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特表2024-521887脂質ナノ粒子を用いるDNAベクター送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】脂質ナノ粒子を用いるDNAベクター送達
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/51 20060101AFI20240528BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
A61K9/51
A61K9/127
A61K47/28
A61K47/24
A61P9/00
A61P31/12
A61P35/00
A61P43/00 105
C12N15/88 Z
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023574248
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-30
(86)【国際出願番号】 CA2022050877
(87)【国際公開番号】W WO2022251959
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/202,210
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523447085
【氏名又は名称】ナノベーション・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャイエシュ・クルカルニ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・クレク
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・サイ・タム
(72)【発明者】
【氏名】ケイト・イー・アール・ホリンシェッド
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・ヴィツィヒマン
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA66
4C076AA95
4C076CC26
4C076DD63
4C076DD70
4C076EE23
4C076FF43
4C076FF63
(57)【要約】
本開示は、カプセル化DNAベクター、並びに30~60モル%の、スフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン脂質から選択される中性脂質、並びにステロール及び親水性ポリマー-脂質コンジュゲートの少なくとも1つを含む、脂質ナノ粒子を提供し、前記脂質ナノ粒子が、二重層を含む脂質層によって少なくとも部分的に囲まれた、高電子密度領域及び水性部分を含むコアを含み、前記脂質ナノ粒子が、50/10/38.5/1.5 モル:モルにおけるイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質のOnpattro型製剤に関するDNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から24時間後又は48時間後の任意の時点で、疾患部位、又は肝臓、脾臓、若しくは骨髄において遺伝子発現の少なくとも10%増加を示し、前記遺伝子発現が、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はルシフェラーゼの検出により動物モデルにおいて測定される。そのような脂質ナノ粒子の医学的処置の方法及び使用が更に提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質又はペプチドについての配列をコードするカプセル化DNAベクター、並びに30~60モル%の、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)のうちの1つ、ステロール、親水性ポリマー-脂質コンジュゲート、及びイオン化可能脂質を含む脂質ナノ粒子であって、
前記脂質ナノ粒子が、3から15の間であるアミンのリン酸に対する電荷比(N/P)を有し、
前記脂質ナノ粒子が、高電子密度領域及び水性部分を有するコアを含み、
前記コアが、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれ、
前記脂質ナノ粒子が、50/10/38.5/1.5 モル:モルにおけるイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質のOnpattro型製剤でDNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から24時間後又は48時間後より後の任意の1つの時点で、疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄においてDNA発現の少なくとも10%増加を示し、
前記DNA発現が、緑色蛍光タンパク質(GFP)の検出により動物モデルにおいて決定されるように測定される、脂質ナノ粒子。
【請求項2】
タンパク質又はペプチドについての配列をコードするDNAベクターの肝臓又は肝臓外の送達のための脂質ナノ粒子であって、調製物内の前記脂質ナノ粒子が、
(i)カプセル化DNAベクター;
(ii)前記脂質ナノ粒子に存在する総脂質の30モル%から60モル%で存在する、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)のうちの1つ;
(iii)イオン化可能脂質であるカチオン性脂質であって、前記イオン化可能脂質の含有量が総脂質の5モル%から50モル%である、カチオン性脂質;
(iv)コレステロール又はその誘導体から選択されるステロール;及び
(v)総脂質の0.5モル%~5モル%又は0.5モル%~3モル%で存在する親水性ポリマー-脂質コンジュゲート
を含み、
前記脂質ナノ粒子が、3から15の間であるアミンのリン酸に対する電荷比(N/P)を有し;
前記脂質ナノ粒子が、高電子密度領域及び水性部分を含むコアを有し、
前記コアが、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれている、
脂質ナノ粒子。
【請求項3】
タンパク質又はペプチドについての配列をコードするカプセル化DNAベクター、並びに30~60モル%の、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、及びジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)のうちの1つ、ステロール、親水性ポリマー-脂質コンジュゲート、及びイオン化可能脂質を含む脂質ナノ粒子であって、
前記脂質ナノ粒子が、3から15の間であるアミンのリン酸に対する電荷比(N/P)を有し、
前記脂質ナノ粒子が、高電子密度領域及び水性部分を有するコアを含み、
前記コアが、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれ、
前記脂質ナノ粒子が、50/10/38.5/1.5 モル:モルにおけるイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質のOnpattro型製剤でDNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から24時間後又は48時間後より後の任意の1つの時点で、疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄において遺伝子発現の少なくとも10%増加を示し、
前記遺伝子発現が、ルシフェラーゼの検出により動物モデルにおいて決定されるように測定される、脂質ナノ粒子。
【請求項4】
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)が35~60モル%で存在する、請求項1、2、又は3のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項5】
脂質層が少なくとも二重層を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項6】
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)の含有量が、30モル%から50モル%の間である、請求項1、2、又は3に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項7】
ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、又はジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)の含有量が、34モル%から60モル%の間である、請求項6に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項8】
高電子密度領域が、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、水性部分より濃い、請求項1~7のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項9】
脂質ナノ粒子が、脂質ナノ粒子の調製物の一部であり、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、脂質ナノ粒子の少なくとも20%の高電子密度領域が、(i)水性部分により包まれているか、又は(ii)水性部分により部分的に囲まれており、且つ前記高電子密度領域の外周の一部分が脂質層と隣接している、請求項8に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項10】
DNAベクターの少なくとも一部分が、高電子密度領域又は脂質層においてカプセル化されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項11】
脂質ナノ粒子が、脂質ナノ粒子の調製物の一部であり、クライオEMにより可視化された場合の脂質ナノ粒子の少なくとも20%が、形が細長い、請求項1~10のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項12】
イオン化可能脂質がアミノ脂質である、請求項1~11のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項13】
イオン化可能脂質が7.0未満であるpKaを有し、その結果、前記脂質が、生理学的pHにおいて実質的に中性であり且つそのpKaより下のpHにおいて実質的に荷電している、請求項1~12のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項14】
親水性ポリマー-脂質コンジュゲートがポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートである、請求項1~13のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項15】
ステロールが、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて15モル%から50モル%で存在する、請求項1~14のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項16】
ステロールが、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて18モル%から45モル%で存在する、請求項1~15のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項17】
疾患部位が腫瘍である、請求項1~16のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子を哺乳動物対象へ投与する工程を含む、哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するための、DNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための方法。
【請求項19】
身体部位が、周囲の実質細胞より少なくとも30%速い速度で分裂している細胞を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
哺乳動物対象が胎児である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
脂質ナノ粒子が、脾臓、骨髄、又は肝臓への送達用である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
疾患又は障害がウイルス感染である、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
疾患又は障害が癌である、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
疾患又は障害が心血管疾患である、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
疾患又は障害が先天性障害又は疾患である、請求項18~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するためのDNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための、請求項1~17のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子の使用。
【請求項27】
身体部位が、急速に分裂する細胞を含む、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
哺乳動物対象が胎児である、請求項26又は27に記載の使用。
【請求項29】
肝臓外の組織又は器官の疾患又は障害を処置又は防止するためである、請求項26に記載の使用。
【請求項30】
疾患又は障害がウイルス感染である、請求項26又は27に記載の使用。
【請求項31】
疾患又は障害が癌である、請求項26又は27に記載の使用。
【請求項32】
疾患又は障害が心血管疾患である、請求項26又は27に記載の使用。
【請求項33】
疾患又は障害が先天性障害又は疾患である、請求項26、27、又は28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するためのDNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための医薬の製造のための、請求項1~17のいずれか一項に記載の脂質ナノ粒子の使用。
【請求項35】
身体部位が、急速に分裂する細胞を含む、請求項34に記載の使用。
【請求項36】
哺乳動物対象が胎児である、請求項34又は35に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体として参照により本明細書に組み入れられている、2021年6月1日に出願された米国特許出願第63/202,210号からの優先権を主張する。
【0002】
本開示は、DNAベクターの送達のための脂質ナノ粒子製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ベクターDNAは、天然では、細菌において小さな環状の二本鎖DNA分子として見出されるが、そのような遺伝子材料はまた、古細菌及び真核生物においても見出される。歴史的には、ベクターDNAは、目的のタンパク質の発現のための実験室ツールとして用いられてきた。宿主生物体からのコードDNAベクターの発現は、実験室において容易に所定のタンパク質又はペプチド配列を産生し、単離し、及び特徴づけることを可能にする。
【0004】
DNAベクターは、疾患を処置するための遺伝子治療におけるそれらの有用性を調べるために益々、研究されている。そのような治療は、DNAによりコードされるタンパク質又はペプチドを含む治療を必要とする患者へのDNAベクターの投与を含み得る。しかしながら、DNAベクターに基づいた遺伝子治療には、疾患部位をターゲットとする能力の限界があるため、医学用途でのその使用を妨げている。標的部位に達する前のDNAベクターの分解によって、その臨床的有用性が制限されるという問題が依然として残っている。DNAベクターが疾患部位に達する場合でさえも、それが標的細胞に内部移行され得ないことはその治療効果が大きく制限する。
【0005】
DNAベクターを安定的にカプセル化する脂質ナノ粒子(LNP)系が記載されている(例えば、米国特許第5,981,501号参照)。しかしながら、臨床有用性が実現されるために、標的細胞への取込みを促進し、且つカプセル化DNAベクターのサイトゾル放出及びその核への移行を促す系が必要とされる。静脈内投与のためのLNP遺伝子送達系に関する最新の研究は、主に、向上したイオン化可能なカチオン性脂質を開発することに焦点を絞って、肝臓における遺伝子発現を調べている(Sempleら、2010、Nat Biotechnol.、28(2):172~6頁)。低分子干渉(siRNA)送達のための臨床的に認可されたLNP系の例は、「Onpattro」脂質組成物(イオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質; 50/10/38.5/1.5;モル:モル)を用いるが、その用量の大部分は、投与後30分以内に肝臓に蓄積する(Akincら、2019、Nat Nanotechnol.、14(12):1084~1087頁)。それにも関わらず、Onpattro(商標)はまだ、LNP媒介性効能の研究において比較のためのゴールドスタンダードと見なされており、LNPデザインへの現在のアプローチは、その4成分系からわずかにずれるだけである。様々な永久的に正に荷電した脂質の組入れは、静脈内投与後、いくつかの肝臓外組織におけるトランスフェクションを増強することができる。残念ながら、そのような脂質は、毒性リスクをもたらし得、そのようなLNPの臨床適用を制限し得る。更に、LNP製剤中に用いられるアミノ脂質は、エンドソーム取込み及び細胞のサイトゾルへの放出のために最適化されるが、そのような系は、核送達を可能にしない。DNAベクターが核膜を横断することができないことは、遺伝子発現系において重大な制限である(Kulkarniら、2017、Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine、13:1377~1387頁)。
【0006】
研究により、中性脂質、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)及びコレステロールが、LNPにおけるsiRNAの安定的なカプセル化に寄与することが見出された(Kulkarniら、2019、Nanoscale、11:21733~21739頁)。これらの発見にも関わらず、インビボ研究は、siRNAの肝臓外送達を向上させるためにLNP中のDSPCのレベルを調整することから生じる少しの明確な利益も示すことができなかった。これらの研究は、10モル% DSPC(MC3イオン化可能脂質/Chol/DSPC/PEG-DMP; 50/38.5/10/1.5モル:モル)又は40モル% DSPC(MC3/Chol/DSPC/PEG-DMG; 18.5/40/40/1.5モル:モル)を有する4成分LNPを用いて、インビボでの肝臓外siRNA遺伝子サイレンシングを調べた(Ordobadi、2019、「Lipid Nanoparticles for Delivery of Bioactive Molecules」、A Thesis Submitted in Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree of Doctor of Philosophy、The University of British Columbia)。10モル% DSPC(Onpattro(商標)製剤)が、40モル% DSPC製剤と類似した肝臓蓄積及び血液循環寿命を有することが示された。更に、40モル% DSPC siRNA含有LNP(siRNA-LNP)は、骨髄遺伝子サイレンシングにおいて、10モル% DSPC製剤と同程度でのみ機能した。
【0007】
したがって、DNAベクター送達のための生体適合性且つトランスフェクションコンピテントなLNPの必要性が当技術分野において存在する。そのようなLNPは、最も有利なことには、既知の製剤と比べて、DNAベクターを、肝臓を越えて組織又は器官のより広い範囲へ送達し、そのような標的部位においてDNAベクターのインビボ遺伝子発現の増強を示すだろう。加えて、急速に分裂する細胞をターゲットとすることができるLNPについての必要性が当技術分野においてある。
【0008】
本開示は、これらの必要性の1つ若しくは複数に取り組み、及び/又は当技術分野において記載されたものを凌ぐ、DNAベクター製剤の有用な代替物を提供しようと努める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,981,501号
【特許文献2】PCT/CA2022/050853
【特許文献3】PCT/CA2022/050856
【特許文献4】PCT/CA2022/050042
【特許文献5】PCT/CA2022/050835
【特許文献6】米国特許出願第63/340,687号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Sempleら、2010、Nat Biotechnol.、28(2):172~6頁
【非特許文献2】Akincら、2019、Nat Nanotechnol.、14(12):1084~1087頁
【非特許文献3】Kulkarniら、2017、Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine、13:1377~1387頁
【非特許文献4】Kulkarniら、2019、Nanoscale、11:21733~21739頁
【非特許文献5】Ordobadi、2019、「Lipid Nanoparticles for Delivery of Bioactive Molecules」、A Thesis Submitted in Partial Fulfillment of the Requirements for the Degree of Doctor of Philosophy、The University of British Columbia
【非特許文献6】Rebuffatら、2002、Faseb J. 16(11):1426~8頁
【非特許文献7】Jeffs, L.B.ら、Pharm Res, 2005、22(3):362~72頁
【非特許文献8】Leung, A.K.ら、The Journal of Physical Chemistry. C, Nanomaterials and Interfaces、2012、116(34): 18440~18450頁
【非特許文献9】Romarら、2016、Journal of Investigative Dermatology、136(1):e1~e7頁
【非特許文献10】Kulkarniら、2018、ACS Nano、12:4787頁
【非特許文献11】Kulkarniら、2019、Nanoscale、11:9023頁
【発明の概要】
【0011】
本開示に従って調製された脂質ナノ粒子(LNP)は、以前の製剤より広い範囲の標的部位における遺伝子発現の増強に特に適している可能性があり、それにより、DNAベクターに基づいた治療の臨床用途を拡大し得る。
【0012】
一実施形態において、本開示は、一つには、上昇したレベルのホスファチジルコリン脂質又はスフィンゴミエリン等の中性脂質で製剤化された、DNAベクターの送達のためのLNPが、インビボ送達に適している、ベクタートラッピング効率を示し得るという所見に基づいている。上昇したレベルの中性脂質を有する脂質ナノ粒子は、肝臓及び肝臓外の細胞、組織、又は器官への送達の向上を示し得る。いくつかの実施形態において、そのようなLNPは、癌又は肺疾患等の高速の細胞増殖を示す疾患又は障害により冒された標的部位への送達に特に適し得る。本開示のLNPによりターゲットとされ得る高速の細胞増殖を有する身体部位はまた胚性細胞を含む発生中の組織等も包含する。
【0013】
本開示の一態様によれば、カプセル化DNAベクター、並びに30~60モル%の、スフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン脂質から選択される中性脂質、並びにステロール及び親水性ポリマー-脂質コンジュゲートの少なくとも1つを含む、脂質ナノ粒子が提供され、前記脂質ナノ粒子が、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれた、高電子密度領域及び任意で水性部分を有するコアを含み、前記脂質ナノ粒子が、50/10/38.5/1.5モル:モルにおけるイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質のOnpattro型製剤に関する前記DNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から48時間後の任意の時点で、腫瘍等の疾患部位、又は肝臓、脾臓、及び/若しくは骨髄において遺伝子発現の少なくとも10%増加を示し、前記遺伝子発現は、緑色蛍光タンパク質(GFP)の検出により動物モデルにおいて測定される。
【0014】
本開示の別の態様によれば、DNAベクターの肝臓又は肝臓外の送達のための脂質ナノ粒子が提供され、前記脂質ナノ粒子が、(i)カプセル化DNAベクター;(ii)脂質ナノ粒子に存在する総脂質の30モル%から60モル%までの中性脂質含有量であり、前記中性脂質はスフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン脂質から選択される;(iii)総脂質の5モル%から50モル%までのカチオン性脂質含有量;(iv)コレステロール又はその誘導体から選択されるステロール;並びに(v)総脂質の0.5モル%~5モル%又は0.5モル%~3モル%で存在する親水性ポリマー-脂質コンジュゲートを含み、前記脂質ナノ粒子が、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれた、高電子密度領域及び任意で水性部分を含むコアを有する。
【0015】
本開示の更なる態様によれば、カプセル化DNAベクター、並びに30~60モル%の、スフィンゴミエリン及びホスファチジルコリン脂質から選択される中性脂質、並びにステロール及び親水性ポリマー-脂質コンジュゲートの少なくとも1つを含む、脂質ナノ粒子が提供され、前記脂質ナノ粒子が、高電子密度領域及び任意で水性部分を有するコアを含み、前記コアが、脂質層によって少なくとも部分的に囲まれ、前記脂質ナノ粒子が、50/10/38.5/1.5モル:モルにおけるイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質のOnpattro型製剤に関する前記DNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から24時間後又は48時間後より後の任意の1つの時点で、疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄において遺伝子発現の少なくとも10%増加を示し、前記遺伝子発現は、ルシフェラーゼの検出により動物モデルにおいて測定される。
【0016】
前述の態様のいずれかによれば、ホスファチジルコリン脂質は、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)又は1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)であり得る。
【0017】
前述の態様のいずれかによれば、中性脂質はスフィンゴミエリンであり得る。
【0018】
別の実施形態において、中性脂質含有量は、脂質ナノ粒子における総脂質の30モル%から50モル%の間である。なお更なる実施形態において、中性脂質含有量は、総脂質の40モル%から60モル%の間である。
【0019】
別の実施形態において、高電子密度領域は、クライオEM顕微鏡観察により可視化される。なお更なる実施形態において、脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の調製物の一部であり、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、脂質ナノ粒子の少なくとも20%が、(i)水性部分により包まれているか、又は(ii)水性部分により部分的に囲まれており且つ高電子密度領域の外周の一部分が、少なくとも二重層を含む脂質層と隣接しているかのいずれかである。
【0020】
更なる実施形態において、DNAベクターの少なくとも一部分は、高電子密度領域又は脂質二重層中にカプセル化されている。
【0021】
別の実施形態によれば、脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子の調製物の一部であり、クライオEMにより可視化された場合の脂質ナノ粒子の少なくとも20%は形が細長い。
【0022】
更なる実施形態において、カチオン性脂質はアミノ脂質である。別の実施形態において、カチオン性脂質は、本明細書における式A、B、又はCの構造を有する。
【0023】
別の実施形態において、親水性ポリマー-脂質コンジュゲートは、ポリエチレングリコール-脂質コンジュゲートである。
【0024】
ある特定の実施形態において、ステロールは、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて15モル%から50モル%までで存在する。更なる実施形態において、ステロールは、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて18モル%から45モル%までで存在する。
【0025】
別の態様において、哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するためのDNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための方法が提供され、前記方法が、前述の実施形態のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子を前記哺乳動物対象へ投与する工程を含む。
【0026】
本開示は又、哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するためのDNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための、前述の態様又は実施形態のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子の使用を提供する。
【0027】
本開示の更なる態様は、哺乳動物対象において疾患又は障害を処置又は防止するためのDNAベクターの身体部位へのインビボ送達のための医薬の製造のための、前述の実施形態のいずれか1つに記載の脂質ナノ粒子の使用を提供する。
【0028】
一実施形態において、身体部位は、急速に分裂する細胞を含む。一実施形態において、標的部位における細胞は、周囲の実質細胞より少なくとも30%速い速度で分裂している。別の実施形態において、哺乳動物対象は胎児である。
【0029】
更なる実施形態によれば、脂質ナノ粒子は、脾臓、骨髄、又は肝臓への送達用である。更なる実施形態において、脂質ナノ粒子は、肺への送達用である。
【0030】
なお更なる実施形態において、疾患又は障害は、ウイルス感染、癌、先天性障害若しくは疾患、又は心血管疾患である。
【0031】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、静脈内に投与され、又は注射による等、直接的な疾患部位への投与による。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)中性脂質の量(40~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉(entrapment)%、粒径、及び多分散性指数(PDI)を示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤1~4は、6の窒素のリン酸に対する比(N/P)において、示されたモル%における様々な量のMF019イオン化可能脂質、コレステロール、及びDOPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 1(表1)に示されている。
図1B】ルシフェラーゼをコードするDNAを0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤1~4をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 1(表1)に示されている。
図2A】1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)中性脂質の量(20~35モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤5~8は、6のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のDLin-KC2-DMA(KC2)イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2B】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤5~8をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2C】DSPC中性脂質の量(20~35モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤9~12は、9のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のKC2イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2D】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤9~12をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2E】DSPC中性脂質の量(20~35モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤13~16は、6のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のMF019イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2F】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤13~16をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2G】DSPC中性脂質の量(20~35モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤17~20は、9のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のMF019イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2H】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤17~20をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2I】DSPC中性脂質の量(40~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤21~24は、6のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のKC2イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2J】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤21~24をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。
図2K】DSPC中性脂質の量(40~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤25~28は、6のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のMF019イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2L】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤25~28をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2M】DSPC中性脂質の量(40~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤29~32は、9の窒素のリン酸に対する比(N/P)において、示されたモル%における様々な量のMF019イオン化可能脂質、コレステロール、及びDSPC、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図2N】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤29~32をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 2(表2)に示されている。
図3A】卵スフィンゴミエリン(ESM)中性脂質の量(35~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及びPDIを示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤33~37は、6のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のKC2イオン化可能脂質、コレステロール、及びESM、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 3(表3)に示されている。
図3B】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤33~37をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 3(表3)に示されている。
図3C】ESM中性脂質の量(35~55モル%)の関数として、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有する脂質ナノ粒子の捕捉%、粒径、及び多分散性指数(PDI)を示す図である(上方のグラフ)。LNP製剤38~42は、9のN/Pにおいて、示されたモル%における様々な量のKC2イオン化可能脂質、コレステロール、及びESM、並びに1モル%におけるPEG-DMGを含む。脂質製剤の詳細はTable 3(表3)に示されている。
図3D】ルシフェラーゼをコードするDNAの0.03~10μg/mLの範囲にわたり、LNP製剤38~42をHuh7細胞に添加した後のルミネセンス強度を示す図である。脂質製剤の詳細はTable 3(表3)に示されている。
図4A】リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を投与されたCD-1マウス(n=3)における体内分布のイメージを示す図である。そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図4B】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ50/10/38.25/1のモル比におけるnorKC2/DSPC/Chol/PEG-DMG(製剤A)及び0.75モル%の脂質マーカー、DiDで構成された脂質ナノ粒子を投与されたCD-1マウスにおける体内分布のイメージを示す図である。窒素のリン酸に対する比(N/P)は6であった。そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図4C】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ27.53/50/20.72/1のモル比におけるnorKC2/DSPC/Chol/PEG-DMG(製剤B)及び0.75モル%の脂質マーカー、DiDで構成された脂質ナノ粒子を投与されたCD-1マウスにおける体内分布のイメージを示す図である。N/Pは6であり、そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図4D】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ35.95/35/27.30/1のモル比におけるnorKC2/ESM/Chol/PEG-DMG(製剤C)及び0.75モル%の脂質マーカー、DiDで構成された脂質ナノ粒子を投与されたCD-1マウスにおける体内分布のイメージを示す図である。N/Pは9であり、そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図4E】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ33.15/40/25.10/1のモル比におけるMF019/DSPC/Chol/PEG-DMG(製剤D)及び0.75モル%の脂質マーカー、DiDで構成された脂質ナノ粒子を投与されたCD-1マウスにおける体内分布のイメージを示す図である。N/Pは6であり、そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図4F】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ33.15/40/25.10/1のモル比におけるMF019/DSPC/Chol/PEG-DMG(製剤E)及び0.75モル%の脂質マーカー、DiDで構成された脂質ナノ粒子を投与されたCD-1マウスにおける体内分布のイメージを示す図である。N/Pは9であり、そのイメージは注射後24時間目に取得された。
図5A】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの肝臓由来の組織ホモジネートにおける脂質マーカー、DiDの蛍光強度(蛍光強度/mg肝臓として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図5B】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの脾臓における脂質マーカー、DiDの蛍光強度(蛍光強度/mg脾臓として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図5C】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの肺由来の組織ホモジネートにおける脂質マーカー、DiDの蛍光強度(蛍光強度/mg肺として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図6A】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの肝臓由来の組織ホモジネートにおけるルミネセンス強度(ルミネセンス強度/mg肝臓として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図6B】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの脾臓由来の組織ホモジネートにおけるルミネセンス強度(ルミネセンス強度/mg脾臓として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図6C】PBS対照、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤A~Eについての、注射後24時間目でのCD-1マウスの肺由来の組織ホモジネートにおけるルミネセンス強度(ルミネセンス強度/mg肺として報告されている)を示す図である。脂質ナノ粒子製剤はTable 4(表4)に提供されている。
図7】レポータータンパク質をコードするベクターDNAをカプセル化する脂質ナノ粒子製剤についての注射後-1日目、2日目、及び5日目における分泌レポータータンパク質(pg/mL)を示す図である。脂質ナノ粒子は、6のN/Pを有するnorKC2/DSPC/Chol/PEG-DMG (50/10/39/1モル:モル; LNP A); 6のN/Pを有するMF019/DSPC/Chol/PEG-DMG (33/40/26/1モル:モル; LNP E);及び9のN/Pを有するMF019/DSPC/Chol/PEG-DMG (33/40/26/1モル:モル; LNP J)で構成された。製剤は又、Table 5(表5)に示されている。各製剤(A、E、及びJ)は、腫瘍有り及び無しのマウスへ注射された。左から右へ-1日目、2日目、及び5日目についての各時点についてデータセットは、LNP A 腫瘍無し;LNP A 腫瘍有り; LNP E 腫瘍無し;LNP E 腫瘍有り; LNP J 腫瘍無し;及びLNP J 腫瘍有りである。
図8A】レポータータンパク質をコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ6のN/Pを有する、MF019/DSPC/Chol/PEG-DMG(33/40/26/1モル:モル;Table 5(表5)のLNP E)で構成された脂質ナノ粒子のクライオTEMイメージを示す図である。
図8B】ルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化し、且つ6のN/Pを有する、norKC2/DSPC/Chol/PEG-DMG(20.72/50/20.72/1モル:モル;Table 4(表4)のLNP B)で構成された脂質ナノ粒子のクライオTEMイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明及び図から当業者に明らかであろう。
【0034】
中性脂質
本開示の関連において、用語「中性脂質」は、スフィンゴミエリン、ホスファチジルコリン脂質、又はそれらの混合物から選択される脂質を含む。用語「中性脂質」は、本明細書における用語「ヘルパー脂質」と交換可能に用いられる。
【0035】
いくつかの実施形態において、中性脂質は、スフィンゴミエリン、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、及びジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)から選択される。ある特定の実施形態において、中性脂質は、DOPC、DSPC、又はスフィンゴミエリンである。一実施形態において、中性脂質はDOPCである。中性脂質の含有量は、異なる中性脂質の2つ以上の型の混合物を含み得る。いくつかの実施形態における中性脂質含有量は、20モル%より多く、25モル%より多く、30モル%より多く、32モル%より多く、34モル%より多く、36モル%より多く、38モル%より多く、40モル%より多く、42モル%より多く、44モル%より多く、46モル%より多く、48モル%より多く、又は50モル%より多い。いくつかの実施形態において、中性脂質含有量の上限は、70モル%、65モル%、60モル%、55モル%、50モル%、又は45モル%である。本開示は又、前述の数値の上限及び下限の任意の組合せの部分的な範囲も包含する。
【0036】
例えば、ある特定の実施形態において、中性脂質含有量は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質の20モル%から60モル%まで、又は25モル%から60モル%まで、又は30モル%から60モル%まで、又は35モル%から60モル%まで、又は40モル%から60モル%である。
【0037】
いくつかの実施形態における、脂質ナノ粒子のスフィンゴミエリン含有量は、20モル%より多く、25モル%より多く、30モル%より多く、32モル%より多く、34モル%より多く、36モル%より多く、38モル%より多く、40モル%より多く、42モル%より多く、44モル%より多く、46モル%より多く、48モル%より多く、又は50モル%より多い。いくつかの実施形態において、スフィンゴミエリン含有量の上限は、70モル%、65モル%、60モル%、55モル%、50モル%、又は45モル%である。本開示は又、前述の数値の上限及び下限の任意の組合せの部分的な範囲も包含する。
【0038】
例えば、ある特定の実施形態において、スフィンゴミエリン含有量は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質の20モル%から60モル%まで、又は25モル%から60モル%まで、又は30モル%から60モル%まで、又は35モル%から60モル%まで、又は40モル%から60モル%までである。
【0039】
いくつかの実施形態における、脂質ナノ粒子のホスファチジルコリン含有量は、20モル%より多く、25モル%より多く、30モル%より多く、32モル%より多く、34モル%より多く、36モル%より多く、38モル%より多く、40モル%より多く、42モル%より多く、44モル%より多く、46モル%より多く、48モル%より多く、又は50モル%より多い。いくつかの実施形態において、ホスファチジルコリン含有量の上限は、70モル%、65モル%、60モル%、55モル%、50モル%、又は45モル%である。本開示は又、前述の数値の上限及び下限の任意の組合せの部分的な範囲も包含する。
【0040】
例えば、ある特定の実施形態において、ホスファチジルコリン含有量は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質の20モル%から60モル%まで、又は25モル%から60モル%まで、又は30モル%から60モル%まで、又は35モル%から60モル%まで、又は40モル%から60モル%である。
【0041】
いくつかの実施形態における、脂質ナノ粒子のジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)含有量は、20モル%より多く、25モル%より多く、30モル%より多く、32モル%より多く、34モル%より多く、36モル%より多く、38モル%より多く、40モル%より多く、42モル%より多く、44モル%より多く、46モル%より多く、48モル%より多く、又は50モル%より多い。いくつかの実施形態において、ジステアロイルホスファチジルコリン含有量の上限は、70モル%、65モル%、60モル%、55モル%、50モル%、又は45モル%である。本開示は又、前述の数値の上限及び下限の任意の組合せの部分的な範囲も包含する。
【0042】
例えば、ある特定の実施形態において、DSPC含有量は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質の20モル%から60モル%まで、又は25モル%から60モル%まで、又は30モル%から60モル%まで、又は35モル%から60モル%まで、又は40モル%から60モル%である。
【0043】
ステロールを含め、中性脂質の含有量は、脂質ナノ粒子における脂質の総量に基づいて決定される。
【0044】
カプセル化DNAベクター
本明細書に記載された脂質ナノ粒子は、カプセル化DNAベクターを含む。本明細書で用いられる場合、用語「DNAベクター」は、少なくとも1つのペプチド、ポリペプチド、又はタンパク質をコードし、且つ環状であるか又は直線化されているかのいずれかである、ポリヌクレオチドを指す。
【0045】
本明細書で用いられる場合、DNAベクターをナノ粒子内に組み入れることに関しての用語「カプセル化」は、DNAベクターの脂質ナノ粒子の任意の成分又はコンパートメントとの任意の会合を指す。一実施形態において、DNAベクターは、脂質ナノ粒子のコアの高電子密度領域に組み入れられる。別の実施形態において、DNAベクターは、脂質の2つの近接して並置された層の間に組み入れられる。
【0046】
DNAベクターは、自律的に複製し得、又はそれは、当技術分野においてよく知られた方法により、宿主細胞のゲノムへ挿入されることにより複製し得る。自律的に複製するベクターは、宿主細胞において機能し得る複製開始点又は自己複製配列(ARS)を有する。DNAベクターは、クローニング及び構築のために1つより多い宿主細胞、例えば大腸菌(E. coli)において、並びに発現のために哺乳動物細胞において、使用可能である。
【0047】
DNAベクターは、細胞タンパク質又はペプチドの発現を修復し、増強し、又は遮断し若しくは低下させることを目的として、対象に投与され得る。したがって、ヌクレオチドポリマーは、ゲノムDNA、cDNA、又はRNAを含むヌクレオチド配列であり得る。
【0048】
当業者により理解されているように、ベクターは、プロモーター領域、オペレーター領域、又は構造領域をコードし得る。DNAベクターは、二本鎖DNAを含有し得、又はDNA-RNAハイブリッドで構成され得る。二本鎖DNAの非限定的例には、構造遺伝子、オペレーター調節及び終結領域を含む遺伝子、並びにベクターDNA等の自己複製系が挙げられる。
【0049】
一本鎖核酸には、アンチセンスオリゴヌクレオチド(DNA及びRNAに相補的な)、リボザイム、及び三重鎖形成性オリゴヌクレオチドが挙げられる。長期活性を有するために、一本鎖核酸は、好ましくは、ヌクレオチド結合の一部又は全部が、安定な非ホスホジエステル結合、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレネート、又はO-アルキルホスホトリエステル結合で置換されている。
【0050】
DNAベクターは、1つ若しくは複数の糖部分及び/又はピリミジン若しくはプリン塩基の1つ若しくは複数において修飾が施されている核酸を含み得る。そのような糖修飾には、1つ若しくは複数のヒドロキシル基の、ハロゲン、アルキル基、アミン、アジド基での置き換え、又はエーテル若しくはエステルとしての官能基化が挙げられ得る。別の実施形態において、糖全体が、立体的に且つ電子的に類似した構造、例えば、アザ糖及び炭素環式糖類似体で置き換えられ得る。プリン又はピリミジン塩基部分における修飾には、例えば、アルキル化プリン及びピリミジン、アシル化プリン若しくはピリミジン、又は当業者に知られた他の複素環式置換体が挙げられる。
【0051】
DNAベクターは、ある特定の実施形態において、ペプチド、タンパク質、ステロイド、又は糖部分等の修飾分子で修飾され得る。DNAベクターのそのような分子での修飾は、目的の標的部位への送達を促進し得る。いくつかの実施形態において、そのような修飾は、DNAベクターを、標的細胞の核を横断して転位置させる。例として、修飾因子は、DNAベクターの特定の部分(典型的には、目的遺伝子のコード配列ではない)と結合することができ得るが、核移行シグナル等の核ホーミング効果を生じるペプチド又は他の修飾因子も有する。修飾因子の非限定的例は、参照により本明細書に組み入れられている、Rebuffatら、2002、Faseb J. 16(11):1426~8頁により記載されているようなステロイド-ペプチド核酸コンジュゲートである。DNAベクターは、異なるタンパク質又はペプチドをコードする配列を含有し得る。プロモーター、エンハンサー、ストレスにより又は化学的に制御されるプロモーター、抗生物質感受性又は栄養感受性領域、加えて、治療用タンパク質をコードする配列が、必要に応じて含まれ得る。非コード配列も、DNAベクターに存在し得る。
【0052】
本方法に用いられる核酸は、天然源から単離し、ATCC若しくはGenBankライブラリのような供給源から入手し、又は合成方法により調製することができる。合成核酸は、様々な液相又は固相方法により調製することができる。一般的には、固相合成が好ましい。亜リン酸トリエステル、ホスホトリエステル、及びH-ホスホネート化学反応による核酸の固相合成についての手順の詳細な説明は広く入手できる。
【0053】
一実施形態において、DNAベクターは、二本鎖DNAであり、700塩基対より多く、800塩基対より多く、又は900塩基対より多く、又は1000塩基対より多く含む。
【0054】
別の実施形態において、DNAベクターは、ナノプラスミド又はミニサークルである。
【0055】
DNAベクターは、CRISPR/Cas9又はジンクフィンガーヌクレアーゼ遺伝子編集システムの一部であり得る。別の実施形態において、DNAベクターは、診断適用に用いられる。
【0056】
カチオン性脂質
用語「カチオン性脂質」は、選択されたpHにおいて正味正電荷を有するいくつかの脂質種のいずれかを指す。幅広い種類のイオン化可能脂質(ionizable lipid)が本開示の実施に用いることができることは理解されるべきである。例えば、カチオン性脂質は、その脂質が、生理学的pH(例えば、約7.0のpH)において実質的に中性であり、且つそのpKaより下のpHにおいて実質的に荷電しているようなpKaを有するイオン化可能脂質であり得る。イオン化可能脂質のpKaは、7.5未満、又はより典型的には、7.0未満であり得る。場合によっては、カチオン性脂質は、プロトン化可能三級アミン(例えば、pH滴定可能な)頭部基、C16~C18アルキル鎖、頭部基とアルキル鎖との間のリンカー領域(例えば、エステル又はエーテル結合)、及び0~3個の二重結合を含み得る。そのような脂質には、DLin-KC2-CMA (KC2)、DLin-MC3-DMA (MC3)、2022年5月26日に出願されたPCT/CA2022/050853に記載されたnor-KC2、2022年5月26日に出願されたPCT/CA2022/050856に記載されたnor-MC3、及び2022年1月12日に出願されたPCT/CA2022/050042に記載されたMF019(それぞれの特許出願は、参照により本明細書に組み入れられている)等のイオン化可能脂質が挙げられるが、それらに限定されない。本開示の実施形態に用いられ得る他のカチオン性脂質には、2022年5月26日に出願され、発明の名称が「Method for Producing an Ionizable Lipid」である、同時係属中で共同所有されたPCT/CA2022/050835(参照により本明細書に組み入れられている)に記載されたいくつかあるカチオン性脂質の中でも特に、DODMA、DODAC、DOTMA、DDAB、DOTAPが挙げられる。
【0057】
カチオン性脂質含有量は、60モル%未満、55モル%未満、50モル%未満、45モル%未満、40モル%未満、35モル%未満、30モル%未満、25モル%未満、20モル%未満、15モル%未満、10モル%、又は5モル%未満であり得る。
【0058】
ある特定の実施形態において、カチオン性脂質の含有量は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質の5モル%から60モル%まで、又は10モル%から55モル%まで、又は10モル%から50モル%まで、又は15モル%から45モル%まで、又は20モル%から40モル%である。
【0059】
一実施形態において、カチオン性脂質は、少なくとも10、10.5、11.0、又は11.5のcLogPを有する。
【0060】
一実施形態において、脂質ナノ粒子のアミンのリン酸に対する電荷比(amine-to-phosphate charge ratio)(N/P)が、3から15の間、5から10の間、6から9の間、8から10の間、又は5から8の間である。
【0061】
いくつかの実施形態において、カチオン性脂質は、下記の式A、式B、又は式Cによって表された以下のマーカッシュ構造のうちの1つを有する:
式A:
【0062】
【化1】
【0063】
式中、各R1及びR2基は、非依存的に、4個から30個までの炭素原子を有する直鎖状又は分岐型アルキル基であり、前記アルキル基は、(i)硫黄若しくは酸素原子等の0個から4個までのヘテロ原子、(ii)E若しくはZ幾何学配置の0個から5個までのC=C二重結合、並びに/又は(iii)炭素原子と結合したOH、O-アルキル、S-アルキル、及びN(アルキル)2等の置換基、(iv)5個未満の炭素原子を有するアルキル置換基、例えば、直鎖状若しくは分岐型置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルから選択される部分を組み入れ得る。R3は、H、又は4個から30個までの炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐型アルキル基であり得、前記アルキル基は、(i)硫黄若しくは酸素原子等の0個から4個までのヘテロ原子、(ii)E若しくはZ幾何学配置の0個から5個までのC=C二重結合、並びに/又は(iii)炭素原子と結合したOH、O-アルキル、S-アルキル、及びN(アルキル)2等の置換基、(iv)5個未満の炭素原子を有するアルキル置換基、例えば、直鎖状若しくは分岐型置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルから選択される部分を組み入れ得る。
【0064】
W及びXはそれぞれ、非依存的に、O又はSである;
【0065】
Yは、存在せず(2個のCが直接的に接続されている)、又はYが存在する場合には、
(i)任意で、型[(CH2)n-NG1G2]の短いアルキルアミノ基で置換されていてもよい、メテノ(C1)架橋であり、式中、n=1~5、並びにG1及びG2は、非依存的に、5個未満の炭素原子を有する小さいアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチル)、又はNG1G2が1-アゼチジニル、1-ピロリジニル、1-ピペリジニル、1-アゼパニル、1-モルホリニル、1-チオモルホリニル、1-ピペラジニル等の窒素複素環式部分であるような、Nを含有する4~7員環の部分である;又は
(ii)任意で、上記でメテノの場合について特定化されているような短いアルキルアミノ基で置換されていてもよい、エテノ(C2)架橋
から選択され;
Z及びZ'は、非依存的に、H、又は上記でメテノの場合について述べられているように、短いアルキルアミノ基である。
【0066】
一実施形態において、式Bの脂質は、本明細書に記載されたnor-KC2脂質である。
式B:
【0067】
【化2】
【0068】
式中、各R1及びR2基は、非依存的に、4個から30個までの炭素原子を有する直鎖状又は分岐型アルキル基であり、前記アルキル基は、(i)硫黄若しくは酸素原子等の0個から4個までのヘテロ原子、(ii)E若しくはZ幾何学配置の0個から5個までのC=C二重結合、並びに/又は(iii)炭素原子と結合したOH、O-アルキル、S-アルキル、及びN(アルキル)2等の置換基、(iv)5個未満の炭素原子を有するアルキル置換基、例えば、直鎖状若しくは分岐型置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルから選択される部分を組み入れ得る。R3は、H、又は4個から30個までの炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐型アルキル基であり得、前記アルキル基は、(i)硫黄若しくは酸素原子等の0個から4個までのヘテロ原子、(ii)E若しくはZ幾何学配置の0個から5個までのC=C二重結合、並びに/又は(iii)炭素原子と結合したOH、O-アルキル、S-アルキル、及びN(アルキル)2等の置換基、(iv)5個未満の炭素原子を有するアルキル置換基、例えば、直鎖状若しくは分岐型置換基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチルから選択される部分を組み入れ得る。
【0069】
Wは、NH、又は
N-CH3等のN-小さいアルキル、又は
Oである。
【0070】
Xは、NH、又は
N-CH3等のN-小さいアルキル、又は
O、又は
CG1G2(式中、G1及びG2は、非依存的に、H又は短鎖アルキル置換基である)である;
【0071】
Yは、1~5個の炭素原子の短い直鎖であり、任意で、1つ又は複数の位置において短鎖アルキル置換基で置換されていてもよい;
【0072】
Z及びZ'は、非依存的に、短鎖アルキル置換基、又はNZZ'が、1-アゼチジニル、1-ピロリジニル、1-ピペリジニル、1-アゼパニル、1-モルホリニル、1-チオモルホリニル、1-ピペラジニル等の窒素複素環式部分であるような、Nを含有する4~7員環の部分である。
【0073】
非限定的に本明細書に記載されたMF019が挙げられる、カチオン性脂質は、以下の構造を有する式Cにより表され得る:
【0074】
【化3】
【0075】
kは1~8であり得、
mは1~8であり得、
nは、非依存的に、1~8であり得、
qは、非依存的に、1~8であり得、
W及びXはそれぞれ、非依存的に、O又はSであり;
Yは、存在せず(2個のC原子が直接的に接続されている)、又はYが存在する場合には、
(i)任意で、型[(CH2)n-NG1G2]の短いアルキルアミノ基で置換されていてもよい、メテノ(C1)架橋であり、式中、n=1~5、並びにG1及びG2は、非依存的に、5個未満の炭素原子を有する小さいアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、及びtert-ブチル)、又はNG1G2が1-アゼチジニル、1-ピロリジニル、1-ピペリジニル、1-アゼパニル、1-モルホリニル、1-チオモルホリニル、1-ピペラジニル等の窒素複素環式部分であるような、Nを含有する4~7員環の部分である;又は
(ii)任意で上記でメテノの場合について特定化されているような短いアルキルアミノ基で置換されていてもよい、エテノ(C2)架橋
から選択され;
Z及びZ'は、非依存的に、H、又は上記でメテノの場合について述べられているように、短いアルキルアミノ基である。
【0076】
MF019は以下の構造を有する:
【0077】
【化4】
【0078】
本開示の実施に用いられ得る追加の硫黄含有イオン化可能脂質には、参照により本明細書に組み入れられている、共同所有の2022年5月11日に出願された米国特許出願第63/340,687号に記載されたものが挙げられる。
【0079】
ステロール
ステロールの例には、コレステロール又はステロール誘導体が挙げられる。誘導体の例には、β-シトステロール、3-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、フコステロール、又はスチグマスタノール、ジヒドロコレステロール、ent-コレステロール、epi-コレステロール、デスモステロール、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コレステリル-2'-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4'-ヒドロキシブチルエーテル、3β[N-(N'N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイルコレステロール(DC-Chol)、24(S)-ヒドロキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、25(R)-27-ヒドロキシコレステロール、22-オキサコレステロール、23-オキサコレステロール、24-オキサコレステロール、シクロアルテノール、22-ケトステロール、20-ヒドロキシステロール、7-ヒドロキシコレステロール、19-ヒドロキシコレステロール、22-ヒドロキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、7-デヒドロコレステロール、5α-コレスタ-7-エン-3β-オール、3,6,9-トリオキサオクタン-1-オール-コレステリル-3e-オール、デヒドロエルゴステロール、デヒドロエピアンドロステロン、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、ラノステロール、ルミステロール、シトカルシフェロール、カルシポトリオール、コプロスタノール、コレカルシフェロール、ルペオール、エルゴカルシフェロール、22-ジヒドロエゴカルシフェロール、エルゴステロール、ブラシカステロール、トマチジン、トマチン、ウルソール酸、コール酸、ケノデオキシコール酸、ザイモステロール、ジオスゲニン、フコステロール、フェコステロール、又はそれらの塩若しくはエステルが挙げられる。
【0080】
一実施形態において、ステロールは、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて、15モル%から50モル%まで、18モル%から45モル%まで、20モル%から45モル%まで、25モル%から45モル%まで、又は30モル%から45モル%までで存在する。
【0081】
別の実施形態において、ステロールはコレステロールであり、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて、15モル%から50モル%まで、18モル%から45モル%まで、20モル%から45モル%まで、25モル%から45モル%まで、又は30モル%から45モル%までで存在する。
【0082】
一実施形態において、(i)ステロール含有量(例えば、コレステロール又はそのコレステロール誘導体);と(ii)中性脂質含有量の合算は、脂質ナノ粒子に存在する総脂質に基づいて、少なくとも50モル%、少なくとも55モル%、少なくとも60モル%、少なくとも65モル%、少なくとも70モル%、少なくとも75モル%、少なくとも80モル%、又は少なくとも85モル%である。
【0083】
親水性ポリマー-脂質コンジュゲート
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、粒子へ組み入れることができる親水性ポリマー-脂質コンジュゲートを含む。そのコンジュゲートは、(i)極性頭部基を有するベシクル形成性脂質、及び(ii)前記頭部基に共有結合性に付着した、親水性であるポリマー鎖を含む。親水性ポリマーの例には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリサルコシン、及びポリアスパルタミドが挙げられる。一実施形態において、親水性ポリマー-脂質コンジュゲートはPEG-脂質コンジュゲートである。親水性ポリマー-脂質コンジュゲートは又、モノシアロガングリオシド(GM1)等の天然に存在する又は合成されたオリゴサッカライド含有分子でもあり得る。所定の親水性ポリマー-脂質コンジュゲートの、本明細書におけるLNPの循環長寿命を増強する能力は、既知の方法論を用いて当業者により容易に決定することができる。
【0084】
親水性ポリマー-脂質コンジュゲートは、総脂質の0.5モル%~5モル%、又は0.5モル%~3モル%、又は0.5モル%~2.5モル%、又は0.5モル%~2.0モル%、又は0.5モル%~1.8モル%で、ナノ粒子において存在し得る。ある特定の実施形態において、親水性ポリマー-脂質コンジュゲートは、総脂質の0モル%~5モル%、又は0モル%~3モル%、又は0モル%~2.5モル%、又は0モル%~2.0モル%、又は0モル%~1.8モル%で、ナノ粒子において存在し得る。
【0085】
別の実施形態において、PEG-脂質コンジュゲートは、総脂質の0.5モル%~5モル%、又は0.5モル%~3モル%、又は0.5モル%~2.5モル%、又は0.5モル%~2.0モル%、又は0.5モル%~1.8モル%で、ナノ粒子において存在する。ある特定の実施形態において、PEG-脂質コンジュゲートは、総脂質の0モル%~5モル%、又は0モル%~3モル%、又は0モル%~2.5モル%、又は0モル%~2.0モル%、又は0モル%~1.8モル%で、ナノ粒子において存在し得る。
【0086】
ナノ粒子調製及び形態
DNAベクターを組み入れ、且つ少なくとも二重層を含む脂質層によって少なくとも部分的に囲まれた、高電子密度領域及び水性部分を含むコアを有する送達媒介物は、急速混合/エタノール希釈方法等の様々な適切な方法を用いて調製することができる。調製方法の例は、Jeffs, L.B.ら、Pharm Res, 2005、22(3):362~72頁;及びLeung, A.K.ら、The Journal of Physical Chemistry. C, Nanomaterials and Interfaces、2012、116(34): 18440~18450頁(それぞれ、全体として参照により本明細書に組み入れられている)に記載されている。
【0087】
理論によって縛られるつもりはないが、カプセル化DNAベクターを含む脂質ナノ粒子が、急速混合/エタノール希釈方法を用いて形成され得る機構は、pHが上昇するにつれて、イオン化可能カチオン性脂質の中性型への変換により、より小さい空ベシクルと融合する中性脂質/コレステロールの単層により囲まれる、pH4における疎水性ベクター核酸-イオン化可能脂質コアの高密度領域の形成から始まると仮定することができる。二重層中性脂質の割合が増加するにつれて、二重層脂質は次第に二重層膨隆を形成し、イオン化可能脂質は内部の疎水性コアへ移動する。十分高い中性脂質含有量において、中性脂質を好む外面二重層が、内部のトラップ容積の周囲に完全な二重層を形成することができる。
【0088】
用語「コア」とは、水性部分及び高電子密度領域を含むナノ粒子のトラップ容積を意味する。水性部分及び高電子密度領域は、クライオEM顕微鏡観察により可視化することができる。コア内の高電子密度領域は、閉ざされた空間内で水性部分により部分的のみ囲まれるか、又は任意で、コア内の水性部分により完全に囲まれ若しくは包まれるかのいずれかである。例えば、コア内の高電子密度領域の外周の一部分が、脂質ナノ粒子の脂質層と隣接し得る。例えば、クライオEM顕微鏡観察により、定性的に、高電子密度領域の外周の一般的に約10~70%又は10~50%が、脂質ナノ粒子の脂質層の一部分と隣接していると可視化され得る。
【0089】
一実施形態において、クライオEMにより定性的に決定された場合、コア(トラップ容積)の少なくとも約5分の1は、水性部分を含有し、その水性部分において、高電子密度領域が、二重層を含む脂質層と部分的に隣接しているか又はそれから切り離されているかのいずれかである。別の実施形態において、クライオEMにより定性的に決定された場合、コアの少なくとも約4分の1は、水性部分を含有し、その水性部分において、高電子密度コアが、二重層を含む脂質層と部分的に隣接しているか又はそれから切り離されているかのいずれかである。更なる実施形態において、クライオEMにより定性的に決定された場合、コアの少なくとも約3分の1は、水性部分を含有し、その水性部分において、高電子密度コアが、二重層を含む脂質層と部分的に隣接しているか又はそれから切り離されているかのいずれかである。別の実施形態において、クライオEMにより定性的に決定された場合、コアの少なくとも約2分の1は、水性部分を含有し、その水性部分において、高電子密度コアが、二重層を含む脂質層と部分的に隣接しているか又はそれから切り離されているかのいずれかである。
【0090】
一実施形態において、高電子密度領域は、一般的に、形が球状である。別の実施形態において、高電子密度領域は疎水性である。
【0091】
本明細書における脂質ナノ粒子は、DNAベクターの特に高いトラッピング効率を示し得る。したがって、一実施形態において、トラッピング効率は、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%である。
【0092】
一実施形態において、DNAベクターは、高電子密度領域内に少なくとも部分的にカプセル化される。例えば、一実施形態において、DNAベクターの少なくとも50モル%、60モル%、70モル%、又は80モル%が、高電子密度領域内にカプセル化される。別の実施形態において、イオン化可能脂質の少なくとも50モル%、60モル%、70モル%、又は80モル%が、高電子密度領域内にある。
【0093】
別の実施形態において、DNAベクター及びカチオン性脂質は、高電子密度領域内に存在する。一実施形態において、この形態は、対象への投与後のカプセル化カーゴの安定性の驚くべき向上を与える。更なる実施形態において、中性脂質は、二重層を含む脂質層に存在する。
【0094】
脂質ナノ粒子は、単一の二重層を含み、又は複数の同心円状の脂質層(すなわち、多重層)を含み得る。二重層を含む1つ又は複数の脂質層は、コアを囲む連続層を形成し得、又は不連続であり得る。脂質層は、いくつかの実施形態において、二重層及び単層の組合せであり得る。一実施形態において、脂質層は、コアを囲む連続的二重層である。
【0095】
本開示の脂質ナノ粒子は、クライオEMにより可視化された場合、独特な形態を有する。一つの非限定的例において、中性脂質含有量が増加するにつれて、コアにおける高電子密度領域が水性部分内に囲まれて、「浮き」、今度は、その水性部分が脂質二重層によって囲まれているという形態をコアがとる(例えば、図9)。
【0096】
したがって、ある特定の実施形態において、コアの高電子密度領域は、二重層を含む脂質層から、水性部分によって隔てられている。例えば、本開示は、クライオEM顕微鏡観察により決定された場合の粒子の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、又は70%が、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、水性部分によって囲まれている高電子密度領域を有するコアを有し、且つ水性部分が、二重層を含む脂質層によって囲まれている、複数の脂質ナノ粒子を含む脂質ナノ粒子調製物を提供する。
【0097】
本開示の脂質ナノ粒子は、クライオEMによって可視化された場合、独特な形態を有する。一つの非限定的例において、中性脂質含有量が増加するにつれて、コアにおける高電子密度領域が、脂質二重層と隣接しているという形態をコアがとる(例えば、図9)。
【0098】
したがって、ある特定の実施形態において、本開示は、クライオEM顕微鏡観察により決定された場合の粒子の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、又は70%が、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、二重層を含む脂質層と隣接している高電子密度領域を有するコアを有する、複数の脂質ナノ粒子を含む脂質ナノ粒子調製物を提供する。
【0099】
別の実施形態において、非限定的に、本開示は、一般的に粒子の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、又は70%が、クライオEM顕微鏡観察により可視化された場合、脂質層(例えば、二重層)と高電子密度領域との間に配置された連続的な水性空間によって囲まれ又は包まれた高電子密度領域を含むコアを有する、複数の脂質ナノ粒子を含む脂質ナノ粒子調製物を提供する。
【0100】
インビボでのDNAベクターからの遺伝子発現の向上
本明細書で用いられる場合、DNAベクターの「発現」は、mRNAのペプチド(例えば、抗原)、ポリペプチド、又はタンパク質(例えば、酵素)への翻訳を指し、そのペプチド、ポリペプチド、又は完全にアセンブルされたタンパク質(例えば、酵素)の翻訳後修飾を含み得る。
【0101】
脂質ナノ粒子の形態は、患者への投与後のその長い循環寿命を促進して、それにより、DNAベクター送達について、以前の製剤より広い範囲の組織へのDNAベクター送達を向上させ得、そのDNAベクター送達には、腫瘍等の任意の疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄への送達が挙げられるが、それらに限定されない。脂質ナノ粒子が、所定の組織又は器官へのそのような増強された送達を示すかどうかは、DiD(DiIC18(5); 1,1'-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドジカルボシアニン、4-クロロベンゼンスルホネート塩)等の脂質マーカーを用いて、インビボマウスモデルにおける体内分布研究により決定することができる。追加又は代替の実施形態において、緑色蛍光タンパク質(GFP)は、所定の組織又は器官においてベクターからの核酸発現を検出するために用いられ得、インビボモデル、すなわち、マウスモデルにおいて実行される。特に、そのような実施形態によれば、LNP DNAベクター系は、GFPをコードするDNAベクターを用いて調製され、体内分布及びGFP発現は、全身投与後のフローサイトメトリーを用いて評価される。当業者により理解されているように、ルシフェラーゼ等、GFP以外の他のレポーター系が、標的部位において核酸発現を検出するために用いることができる。
【0102】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、投与から少なくとも12時間後又は48時間後に測定された場合、Onpattro(商標)型製剤と比べて、少なくとも10%の遺伝子発現の増加を示す。所定の脂質ナノ粒子が、注射から12時間後又は48時間後の任意の時点において、関連細胞、組織、又は器官における遺伝子発現の増加を示すかどうかを評価するために、比較されることになっているその2つの製剤は、中性脂質の含有量を別にすれば、同一であり、インビボ発現を決定するために同じ実験方法及び材料に供される。レポーター遺伝子の発現は、実施例4(緑色蛍光タンパク質)及び実施例5(ルシフェラーゼ)に示されているように、測定される。「Onpattro」型製剤は、50/10/38.5/1.5;モル:モルでのイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質を含有し、イオン化可能脂質は、発現の増加について試験されることになっている脂質ナノ粒子製剤におけるそれと同じである。
【0103】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、50/10/38.5/1.5;モル:モルでのイオン化可能脂質/DSPC/コレステロール/PEG-脂質の「Onpattro」型製剤に関するDNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、注射から12時間後又48時間後の任意の時点において、腫瘍等の任意の疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄において、インビボでの遺伝子発現の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、又は200%増加を示し、その遺伝子発現は、緑色蛍光タンパク質(GFP)又はルシフェラーゼ(Luc)等の適切なレポーター遺伝子の発現産物の検出により動物モデルにおいて測定される。
【0104】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、注射後12時間目、24時間目、48時間目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、又は15日目に測定された場合、腫瘍等の任意の疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄において、インビボでの遺伝子発現の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、又は200%増加を示す。
【0105】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、注射後24時間目から30日目の間、48時間目から15日目の間、又は3日目から10日目の間の任意の時点において、腫瘍等の任意の疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、及び/若しくは骨髄において、インビボでの遺伝子発現の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、又は200%増加を示す。
【0106】
DNAベクターを含む脂質ナノ粒子は、成人又は胎児細胞における急速に分裂又は増殖する細胞を含有する組織、器官、又は他の標的部位をターゲットとし得る。本明細書に記載された脂質ナノ粒子は、そのような疾患部位においてコード化タンパク質又はペプチドの発現の増強を示し得る。本明細書における脂質ナノ粒子によってカプセル化されたDNAベクターは、サイトゾルへの送達、及び核酸の細胞の核への移行を促進し得る。理論によって制限されるつもりはないが、DNAベクターの核への移行及び核におけるタンパク質又はペプチドの発現は、主に、急速に分裂している細胞の集団において観察され得る。したがって、DNAベクターをカプセル化し、且つ肝臓を越えた組織及び器官におけるDNAベクターのインビボ体内分布及び/又は発現の増強を生じる脂質ナノ粒子は、急速に分裂する細胞によって特徴づけられる疾患又は障害の処置に特に有利であり得る。本開示の脂質ナノ粒子は又、急速に分裂する細胞をターゲットとするための子宮内投与にも特に適し得る。
【0107】
身体におけるそのような部位は、癌性である疾患部位であり得、又は脂質ナノ粒子は、急速に分裂する細胞を有する心血管疾患の場合において、心血管系をターゲットとし得る。別の実施形態において、脂質ナノ粒子は、分化を起こす細胞等の、胚性組織又は器官において急速に分裂する細胞を有する部位をターゲットとする。脂質ナノ粒子がそのような部位をターゲットとすることは、出生前に子宮内で先天性疾患の処置又は防止を与え得る。更なる実施形態において、脂質ナノ粒子は、そのような標的部位が急速に分裂している細胞を有することから、骨髄をターゲットとする。
【0108】
一実施形態において、脂質ナノ粒子は、非担癌マウスモデルにおけるインビボでのDNA発現と比べて、担癌マウスモデルにおいて、腫瘍等の、急速に分裂する細胞を有する任意の疾患部位においてインビボでのDNA発現の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、又は200%増加を示し、その場合、DNA発現産物は、注射後12時間目、24時間目、48時間目、3日目、4日目、5日目、6日目、7日目、8日目、9日目、10日目、11日目、12日目、13日目、14日目、又は15日目に、分泌されたタンパク質/ペプチドについて血液中、又は身体部位において測定される。
【0109】
一実施形態において、標的部位における細胞は、周囲の実質細胞より少なくとも30%速い速度で分裂している。その組織が単離され、固定され、切片化され、その後、その切片は、細胞分裂のマーカー、例えば、有糸分裂中に特異的に発現するタンパク質、細胞周期に関連したタンパク質、又はクロマチンの存在について染色される。当業者に知られた技術の例は、参照により本明細書に組み入れられている、Romarら、2016、Journal of Investigative Dermatology、136(1):e1~e7頁に提供されている。当業者に知られた特に適切な方法はKi-67の染色及び顕微鏡観察である。
【0110】
別の実施形態において、DNAベクターを含む脂質ナノ粒子は、診断適用に用いられる。DNAベクターは、標的細胞(例えば、急速に分裂する細胞)に局在し、コードDNAの発現は、測定可能なシグナルを提供するために用いられ得る。
【0111】
薬学的製剤
いくつかの実施形態において、DNAベクターを含む脂質ナノ粒子は、薬学的組成物の一部であり、疾患状態を処置及び/又は防止するために投与される。処置は、予防的(防止的)、寛解的、又は治療的利益を与え得る。薬学的組成物は、任意の適切な投薬量で投与される。
【0112】
一実施形態において、薬学的組成物は、非経口的に、すなわち、動脈内に、静脈内に、皮下に、又は筋肉内に投与される。なお更なる実施形態において、薬学的組成物は、腫瘍内又は子宮内投与用である。別の実施形態において、薬学的組成物は、鼻腔内に、硝子体内に、網膜下に、髄腔内に、又は他の局所的経路を介して、投与される。
【0113】
薬学的組成物は、薬学的に許容される塩及び/又は賦形剤を含む。
【0114】
本明細書に記載された組成物は、患者へ投与され得る。本明細書で用いられる場合の患者という用語は、ヒト又は非ヒト対象を含む。
【0115】
医学的処置の方法及び脂質ナノ粒子の使用
一実施形態において、インビトロ又はインビボで、タンパク質又はポリペプチドを産生することにより状態又は疾患を処置及び/又は防止するための使用のための、本明細書において任意の実施形態に記載されているような脂質ナノ粒子であって、前記脂質ナノ粒子が、前記タンパク質又はポリペプチドをコードする少なくとも1つのDNAベクターを含む、脂質ナノ粒子が提供される。一実施形態において、その使用は、哺乳動物の細胞、組織、又は生物体を脂質ナノ粒子と接触させる工程を含む。一実施形態において、哺乳動物細胞をインビトロ又はインビボで接触させる。別の実施形態において、哺乳動物細胞は、急速に分裂する細胞である。
【0116】
一実施形態において、インビトロ又はインビボでタンパク質又はポリペプチドを産生することにより状態又は疾患を処置及び/又は防止するために、本明細書において任意の実施形態に記載されているような脂質ナノ粒子を投与することにより、哺乳動物細胞を処置するための方法であって、その製剤が、前記タンパク質又はポリペプチドをコードする少なくとも1つのDNAベクターを含み、前記方法が、哺乳動物細胞を前記脂質ナノ粒子と接触させる工程を含む、方法が提供される。一実施形態において、哺乳動物細胞をインビトロ又はインビボで接触させる。
【0117】
一実施形態において、哺乳動物細胞は、肺癌細胞、結腸癌細胞、直腸癌細胞、肛門癌細胞、胆管癌細胞、小腸癌細胞、胃(stomach)(胃の(gastric))癌細胞、食道癌細胞、胆嚢癌細胞、肝臓癌細胞、膵臓癌細胞、虫垂癌細胞、乳癌細胞、卵巣癌細胞、子宮頚癌細胞、前立腺癌細胞、腎臓癌細胞、中枢神経系の癌細胞、神経膠芽腫腫瘍細胞、皮膚癌細胞、リンパ腫細胞、絨毛癌腫瘍細胞、頭頚部癌細胞、骨原性肉腫腫瘍細胞、及び血液癌細胞等の癌細胞である。
【0118】
本明細書における脂質ナノ粒子は、幅広い種類の脊椎動物を処置するために用いることができ、その脊椎動物には、哺乳動物、例えば、限定されるわけではないが、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、齧歯類(例えば、マウス、ラット、及びモルモット)、ウサギ、ブタ、及び霊長類(例えば、ヒト、サル、及びチンパンジー)が挙げられる。
【0119】
例は、特定の脂質ナノ粒子DNAベクター調製物の調製及びそれらの性質を例証することを意図されるが、決して、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0120】
(実施例1)
材料
脂質1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホリルコリン(DSPC)、卵スフィンゴミエリン(ESM)、1,2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メトキシポリエチレングリコール-2000(PEG-DMG)、及び1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)は、Avanti Polar Lipids社(Alabaster、AL)から購入された。コレステロール及び10× リン酸緩衝食塩水(pH 7.4)は、Sigma Aldrich社(St Louis、MO)から購入された。イオン化可能アミノ-脂質2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、及びMF019は、2022年5月26日に出願された、「Method for Producing an Ionizable Lipid」という発明の名称のPCT/CA2022/050835に以前記載されたように合成され、その出願は参照により本明細書に組み入れられている。ルシフェラーゼをコードするDNAベクターは、Aldevron(商標)社(Fargo、NO)から購入された。Steady-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイキット(Promega社、Madison、WI)は、ルシフェラーゼ活性を分析するために用いられた。
【0121】
方法
DNAベクターを含有する脂質ナノ粒子(LNP)の調製
イオン化可能カチオン性脂質、中性脂質、コレステロール、及びPEG-DMG等の、製剤に用いられる脂質を、10mMの総脂質の最終濃度へ適切な比でエタノール中に溶解した。核酸を、アミンのリン酸に対する適切な比に達するのに必要な濃度へ、pH 4における25mM 酢酸ナトリウム又はpH 4におけるクエン酸ナトリウム等の適切なバッファー中に溶解した。水性溶液と有機溶液を、Kulkarniら、2018、ACS Nano、12:4787頁及びKulkarniら、2019、Nanoscale、11:9023頁(参照により本明細書に組み入れられている)に記載されているような急速混合デバイスを3:1(v/v;それぞれ)の流速比且つ20mL/分の総流速で用いて混合した。その結果として生じた混合物を、PBS pH 7.4の1000倍体積に対して直接的に透析した。全ての製剤を、Amicon(商標)遠心フィルターユニットを用いて濃縮し、下に記載された方法を用いて分析した。
【0122】
LNPの分析
PBS中のLNPの粒径分析を、Malvern社のZetasizer(商標)(Worcestershire、UK)での動的光散乱の後方散乱測定を用いて行った。報告された粒径は、個数基準平均直径(nm)に対応する。総脂質濃度を、コレステロール含有量からの外挿により決定し、そのコレステロール含有量を、製造会社の推奨の通り、コレステロールE-総コレステロールアッセイ(Wako Diagnostics社、Richmond、VA)を用いて測定した。製剤のカプセル化効率を、Quant-iT PicoGreen(商標)dsDNAアッセイキット(Invitrogen(商標)社、Waltham、MA)を用いて決定した。簡単に述べれば、溶液中の総DNA含有量を、2% Triton Tx-100を含有するTEの溶液中に脂質ナノ粒子を溶解することにより、測定し、溶液中の遊離DNAベクター(LNPの外側)を、Tritonを含まないTris-EDTA(TE)溶液においてPicoGreen蛍光に基づいて測定した。製剤中の総DNA含有量を、改変型Bligh-Dyer抽出手順を用いて決定した。簡単に述べれば、LNP-DNAベクター製剤を、単相を生じるクロロホルム、メタノール、及びPBSの混合物中に溶解し、260nmにおける吸光度を、分光光度計を用いて測定した。
【0123】
Huh7細胞におけるインビトロ分析
Huh7細胞を、10% ウシ胎仔血清 (FBS)を追加したダルベッコの改変イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium)(DMEM)において培養した。細胞処理について、10,000個の細胞を、96ウェルプレートの各ウェルへ加えた。24時間後、培地を吸引し、0.03~10μg/mL DNAベクターの範囲にわたる関連濃度での希釈LNPを含有する培地と交換した。24時間後、発現分析を実施し、ルシフェラーゼレベルをSteady-Glo Luciferase(商標)キットを用いて測定した。細胞を、Glo Lysis(商標)バッファーを用いて溶解した。
【0124】
インビボでの無傷器官/組織における蛍光の測定
ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含み且つ0.75モル%でのDiD脂質マーカーを含むLNPを用いて、インビボ体内分布を評価した。DNAベクターLNPを、DNAの1mg/kgの用量で、CD-1マウスにおいて、式:マウスの体重(グラムでの)*10μLを用いた体積で、静脈内(i.v.)に注射した。注射後24時間目に、マウスを、5% イソフルラン(1%気流に設定)中で麻酔し、続いて、CO2で、その動物が反射を消失するまで窒息を誘導した。これに続いて、頚椎脱臼を行った。その後、その動物を、PerkinElmer(商標)社により製造されたインビボイメージングシステム(IVIS(商標))でイメージングした。
【0125】
イメージング後、皮膚を、膀胱から胸郭までを切り、腹膜を開かずに、その皮膚を背にしてピンで留めた。器官が無傷である動物を、IVIS(商標)イメージャーにおいてイメージングした。肝臓、脾臓、及び肺を、腹腔から取り出し、プラスチック皿へ置き、IVIS(商標)イメージャーを用いてイメージングした。
【0126】
組織ホモジネートアッセイ
組織をマウスから取り出し、2mLチューブ内に入れ、液体窒素中で瞬間凍結させた。その後、組織を-80℃で凍結させた。Promega(商標)社製のGLO(商標)溶解バッファーの適切な体積を、チューブのそれぞれに加え、その溶解バッファーの添加前に、その試料が凍結したままであることを確実にした。試料を、FastPrep(商標)ホモジナイザーに入れ、ホモジナイザーを、「6」の速度で20秒間、稼動させ、合計3ラウンドとして、2回、繰り返した。ホモジナイズされた試料を、室温で12,000rpmで10分間、沈降させ、その後、二連で50μLのホモジネートを、黒色プレートへ加えた。そのプレートを、プレートリーダーへ移し、蛍光を、640nm 励起/720nm 発光で読み取った。50μLのSteady Glo(商標)基質をホモジネート試料へ加えることによりルミネセンスを決定し、ルシフェラーゼシグナルを読み取った。
【0127】
分泌されたタンパク質のインビボ発現アッセイ
DNAベクターLNPを、1mg/kgの用量で、担癌及び非担癌NSG系統番号005557マウスにおいて、式:マウスの体重(グラムでの)*5μLを用いた体積で、静脈内(i.v.)に注射した。注射後-1日目、2日目、及び5日目に、血液を、伏在静脈を介して採取し、血清を、SSTチューブ(BD Microtainer(商標)チューブ、BD Diagnostics(商標)社)での遠心分離によって分離した。分泌されたレポータータンパク質を、活性に基づいたアッセイを用いて、血清において測定する。
【0128】
(実施例1)
増加性DOPC中性脂質含有量の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果
イオン化可能脂質MF019、中性脂質DOPC、コレステロール、及び1モル% PEG-DMGを含有するLNP製剤を、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有するように調製した。DOPCのモルパーセンテージを、40モル%から55モル%まで増加させた。それに応じて、それぞれ、イオン化可能脂質及びコレステロールレベルを、1.3モル/モルの比率を維持しながら、減少させた。
【0129】
調べられた製剤は、下記のTable 1(表1)に提示されている。増加性DOPC中性脂質含有量の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果は、図1に示されている。
【0130】
【表1】
【0131】
(実施例2)
増加性DSPC中性脂質含有量の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果
イオン化可能脂質MF019又はKC2、中性脂質DSPC、コレステロール、及び1モル% PEG-DMGを含有するLNP製剤を、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有するように調製した。DSPCのモルパーセンテージを、20モル%から55モル%まで増加させた。それに応じて、それぞれ、イオン化可能脂質及びコレステロールレベルを、1.3モル/モルの比率を維持しながら、減少させた。
【0132】
下記のTable 2(表2)は、各製剤に用いられた脂質成分を示す。増加性DSPC中性脂質含有量の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果は、図2A図2Gに示されている。
【0133】
【表2】
【0134】
(実施例3)
増加性卵スフィンゴミエリン(ESM)中性脂質の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果
イオン化可能脂質KC2、中性脂質ESM、コレステロール、及び1モル% PEG-DMGを含有するLNP製剤を、ルシフェラーゼをコードするDNAベクターを含有するように調製した。ESMのモルパーセンテージを、35モル%から55モル%まで増加させた。それに応じて、それぞれ、イオン化可能脂質及びコレステロールレベルを、1.3モル/モルの比率を維持しながら、減少させた。
【0135】
下記のTable 3(表3)は、各製剤に用いられた脂質成分を示す。増加性ESM中性脂質含有量の、LNPサイズ、PDI、カプセル化効率、及びトランスフェクション効率への効果は、図2A図2Gに示されている。
【0136】
【表3】
【0137】
(実施例4)
注射後24時間目又は48時間目の時点での肝臓、脾臓、及び/若しくは骨髄、又は疾患部位におけるGFP又はルシフェラーゼ遺伝子発現のインビボ分析のための適切な方法
以下は、マウスモデルにおける肝臓、脾臓、肺、及び/又は骨髄でのベクターDNAのインビボ発現を測定するための適切な方法を記載する。前に論じられているように、そのような方法は、Onpattro(商標)製剤と比べてのDNAベクターからのレポーターDNA(例えば、遺伝子)の発現レベルを決定するために用いられ得る。
【0138】
マウスは、2つの群へ分けられ、Onpattro(商標)に基づいたLNPを用いて送達されるGFP若しくはルシフェラーゼ(Luc)をコードするDNAベクター、又は本件のベクターDNA脂質ナノ粒子組成物の静脈内(i.v.)注射を受け、陰性対照としてリン酸緩衝食塩水(PBS)を用い得る。体内分布研究について、GFP(又はLuc)をコードするDNAベクターを捕捉するLNPを、蛍光脂質マーカーとして0.2モル% DiDで標識する。注射を、3mg/kg ベクターDNA用量で実施し、マウスを、注射後24時間目又は48時間目(hpi)に屠殺する。マウスを、まず、高用量のイソフルランを用いて麻酔し、続いて、CO2を用いた。経心臓的灌流を以下の通り、実施する:動物が無応答になるとすぐに、5cmの内側切開術を、腹壁を貫いて行い、肝臓及び心臓を露出させる。心臓がまだ鼓動している間、予熱されたハンクス平衡塩類溶液(HBSS、Gibco社)を充填された30mLシリンジへ接続された翼状針を、左心室へ挿入する。次に、肝臓を灌流培地(0.5mM EDTA、グルコース 10mM、及びHEPES 10mMを追加されたHBSS)で、3mL/分の速度で10分間、灌流する。肝臓腫脹が観察されるとすぐに、右心房に切開を実施し、灌流を、消化培地(10% ウシ胎仔血清(FBS、Gibco社)及び1% ペニシリン ストレプトマイシン(Gibco社) を追加したDMEM、Gibco社、並びに0.8mg/mL コラゲナーゼIV型、Worthington社)へ切り替えて、3mL/分で更に10分間、灌流した。器官漂白により決定されるような系全体の灌流の終わりに、肝臓及び脾臓の全体を解剖し、10mL 氷冷(4℃)灌流培地を含有する50mL Falcon(商標)チューブへ移し、氷上へ置いた。
【0139】
次に、密度勾配に基づいた分離後、肝細胞の単離を実施する。脾臓及び大腿も又、摘出して、脾細胞及び骨髄細胞を単離する。簡単に述べれば、肝臓を、消化培地を含有するペトリ皿へ移し、無菌条件下で刻み、そのプレートを時々振盪しながら、37℃で20分間、インキュベートする。その後、細胞懸濁液を、40μmメッシュの細胞ストレーナーを通して濾過して、いかなる未消化組織残遺物も除去する。初代肝細胞を、ブレーキなしで500rpmでの低速遠心分離により、他の肝臓常在細胞から分離する。主に肝細胞を含有するペレットを収集し、5000rpmで5分間、洗浄し、4℃で保った。大腿を、微量遠心機において10,000gで10秒間、遠心分離して、髄を収集し、その髄を、ACK溶解バッファー中1分間、再懸濁して、赤血球を除去し、続いて、氷冷PBSで洗浄する。
【0140】
その後、肝細胞の表現型検出を、モノクローナル抗体を用いて実施して、LNP送達及びDNA発現を評価する。細胞取込み及びGFP又はルシフェラーゼ発現は又、脾細胞及び骨髄細胞において、単離後すぐに検出する。ここで、脾臓を摘出し、40μmメッシュの細胞ストレーナーへ置き、シリンジのプランジャーの端を用いて、ペトリ皿へと細胞ストレーナーを通してすりつぶす。懸濁された細胞を、15mL Falcon(商標)チューブへ移し、1,000rpmで5分間、遠心分離する。そのペレットを、1mL ACK溶解バッファー(Invitrogen(商標)社)中に再懸濁して、赤血球を溶解し、FACSバッファー中に分割する。細胞アリコートを、300μL FACS染色バッファー(FBS 2%、アジ化ナトリウム 0.1%、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA 1mM))中に再懸濁し、続いて、蛍光タグ付き抗体で染色する。染色前に、まず、細胞を抗マウスCD16/CD32(マウスFcブロッカー、クローン2.4G2)(AntibodyLab(商標)社、Vancouver、Canada)で標識して、バックグラウンドを低下させる。肝細胞を、ASGR1を検出する一次マウス抗体(8D7、Novus Biologicals社)、続いて、PE-Cy7へ標識された、マウスIgG2aに対するヤギポリクローナル二次抗体(BioLegend(商標)社)での染色後、検出する。
【0141】
肝細胞、脾細胞、骨髄細胞、及び標的疾患部位(例えば、腫瘍)、又は、該当する場合には、他の器官由来の細胞の検出を、LSRIIフローサイトメトリー及びFACSDiva(商標)ソフトウェアを用いて行い、生細胞集団でのゲーティング後の1000000個の事象の獲得後、FlowJo(商標)により分析する。LNP-ベクター送達又はトランスフェクション効率を、ゲーティング化細胞集団から得られたヒストグラムに関して測定された、DiD又はGFP陽性細胞、それぞれの相対的平均蛍光強度に基づいて評価する。
【0142】
統計解析を、群が比較される両側スチューデントt検定を用いて実施する。その型(対応あり、又は2標本の同等分散 - 等分散的)は、2つの集団の標準偏差の変動に基づいて決定される。P<0.05は、統計的有意として認められる(*P<0.05)。
【0143】
上記方法は、Onpattro型製剤に関するDNAベクターをカプセル化する脂質ナノ粒子と比較して、マウスモデルにおいて、注射から24時間後又は48時間後より後の任意の1つの時点で、疾患部位、又は肝臓、脾臓、肺、若しくは骨髄以外の器官におけるDNA発現の増加も評価するように当業者により適応させることができる。
【0144】
疾患部位について、組織を切除し、より小さい小片へ切断し、ディスパーゼ及びコラゲナーゼに曝して、結合組織を破壊する。その後、その組織を、シリンジのプランジャーの端を用いて、ペトリ皿へと40μm細胞ストレーナーを通してすりつぶす。懸濁された細胞を、15mL Falcon(商標)チューブへ移し、1,000rpmで5分間、遠心分離する。細胞アリコートを、300μL FACS染色バッファー(FBS 2%、アジ化ナトリウム 0.1%、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA 1mM))中に再懸濁し、上記のようにフローサイトメトリー分析に供する。
【0145】
肺組織について、1mLのコラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ及び1.5mLのDNアーゼI溶液(1mg/mL)を7.5mLのRPMI 1640培地へ加えることにより、10mLの消化培地を調製し、室温まで温める。PBS/2% FBS中の採取された肺組織を、培地を含まない皿へ移し、カミソリの刃又は外科用メスを用いて、均一なペースト(サイズが<1mm)へ刻む。その後、刻まれた肺組織を、10mLの消化培地を含有するチューブへ移し、振盪プラットフォーム上で、37℃、20分間、インキュベートする。70μmナイロンメッシュストレーナーを、100mm皿の上に置き、消化された肺組織を、シリンジプランジャーのゴム端でそのストレーナーを通して押し出して、細胞懸濁液を得る。その後、新しい70μmナイロンメッシュストレーナーを、50mLコニカルチューブの上に置き、細胞懸濁液を濾過し、ストレーナーを、推奨培地ですすぐ。その溶液を、ブレーキを低に設定して、室温、300xgで6分間、遠心分離し、続いて、慎重に取り出し、上清を捨てる。20mLの塩化アンモニウム溶液を細胞ペレットへ加え、続いて、室温で5分間、インキュベートする。50mLの最終体積に達するように推奨培地を加え、その溶液を、ブレーキを低に設定して、室温、300xgで6分間、遠心分離し、続いて、慎重に取り出し、上清を捨てる。その細胞を、推奨培地中に、必要とされる細胞濃度で再懸濁し、上記のようにフローサイトメトリー分析に供する。
【0146】
(実施例5)
注射後24時間目での肝臓、脾臓、及び/又は骨髄におけるベクターDNA-LNPからの体内分布及び遺伝子発現のインビボ分析の結果
ルシフェラーゼをコードするベクターDNA及びDiD脂質マーカーを含有する以下のLNPを、材料及び方法に記載されているように調製して、インビボ体内分布及びベクターDNAからの遺伝子発現を評価した。
【0147】
【表4】
【0148】
組織体内分布結果は、図4A図4Fに示されている。PBS対照、及び10モル% DSPCのみを有する製剤Aは、DiD蛍光を測定することにより可視化された場合、組織DiD-脂質取込みを示さなかった(図4A及び図4B)。
【0149】
対照的に、50モル% DSPCを有する製剤Bは、強い脾臓及び肝臓DiD-脂質取込み、加えて、肺におけるいくらかの取込みを示した(図4C)。35モル% 卵スフィンゴミエリン(ESM)を有する製剤Cは、脾臓における強い取込み、肺及び肝臓においてはより穏やかな取込みを生じた(図4D)。
【0150】
40モル% DSPCを有する製剤Dは、DiD-脂質取込みにより測定された場合、脾臓における高い取込み、並びに肺及び肝臓における、より穏やかな量の取込みを示した(図4E)。製剤Dと同じ脂質組成を有するが、より高いN/Pを有する製剤Eは、脾臓における高い取込み、肺及び肝臓においてはDiD-脂質のより低い取込みを示した(図4F)。
【0151】
リン酸緩衝食塩水(PBS)及び製剤A~E(Table 4(表4))についての肝臓、脾臓、及び肺からの組織ホモジネートデータは、図5A図5Cに示されている。脾臓及び肺において、最も低いレベルの中性脂肪(10モル% DSPC)を有する製剤Aは、両方の器官において低いレベルの体内分布を生じた(図5A及び図5B)。対照的に、上昇したレベルの中性脂肪(>35モル% 中性脂肪)を有する製剤B~Eは、脾臓及び肺において最も強いシグナルを示した(図5A及び図5B)。
【0152】
肝臓において、最も低いレベルの中性脂肪(10モル% DSPC)を有する製剤Aは、肝臓において中程度のシグナルを生じた。製剤A及びB(50モル% DSPC及び35モル% ESM)は、肝臓において最も強いシグナルを生じ、一方、製剤D及びEは、肝臓において比較的より低い蛍光強度を生じた。
【0153】
ルシフェラーゼをコードするpDNAのインビボ遺伝子発現を、上記のTable 4(表4)のPBS対照及び製剤A~Eについて、肝臓、脾臓、及び肺において測定した。その結果は、図6A図6B、及び図6Cに示されている。40モル% DSPCを有する製剤D及びEは、試験された他の製剤と比べて、最も良い肝臓外送達を生じた。
【0154】
この非限定的例において、肝臓におけるDSPCの蓄積の減少は、卵スフィンゴミエリンと比べて観察された(図5)。したがって、いくつかの実施形態において、肝臓を越える蓄積が望まれる場合には、ESMを含む同じLNPより、上昇したレベルのDSPCを含むLNPを選択することが有利であり得る。
【0155】
(実施例6)
上昇したレベルの中性脂質を有する脂質ナノ粒子対10モル% DSPCを有する標準LNPについてのベクターDNA腫瘍発現データ
10モル%及び40モル%の中性脂質を有し且つ分泌タンパク質をコードするベクターDNAをカプセル化する以下の脂質ナノ粒子を、上記の材料及び方法に記載されているように、調製した。
【0156】
【表5】
【0157】
腫瘍有り及び無しのマウスに、上記のTable 5(表5)における各製剤を注射した。その結果は図7に示されている。図7の棒グラフにおけるデータは、以下の3つの群へ配置される;群1は、棒グラフの最も左の3分の1にある注射後-1日目のデータである;群2は、グラフの中央の3分の1にある注射後2日目である;及び群3は、棒グラフの最も右の3分の1にある注射後5日目である。
【0158】
10モル% DSPCを有する従来の4成分LNP(LNP製剤A)は、担癌マウスと非担癌マウスの両方について、投与後2日目及び5日目に血液において同等レベルの分泌タンパク質が測定されている(注射後2日目及び5日目の群における1番目と2番目の棒)。
【0159】
それに比べて、40モル% DSPCを有するLNP(製剤E及びJ)は、注射後2日目と5日目の両方で、非担癌マウスから採取された血液試料と比べて、担癌マウスの血液において上昇したレベルの分泌タンパク質を生じた。
【0160】
これらの結果は、上昇した中性脂質含有量を有するLNP製剤が遠位の腫瘍部位に達したことを裏付けている。更に、非担癌マウスに対する担癌マウスにおけるより高いレベルの分泌タンパク質は、そのタンパク質をコードするベクターDNAが、遠位の腫瘍部位の急速に分裂する細胞へ送達され、タンパク質へ翻訳されたことを示している。
【0161】
(実施例7)
上昇したレベルの中性脂質を有する脂質ナノ粒子は独特な形態を有する
レポータータンパク質をコードするベクターDNAをカプセル化するMF019/DSPC/Chol/PEG-DMG (33/40/26/1 モル:モル;Table 5(表5)のLNP E)で構成された脂質ナノ粒子、及びルシフェラーゼをコードするベクターDNAをカプセル化するnorKC2/DSPC/chol/PEG-DMG (27.53/50/20.72/1 モル:モル;Table 4(表4)のLNP B)で構成される脂質ナノ粒子のクライオTEMイメージが得られた。
【0162】
各製剤についてのイメージは、図8A及び図8Bに示されている。
【0163】
高レベルの中性脂質(ESM及びDSPC)を有する、カプセル化DNAベクターを有する脂質ナノ粒子のイメージは、二重層内に含有される高電子密度領域がある、形態を有する。そして、そのコアが、図8A及び図8Bに示されているように、脂質二重層と合致する構造によって囲まれている。上昇した中性脂質を有するLNPに独特であるその形態が、前の実施例において観察されているように、急速に分裂する細胞を有する部位(例えば、遠位の腫瘍部位又は胚)又は肝臓、脾臓、及び/若しくは肺等の部位をターゲットとするためのインビボ送達性質の向上をLNPに与え得る。
【0164】
本発明は、前述の実施例を参照して、記載及び例証されているが、様々な改変及び変化が、本発明から逸脱することなく、施され得ることは明らかであろう。
図1AB
図2AB
図2CD
図2EF
図2GH
図2IJ
図2KL
図2MN
図3AB
図3CD
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5ABC
図6ABC
図7
図8A
図8B
【国際調査報告】