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特表2024-521951血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/745 20060101AFI20240528BHJP
   C12N 9/68 20060101ALN20240528BHJP
【FI】
C07K14/745
C12N9/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575540
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2023-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2022065352
(87)【国際公開番号】W WO2022258590
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】21178363.4
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519324329
【氏名又は名称】プリビファーマ・コンサルティング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(71)【出願人】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】モーリス・マンダゴ
(72)【発明者】
【氏名】リカルダ・ヴェルツ
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・テー・キーシク
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・ゲルバー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA42
4H045DA89
4H045EA24
4H045GA01
4H045GA05
4H045GA10
4H045GA15
(57)【要約】
本発明は、血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法であって、プラスミノーゲンを含有する血漿画分の沈殿物を塩基性水性緩衝液に分散すること、その固体部分を分離して他のタンパク質の少なくとも一部を除去すること、およびプラスミノーゲンを、酸性水性緩衝液を用いて抽出することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法であって、以下の工程:
(i)プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物をpH7~10の塩基性水性緩衝液に分散すること;
(ii)工程(i)から得た分散液をインキュベートして、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質および他の不純物の少なくとも一部を溶解させること;
(iii)工程(ii)のインキュベートした分散液の固体部分と液体部分とを互いに分離すること;
(iv)工程(iii)から得た固体部分を、溶解したリジンおよび/または式(I):
(HN)-R-(A) (I)、
(式中:
nは1または2の整数であり;
mは0、1または2の整数であり;
Aは各出現において互いに独立してカルボキシル基またはアミノ基であり;
Rは、直鎖または分枝鎖C~C12-アルキレン、直鎖または分枝鎖C~C12-ヘテロアルキレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-ヘテロアリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アルキレン-C~C12-アリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アルキレン-C~C12-ヘテロアリーレンである)
の少なくとも1種の他の化合物もしくはその塩をさらに含むpH2~6.6の酸性水性緩衝液と混合し、
場合により混合物をインキュベートしてプラスミノーゲンを溶解させ、場合により固体部分を除去すること;ならびに
(v)工程(iv)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
を含む、方法。
【請求項2】
プラスミノーゲンはGlu-プラスミノーゲンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
血漿画分は:
(a)乏クリオプラズマ上清または乏クリオプラズマ沈殿物;
(b)Cohn法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;
(c)Kistler-Nitschmann法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;および
(d)これらのうちの2つまたは全ての組合せ
からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)の塩基性水性緩衝液はpH8.5~9.5のものである;および/または
工程(iv)における酸性水性緩衝液は、ギ酸、酢酸もしくはクエン酸緩衝液であるか、pH4.5~pH5.5を有するか、もしくはその両方を特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
固体部分と液体部分とを互いに分離する工程(iii)は、デッドエンド濾過、タンジェンシャルフロー濾過、もしくはその組合せを含む濾過、透析、好ましくは沈降による相分離、および/または遠心分離からなる群から選択される手段によって得られる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
固体部分と液体部分とを互いに分離する工程(iii)は濾過によって得られ、ここで、工程(iii)の前に、少なくとも1種の濾過助剤が分散液に添加されており、好ましくは、濾過助剤は、ポリマー、好ましくは高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、セルロース、またはセルロース誘導体、珪藻土、パーライト、界面活性剤、およびこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(i)~(iii)は、それぞれ1回行われるか、または2回以上繰り返される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物は、アミノヘキサン酸、アミノペンタン酸、アミノヘプタン酸、アミノオクタン酸、アミノノナン酸、1,6-ジアミノヘキサン、アミノデカン酸、オルニチン、アミノメチル安息香酸、およびオキサリジンからなる群から選択され、特に、少なくとも1種の式(I)の化合物は、6-アミノヘキサン酸、
特にアミノヘキサン酸である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(v)において得た単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液は:
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する、サイズ排除特性を有するかまたは有しない少なくとも1種のイオン交換体と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のサイズ排除樹脂と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種の疎水性または混合モード相互作用クロマトグラフィー樹脂と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を除去するダイアフィルトレーションに供すこと;
溶液を少なくとも1回の沈殿-洗浄サイクルに供すこと;
固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化された式(I)の化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィー;
プラスミノーゲンについて選択的なアフィニティークロマトグラフィー;
分子サイズクロマトグラフィー;
透析;
デッドエンド限外濾過、タンジェンシャルフロー限外濾過、またはその組合せを含む限外濾過;ならびに
これらのうちの2つ以上の組合せ
からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる工程にさらに供される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(v)において得た単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液は、少なくとも以下のさらなる工程:
(vi)1つまたはそれ以上のアミノ基を含む化合物、特にリジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を、工程(v)において得た溶液から、好ましくは溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のクロマトグラフィー樹脂、特にイオン交換体と接触させることによって除去すること;ならびに
(vii)好ましくは第1にプラスミノーゲンと固定相との相互作用を可能にする緩衝液を使用し、続いて、プラスミノーゲンとプラスミノーゲンとの相互作用を低減させる緩衝液によってプラスミノーゲンを溶出する、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化された式(I)の化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィーを好ましくは実行することによって、プラスミノーゲンの純度および/または濃度を増加させること;ならびに
(viii)工程(vii)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
にさらに供される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
以下の工程:
(i)プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物をpH7~10、好ましくはpH8~10、より好ましくはpH8.5~9.5の塩基性水性緩衝液に分散すること;
(ii)工程(i)から得た分散液をインキュベートして、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質および他の不純物の少なくとも一部を溶解させること;
(iii)工程(ii)のインキュベートした分散液の固体部分と液体部分とを、デッドエンド濾過、タンジェンシャルフロー濾過、もしくはその組合せを含む濾過、透析、好ましくは沈降による相分離、および/または遠心分離によって互いに分離すること;
(iv)工程(iii)から得た固体部分を、溶解したリジン、少なくとも1種の式(I)の化合物またはその塩もしくは組合せをさらに含むpH2~6.6、好ましくはpH4.5~pH5の酸性水性緩衝液と混合し、場合により、混合物をインキュベートしてプラスミノーゲンを溶解させ、固体部分を除去すること;ならびに
(v)工程(iv)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること;
(vi)1つまたはそれ以上のアミノ基を含む化合物、特にリジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を、工程(v)において得た溶液から、好ましくは溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のクロマトグラフィー樹脂、特にイオン交換体と接触させることによって除去すること;ならびに
(vii)第1にプラスミノーゲンと固定相との相互作用を可能にする緩衝液を使用し、続いて、プラスミノーゲンとプラスミノーゲンとの相互作用を低減させる緩衝液によってプラスミノーゲンを溶出する、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化された式(I)の化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィーを実行することによって、プラスミノーゲンの純度および/または濃度を増加させること;ならびに
(viii)工程(vii)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(iv)および/または工程(vi)は、存在する限り、溶液を、沈殿剤、特にオクタン酸の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種の小孔性陰イオン交換樹脂と接触させることを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
(a)好ましくは1種もしくはそれ以上の免疫グロブリン、特に免疫グロブリンGの1つもしくはそれ以上の画分を含む、工程(ii)において少なくとも部分的に溶解されるタンパク質は回収されるか;
(b)方法は、目的の画分のウイルス不活化工程をさらに含むか;
(c)単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液のpHは、場合により水性緩衝液を交換することによって所望の範囲にさらに調整されるか;または
(d)方法は、プラスミノーゲンのフリーズドライもしくは乾燥をさらに含むか;
(e)これらのうちの2つ以上の組合せである、
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の方法から取得可能なプラスミノーゲンを含む組成物であって、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンが、総タンパク質含量の少なくとも70%(w/w)を構成する、組成物。
【請求項15】
プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物からプラスミノーゲン以外のタンパク質を除去するための、pH8~11の塩基性水性緩衝液の使用であって、好ましくは、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法であって、プラスミノーゲンを含有する血漿画分の沈殿物を塩基性水性緩衝液に分散すること、その固体部分を分離して他のタンパク質の少なくとも一部を除去すること、およびプラスミノーゲンを、酸性水性緩衝液を用いて抽出することを含む、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血栓性事象は、重篤な健康上の問題を引き起こし得る。例えば、冠動脈梗塞、脳卒中および肺塞栓症は、先進国における主な死亡原因の一部である。血栓性事象の処置および予防は強く必要とされている。
【0003】
血栓性事象に関する多くの症例が知られている。血栓性事象の成立は、例えば、血管手術(例えば、冠動脈バイパス術)などの外科的介入、内部プロテーゼの存在(すなわち、異物/埋込剤または移植片、例えば血管/血管用内部プロテーゼの挿入)、または狭窄外傷性損傷(stenosis traumatic injury)において生じ得る。多様なさらなる原因が知られている。
【0004】
血栓性事象の処置は、通例、医薬品の投与に基づく。血栓の拡大を予防するために、抗凝固療法が求められる。ヘパリン調製物または第Xa因子の阻害薬が使用される。フェンプロクモン、ワルファリンまたはビスクマ酢酸エチルなどの4-ヒドロキシクマリンが約3~6か月間使用される。クマリンは、血栓症を予防するが、出血傾向も増加するため、この薬物の使用は、典型的には、定期的な血液検査および特別な注意を必要とする。血栓塊の成長が停止すると、身体は損傷の浄化を開始することができる。身体は、典型的には、血塊を分解し、静脈の自由な流れを再び得ようとする(血行再建)。これには、典型的には数日、数週間、またはさらには数か月かかる。血栓塊の分解および静脈の再生において、血液の凝固性を高める物質が放出される場合がある。当技術分野で公知の大半の抗凝固薬は、大きな欠点を有し、多くの場合、重大な健康上のリスクを引き起こす。凝固に関する問題は、例えば、原因不明の肝不全または抗凝固薬の過剰投与によって引き起こされる可能性がある。線維素溶解部位は現時点では明らかになっていない。両側面の観察が処置の結果を改善するのに役立ち得る。処置の改善が所望されている。
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されているように、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、患者における血栓性事象、特に微小血栓性事象を予防または処置するために効果的に使用できることが実験的に見出されている(特許文献1)。このことは、先天性または後天性プラスミノーゲン欠乏症に罹患している患者において特に関心のあるものであり得る。Glu-プラスミノーゲンは、ヒトプラズマにおける天然の循環前駆体である。Glu-プラスミノーゲンは、異なる単離および精製プロセスに起因してLys-プラスミノーゲンに切断される場合がある。Lys-プラスミノーゲンを用いる処置は、出血などの望ましくない副作用をもたらし得る。Glu-プラスミノーゲンは、有意により長い半減期および十分に予測可能な活性を有する。したがって、Glu-プラスミノーゲンの精製が好ましい。
【0006】
プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを良好な収率および純度で得ることには大きな関心が持たれている。プラスミノーゲンは血液中に天然に存在している。血液および血液画分も、プラスミノーゲンおよびその亜種の重要な供給源として役立つ。したがって、血液画分からプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを単離するための方法が必要とされている。
【0007】
数十年の間、血液分画は、血中タンパク質、例えばアルブミン、免疫グロブリン画分、およびホルモン、ならびに血小板などの血液の他の成分を得るために使用されている。十分に確立された血液分画法は、Cohn法またはKistler-Nitschmann法である。しかしながら、これらの方法は、典型的には、プラスミノーゲン、ましてや高い濃度および収率で提供するものではない。技術的および経済的理由のために、そのような確立された方法からプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを取得可能となることは有益であり得る。
【0008】
特許文献3は、凍結Cohn画分IIIまたはII/IIIペーストからのプラスミノーゲンの調製であって、解凍した材料を、1μM p-ニトロフェニル-p-グアニジノベンゾエートを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に懸濁し、続いて遠心分離および濾過工程を行い、その後、リジン-アガロース材料を介したクロマトグラフィーを行う、調製を記載している。カラムからの溶出は、PBS中のアミノカプロン酸含量を増加することによって達成される。あるいは、特許文献3は、同様のプロセスをpH8.0において行う方法に言及している。特許文献3の方法において、pHの有意かつ意図的な変更は行われていないようである。
【0009】
特許文献4は、pH7.0の緩衝液と接触するプラズマの凍結クリオ沈殿物からプラスミンおよびプラスミノーゲンをクロマトグラフィー精製するためのいくつかの固定相を記載している。ここでは、アガロースに固定化されたトラネキサム酸(TEA)が、プラスミン(プラスミノーゲン)およびフィブリノーゲンの同時単離も可能にする、使用に適したカラムであることが見出された。使用されるpH範囲は中性から塩基性である。
【0010】
特許文献5は、プラズマからプラスミノーゲンを精製するために使用可能な特定のアフィニティークロマトグラフィー材料およびpH7.5でのその使用を教示している。特許文献6は、約3~約10のpHを有するプラスミノーゲン、ならびに浸透圧調整剤および安定化剤を含む医薬組成物を教示している。プラスミノーゲンは、中性pHに類似しているpHでプラスミノーゲンを抽出することから得られる。
【0011】
特許文献7は、Cohn画分IIおよびIIIから得られたカプリレート沈殿物を約3.5~約10.5のpHの緩衝液と混合することを記載している。上述の特許のより具体的な例では、カプリレート沈殿物はpH5を有する。抽出は、中性~pH10.5の間で、さらにpH7.5に調整されるpHで実行されることが教示されている。pH3.5での抽出は、特許文献7において使用された条件下では比較的効率的ではないことが示されている。さらに、リジンまたはイプシロンアミノカプロン酸のそのような混合物への添加、およびその後の陽イオン交換クロマトグラフィーも教示されている。最終プラスミノーゲンは、約2.5~約4のpHで溶出および緩衝される。
【0012】
特許文献1は、プラズマまたはプラズマ画分からGlu-プラスミノーゲンを単離するための方法であって、プラズマまたはプラズマ画分を陰イオン交換体と接触させること、および場合によりpHを所望の範囲に調整することを含む、方法を記載している。
【0013】
上記方法は、プラズマ画分からのプラスミノーゲンの単離を少なくとも部分的に可能にし、プラスミノーゲンの一部は高いGlu-プラスミノーゲン含量さえ有する。しかしながら、収率および純度をさらに改善すること、ならびにプラズマ画分からの、またはさらには慣例的なプラズマ分画法の副もしくは廃棄画分からの高品質プラスミノーゲンの取得を可能にする効率的な方法を提供することが所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2018/162754号
【特許文献2】国際公開第2020/152322号
【特許文献3】米国特許第5,288,489号
【特許文献4】国際公開第2002/095019号
【特許文献5】欧州特許第1885485号
【特許文献6】国際公開第2016/095013号
【特許文献7】米国特許第8,268,782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
驚くべきことに、プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物を塩基性水性緩衝液に分散すること、その固体部分を分離すること、およびプラスミノーゲンを、好ましくは少なくとも1種の式(I)の化合物またはその塩もしくは組合せを含む酸性水性緩衝液を用いて抽出することを含む方法がプラスミノーゲンをもたらすことが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様は、血漿画分からプラスミノーゲンを単離するための方法であって、以下の工程:
(i)プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物をpH7~10の塩基性水性緩衝液に分散すること;
(ii)工程(i)から得た分散液をインキュベートして、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質および他の不純物の少なくとも一部を溶解させること;
(iii)工程(ii)のインキュベートした分散液の固体部分と液体部分とを互いに分離すること;
(iv)工程(iii)から得た固体部分を、溶解したリジンおよび/または式(I):
(HN)-R-(A) (I)、
(式中:
nは1または2の整数であり;
mは0、1または2の整数であり;
Aは各出現において互いに独立してカルボキシル基またはアミノ基であり;
Rは、直鎖または分枝鎖C~C12-アルキレン、直鎖または分枝鎖C~C12-ヘテロアルキレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-ヘテロアリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アルキレン-C~C12-アリーレン、1つもしくはそれ以上のハロゲンまたは1つもしくはそれ以上のC~C-(ヘテロ)アルキル残基で場合により置換されているC~C12-アルキレン-C~C12-ヘテロアリーレンである)
の少なくとも1種の他の化合物もしくはその塩をさらに含むpH2~6.6の酸性水性緩衝液と混合し、
場合により混合物をインキュベートしてプラスミノーゲンを溶解させ、場合により固体部分を除去すること;ならびに
(v)工程(iv)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
を含む、方法に関する。
【0017】
特許請求される方法は、高純度のプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンの高い収率を実現することが驚くべきことに見出された。方法は、比較的少ない作業労力で行うことができる。したがって、本発明は技術的に有益である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書で使用される場合、プラスミノーゲンは、任意のプラスミノーゲンまたはそのより多くの種類(例えば、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲンおよび/またはプラスミン)の誘導体もしくは組合せであり得る。そのようなタンパク質の構造およびプラスミノーゲン/プラスミン系の機能は、一般によく知られている。本発明の意味におけるプラスミノーゲンは、任意の目的の種のプラスミノーゲンであり得る。好ましくは、プラスミノーゲンはヒトまたは哺乳動物起源のものである。
【0019】
「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」という用語は、本発明全体にわたって最も広い意味で、主にアミノ酸残基から構成され、別のアミノ酸残基とアミド結合を介して連続的に連結している少なくとも20アミノ酸残基を含む任意の化学実体として交換可能に理解される。本発明の意味におけるタンパク質は、1つもしくはそれ以上の翻訳後修飾に供されていても供されていなくてもよい、および/または1つもしくはそれ以上の非アミノ酸部分とコンジュゲートしていてもしていなくてもよいということが理解されるだろう。タンパク質の末端は、場合により、例えばアミド化、アセチル化、メチル化、アシル化などの当技術分野で公知の任意の手段によってキャッピングされることがある。
【0020】
翻訳後修飾は、当技術分野で周知であり、脂質化、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、短縮化、酸化、還元、脱カルボキシル化、アセチル化、アミド化、脱アミド化、ジスルフィド結合形成、アミノ酸付加、補因子付加(例えば、ビオチン化、ヘム付加、エイコサノイド付加、ステロイド付加)、および金属イオン、非金属イオン、ペプチドまたは低分子の錯体化、および鉄-スルフィドクラスターの付加であり得るが、これらに限定しなくてもよい。さらに、場合により、補因子、特に環状グアノシン一リン酸(cGMP)、場合によりさらに、例えば、ATP、ADP、NAD、NADH+H、NADP、NADPH+H、金属イオン、アニオン、脂質などのような補因子は、これらの補因子の生物学的影響と無関係にタンパク質に結合していてもよい。プラスミノーゲンの文脈では、特に、グリコシル化およびジスルフィド結合が生じ得る。
【0021】
好ましい実施形態では、本発明の文脈において、プラスミノーゲンはGlu-プラスミノーゲンである。したがって、本発明全体にわたって、プラスミノーゲンはGlu-プラスミノーゲンであると規定してもよい。本発明の方法の利点は、Glu-プラスミノーゲンの2つのグリコシル化パターンが、単離された生成物において観察可能であり得ることである。このことは、天然Glu-プラスミノーゲンを反映し得る。
【0022】
代替的な実施形態では、プラスミノーゲンはLys-プラスミノーゲンである。代替的な実施形態では、プラスミノーゲンはGlu-プラスミノーゲンとLys-プラスミノーゲンとの組合せである。ここにおいて、Lys-プラスミノーゲンとGlu-プラスミノーゲンとは、任意のバリエーションで組み合わせることができる(好ましくは、大部分がGlu-プラスミノーゲンである)。代替的な好ましい実施形態では、プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲンと、Lys-プラスミノーゲンと、1種またはそれ以上の他のプラスミノーゲン誘導体との組合せである。ここにおいて、Lys-プラスミノーゲンと、Glu-プラスミノーゲンと、1種またはそれ以上の他のプラスミノーゲン誘導体とは、任意のバリエーションで組み合わせることができる(好ましくは、大部分がGlu-プラスミノーゲンである)。
【0023】
Glu-プラスミノーゲンは、プラズマ由来の酵素前駆体である。Glu-プラスミノーゲンは(本質的に)タンパク質分解活性を有しないことが知られている。好ましくは、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、(本質的に)タンパク質分解活性を有しない。そのような、タンパク質分解活性が(本質的に)存在しないことは、当業者によって一般に理解される最も広い意味で理解される。好ましくは、患者に投与されるGlu-プラスミノーゲンおよび/またはプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)の酵素活性は、総タンパク質含量1.0g/L当たり70単位(U、すなわち、μmol基質/分)未満、または総タンパク質含量1.0g/L当たり50U未満、25U未満、10U未満、9U未満、8U未満、7U未満、6U未満、5U未満、2U未満、1U未満、0.5U未満、0.1U未満、または0.01U未満である。この文脈において、タンパク質分解活性は任意の手段によって決定することができる。例えば、それは、S-2288(Chromogenix)タンパク質分解活性アッセイによって決定される活性であり得る。あるいは、それは、D-二量体の生成をもたらすフィブリンの分解として決定してもよい。プラスミンの特定の酵素活性は、フィブリンの分解からのD-二量体の生成を測定することによって決定することができる。好ましくは、患者に投与されるGlu-プラスミノーゲンおよび/またはプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)のタンパク質分解活性は、アッセイの検出限界未満である。
【0024】
好ましい実施形態では、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物は、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを、総タンパク質含量に基づいて少なくとも75%(w/w)、少なくとも80%(w/w)、少なくとも85%(w/w)、少なくとも90%(w/w)、少なくとも95%(w/w)、少なくとも96%(w/w)、少なくとも97%(w/w)、少なくとも98%(w/w)、または少なくとも99%(w/w)の純度において含有する。
【0025】
好ましい実施形態では、得られるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲン組成物を含有する)は、内毒素を含有しないか、または1EU/mL未満、0.5EU/mL未満、0.1EU/mL未満、0.05EU/mL未満、もしくは0.01EU/mL未満(欧州薬局方(バージョン5.0)第2.6.14章に記載のカブトガニ血球抽出物(LAL)エンドセーフエンドクローム(endosafe endochrome)アッセイにおいて決定される)の低い内毒素含量のみを含有する。
【0026】
好ましい実施形態では、患者に投与されるプラスミノーゲン組成物(好ましくはGlu-プラスミノーゲンを含有する)は、免疫グロブリンを含有しないか、または5g/L未満、2g/L未満、1g/L未満、0.5g/L未満、もしくは0.1g/L未満の免疫グロブリン(比濁分析アッセイにおいて決定される)という低い免疫グロブリン含量のみを含有する。
【0027】
本明細書で使用される場合、塩基性水性緩衝液に可溶な他の不純物は、例えば、オクタン酸および/もしくは1種もしくはそれ以上の賦形剤などの1種もしくはそれ以上の低分子不純物などの任意の不純物であり得る、ならびに/または1種もしくはそれ以上の高分子量不純物であり得る。
【0028】
血漿(「プラズマ」、「プラズム」または「血液プラズム」などとも称される)は、任意の供給源から得ることができる。それは、例えば、細胞が除去された血液保存液から得ることができる。血漿はまた、様々な供給業者から市販されている。
【0029】
本発明の文脈において、「プラズマ画分」という用語は、最も広い意味で、Glu-プラスミノーゲンを含む、血漿から分離された任意の部分として理解される。血漿からプラズマ画分を調製するためのいくつかの方法が当業者に公知である。一般的に知られている一例は、凍結-解凍サイクル、および溶液中のエタノール濃度を漸進的に増加させることに基づくCohn法(Cohnの方法とも称される)である。
【0030】
本明細書で使用される血漿画分の沈殿物は、プラスミノーゲンを含む、血漿またはその任意の画分であり得る。好ましくは、血漿画分は、例えば、CohnまたはKistler-Nitschmann法などの十分に確立された血液分画法から得られる。好ましい実施形態では、血漿画分は:
(a)乏クリオプラズマ上清または乏クリオプラズマ沈殿物;
(b)CohnもしくはKistler-Nitschmann法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;
(c)CohnもしくはKistler-Nitschmann法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;および
(d)これらのうちの2つまたは全ての組合せ
からなる群から選択される。
【0031】
好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIの画分、Cohn法のペーストIIの画分、Cohn法のペーストIIIの画分、Cohn法のペーストIおよびIIの画分、Cohn法のペーストIおよびIIIの画分、Cohn法のペーストIIおよびIIIの画分、Cohn法のペーストI、IIおよびIIIの画分からなる群から選択される。好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストIIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストIIIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストIおよびIIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストIおよびIIIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストIIおよびIIIの副または廃棄画分、Cohn法のペーストI、IIおよびIIIの副または廃棄画分からなる群から選択される。
【0032】
好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIIおよびIIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIおよびIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIIおよびIIIの副または廃棄画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIおよびIIの副または廃棄画分である。
【0033】
別の好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストI、IIおよびIIIの画分からなる群から選択される。別の好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの副または廃棄画分、Kistler-Nitschmann法のペーストI、IIおよびIIIの副または廃棄画分からなる群から選択される。好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann沈殿物A(PPT-NA)である。
【0034】
好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの副または廃棄画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの副または廃棄画分である。
【0035】
別の好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIの画分、Cohn法のペーストIIの画分、Cohn法のペーストIIIの画分、Cohn法のペーストIおよびIIの画分、Cohn法のペーストIおよびIIIの画分、Cohn法のペーストIIおよびIIIの画分、Cohn法のペーストI、IIおよびIIIの画分からなる群から選択される。
【0036】
好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIIおよびIIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Cohn法のペーストIおよびIIの画分である。
【0037】
別の好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの画分、Kistler-Nitschmann法のペーストI、IIおよびIIIの画分からなる群から選択される。
【0038】
好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIIおよびIIIの画分である。好ましい実施形態では、血漿画分は、Kistler-Nitschmann法のペーストIおよびIIの画分である。
【0039】
工程(i)の沈殿物は、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを含有することが理解されるだろう。そのような沈殿物は、任意の手段によって取得可能であり得る(得ることができる)。好ましい実施形態では、沈殿物は、プラスミノーゲンを含む血液画分を有機溶媒(例えば、オクタン酸、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、フェノール、アセトンなど)と接触させることから得られる。別の好ましい実施形態では、沈殿物は、プラスミノーゲンを含む血液画分をカオトロピック化合物(例えば、カオトロピック塩(例えば、バリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、塩素酸塩)、グアニジニウム塩酸塩、チオシアン酸グアニジニウムなどのチオシアン酸塩、過塩素酸塩、ヨウ化物、尿素、チオ尿素、高濃度の塩化ナトリウムなど)と接触させることから得られる。そのような有機溶媒またはカオトロピック塩は、沈殿剤と称すこともできる。別の好ましい実施形態では、沈殿物は、プラスミノーゲンを含む血液画分を冷却すること、または画分を凍結-解凍サイクルに供すことから得られる。
【0040】
沈殿物は、当技術分野で公知の任意の手段によって得ることができる。好ましい実施形態では、プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物は、血漿もしくはその画分の凍結および解凍(さらには、血漿もしくはその画分を凍結-解凍サイクルに供すこと)、温度の変化、pHの変化、少なくとも1種の沈殿剤の添加、またはこれらのうちの2つ以上の組合せから得られる。好ましい実施形態では、沈殿剤は、オクタン酸、エタノール、塩、もしくはポリエチレングリコール、または血漿画分に対するこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される。
【0041】
好ましい実施形態では、プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物は、オクタン酸の血漿画分への添加から得られる。「オクタン酸」という用語は、本明細書で使用される場合、最も広い意味で、オクタン酸アニオン(すなわち、遊離酸を含む)およびその塩を含む任意の化合物として理解されることが理解されるだろう。
【0042】
好ましい実施形態では、プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物は:
(a)乏クリオプラズマ上清または乏クリオプラズマ沈殿物;
(b)CohnもしくはKistler-Nitschmann法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの副もしくは廃棄画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;
(c)CohnもしくはKistler-Nitschmann法のペーストI、IIもしくはIIIのいずれかの画分、またはそのうちの2つもしくは全ての組合せ;および
(d)これらのうちの2つまたは全ての組合せ
からなる群から選択される血漿画分へのオクタン酸の添加から得られる。
【0043】
沈殿物は、任意の形態で提供することができる。好ましい実施形態では、工程(i)の沈殿物は、濾過、好ましくはデッドエンド濾過によって得られる。この場合、沈殿物は濾過ケーキと称すこともできる。好ましい実施形態では、沈殿物は、オクタン酸(OA)濾過ケーキ、すなわち、プラスミノーゲンを含む血液画分をオクタン酸と接触させ、その後、濾過することによって得られた沈殿物である。あるいは、工程(i)の沈殿物は、遠心分離によって得られる。
【0044】
プラズマ分画法から取得可能な沈殿物は、プラズマ分画法から得た場合に直接使用しても、保存してもよい。場合により、本発明の方法は、プラズマ分画法と組み合わせ、手順フロー(オンラインとしても設計可能)の一部として行ってもよい。あるいは、保存された沈殿物を本発明の方法のために使用してもよい。そのような保存された沈殿物は、場合により冷却されているか、または凍結され、本発明の方法を行う際に解凍することができる。
【0045】
分散は、任意の手段によって実施することができる。例えば、分散は、塩基性水性緩衝液の添加と、振盪、混合(手動で、またはスターラー、ミキサーもしくはブレンダーを介して)、またはその組合せとによって実行することができる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「水性緩衝液」という用語は、最も広い意味で、主に(すなわち、50重量%超の)水を含む任意の緩衝溶液として理解される。
【0047】
好ましい実施形態では、塩基性水性緩衝溶液は、溶解したリジンも、少なくとも1種の式(I)の化合物も、その塩または組合せも含まない。
【0048】
工程(i)の分散液は、任意の(沈殿物):(塩基性水性緩衝液)比から得ることができる。好ましい実施形態では、(沈殿物):(塩基性水性緩衝液)重量比は、20:1~1:20、10:1~1:10、2:1~1:20、1:1~1:20、1:2~1:10、1:3~1:7、1:4~1:6の範囲、またはおよそ1:5の範囲である。
【0049】
工程(i)は、沈殿物を塩基性水性緩衝液に分散するのに好適な任意の条件で実施することができる。好ましくは、この工程は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。
【0050】
上述のように、工程(i)の塩基性水性緩衝液は、pH7~10の範囲のpHを有し得る。好ましい実施形態では、工程(i)の塩基性水性緩衝液は、pH8~10、pH8.1~9.9、pH8.2~9.8、pH8.3~9.7、pH8.4~9.6、pH8.5~9.5、pH8.6~9.4、pH8.7~9.3、pH8.8~9.2、pH8.9~9.1、またはpH9のものである。
【0051】
上述のように、工程(iv)における酸性水性緩衝液は、pH2~6.6の範囲のpHを有し得る。好ましい実施形態では、工程(iv)における酸性水性緩衝液は、pH2~6、pH2.5~5.9、pH3~5.7、pH3.5~5.6、pH4~6、pH4.5~5.5、pH4.6~5.4、pH4.7~5.3、pH4.8~5.2、pH4.9~5.1、またはpH5のものである。好ましくは、工程(iv)における酸性水性緩衝液のpHは、pH6.6、すなわちGlu-プラスミノーゲンの等電点以下、より好ましくはそれ未満である。
【0052】
好ましい実施形態では、工程(i)の塩基性水性緩衝液は、pH8.1~9.9、pH8.2~9.8、pH8.3~9.7、pH8.4~9.6、pH8.5~9.5、pH8.6~9.4、pH8.7~9.3、pH8.8~9.2、pH8.9~9.1、またはpH9のものであり;
工程(iv)における酸性水性緩衝液は、pH2.5~5.9、pH3~5.7、pH3.5~5.6、pH4~6、pH4.5~5.5、pH4.6~5.4、pH4.7~5.3、pH4.8~5.2、pH4.9~5.1、またはpH5のものである。
【0053】
好ましい実施形態では、工程(i)の塩基性水性緩衝液と工程(iv)における水性緩衝液とのpH差は、少なくとも0.5、少なくとも1、少なくとも1.25、少なくとも1.5、少なくとも1.75、少なくとも2、少なくとも2.25、少なくとも2.5、少なくとも2.75、少なくとも3、少なくとも3.25、少なくとも3.5、少なくとも3.75、または少なくとも4である。好ましい実施形態では、工程(i)の塩基性水性緩衝液と工程(iv)における水性緩衝液とのpH差は、0.5~10の間、1~9の間、2~8の間、2.5~7の間、3~6の間、3.5~5の間、または3.5~4.5の間である。
【0054】
本明細書に教示される数値は、最も広い意味で、その後の小数を包含する丸められた値として一般に理解されるように理解されることが理解されるだろう。例えば、pH5は、一般に理解されるように、pH4.5~5.4の値を含む。
【0055】
インキュベートする工程(ii)は、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質の少なくとも一部を溶解させる任意の条件で実施することができる。好ましくは、この工程は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。温度はまた、場合により経時的に変化させてもよい。
【0056】
工程(ii)のインキュベーション時間は、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質の少なくとも一部を溶解させ、かつ目的のプラスミノーゲンを本質的に破壊しない任意の範囲であり得る。好ましい実施形態では、工程(ii)のインキュベーションは、1分~48時間、5分~24時間、10分~12時間、15分~6時間、20分~2時間、25分~1時間、25分~45分、またはおよそ30分の時間範囲にわたって行われる。
【0057】
工程(ii)のインキュベーションが完了したら、工程(ii)のインキュベートした分散液の固体部分と液体部分とを互いに分離する。これは、任意の手段によって実行することができる。好ましい実施形態では、固体部分と液体部分とを互いに分離する工程(iii)は、デッドエンド濾過、タンジェンシャルフロー濾過、もしくはその組合せを含む濾過、透析、好ましくは沈降による相分離、および/または遠心分離からなる群から選択される手段によって得られる。好ましい実施形態では、工程(iii)の分離は、濾過、好ましくはデッドエンド濾過によって達成される。この場合、得られた分離された固体部分は、濾過ケーキと称すこともできる。
【0058】
好ましい実施形態では、固体部分と液体部分とを互いに分離する工程(iii)は濾過によって得られ、ここで、工程(iii)の前に、少なくとも1種の濾過助剤が分散液に添加されている。濾過助剤は、当技術分野で公知の任意の濾過助剤であり得る。好ましい実施形態では、濾過助剤は、ポリマー、好ましくは高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、セルロース、またはセルロース誘導体、珪藻土、パーライト、界面活性剤(例えば、Tween-20)、およびこれらのうちの2つ以上の組合せからなる群から選択される。2つ以上の濾過助剤の組合せも使用できることが理解されるだろう。
【0059】
工程(iii)は、この目的に好適な任意の条件で実施することができる。好ましくは、この工程は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。
【0060】
工程(i)~(iii)は、それぞれ1回行っても、2回以上繰り返してもよい。
【0061】
工程(iii)から得た固体部分を酸性水性緩衝液と混合する工程(iv)は、任意の手段によって行うことができる。例えば、混合は、酸性水性緩衝液の添加と、振盪、混合(手動で、またはスターラー、ミキサーもしくはブレンダーを介して)、またはその組合せとによって実行することができる。
【0062】
本明細書で使用される緩衝液のいずれかにおいて使用される1種またはそれ以上の緩衝剤は、任意の化学的性質のものであり得る。好ましくは、緩衝剤は薬学的に許容される緩衝剤である。好ましい実施形態では、酸性水性緩衝液は、ギ酸、アセテート、カーボネート、ハイドロゲンカーボネート、および/またはシトレート、好ましくはギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウムまたはクエン酸ナトリウム、特に酢酸ナトリウムを含む。好ましい実施形態では、酸性水性緩衝液は、酢酸緩衝液、特に酢酸ナトリウム緩衝液である。例えば、本明細書で使用される酸性水性緩衝液は、酢酸ナトリウム/グリシン緩衝系を含み得る。
【0063】
酸性水性緩衝液は、場合により1つまたはそれ以上のさらなる成分も含み得ることが理解されるだろう。好ましい実施形態では、それは、例えばポリエチレングリコール(PEG)などの、好ましくは200~35000Da、1000~100000Da、200~1000Da、500~5000Da、1000~10000Da、5000~50000Da、または10000~100000Daの平均分子量(サイズ排除クロマトグラフィーによって決定可能)を有する水溶性または乳化性ポリマーを含む。
【0064】
工程(iv)の混合物は、任意の(固体部分):(酸性水性緩衝液)比から得ることができる。好ましい実施形態では、(固体部分):(酸性水性緩衝液)重量比は、20:1~1:20、10:1~1:10、2:1~1:20、1:1~1:20、1:1~1:10、1:2~1:7、1:2~1:5の範囲、またはおよそ1:3の範囲である。
【0065】
工程(iv)は、この目的に好適な任意の条件で実施することができる。好ましくは、この工程は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。
【0066】
好ましい実施形態では、少なくとも1種の式(I)の化合物は、アミノヘキサン酸、アミノペンタン酸、アミノヘプタン酸、アミノオクタン酸、アミノノナン酸、6-ジアミノヘキサン、アミノデカン酸、オルニチン、アミノメチル安息香酸、およびオキサリジンからなる群から選択され、特に、少なくとも1種の式(I)の化合物は、6-アミノヘキサン酸、特にアミノヘキサン酸である。
【0067】
好ましい実施形態では、工程(iv)の酸性水性緩衝液はリジン、特にL-リジンを含む。
【0068】
好ましい実施形態では、工程(iv)の酸性水性緩衝液は6-アミノヘキサン酸を含む。
【0069】
場合により、工程(iv)の混合物は1つまたはそれ以上のさらなる成分を含む。場合により、1つまたはそれ以上の種類の陰イオン交換樹脂を工程(iv)の混合物に添加してもよい。
【0070】
場合により、工程(iv)は、混合物をインキュベートしてプラスミノーゲンを溶解させ、場合により固体部分を除去することを含む。
【0071】
好ましい実施形態では、工程(iv)において得られる固体部分は、溶解したプラスミノーゲンを主に含む液体画分から分離される。これは、任意の手段によって実行することができる。好ましい実施形態では、工程(iv)は、固体部分と液体部分とを、デッドエンド濾過、タンジェンシャルフロー濾過、もしくはその組合せを含む濾過、透析、好ましくは沈降による相分離、および/または遠心分離からなる群から選択される手段によって互いに分離することを含む。好ましい実施形態では、工程(iv)の場合による分離は、濾過、好ましくはデッドエンド濾過によって達成される。この場合、得られた分離された固体部分は、濾過ケーキと称すこともできる。場合により、洗浄された固体部分は、酸性水性緩衝液を用いてさらに洗浄される。例えば、その前の混合に使用される容量の半分を使用してもよい。これは1回またはそれ以上行ってもよい。得られた複数の溶液は合わせてもよい(プールとしても設計可能)。
【0072】
上記手順工程から、単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ることができる。そのようなプラスミノーゲンは、特に高い収率および純度などの特に有益な技術的特性をすでに有している。にもかかわらず、方法は、さらなる工程を追加することによってさらに一層改善することができる。
【0073】
好ましい実施形態では、工程(v)は、溶液に溶解した沈殿剤の濃度を減少させる1つまたはそれ以上の手段をさらに含む。これは、多相分離を含む任意の手段によって実行することができる。
【0074】
好ましい実施形態では、工程(v)は、溶液を、沈殿剤、特にオクタン酸アニオンの少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のクロマトグラフィー樹脂と接触させる、溶液に溶解した沈殿剤の濃度を減少させる1つまたはそれ以上の手段をさらに含み、ここで、より好ましくは、前記クロマトグラフィー樹脂はイオン交換体、特に陰イオン交換体である。好ましい実施形態では、オクタン酸アニオンの少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種の陰イオン交換体からの分散液を接触させること。
【0075】
好ましい実施形態では、工程(v)において得た単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液は、
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する、サイズ排除特性を有するかまたは有しない少なくとも1種のイオン交換体(例えば、陰イオン交換体または陽イオン交換体)と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のサイズ排除樹脂と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種の疎水性または混合モード相互作用クロマトグラフィー樹脂と接触させること;
溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を除去するダイアフィルトレーションに供すこと;
溶液を少なくとも1回の沈殿-洗浄サイクルに供すこと;
固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化された式(I)の化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィー;
プラスミノーゲンについて選択的なアフィニティークロマトグラフィー;
分子サイズクロマトグラフィー(molecular size chromatography);
透析;
デッドエンド限外濾過、タンジェンシャルフロー限外濾過、またはその組合せを含む限外濾過;ならびに
これらのうちの2つ以上の組合せ
からなる群から選択される少なくとも1つのさらなる工程にさらに供される。
【0076】
好ましい実施形態では、工程(v)において得た単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液は、少なくとも以下のさらなる工程:
(vi)1つまたはそれ以上のアミノ基を含む化合物、特にリジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を、工程(v)において得た溶液から、好ましくは溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のクロマトグラフィー樹脂、特にイオン交換体(例えば、陰イオン交換体または陽イオン交換体、特に陰イオン交換体)と接触させることによって除去すること;ならびに
(vii)好ましくは第1にプラスミノーゲンと固定相との相互作用を可能にする緩衝液を使用し、続いて、プラスミノーゲンとプラスミノーゲンとの相互作用を低減させる緩衝液によってプラスミノーゲンを溶出する、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化された式(I)の化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィーを好ましくは実行することによって、プラスミノーゲンの純度および/または濃度を増加させること;ならびに
(viii)工程(vii)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
にさらに供される。
【0077】
工程(vi)および(vii)は、この目的のために使用可能な任意の緩衝液および任意の温度で行うことができる。
【0078】
好ましくは、工程(vi)において使用可能な緩衝液は酸性水性緩衝液である。例えば、そのような酸性水性緩衝液は、pH2.5~5.9、pH3~5.7、pH3.5~5.6、pH4~6、pH4.5~5.5、pH4.6~5.4、pH4.7~5.3、pH4.8~5.2、pH4.9~5.1、またはpH5のものであり得る。好ましくは、この工程(vi)は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。カラムからの溶出は、例えばおよそ1Mなどの0.5~2Mの間のモル濃度の塩化ナトリウムなどの塩を有するような高塩緩衝液を使用することによって実行することができる。
【0079】
好ましくは、工程(vii)において使用可能な緩衝液は酸性水性緩衝液である。例えば、そのような酸性水性緩衝液は、pH2.5~5.9、pH3~5.7、pH3.5~5.6、pH4~6、pH4.5~5.5、pH4.6~5.4、pH4.7~5.3、pH4.8~5.2、pH4.9~5.1、pH3、またはpH4、またはpH5のものであり得る。好ましくは、この工程(vii)は、0℃~30℃の間の範囲、好ましくは4℃~25℃の間、4℃~10℃の間、または17℃~22℃の間の範囲の温度で実施される。工程(vii)の固定相は、例えばリジンコンジュゲートセファロースであり得る。
【0080】
場合により、pHは、溶出時にかなり低く、例えばpH2~pH5の間のpH範囲に維持されることがある。これは、望ましくない分解に対してプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを安定化することができ、その有効期間を増加させることができる。
【0081】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、以下の工程:
(i)プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物をpH7~10、好ましくは8~10、より好ましくはpH8.5~9.5の塩基性水性緩衝液に分散すること;
(ii)工程(i)から得た分散液をインキュベートして、塩基性水性緩衝液に可溶なタンパク質の少なくとも一部を溶解させること;
(iii)工程(ii)のインキュベートした分散液の固体部分と液体部分とを、デッドエンド濾過、タンジェンシャルフロー濾過、もしくはその組合せを含む濾過、透析、好ましくは沈降による相分離、および/または遠心分離によって互いに分離すること;
(iv)工程(iii)から得た固体部分を、溶解したリジン、少なくとも1種の式(I)の化合物またはその塩もしくは組合せをさらに含むpH2~6.6、好ましくはpH4.5~pH5の酸性水性緩衝液と混合し、場合により、混合物をインキュベートしてプラスミノーゲンを溶解させ、固体部分を除去すること;ならびに
(v)工程(iv)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること;
(vi)1つまたはそれ以上のアミノ基を含む化合物、特にリジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部を、工程(v)において得た溶液から、好ましくは溶液を、リジン、式(I)の化合物、またはその両方の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種のクロマトグラフィー樹脂、特にイオン交換体と接触させることによって除去すること;ならびに
(vii)第1にプラスミノーゲンと固定相との相互作用を可能にする緩衝液を使用し、続いて、プラスミノーゲンとプラスミノーゲンとの相互作用を低減させる緩衝液によってプラスミノーゲンを溶出する、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の式(I)の固定化された化合物を含む固定相に基づくクロマトグラフィーを実行することによって、プラスミノーゲンの純度および/または濃度を増加させること;ならびに
(viii)工程(vii)からの単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液を得ること
を含む。
【0082】
得られたプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、場合により製剤化、保存することができるか、または任意の目的のために直接使用することができる。
【0083】
好ましい実施形態では、工程(iv)および/または工程(vi)は、存在する限り、溶液を、沈殿剤、特にオクタン酸の少なくとも一部と相互作用する少なくとも1種の小孔性陰イオン交換樹脂(small pore anion exchange resin)と接触させることを含む。
【0084】
好ましい実施形態では、沈殿剤の少なくとも一部と相互作用するそのような少なくとも1種の小孔性陰イオン交換樹脂は、例えば、0.1~10nm、1~100nm、0.1~10μm、または1~100μmの範囲の孔などの微多孔構造を有する樹脂である。好ましい実施形態では、沈殿剤の少なくとも一部と相互作用するそのような少なくとも1種の小孔性陰イオン交換樹脂は、1種またはそれ以上のスチレン系(コ)ポリマーに基づく樹脂であり、第四級アンモニウム基および/またはスルホン酸基を含有し得る。
【0085】
好ましい実施形態では、沈殿剤の少なくとも一部と相互作用するそのような少なくとも1種の小孔性陰イオン交換樹脂は、Dowex樹脂、特に50~100メッシュ(0.15~0.3mmの平均粒径)、100~200メッシュ(0.08~0.15mmの平均粒径)、または200~400メッシュ(0.04~0.08mmの平均粒径)を有するDowex 1×8である。
【0086】
例えば、それは治療上の使用のために使用することができる。この場合、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、1つまたはそれ以上の血栓性事象を処置または予防するための方法における使用のために、個体に投与することができる。この場合、好ましくは、溶液のpHは、投与前に所望の範囲に変更される。場合により、1つまたはそれ以上のさらなる薬学的に許容される成分を追加してもよい。プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンの薬学的および医学的使用は、国際公開第2018/162754号および国際公開第2020/152322号に詳細に記載されている。
【0087】
保存が所望される場合、得られたプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、場合により凍結乾燥(フリーズドライ)または凍結してもよい。
【0088】
本発明の方法は、プラスミノーゲンの調製だけでなく、望ましい副生成物としての1つまたはそれ以上のさらなる構成成分の調製も可能にすることが理解されるだろう。
【0089】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、
(a)好ましくは、場合により単離されることがある、1種もしくはそれ以上の免疫グロブリン、特に免疫グロブリンGの1つもしくはそれ以上の画分を含む、工程(ii)において少なくとも部分的に溶解されるタンパク質が回収されること;
(b)方法が、目的の画分のウイルス不活化工程をさらに含むこと;
(c)単離されたプラスミノーゲンを含有する溶液のpHが、場合により水性緩衝液を交換することによって所望の範囲にさらに調整されること;または
(d)方法が、プラスミノーゲンのフリーズドライもしくは乾燥をさらに含むこと;
(e)これらのうちの2つ以上の組合せ
をさらに特徴とする。
【0090】
前述のように、本発明の方法によって取得可能な(得られる)プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、特に高い純度および場合により手順工程において使用される薬剤の微量の残留物などの特別な構造的特徴をそれ自体として有する。
【0091】
したがって、本発明のさらなる態様は、本発明の方法から取得可能なプラスミノーゲンを含む組成物であって、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンが、総タンパク質含量の少なくとも70%(w/w)を構成する、組成物に関する。
【0092】
上記の方法の文脈において説明された実施形態および定義は、それから取得可能なプラスミノーゲンに準用して適用されることが理解されるだろう。
【0093】
好ましい実施形態では、プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンは、総タンパク質含量の少なくとも75%(w/w)、少なくとも80%(w/w)、少なくとも85%(w/w)、少なくとも90%(w/w)、または少なくとも95%(w/w)を構成する。
【0094】
本発明の一実施形態では、本発明の方法から取得可能な(または得られる)(Glu-)プラスミノーゲンは医薬組成物において提供される。したがって、それは、1種またはそれ以上の薬学的に許容される担体と混和してもよい。したがって、本発明のさらなる態様は、本発明の方法から取得可能な(または得られる)(Glu-)プラスミノーゲンと1種またはそれ以上の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物に言及する。
【0095】
「医薬組成物」および「医薬製剤」という用語は交換可能に理解される。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」、「薬学的に許容される賦形剤」、「担体」および「賦形剤」という用語は、最も広い意味で、それぞれプラスミノーゲンおよび少なくとも1種のプラスミノーゲン活性化因子の薬理学的忍容性を支持し得る任意の物質として交換可能に理解される。そのような医薬組成物は、既製であってもよく、好ましくは液体製剤、特に注射用ポーションであり得る。
【0096】
保存形態は、液体であってもよいが、乾燥形態(例えば粉末、例えば乾燥またはフリーズドライしたプラスミノーゲンおよび少なくとも1種のプラスミノーゲン活性化因子をそれぞれ含む粉末)であってもよく、ペーストまたはシロップなどであってもよい。場合により、乾燥形態、ペーストまたはシロップは、患者に投与される前に溶解または乳化されることがある。
【0097】
薬学的に許容される担体は、水性緩衝液、生理食塩水、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、植物油、パラフィン油、またはこれらのうちの2つ以上の組合せからなるリストから例示的に選択することができる。さらに、薬学的に許容される担体は、場合により、1種もしくはそれ以上の界面活性剤、1種もしくはそれ以上のフォーム剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS))、1種もしくはそれ以上の着色剤(例えば、食品着色料)、1種もしくはそれ以上のビタミン、1種もしくはそれ以上の塩(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、亜鉛塩)、1種もしくはそれ以上の湿潤剤(例えば、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、プロピレングリコール、ポリデキストロース)、1種もしくはそれ以上の酵素、1種もしくはそれ以上の保存剤(例えば、安息香酸、メチルパラベン)、1種もしくはそれ以上の抗酸化剤、1種もしくはそれ以上のハーブおよび植物抽出物、1種もしくはそれ以上の安定化剤、1種もしくはそれ以上のキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA))、ならびに/または1種もしくはそれ以上の取込みメディエータ(例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、細胞透過性ペプチド(CPP)、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)、抗菌ペプチドなど)を含有し得る。
【0098】
本発明はまた、本発明の処置または予防の文脈において使用可能な医薬組成物の投薬単位に関する。例示的には、本発明は、単回用量容器または複数回用剤形に言及し得る。
【0099】
本発明はまた、医薬としての使用のための、本発明のプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲン、または本発明の医薬組成物に関する。
【0100】
本発明はまた、血栓性事象を処置または予防するための方法における使用のための、本発明のプラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲン、または本発明の医薬組成物に関する。プラスミノーゲン、特にGlu-プラスミノーゲンを用いるそのような処置は、国際公開第2018/162754号および国際公開第2020/152322号に詳細に記載されている。
【0101】
前述のように、プラスミノーゲンを精製する前に塩基性水性緩衝液を使用することは、取得可能なプラスミノーゲンの純度に特に有益であることが見出された。
【0102】
したがって、本発明のさらなる態様は、プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物からプラスミノーゲン以外のタンパク質を除去するための、pH8~11の塩基性水性緩衝液の使用であって、好ましくは、本発明の方法を含む、使用に関する。
【0103】
上記の方法の文脈において説明された実施形態および定義は、この使用に準用して適用されることが理解されるだろう。
【0104】
以下の実施例および図は、ここに記載および特許請求される本発明の例示的な実施形態を提供することが意図されている。これらの実施例は、本発明の主題の範囲に対する限定を提供することを意図するものではない。以下の図、実施例および特許請求の範囲は本発明をさらに例示する。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1】本発明の手順の一例のフローチャートを示す。プラスミノーゲンを含む血漿画分の沈殿物(例えば、オクタン酸沈殿物(OA-PPT))は、濾過ケーキとして提供することができ、再懸濁工程(A)に供すことができる。これは、濾過ケーキ(4)の酸性水性緩衝液への再懸濁を提供し得る。得られた溶液は、この目的に好適なカラム(7)(例えば、Eshmuno CPX、Merck、Germany)における陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)工程(B)に供すことができる。さらに、アフィニティークロマトグラフィー工程(C)が適用される。この目的のために、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化されたリジン類似体を含む固定相に基づく(例えば、リジンコンジュゲートセファロースに基づく)クロマトグラフィーカラム(11)を使用することができる。プラスミノーゲン製剤溶液(12)を得ることができる。
図2】本発明の手順の別の例の概要を示す図である。ここにおいて、プラスミノーゲンを含む血漿画分(例えば、オクタン酸沈殿物(OA-PPT)再懸濁液)の沈殿物(1)は、塩基性水性緩衝液(2)に分散することができる。例えば、(1):(2)の重量比は、1:5であってもよく、pHはpH9(例えば、pH9.0)に設定してもよい。分散液は、インキュベートおよび濾過することができる。これにより、主要な不純物を含む濾液(総タンパク質濃度は、例えば3~6g/Lであり得る)が沈殿物から分離される。残りの濾過ケーキ(4)は、pH5(例えば、pH5.0)を有する、リジンおよび/またはリジン類似体(例えば、0.2M 6-アミノヘキサン酸(AHA)を含有する0.2M酢酸ナトリウム)を含む酸性水性緩衝液に1:3の濾過ケーキ:緩衝液重量比で溶解することができる。得られた溶液(5)は、可溶化したプラスミノーゲンを含み、1g/L未満の総タンパク質含量を有し得る。この溶液(5)は、(例えば、pH5(例えば、pH5.0)の、10mM酢酸ナトリウムおよび50mMグリシンを含む緩衝液などの酸性緩衝液を用いて1:3の比に)さらに希釈することができる。得られた溶液(6)は、陽イオン交換クロマトグラフィー(CEX)カラム(7)(例えば、Eshmuno CPX、Merck、Germany)に供すことができる。それによって、リジンおよび/またはリジン類似体(8)(例えば、6-アミノヘキサン酸)を溶液から効果的に除去することができる。これにより、目的のプラスミノーゲンを含む溶液(9)を得ることができる。ここにおいて、高塩緩衝液を、溶出のために使用される溶出緩衝液(例えば、50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシンおよび1M塩化ナトリウムを含む、pH5(例えば、5.0))として使用することができる。溶液(9)は、さらなる、好ましくは酸性の緩衝液(10)(例えば、50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシンを含む、pH5(例えば、5.0))に希釈することができる。得られた溶液は、固定化されたリジンおよび/または少なくとも1種の固定化されたリジン類似体を含む固定相に基づく(例えば、リジンコンジュゲートセファロースに基づく)クロマトグラフィーカラム(11)に供すことができる。目的のプラスミノーゲンが結合し得る。溶出液(13)は、好ましくは検出可能なプラスミノーゲン含量を含有しない。プラスミノーゲン製剤溶液(12)を、例えば、pH3(例えば、pH3.0)の、50mMクエン酸塩および50mMグリシンを含む溶出緩衝液によって得ることができる。
図3】2.5μg/ウェルの総タンパク質負荷を用いた非還元条件下でのSDS-PAGEを示す図である。レーンAは、Glu-プラスミノーゲンの標準品(0.6μg/ウェル)を示す。レーンBは、All Blue Precision Standardを示す。レーンCは、Lys-プラスミノーゲンの標準品(0.6μg/ウェル)を示す。レーンDは、Lys-プラスミンの標準品(0.6μg/ウェル)を示す。レーンEは、リジンコンジュゲートセファロースカラムからの溶出液を示す。
図4】以下の実験セクションにおいて説明される、樹脂Eshumuno CPX(Merck、Germany)を用いて行った陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す。ピークA/1の前に有意なピークは存在しなかった。
図5】溶出が、以下の実験セクションにおいて説明される、固定化されたリジンに基づくカラムを用いて行ったアフィニティークロマトグラフィーのクロマトグラムを示すことを示す。2つのピークA/1およびB/1が存在する。
図6】以下の実験セクションに記載されるように提供されるSDS-PAGEゲルを示す図であり、レーンは以下の通りである:(1)再懸濁工程の第1の濾液、2.5μg/ウェル;(2)再懸濁工程の第1の洗浄工程からの濾液、2.5μg/ウェル;(3)再懸濁工程の第2の洗浄工程からの濾液、2.5μg/ウェル;(4)再懸濁の第2の洗浄工程からの濾液、本来の濃度;(5)Glu-プラスミノーゲン標準品、6μg/ウェル;(6)All Blue Precision Protein Standard;(7)Lys-プラスミノーゲン標準品、6μg/ウェル;(8)Lys-プラスミン標準品、0.6μg/ウェル;(9)カラムの充填前のCEXクロマトグラフィーのフィード、1:3に希釈した第2の再懸濁濾液;(10)カラムの充填後のCEXクロマトグラフィーのフィード、1:3に希釈した第2の再懸濁濾液;(11)カラムの充填前のアフィニティークロマトグラフィーのフィード、1:2に希釈したCEX溶出液、2.5μg/ウェル;(12)カラムの充填後のアフィニティークロマトグラフィーのフィード、1:2に希釈したCEX溶出液、2.5μg/ウェル;(13)アフィニティークロマトグラフィーの溶出液、2.5μg/ウェル;および(14)アフィニティークロマトグラフィーのフロースルー、2.5μg/ウェル。
図7】以下の実験セクションに記載されるように提供されるウェスタンブロットゲルを示す図であり、レーンは以下の通りである:(1)再懸濁工程の第1の濾液、1μg/ウェル;(2)再懸濁工程の第1の洗浄工程からの濾液、1μg/ウェル;(3)再懸濁工程の第2の洗浄工程からの濾液、1μg/ウェル;(4)再懸濁の第2の洗浄工程からの濾液、1μg/ウェル;(5)Glu-プラスミノーゲン標準品、0.09μg/ウェル;(6)All Blue Precision Protein Standard;(7)Lys-プラスミノーゲン標準品、6μg/ウェル;(8)Lys-プラスミン標準品、0.9μg/ウェル;(9)カラムの充填前のCEXクロマトグラフィーのフィード、1:3に希釈した第2の再懸濁濾液、1μg/ウェル;(10)カラムの充填後のCEXクロマトグラフィーのフィード、1:3に希釈した第2の再懸濁濾液、1μg/ウェル;(11)カラムの充填前のアフィニティークロマトグラフィーのフィード、1:2に希釈したCEX溶出液、1μg/ウェル;(12)カラムの充填後のアフィニティークロマトグラフィーのフィード、1:2に希釈したCEX溶出液、1μg/ウェル;(13)アフィニティークロマトグラフィーの溶出液、0.15μg/ウェル;および(14)アフィニティークロマトグラフィーのフロースルー、1μg/ウェル。
図8】非還元性条件下(A)および還元性条件下(B)における、Lys-プラスミノーゲンと比較したGlu-プラスミノーゲンを示すSDS-PAGEゲルのバンドを示す図である。Lys-プラスミノーゲンがよりはっきりと視認できることが明らかである。
【実施例
【0106】
血漿画分から(Glu-)プラスミノーゲンを単離するための方法の例
I)材料および方法
オクタン酸(OA)を用いたGlu-プラスミノーゲンを含有する血漿画分の沈殿から得た沈殿物(OA-沈殿物、OA-PPT)を、標準的な血液分画法から得た。この目的のために、Kistler-Nitschmann法からのOA-PPT(Kistler-Nitschmann沈殿物A、PPT-NA)を使用した。
【0107】
さらなる比較例では、Kistler-Cohn法(Kistler-Cohn画分I+II+III)からのOA-沈殿物を使用し、これは同等の結果をもたらした。OA-沈殿物180gの濾過ケーキを使用した。さらなる比較例では、OA-沈殿物360gを使用し、これは同等の結果をもたらした。
【0108】
a)沈殿物の塩基性水性緩衝液への分散
OA-沈殿物の濾過ケーキを塩基性水性緩衝液(0.2M酢酸ナトリウムおよび3.5%(w/v)のPEG2000を含有する)に、1:5の好ましい範囲(1:1から少なくとも1:10までの範囲も代替例において例示的に使用した)の濾過ケーキ:緩衝液の質量比で分散した(生成された懸濁液は9.0のpHに調整した)。
【0109】
b)分散液のインキュベーション
分散液を中程度の冷却条件(テンパリング装置、Lauda、Germany)下で1時間インキュベートおよび撹拌した。濾過助剤(5g/kgのHarborlite900、Imerys Filtration France S.A.S.)を添加し、室温で30分間さらにインキュベートおよび撹拌した。
【0110】
c)インキュベートした分散液の液体部分からの固体部分の分離
濾過助剤を含有する分散液を標準的なフィルタ(PuraFix CH 9P、Filtrox AG、Switzerland)によって濾過した。濾過ケーキを、沈殿物を分散するために使用した容量の最大半分の緩衝液を用いて洗浄した。濾過時間は個々の実験に合わせて調整した。それは、濾過が完了するまで求められた。典型的には、それは73kg/mでおよそ22分の範囲であった。
【0111】
驚くべきことに、沈殿物を分散するための塩基性水性緩衝液の使用とそれに続く濾過とが、例えば、(Glu-)プラスミノーゲン以外の多数のタンパク質、脂肪酸、PEG2000、およびオクタン酸の残留物などの不純物の効率的かつ本質的な除去を可能にしたことが見出された。不純物は濾液中に除去することができた。残りの濾過ケーキは(Glu-)プラスミノーゲンを含有した。
【0112】
d)(Glu-)プラスミノーゲンの可溶化
(Glu-)プラスミノーゲンを含有する濾過ケーキを酸性水性緩衝液(0.2M酢酸ナトリウムおよび0.2Mリジン類似体6-アミノヘキサン酸を含有、pH5.0に調整)と、1:3の好ましい範囲(1:1から少なくとも1:10までの範囲も代替例において例示的に使用した)の濾過ケーキ:緩衝液の質量比で混合した。OA-沈殿物180g当たり、Dowex 1×8(DuPont Dow Chemicals、USA)30gを添加した。
【0113】
混合物を中程度の冷却条件(テンパリング装置、Lauda、Germany)下で1.5時間インキュベートした。次いで、残留物を標準的なフィルタ(PuraFix CH 9P、Filtrox AG、Switzerland)による濾過によって除去した。濾過時間は個々の実験に合わせて調整した。それは、濾過が完了するまで求められた。典型的には、それはおよそ6分の範囲であったが、濾過量に合わせて変更された。濾過ケーキを洗浄して、残留物溶解画分を除去した。(Glu-)プラスミノーゲンは溶液中に本質的に残っていた。収率を改善するために、濾過残渣を、可溶化のために使用した容量の最大半分の酸性水性緩衝液を用いて洗浄した。その後、2つの溶液を合わせ、次いでさらに処理した。
【0114】
e)陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィー
上記から得た(Glu-)プラスミノーゲンを含有する溶液を、酸性水性緩衝液(10mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、pH5.0に調整)に、1:3の容量比(さらなる比較実験では、より広い範囲を使用した)に希釈した。
【0115】
強陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィー樹脂Eshumuno CPX(Merck、Germany)を固定相として使用した。これは、2.4mL/分(5分の接触時間)のフロースルーを使用する12mLクロマトグラフィーカラム(126×11mm)を備えるNGCクロマトグラフィーシステム(BioRad、USA)において使用した。このカラムは、平衡化緩衝液(200mM酢酸ナトリウム、pH5.0に調整)によって平衡化した。(Glu-)プラスミノーゲンを含有する希釈溶液を充填した。次いで、カラムを、洗浄緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、pH5.0に調整)を用いて洗浄した。最後に、(Glu-)プラスミノーゲンを含有する画分を、溶出高塩緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、1M NaCl、pH5.0に調整)によって溶出した。
【0116】
リジン類似体6-アミノヘキサン酸を溶液から効果的に除去できたことが見出された。
【0117】
f)リジンコンジュゲートセファロースを用いるクロマトグラフィー
上記から得た(Glu-)プラスミノーゲンを含有する溶液を、酸性水性緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、pH5.0に調整)に、1:2の容量比(さらなる比較実験では、より広い範囲を使用した)に希釈した。
【0118】
ECH-Lysine Sepharose 4 Fast-Flow(4%架橋アガロースに基づく、GE Healthcare/Cytiva、USA)を固定相として使用した。これは、1.2mL/分(10分の接触時間)のフロースルーを使用する12mLクロマトグラフィーカラム(126×11mm)または0.6mL/分(10分の接触時間)のフロースルーを使用する6mLクロマトグラフィーカラム(63×11mm)を備えるNGCクロマトグラフィーシステム(BioRad、USA)において使用した。カラムは、pH5.0の50mM酢酸ナトリウム緩衝液によって平衡化した。(Glu-)プラスミノーゲンを含有する溶液を充填した。カラムを、第1の洗浄緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、1M NaCl、pH5.0に調整)を用いて洗浄した。次いで、カラムを、第2の洗浄緩衝液(10mM酢酸ナトリウム、50mMグリシン、pH5.0に調整)を用いて洗浄した。最後に、Glu-プラスミノーゲンを含有する画分を、クエン酸塩含有溶出塩緩衝液(50mMクエン酸塩、50mMグリシン、pH3.0に調整)によって溶出した。
【0119】
g)SDS-PAGEおよびウェスタンブロット
SDS-PAGEを、Mini-PROTEANテトラセルシステム(BioRad、USA)および10%プレキャストポリアクリルアミドゲルを使用して実行した。非還元SDS-PAGEについては、試料を、Laemmli緩衝液(非還元)を用いて1:4に希釈し、次いでゲルに充填した。還元SDS-PAGEについては、タンパク質試料を、10%ジチオトレイトール(DTT)を含有するLaemmli緩衝液に1:4に希釈し、95℃で5分間インキュベートした。SDS-PAGEについては、レーンに、ウェル1つ当たりタンパク質3μgを充填し、ウェスタンブロットについては、ウェル1つ当たりタンパク質1.2~2.4μgを使用した。各ゲルは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Lys-プラスミン、およびPrecision Plus Protein All Blue Pre-Stained Protein標準品(BioRad、USA)の4つの標準品レーンを備えていた。電気泳動を、4℃の冷蔵庫において約1時間、1×泳動用緩衝液を用いて80~200Vで実施した。ニトロセルロース膜への転写は、Mini Trans-Blot(登録商標)電気泳動転写システム(BioRad、USA)を350mAで1時間使用する1×転写緩衝液(20%(v/v)メタノールを用いて1:10に希釈した10×緩衝液)中でのウェット式ブロッティングによって実行した。転写システムは冷蔵庫の外で準備したため、密封アイスユニットを緩衝液タンクに付加して、システムを冷却し、オーバーヒートおよび温度変動を予防した。次いで、転写膜をTBST緩衝液中5%(w/v)脱脂粉乳において1時間ブロッキングし、TBST緩衝液(Tween-20を含有するトリス緩衝生理食塩水)中5%(w/v)脱脂粉乳において、一次抗体(1:700)と共に4℃で一晩インキュベートした。TBST緩衝液を使用した洗浄工程(3×5分)後、膜を、西洋ワサビペルオキシダーゼにコンジュゲートした二次抗体(1:2000)と共に(TBST緩衝液中5%(w/v)脱脂粉乳において)室温で1時間インキュベートした。タンパク質バンドを、SeramunBlau prec(登録商標)膜基質(Seramun Diagnostica GmbH、Germany)を使用して検出した。
【0120】
h)タンパク質分解活性の決定
総タンパク質分解活性:
発色基質S-2288と混合した試料(100μL+100μL試料)の450nmにおける吸収動態を、分光光度計を使用して37℃で1~3分間モニタリングすることによって、タンパク質分解活性(PA)を評価した。7~9のpH範囲の試料を、PAアッセイ緩衝液I(0.1Mトリス-HCl、0.106M NaCl、pH8.7)を用いて1:4に予め希釈した。7未満のpHを有する酸性再懸濁液試料については、試料を、PAアッセイ緩衝液Iを用いて1:8に予め希釈して、プロテアーゼが再び活性となるpH値を達成した。アッセイの線形範囲を満たすために、PAアッセイ緩衝液Iを用いた少なくとも1:2の希釈比を使用した。使用した全ての緩衝液を、PA緩衝液Iを用いた必要とされる希釈比に関して評価して、総タンパク質分解活性に適切な8.4の標的pHを達成した。
【0121】
優勢な(prevalent)タンパク質分解活性:
酸性試料の、再懸濁液環境における優勢なタンパク質分解活性を評価するために、代替的なプロトコルを使用した。試料をPAアッセイ緩衝液II(0.025Mトリス-HCl、0.026M NaCl、pH8.7)と1:2で混合した。次いで、混合物を発色基質S-2288と1:2で混合し、450nmにおける吸収動態を、分光光度計を使用して37℃で1~3分間測定した。
【0122】
II)結果
驚くべきことに、非常に高い純度のGlu-プラスミノーゲンを高収率で取得可能であることが見出された。
【0123】
一例では、第1の分散および濾過後の可溶化タンパク質含量(濾液および洗浄)は17.6gであり、第1の濾液の総タンパク質分解活性は38IU/g、および第1の洗浄後の総タンパク質分解活性は62IU/gであった。
【0124】
この例において、酸性緩衝液を用いた可溶化後の可溶化タンパク質含量(濾液)は153mgであった。これはGlu-プラスミノーゲン19.2mgを含有した。濾液における総タンパク質分解活性は59IU/gであり、優勢なタンパク質分解活性は検出レベル未満であった。この文脈において、優勢なタンパク質分解活性は、現時点では活性であるが低い処理pHでは抑制されるプロテアーゼを測定するための変換された基質の測定値を記載する。総タンパク質分解活性のために、試料pHを、基質変換および生成物を害し得る存在する全てのプロテアーゼの評価に最適な値に戻すように調整した。
【0125】
陽イオン交換(CEX)クロマトグラフィーの回収率は81%であった(さらなる比較実験では、より広い範囲を使用した)。総タンパク質分解活性は、CEX前の59IU/gからCEX後の37IU/gに低下した。生成組成物(Glu/Lys-プラスミノーゲン)において観察可能な変化は存在しなかった。SDS-PAGE/ウェスタンブロット(WB)に関して、上側の2つのバンドはGlu形態(2つの異なるグリコシル化)を示し、下側のバンドは2つの異なるグリコシル化を有するLys形態を示す。Glu形態の下側のバンドとLys形態の上側のバンドとは重なっているため、3つのバンドのみが視認できる。ウェスタンブロットでは、CoaChrom Diagnostica GmbH(Austria)から得た市販の抗プラスミノーゲン抗体「ヒツジ抗ヒトプラスミノーゲン(Pg)」(「SAPG-IG」)を融合した。抗ヒツジIgG抗体を二次抗体として使用した。
【0126】
【表1】
【0127】
この実験では、より高いタンパク質濃度において、値のある程度の変化が観察された。単一の実験、すなわちBradfordアッセイまたはELISAにおける異なる桁の試料の比較に焦点を当てた。
【0128】
リジンコンジュゲートセファロースを用いたクロマトグラフィー後の溶出液は、プラスミノーゲン601μg/mLを含有し、このうち587μg/mLがGlu-プラスミノーゲンであった。これは、プラスミノーゲン含量において97%(w/w)超の純度である。プラスミノーゲンの発色活性は164%であった。総タンパク質分解活性は145IU/gであり、優勢なタンパク質分解活性は検出レベル未満であった。
【0129】
SDS-PAGEゲル(図6を参照のこと)およびウェスタンブロット(図7を参照のこと)において、プラスミノーゲンは、溶出前の洗浄緩衝液のフロースルー中に検出されなかった(それぞれ、レーン(1)および(2)を参照されたい)。
【0130】
アフィニティークロマトグラフィーの溶出液(図6および7のレーン(13)を参照されたい)において、有意な量の純粋な(Glu-)プラスミノーゲンが得られた。同一性はウェスタンブロットによって示され、純度はSDS-PAGEゲルにおいて示されている。全ての視認できる不純物を本質的に除去した。分子量は、Glu-プラスミノーゲン標準品の質量を満たした(レーン(5)を参照されたい)。
【0131】
注目すべきことに、アフィニティークロマトグラフィーのフロースルーは、検出可能な量の(Glu-)プラスミノーゲンを示していない(図6および7のレーン(14)を参照されたい)。このことは、アフィニティークロマトグラフィー工程が得られた収率を有意には低下させなかったことを示す。
【0132】
プラスミノーゲンの溶出液純度は、ピークが90.78%であることを示した。検出される可能性のある不純物は、0.7%(w/w)のアルブミン、1.0%(w/w)の免疫グロブリンIgG、0.8%(w/w)の免疫グロブリンIgG、および1.1%(w/w)の免疫グロブリンIgMである。
【0133】
【表2】
【0134】
試料に6-アミノヘキサン酸(6-AHA)を加えた、すなわち、同等の含量の6-AHAを添加して、試料同士の比較性を改善した。
【0135】
したがって、本発明の方法は、異なる供給源のオクタン酸(OA)を用いて使用可能であり、確実性の高い高純度のGlu-プラスミノーゲンを提供する。
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
【国際調査報告】