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特表2024-521973家畜及び家禽のための栄養サプリメントとしてのカルシウム及び揮発性脂肪酸のニート反応生成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】家畜及び家禽のための栄養サプリメントとしてのカルシウム及び揮発性脂肪酸のニート反応生成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/24 20160101AFI20240528BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20240528BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20240528BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20240528BHJP
【FI】
A23K20/24
A23K20/158
A23K50/10
A23K50/75
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577700
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 US2022033218
(87)【国際公開番号】W WO2022265973
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】17/304,194
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592144711
【氏名又は名称】ジンプロ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】ZINPRO CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ピーター エー.スターク
(72)【発明者】
【氏名】ジェイソン バーナード ウィベルス
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005BA07
2B005DA01
2B150AA02
2B150AA05
2B150AB03
2B150DA35
2B150DH04
(57)【要約】
酸化カルシウム及び水酸化カルシウムからなる群から選択されるカルシウム金属源を、酪酸、イソ酪酸、2メチル5酪酸、バレリアン酸及びイソバレリアン酸からなる群から選択される低分子量揮発性脂肪酸とニートで反応させることによって調製される、実質的な悪臭問題のない動物飼料サプリメントのためのプロセス及び組成物。制御された反応条件(ニート)及び2つの反応物の制御された重量比の下で、実質的に無臭であり、動物飼料サプリメントとして有用な生成物が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪臭問題のないイソ酸飼料サプリメントを調製するプロセスであって、
固相の酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの群から選択されるカルシウム金属源を、酪酸、イソ酪酸、2メチル酪酸、バレリアン酸、及びイソバレリアン酸からなる群から選択される低分子量揮発性脂肪酸と、約1:1~約1:2の範囲であるカルシウム金属源対低分子量揮発性脂肪酸源のモル比で反応させて、動物飼料給餌サプリメントとして有用な、実質的に無臭のカルシウム塩生成物を提供することを含む、プロセス。
【請求項2】
カルシウム金属源対低分子量揮発性脂肪酸源の前記比が、約1:1.5~約1:1.9の範囲内である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記プロセスが、いかなる脂肪カプセル化添加剤も使用せずに、機械的混合反応器内で実行される、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記プロセスが、ニートで実行される、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記プロセスが、パドルドライヤーシステムを備えたせん断機械的ミキサー内で実行される、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記サプリメントが、市販のミキサーで調製される、請求項1~5のいずれか一項に記載の飼料サプリメント。
【請求項7】
前記市販のミキサーが、パネルドライヤーである、請求項6に記載の飼料サプリメント。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセスの生成物。
【請求項9】
細分化された形態である請求項8に記載の生成物。
【請求項10】
実質的な臭気問題のない反すう動物、ブタ、及び家禽のための飼料サプリメントであって、カプセル化されておらず、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの群から選択されるカルシウム金属イオン源と、酪酸、イソ酪酸、2メチル酪酸、バレリアン酸及びイソバレリアン酸からなる群から選択される揮発性脂肪酸とからニートで、約1:1~約1:2の範囲である酸化カルシウム又は水酸化カルシウム対揮発性脂肪酸のモル比で調製された、細分化カルシウム揮発性脂肪酸飼料源を含む、飼料サプリメント。
【請求項11】
カルシウムイオン源対揮発性脂肪酸源の前記モル比が、約1:1.5~1:1.9である、請求項10に記載の飼料サプリメント。
【請求項12】
前記飼料サプリメントを動物に供給することを含む、請求項8~11のいずれか一項に記載の飼料サプリメントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
家畜、ブタ、及び家禽のための本質的に無臭のイソ酸栄養素の製造及び使用。
【背景技術】
【0002】
酪酸、イソ酪酸、及びバレリアン酸などの揮発性脂肪酸が、乳牛の乳生産を改善し、また有用な栄養サプリメントであることは動物栄養分野で周知である。しかし、これらの目的のためにこれらの揮発性酸を使用することの主な欠点の1つは、それらの強い臭気である。この臭気は、極度の酸敗臭、嘔吐物、及び/又は極度の体臭の臭いとして説明されることがある。Eastman Kodakは、動物産業用にこれらの化合物をもともと製造しており(米国特許第4,804,547号を参照)、この文献はイソ酸のカルシウム塩を作製することを開示しているが、それらの臭気のために広く使用されることはなかった。臭気は、発酵促進剤としてこれらを食べる動物にとっては、それらを生産する労働者にとってよりも問題ではなかった。しばしば、労働者は臭いに耐えられず、気分が悪くなり、更に一部は有害な医学的影響を主張することさえあった。イソ酸のアンモニウム塩を作製することで臭気を減少させることに関連する米国特許第4,376,790号などのように、臭気を減少させるためのいくつかの努力があった。このタイプの生成物を改善する別の試みは、尿素及び対応する酸アルデヒドからイミンを作製することであった(公報第WO84/006769号を参照)。しかし、アルデヒドは酸よりもはるかに高価であり、したがって、これが実行可能な製品になることはなかった。最後に、より最近の臭気低減技術は、ペクチンなどの材料に由来するペンダントポリカルボン酸にイソ酸を結合させることを伴う(Stark、米国特許第10,034,986号を参照)。
【0003】
揮発性有機酸の塩の臭いを少なくする他の方法は、低分子量揮発性脂肪酸を炭水化物又はタンパク質でコーティングすることを含む。この技術は、例えば、European Bulletin2017/40の2017年10月4日に公開された欧州特許第2,727,472号に記載されている。この特許では、低分子量揮発性脂肪酸のマトリックスと別の脂肪物質を混合し、次に押し出して、胃安定性脂肪マトリックスとしてカプセル化された製品を提供する。そのようなコーティングでは、部分的なコーティングのみ、コストの増加、腐敗臭の非効果的で不完全な遮蔽、そしてもちろん、より多くの成分の使用による加工の複雑さの増加を含む問題が発生する可能性がある。
【0004】
ここで使用される「イソ酸(Isoacids)」は、分岐鎖脂肪酸:イソ酪酸、2-メチル酪酸、及びイソバレリアン酸、並びに直鎖バレリアン酸及び酪酸の総称であり、これらの全ては、反すう動物の消化管で自然に生成される。これらは、バリン、イソロイシン、ロイシン、及びプロリンのアミノ酸の分解生成物から主に構築されている。第一胃内セルロース分解細菌の特定栄養素としての役割に加えて、イソ酸は微生物発酵に一般的なプラスの影響を及ぼすようである。中間代謝に対するイソ酸の影響については、限られた情報しか入手できない。成長ホルモンの変化並びに乳腺及び骨格筋に対する間接的な影響(アミノ酸を介して)が示唆されている。ウシの実験のレビューから、イソ酸の栄養サプリメントもまた、乳生産にプラスの影響を及ぼし得る。反すう動物の消化及び代謝におけるイソ酸の科学的議論については、Animal Feed Science and Technology,18(1987)169-180を参照のこと。
【0005】
揮発性脂肪酸由来の発酵促進剤を、生産作業及び/又はサプリメントを与えられる動物による有害反応なしに使用できる実行可能な飼料サプリメント製品にするために、臭気を減少させるための便利で低コストのプロセスが引き続き必要とされている。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、ニート反応から得られる特定の反応生成物が、有用なサプリメントを作製するだけでなく、カプセル化脂肪酸コーティングなどのいかなる臭気マスキング剤も必要とせずに使用することができる悪臭がほとんど又は全くないサプリメントを作製することを発見した。
【0007】
要するに、本発明は、少なくとも、低分子量揮発性脂肪酸と、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムとの反応生成物に関して(特に、以下に示される好ましい重量比で実施される場合)、腐敗臭を低減させるためにカプセル化を必要としない有用な生成物をもたらす。要するに、本発明は、前述のような継続的な需要を満たす。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、カルシウムイオン源を低分子量揮発性脂肪酸と固相ニート反応中で反応させ、次いで反応生成物を栄養サプリメントとして使用することによって、家畜及び家禽の栄養サプリメントとしての低分子量揮発性脂肪酸の腐敗臭の問題を克服する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
重要なことに、本発明に有用な腐敗臭のないカルシウムのイソ酸塩は、イソ酸と、固体形態の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムのいずれかとの反応混合物中で直接製造することができ、反応は、その場(in situ)で起こる酸/塩基反応から生じる通常の発熱反応温度で、直にミキサー内でニートで実施されることが見出された。
【0010】
実際、反応は、例えば、ホバートミキサー、ツインスクリュー押出機、真空パドルドライヤー、リボンブレンダーで実施することができ、通常のビーカーなどの中で小さなハンドバッチを作製することもできる。
【0011】
ツインスクリュー押出機を利用して複数の実験を実施した。CoperionのZSK26モデル及びZSK34モデルをそれぞれ初期開発及びスケールアップモデリングに使用した。各押出機は、原材料の供給及び注入を可能にし、適切な混合、搬送、及び排出を確実にするために、対応するスクリュー要素を備えたマルチバレル構成でセットアップされた。
【0012】
固体の水酸化カルシウムをサイドフィーダーを通して導入した。それぞれのイソ酸を、下流ポートのうちの1つに注入した。水酸化カルシウムとイソ酸との混合物を、混合要素を通して搬送し、開放排出口から排出した。複数の変数を独立して調整して、押出機内の混合物の温度、スクリュー速度、原材料供給比、及び全体の供給速度を含むプロセスを最適化した。材料が反応するにつれて、自由流動性のスラリーから粘土状の固体、そして脆い固体へと変化した。そのため、押出機における滞留時間は、実験中の重要な考慮事項であった。
【0013】
実験には、BEPEXのSolidaireパドルドライヤーも使用した。Solidaireパドルドライヤーは、円筒形容器内の水平撹拌ローターで構成されている。容器には、熱源として蒸気を利用した熱伝達ジャケットが装備されている。ローターは、ピッチ及び深さが調整可能なパドルで構成されており、材料の滞留時間及び材料層の厚さを細かく制御できる。
【0014】
実験は、定義された全体の供給速度、調整された原材料供給比、ローター速度、及びジャケット温度で実施した。再度、滞留時間は、実験中の考慮事項であった。追加の混合/反応時間を可能にするために、ツインローター低速パドルミキサーをパドルドライヤーと併せて使用した。
【0015】
重要なことに、反応は、無臭生成物を達成するために、本明細書で示される比率の範囲内で変化する、制御されたモル比で実施されなければならない。特に知られていない又は理解されていない理由により、理論に束縛されることを望まないが、金属対酸の1:2までの完全な反応がない場合、結合した酸の保持がより強固になるという何かが化学的性質にあると思われる。酸化カルシウムと水酸化カルシウムとの両方を含む1:2のものは、より低い比のものよりも臭いがある。
【0016】
1:2の比に近づくほど、臭いがより強くなり始めるため、1対2未満の比で最良の結果が得られる。臭いに関するこれらの最良の結果は、金属:酸の比が、約1:1~約1:2の範囲内である場合に得られ、最も好ましい範囲は1:1.5~1:1.9である。
【0017】
時々、この反応はニート反応であると言われる。ニートとは、化学反応の文脈で、溶媒、担体、又は触媒を添加せずに、すなわち、反応物のみを一緒にして実施される反応を指すために使用される。これは、製品が作製され、次いでヘッドスペースの臭気が測定される、以下の実施例に示される。
【0018】
以下の実施例では、「IBA」という用語はイソ酪酸を、「BA」は酪酸を、「2MBA」は2メチル酪酸を、「3MBA」は3メチル酪酸を、「VA」はバレリアン酸を指す。以下の例では、揮発性脂肪酸の低分子量塩を形成するために、ニート反応を使用すること、及び適切な比の酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを使用することの重要性が、手で混合された試料及び一般に利用可能な高せん断混合装置の使用の両方に関して示されている。
【0019】
臭いは、ガスクロマトグラフヘッドスペース分析を使用して測定される。測定されたヘッドスペースppmが15,000ppm未満である場合、許容可能な臭気を構成する。
【実施例
【0020】
実施例1~5の手混合試料の手順は、以下のとおりである。
【0021】
実施例1
示されている「X」grのCaO又はCa(OH)2を100mLビーカー中で量る。この固体に「y」grの酸を加え、混合物を手で撹拌する。混合中に熱が放出される。固体を冷却し、次いで、臭気又は揮発性成分について、百万分率で測定されるGC/MSヘッドスペース分析によって分析されるまで、容器に密封する。

【表1】
【表2】
【0022】
実施例2
【表3】
【表4】
表2に示されるように、実施例2の結果は、モル比が1:2を超えると、ヘッドスペースにおけるppmで測定される、腐敗臭の劇的な上昇を示している。
【0023】
実施例3
【表5】
【表6】
【0024】
実施例4
【表7】
【表8】
Ca(OH)及び2MBを使用する実施例4で証明されるように、実施例2と同様の結果が観察された。
【0025】
実施例5
【表9】
【表10】
【0026】
実施例6
実施例6では、表6に示される比でカルシウム源及びイソバレリアン酸を使用して試料を作製し、それぞれのヘッドスペース測定値をppmで示す。
【表11】
【0027】
腐敗臭を効果的に低減又は排除するための反応物のそれぞれのモル比の重要性は、表形式のppmデータにおける百万分率でのヘッドスペース測定に関連する生成データによって示されている。
【0028】
実施例7
この実施例7では、Ca(OH)2をホバートミキサーに加え、混合モーターを開始した。これに、液体酸をニートで加えた。使用した酸は、IBAと2MBAとの混合物(70%IBA/30%2MBA)であった。ミキサーは3時間混合を続け、生成物を収集し、ヘッドスペース分析のために試験した。表7は、収集されたデータを報告する。
【表12】
【0029】
実施例8
別のホバート混合物を、Ca(OH)2と酪酸とを反応物として使用して作製した。表8は、収集されたデータを報告する。
【表13】
【0030】
実施例9
実施例9及び10、並びに11は、前述のBEPEX製のSolidareパドルミキサー/ドライヤーを使用したニート運転である。カルシウム源に対するIVAのモル比、及びヘッドスペースppm測定値は、表9にある。カルシウム源はCa(OH)2であった。
【表14】
【0031】
実施例10
【表15】
パドルドライヤーにおけるニート運転は実施例10に示され、カルシウム源はCa(OH)2。
【0032】
実施例11
カルシウム源としてCa(OH)2を使用する更に別のパドルドライヤーの例を表11に示す。
【表16】
【0033】
実施例12
Ca(OH)2及び2MBAを用いた更に別のパドルドライヤー実験は、これらの結果を伴う。
【表17】
【0034】
実施例13
CaO及びIBAを用いたパドルドライヤー実験を使用した別の例は、この結果を伴う。
【表18】
【0035】
実施例14
実施例14及び15は、Coperionの25k34モデルを使用して前述したようにニートで、ツインスクリュー押出機で連続的に運転した。実施例14及び15のそれぞれについて、カルシウム源は、Ca(OH)2である。
【表19】
【0036】
実施例15
【表20】
実施例15は、表15に示されるモル比で2MBA及びCa(OH)2を使用する。
【0037】
実施例14及び15のそれぞれについて、ヘッドスペース(HS)測定値は15,000ppm未満であり、許容可能な作業環境の臭気を示した。
【0038】
比較例A(イソ酸のアンモニウム塩)
【表21】
臭いは主観的なものであるが、アンモニウム塩は全て150,000ppmを超えていることがわかる。これは非常に強い臭気を与える。一般的に、15,000ppm未満のものは、臭気が許容可能であると考えられる。
【0039】
比較例B
手で混合した比較例を上記(実施例6)で行ったのと同様の方法で調製したが、今回は水(50%)で行い、ヘッドスペースで試験する前に水を蒸発させた。比は、Ca(OH)2対イソバレリアン酸1:2であった。
【表22】
【0040】
比較例は、的確な塩を使用することの重大性及びニート反応の重要性を示している。
【0041】
記載された説明及び実施例並びに観察されたデータから、本発明は、実施可能であり、かつ臭気低減に効果的であり、したがって、栄養豊富なイソ酸栄養素を調製するのに商業的に効果的であり得ることがわかる。
【国際調査報告】