各値は、あたかも本明細書に個別に記載されているかのように明細書に組み込まれる。
【0040】
「約」という用語の使用は、約+/-10%の範囲で記載された値を上回るか下回る値を表すことを意図しており、他の実施形態において、値は、約+/-5%の範囲で記載された値を上回るか下回る場合があり、他の実施形態において、値は、約+/-2%の範囲で記載された値を上回るか下回る場合があり、他の実施形態において、値は、約+/-1%の範囲で記載された値を上回るか下回る場合がある。
【0041】
II.進行肝線維症のバイオマーカー
対象において進行肝線維症を非侵襲的に検出するため、または進行肝線維症を発症するリスクを判定するためのバイオマーカーには、分子バイオマーカー、放射線撮影のバイオマーカー、および/または生理学的なバイオマーカーが含まれる。バイオマーカーは、単独で使用しても、任意の組み合わせで使用してもよい。例えば、任意の一つまたは複数の分子バイオマーカーを、任意の一つまたは複数の放射線撮影のバイオマーカー、および/または任意の一つまたは複数の生理学的なバイオマーカーとともに使用することができる。いくつかの実施形態において、一つまたは複数の分子バイオマーカーは、進行肝線維症を発症するリスクを検出または予測するために、一つまたは複数の生理学的なバイオマーカーおよび/または一つまたは複数の放射線撮影のバイオマーカーとともに使用される。
【0042】
典型的には、分子バイオマーカーには、TSP2およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)が含まれる。典型的には、生理学的なバイオマーカーは肥満指数(BMI、kg/m)である。典型的には、放射線撮影のバイオマーカーには、肝硬度(LS、kPa)および、振動制御一過性エラストグラフィーでの制御された減衰パラメータ(CAP、dB/m)の読み取り値が含まれる。
【0043】
A.肝線維症におけるトロンボスポンジン-2
TSPファミリーには、Ca2+に結合し、他のECMタンパク質と相互作用し、細胞間および細胞とECM間の結合に寄与する多量体糖タンパク質を表す五つのメンバー(TSP1~5)が含まれている。TSPファミリーは、三量体サブグループA(TSP1およびTSP2)と五量体サブグループB(TSP3、TSP4、およびTSP5)の二つのサブグループに分けられる。TSPは複雑なマルチドメイン構造を有する。C末端ドメイン、III型リピート、および上皮成長因子(EGF)様リピートはすべてのTSPにおいて存在し、TSPファミリーを強調している。オリゴマー化ドメインはすべてのファミリーメンバーにも見られるが、他の共有構造と比較してより多様である。サブグループAには、三つのEGF様リピートとI型リピート(トロンボスポンジンリピート、TSRとも呼ばれる)、フォンヴィレブランド因子C型(vWC)ドメイン、およびN末端ドメインがある。サブグループBには四つのEGF様リピートが含まれているが、vWCドメインとTSRが欠落している(Chistiakov et al.,Int.J.Mol.Sci.,18,1540:1-29(2017))。
【0044】
TSP2タンパク質は、細胞結合型でも循環型でも存在する。TSP2は、機能的に関連する細胞外マトリックス(ECM)糖タンパク質のグループのメンバーであり、細胞外マトリックスの構築、細胞-マトリックスの相互作用、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)-2およびMMP-9の分解、および血管新生の阻害を媒介することができる。血管新生の他に、TSP2は複数の細胞受容体、成長因子、およびECMタンパク質と相互作用し、アポトーシス、細胞増殖、および細胞接着を調節することが報告されている。TSP2の発現およびその予後値は、いくつかの癌において研究されている(Tian et al.,JBUON;23(5):1331-1336(2018))。
【0045】
TSP2は、さまざまな種類の細胞から分泌される150kDaのカルシウム結合タンパク質である。ヒトTSP2のアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0046】
【0047】
ヒトTSP2のmRNA配列は、アクセッション番号NM_001381939.1下にある。
【0048】
ヒトにおいて、TSP2は遺伝子THBS2(遺伝子ID:7058)によってコードされる。
【0049】
B.進行肝線維症
一般に、進行肝線維症とは、振動制御一過性エラストグラフィーを使用した非侵襲的検出によって判定される、F3グレード以上の線維症として特徴付けられる肝臓の線維症を指す。グレードF3以上の線維症は、LSカットオフ:F3が9.6~11.4kPaおよびF4が≧11.5kPa(Mプローブ);F3が9.3-10.9kPaおよびF4が≧11.0kPa(XLプローブ)、によって等級付けされる(Kwok et al.,Gut;65:1359-1368(2016))。
【0050】
進行肝線維症は、NAFLD中の病理学的な状態として発生する可能性がある。NAFLDは代謝異常やその他の全身性疾患と関連している。NAFLDは、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患(CVD)、および慢性腎臓病(CKD)の独立した危険因子として認識されている。NAFLDの重症度は疾患の発現と関連している。
【0051】
NAFLDには、単純な脂肪変性から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)および進行肝線維症に至るまで、幅広い肝臓症状が含まれる。したがって、NASHには進行肝線維症が存在する場合と存在しない場合がある。
【0052】
脂肪変性は脂肪化とも呼ばれ、細胞または器官内に脂肪(脂質)が異常に蓄積することである。脂肪変性は、脂質代謝の主要な器官である肝臓に存在する可能性があり、この状態は、一般に脂肪肝疾患と呼ばれる。
【0053】
Fibroscan(登録商標)(Echosens、パリ、フランス)が提供する振動制御一過性エラストグラフィー(VCTE(商標))は、それぞれ、制御された減衰パラメータ(CAP(商標))と肝硬度(LS)を使用して肝臓の脂肪変性と肝線維化を検出するための非侵襲的検査の一つである。
【0054】
Fibroscan(登録商標)測定には、通常、測定精度と一貫性を実現するためのさまざまなプローブが含まれている。プローブモデルの範囲は、通常、ほとんどの患者の形態の測定領域に一致する。皮膚表面から肝臓までの距離に応じて測定領域を調整することにより、一貫した3立方cmの探査体積を維持することができる。これは、次の三つのプローブによって実現される。
【0055】
S+プローブ、小児用:胸郭周囲が75cm未満の小児患者向けに設計されている;
M+プローブ、中型:皮膚から肝被膜までの距離が25mm以下の成人向けに設計されている;および
XL+プローブ、特大:皮膚から肝被膜までの距離が35mmを超える体重の重い成人向けに設計されている。
【0056】
通常、非侵襲性肝線維症(硬度)はVCTE(商標)によって測定することができ、非侵襲性肝臓脂肪変性はCAP(商標)によって測定することができる。FibroScan(登録商標)を使用すると、硬度(kPa)とCAP(dB/m)測定を同時に測定することができる。スキャンのS、M、およびXLプローブは、患者のあらゆる形態に適合する。CAPは、脂肪変性を非侵襲的に評価および定量化するためのツールである。CAPは、超音波減衰の尺度であり、超音波が肝臓を伝播する際の超音波の振幅の減少に対応する。CAPは: CAPと肝硬度が、同じ肝臓容積で同時に測定されること;CAPが、1メートルあたりのデシベル(dB/m)で表されること;
を確保するVCTEに基づく高度なガイダンスプロセスにより強化される。
【0057】
肝臓脂肪変性は、公表されているCAPカットオフ:軽度脂肪変性248~267dB/m、中等度脂肪変性268~279dB/m、および重度脂肪変性≧280dB/m、によって等級付けされる(Karlas et al.,J Hepatol;66:1022-1030)(2017年))。
【0058】
進行肝線維症は、軽度、中等度、または重度の肝臓脂肪変性の有無にかかわらず検出される場合がある。表1は、軽度、中等度、または重度の肝臓脂肪変性を有する対象において進行肝線維症が検出されたことを示している。
【0059】
C.進行肝線維症のバイオマーカーとしての循環TSP2
対象におけるTSP2の循環レベルは、対象における進行肝線維症の存在を検出するため、または対象における進行肝線維症を発症するリスクを検出するために使用され得る。
【0060】
1.進行肝線維症を検出するためのTSP2
TSP2の循環レベルは、最初の評価で進行肝線維症(F3線維症以上)の存在と有意な関連性を示す。
【0061】
TSP2の循環レベルが約2ng/ml以上である場合、TSP2の循環レベルは通常、進行肝線維症の存在または発症リスクについての情報となる。典型的には、TSP2の循環レベルは、ナノグラム/mlスケールでTSP2を検出するアッセイで測定される。対象から採取されたサンプル中のTSP2の循環レベルは、約0.2ng/mlから約10ng/mlの間の範囲であり得る。
【0062】
TSP2の循環レベルは、通常、既存の進行肝線維症のバイオマーカーであり、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルが、約3.6ng/mlと10ng/mlとの間など、約3.6ng/mlを超える場合に、進行肝線維症を検出する。典型的には、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlを超えている場合、TSP2の循環レベルは、約80%以上の感度、約60%以上の特異性、および約90%以上の陰性的中率で進行肝線維症を検出することができる。
【0063】
他の生理学的および/または放射線撮影のバイオマーカーと組み合わせると、検出の感度は約80%以上となり、特異性は約80%以上となり得る。TSP2の循環レベルを肥満指数(BMI)および血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)と組み合わせた場合、TSP2の循環レベルは、約80%以上の感度および約80%以上の特異性で進行肝線維症を検出することができる。
【0064】
2型糖尿病の対象において、約3.6ng/mlのTSP2の循環レベルは、進行肝線維症を検出するためのカットオフ値である可能性がある。2型糖尿病の対象において、TSP2の循環レベルが約3.6ng/ml以上である場合、進行肝線維症を患っている可能性がある。
【0065】
2.進行肝線維症の発症リスクに対するTSP2
最初の評価でのTSP2の循環レベルは、肝線維化の進行と有意な関連性も示しており、経時的に進行肝線維症(F3線維症以上)を発症するリスクを検出するために使用することができる。
【0066】
TSP2の循環レベルは、典型的に、進行肝線維症の発症リスクを予測するのに有利である。典型的には、TSP2の循環レベルは、ナノグラム/mlスケールでTSP2を検出する方法で測定される。
【0067】
典型的には、経時的に進行肝線維症を発症するリスクを検出することには、TSP2バイオマーカーの循環レベルを測定し、進行肝線維症を発症するリスクを検出することが含まれる。典型的には、対象は、ng/mlで測定される対数変換された血清TSP2レベルにおける単位増加あたり、経時的に進行肝線維症を発症するリスクが2.82倍高くなる。典型的には、この期間は、対象からサンプルを入手してから、サンプル中のTSP2の循環レベルを測定してから、またはその両方から約0.1年から約3年の間である。
【0068】
他の生理学的なおよび/または放射線撮影のバイオマーカーと組み合わせると、進行肝線維症の発症リスクの検出がより正確になる。例えば、TSP2の循環レベルを肥満指数(BMI)、血小板数、CAP値と組み合わせると、TSP2の循環レベルによってより高いNRIおよびIDIで進行肝線維症を発症するリスクを検出することができる。
【0069】
メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心血管疾患(CVD)、慢性腎臓病(CKD)の疾患のうちの一つ以上を有する可能性のある対象において、本願方法は、患者において経時的に進行肝線維症を発症するリスクを検出することができる。
【0070】
3.対象
開示された方法から恩恵を受ける対象はヒトである。対象は、健康であるか、または病気、障害、または状態に苦しんでいる、またはそれらにかかりやすいである場合もある。
【0071】
対象は病気に罹っていない場合もある。対象は、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、CVD、およびCKDのうちの一つまたは複数の疾患を患っている場合もある。対象は、肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、脂質異常症、および高血圧のうちの一つ以上を伴うメタボリックシンドロームを有する場合もある。対象は、糖尿病、肝疾患、または糖尿病と肝疾患の組み合わせを患っている場合もある。対象は2型糖尿病を患っている場合もある。対象はNAFLDを患っている場合もある。対象は2型糖尿病およびNAFLDを患っている場合もある。対象はNASHを患っている場合もあれば、持っていない場合もある。
【0072】
III.TSP2の測定方法
A.測定用アッセイ
1.アフィニティークロマトグラフィー
TSP2の循環レベルは、TSP2リガンドまたは対TSP2抗体が固定化された樹脂またはカラムを使用するアフィニティークロマトグラフィーによって検出され得る。標的タンパク質TSP2は通常、サンプルまたは希釈サンプルがカラムを通過する際に吸着され、他の物質は洗い流される。その後、標的物質が溶出され、従来の実験条件を逆転させることで分析に利用可能になる。
【0073】
TSP2は、TGF-β-1、ヒスチジンリッチ糖タンパク質、TSG6、ヘパリン、MMP-2、およびヘパラン硫酸プロテオグリカンなどの細胞外マトリックスリガンドに結合する。TSP2は、CD36、CD47、LDL受容体関連タンパク質-1(カルレティキュリン経由)、インテグリンα-V/β-3、α-4/β-1、およびα-6/β-1を含む細胞表面受容体に結合する。クロマトグラフィーカラムには、TSP2を捕捉するための抗体または抗体結合断片も含まれる場合がある。これらのリガンドのいずれか1つ以上は、TSP2の捕捉および精製のためのアフィニティークロマトグラフィーで使用される捕捉試薬または捕捉試薬のセットであり得る。
【0074】
カラムから分離され溶出されると、TSP2の濃度は、標準的なタンパク質定量アッセイを使用して検出することができる。
【0075】
2.イムノアッセイ
TSP2の循環レベルを測定するための本方法にはイムノアッセイを含み、バイオマーカーのポリペプチドが、バイオマーカー特異的抗体、抗体結合断片、異なる抗体の組み合わせ、または異なる抗体結合断片の組み合わせとの相互作用によって評価または検出される。バイオマーカーは、定性的または定量的な方法で検出することができる。バイオマーカーのポリペプチドおよびタンパク質の検出に使用できる例示的なイムノアッセイには、ラジオイムノアッセイ、ELISA、免疫沈降アッセイ、ウェスタンブロット、蛍光イムノアッセイ、および免疫組織化学、フローサイトメトリー、タンパク質アレイ、多重ビーズアレイ、磁気捕捉、in vivoイメージング、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、および光退色後の蛍光回復/局在化(FRAP/FLAP)が含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
一部のイムノアッセイ、例えばELISAでは、二つの異なるバイオマーカーに特異的な抗体または二つの異なるリガンド(例えば、捕捉リガンドまたは抗体、および検出リガンドまたは抗体)が必要となる場合がある。特定の実施形態において、タンパク質バイオマーカーは表面上のリガンドまたは抗体で捕捉され、タンパク質バイオマーカーは酵素で標識される。一つの例では、ビオチンまたはストレプトアビジンに結合した検出抗体を使用して、ビオチンまたはストレプトアビジンを含む酵素へのビオチン-ストレプトアビジン結合を作製することができる。酵素基質が着色分子に変換されることによってシグナルが生成され、光センサーで吸光度を測定することで溶液の色の強度が定量化される。アッセイでは、タンパク質バイオマーカーの存在を示すために観察可能な色の変化を生成する発色レポーターおよび基質を利用する場合がある。蛍光発生、電気化学発光、およびリアルタイムPCRレポーターも、定量可能なシグナルを生成するために検討されている。
【0077】
いくつかのアッセイは、抗体をサンプルと接触させる前に、洗浄およびその後の複合体の単離を容易にするために、1つ以上の抗体を固体支持体に固定することを随意に含む。固体支持体の例としては、例えば、マイクロタイタープレート、スティック、ビーズ、またはマイクロビーズの形態のガラスまたはプラスチックが挙げられる。抗体は、プローブ、基板、またはPROTEINCHIP(登録商標)アレイに結合させることもできる。
【0078】
フローサイトメトリーはレーザーベースの技術であって、液体の流れの中に粒子を懸濁し、電子検出装置を通過させることによって、タンパク質バイオマーカーの計数、分類、および検出に使用できる。フローサイトメーターには、色に基づいてさまざまな粒子を識別する機能がある。二つ以上の異なる波長で発光する、異なる染料による粒子の示差的染色により、粒子を区別することができる。FLOWMETRIX(商標)などの多重分析は、Fulton, et al.,Clinical Chemistry,43(9):1749-1756(1997)で説明されており、同じサンプルを使用して単一のチューブ内で複数の個別のアッセイを同時に実行することができる。
【0079】
いくつかの特定の実施形態において、バイオマーカーレベルは、LUMINEX XMAP(登録商標)テクノロジーを使用して測定される。LUMINEX XMAP(登録商標)は、従来のELISA技術とよく比較され、従来のELISA技術は単一の分析物のみを測定できるという限界がある。ELISAとLUMINEX XMAP(登録商標)テクノロジーの違いは、主に捕捉抗体の支持体にある。従来のELISAとは異なり、LUMINEX XMAP(登録商標)の捕捉抗体は、ビーズ表面に共有結合しているため、より大きな表面積、ならびにマトリックスまたは自由溶液/液体環境が分析対象物と反応することが効果的に可能になる。懸濁ビーズにより、シングルプレックスまたはマルチプレックス形式でのアッセイのフレキシビリティが可能になる。
【0080】
LUMINEX XMAP(登録商標)テクノロジーを含む市販のフォーマットには、例えば、単一サンプル内で最大100の異なるアッセイを多重化できるBIO-PLEX(登録商標)マルチプレックスイムノアッセイシステムが含まれる。この技術には、二つの蛍光染料を異なる比率で使用して作成された明確に色分けされた100個のビーズセットが含まれる。これらのビーズは、特定のバイオアッセイに特異的な試薬とさらに結合させることができる。試薬には、抗原、抗体、オリゴヌクレオチド、酵素基質、または受容体が含まれる。この技術により、特定の分析物に対する一つの抗体を同じ色のビーズのセットに結合させ、分析物に対する第2の抗体を蛍光レポーター色素ラベルに結合させるマルチプレックスイムノアッセイが可能になる。異なる色のビーズを使用することによって、同じサンプル内の他の多くの分析物の同時マルチプレックス検出が可能になる。二重検出のフローサイトメーターは、一つのチャネルでビーズの色によって異なるアッセイを分類し、もう一つのチャネルでレポーター色素の蛍光を測定することで分析対象物の濃度を判定するために使用できる。
【0081】
いくつかの特定の実施形態において、バイオマーカーレベルは、Quanterix’s SIMOA(商標)テクノロジーを使用して測定される。SIMOA(商標)テクノロジー(単一分子アレイ:single molecule arrayにちなんで命名)は、標準的なELISA試薬を使用した常磁性ビーズ上の個々の免疫複合体の単離に基づく。Simoaと従来のイムノアッセイの主な違いは、フェムトリットルサイズのウェルに単一分子を捕捉する能力にあり、個々のビーズの「デジタル」読み取りを可能にし、標的分析物に結合しているか否かを判定できる。この技術のデジタル的な性質により、CVが10%未満である従来のアッセイと比較して平均1000倍の感度向上が可能である。市販のSIMOA(商標)のテクノロジープラットフォームは、さまざまな分析物パネル(analyte panels)で最大10プレックスの多重化のオプションを提供し、アッセイを自動化することできる。
【0082】
実験を多重化は、大量のデータが生成し得る。したがって、いくつかの実施形態において、データ収集設定、編成、および解釈を自動化および制御するためにコンピュータシステムが利用される。
【0083】
典型的には、TSP2を検出するためのアッセイには、約0.01ng/ml~約0.18ng/mlの間、例えば約0.01ng/ml~約0.16ng/mlの間、または約0.156ng/mlなどの最低検出限界でのイムノアッセイが含まれる。いくつかの実施形態において、TSP2を検出するためのアッセイは、それぞれ4.6%未満および7.2%未満のアッセイ内およびアッセイ間の精度を有する。
【0084】
3.対照
一つ以上のバイオマーカーを分析することを含む方法は、通常、対照と比較することを含む。例えば、対象から収集したサンプル中で検出されたバイオマーカーのレベルを対照と比較することができる。適切な対照は当業者に知られているであろう。対照には、例えば、疾患または障害のない対象などの健康な対象、または同じ対象からの非罹患組織から得られた標準が含まれ得る。対照は、同じアッセイを使用した同様の個人の単一値、プール値、または平均値とすることができる。参照指数は、既知の疾患の重症度または予後が異なる疾患または障害と診断された対象を使用することによって確立できる。
【0085】
B.肝線維症検出の感度と特異性
感度は、正しく識別される実際の陽性者の割合であるパーセンテージとして表すことができる(例えば、進行肝線維症であると検査によって正確に識別される、進行肝線維症を有する対象の割合)。感度の高い検査では、偽陰性、つまり、進行肝線維症を有しているにもかかわらず、検査によって進行肝線維症であると識別されないケースの割合が低い。一般に、開示されたアッセイおよび方法は、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の感度を有する。
【0086】
特異性は、正しく識別される実際の陰性の割合であるパーセンテージとして表すことができる(例えば、進行性肝線維症を有さないと検査によって正確に識別される、進行性肝線維症を有さない対象の割合)。特異性の高い検査では、偽陽性、つまり、進行肝線維症を有していないにもかかわらず、検査によって進行肝線維症が示唆される患者の割合が低い。一般に、開示された方法は、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも100%の特異性を有する。
【0087】
陽性的中率と陰性的中率は、検査の対象集団における病気の有病率に影響される。有病率が高い環境では、有病率が低い集団で検査を実施した場合よりも、検査で陽性となった人が本当に病気を患っている可能性が高くなる。
【0088】
典型的には、対象からのサンプル中のTSP2の循環レベルが約3.6ng/mlより大きい場合に、本方法は、約80%以上の感度、約60%以上の特異性、および約90%以上の陰性的中率で進行肝線維症を検出する。
【0089】
IV.TSP2測定用のキット
TSP2に対する結合特異性を有する捕捉試薬のセットは、開示された方法を実行するか、またはその実行を補助するのに有用なキットとして、任意の適切な組み合わせで一緒にパッケージ化され得る。所与のキット内のキット構成要素が、開示された方法で一緒に使用するように設計および適合されば有用である。
【0090】
例えば、1セット以上の捕捉試薬を備えたキットが開示される。キットには、希釈バッファー、サンプルバッファー、対照試薬、溶出試薬、および検出試薬が含まれる場合がある。キットには、TSP2の捕捉、溶出、および検出のための基質が含まれていてもよい。キットには、TSP2の捕捉および検出のための基質が含まれていてもよい。キットには、使用説明書が含まれる場合がある。
【実施例
【0091】
実施例1.2型糖尿病を伴う非アルコール性脂肪性肝疾患における進行線維症の診断および予後マーカーとしての血清TSP2レベル
研究デザインと方法
研究参加者
すべての参加者は、香港のクイーン・メアリー病院の糖尿病クリニックで定期的に追跡調査を受けている患者で構成される香港西糖尿病NAFLDコホートから募集された。2017年1月以来糖尿病合併症スクリーニングに参加していた21歳から80歳の中国人である処置継続患者は、2型糖尿病におけるNAFLD線維症進行の危険因子を特定することを目的とした前向き研究に招待された。定期的な間隔で肝臓脂肪変性と線維症を評価するためにVCTEが使用された。活動性悪性腫瘍、付随の慢性B型またはC型肝炎、または、α-1抗トリプシン欠乏症、ウィルソン病、自己免疫性肝炎、薬物性肝障害、および原発性胆汁性胆管炎を含む他の肝疾患の記録がある病歴を有する患者、または、アミオダロン、メトトレキサート、またはタモキシフェンなどの脂肪生成薬を連用している患者を、除外した。さらに、毎日のアルコール消費量が男性の場合30g、女性の場合20gを超える患者も除外した(Chalasani et al.,Hepatology;67:328-357(2018))。本研究プロトコールは、香港大学/病院当局香港西クラスター(Hospital Authority Hong Kong West Cluster)の施設内審査委員会によって承認された。研究に関する手術の前に、募集された参加者全員から書面によるインフォームドコンセントが得られた。
【0092】
2型糖尿病における循環TSP2レベルとNAFLDの関係を評価した本研究には、ベースラインに肝臓脂肪変性を有し、2017年1月から2020年6月までに募集された参加者のみ含まれた。さらに、循環TSP2レベルと肝線維症の進行との予想される関連性を調べる解析には、ベースラインに進行した線維症または肝硬変を有していなかった参加者のみが含まれた。肝臓脂肪変性と線維症のレベルは、それぞれ、振動制御一過性エラストグラフィー(VCTE)での制御減衰パラメーター(CAP)と肝硬度(LS)の測定によって定義された。
【0093】
臨床的および生化学的評価
糖尿病クリニックのすべての患者は、通常の臨床管理の一環として定期的に合併症の評価を受けた。これは、血糖コントロール、心血管の危険因子、および糖尿病合併症の存在を確認するためである。体重(BW)、身長(BH)、肥満指数(BMI)、腹囲(WC)、血圧(BP)などの人体測定のパラメータが測定された。血漿グルコース、脂質、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、全血球計算、肝機能および腎機能の検査のために空腹時血液が採取された。アルブミン尿の状態はランダムな尿サンプルで評価され、尿中のアルブミンとクレアチニンの比(<30mg/g[A1]、≧30~<300mg/g[A2]、および≧300mg/g[A3])によって分類された。さらに、すべての患者は眼科医による定期的な網膜写真および/または評価を受けた。NAFLDコホート研究への参加に同意した人については、喫煙状況、アルコール消費量、詳細な病歴、薬物歴、および家族歴が標準化されたアンケートを使用して取得され、プロトロンビン時間も確認された。さらに、新たなNAFLDバイオマーカーのアッセイのために、空腹時の血液をアリコートに分けて-70℃で保存した。
【0094】
NAFLD線維症スコア(NFS)および線維症4指数(Fibrosis-4 index:FIB-4)を含む従来の線維症スコアは、公表されている式を使用して決定され、推奨されるカットオフに基づいて分類された(Vilar-Gomez and Chalasani,J Hepatol;68:305-315(2018))。
【0095】
TSP2レベルの測定
血清TSP2レベルは、ヒトTSP2の特異的な部位を認識する一対のモノクローナル抗体を使用して、ヒトTSP-2の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キットで測定した(Antibody and Immunoassay Services,香港大学)。使用した抗体はIgGであった。このアッセイでは、血清サンプルを2倍希釈した。二次抗体はビオチン標識されている。
【0096】
アッセイはヒトTSP2に対して高度に特異的であり、ヒトTSP1、TSP3、TSP4およびTSP5に対して交差反応性を示さなかった。最も低い検出限界は0.156ng/mlで、アッセイ内およびアッセイ間の精度はそれぞれ<4.6%および<7.2%であった。
【0097】
振動制御一過性エラストグラフィー
すべての参加者はベースラインにVCTEを受け、その後は再評価のために12~18か月ごとにVCTEを受けた。VCTEは少なくとも8時間の絶食後に実施された。CAPとLSは、500件を超える測定の経験を持つ2人のオペレーターによって、Fibroscan(登録商標)(Echosens、パリ、フランス)を使用して測定された。評価者間信頼性は、CAPの0.98、LSの0.97であるクラス内相関に反映されるように、満足のいくものであった。CAPとLSは両方とも、四分位数範囲が30%未満で成功率が60%を超える場合として定義される、10件の信頼できる測定値の中央値で表された。結果の妥当性を保証するために、四分位数範囲が40dB/m以上のCAP値のみが使用された(Wong et al.,J Hepatol;67:577-584(2017))。最初の試行ではすべての検査がMプローブを使用して行われ、BMIが30kg/mを超える場合はXLプローブが使用された。
【0098】
肝臓脂肪変性は、公表されているCAPカットオフ:軽度の脂肪変性248~267dB/m、中等度の脂肪変性268~279dB/m、および重度の脂肪変性≧280dB/m、によって等級付けされた(Karlas et al.,J Hepatol;66:1022-1030(2017))。進行線維症(F3)および肝硬変(F4)はLSカットオフ:F3が9.6~11.4kPaおよびF4≧11.5kPa(Mプローブ);F3が9.3-10.9kPaおよびF4≧11.0kPa(XLプローブ)、によって等級付けされた(Kwok et al.,Gut;65:1359-1368(2016))。線維症の進行は、2020年12月31日の時点でVCTEの再評価によるF3以上の線維症(つまり、進行した線維症または肝硬変)の発症として定義された。
【0099】
臨床変数の定義
中心性肥満は、女性ではWC≧80cm、男性では≧90cmと定義された。高血圧は、血圧140/90mmHg以上、または降圧薬を服用している場合と定義された。脂質異常症は、空腹時トリグリセリド(TG)≧150mg/dL、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)が男性の場合40mg/dL未満、女性の場合<50mg/dL未満、および低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C)≧100mg/dL、または脂質低下剤を服用している場合と定義された。冠状動脈性心疾患(CHD)および脳卒中の診断は、国際疾病分類(ICD-9)第9版の診断コード(CHDは410、36.01-10、脳卒中は430-438)に基づいていた。
【0100】
統計分析
すべてのデータは、Rのバージョン3.6.0(MatchIt Package、二つの相関受信者動作特性曲線のDeLongのテスト)およびIBM SPSS Statisticsのバージョン26.0(IBM Corp.、ニューヨーク州、アーモンク)で分析された。血漿TG、ALT、AST、FIB4およびTSP2レベルなど、コルモゴロフ・スミルノフ検定によって正規分布していないと判定されたデータは、分析前にほぼ正規性を得るために対数変換された。値は、必要に応じて、平均値±標準偏差(SD)、25パーセンタイルと75パーセンタイルの中央値(データが歪んでいる変数の場合)、またはパーセンテージとして報告された。カイ二乗検定とANOVAをそれぞれカテゴリ変数と連続変数の比較に使用した。最も低い赤池情報量基準(AIC)のモデルに基づいて、F3以上の線維症の存在と発症の独立した決定要因を評価するために、多変量ロジスティック回帰分析が実行された。単変量解析で統計的に有意だった変数は、多変量ロジスティック回帰分析に含まれた。臨床危険因子を含む場合と含まない場合の、血清TSP2の受信者動作特性曲線下面積(AUROC)を決定し、DeLong法を使用してさまざまな臨床モデルのAUROCを比較した。F3以上の線維症の存在を特定するための血清TSP2レベルの最適なカットオフは、y=[感度-(1-特異性)]のROC曲線上の、Youdenjインデックス(y)が最大となる点に基づいて導出された。さまざまなモデルの予測パフォーマンスは、カテゴリーフリーのネット再分類改善(NRI)と統合識別改善(IDI)を使用してさらに評価された。すべての統計検定において、両側p値<0.05が有意であるとみなされた。
【0101】
結果
血清TSP2レベルは、2型糖尿病におけるF3以上の線維症の存在と有意に関連していた
この研究に含まれた2型糖尿病とNAFLDを患う820人の参加者のうち、138人(16.8%)がベースラインでF3以上の線維症を患っていた。表1は、研究参加者のベースライン特性をまとめたものである。F3以上の線維症を有する参加者は、そうでない参加者に比べて有意に若く、BMI、WC、血清TG、ALT、ASTが高く、HDL-Cレベルと血小板数が低かった。さらに、糖尿病の罹患期間は、F3以上の線維症を有さない患者に比べて、有意に短く、アルブミン尿の有病率が高かった。さらに、F3以上の線維症の参加者は、そうでない参加者よりもCAP、NFS、FIB4の値が有意に高かった(CAP:339dB/m対299dB/m、p<0.001;NFS:-0.75対-1.13、p=0.001;FIB4:1.26対1.05、それぞれp<0.001)。注目すべきことに、血清TSP2レベルの中央値は、F3以上の線維症を有する参加者では、そうでない参加者よりも有意に高かった(それぞれ4.17ng/ml対2.33ng/ml;p<0.001)。
【0102】
【表1】
【0103】
データは平均値±標準偏差または中央値(25~75パーセンタイル)として表された。
【0104】
TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;WCは胴囲;BPは血圧;NAFLDは非アルコール性脂肪性肝疾患;GLP1rAはグルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト;SGLT2iはナトリウム-グルコース共輸送体2阻害剤;HbA1cは糖化ヘモグロビン;HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロール;LDL-Cは低密度リポタンパク質コレステロール;TGはトリグリセリド;ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ;ASTはアスパラギン酸トランスアミナーゼ;eGFRは推定糸球体濾過率;CAPは制御された減衰パラメータ;NFSは非アルコール性脂肪性肝疾患の線維症スコア;FIB4は線維症-4インデックス。
【0105】
アルブミン尿は、尿中アルブミン対クレアチニン比≧30mg/gとして定義され;HDL/LDL-Cのmmol/lからmg/dLへの換算係数は×38.9;TGのmmol/lからmg/dLへの菅さん係数は×88.2である。
【0106】
ベースライン臨床変数と研究参加者の血清TSP2レベルの四分位数の増加との関連性を表2にまとめる。ベースラインTSP2レベルのより高い四分位数は、ベースラインでのより高いBMI(p<0.001)、WC(p<0.001)、収縮期血圧(p=0.01)、血清HbA1c(p=0.005)、TG(p=0.001)、ALT(p<0.001)、ASTレベル(p<0.001)、およびアルブミン尿の有病率(p<0.001)と有意に関連するが、ベースラインでのより低いHDL-C(p=0.02)、eGFR(p=0.001)、アルブミン値(p<0.001)、および血小板数(p=0.023)と有意に関連していた。さらに、ベースラインTSP2レベルのより高い四分位数は、肝臓脂肪変性(CAPについてp<0.001)および線維症(NFS、FIB4、およびLS;すべてp<0.001)のより高い段階とも有意に関連していた。
【0107】
【表2】
【0108】
TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;WCは胴囲;BPは血圧;HbA1cは糖化ヘモグロビン;HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロール;LDL-Cは低密度リポタンパク質コレステロール;TGはトリグリセリド;ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ;ASTはアスパラギン酸トランスアミナーゼ;eGFRは推定糸球体濾過率;CAPは制御された減衰パラメータ;LSは肝臓の硬直;NFSは非アルコール性脂肪性肝疾患の線維症スコア;FIB4は線維症-4インデックス。アルブミン尿は、尿中アルブミン対クレアチニン比≧30mg/gとして定義され;HDL/LDL-Cのmmol/lからmg/dLへの換算係数は×38.9;TGのmmol/lからmg/dLへの換算係数は×88.2。年齢、BMI、糖尿病の期間、血小板数、血清HDL-C、TG、ALT、AST、CAP、TSP2レベルおよびアルブミン尿を含む多変量ロジスティック回帰分析が実行された。血清TSP2レベルは、BMI(OR 1.14、95%CI 1.08-1.20、p<0.001)、並びに血清AST(OR 8.01、95%CI 4.10-15.60、p<0.001)およびCAP値(OR 1.008、95%CI 1.002-1.014、p=0.01)とともに、ベースラインでのF3以上の線維症の存在と独立して関連した(オッズ比 OR 5.13、95%CI 3.16-8.32、p<0.001)(表3)。
【0109】
【表3】
【0110】
分析に含まれる変数は、年齢、BMI、糖尿病の期間、アルブミン尿、HDL-C、TG、ALT、AST、血小板数、CAPおよびTSP2レベルであった。モデルの選択は赤池情報量規準に基づいて行われた。TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロール;TGはトリグリセリド;ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ;ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;CAPは制御された減衰パラメータ;ORはオッズ比;95%CIは95%信頼区間。アルブミン尿は、尿中アルブミン対クレアチニン比≧30mg/gとして定義された。
【0111】
BMIをWCに置き換えた場合でも結果は同様であった(TSP2のOR5.67、95%CI3.49-9.22、p<0.001、WCのOR1.06、95%CI1.04-1.08、p<0.001)。さらに、サブグループ分析では、血清TSP2レベルとF3以上の線維症との関連は、NFSまたはFIB4のレベルに関係なく有意なままであったが、その関連は明らかに従来の非侵襲性線維症スコアが高い人でより強かった(表4)。
【0112】
【表4】
【0113】
モデルにはBMI、AST、CAPが含まれる。
【0114】
TSP2はトロンボスポンジン-2;ORはオッズ比;95%CIは95%信頼区間;FIB4は線維症-4指数;NFSは非アルコール性脂肪性肝疾患の線維症スコア;BMIは肥満指数;ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;CAPは制御された減衰パラメータ。
【0115】
VCTEにおけるF3以上の線維症の存在を特定するための血清TSP2の性能
次に、血清TSP2レベルが、さらなる評価のために肝臓専門医への紹介が必要と思われる個人をVCTEにおいてF3以上の線維症を有する個人として特定するのに臨床的に有用か否かを検討した。VCTEにおけるF3以上の線維症を示す血清TSP2単独のAUROCは0.80(95%CI0.76-0.84)であった。注目すべきことに、F3以上の線維症の他の二つの独立した決定因子であるBMIと血清ASTからなる臨床モデルに血清TSP2レベルを加えると、AUROCは0.86(95%CI、0.83-0.89)から0.89(95%CI0.86-0.92、p=0.01)に有意に増加した(図1)。これには、NRI(60.7、95%CI53.1-78.3、p<0.001)とIDI(8.1、95%CI5.0-11.0、p<0.001)の両方の大幅な改善が伴った。F3以上の線維症の存在を特定するために最適な血清TSP2のカットオフ3.6ng/mlを使用すると、感度83.6%、特異性64.5%、陽性的中率(PPV)44.3%、および陰性的中率(NPV)92.1%が得られた。
【0116】
ベースラインの血清TSP2レベルは、2型糖尿病患者におけるF3以上の線維症の発症と独立して関連していた
ベースラインにF3以上の線維症がなかった682人の参加者のうち、2019年コロナウイルス感染症(COVID-19)のため復帰を拒否した90人の参加者、さらなるTEを拒否した17人、追跡調査ができなくなった19人、死亡した6人、および再評価TEの予定がなかった59人を除くと、491人が研究期間中に再評価VCTEを受けた。追跡調査中央値1.5年で、参加者491人中43人(8.8%)がF3以上の線維症を発症した。
【0117】
F3以上の線維症を患った参加者は、そうでない参加者よりも有意に若く、ベースラインBMI、WC、ALT、AST、CAP、およびNFSレベルが高く、血清HDL-Cおよび血小板数が低かった。重要なことに、F3以上の線維症を発症した参加者は、そうでない参加者よりもベースライン血清TSP2レベルが有意に高かった(3.21ng/ml対2.29ng/ml、p<0.001)(表5)。
【0118】
【表5】
【0119】
データは平均値±標準偏差または中央値(25~75パーセンタイル)として表された。TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;WCは胴囲;BPは血圧;NAFLDは非アルコール性脂肪性肝疾患;GLP1rAはグルカゴン様ペプチド1受容体アゴニスト;SGLT2iはナトリウム-グルコース共輸送体2阻害剤;HbA1cは糖化ヘモグロビン;HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロール;LDL-Cは低密度リポタンパク質コレステロール;TG、トリグリセリド;ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ;ASTはアスパラギン酸トランスアミナーゼ;eGFRは推定糸球体濾過率;CAPは制御された減衰パラメータ;NFSは非アルコール性脂肪性肝疾患の線維症スコア;FIB4は線維症-4インデックス。アルブミン尿は、尿中アルブミン対クレアチニン比≧30mg/gとして定義され;HDL/LDL-Cのmmol/lからmg/dLへの換算係数は×38.9;TGのmmol/lからmg/dLへの換算係数は×88.2。
【0120】
ベースラインの年齢、BMI、血清HDL-C、ALT、AST、血小板、CAPおよびTSP2レベルからなる多変量ロジスティック回帰分析では、ベースラインの血清TSP2レベルが、ベースラインBMI(OR1.12、95%CI1.03-1.21、p=0.007)、血小板数(OR0.992、95%CI0.987-0.998、p=0.01)およびCAP値(OR1.02、95%CI1.01-1.03、p<0.001)とともに、F3以上の線維症の発症と独立して関連(OR2.82、95%CI1.37-5.78、p=0.005)していることが判明した(表6)。
【0121】
【表6】
【0122】
分析に含まれる変数は、年齢、BMI、HDL-C、ALT、AST、血小板数、CAP、およびTSP2レベルであった。モデルの選択は赤池情報量規準に基づいて行われた。
【0123】
TSP2はトロンボスポンジン2;BMIは肥満指数;HDL-Cは高密度リポタンパク質コレステロール;ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼ;ASTはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;CAPは制御された減衰パラメータ;ORはオッズ比;95%CIは95%信頼区間。
【0124】
F3以上の線維症の発症を予測するAUROCは、ベースラインの循環TSP2レベルを含めても著しく変化しなかったが(TSP2有りのモデルと無しのモデルでそれぞれ0.837対0.816、p=0.19)、ベースラインのBMI、血小板数、およびCAP値からなる臨床モデルにベースライン循環TSP2レベルを加えた後のNRI(37.3、95%CI6.4-68.1、p=0.02)およびIDI(2.2、95%CI0.1-4.4、p=0.045)の両方のモデルで有意な改善が見られた。
【0125】
この研究は、横断的アプローチと前向きアプローチの両方に基づいて、NAFLDにおける線維症バイオマーカーとしての循環TSP2レベルの臨床的関連性を実証した。血清TSP2レベルはF3以上の線維症の存在と関連しており、NAFLDと2型糖尿病を併発する患者における進行した線維症の発症の独立した予測因子でもあることが観察された。
【0126】
TSP2の遺伝子であるTHBS2は、病因とは無関係に肝線維症に特に関連する五つの優先遺伝子の中で同定され、その発現は肝線維症の段階と正の相関を示した。げっ歯類の肝線維症モデルである四塩化炭素(CCl4)で処置したマウスと胆管結紮を行ったラット)では、肝TSP2タンパク質の発現が増加していることがわかった(Chen et al.,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol;316:G744-G754(2019))。同様に、高脂肪、高コレステロール食を与えたアポリポタンパク質Eノックアウト(ApoEKO)マウスを用いた別の研究でも、肝臓のTHBS2遺伝子発現は、軽度の線維症のマウスよりも重度の線維症のマウスで高かった。肝生検組織が利用可能な8人のNAFLD患者を評価した研究では、F0/1線維症患者と比較して、F3以上の線維症患者では肝臓におけるTHBS2遺伝子の発現の有意な上方制御が観察された(Lou et al.,Sci Rep;7:4748(2017))。
【0127】
しかし、進行線維症患者における循環TSP2レベルの上昇を説明するメカニズムは単純ではないようである。TSP1とTSP2は両方とも創傷治癒とリモデリングのプロセスに関与するマトリクス細胞タンパク質であるが、それらの組織発現には場所的および時間的な差異がある。例えば、創傷治癒においては、TSP1は急性期の反応物質として機能する一方、主に線維芽細胞によって産生されるTSP2はその後のリモデリングプロセスにより多く関与している可能性が示唆されている。肝線維症は、NAFLDなどの慢性肝損傷に続発する創傷治癒およびリモデリングプロセスでもある。しかし、古典的な線維形成性サイトカインである潜在的トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-β)を活性化するTSP1とは異なり、TSP2はTGF-β活性に最小限の影響を与える(Daniel et al.,J Am Soc Nephrol;18:788-798(2007))。糸球体腎炎の実験モデルでは、マウスのTSP2を遺伝的に除去すると、腎損傷後の内皮細胞の増殖と毛細血管の修復が促進されたが、野生型マウスと比較して炎症の亢進、マトリックスの蓄積、および糸球体硬化症の増加も引き起こした。同様に、実験的な脳損傷に関するもう一つのげっ歯類の研究において、TSP2の欠如が、マウスへの異物移植の後において血液脳関門の回復を鈍らせ、神経炎症を長引かせて、マトリックスメタロプロテイナーゼ(matrix metalloproteinase:MMP)-2およびMMP-9レベルの局所の産生が上昇することも示され(Tian et al., Am J Pathol;179:860-868(2011))、これらは両方とも肝線維症の病因にも関与していた。さらに、関節リウマチでは、びまん性関節炎の患者では、滑膜線維芽細胞、内皮細胞およびマクロファージによって高いTSP2発現が生成されることが判明した。しかし、ヒト関節リウマチのin vivoモデルでは、TSP2の過剰発現が実際に病変の血管新生、組織浸潤T細胞密度の顕著な減少、さらに腫瘍壊死因子アルファ(tumour necrosis factor alpha:TNFα)およびインターフェロン-ガンマ(interferon-gamma:IFN-γ)を含む炎症誘発性メディエーターの産生を引き起こすことが実証された(Park et al.、Am J Pathol;165:2087-2098(2004))。一方、最近のin vitro研究では、THBS2mRNAが肝星細胞で高発現しており、THBS2の過剰発現により肝星細胞の活性化が有意に促進されることが判明した。糖尿病では、以前の研究で、増殖性糖尿病性網膜症(proliferative diabetic retinopathy:PDR)の患者および活動性血管新生の患者において硝子体液中のTSP2レベルが著しく上方制御されていたことから、TSP2が増殖性糖尿病性網膜症のバイオマーカーであることも示唆されていた(Abu El-Asrar.Acta Ophthalmol;91:e169-177(2013))。本著者らは、筋線維芽細胞がTSP2分泌を増強して、PDRにおける過剰な血管新生から組織を保護する可能性があると提案した。最近、2型糖尿病患者では皮膚におけるTSP2発現が著しく増加し、糖尿病でない人のほぼ3倍に達していることが判明した。in vitro分析により、高血糖がヘキソサミン経路と核因子カッパB(nuclear factor kappa B:NFκB)シグナル伝達を活性化し、それによって線維芽細胞におけるTSP2発現が増加する可能性があることが明らかになったが、高血糖は酸化ストレスの増加を通じてTSP2発現を上方制御する可能性があることも以前に示されている(Bae et al.,Arterioscler Thromb Vasc Biol;33:1920-1927(2013))。まとめると、線維形成に対するTSP2の効果が組織特異的であるのか、それとも進行線維症の患者における肝臓および循環TSP2レベルの上方制御がNASHの根底にある炎症および酸化ストレスに対する代償反応を表しているのかは、さらなる機構研究での評価が必要である。
【0128】
この研究にはいくつかの制限があった。まず、観察研究のデザインでは、2型糖尿病患者における高い循環TSP2レベルとF3以上の線維症の発症との間の因果関係を推測することはできなかった。第二に、肝生検は行われなかった。しかし、VCTEはNAFLDにおける肝線維症を評価するための正確な代替ツールとしてますます利用されており、生検で証明された線維症の検出にはAUROCが最大0.93である(Castera et al.,Gastroenterology;156:1264-1281e1264(2019))。これは、2型糖尿病およびNAFLDまたはMAFLDを併発する多数の安定かつ無症候性の患者の評価に特に関連する(Eslam et al.,J Hepatol;73:202-209(2020))。最後に、観察期間の中央値はわずか1.5年であり、これが以前の研究と比較して線維症進行の発生率が比較的低かったことに寄与している可能性がある。
【0129】
本研究は、進行線維症のバイオマーカーとして循環TSP2レベルを採用する証拠を示しており、これは2型糖尿病とNAFLDを併発する多数の患者の肝リスクの層別化に有用となるであろう。特に、90%を超える高いNPVと、VTCEでF3以上の線維症を特定するためのAUROCの大幅な改善により、バイオマーカーとしての循環TSP2レベルはVCTEが容易に利用できない糖尿病クリニックで特に役立つ。循環TSP2レベルが高い患者は、F3以上の線維症およびVCTEでの線維症進行のリスクが高いことを示しており、さらなる評価のために肝臓専門医に紹介するために特定することができる。さらに、これらの患者には、肝線維症、肝機能障害および/または脂肪変性を改善する可能性のある抗糖尿病薬、および臨床的に利用可能な場合には新しいNAFLD処置法を優先的に投与することができる。
【0130】
重要なことに、NAFLDの現在の検出と診断には、通常、生検と組織学的分析が必要である。例えば、組織学的変化やNAFLD活性スコアは肝生検を使用してのみ決定できる。生検と組織学的分析の発明は、横断的研究と前向き研究に基づいていた。本研究は2型糖尿病患者を対象とし、断面組織学と前向きアプローチの両方を使用し、血清TSP2レベルが振動制御一過性エラストグラフィー(VCTE)におけるF3以上の線維症のマーカーとして有効であることを実証した。本明細書に記載されるように、これにより、肝生検または組織学的分析を必要とせずに、NAFLDにおけるF3以上の線維症の検出および診断が可能になる。
図1
【配列表】
2024521881000001.app
【国際調査報告】