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特表2024-521977ポータブル超音波装置及び超音波撮像方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】ポータブル超音波装置及び超音波撮像方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20240528BHJP
【FI】
A61B8/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024507054
(86)(22)【出願日】2022-04-19
(85)【翻訳文提出日】2023-10-17
(86)【国際出願番号】 AU2022050356
(87)【国際公開番号】W WO2022221913
(87)【国際公開日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】2021901145
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.QRコード
(71)【出願人】
【識別番号】523394273
【氏名又は名称】ヴェインテク ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バッポー,ニクヒレシュ
(72)【発明者】
【氏名】バックリー,ニコラス マイケル
(72)【発明者】
【氏名】アレンソン,キャサリン ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】メータ,リトゥ サンジャイブハイ
(72)【発明者】
【氏名】アル オデ,サリーム アーメッド サリーム
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB03
4C601DD05
4C601DD14
4C601DD19
4C601DE03
4C601EE11
4C601EE16
4C601EE20
4C601FF03
4C601GB06
4C601JC06
(57)【要約】
選択された皮下構造を非侵襲的に撮像するためのポータブル超音波装置(109)は、(a)ハウジング(110)、及び(b)トランスデューサ素子(300)の複数のアレイ(300A)を含む。各アレイ(300A)は並列に配置され、各トランスデューサ素子(300)は、送信トランスデューサ(705)及び受信トランスデューサ(707)を含み、対象の体(100)の方に所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを連続して送信し、対象の体(100)から所定の周波数範囲内のエコー信号を連続して受信するためにハウジング(110)内に位置している。複数の並列アレイ(300A)により、複数の横断面及び外側面内の皮下構造(101、101A)の撮像が可能になる。さらに超音波装置(109)は、(c)トランスデューサ素子(300)の複数のアレイ(300A)を操作するためのコントローラ(250)であって、トランスデューサ素子(300)の複数のアレイ(300A)から受信したエコー信号を処理するためのプロセッサ(350)と通信可能である、コントローラ、及び(d)プロセッサ(350)によって生成された皮下構造(101、101A)の解釈可能な画像(104A、104B)を表示するための画面(104)を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象内の選択された皮下構造を非侵襲的に撮像するためのポータブル超音波装置であって、
(a)ハウジングと、
(b)トランスデューサ素子の複数のアレイであって、各アレイは並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、対象の体の方に所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを連続して送信し、超音波エネルギーの反射後、前記対象の前記体から所定の周波数範囲内のエコー信号を連続して受信するために前記ハウジング内に位置しており、前記複数の並列アレイは複数の横断面及び外側面内の前記皮下構造の撮像を可能にする、前記複数のアレイと、
(c)前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイを操作するためのコントローラであって、前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイから前記受信したエコー信号を処理するためのプロセッサと通信可能である、前記コントローラと、
(d)前記ハウジングの一部を形成して、前記皮下構造の前記画像を表示するための画面であって、前記プロセッサは前記皮下構造から返される前記エコー信号を処理して、前記対象の前記皮下構造の解釈可能な画像を選択的に生成するように構成される、前記画面と、
を含む、前記ポータブル超音波装置。
【請求項2】
前記皮下構造は、静脈などの血管構造である、請求項1に記載の超音波装置。
【請求項3】
前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイは、干渉を最小にし、走査窓を最大にするように選択された横軸に沿った距離ξだけ互いから離隔される、請求項1または2に記載の超音波装置。
【請求項4】
ξは5~30mmの間である、請求項3に記載の超音波装置。
【請求項5】
前記並列アレイは、10<Φ<60である超音波照射角度Φに置かれる、請求項4または5に記載の超音波装置。
【請求項6】
前記画面は、前記プロセッサの支援で、カニューレまたは同様の装置を挿入するための正しい位置のインジケーションを提供し、前記画面上の表現(複数可)は、撮像した皮下構造の深さ、及び組織に挿入される針先の位置のうちの1つまたは複数を含む情報を任意選択で表示する、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、前記撮像した皮下構造へのアクセスに推奨された最適な針ゲージ及び/または挿入角度を計算するようにプログラムされる、請求項6に記載の超音波装置。
【請求項8】
血管構造分野及び血行動態分野の両方、任意選択で速度、圧力、せん断応力、乱流、うっ血、拍動性または狭窄のうちの1つまたは複数について、3Dでの表現が提供される、請求項6または7に記載の超音波装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、動脈血管構造と静脈血管構造とを区別するための命令によってプログラムされる、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項10】
前記プロセッサは拍動測定に基づいて動脈及び静脈動脈構造を区別する、請求項9に記載の超音波装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、エネルギー信号の処理に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別するための命令によってプログラムされる、請求項9に記載の超音波装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、超音波エネルギー信号の前記処理に基づいて、前記超音波装置と前記対象の前記体との接触領域より下の前記皮下構造の位置を決定するための命令によってプログラムされる、請求項9または11に記載の超音波装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、前記超音波エネルギー信号の処理に基づいて、前記接触領域より下の前記皮下構造の前記深さ及び寸法のうちの少なくとも1つを決定する、請求項12に記載の超音波装置。
【請求項14】
前記プロセッサは、前記皮下構造の圧縮によって前記超音波エネルギー信号を処理する、請求項12または13に記載の超音波装置。
【請求項15】
対象内の皮下構造の撮像方法であって、
前記対象の体上の位置またはその直近に適用されるポータブル超音波装置に含まれるトランスデューサ素子の複数のアレイを介して、所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを前記対象の前記体に非侵襲的に送信することであって、前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイの各アレイは並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、前記トランスデューサ素子の前記複数の並列アレイは、複数の横断面及び外側面内で前記皮下構造の撮像を可能にする、前記送信することと、
超音波エネルギーの送信後、前記対象の前記体から所定の周波数範囲内のエコー信号を受信することと、
前記受信したエコー信号をプロセッサによって処理することと、
前記ポータブル超音波装置の一部を形成する画面上に前記対象の前記皮下構造を表示する画像を生成することと、
を含む、前記撮像方法。
【請求項16】
前記プロセッサは動脈血管構造と静脈血管構造とを区別する、請求項15に記載の撮像方法。
【請求項17】
前記プロセッサは、拍動測定に基づいて動脈及び静脈動脈構造を区別する、請求項15または16に記載の撮像方法。
【請求項18】
前記プロセッサは、エネルギー信号の処理に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項15または16に記載の撮像方法。
【請求項19】
前記プロセッサは、超音波エネルギー信号の前記処理に基づいて、前記超音波装置と前記対象の前記体との接触領域より下の前記皮下構造の位置を決定する、請求項15、16または18のいずれか1項に記載の撮像方法。
【請求項20】
前記プロセッサは、前記超音波エネルギー信号の処理に基づいて、前記接触領域より下の前記皮下構造の深さ及び寸法のうちの少なくとも1つを決定する、請求項19に記載の撮像方法。
【請求項21】
前記プロセッサは、前記皮下構造の圧縮によって前記超音波エネルギー信号を処理する、請求項19または20に記載の撮像方法。
【請求項22】
前記プロセッサは、血管アクセス装置によって、撮像された皮下構造、例えば血管構造へのアクセスに最適な針ゲージ及び/または挿入角度を計算する、請求項15~21のいずれか1項に記載の撮像方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポータブル超音波装置及びその装置を用いた超音波撮像方法に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢静脈カニューレ挿入法(PIVC;導入針の支援によって静脈内側に、血管アクセス装置、通常はプラスチック製カニューレを設置する)は、最も一般的に行われている侵襲的医療手技であり、毎年世界中で20億本を超えるカニューレが販売されている(Rickard et al.(2018)Lancet 392(10145):419-430)。入院患者の70%超が入院中にカニューレを必要とする(Zingg and Pittet(2009)Int J Antimicrob Agents 34 Suppl 4:S38-42)。
【0003】
カニューレなどの血管アクセス装置を使用する血管アクセス手技の大多数は、いかなる可視化デバイスの支援もなく行われ、患者の皮膚を通して、そして臨床医の血管を感じる能力によって観察されるものに依存している。患者が最初にカニューレを設置されるのは、ほとんどの入院患者の入り口でもある救急部門であることが最も一般的である。これらは多くの場合、静脈の感覚または視覚による当て推量を伴う性急な方法で挿入されるため、最適とはいえない挿入位置及び方法になる。患者の状態が安定したら、多くの場合、これらのPIVCを取り外して再挿入する必要がある。
【0004】
カニューレの位置は医師または看護師が決めることができるが、これは国及び病院によって異なる。Western Australianの公立病院では、カニューレの大部分は若手医師(インターン、レジデントの医官及びレジストラ)または訓練を受けた臨床看護師によって設置される。
【0005】
カニューレ挿入が難しいとみなされる場合、または何度も失敗した場合、若手医師は上級医師の支援を得て、挿入を再試行する。標準的な試行が何度も失敗した場合、適切に訓練された、通常は上級医師が超音波を用いて静脈を可視化し、さらなるカニューレ挿入の試行をガイドすることがある。超音波支援によるカニューレ挿入または静脈穿刺には、十分な訓練と経験が必要であるが、超音波装置を利用できる部門はわずかである。
【0006】
超音波の導入がうまくいかない場合の主な障害は、その技術の使用の難しさである。
【0007】
第一に、エンドユーザは、画像の解釈はもちろん、まず鮮明な画像を取得するために、超音波設定を調整し、ハードウェア(プローブ)を患者に適切に位置決めするために広範な訓練を必要とする。
【0008】
第二に、エンドユーザ、特にほとんどのカニューレ挿入を行うエンドユーザ(若手医師または認定看護師)にとって、従来のBモードまたはカラードプラ画像を客観的に解釈し、対象となる動脈または静脈を同定して区別することは困難である。
【0009】
第三に、画面は通常、別のカートベースのシステム上にあり、血管の位置とアライメントされていないため、エンドユーザは撮像プローブを保持しており、針を挿入しようとしながら、隣接する画面を観察する必要があるなど、ユーザビリティの問題が存在する。
【0010】
文献によれば、カニューレ挿入は最初の試行で40%の許容できない確率で失敗する(Rickard et al.(2018)Lancet 392(10145):419-430;Cooke et al.(2018)PLoS One 13(2):e0193436;Keogh and Mathew(2019)Australian Commission on Safety and Quality in Health Care)。
【0011】
静脈へのアクセスが困難な患者では、複数回のカニューレ挿入の試行が必要になることがよくある。こうした複数回の試行は、患者に多大な痛み及び苦痛を与えるだけでなく、臨床医にフラストレーションを与え、時間及び機器の大幅な浪費を引き起こす。これにより、下流の検査及び治療に遅延が生じる。これらの遅延により、その部門を通過する患者の流れも遅くなり、救急待ち時間が長くなる。
【0012】
またカニューレ挿入の試行を繰り返すことは、感染率が高くなり、罹患率が高くなり、入院期間が長くなることに関連付けられる。これは医療サービスのコスト増加につながる(Bahl et al.(2016)The American Journal of Emergency Medicine,34(10):1950-1954;Fields et al.(2013)Journal of Vascular Access15(6):514-518)。
【0013】
患者における初回通過のカニューレ挿入の試行は、いくつかの理由で失敗する可能性がある。一部は患者の不安とそれに伴う運動に関連している場合があり、多くは臨床医のスキルまたは経験の不足に関連している場合があるが、大部分は患者の静脈アクセスが困難であり、視覚または感覚による静脈の同定を低下させるためである。非限定的な例として、これは、肥満、過去もしくは現在の化学療法、以前の静脈注射薬使用、または腎不全及び心不全の結果であり得る。
【0014】
カニューレ挿入が困難な可能性のある他の患者には、幼少及び超高齢者、さらには皮膚の色が濃い患者が含まれるが、これらに限定されない(Au et al.(2012)Am J Emerg Med 30(9):1950-1954;Bauman et al.(2009)Am J Emerg Med 27(2):135-140;Brannam et al.(2004)Acad Emerg Med11(12):1361-1363;Chinnock et al.(2007)J Emerg Med 33(4):401-405)。肥満は血管へのアクセスが困難になる最も一般的な原因であり、オーストラリア人の28%、世界中の人の13%が肥満である(World Health Organisation(2018))。
【0015】
背景技術に関するこれまでの説明は、本発明の理解を容易にすることのみを意図したものである。この議論は、参照されるいかなる材料も本明細書の優先日時点で、一般常識の部分であること、またはそうであったことの認知または承認ではない。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、例えば医師が静脈穿刺またはカニューレ挿入を実行するのを支援するために、対象の皮下構造を撮像するためのポータブル超音波装置を提供する。
【0017】
一態様では、本発明は、対象内の選択された皮下構造を非侵襲的に撮像するためのポータブル超音波装置を提供し、ポータブル超音波装置は、
(a)ハウジングと、
(b)トランスデューサ素子の複数のアレイであって、各アレイは並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、対象の体の方に所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを連続して送信し、超音波エネルギーの反射後、対象の体から所定の周波数範囲内のエコー信号を連続して受信するためにハウジング内に位置しており、トランスデューサ素子の複数の並列アレイは複数の横断面及び外側面内の皮下構造の撮像を可能にする、トランスデューサ素子の複数のアレイと、
(c)トランスデューサ素子の複数のアレイを操作するためのコントローラであって、トランスデューサ素子の複数のアレイから受信したエコー信号を処理するためのプロセッサと通信可能である、コントローラと、
(d)ハウジングの一部を形成して、皮下構造の画像を表示するための画面であって、プロセッサは皮下構造から返されるエコー信号を処理して、画面上に対象の皮下構造の解釈可能な画像を選択的に生成するように構成される、画面と、
を含む。
【0018】
対象がヒト患者であってもよく、または飼育動物、家畜、もしくは実験動物などの獣医学的対象であってもよいことが理解されよう。
【0019】
ポータブル超音波装置は、超音波撮像に特異的な専門知識を持たない人員による操作を容易にするように構成される。通常、超音波オペレータは、単一走査線内で取得された抽象化2Dグレースケール画像(または2Dカラードプラ)を解釈しながら、プローブの向きを手動で調整し、操作視野、ゲインレベル、コントラストレベル、撮像深さまたはドプラパラメータすべてを手動で較正する必要があった。装置は以下に説明されるように好都合に構成される、またはポータブル超音波装置のコントローラは、装置のユーザがそうする必要のないように、これらの機能の1つ、複数、もしくはすべてを引き受けるように好都合にプログラムされる。例えば、ゲインコントロールは、ポータブル超音波装置のユーザがゲインを調整する必要なく、完全に自動化されることができる。ポータブル超音波装置にユーザ機能が設けられるだけでよく、これらユーザ機能により、装置のパワーアップもパワーダウンも可能になり、好みの画像モードを、例えば、好ましくは血管構造などの皮下構造の表示を可能にするBモード、カラードプラモード及び概略モードの間で選択することが可能になる。ユーザ機能には、必要に応じて、以下に説明される画像を格納する機能が含まれる場合がある。さらに、以下に説明されるポータブル超音波装置の実施形態では、プローブの向きを手動で調整する必要がない。
【0020】
皮下構造は、静脈または動脈などの血管構造であることが好ましい。しかしながら、ポータブル超音波装置は、代替または追加的に、神経撮像及び/または異物撮像のために他の皮下構造の撮像を可能にするように構成されてもよい。
【0021】
平面または線形アレイのトランスデューサ素子が望ましい。トランスデューサ素子の複数のアレイは、任意の好都合な数のアレイ、例えば4つのアレイを含むことができる。好ましくは、トランスデューサ素子の複数のアレイは、干渉を最小にし、走査窓を最大にするように選択された横軸に沿った距離ξだけ互いから離隔される。最も好ましくは、ξは5~30mmの間である。
【0022】
トランスデューサ素子のアレイは、少なくとも1つのドプラトランスデューサアレイを含むことが好ましい。好ましくは、並列トランスデューサアレイは、10<Φ<60である超音波照射角度Φに置かれることにより、ドプラ効果が捕捉され、無効にならないことが確保される。このような角度構成により、オペレータが操作視野及び撮像角度を手動で調整する必要をなくすことが可能である。
【0023】
複数の並列トランスデューサアレイは、複数の横断面及び外側面で皮下構造を撮像して、その外側位置を、超音波装置が対象の皮膚に接触する接触領域内の皮膚表面より下の選択された深さ、例えば2~3cmまで表示する性能を提供する。横断及び外側を同時に撮像することにより、画像に「3D」の外観が効果的にもたらされると、超音波撮像の訓練を受けた人員でも受けていない人員でも、画像を解釈し、効果的なカニューレ挿入に使用することが容易になる。
【0024】
線形アレイは単一であってよく、モバイルトラック装置に添着され得ることにより、トランスデューサアレイを、処理のために複数の超音波画像を感知させるために使用しながら、血管の長さに沿って移動させることが可能になる。トラック上のアレイの移動により、複数の平面内で撮像することが可能になり、前述された外側と横断とを組み合わせた撮像が可能になる。例えば、固定位置に例えば4つの結晶アレイを有するのではなく、単一の可動アレイが同じ多断面機能を達成することができる。
【0025】
線形トランスデューサは単一であってよく、処理のために複数の超音波画像を感知しながら、固定点を中心に発振し得る。
【0026】
超音波装置のコントローラは、トランスデューサ素子の複数のアレイの動作を制御して、超音波エネルギーを選択的に送信し、皮下構造を位置特定し、プロセッサによる受信したエコー信号の処理後、画面上に表示する。血管構造が関係し、静脈などの血管構造が例示の目的で以下に説明される場合、候補となる皮下血管構造は、横断方向と外側方向との両方に好都合に配置される。これには、候補となる血管構造が位置している、対象の体の1cm未満から、デッドゾーンが約5mmであり、最大数センチメートル、例えば3~8MHzの比較的狭い周波数範囲には最大約5cmの選択された深さまで超音波エネルギーを伝達することが含まれ得る。血管構造を反映せず、カニューレまたは針などの血管アクセス装置によるカニューレ挿入手技の準備に役立たないエコー信号の受信を避けるために、より深い深さへの超音波エネルギーの伝達が防止される。これには、候補となる血管構造を反映しないノイズ信号を除去するようにエコー信号を処理することが含まれてよく、または含む。プロセッサは、ポータブル超音波装置が皮膚表面上を移動する際、静脈構造の経路を画面上に更新して表示することを可能にする。画質は、静脈穿刺を支援するために適切なカニューレ挿入点を位置特定するのに適している。
【0027】
好ましい実施形態では、静脈及び動脈の一次元位置(x軸座標として)は、以下に説明されるいくつかの可能な方法を通じて、単一のトランスデューサにわたって同定される。このプロセスは、アレイ内の複数のトランスデューサに対してリアルタイムで有利に行われ、静脈または動脈の位置ごとにx軸位置を格納することができ、トランスデューサ間で補間して静脈または動脈の経路を作成することができる。
【0028】
有利なことに、皮下の血管構造が対象のものである場合、プロセッサは、動脈血管構造と静脈血管構造とを区別するための命令によってプログラムされる。一実施形態では、第一アルゴリズムは、拍動測定に基づいた時間領域ベースのアルゴリズムであるオプションによって、そのような区別を可能にする。静脈は、拍動があったとしても、通常、動脈よりも拍動がはるかに少ない。測定及びそのようなアルゴリズムへの入力に適した拍動性メトリクスには、拍動指数(すなわち、(収縮期-拡張期)/血管内の平均血流速度)、重複隆起、速度反射指数(VRI)、粘弾性指数(VEI)及び/または抵抗指数が含まれてよい。
【0029】
別の実施形態では、プロセッサは、エネルギー信号またはエネルギーシグネチャを使用して動脈構造と静脈構造とを同定して区別し、超音波装置の接触領域より下の静脈の位置を決定するための命令によってプログラムされてもよい。エネルギー信号は、好ましくは、連続して取得された電流信号の高速フーリエ変換(FFT)によって決定される生の信号の周波数領域表現から、またはより好ましくは、サンプリングされた信号から計算されたパワースペクトル密度(PSD)から決定される。このエネルギーシグネチャは、好ましくは、主信号周波数の振幅、または代替に主周波数の振幅の総和、もしくはその他の振幅の二乗和である。より好ましくは、エネルギーは、FFTまたはPSD分布下の面積である。あるいは、エネルギーは、分布下の面積に対する振幅の比率、または分布下の面積に対する振幅の総和(もしくは振幅の二乗和)の比率であってもよい。
【0030】
プロセッサは、測定されたドプラシフトにおける固有差により、静脈と動脈とを区別するための命令によってプログラムされることもできる。静脈の血流がトランスデューサに向かうが、動脈ではその逆が起こる場合、周波数シフトは正(静脈)か負(動脈)かいずれかであることができる。静脈の流れがトランスデューサから離れ、動脈の流れがトランスデューサに向かう場合、その逆が当てはまる。ドプラシフトから推論された方向性に従って、プロセッサは動脈の擬似負の大きさを決定することができるが、これも通常、静脈の絶対的な大きさよりも大きい。したがって、静脈及び動脈を区別することができる。
【0031】
プロセッサはまた、皮膚より下の皮下構造の深さを決定することもできる。例えば、血管構造の場合、以下に説明されるような方法を使用して、プロセッサによって計算され得る所与の血管直径について、特性曲線は、異なる血管直径の血管深さにエネルギーの大きさを関連させて推論されてもよい。この深さは、皮膚より下の数ミリメートルもしくは数センチメートルの値として、または深さの大きさによる色の重み付けを通じて、もしくは浅さもしくは深さの3D知覚などの他の視覚表現を通じて、数値的に可視化されることができ、これらはすべて好都合に画面上に表示され得る。したがって、プロセッサは、Bモード断面画像再構成を必要とせずに深さを計算することができる。
【0032】
あるいは、プロセッサは、トランスデューサ素子ごとにBモード撮像を実行するように命令内でプログラムされることもできる。以下に説明されるように、構造メトリクス(直径または寸法、圧縮率、及びその他の曲線の特徴など)を計算して使用し、動脈と静脈とを区別することができる。例えば、畳み込みニューラルネットワークの使用を含む、機械学習技術を使用して、超音波ユーザ集団によって提供された訓練データセットに従って、静脈及び動脈をクラス分類して同定することができる。Bモードまたはカラードプラ表現では、血管の深さを直接測定し、超音波装置の画面上に表示することができる。
【0033】
動脈または静脈を区別するためのアルゴリズムの別の実施形態では、Bモード画像及びカラードプラ画像を取得し、自動コンピュータビジョン技術を使用して、トランスデューサから離れる流れまたはトランスデューサに向かう流れ(または動脈を表す心臓から離れる流れ、及び静脈を表す心臓に向かう流れ)を同定することができる。カラードプラは、トランスデューサに向かう(通常、静脈の)流れを、強度が速度の大きさを表す青色のシェードとして表し、トランスデューサから離れる(通常、動脈の)流れを赤色のシェードとして表す。そのため、色を区別する自動コンピュータビジョン技術によって動脈または静脈を区別することができる。Bモードまたはカラードプラ表現では、血管の深さを直接測定して表示することができる。
【0034】
好都合には、エネルギー信号がキャプチャされると、アルゴリズムでは、プロセッサにプログラムされた命令に具現化されるように、エネルギー信号またはエネルギーシグネチャのピークが放物線またはガウスに似た分布の一部を形成し、それらのような分布の始点と終点を使用して、特に外側方向の構造の皮下の寸法または直径を推定することができることを認識する。
【0035】
超音波データは、超音波装置のハウジングが皮膚上に外力を加えることによる皮下血管の機械的圧縮の有り無し両方で処理するためにプロセッサによって取得されてもよい。静脈(圧縮性があるが筋肉ではなく弾性がない)及び動脈(筋肉であり弾性がある)の異なる血管壁特性を利用して、圧縮中の変化を測定し、動脈と静脈とを区別することができる。
【0036】
圧縮方法の一実施形態では、ピークエネルギー信号(FFTかPSDかいずれかから決定される)は、圧縮によって変化する。特に、正のピーク(トランスデューサに向かい流れる場合の静脈の流れを表す)は圧縮によって平坦になるが、負のピーク(トランスデューサから離れて流れる場合の動脈の流れを表す)は、その方向性を維持したまま大きさの減少のみを示す(負のピークはトランスデューサから離れる流れを表す)。特徴的な静脈のピークの(ゼロに向かう)低下及び動脈の大きさの線形減少は、好ましくは絶対値測定によって、またはより好ましくは動脈と静脈とを区別するための特徴曲線分析によって計算される。あるいは、前述のようにエネルギー曲線から血管の直径を決定することができるため、圧縮前から圧縮後の直径における変化を計算することで、圧縮によるサイズにおける変化を推定することができる。動脈と比較して、静脈では大きい変形(例えば、元の直径の90~100%に相当)が予想される。好ましくは、この方法は、深さ5cmまで、最も好ましくは深さ2~3cmまでの皮下構造、すなわち、静脈または動脈に適用可能である。血管の弾性も決定することができる。
【0037】
Bモードまたはカラードプラを利用する圧縮方法の別の実施形態では、自動特徴エッジ認識を使用して、円形または楕円形の物体を同定し、これら物体の垂直方向最大弦長を測定することができる。円形または楕円形の物体は、垂直方向最大弦長の減少が動脈に比べて静脈で最も大きいため(例えば、元の直径の90~100%に相当)、静脈または動脈として同定されることができる。
【0038】
記載された両方の圧縮方法の別の実施形態では、エネルギー低下か弦長減少かいずれかによる静脈の圧縮率を使用して、静脈の構造健全性を示すことができ、圧縮に対する抵抗が大きいほど剛性(構造健全性)が高いことを示すことができる。さらに、圧縮後の構造の復元を使用して塑性変形の程度を決定することができるため、それを使用して、弾性を決定することができる。剛性と弾性との両方の推論を通じて構造的に安定した静脈を選択することは、カニューレの挿入だけでなくカニューレの留置期間中の成功(脱落、血管外漏出がない)にとって重要な要因である。
【0039】
別の実施形態では、血管構造の直径と経路との両方がプロセッサに利用可能である場合、プロセッサは、その血管構造の三次元構造を作成するための命令によってプログラムされ得る。経路データを中心線として使用し、点ごとの直径データを使用して、エネルギーベースのアルゴリズムアプローチの直径が一定である理想的な円形断面、または円形であってもなくてもよい対象(Bモードまたはカラードプラアプローチのもの)の特異的な血管断面を作成することができる。次いで、これらの断面を血管経路に沿ってロフトして、マーチングキューブなどのアルゴリズムによって三角形の表面が作成された3次元構造を作成することができる。
【0040】
プロセッサはグラフィックスプロセッサを含むことが望ましく、このグラフィックスプロセッサは、カニューレ挿入を支援するには情報が少なすぎる単純な概略図に簡略化することなく、候補となる血管構造を同定するのに十分な情報を提供するという点で、必要な画質の提供を支援する。
【0041】
超音波検査中に受信したエコー信号の処理には多数の複雑な計算が含まれており、医療用超音波機器が実行を求められる超音波検査が広範囲にわたるため、通常、そのような機器はポータブルでなくなる。好ましい実施形態では、本プロシージャがカニューレ挿入のための候補となる血管構造を位置特定することに限定されているため、この複雑さは軽減されるものの、依然として存在する。そのために、プロセッサは、ハウジング内に収容されることが望ましいが、処理ユニットを含んでよく、この処理ユニットは、ハウジングの外側に位置しているが、有線または無線ネットワークを介してポータブル超音波装置と通信可能であることにより、ポータブル超音波装置のハウジングの一部を形成する画面上に候補となる血管構造の表示を可能にする。
【0042】
デバイスのハウジング内にプロセッサを含むことが最も好ましいため、必要に応じて、ハウジングの外側に配置された処理ユニットを含む処理は、Amazon AWSなどのクラウドベースのシステムを使用して実行され得ることにより、データがワイヤレスで送信され、処理され、その装置に返される。好ましくは、些末な信号及びジャンク信号が自動的に除外され、些末でない信号のドプラ周波数が計算され、一時的にサンプリングメモリに格納される。一時的なサンプリングメモリは、8GB未満であることが好ましく、6GB未満であることがより好ましく、または4GBもしくは2GB未満であることが最も好ましい。ポータブル超音波装置から処理ユニットまたはストレージデバイスへの無線通信は、例えば、リバーシブルUSB-C、Bluetooth 5.0、または標準WiFi、デュアルバンド、Wi-Fi Directもしくはホットスポットの形式の無線インターネットによって行われることができる。無線インターネットが存在しない遠隔使用では、一実施形態において、ポータブル超音波装置は、シングルSIM(ナノSIM)と対になった標準的なGSMまたはCDMAまたはHSPAまたはEVDOまたはLTEネットワーク技術を有してもよい。
【0043】
ポータブル超音波装置のハウジングには、好都合にはトランスデューサアレイ基部が設けられる。この実施形態では、ハウジングの基部は、バッキング層及びマッチング層でパッドされたトランスデューサ素子の複数のアレイを含むことができる。トランスデューサアレイ基部、またはその他のハウジングの基部は、例えば、温度センサ、心拍センサ、心血管音センサ、腸音センサ、汗分析物センサ、皮膚剛性センサ、及び皮膚微生物センサからなる群から選択される少なくとも1つのセンサを含み得る。
【0044】
有利には、トランスデューサ素子の複数のアレイは、まず、好ましくは、アナログフロントエンド(AFE)用の処理ブロック、フロントエンド処理を伴うビームフォーマ、及びバックエンド処理ブロックを含む、またはそれらと通信可能である、コントローラによって指令されるとおり、所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを、超音波照射角度Φで対象の体の皮下の関心領域に向けるように配置される。AFEは、2、4、8、16、32などのチャネルごとに完全に統合されたチップのシングルチップ形式で、またはチャネルごとのマルチチップソリューションで実装されることができる。AFEブロックは、チップ(複数可)を使用して有利に実装されるフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)またはASICによって実装され得る。超音波発振設定を含む事前にプログラムされたデジタル信号を格納して発生することができるFPGAベースのコントローラはオプションである。
【0045】
ビームフォーマは2つの部分を含み、送信ビームフォーマは、走査線を開始し、トランスデューサ素子に時間デジタルパルスストリングを発生する機能を有する。デジタルパルスストリングは、トランスデューサ素子用の高電圧パルスに内部で変換されるため、トランスデューサ素子は、所定の周波数範囲内で超音波エネルギーを送信する。受信ビームフォーマは、AFEから所定の周波数範囲内のエコー信号を受信し、フィルタリング、ウィンドウ処理、加算及び復調を通じてデータを代表的な走査線に照合する機能を有する。2つのビームフォーマは時間同期されており、タイミング、位置及び制御データを相互に連続して通信する。受信ビームフォーマも、ポータブル超音波装置用のFPGAによって実装されることが好ましい。
【0046】
バックエンド処理ブロックは、Bモード、ドプラ(好ましくはパルス波ドプラ、または最も好ましくは連続波ドプラ)及びカラーフロー処理機能を含むことが好ましく、ポータブル超音波装置のユーザはこれらの間でトグルすることができる。Bモードは、復調及び圧縮された走査線を受信し、補間及びグレースケールマッピングを使用して、受信ビームフォーマによって生成された走査線から2Dグレースケール画像を形成する。この場合、バックエンド処理ブロックは、カニューレ挿入を行う際に専門外のスタッフがすぐに使える画像を生成することが好ましい。これには、フレームスムージング及び/またはエッジ検出などの強調技術の使用が含まれる場合がある。
【0047】
望ましくは、ポータブル超音波装置の一部を形成する画面は、カラーディスプレイユニットであり、非限定的な例としては、LCD、LED、OLED、AMOLED、またはピクセルディスプレイのメモリの有無にかかわらず半透過型が挙げられる。画面は、タッチスクリーン機能と互換性があることが好ましく、平坦であることが好ましい。皮下、好ましくは血管の構造は、リアルタイムで、かつポータブル超音波装置のユーザが超音波画像だけを解釈する必要がない方法で、画面(1280×720ピクセル、好ましくは720×480ピクセル未満、より好ましくは640×360ピクセル未満、及び最も好ましくは215×180ピクセル未満を含む)上に好都合に表示される。これは、超音波プローブの向きを手動で調整し、操作視野を手動で較正し、ゲインレベルを設定し、コントラストレベルを設定し、撮像奥行きまたはドプラパラメータを設定することを、すべて単一走査線で撮られた抽象化2Dグレースケール(または2Dカラードプラ)を解釈しながら行うように、超音波オペレータによって従来実行された操作の範囲とは異なる。
【0048】
画面、またはそれが一部を形成するディスプレイユニットは、以下の特性、好ましくは軽量、好ましくは疎水性、好ましくは疎油性、及び好ましくは容易な滅菌を可能にする耐薬品性のうちの1つ以上を有する。
【0049】
画面は、好都合にはプロセッサの支援によって、カニューレまたは同様の装置の形態で血管アクセス装置を挿入するための正しい位置のインジケーションを提供することが望ましい。そのために、画面上の表現(複数可)は、撮像された皮下構造の深さ、及び組織に挿入される針先の位置のうちの1つ以上を含む情報を表示してもよい。画面上の表現(複数可)は、撮像された皮下構造、例えば血管構造の口径、及び組織に挿入される針先の位置のうちの1つまたは複数を示し得る。これらのような処理及びソフトウェアインジケーションの実施形態では、アルゴリズムは、カニューレがいつ静脈に挿入されるかを有利に自動的に認識し、その挿入を単一のトランスデューサに対して、または経路セグメントの概略表現としての両方で表してよい。例えば、ピークエネルギーシグネチャから決定される(FFTかPSDかいずれかから決定される)概略的な静脈経路表現を含む実施形態では、元のピークは谷になってもよく、または代替に、エネルギーシグネチャの四角形もしくは三角形のくぼみなどの「谷のような」形状になってもよく、この形状は、カニューレの先端部が流れを中断した結果、流れ由来のエネルギーが中断されていることを示す。
【0050】
Bモードまたはカラードプラ法が使用される別の実施形態では、画像強調法を使用して、組織内または静脈内の両方の針先端からの強度及び音響反射を強調することができ、カニューレ先端を深さで表示するために輝点が表現されてもよい。この実施形態では、静脈内のカニューレ先端の位置を使用して、カニューレが向かう静脈のセグメントを示す概略的な静脈経路表現を作成することができる。
【0051】
プロセッサは、血管アクセス装置によって撮像された皮下構造、例えば血管構造へのアクセスに推奨される最適な針ゲージ及び/または挿入角度を計算するための命令によってプログラムされ得る。プロセッサには、例えば、血管直径と、静脈経路の長さと、静脈の流れまたは薬物などの流体の注入の両方の所期の流量との群を含み得る、選択されたパラメータに基づいて血管アクセス装置(カニューレタイプ)を選択するための命令が提供されてよい。
【0052】
前述のように、血管構造の経路は、複数のトランスデューサ素子間の補間を通じて決定されることができる。ピークエネルギーシグネチャから決定される(FFTかPSDかいずれかから決定される)概略的な静脈経路表現を伴う実施形態では、特徴的なエネルギー-位置曲線の特徴に基づいて静脈直径が決定され得る。
【0053】
自動特徴認識方法をBモードまたはドプラ超音波の実施形態で使用して、視野内の円形または楕円形の物体を自動的に決定することができ、血管の直径または楕円率をプロセッサが自動的に計算することができる。血管の直径または楕円率に基づいて、カニューレのサイズは、プロセッサによって決定されて、画面上に表示されてもよい。
【0054】
プロセッサは、プロセッサによって処理された超音波データを使用して血管構造内の血流量または速度を決定するための命令によってプログラムされることができる。カニューレを通る流体流量が静脈血流量と理想的にマッチングする必要がある場合、プロセッサは血流量に応じて推奨されたカニューレを選択して表示するための命令によって好都合にプログラムされる。
【0055】
3Dでの表現は、プロセッサによって提供されてもよく、流量、速度、圧力、せん断応力、乱流、うっ血、拍動性または狭窄のうちの1つ以上であるが、これらに限定されないような、血管構造分野及び血行動態分野の両方について画面上に表示されてもよい。これらのような測定値は、例えば、再構成された3D構造上にオーバーレイされた、計算された血行動態パラメータの大きさの平均されたグラフまたはリアルタイム表示の形式で、時間依存として表されることができる。せん断応力または乱流などの計算された血行動態パラメータは、血管アクセス装置、例えばカニューレが挿入されたことによる流れの中断を示すことができる。これらのようなパラメータを監視して、限定ではなく例として血管アクセス装置の推奨交換時期を決定することによって、カニューレ挿入プロセスを促進してもよく、及び/または静脈を生理食塩水で流し、静脈を開いた状態に保つ有効性、及びその他の方法で静脈の開存性を管理する有効性を評価してもよい。
【0056】
ポータブル超音波装置は、選択された薬物注入に最も適した血管構造または血管を決定するために使用され得る。一般に、血管が大きい、例えば前腕の肘窩における流れが良好なほど、鉄またはカリウムの注入に適している。これらのような血管は、注入治療を通過し、流れがはるかに遅い、より小さい表在する血管と比較して、刺激及び損傷が少ない傾向がある。プロセッサは、血管の構造特性及び測定された血行動態パラメータを処理して、選択された注入液の送達に最適な血管を決定することができる。
【0057】
カニューレ挿入のための機械的インジケーションはまた、ポータブル超音波装置ハウジングにカニューレの配置をガイドする針ガイドを備えた基部プレートが設けられる場合に提供されてよい。針ガイドはノッチを含んでもよく、ノッチは、好ましくは基部の前面に対する三角形または矩形の押出切断部であるが、最も好ましくは球形の切断部である。針の挿入面に沿った動きを制限するために、ノッチは3mm未満のサイズであることが好ましく、1.5mm未満のサイズであることがより好ましい。
【0058】
画面、またはそれが一部を形成するディスプレイユニットは、ハウジングに対して鋭角である表示位置と、画面が装置のハウジング上で平らにされ得る位置との間で移動するように蝶着されてもよく、または撓まされてもよく、これにより、使用中のユーザの望ましい人間工学を可能にしながら、消費する体積を削減することが可能になる。これは、パラメディカル、農業、軍事、または機器のスペースが限られているその他の技術の現場での用途で特に有用である。ポータブル超音波装置は、コンピュータまたはスマートフォンの画面などの別のデバイス上に画像を表示することを可能にするように構成可能であってもよい。しかしながら、これは必須ではなく、画面が本発明のポータブル超音波装置のハウジングの一部として設けられるため、画像を表示するためのさらなるデバイスを必要としない。
【0059】
ポータブル超音波装置のハウジングの基部は、患者の皮膚と接触して好都合に配置されるため、基部は患者の皮膚との接触領域を有する。基部は、好ましくは湾曲した形状を有し、任意選択で皮膚表面から離れて凹状であることにより、四肢、例えばヒト対象の前腕などの上肢の近くに好都合に配置されることが可能になる。ポータブル超音波装置の基部は、150cm未満、好ましくは60cm未満の表面積を有してもよい。より好ましくは、基部の表面積は50、45、40または35cm未満、最も好ましくは30cmまたは25cm未満である。
【0060】
ポータブル超音波装置はまた、好都合に軽量であり、装置の質量は、好ましくは400g以下、好ましくは350g未満、より好ましくは200g未満、及び最も好ましくは100g未満またはさらに75g未満である。
【0061】
好ましくは、ポータブル超音波装置は、必要に応じて、画像ならびに患者及び位置データなどの他のデータを格納するためのメモリを含む。好ましくは、512GB未満、より好ましくは256GBまたは128GB未満の容量の内部デバイスストレージ(microSDXCが好都合)をインストールする。フルになる場合、ストレージは簡単に削除されること、または上記の手段で参照バックアップドライブに転送されることができる。デバイスのオンボードストレージの代わりに、またはそれに加えて、ストレージは、上述のように実装されるポータブル超音波装置とストレージデバイスとの間でリモートに通信してもよい。この方法で通信されるデータは、アプリケーションに応じて暗号化されてよい。
【0062】
ポータブル超音波装置から取得したデータ、またはポータブル超音波装置を使用して取得されたデータは、それを利用する社会組織が運営するクラウドベースのシステムまたはその他のシステムにセキュアに伝送されることができる。このシステムは、保険目的で電子医療記録または情報を格納する場合がある。有利な一実施形態では、血液検査の結果を収集時から自動的に追跡して更新することができるため、ポータブル超音波装置は病態収集または採血用途に使用されることができる。
【0063】
好都合には円筒形のパイプの形態であるハンドヘルド超音波スキャナは、例えばハウジングに設けられたUSBポートを介して、ポータブル超音波装置のハウジングに接続され得る。スキャナは、望ましくは、ドプラ機能(好ましくはパルス波ドプラまたは最も好ましくは連続波ドプラ)を有し、したがって、例えば、新生児、小児科、またはイヌ、ネコ、げっ歯動物、トリもしくはウサギを含むが、これらに限定されない中型から小型の動物であるが、これらに限定されない、撮像される対象の皮膚の表面に対して装置の基部が大きすぎる場合、皮下構造、特に血管構造を撮像する性能を有する。スキャナは、対象内の生理学的に関心のある狭い隅、縦溝または局在領域内で撮像が必要な場合にも有用であり得る。好ましくは、スキャナは35cm未満の容積、より好ましくは25または20cm未満の容積、最も好ましくは15cm未満の容積である。好ましくは、スキャナの皮膚接触基部は、1cm未満の面積、より好ましくは0.75cmまたは0.6cm未満の面積、及び最も好ましくは0.5cm未満の面積である。好ましくは、画像の処理、格納及び表示のうちの少なくとも1つは、取り付けられたハンドヘルドスキャナの基部ユニットとして機能するポータブル超音波装置のハウジングを使用して実行される。
【0064】
ポータブル超音波装置は、QRコードまたはバーコードなど、追跡デバイスの読み取りを含んでもよい。これは、関連データ、例えば、患者ID、年齢、性別、主な患者病歴、超音波撮像位置、超音波撮像時間、及び超音波撮像の理由を含むが、これらのうちの1つまたは複数に限定されない、標準的な電子患者データを含む、追跡デバイスのスキャンを可能にする。例えば、通常バーコードを使用して、病院、診療所、病態収集または採血センター、及びその他の臨床現場または非臨床現場でそのようなデータを格納する。
【0065】
好都合には、ハウジングは、ポータブル超音波装置に電力を供給するための充電式バッテリなどの電源も含む。他の電源との接続も可能である。ハウジングは、コントローラがトランスデューサ素子を励起して超音波エネルギーを送信することを可能にするために、バッテリ電圧を例えば最大200ボルトの電圧まで上げるDC/DCコンバータを含んでもよい。
【0066】
別の態様では、本発明は、対象の皮下構造を撮像するための方法を提供し、この方法は、
対象の体上の位置またはその直近に適用されるポータブル超音波装置に含まれるトランスデューサ素子の複数のアレイを介して、所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを対象の体に非侵襲的に送信することであって、トランスデューサ素子の複数のアレイの各アレイは並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、トランスデューサ素子の複数の並列アレイは、複数の横断面及び外側面内で皮下構造の撮像を可能にする、送信することと、
超音波エネルギーの送信後、対象の体から所定の周波数範囲内のエコー信号を受信することと、
受信したエコー信号をプロセッサによって処理することと、
ポータブル超音波装置の一部を形成する画面上に対象の皮下構造を表示する画像を生成することと、
を含む。
【0067】
上述のように、ポータブル超音波装置は、対象、さらに特にヒト患者の前腕などの四肢に好都合に接触させられる。好都合には、ユーザは、ポータブル超音波装置を、手動で適所に保持する必要なく、係脱可能な締結手段を展開して適所に固定する。係脱可能な締結手段は、好ましくは織物またはシリコーンなどの一般的な医療用材料で作られた、単回または複数回使用できるストラップ、バンドまたはベルトであってもよい。好ましくは、織物材料は、使い捨てであってもよいが、標準的な滅菌及び洗浄機構に適合する。低アレルギー性の非ラテックスベースの材料は、使い捨ての締結手段に適している。
【0068】
締結する添着方法の別の実施形態では、ストラップは、装置に付装され、四肢のより大きい表面積に接触するスリーブ、ラップ、またはカフの形態であることができる。
【0069】
締結手段は、望ましくは、例えば調整可能なクラスプによって、締結力の調整を可能にする。一般に使用される止血帯と同様に、締結力は、血管内圧を増加させるため、デジタル処理アルゴリズムによって抽出されるように事前にプログラムされた範囲まで、血管を充血させ、視認性を向上させ、血流速度を低下させるように有利に選択される。
【0070】
続いて、ポータブル超音波装置をユーザの近くに位置決めし、任意選択で締結することにより、カニューレ挿入のための血管構造、通常は静脈の最適な位置を特定することが支援される。上述のように、ポータブル超音波装置の基部プレートでは、基部プレートに針ガイドが好都合に設けられ、この針ガイドは、選択された静脈の画像を針ガイドとアライメントすることによってカニューレの配置をガイドする。針ガイドにはノッチが含まれてもよく、その場合、ノッチと選択された静脈の画像との間でアライメントされる。この特徴により、当て推量または過剰な手動調整なしで、ポータブル超音波装置の正しい向きの選択が容易になる。
【0071】
その後、ユーザは、ユーザをカニューレ挿入の最適なスポットにガイドするように機能する、針ガイドと画面上に表示される画像とによって支援されながら、針またはカニューレの挿入に進むことができる。
【0072】
消耗品の音響伝導性パッチは、使用前にポータブル超音波装置の基部に適用されてもよい。好ましくは、消耗品の両面音響伝導性パッチは、好都合には医学的に適合して取り外し可能な接着剤または両面粘着テープによって、ポータブル超音波装置の基部に取り付けられる。消耗品パッチの粘着性添着端部は、装置の基部に好都合に取り付けられる。消耗品パッチの一部を剥がして、このパッチ内に含まれる医学的滅菌ゲルを露出させることができることにより、静脈穿刺に必要な滅菌領域を維持しながら、通常、信号ノイズ及び信号損失の原因である空気中の超音波伝導を減少させることを目的としている。好ましくは、そのような好ましいパッチ内の滅菌ゲルの体積は120cm未満である。より好ましくは、そのような好ましいパッチ内のゲルの体積は、110cmまたは100cm未満であるが、最も好ましくは90cm未満である。
【0073】
好ましくは外部滅菌ゲルポケットを含む消耗品の伝導性パッチは、ポータブル超音波装置のフォームファクタに適合し、例えばカスタムスリーブ、エンベロープまたはポケットの形態で設けられ得る。このようなパッチは、そこに医学的に適合する取り外し可能な接着剤が好都合に塗布されており、ポータブル超音波装置を覆うことができる。外部滅菌ゲルポケットは、上述のような剥離手段によって好都合に露出することができる。
【0074】
上述のポータブル超音波装置及び撮像方法は、カニューレ挿入に専用のいかなる針または注射器も必要としない。これにより、任意の形態のカテーテルなど、あらゆる従来の血管アクセス装置の使用が可能になる。
【0075】
説明されたポータブル超音波装置は、内蔵型、好都合にはハンドヘルド、低コストで、単純な構造である。従来の超音波機器とは対照的に、本発明のポータブル超音波装置は、例えばカニューレ挿入のために、皮下構造を決定するために正しい向きに容易に配置されることができ、医師による複雑な調整、またはスキャンプローブ、処理ユニット及びモニタからなるモジュラ及び別個のシステムコンポーネントを必要としない。トランスデューサ素子、プロセッサ及び回路、ならびに画面を含む、主要コンポーネントは単一ハウジング内にパッケージ化される。ポータブル超音波装置は、好都合には軽量であり、正看護師、検査室のフレボトミスト、セラピスト及び研究者であるが、これらに限定されないような、正規の専門研修を受けていない医療従事者及び医療補助者を含む幅広い人員による皮下構造のカニューレ挿入及びその他の超音波撮像を支援するために使用されることができる。
【0076】
本発明のポータブル超音波装置及び皮下撮像方法のさらなる特徴は、その好ましい非限定的な実施形態に関する以下の説明でより詳細に説明される。この説明は、本発明を例示する目的のみに含まれている。これは、上述のような本発明の広範な概要、開示または説明を制限するものとして理解されるべきではない。説明は添付図面を参照して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】ヒト患者の前腕に接触した、本発明の一実施形態のポータブル超音波装置の図的表現を示す。
図2図1のポータブル超音波装置のブロック図である。
図3a図1のポータブル超音波装置のハウジングの側断面図を示す。
図3b】図のポータブル超音波装置のトランスデューサ基部ならびにトランスデューサ素子アレイを形成する送信器及び受信器の結晶アレイの配置の上面図及び側面図を示す。
図4】本発明の皮下構造を撮像するための方法の一実施形態のフロー図である。
図5図1のポータブル超音波装置の基部内のトランスデューサ素子の概略図を示す。
図6】統合型ディスプレイ上への図4の方法の出力を示す。
図7a】患者の皮膚上の伝導性材料に接触する、図1のポータブル超音波装置の基部の概略図である。
図7b】血管のスキャンに関与する図7aに示された単一トランスデューサ素子の様々なコンポーネントの概略図である。
図8】本発明の方法の一実施形態による、高速フーリエ変換(FFT)によって振幅対時間信号を振幅対周波数データに変換することを示す概略図である。
図9】本発明の方法の一実施形態による、エネルギー信号ベースのアルゴリズムによる動脈構造及び静脈構造の区別を示す概略図である。
図10】(a)及び(b)は、本発明の方法の一実施形態による、エネルギー信号ベースのアルゴリズムによる血管構造の深さの決定を示す概略図である。
図11】本発明の方法の一実施形態による、Bモード撮像による血管構造特性を示す概略図である。
図12】本発明の方法の一実施形態による、Bモード及びカラードプラ撮像による血管構造特性を示す概略図である。
図13】本発明の方法の一実施形態による、エネルギー信号に基づいた血管径の推定を示す概略図である。
図14】本発明の一実施形態による、圧縮方法を使用した超音波撮像からの血管構造特性を示す概略図である。
【0078】
図1は内蔵型のポータブル超音波装置109を示し、このポータブル超音波装置を使用して、カニューレ挿入を支援する目的で、超音波エネルギーの連続した送受信によって、皮下構造、ここでは患者の前腕100の皮膚より下の2~3cmの深さにある末梢静脈101を検出する。皮下構造は、ポータブル超音波装置109のデッドゾーンによって決定される、より浅い深さ、例えば5mmにある可能性がある。ポータブル超音波装置109は、内蔵型、ハンドヘルド、低コストで、単純な構造であり、サイズ及び処理要件を削減するために、血管撮像に必要のない、全身撮像に必要な過剰な回路が除外されている。ポータブル超音波装置109は、超音波撮像の専門知識がなく、カニューレ挿入の大部分を行う人員(通常は若手医師及び看護師)によって使用されることができる。
【0079】
全身撮像に使用されるような、従来の複雑な超音波機器システムとは対照的に、ポータブル超音波装置109は、複数のユーザコントロールを含まず、または医療用超音波撮像分野の従来の超音波撮像機器について理解されるようにいくつかの超音波機器パラメータ(ゲインなど)を微調整するための要件と共にスキャンプローブ、外部処理ユニット及びモニタからなるモジュラ及び別個のシステムコンポーネントを必要とせず、超音波トランスデューサ素子102、コントローラ250及びプロセッサブロック208~210を含むプロセッサ350、電源(図2:202)及び画面104を有する統合型ディスプレイユニット103を含むすべての主要コンポーネントは、単一ハウジング110内にポータブル超音波装置109のオンボードでパッケージ化されており、これにより、現在のオプションよりもその使用が容易になる。
【0080】
デジタル処理アルゴリズムは、従来のBモードまたはカラードプラ(好ましくはパルス波ドプラまたは最も好ましくは連続波ドプラ)を単純化することにより、超音波画像を抽象化して解釈することができると、画面104上にカニューレ挿入のための候補となる静脈101の二次元画像が提供されることができ、この画面104は、ハウジング108の一部を形成し、従来のように隣接して配置された画面よりも観察しやすい。対応する信号受信トランスデューサの結晶位置をマッピングすることを伴う、生の信号(振幅及び周波数)をグレースケール画像(Bモード)に再構成するのではなく、生の信号(及び対応する位置)は、単に周波数領域の信号処理及び区別方法によって、例えば上述のような拍動性メトリクスによって、処理される。血管内の平均血流速度で(収縮期-拡張期を)除算したものとして定義される拍動指数は、この実施形態では使用されることができるが、以下に説明されるように他のメトリクスも利用可能である。
【0081】
周波数領域の信号処理及び区別方法により、Bモード画像の再構成のための計算が少なくなり、格納(一時的及び永続的の両方)が少なくなることが示され、ハードウェア要件が簡素化される。ただし、ユーザは、必要に応じて表示モードスイッチ106を使用して、皮下構造の生の画像(Bモード)を可視化して格納することを選択してもよい。
【0082】
統合型ディスプレイユニット103、画面104、電源スイッチ105、及び表示モードスイッチ106は、ポータブル超音波装置109の主要機能に専用かつ単純なユーザインタフェースを表す。ポータブル超音波装置109用のコントローラ250、及びプロセッサ350のプロセッサブロック208~210の構成により、ゲイン調整またはコントラスト調整のために、ユーザが追加機能(ゲインなど)にアクセスする、または視野を調整するための機能が提供される必要はない。これらのような設定の調整が必要である場合、それらのような調整をメンテナンスエンジニアまたは修理業者などの承認されたユーザが行うことができる。これは通常、カニューレ挿入手技中に発生しない、または発生する必要がない。
【0083】
ここで図2図3図4図5図6及び図8を参照すると、要約では、ポータブル超音波装置109は、コントローラ250による送信信号の選択と、プロセッサ350及びその関連したプロセッサブロック208~210による受信したエコー信号の処理とを通じて、外側方向308、309(図3bに示されるような)内で、かつ5mmから2~3cm、例外的な中心血管の場合には最大7~15センチメートルまでの様々な選択された深さで、末梢静脈101を位置特定することができ、専用プロセッサによって、信号処理203、205、206及びデジタル処理ブロック208を実行して、末梢静脈101の簡略化された縦方向表現104Aを表示し、次いで、統合型ディスプレイユニット103の画面104上にリアルタイムで示すことができ、ポータブル超音波装置109が患者の前腕100の皮膚表面上を移動するにつれて、静脈101の経路が更新されて表示される。
【0084】
ポータブル超音波装置109は、末梢静脈と動脈との区別を可能にする。一実施形態では、デジタル処理ブロック208は、拍動性の測定を通じてそのような区別を可能にする電子命令で具現化されるアルゴリズムの実行を含む。静脈は、拍動があったとしても、通常、動脈よりも拍動がはるかに少ない。ここでの測定及びそのようなアルゴリズムへの入力に適した拍動性メトリクスには、速度波形(時間領域内で決定される場合)または低周波数での高振幅(図8に概略的に示される高速フーリエ変換(FFT)後の周波数領域内で決定される場合)から決定される上述のような拍動指数が含まれる。デジタル処理ブロック208は、実施形態では、統合型ディスプレイユニット103の画面104上に動脈が現れるいかなる表現も防止することができる。
【0085】
図2は、ポータブル超音波装置109のシステムブロック図を表す。装置109には、トランスデューサ結晶アレイ102からの超音波の送受信、及び撮像データの表示または格納を制御して処理するための機能が提供される。全身撮像に必要で血管撮像には特に必要ではない過剰な回路は、サイズ及び処理要件を軽減し、ポータブル超音波装置109の使用を容易にするために、システムから意図的に除外される。
【0086】
図2は、コントローラブロック250内のフィールドプログラマブルゲートアレイ205を示し、これはポータブル超音波装置109用のマイクロコントローラとして機能し、超音波発振設定を含む事前にプログラムされたデジタル信号を格納及び発生し、次にデジタル-アナログコンバータ(DAC)204を使用して、デジタル信号をアナログ信号に変換し、ノイズ203がフィルタリングされる。この実施形態では、フィルタリングされた信号は、超音波波形発振器201に送信され、超音波波形発振器201は、周波数領域多重化のためにプライム信号を発生してダイプレクサ200に送信する。FPGA205が、ASICチップベースのコントローラなどのチップベースのコントローラに置き換えられることができ、他の許容可能な代替物であってもよいことが理解されよう。
【0087】
この実施形態では、超音波波形発振器201は、ユーザインタフェース105を使用してオンまたはオフにトグルされることができる高電圧電源202によって電力が供給されることができる。したがって、トランスデューサ素子102のアレイは、所定の周波数、例えば3~8MHzの範囲内で超音波信号をそれぞれ被検者へ、及び被検者から送受信し、ここでは7MHzが選択されている(これは一般的な診断用超音波検査スキャナの広い周波数範囲2~18MHzと比較したものであり、www.ncbi.nlm.nih.gov>pmc>articles>PMC3564184の「Application of Ultrasound in Medicine」を参照)
【0088】
トランスデューサ結晶アレイ102からの受信信号は、低ノイズ増幅器207を使用して増幅され、フィルタ203にかけられ、アナログデジタルコンバータ(ADC)206を使用して、デジタル信号としてFPGAマイクロコントローラ205に返される。受信信号は、後述のデジタル命令またはアルゴリズムを使用して、プロセッサブロック210によってポータブル超音波装置109のオンボードで処理される。計算は複雑であるため、プロセッサブロック210で並列処理が実施される。
【0089】
プロセッサ350によるオンボード処理が最も好ましいが、Amazon AWSによって提供されるようなクラウドベースのシステムを使用して処理を実行することにより、データが装置109に無線で送信され、処理され、返されることによって、ポータブル超音波装置109での処理制約を軽減させることが可能である。この例では、些末な信号及びジャンク信号が自動的に除外され、些末でない信号のドプラ周波数が計算され、一時的なサンプリングメモリ209に格納される。
【0090】
デジタル処理ブロック208は、以下に説明されるような方法によって命令を実行し、生の信号を簡略化された静脈表現104Aに変換し、統合型ディスプレイユニット103の画面104上に表示する。
【0091】
表示モードスイッチ106は、簡略化された静脈表現104Aまたは従来のBモードもしくはカラードプラ画像の間で切り替えるようにトグルされる。
【0092】
ポータブル超音波装置109の超音波撮像プロセスに関連するデータは、デバイスメモリ211に格納される、またはリバーシブルUSB-C、Bluetooth 5.0、もしくは標準WiFi、デュアルバンド、Wi-Fi Directもしくはホットスポットの形式の無線インターネットによって別のデバイス212に転送される。
【0093】
図3a及び図3bは、パルス超音波信号の反射波を送信して感知するための、ポータブル超音波装置109のハウジング110の基部102Aに配置された超音波トランスデューサ結晶アレイ102を示す。この場合、基部102Aは、バッキング層302及びマッチング層301でパッドされた個々のトランスデューサ素子300から構成される。トランスデューサ素子300は、トランスデューサ素子300ごとに少なくとも1つのエミッタまたは送信器結晶705及び1つの受信器結晶707が音響絶縁特性を有する隔壁706によって分離されるようなものであるが、送信器結晶705及び受信器結晶707の他の構成も可能である。トランスデューサ素子300は、PZTなどの圧電材料、またはフィルム、PVDF、PMN-PT、PMN-XX、PIN-PMT-XXを含むことができ、XXは、シリコン、金属、CMUT、MEMS、NEMSなど、材料のいくつかの派生物を表す。トランスデューサ素子300は、容量性微細加工超音波トランスデューサ(CMUT)、圧電微細加工超音波トランスデューサ(PMUT)、及びトランスデューサ結晶アレイ102全体のトランスデューサ素子300を製造するために半導体技術を使用する同様の構成からなる群から好都合に選択される。
【0094】
トランスデューサ素子300は、オンボードバッテリも含むエレクトロニクスパッケージ303に接続される。この例では、エレクトロニクスパッケージ303は、熱交換及び放散機構305によって囲まれており、熱交換及び放散機構305は、音響絶縁層304によって囲まれている。
【0095】
ポータブル超音波装置109は、複数の線形トランスデューサアレイ300A、ここでは4つのアレイを含み、トランスデューサアレイ300Aは、図3bに示されるように、互いに並列に配向され、装置109のハウジング110によって運搬される。複数の並列トランスデューサアレイ300Aは、複数の横断面内で静脈101を撮像して、画面104上に血管の外側位置を表示する性能を提供する。
【0096】
並列トランスデューサアレイ300Aは、図3bに示されるように、10<Φ<60である超音波照射角度Φに置かれることにより、ドプラ効果が捕捉され、無効にならないことが確保される。この角度構成は固定されているため、ユーザは操作視野及び撮像角度を手動で調整する必要がなくなる。この例では、並列トランスデューサアレイ300Aは、横軸309に沿って、干渉を最小にし、走査窓708を最大にするように選択された距離ξだけ分離されている。上述のように、ξは5~30mmの範囲内であってよい。この実施形態では、各並列アレイ300の間に15mmの間隔が設けられる。これにより、45mmの関心領域がカバーされる。間隔が30mmを超えると、ポータブル超音波装置109はカニューレ挿入手技で使用するのに望ましいものよりも大きくなる。
【0097】
図4は、カニューレ挿入のための静脈101の撮像に使用される超音波信号取得モードのフロー図を示す。FPGAマイクロコントローラ205は、操作全体にわたって連続してパルスを印加することにより、第一トランスデューサ500の503で図5に示されている、境界での第一トランスデューサアレイのエミッタ結晶705(位置x=0ではT(y=0))から開始する、連続波の操作がもたらされる(ステップ400)。反射された超音波は、受信器結晶707によって受信されると、ボルタメトリック(voltametric)信号に変換され(ステップ401)、次にフィルタリングされて(ステップ402)、サンプリングメモリ403に入る些細な信号が除去される。
【0098】
ドプラ周波数及び対応する座標をサンプリングメモリに一時的に格納してから(ステップ403)、高速フーリエ変換(FFT)を適用して、受信周波数を決定し、周波数シフト(ドプラシフト)を計算する。このドプラシフトは、周波数シフトから決定されたエネルギー信号に基づいて静脈101及び動脈101Aを区別することを支援することができ、正の波形505は、トランスデューサ受信結晶707に向かう流れ(すなわち、静脈における血流またはその逆)を表す(ステップ404)。この特性は、静脈経路104Aとして画面104上に格納及び/または表示される(ステップ405)静脈101の静脈シグネチャと称されることができる。
【0099】
ドプラシフトを使用して、次の式に従って血流量または速度を計算することもできる。
v=(周波数シフト*音の速度)/(2*トランスデューサ周波数*(余弦(超音波照射角度Φ))
流量=速度*断面積、
断面積は0.25*pi*直径、直径は例えば図13を参照して以下に説明されるように計算されることができる。
【0100】
次のトランスデューサ結晶705がパルス化され、図5に示されるように、第一トランスデューサ502上の第n結晶に到達するまで、ステップ402~406のプロセスが繰り返される。第一トランスデューサ500が循環すると、第nトランスデューサ501に到達するまでトランスデューサ間サイクルが始まる(ステップ407)。トランスデューサ素子300、501、502ごとの各静脈シグネチャ104Aの外側方向座標x、yは、画面104上で外側方向にリアルタイムで再構成され、静脈青写真線によって接続されて、図6に示されるように静脈101の画像104Aを形成する(ステップ408)。この画像104Aは、ポータブル超音波装置109がユーザによって操作されるにつれて、容易に表示可能な画面104上に連続して更新され得る。
【0101】
さらにステップ404を参照すると、代替に、プロセッサブロック208~210は、エネルギーシグネチャ504を使用して動脈構造と静脈構造とを区別し、患者の皮膚と超音波トランスデューサ705、707との接触領域より下の静脈101の位置を決定するための命令によってプログラムされることができる。エネルギーシグネチャ504は、図9に概略的に示されるように、図8によって示されるような連続して取得された電流信号404の高速フーリエ変換(FFT)によって決定される生の信号の周波数領域表現405から、またはより好ましくは、サンプリングされた信号から計算されたパワースペクトル密度(PSD)から決定されてもよい。このエネルギーシグネチャは、好ましくは、主信号周波数の振幅(Amp)、または代替に主周波数の振幅の総和、もしくはその他の振幅の二乗和である。より好ましくは、エネルギーは、FFTまたはPSD分布下の面積である。あるいは、エネルギーは、分布下の面積に対する振幅の比率、または分布下の面積に対する振幅の総和(もしくは振幅の二乗和)の比率であってもよい。
【0102】
さらに図9を参照すると、上述のように、受信器結晶510及び707ならびにトランスデューサ素子アレイ300A内の受信器結晶のそれぞれに対して取得された正の波形505は、静脈101に沿った点を表し、これらの点は、エネルギー-位置トレースまたは波形504と、動脈101Aの図10に示されるような波形507とに示されるように、同じままであること、または変動することができる位置を有する。点505A、または波形505のピークは、最大エネルギーが通常健康な血管構造の中心にある所与の点に静脈101のほぼ中心を表す。図10に示されるように、負の波形507は動脈101Aに沿った点を表し、点507Aまたは波形507のピークは、最大エネルギーが通常健康な血管構造の中心にある所与の点に動脈101Aのほぼ中心を表している。プロセッサ350は、これらの点を画面104上に表示し、その結果、静脈101の経路が線104Aとして示されている。
【0103】
プロセッサ350は、正の波形505(静脈101)と負の波形507(動脈101A)との間の差異を使用して、静脈101と動脈101Aとの間の区別を可能にしてもよい。静脈経路は線104Aとして示され、動脈経路は線104Bとして示される。
【0104】
プロセッサ350は、また、図10によっても概略的に示されるように、上述のエネルギーシグネチャベースの命令を実行することによって、皮膚より下の静脈101の深さを推定する。以下に説明される方法を使用して計算される血管直径d1~d4について、より大きい血管がより高い大きさのエネルギーシグネチャを有している、図10(b)に示されるような異なる血管直径d1~d4(d1<d2<d3<d4)に対するエネルギーの大きさを血管構造または静脈101の深さに関連付ける特性曲線を推論することができる。この深さは、皮膚より下の数ミリメートルもしくは数センチメートルの値として、または深さの大きさによる色の重み付けを通じて、もしくは浅さもしくは深さの3D知覚などの他の視覚表現を通じて、決定され、画面104上に表示されることができる。したがって、プロセッサ350は、Bモード断面画像再構成を必要とせずに、皮膚より下の静脈101または動脈101Aの深さの計算を可能にする。
【0105】
上述のアプローチの代わりに、図11に概略的に示されるように、アレイ内のトランスデューサ510、707ごとにBモード撮像を実行することができる。構造メトリクス(直径、圧縮率(指示どおり)、及び他の曲線特徴など)は、プロセッサ350によって計算され得、静脈101及び動脈101Aの経路がそれぞれの線104A、104Bとして画面104上に表示される状態で、動脈101Aと静脈101とを区別するために使用され得る。この目的のために、例えば畳み込みニューラルネットワークの使用を含む、機械学習技術を使用して、経験豊かな超音波ユーザ集団によって提供された訓練データセットに従って、静脈及び動脈をクラス分類して同定することができる。Bモードまたはカラードプラ表現では、血管構造の深さを直接測定し、超音波装置109の画面104上に表示することができる。
【0106】
図12に概略的に示されるような、動脈または静脈を区別するためのアルゴリズムの別の実施形態では、Bモード画像及びカラードプラ画像510を取得し、自動コンピュータビジョン技術を使用して、トランスデューサ510、707から離れる流れまたはトランスデューサ510、707に向かう流れ(または動脈101Aを表す心臓から離れる流れ、及び静脈101を表す心臓に向かう流れ)を同定する。カラードプラは、トランスデューサに向かう(通常、静脈の)流れを、強度が速度の大きさを表す青色のシェード515として表し、トランスデューサから離れる(通常、動脈の)流れを赤色のシェード520として表す。そのため、色を区別する自動コンピュータビジョン技術によって動脈101A及び静脈101を容易に区別することができる。Bモードまたはカラードプラ表現では、血管の経路及び深さを直接測定し、静脈経路104A及び動脈経路104Bとして超音波装置109の画面104上に表示することができる。
【0107】
好都合なことに、プロセッサ350は、図9図10及び図13を参照して説明されるようなエネルギー信号ベースのアルゴリズムでは、エネルギーシグネチャのピークが放物線またはガウスに似た分布の一部を形成し、それらのような分布の始点530と終点535を使用して、特に外側方向の静脈101の直径dを推定することができることを認識する。図13に示されるように、始点530または終点535を決定する方法は、プロセッサ350によって、エネルギー曲線520に沿った全ての点における勾配を計算することを含み、位置における変化に対する連続したデータ点間のエネルギー変化の比率を取ることによって計算される。始点530は、例えば、勾配が低い値(例えば、-0.25から0.25の間)から大きい値(例えば、0.75から1の間)まで急速に増加するときに同定され得る。逆に、終点535は、大きい負の値(例えば、-0.75から-1の間)から低い値(例えば、-0.25から0.25の間)までの勾配における変化として同定され得る。直径の手動測定か、直径測定のための(人工知能制約または機械学習方法による)自動特徴認識かいずれかを必要とするBモード断面画像の構造解析と比較して、上記のようなエネルギー曲線方法により、直径をより効率的かつより客観的に決定する方法が可能になる。さらに、自動直径計算には訓練データセット(ラベル付き)は必要ないが、始点530と終点535の同定を最適化するために機械学習モデルを訓練することが可能である。
【0108】
動脈または静脈の区別方法の別の実施形態では、超音波データは、ハウジングが皮膚上に外力を加えることによる皮下血管の機械的圧縮の有り無し両方で、超音波装置109によって取得される。この方法を図14に示す。静脈(圧縮性があるが筋肉ではなく弾性がない)及び動脈(筋肉であり静脈より圧縮性が低く弾性がある)の異なる血管壁特性を利用して、圧縮中の変化を測定して動脈と静脈とを区別することができる。
【0109】
圧縮方法の一実施形態では、ピークエネルギーシグネチャ(FFTかPSDかいずれかから決定される)は、図14に概略的に示されるように、圧縮によって変化する。特に、正のピーク101C(受信器結晶510、707及びトランスデューサアレイ300Aのそれらに向かい流れる場合の静脈101の流れを表す)は圧縮によって平坦になるが、負のピーク101D(トランスデューサから離れて流れる場合の動脈101Aの流れを表す)は、その方向性を維持したまま大きさの減少のみを示す(負のピークはトランスデューサから離れる流れを表す)。特徴的な静脈のピーク101Cの(ゼロに向かう)低下及び動脈101Dの大きさの線形減少は、好ましくは絶対値測定によって、またはより好ましくは動脈と静脈とを区別するための特徴曲線分析によって計算される。あるいは、前述のようにエネルギー波形504から血管構造の直径dを決定することができるため、圧縮前から圧縮後、すなわちu1からu2及びv1からv2の直径における変化を計算することで、血管構造の圧縮によるサイズにおける変化を推定することができる。動脈と比較して、静脈では大きい変形(例えば、元の直径の90~100%に相当)が予想される。またこの方法の結果、超音波装置109の画面104上に静脈経路104A及び動脈経路104Bが表示される。
【0110】
Bモードまたはカラードプラモードを利用する圧縮方法の別の実施形態では、自動特徴エッジ認識を使用して、円形または楕円形の物体を同定し、これら物体の垂直方向最大弦長を測定することができる。円形または楕円形の物体はそれぞれ、垂直方向最大弦長の減少が動脈に比べて静脈で最も大きいため(例えば、元の直径の90~100%に相当)、動脈または静脈として同定されることができる。
【0111】
記載された両方の圧縮方法の別の実施形態では、エネルギー低下か弦長減少かいずれかによる静脈の圧縮率を使用して、静脈101の構造健全性を示すことができ、圧縮に対する抵抗が大きいほど剛性(構造健全性)が高いことを示すことができる。さらに、圧縮後の構造の復元を使用して塑性変形の程度を決定することができるため、それを使用して、弾性を決定することができる。剛性と弾性との両方の推論を通じて構造的に安定した静脈を選択することは、カニューレの挿入だけでなくカニューレの留置期間中の成功(脱落、血管外漏出がない)にとって重要な要因である。
【0112】
上述のように、自動特徴認識方法をBモードまたはドプラ超音波の実施形態で使用して、視野内の円形または楕円形の物体を自動的に決定することができ、血管の直径または楕円率をプロセッサが自動的に計算することができる。血管の直径または楕円率に基づいて、カニューレのサイズは、プロセッサによって決定されて、画面上に表示されてもよい。例えば、成人の静脈直径が1.3mmを超える場合、アルゴリズムは最も好ましくは、緑色のカニューレ(18G、直径1.3mm)、ピンク色のカニューレ(20G、直径1.1mm)、または青色のカニューレ(22G、直径0.9mm)を推奨する。またより大きい静脈(1.8mm超)にはオレンジ色(14G、直径2.1mm)または灰色(16G、直径1.8mm)も推奨されてもよいが、これらは、外傷、蘇生、迅速な輸血、迅速な補液、または手術では、すべて非常に高い注入流量(オレンジ色では240mL/min、灰色では180mL/min)で推奨される。
【0113】
せん断応力または乱流などの計算された血行動態パラメータは、血管アクセス装置、例えばカニューレが挿入されたことによる流れの中断を示すことができる。これらのようなパラメータを監視して、限定ではなく例として血管アクセス装置の推奨交換時期を決定することによって、カニューレ挿入プロセスを促進してもよく、及び/または静脈を生理食塩水で流し、静脈101を開いた状態に保つ有効性を評価してもよい。例えば、プロセッサ350は、血流量を計算して画面104上に表示し、この情報を使用してカニューレ挿入を管理することができる。手技は、例えば10mL/hの生理食塩水の流れでは、再循環(うっ滞)ゾーンが形成されているときにカニューレ先端の周囲で発生する可能性がある、うっ血を画面104上に表示することができるため、その先端を遮断して装置の開存性を低下させることができる。好ましくは、20mL/hでうっ滞の減少が示され、静脈開存性のスコアが計算され得る。最も好ましくは、30~40mL/hの生理食塩水は、より広い範囲の静脈流量及び末梢静脈サイズに対して最も効果的であると示されている。ただし、水分補給、アクセスの困難さ、または皮下出血などの要因によって決定される、患者のニーズに基づいて、40mL/h超のより大きい流れの負荷を超音波装置109の画面104上に表示することができる。
【0114】
ポータブル超音波装置109の使用については以下で説明する。
【0115】
ユーザが患者の前腕100の皮膚より上でポータブル超音波装置109を動かして静脈経路(装置109の使用により静脈101として決定される)を見いだす場合、ユーザは、基部102A上のノッチを用いて(好ましくは、上述のような他の手技データまたは推奨を用いて)得られた、静脈101の簡略化された縦方向表現104Aをアライメントすることを目的にしている。
【0116】
図7は、消耗品の両面音響伝導性パッチ701を、好ましくは医学的に適合して取り外し可能な接着剤または両面粘着テープによって、装置109の基部102Aにユーザが取り付けるという一例を示す。音響伝導性パッチ701の粘着性添着端部は、ポータブル超音波装置109の基部102Aに取り付けられる。音響伝導性パッチ701の反対側の端部を剥がして、このパッチ701内に含まれる医学的滅菌ゲルを露出させることができることにより、カニューレ挿入に必要な滅菌領域を維持しながら、通常、信号ノイズ及び信号損失の原因である空気中の超音波伝導を減少させることを目的としている。
【0117】
再び図1を参照すると、アライメントされると、ユーザは係脱可能な締結手段107を展開して、ポータブル超音波装置109を患者の前腕100上の適所に固定する。締結手段107は、単回または複数回使用できるストラップまたはバンドまたはベルトであることができ、これは、織物またはシリコーンなどの一般的な医療用材料で作られ、締結力を調整するように調整可能なクラスプを備えることができる。締結力は、一般に使用される止血帯で生じるものに似ており、血管内圧を増加させるため、デジタル処理アルゴリズム208によって抽出されるように事前にプログラムされた範囲まで、血管を充血させ、視認性を向上させ、血流速度を低下させるために必要とされることができる。
【0118】
次いで、ユーザは、針またはカニューレを、適所に保持する必要なく、挿入ノッチ310に通してポータブル超音波装置109の基部102Aに挿入するように好都合に進めることができる。したがって、プロセッサ350、特に上述のようなプロセッサブロック208~210によって生成される末梢静脈101の簡略化された縦方向表現104Aは、末梢静脈101の撮像された経路104Aに関して針挿入の最適なスポットにオペレータをガイドし、ユーザ及び患者の両方に利益をもたらす。
【0119】
説明されたポータブル超音波装置109は、内蔵型、好都合にはハンドヘルド、低コストで、単純な構造である。従来の超音波機器とは対照的に、本発明のポータブル超音波装置は、スキャンプローブ、処理ユニット及びモニタからなるモジュラ及び別個のシステムコンポーネントを必要としない。トランスデューサ素子、プロセッサ及び回路、ならびに画面を含む、主要コンポーネントは単一ハウジング内にパッケージ化される。ポータブル超音波装置109は、好都合には軽量であり、正看護師、検査室のフレボトミスト、セラピスト及び研究者であるが、これらに限定されないような、正規の専門研修を受けていない医療従事者及び医療補助者を含む幅広い人員による皮下構造の静脈穿刺またはカニューレ挿入及びその他の超音波撮像を支援するために使用されることができる。
【0120】
ポータブル超音波装置に修正及び変更を加えることができ、皮下構造の超音波撮像方法が本開示の当業者には明らかであり得ることが理解されよう。それらのような修正及び変形は、本発明の範囲内であるとみなされる。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象内の選択された皮下構造を非侵襲的に撮像するためのポータブル超音波装置であって、
(a)ハウジングと、
(b)トランスデューサ素子の複数のアレイであって、各アレイは斜角に置かれて並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、対象の体の方に所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを連続して送信し、超音波エネルギーの反射後、前記対象の前記体から所定の周波数範囲内のエコー信号を連続して受信するために前記ハウジング内に位置しており、前記複数の並列アレイは複数の横断面及び外側面内の前記皮下構造の撮像を可能にする、前記複数のアレイと、
(c)連続波ドプラモード中に前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイを操作するためのコントローラであって、前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイから前記受信したエコー信号を処理するためのプロセッサと通信可能である、前記コントローラと、
(d)前記ハウジングの一部を形成して、前記皮下構造の前記画像を表示するための画面であって、前記プロセッサは前記皮下構造から返される前記エコー信号を処理して、前記対象の前記皮下構造の解釈可能な画像を選択的に生成するように構成される、前記画面と、
を含む、前記ポータブル超音波装置。
【請求項2】
各トランスデューサ素子は、受信トランスデューサとインターリーブされた送信トランスデューサを含む、請求項1に記載の超音波装置。
【請求項3】
前記皮下構造は、静脈などの血管構造である、請求項1または2に記載の超音波装置。
【請求項4】
前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイは、干渉を最小にし、走査窓を最大にするように選択された横軸に沿った距離ξだけ互いから離隔される、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項5】
ξは5~30mmの間である、請求項4に記載の超音波装置。
【請求項6】
前記並列アレイは、10<Φ<60である超音波照射角度Φに置かれる、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項7】
前記画面は、前記プロセッサの支援で、カニューレまたは同様の装置を挿入するための正しい位置のインジケーションを提供し、前記画面上の表現(複数可)は、撮像した皮下構造の深さ、及び前記組織に挿入される針先の位置のうちの1つまたは複数を含む情報を任意選択で表示する、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、前記撮像した皮下構造へのアクセスに推奨された最適な針ゲージ及び/または挿入角度を計算するようにプログラムされる、請求項7に記載の超音波装置。
【請求項9】
血管構造分野及び血行動態分野の両方、任意選択で速度、圧力、せん断応力、乱流、うっ血、拍動性または狭窄のうちの1つまたは複数について、3Dでの表現が提供される、請求項7または8に記載の超音波装置。
【請求項10】
前記プロセッサは、動脈血管構造と静脈血管構造とを区別するための命令によってプログラムされる、先行請求項のいずれか1項に記載の超音波装置。
【請求項11】
前記プロセッサは拍動測定に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項10に記載の超音波装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、サンプリングされた超音波信号の高速フーリエ変換(FFT)から決定されたエネルギー信号の処理に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別するための命令によってプログラムされる、請求項10に記載の超音波装置。
【請求項13】
前記プロセッサは、サンプリングされた超音波信号から計算されたパワースペクトル密度(PSD)に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項10に記載の超音波装置。
【請求項14】
前記プロセッサは、前記サンプリングされた超音波信号の前記処理に基づいて、前記超音波装置と前記対象の前記体との接触領域より下の前記皮下構造の位置を決定するための命令によってプログラムされる、請求項10または13に記載の超音波装置。
【請求項15】
前記プロセッサは、前記サンプリングされた超音波信号の処理に基づいて、前記接触領域より下の前記皮下構造の前記深さ及び寸法のうちの少なくとも1つを決定する、請求項14に記載の超音波装置。
【請求項16】
前記プロセッサは、前記皮下構造の圧縮によって前記サンプリングされた超音波信号を処理する、請求項14または15に記載の超音波装置。
【請求項17】
対象内の皮下構造の撮像方法であって、
前記対象の体上の位置またはその直近に適用されるポータブル超音波装置に含まれるトランスデューサ素子の複数のアレイを介して、連続波ドプラモード中に所定の周波数範囲内の超音波エネルギーを前記対象の前記体に非侵襲的に連続して送信することであって、前記トランスデューサ素子の前記複数のアレイの各アレイは斜角に置かれて並列に配置され、各トランスデューサ素子は送信トランスデューサ及び受信トランスデューサを含み、前記トランスデューサ素子の前記複数の並列アレイは、複数の横断面及び外側面内で前記皮下構造の撮像を可能にする、前記送信することと、
超音波エネルギーの送信後、前記対象の前記体から所定の周波数範囲内のエコー信号を受信することと、
前記受信したエコー信号をプロセッサによって処理することと、
前記ポータブル超音波装置の一部を形成する画面上に前記対象の前記皮下構造を表示する画像を生成することと、
を含む、前記撮像方法。
【請求項18】
各トランスデューサ素子は、受信トランスデューサとインターリーブされた送信トランスデューサを含む、請求項17に記載の撮像方法。
【請求項19】
前記プロセッサは動脈血管構造と静脈血管構造とを区別する、請求項17または18に記載の撮像方法。
【請求項20】
前記プロセッサは、拍動測定に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項17~19のいずれか1項に記載の撮像方法。
【請求項21】
前記プロセッサは、サンプリングされた超音波信号の高速フーリエ変換(FFT)から決定されたエネルギー信号の処理に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項17~20のいずれか1項に記載の撮像方法。
【請求項22】
前記プロセッサは、サンプリングされた超音波信号から計算されたパワースペクトル密度(PSD)に基づいて動脈構造と静脈構造とを区別する、請求項17~21のいずれか1項に記載の撮像方法。
【請求項23】
前記プロセッサは、前記サンプリングされた超音波信号の前記処理に基づいて前記超音波装置と前記対象の前記体との接触領域より下の前記皮下構造の位置を決定する、請求項17~22のいずれか1項に記載の撮像方法。
【請求項24】
前記プロセッサは、前記サンプリングされた超音波信号の処理に基づいて、前記接触領域より下の前記皮下構造の深さ及び寸法のうちの少なくとも1つを決定する、請求項23に記載の撮像方法。
【請求項25】
前記プロセッサは、前記皮下構造の圧縮によって前記サンプリングされた超音波信号を処理する、請求項23または24に記載の撮像方法。
【請求項26】
前記プロセッサは、血管アクセス装置によって、撮像された皮下構造、例えば血管構造へのアクセスに最適な針ゲージ及び/または挿入角度を計算する、請求項17~25のいずれか1項に記載の撮像方法。
【国際調査報告】