IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコ カンパニー リミテッドの特許一覧

特表2024-521927強度および疲労限度が向上したバネ用線材、鋼線、バネおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】強度および疲労限度が向上したバネ用線材、鋼線、バネおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240528BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20240528BHJP
   C21D 8/06 20060101ALI20240528BHJP
   C21D 9/52 20060101ALI20240528BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20240528BHJP
   B22D 11/128 20060101ALI20240528BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/34
C21D8/06 A
C21D9/52 103B
B22D11/00 A
B22D11/128 350A
C21D1/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574625
(86)(22)【出願日】2022-05-26
(85)【翻訳文提出日】2023-12-04
(86)【国際出願番号】 KR2022007483
(87)【国際公開番号】W WO2022255727
(87)【国際公開日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0071715
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュンモ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ソクファン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミョンス
【テーマコード(参考)】
4K032
4K043
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA32
4K032AA36
4K032AA37
4K032BA02
4K032CA02
4K032CA03
4K032CE02
4K032CF02
4K043AA02
4K043AB01
4K043AB05
4K043AB10
4K043AB11
4K043AB15
4K043AB18
4K043AB20
4K043AB21
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB28
4K043AB30
4K043AB31
4K043BA01
4K043BA03
4K043BA05
4K043BB04
4K043BB06
4K043BB07
4K043CA06
4K043CB02
4K043DA01
4K043DA04
4K043FA03
4K043FA12
(57)【要約】
【課題】強度および加工性に優れると同時に、高い温度でも窒化処理が容易であり、窒化処理特性と疲労限度が向上した線材、鋼線、バネおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、
Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、
Mn+Cr≦1.8%を満たし、
0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、
長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下であることを特徴とする強度および疲労限度が向上したバネ用線材。
【請求項2】
面積分率でパーライト組織80%以上、残りのベイナイト組織またはマルテンサイト組織を含むことを特徴とする請求項1に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用線材。
【請求項3】
旧オーステナイト平均粒径が20μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用線材。
【請求項4】
表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で分布することを特徴とする請求項1に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用線材。
【請求項5】
引張強度が1,400MPa以下であり、断面減少率が35%以上であることを特徴とする請求項1に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用線材。
【請求項6】
重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、ブルーム(bloom)を用意する段階;
前記ブルームを1,200℃以上の温度で加熱した後、ビレットに圧延する段階;
前記ビレットを1,030℃以上で熱処理した後、1,000℃以下の温度で線材に圧延する段階;
前記線材を800~900℃の温度で巻き取る段階;および
前記巻き取った線材を0.5~2℃/sの速度で冷却する段階;を含むことを特徴とする強度および疲労限度が向上したバネ用線材の製造方法。
【請求項7】
前記連続鋳造段階は、総圧下量20mm以上で軽圧下することを含むことを特徴とする請求項6に記載のバネ用線材の製造方法。
【請求項8】
前記軽圧下は、
各圧延ロール別に4mm以下で圧延し、凝固分率が0.6以上のとき、累積圧下量が60%以上であることを特徴とする請求項7に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用線材の製造方法。
【請求項9】
重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、
Mn+Cr≦1.8%を満たし、
0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、
面積分率で、焼き戻しマルテンサイト組織85%以上および残りのオーステナイト組織を含むことを特徴とする強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線。
【請求項10】
旧オーステナイト平均粒径が15μm以下であることを特徴とする請求項9に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線。
【請求項11】
表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で分布することを特徴とする請求項9に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線。
【請求項12】
100μm面積において、炭化物の個数が10個~50個であり、
前記炭化物は、最大直径が5~50nmであり、VまたはNbの含有量が10at%以上であることを特徴とする請求項9に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線。
【請求項13】
引張強度が2,100MPa以上であり、断面減少率が45%以上であることを特徴とする請求項9に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線。
【請求項14】
請求項1から5のいずれか一項に記載の線材をLP熱処理する段階;
前記LP熱処理した線材を伸線し、鋼線を用意する段階;および
前記鋼線をQT熱処理する段階;を含み、
前記LP熱処理する段階は、
3分間以内に950~1100℃まで加熱した後、3分間以内に維持する第1オーステナイト化段階;および
前記第1オーステナイト化した線材を650~700℃の鉛浴で3分間以内に通過させる段階を含むことを特徴とする強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線の製造方法。
【請求項15】
前記LP熱処理する段階で、
パーライト変態完了時間は、130秒未満であることを特徴とする請求項14に記載の強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線の製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度および疲労限度が向上したバネ用線材、鋼線、バネおよびその製造方法に係り、より詳しくは、2,200MPa級の超高強度バネ鋼であり、強度および加工性に優れると同時に、高い温度でも窒化処理が容易であり、窒化処理特性と疲労限度が向上した線材、鋼線、バネおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の軽量化によって、自動車部品に対する持続的な軽量化の要求に伴い、自動車変速機とエンジンバルブに用いられるバネも、持続的な高強度化を要求されている。しかしながら、バネ素材の高強度化によって線径が細くなり、介在物に対する感度が上がることにより、疲労限度が低下する。すなわち、強度の向上を通した疲労限度の向上には、限界がある。これを克服するために、バネ製造会社は、窒化処理により強度を維持し、表面硬度を向上させることによって、バネ素材の疲労限度を増加させようとした。
【0003】
通常、窒化処理は、他の部品では500℃以上で行われるが、バネ鋼の場合、強度の低下を防止するために、420~460℃で窒化処理を行い、十分な窒素浸透の深さを確保するために、10時間以上の長時間熱処理を行う。
通常のバネ鋼のテンパリング熱処理温度は、450℃以下であるから、420~450℃で長時間熱処理を行う場合、多くのバネ鋼は、強度が大きく低下するので、炭化物を形成して軟化抵抗性を向上させることができる元素が添加された高合金系素材を活用しなければならない。しかしながら、炭化物形成元素であるMo、Vなどの成分を多量に添加する場合、窒化処理時に強度の低下を抑制することができるが、中心部の偏析による低温組織が形成されることがあり、断面減少率が低下する問題が発生する虞がある。
【0004】
また、バネ素材は、工程過程で高温熱処理過程が繰り返されるので、旧オーステナイト結晶粒径(Prior Austenite Grain Size,PAGS)の制御が問題になり、熱処理過程中の炭化物制御技術も必要である。
なお、バネ製造会社は、窒化処理時間を短縮するために、できるだけ、高い温度で窒化処理を実施し、工程時間を短縮することを希望し、同時に現場の生産性に問題のない高強度線材を必要としている。
このため、強度および加工性などの品質に優れると同時に、窒化処理特性および疲労限度が向上した線材および鋼線の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2000-0043776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、強度および加工性に優れると同時に、高い温度でも窒化処理が容易であり、窒化処理特性と疲労限度が向上した線材、鋼線、バネおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネ用線材は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下であることを特徴とする。
【0008】
前記線材は、面積分率でパーライト組織80%以上、残りのベイナイト組織またはマルテンサイト組織を含むことがよい。
前記線材は、旧オーステナイト平均粒径が20μm以下であることができる。
前記線材は、表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で分布することが好ましい。
前記線材は、引張強度が1,400MPa以下であり、断面減少率が35%以上であることがよい。
【0009】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネ用線材の製造方法は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、ブルーム(bloom)を用意する段階;前記ブルームを1,200℃以上の温度で加熱した後、ビレットに圧延する段階;前記ビレットを1,030℃以上で熱処理した後、1,000℃以下の温度で線材に圧延する段階;前記線材を800~900℃の温度で巻き取る段階;および前記巻き取った線材を0.5~2℃/sの速度で冷却する段階;を含むことを特徴とする。
【0010】
前記連続鋳造段階は、総圧下量20mm以上で軽圧下することを含むことが好ましい。
前記軽圧下は、各圧延ロール別に4mm以下に圧延し、凝固分率が0.6以上のとき、累積圧下量が60%以上であることができる。
【0011】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、面積分率で、焼き戻しマルテンサイト組織85%以上および残りのオーステナイト組織を含むことを特徴とする。
【0012】
前記鋼線は、旧オーステナイトの平均粒径が15μm以下であることがよい。
前記鋼線は、表面から深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で分布することができる。
100μm面積において、炭化物の個数が10個~50個であり、前記炭化物は、最大直径が5~50nmであり、VまたはNbの含有量が10at%以上であることがよい。
前記鋼線は、引張強度が2,100MPa以上であり、断面減少率が45%以上であることができる。
【0013】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線の製造方法は、前記線材をLP熱処理する段階;前記LP熱処理した線材を伸線し、鋼線を用意する段階;および前記鋼線をQT熱処理する段階;を含み、前記LP熱処理する段階は、3分以内に950~1100℃まで加熱した後、3分間以内で維持する第1オーステナイト化段階;および前記第1オーステナイト化した線材を650~700℃の鉛浴で3分以内に通過させる段階を含むことを特徴とする。
【0014】
前記LP熱処理する段階でパーライト変態完了時間は、130秒未満であることがよい。
前記LP熱処理する段階前に、前記線材をLA熱処理する段階をさらに含み、前記LA熱処理する段階は、650~750℃で熱処理する段階;および酸洗する段階;をさらに含んでもよい。
前記QT熱処理する段階は、3分以内に900~1000℃まで加熱した後3分間以内で維持する第2オーステナイト化段階;70℃以下で第1オイルクエンチする段階;3分以内に450~550℃まで加熱した後、3分間以内で維持するテンパリング段階;および70℃以下で第2オイルクエンチする段階;を含んでもよい。
【0015】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネは、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、千万回の繰り返し応力に耐えることができる疲労限度が700MPa以上であることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネの製造方法は、前記鋼線をバネの形状に冷間成形する段階;成形したバネを応力解消熱処理する段階;および420~450℃の温度で10時間以上窒化処理する段階;を含むことを特徴とする。
上記目的を達成するための本発明による強度および疲労限度が向上したバネの製造方法は、前記窒化処理後の疲労限度が10%以上増加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、中心部偏析の低減により中心部の低温組織の発生を抑制し、優れた断面減少率を確保すると同時に、2,200MPa以上の引張強度を確保した線材、鋼線、バネおよびその製造方法を提供することができる。
本発明の他の態様によれば、結晶粒径および析出物の個数を制御することによって、窒化処理特性と疲労限度が向上した線材、鋼線、バネおよびその製造方法を提供することができる。
本発明の多様でかつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による強度および疲労限度が向上したバネ用線材は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たし、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下である。
【0019】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかしながら、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本出願において使用する用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。また、本出願において使用される「含む」または「具備する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものでないことに留意しなければならない。
【0020】
なお、別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるのと同じ意味を有すると見なすべきである。したがって、本明細書において明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上明らかに例外がない限り、複数の表現を含む。
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造および物質許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確または絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0021】
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用線材は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなる。
以下、各合金元素の成分範囲を限定した理由について説明する。以下では、特別な言及がない限り、単位は、重量%である。
【0022】
Cの含有量は、0.6~0.7%である。
Cは、素材の強度を向上させる元素であり、素材の十分な強度を確保するために0.6%以上添加することができる。ただし、C含有量が過多の場合、QT(Quenching & Tempering)熱処理後に衝撃特性が大きく低下し、線材の生産時に低温組織の発生可能性が大きく増加し、線材の品質が劣化することがある。また、C含有量が過多の場合、鋼線の製造工程中の1つであるLP熱処理時間が大きく増加し、生産性が低下する。これを考慮して、C含有量の上限は、0.7%に限定することがよい。
【0023】
Siの含有量は、2.0~2.5%である。
Siは、鋼の脱酸のために用いられるだけでなく、固溶強化を通した強度の確保に有利な元素であり、窒化処理時に強度の低下を抑制し、バネの変形抵抗性を向上させるために、2.0%以上添加することができる。ただし、Si含有量が過多の場合、表面脱炭を誘発することがあり、材料の加工性が劣化する虞がある。これを考慮して、Si含有量の上限は、2.5%に限定することがよい。
【0024】
Mnの含有量は、0.2~0.7%である。
Mnは、硬化能向上元素であり、素材の硬化能と高強度焼き戻しマルテンサイト組織を確保し、SをMn化合物として固定して無害化するために0.2%以上添加することができる。ただし、Mn含有量が過多の場合、偏析によって品質が劣化する虞がある。これを考慮して、Mn含有量の上限を、0.7%に限定することがよい。
【0025】
Crの含有量は、0.9~1.5%である。
Crは、Mnと共に硬化能向上元素であり、窒化処理時に鋼の軟化抵抗性を向上させるために0.9%以上添加することができる。ただし、Cr含有量が過多の場合、鋼線の靭性を大きく低下させ、線材を冷却中に低温組織の発生を助長する。これを考慮して、Cr含有量の上限は、1.5%に限定することがよい。
【0026】
Pの含有量は、0.015%以下である。
Pは、結晶粒界に偏析して素材の靭性を低下させ、水素遅延破壊抵抗性を低下させる元素であるから、最大限鉄鋼材料から除去することが好ましい。これを考慮して、P含有量の上限は、0.015%に限定することがよい。
【0027】
Sの含有量は、0.01%以下である。
Sは、Pと同様に、結晶粒界に偏析して靭性を低下させるだけでなく、MnSを形成して、水素遅延破壊抵抗性を低下させる虞がある。これを考慮して、S含有量の上限は、0.01%に限定することがよい。
【0028】
Alの含有量は、0.01%以下である。
Alは、強力な脱酸元素であり、鋼中の酸素を除去して、清浄度を高めることができるが、Al介在物を形成し、疲労抵抗性を低下させる虞がある。これを考慮して、Al含有量の上限は、0.01%に限定することがよい。
【0029】
Nの含有量は、0.01%以下である。
Nは、不純物や、AlまたはVと結合し、熱処理時に溶解しない粗大なAlNまたはVN析出物を形成する。これを考慮して、N含有量の上限は、0.01%に限定することがよい。
【0030】
Moの含有量は、0.25%以下である。
Moは、窒化処理用素材で軟化抵抗性を向上させ、Vと共に炭化物を形成し、テンパリング時に強度を高める元素である。また、Moは、MC炭化物を形成し、長時間熱処理にも素材の強度を維持する元素である。しかしながら、Mo含有量が過多の場合、パーライト組織の形成を抑制し、線材の圧延後に低温組織の形成により線材の品質が劣化する虞がある。また、Mo含有量が過多の場合、伸線加工前にLP熱処理時にも、パーライト変態を抑制し、パーライト変態時間が増加した結果、生産性を大きく低下させる。これを考慮して、Moの含有量の上限は、0.25%に限定することがよい。
【0031】
Wの含有量は、0.25%以下である。
Wは、Moと共に、窒化処理用素材として軟化抵抗性を向上させることができる元素であり、Moと同様に、MC炭化物を形成し、長時間熱処理時にも素材の強度を維持させることができる。しかしながら、W含有量が過多の場合、パーライト形成を抑制し、線材に低温組織の形成を助長させる虞がある。これを考慮して、W含有量の上限は、0.25%に限定することよい。
【0032】
Vの含有量は、0.05~0.2%である。
Vは、Moと共に、窒化処理用素材において軟化抵抗性を向上させる元素であり、炭化物を形成し、テンパリング時に強度を高め、長時間の窒化処理でも強度を維持させることができる。また、Vは、MoとWとは異なり、炭化物の固溶温度が高いため、旧オーステナイト結晶粒径を維持させる役割をする。Vは、パーライト変態を加速化させるので、線材の生産時に低温組織を抑制することができる。Vは、LP熱処理中に恒温変態時間をも短縮させるので、鋼線の製造工程時に生産性を向上させることができるため、0.05%以上添加することができる。ただし、Vの含有量が過多の場合、線材の生産過程で粗大な炭窒化物を形成させる虞があり、線材の圧延時に加熱炉の温度を高くしなければならない。これを考慮して、V含有量の上限は、0.2%に限定することがよい。
【0033】
Nbの含有量は、0.05%以下である。
Nbは、炭窒化物形成元素であり、Vより固溶温度がさらに高いため、Vに比べて旧オーステナイト結晶粒径の制御効果に優れている。ただし、Nbの含有量が過多の場合、旧オーステナイト結晶粒径が粗大化する問題が発生する虞がある。これを考慮して、Nb含有量の上限は、0.05%に限定することがよく、旧オーステナイト結晶粒径を製造工程を通じて制御する場合には、Nbの添加を省略することができる。
【0034】
前記組成以外の残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避的に混入することがあり、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者なら誰でも知ることができるので、そのすべての内容について本明細書では特に言及しない。
【0035】
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、重量%で、Mn+Cr≦1.8%を満たすことができる。
MnとCrの和が1.8%を超過する場合には、線材の冷却過程でベイナイトまたはマルテンサイトのような低温組織を生成することになり、LP熱処理時にパーライト変態完了時間が長くなる虞がある。また、MnとCrの和が1.8%を超過する場合には、炭素当量(Carbon Equivalent,Ceq)が大きく増加し、WとMoの添加量が制限されることにより、窒化処理時に素材の強度低下を防止することができない。また、炭素当量が増加する場合、パーライト変態時間が長くなり、線材の冷却過程中に完全なパーライト組織を確保せず、LP熱処理時間が長くなり、生産性が低下する問題が発生する。
また、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たすことができる。ここで、at%は、原子量%を意味する。
MoとWのat%の和が0.05at%未満の場合には、窒化処理時に強度低下を抑制せず、窒化処理鋼として使用しにくい。一方、MoとWのat%の和が0.15at%を超過する場合には、炭素当量が増加し、パーライト変態時間が遅れることにより、生産性が低下する問題が発生する。
なお、at%に制御する理由は、MoとWは、MC(M=MoまたはW、C=炭素)形態の炭化物を形成し、強度の向上に寄与するので、MoとWを炭化物と1:1で対応させるためである。
【0036】
本発明の一実施形態による線材は、LP(Lead Patenting)熱処理時にパーライト変態完了時間を130秒未満で確保することができる。ここで、LP熱処理工程は、950~1100℃で加熱した後、650~750℃に急冷する段階を含む。LP熱処理時にパーライト変態完了時間が130秒を超過する場合、生産性が低下する問題が発生する。
また、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、面積分率で80%以上のパーライト組織を含んでもよい。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、旧オーステナイト平均粒径が20μm以下であることがよい。旧オーステナイト平均粒径が20μmを超過する場合には、LP熱処理工程の時間が増加し、線材の加工性が劣化する問題が発生する。
【0037】
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下であることがよい。
上記面積割合が10%を超過すると、中心部偏析によって低温組織が発生するなど素材の品質が劣化し、鋼線の製造後に断面減少率(Reduction of Area,RA)が劣化し、これにより、加工性が低下し、バネ加工時に破損頻度が高くなる問題が発生する。また、上記面積が10%を超過する場合、中心部に炭化物形成元素の集中によって、炭化物効果が減少する虞がある。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で分布してもよい。
線材の表面に15μm以上の炭窒化物が存在する場合には、素材に疲労破損が発生する虞がある。したがって、表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物が2個/cm未満で存在することが好ましい。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上した線材は、引張強度が1,400MPa以下であり、断面減少率(RA)が35%以上であることがよい。
【0038】
次に、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用線材の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用線材の製造方法は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなる溶鋼を連続鋳造し、ブルーム(bloom)を用意する段階;前記ブルームを1,200℃以上の温度で加熱した後、ビレットに圧延する段階;前記ビレットを1,030℃以上で熱処理した後、1,000℃以下の温度で線材に圧延する段階;前記圧延した線材を800~900℃の温度で巻き取る段階;および前記巻き取った線材を0.5~2℃/secの速度で冷却する段階;を含む。
各合金元素の成分範囲を限定した理由は、上述したとおりりであり、以下、各製造段階についてより詳細に説明する。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、前記連続鋳造段階は、総圧下量20mm以上で軽圧下することを含む。
連続鋳造機内において、未凝固層を有する凝固末期の鋳片を凝固収縮量と熱収縮量との和に相当するような総圧下量および圧下速度で、圧下ロール群(collection of reduction rolls)により徐々に圧下しつつ鋳造する方法を軽圧下という。ここで、総圧下量とは、圧下の開始から圧下の終了までの圧下量である。総圧下量が20mm未満の場合には、軽圧下による偏析除去効果を確保しにくい問題があるため、線材の偏析を最小化するために、軽圧下の総圧下量を20mm以上に制御することが好ましい。
また、本発明の一実施形態によれば、前記軽圧下は、各圧延ロール別に4mm以下で圧延し、凝固分率が0.6以上のとき、累積圧下量が60%以上となるように行われることがよい。凝固分率とは、全体溶鋼の重量に対して固相(solid phase)となった溶鋼の重量の比を意味する。
鋳造速度が遅すぎると、軽圧下前に凝固が完了し、固相に比べて液相の割合が極めて少ないため、軽圧下による偏析除去効果を確保しにくい。一方、鋳造速度が速すぎると、固相に比べて液相の割合が極めて多くなり、凝固収縮による偏析が生成し、好ましくない。したがって、凝固分率が0.6以上のとき、圧下量を60%以上となるように鋳造速度を制御する必要がある。
【0040】
冷却水は、軽圧下が完了する地点まで凝固が完了できるように使用量を適切に調節する。Mold-EMS(Mold Electro Magnetic Stirrer)とStrand-EMSは、設備によって従来のバネ鋼の条件に従ったり、任意に設定することができる。
通常のバネ用線材とは異なり、窒化処理用バネ鋼は、高合金成分が多く添加されるので、内部の炭窒化物を制御する必要がある。これにより、本発明の一実施形態によれば、上記で用意したブルームを1,200℃以上の温度で加熱した後、ビレットに圧延し、内部の炭窒化物を最小化することができる。
その後、前記ビレットを1,030℃以上で熱処理した後、1,000℃以下の温度で線材に圧延することができる。
【0041】
ビレットの熱処理温度が1030℃未満の場合には、素材内V成分が十分に溶解しないので、炭化物を固溶させることができず、最終製品で軟化抵抗性が低下する問題が発生する。線材に圧延する段階は、巻き取り温度を900℃以下で行うことができるように、1000℃以下の温度で行うことがよい。
その後、前記圧延した線材を800~900℃の温度で巻き取ることができる。
線材に圧延する段階の温度と巻き取る段階の温度との差が大きい場合、局部的な過多冷却によるF脱炭がひどく発生する虞がある。これを考慮して、圧延した線材を巻き取る段階は、800~900℃の温度で行われることがよい。
これにより、前記巻き取った線材を0.5~2℃/sの速度で冷却することができる。
【0042】
通常、バネ用線材とは異なって、窒化処理用バネ鋼は、高合金成分が多く添加されるので、低温組織を抑制する必要がある。巻き取った線材を0.5℃/s未満の速度で冷却する場合には、脱炭が発生することがある。一方、冷却速度が2℃/sを超過する場合には、低温組織によって素材に破断が発生することがある。
次に、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線について説明する。
【0043】
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなる。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、Mn+Cr≦1.8%を満たすことが好ましい。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たすことができる。
各合金元素の成分範囲を限定した理由は、上述したとおりである。
【0044】
また、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、面積分率で、焼き戻しマルテンサイト組織85%以上および残りのオーステナイト組織を含むことができる。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、旧オーステナイト平均粒径が15μm以下であることがよい。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、重量%で、C>0.85%、Si>3.0%、Mn>0.8%、Cr>2.0%のうち1つ以上を満たす面積の割合が10%以下であることが好ましい。
【0045】
前述の面積割合が10%を超過すると、中心部の偏析によって低温組織が発生するなど素材の品質が劣化し、加工性が低下し、鋼線をバネ加工時の破損頻度が高くなる問題が発生する。前述の面積が10%を超過する場合、中心部に炭化物形成元素の集中によって、炭化物効果が低下することになる。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、最大直径が15μm以上の炭窒化物の個数が100mm長さ当たり2個未満であることがよい。
鋼線の表面に15μm以上の炭窒化物がある場合には、素材に疲労破損が発生する虞がある。表面深さ1mm以内の長さ方向と水平な断面で、100mm長さ当たり2個未満で存在することが好ましい。
【0046】
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、100μm面積において、炭化物の個数が10個~50個であり、前記炭化物は、最大直径が5~50nmであり、VまたはNbの含有量が10at%以上であることがよい。
VまたはNbを含む炭化物の場合、10nm以上に大きくなり始めると、Vだけでなく、Cr、Moなど他の炭化物形成元素も共に含んで成長するので、旧オーステナイト結晶粒の成長抑制と析出硬化に活用される炭化物形成元素の配分が適切に行われなければならない。
最大直径が5~50nmの炭化物の個数が10個未満の場合には、旧オーステナイト結晶粒径を制御しにくい問題がある。一方、最大直径が5~50nmである炭化物の個数が50個を超過する場合には、5nm以下の析出硬化に活用される量が少なくなり、鋼線の引張強度が低下する虞がある。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線は、引張強度が2,100MPa以上であり、断面減少率(RA)が45%以上である。
【0047】
次に、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ用鋼線を製造する方法について説明する。
本発明の一実施形態によるバネ用鋼線の製造方法は、本発明の一実施形態による線材をLA熱処理する段階;LP熱処理する段階;および前記線材を伸線し、鋼線を用意する段階;および前記鋼線をQT熱処理する段階;を含む。
【0048】
まず、本発明の一実施形態による線材を650~750℃で低温焼鈍熱処理(Low Temperature Annealing,LA)を行う。
これに限定されるものではないが、LA熱処理段階は、工程時間が長くなることにより、炭化物が粗大化し、後続工程で炭化物の制御が難しくなるので、2時間以内に行うことが好ましい。LA熱処理によって線材の強度は、1,200MPa以下に低くなり、必要に応じてLA熱処理段階を省略することができる。
【0049】
その後、LA熱処理した線材を酸洗した後、LP(Lead Patenting,LP)熱処理を行う。
前記LP熱処理は、3分以内に950~1100℃まで加熱した後、3分間以内で維持する第1オーステナイト化段階および前記第1オーステナイト化した線材を650~700℃の鉛浴で3分以内に通過させる段階を含むことができる。
3分以内に950~1100℃までの加熱した後、3分間以内に維持するオーステナイト化(Austenitizing)工程を行うことによって、オーステナイト組織を確保すると同時に、LA工程で粗大化した炭化物をさらに固溶させることができる。
【0050】
次に、前記第1オーステナイト化した線材を650~750℃の鉛浴に3分間以内で通過させて急冷し、恒温変態させてパーライト組織を確保することができる。鉛浴の温度が650℃未満の場合には、低温組織を形成することができる。一方、鉛浴の温度が750℃を超過する場合には、炭化物が粗大化し、強度が低下する。
その後、LP熱処理した線材を伸線し、鋼線を用意することができる。この際、用意した鋼線の線径は、5mmであることができ、鋼線の線径を2mm以下に確保するために、LP熱処理をさらに行う。
その後、焼き戻しマルテンサイト組織を確保するために、前記用意した鋼線にQT熱処理工程を行うことができる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、前記QT熱処理する段階は、3分間以内に900~1000℃まで加熱した後、3分間以内で維持する第2オーステナイト化段階;70℃以下に第1オイルクエンチする段階;3分間以内に450~550℃まで加熱した後、3分間以内で維持するテンパリング段階;および70℃以下で第2オイルクエンチする段階;を含んでもよい。
QT熱処理段階でオーステナイト化温度は、LP熱処理時に析出した微細な炭化物を維持できるように、900~1000℃で行うことができる。これに限定するものではないが、QT熱処理する段階でオーステナイト化工程は、6分間以内に行うことが好ましい。
QT熱処理する段階でテンパリング温度が450℃未満の場合には、窒化処理温度が低くなり、さらなる炭化物の形成を誘導できず、靭性が低下する問題が発生する。一方、QT熱処理する段階でテンパリング温度が550℃を超過する場合には、十分な強度を確保することができない。
【0052】
次に、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネについて説明する。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネは、重量%で、C:0.6~0.7%、Si:2.0~2.5%、Mn:0.2~0.7%、Cr:0.9~1.5%、P:0.015%以下、S:0.01%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、Mo:0.25%以下、W:0.25%以下、V:0.05%~0.2%以下、Nb:0.05%以下、残りのFeおよびその他不可避不純物からなり、Mn+Cr≦1.8%を満たし、0.05at%≦Mo+W≦0.15at%を満たす。
各合金元素の成分範囲を限定した理由は、上述した通りである。
【0053】
本発明の一実施形態によるバネは、窒化処理後、疲労限度が10%以上増加する。ここで、疲労限度(Fatigue Limit)は、バネの設計後、疲労テスト時に千万回以上の繰り返し荷重に耐えることができる限度を意味する。
本発明の一実施形態によるバネは、千万回の繰り返し応力に耐えることができる疲労限度が700MPa以上であることがよい。
本発明の一実施形態によるバネは、窒化処理の前後に、強度変化が15%以下であり、窒化処理温度が430℃以上であることがよい。
次に、本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネを製造する方法について説明する。
本発明の一実施形態による強度および疲労限度が向上したバネ製造方法は、本発明の一実施形態による鋼線をバネの形成で冷間成形する段階;成形したバネを応力解消熱処理する段階;および窒化処理する段階;を含む。
【0054】
本発明の一実施形態による鋼線は、バネの製造工程中にショットピーニング段階前に窒化処理によって疲労限度を向上させることができる。この際、窒化処理温度があまり低い場合には、窒素が表面に正確に浸透できず、一方、窒化処理温度があまり高い場合には、素材の中心部硬度が低下し、所望の素材強度を確保することができない。これを考慮して、窒化処理工程は、420~450℃の温度で10時間以上で行われることがよい。
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。しかしながら、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものに過ぎず、このような実施例の記載によって本発明が制限されるわけではない。本発明の権利範囲は、特許請求範囲に記載された事項とこれから合理的に類推される事項によって決定される。
{実施例}
【0055】
下記表1に示した多様な合金成分の範囲について、総軽圧下量10~25mmで連続鋳造工程を行って、ブルームを製造した。製造したブルームを1,200℃で均質化熱処理し、1050℃で熱処理した後、850℃まで温度を下げながら、最終線径6.5mmで熱間圧延し、最終線径6.5mmの線材を製造した。その後、圧延した線材を800~900℃で巻き取った後、1℃/sの速度で冷却した。
【0056】
【表1】
【0057】
下記表2には、実施例および比較例のW+Moのat%含有量および総軽圧下量を示した。下記表2の偏析面積は、製造した線材の長さ方向に垂直な断面の中心部1mmを分析して導き出した。表2の「C偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、C>0.85重量%を満たす面積の割合を意味する。「Si偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、Si>3.0重量%を満たす面積の割合を意味する。「Mn偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、Mn>0.8重量%を満たす面積の割合を意味する。「Cr偏析面積」は、長さ方向に垂直な断面の中心部1mm面積において、Cr>2.0重量%を満たす面積の割合を意味する。偏析面積は、モデル名がEMPA-1600の電子マイクロアナライザー(Electron Probe X-ray Micro Analyzer,EPMA)を用いて測定した。
【0058】
【表2】
【0059】
前記表2を参照すると、実施例1および2は、本願発明が提示した合金組成および総軽圧下量を満たした結果、C、Si、Mn、Cr偏析面積の和を10%以下で形成することができた。これに対し、比較例1は、総軽圧下量が20mm未満の10mmである結果、C、Si、Mn、Cr偏析面積の和が30%に達した。
【0060】
下記表3には、前記製造された線材の引張強度、断面減少率(RA)、中心部低温組織、旧オーステナイト平均粒径、パーライト組織および炭窒化物個数を示した。旧オーステナイト平均粒径、パーライト組織および炭窒化物個数は、モデル名がJEOL、JSM-6610LVの走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)を用いて測定した。
下記表3の「○」は、低温組織が面積分率で20%を超過する場合を意味し、「×」は、低温組織が面積分率で20%以下の場合、「×」を意味する。
下記表3のパーライト組織は、3mの線材を8等分し、8個の試験片を製造した後、それぞれの試験片を長さ方向に垂直な断面の微細組織を測定したとき、面積分率でパーライト組織が80%以上検出された試験片の個数を意味する。
下記表3の炭窒化物の個数は、10cm長さの線材を10等分し、長さが1cmの10個の試験片を製造した後、表面深さ1mm以内に長さ方向と水平な断面の微細組織を測定したとき、最大直径が15μm以上の炭窒化物の個数である。
【0061】
【表3】
【0062】
前記表3を参照すると、実施例1および2は、中心部に低温組織が形成されず、旧オーステナイト平均粒径が20μm以下で形成された。また、実施例1および2は、8個の試験片のうちパーライト組織が80%以上の試験片が6個以上であり、引張強度が1400MPa以下と加工性に優れていた。また、実施例1および2は、表面に炭窒化物が形成されなかった。
これに対し、比較例1は、引張強度が1400MPaを超過し、35%以下の断面減少率を有し、加工性が劣化し、中心部に低温組織が形成された。また、比較例1は、8個の試験片のうちパーライト組織が80%以上の試験片が5個に過ぎず、均一に80%以上のパーライト組織が形成されなかった。
【0063】
比較例2は、表1の合金成分を参照すると、Vが0.05%未満で添加されることにより、旧オーステナイト平均粒径が20μmを超過した24μmで粗大化した。
比較例3は、引張強度が1510MPaであり、断面減少率が10%に過ぎず、加工性が劣化するだけでなく、中心部に低温組織が形成された。また、比較例3は、8個の試験片のうちパーライト組織が80%以上の試験片が2個に過ぎず、パーライト組織が十分に形成されなかった。
次に、実施例と比較例を720℃で2時間LA熱処理後、酸洗し、LP熱処理を行った。LP熱処理は、3分以内に第1オーステナイト化温度まで加熱し、残りは、下記表4の条件によって進めた。また、下記表4には、LP熱処理時に実施例と比較例のパーライト変態時間を示した。パーライト変態時間は、膨張計(dilatometry)実験を通じてTTT(Time-Temperature-Transformation)曲線を導き出して測定した。
【0064】
【表4】
【0065】
実施例1および2は、パーライト変態時間がそれぞれ130秒未満の110秒、105秒と測定され、生産性に優れていた。これに対し、比較例3は、パーライト変態時間が130秒と測定され、現場生産が難しい程生産性が低下した。
次に、LP熱処理した実施例および比較例を伸線加工し、線径3mmの鋼線を製造した。製造した鋼線を第2オーステナイト化および第1クエンチした後、テンパリングおよび第2クエンチし、QT鋼線を得た。3分間以内に第2オーステナイト化温度まで加熱し、第1クエンチおよび第2クエンチは、60℃のオイル(Oil)で行われた。残りは、下記表5の条件によって進めた。
【0066】
【表5】
【0067】
下記表6は、製造したQT鋼線の引張強度、断面減少率(RA)および炭化物個数を示した。ここで、炭化物個数は、100μmの面積において、最大直径が5~50nmでVまたはNbの含有量が10at%以上の炭化物の数を意味する。炭化物個数は、FEI Tecnai OSIRIS透過電子顕微鏡(Transmission electron microscope,TEM)を用いて線材表面に任意の100μm面積の8ヶ所を測定した後、8ヶ所の測定値を平均した値である。
【0068】
【表6】
【0069】
前記表6を参照すると、実施例1および2は、2200MPa以上の優れた引張強度を確保すると同時に、45%以上の断面減少率を確保した。また、実施例1および2は、炭化物数が10~50個で形成された。
これに対し、比較例1は、断面減少率が32%に過ぎず、炭化物数が50個を超過した。比較例2は、引張強度が2200MPa以下と劣化し、炭化物数が10個未満で形成され、旧オーステナイト平均粒径を制御しにくい問題が発生した。比較例4は、引張強度が2200MPa以下と劣化し、炭化物数が50個を超過した。
次に、前記QT鋼線をバネの形状に冷間成形した後、成形したバネを熱処理した後、420~450℃で窒化処理した。
【0070】
下記表7は、バネの成形中に破損の有無、疲労限度および窒化処理後の疲労限度値を示した。
窒化処理の前および後の疲労限度は、応力比R(引張能力/圧縮能力)=-1および試験速度30~60Hzの条件で測定した。
下記表7で、「×」は、バネの成形中に破損していないことを意味し、「○」は、バネの成形中に破損したことを意味する。
【0071】
【表7】
【0072】
実施例1および実施例2は、加工性に優れており、破損せず、窒化処理前に疲労限度が650MPa以上と測定され、疲労限度に優れていた。また、実施例1および2は、窒化処理後に疲労限度が750MPa以上であり、窒化処理後に、窒化処理前に比べて疲労限度が10%以上増加し、窒化処理特性に優れていた。
これに対し、比較例1および2は、加工性が低下して破損し、窒化処理後に、窒化処理前に比べて疲労限度が10%未満の増加であった。
比較例4は、バネの加工中に破損こそ発生しなかったものの、窒化処理後に、窒化処理前に比べて疲労限度が10%以上増加せず、窒化処理特性が劣化していた。
【0073】
開示された実施例によれば、合金組成および製造条件を最適化することによって、優れた引張強度と断面減少率を確保すると同時に、窒化処理特性および疲労限度が向上し、自動車変速ギアおよびエンジンバルブなどの素材に適用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の一例によれば、強度および疲労限度が向上したバネ用線材、鋼線、バネおよびその製造方法を提供することができる。
【国際調査報告】