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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-05
(54)【発明の名称】軸方向改質管
(51)【国際特許分類】
   B01J 8/06 20060101AFI20240529BHJP
   C01B 3/38 20060101ALI20240529BHJP
   F16L 9/06 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
B01J8/06
C01B3/38
F16L9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023562242
(86)(22)【出願日】2022-04-06
(85)【翻訳文提出日】2023-11-29
(86)【国際出願番号】 GB2022050866
(87)【国際公開番号】W WO2022214811
(87)【国際公開日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】2104924.2
(32)【優先日】2021-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523381594
【氏名又は名称】パラロイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Paralloy Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】フラホート,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,バリー
【テーマコード(参考)】
3H111
4G070
4G140
【Fターム(参考)】
3H111AA01
3H111BA02
3H111CA44
3H111CB14
3H111DA26
3H111DB11
4G070AA01
4G070AB05
4G070BB02
4G070CA06
4G070CA25
4G070CB18
4G070DA23
4G140EA03
4G140EA06
4G140EB14
4G140EB46
(57)【要約】
本発明の軸方向改質管では、改質管の内面の少なくとも一部は、表面の算術平均粗さであるRa粗さが12,5μm以上500μm以下である粗面部を有し、前記軸方向改質管は、軸方向長さに沿って延びており、前記粗面部は、周溝のパターンを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向改質管の内面の少なくとも一部は、表面の算術平均粗さが12,5μm以上500μm以下である粗面部を有し、
前記軸方向改質管は、軸方向長さに沿って延びており、前記粗面部は、周溝のパターンを有する、
軸方向改質管。
【請求項2】
前記軸方向改質管の少なくとも一部は、算術平均粗さが少なくとも25μmである内面を有する粗面部である、
請求項1に記載の軸方向改質管。
【請求項3】
前記軸方向改質管の前記内面の周方向からの前記周溝の軸方向へのずれは、10度以下である、
請求項1または請求項2に記載の軸方向改質管。
【請求項4】
前記軸方向改質管の前記内面の周方向からの前記周溝の軸方向へのずれは、5度以下である、
請求項3に記載の軸方向改質管。
【請求項5】
前記周溝のパターンは、1つまたは複数の螺旋溝として形成されている、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項6】
前記周溝の側面は、前記軸方向長さに対する垂直面に対して、0度と50度との間の側面角度だけ傾斜している、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項7】
前記周溝の側面は、前記軸方向長さに対する垂直面に対して、0度と30度との間の側面角度だけ傾斜している、
請求項6に記載の軸方向改質管。
【請求項8】
前記側面角度は、少なくとも10度である、
請求項6または請求項7に記載の軸方向改質管。
【請求項9】
前記側面角度は、25度以下である、
請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項10】
前記周溝の底部の軸方向長さは、前記周溝の深さの50%以上200%以下である、
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項11】
前記周溝は、頂面部によって互いに隔てられており、前記頂面部の軸方向長さは、前記周溝の深さの50%以上100%以下である、
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項12】
前記周溝は、頂面部によって互いに隔てられており、前記頂面部と前記周溝の側面との間に鋭利なエッジが形成されており、前記鋭利なエッジは、20μm以下の平均曲率半径を有する、
請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項13】
前記粗面部は、前記軸方向改質管の全長に亘って延びている、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項14】
前記軸方向改質管は、3.2μm以下の算術平均粗さを有し且つ前記粗面部に結合された平滑面部を備える、
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項15】
前記粗面部は、2つの前記平滑面部の間に結合されている、
請求項14に記載の軸方向改質管。
【請求項16】
前記軸方向改質管は、少なくとも700mmの長さを有する、
請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項17】
前記軸方向改質管の内径は、350mm以下である、
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項18】
前記軸方向改質管は、少なくとも2メートルの長さを有し、前記軸方向改質管の内径は、95mm以上280mm以下である、
請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項19】
前記軸方向改質管は、少なくとも2メートルの長さを有し、前記軸方向改質管の内径は、95mm以上250mm以下である、
請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の軸方向改質管。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の軸方向改質管を備える、改質システム。
【請求項21】
前記軸方向改質管の少なくとも一部の中に充填された触媒床と、
前記軸方向改質管の前記少なくとも一部を加熱するヒータと、
前記触媒床を通るようにガスを送り込むポンプと、
前記改質システムの動作を監視して制御する制御システムと、を更に備える、
請求項20に記載の改質システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向改質管に関し、より具体的には水蒸気メタン改質用の軸方向改質管に関するが、これに限定されるものではない。
【背景技術】
【0002】
水蒸気メタン改質は、天然ガスからの水素の製造において広く使用されているプロセスである。例えば、水蒸気とメタンは700度~1000度、3bar~40barに加熱され、ニッケル触媒上を通過し、吸熱性の高い水蒸気メタン改質反応(下記の「化学式1」)で水素、一酸化炭素、および若干の二酸化炭素が生成される。適度な発熱を伴う水性ガスシフト反応(下記の「化学式2」)により、一酸化炭素と水が触媒上で反応して、二酸化炭素と更なる水素が生成される。次に、二酸化炭素は圧力変動吸収によって吸収され、実質的に純粋な水素が残る。
【0003】
【化1】
【化2】
【0004】
水蒸気メタン改質は、通常、軸方向改質管 (改質管、リフォーマーチューブ、軸上改質管、改質触媒管、又は改質器とも呼ばれる) 内で行われる。軸方向改質管は、アンモニア及びメタノールの製造など、他の改質プロセスでも使用される。
【0005】
使用の際、水蒸気メタン改質用の改質管は、通常、炉(耐火物で裏打ちされた箱)内で鉛直方向に向けられる。改質に必要な圧力と温度に耐え、外部熱源から、改質管の壁部を経由して、改質管に沿って流れるガスまでの高速の熱伝達を可能にするために、合金鋼製の軸方向改質管が一般に使用される。軸方向改質管の製造に使用される例示的な材料は、0.4%の炭素、25%のクロム、35%のニッケル、及び1%のニオブを含むParalloy社の耐熱性オーステナイト系ステンレス鋼であるH39WMである。
【0006】
軸方向改質管の強度を高めつつ、改質管の内面と改質管に沿って流れるガスとの間の熱伝達のための、体積(容積)に対する内部表面積の比率を高めるために、軸方向改質管は、通常、その内径と比較して長くなる。例えば、内径が10cmである改質管は、13mの長さを有し得る。
【0007】
使用中、ガスは、軸方向改質管に沿って概ね軸方向に流れる。水蒸気メタン改質反応は、試薬ガスが触媒の上を通過する場所で起こり、その周囲を、改質管に沿って流れるガスが通り抜ける。ガスは、改質管の内面にも沿って流れる。
【0008】
触媒は、典型的には、体積に対する表面積の比率が高く、触媒床を通って流れるガスの圧力降下(圧力損失)が比較的低くなるように有利に形作られている。
【0009】
軸方向改質管は、通常、スピンキャスティングによって製造され、改質管の内面は、平滑ボーリング加工によって形成され、例えば、3.2μm~1.6μmのRa粗さ(算術平均粗さ)が得られる。当該算術平均粗さは、13μm~6.3μmのRt粗さ(Rtは、収集される粗さデータ点の範囲)に対応する。改質管の内面に沿ったガスの流れに対する抵抗を低減することによって改質管に沿った圧力降下を低減し、改質ガス生成物の収量を最大化するためには、改質管の内面を滑らかに仕上げるボーリング加工が望ましいと、従来は考えられている。
【発明の概要】
【0010】
本開示によれば、添付の特許請求の範囲に記載の軸方向改質管および改質システムが提供される。
【0011】
第1の態様によれば、軸方向改質管の内面の少なくとも一部は、表面の算術平均粗さが12,5μm以上500μm以下である粗面部を有し、前記軸方向改質管は、軸方向長さに沿って延びており、前記粗面部は、周溝のパターンを有する、軸方向改質管が提供される。
【0012】
第2の態様によれば、第1の態様に係る軸方向改質管を備える改質システムが提供される。
【0013】
前記粗面部の内面は、少なくとも25μmの算術平均粗さを有してもよい。前記粗面部の内面は、少なくとも50μmの算術平均粗さを有してもよい。前記粗面部の内面は、少なくとも100μmの算術平均粗さを有してもよい。
【0014】
前記軸方向改質管の前記内面の周方向からの前記周溝の軸方向へのずれは、10度以下であってもよい。
【0015】
前記軸方向改質管の前記内面の周方向からの前記周溝の軸方向へのずれは、5度以下であってもよい。
【0016】
前記周溝のパターンは、1つまたは複数の螺旋溝として形成されてもよい。
【0017】
前記周溝の側面は、前記軸方向長さに対する垂直面に対して、0度と50度との間の側面角度だけ傾斜していてもよい。前記周溝の側面は、前記軸方向長さに対する垂直面に対して、0度と30度との間の側面角度だけ傾斜していてもよい。前記側面角度は、少なくとも10度であってもよい。前記側面角度は、25度以下であってもよい。
【0018】
前記周溝の底部の軸方向長さは、前記周溝の深さの50%以上200%以下であってもよい。
【0019】
隣接する前記周溝は、頂面部(クラウン部)によって互いに隔てられていてもよく、前記頂面部の軸方向長さは、前記周溝の深さの50%以上100%以下であってもよい。
【0020】
隣接する前記周溝は、頂面部によって互いに隔てられていてもよく、前記頂面部と前記周溝の側面との間に鋭利なエッジが形成されてもよく、前記鋭利なエッジは、20μm以下の平均曲率半径を有してもよい。
【0021】
前記粗面部は、前記軸方向改質管の全長に亘って延びていてもよい。
【0022】
前記軸方向改質管は、3.2μm以下の算術平均粗さを有し且つ前記粗面部に結合された平滑面部を備えてもよい。
【0023】
前記粗面部は、2つの前記平滑面部の間に結合されていてもよい。
【0024】
前記軸方向改質管は、少なくとも700mmの長さを有してもよい。
【0025】
前記軸方向改質管の内径は、350mm以下であってもよい。
【0026】
前記軸方向改質管は、少なくとも700mmの長さを有してもよく、前記軸方向改質管の内径は、95mm以上280mm以下であってもよい。
【0027】
前記軸方向改質管は、少なくとも2メートルの長さを有してもよい。前記軸方向改質管の内径は、95mm以上250mm以下であってもよい。
【0028】
前記改質システムは、前記軸方向改質管の少なくとも一部の中に充填された触媒床と、前記軸方向改質管の前記少なくとも一部を加熱するヒータと、前記触媒床を通るようにガスを送り込むポンプと、前記改質システムの動作を監視して制御する制御システムと、を更に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
以下の添付図面を参照して、実施例がさらに説明される。
【0030】
図1A】軸方向改質管を示す。
図1B図1Aの軸方向改質管の一部の断面図を示す。
図1C】軸方向改質管の内部の一部の写真を示す。
図1D】軸方向改質管の内部の一部を示す図である。
図2】軸方向改質管の内面を横切る例示的なガスの流れを示す。
図3】別の軸方向改質管を示す。
図4】改質システムを示す。
図5A】異なる内面粗さを有する3つの軸方向改質管における熱伝達率を示す。
図5B】異なる内面粗さを有する3つの軸方向改質管における圧力降下を示す。
図6】異なる値の内面粗さ毎の熱伝達率を示す実験結果のグラフである。
図7A】2つの異なる軸方向改質管の中心面に沿ったガス温度のシミュレーションプロットを示す。
図7B】2つの異なる軸方向改質管の中心面に沿ったガス温度のシミュレーションプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書全体を通して、同様の参照符号は、同様の要素を指すものとする。
【0032】
図1Aは、概して軸方向のガスの流れFで使用するための軸方向改質管100を示し(ただし、説明の目的で触媒は図示されていない)、図1Bは、図1Aに示される領域Bの拡大図を示す。
【0033】
軸方向改質管100は、その内径よりもはるかに長い軸方向長さを有する。軸方向改質管は、中空円筒形であってもよい。使用中、ガスの流れFは、改質管内で触媒の周囲を通過することになるものの、全体としては、図1AのA-A線に示されるように改質管100の長さに沿った軸方向である。
【0034】
軸方向改質管100の管壁の内面110は、少なくとも12.5μmのRa粗さを有する。ここで、Ra粗さは、表面の算術平均粗さ(例えば、少なくとも50μmのRt粗さ)である。このような軸方向改質管の内面の粗さは、滑らかな内面と比較して、軸方向改質管の内面に沿ったガスの流れを変化させる。この結果、乱流が生成され、管壁の内面に沿った境界層と層流の形成が妨げられる。前記乱流により、管壁から、改質管内を流れるガスへの熱伝達が促進される。管壁の内面110に少なくとも12.5μmのRa粗さが設けられることにより、熱伝達が大幅に向上し、管壁の内面110に少なくとも25μmのRa粗さが設けられることにより、熱伝達が約10%向上し得る。これらの場合において、改質管に沿って流れるガスの圧力降下(圧力損失)への影響はわずかである。このような熱伝達率の向上により、水蒸気メタン改質反応の効率が向上し得る。本願発明者は、上記の表面粗さによる熱伝達の向上の利点が、管壁の内面に沿った乱流の誘発による空気力学的抵抗の増大の影響を上回ることを確認した。
【0035】
管壁の内面110は、500μm以下のRa粗さ(例えば、2000μm以下のRt粗さ)を有する。Ra粗さが500μm以下に制限されることで、粗い表面形状によって生成される乱流と内面から離れたガスの流れとの混合が促進される。これにより、例えば、粗い表面形状の深さ内(例えば、溝112の底部)に乱流が個別に残ることなく、むしろ、管壁からの熱伝達が強化される。
【0036】
図1B図1C、及び図1Dに示すように、管壁の内面の粗さは、概ね円周方向に延びる複数の溝(周溝)112と複数の隆起部114とのパターンとして形成される。図1Dは、軸方向改質管100の一部(改質管の端部102から延びる部分)の内面を、改質管の中心軸(図1AのA-A線)から径方向外側に見た図を示す。溝112は、周方向(軸方向に垂直な方向)から10度以下、又は5度以下の軸方向へのずれ(径方向から見た角度のずれ)φをもって、改質管の内面の周囲に延びてもよい。周方向に対する溝112の延長方向の軸方向へのずれ(径方向から見た角度のずれ)φが小さいと、図2に示すように、溝112内での乱流旋回流182の形成が促進される。これにより、溝からガスが掃き出されるのではなく、むしろ、各溝112を横切ってほぼ垂直に延びるガスの流れが維持され、溝112内での乱流旋回流の形成が妨げられる。
【0037】
図1Cに示すように、例えば、改質管100の内面110の粗さは、改質管100の内面110に(例えば切削により)設けられた1つ又は複数の螺旋状の溝112によって提供されてもよい。螺旋状の溝112が切削されることにより、製造の複雑さが軽減されつつ、改質管100の内面110に粗さが提供され得る。
【0038】
あるいは、溝112は、円周方向(改質管100の軸方向長さに対する垂直方向)に延びていてもよい。例えば、溝112は、材料(例えば、鋼材)の平らなストリップに切削されてもよい。この場合、改質管100を形成するようにストリップがその幅にわたって丸められて両端が(例えば溶接により)シールされる前に、ストリップの長さ方向に対して垂直に溝112が切削される。
【0039】
図2は、軸方向改質管100に沿って改質管100の内面110上を軸方向に流れるガス180のモデルを示す。溝112内には、ガスの流れの乱流旋回流182が生成され、これにより、滑らかな内面と比較して、管壁から熱が取り出される速度が増大する。
【0040】
溝112および隆起部114のパターンの深さdは、内面110の粗さの振幅に等しく、例えば50μm~2000μmのRt粗さ(例えば、12.5μm~500μmのRa粗さ)によって特定される。隆起部114の頂面部(クラウン部)の軸方向長さL1は、溝深さdの50%~100%であってもよい。溝112の底部の軸方向長さL2は、溝深さdの50%~200%であってもよい。溝深さdの50%~200%の軸方向長さL2を有する溝112の底部を設けることにより、溝112内での乱流旋回流182の形成が促進される。当該範囲よりも溝112の底部が狭いと、溝112内の乱流旋回流182の大きさ及び形成が制限され得る。当該範囲よりも溝112の底部が広いと、層流が溝112内に延び得ることによって、乱流旋回流182の形成が低減され得る。
【0041】
溝112および隆起部114のパターンの側面116A,116Bは、概して、改質管100の両端に向かって面している。側面116A,116Bは、改質管100の軸方向長さに実質的に平行な垂線を有してもよく、すなわち、実質的に0度の側面角度θ,θを有してもよい(例えば、螺旋溝の側面が螺旋溝のピッチ分のみ角度が付けられている場合)。あるいは、図1B図1C、及び図2に示すように、溝112および隆起部114のパターンの側面116A,116Bの側面角度θ,θはゼロでなくてもよい。例えば、それぞれの側面116A,116Bは、50度以下(好ましくは30度以下)の側面角度θ,θだけ角度が付けられ、100度以下(好ましくは60度以下)のねじ山角度(θ+θ)が提供される。例えば、側面116A,116Bは、それぞれ、0度を超える側面角度θ,θ(例えば、50度以下または30度以下)だけ、改質管100の長さ方向に対する垂直面に対して角度が付けられてもよい。図2において、深さdは200μmであり、側面116A,116Bの側面角度θ,θはそれぞれ15度である。少なくとも10度の側面角度θ,θだけ側面116A,116Bに角度を付けることにより、溝112のより深い場所ではなく、むしろ溝112の上部に近い場所(すなわち、改質管100の中心により近い場所)での乱流旋回流182の生成が促進される。これにより、乱流旋回流182と、これに隣接する概ね軸方向のガスの流れFとの間の相互作用が強められ、管壁からの熱伝達と、管壁から離れたガスの流れFとが向上する。溝112の側面116A,116Bに50度以下(好ましくは、30度以下)の角度θ,θだけ角度が付けられると、溝112内での乱流旋回流182の生成が促進されつつ、溝112を通る層流が低減され、これにより、管壁からメインのガスの流れFへの熱伝達が促進される。
【0042】
隆起部114の頂面部のエッジ(縁部)118A,118Bは鋭利であってもよい。エッジ118A,118Bが鋭利であることにより、エッジ118A,118B上を流れるガスの乱流の形成が促進され、これにより、層流が乱されて、溝112内に乱流旋回流182が生成される。鋭利なエッジ118A,118Bは、20μm未満の平均曲率半径を有してもよい。
【0043】
軸方向改質管100の内面110の粗さにより、平滑にボーリング加工された管と比較して、改質管100の内側の表面積も増大するため、改質管100内のガスの流れFに熱を伝達し得る表面積が増大し、これにより、管壁から当該ガスの流れFへの熱伝達率が高められる。
【0044】
図1Aの軸方向改質管100は、改質管100の内面の全長に沿って延びる粗面部(例えば、螺旋ねじのような溝と隆起部のパターン)を有する単一のセクション(区分)として示されている。
【0045】
あるいは、図3に示すように、改質管100’の一部が、粗さのパターンを有する粗面部100B’として形成され、改質管100’の他の部分が、滑らかな内面を有する平滑面部100A’,100C’として形成されてもよい。例えば、図3に示すように、2つの平滑面部110A’,110C’の間に粗面部100B’が設けられてもよい。改質管100’の各部(例えば、平滑面部110A’,110C’及び粗面部100B’)は、数メートル(例えば、少なくとも2メートル)の長さを有してもよい。例えば、改質管100’は、内面のRa粗さが12.5μm~500μmである粗面部と、平滑な(Ra粗さが3.2μm以下である)内面を有する1つ又は2つの平滑面部とを有してもよい。触媒床CAT(図4)が充填される改質管100’部分の全部または一部のみに粗面部が設けられてもよく、これにより、触媒を通って改質管100’に概ね沿って流れるガスの流れFに対する管壁からの熱伝達が促進される。また、触媒が存在しない1つ若しくは複数の領域、又は、熱伝達の促進が必要とされない触媒床の領域に、平滑面部が設けられてもよい。改質管100’の粗面部において熱伝達が促進されると、反応性能が向上し得る。熱伝達が促進される領域は、軸方向改質管における最も吸熱反応が起こる部分(例えば、触媒床の特定の部分)に位置合わせされてもよい。軸方向改質管100の他の部分に平滑面部が設けられることにより、軸方向改質管100を通るガスの流れFに対する空気力学的抵抗が低減され、製造の複雑さおよび関連コストが低減され得る。
【0046】
軸方向改質管は、その内径に比べて何倍も長い。軸方向改質管は、数メートルの長さを有してもよい。例えば、軸方向改質管の長さは、少なくとも700mm、少なくとも2m、又は少なくとも5mであってもよい。さらに、軸方向改質管の長さは、8m以上13m以下であってもよい。軸方向改質管は、1メートルよりもはるかに小さい内径を有してもよい。例えば、軸方向改質管の内径は、350mm以下、95mm以上280mm以下、95mm以上250mm以下、又は95mm以上175mm以下であってもよい。軸方向改質管の壁厚は、8mm以上15mm以下であってもよい。
【0047】
一般に、軸方向改質管100は、一端から他端まで、一連の管状部分(管状セクション)を互いに溶接することで形成され得る。粗い内面を有する部分(粗面部)と滑らかな内面を有する別の部分(平滑面部)とを有する改質管は、対応して形成された管状部分同士を互いに溶接することによって形成され得る。
【0048】
軸方向改質管100は、改質システムRSの一部を形成し得る。図4に示すように、改質システムRSでは、改質管100にヒータが設けられ、触媒床CATが改質管100内に充填される。複数の軸方向改質管100は、試薬の流れRFを受け取るように、互いに平行に結合されてもよい。前記ヒータは、改質管100が通って延びる炉Hであってもよい(また、例えば、各改質管の周囲に巻かれるリボンヒータなどの、代替ヒータが設けられてもよい)。触媒への試薬の流れF内の乱流を低減するために、触媒床CATの上流に整流器FSが設けられてもよい。例えば、充填された触媒の長さ範囲における1つ又は複数の位置において試薬が触媒に入る前、及び、試薬が触媒から出た後などに、改質システムのさまざまな部分のガスの流量と温度を監視するために、制御システムCSが設けられる。なお、制御システムCSは、例えば、各改質管100を監視するが、一例として、1つの改質管上にのみモニターMが図示されている。ポンプPは、試薬を触媒に送り込むために設けられる。ポンプPは、例えば、吸熱反応後にガスが冷却された生成物の下流の流れに設けられる。
【0049】
図5Aおよび図5Bは、内面のRa粗さの値が異なる3つの軸方向改質管(下記のチューブ1~3)100の熱伝達率(熱伝達係数)および圧力降下(圧力損失)を測定した例示的な実験データを示す。
[チューブ1]内面のRa粗さが3.2μmである改質管
[チューブ2]内面のRa粗さが25μmである改質管
[チューブ3]内面のRa粗さが375μmである改質管
【0050】
試験装置において、空気は、整流器FSを介して軸方向改質管100内に引き込まれ、ポンプPによって触媒(直径16mm、空隙率0.56の凹凸が付けられた球体)の充填床(触媒床CAT)を通して引き込まれた。各軸方向改質管100の外側は、改質管の周りに巻かれたリボンヒータによって加熱された。各軸方向改質管は、2回ずつ試験され、図に示すように対応するデータが収集された。
【0051】
図5Aは、各改質管(チューブ1~3)の熱伝達率(熱伝達係数)を示し、図5Bは、各改質管(チューブ1~3)内の圧力降下(圧力損失)を示す。チューブ1は、滑らかな内面を有し、比較を目的とした対照チューブの役割を果たす。チューブ2とチューブ3で測定された熱伝達率は、チューブ1の熱伝達率よりも約10%高かった。
【0052】
チューブ1では、軸方向改質管100の内面に隣接するガスの流れFに対する抵抗が、最も低くなる。チューブ2とチューブ3では、圧力降下も、チューブ1の圧力降下よりも大きく、このことは、軸方向改質管の内面に隣接するガスの流れに対する抵抗が増大することを意味する。
【0053】
下記の表1は、異なるRt粗さ(及び異なるRa粗さ)の値を有する複数の軸方向改質管の熱伝達率(熱伝達係数)および圧力降下(圧力損失)の測定に関する別の例示的な実験データを示す。Rt粗さについては平滑から2500μmまで(Ra粗さについては、例えば、平滑から約625μmまで)の複数の値が用いられた。また、球形または円筒形の触媒からなる触媒床が用いられた。図6は、表1のプロトタイプ軸方向改質管の熱伝達率を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
軸方向改質管の内面のRt粗さが1500μm又は2000μmまで(例えば、Ra粗さが約375μm又は約500μmまで)は、熱伝達率が増大する。全体の圧力降下はほとんど増大しない。Rt粗さが2000μmを超えると、より深い溝の製造が複雑化し、その結果として、熱伝達率は実質的に向上しない。
【0056】
図7Aは、平滑な内面(例えば、25μm以下のRt粗さ)を有する軸方向改質管の中心面に沿ったガス温度のシミュレーションプロットを示し、図7Bは、2000μmのRt粗さ(例えば、500μmのRa粗さ)を有する軸方向改質管の中心面に沿ったガス温度のシミュレーションプロットを示す。いずれにおいても、同じ円筒形の触媒床が用いられている。図7Bは、軸方向改質管の内面の一部に2000μmのRt粗さを設けることで、管壁を通した熱伝達率がどのように向上するかを示している。
【0057】
本願で提供される各図は概略的なものであり、縮尺通りではない。
【0058】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通じて、「備える」、「有する」、および「含む」という用語、並びにこれらの関連用語は、「非限定的に含む」ことを意味し、他の部分、付加物、要素、 整数、またはステップを排除することを意図しない。本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上別段の必要がない限り、明細書は単数だけでなく複数も考慮しているものとして理解されるべきである。
【0059】
本発明の特定の態様、実施形態または実施例に関連して説明される特徴、整数、特性、化合物、化学部分または基は、これらと矛盾しない限り、本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態または実施例に適用可能であると理解されるべきである。本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)で開示されるすべての特徴、および/または、そのように開示される任意の方法またはプロセスのすべてのステップは、そのような機能および/またはステップの少なくとも一部が相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせで組み合わせ可能である。本発明は、以上の実施形態の詳細に限定されるものでない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される特徴の任意の新規なもの、または任意の新規な組み合わせ、或いは、または任意の方法またはプロセスのステップの任意の新規なもの、または任意の新規な組み合わせにまで及ぶ。
【0060】
本出願に関連して本明細書と同時にまたは本明細書より前に提出され、本明細書とともに公衆の閲覧に公開されているすべての論文および文書に注意が向けられており、そのようなすべての論文および文書の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
【国際調査報告】