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特表2024-521893アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240528BHJP
   C21D 8/00 20060101ALI20240528BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240528BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C21D8/00 E
C21D9/00 A
C22C38/58
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574327
(86)(22)【出願日】2022-05-31
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 SE2022050524
(87)【国際公開番号】W WO2022255927
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】2130152-8
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523451082
【氏名又は名称】アレイマ イーエムイーエー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ルンドバリ, マッツ
(72)【発明者】
【氏名】ヘランデル, トーマス
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA13
4K032AA14
4K032AA15
4K032AA16
4K032AA17
4K032AA19
4K032AA20
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA25
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA33
4K032AA35
4K032AA37
4K032AA39
4K032AA40
4K032BA01
4K032BA02
4K032BA03
4K032CA02
4K032CA03
4K032CF03
4K042AA06
4K042AA25
4K042BA01
4K042BA06
4K042BA11
4K042CA05
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA11
4K042CA12
4K042CA14
4K042CA16
4K042DA03
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DD05
4K042DE02
(57)【要約】
本開示は、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金に関する。また、本開示は、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼物体を製造する方法に関する。さらに、本開示は、500~900°Cの温度範囲における製品及び使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼であって、以下の組成を重量%で含み;
Cr 11.0~16.0;
Ni 11.5~15.0;
A1 3.5~5.0;
C 0.01~0.15;
Nb 0.01~2.0;
Mn 0.01~3.5;
Si 0.01~0.8;
Cu 0~5.5;
Zr 0~0.3;
Mo+W 0~3.0;
場合により、最大レベル0.1重量%までの希土類金属(REM)からなる群から選択される1又は複数の元素を含み;
残部がFe及び通常存在する不純物であり;
オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼が、15体積%超かつ45体積%未満のフェライトを含み、残りがオーステナイトである微細構造を有する、
オーステナイト-フェライトステンレス鋼。
【請求項2】
組成が、Cu 0.5~5.5を重量%で含む、請求項1に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項3】
組成が、Zr 0.05~0.3を重量%で含む、請求項1又は2に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項4】
組成が、Nb 0.05~1.6重量%を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項5】
オーステナイト-フェライトステンレス鋼物体を製造する方法であって、
a)請求項1~4のいずれか一項に記載の組成を有するアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を用意する工程と、
b)アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を固体に冷却する工程と、
c)前記固体を1000°C超~1300°Cの温度で所定の形状の加工片に熱間加工する工程と、
d)前記加工片を1050°C~1200°Cの範囲の温度で約2~120分間熱処理する工程と、
e)熱処理された加工片をほぼ室温まで急冷する工程と、を含む方法。
【請求項6】
熱間加工工程c)の後に冷間加工工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
急冷工程e)の後に熟成工程をさらに含む、請求項5及び6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の、又は請求項1~7のいずれか一項に従って製造された、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼を含む物体。
【請求項9】
前記製品が500~900°Cの範囲の温度に曝される用途における、請求項8に記載の物体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金に関する。より具体的には、本開示は、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金に関する。本開示はまた、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼物体を製造する方法、前記アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼を含む製品、及び特定の環境における物体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術は、高温で酸素含有雰囲気に曝されたときにその表面上に保護アルミナ層を形成することができるオーステナイト相及びフェライト相を含む二重ステンレス鋼の例を開示している。ニッケル、クロム及びアルミニウムの高含有量は、このような二重ステンレス鋼に典型的である。
【0003】
Wang et al:「Effects of carbon and chromium on the solidification structure and properties of ferrite-austenite duplex heat-resistant alloy」、Science and Technology of advanced materials,Elsevier Science,vol.2,no.l,30 July 2001、297~302頁は、1250°Cの空気中で試験したフェライト-オーステナイト二重合金を開示している。しかしながら、これらの合金の欠点は、それらの耐酸化性が500°C~900°Cの温度で十分ではないことである。さらに、これらの合金のいくつかは非常に脆いことが示されており、したがって延性は従来の製造経路には低すぎる。
【0004】
Hyunmyung et al:「Development of alumina-forming duplex stainless steels as accident tolerant fuel cladding materials for light water reactors」、Journal of Nuclear Materials,Elsevier Science,vol 507,21 April 2018、1~14頁は、1200°Cの蒸気及び模擬加圧水型原子炉(PWR)の運転条件で耐食性を試験した高アルミニウム含有量(>5wt.%)二重ステンレス鋼を開示している。しかしながら、開示された組成物の耐酸化性は、500~900°Cの温度では十分ではない。
【0005】
したがって、この技術分野では、ステンレス鋼を含む物体を従来の製造経路を使用して製造することを可能にし、500~900°Cの温度範囲で使用した場合に優れた耐酸化性を有する物体を提供する最適化されたオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本開示は、500~900°Cの温度範囲で使用される、オーステナイト及びフェライトを含む最適化された微細構造を有する改良されたアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金組成物を提供する。
【0007】
本開示によるオーステナイト-フェライトステンレス鋼は、ステンレス鋼が以下の組成を重量%で含み;
Cr 11.0~16.0;
Ni 11.5~15.0;
A1 3.5~5.0;
C 0.01~0.15;
Nb 0.01~2.0;
Mn 0.01~3.5;
Si 0.01~0.8;
Cu 0~5.5;
Zr 0~0.3;
Mo+W 0~3.0;
残部がFe及び不可避不純物であり;
オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼が、15体積%超かつ45体積%未満のフェライトを含み、残りがオーステナイトである微細構造を有することを特徴とする。
【0008】
本開示では、オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼のフェライト含有量は、15体積%超~45体積%未満の範囲内であり、残りはオーステナイトであり、この微細構造は、500~900°Cまでの温度範囲における耐酸化特性にとって極めて重要であることが分かっている。フェライト量が15体積%未満であると、耐酸化性及び機械的強度が低下することが示されている。フェライトの量が45体積%を超える場合、本ステンレス鋼は、約650°Cを超える温度で保護酸化物層を形成する問題を有することが示されている。
【0009】
本開示はさらに、上記又は以下に定義される微細構造を有するオーステナイト-フェライトステンレス鋼組成を含む物体を製造する方法を提供する。合金を製造する方法は、従来の溶製冶金製造ルートであり、なぜならば、本ステンレス鋼がこれを可能にするのに十分高い熱間延性を有することが驚くべきことに見出されたからである。
【0010】
本開示はさらに、上記又は以下に定義される微細構造を有するオーステナイト-フェライトステンレス鋼組成を含む物体を提供する。本発明のステンレス鋼は、物体上に酸化アルミニウム層を形成することを可能にし、これにより、物体を500~900°Cの温度範囲の広範囲の酸素濃度を有する雰囲気中で使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】800°Cでの酸化試験の結果を開示している。
図1b】900°Cでの酸化試験の結果を開示している。
図2】異なる熱処理の関数としての降伏強度を示すグラフを開示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、合金が以下の組成を重量%で有し;
Cr 11.0~16.0;
Ni 11.5~15.0;
A1 3.5~5.0;
C 0.01~0.15;
Nb 0.01~2.0;
Mn 0.01~3.5;
Si 0.01~0.8;
Cu 0~5.5;
Zr 0~0.3;
Mo+W 0~3.0;
残部がFe及び通常存在する不純物であり;
オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼が、15体積%超かつ45体積%未満のフェライトを含み、残りがオーステナイトである微細構造を有することを特徴とする、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼に関する。
【0013】
次に、本開示による鋼の合金元素についてより詳細に説明する。「重量%」及び「wt%」という用語は互換的に使用される。また、特定の要素について言及された特性又は寄与のリストは、網羅的であるとみなされるべきではない。
【0014】
鉄(Fe)残部
オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼中のFeの主な機能は、物体の鋼組成又は合金元素の組成のバランスをとることである。残部には、後述する不可避的不純物も含まれる。
【0015】
クロム(Cr)11.0~16.0wt%
Crはフェライト安定剤であるため重要な元素であり、したがって、15体積%超かつ45体積%未満であり残りがオーステナイトであるフェライトを含む適切な微細構造を維持するのを助ける。
【0016】
Crはまた、一過性の酸化段階における酸化クロムの形成によるいわゆる第3の元素効果を介して、製造された物体上のアルミナ、すなわち酸化アルミニウム層の形成を促進する。特に、500~600°Cの領域の温度では、クロムの量が不十分である場合、物体上のアルミナ層の形成が損なわれ得る。また、クロムは耐食性を向上させるため重要な元素である。したがって、本鋼中のクロムの最小含有量は11.0wt%である。
【0017】
一実施形態によれば、クロムの最小含有量は12.0wt%である。
【0018】
しかしながら、Crの量が多すぎると、フェライト含有量が高くなりすぎ、特に800~900°Cなどの高温での耐酸化性の低下につながる。Cr含有量が高すぎると、脆化を引き起こすシグマ相などの二次相の形成も生じる。したがって、クロムの最大含有量は16.0wt%、例えば最大15.5wt%である。
【0019】
実施形態によれば、Crの含有量は、11.0~16.0wt%、例えば12.0~16.0wt%、例えば12.0~15.5wt%である。
【0020】
ニッケル(Ni)11.5~15.0wt%
Niは、オーステナイト安定剤であり、したがって適切な微細構造を維持するのを助けるので、重要な元素である。ニッケルの量が少なすぎると、フェライト相含有量が多すぎるリスクがあり、特に800°Cを超える温度では、耐酸化性の損失をもたらす。さらに、Niが少なすぎると、室温でオーステナイトからマルテンサイトへの変態も生じる。したがって、ニッケルの最小含有量は11.5wt%である。
【0021】
一方、Niの量が多すぎると、フェライトの量が少なすぎ、引張強度が低いなどの機械的特性が悪くなる。
【0022】
Niはまた、ニッケルアルミナイドとしてアルミニウムを結合し、それによってアルミナ層の形成をある程度抑制するので、添加されたアルミニウムの量と釣り合うべきである。しかしながら、ニッケルアルミナイドは、製造された物体における改善された機械的特性、例えば硬度の増加及び改善された降伏強度を提供し得る。ニッケルは、ある程度コバルト(Co)で置換されていてもよい。しかしながら、環境上の観点からCoはあまり好ましくないため、Niが好ましい。したがって、Niの最大含有量は15.0wt%である。実施形態によれば、Niの含有量は、11.5~15.0wt%、例えば12.0~14.5wt%である。
【0023】
アルミニウム(Al)3.5~5.0wt%
Alは、高温で酸素に曝されると、製造された物体上に緻密で薄い酸化アルミニウム層を形成し、下にある表面をさらなる酸化から保護するので、A1も本鋼における重要な元素である。Alの含有量が低すぎると、鋼が500~900°Cなどの高温で酸素含有雰囲気に曝される場合、十分に厚い保護アルミナ層の形成が制限されるか、又は形成されない。さらに、AlはNiと共にニッケルアルミナイドを形成し、それによってその硬度の増加に寄与する。したがって、アルミニウムの最小含有量は3.5wt%である。
【0024】
さらに、A1はフェライト安定剤であるため、適切な微細構造を維持するのに役立つ。A1の量が多すぎると、フェライト含有量が高くなりすぎ、特に800~900°Cなどの温度で耐酸化性が低下する。したがって、アルミナの最大含有量は5.0wt%である。実施形態によれば、A1の含有量は、3.5~5.0wt%、例えば3.7~4.9wt%である。
【0025】
炭素(C)0.01~0.15wt%
Cは、オーステナイト-フェライトステンレス鋼中に存在するいくつかの元素を有する炭化物を形成し、それによって鋼の硬度及び強度の上昇に寄与する(例えば、クリープ特性)。さらに、Cはオーステナイト安定剤でもある。したがって、炭素の最小含有量は0.01wt%、例えば0.03wt%である。炭素含有量oが高すぎると、多すぎる炭化物、例えばM23C6及び/又はM7C3炭化物の形成のリスクが高まり、耐酸化性が低下する。したがって、炭素の最大含有量は0.15wt%、例えば0.13wt%である。実施形態によれば、Cの含有量は、0.01~0.15wt%、例えば0.03~0.13wt%である。
【0026】
ニオブ(Nb)0.01~2.0wt%
Nbはフェライト安定剤であるため、適切な微細構造を維持するのに役立つ。
【0027】
さらに、NbはCと共に炭化ニオブを形成し、それによって炭化クロムの過剰な形成を抑制し、これはアルミナ層の形成に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、Nbの最小含有量は0.01wt%である。一実施形態によれば、Nbの最小含有量は0.05wt%である。
【0028】
しかしながら、Nbが多すぎると、過剰量の炭化ニオブが形成され、鋼が脆くなる。したがって、ニオブの最大含有量は2.0wt%、例えば最大1.50wt%である。したがって、実施形態によれば、Nbの含有量は、0.01~2.0wt%、例えば0.05~1.60wt%、例えば0.05~1.60wt%である。
【0029】
マンガン(Mn)0.01~3.5wt%
マンガン(Mn)はオーステナイト安定剤であり、耐酸化性を損なうことなくニッケルをある程度置換することができる。したがって、Mnの最大含有量は3.5wt%、例えば最大3.2wt%である。実施形態によれば、Mnの含有量は、0.01~3.5wt%、例えば0.01~3.2wt%、例えば0.05~3.1wt%である。
【0030】
ケイ素(Si)0.01~0.8wt%
Siは、耐酸化性を向上させるために添加される。したがって、Siの最小含有量は0.01wt%である。しかし、Siが多すぎると、シグマ相が形成されるリスクが高くなる可能性がある。したがって、ケイ素の最大含有量は0.8wt%である。一実施形態によれば、Siの最大含有量は、0.7wt%、例えば0.6wt%である。実施形態によれば、Siの含有量は、0.01~0.8wt%、例えば0.01~0.7wt%、例えば0.01~0.6wt%である。
【0031】
銅(Cu)0~5.5wt%
Cuは、場合により添加されてもよく、又は不純物とみなされてもよい。意図的に添加される場合、及び所望の効果を得るために、最小含有量は0.5wt%である。Cuは、改善された硬度及び降伏強度などの改善された機械的特性を提供し得るニッケルアルミナイドの形成にプラスの効果を有し得る。しかしながら、Cuが多すぎると、過剰量のニッケルアルミナイドが生じ、物体の製造中の熱間延性特性が低下する。これらの理由から、Cuの最大含有量は5.5wt%、例えば5.3wt%、例えば5.2wt%である。実施形態によれば、Cuの含有量は0~5.5wt%である。実施形態によれば、Cuの含有量は、0~0.5wt%未満又は0.5~5.5wt%である。
【0032】
ジルコニウム(Zr)0~0.3wt%
Zrは、場合により添加されてもよく、又は不純物とみなされてもよい。意図的に添加される場合、最小含有量は0.05wt%である。Zrは、炭素及び窒素の炭窒化ジルコニウムと共に形成され、それによって窒化アルミニウム及び炭化クロムの形成を抑制し、アルミナ層の形成を抑制し得る。しかしながら、Zrが多すぎると、熱間延性が低下し、鋼の熱間加工が困難になる。このため、Zrの最大含有量は0.3wt%である。実施形態によれば、Zrの含有量は、0~0.05wt%未満又は0.05~0.3wt%である。
【0033】
モリブデン(Mo)及び/又はタングステン(W)0~3.0wt%
Mo及びWは同等の元素とみなされ、場合により添加されてもよい。Mo及び/又はWは、対応する炭化物の形成によって炭素に結合し、それによって形成される炭化クロムの量を減少させる。しかしながら、Mo及びWが多すぎると、ラーベス相及びシグマ相などの金属間相が導入されるリスクが高まる可能性がある。したがって、これらの理由から、W及びMoの合計含有量は、最大3.0重量%に制限されるべきである。
【0034】
希土類金属(REM)0~0.1重量%
REM、例えば、La、Ce、Y、Pr及びSmを場合により添加してもよい。これらの元素は強力な硫化物形成剤であり、それによって鋼を硫黄(S)から洗浄し、したがって熱間延性を改善し、最大0.1重量%の量で存在し得る。このレベルを超えると、本開示で定義されるCu及びNiの含有量と組み合わせて、REMは熱間延性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0035】
さらに、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)は、元素Zr及びNbと機能的に等価であると考えられ、したがって、それらの元素について指定されるのと同じ量で存在することができ、これらの元素を部分的又は全体的に置換することができる。
【0036】
リン(P)及び硫黄(S)は、この文脈では通常存在する不純物と見なされ得る。リンPは、合金中に低レベルで許容され得る。一実施形態によれば、Pは<60ppmである。硫黄Sは、合金中に低レベルで許容され得る。一実施形態によれば、Sは<60ppmである。一実施形態により、P+Sは<60ppmである。
【0037】
窒素(N)は、通常存在する不純物とみなされるべきである。一実施形態によれば、N<0.02wt%の含有量。
【0038】
他の不純物もまた、上記又は以下に定義されるようなオーステナイト-フェライトステンレス鋼中に存在し得る。典型的には、このような不純物は、製造プロセスに起因して、例えば、本鋼の組成を有する溶融物を生成するために溶融されるスクラップ金属中に存在するという事実に起因して不可避である。
【0039】
あるいは、そのような元素は、たとえ溶融物から技術的に除去することができたとしても、それらを除去するために必要な作業が技術的又は経済的な観点から動機付けられる程度までは完成鋼の機能性を損なわない。本開示で言及される他の全ての実施形態と組み合わせることができる一実施形態によれば、前記通常存在する不純物の最大含有量は、0.5wt%以下である。
【0040】
さらに、上記又は以下に定義されるオーステナイト系フェライト系ステンレス鋼は、本明細書で言及される範囲のいずれかで本明細書で言及される元素を含んでもよい。一実施形態によれば、本発明のオーステナイト系フェライト系ステンレス鋼は、本明細書で言及される範囲のいずれかの本明細書で言及される全ての元素からなる。
【0041】
本開示はまた、上記又は以下に定義されるようなオーステナイト系-フェライト系ステンレス鋼組成を使用してオーステナイト-フェライトステンレス鋼物体を製造する方法に関し、その方法は、以下の工程を含む。
【0042】
a)上記又は以下に定義される合金元素組成を有するアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を提供する工程。
【0043】
b)アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を固体に冷却する工程。
【0044】
c)前記固体を1000°C超~1300°Cの温度で所定の形状の加工片に熱間加工する工程。
【0045】
熱間加工工程は、そうでなければ金属間の形成が延性を低下させるので、1000°Cを超えて実施しなければならない。実施形態によれば、熱間加工温度は1100°Cを超える。1300°Cを超えると、初期溶融のリスクが本体に亀裂を引き起こす可能性がある。
【0046】
一実施形態によれば、所望の形状の加工片を得るために、熱間加工工程を数回繰り返してもよい。
【0047】
一実施形態によれば、熱間加工工程は、鍛造又は熱間圧延を含んでもよい。
【0048】
d)前記加工片を1050°C~1200°Cの範囲の温度で約2~120分間、熱処理する工程。
【0049】
熱処理工程の時間及び温度は、加工片のサイズ及び体積に依存する。しかし、金属間相を分解するためには、温度は少なくとも1050°C、例えば少なくとも1100°Cでなければならない。また、フェライト含有量は増加し、その量は熱処理温度に依存するため、オーステナイト及びフェライトを含む正しい微細構造を得るために、最高温度は1200°C、例えば1170°C、例えば1150°Cである。
【0050】
e)熱処理された加工片をほぼ室温まで急冷する工程。
【0051】
急冷は、空気、水、又は油浴を使用して加工片をほぼ室温に冷却することによって行われ得る。
【0052】
一実施形態によれば、所定の形状の加工物をより細かい公差で得るために、少なくとも1つの熱間加工工程c)の後にオプショナルの冷間加工工程を実施してもよい。
【0053】
一実施形態によれば、急冷工程e)の後にオプショナルの熟成工程を実施してもよい。熟成工程は、最終物体の降伏強度の増加などの熟成硬化効果を得るために、500°Cを超える温度、例えば650~850°Cで最大240時間、例えば最大100時間で行われる。熟成工程中、シグマ相又はラーベス相などの有害な二次相は形成されない。しかしながら、熟成工程後に室温(RT)延性のわずかな低下があり得る。
【0054】
さらに、上記又は以下に定義されるオーステナイト-フェライトステンレス鋼の製造された物体は、本明細書で言及される範囲のいずれかで本明細書で言及されるオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金元素を含んでもよい。一実施形態によれば、オーステナイト-フェライトステンレス鋼のこの物体は、本明細書で言及される範囲のいずれかの本明細書で言及される全ての合金元素からなる。
【0055】
最終物体は、限定はしないが、チューブ、ストリップ、シート、又はワイヤなどの任意の形状とすることができる。この物体は、優れた耐酸化性、良好な溶接性を有し、また、限定されないが、マッフル管、復熱管及び高温熱交換器などの非加圧用途に使用することを可能にする機械的特性も有する。
【0056】
したがって、さらに、本開示は、物体が500~900°の範囲の温度及び低酸素雰囲気に曝される用途における、上記又は以下に定義されるようなアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼を含む物体の使用に関する。そのような用途の例は、マッフル管、復熱管及び高温熱交換器である。
【0057】
本開示は、以下の非限定的な実験によってさらに説明される。
【実施例
【0058】
試料調製
表1に開示される組成を有する14個のアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物熱を調製した。「*」が付された熱は、比較例であり、したがって、本発明の範囲外である。
【0059】
068を除く全ての溶融物は、開放雰囲気の誘導炉中での溶融によって調製され、068は、真空(VIM)中での誘導溶融によって調製され、溶融物を固体に冷却した。
【0060】
固体を9インチのインゴットに鋳造し、次いで1180~1280°Cの温度で鍛造した。試料の寸法は50*120mmであった。
【0061】
次いで、鍛造インゴットを1100°Cで20分間熱処理し、水中でほぼ室温まで急冷した。
【0062】
50mmから15mmまで熱間圧延することによる試料の機械調製。
【0063】
熱間圧延後、試料を約1130°Cで20分間焼鈍した。
【0064】
焼鈍した試料のフェライト及びオーステナイト含有量は、30視野及び100点の格子を有するASTM E562に従って測定した。測定には光学顕微鏡を用い、結果は表1に見ることができる。
【0065】
高温酸化
腐食クーポン(KO-5、15mm×10mm×3mm)の形態の試料を、異なる熱から機械加工した。クーポンを600メッシュに研磨し、エタノール/アセトン及び蒸留水で洗浄し、水平管炉に入れ、体積で2.5%水蒸気を含む空気を模擬して十分に制御された雰囲気下で、500°C~900°Cの範囲の温度に最大500時間曝露した。
【0066】
24時間後、48時間後、96時間後、192時間後及び500時間後に、重量測定のために試料を炉から取り出した。重量測定データのサンプリングは、5桁の精度でザルトリウススケールで行った。
【0067】
図1a及び図1bは、異なる温度での質量変化(g/m)を時間の関数として示す。図1bから分かるように、高フェライト含有量及び低アルミナ含有量を有する比較試料(840、841、843)は、質量変化が増加することから分かるように、保護アルミナ層を形成する能力を失っている。高いフェライト含有量及び高いA1含有量を有する比較例(961)並びに本発明の試料は、800°Cで良好に機能する。
【0068】
図1bは、本発明の試料のみが900°Cで良好な酸化特性を有することを示す。したがって、フェライト含有量とアルミナ含有量との組み合わせは、これらの温度範囲で優れた酸化特性を得るために非常に重要である。
【0069】
機械的試験
焼鈍及び熟成条件での本発明の試料(953、954958)の降伏強度を標準IS06892-1によって測定し、結果を図2に示す。650°C~850°Cの温度範囲で試料を熟成すると、降伏強度が増加することが明確に分かる。この強化機構は、熟成中のニッケルアルミナイドの形成に起因する可能性が最も高い。
【0070】
したがって、本発明のアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼合金は、500~900°Cの温度範囲で優れた耐酸化性を示し、良好な機械的特性も有することは明らかである。
【0071】
表1は、調製された14のアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物熱を示す。値はwt%であり、残部はFe及びフェライトを除く不可避不純物であり、その値はvol%である。“*”でマークされた熱は同等の熱である。
図1a
図1b
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-04-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼であって、以下の組成を重量%で含み;
Cr 11.0~16.0;
Ni 11.5~15.0;
A1 3.5~5.0;
C 0.01~0.15;
Nb 0.01~2.0;
Mn 0.01~3.5;
Si 0.01~0.8;
Cu 0~5.5;
Zr 0~0.3;
Mo+W 0~3.0;
場合により、最大レベル0.1重量%までの希土類金属(REM)からなる群から選択される1又は複数の元素を含み;
残部がFe及び通常存在する不純物であり;
オーステナイト系フェライト系ステンレス鋼が、15体積%超かつ45体積%未満のフェライトを含み、残りがオーステナイトである微細構造を有する、
オーステナイト-フェライトステンレス鋼。
【請求項2】
組成が、Cu 0.5~5.5を重量%で含む、請求項1に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項3】
組成が、Zr 0.05~0.3を重量%で含む、請求項1又は2に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項4】
組成が、Nb 0.05~1.6重量%を含む、請求項1又は2に記載のオーステナイト-フェライトステンレス鋼合金。
【請求項5】
オーステナイト-フェライトステンレス鋼物体を製造する方法であって、
a)請求項1に記載の組成を有するアルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を用意する工程と、
b)アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼溶融物を固体に冷却する工程と、
c)前記固体を1000°C超~1300°Cの温度で所定の形状の加工片に熱間加工する工程と、
d)前記加工片を1050°C~1200°Cの範囲の温度で約2~120分間熱処理する工程と、
e)熱処理された加工片をほぼ室温まで急冷する工程と、を含む方法。
【請求項6】
熱間加工工程c)の後に冷間加工工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
急冷工程e)の後に熟成工程をさらに含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の、又は請求項5に従って製造された、アルミナ形成オーステナイト-フェライトステンレス鋼を含む物体。
【請求項9】
前記製品が500~900°Cの範囲の温度に曝される用途における、請求項8に記載の物体の使用。
【国際調査報告】