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特表2024-522023植物由来産物の収量を増加させる処理
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-10
(54)【発明の名称】植物由来産物の収量を増加させる処理
(51)【国際特許分類】
   A23C 11/10 20210101AFI20240603BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240603BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240603BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20240603BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20240603BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240603BHJP
   C12N 9/52 20060101ALN20240603BHJP
   C12N 9/58 20060101ALN20240603BHJP
【FI】
A23C11/10
A23L5/00 J
A23L7/10 Z
A23L29/238
A23L2/38 J
A23L2/52
C12N9/52
C12N9/58
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023550059
(86)(22)【出願日】2022-02-22
(85)【翻訳文提出日】2023-10-06
(86)【国際出願番号】 US2022017389
(87)【国際公開番号】W WO2022178456
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】17/677,982
(32)【優先日】2022-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/151,321
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523225564
【氏名又は名称】シュトイベン フーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】パーク,ドンケウン
【テーマコード(参考)】
4B001
4B023
4B035
4B041
4B117
【Fターム(参考)】
4B001AC26
4B001BC08
4B001BC14
4B001BC99
4B001EC05
4B001EC08
4B001EC99
4B023LC05
4B023LC09
4B023LE30
4B023LG05
4B023LP16
4B023LP20
4B035LC03
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG34
4B035LG51
4B035LP01
4B035LP41
4B035LP44
4B041LC03
4B041LD01
4B041LH07
4B041LP01
4B041LP15
4B117LC02
4B117LC04
4B117LG06
4B117LG11
4B117LG13
4B117LK24
4B117LP06
4B117LP14
(57)【要約】
大幅にインキュベーション時間を短縮し、また温度およびプロテアーゼ抽出中の蛋白質分解を顕著に低下させることによって、従来のプロテアーゼ抽出技術に関する問題を解決する、細菌または真菌金属プロテアーゼおよびトリプシンを利用するプロセス。本開示は、食品生産物に利用する抽出原材料の栄養性品質および機能性品質を保持しながら、破砕した植物材料の繊維性廃棄部分から栄養素を抽出することにより、植物またはその他の材料の収量を増加させるプロテアーゼ処理に関する。本プロセスにおいては、低温および最小プロテアーゼ活性および抽出の最短消化時間を利用することにより、β-グルカンおよび蛋白質を含む抽出原材料の品質を保持する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料スラリーを生産するために植物原料を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼで処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、次善のプロテアーゼ活性温度において、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ここで該植物原料がオート麦粒および大麦粒のうちの少なくとも1つである、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、ここで該次善の活性温度が10℃未満であり、該プロテアーゼによる処理のインキュベーション時間が30分未満である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、ここで該処理繊維性スラリーを生産するために、次善の活性pHにおいて、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理する、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、ここでプロテアーゼ処理のインキュベーション時間が10分未満である場合に、該処理繊維性スラリーの粘度が該繊維性スラリーの粘度よりも少なくとも35%低い、方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、ここで25kDa未満の分子量を有するペプチドの量における相対的増加が5%未満である、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、ここで25kDa未満の分子量を有するペプチドの量における相対的増加が2%未満である、方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、ここで蛋白質加水分解度が実質的に高くはない、方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、組み合わせミルクを生産するために、二次ミルクを一次ミルクと組み合わせることをさらに含む方法。
【請求項10】
請求項1の方法であって、ここで該二次ミルクにおけるβ-グルカン濃度が、乾燥固形物に基づいて、該一次ミルクのβ-グルカン濃度の少なくとも2倍である、方法。
【請求項11】
請求項1の方法であって、ここで組み合わせミルクが、乾燥固形物に基づいて、該植物原料に含まれる全β-グルカンの少なくとも半分を含む、方法。
【請求項12】
請求項1の方法であって、ここで該プロテアーゼが、Neutrase(登録商標)、中性プロテアーゼL(商標)、Bacillus subtilisに由来する金属エンドプロテアーゼ、およびBacillus amyloliquefaciensに由来する金属エンドプロテアーゼから成る群から選択される、方法。
【請求項13】
請求項1の方法であって、ここで該植物原料から植物由来ミルクを生産する際に、有意な微生物増殖を防止する、方法。
【請求項14】
請求項1の方法であって、ここで該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理するインキュベーション時間が20分未満である、方法。
【請求項15】
請求項1の方法であって、ここで加熱不活性化中の実質的な蛋白質加水分解を防ぐために、該繊維性スラリーを急速加熱する、方法。
【請求項16】
請求項1の方法であって、ここで該方法が、液状化のために付加的酵素を添加することなく、保存可能期間延長または無菌梱包のために充分な高温で該二次ミルクを処理することをさらに含み、かつ該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼである、方法。
【請求項17】
請求項1の方法であって、ここで該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼであり;
および
ここで該金属エンドプロテアーゼを熱不活性化するため、および加熱不活性化中の顕著な蛋白質加水分解を防ぐために、直接的蒸気処理または間接的蒸気処理によって該繊維性スラリーを急速加熱し、それによって、少なくとも1種類の優れた官能特性を有する二次ミルクが得られるが、該二次ミルクはトリプシン処理した二次ミルクおよびより緩徐な加熱不活性化法を用いて生産される加工二次ミルクと比較して篩過し易さが向上した二次ミルクである、方法。
【請求項18】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理穀物粒を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼで処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、5℃未満の温度で30分間未満のインキュベーション時間の間、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、ここで該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼであり、該方法が、液状化のために付加的酵素を添加することなく、
保存可能期間延長または無菌梱包に充分な高温で、該二次ミルク処理することをさらに含む、方法。
【請求項20】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理原料を水性湿式粉砕すること;
一次液および繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
および
処理繊維性スラリーを生産するために、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼを用いて、次善のプロテアーゼ活性温度で60分間未満のインキュベーション時間の間インキュベートすることによって、該繊維性スラリーを処理すること、
を含む方法であって;
ここで該処理繊維性スラリーの粘度が該繊維性スラリーの粘度よりも少なくとも30%低い、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、2021年2月19日付けで出願された、米国特許仮出願第63/151,321号に基づく優先権を主張するものである。その優先出願の開示内容全体が参照として本出願に組み入れられる。
【0002】
本開示は、植物由来ミルクを含む植物由来の食品および飲料の生産において植物の栄養素収量を増加させる処理に関するものである。
【背景技術】
【0003】
穀物、ナッツまたは種子から得られる植物由来ミルクの生産においては、その植物材料のうちの一部が廃棄物として廃棄されることもある。この廃棄物は、植物由来ミルクの加工中に、希釈後であってもメッシュフィルターを通すことが困難または不可能な、粘稠で不溶性の繊維性副産物またはスラリーによって構成されることがある。繊維性スラリーは、重要な栄養を含むことが多いブランおよび種皮などの繊維性細胞壁物質で主に構成される。この材料は、細胞壁により多量に存在するβ-グルカン、蛋白質ならびに生体活性フェノール類および抗酸化物質を含むことがある。したがって、繊維性スラリーを廃棄するよりも利用することが大変望ましいのである。
【0004】
現在のところ、ブランまたはブラン様材料の主要な用途は、低栄養価成分としてヒトおよび動物による摂取である。食物成分としての利用が比較的低頻度であることは、ブランおよびブラン抽出物の官能特質および食感(texture)ならびに栄養抽出法が低効率であることに関係している。例えば、ブラン栄養素抽出物は、酸化によって悪臭を放つ特定の蛋白質または脂質類の分解産物が存在することに関連する苦味があり、また特定の食品マトリックスに対する不適合性を有していることがある。
【0005】
この穀物由来繊維性材料を利用するには、食感改善のため繊維間の相互作用を壊し粘度を低下させる目的で、その材料をさらに処理することが必要となる場合が多い。細胞壁物質を分解し分離する酵素を利用する処理によって、その相互作用を破壊することができる。例えば、小麦加工の場合には、穀物材料の分離を促進するために、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼおよびキシラナーゼを含む酵素が用いられている(WO2008132238A1)。セルラーゼ、ヘミセルラーゼおよびキシラナーゼは、細胞壁の主成分に直接作用して、分解を促進することが知られている。アミラーゼ、リパーゼおよびプロテアーゼは、細胞壁の主成分ではないデンプン、脂肪および蛋白質に作用するが、その酵素的分解によって細胞壁成分間の一部の相互作用を破壊することがある。
【0006】
醸造業では、処理を促進して収量を増加させるため、醸造に用いる穀物の細胞壁物質を分解するためにキシラナーゼを用いる(Novozymes(登録商標)、2013)。キシラナーゼは、穀物の細胞壁物質の主成分であるキシランを分解する。醸造プロセスにおいては、プロテアーゼであるNeutrase(登録商標)をキシラナーゼと組み合わせて用いることもある;これは、蛋白質加水分解中に放出される遊離アミノ窒素(FAN)を増加させ、酵母の増殖促進にFANの利用を可能にするためである(Novozymes(登録商標)、2013)。また、細胞壁安定性を増強し得るマトリックスの一部である蛋白質を、Neutrase(登録商標)が分解すると考えられている(Novozymes(登録商標)、2013)。キシラナーゼ、セルラーゼ、およびヘミセルラーゼは繊維性穀物廃棄物の粘度低下に有効であるが、最終的な食品生産物に対して、およびさらなる加工において望ましくない副作用を有することもあり、そのような副作用としては、副産物として糖を産生することが挙げられる。リパーゼ、アミラーゼおよびプロテアーゼも、最終産物に対して望ましくない効果を与え得るが、これらの効果は、キシラナーゼ、セルラーゼ、およびヘミセルラーゼによる効果とは異なり得る。
【0007】
穀物材料の粘度低下に、プロテアーゼの単独使用は従来行われなかった。市販酵素の主要な供給元であるNovozymes(登録商標)は、醸造業に関する公開物において、粘度を低下させる用途に関し、キシラナーゼ類、セルラーゼ類、ヘミセルラーゼ類およびβ-グルカナーゼ類、ならびにα―アミラーゼ類を列挙しており、他方、蛋白質消化による発酵促進の用途にはNeutrase(登録商標)をリストに示している(Novozymes(登録商標)醸造マニュアル、40ページ)。Novozymes(登録商標)は、「オート麦用Neutrase(登録商標)」製品によるオート麦処理用途のNeutraseを市場に出しており、「Neutrase(登録商標)は穏和な加水分解を提供する高品質広域エンドプロテアーゼです。蛋白質溶解性の改善に用いることができます。」と述べている(Novozymes(登録商標)、2021)。Novozymes(登録商標)は、オート麦用Neutrase(登録商標)の作用温度範囲が30~65℃であり、作用pH範囲が6~9であると説明している(Novozymes(登録商標)、2021)。酵素供給元の一つであるBIOCATは、その製品情報シートの中で、中性プロテアーゼL(Neutrase(登録商標)の1つのバージョン)が、「魚またはニワトリからの副成物の粘度を低下させる」ことを開示している(BIOCAT、2019)。BIOCATは、温度範囲が30℃~70℃であり、最適温度は55℃であることを開示している。BIOCATは、pH範囲が5.5~9.0であり、最適pHは6.5であることを開示している。BIOCATは、典型的な加水分解の作用率は用途に依存して異なるが、典型的な範囲としては0.1%~1.0%であることを開示している(BIOCAT、2019)。
【0008】
穀物材料の粘度低下を目的としたプロテアーゼの利用は一般的ではないが、栄養素が分離精製されるプロテアーゼ抽出は、穀物を含む繊維性植物材料からの栄養素収量を増加させる方法として周知である。プロテアーゼ抽出は一般的に、蛋白質内部のペプチド結合を切断するエンドプロテアーゼを含む。しかし、プロテアーゼ抽出中のペプチド結合切断は、蛋白質および他の栄養素の機能性を低下させ得る。例えば、天然蛋白質、または天然状態に近い蛋白質は、より良好な官能特性および発泡能、ならびにその他の特性を有していることがある。
【0009】
蛋白質機能性に対する蛋白質加水分解の効果は、pH、温度、加水分解持続時間、酵素選択、および酵素および基質の濃度を含む加水分解条件に強く依存する(Woutersら、2016)。いくつかの研究は、無損傷蛋白質と比較して、蛋白質加水分解はゲル強度に負の影響をもたらすことを示している(Lamsalら、2007;Fanら、2005;PinteritsおよびArntfield、2007)。
【0010】
味と香りに関して、蛋白質加水分解物は完成品の品質に影響を与える。大豆蛋白質の場合には、加水分解物の豆臭また草味が問題となる(Rackisら、1979;WansinkおよびChan、2001;WansinkおよびPark、2002;DamodaranおよびArora、2013)。さらに、蛋白質加水分解は苦味を誘導することも多い(GuigozおよびSolms、1976;MaehashiおよびHuang、2009)。
【0011】
プロテアーゼ処理は、典型的には酵素活性が最適または最適に近いおおよそ30℃~65℃の温度で実施されるが、これは酵素、酵素供給源および用途に応じて異なり得る。上記で開示しているように、Novozymes(登録商標)は、オート麦(商標)用Neutrase(登録商標)の作用温度範囲が30~65℃、作用pH範囲は6~9であり(Novozymes(登録商標)、2021)、活性の最適温度はおおよそ42℃であることを示している。Novozymes(登録商標)のマニュアルによれば、Neutrase(登録商標)処理の最適pHはおおよそ6であるが、おおよそpH4.3で活性が急激に0に低下する。
【0012】
穀物のNeutrase(登録商標)消化に用いる温度に関して、Conradの米国特許第4,377,602号は、破砕全粒穀物から、プロテアーゼを用いて加水分解産物を調製するプロセスを開示している。Conradのプロセスでは、水不溶性蛋白質を水溶性産物に変換することにより、穀物スラリーから蛋白質および糖を含む産物が生産された。Conradによれば、50℃で1時間後に、全蛋白質が水溶性産物に変換された。これらの条件では、相対的に高度の加水分解および蛋白質変性を伴う産物が得られる。これによって、食感および口当たりが劣る低粘度ミルクが得られた。
【0013】
繊維性物質からの蛋白質およびその他の栄養のプロテアーゼ抽出は有効ではあったが、限界もある。プロテアーゼ処理は、一般的に蛋白質をある程度加水分解するので、無損傷蛋白質がより小型の断片に分解される。これは、蛋白質の機能性に影響を与えることがあり、蛋白質に苦味を与え、またその乳化特性、消化性および粘度に影響を与える。さらに、ブランおよび他の不溶性材料からのプロテアーゼによる抽出は、比較的高温、典型的にはおおよそ30℃~65℃の範囲で実施され、また一般的に長時間にわって実施されることが説明されている。ほとんどの酵素と同様に、プロテアーゼもまた、効果的である時間と温度の最適範囲を有している。ブランからの栄養素抽出に用いるプロテアーゼについては、時間と温度は、典型的には30℃~65℃の範囲および1~24時間の範囲である。
【0014】
Janseの米国特許出願第20150257411号はまた、繊維性米ぬかからの抽出蛋白質に対するNeutrase(登録商標)様プロテアーゼの利用についても開示している。Janseは、一般的に500kDaを超える加水分解物の分子量を維持することを目的として、蛋白質の加水分解度を制限しながら、米ぬかからの蛋白質収量を増加させた。Janseは、米ぬかと共にプロテアーゼを、45℃および65℃でおおよそ1~4時間インキュベートすること、あるいはより好ましくは、インキュベーション温度が48℃~55℃であり、pH7.0および50℃での最適金属エンドプロテアーゼ抽出について説明している。Janseは、請求項に係わるプロセスについて10%~16%の相対的に低い加水分解度(DH)を特許請求した。
【0015】
同様に、Hettiarachchyの米国特許第8,575,310号は、反応条件をpH8.0、50℃で1時間に最適化した、米ぬかからの限定的加水分解プロテアーゼ抽出について説明している。JanseおよびHettiarachchyは、相対的に低い、一般的におおよそ10%~25%のDHについて開示した。Nielsenの米国特許第5,716,801号は、植物由来蛋白質から、味および官能性に関して許容可能な蛋白質加水分解物を生成させるプロテアーゼの利用について開示している。Nielsenは、15~35%のDHについて開示し、55℃で18時間のプロテアーゼ処理について説明しているが、この場合、アルカラーゼ処理のpHが8.5であり、Neutrase処理ではpH7.0が最適である。18時間後に、30%のHClを用いてpHを4.2に低下させることによりプロテアーゼを不活性化させて、蛋白質分解を停止した。
【0016】
「生体活性化合物(イソフラボンおよびペプチド)に富んだ大豆パルプ抽出物を取得するプロテアーゼ技術(Protease technology for obtaining a soy pulp extract enriched in bioactive compounds: isoflavones and peptides)」と題する論文において、Ortsは、通常廃棄物として廃棄される大豆パルプから生物活性成分を抽出するプロセスについて開示ししている(Ortsら、2019)。Ortsは、大豆パルプから蛋白質断片およびイソフラボン類を含む特定栄養素を、プロテアーゼを用いて抽出するプロセスを開発した。Ortsは、55℃でおおよそ2時間の最適プロテアーゼ抽出条件について説明している。
【0017】
Hanmoungjaiらは、「米ぬかから油脂および蛋白質を抽出する酵素処理(Enzymatic Process for Extracting Oil and Protein from Rice Bran)」と題する論文(2001)において、市販のプロテアーゼ(アルカラーゼ)を用いた油脂および蛋白質の酵素抽出法について開示している。Hanmoungjaiは、それぞれ1~3時間および40~60℃の抽出条件について説明している。「小麦ブラン(ふすま)細胞壁の統合性および蛋白質溶解性に対する加水分解酵素の影響(Effect of hydrolyzing enzymes on wheat bran cell wall integrity and protein solubility)」と題する論文(2016)において、Arteらは、蛋白質抽出のために小麦ブラン(ふすま)をプロテアーゼで処理するプロセスについて開示している。Arteは、35℃で3時間の最適化プロテアーゼ処理について説明している。Santo Domingoらは、繊維を抽出する不溶性植物繊維廃棄物のプロテアーゼ処理法について開示している(2015)。Santo Domingoは、40℃で5時間の最適プロテアーゼ条件について説明している。
【0018】
Abdulkarimらは、「ワサビノキ種子油の水抽出において油脂回収を促進する酵素の利用(Use of Enzymes to enhance oil recovery during aqueous extraction of Moringa Oleifera seed oil)」と題する論文(2006)において、ワサビノキ種子から油脂をプロテアーゼ抽出する方法を開示している。Abdulkarimは、pH6.8、45℃で2時間のインキュベーション時間の条件下でNeutraseを用いた最適プロテアーゼ抽出について説明している。
【0019】
植物栄養素のプロテアーゼ抽出に関する総説(2014)において、Yussofらは、従来の最適反応条件について開示している。
【0020】
Ruiらによれば(2009)、酵素的加水分解の最適温度範囲は40~55℃であるため、多くの研究者がこの範囲に入るAEE(水性酵素抽出)温度を利用している。実際には、適切な活性を与える可能な最低温度の利用が好まれることが多い(Passosら、2009)。オリーブの実の場合には、より低い温度である30℃が、特に油脂品質の保持にとって有利な温度であることが明らかになっている(Aliakbarianら、2008;De Faveriら、2008;Ranalliら、2003;Garciaら、2001;Ranalliら、1999)。Grosらはまた、同様の理由で、アマニ油抽出に温度34℃を用いた(2003)。Sharmaらは、油脂収量に対して温度が大きな影響を与えることを報告している(2002);40℃のときに最大落花生油収量が得られるが、温度を37℃に下げると収量は大幅に低下した。
【0021】
Yussofらはさらに(2014)、植物材料から栄養素を酵素抽出する際に、インキュベーション時間がもう一つの限定要因になることを指摘している;より長いインキュベーション時間は、植物材料から抽出する栄養素の品質に悪い影響を与えることがある。
【0022】
Jiangら(2010)、Abdulkarimら(2006)、SantosおよびFerrari(2005)、ならびにDominguezら(1996)によれば、細胞壁成分の分解は、インキュベーション時間の延長によって増強され得る。Passosらはまた、セルラーゼ、プロテアーゼ、キシラナーゼ、およびペクチナーゼの酵素混合物で120時間処理することにより、24時間のインキュベーション時間と比較して3.8%高い収量が得られることを報告した(2009)。しかし、この持続時間(すなわち、120時間)は、実際に許容可能な時間よりもはるかに長すぎるものであり(Passosら、2009)、油脂品質の低下をもたらすことがあり(Jiangら、2010)、エネルギー使用率が高まり、また望ましくない産物の生成が起こる(Abdulkarimら、2006)。
【0023】
Mwaurahらによる総論(2020)では、種子を含む植物材料から油脂を抽出する公知の技術を比較している。酵素抽出に関して、Mwaurahは、「異なる油糧種子から油脂を酵素抽出する場合に、酵素:基質の比が1%~8%であること、40~55℃の温度、およびpH4~8が典型的なものであることが、調査から明らかである」と述べている(Mwaurahら、2020)。
【0024】
Mwaurahによれば、穀物の油脂抽出は蛋白質分解活性に依存し、また蛋白質分解活性は温度およびpHに感受性である。プロテアーゼには温度感受性があるため、Mwaurahは、「いずれの油脂抽出技術においても温度が主要因子の1つである」と説明している。
【0025】
オート麦および大麦などの穀物、ならびにその他のβ-グルカン供給源からβ-グルカンを抽出する目的においては、特にまたプロテアーゼ抽出も用いられている。β-グルカン類は、オート麦および大麦を含む穀物粒、ならびに細菌、真菌、酵母、藻類、および地衣類に含まれている。β-グルカンは、複数の分野、特に機能性食品の分野において利用される。β-グルカンは、特に免疫力およびコレステロール低下に関して医学的利点を有することが明らかになっている。
【0026】
β-グルカンは、穀物粒において細胞壁の重要な構造要素であるが、これら植物産物から抽出することは一般的に困難である。β-グルカン抽出の従来法としては、酸溶液またはアルカリ溶液の利用が挙げられるが、この場合には、β-グルカンポリマーの分解が起こることも多く、それによってその生物活性および健康上の利点が低下する。「β-グルカン類を分解すると考えられるアルカリ/酸による方法を回避するため、一部の研究者は強力な化学溶媒による処理の代替として酵素抽出を導入した」(AvramiaおよびAmariei、2021)。しかし、細胞壁材料からβ-グルカンを抽出するためにプロテアーゼ処理を用いる場合には、一般的に処理時間が長く、また高温が用いられる;例えば、pH10.5および45℃で5時間の細胞壁処理後に、沈降物のアセトンまたはエタノールによる連続洗浄(AvramiaおよびAmariei、2021)。これらの条件は強力な蛋白質分解を引き起こすのであるが、β-グルカン抽出のみが目的である場合には、蛋白質分解は問題としないので、これらの条件は許容可能であろう。植物由来ミルクなどの、天然β-グルカンおよび天然蛋白質の抽出が望ましい用途においては、プロテアーゼを用いるβ-グルカン抽出の従来法は、望ましいものではない。
【0027】
上記で引用した参考文献は、最適条件または従来条件下でプロテアーゼを用いる植物材料からの栄養素抽出が、抽出栄養素の品質にとって有害な影響をもたらし得ることを示している。最適条件または従来条件下でのプロテアーゼ処理は、蛋白質分解を引き起こす可能性があり、蛋白質の機能性を低下させることがある。さらに、従来条件下でのプロテアーゼ処理では、微生物の急速増殖を助長する温度を利用する。さらに、従来のプロテアーゼ反応のインキュベーション条件はリパーゼ活性を促進するので、油脂類の酸化を引き起こし、風味に悪影響を与える。さらに、加熱または標準的プロテアーゼ反応条件下での高DHによって蛋白質構造が変化し得るので、それが蛋白質の機能特性に影響を及ぼす。まとめると、植物材料からの栄養素のプロテアーゼ抽出、特に、植物由来ミルクなどの用途に用いる場合には、より低い温度およびより短いインキュベーション時間が望ましい。
【発明の概要】
【0028】
本開示は、温度、インキュベーション時間およびプロテアーゼ抽出中の蛋白質分解を大幅に低下させることにより、従来のプロテアーゼ抽出技術に関する問題を解決する。本開示は、食品生産物として利用する目的の抽出原材料の栄養品質および機能性品質を保持しながら、破砕した植物材料の繊維性廃棄部分から栄養素を抽出することにより、植物または他の材料からの収量を増加させるプロテアーゼ処理に関するものである。このプロセスは、低温、ならびに抽出中に最小プロテアーゼ活性および最短消化時間を用いることにより、β-グルカンおよび蛋白質を含む抽出原材料の品質保持を達成する。いくつかの実施態様において、本開示のプロセスでは、植物由来または微生物由来のミルクまたは液体の生産に水性湿式粉砕を組み合わせて利用する。本開示のいくつかの実施態様においては、未加工穀物からの総栄養素収量がおおよそ5~10%以上増加し得るものであり、またオート麦中のβ-グルカンを含む特定の望ましい栄養素に関しては、収量が最大でおおよそ80%増加、あるいはそれ以上の増加が見込まれ、それによって最終産物における穀物からの総β-グルカンについておおよそ80%近く、あるいはそれ以上の収量を提供するものである。
【0029】
一実施態様においては、第1の植物由来ミルクを生産するために、オート麦粒を低温で水性湿式粉砕し、濾過する。濾過後に、繊維性スラリーまたは副産物を一次ミルクから分離する。繊維性スラリーは、希釈後であっても材料のメッシュフィルター通過を妨げるような粘度およびテクスチャーを有している。濾過(本明細書中では篩過(sifting)ともよぶこともある)後に、おおよそ40%の総固形物量である繊維性スラリーを総固形物量のおおよそ5~15%に希釈して、短時間の粉砕を行うのであってもよい。一実施態様においては、プロセスを通じて、希釈繊維性副産物または繊維性スラリーは、低温、僅かに0℃より高い温度に維持される。次いで、繊維性スラリーをタンク内に移して、低温で維持してもよい。次に、希釈繊維性スラリーをプロテアーゼ、好ましくは、おおよそ0~5℃の低温で反応するNeutrase(登録商標)または同等品、あるいは微生物トリプシンで処理してもよい。蛋白質分解活性が無視可能または検出不能な低温反応では、蛋白質の天然構造が保護されるので、天然蛋白質の機能性が維持される。
【0030】
意外なことに、繊維性スラリーへのNeutrase(登録商標)の添加によって、粘度の急速かつ大幅な減少が起こる。標準的な使用割合またはそれ以下で添加したNeutrase(登録商標)による粘度低下は、基質繊維性スラリーが低温であることを考慮に入れるならばかなりなものであり、また予想外でもある。いくつかの実施態様においては、10分未満の酵素反応時間の後に、粘度低下は、商業的に採算の合う植物由来二次ミルクを生産するために副産物濾過を可能とするのに充分なものである。酵素処理を行わない場合には、希釈した繊維性スラリーは依然として高粘稠で粘液性であり、実際問題として、植物由来ミルクの生産を含むほとんどの用途において、加工不可能なものである。
【0031】
Neutrase(登録商標)処理後に濾過を行うことによって、二次ミルクを生産する。いくつかの実施態様において、二次ミルクは、穀物原料の総固形物のおおよそ10%を含む。本開示のプロセスが低コストであることを考慮すれば、収量における10%は大幅なものであり、商業的にも妥当な増加である。
【0032】
二次ミルクがパッケージ可能となる前に、プロテアーゼ、またはプロテアーゼに加えて加工に利用したその他の酵素を不活性化するため、まず、加熱処理する必要がある。加熱処理は一般的に、酵素が変性する温度に急速加熱することを含むが、現在対象としている事例においては、その温度はおおよそ75℃~90℃である。酵素不活性化の急速加熱は、不活性化工程における有意なプロテアーゼ活性および蛋白質分解を阻害し、また蛋白質の熱変性ならびに微生物増殖を制限する。一部の実用場面では、酵素不活性化の加熱処理を実施した後に、梱包後の最終産物における微生物増殖を防ぐために第2の熱処理を実施するのであってもよい。
【0033】
加熱不活性化工程において、デンプンのゼラチン化または他の相互作用によって、穀物産物の粘度が一般的に増加する。意外なことに、本開示においては、Neutrase(登録商標)処理繊維性スラリーを酵素不活性化のために加熱することに起因する有意な粘度増加は起こらなかった。デンプン顆粒を含む産物を、デンプンの分子結合破壊を引き起こす温度に加熱すると、ゼラチン化が起こり、それによって水分の吸収と粘度増加が起こる。本開示のオート麦繊維性スラリーにおけるデンプン量は主要なオート麦ミルクと比較して相対的に低いのであるが、ゼラチン化が有意な粘度増加を引き起こし、それによってこのような意外な結果をもたらすのであると予想された。
【0034】
予想とは裏腹に、プロテアーゼ不活性化において大幅な粘度増加が起こらないことは、本開示にしたがう二次ミルクのさらなる処理において重要な意味を有する。一般に、液状化においては、植物由来ミルクにアミラーゼを添加する。典型的には、ゼラチン化中にデンプンを分解するためにアミラーゼが必要であり、それによって粘度を低下させて、産物を液状化させるのである。加工機のパイプを詰まらせることなく、植物由来ミルクを高温加熱処理することが、液状化によって可能になる。
【0035】
Neutrase(登録商標)処理および酵素不活性化後に、熱不活性化した二次ミルクは相対的に低粘度であるため、液状化を目的とするアミラーゼまたは他の酵素を使用することなしに、二次ミルクの完全加工が可能となる。産物にアミラーゼが不要となること、あるいは必要性が減少することは、費用および消費者需要に関して大きな利点を有するものである。粘度低下に用いる他の多くの酵素による処理と同様に、アミラーゼ処理によって糖の生成が起こり、これは一部の産物においては望ましいことではない。アミラーゼ処理はまた、風味に悪影響を及ぼすこともある。さらに、クリーンラベル製品に対する消費者需要の高まりが存在するので、酵素などの成分の除去によって、産物、特にオート麦ミルクのような植物由来産物に対する消費者の印象を改善することができる。
【0036】
いくつかの実施態様においては、オート麦などの穀物から得られる総ミルク収量をおおよそ9~10%増加させ、アーモンドなどのナッツから得られる総ミルク収量をおおよそ5%増加させる。本プロセスは、穀物またはナッツから得られる蛋白質、脂肪、繊維、炭水化物および灰分の収量を増加させる。オート麦などの穀物に関しては、健康上の利点を有することが周知である栄養素であるβ-グルカンが、特に多く繊維性スラリーに含まれている。いくつかの実施態様においては、本開示のプロセスは、一般的にβ-グルカンの天然構造を保ちながら、最大で80%以上β-グルカンの収量を増加させることがある。β-グルカンの天然構造の保持は、この分子の完全機能性および健康上の利点を維持するために重要である。
【0037】
本開示の低温処理はまた、微生物増殖、特に繊維性スラリーのプロテアーゼ処理中の微生物増殖を防ぐ。低温は、プロテアーゼ処理中の蛋白質分解を最小化する、あるいは分解を完全に防ぐ。繊維性スラリーの急速な粘度低下を引き起こす化学的機構は明らかではないが、プロテアーゼ処理後の加水分解度は、意外なことに、事実上ゼロであるか、またはゼロに非常に近いものである。植物原料から得られる収量の増加、微生物増殖の阻止、蛋白質分解および栄養素の構造変化が最少であること、ならびに高温処理中にアミラーゼまたは他の酵素を必要としないことを含む本プロセスの利点は、既存の技術と比較して大幅な改善となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本開示にしたがう、プロセスの一実施態様を示すフローチャートである。
図2】本開示の一実施態様にしたがう、中性プロテアーゼL(商標)の温度に関する相対活性を示すチャートである。
図3】本開示の一実施態様にしたがう、中性プロテアーゼL(商標)のpHに関する相対活性を示すチャートである。
図4】本開示の一実施態様にしたがう、蛋白質サイズおよび加水分解度を示す還元SDS-PAGEゲルを示す。
図5A】本開示の一実施態様にしたがう、蛋白質サイズおよび加水分解度を示す非還元条件下のSDS-PAGEゲルを示す。
図5B】本開示の一実施態様にしたがう、蛋白質サイズおよび加水分解度を示す還元SDS-PAGEゲルを示す。
図6】本開示の一実施態様にしたがう、低温におけるオート麦繊維性スラリーの粘度増加のグラフを示す。
図7】本開示の一実施態様にしたがう、酵素処理後の低温におけるオート麦繊維性スラリーの粘度変化のグラフである。
図8】本開示の一実施態様にしたがう、異なる酵素濃度で中性プロテアーゼL(商標)処理した後の、低温におけるオート麦繊維性スラリーの粘度変化を表すグラフである。
図9】本開示の一実施態様にしたがう、異なる酵素濃度でトリプシン処理した後の、低温におけるオート麦繊維性スラリーの粘度変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本開示の様々な実施態様を詳細に説明する。しかし、そのような詳細な説明は、本開示の理解を容易にする目的であり、また本開示を実施するための例示的な実施態様を説明するためのものである。そのような詳細な説明が、本開示に記載する特定の実施態様に限定するものであるとみなすべきではなく、その理由は、他の変形および実施態様が本開示の範囲内において可能なことによる。本願全体にわたって引用される全ての参考文献、特許および公開特許出願の内容は、参照として本明細書に明示的に組み入れられる。当業者であれば予想するように、異なる実験においては結果に多少の変動があり得る。
【0040】
他で特段に定義されるのでない限り、本明細書で用いる全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって通常理解されるものと同一の意味を有する。本明細書に記載されるものに類似または同等の方法および材料を本発明の実施に用いることが可能であるが、好適な方法および材料について下に記載する。本明細書中で言及する全ての公開物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。矛盾が存在する場合には、定義を含み本明細書が優先する。さらに、それらの材料、方法、および実施例は、具体例を示すことのみが目的であって、限定することを意図するものではない。割合(%)に関する全ての言及は、他に特段の明記がない限り重量に基づくものである。添付図面および下の記載において、1種類以上の本発明の実施態様について詳細に説明する。本発明の他の特徴、目的、および利点については、説明および図面、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【0041】
さらに、本開示の完全な理解のために詳細を様々に示すが、本開示の実施にとって、これら特別な詳細が要件でないことは当業者には明らかであろう。他の例においては、周知の方法、データの種類、プロトコル、手段、処理などの詳細が完全に説明される訳ではない。
【0042】
本開示は、食品生産物としての用途における抽出原材料の栄養品質および機能性品質を保持しながら、破砕植物材料の繊維性廃棄部分または繊維性スラリーから栄養素を抽出することによる、植物材料から得られる収量の増加を目的とするプロテアーゼ処理に関する。本プロセスは、低温ならびに最小のプロテアーゼ活性および抽出における最短消化時間を利用することにより、抽出原材料の品質を保つものである。いくつかの実施態様においては、本開示のプロセスを、植物由来ミルクを生産するための水性湿式粉砕プロセスと組み合わせて用いる。本開示のプロセスのいくつかの実施態様においては、湿式粉砕穀物から得られる総栄養素収量が、おおよそ8~10%増加し得る。
【0043】
本プロセスにより、一次ミルク産物に添加してもよい二次ミルク産物が得られ、それによりいくつかの実施態様においては、総ミルク収量を、オート麦などの穀物でおおよそ9~10%増加させ、またアーモンドなどのナッツでおおよそ5%増加させる。工業用濾過および破砕システムを利用してこのプロセスの商業的利用を成し得る工業環境においては、上記の数値はより高くなり得ると考えられる。本プロセスは、穀物またはナッツから得られる蛋白質、脂肪、繊維、炭水化物および灰分の収量を増加させる。
【0044】
プロセス10の一実施態様においては、図1に示すように、植物由来一次ミルクを生産するために、水性湿式粉砕オート麦粒を低温で濾過する。この工程は、一次スラリーを生成するための冷水中湿式粉砕による、穀物、ナッツまたは種子のサイズ低下を含むが、その後に、得られた一次スラリーをメッシュで篩過する。繊維性スラリー150は、副産物としてフィルター上に残存する。繊維性スラリーを、繊維性副産物または繊維画分とよぶこともある。本開示の処理工程を通じて、繊維性スラリー150は0℃よりも少し高い低温に維持されるのであってもよい。次いで、繊維性スラリー150をタンク内に移して、低温で維持する。次に、希釈繊維性スラリー150または副産物をプロテアーゼ、好ましくはNEUTBで処理するのであってもよい;おおよそ0℃~5℃の低温で反応させるために、このプロテアーゼを希釈繊維性スラリーに添加する。蛋白質分解活性が無視可能または検出不能な低温反応は、蛋白質の天然構造を保護し、それによって天然蛋白質の機能性を維持する。
【0045】
図1に示すように、穀物、ナッツまたは種子であってもよい原料100を、7℃であってもよい冷水102に添加し、原料100のサイズを減少させる目的で破砕または粉砕する104。いくつかの実施態様においては、7℃においてサイズが1mm未満に減少し得る。破砕104によって、原料スラリー106が生成する。濾過後に、一次ミルクから繊維性スラリー150が分離される。この繊維性スラリーは、材料がメッシュフィルターを通過できない粘度とテクスチャーを有している。原料スラリー106は、一次ミルク110画分を分離する目的で、10℃において#60~400メッシュ、またはより好ましくは#80~160メッシュ、またはより好ましくは#100~140メッシュ、またはより好ましくはおおよそUS#120メッシュを通過させる篩過108を行ってもよい。一次ミルク110画分は、繊維性スラリー150画分の主に白いデンプン質の柔らかい内胚乳構成成分に含まれる。
【0046】
この篩過工程によって、一般的に一次スラリー(副産物)の粘稠で粗い不溶性の画分から一次ミルク(濾液)を分離する。本開示においては、篩過は濾過の同義語として用いることもある。一次ミルクは、主に白いデンプン質の柔らかい内胚乳構成成分から成る。粘稠な副産物は主に、繊維蛋白質凝集塊ならびに糊粉層および糊粉下層、またはブラン、および固い透明な内胚乳の部分に由来する構造種子成分から成る可能性が高い。
【0047】
次いで、おおよそ40%総固形物であり得る繊維性スラリーを、冷水でおおよそ5~15%総固形物に希釈し、酵素処理前に短時間撹拌あるいは粉砕するのであってもよい。繊維性スラリー150の原料104の破砕または粉砕、および原料108の篩過は一般的に、蛋白質変性温度よりも低い温度で実施される。篩過原料108から、一次ミルク110および繊維性スラリー150が生成する。
【0048】
いくつかの実施態様においては、公知の方法(その例としては、Mitchellの米国特許第7,678,403号に記載されるものが挙げられる)によって、一次ミルク110を生成および加工してもよい。図1に示すように、一次ミルク110を6℃/分の速度で最高99℃まで加熱112するのであってもよい。その次の工程において、一次ミルク110を71℃に急冷114してもよい。冷却114によって、加工一次ミルク116が生じる。
【0049】
一次ミルク110に加えて、上記のような原料スラリー108の篩過によって、繊維性スラリー150副産物が生成する。いくつかの実施態様においては、主にブラン材料に含まれる繊維性スラリー150を、繊維性スラリー150から栄養素を抽出するための酵素支援抽出に供する。プロテアーゼ処理前に、繊維性スラリー150を希釈してもよい。本開示にしたがうプロテアーゼ抽出154は、プロテアーゼ154を添加することによる繊維性スラリー150の処理を含む;プロテアーゼ154は、いくつかの実施態様においては、細菌または真菌の中性金属エンドプロテアーゼあるいは略称「中性プロテアーゼ」(本明細書中において中性プロテアーゼは、Neutrase(登録商標)または中性プロテアーゼL(商標)の同義語として用いられる)であってもよい。
【0050】
プロテアーゼ抽出に関しては、一般的にはおおよそ0~25℃の冷水152を繊維性スラリー150に添加した後、中性プロテアーゼ154を添加するのであってもよい。次いで、プロテアーゼを含む繊維性スラリー150を低速度で撹拌156してもよい。重要なことは、プロテアーゼについて次善の条件下、すなわち、一般的に既に確率されている作用温度または作用pHの範囲よりも低い温度またはpHで、プロテアーゼ抽出154を実施することである(好ましくは0℃~15℃、またはより好ましくは0℃~5℃)。さらに、いくつかの実施態様においては、繊維性スラリー150からのプロテアーゼ抽出154を短時間実施するのであってもよく、いくつかの実施態様においては、10℃で10分間程度である。
【0051】
上記のように、通常の場合、栄養素のプロテアーゼ抽出は典型的には最適または最適に近いプロテアーゼ活性条件で実施される。しかし、最適プロテアーゼ活性条件は、栄養素および植物ミルク製品を理想的状態に保つことに関しては、最適ではない。より高い温度およびより長いインキュベーション時間では栄養素が分解し、それによってその品質低下が起こる。
【0052】
図2は、BIOCATの中性プロテアーゼL(NEUTB)の活性に対する温度の影響を示している。図2に示されるように、NEUTBは10℃で最小活性であると予想される。このグラフに付随して、BIOCATは、温度範囲は30℃~70℃であり最適温度は55℃であると記載している。図3もまたBIOCATによって公開されているものであるが、pH5.0未満でNEUTBは実質的に不活性であると予想されることを示している。このグラフに付随して、BIOCATは、pHの範囲は5.5~9.0であり、最適pHが6.5であると記載している。Novozymes(登録商標)は、Neutrase(登録商標)の活性に関して類似のデータを公表している。したがって、本明細書中に提示されるデータに基づけば、理論に限定されることなく、厳密に次善の条件下において、抽出を達成し、対応する栄養素収量の増加が起こる、重要な非定型的プロテアーゼ活性が存在するであろうと仮定することができる。この非定型的活性は、プロテアーゼ活性によって大型の蛋白質分子をより小型の分子に加水分解する以外の手段で細胞構造を破壊することを含み得る。
【0053】
図4は、本開示にしたがうプロテアーゼ抽出が、繊維性スラリーのオート麦蛋白質の分子構造に対して高温および低温でもたらす影響を示している。これらの温度条件は、図4のSDS-PAGEゲルに示される試料を処理した条件に対応している;その処理条件は表10に示され、さらに実施例6において詳細に説明される。
【0054】
図5Aおよび5Bは、本開示のプロテアーゼ抽出が、各種条件下で、繊維性スラリーのオート麦蛋白質の分子構造に対してもたらす影響についてさらに示している。表13のデータは、図5Aおよび5Bのデータから取得したものである;図5Aおよび5Bは、本開示にしたがうプロテアーゼ消化オート麦繊維性スラリーの試料をSDS-PAGEに供したものである。被検試料および対照が示されているが、被検試料は各種のプロテアーゼまたはα-アミラーゼによって処理したものを、還元条件下または非還元条件下でSDS-PAGEに供した。レーン162はALKP処理したもの;レーン264はNEUTB処理したもの;レーン391はTRY1処理したもの;レーン527はPAPN処理したもの;レーン650は非酵素対照、およびレーン903はAAMY処理したものである。図5Aおよび5Bのデータは、実施例9においてより詳細に説明されており、そのデータは表13に示されている。加水分解度(DH)を上記に記載した方法で算出し、SDS-PAGEは一般に、本明細書において前記した方法で実施した。
【0055】
図6は、2℃で保存したオート麦繊維性スラリーの経時的な粘度変化を示している。湿式破砕または湿式粉砕および初期メッシュ濾過後では、副産物である繊維性スラリーは、保存中経時的により粘稠になる。図6に示すデータは、2℃で保持したオート麦繊維性スラリーのものであるが、この温度は、本開示のプロテアーゼによる処理の前および処理中に、微生物増殖を回避し栄養素構造を維持するために好ましい温度である。一般に、試験を行った本明細書に記載のプロセスは、粘度がプロテアーゼ添加前にそのプラトーに達するものであったが、その他の実施態様もまた本開示の範囲に含まれるものとみなされる。
【0056】
図7は、2℃でプロテアーゼ処理する前に、繊維性スラリーを2℃で100分間保持してから、各種のプロテアーゼで処理したオート麦繊維性スラリーの粘度変化を示すものである。図7の説明としては:1=NONE709、2=BRML652、3=FLZM137、4=TRY5595、5=AAMY711、6=ALKP270、7=TRY1790、8=NEUTN570、および9=NEUTB352である。図7は、後述の実施例10および表14においてさらに詳細に説明されるより大規模のデータセットのうちの代表的な被検試料を示している。実施例10は、オート麦繊維性スラリーの粘度に対する各種プロテアーゼの影響を開示している。表14は、2℃において各種の酵素で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的な粘度変化を示す。粘度低下は、繊維性スラリーの処理を促進する主要因子であり、一般的に本開示の収量増加に相関する。
【0057】
図8は、2℃でプロテアーゼ処理する前に、繊維性スラリーを2℃で100分間保持してから、異なるプロテアーゼ濃度のNEUTBで処理したオート麦繊維性スラリーの粘度変化を示すものである。図8の説明としては:1=NEUTB0005、2=NEUTB0025、3=NEUTB005、4=NEUTB01、および5=NEUTB05である。図8のデータは、実施例11および表15においてさらに詳細に説明されるが、2℃において、異なる酵素濃度の中性プロテアーゼL(NEUTB)で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化を開示するものである。
【0058】
図9は、2℃でプロテアーゼ処理する前に、繊維性スラリーを2℃で100分間保持してから、異なるプロテアーゼ濃度の微生物トリプシンで処理したオート麦繊維性スラリーの粘度変化を示している。図9の説明としては:1=TRY1005、2=TRY10025、3=TRY1005、4=TRY101、および5=TRY105である。図9のデータは、実施例12および表16においてさらに詳細に説明されるが、2℃において、異なる酵素濃度のTRY1で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化を開示するものである。
【0059】
まとめると、上記のデータは、意外なことに、非常に低い温度および極端なpHにおいて、繊維性スラリー150への特定プロテアーゼ添加によって急速で大幅な粘度低下が起こることを示している。標準の使用割合またはそれ以下で添加してもよいNEUTBによる粘度低下は、基質繊維性スラリー150が低温であることを考慮すれば、顕著なものであり、また予想外でもある。いくつかの実施態様においては、10分未満の酵素反応時間の後の粘度低下は、固有の栄養プロファイルを有する植物由来二次ミルクを生産するために、副産物の濾過を可能とするのに充分なものである。酵素処理を行わない場合には、希釈した繊維性スラリーは依然として高粘稠で粘液性であり、実際問題として、植物由来ミルクの生産を含むほとんどの用途において、加工不可能なものである。
【0060】
意外なことに、本開示のプロセスにしたがえば、繊維性スラリー150に含まれる栄養素の大部分またはかなりの部分を、低温において、本開示で定義されるような次善のプロテアーゼ活性条件または厳密に次善のプロテアーゼ活性条件下で効率的に抽出可能である;ここで、その条件とは、プロテアーゼが最小活性または完全に不活性であると予想される条件である。本開示のインキュベーション温度は、より低い温度が好ましいこともあるが、一実施態様においては、0℃~25℃の範囲であってもよく、ただしその範囲のみに限定されるものではない。低温抽出のインキュベーション時間は、一実施態様においては、1分間~1時間またはより好ましくは、2分間~30分間の範囲であってもよいが、これらのみに限定されるものではない。pH5.0よりも低いpHなど、プロテアーゼ活性に予想される最小pHよりも低いpHでのプロテアーゼ処理はまた、意外なことに、非常に低い温度と組み合わせた場合であっても、繊維性スラリー150からかなりの量の栄養素を抽出した。
【0061】
いくつかの実施態様においては、本開示にしたがうNEUTB処理またはトリプシンによる処理154に起因する2℃での急速な粘度低下によって、商業的加工中の異なる時点で採取した複数バッチの繊維性スラリー150を組み合わせた急速処理が可能になる。本開示のプロテアーゼ処理154において、低温での低インキュベーションの時間は保存可能期間の延長または無菌産物のための高温処理前に、組み合わせバッチを処理する場合に、初期バッチの繊維性スラリー150を保存し、急速な粘度低下を可能にしながら、微生物増殖をも防ぐのである。
【0062】
多くの酵素同様、プロテアーゼもまた1種類以上の反応を触媒し得る。異なる条件では何種類かの二次活性が存在し、主要な酵素活性とは異なる作用温度範囲および作用pH範囲を有する。例えば、多くのプロテアーゼでは、プロテアーゼ活性に加えて、プラステイン形成活性を有することが知られている(Sunら、2021;Xuら、2014)。理論に限定されることなく、Neutrase(登録商標)およびトリプシンが低温および低pHにおいて観察される急速な粘度低下の原因となる二次活性を有することは可能である。
【0063】
プロテアーゼ抽出は、最小から中程度の蛋白質消化/加水分解を伴う。いくつかの実施態様においては、細胞壁多糖などの他の構造種子成分に強固に結合した蛋白質を加水分解し、効果的にかつ完全に解離させるために、プロテアーゼ処理をアミラーゼなどの他の酵素と組み合わせてもよい。任意選択的に、アミラーゼまたはアミラーゼの混合物を繊維性スラリー150に添加することもできる。
【0064】
いくつかの実施態様においては、プロテアーゼ処理154の前に、繊維性スラリー150を1~2倍量の冷水152で希釈してもよい。いくつかの実施態様においては、酵素を不活性化する目的で、繊維性スラリー150を99℃で加熱160してもよく、あるいはいくつかの実施態様においては、6℃/分の速度で75℃~99℃まで加熱してもよい。いくつかの実施態様においては、加熱不活性化は、急速不活性化を目的とする直接的または間接的蒸気処理によるものであってもよい。次いで、処理繊維性スラリー164を生産するために、繊維性スラリー150を82℃に急速冷却するのであってもよい。いくつかの実施態様においては、プロテアーゼが活性である温度範囲で長時間インキュベーションを実施することなしに酵素を実質的に不活性化させるため、加熱160は急速加熱であってもよい。いくつかの実施態様においては、蒸気加熱によってこれを達成するのであってもよく、そのような蒸気加熱としては、蒸気注入または直接的および間接的蒸気加熱が挙げられる。当業者に公知であるような、マイクロ波を含む別の急速加熱法もまた利用可能である。
【0065】
次いで、加工二次ミルク170を生産する目的で、処理繊維性スラリー164を#60~400スクリーンにて篩過166するのであってもよい。加工二次ミルク170は、表中で二次ミルクまたは第2のミルク、および清浄繊維168とよばれることもある。このプロセスで生産される清浄繊維168は、蛋白質および脂肪などのマクロ栄養素を実質的に含まないこともあり、また主に不溶性繊維から成ることもある。清浄繊維168は、本開示のプロセスの副産物であり、食品およびその他の用途において価値があり得る。
【0066】
次いで、組み合わせミルク120または組み合わせミルク産物120を生産するために、加工二次ミルク170を加工一次ミルク116と組み合わせてもよい。あるいは、加工一次ミルク116と加工二次ミルク170ミルクを個別に用いることもできる。
【0067】
本開示のプロセスによる、繊維性スラリー150から得られる加工二次ミルク170は、繊維性スラリーに含まれる蛋白質、脂肪、灰分および炭水化物をかなりの量で含む。繊維性スラリー150における蛋白質、繊維、脂肪および炭水化物の分離は、これらの成分を水に分散させて可溶化を可能とすることによって、収量増加を可能にし、それによって加工二次ミルク170を生成させるのである。さらに、プロテアーゼに起因する粘度低下により、篩過166において栄養物質のメッシュ通過を増加させることが可能となるので、加工二次ミルク170の栄養素収量も増加する。
【0068】
加工二次ミルク170は、加工一次ミルク116と組み合わせることもでき、また個別に用いることも可能である。加工一次ミルク116を加工二次ミルク170と組み合わせる場合には、組み合わせミルク120は、収量が高まり、機能性が増強する場合もあり、また主に穀物の繊維性部分およびナッツの繊維性集塊に存在し得る栄養素をさらに含む。後述する実施例および下に示す表は、Conradが記載するような乳状搾り出し前の蛋白質加水分解プロセスによって、機械的プロセスのみと比較して、オート麦における収量が大幅に改善することを示している。
【0069】
Conradプロセスにしたがって生産される植物由来ミルクは苦い後味を有していたが、本開示にしたがって生産されるミルクには苦味がなかった。さらに、Conradのプロセスで生産される植物由来ミルクは、湿式粉砕による機械的プロセスおよび本開示のプロセスと比較して、発泡能および泡安定性に関する機能性低下が認められた。
【0070】
本開示のプロセスは試験した全ての産物においてミルク収量を改善したが、その効果は特定の材料においてより強力であった。理論に限定されることなく、本プロセスは、大部分の可溶性である低分子量および中程度の分子量の蛋白質を主要ミルク画分に効果的に分離させ、糊粉層および糊粉下層において細胞壁構成成分に強固に結合する蛋白質を二次ミルク中に分離する。したがって、本開示は、全ての粉砕植物材料をプロテアーゼで処理する際の望ましくない影響を最小化しながら、従来技術と比較してミルク収量を大幅に改善するのである。
【0071】
さらに、本開示は、遊離アミノ酸およびペプチドならびに産物において望ましくない官能特性を発現する低分子量蛋白質分子の生成を制限する。本開示は、種子の他の構成成分と反応する一次、二次および三次の反応物質(すなわち、褐色化)を防ぎ得る。さらに、本開示のプロセスは、食品および他の用途に用いることのできる清浄繊維168の副産物を生成させる。
【0072】
本開示のプロセスのさらなる利点としては、抽出の処理時間が短いことが挙げられるが、このことは、工業環境において収益性を高めるものである。さらに、低温および低pHは、加工中の微生物増殖を防ぐ。
【0073】
一実施態様においては、本開示に特に有効な中性プロテアーゼを用いる本開示は、酸化オート麦粒などの低pH基質または高pH基質において有効であり得る。オート麦処理では、より長期に保存されたオート麦は酸化される傾向にあり、そのためより低いpHを有し、pHが完全に1低下することもある。大抵の穀物は生存性であるか、あるいは不活性化穀物において特定酵素が依然として活性であり、穀物のpHを低下させる反応を引き起こす。さらに、様々な理由で処理中にpH調整をすることがあるが、低pHおよび高pHにおける本開示の有効性は、特定の実施態様において有用であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示によって処理し得る老廃物、使用済大麦粒、あるいはより高いpHまたはより低いpHを有する他の老廃物など。
【0074】
いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応に関する有効温度範囲は、0℃から本開示において有効であるプロテアーゼの変性温度の上限までの範囲であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応に関する有効温度は、0℃から本開示において有効であるプロテアーゼの活性範囲上限までの範囲であり得る。
【0075】
いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効温度は次善の温度であり得るが、ここで「次善の」は、蛋白質の供給元による公開物またはその他の公開物において提供される推奨範囲あるいは当業者によって用いられると予想されるような推奨範囲よりも低いことを意味するものと定義する。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効温度範囲は、0℃~80℃、または0℃~70℃、または0℃~60℃、または0℃~50℃、または0℃~40℃、または0℃~35℃、または0℃~30℃、または0℃~25℃、または0℃~20℃、または0℃~15℃、または0℃~12℃、または0℃~10℃、または0℃~9℃、または0℃~8℃、または0℃~7℃、または0℃~6℃、または0℃~5℃、または0℃~4℃、または0℃~3℃、または0℃~2℃、または0℃~1℃であり得る。
【0076】
いくつかの実施態様において、酵素不活性化または微生物減少を目的として、本開示にしたがって用いる材料を意図的に加熱するのではない場合には、これら材料を維持する有効温度範囲は、0℃~50℃、または0℃~40℃、または0℃~35℃、または0℃~30℃、または0℃~25℃、または0℃~20℃、または0℃~15℃、または0℃~12℃、または0℃~10℃、または0℃~9℃、または0℃~8℃、または0℃~7℃、または0℃~6℃、または0℃~5℃、または0℃~4℃、または0℃~3℃、または0℃~2℃、または0℃~1℃であり得る。
【0077】
いくつかの実施態様において、本開示のプロテアーゼ反応の有効pH範囲は、おおよそ3.5~12、またはおおよそ4~12、またはおおよそ4.5~12、またはおおよそ3.5~11、またはおおよそ4~11、またはおおよそ4.5~11、またはおおよそ4.5~10、またはおおよそ4.5~9、またはおおよそ4.5~8、またはおおよそ4.5~7、またはおおよそ4.5~6.5、またはおおよそ5~8、またはおおよそ5~7、またはおおよそ5~6、またはおおよそ6~7、またはおおよそ6~8であり得る。
【0078】
いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~10分間、または2分間~10分間、または5分間~10分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~20分間、または2分間~20分間、または5分間~20分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~30分間、または2分間~30分間、または5分間~30分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~45分間、または2分間~45分間、または5分間~45分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~60分間、または2分間~60分間、または5分間~60分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~90分間、または2分間~90分間、または5分間~90分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、1分間~120分間、または2分間~120分間、または5分間~120分間であり得る。いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効インキュベーション時間は、10秒間~4時間であり得る。
【0079】
いくつかの実施態様においては、本開示のプロテアーゼ反応の有効条件は、限定的な蛋白質加水分解、または本開示において定義するような低加水分解度(DH)を与える条件である;本明細書中で上記に示されるように、加水分解度はまた蛋白質分解係数とよぶこともある。いくつかの実施態様においては、本開示のプロセスにとって充分低いDHは、最終産物の味に顕著な、または大幅な、あるいは負の、または実質的に負の変化を与えることのないDHであるが;ここで味の変化は蛋白質分解に起因する;およびここで、いくつかの実施態様においては、最終産物は植物由来二次ミルクであってもよく、あるいはいくつかの実施態様においては、植物由来一次ミルクと植物由来二次ミルクの組み合わせであってもよく、あるいは二次ミルク、または乾燥させたまたは濃縮タイプの二次ミルク、および他の任意の食品生産物との組み合わせであってもよい。
【0080】
いくつかの実施態様において、本明細書中に定義されるような許容可能DHは、本開示の目的に合わせて、5%未満、1%未満、2%未満または3%未満または4%未満、6%未満、7%未満、8%未満、9%未満、10%未満、11%未満、12%未満、13%未満、14%未満、15%未満であり得る。
【0081】
実施例に開示されるものに加えて、有効であるプロテアーゼ類としては、中性金属プロテアーゼ(クラスM4)が挙げられる。いくつかの実施態様においては、当該技術分野で公知の熱不安定中性細菌プロテアーゼを本開示にしたがって用いるのであってもよい。当業者であれば理解することではあるが、熱不安定とは、相対的に中程度の温度において不可逆性不活性化に対して酵素が感受性であることを意味している。P1=Leu、ValまたはPhe残基と定義される基質切断特異性を有する酵素を用いるのであってもよく、ここでP1は、切断可能結合のN末端側に存在する残基である。好適な熱不安細菌中性プロテアーゼ類としては、Bacillusの複数菌種、特にBacillus subtilisまたはBacillus amyloliquefaciensのものが挙げられる。特定の一局面においては、本発明の方法は、NovoZymes(登録商標)が商標Neutrase(登録商標)として市場に出している中性プロテアーゼ、特にNeutrase 0.5 L、または類似の特性を有する酵素の利用を含む。特定の一局面において、この酵素は、BIOCATが市場に出しているNEUTBであってもよい。いくつかの実施態様においては、金属エンドプロテアーゼ(EC.3.4.24)は、Neutrase(登録商標)またはMaxazyme NNP DS(登録商標)(EC.3.4.24.28;バシロリシン)であってもよい。
【0082】
Neutrase(登録商標)は、プロテアーゼに関してNovozymes Biopharma US社が所有する商標である。Neutrase(登録商標)は、現在Bacillus amyloliquefaciensに由来する(またBacillus subtilisに由来することも公知である)Novozymesの金属プロテアーゼである。NeutraseのCAS番号は9080-56-2である。Neutraseは、主にロイシンおよびフェニルアラニンに特異性を有する(Kunst、2003)。中性プロテアーゼは、中性、弱酸性、または弱アルカリ性の環境において触媒として作用するプロテアーゼの種類を指す。その最適pHは6.0~7.5であり、蛋白質ペプチド結合の加水分解を触媒することができ、アミノ酸またはペプチドを放出する。
【0083】
中性プロテアーゼは、速い反応速度および反応条件に対する広域適合性の利点を有することが多い。Novozymesによれば、動物蛋白質抽出のためのNeutrase(登録商標)は、高品質広域エンドプロテアーゼである。この酵素は穏和な加水分解を提供する。加水分解プロセスにおいて単独で利用されることが多いが、風味上の優れた利点を得るためにエキソプロテアーゼと組み合わせることもできる。利用可能強度(範囲)は、0,8~1,5 AU-N/gである。加水分解作用:さほど強力ではない。ペプチドまたは単一アミノ酸の生成:ペプチド。苦味除去:なし。こくのある風味の生成:あり。作用pH範囲*:6~9。作用温度範囲(℃)*:30~65。品質グレード:食品品質。(https://biosolutions.novozymes.com/en/animal-protein/products/neutrase)。
【0084】
NEUTBは、BIOCAT(9117 Three Notch Road Troy、VA 22974)が提供している (https://www.bio-cat.com/)。BIOCATは、中性プロテアーゼL(NPLまたはNEUTB)が動物および植物の両方の蛋白質加水分解に有用であることを記載している。BIOCATはさらにNPLに関する製品情報ページにおいて、NPLが魚またはニワトリの副産物の粘度低下に有用であることを記載している。BIOCATは、アルカリプロテアーゼ類と比較して苦味の低下した加水分解物を生産しており、NPLは食物グレードであると明言している。製品情報シートによれば、BIOCAT NPLのCAS番号は76774-43-1であり、EC番号は3.4.24.28である。NIHウェブサイトによれば、CAS番号76774-43-1の物質名は、プロテイナーゼ、Bacillus中性と記載されている(https://chem.nlm.nih.gov/chemidplus/rn/76774-43-1)。EC番号3.4.24.28は、Expasy(the Swiss Bioinfomatics Resource Portal at the Swiss Institute of Bioinformatics)において、バシロリシン(Bacillolysin)またあるいは、Bacillusの金属エンドペプチダーゼ、枯草菌中性蛋白質分解酵素およびメガテリオペプチダーゼ(Megateriopeptidase)としてリストされている。触媒される反応は、サーモリシンの反応に類似しているが同一ではないと説明されている。この酵素のバリアントが以下のBacillus菌種に存在することが分かっている:B. subtilis、B. amyloliquefaciens、B. megaterium、B. mesentericus、B. cereus、およびB. stearothermophilus。この酵素は、ペプチダーゼファミリーM4に属する。以前は、EC3.4.24.4であった。NEUTBの活性範囲は、NLT 1,600 AZO/gである。複数の公開物において、NEUTBの供給源がBacillus amyloliquefaciensであると記載されている。NEUTBの形態は液体である。
【0085】
Neutrase(登録商標)(Novozymes(登録商標))およびBIOCATは、Bacillus amyloliquefaciensに由来する中性プロテアーゼ亜群の金属プロテアーゼであり、プロテアーゼのM4サーモリシンファミリーのメンバーである。金属プロテアーゼは二価金属陽イオンの存在に依存し、透析または金属キレート剤によって不活性化し得る。ほとんどの金属プロテアーゼは、結晶形成時の酵素構造において金属結合部位を形成することが、X線結晶解析による研究によって示されている。金属陽イオンは通常Zn2+であるが、またMg2+およびCu2+など、他の金属陽イオンであってもよい。本酵素の活性部位の金属イオンは、EDTAなどのキレート剤によってキレートされ得るが、それによって本酵素は部分的または完全に失活する。この過程は通常可逆性であり、金属イオンを再添加することにより酵素活性が回復し得る。本開示のいくつかの実施態様においては、プロテアーゼは、その供給源に合致する細菌中性金属プロテアーゼまたは真菌中性金属プロテアーゼである。
【0086】
細菌中性プロテアーゼは、市場において最も一般的に用いられる中性プロテアーゼ類であり、特にBacillus subtilisおよびBacillus licheniformisなどのBacillusの産生する中性プロテアーゼが一般的である。細菌中性プロテアーゼの酵素活性は、ほとんどがMg2+、Zn2+、およびCa2+などの二価の陽イオンに依存する。細菌プロテアーゼは、強力な加水分解能、速い反応速度を有し、その加水分解産物は苦味が少ないため、食品産業において広く用いられている。
【0087】
真菌中性プロテアーゼの供給源としては、Aspergillus oryzae、Rhizopus、およびMucorが挙げられる。真菌プロテアーゼの触媒pHは広域である(通常、4~11)。Aspergillus oryzaeは、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、およびアルカリプロテアーゼを産生することができる。真菌プロテアーゼ類の産生は、主に固形発酵によるものである。そのプロテアーゼの活性は主に、金属キレートの影響を受け得る二価の陽イオンに依存する。一般的に、真菌プロテアーゼ類の反応速度および安定性は、細菌プロテアーゼ類と比較して相対的に低い。
【0088】
本開示のいくつかの実施態様においては、特定のトリプシンプロテアーゼが有効であることが示されている。特に、および一般的に、これらには細菌および真菌のトリプシンが含まれる。Aspergillus melleusおよびBacillus subtilisは、本開示の有効なトリプシンの供給源であり得る。細菌および真菌のトリプシンは、キモトリプシンファミリーS1に属するものである。他のトリプシン供給源もまた有効と考えられるので、本開示において有効である細菌または真菌の任意のトリプシンは、本開示の範囲に含まれるものとみなされる。
【0089】
一般的に、本開示の請求項に係わるプロテアーゼは、本開示において列挙されていない他のプロテアーゼと類似または同等の効果を有することがあるが、当業者には公知あるいは認識可能なものであろう。類似または同等の効果を有するこれらのプロテアーゼはいずれもまた、本開示の目的に関して、本開示の範囲に含まれるものとみなされる。
【0090】
いくつかの実施態様において、本開示の有効なプロテアーゼは、他の酵素と組み合わせるのであってもよい。いくつかの実施態様において、これらの組み合わせは、独立に有効である本開示の複数の酵素の組み合わせであってもよい。いくつかの実施態様においては、これらの組み合わせは、独立に有効である本開示のプロテアーゼである1酵素および有効ではない本開示の1補助的酵素を含むものであってもよい。補助的酵素としては、アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、リパーゼ、フィターゼまたはその他の酵素が挙げられる。
【0091】
本開示のいくつかの実施態様においては、処理する材料が植物由来のものではないこともある。いくつかの実施態様においては、処理する材料が汚水であってもよい。いくつかの実施態様においては、処理する材料が肉であってもよい。いくつかの実施態様においては、材料が植物由来食品以外の食品材料であってもよい。いくつかの実施態様においては、材料がペットフードであってもよい。いくつかの実施態様においては、処理する材料がβ-グルカン含有微生物また真菌であってもよい。本願全体で用いられる用語「ミルク」の使用は、産物が食用であるか否かにかかわらず、本開示のプロセスにしたがって生産される任意の液体を含むものとする。
【0092】
いくつかの実施態様においては、本開示のプロセスは、微生物汚染の低減または除去を目的として、プロテアーゼ処理材料の熱処理を含むものであってもよい。いくつかの実施態様においては、熱処理が無菌処理であってもよい。いくつかの実施態様においては、熱処理が超高温処理(UHT)であってもよい。いくつかの実施態様においては、熱処理が低温殺菌に充分な温度であってもよい。いくつかの実施態様においては、熱処理が賞味期限延長(ESL)製品の生産に見合うものであってもよい。
【0093】
いくつかの実施態様においては、酵素不活性化の熱処理は、おおよそ90℃、またはおおよそ85℃、またはおおよそ80℃、またはおおよそ75℃、またはおおよそ70℃であってもよく;ここで、いくつかの実施態様においては、酵素不活性化の熱処理が処理材料を充分に液状化して、パイプまたは熱交換器を含む加工設備の構成要素を詰まらせることなく、微生物の低減または除去を目的として、処理材料を高温加熱処理するのであってもよく;ここで、いくつかの実施態様においては、不活性化させるプロテアーゼは、本開示において有効であることが示されているNEUTBを含む中性プロテアーゼであり;またここで、いくつかの実施態様においては、さらなる処理のために充分な液状化を目的とするα-アミラーゼも必要とせず、かつその他の非プロテアーゼ酵素も必要としない。
【0094】
一実施態様においては、本開示は、β-グルカンおよび蛋白質分子の天然構造の保護を最大化しながら、オート麦および大麦などの穀物粒から、および潜在的に他のβ-グルカン含有生物から、効果的にβ-グルカンおよび蛋白質を抽出するプロセスとみなすこともできる。栄養飲料または植物由来ミルクを生産する目的でオート麦または大麦を湿式粉砕または乾式製粉する公知の方法であって、高粘度繊維性物質が廃棄される方法と比較した場合に、本開示はこの材料を利用して、表8に示すように、穀物からの蛋白質収量をほぼ2倍にしながらも、さらに表11に示すように、穀物からのβ-グルカン収量を2倍超にすることができるのである。本処理では、穀物の繊維性部分から、β-グルカンおよび蛋白質に加えてその他の重要な栄養素をも抽出するのであるが、そのうちの多くがこの材料のみに含まれる栄養素である。二次ミルクはデンプン量が少なく、これは低糖質飲料にとっては利点であり得る。
【0095】
実施例
本開示の実施例に用いた材料および方法については、ここで以下に開示する。
【0096】
繊維性スラリー調製物
繊維性スラリーは一般的に該当する場合には、後述する各実施例について本明細書に記載する方法で調製される。一般に、おおよそ100g、200g、250gまたは300gの穀物、ナッツまたは種子を含む原料を秤量しおおよそ2倍量の氷冷水(すなわち、400mL/200g穀物)で洗浄して、濾過器(ストレイナー)で水気を切った。
【0097】
洗浄した原料を、湿式ブレードを備えた64ozバイタミックス(登録商標)ブレンダーカップModel VM0135(バイタミックス(登録商標)社、クリーブランド、オハイオ州、米国)に入れた。この洗浄原料に対して、4倍量の氷冷水(すなわち、765g/200g原料)、計算量のCaCl2、CaCO3、および/またはα―アミラーゼ(DSM、パーシッパニー、ニュージャージー州、米国)をブレンダーカップに添加した。次いで、バイタミックス(登録商標)TurboBlend 4500(Model VM0197、バイタミックス(登録商標)社、クリーブランド、オハイオ州、米国)を用いて高速(10/10設定)で2分間、混合物を混和した。
【0098】
5.5インチx3.75インチの直線縁プラスチック製ボウルスクレーパーを用い、US#120メッシュスクリーンによる一次スラリーの濾過を行った。スクリーン表面上を30°~40°の角度で円運動するようにスクレーパーを動かすことによって、ミルクの大部分が濾過されたが、最終的に副産物の固形物含量がおおよそ35%になるまで副産物からミルクを搾り出す目的で、スクレーパーを倒して平らに穏やかな圧力を繊維に加えた。一部の実験では、異なるスラリーのそれぞれの必要に応じて、洗浄、混和および篩過を含む乳状搾り出しプロセスを反復した。いくつかの実施態様においては、オート麦の場合に、乾燥材料を基準として一次ミルクの収量がおおよそ67%と算出された。
【0099】
おおよそ125グラムの繊維性スラリー(すなわち、200グラムのオート麦粒から得られたもの)に対して、300mL(初期穀物重量に対して1.5倍量)氷冷水を添加した。このスラリーミックスをバイタミックス(登録商標)ブレンダーカップに戻し、バイタミックス(登録商標)TurboBlend 4500を用い、高速(10/10)で30秒間混和した。
【0100】
いくつかの実施態様においては、例えば、希釈混合した繊維性スラリーは、総固形物(すなわち、オート麦)をおおよそ10.8%含んでいた。いくつかの実施態様においては、400mL(初期穀物重量に対して2倍量)の氷冷水を加えた。いくつかの実施態様においては、おおよそ8%の総固形物を有する希釈繊維性スラリーに2倍量の水を添加した。
【0101】
酵素活性に対するpHの影響および繊維性スラリーの粘度変化を判定するいくつかの実施態様においては、冷蔵庫(1.7℃)で100分間保持する前に、混和スラリーに無水クエン酸または50%KOH溶液を加えることによって、繊維性スラリーのpHを調整した。
【0102】
このスラリーをビーカーに入れ覆いをして、さらにテクスチャー、粘度およびその他の分析を実施するまでの間、冷蔵庫(1.7℃)内で100分間静置した。
【0103】
酵素不活性化
一部の場合においては、一次ミルクの酵素不活性化は、他に特段の明記がない限り、一般的に、15~20分間の範囲で水浴から77℃へと加熱した後、電子レンジで沸騰まで加熱することにより実施した。あるいは、一部の場合においては、Nuova Simonelli Appia II V GR1を用いて高圧蒸気を注入して1分間80℃にした後、電子レンジで沸騰まで加熱することにより、酵素を不活性化した。
【0104】
処理繊維性スラリーの濾過
繊維性スラリーのプロテアーゼ処理後に、一次ミルクを濾過する上記と同様の方法により、処理繊維性スラリーをメッシュ濾過した。
【0105】
テクスチャー分析
テクスチャー分析は一般的に該当する場合には、後述する各実施例について本明細書に記載する方法で実施した。繊維性スラリーはウォークイン冷蔵庫で100分間(穀物またはナッツスラリー)または30分間(鶏皮スラリー)保存した後、アクリル製バックエクストルージョンカップ(25mm(内径)x100mm高、Texture Technologies社、サウスハミルトン、マサチューセッツ州、米国)に入れる前に、ハンドヘルド型ブレンダー(Oster、PN:181439 Rev B)を用いて、1/lowに設定した速度で10秒間混和した。
【0106】
百五十グラム(150g)の繊維性スラリーをアクリル製バックエクストルージョンカップに入れた。アクリル製バックエクストルージョンカップ中の百五十グラム(150g)の繊維性スラリーは、その高さがおおよそ72mmであった。
【0107】
総固形物、酵素添加前のpH、および粘度を測定した。
【0108】
テクスチャー分析のために、試料の入った押し出しカップを1.8℃の氷水浴に置いた。次いで、試験開始前に、予め計算した量の酵素をスラリーの上部右側に添加した。鶏皮実験の場合には、温水浴(49℃)または湯浴(60℃)を用いた。
【0109】
粘度変化測定中に圧縮と撹拌を行うために、40mmのディスク(Texture Technologies社、サウスハミルトン、マサチューセッツ州、米国)を備えるバックエクストルージョン構成を用いた。
【0110】
オート麦繊維スラリーの圧縮力を測定するために、Texture Technologies社(サウスハミルトン、マサチューセッツ州、米国)のExponent Connectバージョン8.0.7.0.ソフトウェアで操作するTA. XTPlus Cテクスチャーアナライザーを用いた。
【0111】
5kgの鉛製セルを用いて、20mm/秒の速度で70mmから5mmにオート麦スラリーを圧縮する最大力を測定した。最大200サイクルまで継続してデータを収集し、各ピークのピーク圧縮力を測定することによって、酵素処理による粘度の速度と変化に関する知見を得た。
【0112】
生データから、各サイクルのピーク圧縮力のみを抽出して、さらなる分析に用いた。
【0113】
オート麦の副産物スラリーに関しては、スラリーの粘度がおおよそ最大100分間連続的に増加することが観察された(図5)。そこで、ウォークイン冷蔵庫(1.7℃)で100分間、スラリーを保存した後に、テクスチャーアナライザーを用いた穀物/ナッツ副産物スラリーのテクスチャー変化測定を実施した。各酵素を試験するために、穀物/ナッツから新鮮スラリーを調製し100分間保存した;適切な試験パラメーターを用いて、テクスチャーアナライザーでテクスチャー変化を測定した。
【0114】
テクスチャー分析に関して、いくつかの実施態様においては、保存されたスラリーは、穀物およびナッツスラリーでは100分間ならびに鶏皮スラリーでは30分間、ウォークイン冷蔵庫内で保存したが、蛋白質単離物および濃縮物スラリーについては、一晩の保存を行った。
【0115】
粘度測定
粘度測定は一般的に該当する場合には、後述する各実施例について本明細書に記載する方法で実施した。氷水浴あるいはウォークイン冷蔵庫で1~2℃に冷却した穀物/ナッツ副産物スラリー、鶏皮スラリー、およびミルク状基材をビーカーに移し、これを1.7℃の氷水浴に置いて浴内に10分間静置し、試料を氷浴温度に平衡化させた。氷浴温度をモニターし、水または氷を加えることによって一定温度に維持した。
【0116】
試料の氷水浴から一度に一つずつ試料ビーカーを取り出し、粘度計の下で1.7℃に維持した別の氷水浴中に置いた。次いで、試料チューブを氷水浴に漬けながら、#3、#4または#5の円板型プローブを備えたBrookfie ld RVT シリーズ粘度計(Brookfield Engineering Laboratories社、ミドルボロ、マサチューセッツ州)により、試料ミックスの粘度を測定した。粘度計の速度は50rpmまたは100rpmのいずれかであり、粘度計の製造元の提供する表を基に、粘度をセンチポイズ(cPs)に変換した。データ読み取りを3重で繰り返すことによりデータ収集し平均して粘度値を得た。
【0117】
試料間の変動を最小化し、冷蔵試料をより高い温度(すなわち、室温、21℃)にするための初期加温(ウォーミングアップ)中の粘度変化、特に速度変化を最小化するために、粘度測定は氷水浴中1.7℃で行った。
【0118】
ミルクおよびその他の製品の官能性評価
おおよそ30mLのミルクまたはその他の製品に3桁のランダム数を割り当て、3オンスのSoloカップに入れた。品質9段階評価を用いて、専門家パネル構成員がミルクおよび産物の全体的品質を評価し格付けした。
【0119】
最低品質:悪臭、苦味、酸味、塩気が強い、渋み、喉がイガイガする、黒ずんでいるまたは色が異なる、ネバネバする、食感がねっとりしているなど、多くの異臭および味覚の面で非常に非許容性である。さらに、これは、甘みが少ないまたは甘みがない、意図する風味の欠如(すなわち、オート麦ミルクにおけるオート麦臭)を有する試料を含む。中程度の品質:許容可能でもなく、非許容性でもない。最高品質:異香がなく、意図する風味の程度が高い、甘み、口当たりのレベルが適正であり、良好な色で非常に許容性が高い。
【0120】
試料間で、パネル構成員は蒸留水、無塩ソールティーンクラッカーで口蓋洗浄を行い、前回の試料評価で残留する異香がなく口蓋が清浄になるまで最短でも3分間待機した。
【0121】
一部の場合においては、品質9段階評価を用いて官能特性を評価した。スコアの1は、多くの異香および低品質を有する最低品質の産物を示し、他方、最高品質の産物に与えられるスコアの9は、異香がなく、意図する風味の程度が高く、甘みおよび口当たりが所望のレベルであり、また良好な色を有する。
【0122】
蛋白質単離物および蛋白質濃縮物の分析
分析に用いる蛋白質単離物および蛋白質濃縮物は、修飾を行わずに用いた。適当量の蛋白質粉末および氷冷水を秤量して、おおよそ10%または20%の固形スラリーを作成した。Vita-Mix TurboBlend 4500を高速度(10/10の設定)で用いて、上記の水と蛋白質粉末のミックスを2分間混和/混合した。このスラリーをウォークイン冷蔵庫(1.7℃)に一晩(最小16時間)置いて、蛋白質を完全に水和させた。
【0123】
蛋白質加水分解度(DH)
蛋白質加水分解度または蛋白質分解係数(CPD)は一般的に該当する場合には、後述する各実施例について本明細書に記載する方法で測定した。Ohaus MB90モイスチャーアナライザー(パーシッパニー、ニュージャージー州)を用いて、またNDA 701 Dumas窒素分析計(Velp Scientific社、ボヘミア、ニューヨーク州)を用いたDumas法で、変換因子に6.25を用いて、試料の総固形物および蛋白質含量を測定した。
【0124】
蛋白質濃度が4mg/mLになるように、試料を希釈した後、等容のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)試料緩衝液(2-メルカプトエタノール(2-ME)を含む、または不含)に溶解して、沸騰水で3分間加熱した。
【0125】
試料を室温に冷却した後、溶液を2000xgで5分間遠心分離して非蛋白質粒子を除去した。
【0126】
購入したバイオラッド(ハーキュリーズ、カリフォルニア州、米国)のプレキャストゲル、また確立された方法に基づいて調製したSDS-PAGEゲル(分離ゲル:12%アクリルアミド;スタッキングゲル:5%アクリルアミド)を用いた。SDS-PAGE分析を実施した第三者実験室が開発した手段を用いて、電気泳動を行った。
【0127】
分子量標準は、Sigma-Aldrich社から購入した。全ての化学試薬および有機溶媒は、Sigma-Aldrich社から購入した。個々の蛋白質バンドは、デジタル化分析ソフトウェアを用いてSDS-PAGE画像から定量(画素および%)した。
【0128】
オート麦ミルクの加水分解度は、2-メルカプトエタノールを含む還元条件下のSDS-PAGEゲルにおける、25kDa未満の分子量を有するペプチドの量的相対量変化(%増加)に基づいて判定した。
【0129】
物質の計算
材料の測定値はいずれも、他に特段の明記がない限り乾燥材料を基準(DSB)として計算した。
【0130】
泡品質
泡品質は一般的に該当する場合には、後述する各実施例について本明細書に記載する方法で測定した。pH測定した最終的なミルクに蒸留水を添加することによって、10%固形ミルクとなるように希釈し混和した。
【0131】
百グラム(100g)の各ミルクをNespressoミルク泡立て器(Nespresso USA社、ニューヨーク、ニューヨーク州)に入れ、発泡させた。
【0132】
温かい発泡試料を400mLの目盛り付きビーカーに入れた後、泡の容積と品質を観察して記録した。
【0133】
泡/液体の容積および泡の品質から、その泡品質を1~5に格付けした。
(1)低品質の泡:発泡後のミルク/泡ミックスの容積が100~120mLで、気泡サイズが大きく急速に消失する。
(2)平均より劣る:発泡後のミルク/泡ミックスの容積が120~150mLで、気泡サイズが大きく急速に消失する。
(3)平均:発泡後のミルク/泡ミックスの容積が125~175mLで、大型の微細気泡の混合を伴い、中等度の速度で消失する。
(4)平均より優れる:発泡後のミルク/泡ミックスの容積が150~200mLで、ほとんどが微細気泡でゆっくりと消失する。
(5)優良:発泡後のミルク/泡ミックスの容積が200mL超であり、ほとんどが微細気泡でゆっくりと消失する。
【0134】
材料
本開示に用いた材料を、ここで以下に列挙する。
【0135】
アルカリプロテアーゼ(Bacillus licheniformis)、ブロメライン(Ananas comosus、パイナップル)、真菌プロテアーゼA(Aspergillus niger)、真菌プロテアーゼA2(Aspergillus niger)、真菌プロテアーゼHU(Aspergillus oryzae)、中性プロテアーゼL(登録商標)(Bacillus amyloliquefaciens)、Opti-Ziome NPL a.k.a.中性プロテアーゼ(Bacillus subtilis)、OPTI-Ziome Pro-ST、パパイン(Carica papaya(Papaya)、プロテアーゼAM(Aspergillus melleus)、微生物トリプシン(Aspergillus melleusおよびBacillus subtilis)、およびキシラナーゼ(Trichoderma longibrachiatum)は、Bio-Cat(トロイ、バージニア州)から取得した。細菌アミラーゼは、DSM(パーシッパニー、ニュージャージー州)から購入した。α-キモトリプシン(ウシの膵臓)、カルボキシペプチダーゼA(ウシの膵臓)、プロテイナーゼK(Tritirachium album)、サーモリシン(Geobacillus stearothermophilus)、トリプシンI型(ウシの膵臓)およびトリプシンII型S(ブタの膵臓)は、MiliporeSigma(バーリントン、マサチューセッツ州、米国)から購入した。フレーバーザイム(Flavourzyme)(Bacillus licheniformisおよびamyloliquefaciens)およびNeutrase(Bacillus amyloliquefaciens)は、Novozymes(フランクリントン、ノースカロライナ州、米国)から取得した。炭酸カルシウム(CaCO)は、Specialty Minerals社(アダムス、マサチューセッツ州)から購入した。クエン酸無水物は、Fisher Chemical (フェアローン、ニュージャージー州)から購入した。塩化カルシウム(CaCl)は、Avantor Performance Material社(センターバレー、ペンシルバニア州)から購入した。水酸化カリウム(KOH)は、Mallinckrodt Pharmaceuticals(ハンプトン、ニュージャージー州)から取得した。ひよこ豆蛋白質単離物(Plantec、項目SP24000)は、Socius Ingredient LLC(エバンストン、イリノイ州、米国)から取得した。エンドウ豆蛋白質(Puris 870MV)は、World Food Processing LLC(タートルレイク、ウィスコンシン州、米国)から取得した;また、80%単離物(YPVCP-80C)は、Yantai T Full Biotech社(招遠市、山東省、中国)から取得した。
【0136】
表1は、本開示に用いた酵素(略称、供給業者およびさらなる情報を含む)のリストを含む。
【0137】
【表1】
【0138】
実施例1
実施例1に関して、表1~3に示すように、具体的には、200gの各種植物材料を1倍量の氷冷水で洗浄し用手的に混ぜ、濾過器(ストレイナー)で水切りをした。さらに2回、洗浄を繰り返した。植物材料を、ブレンダーカップ(バイタミックス(登録商標))に入れた。600~800mLの氷冷水、100~400マイクロリットルのα―アミラーゼ(AAMY、DSM)、60mgのCaClおよび100~200mgのCaCOを加えた。この混合物を高速(10/10設定)で2分間混和して、一次スラリーを生成させた。
【0139】
一次スラリーを#100または#120のメッシュスクリーンで濾過し、繊維性スラリー副産物から一次ミルクを分離した。一次ミルクに覆いを掛けて冷蔵庫に保存した。繊維性スラリー部分はブレンダーカップに移した。繊維性スラリーに、333mL~400mLの冷水(2℃)および66mgの中性プロテアーゼL(NEUTB、BioCat)を加えた。この混合物を高速(10/10)で30秒間混和し、冷蔵庫(2℃)に0.5~1時間静置した。
【0140】
プロテアーゼおよびスラリーミックスの冷蔵後に、50~200マイクロリットルのα―アミラーゼ(AAMY、DSM)を添加した(いくつかの実施態様においては、アミラーゼは任意選択的である)。一次ミルクおよび処理繊維性スラリーを個別に水浴に配置して、15~20分間(約6℃/分)かけて76.7℃まで加熱した後、酵素を不活性化するため、電子レンジでさらに加熱して沸騰させた。水浴で一次ミルクを71℃に冷やし、水浴(60℃)で温かい状態に保った。オート麦の場合には、200gの穀物および800gの水から、おおよそ775グラムの一次ミルクを回収し、この一次ミルクの固形物含量は15%であった(残りの225gは、繊維性スラリー副産物に含まれていた)。この計算によれば、収量は約58%であった。さらなる洗浄および破砕サイクル(図1の108)によって結果が変わることもあるが、さらなる洗浄および破砕サイクルによって時間とエネルギーが増加してコストが増すので、実際面では望ましくない。本開示のプロセスは、さらなる洗浄および破砕サイクルの必要性を減らし効率を改善する。
【0141】
繊維性スラリーを82℃に冷やし、#100または#120のメッシュスクリーンによって濾過した(洗浄)。洗浄した繊維性スラリー部分に、さらに333mLまたは400mLの冷水を加えて、この混合物を30秒間混和した。混和した混合物を#100または#120のメッシュスクリーンによって濾過し、二次ミルクを調製した。オート麦の二次ミルクについては、機械的プロセスにより200gの穀物から得られた量が640グラムであり、ミルク中の固形物は5%であった。オート麦の二次ミルクの場合には、中性プロテアーゼL(NEUTB)処理プロセス(本発明)により200gの穀物から得られた量が600グラムであり、ミルク中の固形物は8%であった。(確認が必要/相談しましょう)。(不活性化のための加熱により、蒸気蒸発で水分が失われて以前の試料640gに対し600gとなった)。
【0142】
得られた二次ミルクを一次ミルクと混合した。60℃のこの組み合わせミルクを、GEA Niro Sovavi(登録商標)ホモジナイザーを2000 PSI(第1段目で1500psi、第2段目で500psi)を用いてホモジナイズしてから、冷蔵庫に置いた。ホモジナイズしたミルクのpHおよび総固形分含量を測定した。ミルクおよびミルク含有最終製品(バリスタ類、コーヒーフレッシュ類およびラテ類(表5)を含む)の官能特性およびその他の機能特性について、表4に示すような評価を行った。メッシュスクリーンに残存する繊維画分を乾燥皿に入れて、オーブンの中で93.3℃にて乾燥(水分含量10%未満)するまでおおよそ16時間の乾燥を行った。
【0143】
【表2】
【0144】
表2は、オート麦ミルク搾り出し処理プロトコルおよびミルク収量について開示している。繊維性スラリーは上記の方法で調製した。被検試料1および2は、機械的プロセスのみを用いて調製した。被検試料2および3には酵素を添加し、分離は行わなかった。被検試料5および6には酵素を添加し、分離を実施した。測定値は、初期原料重量に基づいて算出した。収量は乾燥物質に基づいて測定した。
【0145】
【表3】
【0146】
表3は、ひよこ豆の豆乳化処理プロトコルおよびミルク収量について開示している。繊維性スラリーは上記の方法で調製した。被検試料1および2は、機械的プロセスを用いて調製した。被検試料2および3には酵素を添加し、分離は行わなかった。被検試料5および6には酵素を添加し、分離を実施した。測定値は、初期原料重量に基づいて算出した。収量は乾燥物質に基づいて測定した。
【0147】
【表4】
【0148】
表4は、アーモンドミルク搾り出し処理プロトコルおよびミルク収量について開示している。繊維性スラリーは上記の方法で調製した。被検試料1および2は、機械的プロセスを用いて調製した。被検試料2および3には酵素を添加し、分離は行わなかった。被検試料5および6には酵素を添加し、分離を実施した。pH5.11のホットコーヒーで評価したオート麦コーヒーフレッシュ。バリスタ基礎原料を発泡剤中で評価した。バリスタベースおよびコーヒーで作製したアーモンドラテ。測定値は、初期原料重量に基づいて算出した。収量は乾燥物質に基づいて測定した。
【0149】
【表5】
【0150】
表5は、搾り出しミルク状基材から調製したミルクおよび産物の官能特性および機能特性について開示している。繊維性スラリーは上記の方法で調製した。被検試料1および2は、機械的プロセスのみを用いて調製した。被検試料2および3には酵素を添加し、分離は行わなかった。被検試料5および6には酵素を添加し、分離を実施した。pH5.11のホットコーヒーで評価したオート麦コーヒーフレッシュ。バリスタ基礎原料を発泡剤中で評価した。バリスタベースおよびコーヒーで作製したアーモンドラテ。
【0151】
実施例1は、プロテアーゼによる繊維性スラリーからの栄養素回収は10℃未満で顕著であり、一部の場合に、本開示のプロセスによって官能特性を改善することが可能であることを示している。
【0152】
実施例2
表6に示すように、本開示の方法によるオート麦ミルクの収量増加能に関して、異なる群に属する酵素について繊維性スラリーを用いて試験した。次善の酵素活性温度である10℃で、プロテアーゼ、アミラーゼおよびキシラナーゼを試験した。α―アミラーゼ(AAMY)、中性プロテアーゼL(NEUTB)およびキシラナーゼ(XYL)をα-アミラーゼのみの対照と比較した。表6は、その最適活性温度(10℃)よりも低い温度における、各種酵素で処理した繊維性スラリーから得られるオート麦ミルクの回収を示している。
【0153】
対照については、200gのオート麦粒を氷冷水で3回洗浄して水切りをした。800mLの氷冷水と共に洗浄穀物をブレンダーカップ(バイタミックス(登録商標))に入れ、100μlのα-アミラーゼ(DSM、AAMY)、60mgのCaClまたは100mgのCaCOを加えた。この混合物を高速度(10/10設定)で2分間混和して一次スラリーを調製した。対照は水で3回洗浄した。この対照試料は、被検試料において用いた湿式粉砕および機械的抽出処理を実質的に再現するものであった。
【0154】
被検試料1においては、さらにα―アミラーゼを60mgのまたは初期穀物重量の0.03%で試料に添加した。被検試料2においては、中性プロテアーゼL(BIOCAT)を66mgまたは初期穀物重量の0.033%で試料に添加した。被検試料3においては、キシラナーゼ(XYL、BIO-CAT)を66mgまたは初期穀物重量の0.033%。
【0155】
被検スラリーを時々撹拌しながら、10℃の冷水浴で2時間インキュベートした。2時間のインキュベーション後に、スラリーを水浴中で15~20分間かけて79.5℃まで加熱してから、さらに電子レンジで加熱して沸騰させた。この加熱繊維スラリーを熱い状態、おおよそ82℃で、US#120のメッシュスクリーンを用いて濾過することにより洗浄した。これを400mLの水で再び洗浄しバイタミックス(登録商標)と30秒間混和した。一次ミルクに二次ミルクを加えた。洗浄後副産物の繊維部分を廃棄した。ミルク中の総固形物の量を測定して記録し、ミルク総収量を算出した。
【0156】
【表6】
【0157】
上記のように繊維性スラリーを調製した。対照試料では、抽出に機械的プロセスのみを用いた。酵素の略称は別の表にリストを示している。
【0158】
実施例2は、10℃における繊維性スラリーの中性プロテアーゼおよびアミラーゼによる組み合わせ処理による収量増加が高いが、他方、同一条件下でアミラーゼ単独、またはキシラナーゼと組み合わせたアミラーゼによる処理では、収量増加が相対的に低いことを示している。
【0159】
実施例3
一方、実施例3においては、異なる次善の活性温度において、アミラーゼ非存在下で中性プロテアーゼ処理のみで試料を試験した。インキュベーション時間もまた変化させた。表7に示すように、おおよそ4℃、7℃および10℃で試料をインキュベートした。
【0160】
【表7】
【0161】
繊維性スラリーは上記の方法で調製した。対照試料では、抽出に機械的プロセスのみを用いた。乾燥物質に基づいて、重量%を測定した。初期穀物重量の0.173%に相当する34mgのNEUTB(BIOCAT)を被検試料1に添加した。被検試料2、3および4では、初期穀物重量の0.033%に相当する66mgの中性プロテアーゼL(BIOCAT)を用いた。表6に示すように、時々撹拌しながら、被検試料スラリーを異なる温度で異なる時間インキュベートした。
【0162】
実施例3は、繊維性スラリーにNEUTBを添加することによって、異なる温度変化、異なる中性プロテアーゼLの量および異なるインキュベーション時間を含むあらゆる試験条件下において、収量が大幅に増加したことを示している。上記で認められるように、4.4~10℃の温度では、インキュベーションが数分間以内で繊維性スラリーの粘度が急速かつ大幅に低下した。繊維性スラリーの加熱では粘度が増加せず、濾過によって二次ミルクが繊維性スラリーから容易に分離された。被検試料3(66mgのNEUTB、10℃、および60分間)から得られた繊維スラリーが最も乾燥しており、粘液性質感が最も少ないことが示された。
【0163】
異なる酵素濃度、異なる温度および異なるインキュベーション時間で、NEUTBは繊維性スラリーの粘度低下に有効であった。非常に低いインキュベーション温度(4.4℃)および短いインキュベーション時間(10分間)の収量増加は、対照試料よりも大幅に高かった。
【0164】
実施例3によれば、表7の試験4の列に示されるように、10℃で10分間の中性プロテアーゼL処理を用いた本開示のプロセスによって、表6に示すように、オート麦粒の総固形物のおおよそ7~8%、収量が増加した。10℃で1時間の本開示のプロセスによって、総固形物のおおよそ9~10%の収量増加が得られる。
【0165】
実施例4
表8に示されるように、酵素活性pHよりも低いpHおよび低温(10℃)でNEUTB処理した繊維性スラリー収量を評価した。NEUTBのプロテアーゼ活性以外の活性が、収量に対する本開示の効果に関与し得るか否かについてさらに調べるため、おおよそ4.96~5.3のpHで本プロセスを実施した。この試験の結果を表8に示す。酵素供給元であるBIOCATによって提供され公開されている(図3に示される)酵素活性曲線を考慮に入れるならば、pH4.5では、NEUTBは不活性または最小活性であると予想される。表7に示す低pH9および低温の組み合わせでは、NEUTBは本質的に不活性である。
【0166】
【表8】
【0167】
繊維性スラリーは上記の方法で調製した。対照繊維性スラリーにはα-アミラーゼを添加し、他方、被検試料には中性プロテアーゼL(NEUTB)を添加した。
【0168】
インキュベーション終了後、被検試料2のpHは5.3であった。NEUTBを含むスラリー(試験1および試験2)では、添加から数分後に大幅な粘度低下を示した。pH未調整NEUTB試料(試験1)における粘度低下は、pH調整試料(被検試料2)よりも急速であった。しかし、α-アミラーゼ添加試料(対照)では、粘度低下が認められなかった。さらに、NEUTB処理試料(試験1および試験2)では、インキュベーション中に繊維の分離と沈降が認められた(上部にミルクの分離が認められた)。NEUTB処理繊維性スラリーでは、スラリーの均一度が低下し、より白色の上層とより暗調な下部層を有するようになった。一方、α-アミラーゼ処理した繊維性スラリーでは、均一性および同一色を維持した。この効果はNEUTB処理産物の濾過し易さに相関するが、その理由は、産物の分離に機械力をほとんど必要としないということである;重力のみで産物の充分な濾過が可能である。いくつかの実施態様、特に商業的実施態様においては、機械式連続篩器によって濾過を実施してもよい。本開示のNEUTB処理を用いる場合には、繊維性スラリーを濾過するために篩器を必要とする時間およびエネルギーを削減し得る;あるいは、一部の場合においては、機械式連続篩器が不要になる。
【0169】
実施例4は、プロテアーゼ活性を阻止する、あるいは強く阻害すると考えられるpHおよび温度の条件下であっても、栄養素抽出能が高いことを示している。アミラーゼ対照試料における収量は、繊維性スラリーの総固形物の40.36%であった。NEUTB処理試料における収量は、被検試料1および2において、繊維性スラリーのそれぞれ52.88%および49.81%であった。
【0170】
実施例5
表9は、酵素活性pHよりも低いpHおよび低温(10℃)における、NEUTB処理繊維性スラリーから得られるミルク状オート麦の回収を示している。NEUTBにおけるプロテアーゼ活性以外の活性が観察される収量増加に関与し得るか否かについてさらに調べるため、おおよそ4.5のpHで本プロセスを実施した。pH4.5では、図3から分かるように、中性プロテアーゼは不活性または最小活性であると予想される。低pHおよび低温の組み合わせは、理論的には中性プロテアーゼを不活性化するはずである。
【0171】
【表9】
【0172】
繊維性スラリーは上記の方法で調製した。表8において、ミルク収量(%)は、二次および一次ミルクの組み合わせではなく、二次ミルクに取り込まれた繊維性スラリーの総固形物の%として算出した。
【0173】
NEUTB添加スラリーは、プロテアーゼ添加から数分間後に大幅な粘度低下を示した:本プロセス中の目視観察に基づき、試験1では2分、試験2では3分、および試験3では5分。この観察を、後述のテクスチャーアナライザーを用いた実施例において確認した;低温2℃において、中性プロテアーゼ処理したオート麦繊維性スラリーにおける大幅な粘度低下が、副産物への酵素添加後5分間以内に起こった。中性の未調整NEUTB試料における粘度低下は、pH調整した試料よりも急速であった。α-アミラーゼ対照試料では、粘度低下が認められなかった。塩基性pH試料は、非常にゆっくりとした粘度低下を示したが、消化終了に近づくと急激に粘度が低下した。被検試料3における急激な粘度低下は、インキュベーション中にpHが10未満に変化することに関係するのかもしれない。
【0174】
表7および表8の酸性pHに調整した試料では、収量増加に差があった;表8の条件の収量増加41.4%と比較して、表7の条件の収量増加は49.81%であった。この差は、消化中の僅かなpH変化に関係している可能性がある。表7に示す実験に関しては、低pH繊維性スラリーのpHは、インキュベーション開始時の5.0未満(4.96)からインキュベーション終了時の僅かに5.0を超えるpH(5.3;データ非提示)までの範囲であった;他方、表8の実験のpHは、繊維性スラリーの酵素消化の経過全体を通して5.0未満(4.62~4.99)であった。
【0175】
図2から分かるように、NEUTBは10℃において最小活性であると予想される;また、図3から分かるように、中性プロテアーゼは、pH5.0未満で実質的に不活性であると予想される。したがって、抽出を引き起こす顕著な非定型的プロテアーゼ活性が存在し、それに対応して栄養素収量の増加が起こると仮定することができる。この非定型的活性は、プロテアーゼ活性によって大型の蛋白質分子をより小型の分子に加水分解する以外の手段で細胞構造を破壊することを含む可能性がある。
【0176】
pHが5.0を超えると、表7に示すような低pHの処理の一部で実際に起こったように、低pH繊維性スラリー試料において、蛋白質分解が活性になり得る、またはより活性になり得るが、それによって推定的非蛋白質分解活性との潜在的相乗効果を起こし得る。表7に示すようなNEUTBの推定的非蛋白質分解活性に起因する収量増加に加え、この相乗効果は観察される収量増加を説明し得る。低pHおよび低温で観察されるNEUTBの非蛋白質分解活性は理論的には、中性プロテアーゼにおいて公知の活性であるプラステイン活性などの第2の酵素活性に関係し得る。第2の活性との組み合わせで、このプロテアーゼの蛋白質分解活性は、プロテアーゼ活性と非プロテアーゼ活性の潜在的相乗効果の結果として相乗的に収量を増加させ得る。
【0177】
表8の低温かつ低pHの実験データは、5.0未満のpHおよび10℃での収量増加が、最適pHで本プロセスを実施した場合の収量増加のおおよそ80%であることを示している。したがって、低いプロテアーゼ活性(10℃)と無視可能と推定されるプロテアーゼ活性(10℃、pH5未満)との間の条件間差異は、おおよそ20%であった。この結果は、収量増加の大部分が非蛋白質分解性酵素活性に関係し得ることを示唆する。
【0178】
中性プロテアーゼは、10℃で非常に活性なプラステイン活性を有することが知られている(Xuら、2014);また、DermikiおよびFitzgeraldは、プラステイン合成は、一般的に3.0~7.0の範囲のpHを必要とすることを報告している(2020)。理論に限定されることなく、プラステイン反応は、10℃で約pH4.8における効率的抽出に対する可能な説明の一つである。プラステインは蛋白質分子を凝集させることが知られているので、プラステイン活性は蛋白質を誘引し繊維性物質からの解離を引き起こし得る。
【0179】
NEUTBまたはNeutrase(登録商標)の他の未知または未同定の活性が、観察された収量増加に関与する可能性もまた存在する。例えば、観察された効果において基質は重要因子となり得るので、この反応が、β-グルカンまたは細胞壁の他の繊維性分子などの蛋白質/繊維相互作用を含むこともある。試験条件およびこれらの条件下におけるNEUTBの公知の活性から判断すると、機序にかかわりなく、次善条件下における繊維性スラリーから得られる収量の増加レベルは予想外でありまた意外でもある。
【0180】
実施例6
実施例6は、高温および低温における繊維性スラリーのプロテアーゼ抽出を示している。これらの温度条件は、図4のSDS-PAGEゲルに示す試料を、表10のような方法で処理する条件に対応している。SDS-PAGEゲルの試験レーンは、プロテアーゼ処理後の繊維性スラリー蛋白質の蛋白質サイズを示すものである。図4および図5のSDS-PAGEゲルは、繊維性スラリーの蛋白質加水分解度ならびにプロテアーゼ抽出の作用機序に対する若干の理解を示すものである。
【0181】
【表10】
【0182】
実施例6に関しては、繊維性スラリーを上記の方法で調製した。表10に示されるように、対照のレーンでは繊維性スラリーに酵素添加を行わなかった。被検試料1は、高温で消化プロテアーゼを添加した非加熱スラリーを含む。被検試料2は、低温で消化プロテアーゼを添加した非加熱スラリーを含む。被検試料3は、プロテアーゼ添加前に加熱したスラリーに高温で消化プロテアーゼを添加したものを含む。加水分解度は上記の方法で判定した。収量増加は、二次ミルクのみの総固形物に基づいて算出した。
【0183】
プロテアーゼ処理繊維性スラリーの加水分解度が、観察される収量増加に関連するか否かを判定するために、プロテアーゼ処理スラリーについて収量増加レベルを、高温(57℃)、低温(10℃)、および前もって繊維性スラリーを沸騰させてから高温(55℃)で測定した。次いで、SDS-PAGE分析のために、これらの条件のものを複数用意した。
【0184】
表10に関しては、オート麦繊維性スラリー試料をNEUTB(BIO-CAT)で消化した。繊維性スラリーのから得た栄養素の収量を測定した。低温(10℃)でのプロテアーゼ消化による収量増加は、高温(57℃)で消化したもの、および試料をまず沸騰させた高温加熱(沸騰後に、57℃)のものと類似していた。この結果は、意外なことに低温で高プロテアーゼ抽出が起こり、加水分解度は低いことを示している。
【0185】
洗浄回数はアミラーゼ処理の収量に関連する。2回洗浄物からの抽出では、アミラーゼ処理対照において収量増加を示すであろう;その理由は、洗浄/破砕処理のみであっても一部の栄養素が抽出されるからである。3回洗浄後には、洗浄のみでは他に何も取り出されることはないであろう。2回の洗浄によるものが一次ミルクの一部となるのである。第3の洗浄においては、抽出に関して全く何も生じない。したがって、本開示のプロセスについては、プロテアーゼ抽出に関して分離される繊維性スラリーは、第2洗浄後に残存するものである。表9の対照の列に示されるのは、第3洗浄水で抽出されるものである。
【0186】
図4に示すように、繊維性スラリー中の蛋白質のサイズに対するプロテアーゼ処理の影響を示すため、SDS-PAGEゲル電気泳動を実施した。レーン#812は加熱試料を含み、電子レンジでの沸騰後にNEUTB処理した繊維性スラリーの蛋白質を示している。レーン#752は対照試料であり、プロテアーゼで処理していない繊維性スラリーの蛋白質を示している。レーン#243は、より高い(最適)温度でプロテアーゼ処理(NEUTBに最適な57℃で2時間)した繊維性スラリーの蛋白質を示す。レーン#277は、低温10℃で1時間プロテアーゼ処理した蛋白質を示す。
【0187】
レーン#812の加熱試料対照はプロテアーゼ高加水分解度を示した。対照レーン#752は、プロテアーゼ未処理繊維性スラリーの無損傷蛋白質を示した。主要なバンドは、35kDAおよび22kDaに存在し、マイナーバンドがこれら2つの間に存在する。加熱後にプロテアーゼ処理した繊維性オート麦スラリーの蛋白質を示すレーン#812は、高加水分解度(DH)を示した;プロテアーゼで完全加水分解した35kDAの大きいバンド;35kDaバンドの加水分解産物を表す可能性が高い14kDaと12kDaのバンドにおける強度増加;および0~12kDaの加水分解産物の増加が認められた。
【0188】
レーン#243に示す高い反応温度条件の57℃で2時間の場合には、対照と比較して、35kDaのバンドが大幅に加水分解されることが示された。14kDaおよび12kDaのバンドにも幾分かの増加が認められるが、これは35kDaバンドの加水分解産物である可能性が高い。35kDaバンドの強度低下は、最適温度におけるプロテアーゼ加水分解であると予想される。高い温度でのプロテアーゼ消化によって、0~12kDaの分解物が幾分か増加した。
【0189】
低温プロテアーゼ処理はレーン#277に示される。この試料は、最適プロテアーゼ条件下での処理による収量増加に近い栄養素の高レベル収量増加を示した。しかし、高温処理繊維性スラリー(#243)とは対照的に、低温処理繊維性スラリー(#277)は、#243試料の官能特性に対して悪影響を与えなかった;また微生物増殖または蛋白質変性を引き起こし得る条件に晒されることはなかった;また対照レーン#752と比べて顕著な加水分解の徴候を示さなかった。まとめると、#277の試料は、意外なことにかなりの程度まで収量を増加させながらも非常に低いDHを示したが、この低いDHが、良好な官能性および味覚特性に寄与している可能性が高い。
【0190】
実施例7
表11は、10℃以下でNEUTB処理した繊維性スラリーから得られるオート麦ミルク中の総食物繊維およびβ-グルカンの量を示している。表6に開示されている組み合わせ試料を用いて、繊維性スラリーから回収されるβ-グルカンの量を測定した。
【0191】
【表11】
【0192】
実施例7において、10℃以下で異なるインキュベーション時間中性プロテアーゼL(NEUTB)で処理した繊維性スラリーの複数の被検試料を組み合わせて、β-グルカン含量分析に充分な材料を取得した。β-グルカン含量分析はMedallion Labs(ミネアポリス、ミネソタ州、米国)にて実施した。対照試料は、酵素添加を行わず機械的プロセスのみ実施した。被検試料は、10℃以下で異なるインキュベーション時間中性プロテアーゼL(NEUTB)で処理した繊維性スラリーを含む。割合(%)の算出は乾燥物質に基づいて行った。一次ミルクは、最初の時点でおおよそ1%のβ-グルカンを含むと考えられる。繊維性スラリーを複数回洗浄することによって、0.6%が追加され得る。しかし、繊維性スラリーのプロテアーゼ処理は、一次および二次ミルクの組み合わせのデータについて表11に示されるように、β-グルカンを2倍超、増加させ得る。
【0193】
実施例8
【0194】
実施例8は、2℃で中性プロテアーゼL(NEUTB)処理した繊維性スラリーから得た二次オート麦ミルクの一般組成および収量に関する。
【0195】
【表12】
【0196】
繊維性スラリーは上記の方法で調製した。対照試料には酵素を添加しなかった。NEUTB試料は、2℃で120分間NEUTB処理した繊維性スラリーを含む。被検副産物を得るために、原ミルクを水浴にて7分間かけて77℃に加熱した後、電子レンジで加熱することにより沸騰させて酵素を不活性化した。測定は乾燥物質に基づいて実施した。一次ミルクと二次ミルクの組み合わせで、総ミルク収量を測定した。二次ミルクは、潜在的に最大35%以下のデンプンを含み、一次オート麦ミルクよりもデンプン含量が少なく、これは植物由来低糖質ミルクまたは植物由来糖質制限ミルクを得るために有利であることが予想される。
【0197】
個々の栄養素について収量増加を測定するために設計した個別の予備実験であって、10℃で2時間NEUTB処理した予備実験において、総収量における増加を個々に分けると、蛋白質がおおよそ10%、脂肪が15%、灰分が9%であったが、繊維測定についてはさらなる試験が必要であった。二次ミルクは、一次ミルクよりもオート様であると表現される良好な味を有しており、また食感も良好であった。繊維性スラリーに含まれる多量のβ-グルカンは二次ミルクに抽出され二次ミルクのフルボディに寄与した可能性が高い。本開示のプロセスによって生成する二次ミルクは、苦味に関連する高い蛋白質加水分解度を有していなかった。一次ミルクに二次ミルクを加えることによって、一次ミルクの総合的な味または食感が損なわれることはなかった。
【0198】
実施例9
実施例9は、異なるプロテアーゼで処理した繊維性スラリーの収量、ミルク品質および蛋白質加水分解度(DH)について開示している。
【0199】
【表13】
【0200】
繊維性スラリーは上記の方法で調製した。重量%は初期原料重量に基づくものであった。一次および二次のオート麦ミルクの組み合わせで収量を決定した。収量は乾燥物質に基づいて測定した。一次ミルクに関する酵素不活性化は、水浴中で15~20分間かけて77℃まで加熱した後、電子レンジで加熱して沸騰させることによって実施した。二次ミルクを生産するための繊維性スラリーの酵素不活性化は、上記のようなスチーム法を用いて実施した。泡品質、官能特性およびDHは、上記の方法で判定した。
【0201】
表13のデータは、本開示にしたがうプロテアーゼ消化オート麦繊維性スラリーの試料のSDS-PAGEを示す図5Aおよび5Bのデータに基づく。対照と比較した収量増加は、本開示にしたがう低温でNEUTB処理した繊維性スラリーを、さらにトリプシンで処理した繊維性スラリーにおいて最も高かった。プロテアーゼであるパパインおよびアルカリプロテアーゼは、実質的により低い収量増加しか示さなかった。アミラーゼでは収量増加が最も低かった。他の実験データは、粘度および収量増加に対するNEUTBの効果が、Neutrase(登録商標)の効果に類似するものである(データ非提示)ことを示唆した。
【0202】
試験したプロテアーゼのうちでは、NEUTBおよびトリプシンでDHが最も低かったが、この場合、上記の方法で算出したDHはおおよそ2%であった。パパインによるDHは、NEUTBおよびトリプシンの場合よりもおおよそ4倍高かった;また、アルカリプロテアーゼによるDHは、NEUTBおよびトリプシンの場合よりもおおよそ3倍高かった。
【0203】
その結果から、収量増加にDHは相関しないが、NPLおよびトリプシンはかなり低加水分解度でより大きな収量増加をもたらすことが示唆された。蛋白質または他の有機分子を加水分解することによって粘度が大幅に低下すると一般的には考えられているので、この結果は予想外であった。分子量が低いことは、一般的により低粘度の溶液に相関する。蛋白質分解を最小化しながら、繊維性スラリーから得られる収量増加を最大化することは、本開示の主要点であるが、その理由は、それが蛋白質の機能特性を維持し、かつ官能特性変化を最小に抑えるからである。試験した全プロテアーゼの中で、本明細書に開示の中性プロテアーゼおよびトリプシンは、これらの点に関して本開示の要件を満たす僅か2つのプロテアーゼであった。
【0204】
実施例10
実施例10は、オート麦繊維性スラリーの粘度に対する様々なプロテアーゼの効果について開示している。粘度低下は、繊維性スラリーの処理を可能にする主要因子である。表14は、2℃で各種の酵素により処理したオート麦繊維性スラリーの相対的な粘度変化を示すものである。
【0205】
【表14】
【0206】
繊維性スラリーは、上記に開示の方法で調製した。酵素処理後の繊維性スラリーの粘度変化を測定するために、テクスチャー分析を用いた。テクスチャー分析は、上記の方法で実施した。粘度変化の測定にテクスチャー分析を用いることができるが、その場合、反応における圧縮力変化を経時的にテクスチャーアナライザーで測定する。テクスチャーアナライザーで測定する経時的な圧縮力低下は、経時的粘度低下に相関する。
【0207】
以前に開示されているように、テクスチャー分析用の繊維性スラリー調製後の初期粘度を1.0とした。酵素添加後に、酵素活性が存在することによって試料に加わる圧縮力をテクスチャーアナライザーで連続的に測定する。表14の最後の測定は、特定の時点(この場合、10分である)における粘度低下の量を示している。
【0208】
表14は、本明細書において試験した中性プロテアーゼであるNEUTBおよびNeutrase(登録商標)が、2℃でオート麦繊維性スラリー粘度を最も効果的に低下させることを示している。トリプシンは、その程度が少々劣るが、繊維性スラリーの粘度を実質的に低下させることに関してやはり有効である。真菌プロテアーゼFGPTA2およびFGPTHUは、比較的程度は劣るが粘度を低下させる。真菌プロテアーゼは酵素の複雑混合物であるが、他の酵素と共に本開示の中性プロテアーゼおよびトリプシンを含む可能性がある。
【0209】
一般に、試験を行った他の全てのプロテアーゼまたは酵素では、NPL、Neutrase(登録商標)およびトリプシンと比較して粘度低下度が低かった。表14に示す中性プロテアーゼおよびトリプシン以外の酵素によって起こるより低レベルの粘度低下は、本開示の目的には不充分なものであった。粘度低下が一般的に繊維性スラリーから得られる収量の増加に相関することを考慮するならば、他のプロテアーゼは実質的に有効ではないが、中性プロテアーゼおよびトリプシンについては、本開示の目的にとって有効であると判定されたのである。
【0210】
実施例11
実施例11は、2℃において異なる酵素濃度の中性プロテアーゼL(NEUTB)で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化について開示している。
【0211】
【表15】
【0212】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。酵素濃度は初期原料重量に基づくものであった。粘度低下を測定するためテクスチャー分析を上記の方法で実施した。
【0213】
非常に低いNPL濃度であっても実質的な粘度低下が明白であった。このことは、非常に低いレベルのNPLまたはNeutrase(登録商標)が、本開示の繊維性スラリーから得られる収量の増加を充分達成することを示唆している。
【0214】
実施例12
実施例12は、2℃において異なる酵素濃度の微生物トリプシン(TRY1)で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化について開示している。
【0215】
【表16】
【0216】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。酵素濃度は初期原料重量に基づくものであった。粘度低下を測定するためテクスチャー分析を上記の方法で実施した。
【0217】
非常に低い濃度のトリプシンであっても実質的な粘度低下が明白であったが、NPLと比較した場合には、トリプシンによる粘度低下はより濃度依存性の様相を呈した。一般に、これらの結果は、低レベルのトリプシンが、本開示の繊維性スラリーから得られる収量の増加を充分達成することを示唆している。
【0218】
実施例13
実施例13は、2℃で様々なpHにおける、酵素非添加のオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化を示すものである。
【0219】
【表17】
【0220】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。酵素添加は行わなかった。pHは、クエン酸無水物および50%KOH溶液を用いて調整した。粘度低下を測定するためテクスチャー分析を上記の方法で実施した。
【0221】
溶液のpHは、テクスチャー分析の前に調整した。中性または未調整のpHもまた試験した。機械的破壊に起因する可能性が高いpHの小さな初期急低下後に、全試料が1.0に向かって次第に増加した。酸性pHでは、10分後に、繊維性スラリーの粘度が実質的に変化しなくなった。塩基性pHでは、10分後に、繊維性スラリーの粘度がおおよそ10%低下した。これらの結果に基づくならば、pHは、試験したレベルで粘度には大きな影響を与えない。
【0222】
実施例14
実施例14は、オート麦繊維性スラリーの粘度を低下させるNEUTBの能力に対するpHの影響を示している。中性プロテアーゼL(NEUTB)で処理したオート麦繊維性スラリーの相対的粘度変化を、2℃において様々なpHで測定した。
【0223】
【表18】
【0224】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。pHは、クエン酸無水物および50%KOH溶液を用いて調整した。粘度低下を測定するためのテクスチャー分析は上記の方法で実施した。表18は、酸または塩基を添加した後であって、0.05%の酵素を添加する前の繊維性スラリーのpHを示している。
【0225】
実施例15
実施例15は、オート麦繊維性スラリーの粘度を低下させる微生物トリプシン(TRY1)の能力に対するpHの影響を示している。微生物トリプシン(TRY1)で処理したオート麦繊維性スラリーの粘度変化を、2℃において様々なpHで測定した。
【0226】
【表19】
【0227】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。pHは、クエン酸無水物および50%KOH溶液を用いて調整した。粘度低下を測定するためのテクスチャー分析は上記の方法で実施した。表18は、酸または塩基を添加した後であって、酵素添加前の繊維性スラリーのpHを示している。
【0228】
実施例16
実施例16は、本開示にしたがい2℃において中性プロテアーゼL(NEUTB)または微生物トリプシン(TRY1)で処理した場合の、各種基質を含む繊維性スラリーの相対的粘度変化を示すものである。
【0229】
【表20】
【0230】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。pHは、クエン酸無水物および50%KOH溶液を用いて調整した。粘度低下を測定するためのテクスチャー分析は上記の方法で実施した。
【0231】
鶏皮試験は、2℃、49℃および60℃で実施した。鶏皮粘度分析に関しては、後述の方法で鶏皮を試験した。鶏皮テクスチャー分析の場合には、筋肉から皮膚を剥がすことにより、新鮮ニワトリ大腿四半分から皮膚を取得した。この皮膚をおおよそ2倍量の氷水(重量に基づく)で洗浄し、ウォークイン冷蔵庫(1.7℃)内で鋭利な刃物とまな板を用いて薄切りにしておおよそ5x5mmの小片に刻んだ。
【0232】
刻んだ鶏皮に、鶏皮量の2倍量または3倍量の氷+冷蒸留水を加えて、最終的な固形物含量をおおよそ10%とした。次いで、Vita-Mix TurboBlend 4500を用いて、この混合物を高速度(10/10設定)で2分間撹拌した。刻んだ鶏皮に2倍量の氷水を加えて混和したニワトリの場合には、高濃度スラリーはおおよそ15%の固形物を有していた。固形物濃度が低い場合には、3倍量の氷水を加えた;テクスチャー分析用のスラリーは、それぞれおおよそ10%固形分を有していた。
【0233】
鶏皮試験を実施した理由の一部としては、NEUTBに関するBIOCAT製品情報シートに、Neutraseの用途として、特に魚およびニワトリの副産物の粘度低下についての示唆があったからである。この製品情報シートはまた、NEUTBを使用する際の最適活性条件(55℃およびpH6.5と説明されている)に関する情報も提供している。BIOCATが記載しているこの最適温度は、本開示に用いた温度よりもはるかに高いものであり、したがって、本開示で用いた低い次善の温度について、BIOCAT製品情報シートに示されている基質の一つである鶏皮を用いて試験を行った。表20に示されるように、本開示の範囲内にある温度(2℃)においては、NEUTB(NEUTB)による粘度低下は全く認められなかった。
【0234】
鶏皮粘度測定に関しては、鶏皮スラリーをウォークイン冷蔵庫内で30分間静置した後、穀物およびナッツについてのテクスチャー変化測定と同一パラメーターを用いて、鶏皮の粘度変化を測定した。2℃でのテクスチャー分析に加えて、酵素添加およびテクスチャー分析の前に、鶏皮スラリーを49℃および60℃に暖めた。テクスチャー分析の経過中はテクスチャー分析カップを氷冷水浴、温水または湯浴内に設置することによって、テクスチャー変化分析中の鶏皮スラリー温度を初期温度と同一に維持した。
【0235】
表20に示すデータ全体については、表2~4の収量データおよび表20の粘度低下から、テクスチャー分析においてミルク収量の増加と粘度低下の間に密接な関連性(相関)が存在することが示された。オート麦繊維性スラリーでは、粘度低下が大きく、そのため本開示のプロセスによるオート麦ミルクの収量増加が大きかった;一方、アーモンドおよびひよこ豆における粘度低下は、オート麦ほどは大きくなく、同様に、ミルク収量の増加もまた小さかった。したがって、テクスチャーアナライザーにおける粘度低下は、植物由来ミルクの収量増加の予測に有用である。表20のデータに基づくならば、本開示のプロテアーゼ処理による粘度低下は、基質材料におけるβ-グルカンの存在と相乗的であったと考えられる。本開示は、主に低温プロテアーゼ処理プロセスであると説明されるが、本プロセスは、いくつかの実施態様においては、より高い温度でβ-グルカン含有粉砕穀物粒から栄養素を抽出する用途をも有しているのである。
【0236】
本開示において試験したβ-グルカン含有基質はオート麦および大麦であるが、大豆などのβ-グルカン不含基質の出発粘度がオート麦および大麦に類似する場合であっても、オート麦および大麦はかなり大幅に粘度が低下した。表20に示されるように、大麦については、10分での対照の相対的粘度低下(0.90)が、NEUTB(0.67)およびトリプシン(0.74)による処理と比較されている。
【0237】
実施例17
実施例17は、2℃で22分間の非加熱オート麦繊維性スラリーについてセンチポイズ(cPs)で測定した粘度変化を示すものである。
【0238】
【表21】
【0239】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。粘度は上記の方法で粘度計により測定した。本明細書中の「前(Pre)」は酵素添加前を指し、また「後(Post)」は酵素処理完了後を意味する。
【0240】
pHは酵素処理前後で本質的に不変化であった。NPLおよびトリプシンは同程度の粘度低下を示したが、NPLによる粘度低下はトリプシンによるものよりも大きかった。
【0241】
実施例18
実施例18は、2℃で2時間α-アミラーゼと共にNPLおよびトリプシンで処理し、より緩徐な(非蒸気)酵素不活性化を行った場合に、繊維性スラリーから得られる二次オート麦ミルクの粘度およびその他の特性を示している。
【0242】
【表22】
【0243】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。粘度は上記の方法で粘度計により測定した。官能特性は上記の方法で評価した。酵素の不活性化を目的として、上記のように、湯浴において7分間かけて77℃まで試料を加熱し、さらに電子レンジで2分間未満加熱して沸騰させた。試料濃度は初期原料重量に基づくものであった。篩過は5段階評価を用いて評価した:(1)篩過が非常に容易、(3)篩過が困難でも容易でもない、および(5)篩過が非常に困難から篩過不能。実施例18、20および21の試料においては、組み合わせ試料のミルクを組み合わせて、オーブンで乾燥させMedallion labsでβ-グルカンを測定した。
【0244】
実施例19
実施例19は、2℃で2時間α―アミラーゼと共に異なる酵素で処理し、酵素の緩徐な(非蒸気)加熱不活性化を行った繊維性スラリーから得られる二次オート麦ミルクの特性に関する。
【0245】
【表23】
【0246】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。粘度は上記の方法で粘度計により測定した。官能特性は上記の方法で評価した。酵素の不活性化を目的として、上記のように、湯浴において7分間かけて77℃まで試料を加熱し、さらに電子レンジで2分間未満加熱して沸騰させた。試料濃度は初期原料重量に基づくものであった。篩過は5段階評価を用いて評価した:(1)篩過が非常に容易、(3)篩過が困難でも容易でもない、および(5)篩過が非常に困難から篩過不能。
【0247】
実施例20
実施例20は、α-アミラーゼ非存在下で、2℃にて2時間異なる酵素で処理し、酵素の緩徐な(非蒸気)加熱不活性化を行った二次オート麦ミルクスラリーの粘度およびその他の特性を示している。
【0248】
【表24】
【0249】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。粘度は上記の方法で粘度計により測定した。Nuova Simonelli Appia II V GR1を用いてスラリーに直接的に蒸気を注入することにより、試料を80℃で0.5分間加熱した後、上記のように、さらに電子レンジで1分間未満の加熱を行い沸騰させた。測定は初期原料重量に基づくものであった。篩過は、上記のように5段階評価を用いて評価した:(1)篩過が非常に容易、(3)篩過が困難でも容易でもない、および(5)篩過が非常に困難から篩過不能。
【0250】
実施例21
実施例21は、α-アミラーゼ非存在下で、2℃にて2時間NPLおよびトリプシンで処理した繊維性スラリーから得られる二次オート麦ミルクの粘度およびその他の特性に対する、急速酵素不活性化(蒸気処理)の影響を示している。
【0251】
【表25】
【0252】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。粘度は上記の方法で粘度計により測定した。Nuova Simonelli Appia II V GR1を用いてスラリーに直接的に蒸気を注入することにより、試料を80℃で0.5分間加熱した後、上記のように、さらに電子レンジで1分間未満の加熱を行い沸騰させた。測定は初期原料重量に基づくものであった。篩過は、上記のように5段階評価を用いて評価した:(1)篩過が非常に容易、(3)篩過が困難でも容易でもない、および(5)篩過が非常に困難から篩過不能。
【0253】
実施例22
実施例22は、2℃におけるテクスチャー分析のための異なる材料の未処理希釈繊維性スラリーの出発粘度、pHおよび固形物含量を示している。蒸気注入することで、より緩徐な加熱酵素不活性化と比較して、幾分優れた産物が得られた。表25は、α-アミラーゼ非存在下において、NEUTBと蒸気不活性化(または急速不活性化)の組み合わせで優れた官能特性を有する産物が得られ、篩過が容易になることを示している。NEUTBではやはり粘度が低かったが、トリプシンプロテアーゼではそれほど低い訳ではなかった;それ以外はいずれも本開示において有効であった。微生物トリプシンは有効であることが示されたが、本開示にしたがう粘度低下および収量に関しては金属プロテアーゼほど有効ではなかった;表25から分かるように、幾つかの点でNEUTBおよびNeutrase(登録商標)はより有効であった。
【0254】
【表26】
【0255】
繊維性スラリーは上記に開示の方法で調製した。測定値を平均値±標準偏差で表す。
【0256】
表26のデータは未処理繊維性スラリーの出発濃度を示している。このデータは、本開示において提供される他のデータについての一般参照値として用いることができる。
【0257】
実施例23
実施例23は、2℃または50℃において異なる酵素で処理した10%ひよこ豆蛋白質単離物スラリーの相対的粘度変化を示している。
【0258】
【表27】
【0259】
蛋白質スラリーは上記の方法で調製した。温度は、テクスチャー分析中のインキュベーション温度である。酵素添加およびテクスチャー分析前の初期粘度。
【0260】
結果は、オート麦、大麦およびその他の植物材料の粘度低下に有効である本開示の中性プロテアーゼおよびトリプシンが、2℃において反応時間20分間では、10%ひよこ豆蛋白質単離物スラリーの粘度低下に全く効果がないことを示している。50℃では、NEUTBがひよこ豆原料の粘度をおおよそ25%低下させた。
【0261】
実施例24
実施例24は、2℃または50℃において異なる酵素で処理した21%エンドウ豆蛋白質単離物スラリーの相対的粘度変化について開示している。
【0262】
【表28】
【0263】
蛋白質スラリーは上記の方法で調製した。温度は、テクスチャー分析中のインキュベーション温度である。酵素添加およびテクスチャー分析前の初期粘度。
【0264】
結果は、オート麦、大麦およびその他の植物材料の粘度低下に有効である本開示の中性プロテアーゼおよびトリプシンが、2℃ではエンドウ豆蛋白質単離物スラリーの粘度低下に全く効果がないことを示している。50℃では、NEUTBが、20分間のインキュベーション後に、ひよこ豆原料の粘度をおおよそ8%低下させた。
【0265】
その他の実施態様
本発明の詳細な説明として本発明を記載しているが、上記の説明は具体的に説明する意図であって、本発明の範囲を限定する意図ではなく、本発明は付属の「特許請求の範囲」において規定されるものであることを理解されたい。他の局面、利点、および変更は、付属の「特許請求の範囲」に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-12-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料スラリーを生産するために植物原料を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼで処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、次善のプロテアーゼ活性温度において、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、ここで該植物原料がオート麦粒および大麦粒のうちの少なくとも1つである、方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、ここで該次善の活性温度が10℃未満であり、該プロテアーゼによる処理のインキュベーション時間が30分未満である、方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、ここで該処理繊維性スラリーを生産するために、次善の活性pHにおいて、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理する、方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、ここでプロテアーゼ処理のインキュベーション時間が10分未満である場合に、該処理繊維性スラリーの粘度が該繊維性スラリーの粘度よりも少なくとも35%低い、方法。
【請求項6】
請求項1の方法であって、ここで25kDa未満の分子量を有するペプチドの量における相対的増加が5%未満である、方法。
【請求項7】
請求項1の方法であって、ここで25kDa未満の分子量を有するペプチドの量における相対的増加が2%未満である、方法。
【請求項8】
請求項1の方法であって、ここで蛋白質加水分解度が実質的に高くはない、方法。
【請求項9】
請求項1の方法であって、組み合わせミルクを生産するために、二次ミルクを一次ミルクと組み合わせることをさらに含む方法。
【請求項10】
請求項1の方法であって、ここで該二次ミルクにおけるβ-グルカン濃度が、乾燥固形物に基づいて、該一次ミルクのβ-グルカン濃度の少なくとも2倍である、方法。
【請求項11】
請求項1の方法であって、ここで組み合わせミルクが、乾燥固形物に基づいて、該植物原料に含まれる全β-グルカンの少なくとも半分を含む、方法。
【請求項12】
請求項1の方法であって、ここで該プロテアーゼが、Neutrase(登録商標)、中性プロテアーゼL(商標)、Bacillus subtilisに由来する金属エンドプロテアーゼ、およびBacillus amyloliquefaciensに由来する金属エンドプロテアーゼから成る群から選択される、方法。
【請求項13】
請求項1の方法であって、ここで該植物原料から植物由来ミルクを生産する際に、有意な微生物増殖を防止する、方法。
【請求項14】
請求項1の方法であって、ここで該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理するインキュベーション時間が20分未満である、方法。
【請求項15】
請求項1の方法であって、ここで加熱不活性化中の実質的な蛋白質加水分解を防ぐために、該繊維性スラリーを急速加熱する、方法。
【請求項16】
請求項1の方法であって、ここで該方法が、液状化のために付加的酵素を添加することなく、保存可能期間延長または無菌梱包のために充分な高温で該二次ミルクを処理することをさらに含み、かつ該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼである、方法。
【請求項17】
請求項1の方法であって、ここで該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼであり;
および
ここで該金属エンドプロテアーゼを熱不活性化するため、および加熱不活性化中の顕著な蛋白質加水分解を防ぐために、直接的蒸気処理または間接的蒸気処理によって該繊維性スラリーを急速加熱し、それによって、少なくとも1種類の優れた官能特性を有する二次ミルクが得られるが、該二次ミルクはトリプシン処理した二次ミルクおよびより緩徐な加熱不活性化法を用いて生産される加工二次ミルクと比較して篩過し易さが向上した二次ミルクである、方法。
【請求項18】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理穀物粒を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼで処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、5℃未満の温度で30分間未満のインキュベーション時間の間、該繊維性スラリーを該プロテアーゼで処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項19】
請求項18の方法であって、ここで該プロテアーゼが金属エンドプロテアーゼであり、該方法が、液状化のために付加的酵素を添加することなく、
保存可能期間延長または無菌梱包に充分な高温で、該二次ミルク処理することをさらに含む、方法。
【請求項20】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理原料を水性湿式粉砕すること;
一次液および繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
および
処理繊維性スラリーを生産するために、金属エンドプロテアーゼおよび細菌トリプシンおよび真菌トリプシンから成る群から選択されるトリプシンから成る群から選択されるプロテアーゼを用いて、次善のプロテアーゼ活性温度で60分間未満のインキュベーション時間の間インキュベートすることによって、該繊維性スラリーを処理すること、
を含む方法であって;
ここで該処理繊維性スラリーの粘度が該繊維性スラリーの粘度よりも少なくとも30%低い、
方法。
【請求項21】
原料スラリーを生産するために植物原料を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを酵素で処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、次善の酵素活性温度で該繊維性スラリーを該酵素で処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項22】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理穀物粒を水性湿式粉砕すること;
一次ミルクおよび繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
該繊維性スラリーを酵素で処理すること;
処理繊維性スラリーを生産するために、5℃未満の温度において該繊維性スラリーを該酵素で30分間未満のインキュベーション時間の間処理すること;
および
二次ミルクおよび清浄繊維を生産するために、該処理繊維性スラリーを篩過すること、
を含む方法。
【請求項23】
原料スラリーを生産するためにβ-グルカン含有未処理原料を水性湿式粉砕すること;
一次液および繊維性スラリーを生産するために該原料スラリーを篩過すること;
該繊維性スラリーを粉砕すること;
および
処理繊維性スラリーを生産するために、次善のプロテアーゼ活性温度で60分間未満のインキュベーション時間の間インキュベートすることによって、該繊維性スラリーを酵素で処理すること、
を含む方法であって;
ここで該処理繊維性スラリーの粘度が該繊維性スラリーの粘度よりも少なくとも30%低い、
方法。
【国際調査報告】