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特表2024-521939改質アラミドパルプおよび改質アラミドパルプを含む摩擦材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】改質アラミドパルプおよび改質アラミドパルプを含む摩擦材
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/26 20060101AFI20240528BHJP
   D21H 15/12 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
D21H13/26
D21H15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574800
(86)(22)【出願日】2022-06-03
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 EP2022065180
(87)【国際公開番号】W WO2022258516
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】21178251.1
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】501469803
【氏名又は名称】テイジン・アラミド・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】Teijin Aramid B.V.
【住所又は居所原語表記】Tivolilaan 50, 6824 BW Arnhem, the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター ニジュイス
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル フェルトメン
(72)【発明者】
【氏名】アドリアヌス ファン ハーレン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン-セース ティーケン
(72)【発明者】
【氏名】フランク ディーダリング
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AF35
4L055AF47
4L055AG27
4L055AG56
4L055AG79
4L055AG81
4L055AG84
4L055AG85
4L055AG86
4L055AG87
4L055AH01
4L055BB03
4L055BE11
4L055EA03
4L055EA04
4L055EA07
4L055EA12
4L055EA16
4L055EA17
4L055EA32
(57)【要約】
本発明は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプに関する。また、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを製造する方法であって、アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはアラミドパルプをポリオキサゾリンと水溶液中で混ぜ合わせて、混合物を形成すること、混合物に対して叩解工程を行って、アラミドパルプの水性スラリーを形成することを含む方法も請求される。さらに、本発明は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを含む紙、ならびに前記紙および/またはポリオキサゾリンを含む前記アラミドパルプを含む摩擦材にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプ。
【請求項2】
乾燥パルプの重量を基準として、0.1~10重量%のポリオキサゾリン、好ましくは0.25~7.5重量%のポリオキサゾリン、より好ましくは0.5~5重量%のポリオキサゾリンを含む、請求項1記載のアラミドパルプ。
【請求項3】
前記ポリオキサゾリンが、ポリ-アルキル-2-オキサゾリン、好ましくはポリ-2-エチル-2-オキサゾリンである、請求項1または2記載のアラミドパルプ。
【請求項4】
前記ポリオキサゾリンが前記アラミドパルプの表面の少なくとも一部を被覆している、請求項1から3までのいずれか1項記載のアラミドパルプ。
【請求項5】
繊維幹とフィブリルとを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載のアラミドパルプ。
【請求項6】
2~20m/g、好ましくは3~15m/g、より好ましくは4~10m/gの範囲の比表面積および/または0.5~1.5mm、好ましくは0.6~1.4mmの範囲の長さLL0.25を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のアラミドパルプ。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載のアラミドパルプを含む紙。
【請求項8】
前記紙の重量を基準として、2~70重量%の前記アラミドパルプ、より好ましくは5~55重量%の前記アラミドパルプ、さらにより好ましくは10~35重量%の前記アラミドパルプを含む、請求項7記載の紙。
【請求項9】
填料と樹脂とを含み、好ましくは、前記紙の重量を基準として、5~55重量%の前記填料、より好ましくは20~40重量%の前記填料と、5~50重量%の前記樹脂、より好ましくは15~40重量%の前記樹脂とを含む、請求項7または8記載の紙。
【請求項10】
前記樹脂が、熱硬化性樹脂、好ましくは、フェノール樹脂、ビトリマー樹脂、ポリチオウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、およびエポキシ樹脂から選択される熱硬化性樹脂である、請求項7から9までのいずれか1項記載の紙。
【請求項11】
摩擦紙、セパレータ紙、またはハニカム紙である、請求項7から10までのいずれか1項記載の紙。
【請求項12】
請求項1から6までのいずれか1項記載のポリオキサゾリンを含むアラミドパルプまたは請求項7から11までのいずれか1項記載の紙を含む摩擦材。
【請求項13】
請求項1から6までのいずれか1項記載のポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを製造する方法であって、
- アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはアラミドパルプをポリオキサゾリンと水溶液中で混ぜ合わせて、混合物を形成すること、
- 前記混合物に対して叩解工程を行って、前記アラミドパルプの水性スラリーを形成すること
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記アラミドパルプの前記水性スラリーに対して脱水工程を行って、脱水パルプの重量を基準として、40~80重量%、好ましくは50~70重量%の範囲の含水率を有する前記脱水パルプを形成する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記脱水パルプに対して乾燥工程を行って、乾燥パルプの重量を基準として、2~20重量%、好ましくは3~10重量%の範囲の含水率を有する前記乾燥パルプを形成し、任意選択的に、それに続いて、前記乾燥パルプに対して開繊工程を行う、請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプ、前記パルプを含む紙、前記パルプまたは前記紙を含む摩擦材、およびポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを製造する方法に関する。
【0002】
アラミドパルプは知られており、例えば紙、摩擦材、特に摩擦紙などの様々な用途分野に使用されている。アラミドは、その高い強度および高温耐性について当該技術分野で知られている。
【0003】
摩擦紙、または紙ベースの摩擦材は、オートマチックトランスミッションのクラッチフェーシングなどの湿式摩擦用途に使用されることがある。これらの紙タイプの材料は、典型的には、機械的エネルギー伝達用途で使用するために、支持部材に接合される。摩擦紙は従来の製紙方法で製造されるが、これらの材料は、実際には、パルプ、填料、バインダー(通常は熱硬化性樹脂)を含み、任意選択的には繊維や摩擦添加剤などの更なる成分も含む、精巧な複合構造体である。
【0004】
摩擦紙は、それぞれの具体的な用途で適切な摩擦、騒音制御、温度耐性、および摩耗特性を与えるように配合された複合材料である。
【0005】
パルプ材は、機械的強度を高め、紙の多孔性を調整し、製紙中に填料を確実に保持するために存在する。アラミドパルプは、その非常に優れた機械的特性および熱的特性のため、パルプとして使用されることが多い。特にパラ-アラミドパルプは、優れた耐熱性、摩擦性能、および耐久性を示す。さらに、これは、騒音振動挙動(NVH)に関して優れた特性を示し、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)との化学的相互作用を示さない。また、金属繊維と比較して、優れた圧縮性および剪断強度特性、ならびに優れた柔軟性も備えている。
【0006】
国際公開第2006/012040号には、シールや摩擦材などの製品の補強材として使用するためのアクリルおよびパラ-アラミドパルプが記載されている。
【0007】
国際公開第2018/037015号には、摩擦紙用の改質アラミドパルプが記載されている。このアラミドパルプは、PVP(ポリビニルピロリドン)を備えており、摩擦紙に使用される。PVP改質アラミドパルプは摩擦性能を向上させる。
【0008】
それにもかかわらず、紙、特に摩擦紙におけるアラミドパルプの性能には、依然として改善の余地があることが判明している。特に、紙および材料、特に摩擦紙に、高い多孔性と組み合わされた高い剪断強度および高い引張強度を与えるアラミドパルプが必要とされている。加えて、紙中の填料の均質な分布を向上させて均質な紙を得るためには、高い填料保持率が所望されている。
【0009】
本発明は、この問題に対する解決手段を提供する。
【0010】
本発明は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプ(本明細書では「改質アラミドパルプ」ともいう)に関する。
【0011】
改質連続アラミド糸は、防弾生地および熱可塑性複合材料に使用するために記載されている。
【0012】
米国特許第5266076号明細書には、例えばフッ素化ポリオキサゾリンなどの仕上げ剤でコーティングされた連続アラミド繊維が記載されている。この連続繊維は防弾用途の生地に使用される。米国特許第5266076号明細書では、アラミドパルプ、紙、および摩擦材、特に摩擦紙については言及されていない。国際公開第01/34385号では、ポリ-2-オキサゾリンポリマーで被覆された繊維とポリマー樹脂とを含む熱可塑性複合材料が開示されている。国際公開第01/34385号では、パルプおよび紙については言及されていない。国際公開第01/34385号の繊維は連続繊維(すなわち基本的にエンドレス繊維)であり、ポリ-2-オキサゾリンで被覆された後にショートカットへと切断されてから熱可塑性樹脂で被覆された、ガラス繊維、炭素繊維、ニッケルめっき炭素繊維、および芳香族ポリアミド繊維などの繊維から選択されるものである。連続繊維およびショートカット繊維はパルプとは異なる。
【0013】
ポリオキサゾリンで改質されたアラミドパルプは、例えば摩擦紙などの紙や摩擦材に使用した場合に高い強度と高い多孔性との組み合わせになることが見出された。紙の多孔性が増加すると、多くの場合、機械的特性(引張強度、引裂き強度)は低下する。したがって、多孔性のレベルに悪影響を及ぼすことなく向上した機械的特性を併せ持つ摩擦紙、または増加した多孔性と、向上したもしくは均一な機械的特性とを併せ持つ摩擦紙に関心が持たれる。驚くべきことに、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、紙、特に摩擦紙にそのような特性を与える。加えて、ポリオキサゾリンによる改質により、紙の填料保持率を向上させることができる。
【0014】
パルプは不規則な形状の繊維質構造である。パルプは、剪断力を受けてフィブリルが形成された短繊維からなり、フィブリルの大部分は元の繊維の「幹」に連結しているが、薄いフィブリルは厚いフィブリルから剥がれている。これらのフィブリルはカールしており、ときにはリボン状であり、長さおよび太さにばらつきを示す。パルプは、短繊維(ショートカットとも呼ばれる)を、例えばリファイナーでフィブリル化することによって得られる。したがって、パルプは繊維の幹とフィブリルとを含む。フィブリル化により、パルプは、連続繊維またはショートカット繊維と比較して、異なる形態および異なる特性を持つ。特に、パルプは非常に短く、比表面積が大きい。
【0015】
本明細書に関連して、アラミドとは、アミドフラグメントを介して互いに直接連結された芳香族フラグメントを含むか、またはそのような芳香族フラグメントからなる芳香族ポリアミドを指す。アラミドを合成するための方法は当業者に知られており、典型的には、芳香族ジアミンと芳香族二酸ハロゲン化物との重縮合を含む。アラミドはメタ型とパラ型で存在することができ、その両方を使用することができる。好ましくは、本発明のアラミドパルプはパラ-アラミドパルプである。
【0016】
本願の目的のためには、パラ-アラミドという用語は、芳香族部位の間に少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%のパラ配向結合を有する全芳香族ポリアミドポリマーおよびコポリマーの分類を指す。一実施形態では、結合の少なくとも95%または全て(すなわち100%)がパラ配向結合である。
【0017】
典型的なパラ-アラミドは、ポリ(パラ-フェニレンテレフタルアミド)(PPTA)、ポリ(4,4’-ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラ-フェニレン-4,4’-ビフェニレンジカルボキサミド)、およびポリ(パラ-フェニレン-2,6-ナフタレンジカルボキサミド)、5,4’-ジアミノ-2-フェニルベンゾイミダゾール、またはポリ(パラ-フェニレン-co-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド)、またはそれらのコポリマーである。
【0018】
好ましくは、アラミドパルプは、(乾燥パルプの重量を基準として)0.1~10重量%のポリオキサゾリン、好ましくは0.25~7.5重量%のポリオキサゾリン、より好ましくは0.5~5重量%のポリオキサゾリンを含む。一実施形態では、アラミドパルプは、(乾燥パルプの重量を基準として)6重量%未満のポリオキサゾリン、好ましくは最大4重量%のポリオキサゾリンを含む。乾燥パルプは、3~8重量%の範囲の平衡含水率を有する。ポリオキサゾリンの量は、ポリオキサゾリンおよび平衡水分を含む乾燥パルプの総重量に対するものである。
【0019】
本発明に関連して、ポリオキサゾリンは、オキサゾリン部位に基づくポリマーに関し、オキサゾリンポリマーと呼ばれる場合もある。ポリオキサゾリンポリマーは、例えばエポキシ樹脂の硬化剤として使用され得る重合していないオキサゾリン化合物とは異なる。ポリオキサゾリンはオキサゾリン部位に基づく。オキサゾリンは5員複素環(3×C、O、N)であり、環内の二重結合の位置に応じて3つの異なる構造異性体が存在する。2-オキサゾリンはポリオキサゾリンを調製するために使用される。
【0020】
好ましくは、ポリオキサゾリンは、(置換される可能性がある)N-アシルエチレンイミン単位(直鎖、2-オキサゾリンモノマーの開環後に得られる)に基づき、主鎖炭素は好ましくは水素で置換されており、アシル基は水素またはC~Cアルキル(下記式中、RがHまたはC~Cアルキルである)、好ましくはエチル基(RがCアルキルである)で置換されている:
【化1】
【0021】
したがって、好ましくは、ポリオキサゾリンは、ポリ-アルキル-2-オキサゾリン、好ましくはポリ-2-エチル-2-オキサゾリン(PEOX)である。アルキルは、1~4個の炭素原子を有する一価の飽和の直鎖または分岐のヒドロカルビルラジカルを意味する。
【0022】
好ましくは、ポリオキサゾリンは、ハロゲン基、特にフッ素基を実質的に含まない。実質的に含まないとは、ポリオキサゾリンポリマーが5mol%未満のハロゲン基、好ましくは1mol%未満のハロゲン基、特にフッ素基を含むことを意味する。
【0023】
好ましくは、ポリオキサゾリンは、1000~1000000g/mol、好ましくは5000~750000g/mol、より好ましくは10000~600000g/mol、さらにより好ましくは200000~500000g/molの範囲の分子量を有する。幾つかの実施形態では、ポリオキサゾリンの分子量が増加すると、ポリオキサゾリンで改質されたパルプを含む紙の強度を向上させることができる。
【0024】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、通常、0.5~1.5mmの範囲、特に0.60~1.4mmの範囲、幾つかの実施形態では0.7~1.3mmの範囲の長さ(LL0.25)を有する。このパラメータは、公知の長さのパルプのサンプルで校正されたValmet FS5として知られるValmet繊維画像解析装置によって決定される。長さ加重長さLL0.25[mm]は、ISO 16065-2に従って決定される長さ加重平均長さであり、250μmを超える長さ、すなわち0.25mmを超える長さを有する粒子が含まれる。
【0025】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、通常、15~80°SRの範囲、特に16~60°SRの範囲、より具体的には17~40°SRの範囲のショッパーリグラー(SR)を有する。SRは、パルプおよび紙の技術の分野でよく使用されるパラメータである。これは、パルプの水懸濁液の排水性の尺度である。SRは、ISO5267/1に従って、Lorentzen and Wettre離解機で600カウントの間に2g(乾燥重量)のパルプを1Lの水に分散させることによって決定することができる。
【0026】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、通常、15~700mLの範囲、特に100~670mLの範囲、さらに具体的には200~650mLの範囲のカナダ標準濾水度(CSF)を有する。CSFは、パルプおよび紙の技術の分野でよく使用されるパラメータである。SRのように、これはパルプの水懸濁液の排水性の尺度である。CSFは、TAPPI T227に従って決定することができる。
【0027】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、2~20m/g、好ましくは3~15m/g、より好ましくは4~10m/g、または5~8m/gの範囲の比表面積(SSA)を有し得る。
【0028】
比表面積(m/g)は、Micromeritics製のTristar3000を使用し、BET比表面積法による窒素の吸着を用いて決定される。パルプは、オーブン内にて105℃で少なくとも3時間予備乾燥させられ、次いで、窒素を流しながら200℃で30分間脱気され、その後、比表面積が測定される。
【0029】
非フィブリル化繊維(例えば連続繊維またはショートカット繊維)の比表面積ははるかに小さく、0.1~0.2m/gの範囲である。
【0030】
好ましくは、ポリオキサゾリンはパルプの表面に(のみに)存在する。好ましくは、ポリオキサゾリンは、アラミドパルプの表面の少なくとも一部、またはアラミドパルプの表面全体を被覆する。好ましくは、ポリオキサゾリンは、パルプを製造するためのショートカットの製造には使用されず、パルプの表面に塗布される。ポリオキサゾリンは、後述するように、改質パルプの製造中にアラミドパルプの表面に供給される。
【0031】
本発明は、上述した実施形態における、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを含む紙にも関する。
【0032】
紙は、例えば摩擦紙、セパレータ紙、またはハニカム紙であってよい。
【0033】
特に、本発明は、上述した実施形態におけるポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを含む摩擦紙に関する。
【0034】
摩擦紙は、通常、それぞれ紙の特性に寄与する多くの異なる材料を含む複合材料である。
【0035】
系の機械的強度と耐久性とを増加させるために、多くの場合、強化繊維が存在する。これらは、さらに、樹脂の適切な吸収を確保するのを助ける多孔質構造を与えるために役立つ。
【0036】
填料は、例えば、樹脂の吸収を支援する、紙を通る油の流れを促進して使用中の温度低下を抑える、十分な摩擦性能を確保する、かつ/または騒音を低減するなど、様々な機能を果たすために添加される。
【0037】
樹脂は、優れた寸法安定性、優れた摩擦性能、および優れた耐熱性を確保するために存在する。
【0038】
好ましくは、本発明の紙は、紙の重量を基準として、2~70重量%の改質アラミドパルプ、より好ましくは5~55重量%の改質アラミドパルプ、さらにより好ましくは10~35重量%の改質アラミドパルプを含む。
【0039】
一実施形態では、本発明の紙は、ポリオキサゾリンと、填料と、樹脂とを含むアラミドパルプを含む。
【0040】
好ましくは、本発明の紙は、紙の重量を基準として、5~55重量%の填料、より好ましくは20~40重量%の填料と、5~50重量%の樹脂、より好ましくは15~40重量%の樹脂とを含む。
【0041】
本明細書に関連して、填料という用語は、好ましくは紙の摩擦性能に影響を与える繊維または樹脂以外の全ての粒子状材料を包含することが意図されている。摩擦紙に適した填料は当該技術分野で知られている。適切な填料の例としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭化ケイ素、炭化チタン、活性炭、粘土、カオリン、ゼオライト、アルミナ、シリカ、硫酸バリウム、バライト粉末などの耐火性有機粒子および無機粒子、ならびに粉末カカオ殻およびカシューダストなどの再生可能資源由来の粒子が挙げられる。適切な填料粒子の他の例としては、珪藻土、黒鉛粒子、および銅粒子が挙げられるが、後者の使用はHSEの観点から一般的に中止されている。
【0042】
(摩擦)紙が珪藻土および/または黒鉛粒子を含むことが好ましい場合がある。
【0043】
填料は、好ましくは5~55重量%の量で存在する。填料の割合が低すぎると、紙の摩擦特性に対するその効果が得られない。填料の量が多すぎると、他の成分の量が少なくなりすぎる。填料の量は、(紙の重量を基準として)10~50重量%の範囲、より具体的には20~40重量%の範囲であることが好ましい場合がある。
【0044】
本発明の紙は、バインダーとして樹脂を含む。適切な樹脂は当該技術分野で知られている。樹脂は(紙の重量を基準として)通常5~50重量%、特に15~40重量%の量で存在する。樹脂の量が少なすぎると、紙の構造的完全性が影響を受ける。樹脂の量が多すぎると、他の成分の含有量が少なくなりすぎる。樹脂は、好ましくは熱硬化性樹脂である。好ましくは、樹脂は、フェノール樹脂、ビトリマー樹脂(いわゆる展性熱硬化性樹脂)、ポリチオウレタン樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、およびエポキシ樹脂から選択される。
【0045】
好ましくは、リサイクルのために紙の成分を分離できるようにするために、樹脂の除去または再処理を可能にする樹脂が使用される。適切なビトリマー樹脂は、例えば国際公開第2020/051506号に記載されている。欧州特許出願公開第3149065号明細書には、熱機械的に再加工可能なエポキシ樹脂が記載されており、国際公開第2019/063787号には再加工可能なポリチオウレタン樹脂が記載されている。
【0046】
適切なシリコーン樹脂は、例えば欧州特許出願公開第3473883号明細書に記載のオルガノポリシロキサン樹脂である。
【0047】
フェノール樹脂は、任意選択的には、例えばシリコーン、メラミン、エポキシ、クレゾール、またはカシューオイルで変性されていてもよい。樹脂は、紙の耐熱性、寸法安定性、ならびに摩擦および摩耗に対する性能を向上させるために存在する。
【0048】
本発明の紙は、更なる成分を含み得る。
【0049】
一実施形態では、紙は、炭素繊維、鉱物繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維、およびミネラルウールなどの追加の強化繊維、またはアクリル繊維、ポリイミド繊維、およびポリアミド繊維などのポリマー繊維を含む。綿やセルロースのような有機繊維も、(ショートカット)繊維またはパルプとしてよく使用される。紙は、未改質のアラミドパルプ、すなわちポリオキサゾリンまたはその他の表面改質を含まないアラミドパルプも含み得る。したがって、紙は、未改質アラミドパルプとポリオキサゾリンで改質されたパルプとの組み合わせを含み得る。本発明による摩擦紙は、セルロース、綿、または炭素繊維のうちの1つ以上を含むことが好ましい場合がある。紙の耐久性および機械的強度を向上させるために、強化繊維が使用されることが多い。使用される場合、それらは、通常2~40重量%、特に5~35重量%の量で存在する。強化繊維およびそれらの使用は当該技術分野で知られている。
【0050】
好ましくは、樹脂含浸紙において、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを含む、全ての強化繊維とパルプとの合計量(摩擦紙の繊維量と呼ばれる)は、紙の重量の25~45重量%、好ましくは30~40重量%を占める。一実施形態では、紙は25~45重量%の繊維量を含み、25~45重量%の填料および25~45重量%の樹脂を含む。好ましくは、繊維、填料、および樹脂の量は、それぞれ紙重量の(およそ)1/3である。ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプは、繊維の重量を基準として、20重量%~100重量%、好ましくは30%~80重量%の範囲で存在し得る。
【0051】
本発明の紙は、好ましくは100~800g/mの範囲、特に200~600g/mの範囲の坪量を有する。
【0052】
紙は、好ましくは少なくとも部分的にポリオキサゾリンで覆われたアラミドパルプを含む。好ましくは、ポリオキサゾリンで改質されたパルプと填料とを含む紙は、樹脂を取り込む前または後のいずれにおいても、ポリオキサゾリンでコーティングまたは被覆されていない。好ましくは、摩擦紙に含まれるアラミドパルプのみが少なくとも部分的にポリオキサゾリンで被覆されており、他の紙成分はポリオキサゾリンでコーティングまたは被覆されていない。
【0053】
ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを紙に使用すると、紙の特性が向上する。特に、この紙は、高い機械的強度と高い多孔性との組み合わせ、特に高い湿潤強度、剪断強度(および関連するZ軸強度)、および引張指数と、高い透気度および優れた填料保持率との組み合わせを示す。このため、この紙は摩擦紙として特に適している。これらの特性のため、摩擦紙はトランスミッションシステムにおける使用に特に適している。
【0054】
紙は、当該技術分野で知られている方法によって製造することができる。
【0055】
摩擦紙は、通常、ポリオキサゾリンと、樹脂と、填料とを含むアラミドパルプを含む紙を製造する工程と、樹脂が硬化するような条件下で紙を加熱する工程とを含むプロセスによって製造することができる。一実施形態では、第1の工程において、樹脂を除く紙の全ての成分が水性媒体中で混合されることでスラリーが形成される。これは任意の順序で行うことができ、様々な化合物を同時にまたは逐次的に添加することができる。得られたスラリーはスクリーンに塗布され、水分が除去される。これは製紙において慣習的なことであり、これ以上の説明は不要である。得られた紙は乾燥させられる。乾燥した紙は、樹脂と接触させられる。通常、樹脂は溶媒(好ましくはエタノールやイソプロパノールなどのアルコール)中に供給され、紙は樹脂溶液で含浸される。樹脂のタイプに応じて、含浸された紙に対して硬化工程を行って樹脂を硬化させることができる。正確な処理条件は樹脂の性質に依存し、通常、100~300℃の範囲の温度と0.1~10MPaの圧力とが含まれる。
【0056】
別の実施形態では、固体樹脂粒子が他の成分と共に水性媒体に添加され、得られたスラリーが処理されることで上記のような紙が形成される。次いで、紙は上述した通りに乾燥させられ、硬化させられる。
【0057】
本発明は、ポリオキサゾリンを含む記載されているアラミドパルプを含む、かつ/または記載されている紙を含む摩擦材またはシール材にも関する。
【0058】
そのような摩擦材またはシール材は、例えば摩擦紙または紙ベースのガスケットの複数の層を含む多板湿式クラッチなど、様々な形態をとることができる。多板湿式クラッチは、高エネルギー用途に理想的なトルク伝達装置であることが証明されている。多板クラッチは、交互の摩擦板と鋼板とを含んでおり、これらは油冷トライボロジー系内で相互作用して所望のトルクを伝達する。多板「湿式」クラッチは、ダブルクラッチトランスミッションのクラッチ、トルクコンバータロックアップクラッチ、オートマチックトランスミッションのクラッチおよびブレーキ、ホイールブレーキおよび車軸ブレーキ、ディファレンシャルロック、全輪駆動トランスファーケース、パワーテイクオフ、およびマスタークラッチなどの幅広い用途で使用されている。
【0059】
本発明は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを製造する方法であって、
- アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはアラミドパルプをポリオキサゾリンと水溶液中で混ぜ合わせて、混合物を形成すること、
- 混合物に対して叩解工程を行って、アラミドパルプの水性スラリーを形成すること
を含む方法にも関する。
【0060】
本発明による方法により、操作が容易なプロセスを使用して効率よく、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを得ることが可能になることが見出された。さらに、フィブリル化中にポリオキサゾリンが存在する上述したプロセスは、まず、未改質のパルプをフィブリル化によって得て、続いて、パルプをポリオキサゾリン溶液に曝すことによってコーティングするプロセスと比較して、ポリオキサゾリンによる表面被覆率およびパルプ特性が向上することが見出された。
【0061】
この方法の出発材料として、アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはアラミドパルプ(またはそれらの組み合わせ)を使用することができる。
【0062】
本明細書において、アラミドショートカットという用語は、例えば少なくとも0.5mm、特に少なくとも1mm、より具体的には少なくとも2mm、幾つかの実施形態では少なくとも3mmの長さに切断されたアラミド繊維を指す。長さは、通常最大80mm、特に最大10mm、より具体的には最大8mmである。ショートカットの厚さは、例えば5~50ミクロンの範囲、好ましくは5~25ミクロンの範囲、最も好ましくは6~18ミクロンの範囲である。そのようなショートカットを製造することができるアラミド繊維、特にパラ-アラミド繊維は、例えばTeijin Aramidから市販されている。ショートカットの長さはLL0.25を指し、これは、250μmを超える長さ、すなわち0.25mmを超える長さを有する粒子が含まれる長さ加重平均長さである。
【0063】
そのようなアラミドのショートカットは、切断装置を用いて連続繊維を等しい長さまたはランダムな長さの断片に切断または細断することによって得ることができる。
【0064】
部分的にフィブリル化されたアラミドショートカットとは、(例えばナイフミルで)例えば切断かつ粉砕することによって、または切断およびショートリファイナー処理を行うことによって部分的にフィブリル化されたアラミドショートカットを指す。
【0065】
本発明による方法の第1の工程では、アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはアラミドパルプが、水溶液中でポリオキサゾリンと混ぜ合わせられることで混合物が形成される。これは様々な方法で行うことができる。例えば、乾燥アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたショートカット、またはパルプがポリオキサゾリンの水溶液または水性懸濁液に添加されてもよく、あるいは、ポリオキサゾリンが水中のショートカット、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカット、またはパルプの懸濁液に添加されてもよく、あるいは、ポリオキサゾリンと、ショートカット、部分的にフィブリル化されたショートカット、またはパルプとが水性媒体に一緒に添加されてもよい。
【0066】
アラミドショートカットは、連続アラミド糸を最大80mmの長さに切断することによって得ることができる。このアラミドのショートカットは、本発明の方法で使用する前に、例えばナイフミルで長さをさらに短くすることができる。アラミドショートカットは、水に懸濁して懸濁液を形成することができ、この懸濁液に対してポリオキサゾリンが添加されずに第1の叩解工程が行われることで、アラミドショートカットの長さがさらに短くされる。叩解工程が延長されるか、または懸濁液に対して追加の叩解工程が行われる場合には、部分的にフィブリル化された繊維またはパルプが得られる。これらの繊維種(アラミドのショートカット、部分的にフィブリル化した繊維、またはパルプ)のいずれか、またはそれらの組み合わせを、本方法の出発材料として使用することができる。
【0067】
好ましくは、ポリオキサゾリンの水溶液(原液)と繊維の水懸濁液とが別々に調製され、その後、混ぜ合わせられることで混合物が形成される。ポリオキサゾリンの水溶液は、高温で調製することができ、例えば20~60℃の範囲の温度、好ましくは30~50℃で調製することができる。ポリオキサゾリンの水溶液は、好ましくは最大30重量%、好ましくは15~25重量%の濃度を有する。
【0068】
好ましくは、水性ポリオキサゾリン原液は、例えば繊維懸濁液が調製された容器に所望の量のポリオキサゾリン水溶液を添加する投与システムを使用することによって、繊維懸濁液に添加される。得られた混合物は、撹拌することによって適切に混合することができ、続いて、叩解工程の装置に搬送される。
【0069】
アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたショートカット、またはパルプは、通常、混合物中に0.1~7重量%、特に1~5重量%の範囲の量で存在する。この範囲の量が叩解作業の成功に適していることが見出された。
【0070】
混合物中のポリオキサゾリンの濃度は、最終製品に所望されるポリオキサゾリンの量に依存する。高い濃度では、懸濁液中に少量のポリオキサゾリンが残る可能性がある。最終生成物中のポリオキサゾリンの量は、通常、乾燥パルプ(ポリオキサゾリンを含む)の重量を基準として、0.1~10重量%のポリオキサゾリンの範囲である。水性混合物、すなわち叩解工程を受ける水性混合物中に存在するポリオキサゾリンの量は、アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたショートカット、および/またはパルプの乾燥重量を基準として計算したときに、0.1~15重量%、好ましくは0.5~12.5重量%の間で変動し、特に、アラミドショートカット、部分的にフィブリル化されたショートカット、および/またはパルプの乾燥重量を基準として計算したときに、1~10重量%または2~5重量%の間で変動する。
【0071】
水性混合物は、ポリオキサゾリンを含むアラミドパルプを形成するために叩解工程を受ける。叩解プロセスは当該技術分野で知られている。一般に、叩解では、スラリーが、例えば、互いに移動するディスクの間を通過することにより、高剪断環境に曝される。叩解工程の効果は、ショートカットの長さを短くすること、およびショートカットをフィブリル化してパルプを形成すること(または部分的にフィブリル化されたショートカットまたはパルプをさらにフィブリル化すること)である。フィブリル化では、フィブリルが形成され、その結果、フィブリルが連結している「幹」と、剥がれたフィブリルとが生じる。さらに、パルプの幹は叩解プロセス中にねじれる場合がある。単一の叩解工程を実施することも可能であるが、最初の叩解工程と同じか、または異なる条件で実施される1回以上の更なる叩解工程を叩解済みのパルプに対して行うことも可能である。一実施形態では、予めフィブリル化されたアラミドショートカットまたはパルプは、ポリオキサゾリンを含む水溶液中でさらに叩解される。
【0072】
ポリオキサゾリンを含む叩解プロセスから得られるパルプスラリーは、必要に応じて処理することができる。例えば、通常、任意選択的にはプレスセクションを含むふるいまたは他の濾過材の上にスラリーを乗せることによってスラリーを脱水する脱水工程を行うことができる。これにより、脱水されたパルプが形成される。脱水されたパルプは、通常40~80重量%、特に50~70重量%の範囲の含水率を有する。パルプの含水率をさらに減らすために、脱水工程を繰り返すことができる。脱水されたパルプは、ケーキの形態(フィルターから出たままの状態)であってもよいし、ケーキが砕かれることでクラムとも呼ばれる個々の断片が形成されてもよい。
【0073】
ケーキまたはクラムまたは任意のその他の形態の脱水されたパルプは、最終製品とすることができ、必要に応じてさらに加工することができる。脱水されたパルプは乾燥させられてもよい。
【0074】
脱水されたパルプの乾燥は、例えば任意選択的には高温でパルプを乾燥雰囲気と接触させることにより、従来の方法で行うことができ、その結果、乾燥パルプが形成される。乾燥パルプは、通常2~20重量%、特に3~10重量%の範囲の含水率を有する。好ましくは、乾燥パルプの含水率は3~8重量%の範囲である。
【0075】
乾燥パルプは、必要に応じて開繊工程を受けることができる。パルプの開繊は当該技術分野で知られている。これは、例えばインパクトミル、乱流空気を使用するミル、または高剪断/高撹拌ミキサーを使用して、乾燥パルプに機械的衝撃を与えることを含む。パルプの開繊工程により、パルプ材のかさ密度が低下する(すなわちパルプ材がより「ふわふわ」になる)。開繊されたパルプは分散しやすいため、塗布しやすくなる。一般に、パルプの開繊工程はパルプの特性を実質的に変化させない。
【0076】
摩擦紙または摩擦材へとさらに加工するためには、好ましくは50~70重量%の範囲の含水率を有する湿った(すなわち脱水された)パルプ、または好ましくは3~8重量%の範囲の含水率を有する乾燥パルプのいずれかを使用することができる。好ましくは、ポリオキサゾリンで改質されたパルプは、湿った(すなわち脱水された)パルプの形態で塗布される。摩擦紙や摩擦材に使用するためには、乾燥させられていない脱水パルプ、例えば40~80重量%、好ましくは50~75重量%、より好ましくは60~70重量%の範囲の含水率を有する脱水パルプを処理することが有利な場合がある。
【0077】
当業者に明らかなように、上述した様々な好ましい実施形態は、相互に排他的でない限り組み合わせることができる。
【0078】
本発明は、以下の非限定的な実施例を用いてさらに説明される。
【0079】
実施例
a)坪量の決定
紙の坪量(目付とも呼ばれる)は、ISO536:1995に従って測定し、1平方メートルあたりのグラム数(g/m)で表した。
【0080】
b)透気度の決定
透気度は、紙の多孔性の尺度であり、紙の油浸透性の指標である。
【0081】
含浸紙の透気度は、Textest タイプFX3030-LDMを使用してASTM D737に従って決定した。透気度は、リットル/m/秒(L/m/s)の単位で表される。
【0082】
c)Z軸強度の決定
紙のZ軸強度(内部結合強度とも呼ばれる)は、剪断強度とよく相関する。含浸シートのZ軸強度は、Tappi T541に従って決定した。
【0083】
d)湿潤強度の決定
紙シートをイソプロパノールに1分間浸漬した。その後、湿ったシートにして引張試験を行い、比引張強さを決定した。決定はISO1924-2に従って行った。
【0084】
e)填料保持率
填料保持率は、製紙中にパルプが填料を保持する程度の尺度であり、100%の値は填料が完全に保持されていること、すなわち製紙プロセス中に填料が失われていないことを意味する。紙の填料保持率は、填料として珪藻土を使用して決定した。填料保持率は、最終シート内の填料の量(実際の坪量、シート表面積(20cmのφを有する)に基づいて計算し、シート内のパルプの量[5.5g]を差し引く)を、使用した填料の量(含水率で補正)で割り、100を掛けることによって決定される。
【0085】
f)引張強度の決定
樹脂含浸前の乾燥紙と樹脂含浸後の紙の比引張強さを、ISO1924-2に従って決定した。
【0086】
実施例1:パルプの製造
長さ6mmのパラ-アラミドチョップドファイバー(Twaron(登録商標)タイプ1000 1680f1000に基づく6mmのショートカット)4kgを、200リットルのPEOX水溶液に添加した。PEOXは、約500kg/molの分子量を有していた。得られた懸濁液は、懸濁液に添加されたPEOXの量に応じて、2重量%のアラミドショートカットと、0.07重量%(パルプA)または0.1重量%(パルプB)のPEOXとを含んでいた(懸濁液の体積あたりの重量パーセント)。得られた懸濁液をSprout-Bauer12インチラボリファイナーに通し、目標の繊維長である0.95mm±0.1mmに到達させた。叩解した懸濁液をふるい台の上で脱水し、脱水ケーキを得た。パルプAと表されるPEOX改質パルプは3.4重量%のPEOXを含有し、パルプBと表されるPEOX改質パルプは4.8重量%のPEOXを含有する。
【0087】
参照として、PEOXを添加せずに同じ手順に従ったところ、コーティングまたは被覆がないアラミドパルプが得られた。このパルプをパルプCと呼ぶ。
【0088】
追加の比較として、PEOXの代わりにPVP(分子量約50kg/mol)を添加して、パルプBと同じ手順に従った。このパルプをパルプDと呼ぶ。
【0089】
実施例2:填料と、樹脂と、アラミドパルプとを含む摩擦紙の製造
乾燥固形分含量が22.45%である実施例1のPEOX含有パルプA24.48g(したがって、乾燥アラミドパルプ5.50gに相当)を2Lの水に懸濁し、Lorentzen&Wettre離解機で100カウント(3000rpmで20秒)混合した。次いで、6.0gの珪藻土(Transcend ND-1、填料として)を懸濁液に添加し、さらに500カウント(3000rpmで100秒)混合した。この混合物を、ISO5269-2に従ってRapid Koethenラボシート形成機で紙シートを製造するために使用した。得られた紙シートを、105℃のプレート乾燥機内で2枚の吸い取り紙の間に挟んだ状態で少なくとも20分間乾燥させた。得られた紙シートは、50%のパルプと50%の珪藻土とからなり、坪量が350±16g/mとなることを目標とした。
【0090】
同じ最終目標シート重量を得るために、わずかに異なる量のパルプおよび填料を使用したことを除いて、パルプB、C、およびDについても同じ手順に従った(使用量については表1を参照)。パルプの量は、同じ量の乾燥パルプ(乾燥固形分)が使用されるように、異なるパルプサンプルの含水率を補正するように調整した。
【0091】
紙の湿潤強度と乾燥強度を決定した。
【0092】
パルプサンプルA、B、C、およびDに基づくこのようにして製造した紙シートに、フェノール樹脂(Bakelite PF0229RP)も含浸させた。パルプAおよびBを含む紙(本発明による)については、22mLの樹脂と78mLのイソプロパノールとの混合物を使用して、樹脂を望みの濃度まで希釈した。プラスチックライナーで覆われたトレイに紙シートを入れ、樹脂混合物をシート上に注いだ。トレイを1分間動かし、その後、紙シートをテフロンシート上に移した。紙シートを特注の絞り器に2回通す(通過の間に紙を裏返す)ことによって、過剰な樹脂を除去した。次いで、残留溶媒(イソプロパノール)を90℃の換気式オーブン内で20分間蒸発させた。含浸後の目標シート重量は500±16g/mである。樹脂の希釈は、表1に示すパルプCおよびDを含む紙の目標シート重量に到達するように調整される。
【0093】
最終工程では、紙シートを180℃のオーブンで60分間硬化させた。
【0094】
【表1】
【0095】
実施例3:ベース紙の乾燥および湿潤強度(含浸前)
本発明のパルプは、紙の乾燥強度を向上させるために非常に有益である。加えて、ベース紙(これらの実施例では重量基準で50/50のパルプ/珪藻土)の樹脂含浸中に必要とされる湿潤強度も、本発明のパルプを使用した場合に向上する。これは、下の表2に示す実施例2で製造される湿潤紙および乾燥紙の引張特性によって示される。
【0096】
【表2】
【0097】
これらの結果に基づくと、本発明によるパルプAおよびBを含む紙の湿潤強度は、パルプCを含む比較の紙と比較して湿潤強度が大幅に増加する(25~30倍高い)ことが明らかに分かる。比較のパルプD(PVPパルプ)を含む紙もパルプCと比較して改善を示すが、パルプAおよびBを含む紙で観察されるよりも少ない。
【0098】
実施例4:(含浸)摩擦紙の比較
填料(珪藻土)保持率、透気度、引張強度、およびZ軸強度など、実施例2の摩擦紙の様々な特性を決定した。填料保持率および透気度は、2枚の紙シート(シート1および2として示される)で決定した。機械的特性(Z軸強度および引張強度)は、それぞれこれらのシートのうちの1枚で決定した(試験によりシートが破壊されるため)。その結果は表3に示されている。
【0099】
【表3】
【0100】
データは、本発明によるパルプAおよびBを用いて製造された紙の填料保持率が、比較のパルプCから製造された紙の填料保持率よりも大幅に高いことを示している。明らかに、ポリオキサゾリンにより改質された本発明によるパルプは、未改質パルプよりも填料および樹脂粒子を保持する能力が高い。本発明によるパルプを含む紙は、PVP改質パルプ(パルプD)を含む紙よりも高い填料保持率も有する。
【0101】
摩擦用途では、摩擦紙が可能な限り開繊していることが重要であり、その結果、例えばクラッチの利用中に摩擦紙に油が浸透することができる。本発明の目的は、高い強度と高い多孔性を兼ね備えた紙、特に摩擦紙を提供することである。紙の透気度は、その多孔性の尺度である。
【0102】
パルプAまたはB(PEOX改質パルプ)のいずれかを含む紙の透気度は、比較のパルプC(未改質アラミドパルプ)と同程度のレベルであるが、パルプD(PVP改質パルプ)は明らかな透気度の低下を示す。
【0103】
摩擦用途では、紙の強度も重要な特性である。紙が運転中に受ける高い剪断力のため、剪断強度は最も関連性のある強度特性である。剪断強度は、いわゆるZ軸強度または内部結合強度とよく相関する。
【0104】
表3の結果は、本発明によるパルプAおよびBに基づくモデル摩擦紙の強度が、比較のパルプCに基づく摩擦紙の強度と比較して大幅に向上していることを示している。
【0105】
本発明のパルプの大きな利点は、高い強度、特にZ軸強度と高い多孔性との組み合わせである。未改質パルプ(パルプC)またはPVP改質パルプ(紙D)のいずれかを含む比較の紙は、この特性の組み合わせを示さず、強度または多孔性のいずれかについて同等であるか、またはさらには低い値に達するのみであり、両方の特性は達成されない。
【0106】
実施例5:市販のパルプサンプルおよびポリオキサゾリンで改質されたパルプならびに対応する紙の比較
ポリオキサゾリンで改質されたパルプを、部分的にフィブリル化されたアラミドショートカットの懸濁液にPEOX溶液を添加することによって生産スケールで製造した。この懸濁液は、2.5重量%の部分的にフィブリル化されたアラミドショートカットと、0.09重量%(懸濁液の体積あたりの重量パーセント)のPEOXとを含んでいた。得られた懸濁液をリファイナーを通して循環させ、0.98mm±0.2mmの目標繊維長に到達させた。PEOXの分子量は500kg/molであった。PEOXで改質されたパルプ(パルプE)は、約3.3重量%のPEOX(乾燥重量基準)を含んでおり、約4.8m/gのSSAを有する。
【0107】
比較サンプルとして、市販のTwaron(登録商標)パルプ1092(1092と呼ぶ、フィブリル化が少ないパルプのタイプ、約6.6m/gのSSAを有する)およびTwaron(登録商標)パルプ1094(1094と呼ぶ、フィブリル化が多いパルプのタイプ、12~15m/gのSSAを有する)が使用される。通常、よりフィブリル化されたパルプは紙の強度を高めるが、紙の透気度を低下させる。
【0108】
1092、1094、およびパルプEに基づいて、実施例2に記載の通りに紙を製造した。
【0109】
続いて、紙の湿潤強度を決定した。
【0110】
このようにして製造した、パルプサンプル1092、1094、およびパルプEに基づく紙シートに、実施例2について記載の通りにフェノール樹脂を含浸させた。含浸紙の透気度、Z軸強度、填料保持率、および引張強度を、実施例4に記載の通りに決定した。
【0111】
ベース紙および含浸紙の特性(平均値)が表4に示されている。
【0112】
【表4】
【0113】
表4のデータは、ポリオキサゾリンで改質されたパルプを使用すると、ポリオキサゾリンを含まない市販のパルプのタイプと比較してベース紙および含浸紙の機械的特性が向上することを示している。パルプタイプ1092に基づく紙は高い透気度を有する一方で、パルプタイプ1094に基づく紙は高い填料保持率を有する。本発明によるパルプに基づく紙は、高い填料保持率と高い透気度を兼ね備えている。加えて、本発明によるパルプに基づく紙は、ベース紙として最も高い湿潤強度を有しており、含浸紙として最も高いZ軸強度および引張強度を有する。
【国際調査報告】