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▶ ザ ジェイ. デビッド グラッドストーン インスティテューツ、 ア テスタメンタリー トラスト エスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デビッド グラッドストーンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】外因性阻害のアッセイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240528BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20240528BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20240528BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20240528BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
G01N33/53 Y
G01N33/53 D
C12N5/0797
C12N5/0735
C12N5/0775
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574545
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 US2022032172
(87)【国際公開番号】W WO2022256664
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】63/197,242
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】517352418
【氏名又は名称】ザ ジェイ. デビッド グラッドストーン インスティテューツ、 ア テスタメンタリー トラスト エスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デビッド グラッドストーン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】アカソグルー、カテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ピーターセン、マーク
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー-フランケ、アンケ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS33
4B065AA90X
4B065CA24
4B065CA46
(57)【要約】
外因性阻害物質による再ミエリン化阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性阻害物質による再ミエリン化阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイであって、
a)オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及び
b)単一アッセイで2つの読み取り値を取得することにより、1)MBP+ミエリン形成オリゴデンドロサイト(OL)、及び2)GFAP+アストロサイトの存在を検出/定量すること
を含み、前記外因性阻害物質のみと接触させた対照OPCと比較したOLの増加及びGFAP+アストロサイトの減少は、この薬剤が外因性阻害物質による再ミエリン化の阻害を克服したことを示す、アッセイ。
【請求項2】
前記外因性阻害物質は、抗体、化合物、小分子、ペプチド、及び核酸のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
前記外因性阻害物質は炎症性分子である、請求項1又は2に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記外因性阻害物質はフィブリノーゲンである、請求項1~3のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項5】
フィブリノーゲンは生理学的レベルで存在する、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項6】
フィブリノーゲンは、少なくとも2.5mg/mlの濃度で添加される、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項7】
前記OPCは初代OPCである、請求項1~6のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項8】
前記初代OPCは、a)の前に増殖培地中で1~6日間培養される、請求項7に記載のアッセイ。
【請求項9】
前記増殖培地はPDGF-AA及びNT3を含む、請求項8に記載のアッセイ。
【請求項10】
前記OPCは、タンパク質分解及び/又はコラーゲン分解によって培養皿から分離され、その後、新鮮な培養皿に播種される、請求項8又は9に記載のアッセイ。
【請求項11】
前記OPCは、a)の前に、96ウェルプレートの1ウェルあたり5×10細胞で、又は384ウェルプレートの1ウェルあたり1×10細胞で播種される、請求項10に記載のアッセイ。
【請求項12】
前記播種されたOPCは、a)の前に最大24時間培養される、請求項11に記載のアッセイ。
【請求項13】
前記OPCは、b)の前に前記OPCが分化できるように、ステップa)において1~6日間培養される、請求項1~12のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項14】
前記OPCは3日間培養される、請求項13に記載のアッセイ。
【請求項15】
前記分化培地はCNTFトリヨードチロニン(T3)及びPDGF-AAを含む、請求項13又は14に記載のアッセイ。
【請求項16】
a)の後、前記細胞をMBPに対する抗体(オリゴデンドロサイト)及びGFAPに対する抗体(アストロサイト)と接触させる、請求項1~15のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項17】
前記抗体は検出可能な標識で直接的又は間接的に標識され、標識を有する前記細胞の画像が取得される、請求項16に記載のアッセイ。
【請求項18】
自動化画像が取得される、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項19】
培養容器(例えば、ウェル)の少なくとも約80%が画像化される、請求項17又は18に記載のアッセイ。
【請求項20】
MBP+及びGFAP+の自動定量化が使用される、請求項1~19のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項21】
外因性阻害物質の阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイであって、
a)細胞を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及び
b)前記試験薬剤に対する細胞応答を検出及び/又は定量すること
を含み、前記細胞を前記外因性阻害物質のみと接触させた対照と比較して異なる細胞応答は、薬剤が前記外因性阻害物質を克服できたことを示す。
【請求項22】
前記外因性阻害物質は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロナン、フィブロネクチン凝集体、ミエリンデブリ、炎症性サイトカイン(例えば、可溶性TNF-α又はインターフェロン-γ)、骨形成タンパク質、エンドセリン-1、セマフォリン、環境毒素及びアルコール、タバコ、違法薬物又は娯楽用薬物からなる群から選択される、請求項21に記載のアッセイ。
【請求項23】
前記細胞は、神経幹細胞及び/又は前駆細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、放射状グリア細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、小脳顆粒ニューロン前駆細胞、神経堤幹/前駆細胞、血管/内皮の幹/前駆細胞、臓器幹/前駆細胞(例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓、骨格筋、皮膚、骨、網膜)、間葉系幹/前駆細胞、胎盤幹/前駆細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(又はESC/iPSC由来の細胞)、及びがん/腫瘍関連細胞/幹細胞を含む幹細胞又は前駆細胞からなる群から選択される、請求項21又は22に記載のアッセイ。
【請求項24】
前記神経前駆細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)である、請求項23に記載のアッセイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
テキストファイルとして提供される配列表の参照による組み込み
配列表は、2022年6月2日に作成され、サイズが693バイトのテキストファイル「2244002.txt」として本明細書に提供される。テキストファイルの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府の資金援助
本発明は、ARMY/MRMCによって与えられたW81XWH-17-1-0211に基づく政府支援及び国立衛生研究所によって与えられたR35 NS097976に基づく政府支援によって行われた。政府は本発明に関して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
血液脳関門(BBB)破壊部位及び神経血管損傷部位における外因性阻害物質は、神経疾患における再ミエリン化不全の一因となる。しかし、再ミエリン化の外因性阻害を克服する治療法は広く利用可能ではなく、神経血管機能不全部位におけるグリア前駆細胞ニッチリモデリングの動態はほとんど知られていない。
【発明の概要】
【0004】
本明細書では、ミエリン化促進薬がフィブリノーゲンによる再ミエリン化の外因性阻害をレスキューしないことが示されたため、外因性阻害物質の存在下で再ミエリン化を促進する化合物を同定するためのアッセイ/スクリーニング(OPC-Xと名付けた)を提供する。
【0005】
一実施形態は、外因性阻害物質による再ミエリン化阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイを提供し、このアッセイは、a)オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及びb)単一アッセイで2つの読み取り値を取得することにより、1)MBP+ミエリン形成オリゴデンドロサイト(OL)、及び2)GFAP+アストロサイトの存在を検出/定量することを含み、外因性阻害物質のみと接触させた対照OPCと比較したOLの増加及びGFAP+アストロサイトの減少は、この薬剤が外因性阻害物質による再ミエリン化の阻害を克服したことを示す。
【0006】
一実施形態では、外因性阻害物質は、抗体、化合物、小分子、ペプチド及び/又は核酸である。別の実施形態では、外因性阻害物質は炎症性分子である。一実施形態では、外因性阻害物質はフィブリノーゲンである。一実施形態では、フィブリノーゲンは生理学的レベルで存在する。別の実施形態では、フィブリノーゲンは、少なくとも2.5mg/mlの濃度で添加される。
【0007】
一実施形態では、OPCは初代OPCである。一実施形態では、初代OPCは、a)の前に増殖培地中で1~6日間培養される。別の実施形態では、増殖培地はPDGF-AA及びNT3を含む。一実施形態では、OPCは、タンパク質分解及び/又はコラーゲン分解によって培養皿から分離され、その後、新鮮な培養皿に播種される。別の実施形態では、OPCは、a)の前に、96ウェルプレートの1ウェルあたり5×10細胞で、又は384ウェルプレートの1ウェルあたり1×10細胞で播種される。一実施形態では、播種されたOPCは、a)の前に最大24時間培養される。別の実施形態では、OPCは、b)の前にOPCが分化できるように、ステップa)において1、2、3、4、5又は6日間を含む1~6日間培養される。
【0008】
一実施形態では、a)の後、細胞を、MBPに対する抗体(オリゴデンドロサイト)及びGFAPに対する抗体(アストロサイト)と接触させる。一実施形態では、抗体は、検出可能な標識で直接的又は間接的に標識され、自動化画像などの、標識を有する細胞の画像が取得される。一実施形態では、培養容器(例えば、ウェル)の少なくとも約80%が画像化される。別の実施形態では、MBP+及びGFAP+の自動定量化が使用される。
【0009】
一実施形態は、外因性阻害物質の阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイを提供し、このアッセイは、a)細胞を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及びb)試験薬剤に対する細胞応答を検出及び/又は定量することを含み、細胞を外因性阻害物質のみと接触させた対照と比較して異なる細胞応答は、薬剤が外因性阻害物質を克服できたことを示す。一実施形態では、外因性阻害物質は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロナン、フィブロネクチン凝集体、ミエリンデブリ、炎症性サイトカイン(例えば、可溶性TNF-α又はインターフェロン-γ)、骨形成タンパク質、エンドセリン-1、セマフォリン、環境毒素及びアルコール、タバコ、違法薬物又は娯楽用薬物からなる群から選択される。別の実施形態では、細胞は、幹細胞又は前駆細胞、例えば、神経幹細胞及び/又は前駆細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、放射状グリア細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、小脳顆粒ニューロン前駆細胞、神経堤幹/前駆細胞、血管/内皮の幹/前駆細胞、臓器幹/前駆細胞(例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓、骨格筋、皮膚、骨、網膜)、間葉系幹/前駆細胞、胎盤幹/前駆細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(又はESC/iPSC由来の細胞)、及びがん/腫瘍関連細胞/幹細胞からなる群から選択される。一実施形態では、神経前駆細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1-A】図1’A~1’Dは実施例1の実験及びデータを示す。
図1-B】同上。
図1-C】同上。
図1-D】同上。
図1A】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。A、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+年齢を一致させた健康な対照マウスにおけるミクログリア(緑)、NG2細胞(赤)及び血管系(青、70kDaオレゴングリーンデキストラン)のin vivo 2P最大値投影画像、臨床徴候のピーク時(ピークEAE、平均スコア3)及び慢性EAE時(平均臨床スコア2.1)。示されている画像は、EAE誘発後17日目(ピーク)及び35日目(慢性)のマウスのものである。対照条件のNG2tdTomato/+周皮細胞は白い矢印で示されている。スケールバー、50μm。対照(n=4マウス)、ピーク(n=5マウス)、及び慢性(n=6マウス)EAEにおけるNG2細胞及びミクログリアクラスターの定量化。値は平均値±標準誤差、*p<0.05、n.s.は有意差なし、(ボンフェローニの多重比較検定による二元配置分散分析)。
図1B】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。B、免疫されていない健康なマウス(対照)、及び疾患のピーク期及び慢性期のMOG35-55-EAEマウスからの脊髄切片をフィブリノーゲンについて免疫染色(緑色)した顕微鏡写真。核は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、青)で染色される。スケールバー、100μm。免疫されていない健康なマウス(対照)(n=4マウス)、及び疾患のピーク期(n=5マウス)及び慢性期(n=6マウス)の、MOG35-55-EAEマウスの脊髄におけるデキストラン漏出の定量化。値は平均値±標準誤差、*p<0.05(テューキーの多重比較検定による一元配置分散分析)。免疫されていない健康なマウス(対照)、及び疾患のピーク期及び慢性期のMOG35-55-EAEマウス(1群あたりn=3マウス)の脊髄におけるフィブリノーゲン免疫反応性の定量化。値は平均±標準誤差、**p<0.01、***p<0.001(テューキーの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図1C】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。C、フィブリノーゲンについて免疫染色(緑色)した慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスの腹側脊髄切片の顕微鏡写真。スケールバー、50μm。NG2クラスター領域及びクラスターのない領域(n=5マウス)におけるフィブリノーゲン免疫陽性の定量化。値は平均値±標準誤差、**p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。
図1D】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。D、NG2クラスターの領域及びクラスターのない領域における慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスのミエリン(緑色)のin vivo 2P最大値投影画像。枠で囲んだ領域は、ミエリン標識のみを示すために右上の挿入図に示されている。スケールバー、20μm。NG2クラスターの領域及びクラスターのない領域(n=5マウス)における慢性EAEのミエリンの円形度の定量化。値は平均値±標準誤差、**p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。1.0の値は完全な円を示す(縦断面の変性ミエリンに見られるように)。値が0.0に近づくほど非円形で直線的な形状(正常な有髄線維の縦断面)になることを示す。
図1E】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。E、2P体積及びSBEM体積の同期(co-registration)のためのROI追跡ワークフロー。
図1F】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。F~G、2匹の異なるマウスからのn=3 ROIからの代表的な相関SBEM画像。Fi、NG2クラスター領域のCNS柔組織は、活性化した内皮細胞(緑色のアスタリスク)、内皮への白血球の付着(黒色の矢印)、及び優勢な脱髄(赤い枠で囲んだ領域)及びまばらな再ミエリン化(青い枠で囲んだ領域)を伴う血管周囲病変を伴う炎症を起こした脊髄血管を示している。スケールバー、20μm。Fii、赤い枠で囲んだ領域を高倍率で示す。赤い矢印は脱髄した軸索を示している。スケールバー、10μm。Fiii、青い枠で囲んだ領域を高倍率で示す。青い矢印は再ミエリン化された軸索を示している。スケールバー、10μm。Fiv.NG2クラスターのない領域におけるCNS柔組織内の相関SBEM。黒い矢印は正常な有髄軸索を示している。スケールバー、10μm。
図1G】NG2細胞は、慢性神経炎症におけるフィブリノーゲン沈着部位及び限られた再ミエリン化部位で血管周囲にクラスター化する。F~G、2匹の異なるマウスからのn=3 ROIからの代表的な相関SBEM画像。Gi、NG2クラスターの領域内の別のROIからの代表的なSBEMは、血管周囲の脱髄、神経膠症(赤い点線の領域)及び一部の限られた再ミエリン化(青い枠で囲んだ領域)を伴う静脈を示す。神経膠症の領域は浸潤マクロファージ(M)及びアストロサイト(A)を含む。遠位領域は、黒い矢印で示された正常な有髄軸索を有する。スケールバー、10μm。Gii、青い枠で囲んだ領域を高倍率で示す。青い矢印は再ミエリン化された軸索を示している。黒い矢印はNG2細胞を示している。スケールバー、5μm。
図2A図2A~2F。EAEにおけるNG2細胞のRNA-seq分析により、抗凝固経路の抑制が明らかになった。データは、1群あたりn=3のマウスからのものである(A~D)。A、MOG35-55-EAE又は健康なマウスのNG2系統細胞のRNA-seq解析からのDEGのボルケーノプロット。円は、健康なマウスと比較して、EAEにおいて有意に下方制御された遺伝子(青、log2倍率変化<-1、FDR<0.05)又は上方制御された遺伝子(赤、log2倍率変化>1、FDR<0.05)を示している。
図2B】Aからのデータのヒートマップ。遺伝子はHOPACH教師なしクラスタリング分析によってクラスター化された(クラスター1~9)。発現値を対数正規化し、行をセンタリングし、Zスコアとして表示した。重要なGOタームと遺伝子の例がクラスターごとに示されている。FDR<0.05;Benjamini-Hochbergの修正。
図2C】健康なマウスと比較した、EAEからのNG2細胞において下方制御された(青いノード)又は上方制御された(赤いノード)共発現GOタームネットワークの視覚化。遺伝子セットサイズと共発現の重複(キー)をGSEAによって決定した(p<0.05)。
図2D】EAE又は健康なマウスからのNG2細胞のRNA-seqデータのGSEAによって決定された遺伝子セット「凝固の負の制御」及び「細胞接合アセンブリの制御」のエンリッチメントプロット。X軸はデータセット内の遺伝子のランクを示す。NES、正規化エンリッチメントスコア。
図2E】E~F、健康マウス及びEAEマウスからのPDGFRα+OPC(E)又はPDGFRβ+周皮細胞(F)集団における表面標識TFPIの代表的なヒストグラム及びTFPI+細胞の定量化。データは1群あたりn=5からのものである(平均値±標準誤差)**p<0.01、n.s.有意差なし(両側マンホイットニー検定)。
図2F】同上。
図3A図3A~3G。ミエリン化促進化合物は、OPC分化のフィブリノーゲン外因性阻害を克服しない。A、ミディアムスループットの、フィブリノーゲンの存在下でのミエリン化促進薬のOPC-Xスクリーニングのワークフロー。
図3B】B~C、示されるように、フィブリノーゲン及びミエリン促進薬又はビヒクル対照(ジメチルスルホキシド、DMSO)で処理された初代ラットOPCにおけるMBP(緑)及びGFAP(赤)の免疫蛍光。核はヘキスト色素(青)で染色される。n=3の独立した実験からの代表的な画像。スケールバー、100μm。
図3C】同上。
図3D】D~E、自動画像取得及び定量化からの総細胞MBP+又はGFAP+のパーセンテージの定量化。データはn=3の独立した実験からの平均値±標準誤差である。****p<0.0001(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図3E】同上。
図3F】DMH1又はクレマスチンの存在下での対照又はフィブリノーゲン処理初代ラットOPCにおけるホスホ-SMAD1/5(P-SMAD1/5)及びID2タンパク質レベル。値は、n=3の独立した実験の平均である。
図3G】フィブリノーゲン及びLDN-212854(0.18μM)又はビヒクル対照(DMSO)で3日間処理した初代ラットOPCにおけるMBP(緑)及びGFAP(赤)の免疫蛍光。核はヘキスト色素(青)で染色される。n=3の独立した実験からの代表的な画像。スケールバー、100μm。H、自動画像取得及び定量化からの総MBP+又はGFAP+細胞のパーセンテージの定量化。データはn=3の独立した実験からの平均値±標準誤差である。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001(ダネットの多重比較検定による一致した一元配置分散分析)。
図4A】4A~4E。慢性神経炎症におけるI型BMP受容体阻害の治療効果。A、疾患のピークから開始して14日間LDN-212854又は生理食塩水(キー)で処理したMOG35-55-EAEマウスの臨床スコア。データはn=6マウス(EAE+LDN-212854)及びn=5マウス(EAE+生理食塩水)からの平均±標準誤差である。*p<0.05、(両側順列検定)。
図4B】生理食塩水(左のパネル)又はLDN-212854(右のパネル)で処理したMOG35-55-EAEマウスの脊髄切片をMBPについて免疫染色することで、ミエリン(緑)及びフィブリノーゲン(赤)を視覚化した顕微鏡写真。破線は脱髄した白質の境界を示す。スケールバー、50μm。データは1群あたりn=5のマウスからの平均±標準誤差である。**p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。
図4C】LDN-212854又は生理食塩水(キー)で30日間処理したNOD-MOG35-55EAEマウスの臨床スコア。データは、n=8マウス(EAE+LDN-212854)及びn=7マウス(EAE+生理食塩水)の平均±標準誤差である。*p<0.05、(最大スコアのグループ平均を比較するウェルチ2サンプルt検定、生理食塩水=2.36、LDN-212854=1.75)。
図4D】生理食塩水(左のパネル)又はLDN-212854(右のパネル)で処理したNOD-MOG35-55EAEマウスの脊髄切片の顕微鏡写真。暗視野顕微鏡を使用してミエリン(緑)を視覚化し、フィブリノーゲン(赤)について免疫染色した。破線は脱髄した白質の境界を示す。スケールバー、100μm。データは1群あたりn=6マウスからの平均±標準誤差である。*p<0.05 **p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。
図4E】生理食塩水(左のパネル)及びLDN-212854(右のパネル)で処理した慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスにおけるNG2細胞(赤)及び血管系(青、70kDaオレゴングリーンデキストラン)のin vivo 2P最大値投影画像。スケールバー、50μm。データは、n=6(EAE+LDN-212854)及びn=5(EAE+生理食塩水)からの平均±標準誤差である。*p<0.05(対応のない両側t検定)。F、生理食塩水(左のパネル)及びLDN-212854(右のパネル)で処理した慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスにおけるNG2細胞(赤)及びミエリン(緑、MitoTracker)のin vivo 2P最大値投影画像。スケールバー、20μm。データは、n=5(EAE+LDN-212854)及びn=4(EAE+生理食塩水)からの平均±標準誤差である。*p<0.05(両側マン-ホイットニー検定)。ミエリン損傷はミエリン円形度で定量化され、1.0の値は完全な円を示し、値が0.0に近づくほど非円形の形状、直線的な形状になることを示す。G、生理食塩水(左のパネル)又はLDN-212854(右のパネル)で14日間処理した後のNG2-CreERTM:RosatdTomato/+MOG35-55-EAEマウスからの脊髄切片の顕微鏡写真。NG2細胞(赤)とID2の免疫染色(緑)。核は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、青)で染色される。スケールバー、25μm。データは、n=6(EAE+LDN-212854)及びn=5(EAE+生理食塩水)からの平均±標準誤差である。**p<0.01(両側マンホイットニー検定)。H、LDN-212854又は生理食塩水で14日間処理したNG2-CreERTM:RosatdTomato/+MOG35-55-EAEマウスの脊髄切片の顕微鏡写真を使用したtdTomatoOPC由来細胞の運命マッピング。NG2tdTomato+細胞(赤)及び成熟OLマーカーGST-pi(緑、上のパネル)又はアストロサイトマーカーGFAP(緑、下のパネル)の免疫染色。スケールバー、50μm(上のパネル)及び20μm(下のパネル)。データは、n=6(EAE+LDN-212854)及びn=5(EAE+生理食塩水)からの平均±標準誤差。**p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。
図5】補足図1。MOG35-55-EAEのNG2creERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスにおけるNG2系統細胞及びミクログリアのin vivo 2Pイメージング及びバルクRNA-seq解析のワークフロー。
図6】補足図2A~2C。EAEの様々な段階における神経血管界面のNG2細胞及びミクログリアのin vivo 2Pイメージング。NG2creERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+年齢を一致させた健康な対照マウスのNG2細胞(赤、上のパネル)、ミクログリア(緑、下のパネル)、及び血管系(青、70kDaオレゴングリーンデキストラン)のin vivo 2P最大値投影画像、臨床徴候のピーク時(ピークEAE、平均スコア3)及び慢性EAE時(平均臨床スコア2.1)。スケールバー、100μm。ピーク時(n=5マウス)及び慢性(n=6マウス)EAEにおけるNG2クラスターとミクログリアクラスターの共局在の定量化。値は平均値±標準誤差、**p<0.01(両側マン-ホイットニー検定)。
図7】補足図2B、NG2creERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+年齢を一致させた健康な対照マウスのNG2細胞(赤)及び血管系(青、70kDaオレゴングリーンデキストラン)のin vivo 2P最大値投影画像、臨床徴候のピーク時(ピークEAE、平均スコア3)及び慢性EAE時(平均臨床スコア2.1)。スケールバー、50μm。慢性EAEにおける最も近い血管からのNG2クラスターの距離の定量化(6匹のマウスの45個のクラスターからのデータ)。対照条件のNG2tdTomato+周皮細胞は白い矢印で示されている。
図8】補足図2C、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスの脊髄実質内の血管系(青、70kDaオレゴングリーンデキストラン)に関連したtdTomato(赤)周皮細胞(左のパネル)及びOL系統細胞のin vivo 2P最大値投影。スケールバー、20μm。
図9】補足図3A~3C。EAEの様々な段階での内皮活性化。A、VCAM-1について免疫染色した対照、ピークEAE及び慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスの腹側脊髄切片の顕微鏡写真。赤い矢印は血管のVCAM-1発現を示す。赤いアステリスクはびまん性VCAM-1陽性を示す。対照、ピークEAE及び慢性EAEの腹側脊髄におけるVCAM-1免疫反応性の定量化。スケールバー、50μm。値は平均±標準誤差、**p<0.05(ダネットの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図10】補足図3B、対照のNG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスの腹側脊髄切片の顕微鏡写真、PLVAPについて免疫染色したピークEAE及び慢性EAE。赤い矢印は血管のPLVAP発現を示す。赤いアステリスクはびまん性PLVAP陽性を示す。スケールバー、50μm。対照、ピークEAE及び慢性EAEにおける腹側脊髄のPLVAP+血管の定量化。値は平均±標準誤差、*p<0.05(テューキーの多重比較検定による一元配置分散分析)。
図11】補足図3C、NG2クラスター領域のCNS柔組織には、活性化した内皮細胞を有する炎症を起こした脊髄血管が見られる。ここに示されているのは、正常なBBB血管の非常に薄い内皮と比較して厚い、活性化した内皮(黒い矢印)である。これらの活性化した内皮は小さい突起(赤い矢印)を形成し、これは血管内の白血球(黒い矢印)と接触する。
図12】補足図4A~4B。慢性EAEにおけるフィブリノーゲンの沈着及びミエリン破壊に関連するNG2細胞クラスター。A、フィブリノーゲンについて免疫染色した(緑色)慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスの腹側脊髄切片の顕微鏡写真。NG2tdTomato細胞(赤色)は、フィブリノーゲン沈着部位にクラスター化する。ここでは、マージチャネル内に黄色のROI(白色の矢印)で示されている。スケールバー、50μm。
図13】補足図4B、NG2細胞クラスターの領域及びクラスターのない領域における慢性EAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスのNG2tdTomato+細胞(赤)及びミエリン(緑)のin vivo 2P最大値投影画像。注目すべき重要な点は、ミエリン鞘は、MitoTracker Deep Red遠赤色蛍光色素(abs/em約644/665nm)で標識されており、ここでは緑色で擬似的に着色されていることである。ここでは、破壊されたミエリン又はミエリン小胞はNG2細胞クラスター領域において白い矢印で示され、正常に見えるミエリンは非クラスター領域において白い矢印で示されている。スケールバー、20μm。
図14】補足図5A~5C。NG2細胞のFACS分離。A、バルクRNA配列に対するEAE(n=3)及び健康な対照マウス(n=3)の脊髄からのNG2tdTomato+細胞のゲーティング戦略の代表的なフローサイトメトリープロット。
図15】補足図5B、細胞表面染色のための慢性EAE(n=5)及び健康な対照マウス(n=5)の脊髄からのPDGFRα及びPDGFRβ細胞のゲーティング戦略の代表的なフローサイトメトリープロット。
図16】補足図5C、代表的なフローサイトメトリー等高線プロット及び生存PDGFRα細胞の表面MHCIIの定量化。データは1群あたりn=5からのものである(平均±標準誤差)**p<0.01、(両側マンホイットニー検定)。細胞集団のパーセントはゲート(A~C)の上にリストされている。
図17】補足図6A~6C。対照及びピークEAEにおけるNG2tdTomato+細胞間のオリゴデンドログリア系列細胞と周皮細胞の比率。A、対照及びピークEAEのNG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスの腹側脊髄切片の顕微鏡写真。NG2tdTomato+細胞(赤)をOLIG2(緑)及びPDGFRβ(遠赤チャンネルで染色、ここでは青で擬似着色)について免疫染色した。NG2tdTomato+OLIG2細胞は白い矢印で示されている。NG2tdTomato+PDGFRβ細胞は白いアステリスクで示されている。NG2tdTomato+OLIG2PDGFRβ細胞は白い矢印で示されている。スケールバー、20μm。
図18】補足図6B~C、対照及びピークEAEにおけるOLIG2及びPDGFRβであるNG2tdTomato+細胞のパーセンテージの定量化。
図19】同上。
図20】補足図7A~7B。フィブリノーゲンの存在下における初代OPCに対するクレマスチンの効果。A、T3又は成長因子を含まない分化培地中でフィブリノーゲン及びクレマスチン(0.56μM)、DMH1(1μM)、又はビヒクル対照(ジメチルスルホキシド、DMSO)で3日間処理した初代ラットOPCにおけるMBP(緑色)の免疫蛍光。核はヘキスト色素(青)で染色される。n=2の独立した実験からの代表的な画像。スケールバー、100μm。
図21】補足図7B、自動画像取得及び定量化からの総細胞MBP+のパーセンテージの定量化。データはn=2の独立した実験からの平均値±標準誤差である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の詳細な説明
本明細書に記載される方法及び組成物の実施は、別段の指示がない限り、医薬化学、薬剤製剤技術、投与計画、分子生物学及び生化学の従来の技術を使用することができ、これらのすべては当業者の技術の範囲内である。適切な技術の具体的な例は、本明細書の実施例を参照することによって得ることができる。
【0012】
以下の説明では、本発明のより完全な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が記載される。しかしながら、当業者には、本発明はこれらの特定の詳細の1つ以上がなくても実施できることが明らかであろう。他の場合には、本発明を分かりにくくすることを避けるために、当業者によく知られている/利用可能な特徴及び手順については説明していない。
【0013】
略語
2P=2光子;BBB=血液脳関門;BMP=骨形成タンパク質;CSPG=コンドロイチン硫酸プロテオグリカン;DEG=差次的発現遺伝子;EAE=実験的自己免疫性脳脊髄炎;GSEA=遺伝子セットエンリッチメント解析;GO=遺伝子オントロジー;GST-pi=グルタチオンs-トランスフェラーゼ-pi;MHCII=主要組織適合遺伝子複合体クラスII;MOG=ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質;NOD=非肥満糖尿病;OL=オリゴデンドロサイト;OPC=オリゴデンドロサイト前駆細胞;RNA-seq=RNAシーケンス;SBEM=シリアルブロックフェイス電子顕微鏡法;TFPI=組織因子経路阻害物質;TGF-β=トランスフォーミング増殖因子ベータ。
【0014】
説明
MBP+オリゴデンドロサイトの単一読み取りによるOPCからなる再ミエリン化アッセイは、病変環境に存在する再ミエリン化の外因性阻害物質のスクリーニングにも、GFAP+アストロサイトへの細胞運命スイッチのスクリーニングにも適していない。
【0015】
外因性阻害物質の存在下で再ミエリン化を促進する化合物を同定するスクリーニング(OPC-X)を開発することにより、ミエリン化促進薬がフィブリノーゲンによる再ミエリン化の外因性阻害をレスキューしないことが示された。対照的に、骨形成タンパク質(BMP)受容体遮断は、多発性硬化症の慢性モデルにおいて強力な治療効果をもたらし、アストロサイトの細胞運命を抑制しながら、ミエリン形成オリゴデンドロサイトを促進することによって阻害性フィブリノーゲン効果をレスキューし、ミエリン化促進前駆ニッチを回復させた。したがって、フィブリノーゲンによる不完全なOPC分化は、既知のミエリン化促進化合物に対して抵抗性であり、これは、BMPシグナル伝達経路の遮断により、血管損傷を伴う神経炎症性病変における外因性阻害を克服することで再ミエリン化効果を高める可能性があることを示唆している。
【0016】
このアッセイは、a)フィブリン/フィブリノーゲンによる再ミエリン化の阻害を克服する、b)炎症性分子、サイトカインなどの他の外因性阻害物質による再ミエリン化の阻害を克服する、c)線維性アストロサイトの生成を阻害する、及びd)オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)又は神経前駆細胞(NPC)などの他の幹細胞のアストロサイトへの細胞運命スイッチを阻害する、抗体、化合物、小分子、ペプチドなどのスクリーニングを含む、多くの目的に使用することができる。
【0017】
本明細書で提供されるアッセイは、以下を含むいくつかの利点を提供する。1)疾患に関連した再ミエリン化阻害をレスキューできる薬剤のスクリーニング及び発見;2)疾患関連外因性阻害物質としてのフィブリン/フィブリノーゲン用に最適化されている;3)フィブリン/フィブリノーゲンに加えて、又はフィブリン/フィブリノーゲンの代わりに他の外因性阻害物質との使用に適合させることができる;4)単一のアッセイでミエリン形成細胞とアストロサイトの両方の検査が可能になる。
【0018】
フィブリン/フィブリノーゲンに加えて、又はその代わりに、他の外因性阻害物質としては、限定するものではないが、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(Keough et al.,2016)、ヒアルロナン(Srivastava et al.,2018)、フィブロネクチン凝集体(Stoffels et al.,2013)、ミエリンデブリ(Kotter et al.、2006)、炎症性サイトカイン(例えば、可溶性TNF-α(Karamita et al.,2017)、インターフェロン-ガンマ(Kirby et al.,2019))、骨形成タンパク質(Mabie et al.,1997)、エンドセリン-1(Hammond et al.,2014)、セマフォリン(Syed et al.,2011)、環境毒素及びアルコール/タバコ/違法薬物及び/又は娯楽用薬物(Forbes and Gallo,2017)が挙げられる。
【0019】
本明細書に記載のアッセイ/スクリーニングに使用する細胞としては、限定するものではないが、神経幹/前駆細胞(成人及び胎児/新生児)、放射状グリア細胞(成人及び胎児/新生児)、小脳顆粒ニューロン前駆細胞、神経堤幹/前駆細胞、血管/内皮の幹/前駆細胞、臓器幹/前駆細胞(心臓、肝臓、肺、腎臓、骨格筋、皮膚、骨、網膜)、間葉系幹/前駆細胞、胎盤幹/前駆細胞、胚性幹細胞及び/又は人工多能性幹細胞(及びESC/iPSC由来の細胞)及びがん/腫瘍関連幹細胞が挙げられる。
【0020】
そのようなスクリーニング/アッセイは、BBB破壊やフィブリン沈着などを伴う神経疾患(Petersen et al.,2018)、アルツハイマー病、加齢に伴う認知症、外傷性脳及び脊髄損傷、新生児及び早産児の脳損傷、くも膜下/脳室内出血、脳卒中、感染症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、ハンチントン病、HIV脳炎、統合失調症や双極性疾患などの精神神経疾患、がん、アテローム性動脈硬化症/心血管疾患、網膜症/黄斑変性症、慢性肺疾患、末梢自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ、大腸炎、狼瘡)、上皮間葉移行(EMT)及び多発性硬化症(MS;例えば、フィブリノーゲンが豊富な抑制性のMS病変環境を克服する薬剤は、MSに切実に必要とされている代替治療手段を提供し得る)を含むがこれらに限定されない多くの状態/疾患の治療のための治療薬/分子を同定するために使用することができる
試験薬剤の使用
本発明のアッセイは、外因性阻害を阻害する候補治療薬を同定するために使用される。これには、新しい薬剤の試験と、既知の化合物(合成、組換え、又は天然化合物を含む)の効果を試験するアッセイが含まれる。
【0021】
薬学分野では、標的に対する結合親和性と有効性が必ずしも相関するわけではないこと、及び、試験薬剤によってもたらされる細胞ベースの活性変化の同定は、単に親和性(例えば、ミクログリア受容体への薬剤の結合)によって同定される薬剤と比較して、治療活性の改善された機能的予測因子であることが知られている。
【0022】
特定の態様では、本発明のアッセイは、活性化フィブリンを介したシグナル伝達のin vivo調節と相関する。本発明で使用するための細胞ベースのアッセイの例としては、限定するものではないが、ハイスループット結合スクリーニング;細胞の活性化、増殖、分化、壊死及び/又はアポトーシスを測定するアッセイ;フローサイトメトリーアッセイ;標識又はターンオーバーを測定する代謝アッセイ;位相差及び蛍光顕微鏡法;受容体リン酸化及び/又はターンオーバー;細胞シグナル伝達アッセイ;免疫組織化学研究;レポーター遺伝子アッセイ、及び細胞内分画と局在化が挙げられる。
【0023】
生化学的アッセイを使用して、本発明の細胞ベースのアッセイ法において結合と有効性を相関させることもできる。これらには、限定するものではないが、分光測光アッセイ、蛍光アッセイ、熱量測定アッセイ、化学発光アッセイ、放射分析、クロマトグラフィーアッセイ、比色アッセイ、及び基質特異性阻害剤キナーゼアッセイが挙げられる。具体的な例としては、ルシフェラーゼアッセイ(ホタルルシフェラーゼタンパク質がルシフェリンの酸化を触媒し、その反応で光が発生する。これはプロモーター活性やトランスフェクション効率を測定するためのレポーター遺伝子として頻繁に使用される);電気泳動;気液クロマトグラフィー;及びフォースター共鳴エネルギー移動(FRET)がある。
【0024】
試験薬剤の機能的活性を確認するために、本発明の試験薬剤の治療有効量を対象(神経学的病状の動物モデルを含む)に投与して、本発明のアッセイにおける同定後、そのin vivo活性を確認することができる。「治療有効用量又は量」又は「有効量」とは、投与された場合に陽性の治療反応をもたらす試験薬剤の量を意味する。本発明のいくつかの実施形態では、治療有効用量は、約0.1.mu.g/kg~約100mg/kg体重、約0.001mg/kg~約50mg/kg、約0.01mg/kg~約30mg/kg、約0.1mg/kg~約25mg/kg、約1mg/kg~約20mg/kg、約3mg/kg~約15mg/kg、約5mg/kg~約12mg/kg、約7mg/kg~約10mg/kg、又はその中の任意の値の範囲内である。治療方法は、治療有効用量の単回投与又は治療有効用量の複数回投与を含み得ることが認識される。
【0025】
試験薬剤は、所望の治療反応を促進するための所望の治療用量を供給するために投与される。「所望の治療反応」とは、状態又は状態に関連する症状の改善を意味する。投与経路の例には、静脈内、動脈内、冠動脈内、非経口、皮下、真皮下、皮下、腹腔内、心室/脳室内注入、注入カテーテル、バルーンカテーテル、ボーラス注射、手術中の組織表面への直接適用、又は他の好都合な経路が含まれる。
【0026】
試験薬剤は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、溶液、懸濁液、又は乳濁液などの単位用量で製剤化することができる。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、薬剤投与に適合するあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含むことを意図している。適切な担体は、この分野の標準的な参考文献であるRemington’s Pharmaceutical Sciencesの最新版に記載されており、この文献は参照により本明細書に組み込まれる。そのような担体又は希釈剤の好ましい例としては、限定するものではないが、水、生理食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、及び5%ヒト血清アルブミンが挙げられる。細胞を送達するためのそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野でよく知られている。従来の媒体又は薬剤が本明細書で提供される細胞又はポリペプチドと不適合である場合を除き、組成物中でのそれらの使用が想定される。補助的な活性化合物を試験薬剤に組み込むこともできる。
【0027】
そのような投与に使用される溶液又は懸濁液には、希釈用の水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール又は他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールやメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸や亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩などの緩衝剤、及び塩化ナトリウムやブドウ糖などの張度調整剤などの他の成分が含まれ得る。pHは、塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調整できる。組成物は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、又は複数回投与用バイアルに封入することができる。
【0028】
注射用に適した試験薬剤には、滅菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び滅菌注射用溶液又は分散液を即時調製するための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適切な担体には生理食塩水、静菌水、又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が含まれる。いずれの場合も、組成物は無菌でなければならず、可能な限り流体である必要がある。それは製造及び保管の条件下で安定していなければならず、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保存されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、及びそれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合には必要な粒径の維持、及び界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の抑制は、様々な抗菌剤や抗真菌剤によって達成できる。
【0029】
注射可能な組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に含めることによってもたらされ得る。無菌の注射用溶液は、選択された成分の組み合わせを含む適切な溶媒に必要な量の活性薬剤を組み込み、その後フィルター滅菌することによって調製できる。通常、分散液は、基本的な分散媒及び上に列挙したものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに活性薬剤を組み込むことによって調製される。無菌注射用溶液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥であり、事前に滅菌濾過した溶液から有効成分と任意の追加の所望の成分の粉末を得る。多くの場合、等張剤を含めることが好ましいであろう。
【0030】
試験薬剤を送達するために様々な送達方法を使用することができ、部分的には薬剤及びその生物学的利用能に依存する。例えば、生物学的に利用可能な小分子又は他の薬剤は経口投与され得るが、タンパク質ベースの薬剤は通常(ただし必ずではない)、非経口投与される。特定の薬剤は全身的に投与され得るが、他の薬剤は局所送達の方がより有益である場合がある。送達方法は、本明細書を読めば当業者には明らかであり、試験薬剤の特定の特性を考慮して決定することができる。
【0031】
試験薬剤の有効量は、所望の効果の性質、治療の頻度、任意の同時治療、健康状態、レシピエントの体重などに応じて様々であり得ることが理解される。例えば、Berkowら編、Merck Manual、第16版、Merck and Co.、ニュージャージー州ラーウェイ(1992);Goodmanら編、Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics、第8版、Pergamon Press,Inc.、ニューヨーク州エルムズフォード(1990);Avery‘s Drug Treatment:Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics、第3版、ADIS Press,LTD.,Williams and Wilkins、メリーランド州ボルチモア(1987)、Ebadi,Pharmacology,Little,Brown and Co.、ボストン(1985)、Katzung,Basic and Clinical Pharmacology,Appleton and Lange、コネチカット州ノーウォーク(1992)を参照されたい。これらの参考文献及びこれらの中で引用されている参考文献は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0032】
定義
説明を明確にし、簡潔にするために、本明細書では、特徴を同じ又は別の実施形態の一部として説明する場合がある。しかしながら、本発明の範囲には、記載された特徴のすべて又は一部の組み合わせを有する実施形態が含まれ得ることが理解されるであろう。
【0033】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図したものではない。別様に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。以下の定義は、読み手が本発明を理解するのを助けることを意図しているが、特に指定されない限り、そのような用語の意味を変更したり制限したりすることを意図したものではない。
【0034】
本明細書で使用される不定冠詞「1つ」、「その」、及び「前記」は、文脈上明らかにそうでないことを示していない限り、複数の参照を含むものと理解されるべきである。したがって、例えば、「1つの阻害物質」への言及は、標的分子を阻害する能力を有する1つ又は複数の薬剤を指し、「前記方法」への言及は、当業者に知られている同等の複数のステップ及び複数の方法への言及を含む。
【0035】
本明細書で使用される「及び/又は」という語句は、その語句で結合された要素の「いずれか又は両方」、例えば、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解されるべきである。
【0036】
本明細書で使用される「又は」は、上で定義された「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、項目のリストを区切る場合、「及び/又は」又は「又は」は包括的である、例えば、多数の項目のうちの少なくとも1つを含むが、複数の項目も含み、任意選択で、追加の未掲載の項目も含むと解釈されるものとする。反対のことが明確に示されている用語、例えば「のうちの1つのみ」や「のうちの正確に1つ」など、あるいは特許請求の範囲で使用される場合は、「からなる」のみ、複数の要素又は要素のリストのうちの1つの要素だけが含まれることを指す。通常、本明細書で使用される「又は」という用語は、「いずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」、又は「正確に1つ」などの排他的な用語が前に付いている場合のみ、排他的な選択肢(つまり、「一方又は他方であって両方ではない」)を示すものとして解釈されるものとする。
【0037】
本明細書で使用される場合、「約」という用語は、示された値のプラス又はマイナス10%を意味する。例えば、約100は90~110を意味する。
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限と下限との間の各中間値と、他の記載された値又は記載された範囲内の中間値が本発明に包含されることが理解される。これらのより小さい範囲の上限及び下限は、独立してより小さい範囲に含まれてもよく、記載された範囲内で特に除外される制限を受ける場合も含め、本発明の範囲内にも包含される。記載された範囲に上限・下限の一方又は両方が含まれる場合、これらの含まれる上限・下限の両方のうちいずれかを除く範囲も本発明に含まれる。
【0038】
「小分子」という用語は、医薬品で一般に使用される有機分子に匹敵するサイズの分子を指す。この用語には、生体高分子(例えば、タンパク質、核酸など)は含まれない。有機小分子には、最大約5000Daまで、最大2000Daまで、及び最大約1000Daまでのサイズ範囲のものが含まれる。
【0039】
本明細書で使用される「試験薬剤」は、疾患又はその症状を治療するための候補である任意の薬剤を指す。そのような薬剤には、限定するものではないが、ペプチド;タンパク質(誘導体化又は標識されたタンパク質を含む);抗体又はその断片;小分子;アプタマー;炭水化物及び/又は他の非タンパク質結合部分;天然に存在する結合パートナーの誘導体及び断片;ペプチド模倣薬;及びファーマコフォアが含まれる。
【0040】
「ファーマコフォア」という用語は、本明細書では慣例にとらわれない方法で使用される。この用語は通常、化合物のクラス又は集合の幾何学的及び/又は化学的記述を意味するが、本明細書で使用される場合、この用語は、化合物の三次元物理的形状及び化合物を構成する原子の電気化学的性質によって与えられる特定の生化学的活性又は結合特性を有する化合物を意味する。したがって、本明細書で使用される「ファーマコフォア」という用語は化合物であり、定義された特性を有する化合物の集合を表すものではない。具体的には、「ファーマコフォア」とは、これらの特性を備えた化合物である。
【0041】
実施例
以下の実施例は、当業者に本発明の製造方法及び使用方法の完全な開示及び説明を提供するために提示されるものであり、発明者らが発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではないし、実施例は以下の実験が実施されたすべての又は唯一の実験であることを表し又は暗示することを意図するものでもない。当業者であれば、広い範囲で説明した本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の態様として示した本発明に多くの変形及び/又は修正を加え得ることが理解されよう。したがって、本態様はあらゆる点で例示的なものであり、限定的なものではないとみなされるべきである。
【0042】
使用される数値(例えば、量、温度など)の正確性を確保するために努力がはらわれている。しかし、ある程度の実験誤差や偏差は考慮する必要がある。特に指定のない限り、部は重量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧又は大気圧付近である。
【0043】
実施例1
再ミエリン化を促進する化合物を発見するためのアッセイ
序論
多発性硬化症(MS)における治療の進歩への障壁は、疾患の進行段階での再ミエリン化の失敗と軸索喪失の一因となる抑制性病変環境を克服できないことである(1)。血液タンパク質のフィブリノーゲンは、血管損傷後にCNSに沈着する、抑制性病変環境の構成要素である(1)。フィブリノーゲンは、CNSの炎症、脱髄、及び軸索損傷を促進し、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)が成熟ミエリン形成オリゴデンドロサイト(OL)に分化するのをブロックする(2~5)。次に、血管周囲のOPCクラスターは、慢性MS病変における持続的な血液脳関門(BBB)の破壊とフィブリノーゲンの蓄積に寄与し得る(6)。
【0044】
フィブリノーゲンが豊富な抑制性のMS病変環境を克服する薬剤の発見は、切実に必要とされているMSの代替治療手段を提供するであろう。フィブリノーゲンの治療的枯渇は、脱髄動物モデルにおける再ミエリン化を促進することができるが、出血性合併症の可能性があるため、その臨床使用が制限される可能性がある(2)。最近、OPCの分化を促進する化合物が、網羅的薬物スクリーニングで同定された。しかし、これらのミエリン促進化合物が、炎症性脱髄におけるミエリン修復に対するフィブリノーゲンの阻害効果を克服できるかどうかは不明である(7~10)。
【0045】
ここでは、新しいミディアムスループットのフィブリノーゲンOPC阻害アッセイの開発について説明する。このアッセイでは、最近発見されたミエリン促進化合物のいずれもOPCに対するフィブリノーゲンの影響をレスキューできないことが示されている。BMP I型受容体阻害剤のみが、フィブリノーゲンの存在下でOPCの成熟OLへの分化を回復する。データは、既知のミエリン促進化合物がMS病変環境においてフィブリノーゲンなどの外因性阻害物質を克服できない可能性があること、及びフィブリノーゲン誘導性のBMPシグナル伝達を標的とすることがMSの機能回復を促進する代替の治療手段となり得ることを示している。本明細書に記載の新規アッセイは、フィブリノーゲンによるOPC成熟及び再ミエリン化の阻害を克服する化合物をスクリーニングするために使用することができる。
【0046】
材料及び方法/結果/考察
A.ミディアムスループットのフィブリノーゲン-OPC阻害アッセイの開発
アッセイを96ウェルプレート形式に小型化するために、まずOPC密度、フィブリノーゲン濃度、染色手順、及び画像解析に使用するプロトコルを最適化した(図1’A)。最適化されたプロトコルでは、初代ラットO4+OPCをイムノパニングによって単離する。10cmディッシュあたり約5×10個の細胞を播種し、OPCを増殖させるために3日間インキュベートした。次いで、細胞をAccutaseを使用して継代し、96ウェルプレートに5×10細胞/ウェルで再播種し、実験前に1日間回復させた。対照条件とフィブリノーゲン条件との間の最適な差異を達成するには、フィブリノーゲンを少なくとも2.5mg/mLの濃度で添加する必要があった。OPCを3日間分化させてから、固定とその後の染色手順を行った。OPCをヘキスト色素(核)、及びMBP(オリゴデンドロサイト)及びGFAP(アストロサイト)に対する抗体で染色した。画像を、Arrayscan XTI機器を使用して取得した。ウェル間のばらつきを抑えるために、ウェル表面積の約80%をカバーする25枚の画像を10×対物レンズで撮影した。画像を、HCS Studioソフトウェアを使用して分析した。総細胞数を、ヘキスト+核の数に基づいて計算した。MBP又はGFAPのいずれかに対して陽性の全細胞のパーセンテージを定量化するために、細胞体を含むように核マスク(ヘキスト色素)からリングを拡張した。MBPの場合、核の周囲に十分な大きさのリングを拡張した。緑色蛍光細胞体(MBP+488nm)を伴う核を、総細胞数に対するMBP+細胞のパーセンテージとして計算し、赤色細胞体(GFAP+、549又は647nm)を伴う核をGFAP+細胞のパーセンテージとして計算した。
【0047】
B.384ウェルフォーマットでのハイコンテントフィブリノーゲン-OPC阻害アッセイの開発
我々は、96ウェルアッセイで確立したアッセイパラメータを使用して、自動化可能な384ウェルハイコンテントスクリーニングアッセイを開発した。OPCを取得し、上記のように培養した。アッセイを384ウェルフォーマットに適合させるために、ウェルあたりの様々な細胞密度を試験した。1×10細胞/ウェルを最適な細胞数として決定した。細胞をマルチチャンネルピペットを使用して手作業で播種した。Agilent BRAVOリキッドハンドラーを使用して以下のステップを実施した。24時間の培養後、増殖培地を各ウェルから取り出し、グルコースとピルビン酸ナトリウムを含むDPBSを加えて簡単に洗浄することで、すべての増殖因子を確実に除去した。DPBS溶液を除去した後、2倍濃度の分化因子+化合物を含む50μLの培地を、予備希釈ポリプロピレンプレートから加えた。1時間のインキュベーション後、2倍濃度のフィブリノーゲンを含む50μLの通常培地を、マルチチャンネルピペットを使用して手作業で添加し、溶液を加熱プラットフォーム上に維持した。3日間のインキュベーション後、96ウェルプレートフォーマットについて記載したのと同じプロトコルに従って細胞を染色するが、プロトコルのすべてのステップでBioTekEL406リキッドハンドラーを使用する。画像の取得と分析を、Thermo Scientific Arrayscan XTIを使用して上記のように行った。
【0048】
考察
分離ごとに利用可能なOPCの数をスケールアップし、増殖後の収量を調製物あたり150万細胞から調製物あたり500万細胞に増やした。増殖は、PDGF-AA及びNT3を含むOPC培地において10cmプレートで3~4日間行うことができる。37°で約5分間のインキュベーションで細胞の継代を助けるためにACCUTASE(商標)を使用することができる。再播種は、96ウェル又は384ウェルプレートに行うことができる。例えば、96ウェルプレート=ウェルあたり5000個の細胞;384ウェルプレート=ウェルあたり1000個の細胞。再現可能なOPC分化のため、分化培地中で一定期間(例えば、約3日間)。MBP+細胞へのOPC分化を阻害し、GFAP+細胞へのOPC分化を最大化するために、フィブリノーゲンは、少なくとも約2.5mg/mlの濃度で使用され得る。
【0049】
同じプレートで多くの化合物を同時に試験するために、ワークフローを開発した。例えば、2×化合物とそれに続く2×フィブリノーゲンのマルチチャンネル投与を使用すると、インキュベーターの外で化合物とフィブリノーゲンを投与するのに必要な時間を短縮できる。プログラミング及び384ウェルフォーマット用のAgilent BRAVOリキッドハンドラーを使用すると、培地を移す間の細胞の脱落を最小限に抑えることができる。BioTekEL406リキッドハンドラーは、384ウェルフォーマットでの免疫染色手順に使用できる。
【0050】
対象とする細胞/細胞成分/タンパク質を、例えば、MBP(1:250)及びGFAP(1:500)一次抗体、二次蛍光抗体(1:500)、ヘキスト核色素(2μg/mL)で標識/染色することができ、自動検出に使用することができる。Thermo Scientific Arrayscan XTIを使用して自動画像取得を実行できる。例えば、10倍で25枚の画像を取得することで、各ウェルの定量化される領域を最大化する(96ウェルプレートウェルのウェル表面積の約80%をカバー)。一部の領域では細胞が密集する傾向があるため、広い領域が必要である。そのため、ウェル全体の画像化は治療効果をより正確に捉え、定量化におけるウェル間のばらつきを低減する。MBP+細胞やGFAP+細胞などの染色及び標識は、自動定量化できる(定量化方法は、HCS Studioソフトウェア(Thermo Scientific)を使用して設計できる)。一例として、GFAP陽性の全細胞の割合を定量化するために、核マスク(ヘキスト色素)から細胞体を含むようにリングを拡張した。MBP+細胞の場合、細胞体を超えて細胞突起を含むようにリングを拡張することで、成熟OLのみが分析に含まれるようにした。リング内で測定された蛍光強度が、二次抗体のみの対照で生成された蛍光強度に対して設定された閾値を超えた場合、細胞はソフトウェアによって陽性と判定された。全体として、この技術によりバイアスが排除され、定量におけるウェル間及びプレート間のばらつきが軽減される。
【0051】
さらに、ここで説明するすべてのステップにより、結果が得られる速度が向上する。96ウェルプレートの手動画像取得と定量化には1~2週間かかるが、自動画像取得と定量化は1日で実行できる。
【0052】
参考文献
【0053】
【表1-1】
【0054】
【表1-2】
【0055】
実施例2
BMP受容体の遮断は再ミエリン化の外因性阻害を克服し、神経血管の恒常性を回復する
序論
CNSミエリンの再生は、多発性硬化症、新生児脳損傷、脳卒中などのいくつかの神経疾患で失敗する(Franklin and Ffrench-Constant,2017)。これらの条件では、微小環境における細胞外的合図(cell-extrinsic cues)は、多能性OPCが成熟したミエリン産生オリゴデンドロサイト(OL)に分化するのをブロックすることにより、再ミエリン化を阻害する(Forbes and Gallo,2017)。多発性硬化症のような慢性脱髄疾患における治療の進歩に対する重大な障壁は、この抑制性病変環境を克服して疾患の進行を止めることができないことである(Reich et al.,2018)。OPCの分化及び再ミエリン化の内因性経路を強化する小分子は、薬物スクリーニングで同定されている(Fancy et al.,2011;Deshmukh et al.,2013;Mei et al.,2014;Najm et al.,2015;Mei et al.,2016)。しかし、これらの薬物は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)や炎症性サイトカインなどの疾患に関連するOPC分化の外因性阻害物質を克服できず、高齢のOPCや炎症環境にある多発性硬化症患者のOPCにおけるOL分化を促進することもできなかった(Keough et al.,2016;Neumann et al.,2019;Starost et al.,2020)。ミエリン化促進化合物が血管透過性が増加した部位の阻害性微小環境を克服できるかどうかは不明のままである。
【0056】
多発性硬化症では、血液脳関門(BBB)の破壊により、血液凝固因子フィブリノーゲンがCNSに入ることが可能になる(Petersen et al.,2018)。フィブリノーゲン沈着は、多発性硬化症の発症における最も初期の事象の1つであり、慢性脱髄病変では持続するが、再ミエリン化病変では最小限であり、正常な白質には存在しない(Vos et al.,2005;Petersen et al.,2017;Lee et al.,2018)。進行性多発性硬化症では、フィブリノーゲンは皮質及び脳脊髄液で検出され、神経細胞及び皮質の喪失と相関している(Yates et al.,2017;Magliozzi et al.,2019)。脱髄損傷モデルでは、フィブリノーゲンの遺伝的又は薬理学的枯渇は、CNS及び末梢神経系における再ミエリン化を促進する(Akassoglou et al.,2002;Petersen et al.,2017)。フィブリノーゲンは、OPC及び神経前駆細胞におけるBMP受容体シグナル伝達を活性化することで、それぞれ再ミエリン化及び神経形成を阻害する(Petersen et al.,2017;Pous et al.,2020)。フィブリノーゲンは、BMP受容体活性化を介してNG2+(CSPG-4によってコードされる)OPCのアストロサイトへの細胞運命スイッチを誘導する(Petersen et al.,2017)。これは、神経血管ニッチにおけるOPC誘導性アストロサイト形成の誘導による再ミエリン化の外因性阻害におけるフィブリノーゲンの役割を示唆している。さらに、フィブリノーゲンがフィブリンに変換されると、ミクログリア及びマクロファージの酸化ストレスと炎症促進性分極化が誘発され(Ryu et al.,2015;Mendiola et al.,2020)、これはOPCにとって有毒であり、再ミエリン化不全の一因となる(Back et al.,1998;Miron et al.,2013)。これは、慢性神経疾患における抑制性微小環境の維持における血管透過性の増加とフィブリノーゲン沈着の役割を示唆している。しかし、BBB破壊部位における神経血管ニッチのリモデリング、及びそれと再ミエリン化不全との関係は依然として十分に理解されていない。
【0057】
ここでは、クレマスチンなどの既知のミエリン化促進化合物では克服できなかったOPCのシグナル伝達経路が、フィブリノーゲンによる再ミエリン化の外因性阻害により活性化されることが示されている。対照的に、BMPシグナル伝達の阻害は、慢性EAEモデルにおいてOPCの細胞運命を成熟OLに治療効果とともに回復させることにより、再ミエリン化に対するフィブリノーゲンの阻害効果をレスキューした。トランスクリプトミクスと、慢性神経炎症性病変における電子顕微鏡法と同期させたin vivo2光子(2P)イメージングを統合することにより、OPCは、活性なBMPシグナル伝達及び制限された再ミエリン化を伴うフィブリノーゲン沈着部位に蓄積することが示されている。したがって、既知のミエリン化促進化合物は、フィブリノーゲンによるBMP受容体活性化及び不完全なOPC分化を克服できず、これはBMP経路阻害が脳血管損傷部位におけるミエリン化促進前駆ニッチの再生能力を高める可能性があることを示唆している。
【0058】
材料及び方法
動物
C57BL/6、NOD、B6.Cg-Tg(Cspg4-cre/Esr1)BAkik/J(NG2-CreERTM、B6.Cg-Gt(ROSA)26Sortm14(CAG-tdTomato)Hze/J(RosatdTomato、及びB6.129P-Cx3cr1tm1Litt/J(CX3CR1GFPマウスを、Jackson Laboratoryから購入した。マウスを1ケージあたり5匹のグループで、標準的な飼育条件と12時間の明暗サイクル下で飼育した。同腹子を持つSprague-Dawley雌ラットをCharles Riverから購入し、P1~P7雄及び雌ラットをOPC分離に使用した。すべての動物プロトコルは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の動物研究委員会によって承認され、国立衛生研究所及びARRIVEガイドラインに従った。
【0059】
EAEの誘発と臨床スコアリング
活性型EAEを、9~10週齢のNG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+雌マウスで、最後のタモキシフェン注射から35~40日後に、400μgの熱不活化結核菌H37Ra(Difco Laboratories)を添加した不完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich)中75μgのMOG35-55ペプチド(MEVGWYRSPFSRVVHLYRNGK(配列番号1);Auspep)での皮下免疫によって誘発した。免疫化後0日目及び2日目に、マウスに200ngの百日咳毒素(Sigma-Aldrich)を腹腔内注射した。慢性NOD EAEモデルでは、10~12週齢のNODマウスを150μgのMOG35-55ペプチドで免疫し、続いて記載のように0日目と2日目に200ngの百日咳毒素を投与した
【0060】
治療的処置のために、ピーク+2dでマウスに6mg/kgのLDN-212854(Axon Medchem#2201)又は生理食塩水を1日2回(10~14時間間隔で)14日間投与した。マウスを無作為に治療群に割り当て、スコアを付け、盲検法で薬物治療を行った。実験者のバイアスが導入されないように、実験グループは実験終了時に治療割り当てについて非盲検にした。EAEの症状を発現しなかったマウスは、治療及び分析から除外した。マウスの体重を測定し、毎日スコアリングした。神経障害を、治療を知らされていない観察者によって5段階のスケールで評価した:0、症状なし;1、尾の緊張の喪失;2、運動失調;3、後肢麻痺;4、後肢及び前肢の麻痺;5、瀕死。スコア>2.5をEAEピークと定義した。
【0061】
NG2細胞の蛍光活性化セルソーティング
NG2細胞を選別するために、以前に説明されたように灌流したメスのマウスから脊髄組織を収集した。成体脳解離(ABD)キットの製造元(Miltenyi Biotec)の説明書に修正を加えた方法で、脊髄全体から単細胞懸濁液を調製した。簡単に説明すると、細かく刻んだ組織を、15μMアクチノマイシンD(ActD;Sigma)を含むABD Mix1とともに34℃で15分間、個別にインキュベートし、次にその溶液にABD Mix2を34℃で10分間加えた。組織を穏やかに粉砕し、34℃で10分間インキュベートした。ホモジナイズした組織溶液を70μmスマートストレーナー(Miltenyi Biotec)に通し、冷ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、4℃、450×gで7分間遠心分離した。ABDキットのデブリ除去ステップの指示に従って組織デブリを除去し、30μmスマートストレーナー(Miltenyi Biotec)に通し、450×g、4℃で7分間遠心分離した。上記のすべてのステップは、3μM ActDの存在下で行った。単一細胞懸濁液を1μM Sytox blue生/死染色液(Thermo Fisher Scientific)とともに4℃で5分間インキュベートしてから、BD FACSDiva(商標)v8ソフトウェアを備えたFACSARIA II(BD Biosciences)でセルソーティングを行った。SSC-A及びFSC-Aのサイズに基づいてすべての細胞をゲーティングし、FSC-H及びFSC-Wパラメータによってダブレットの識別を実行した。Sytox blueNG2tdtomato+細胞を、1%の2-メルカプトエタノール(Sigma)及び0.25%の試薬DX(Qiagen)を添加したRLTプラス溶解バッファー(Qiagen)を含むチューブの中へ直接選別した。細胞溶解物をドライアイス上で凍結し、使用するまで直ちに-80℃で保存した。TFPI及びMHCクラスIIの発現を測定するために、C57BL/6脊髄組織の単一細胞懸濁液を、ActDを添加せずに上記のように調製した。細胞をFc Block(BioLegend)とともに氷上で15分間インキュベートし、続いてFACS染色バッファー(BD)中で蛍光結合Abs及び抗TFPIとともに氷上で30分間インキュベートした。次いで、細胞を、氷上でPBS中の蛍光結合二次抗体とともにアクア生/死染色キット(Thermo Fisher Scientific)で30分間染色した。試料を直ちにBD FACSDiva(商標)v8ソフトウェアを使用してLSRFortessa(BD Biosciences)にかけた。すべてのFACSプロットはFlowjoで生成された。以下の抗体を使用した:APC/Cy7抗マウスCD11b(BioLegend、#101225、1:200)、PE抗マウスCD3(BioLegend、#100206、1:200)、PE/Cy7抗マウスPDGFRA(Invitrogen、#25-1401-82、1:50)、Alexa Fluor488抗マウスPDGFRB(Invitrogen、53-1402-82、1:50)、BV650抗マウスMHCII(BD、#743873、1:200)、ウサギ抗-マウスTFPI(Invitrogen、PA5-34578、1:100)、BV421ロバ抗ウサギIgG(Biolegend、406410、1:200)、及びLIVE/DEAD(商標)固定可能なアクア死細胞染色キット(Invitrogen、L34957、1:500)。
【0062】
バルクRNAシーケンス
RLTバッファー中の凍結NG2細胞溶解物を24℃で解凍し、メーカーの指示に従ってQIAshredder(Qiagen)を使用して溶解させた。RNAeasyマイクロキット(Qiagen)をそのまま使用して細胞溶解物から全RNAを単離した。RNAの質と量をBioanalyzerピコチップ分析(Agilent)によって決定し、RNA完全性数>8のすべての試料をRNA-seqライブラリの調製に使用した。cDNAライブラリを、Ovation RNA-seq System V2(NuGEN)を使用して全RNAから生成した。ライブラリを、それぞれKAPA qPCR(Roche)及びBioanalyzer DNAチップ分析(Agilent)によって定量及び品質チェックした。ライブラリをプールし、ペアエンド75塩基対のリード長を8レーンにわたってNextseq500(Illumnia)で配列決定した。ライブラリごとのシーケンシング深度は4,000万リードを超えた。FASTQファイルを、メーカーのガイドライン(Illumina)に従ってBiospaceで生成した。
【0063】
バルクRNAシーケンスの解析
各試料について、リード1とリード2のFASTQファイルを別々に連結し、Illumniaアダプターをトリミングし、FASTQCを使用してFASTQファイルの品質をチェックした。次に、配列決定リードをSTARを使用してマウス参照ゲノムmm10対してアライメントし、遺伝子ごとのカウントを以前に説明されたようにfeatureCountsによって定量した。EdgeR(バージョン3.24.3)によってDEGを識別した。1超又は-1未満のlog倍率変化のカットオフを使用し、誤検出率(FDR)p値は0.05未満とした。R(バージョン3.5.0)、K-meansHOPACH(バージョン2.42.0)を使用して、DEGのクラスタリング分析を、pheatmapパッケージ(バージョン1.0.12)を使用して視覚化し、ボルケーノプロットをggplot2パッケージ(バージョン3.2.1)で生成した。
【0064】
機能的エンリッチメント及び遺伝子ネットワーク解析
HOPACHによってクラスター化されたDEGの機能的エンリッチメント解析を、デフォルトのパラメータを使用してMetascapeで実行し、重要な遺伝子オントロジー(GO)タームをFDRp値<0.05によって特定した。100万データセットあたりのRNA-seq正規化カウントを使用し、デフォルト設定を使用して、GOの分子シグネチャデータベース生物学的プロセス(C5.bp.v7.1symbols.gmt)を使用してGSEAで遺伝子ネットワーク解析を実行した9、10。p値<0.10のGOタームは、Cytoscape(バージョン3.7.2)11を使用したエンリッチメントマップの視覚化に使用され、デフォルト設定のプラグインAutoAnnotate(バージョン1.3.2)を使用して公平にクラスター化された。
【0065】
in vivo多光子顕微鏡法
Mai Tai eHP DeepSee及びInsightX3 Ti:サファイアフェムト秒レーザー(パルス幅<120fs、調整範囲690~1040nm(Mai Tai)及び680~1300nm(InsightX3)、繰り返し速度80MHz、Spectra-Physics/Newport)を備えたUltima IV 2P顕微鏡(Prairie Technologies/Bruker)を使用した。レーザーを、蛍光色素に応じて910~1150nmの励起波長に調整した。画像化は、硬膜の下約80~120μmで、1.6ズームのOlympus25×1.05NA、又は1.0~1.5μm又は3~4μmのいずれかのz-ステップを備えるNikon10×0.4NA水浸レンズ、それぞれ40×又は10×倍率を使用して行った。すべての画像化実験中、対物レンズから出射される最大レーザー出力は40mW未満であった。IRブロッキングフィルターと560nmの二色性光を、デスキャンされていない検出器の前の一次放射ビーム経路に配置した。660nmの二色性及び692/24nm+607/45nmのバンドパスフィルターを使用して、Mito Tracker Red/遠赤とtdTomato/ローダミンの蛍光発光をそれぞれ分離した。520nmの二色性及び542/27nm+494/41nmバンドパスフィルターを使用して、それぞれYFPとGFPの蛍光発光を分離した。
【0066】
in vivo脊髄イメージング
in vivo脊髄イメージングを以前に説明されたように行った12。簡単に説明すると、脊髄を1回の椎弓切除術によって所望のレベル(T11)で露出させ、マウスを脊椎安定化装置上に配置した。Flow-It(商標)ALC(Pentron)を使用して、露出した脊髄の周囲にウェルを作成し、予め温めておいた(37℃)人工脳脊髄液(ACSF、HEPESベース、mM単位で:125 NaCl、10 グルコース、10 HEPES、3.1 CaCl2、2.7 KCl、及び1.3 MgCl2;pH7.4)を一滴適用した後、予め温めておいたACSFで硬膜を穏やかに洗い流すことで、潜在的な硬膜出血を洗浄及び除去した。椎弓切除術中に偶発的な損傷を負ったマウス、及び硬膜(下)出血の兆候があるマウスについては、これらの事象は実験計画とは関係のない炎症反応やその他の神経変性反応を引き起こす可能性があるため、そのマウスを研究から除外した。ACSF中3%の70kDaオレゴングリーン結合デキストラン(Thermo Fisher Scientific)の溶液100μlを眼窩後方に注射して血管系を標識し、その後マウスを2P画像顕微鏡の下に置いた。in vivoミエリンイメージングでは、皮下注射針を使用して髄膜(硬膜及びクモ膜)を慎重に除去し、その下にある露出した脊髄を、ACSF中8μMの濃度で溶解させたMitoTracker Deep Red(Thermo Fisher Scientific)に30分間浸した13。次に、画像化セッションの前に、脊髄を予め温めておいたACSFで4~5回慎重に洗浄した。
【0067】
in vivo画像データの処理
図用の画像を生成するために、ImageJ(NIH)総和値投影アルゴリズムを使用してZスタックをZ軸に沿って強度投影し、画像化されたボリュームの2次元表現を再作成した。ImageJで背景の減算、外れ値の削除、アンシャープマスクアルゴリズムを使用して、画像の明るさ/コントラスト、背景ノイズ、及びシャープネスを調整した。ImageJのスペクトル分離アルゴリズムを使用してGFP信号とYFP信号を分離し、その後、それらに擬似カラーを付けた。
【0068】
細胞クラスターの定量化
NG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+健康対照マウス又はEAEチャレンジマウスからの画像のZスタックをZ投影し、実験間の信号強度の違いを考慮するために自動的に閾値処理した(ImageJのデフォルトアルゴリズム)。NG2及びミクログリアクラスターを、4つ以上の細胞体が互いに接触しており、細胞密度が健康に見える脊髄よりも少なくとも2倍高い領域として定義した。ImageJを用いて、クラスター数、及び最も近い血管までの距離を計測した。
【0069】
ミエリンの円形度
ミエリンの損傷を、ミエリンの円形度で定量した。1.0の値は完全な円を示し(変性ミエリンの縦断面で見られるように)、値が0.0に近づくほど非円形で直線的な形状(正常な有髄線維の縦断面)になることを示す。
【0070】
電子顕微鏡法
SBEMのための組織の調製。tdTomato+NG2系列細胞、ミクログリア、及びデキストランで可視化した血管系を明らかにするために、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスのin vivo 2Pイメージングを慢性EAEで実施した。画像化セッションの後、動物をリンゲル液で灌流し、続いてカコジル酸中の0.5%グルタルアルデヒド/2%PFAで灌流した。画像ウィンドウの下で脊髄領域を灌流脊髄から切り出し、冷カコジル酸中0.5%グルタルアルデヒド/2%PFAで2時間固定した。次いで、標本を冷カコジル酸中4%PFAで一晩固定した。脊髄の背面側を厚さ150μmの水平ビブラトーム切片に切断した。切片を、冷カコジル酸中2%グルタルアルデヒドで一晩固定した。切片を以前に説明されたように染色した14。簡単に説明すると、組織を0.15Mカコジル酸中2%四酸化オスミウム(Ted Pella)、0.5%チオカルボヒドラジド(Electron Microscopy Sciences)水溶液、2%四酸化オスミウム水溶液、2%酢酸ウラニル(Ted Pella)水溶液、及びアスパラギン酸鉛で染色した15。各染色液の間に水で徹底的に洗浄した。次いで、切片をエタノール及びアセトンを通して脱水し、次いで、Durcupan ACM(Millipore Sigma)に浸透した。切片を、離型剤(Electron Microscopy Sciences、ペンシルベニア州ハットフィールド)でコーティングしたスライドガラスの間に平らに埋め込み、60℃で72時間硬化させた。
【0071】
X線顕微鏡法とSBEMのROIターゲティング。SBEMイメージング用のROIを見つけて方向を定めるために、標本をXRMで画像化した16。標本をZeiss Versa 510でスキャンした。ビブラトーム切片全体の最初のスキャンを、0.4×対物レンズ、80kV、ピクセルサイズ約5μmで収集した。XRMで観察された血管系と2光子ボリュームを比較した後、ROIを特定し、カミソリの刃を使用して切り取った。標本をACLAR(Ted Pella)上に接着し、これ自体をシアノアクリレート接着剤を使用してダミーブロックに接着した。このとき、ビブラトーム切片の腹側を上にした。XRMボリュームをガイダンスとして使用し、Leica EM UC6ウルトラミクロトーム上でガラスブレードを使用して標本にアプローチし、切断面がSBEMにおける目的の最終切断面と平行になるようにした。余分なエポキシを除去し、組織が露出したら、標本をダミーブロックから取り出し、導電性銀エポキシ(Ted Pella)を使用して、今度は背側を上にしてA3 SBEM標本ピン(RMC Boeckler)に取り付けた。A3ピンをA3標本ホルダーに置き、4×対物レンズを使用して80kV、約1.5μmのピクセルサイズでXRMでスキャンした。このXRMボリュームを、標本ブロックの傾きを正確に調整し、ブロックの背面から余分な樹脂を除去し、SBEMイメージング用のROI位置を特定するために使用した。
【0072】
SBEMイメージング。標本を、フォーカルチャージ補償(focal charge compensation)システムとGatan 2XP 3Viewシステムを備えたZeiss Gemini 300 VP SEMで画像化した。ボリュームを、1μ秒の滞留時間、10nmピクセル、50nmステップサイズ、及び窒素ガスをオンにした焦点ガス注入により2.5kVで収集した。スコープは分析モードと高電流モードで実行された。結果として得られた画像のスタックを、IMODプログラムを使用したカスタムPythonスクリプトを使用して並べた17
【0073】
OPC-Xスクリーニング
初代ラットO4OPCを、以前に説明されたように、パパイン解離皮質細胞懸濁液を、RAN-2(ネガティブ選択)、O1(ネガティブ選択)、O4(ポジティブ選択)の3つの皿で順次イムノパニングすることにより単離した18。O4+OPCを、プレートあたり5×10細胞の初期密度でポリエチレンイミン(PEI、Sigma-Aldrich)をコーティングした10cm培養プレート上に播種し、37℃の5%CO2インキュベーター内で3日間増殖培地中で増殖させた。次に、細胞をAccutaseを使用して継代し、PEIをコーティングしたμClear(商標)96ウェルプレート(Greiner Bio-One)にウェルあたり5×10細胞で再播種した。分化培地中で実験的処理を行う前に、細胞を増殖培地中で1日間インキュベートした。化学的に定義されたベース培地は、DMEM(4.5g/Lグルコース、+ピルビン酸、+グルタミン;Thermo Fisher Scientific)、1×B27(Thermo Fisher Scientific)、1×N2(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)、及び50ng ml-1NT3(Peprotech)であった。増殖培地は、20ng ml-1PDGF-AA(Peprotech)を添加した基本培地から構成された。分化培地は、20ng ml-1CNTF(Peprotech)及び40ng ml-1トリヨードチロニン(T3、Sigma-Aldrich)を添加した、PDGF-AAを含まない基本培地から構成された。「遅い」分化培地(NT3も追加の成長因子も含まず、T3も含まない基本培地)をクレマスチンの用量反応研究で使用して、以前の報告の条件を再現した19
【0074】
阻害性病変環境を模倣するために、フィブリノーゲン(Millipore Sigma)を、ミエリン促進化合物のスクリーニング用には1.5mg ml-1の濃度で、他のすべてのin vitro研究用には2.5mg ml-1の濃度で分化培地に添加した。これらは成熟OLへのOPC分化を阻害することが知られている生理学的血漿濃度である18。ミエリン促進化合物をDMSOに溶解させ、フィブリノーゲン処理の1時間前に、OLへのOPC分化を促進することが以前に示されている濃度で4つのウェルに添加した。最終化合物濃度は、ベンズトロピン1μM19、クレマスチン1μM19、クエチアピン1μM19、ミコナゾール1μM20、クロベタゾール5μM20、(±)U-50488 1μM21、及びXAV-939 0.1μM22であった。DMH1(1μM)18は、すべてのアッセイプレートにおいて陽性対照として機能した。細胞を最大0.1%のDMSO濃度に曝露し、対照には同濃度のDMSOを含めた。すべての条件を4つのウェルで試験し、N=3の生物学的複製のために3つの独立した実験で繰り返した。用量反応曲線については、フィブリノーゲン処理の1時間前に、LDN-212854及びクレマスチンを3倍連続希釈(5μM~2nM)で4つのウェルに添加した。用量反応実験を2つ又は3つの独立した実験で繰り返した。細胞を3日間分化させた後、固定、染色、及び定量を行った。BMP受容体阻害剤と別のミエリン化促進化合物の組み合わせを試験するために、3つの独立した実験で、LDN-212854(0.1μM)とクレマスチン(0.5μM)を、フィブリノーゲン処理の1時間前に、4つのウェルに単独で又は一緒に添加した。細胞を2日間分化させた後、固定、染色、及び定量を行った。
【0075】
OPCを4%パラホルムアルデヒドで固定し、5%正常ヤギ血清/0.1%Triton(登録商標)-X100でブロッキング及び透過処理し、2μg/mLヘキスト核色素(Thermo Fisher Scientific)、抗MBP抗体(Abeam ab92406又はAbeam ab7349)、及び抗GFAP抗体(Cell Signaling#12389)、続いてヤギ二次抗体(Thermo Scientific)で染色した。画像を、10×対物レンズ、ヘキスト色素検出用の386/23フィルター、MBP/Alexafluor-488検出用の485/20フィルター、及びGFAP/Alexafluor-546蛍光検出用の549/18フィルターを使用して、ArrayscanXTI機器(Thermo Scientific)で取得した。ウェル間のばらつきを減らすために、ウェル表面積の約80%をカバーする25枚の画像を撮影した。画像を、HCS Studioソフトウェア(Thermo Scientific)を使用して分析した。総細胞数をヘキスト核の数に基づいて計算した。MBP又はGFAPのいずれかに対して陽性の全細胞のパーセンテージを定量するために、細胞体(GFAP細胞)を含むように核マスク(ヘキスト色素)からリングを拡張した。MBP+細胞の場合、細胞体を超えてOL突起を含むようにリングを拡張することで、成熟OLのみが分析に含まれるようにした。HCS Studioソフトウェアを使用して、MBP及びGFAP細胞の割合を、細胞の総数あたりのMBP及びGFAP細胞の数に基づいて計算した。リング内で測定された蛍光強度が、二次抗体のみの対照で生成された蛍光強度に対して設定された閾値を超えた場合、細胞はソフトウェアによって陽性と判定された。
【0076】
免疫組織化学
深いアベルチン又はケタミン/キシラジン麻酔下で、マウスに経心的に4%PFAを灌流した。組織を取り出し、4%PFAで一晩固定し、30%スクロース/PBSで凍結保護し、Neg-50培地(Thermo Scientific Scientific)中で凍結させ、10~12μmの切片に凍結切片化し、Tissue Tack顕微鏡スライド(Polysciences,Inc)上に置いた。切片を0.1~0.3%Triton(登録商標)X-100中で透過処理し、5%BSA又は5%正常ロバ血清でブロッキングし、一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートし、次に蛍光二次抗体とともに室温で1~2時間インキュベートした。スライドに、DAPI(Thermo Fisher Scientific)を含むProlong Gold又はSlowFade Gold退色防止剤のカバースリップをかけた。
【0077】
以下の一次抗体を使用した:フィブリノーゲン(マウスIHC:1:1000、ウサギポリクローナル、J.Degen、シンシナティから贈呈);GFAP(1:200、ラットモノクローナル、#13-0300、Thermo Fisher Scientific);GST-pi(1:200、ウサギポリクローナル、#312、MBL International)、ID2(1:2000、ウサギモノクローナル、#M213、CalBioreagents);MBP(1:500、#ab7349、Abeam)、OLIG-2(1:200、ウサギポリクローナル、#ab9610、EMD Millipore)、PDGFRβ(1:100、ヤギポリクローナル、#AF1042、R&D Systems)、PLVAP(1:100、ラットモノクローナル、#553849、BD Pharmingen)、VCAM-1(1:50、ラットモノクローナル、#550547、BD Pharmingen)。
【0078】
画像を、乾式Plan-Neofluar対物レンズ(10×0.3NA、20×0.5NA、又は40×0.75NA)、Axiocam HRc CCDカメラ、及びAxiovision画像解析ソフトウェアを備えたAxioplan II落射蛍光顕微鏡(Carl Zeiss);Nikon CFI 60シリーズ無限光学システムとKeyenceイメージングソフトウェアを備えたBIOREVO BZ-9000倒立蛍光顕微鏡(Keyence);又は20×NA1.0対物レンズを備えたOlympus Fluoview共焦点顕微鏡で取得した。すべての画像をImageJで処理及び分析した。染色に応じて、マウス治療グループを知らされていない研究者によって、閾値処理されたバイナリ画像又は細胞の計数に対して定量を行った。
【0079】
イムノブロット
細胞又は組織を、プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤カクテル(Calbiochem)を添加したRIPA溶解バッファー(Thermo Fisher Scientific)に溶解させ、4℃、13,000×gで15分間遠心分離することによって溶解物を除去した。等量のタンパク質を4%~12%のビストリスゲル(Thermo Fisher Scientific)にロードし、ウェスタンブロッティングによって分析した。バンドを、HRP結合二次抗体(Cell Signaling Technology)で視覚化した。ImageJソフトウェア(NIH)を使用して濃度測定を行い、各バンドの値を同じ膜からのGAPDHローディングコントロールに対して正規化した。一次抗体は次のとおりであった:Id2(1:1000、ウサギモノクローナル、#M213、CalBioreagents);ホスホ-Smadl/5(1:1000、ウサギモノクローナル、#9516、Cell Signaling Technology);GAPDH(1:1000、ウサギモノクローナル、#2118、Cell Signaling Technology)。
【0080】
統計分析
GraphPad Prism(バージョン8)を使用して統計分析を行った。データは平均値±標準誤差として表示される。サンプルサイズを事前に決定するための統計的手法は使用していないが、サンプルサイズは以前に報告されたものと同様である。統計的有意性は、図の説明文に示されているように、スチューデントのt検定(両側、対応なし)、又はマン-ホイットニー検定(両側)、又は一元配置又は二元配置の分散分析(ANOVA)に続いて、多重比較のためのダネット又はテューキーの事後検定を使用して決定した。P値≦0.05を有意であるとみなした。同様のEAEスコア(スコアの差≦0.5)を有するマウスを実験グループにランダムに割り当て、交絡因子を最小限に抑えるために各ケージに各治療群の動物を入れた。EAE臨床スコアリング、組織病理学的分析、定量化を盲検法で行った。EAEの臨床スコアを比較するために、EAE実験の毎日の平均臨床スコアの変化の統計的有意性を順列検定を使用して推定した23。対応するP値を1000の順列を使用して推定した。各順列では、マウスをランダムに並べ替えた。NOD-EAEモデルでは、最後の20日間の処理からの最大スコアの平均を、ウェルチの2サンプルt検定を使用して各群間で比較した。
【0081】
参考文献
【0082】
【表2-1】
【0083】
【表2-2】
【0084】
結果
NG2細胞は慢性神経炎症において限定的な再ミエリン化を伴って、フィブリノーゲン沈着部位で血管周囲にクラスター化する。
【0085】
OPCとも呼ばれるNG2細胞は、血管系と密接に関連する成体CNSの前駆細胞であり、再ミエリン化を促進する独特の能力を持っている(Dimou and Gallo,2015)。神経炎症におけるNG2細胞と神経血管機能障害を研究するために、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+:Cx3cr1GFP/+マウスを作成した。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のアミノ酸35~55のエピトープ(「MOG35-55EAE」)によって誘発される慢性実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)中のNG2細胞及びミクログリアのin vivo 2Pイメージング及びトランスクリプトームプロファイリングを行った(補足図1)。70キロダルトンのオレゴングリーンデキストランの血管外漏出を、急性BBB漏出のマーカーとして使用し、フィブリノーゲン免疫組織学を慢性BBB漏出及び局所凝固のマーカーとして使用した。EAEのピークでは、血管周囲クラスターは主にミクログリアから構成され、NG2細胞は脊髄実質内に均一に分布していた(図1A、補足図2A)。しかし、慢性EAEでは、血管周囲クラスターもNG2細胞から構成され、NG2細胞クラスターの約80%以上が血管に、又は血管から30μm以内に位置していた(図1A、補足図2B)。クラスター内のNG2tdTomato+細胞は、脊髄実質内の複数の分岐突起を特徴とするグリア様形態を有しており、血管壁に沿って細長い突起を有するNG2tdTomato+周皮細胞とは区別できた(補足図2C)。内皮活性化のマーカーであるVCAM1(Lengfeld et al.,2017)、及び漏出性CNS血管の有窓内皮細胞のマーカーであるPLVAP(Niu et al.,2019)は、ピーク及び慢性EAE白質で増加した(補足図3A、B)。これは、神経血管恒常性の破壊を示唆している。フィブリノーゲンの沈着は、EAEにおける神経血管病理の顕著な特徴であり、疾患の発症に必要である(Adams et al.,2007;Davalos et al.,2012;Ryu et al.,2018)。急性デキストラン漏出はEAEのピーク時に最も高かったが、フィブリノーゲンの沈着は時間の経過とともに増加し、慢性EAE中に最も高かった(図1B)。これは、活動的なBBB破壊が減少した場合でも持続的なフィブリノーゲン沈着を示唆している。慢性EAEでは、NG2クラスターはフィブリノーゲン沈着部位でのみ血管周囲に凝集し(図1C、補足図4A)、多くの場合、ミクログリアクラスターと共局在した(図1A、補足図2A)。これらの結果は、神経炎症中のフィブリノーゲン沈着部位における神経血管界面の動的グリアリモデリングを示唆している。
【0086】
in vivo 2Pイメージングを使用して血管周囲NG2クラスター内のミエリンを評価するために、高濃度で使用するとミエリンも標識するミトコンドリア色素であるMito Tracker Deep Red(Romanelli et al.,2013)を適用した。ミエリン鞘の水泡形成を特徴とする重大なミエリン破壊がNG2クラスターの近くに存在したが、クラスターのない部位では正常に見えるミエリン鞘が現れた(図1D、補足図4B)。ミエリンの超微細構造を研究するために、マイクロコンピューター断層撮影法を使用して、2Pで画像化されたボリュームと3次元シリアルブロックフェイス電子顕微鏡法(SBEM)を関連付けるための同期(co-registration)技術が開発された(図1E)。この技術を使用して、in vivo 2P顕微鏡法で画像化されたEAEマウスの血管周囲NG2クラスターのまったく同じ領域でSBEM画像を収集した。内皮の活性化、内皮表面での白血球の付着、血管周囲のアストログリオーシス、及び炎症を、部分的にデブリを含むマクロファージを伴う炎症を起こした静脈が観察された(図1Fi、Gi、補足図3C)。実質病変では、2つの異なるパターンを発見した。1つ目は、低細胞密度の細長い細胞の細胞浸潤を特徴とし、その一部にはオスミウム親和性分解産物が含まれていた。これらの領域では、大部分の軸索が脱髄しており、再ミエリン化はまばらであった(図1Fii、Gi)。他の領域では、いくらかのミトコンドリアを含むが、NG2細胞を彷彿とさせる他の細胞小器官をほとんど含まない核周囲細胞質の小さな縁を有する小細胞のより高密度のクラスターが存在した(図1Gii)。再ミエリン化した軸索はこれらの細胞クラスターに密接に隣接していたが、クラスターから離れた領域では軸索は脱髄していた(図1Fiii、Gii)。血管周囲のNG2細胞から離れたところでは、正常に見える血管周囲のCNS組織、アストロサイトのグリア境界膜、及び正常なミエリン厚さの軸索が観察された(図1Fiv)。これらの結果は、血管周囲のNG2クラスターが炎症、神経膠症、明らかな脱髄及び限定的な再ミエリン化に関連していることを示唆している。EAEにおけるNG2細胞のトランスクリプトームプロファイリングは、血管恒常性と抗凝固経路の抑制を明らかにする。
【0087】
慢性EAEにおけるNG2細胞のトランスクリプトーム変化を研究するために、MOG35-55EAEマウス又は健康な対照の脊髄から収集したNG2tdTomato+細胞でRNA-seqを行った(補足図3A)。対照と比較して、慢性EAEの設定において合計1,241個の発現変動遺伝子(DEG)(FDR<0.05;±1log倍率変化)を同定し、そのうち738個(60%)が下方制御され、503個(40%)が上方制御されていた(図2A)。教師なし遺伝子クラスタリング分析により、9個の異なる遺伝子クラスターが特定された(図2B)。遺伝子オントロジー(GO)分析により、慢性EAEは、GO経路タームである「急性炎症反応の正の制御」、「T細胞媒介細胞毒性の正の制御」、「抗原プロセシングと提示」、及び「インターフェロンベータに対する細胞反応」を含むクラスター1~4では炎症遺伝子及び抗原提示遺伝子を活性化することが明らかになった(図2B)。Cd74、H2-dma、B2mなどの標準抗原提示遺伝子は、EAEにおいて有意に上方制御された(図2B)。これは、疾患におけるOL系統細胞の免疫様機能を示唆する報告と一致している(Falcao et al.,2018;Kirby et al.,2019)。興味深いことに、下方制御された遺伝子クラスター5~9のGO解析により、「血管新生」、「Wntシグナル伝達経路の制御」、「脈管形成」、「血管発達」、「細胞接合組織化」など、血管及びBBBの恒常性に関連する経路が明らかになった(図2B)。これに応じて、EAEでは、血管の維持、創傷治癒と凝固、及び密着結合に関与する遺伝子ネットワークが全体的に抑制されていた(図2C)。DEGの遺伝子セットエンリッチメント解析(GSEA)により、下方制御された上位2つの遺伝子セットを「細胞接合アセンブリの制御」(正規化エンリッチメントスコア(NES)1.7、p<0.01)及び「凝固の負の制御」(NES1.7、p<0.01)として特定した(図2D)。血液凝固及びフィブリン形成の主要なインヒビターである組織因子経路インヒビター(Tfpi)の発現(Wood et al.,2014)は、EAEのNG2細胞で大幅に減少した。NG2tdTomato+集団はOPC及び周皮細胞系統を含んでいるため、我々はMOG35-55-EAEマウス又は健康な対照の脊髄からPDGFRαOPC及びPDGFRβ周皮細胞を単離し(補足図3B)、抗原提示及び抗凝固経路をそれぞれ評価するために、細胞表面の主要組織適合性複合体クラスII(MHCII)及びTFPIを標識した。我々のバルクRNAseq及び以前の研究(Kirby et al.,2019)と一致して、EAEのPDGFRαOPCでMHCIIが増加した(補足図3C)。TFPIはOPCによって発現されたが、健康な対照では周皮細胞では発現されず、EAEでは有意に抑制された(図2E、F)。全体として、これらの結果は、慢性神経炎症におけるOPCにおける抗原提示、凝固、及び血管恒常性経路の調節不全を特定する。
【0088】
ミエリン化促進化合物は、OPC分化のフィブリノーゲン外因性阻害を克服しない
OPCは、多発性硬化症病変に見られるフィブリノーゲンやBMPなどの外因性シグナルに応答して、ミエリン形成OL又はアストロサイト様細胞に分化することができる(Mabie et al.,1997;Petersen et al.,2017;Hackett et al.,2018)。我々は、外因性阻害物質の存在下でOPCの成熟MBPOLへの分化を促進し、GFAPアストロサイトへのOPC運命スイッチを減少させる化合物を同定するため、ミディアムスループットかつハイコンテントイメージングアッセイであるOPC-Xスクリーニングを開発した(図3A)。OPC-Xアッセイでは、フィブリノーゲンは対照と比較して、MBP成熟OLを減少させ、GFAPアストロサイト様細胞を約60%増加させた(図3B~D)。7種類の化合物、すなわちベンズトロピン、クレマスチン、クエチアピン、ミコナゾール、クロベタゾール、(±)U-50488、及びXAV-939は、OPC分化の内因性経路を促進することが以前に確認されている(Fancy et al.,2011;Mei et al.,2014;Najm et al.,2015;Mei et al.,2016)。しかし、これらのミエリン化促進化合物は、フィブリノーゲンによるOPC分化の外因性阻害を克服しなかった(図3B~D)。対照的に、BMP受容体インヒビターのDMH1(Hao et al.,2010)は、フィブリノーゲンの阻害効果をレスキューし、成熟OLへのOPC分化を対照レベルまで回復させた(図3B~D)。フィブリノーゲンによるOPCからGFAP細胞への細胞運命スイッチも、DMH1によって無効になった(図3D)。ムスカリン受容体アンタゴニストであるクレマスチンは、OPCの再ミエリン化能力を促進し、現在多発性硬化症の臨床試験中である(Mei et al.,2014;Green et al.,2017)。クレマスチンは予想どおり対照条件でMBP細胞の数を増加させたが、フィブリノーゲンの存在下では成熟OLへのOPCの分化を促進しなかった(補足図4)。クレマスチンは、フィブリノーゲンによって誘発されるBMPシグナルトランスデューサーSMAD1/5のリン酸化やBMP標的タンパク質ID2の発現をブロックしなかった(図3E)。対照的に、DMH1は、フィブリノーゲンによって誘発されるSMAD1/5のリン酸化とID2発現をブロックした(図3E)。したがって、OPC分化を促進するこれまでに同定された化合物は、血管損傷部位における外因性阻害シグナル伝達経路を克服できない可能性がある。
【0089】
神経炎症におけるI型BMP受容体阻害の治療効果
BMP発現及び下流の受容体シグナル伝達は、ヒト多発性硬化症病変において増加する(Costa et al.,2019;Harnisch et al.,2019)。BMP標的タンパク質ID2も、広範なフィブリノーゲン沈着を伴う病変では増加する(Petersen et al.,2017)。DMH1がin vitroでフィブリノーゲンによって誘発されるBMP受容体活性化を効果的にブロックし、OPC分化を回復したという発見(図3)は、BMPシグナル伝達を標的とすることが神経炎症の修復を促進する可能性があることを示唆した。しかし、DMH1は水溶性ではないため、生体内での使用は制限される。したがって、我々は、水溶性アクチビンA受容体I型(ACVR1)にバイアスされたI型BMP受容体阻害剤である、DMH1に類似した分子構造を有する(Mohedas et al.,2013)LDN-212854をOPC-Xスクリーニングで試験した。LDN-212854は成熟OL分化を回復し、フィブリノーゲン処理したOPCからのGFAP+アストロサイトの形成を用量依存的にブロックした(図3F、G)。
【0090】
LDN-212854の治療可能性を決定するために、EAEの2つのモデル:NG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスで誘発される慢性MOG35-55EAEと、MOGのアミノ酸35~55のエピトープによって非肥満糖尿病(NOD)マウスで誘発される進行性EAE(「NOD-MOG35-55EAE」)(Mayo et al.,2014)を選択した。LDN-212854の治療的投与により、臨床スコアが大幅に改善され(図4A~D)、両方のモデルでフィブリノーゲンの沈着と脱髄が減少した(図4A~D)。また、LDN-212854は、in vivo2Pイメージングによって明らかになったように、MOG35-55EAEにおける血管周囲のNG2クラスターとミエリン損傷を著しく減少させた(図4E、F)。さらに、LDN-212854は、EAE白質でNG2細胞におけるID2発現を減少させた(図4G)。これは、NG2細胞系統におけるBMPシグナル伝達の阻害と一致している。
【0091】
フィブリノーゲン及びBMP受容体シグナル伝達の重要な機構は、OPCからアストロサイトへの細胞運命スイッチであるため(Mabie et al.,1997;Petersen et al.,2017)、我々は、LDN-212854がMOG35-55EAEにおいてミエリン化細胞へのOPC分化を促進するかどうかを試験した。in vivoでのOPCの細胞運命を追跡するために、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+マウスでEAEを誘導し、NG2OPCとその子孫におけるtdTomatoのタモキシフェン誘導発現を可能にした(Petersen et al.,2017;Hackett et al.,2018)。グルタチオンs-トランスフェラーゼ-pi(GST-pi)は成熟OLを標識し、GFAPは遺伝子標識されたtdTomatoNG2OPCに由来するアストロサイトを標識した。LDN-212854の治療的投与により、対照と比較してGST-pi成熟OLに分化したNG2tdTomato+OPCの割合が増加し、NG2-CreERTM:RosatdTomato/+MOG35-55EAEマウスにおけるOPC由来のGFAPアストロサイトの形成が消失した(図4H)。まとめると、これらの結果は、I型BMP受容体阻害によりOPCの成熟OLへの細胞運命が回復し、フィブリノーゲンの沈着と活性なBMPシグナル伝達を伴う神経炎症性疾患の治療可能性を有することを示唆する。
【0092】
考察
本明細書で提供されるデータは、神経炎症におけるBBB機能不全部位での神経血管ニッチの動的な細胞リモデリングを明らかにし、ミエリン修復を促進するための創薬標的となり得る経路を特定する。おそらく神経炎症では、血管周囲のNG2OPCクラスターが凝固促進環境に寄与し、過剰なフィブリノーゲンの沈着、OPCにおけるBMP受容体シグナル伝達の活性化、及び血管損傷部位での再ミエリン化の外因性阻害を引き起こす。このモデルは、血管周囲OPCクラスターが活動性病変境界に局在する、フィブリノーゲン沈着、線維素溶解障害、BMP経路活性化、及び神経膠症を伴う慢性脱髄性多発性硬化症病変と一致している(Petersen et al.,2017;Yates et al.,2017);Lee et al.,2018;Niu et al.,2019)。OPC-Xスクリーニングを通じて、我々は、多くのミエリン化促進薬の治療能力が血管損傷及びフィブリノーゲン沈着の部位に限定されている可能性があることを発見し、慢性脱髄を伴う疾患における外因性阻害を克服するための治療戦略に対するまだ満たされていない臨床ニーズを浮き彫りにした。本明細書では、BMP経路の活性化を阻害すると、神経血管機能不全部位におけるOPC分化の失敗を克服することによってミエリン修復を促進できるという概念が提供される。したがって、BMP阻害剤はミエリン化促進薬のツールボックスを拡張し、BBB破壊及び白質病理を患う患者に追加の治療オプションを提供することができる。
【0093】
in vivo 2Pイメージングを使用して、我々は疾患のピークにおけるミクログリアと脱髄に関連する血管周囲グリア細胞組成の顕著な変化と、それに続く慢性神経炎症における再ミエリン化が制限された血管周囲NG2クラスターの形成を発見した。フィブリノーゲン沈着部位におけるNG2細胞のクラスター化は、OPCの移動又は接着が血管損傷部位で変化する可能性があること、又はOPC自体がBBB破壊又は局所凝固に寄与する可能性があることを示唆している。この研究は、凝固を調節する遺伝子の発現におけるこれまで知られていなかったOPCの機能を示唆している。凝固因子X及び組織因子媒介凝固の強力なインヒビターであるTFPI(Wood et al.,2014)はOPCで発現され、慢性神経炎症によって抑制された。興味深いことに、多発性硬化症患者ではTFPIを含む止血バイオマーカーが変化しており(Ziliotto et al.,2019)、これは神経炎症性疾患における抗凝固経路と凝固促進経路の不均衡を示唆している。酸化促進性ミクログリアは、凝固因子Xなどの凝固タンパク質の発現を通じて、病変微小環境における凝固促進性環境にも寄与している可能性がある(Mendiola et al.,2020)。したがって、神経血管界面での転写変化は、多くの神経疾患で観察されるフィブリンの過剰又は持続的な沈着に寄与する局所凝固促進環境を確立する可能性がある(Petersen et al.,2018)。NG2細胞-血管-フィブリノーゲン軸又は下流のフィブリノーゲンシグナル伝達を標的とする治療戦略は、神経炎症性病変環境における外因性阻害を克服する治療手段を提供することができる。
【0094】
この研究は、ミエリン化促進薬が病変環境において外因性阻害物質によって活性化されるシグナル伝達経路を違った形で抑制することを示唆している。実際、クレマスチンは、BMP受容体活性化の下流の重要な経路であるSMAD1/5リン酸化を阻害することも、アストロサイトへのOPC細胞運命スイッチをレスキューすることもなかった。フィブリノーゲンは、OPCにおけるBMP受容体シグナル伝達の活性化に加えて、アストロサイトからのCSPG産生を刺激し、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)のキャリアである(Schachtrup et al.,2010)。CSPGは、OPCにおけるプロテインチロシンホスファターゼシグマ受容体の活性化を通じて部分的に再ミエリン化を阻害する(Pendleton et al.,2013)。加齢に伴うOPC機能の喪失は、TGF-βシグナル伝達又はOPCニッチの剛性の増加に応答して発生し、その後機械応答性イオンチャネルPiezolを介したシグナル伝達が起こる可能性がある(Baror et al.,2019;Segel et al.,2019)。したがって、神経膠症、血管損傷、BBB破壊を伴う炎症性病変において再ミエリン化を増加させる薬剤の選択を改善するには、抑制性病変環境と下流のシグナル伝達をよりよく再現するアッセイが必要である。さらに、臨床におけるミエリン化促進薬の選択では、脱髄性神経疾患患者の外因性抑制環境におけるその有効性を考慮する必要があるかもしれない。薬物の組み合わせで複数の阻害経路を標的にすることは、再ミエリン化に対して相加効果又は相乗効果をもたらす可能性があり、阻害性病変環境においてミエリン化促進化合物の治療効果を最大化する手段を提供する可能性がある。
【0095】
抗凝固剤による治療的フィブリノーゲン枯渇は神経炎症を抑制し、ミエリン再生を促進することができるが(Akassoglou et al.,2002;Petersen et al.,2017)、出血性合併症によりこのアプローチの臨床的有用性が制限される可能性がある。本研究により、ACVR1にバイアスされたBMP受容体阻害剤であるLDN-212854が、慢性神経炎症の潜在的な治療薬として特定された。損傷した血管周囲ニッチにおけるフィブリノーゲン及びBMPシグナル伝達の活性化は、OPC細胞運命をOLの再ミエリン化ではなくアストロサイトに導き(Petersen et al.,2017;Baror et al.,2019)、これが血管損傷部位における病的神経膠症の一因となる可能性がある。LDN-212854は、ミエリン形成OLを増加させ、アストロサイトへのOPC分化を排除した。LDN-212854は研究で使用された用量で良好な忍容性を示したが、ヒトの毒性データは限られている。ACVR1選択的BMP阻害剤の臨床使用は、異所性骨化及びミエリン異常を引き起こす過剰なBMPシグナル伝達を伴う稀な疾患である進行性骨化性線維異形成症の治療において最近注目を集めている(Kan et al.,2012)。LDN-212854及び他の安全なACVR1選択的阻害剤は、多発性硬化症、アルツハイマー病、新生児脳損傷、及び外傷性脳損傷を含む、BBB破壊及びミエリン異常を伴う神経疾患の治療選択肢となる可能性がある。
【0096】
参考文献
【0097】
【表3-1】
【0098】
【表3-2】
【0099】
【表3-3】
【0100】
【表3-4】
【0101】
【表3-5】
【0102】
すべての刊行物、受託番号によって特定されるヌクレオチド及びアミノ酸配列、特許及び特許出願は、参照により本明細書に組み込まれる。上記の詳述では、本発明をその特定の実施形態に関連して説明し、多くの詳細を説明の目的で記載したが、当業者には、本発明は追加の実施形態が可能性であり、本明細書に記載されている詳細の一部は、本発明の基本原理から逸脱することなく大幅に変更され得ることが明らかであろう。
【0103】
本明細書に記載される特定の方法及び組成物は、実施形態の代表的なものであり、例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。他の目的、態様、及び実施形態は、本明細書を検討すれば当業者に想起され、これらは特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨の範囲内に包含される。本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、本明細書に開示された本発明に対して様々な置換及び修正を行うことができることは、当業者には容易に明らかであろう。本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書において必須であるとして具体的に開示されていないいかなる要素又は限定も存在しない状態で適切に実施することができる。本明細書に例示的に記載される方法及びプロセスは、異なるステップの順序で適切に実施することができ、本方法及びプロセスは、本明細書又は特許請求の範囲に示されるステップの順序に必ずしも限定されない。
【0104】
いかなる状況においても、特許は、本明細書に具体的に開示された特定の例、実施形態、又は方法に限定されると解釈されてはならない。いかなる状況においても、特許は、特許商標庁の審査官、その他の役人や従業員によってなされた声明によって限定されるものと解釈されてはならない。ただし、そのような声明が出願人による返答書面で具体的かつ無資格又は留保なしに明示的に採用されている場合を除く。
【0105】
使用されている用語及び表現は説明の用語として使用されており、限定するものではない。そのような用語及び表現の使用には、示され説明されている特徴又はその一部と同等のものを除外する意図はない。特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で、様々な変更が可能であることを理解されたい。したがって、本発明は実施形態及び任意選択の特徴によって具体的に開示されたが、当業者であれば、本明細書に開示された概念の修正及び変更に頼ることができ、そのような修正及び変更は、添付の特許請求の範囲及び本発明の記述によって定義される本発明の範囲内にあるとみなされることが理解されるであろう。
図1-A】
図1-B】
図1-C】
図1-D】
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図2C
図2D
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図3A
図3B
図3C
図3D
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図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8
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図10
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図14
図15
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図18
図19
図20
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【配列表】
2024521916000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外因性阻害物質による再ミエリン化阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイであって、
a)オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及び
b)単一アッセイで2つの読み取り値を取得することにより、1)MBP+ミエリン形成オリゴデンドロサイト(OL)、及び2)GFAP+アストロサイトの存在を検出/定量すること
を含み、前記外因性阻害物質のみと接触させた対照OPCと比較したOLの増加及びGFAP+アストロサイトの減少は、この薬剤が外因性阻害物質による再ミエリン化の阻害を克服したことを示す、アッセイ。
【請求項2】
前記外因性阻害物質は、抗体、化合物、小分子、ペプチド、及び核酸のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項3】
前記外因性阻害物質は炎症性分子である、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項4】
前記外因性阻害物質はフィブリノーゲンである、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項5】
フィブリノーゲンは生理学的レベルで存在する、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項6】
フィブリノーゲンは、少なくとも2.5mg/mlの濃度で添加される、請求項4に記載のアッセイ。
【請求項7】
前記OPCは初代OPCである、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項8】
前記初代OPCは、a)の前に増殖培地中で1~6日間培養される、請求項7に記載のアッセイ。
【請求項9】
前記増殖培地はPDGF-AA及びNT3を含む、請求項8に記載のアッセイ。
【請求項10】
前記OPCは、タンパク質分解及び/又はコラーゲン分解によって培養皿から分離され、その後、新鮮な培養皿に播種される、請求項8に記載のアッセイ。
【請求項11】
前記OPCは、a)の前に、96ウェルプレートの1ウェルあたり5×10細胞で、又は384ウェルプレートの1ウェルあたり1×10細胞で播種される、請求項10に記載のアッセイ。
【請求項12】
前記播種されたOPCは、a)の前に最大24時間培養される、請求項11に記載のアッセイ。
【請求項13】
前記OPCは、b)の前に前記OPCが分化できるように、ステップa)において1~6日間培養される、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項14】
前記OPCは3日間培養される、請求項13に記載のアッセイ。
【請求項15】
化培地はCNTFトリヨードチロニン(T3)及びPDGF-AAを含む、請求項13に記載のアッセイ。
【請求項16】
a)の後、前記細胞をMBPに対する抗体(オリゴデンドロサイト)及びGFAPに対する抗体(アストロサイト)と接触させる、請求項1に記載のアッセイ。
【請求項17】
前記抗体は検出可能な標識で直接的又は間接的に標識され、標識を有する前記細胞の画像が取得される、請求項16に記載のアッセイ。
【請求項18】
自動化画像が取得される、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項19】
培養容器(例えば、ウェル)の少なくとも約80%が画像化される、請求項17に記載のアッセイ。
【請求項20】
MBP+及びGFAP+の自動定量化が使用される、請求項1~19のいずれか一項に記載のアッセイ。
【請求項21】
外因性阻害物質の阻害を克服する薬剤をスクリーニングするためのハイスループット、ハイコンテントアッセイであって、
a)細胞を外因性阻害物質及び試験薬剤と接触させること、及び
b)前記試験薬剤に対する細胞応答を検出及び/又は定量すること
を含み、前記細胞を前記外因性阻害物質のみと接触させた対照と比較して異なる細胞応答は、薬剤が前記外因性阻害物質を克服できたことを示す、アッセイ
【請求項22】
前記外因性阻害物質は、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロナン、フィブロネクチン凝集体、ミエリンデブリ、炎症性サイトカイン(例えば、可溶性TNF-α又はインターフェロン-γ)、骨形成タンパク質、エンドセリン-1、セマフォリン、環境毒素及びアルコール、タバコ、違法薬物又は娯楽用薬物からなる群から選択される、請求項21に記載のアッセイ。
【請求項23】
前記細胞は、神経幹細胞及び/又は前駆細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、放射状グリア細胞(成人及び/又は胎児/新生児)、小脳顆粒ニューロン前駆細胞、神経堤幹/前駆細胞、血管/内皮の幹/前駆細胞、臓器幹/前駆細胞(例えば、心臓、肝臓、肺、腎臓、骨格筋、皮膚、骨、網膜)、間葉系幹/前駆細胞、胎盤幹/前駆細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(又はESC/iPSC由来の細胞)、及びがん/腫瘍関連細胞/幹細胞を含む幹細胞又は前駆細胞からなる群から選択される、請求項21又は22に記載のアッセイ。
【請求項24】
前記神経前駆細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)である、請求項23に記載のアッセイ。
【国際調査報告】