(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】新規のペプチド模倣体およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20240528BHJP
C07K 17/04 20060101ALI20240528BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240528BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240528BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240528BHJP
A61K 38/36 20060101ALI20240528BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240528BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20240528BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240528BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240528BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240528BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240528BHJP
C12N 15/117 20100101ALN20240528BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C07K17/04
A61P37/06
A61P37/04
A61P29/00 101
A61K38/36
A61K38/17
A61K38/43
A61K39/00 Z
A61K48/00
A61K9/51
A61K47/46
C12N15/117 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023574619
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 SE2022050527
(87)【国際公開番号】W WO2022255929
(87)【国際公開日】2022-12-08
(32)【優先日】2021-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523453293
【氏名又は名称】ラーシュ クラレスコーグ
(71)【出願人】
【識別番号】523453307
【氏名又は名称】ビビアン マールムストレーム
(71)【出願人】
【識別番号】523453318
【氏名又は名称】アナトリー ドゥブノビツキー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ラーシュ クラレスコーグ
(72)【発明者】
【氏名】ビビアン マールムストレーム
(72)【発明者】
【氏名】アナトリー ドゥブノビツキー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA65
4C076CC07
4C076EE57
4C076FF02
4C076FF31
4C076FF67
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA07
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4C084ZB152
4C085AA03
4C085CC31
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA16
4H045BA17
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA22
(57)【要約】
本発明は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドの模倣体に関し、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し、前記ペプチド模倣体が、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞によって認識され、さらに、前記ペプチド模倣体が、前記翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと実質的に同一の三次元構造を有する。このようなペプチド模倣体は、担体に結合して単独で使用することができ、特に、自己免疫疾患の治療、緩和および予防のための方法、ならびに寛容原性ワクチンの成分として有用である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体であって、
前記天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換されてペプチド模倣体を形成しており、前記ペプチド模倣体が、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に結合することを特徴とする、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体。
【請求項2】
前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞に認識される、請求項1に記載のペプチド模倣体。
【請求項3】
前記ペプチド模倣体が、例えばX線回折結晶法により決定された結晶構造を有し、当該結晶構造が、同じ方法を用いて決定された、前記対応する天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である、請求項1または2に記載のペプチド模倣体。
【請求項4】
前記合成ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化II型コラーゲン、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、シトルリン化テナシンCおよびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である、請求項1に記載のペプチド模倣体。
【請求項5】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項6】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換され、71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項7】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項8】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換され、68位のバリンがフェニルアラニンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項9】
前記ペプチドがテナシンCであり、877位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項10】
前記ペプチドがテナシンCであり、2073位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項4に記載のペプチド模倣体。
【請求項11】
前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性で、ヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する、請求項1~10のいずれか1項に記載のペプチド模倣体。
【請求項12】
被験体における寛容の誘導のための方法、好ましくは前記寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和または予防のステップである方法において使用するための、請求項1~11のいずれか1項に記載のペプチド模倣体。
【請求項13】
担体およびペプチドの複合体であって、前記ペプチドが、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体であり、前記ペプチド模倣体において、前記天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換されてペプチド模倣体を形成しており、前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合することを特徴とする、前記複合体。
【請求項14】
前記担体が、ナノ粒子、血球、およびMHCクラスII分子から選択される、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
前記ペプチド模倣体が、例えばX線回折結晶法によって決定された結晶構造を有し、当該結晶構造が、同じ方法を用いて決定された、前記対応する天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である、請求項13に記載の複合体。
【請求項16】
前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞に認識される、請求項13に記載の複合体。
【請求項17】
前記ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化II型コラーゲン、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である、請求項13に記載の複合体。
【請求項18】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項19】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換され、71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項20】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項21】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換され、68位のバリンがフェニルアラニンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項22】
前記ペプチドが配列番号9に示されるテナシンCであり、877位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項23】
前記ペプチドが配列番号10に示されるテナシンCであり、2073位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項13に記載の複合体。
【請求項24】
被験体における寛容の誘導のための方法、好ましくは寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和または予防のステップである方法において使用するための、請求項13~23のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項25】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であって、
担体およびペプチドを含む構築物を含有する構築物を前記被験体に投与する工程を含み、前記担体-ペプチド複合体中に組み込まれるペプチドが、請求項1~11のいずれか1項に記載のペプチド模倣体であることを特徴とする、前記方法。
【請求項26】
前記構築物が、MHCクラスII-ペプチド複合体である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であって、請求項13~23のいずれか1項に記載の複合体を含む構築物を、前記被験体に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項28】
前記寛容の誘導が、自己免疫疾患の治療、緩和または予防における工程である、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項29】
前記自己免疫疾患が関節リウマチであり、前記抗原がペプチド抗原であり、前記非翻訳後修飾ペプチド模倣体がHLA-DR0401および0404のペプチド結合溝に結合して、RA患者において活性化されたT細胞に由来するRA患者由来のT細胞受容体によって認識される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗原が、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択される、請求項25又は26に記載の方法。
【請求項31】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導するための寛容原性mRNAワクチンであって、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体をコードする修飾された非炎症性mRNAを含む、前記寛容原性mRNAワクチン。
【請求項32】
前記抗原の非翻訳後修飾模倣体が、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合するペプチド模倣体である、請求項31に記載のワクチン。
【請求項33】
前記ペプチドにおいて、シトルリンが、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝への結合を維持したまま他のアミノ酸で置換されている、請求項31に記載のワクチン。
【請求項34】
前記ペプチドが、例えばX線回折結晶法により決定された結晶構造を有し、当該結晶構造は、同じ方法を用いて決定された、前記天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である、請求項31に記載のワクチン;そして、前記ペプチドが、
【請求項35】
シトルリンがグルタミンに置換されている、請求項31~34のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項36】
前記ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化エノラーゼから選択される抗原の模倣体である、請求項31に記載のワクチン。
【請求項37】
前記修飾された非炎症性mRNAが、ナノ粒子形成された1-メチルシュードウリジン修飾mRNAである、請求項31に記載のワクチン。
【請求項38】
自己免疫疾患の治療、緩和または予防における使用のための、請求項31~37のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項39】
前記自己免疫疾患が関節リウマチである、請求項38に記載の使用のためのワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医学分野、より具体的には免疫療法、特に天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの新規合成模倣体、ワクチンを含むMHCクラスIIペプチド複合体、および当該模倣体を含む他の組成物、ならびに例えば被検体における特定の抗原に対する寛容の誘導のための、治療的および予防的方法における、それらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己免疫疾患の治療および予防のための免疫療法の開発に多くの努力が費やされてきた。その最終的な目標は、抗原特異的寛容の誘導である。病原性の可能性のあるT細胞およびB細胞によって認識される抗原の認識が高まり、知識が蓄積されたことで、近年、この目標はより達成可能に近づいている。理想的には、このような知見により、このような病原性免疫を排除または再制御する抗原特異的治療法の開発が可能になり得る。
【0003】
この開発において特に興味深いのは、これらのペプチドが患者由来の潜在的に病原性T細胞によって認識される、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII分子の特定のアリル遺伝子型に結合するペプチドに関する詳細な知識である。現在、いくつかの学術グループや製薬会社/バイオテクノロジーグループによって開発されている寛容化の手順の1つは、MHCクラスIIペプチド複合体を含む構成物の調製に基づいている。次いで、これらの複合体を適切な担体とともに患者に投与して、抗原特異的寛容を誘導することができる。
【0004】
2012年、国際出願第2012138294号は、異なるタイプのMHCクラスII分子に結合することができるヒトα-エノラーゼ、コラーゲンII型およびビメンチン由来の新規ペプチドを示した。
【0005】
2013年に公表された「関節リウマチの診断および予後のためのシトルリン化ペプチド」と題された出願AU2013204094A1は、ビメンチンポリペプチド内の翻訳後修飾された天然由来9残基ペプチドの模倣体を提示し、アルギニン残基をグルタミンで置換してシトルリン化を模倣した。
【0006】
HarauzおよびMusseら(Harauz, G. and Musse A.A. et al., 2006)は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)の翻訳後修飾を調査し、とりわけ、MBPの脱アミノ化(またはシトルリン化)の程度がMSの重症度と相関していることを発見した。HLAへの結合の可能性やT細胞による認識に関する情報は存在しない。
【0007】
2020年のLancet Rheumatologyにおいて、Nelらは、新たな治療法のレビューを提供している。この文献では、免疫療法が寛解期間の延長や疾患の進行の予防を可能にする可能性があることを示す初期段階の臨床試験の結果について議論し、関節リウマチの寛容を調節することが治療の有望な機会となる可能性を示唆している。
【発明の概要】
【0008】
上記のアプローチは、多くの自己免疫疾患に対して有望であり得るが、本発明者らは、関節リウマチ(RA)に関連し、適切なMHC分子に結合するものとしてこれまでに記載されている唯一のペプチドが、翻訳後修飾されていること、すなわち、シトルリンが、MHC分子への結合に関与するか、またはRA由来のT細胞受容体(TCR)によるペプチド-MHC複合体の認識に関与するアミノ酸として必要であることに気付いた。
【0009】
このような治療用MHCクラスIIペプチド複合体、または翻訳後修飾アミノ酸の合成を必要とするその他の物を製造する際の主要な問題は、これらの物を製造する手順が、初期合成後の翻訳後修飾ステップを必要とすることである。その一例が、結合したMHC分子と、この分子のペプチド結合溝に結合するペプチドの合成である。このペプチド中の重要なアミノ酸が翻訳後修飾されている場合、このような複合体の産生は不可能であり、この特徴は、潜在的な治療用MHCクラスIIペプチド含有構築物の開発にとって大きな障害となる。
【0010】
別の技術的文脈においてであるものの、同様の問題は、寛容化のためにmRNAベースのワクチンを使用する可能性にも関連する。BioNTechの最近の論文 (Krienke et al., 2021) に示されているように、実験的アレルギー性脳脊髄炎モデルにおける寛容化に関連するペプチドをコードするmRNAワクチンでは、当該mRNAワクチン(例えばCOVIDワクチンで使用されるような免疫系を活性化するタグを含まない)も抗原特異的寛容を誘導することができる。この場合、mRNAコードから翻訳後修飾アミノ酸を産生することは不可能であるため、RAの治療のためのmRNAワクチンを作製することは不可能である。
【0011】
しかしながら、本発明者らは、MHCクラスIIの特定の関連アリル遺伝子変異体(HLA-DR0401およびDR0404)の結晶構造、関連するシトルリン化ペプチド、およびこれらのシトルリン化ペプチドがRA患者のT細胞によって認識される場所に関する知識に基づいて、HLA-DR0401および0404のペプチド結合溝に結合し、かつRA患者において活性化されているT細胞由来のT細胞レセプターによって認識される、新規の合成および代替の非シトルリン化ペプチド模倣体を合成することに成功した。
【0012】
本発明者らは、MHCクラスII分子(HLA-DR)のRA関連アリル遺伝子型に結合するペプチドを同定するためのシステムを開発し、RA患者から生じて適切なMHCクラスII-シトルリン化ペプチド複合体を認識するT細胞クローンを使用して、新規ペプチド模倣体(シトルリンを含まないペプチド)が適切なMHCクラスII分子に結合し、かつRA患者由来のT細胞クローンに認識されることが可能であるかを試験した。
【0013】
従って、本開示の第1の態様は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドの合成模倣体に関し、ここで、シトルリンは、ペプチド模倣体を形成する別のアミノ酸で置換されており、ここで、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合する。
【0014】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によっても認識される。
【0015】
一つの実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶法によって決定された結晶構造を有し、この結晶構造は、同じ方法を用いて決定された天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である。好ましくは、前記ペプチド模倣体はまた、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し、より好ましくは、それはまた、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。
【0016】
分子の結晶構造は、当業者に利用可能な方法および装置、最も一般的にはX線回折結晶法を用いて決定することができる。X線回折結晶法は数十年前から実施されていることから、当業者であれば、X線回折結晶法を実施するために利用可能な方法および装置を周知である。例えば、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックによって発見されたDNAの二重らせん構造は、すでにX線結晶構造解析によって明らかにされている。同様に、分子結合は結合アッセイおよび関連する機器を用いて研究し、定量化することができる。競合的結合アッセイは通常、標識リガンドの標的タンパク質への結合を、競合するが未標識である第二のリガンドの存在下で測定する。このようなアッセイは、定性的な結合情報並びに1つの標的に対する2つ以上の分子の相対的な親和性を評価するために用いることができる。
【0017】
上記において、それは好ましくは、置換されている、例えば、シトルリンがグルタミンで置換されているHLA分子のペプチド結合溝におけるポケットに結合するアミノ酸である。グルタミンは、本明細書では、そのフルネーム、3文字のコード(gln)または1文字のコード(Q)のいずれかで呼ばれる。
【0018】
本発明の第1の態様の実施形態によれば、合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、シトルリン化テナシンC、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である。
【0019】
本発明の第1の態様の特定の実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、および74位のシトルリンはグルタミンで置換されている。フィブリノーゲンβ鎖(アミノ酸69~81)の関連配列は、配列番号1として示され、第1の模倣体は、配列番号2によって示される。
【0020】
71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、代替物が配列番号3として示される。
【0021】
本発明の第一の態様の代替的な実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンのグルタミンによる置換に加えて、71位のチロシンがフェニルアラニンによって置換されている。これは、配列番号4によって示されている。
【0022】
本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、関連部分であるビメンチンペプチドのT細胞エピトープ、アミノ酸66~78は配列番号5に示される。3つの合成ペプチド模倣体は本発明に従って産生された:
【0023】
一実施形態によれば、配列番号6に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0024】
あるいは、配列番号7に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および68位のバリンはフェニルアラニンで置換されている。本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、配列番号8に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンで置換され、並びに68位のバリンはフェニルアラニンで置換される。
【0025】
テナシン-Cは、6つのモノマーからなるオリゴマーのマルチドメインマトリックス糖タンパク質である。これらのテナシンCモノマーのサイズは、プレmRNAレベルでのフィブロネクチンリピートの代替スプライシングの結果、180~250-300 kDaの間で変化する。テナシンCは近年、関節リウマチにおける抗体の標的として関係づけられている。2021年、Songらによって5つの新規シトルリン化テナシンC T細胞エピトープが同定された。2つのエピトープ、アミノ酸871~885(配列番号9)およびアミノ酸2067~2081(配列番号10)が本明細書に示されている。
【0026】
本発明の第1の態様の具体的な実施形態によれば、配列番号11に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および877位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0027】
本発明の第1の態様の別の特定の実施形態によれば、配列番号12に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および2073位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0028】
第1の態様の実施形態およびその任意の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、合成ペプチドは、天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性でヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0029】
この結合は、当該技術分野で公知の方法、例えば、ユーロピウム標識ストレプトアビジン(PerkinElmer社製)を用いるDELFIA(登録商標)時間分解蛍光アッセイで開発された結合ペプチド-HLA複合体を調べることにより、蛍光偏光ベースの競合アッセイによって確認することができる。この方法の説明については、Pieper et al., J Autoimmunity、2018(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0030】
さらに、T細胞によって認識されるためのペプチドの能力は、機能的T細胞リードアウト、すなわち、元のペプチドに反応するT細胞が合成模倣ペプチドにも反応することによって確認される。当該方法の説明については、本特許出願の実施例セクション、および科学文献、例えばBoddul et al., J Trans Autoimm、2021(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0031】
上記に提示された新規合成ペプチド模倣体は、被験体における寛容の誘導のための方法、好ましくは、寛容の誘導が、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチだがこれに限定されない)の治療、緩和、または予防のステップである方法において有用であることが期待される。
【0032】
本開示の第2の態様は、担体およびペプチドの複合体に関し、ここで、前記ペプチドは、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドの合成模倣体であり、ここで、前記ペプチド模倣体において、天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換されてペプチド模倣体を形成し、そして前記ペプチド模倣体が、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合する。
【0033】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。
【0034】
担体は、ナノ粒子、タンパク質、血球、およびMHCクラスII分子から選択される。ペプチド模倣ペプチド/ペプチド模倣体は、単独または他の分子、好ましくはMHCクラスII分子またはMHCクラスII分子を含む複合体との複合体のいずれかで担体に結合させることができる。MHCクラスII分子は、細胞内タンパク質に由来するペプチドを結合して細胞表面に表示し、MHCクラスIIペプチド複合体を形成することができる。MHCクラスIIペプチド複合体の構造および機能は、広範に研究されている(例えば、Dessen et al., 1997を参照されたい)。
【0035】
上記のMHCクラスII-ペプチド複合体において、好ましくは、シトルリンはグルタミン(Q)で置換されている。
【0036】
前記第2の態様の実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶法によって決定された結晶構造を有し、この結晶構造は、同じ方法を用いて決定された天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である;ここで、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し、そして翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。
【0037】
分子の結晶構造は、当業者に利用可能な方法および装置、最も一般的にはX線回折結晶法によって決定することができる。同様に、分子結合は、結合アッセイおよび関連機器を用いて試験され、定量され得る。競合的結合アッセイは通常、標識リガンドの標的タンパク質への結合を、競合するが未標識である第二のリガンドの存在下で測定する。このようなアッセイは、定性的な結合情報並びに1つの標的に対する2つ以上の分子の相対的な親和性を評価するために用いることができる。
【0038】
本発明の第2の態様の実施形態によれば、合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化テナシンC、シトルリン化コラーゲンタイプII、軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である。
【0039】
本発明の第2の態様の特定の実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、および74位のシトルリンはグルタミンで置換されている。フィブリノーゲンβ鎖(アミノ酸69~81)の関連配列は配列番号1として示され、第1の模倣体は配列番号2によって示される。
【0040】
71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、代替物が配列番号3として示される。
【0041】
本発明の第2の態様の代替的な実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンのグルタミンによる置換に加えて、71位のチロシンがフェニルアラニンによって置換されている。これは、配列番号4によって示されている。
【0042】
本発明の第2の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、関連部分であるビメンチンペプチドのT細胞エピトープ、アミノ酸66~78は配列番号5に示される。3つの合成ペプチド模倣体は本発明に従って産生された:
【0043】
一実施形態によれば、配列番号6に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0044】
あるいは、配列番号7に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および68位のバリンはフェニルアラニンで置換されている。本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、配列番号8に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンで置換され、並びに68位のバリンはフェニルアラニンで置換される。
【0045】
本発明の第2の態様の具体的な実施形態によれば、配列番号11に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および877位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0046】
本発明の第2の態様の別の特定の実施形態によれば、配列番号12に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および2073位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0047】
第2の態様の実施形態およびその任意の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、合成ペプチドは、天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性でヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0048】
この結合は、当該技術分野で公知の方法、例えば、ユーロピウム標識ストレプトアビジン(PerkinElmer社製)を用いるDELFIA(登録商標)時間分解蛍光アッセイで開発された結合ペプチド-HLA複合体を調べることにより、蛍光偏光ベースの競合アッセイによって確認することができる。この方法の説明については、Pieper et al., J Autoimmunity、2018(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0049】
さらに、T細胞によって認識されるためのペプチドの能力は、機能的T細胞リードアウト、すなわち、元のペプチドに反応するT細胞が合成模倣ペプチドにも反応することによって確認される。当該方法の説明については、本特許出願の実施例セクション、および科学文献、例えばBoddul et al., J Trans Autoimm、2021(前掲)を参照されたい。
【0050】
本発明の第3の態様は、被験体における特定の抗原に対する寛容を誘導する方法に関し、前記方法は、担体-ペプチド複合体を含む構築物を前記被験体に投与する工程を含み、前記担体-ペプチド複合体に組み込まれるペプチドは、上記および添付の特許請求の範囲に提示される第1の態様およびその実施形態で定義される合成ペプチド模倣体である。
【0051】
並行する態様は、被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であって、前記方法は、上記および添付の特許請求の範囲に提示された、第2の態様およびその実施形態で定義されるような、MHCクラスII-ペプチド複合体を含む構築物を前記被験体に投与する工程を含む、方法である。
【0052】
好ましくは、この寛容の誘導は、自己免疫疾患の治療、緩和、または予防におけるステップである。寛容の誘導、特に自己寛容の誘導、すなわち免疫系が自己産生抗原を認識する能力(したがって自己産生抗原に対して反応しない能力)を誘導するためのレジメンが最近開発されている。寛容誘導のためのいくつかのシステムが科学文献に記載されているが、これまでのところ、主にマウスモデルにおいてであり、これらは現在ヒトの疾患に応用されている。例えば、Yang Y et al., Adv. Drug Deliv. Rev. 2021; Yang Y et al., Curr Opin Biotechnol, 2022 and Neef T et al., Cells, 2021を参照されたい(すべて参照により本明細書に組み込まれる)。しかしながら、RAについては、1つ以上のシトルリン残基を含む場合に正確なペプチドを産生する方法がないため、これらのアプローチのいくつかは実行不可能である。
【0053】
好ましい実施形態によれば、前記自己免疫疾患は、関節リウマチ(RA)またはRAの将来の発症リスクの増大を与える自己免疫状態であり、前記抗原はペプチド抗原であり、非翻訳後修飾ペプチド模倣体は、HLA-DRB1*04:01および04:04のペプチド結合溝に結合し、RA患者において活性化されるT細胞に由来する、RA患者由来のT細胞受容体によって認識される。
【0054】
一実施形態によれば、前記抗原は、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化II型コラーゲン、シトルリン化テナシンC、シトルリン化CILPおよびシトルリン化α-エノラーゼから選択される。
【0055】
本発明の第4の態様は、被験体における特定の抗原に対する寛容を誘導するための寛容原性mRNAワクチンに関し、当該寛容原性mRNAワクチンは、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体をコードする修飾された非炎症性mRNAを含む。当該寛容原性mRNAワクチンは、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ(RA)だがこれに限定されない)の発症の治療、緩和、または予防に使用され得る。
【0056】
mRNAワクチンに関する一般的な導入は、「mRNA vaccines manufacturing: challenges and bottlenecks” by Rosa et al., Vaccine 39 (2021) 2190-2200」(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。mRNAはシトルリン化残基をコードすることができないため、寛容のためのmRNAワクチン接種のためのこれらの技術は、RAの病因に関与するT細胞に関する現在の知識では、RAに対して実行不可能である。本明細書において、本発明は、RAにおける寛容のためのmRNAワクチン接種を初めて実現可能にする重要で新たな知見を提供する。
【0057】
第4の態様の実施形態によれば、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合する非-シトルリン化ペプチドである。
【0058】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞により認識される。
【0059】
好ましくは、ワクチンは、関節リウマチの治療、緩和または予防のために投与される。
【0060】
一実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し、例えば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶法によって決定される結晶構造を有する、好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然由来ペプチドと同程度にT細胞に認識される。
【0061】
上記と自由に組み合わせ可能なさらなる実施形態によれば、シトルリンは、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝への結合が維持された別のアミノ酸で置換されている。好ましくは、シトルリンはグルタミン(Q)で置換されている。
【0062】
好ましい実施形態によれば、前記合成抗原は、ヒト白血球抗原(HLA)クラスII分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0063】
第4の態様の特定の実施形態によれば、前記合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化テナシンC、シトルリン化CILPおよびシトルリン化α-エノラーゼから選択される抗原の模倣体である。
【0064】
本発明の第4の態様の特定の実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンはグルタミンで置換されている。フィブリノーゲンβ鎖(アミノ酸69~81)の関連配列は、配列番号1として示され、第1の模倣体は、配列番号2によって示される。
【0065】
71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、代替物が配列番号3として示される。
【0066】
本発明の第4の態様の代替的な実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換されていることに加えて、71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている。これは配列番号4によって示されている。
【0067】
本発明の第4の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、関連部分であるビメンチンペプチドのT細胞エピトープ、アミノ酸66~78は配列番号5に示される。3つの合成ペプチド模倣体は本発明に従って産生された:
【0068】
一実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンは、配列番号6に示されるように、グルタミンで置換されている。
【0069】
あるいは、配列番号7に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および68位のバリンは、フェニルアラニンで置換されている。本発明の第1の態様のさらに別の実施形態によれば、配列番号8に示されるように、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンで置換され、並びに68位のバリンはフェニルアラニンで置換される。
【0070】
本発明の第4の態様の特定の実施形態によれば、配列番号11に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および877位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0071】
本発明の第4の態様の別の特定の実施形態によれば、配列番号12に示されるように、ペプチドはテナシンCであり、および2073位のシトルリンはグルタミンで置換されている。
【0072】
当該ワクチンは、自己免疫疾患(例えば、関節リウマチだがこれに限定されない)の治療、緩和および/または予防において有用である。
【0073】
前述の要約は例示に過ぎず、いかなる方法でも限定することを意図するものではない。上述した例示的な態様、実施形態及び特徴に加えて、更なる態様、実施形態及び特徴は、以下の図面、詳細な説明、及び実施例を参照することによって明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
本発明は、例示として、添付の図面を参照して、ここで説明される:
【0075】
【
図1】
図1は、シトルリン化ペプチドが、RAに関連する最も一般的なMHCクラスII分子であるHLA DRB1*04:01のペプチド結合溝にどのようにドッキングするかの概念的イメージを示す。シトルリンがMHC溝のP4ポケットにドッキングし、それゆえ特定のT細胞受容体(TCR)に向けて露出していないことに注目されたい。元のイメージは、Malmstrom et al., Nat Rev Immunol 2017 に掲載されている。
【
図2】
図2は、実施例1で概説した方法に従って行われた、競合アッセイと呼ばれるペプチド結合アッセイの結果を示すグラフである。試験されたフィブリノーゲン模倣ペプチドは、元のシトルリン化ペプチドと同様の、すでに結合している参照ペプチド(ここではインフルエンザ(HA)ペプチド)に競合する能力を有していることが明らかである。
【
図3】
図3は、シトルリン化フィブリノーゲンペプチドに特異的なTCRを発現する人工T細胞株の活性化を示すグラフであり、FibF71Q74(配列番号4)、FibF71X74(配列番号3)、 FibQ74(配列番号2)、FibX74(配列番号1)、およびVimX71(配列番号5)の光蛍光イメージング(OFI)によるT細胞受容体(TCR)依存性活性化T細胞核因子(NFAT)を介した活性化T細胞を左から右に示しており、模倣ペプチドが元のシトルリン化ペプチドと同様にT細胞活性化を誘発する能力があることを示している。
【
図4】
図4は、シトルリン化フィブリノーゲンペプチドに特異的なTCRを発現する人工T細胞株の活性化を示すグラフであり、FibF71Q74(配列番号4)、FibF71X74(配列番号3)、FibQ74(配列番号2)、FibX74(配列番号1)、およびVimX71(配列番号5)に対するT細胞受容体(TCR)依存性プログラム細胞死タンパク質1(PD1)発現を左から右に示しており、模倣ペプチドが元のシトルリン化ペプチドと同様にT細胞活性化を誘発する能力があることを示している。
【
図5】
図5は、非翻訳後修飾模倣ペプチドと比較した、シトルリン化ビメンチンペプチドの競合アッセイとも呼ばれるペプチド結合アッセイの結果を示すグラフである。試験したビメンチン模倣体ペプチドは、元のシトルリン化ペプチドと同様の、すでに結合している参照ペプチド(ここではインフルエンザ(HA)ペプチド)に競合する能力を有していることが明らかである。
【
図6】
図6は、ポリクローナルCD4+ T細胞を、それらのTCRに結合することにより抗原特異的T細胞を捕捉するHLAクラスII四量体でフローサイトメトリー染色した結果を示している。ここで、第2象限(太字)は、ビメンチンのシトルリンとグルタミン四量体の両方に反応するT細胞を示しており、この培養物には元のペプチドと模倣ペプチドを区別できないT細胞が存在することが示唆されている。
【発明を実施するための形態】
【0076】
本発明を説明する前に、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0077】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含むことが留意されなければならない。
【0078】
ペプチド配列に言及する場合、アミノ酸は番号付けされており、当該番号は、アミノ末端から数えたときのポリペプチド鎖におけるアミノ酸残基の位置を示す。したがって、例えばGlu74は、鎖の74番目のアミノ酸残基がグルタミンであることを意味する。
【0079】
「ペプチド模倣体」という用語は、ペプチド、修飾ペプチド、またはいくつかの他のペプチドの作用または活性を生物学的に模倣する任意の他の分子などの分子を指す。「ペプチド模倣体」は、「ペプチド擬態(peptide mimetic)」と呼ばれることもある。
【0080】
「合成」という用語は、ペプチド模倣体などの修飾された非天然に存在する分子を、天然に存在する分子と区別するために使用される。
【0081】
「翻訳後修飾」および「翻訳後修飾された」という表現は、ペプチドおよびタンパク質が翻訳後に受け得る可逆的または不可逆的な化学変化を指す。言い換えれば、翻訳後修飾は、DNAがRNAに転写され、ペプチドやタンパク質に翻訳された後に起こるポリペプチド鎖の化学修飾である。これらの化学変化は、ペプチド結合の酵素的切断から、特定の化学基、脂質、炭水化物、さらにはアミノ酸側鎖へのタンパク質全体の共有結合付加にまで及ぶ(Uversky V.N., Posttranslational Modification, in Brenner's Encyclopaedia of Genetics (Second Edition) Elsevier Inc. 2013, pages 425-430, 参照により本明細書に援用される)。
【0082】
「実質的に同一」、例えば「対応する翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと実質的に同一の三次元構造を有する合成非翻訳後修飾ペプチド模倣体」のような表現は、前記ペプチド模倣体が機能的に同一である三次元構造を有することを意味する、このことは、前記ペプチド模倣体がヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に、対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に結合するという事実によって示される。
【0083】
本開示は、HLAクラスII分子の「ペプチド結合溝」に頻繁に言及する。クラスIおよびクラスIIのHLA分子のペプチド結合溝は、チャネルを形成する2つの逆平行αヘリックスに対して充填された8枚の逆平行βシートからなるβシートフロアによって形成されることが知られている。クラスI分子(HLA-A、-B、および-C)では、結合溝は6つのポケット(A-F)に分割され、それらはそれらのトポグラフィーと機能を決定する特定の多形アミノ酸残基によって定義される。これらのクラスI HLA分子は、典型的には、長さ8~11個のアミノ酸のペプチドに結合する。クラスIと比較して、クラスIIのHLA-DRB1分子は、可変長のより長いペプチド、例えば12~15アミノ酸に結合する。最も多形なHLA-DRB1要素は、ペプチドポジション1(P1)、P4、P6、P7およびP9を収容する構造ポケットである。
【0084】
図1は、シトルリン化ペプチドが、白人においてRAに関与する最も一般的なMHCクラスII分子であるHLA DRB1*04:01のペプチド結合溝にどのようにドッキングするかの概念的イメージを示す。同様の溝はアジア人の個体群にも存在し、DRB1*04:05 MHCクラスII変異体に関与している。元のイメージは、Malmstrom et al., Nat Rev Immunol 2017 に掲載されている。
【0085】
シトルリンがMHC溝のP4ポケットにドッキングし、それゆえ特定のT細胞受容体(TCR)に向けて露出していないことに注目されたい。したがって、本明細書、実施例、および特許請求の範囲で定義されるように、機能的に同一であるペプチド模倣体は、対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し得る。
【0086】
― 合成ペプチド模倣体 ―
【0087】
したがって、本開示の第1の態様は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドの合成模倣体に関するものであり、シトルリンは、ペプチド模倣体を形成する別のアミノ酸で置換されており、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合する。
【0088】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。
【0089】
一実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶構造解析によって決定された結晶構造を有し、その構造は、同じ方法を使用して決定された天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である。好ましくは、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝にも結合し、最も好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によっても認識される。
【0090】
本発明の第1の態様の実施形態によれば、合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンII型、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である。
【0091】
上記において、好ましくは、シトルリンがグルタミン(Q)で置換されている。
【0092】
そのシトルリン化形態のフィブリノーゲンは、RAにおける古典的な自己抗原候補であり、質量分析によって、RA患者の関節においてその存在が実証されている(Hermansson et al., 2010)。また、シトルリン化形態のフィブリノーゲンは、ACPA自己抗体と免疫複合体を形成し、マクロファージなどの細胞活性化につながる可能性も示唆されている。
【0093】
シトルリン化フィブリノーゲンのベータ鎖由来のT細胞エピトープが同定されており(アミノ酸69~81位)、健常ドナーおよびRA患者における自己反応性T細胞の検出、列挙および表現型決定に広く用いられている(例えば、James et al. Arthritis Rheum 2014, Gerstner et al. BMC Immunol 2020)。HLA-DRB1*04:01分子によって提示されるペプチドの結晶構造は、解かれており(Lim et al. Sci Immunol 2021, 参照により本明細書に援用される)、シトルリンが当初予測されたようにP4ポケット内に配置されていることを実証している。
【0094】
フィブリノーゲンベータ鎖、アミノ酸69~81の元の配列は、配列番号1として示されており、Xはシトルリンを示し、P1(71)およびP4(74)の位置には下線が引かれている:
GGYRAXPAKAAAT (配列番号1)。
【0095】
本発明者らは、配列番号2、3および4として以下に示す3つの修飾バージョンを合成した:
GGYRAQPAKAAAT - (配列番号2) 74位のグルタミン。
GGFRAXPAKAAAT - (配列番号3) 71位のフェニルアラニン、および74位のシトルリン。
GGFRAQPAKAAAT - (配列番号4) 71位のフェニルアラニン、および74位のグルタミン。
【0096】
従って、本発明の第1の態様の特定の実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンはグルタミンによって置換される。
【0097】
本発明の第1の態様の代替的実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンはグルタミンによって置換され、71位のチロシンはフェニルアラニンによって置換される。
【0098】
シトルリン化形態のビメンチンは、関節リウマチにおける古典的な自己抗原候補であり、質量分析により関節リウマチ患者の関節および肺の両方で、その存在が実証されている(Ytterberg et al., Ann Rheum Dis. 2015 Sep;74(9):1772-7)。シトルリン化ビメンチンは、骨吸収破骨細胞に分化する細胞の細胞表面に現れることが示唆されている(Harre et al., Nat Commun. 2015 Mar 31;6:6651)。
【0099】
さらに、いくつかのACPA自己抗体は、破骨細胞の分化を増強し、それらの骨吸収能力を増強する能力を有することが示されている(Steen et al., Arthritis Rheumatol. 2019 Feb;71(2):196-209; Krishnamurthy A et al., Citrullination Controls Dendritic Cell Transdifferentiation into Osteoclasts, in .J Immunol. 2019 Jun 1;202(11):3143-3150; および Krishnamurthy A et al., Identification of a novel chemokine-dependent molecular mechanism underlying rheumatoid arthritis-associated autoantibody-mediated bone loss, Ann Rheum Dis. 2016 Apr;75(4):721-9. doi: 10.1136,)。
【0100】
シトルリン化ビメンチン由来のT細胞エピトープが同定され(アミノ酸位置66~78)、健常ドナーおよびRA患者における自己反応性T細胞の検出、列挙、および表現型決定に広く用いられている(例えば、Snir et al., Arthritis Rheum 2011, James et al., Arthritis Rheum 2014, and Gerstner et al., BMC Immunol 2020を参照されたい)。HLA-DRB1*04:01分子によって提示されたペプチドの結晶構造は、解かれており(Scally et al., J Exp Med 2013)、シトルリンが当初の予測どおりにP4ポケットに配置されていることが実証される。
【0101】
その結果として、本発明者らは、ビメンチンについても調査し、ビメンチンのアミノ酸66~78の元の配列を、配列番号5として示した。ここで、Xはシトルリンを示し、P1およびP4の位置に下線が引かれている:
SAVRLXSSVPGVR - (配列番号5)
【0102】
3つの修飾バージョンが合成され、配列番号6、7および8として示される:
SAVRLQSSVPGVR - (配列番号6) 71位のグルタミン
SAFRLXSSVPGVR - (配列番号7) 68位のフェニルアラニン、および71位のシトルリン。
SAFRLQSSVPGVR - (配列番号8) 68位のフェニルアラニン、および71位のグルタミン。
【0103】
従って、本発明の第1の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、71位のシトルリンはグルタミンによって置換される。
【0104】
代替の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、71位のシトルリンはグルタミンによって置換され、68位のバリンはフェニルアラニンによって置換される。
【0105】
シトルリン化形態のテナシンCは、RAにおける自己抗原の候補であり、質量分析によって、RA患者の関節においてその存在が実証されている(Tutturen et al., 2014)。また、シトルリン化形態のテナシンCは、ACPA自己抗体と免疫複合体を形成し、マクロファージなどの細胞活性化につながる可能性も示唆されている。
【0106】
シトルリン化テナシンC由来のいくつかのT細胞エピトープが同定され、健常ドナーおよびRA患者における自己反応性T細胞の検出、計数、および表現型決定のために広く用いられている(例えば、Song et al., JCI Insights 2021およびSharma et al., Sci. Rep 2021)。2つのペプチドについて、シトルリンはP4ポケットに配置されるようにモデル化されている(Song et al., JCI Insights 2021)。
【0107】
テナシンC、アミノ酸871~885およびアミノ酸2067~2081の元の配列は、配列番号9および配列番号10として示され、ここで、Xはシトルリンを示し、P1(71)およびP4(74)の位置には下線が引かれている:
VSLISRXGDMSSNPA (配列番号9) 877位のシトルリン。
QGQYELXVDLRDHGE (配列番号10) 2073位のシトルリン。
【0108】
2つの修飾バージョンが合成され、配列番号11および12として示された:
VSLISRQGDMSSNPA - (配列番号11) 現在、877位にはグルタミンが位置する。
QGQYELQVDLRDHGE - (配列番号12) 現在、2073位にはグルタミンが位置する。
【0109】
第1の態様の実施形態によれば、かつ、その任意の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、本発明に係る合成ペプチドは、対応する天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性で、ヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0110】
この結合は、当該技術分野で公知の方法、例えば、ユーロピウム標識ストレプトアビジン(PerkinElmer社製)を用いるDELFIA(登録商標)時間分解蛍光アッセイで開発された結合ペプチド-HLA複合体を調べることにより、蛍光偏光ベースの競合アッセイによって確認することができる。この方法の説明については、Pieper et al., J Autoimmunity、2018(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0111】
さらに、T細胞によって認識されるペプチドの能力は、機能的T細胞リードアウト、すなわち元のペプチドに反応するT細胞が合成模倣ペプチドにも反応することによって確認される。方法の説明については、この特許出願の実施例セクション、および参照により本明細書に援用される科学文献、例えばBoddul et al., 2021(前掲)を参照されたい。
【0112】
上記で定義されたペプチド模倣体は、対象における寛容の誘導のための方法において有用であり、好ましくは、寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和、または予防のステップである方法、例えば、非限定的に、RAの治療、緩和、または予防のステップである方法において有用である。
【0113】
― ペプチド+担体複合体 ―
【0114】
本開示の第2の態様は、担体およびペプチドの複合体であって、前記ペプチドが、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドの合成模倣体であり、前記ペプチド模倣体において、対応する天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換され、前記ペプチド模倣体を形成し、そして前記ペプチド模倣体が、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合することができる。
【0115】
第2の態様の実施形態によれば、かつ、その任意の実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、合成ペプチドは、天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性で、ヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0116】
この結合は、当該技術分野で公知の方法、例えば、ユーロピウム標識ストレプトアビジン(PerkinElmer社製)を用いるDELFIA(登録商標)時間分解蛍光アッセイで開発された結合ペプチド-HLA複合体を調べることにより、蛍光偏光ベースの競合アッセイによって確認することができる。この方法の説明については、Pieper et al., J Autoimmunity、2018(参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0117】
さらに、T細胞によって認識されるペプチドの能力は、機能的T細胞リードアウト、すなわち元のペプチドに反応するT細胞が合成模倣ペプチドにも反応することによって確認される。方法の説明については、この特許出願の実施例セクション、および参照により本明細書に援用される科学文献、例えばBoddul et al., 2021(前掲)を参照されたい。
【0118】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。
【0119】
前記第2の態様の実施形態によれば、前記担体は、ナノ粒子、タンパク質、血球、およびMHCクラスII分子から選択される。ナノ粒子の例としては、酸化鉄ナノ粒子、ラテックスナノ粒子、金ナノ粒子、シリカナノ粒子、カーボンナノチューブなどが、非限定的に挙げられる。
【0120】
担体は、ペプチド模倣体のみと結合するようにも、ペプチドを含む分子構築物(たとえばMHCクラスII分子に結合するペプチドを含む複合体など)と結合するようにも構築できる。MHCクラスIIペプチド複合体が含まれる場合、細胞内タンパク質に由来するペプチドと結合し、細胞表面でそれらをディスプレイし、MHCクラスIIペプチド複合体を形成することができるはずである。MHCクラスIIペプチド複合体の構造と機能は、広く研究されている(例えばDessenet et al., 1997を参照のこと)。
【0121】
前記第2の態様の実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶法によって決定された結晶構造を有し、この結晶構造は、同じ方法を用いて決定された天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である;そして、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し;そして、前記合成ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞に認識される。
【0122】
例えば、HLAクラスII分子に結合/提示されるシトルリン化フィブリノーゲンの結晶構造が公表されている(Lim et al., Sci Immunol 2021(前掲)を参照されたい)。
【0123】
上記のMHCクラスII-ペプチド複合体において、好ましくは、シトルリンがグルタミン(Q)で置換されている。
【0124】
本発明の第2の態様の実施形態によれば、合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンII型、シトルリン化テナシンC、シトルリン化CILP、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である。
【0125】
本発明の第2の態様の実施形態によれば、ペプチドがフィブリノーゲンであり、および74位のシトルリンがグルタミンによって置換されている。
【0126】
本発明の第2の態様の代替実施形態によれば、ペプチドはフィブリノーゲンであり、および74位のシトルリンはグルタミンによって置換され、並びに71位のチロシンはフェニルアラニンによって置換される。
【0127】
本発明の第2の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンによって置換されている。
【0128】
或いは、ペプチドはビメンチンであり、および71位のシトルリンはグルタミンによって置換され、並びに68位のバリンはフェニルアラニンによって置換される。
【0129】
本発明の第2の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはテナシンCであり、および877位のシトルリンはグルタミンによって置換されている。
【0130】
本発明の第2の態様の別の実施形態によれば、ペプチドはテナシンCであり、および2073位のシトルリンはグルタミンによって置換されている。
【0131】
本明細書で定義される複合体は、対象における寛容の誘導のための方法において有用であり、好ましくは、寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和、または予防のステップである方法、例えば、非限定的に、RAの治療、緩和、または予防のステップである方法において有用である。
【0132】
― 寛容の誘導 ―
【0133】
本発明の第3の態様は、対象における特定の抗原に対する寛容を誘導する方法に関し、前記方法は、上記で開示された担体-ペプチド複合体を含む構築物を前記対象に投与するステップを含み、当該ペプチドは、上記および添付の特許請求の範囲に提示される、第1の態様およびその実施形態で定義される合成ペプチド模倣体である。
【0134】
並行する態様としては、対象における特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であり、前記方法は、上記および添付の特許請求の範囲に提示される、第2の態様およびその実施形態において定義される少なくとも1つのMHCクラスII-ペプチド複合体を含む構築物を、前記対象に投与するステップを含む。
【0135】
好ましくは、この寛容の誘導は、自己免疫疾患の治療、緩和または予防のステップである。
【0136】
好ましい実施形態によれば、前記自己免疫疾患は関節リウマチ(RA)であり、前記抗原はペプチド抗原であり、非翻訳後修飾ペプチド模倣体は、HLA-DR0401および0404のペプチド結合溝に結合し、RA患者において活性化されるT細胞に由来するRA患者由来のT細胞受容体によって認識される。
【0137】
一実施形態によれば、前記抗原は、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンII型、シトルリン化テナシンC、シトルリン化CILPおよびシトルリン化α-エノラーゼから選択される。
【0138】
― 寛容原性ワクチン ―
【0139】
本発明の第4の態様は、対象における特定の抗原に対する寛容を誘導するための寛容原性mRNAワクチンに関するものであり、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体をコードする、修飾された非炎症性mRNAを含む。
【0140】
第4の態様の実施形態によれば、抗原の前記非翻訳後修飾模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合できる非シトルリン化ペプチドである。
【0141】
好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によっても認識される。
【0142】
一実施形態によれば、前記ペプチド模倣体は、例えばX線回折結晶構造解析によって決定された結晶構造を有し、その構造は、同じ方法を使用して決定された天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である。好ましくは、前記ペプチド模倣体は、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合し、好ましくは、前記合成ペプチド模倣体は、翻訳後修飾された天然に存在するペプチドと同程度にT細胞によって認識される。ペプチド-HLA分子の結晶構造を決定する方法の一例は、Lim et al.,Sci Immunol 2021に与えられ、参照により本明細書に援用される。
【0143】
さらなる実施形態、上記と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、シトルリンは、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝への結合が維持された別のアミノ酸で置換されている。
【0144】
好ましい実施形態によれば、前記合成抗原は、ヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する。
【0145】
第4の態様の実施形態によれば、合成抗原中のシトルリンは、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝への結合が維持された別のアミノ酸によって置換されている。好ましくは、シトルリンはグルタミン(Q)で置換されている。
【0146】
第4の態様の特定の実施形態によれば、合成ペプチドは、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンII型、シトルリン化テナシンC、CILPおよびシトルリン化エノラーゼから選択される抗原の模倣体である。
【0147】
前記第4の態様の実施形態、前記第4の態様の他のすべての実施形態と自由に組み合わせ可能な実施形態によれば、前記修飾された非炎症性mRNAは、ナノ粒子配合された1-メチルシュードウリジン修飾mRNAである。
【0148】
本明細書に開示された発明により、新規mRNAワクチンの設計が可能になる。例えば、mRNAワクチンは、それを必要とする被験体にmRNAを投与した場合に、既存の免疫応答を有する被験体において、非免疫原性および寛容原性の様式で、ペプチド模倣ペプチド/ペプチド模倣体の産生を媒介できるように設計することができる。前記応答は、ペプチド模倣物が代替物であるシトルリン化ペプチドに対する既知の方法、例えばT細胞またはB細胞アッセイ、あるいはその両方を用いて測定することができる。mIG誘導EAEモデルのような他の実験で示されたことと同様に(Krienke C. et al., Science 2021, 参照により本明細書に援用)、上記のペプチド模倣体をコードするmRNAワクチンは、「バイスタンダー効果(バイスタンダー抑制)」により、ペプチド模倣体ペプチドの生成のベースとなったシトルリン化ペプチドに対する免疫と同じ臓器を標的とする、および/または同じ疾患に作用する他の特異的免疫に対しても抑制機能を発揮し得る。
【0149】
本発明者らは、本明細書に提示される修飾ペプチドの配列をチェックして、それらが他のヒトタンパク質に生じるかどうかを決定したが、これまでのところ当該調査では、それらが生じないことが示されている。本発明者らは、RAの病因に関与するシトルリン化ペプチドの機能と構造を模倣する、これまで知られていなかった、天然に存在しない非翻訳後ペプチドを利用できるようにした。これにより、自己免疫疾患、特にRAの治療と予防のための新しい免疫療法方法の開発に新たな可能性が開かれる。
【0150】
以下の複数の実施例において、本発明者らは、本発明の態様および実施形態をサポートする実験的証拠を提示する。
【実施例】
【0151】
実施例1.非翻訳後修飾フィブリノーゲン模倣体
【0152】
本発明者らは、修飾ペプチドが実際に、関連するHLA分子および本出願のペプチドの両方を機能的にT細胞受容体(TCR)に結合できることを立証するために、結合アッセイを実施した。HLAの結合は競合アッセイで実証され、その結果、すでに結合している参照ペプチド(この場合はインフルエンザ(HA)ペプチド)と競合して、元のシトルリン化ペプチドと同等の能力を模倣ペプチドが持つことが示された(
図2を参照されたい)。結果は曲線またはKd値として提示することもでき、P1およびP4の位置でのアミノ酸交換が、T細胞に提示される可能性を変化させないことを実証する。
【0153】
本発明者らは、抗原特異性およびT細胞活性化の研究のために、TCR欠損T細胞株(58-/-)へのTCR再発現のデータを以前に作成しており(Boddul et al., 2021, 前掲)、今回、cit-fib特異的TCRを同じ系に再発現させた。
【0154】
現在、本発明者らは、シトルリン化フィブリノーゲンペプチドに特異的なTCRは、人工T細胞株が両方の活性化細胞核因子(NFAT)シグナルに等しく反応するため、同族ペプチドと模倣ペプチドを区別できないことを実証した(
図3を参照されたい)。同様に、プログラム死-1(PD-1)発現に関して、ペプチド模倣体を比較した(
図4を参照されたい)。
【0155】
材料および方法
【0156】
アメトリン発現ベクターにcit-fib特異的TCRを発現させ、ヒトCD4とNFAT発現のレポーターとしてGFPを共発現させた58-/-細胞株。
【0157】
HLA-DRB1*04:01単量体タンパク質(500μg/mL)を、n-オクチルβ-D-グルコピラノシド(Sigma-Aldrich、米国)およびPefabloc SC(Sigma-Aldrich、米国)を含むリン酸ナトリウム緩衝液(1X)中で、異なるバージョンのfib69-81ペプチド(試験)およびVimX71ペプチド(対照)とともに37 ℃で72時間インキュベートし、次いで使用するまで4 ℃で保存した。その後、ロードしたHLAモノマーを48ウェルプレートに100μlのPBSで37 ℃で4時間コーティングした(0.03-2μg/ウェル)。続いて、HLA/ペプチド溶液をプレートからフリックし、特異的T細胞(5x104)および抗CD28(1μg/ウェル)をモノマーコーティングウェルに添加し、細胞を回収する前に37 ℃で48時間インキュベートした。
【0158】
陽性対照として、抗マウス抗CD3(BioLegend #100314)、抗CD28(BioLegend #101112)を用いた。
【0159】
58--/-細胞上のPD1発現は、抗マウスPD-1 PE-Cy7抗体を用いて評価され、一方、NFAT活性化は、細胞刺激後のGFP発現の評価を用いて研究された。ヒトCD4+アメトリン+生存可能なシングレットを集団として使用し、NFATおよびPD1の発現を確認した。
【0160】
競合的結合アッセイ、例えば、元のシトルリン化ペプチドと比較した、模倣ペプチドのHLA-DRB1*04:01に結合する能力を実証するために用いられた。装置は、以下の表に示す設定を使用した PerkinElmer 1420 Multilabel Counter VICTOR3 (商標) V を使用した:
【表1】
【0161】
図2中の線は、SigmaPlotソフトウェアv.13(Systat Software, Inc., San Jose, California, USA)を用いた1サイト競合モデルへの実験データのフィッティングを表している。
【0162】
ペプチドの濃度を増加し、30nMのHLA-DRB1*04:01および5nMのビオチン標識HA306-318ペプチドの存在下で、384ウェルポリプロピレンプレート中で、加湿インキュベーター内で、37℃で一晩インキュベートした。反応混合物を抗HLA-DRモノクローナル抗体L243でコーティングしたポリスチレンプレートに移し、+4℃で一晩インキュベートした。結合ペプチド-HLA複合体を、ユーロピウム標識ストレプトアビジンを用いたDELFIA(登録商標)時間分解蛍光アッセイで開発した(PerkinElmer)。
【0163】
結果は、T細胞株は、HLA-DRB1*04:01上に提示されたとき、シトルリン含有ペプチドのペプチド提示をグルタミン含有(人工)ペプチドと区別できないことを示している。これらの細胞は、NFATシグナル伝達とPD1のアップレギュレーションによっても同様に良好に応答した。
【0164】
ペプチド-HLA複合体の安定性をさらに高めるために、本発明者らは、P1ポケット内のアミノ酸(TCRに曝露されない)を置換して、そして、これらのペプチドはT細胞を誘発し得るが、同じHLA-DRB1*04:01分子によって提示された無関係なペプチドは、細胞を活性化しない。
【0165】
結果は、T細胞株は、HLA-DRB1*04:01上に提示された場合、シトルリン含有ペプチドのペプチド提示をグルタミン含有ペプチドおよびP1最適化(人工)ペプチドと区別できないことを示している。これらの細胞は、NFATシグナル伝達とPD1のアップレギュレーションによっても同様に良好に応答した。
【0166】
実施例2.非翻訳後修飾ビメンチン模倣体
【0167】
シトルリン化ビメンチン由来のT細胞エピトープは、以前に同定されており(アミノ酸位置66~78)、健常ドナーおよびRA患者における自己反応性T細胞の検出、数え上げ、および表現型決定に広く用いられている(例えば、Snir et al., Arthritis Rheum 2011, James et al., Arthritis Rheum 2014, and Gerstner et al., BMC Immunol 2020)。HLA-DRB1*04:01分子によって提示されたペプチドの結晶構造は解かれており(Scally et al., J Exp Med 2013)、シトルリンが当初の予測どおりにP4ポケットに配置されていることが実証されている。
【0168】
材料と方法
【0169】
ペプチド競合は、フィブリノーゲンペプチドについてと同様に行い、実施例1の材料及び方法を参照、準用する。
【0170】
RA患者由来の初代細胞を、元のシトルリン化ビメンチンペプチドを用いて14日間インビトロで培養した。5日目から細胞培地にヒト血清と50Uの組換えIL-2を添加した。5% CO2の37 ℃インキュベーター。
【0171】
回収時に、細胞を遠心分離し、ペレットをPBSに再懸濁し、ペプチド-HLA複合体と相互作用できるTCRを持つT細胞としか相互作用できない試薬であるHLAクラスII四量体で染色した。ここでは2セットのテトラマーを染色に用いた(色は異なる)。
【0172】
本発明者らは、修飾ペプチドが実際に結合し、それによってペプチドをTCRに提示できることを立証するために結合アッセイを実施したが、これらは競合アッセイであり、すでに結合したペプチド(この場合、インフルエンザ(HA)ペプチド)を競合させる試験ペプチドの能力を示す。結果は曲線またはKd値として表すことができ、どちらも添付の図に示されており、P4の位置でアミノ酸を1つ交換するとKd値が減少するのに対して、2つ交換するとKd値はより良く(低く)なることを示している。(
図5を参照されたい)。なお、これらの数値はHLAに結合するペプチドの能力のみを反映しており、TCRとの相互作用を反映しているわけではない。
【0173】
さらに、RA患者の初代細胞由来の短期T細胞株が作製され、本発明者らは、ペプチド-HLA四量体によって同定されたcit特異的T細胞の多くが、ペプチドのグルタミンバージョンをロードした四量体にも結合することを実証した。
図6では、x軸にcit-ペプチド反応性T細胞、y軸にグルタミン反応性T細胞が示されている。この結果は、元のペプチドと模倣ペプチドを区別できないT細胞が存在することを明確に示している。
【0174】
さらに、本発明者らは、これらの細胞からTCRを配列決定し、T細胞株を作製し、フィブリノーゲンペプチドについて既に説明したように試験を開始した。
【0175】
要約すると、本明細書に提示される新たな知見は、抗原特異的寛容を生成する方法を開発するために用いることができ、本発明のペプチドは、単独で、関連するMHCクラスII分子と複合体化して、他の分子または細胞複合体に結合して、場合によっては、いくつかの例を挙げると、ナノ粒子、タンパク質、または血球などの適切な担体に結合して投与される。これらのペプチドに関する知識は、寛容化mRNAワクチンの設計にも利用できる。当該ワクチンは、例えば、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)に対する寛容療法のためのMOGペプチドをコードするmRNAワクチンについて記載されるのと同様の方法で製造することができる(Krienke C. et al., Science 2021, 参照により本明細書に援用される)。
【0176】
非翻訳後修飾ペプチド模倣体を定義し生産するというこの原理は、寛容性分子構築物および適切なmRNA分子の生産を著しく改善し、自己免疫疾患、特にRAに対する寛容性治療法の開発に大きなブレークスルーをもたらすであろう。
【0177】
天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの代わりに、天然に存在しない非翻訳後修飾ペプチド模倣体を作り、これを治療目的に使用するという概念は、新しい治療原理を開く可能性があり、そこでは、翻訳後修飾タンパク質およびペプチドに対する免疫によって駆動される免疫介在性疾患の治療または予防のために、治療ペプチドの設計が大幅に改善される。
【0178】
さらに、バイオ医薬品として使用され、患者に投与されるように設計された、いわゆる「寛容原性粒子」は、現在、これらの医薬品をより安定にし、より高い品質で製造することを含む製造をより容易にする方法、およびこの増大した品質を保証するための新しい簡便な方法で製造することができる。本発明者らの貢献は、自己免疫疾患(例えば、RAだがこれに限定されない)のための寛容原性医薬品の製造に関する予想外の大きな進歩である。
【0179】
これ以上の詳細な説明は省略するものの、当業者は、実施例を含む本説明を用いて、本発明を最大限活用できると考えられる。また、本発明は、発明者らに現在知られている最良の形態を構成するその好ましい実施形態に関して本明細書に記載されてきたが、本明細書に添付の特許請求の範囲に記載される発明の範囲を逸脱することなく、この技術分野の通常の当業者に自明であるような種々の変更および修正がなされ得ることを理解されたい。
【0180】
したがって、種々の態様および実施形態が本明細書に開示されているが、他の態様および実施形態は当業者には明らかであろう。本明細書に開示される種々の態様および実施形態は、例示を目的としており、限定することを意図するものではなく、真の範囲および精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【0181】
配列表
【0182】
GGYRAXPAKAAAT - (配列番号1)
GGYRAQPAKAAAT - (配列番号2)
GGFRAXPAKAAAT - (配列番号3)
GGFRAQPAKAAAT - (配列番号4)
SAVRLXSSVPGVR - (配列番号5)
SAVRLQSSVPGVR - (配列番号6)
SAFRLXSSVPGVR - (配列番号7)
SAFRLQSSVPGVR - (配列番号8)
VSLISRXGDMSSNPA - (配列番号9)
QGQYELXVDLRDHGE - (配列番号10)
VSLISRQGDMSSNPA - (配列番号11)
QGQYELQVDLRDHGE - (配列番号12)
(アミノ酸配列、1文字コード)
【0183】
参考文献
【0184】
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【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における寛容の誘導のための方法、好ましくは前記寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和または予防のステップである方法において使用するための、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体であって、
前記天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換されてペプチド模倣体を形成しており、前記ペプチド模倣体が、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に結合することを特徴と
し、および前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞に認識される、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体。
【請求項2】
前記ペプチド模倣体が、例えばX線回折結晶法により決定された結晶構造を有し、当該結晶構造が、同じ方法を用いて決定された、前記対応する天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である、請求項1に記載のペプチド模倣体。
【請求項3】
前記合成ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化II型コラーゲン、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、シトルリン化テナシンCおよびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である、請求項1に記載のペプチド模倣体。
【請求項4】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項5】
前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換され、71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項6】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項7】
前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換され、68位のバリンがフェニルアラニンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項8】
前記ペプチドがテナシンCであり、877位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項9】
前記ペプチドがテナシンCであり、2073位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
3に記載のペプチド模倣体。
【請求項10】
前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在するペプチドと実質的に同じ親和性で、ヒト白血球抗原(HLA)分子のP4ポケット(結合溝)に結合する、請求項1~
9のいずれか1項に記載のペプチド模倣体。
【請求項11】
担体およびペプチドの複合体であって、前記ペプチドが、天然に存在する翻訳後修飾ペプチドの模倣体であり、前記ペプチド模倣体において、前記天然に存在するペプチドと比較して、シトルリンが他のアミノ酸で置換されてペプチド模倣体を形成しており、前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合することを特徴と
し、および前記ペプチド模倣体が、前記対応する天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度にT細胞に認識され、前記担体が、ナノ粒子、血球、およびMHCクラスII分子から選択される、前記複合体。
【請求項12】
前記ペプチド模倣体が、例えばX線回折結晶法によって決定された結晶構造を有し、当該結晶構造が、同じ方法を用いて決定された、前記対応する天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一である、請求項
11に記載の複合体。
【請求項13】
前記ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化II型コラーゲン、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)およびシトルリン化α-エノラーゼから選択されるペプチドの模倣体である、請求項
11に記載の複合体。
【請求項14】
配列番号2で示されるように、前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項15】
配列番号4で示されるように、前記ペプチドがフィブリノーゲンであり、74位のシトルリンがグルタミンで置換され、71位のチロシンがフェニルアラニンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項16】
配列番号6で示されるように、前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項17】
配列番号8で示されるように、前記ペプチドがビメンチンであり、71位のシトルリンがグルタミンで置換され、68位のバリンがフェニルアラニンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項18】
配列番号11で示されるように、前記ペプチドがテナシンCであり、877位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項19】
配列番号12で示されるように、前記ペプチドがテナシンCであり、2073位のシトルリンがグルタミンで置換されている、請求項
11に記載の複合体。
【請求項20】
被験体における寛容の誘導のための方法、好ましくは寛容の誘導が自己免疫疾患の治療、緩和または予防のステップである方法において使用するための、請求項
11~19のいずれか1項に記載の複合体。
【請求項21】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であって、
担体およびペプチドを含む構築物を前記被験体に投与する工程を含み、前記担体-ペプチド複合体中に組み込まれるペプチドが、請求項1~
10のいずれか1項に記載のペプチド模倣体であることを特徴とする、前記方法。
【請求項22】
前記構築物が、MHCクラスII-ペプチド複合体である、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導する方法であって、請求項
11~19のいずれか1項に記載の複合体を含む構築物を、前記被験体に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項24】
前記寛容の誘導が、自己免疫疾患の治療、緩和または予防における工程である、請求項
21又は22に記載の方法。
【請求項25】
前記自己免疫疾患が関節リウマチであり、前記抗原がペプチド抗原であり、前記非翻訳後修飾ペプチド模倣体がHLA-DR0401および0404のペプチド結合溝に結合して、RA患者において活性化されたT細胞に由来するRA患者由来のT細胞受容体によって認識される、請求項
24に記載の方法。
【請求項26】
前記抗原が、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化α-エノラーゼから選択される、請求項
21又は22に記載の方法。
【請求項27】
被験体において特定の抗原に対する寛容を誘導するための寛容原性mRNAワクチンであって、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体をコードする修飾された非炎症性mRNAを含
み、前記抗原の非翻訳後修飾模倣体が、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合するペプチド模倣体である、前記寛容原性mRNAワクチン。
【請求項28】
前記ペプチドにおいて、シトルリンが、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝への結合を維持したまま他のアミノ酸で置換されている、請求項
27に記載のワクチン。
【請求項29】
前記ペプチドが、例えばX線回折結晶法により決定された結晶構造を有し、当該結晶構造は、同じ方法を用いて決定された、前記天然に存在するペプチドの結晶構造と実質的に同一であ
り;そして、前記ペプチドが、前記天然に存在する翻訳後修飾ペプチドと同程度に、ヒト白血球抗原(HLA)分子のペプチド結合溝に結合する、請求項
27に記載のワクチン。
【請求項30】
シトルリンがグルタミンに置換されている、請求項
27~29のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項31】
前記ペプチドが、シトルリン化フィブリノーゲン、シトルリン化ビメンチン、シトルリン化コラーゲンタイプII、シトルリン化テナシンC、シトルリン化軟骨中間層タンパク質(CILP)、およびシトルリン化エノラーゼから選択される抗原の模倣体である、請求項
27に記載のワクチン。
【請求項32】
前記修飾された非炎症性mRNAが、ナノ粒子形成された1-メチルシュードウリジン修飾mRNAである、請求項
27に記載のワクチン。
【請求項33】
自己免疫疾患の治療、緩和または予防における使用のための、請求項
27~32のいずれか1項に記載のワクチン。
【請求項34】
前記自己免疫疾患が関節リウマチである、請求項
33に記載の使用のためのワクチン。
【国際調査報告】