IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 英諾湖医薬(杭州)有限公司の特許一覧

特表2024-521928B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途
<>
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図1
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図2
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図3
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図4
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図5
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図6
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図7
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図8
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図9
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図10
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図11
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図12
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図13
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図14
  • 特表-B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240528BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240528BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240528BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240528BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240528BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P37/04
A61K47/68
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574629
(86)(22)【出願日】2022-06-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2022097193
(87)【国際公開番号】W WO2022257893
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110639996.0
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523052085
【氏名又は名称】英諾湖医薬(杭州)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】邱均専
(72)【発明者】
【氏名】王振生
(72)【発明者】
【氏名】孫▲カイ▼
(72)【発明者】
【氏名】陳均勇
(72)【発明者】
【氏名】孫鍵
(72)【発明者】
【氏名】李忠良
(72)【発明者】
【氏名】夏明▲デ▼
(72)【発明者】
【氏名】陳如雷
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC07
4C076CC27
4C076EE59
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC02
4C085DD62
4C085DD63
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045DA83
4H045DA89
4H045EA22
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】抗B7H3受容体のモノクローナル抗体群およびそのヒト化抗体群が提供される。
【解決手段】ハイブリドーマ技術により得られた抗体は、B7H3親和性、細胞エンドサイトーシス機能、抗体依存性細胞毒性を有するか、またはB7H3による免疫抑制作用を効果的にブロッキングすることができ、がん細胞の抑制、B7H3による作用やレベルに対する調節、および、生体免疫力の向上に用いられる関連薬物の調製に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖CDRおよび軽鎖CDRを含み、前記重鎖CDRおよび前記軽鎖CDRは、a~nに示されるCDR組合せから選ばれた1つ以上の組を有する、B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【表10】
【請求項2】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域は、A~Nに示される可変領域組合せのうちの1つ以上の組から選ばれる、請求項1に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【表11】
【請求項3】
前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域はヒト化されたものである、請求項2に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
ヒト化された前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域は、1~6に示される可変領域組合せのうちの1つ以上の組から選ばれる、請求項3に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【表12】
【請求項5】
ヒトIgG1の定常領域を有する、請求項4に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
B7H3活性またはB7H3レベルを調節する薬物、顕著なエンドサイトーシス機能(腫瘍を毒素カップリングによって選択的に死滅または抑制することができる機能)を有し、又は、顕著な抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有し、又は、B7H3の免疫抑制における作用をブロッキングすることによって生体免疫力を向上する薬物、Tリンパ球を促す薬物、又は、IFN-γのようなTリンパ球における細胞因子の産生を向上する薬物の調製における、請求項1~5のいずれか1項に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の用途。
【請求項7】
モノクローナル抗体とカップリング部分を含むモノクローナル抗体カップリング剤であって、前記モノクローナル抗体は、請求項1~5のいずれか1項に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、前記カップリング部分は、放射性核種、薬物、毒素、細胞因子、細胞因子受容体断片、酵素、フルオレセイン、及びビオチンのうちの1つ以上から選ばれる、モノクローナル抗体カップリング剤。
【請求項8】
B7H3活性またはB7H3レベルを調節する薬物、顕著なエンドサイトーシス機能(腫瘍を毒素カップリングによって選択的に死滅または抑制することができる機能)を有する薬物、顕著な抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有する薬物、B7H3の免疫抑制における作用をブロッキングすることによって生体免疫力を向上する薬物、Tリンパ球を促す薬物、又は、IFN-γのようなTリンパ球における細胞因子の産生を向上する薬物の調製における、請求項7に記載のモノクローナル抗体カップリング剤の用途。
【請求項9】
腫瘍を予防及び/又は治療および/又は補助治療する薬物の調製における、請求項7に記載のモノクローナル抗体カップリング剤の用途。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片と薬用ベクターとを含む、薬物組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年6月9日に中国特許局に提出された、出願番号が202110639996.0であって発明名称が「B7H3モノクローナル抗体群及びその医薬用途」である中国特許出願の優先権を主張しており、その全ての内容を引用により本願に取り込む。
【0002】
本発明は、腫瘍抗体治療及び分子免疫学治療の分野に属し、B7H3抗体及びその用途に関する。具体的には、本発明は、様々なB7H3モノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0003】
B7H3は、CD276とも呼ばれ、I型膜貫通タンパク質である(ChapovalA.I.、etal.、(2001)、Nat.Immunol.2:269)。マウスでは、B7H3は9番染色体でコードされているが、ヒトでは、15番染色体でコードされている。B7H3は、他のB7ファミリー配位子と20%~27%のアミノ酸相同性を有する(SunM.、etal.、(2002)、J.Immunol.168:6294;LoosM.、(2010)、Clin.Dev.Immunol.2010:683875)。タンパク質組成、構造の面では、マウスのB7H3は、2つのIgG7H3タイプ(細胞外のIgVとIgCの1ペアからなる)のみを有するが、ヒトのB7H3は、4つのIgG7H3タイプを有し、ほぼ完全に同じであるIgV-IgC縦列反復である(SunM.、etal.、(2002)、J.Immunol.168:6294;SteinbergerP.、etal.、(2004)、J.Immunol.172:2352)。B7H3のmRNAは、幾つかの正常組織、例えば、肝臓、小腸、膵臓、精巣、心臓および結腸などの組織に存在するが、B7H3タンパク質は、正常組織においてめったに見られない(GreenwaldR.J.、etal.、(2005)、Annu.Rev.Immunol.23:515-48)。B7H3のmRNAとタンパク質の間におけるそのような差異性は、転写後密着調節メカニズムの存在を反映したかもしれない(HofmeyerK.A.、etal.、(2008)、Proc.Natl.Acad.Sci.105:10277;CalabroL.、etal.、(2011)、J.CellPhysiol.226:2595)。全体的にみれば、B7H3は、幾つかの非免疫性線維芽細胞、内皮細胞及び骨芽細胞、および、例えば、B細胞、T細胞、単核球、樹状細胞又はNK細胞のような幾つかの免疫細胞のみに存在するものである。B7H3の発現は、顆粒球-マクロファージのCSF又はリポ多糖刺激誘導によって産生され得る(SuhW.K.、etal.、(2003)、Nat.Immunol.4:899;ChapovalA.I.、etal.、(2001)、Nat.Immunol.2:269;GreenwaldR.J.etal.、(2005)、Annu.Rev.Immunol.23:515)。
【0004】
B7H3は、重要な免疫チェックポイントタンパク質に該当する。初歩的な研究を経て、B7H3は、T細胞に対する刺激作用を有し、CD4+及びCD8+T細胞の増殖、Tリンパ球の細胞毒性の増強、及び、インターフェロン-γ(IFN-γ)の産生への刺激をある程度促すことができ(ChapovalA.I.、etal.、(2001)、Nat.Immunol.2:269)、且つ、B7H3の欠失により、同種他家移植の慢性反発作用が軽減されることができる(WangL.etal.、(2005)、Eur.J.Immunol.35:428)、という結論が示されていた。しかしながら、B7H3は、顕著な免疫抑制作用を有することが更に多くの研究により示されている。例えば、B7H3は、CD3抗体又は同種他家DC細胞のT細胞に対する活性化作用を顕著に抑制することができるが、B7H3ブロッキング抗体は、そのような抑制作用を効果的に逆転することができる(PrassD.V.R.、etal.、(2004)、J.Immunol.173:2500)。B7H3タンパク質の構造情報には、B7H3IgVドメインにおけるFG環がT細胞の抑制に対して重要な役割を果たす可能性があることが示される(VigdorovichV.、etal.、(2013)、Structure21:707)。また、T細胞に加えて、B7H3は、天然殺傷細胞(NK)に対する抑制作用を有する可能性もある(CastriconiR.、etal.、(2004)、Proc.Natl.Acad.Sci.101:12640)。そういった可能性に関するメカニズムは、調節的T細胞(Tregs)により、樹状細胞(DC)B7H3の発現を誘発することによって、DC細胞のTリンパ球に対する刺激作用を抑制することに関連付けられる(MahnkeK.、etal.、(2007)、Eur.J.Immunol.37:2117)。マウスモデルにおいて、B7H3に乏しいマウスは、深刻な気道炎症が生じてしまい、実験的自己免疫ひずみ性脳脊髄炎などのような幾つかの自己免疫疾患もより早期的に発生してしまう(SuhW.K.、etal.、(2003)、Nat.Immunol.4:899)。
【0005】
B7H3の発現レベルは、メラノーマ(WangJ.、etal.、(2013)、J.Invest.Dermatol.133:2050)、白血病(HuY.、etal.、(2015)、ヘムメロ20:187;SunJ.、etal.、(2014)、OncoTargetsTher.7:1979)、前立腺癌(ZangX.、etal.、(2007)、Proc.Natl.Acad.Sci.104:19458)、卵巣癌(ZangX.、etal.、(2010)、Mod.Pathol.23:1104)および膵臓腺癌(ChenY.、etal.、(2014)、Onco.Targets Ther.7:1465-72)などのような多くの悪性腫瘍では非常に高い。正常組織にも腫瘍組織にも、B7H3mRNAが存在しているが、B7H3タンパク質は、腫瘍細胞のみにおいて高いレベルで現われている。このような差異は、miRNA-29調節メカニズムに関連する可能性がある。例えば、正常組織または腫瘍組織やがん細胞系において、miRNA-29とB7H3タンパク質のレベルは逆比関係にあることが判明された研究があった(Xu H.、etal.、(2009)、Cancer Res.69:6275)。腫瘍患者において、B7H3の異常発現は、不良な予後、腫瘍の分画レベル及び転移度合いの増加、治療抵抗性、腫瘍患者全体の生存率の低下と密接に関わっている(PicardaE.、etal.、(2016)、Clin.CancerRes.22:3425)。
B7H3のT細胞、NK細胞及びDC細胞に対する抑制作用は、腫瘍細胞の免疫逃避の発生を著しく促す。また、B7H3は、腫瘍細胞の増殖、転移、侵襲、血管新生、上皮間葉転換(EMT)、癌幹細胞性及びWarburg効果、並びに腫瘍細胞の薬物耐性等にも重要な役割を果たす。
【0006】
B7H3の増加は、Bcl-2及びBcl-xlの発現を促して、JAK2-STAT3シグナルルートの活性化により、腫瘍細胞抗アポトーシスの活性を増強することができる(ZhangT.、etal.、(2015)、WorldJ.Gastroenterol.21:1804)。同時に、AKT、ERK、及びJAK2/STAT3ルートによる活性化では、腫瘍細胞の転移に関与するタンパク因子の発現(MMP2、MMP9およびCXCR4等を含む)を誘導して、腫瘍細胞の転移力及び侵襲力を増強することができる(Tekle C.、etal.、(2013)、Int.JCancer130:2282;LiY.、etal.、(2017)、Oncotarget8:71725;WangL.、etal.、(2013)、PLoSOne8:e70689;LiuF.、etal.、(2015)、Mol.Med.Rep.12:5455)。
【0007】
腫瘍内皮細胞のB7H3は、同様に、TLR4依存性メカニズムによりNF-κBの活性化を誘導して、VEGF及びIL-8の発現レベルを著しく増加させ(Tekle C.、etal.、(2012)、Int.J.Cancer130:2282)、さらに、腫瘍の浸潤作用及び血管新生を促進することができるのが判明された研究は数多く存在する(FerraraN.、etal.、(2002)、Nat.Rev.Cancer2:795)。一方、B7H3は、E-カルシトニンの低減及びN-カルシトニン、ボルクリン、CD133及びCD44の発現の増加により、腫瘍細胞EMT及び腫瘍幹細胞活性を調節する機能を果たすこともできる(JiangB.、etal.、(2016)、Oncotarget731755)。B7H3は、STAT3シグナルの伝達を活性化させて、ヘキソキナーゼ2の発現を増加させることができる。そのため、B7H3は、同様に、腫瘍細胞の有酸素解糖を促進する役割を有する(ShiT.、etal.、(2019)、CellDeathDis.10:308)。同時に、B7H3は、転写因子NRF2の活性を抑制することにより、活性酸素(ROS)及びHIFI1aのレベルを上昇させて、腫瘍細胞の有酸素解糖作用をさらに増強し、腫瘍細胞の成長を促進する(LimS.、etal.、(2016)、CancerRes.76:2231)。また、B7H3の発現を抑制または低減することによって、例えば、DNA複製を阻害する薬物(アルキル化薬を含む)や、PI3K/Akt/mTORとRas/Raf/MEKシグナルタンパク質を阻害する薬物のような、幾つかの薬物に対する腫瘍細胞の反応を増加することができるのが判明された研究がますます多くなった(Flem-KarlsenK.、etal.、(2017)、PigmentCellMelanomaRes.30:467;KastenB.B.、etal.、(2017)、Nucl.Med.Biol.47:23;LiuH.、etal.、(2011)、Mol.CancerTher.10:960)。
【0008】
腫瘍細胞をB7H3欠失のマウスに移植させ、または、腫瘍マウスに対してB7H3抗体処理を行うことによって、腫瘍の成長は明らかに抑制されるようになる(CaiD.、etal.、(2020)、Cell.Mol.Immunol.17:227;LeeY.H.、etal.、(2017)、CellRes.27:1034)ため、B7H3を遮断するシグナル伝達は、腫瘍治療に用いられてもよいことが示されている。また、抗PD-1抗体との併用により、B7H3およびPD-1に対する二重ブロッキング機能を果たして、相乗的な抗腫瘍効果が生じる(LeeY.H.、etal.、(2017)、CellRes.27:1034)。正常組織と腫瘍組織におけるB7H3の発現レベルの有意差により、B7H3抗体のADCC効果又は毒素カップリングにより、腫瘍細胞を効果的に殺すことができ、正常組織に対してもあまり大きな影響を与えない(KoenigS.、etal.、(2014)、Medicographia36:285)。要するに、現在の研究情報を踏まえて、B7H3は、がん治療上の有望な標的とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、ハイブリドーマ技術により、抗B7H3モノクローナル抗体群が得られ、それらの抗体は、B7H3に対する親和力が高く、エンドサイトーシス機能が顕著に現われ(腫瘍を毒素カップリングによって選択的に死滅または抑制することができる)、抗体依存性細胞毒性(ADCC)が著しく、又は、B7H3に起因した免疫抑制作用を効果的にブロッキングすることができる。本発明は、その中の6つの抗体候補のヒト化に成功しました。上述した抗体は、がん細胞の抑制、B7H3による作用やレベルに対する調節、および、生体免疫力の向上に用いられる薬物の調製、特に、がんの治療に関する薬物の調製の面では、多様な適用範囲を有するものとして有望とされている。
【0010】
本発明が提供するマウス化またはヒト化されたB7H3抗体または機能性断片は、重鎖シーケンス及び軽鎖シーケンスを含む。抗ヒトB7H3マウス抗体、重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列情報は以下の通りである。7F5重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:1、2であり、9C8重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:3、4であり、5B6重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:5、6であり、7C9重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:7、8であり、2A9重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:9、10であり、4F11重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:11、12であり、15A2重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:13、14であり、7B7重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:15、16であり、7E6重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:17、18であり、2E10重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:19、20であり、2F12重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:21、22であり、2F7重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:23、24であり、13A2重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:25、26であり、14B3重鎖可変領域、軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:27、28である。
【0011】
上記抗体における重鎖、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列情報は以下の通りである。7F5重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:29、30、31で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:32、33、34であり、9C8重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:35、36、37で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:38、39、40であり、5B6重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:41、42、43で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:44、45、46であり、7C9重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:47、48、49で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:50、51、52であり、2A9重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:53、54、55で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:56、57、58であり、4F11重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:59、60、61で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:62、63、64であり、15A2重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:65、66、67で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:68、69、70であり、7B7重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:71、72、73で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:74、75、76であり、7E6重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:77、78、79で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:80、81、82であり、2E10重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:83、84、85で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:86、87、88であり、2F12重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:89、90、91で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:92、93、94であり、2F7重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:95、96、97で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:98、99、100であり、13A2重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:101、102、103で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:104、105、106である。14B3重鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:107、108、109で、その軽鎖CDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NO:110、111、112である。
【0012】
さらに、抗ヒトB7H3抗体又は断片は、形質転換を進行されると、ヒト化された抗体となる。
【0013】
抗ヒトB2H3ヒト化された抗体の2A9重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:113で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:114であり、ヒト化された抗体の4F11重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:115で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:116であり、ヒト化された抗体の9C8重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:117で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:118であり、ヒト化された抗体の15A2重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:119で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:120であり、ヒト化された抗体の5B6重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:121で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:122であり、ヒト化された抗体の7B7重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:123で、その軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:124である。
【0014】
発現ベクターは、上記抗体の核酸分子を含む。
【0015】
薬物組成物は、上記抗体又はその機能断片と、薬用ベクターと、を含む。
上記抗体又はその機能的断片、核酸分子、発現ベクター、宿主細胞、薬物組成物は、B7H3免疫機能的薬物の調製のための用途で用いられる。
【0016】
本件特許では、哺乳動物細胞発現系を用いて、組換えB7H3受容体タンパク質を抗原として調製し、マウスを免疫した後、マウス脾臓細胞を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマ細胞を取得する。大量のハイブリドーマ細胞を複数回もクローニングしたり、スクリーニングしたりすることにより、複数のモノクローナル抗体ドーマ細胞株を取得する。それらのハイブリドーマ細胞株は、B7H3受容体に特異的に結合するモノクローナル抗体を分泌して産生することができる(図1図2)。これらのモノクローナル抗体のうち、一部は明らかな細胞によるエンドサイトーシス機能を有し(図3図4)、一部はヒト免疫細胞による細胞因子、例えば、IFN-γの分泌を促進する機能を有し(図5)、一部は明らかなADCC関与機能を有し(図6図7図8)、ここで、一部のモノクローナル抗体は、将来のADC、ADCC及びB7H3アンタゴニストの開発に用いられてもよい。さらに、RT-PCR(Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)によって、抗体における軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の遺伝子をクローニングしてコーディングし、相補性決定クラスター接木法(complementaryarity-determiningregiongraft、CDR-graft)を用いて、ヒト化された抗体を構築する。体外機能実験により、ヒト化されたB7H3抗体は、B7H3受容体タンパク質と特異的に結合することができる(図9図10)とともに、明らかな細胞によるエンドサイトーシス機能を保っており(図11)、MMAE毒素をカップリングした後、Calu-6腫瘍細胞に対して、明らかな毒殺機能(図12)、ADCC関与機能(図13)、NK92MI-hCD16細胞を介したJurkat-B7H3及びPC9細胞に対するADCC毒殺機能(図14)、及び、ヒト免疫細胞による細胞因子、例えば、IFN-γの産生及び分泌を促進する機能(図15)を有することが判明された。本件特許で用いられる陽性対照抗体は、特許US8802091及びWO2017180813Alに由来する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明における具体的な実施形態または従来技術の技術案をより明確に説明するために、以下は、具体的な実施形態または従来技術の説明に必要な添付図面を簡単に紹介する。明らかなことに、以下で説明している添付図面は、本発明の幾つかの実施例に過ぎず、当業者にとって、創造的な労力を払わずに、これらの添付図面を基にして他の添付図面を得ることが可能である。
【0018】
図1】ELISA法により、B7H3ハイブリドーマモノクローナル抗体とB7H3-hFcタンパク質との結合特性を測定することを示す。
図2】FACS法により、B7H3ハイブリドーマモノクローナル抗体とPC9細胞との結合特性を測定することを示す。
図3】FACS法により、B7H3ハイブリドーマ抗体のJurkat-B7H3細胞によってエンドサイトーシスされる活性を測定することを示す。
図4】FACS法により、B7H3ハイブリドーマ抗体のPC9細胞によってエンドサイトーシスされる活性を測定することを示す。
図5】B7H3ハイブリドーマ抗体によるヒトのPBMS細胞IFN-γの分泌への促進作用を示す。
図6】レポーター遺伝子法により、B7H3ハイブリドーマ又はキメラ抗体が関与するJurkat-B7H3細胞に対するADCC機能を測定することを示す。
図7】レポーター遺伝子法により、幾つかのB7H3キメラ抗体が関与するPC9腫瘍細胞に対するADCC機能を測定することを示す。
図8】レポーター遺伝子法により、幾つかのB7H3キメラ抗体が関与するDLD1腫瘍細胞に対するADCC機能を測定することを示す。
図9】ELISA法により、ヒト化されたB7H3モノクローナル抗体とB7H3-Hisタンパク質との結合特性を測定することを示す。
図10】FACS法により、ヒト化されたB7H3モノクローナル抗体とPC9細胞におけるB7H3タンパク質との結合特性を測定することを示す。
図11】FACS法により、ヒト化されたB7H3モノクローナル抗体がPC9細胞によってエンドサイトーシスされることを測定することを示す。
図12】ヒト化されたB7H3抗体ADCによるCalu-6腫瘍細胞に対する毒殺機能を示す。
図13】レポーター遺伝子法により、ヒト化されたB7H3抗体によるJurkat-B7H3細胞およびPC9細胞に対するADCC機能を測定することを示す。
図14】ヒト化されたB7H3抗体が関与するNK92MI-hCD16細胞によるJurkat-B7H3細胞およびPC9細胞に対するADCC毒殺機能とを示す。
図15】ヒト化されたB7H3モノクローナル抗体によるヒトのPBMS細胞IFN-γの産出および分泌への促進作用を示す。
【具体的な実施形態】
【0019】
本文で用いられる用語の「抗体」は、最も広い意味で使われ、抗原と特異的に結合する1つ以上の抗原結合ドメインを含む免疫グロブリンまたは他の類別の分子を含み、特定の抗原に対して結合特異性を示すタンパク質またはポリペプチドである。抗体の具体的な実例として、完全抗体(例えば、従来の四鎖抗体分子)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体などが挙げられる。従来の抗体分子は、通常、同一の2重鎖および同一の2軽鎖をジスルフィド結合で互いに連結してなるテトラマーである。アミノ酸配列の保存的差異により、重鎖と軽鎖は、アミノ基端に位置する可変領域(V)と、カルボキシル末端に位置する定常領域(C)とに分けられる。可変領域は、抗原に対する識別や結合を行うためのものであり、定常領域(例えば、Fc断片)は、抗体依存性細胞関与の細胞傷害作用(ADCC)のような下流効果を機能させるためのものである。重鎖可変領域及び軽鎖可変領域において、それぞれ3つの局所領域のアミノ酸組成があり、配列順序が更に高い変異度合いを有し、抗体と抗原の結合にとっての重要な位置となる。そのため、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる。CDRのアミノ酸配列は、当業界で公認された番号の方案、例えば、Kabat、Chothia、IMGT、AbM又はContactにより、容易に特定されることが可能である。
【0020】
抗体の「抗原結合断片」とは、抗体分子における抗原との特異的結合に関与するアミノ酸断片のことを指し、例えば、F(ab’)2、Fab及びscFvのうちの1つであってもよい。
【0021】
EC50(concentration for 50% of maximal effect)とは、最大効果50%をもたらす濃度のことを指す。酵素結合免疫吸着測定(ELISA)では、抗体分子と対応する抗原との結合能力を表す場合、最大検出シグナル(例えば、測色強度又は蛍光強度)の半分を産生するときの抗体分子濃度のことを指してもよい。EC50値が低いほど、抗原との結合親和力が大きくなる。
【0022】
本発明は、B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片に関し、重鎖および軽鎖を含み、前記重鎖のCDR1アミノ酸配列は、SEQ ID NO:29、35、41、47、53、59、65、71、77、83、89、95、101、107のうちの1つから選ばれ、前記重鎖のCDR2アミノ酸配列は、SEQ ID NO:30、36、42、48、54、60、66、72、78、84、90、96、102、108のうちの1つから選ばれ、前記重鎖のCDR3アミノ酸配列は、SEQ ID NO:31、37、43、49、55、61、67、73、79、85、91、97、103、109のうちの1つから選ばれ、前記軽鎖のCDR1アミノ酸配列は、SEQ ID NO:32、38、44、50、56、62、68、74、80、86、92、98、104、110のうちの1つから選ばれ、前記軽鎖のCDR2アミノ酸配列は、SEQ ID NO:33、39、45、51、57、63、69、75、81、87、93、99、105、111のうちの1つから選ばれ、前記軽鎖のCDR3アミノ酸配列は、SEQ ID NO:34、40、46、52、58、64、70、76、82、88、94、100、106、112のうちの1つから選ばれ、ここで、前記抗原結合断片における重鎖と軽鎖は、それぞれ前記抗体の重鎖と軽鎖のCDR1~CDR3にわたるアミノ酸配列を含む。
本発明が提供するB7H3抗体又はその抗原結合断片は、重鎖CDRおよび軽鎖CDRを含み、前記重鎖CDRおよび前記軽鎖CDRは、a~nに示されるCDR組合せから選ばれた1つ以上の組を有する。
【0023】
【表10】
【0024】
幾つかの実施形態では、前記重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27のうちの1つから選ばれ、前記軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28のうちの1つから選ばれる。
【0025】
幾つかの実施形態では、前記B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域は、A~Nに示される可変領域組合せのうちの1つ以上の組から選ばれる。
【0026】
【表11】
【0027】
一般的に当業者が理解できるように、抗体又はその抗原結合断片の機能的変異体も本発明の範囲内にあり、本文に用いられる用語「機能的変異体」とは、母体タンパク質分子(例えば、天然タンパク質分子)を基にして1つ以上のアミノ酸を挿入、欠失又は置換するように導入して得られた変異体分子のことを指し、依然として、母体タンパク質分子の少なくとも一部の機能(特に注目されている機能、例えば、対応する抗原との結合能力)を保留したものである。
CDR領域について、本発明における機能的変異体は、重鎖相補性決定領域と軽鎖相補性決定領域を含み、a~nに示される相補性決定領域の組合せのいずれか1つと比べて、それぞれ、最多で3つのアミノ酸の変異(例えば、1つ、2つまたは3つのアミノ酸の置換、欠失又は追加、又はそのうちの任意の組合せ)を含む。好ましくは、前記変異は、保存的変異である。
【0028】
可変領域について、幾つかの実施形態では、本発明における機能的変異体は、重鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、組み合せA~Nに示される重鎖可変領域配列のうちのいずれかとは、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する配列を含む。幾つかの実施形態では、本発明における機能的変異体は、軽鎖可変領域を含み、前記軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、組み合せA~Nに示される軽鎖可変領域配列のうちのいずれかとは、少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する配列を含む。「同一性」という用語は、2つのアミノ酸又はヌクレオチド配列同士間(例えば、クエリ配列と基準配列の間)の一致性の度合を指し、一般的に百分率で表される。通常、2つのアミノ酸又はヌクレオチド配列同士間の一致率(百分率)を計算する前に、配列アライメント(alignment)をまず行い、(ギャップがあれば)そのギャップ(gap)を導入する。或る比較位置にて、2つの配列におけるアミノ酸残基又は塩基が同じであれば、その2つの配列が当該位置において一致し、又は、マッチングしたと考えられる。2つの配列におけるアミノ酸残基又は塩基が異なるものであれば、両者が当該位置において一致しない、又はマッチングしないと考えられる。幾つかのアルゴリズムでは、配列の一致性は、マッチングした位置の数量を照合窓における位置の総数で除算することによって得られる。他の幾つかのアルゴリズムでは、ギャップの数量及び/又はギャップの長さも考慮されている。汎用的な配列比較アルゴリズムまたはソフトウェアとして、DANMAN、CLUSTALW、MAFFT、BLAST、MULCLEなどが含まれる。本発明の目的からすると、公開された比較ソフトウェアBLAST(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/より得られる)が用いられ、デフォルトの設定を行うことにより、最適な配列比較が得られるとともに、2つのアミノ酸またはヌクレオチド配列同士間の配列一致性を算出してもよい。
【0029】
機能的変異体は、B7H3に特異的に結合する能力を備えている。当業者であれば、公知の技術を用いて、本明細書に記載されている抗原結合分子の適切な変異体を確定することができるはずである。幾つかの実施形態では、当業者は、活性化された適切な領域を破壊することなく、抗体またはその抗原結合断片のうち、B7H3に特異的に結合するための活性に対して重要ではない領域を同定することができる。
【0030】
幾つかの実施形態では、前記B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、マウス化またはヒト化されたものである。
幾つかの実施形態では、前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域はヒト化されたものである。
【0031】
幾つかの実施形態では、前記重鎖および前記軽鎖はヒト化されたものである。
用語の「ヒト化された抗体(humanized antibody)」は、CDR移植抗体(CDR-grafted antibody)とも呼ばれ、第1の動物由来のCDR配列をヒトの抗体可変領域フレームワークに移植し、すなわち異なるタイプのヒト系抗体骨格配列に移植して産生された抗体のことを指す。キメラ抗体はマウスタンパク質成分を大量に含むことにより、異種反応を誘導してしまうことを回避することができる。このようなアーキテクチャ配列は、種別系抗体遺伝子配列を含む共通DNAデータベースまたは公開された参考文献から得られる。ヒト重鎖・軽鎖可変領域遺伝子のような種別系DNA配列は、「VBase」人種系配列データベース(www.mrccpe.com.ac.uk/vbase)から得られ、また、Kabat、E.A.らよる『Sequences of Proteins of Immunological Interest』(1991年、第5版)から見つけることが可能である。免疫原性の低下と同時に引き起こされた活性の低下を回避するために、上述したヒト抗体可変領域フレームワーク配列に対して、最小逆方向異変又は復帰変異を実行することにより、活性を保持してもよい。本発明におけるヒト化された抗体は、さらに、ファージディスプレイにより、CDRを親和性成熟させたヒト化された抗体も含む。本発明における好適な一実施形態では、第1の動物由来はマウス由来である。
【0032】
幾つかの実施形態では、前記重鎖および前記軽鎖はヒト化されたものであり、ヒト化された前記重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:113、115、117、119、121、123のうちの1つから選ばれ、ヒト化された前記軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:114、116、118、120、122、124のうちの1つから選ばれる。
【0033】
幾つかの実施形態では、ヒト化された前記重鎖可変領域および前記軽鎖可変領域は、1~6に示される可変領域組合せのうちの1つ以上の組から選ばれる。
【0034】
【表12】
【0035】
幾つかの実施形態では、前記重鎖および前記軽鎖はヒト化されたものであり、ヒト化された前記重鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:113であり、ヒト化された前記軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列は、SEQ ID NO:114である。
【0036】
幾つかの実施形態では、前記B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片は、ヒトIgG1の定常領域を有する。
【0037】
本発明は、B7H3活性またはB7H3レベルを調節する薬物、顕著なエンドサイトーシス機能(腫瘍を毒素カップリングによって選択的に死滅または抑制することができる機能)を有し、又は、顕著な抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有し、又は、B7H3の免疫抑制における作用をブロッキングすることによって生体免疫力を向上する薬物、Tリンパ球を促す薬物、又は、IFN-γのようなTリンパ球における細胞因子の産生を向上する薬物の調製における、B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片の用途にも関する。
本発明は、モノクローナル抗体とカップリング部分を含み、前記モノクローナル抗体は、上述したような1組のB7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片であり、前記カップリング部分は、放射性核種、薬物、毒素、細胞因子、細胞因子受容体断片、酵素、フルオレセイン、及びビオチンのうちの1つ以上から選ばれる、モノクローナル抗体カップリング剤にも関する。
【0038】
本発明は、B7H3活性またはB7H3レベルを調節する薬物、顕著なエンドサイトーシス機能(腫瘍を毒素カップリングによって選択的に死滅または抑制することができる機能)を有する薬物、顕著な抗体依存性細胞毒性(ADCC)を有する薬物、B7H3の免疫抑制における作用をブロッキングすることによって生体免疫力を向上する薬物、Tリンパ球を促す薬物、又は、IFN-γのようなTリンパ球における細胞因子の産生を向上する薬物の調製における、上述したようなモノクローナル抗体カップリング剤の用途にも関する。
【0039】
本発明は、腫瘍を予防及び/又は治療および/又は補助治療する薬物の調製における、上述したようなモノクローナル抗体カップリング剤の用途にも関する。
【0040】
本発明は、上記抗体の核酸分子を含む発現ベクターにも関する。
本発明は、上記B7H3モノクローナル抗体又はその抗原結合断片を含む発現ベクターにも関する。
【0041】
「ベクター(vector)」との用語は、ポリヌクレオチドが挿入されてもよい核酸搬送ツールのことを指す。ベクターは、挿入されたポリヌクレオチドによりコーディングされたタンパク質を発現させることができる場合、発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、形質転換、形質導入又は形質転換により宿主細胞に導入されて、担持された遺伝物質素子を宿主細胞に発現させることができる。ベクターは、当業者により公知されたものであり、プラスミド、ファージミド、コスミド、人工染色体(例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)又はP1由来の人工染色体(PAC))、ファージ(例えば、λファージ又はM13ファージ)、及び、動物ウイルス等を含むが、それらに限定されない。ベクターとして用いられてもよい動物ウイルスは、逆転写酵素ウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス)、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、パピローマウイルス(例えばSV40)を含むが、それらに限定されない。幾つかの実施形態では、本発明に記載のベクターは、遺伝子工学における汎用的な調節因子、例えば、エンハンサー、プロモーター、内部リボソーム進入部位(IRES)及びその他の発現制御要素(例えば、転写終了シグナル、又はポリアデニル酸化シグナルやポリヌクレオチド配列等)を含む。
【0042】
本発明では、ベクターは、組成物であってもよく、例えば、複数のプラスミドの混合物であってもよいし、異なるプラスミド負荷抗体又はその抗原結合断片の一部であってもよい。
【0043】
本発明は、上記抗体又はその機能断片(のうちの少なくとも1つ)と、薬用ベクターと、を含む薬物組成物にも関する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「薬用ベクター」は、活性成分と組み合わせられるときに、上記成分が生物学的活性を保持するとともに、被験者の免疫系と反応しない任意の材料を含む。実例として、標準的な薬用ベクター(例えば、リン酸緩衝塩水溶液、水、エマルジョン(油/水エマルジョン等)および各種の湿潤剤のいずれかが含まれるが、それらに限らない。そのようなベクターを含む組成物は、公知された一般的な方法により調製される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、A.Gennaroより編集、Mack Publishing Co.、Eason、PA、1990、および、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第21版、MackPublishing、2005を参照)。
【0045】
本発明は、上記抗体又はその機能的断片、核酸分子、発現ベクター、宿主細胞、薬物組成物は、B7H3免疫機能的薬物の調製のための用途で用いられることにも関する。
【0046】
以下は、実施例を結び付けながら、本発明の実施形態を詳しく説明する。
【実施例
【0047】
抗B7H3抗体を産生するマウス免疫及び細胞融合
ヒト化されたB7H3(NCBI Reference Sequence:NM_001024736.2)の 細胞外領域およびmFc融合タンパク質(B7H3-ECD-mFc)を抗原として、等体完全フロイントアジュバント(Sigma、Cat.No.:F5581)と十分に乳化した後、6~8週齢のBalb/cマウス(ジョーエン(蘇州)新薬研究センター有限公司から購入)に対して皮下による免疫を実行し、抗原免疫量が50μg/匹である。その後、2週間おきに、同じ用量の抗原を不完全フロイントアジュバント(Sigma、Cat.No.:F5506)と十分に乳化させた後、マウスに対して皮下による免疫を3回実行する。3回の免疫を行った後、マウスの血清価を測定し、融合よりも前の3日間は、1回の補強免疫を腹腔注射により行う。PEG Hybri-Max(Sigma、Cat.No.:7181)を融合剤とし、マウスの脾臓細胞をSP2/0細胞と4:1の割合で混合し、融合した細胞を96ウェルプレートに入れ(1×10個/ウェル)、1ウェルあたりに、0.1mLの1×HAT(Invitrogen、Cat.No.:21060-017)培地を含有する。3日目に、0.1mLのHT(Invitrogen、Cat.No.:11067-030)培地を入れ、7日目に96ウェルプレートにおける培地を吸い取り、新鮮なHT培地を0.2mL追加する。9日目に、上澄み液を採取して各種のスクリーニングやテストを行う。
【実施例
【0048】
ハイブリドーマ抗体による抗原結合力及びサブクローニング
ハイブリドーマ抗体による結合力のテストには、ELISAと、FACSと、有限希釈法を用いたサブクローニングとが含まれる。
【0049】
1)ELISAにより、B7H3結合陽性クローンをスクリーニングする。50μLのB7H3-hFc(最終濃度:2μg/mL)を用いて、96ウェルELISAプレート(Corning、Cat.No.:9018)を包んで、室温で終夜放置する。洗浄緩衝液(PBS+0.05%Tween20)で3回も洗浄した後、ブロッキング緩衝液(PBS+2%BSA(Sigma、Cat.No.:V90093))を加えて室温で1時間インキュベートし、洗浄緩衝液でELISAプレートを3回洗浄する。ハイブリドーマ上澄み液を加えて、室温で1時間インキュベートし、3回も洗浄する。各ウェルには、100μLの10000倍希釈したHRPカップリングヤギ抗マウスIgG二次抗体(Thermo、Cat.No.:31432)を加えて、室温で1時間光遮蔽でインキュベートし、3回洗浄する。各ウェルには、100μL TMB(北京百奥賽博、Cat.No.:ES-002)を加えて、室温で2分間インキュベートして発色させ、100μL/ウェルの終止液(2NH2SO4)を加えて発色反応を終了させ、マイクロプレートリーダー(Tecan Spark)で各ウェルのOD450数値を読み取る。
【0050】
2)FACSにより、B7H3結合陽性クローンをスクリーニングする。上述した検出において陽性であるハイブリドーマ上澄み液又は精製したハイブリドーマ抗体を50μL取ってから、50μLの293T-B7H3細胞と混合し(2×10個/ウェル)、96ウェルU底細胞プレートに添加して4oCで1時間インキュベートし、FACS緩衝液(PBS+3%FCS)で2回も洗浄して遠心分離させ、400倍希釈したPE標識のヤギ抗マウス抗(Biolegend、Cat.No.:405307)を加えて、4oCで30分間光遮蔽でインキュベートし、FACS緩衝液で2回も洗浄して遠心分離させてから、BDAccuiC6のフローサイトメーターでPEパスにおける細胞のシグナル値を検出する。
【0051】
3)サブクローニングする。有限希釈法により、サブクローニングする。即ち、上述したELISAおよびFACSによる検出において陽性であるポリクローナルハイブリドーマ細胞に対してサブクローニングを行い、その後、ELISAおよびFACSの方法による検出スクリーニングを繰り返して、陽性ハイブリドーマモノクローンを取得する。
【0052】
抗体の精製、濃度の測定及びエンドトキシンの測定
陽性であるモノクローナルハイブリドーマ細胞を50mLの無血清培地に置いて(Invitrogen、Cat.No.:12045-076)、8~9日間培養した後、遠心分離して上澄み液を回収する。Protein Aアフィニティークロマトグラフィーにより、モノクローナル抗体を精製し、精製した抗体サンプルに対して、限外濾過遠心チューブ(Millipore、Cat.No.:ACS500024)による液交換および濃縮を行い、その後、BCA法により、タンパク質濃度を測定し、カブトガニ試薬(厦門リムルス試薬生物科学株式有限公司)を用いて、精製した抗体サンプルのエンドトキシンの含有量を検出する。
【0053】
精製した抗体サンプルのB7H3との結合能力をELISAおよびFACSにより検出し、その結果を図1(a~b)、図2(a~b)および表1に示す。選択されたハイブリドーマ抗体は、いずれも高い親和力を有するものである。
【0054】
表1 B7H3ハイブリドーマモノクローナル抗体とB7H3抗原の結合力EC50の値
【表1】
【実施例
【0055】
ハイブリドーマモノクローナル抗体のエンドサイトーシス機能及びB7H3ブロッキング機能のテスト
抗体のエンドサイトーシス機能に対する分析:96ウェルプレートにおいて、各ウェルに50μLの2×10/mlPC9細胞及び50μLの標識されたB7H3抗体を加え、96ウェル細胞培養プレートを4℃で1時間インキュベートし、FACS bufferで2回洗浄した後、PH依存性蛍光染料であるCypHer5E(GE、Cat.No.:PA15401)により標識されたGoat anti-mFc(Jackson、Cat.No.:115-005-071)二次抗体を加えてから、4℃で0.5時間インキュベートし、2回洗浄した後、培地(1640+10%FBS)に入れ、インキュベーターで3時間放置してから、培地を遠心分離して除去し、PH9.0のPBSにおいて再懸濁し、BD C6フローサイトメーターでPC9細胞のCypHer5Eシグナルを検出し、B7H3抗体が細胞内部に入る効率を算出する。図3(a~d)及び図4(a~d)に示されるように、Jurkat-B7H3及びPC9細胞は、B7H3抗体(15A2、5B6、7C9、2F7、7B7、2E10、4F11等を含む)に対して、顕著なエンドサイトーシス活性を有するものである。
【0056】
ヒトPBMC細胞による細胞因子の分泌に対するB7H3ハイブリドーマ抗体の影響へのテスト:96ウェル(Corning、Cat.No.:3799)において、完全培地(RPMI1640+10%FCS)で再懸濁したPBMC細胞(TPCS、Cat.No.:PB025C)を加えてから、さらに40ng/mLのOKT3(eBioscience、Cat.No.:16-0037-85)を加え、37℃で72時間インキュベートする。活性化されたPBMC細胞をカウントした後、完全培地で再懸濁する(2.5×10細胞/mL)。96ウェルプレートにおいて、各ウェルにPBMC細胞を100μL、異なる濃度のB7H3抗体(開始濃度が20μg/mLで、10倍系希釈したもの)を50μL加えて、96ウェル細胞培養プレート(Corning、Cat.No.:3599)を37℃で、5%のCOインキュベーターで48時間インキュベートし、上澄み液を回収する。細胞因子の濃度をIFN-γ ELISAキット(R&D Systems、Cat.No.:DY285)で検出する。図5に示されるように、B7H3抗体は、5B6、2F12、2F7、15A2、13A2、14B3、4F11、2A9などを含み、PBMC細胞によるIFN-γの分泌を著しく促すことができる。
【実施例
【0057】
B7H3抗体の可変領域遺伝子クローニング及び配列測定
B7H3モノクローナルハイブリドーマ細胞株をTRIzon(Cwbiotech、Cat.No.:CW0580)で分解し、ハイブリドーマ細胞の全RNAを抽出する。ハイブリドーマ細胞のRNAをHiFi Script cDNA合成キット(Cwbiotech、Cat.No.:CW2569)でcDNAに逆転写する。cDNAをテンプレートとして、簡便なプライマーを用いて、PCR法(Kettleboroughetal.、(1993)、EurJImmunology23:206-211;Strebe、etal.、(2010)、AntibodyEngineering1:3-14)により、 抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域遺伝子を増幅する。PCR増幅産物をT/Aベクターに接続した後、DH5aコンピテントセルを転化し、塗板して37℃で一晩培養する。培養プレートからモノクローンをピックアップして、拡大して培養した後、プラスミドを抽出し、抗体の遺伝子配列を測定する。抗体の遺伝子配列に基づいて、その相補性決定クラスター(CDR)及びスケルトン領域を解析する。B7H3抗体の配列番号を表2に示し、具体的な配列情報について、配列表を参照されたい。
【0058】
表2 B7H3抗体の配列番号の説明


【表2-1】
【表2-2】

【表2-3】


【表2-4】

【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【実施例
【0059】
ハイブリドーマモノクローナル抗体のADCC活性テスト
レポーター(Reporter)遺伝子法により、抗体のADCC活性をテストする。293T-B7H3、PC9又はDLD1腫瘍細胞を標的細胞とし、Jurkat-mCD16.2-NF-kB又はJurkat-hCD16-NF-kB細胞をエフェクター細胞とし、mCD16.2又はhCD16に介入された転写因子NF-kBの活性化シグナルを用いて、ADCC陽性クローンをスクリーニングする。上述したELISA及びFACSによる検出において陽性であるハイブリドーマ抗体を50μL取って、25μLの293T-B7H3、PC9又はDLD1腫瘍細胞(7.5×10個/ウェル)と混合し、96ウェルプレートに加えてから、さらに25μLのJurkat-mCD6.2-NF-kB細胞(2.5×10個/ウェル)を加え、均一に混合し、37℃でのインキュベーターに置いて4時間インキュベートする。各ウェルに、予熱したBright-Glo溶液(Promega、Cat.No.:E2620)を25μL入れて、室温で光遮蔽で3分間静置し、マイクロプレートリーダー(Tecan Spark)により、各サンプルのコールド発光(Luminescence)シグナル値を測定する。
【0060】
ハイブリドーマ抗体において、マウスのIgG1抗体はADCC活性を有しない。そのため、遺伝子配列測定により、14個のハイブリドーマ抗体のうち、9個はマウスIgG1をベースとし、5個はIgG2bまたはIgG2aをベースとすることが判明された(表3を参照)。図6aには、ハイブリドーマ抗体のJurkat-B7H3を標的細胞としたADCCレポーター遺伝子のテスト結果が表示される。予期通り、IgG2bまたはIgG2aをベースとした5個のハイブリドーマ抗体はADCC活性を有するが、マウスIgG1をベースとした9個のハイブリドーマ抗体は活性を有しない。そのため、マウスIgG1をベースとした9個のハイブリドーマ抗体について、Fcの置換を行い、図6bに示されるように、それらの抗体を、ヒトIgG1をベースとしたキメラ抗体とした。図7図8には、PC9又はDLD1腫瘍細胞を標的細胞としたADCCレポーター遺伝子のテスト結果が示され、抗体の形態がヒトIgG1をベースとしたキメラ抗体である。ADCCレポーター遺伝子のテスト結果を総括的にみると、ADCC活性が相対的に強いものとして、9C8、5B6、7C9、F5、7E6、2A9、4F11などが含まれる。
【0061】
表3 B7H3ハイブリドーマ抗体のFcタイプ
【表3】
【実施例
【0062】
ヒト化されたB7H3抗体2A9、4F11、9C8、15A2、5B6及び7B7
ハイブリドーマ抗体の各面での特性を総合的に考察したところ、2A9、4F11、9C8、15A2、5B6及び7B7を含む6個のB7H3抗体を選択して、ヒト化形質転換を進行させる。
【0063】
相補決定クラスターグラフト法により、B7H3抗体に対するヒト化形質転換を進行する。まず、IMGTデータベースにおいて、マウス2A9、4F11、9C8、15A2、5B6および7B7抗体の軽鎖可変領域配列、重鎖可変領域配列との相同性が最も高いヒト胚系抗体(germline antibody)配列をそれぞれ調べる。2A9抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-11*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-2*02が選択される。4F11抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-11*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-2*02が選択される。9C8抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-11*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-46*01が選択される。15A2抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-11*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-8*01が選択される。5B6抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-39*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-69*02が選択される。7B7抗体の軽鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGKV3-39*01が選択され、重鎖可変領域に対するヒト化には、胚系IGHV1-21*01が選択される。マウス抗体のCDR領域を残し、マウス抗体のフレームワーク領域(framework)配列をヒト胚性抗体のフレームワーク領域配列で置き換える。マウス抗体の構造モデルを確立し、ヒト化された抗体と、相応なマウス抗体フレームワーク領域における各部位とのアミノ酸を1つずつ比較する。フレームワーク領域におけるある部位には、ヒトのアミノ酸配列が用いられても、CDR領域の空間構造が破壊されたり、変化したりすることがない場合、当該部位に対して、ヒトのアミノ酸配列を適用するが、さもなければ、当該部位に対して、対応するマウス配列を適用する(即ち、復帰変異がマウス配列である)。
【0064】
構造シミュレーションでは、2A9抗体のヒト化された重鎖における24番目のAlaをThrに、48番目のMetをIleに、67番目のValをAlaに、69番目のMetをLeuに、71番目のArgをValに、73番目のThrをLysにそれぞれ復帰変異する。2A9抗体のヒト化された軽鎖における46番目のLeuをArgに、47番目のLeuをTrpに、48番目のIleをValに、71番目のPheをTyrに復帰変異する。4F11抗体のヒト化された重鎖における24番目のAlaをThrに、48番目のMetをIleに、67番目のValをAlaに、69番目のMetをLeuに、71番目のArgをValに、73番目のThrをLysにそれぞれ復帰変異する。4F11抗体のヒト化された軽鎖における46番目のLeuをArgに、47番目のLeuをTrpに、48番目のIleをValに、71番目のPheをTyrに復帰変異する。9C8抗体のヒト化された重鎖における48番目のMetをIleに、67番目のValをAlaに、69番目のMetをLeuに、71番目のArgをValに、73番目のThrをLysにそれぞれ復帰変異する。9C8抗体のヒト化された軽鎖における2番目のIleをThrに、46番目のLeuをArgに、47番目のLeuをTrpに、71番目のPheをTyrにそれぞれ復帰変異する。15A2抗体のヒト化された重鎖における48番目のMetをIleに、67番目のValをAlaに、69番目のMetをLeuに、71番目のArgをAlaに、73番目のThrをLysにそれぞれ復帰変異する。15A2抗体のヒト化された軽鎖における36番目のTyrをPheに、47番目のLeuをTrpに、49番目のTyrをHisに、58番目のIleをPheに、71番目のPheをTyrにそれぞれ復帰変異する。5B6抗体のヒト化された重鎖における27番目のGlyをTyrに、30番目のSerをIleに、48番目のMetをIleに、67番目のValをAlaに、69番目のIleをLeuにそれぞれ復帰変異する。5B6抗体のヒト化された軽鎖における46番目のLeuをArgに、47番目のLeuをProに、66番目のGlyをAlaに、71番目のPheをTyrに、98番目のPheをIleにそれぞれ復帰変異する。7B7抗体のヒト化された重鎖における49番目のSerをAlaに復帰変異する。7B7抗体のヒト化された軽鎖における2番目のIleをSerに、48番目のIleをValにそれぞれ、復帰変異する。
【0065】
ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:113とSEQ ID NO:114である。4F11ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:115とSEQ ID NO:116である。9C8ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:117とSEQ ID NO:118である。15A2ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:119とSEQ ID NO:120である。5B6ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:121とSEQ ID NO:122である。7B7ヒト化された抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列番号は、それぞれ、SEQ ID NO:123とSEQ ID NO:124である。以上のヒト化された抗体をIgG1サブタイプとして構築する。ヒト化された抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域におけるアミノ酸配列情報を表4に示す。
【0066】
番号が2A9、4F11、9C8、15A2、5B6及び7B7であるヒト化された抗体の軽鎖及び重鎖における核酸配列を合成して、発現ベクターpcDNA3.1に挿入する。0.1mgの抗体軽鎖と0.1mgの抗体重鎖の発現プラスミドを用いて、200mLの293細胞(細胞密度が1×10/mL)を共形質転換し、37oCシェーカーで6日間培養してから、遠心分離して上澄み液を回収し、Protein Aでヒト化された抗体を精製し、精製したヒト化された抗体に対する活性の検出を行う。
【0067】
表4 B7H3ヒト化された抗体の配列表


【表4】
【実施例
【0068】
ヒト化されたB7H3抗体とB7H3との結合作用
ELISA、FACSにより、ヒト化されたB7H3抗体サンプルとB7H3タンパク質との結合活性を検出し、具体的な方法について、実施例2を参照されたい。ヒト化された抗体hu2A9、hu4F11、hu5B6、hu9C8、hu15A2及びhu7B7に対する測定の結果を表5~6及び図9~10に示す。全体的にみると、本発明における抗体は、ヒト化された後、ヒト化される前の高抗原親和力の作用を保持することができる。特に、hu15A2、hu7B7及びhu5B6が挙げられる。
【0069】
表5 ELSIAによるヒト化されたB7H3抗体とB7H3-mFcタンパク質との結合作用への検出
【表5】
【0070】
表6 FACSによるヒト化されたB7H3抗体と細胞表面B7H3との結合作用への測定
【表6】
【実施例
【0071】
ヒト化されたB7H3抗体のエンドサイトーシス機能への検出
具体的な測定方法について、実施例3を参照されたい。その結果として、表7及び図11に示されるように、PC9細胞は、ヒト化されたB7H3抗体に対して顕著なエンドサイトーシス機能を有することが判明された。陽性対照(MacroGenicsによるMGA018とMSKCCの8H9)と照らして、本発明における抗体のエンドサイトーシス機能は、8H9よりもはるかに高い。また、hu15A2及びhu7B7は、同様にMGC018よりも高い。
【0072】
表7 PC9腫瘍細胞によるヒト化されたB7H3抗体へのエンドサイトーシス機能
【表7】
【実施例
【0073】
毒素とカップリングされるヒト化されたB7H3抗体(B7H3-ADC)によるCalu-6腫瘍細胞への毒殺機能
化学的なカップリング法により、Vc-MMAEをB7H3抗体にカップリングさせる。3:1モル比で、B7H3抗体をTCEPで還元し、37℃で45分間インキュベートし、限外ろ過によりTCEPを除去する。抗体を0.5mlのPBSで再懸濁し、B7H3抗体よりも6倍モル数のVc-MMAEを加えて、4℃で120分間インキュベートし、限外濾過によりカップリングされていないVc-MMAEを除去し、使用に備えて抗体濃度を検出する。96ウェルプレートに、100μlのPC9(各ウェルに5000細胞)および100μlの勾配的に希釈したB7H3-ADCを加える。37℃で5日間インキュベートした後、各ウェルにCellTiter-Gloをxμl添加し、蛍光強度を検出し、抗体が腫瘍細胞の増殖を抑制する能力を計算する。その結果、図12及び表8に示されるように、ヒト化されたB7H3抗体は、MMAE毒素にカップリングした後、Calu-6腫瘍細胞に対して顕著な毒殺機能を有し、MacroGeneの陽性対照(MGC018-MMAE)よりも強い活性を有することが判明された。
【0074】
表8 ヒト化されたB7H3抗体とMMAEのカップリング剤によるCalu-6腫瘍細胞に対する毒殺機能
【表8】
【実施例
【0075】
ヒト化されたB7H3抗体によるADCC機能への検出
具体的な測定方法について、実施例5を参照されたい。その結果、表9および図13に示されるように、ヒト化されたB7H3抗体は、顕著なADCC活性を有することが明らかになった。MGA271(MG-Ab)がMacrogenicsの抗体であり、それと比べて、ヒト化された9C8、5B6、2A9及び4F11抗体は、より小さいEC50値相を有し、より良いADCC活性を呈している。
【0076】
表9 ヒト化されたB7H3抗体によるADCC機能
【表9】
【実施例
【0077】
ヒト化されたB7H3抗体介入NK92MI-hCD16細胞によるJurkat-B7H3及びPC9細胞に対するADCC毒殺機能
NK92MI-hCD16を用いてNK細胞を模擬することで、B7H3抗体の殺傷腫瘍活性を評価する。25μlのCFSEで染色されたPC9(各ウェルに0.5×10細胞)と、25μlのNK92MI-hCD16(各ウェルに1×10細胞)とを混合し、勾配的に希釈されたB7H3抗体を50μl添加する。37℃で4時間インキュベートした後、各ウェルに7-AADを5μl添加し、室温で10分間インキュベートし、96ウェルプレートを遠心分離して上澄み液を再懸濁し、その後、フローサイトメーターを用いて、CFSE陽性細胞におけるCFSEおよび7-AAD二重陽性の細胞の割合を検出し、B7H3抗体介入のNK細胞殺傷活性が得られる。その結果、図14に示されるように、ヒト化されたB7H3抗体9C8、5B6、2A9及び4F11は、明らかに、NK92MI-hCD16細胞のPC9腫瘍細胞に対するADCC殺傷機能を引き起こすことができる。
【実施例
【0078】
ヒトPBMC細胞による細胞因子の分泌に対するヒト化されたB7H3抗体の促進機能
具体的な測定方法について、実施例3を参照されたい。その結果、図15に示されるように、ヒト化されたB7H3抗体5B6、2A9及び4F11は、ヒトPBMC細胞によるIFN-γの分泌を顕著に促進する機能を有する。
以上は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するものではない。即ち、本発明の特許請求の範囲及び実用新案に基づく簡単な等価変化及び補正であれば、本発明の特許出願の保護範囲に入っているものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】