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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】レーザー材料加工用装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/067 20060101AFI20240604BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240604BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240604BHJP
【FI】
B23K26/067
B23K26/082
B23K26/064 G
B23K26/064 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023542932
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2022051237
(87)【国際公開番号】W WO2022157246
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】102021101373.9
(32)【優先日】2021-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591037214
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト ツァ フェルダールング デァ アンゲヴァンテン フォアシュンク エー.ファオ
(71)【出願人】
【識別番号】517014125
【氏名又は名称】レイニッシュ-ヴェストフェリッシェ テヒニッシェ ホッホシューレ(エルヴェーテーハー)アーヘン
【氏名又は名称原語表記】Rheinisch-Westfalische Technische Hochschlule(RWTH)Aachen
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】ヘスカー マリオ
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CB04
4E168EA05
4E168EA11
4E168EA14
4E168EA15
4E168KA13
4E168KB02
(57)【要約】
本発明は、少なくとも、レーザービーム源(5)と、ビームスプリッター(6)と、複数の音響光学変調器(4)を備える変調機構と、動的ビーム偏向器(9)とを備えるレーザー材料加工用装置である。ビームスプリッター(6)を通して、コリメートされたレーザービーム(10)が、少なくとも第1の次元において互いに平行でない複数の部分ビーム(1)に二次元的に分割される。ビームスプリッター(6)と変調機構との間には、第1の次元において部分ビーム(1)を平行化する光学装置が配置される。この光学装置は、複数のプリズム(12)による装置を含み、複数のプリズム(12)は、部分ビーム(1)がこのプリズム(12)を通過する際、それぞれ2回屈折することによって、第1の次元において互いに平行に位置合わせされるように構成及び配置される。それにより、音響光学変調器(4)における部分ビーム(1)のコリメーションが維持され、したがって、音響光学変調器(4)における変調を最大効率で行うことができる。その結果、本装置は、よりコンパクトな構成で実現することができる。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー材料加工用装置であって、少なくとも、
コリメートされたレーザービーム(10)を放射するレーザービーム源(5)と、
前記コリメートされたレーザービーム(10)を、少なくとも第1の次元において互いに平行でない複数の部分ビーム(1)に二次元的に分割するビームスプリッター(6)と、
前記部分ビーム(1)を、前記第1の次元において互いに平行に位置合わせする第1の光学装置と、
前記第1の次元においてマルチチャネルとして構成され、個々の部分ビーム(1)を互いに独立して変調することができる、複数の音響光学変調器(4)を備える変調機構と、
前記部分ビーム(1)を互いに垂直な2つの方向に動的に偏向可能であり、加工平面にわたって導くことができる動的ビーム偏向器(9)と、
を備え、
前記第1の光学装置は、複数の第1のプリズム(12)を備え、該複数の第1のプリズム(12)は、前記部分ビーム(1)が前記第1のプリズム(12)を通過する際、それぞれ2回屈折することによって、前記第1の次元において互いに平行に位置合わせされるように構成及び配置される、レーザー材料加工用装置。
【請求項2】
前記第1のプリズム(12)は、第1のプリズム集合体(11)の形成によって、互いに強固に接続されることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の光学装置は、前記部分ビーム(1)のビーム直径を減少させる、好ましくはアフォーカルの第1のテレスコープ(13)を更に備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記動的ビーム偏向器(9)は、互いに垂直な軸の周りに旋回可能な2つのミラー(20、21)を備えることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記変調機構と前記動的ビーム偏向器(9)との間に第2の光学装置が配置されることにより、前記変調機構から出射した前記部分ビーム(1)を、前記加工平面における前記部分ビーム(1)の相互の間隔を縮小又は拡大するように偏向することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の光学装置は、前記部分ビーム(1)が前記動的ビーム偏向器(9)の前記旋回可能なミラー(20、21)の双方の間で交差するように構成されることを特徴とする、請求項4に関連する請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記第2の光学装置は、入力光学系(17)及び出力光学系(18)を備える第2のテレスコープ(15)を備え、該第2のテレスコープ(15)は、前記入力光学系(17)と前記出力光学系(18)との間に、複数の第2のプリズム(12)による装置を備え、それにより、前記加工平面における前記部分ビーム(1)の前記相互の間隔を縮小又は拡大することを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記第2のプリズム(12)は、第2のプリズム集合体(14)の形成によって、互いに強固に接続されることを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ビームスプリッター(6)は、少なくとも1つの回折光学素子によって形成されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記音響光学変調器(4)は、前記部分ビーム(1)が互いに平行に位置合わせされる各ビーム平面の前記部分ビーム(1)が、前記音響光学変調器(4)に垂直に当たるように位置合わせされることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
ビーム経路を折り返すことによって前記装置の設置空間を低減するために、前記ビームスプリッター(6)と前記動的ビーム偏向器(9)との間で複数の偏向要素(16)を介して部分ビーム(1)が導かれることを特徴とする、請求項1~10のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、コリメートされたレーザービームを放射するレーザービーム源と、コリメートされたレーザービームを複数の部分ビームに二次元的に分割するビームスプリッターと、個々の部分ビームの互いに独立した変調を行う変調方向と、部分ビームを互いに垂直な2つの方向に動的に偏向可能であるとともに、加工平面にわたって導くことができる動的ビーム偏向器とを備える、レーザー材料加工用装置に関する。
【0002】
レーザーは、多くの技術分野において材料加工のために使用され、例えば、表面構造化、接合若しくは切断のため、又は付加製造の分野にも使用される。レーザー材料加工に利用可能なレーザービーム源、特に、超短パルスレーザー照射用のレーザービーム源は、ますます高い出力で提供されている。しかしながら、ワーク上のレーザースポットの最大出力は、材料に起因して制限される。したがって、多くの場合、高いレーザー出力を効率的に利用するために、総出力が複数の部分ビームに分割される。さらに、複数の行及び列によるマトリックス(行列)の形態でのレーザースポットの二次元配置により、迅速な材料加工を行うことができる。加工プロセスの柔軟性を得るためには、個々の部分ビームのそれぞれを別々にオン及びオフに切り替えることが可能である必要がある。このために、音響光学変調器(AOM)がしばしば使用される。音響光学変調器において、ビーム偏向の切替え速度及び回折効率は、ビーム直径、音響光学変調器の結晶へのビームの入射角、及びビーム発散に大きく依存する。そのため、ビーム直径は可能な限り小さく保つべきである。ビーム直径の下限は、音響光学変調器の損傷閾値によって決定される。
【背景技術】
【0003】
非特許文献1より、例えば、レーザービーム源からのコリメートされたレーザービームを、ビームスプリッターを用いて複数の部分ビームに分割し、それを、フーリエレンズを介して互いに平行に位置合わせし、マルチチャネル音響光学変調器を通して導く、レーザー材料加工用のレーザー装置が既知である。ここでは、ビーム分割は一平面においてのみ起こるため、加工平面における一次元のスポットマトリックスが生じる。ここでは、音響光学変調器は、フーリエレンズによって構成されたリレー光学系の中間焦点にある。そのような装置により、対応して構成されるビームスプリッター及び複数のマルチチャネル音響光学変調器によって、加工平面における二次元スポットマトリックスを生成することができる。マルチチャネル音響光学変調器は、平面内を伝播する複数の部分ビームを互いに独立して偏向することができる。したがって、二次元ビームマトリックスの場合は、複数のマルチチャネル変調器が必要である。しかしながら、設計に起因して、変調器の前の光学系が非常に幅広になるため、ビーム形成のために、大型の、通常は非常に高価なレンズが必要である。さらに、音響光学変調器における上記の解決策において、部分ビームは、中間焦点に基づく発散を有し、その場合、変調器の中心のビーム直径は、結晶の入射平面及び出射平面におけるよりも小さくなる。これにより、回折効率が減少し、音響光学変調器の切替え時間が増加する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S. Bruening他「Ultra-fast multi-spot-parallel processing of functional micro- and nano scale structures on embossing dies with ultrafast lasers」Lasers in Manufacturing Conference 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、個々のビームの効率的な変調が可能であり、より小型で実現することができる、二次元ビームマトリックスを有するレーザー材料加工用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、請求項1に記載のレーザー材料加工用装置によって解決される。本装置の有利な形態は、従属請求項の主題であるか、又は以下の記載及び実施形態に見出すことができる。
【0007】
提案されるレーザー材料加工用装置は、少なくとも、コリメートされたレーザービームを放射するレーザービーム源と、ビームスプリッターと、第1の光学装置と、変調機構と、動的ビーム偏向器とを備える。レーザービーム源は、例えば、コリメーション光学系が前方に配置されたレーザーによって形成することができる。当然ながら、既にコリメートされたレーザービームを放射するレーザーを使用してもよい。ビームスプリッターは、コリメートされたレーザービームを、少なくとも第1の次元において互いに平行でない複数の部分ビームに二次元的に、すなわち、互いに垂直な2つの方向(以下、x方向及びy方向とも称する)に分割するように構成される。この場合、第1の次元において、少なくとも4つの非平行の部分ビーム、すなわち、少なくとも4×Nのビームマトリックス(ここで、N≧2)が生成されることが好ましい。第1の光学装置は、個々の部分ビームのコリメーションに影響を与えることなく、部分ビームを第1の次元において互いに平行に位置合わせするように構成及び配置される。第1の光学装置に接続される変調機構は、第1の次元においてマルチチャネルとして構成され、個々の部分ビームを互いに独立して変調することができる、複数の音響光学変調器を備える。次いで、動的ビーム偏向器、例えば、2Dガルバノメータースキャナーにより、部分ビームは、互いに垂直な2つの方向において動的に偏向され、加工平面上に導かれる。動的ビーム偏向器と加工平面との間には、通常、加工平面上に部分ビームを集束させる集束光学系、例えばFシータ(Fθ)レンズが配置される。音響光学変調器における部分ビームの変調により、加工平面内の個々のレーザースポットを互いに独立してオン及びオフに切り替えることができる。提案される装置は、第1の光学装置が複数の第1のプリズムを備え、複数の第1のプリズムは、部分ビームがプリズムを通過する際に、それぞれ2回(プリズムの入射面及び出射面において)屈折することによって、第1の次元において互いに平行に位置合わせされるように構成及び配置されることを特徴とする。部分ビームのこの位置合わせは、プリズム面における反射によってではなく、2回の屈折によってのみ行われる。各部分ビームは、伝播方向を平行な位置合わせに適合させなければならず、この場合、各部分ビームがプリズムのうちの1つに割り当てられる。第1の次元に対してそれぞれ垂直なビーム平面の全ての部分ビームに、共通のプリズムがそれぞれ使用されることが好ましい。したがって、例えば、8×8のビームマトリックスの場合、各プリズムは、そのようなビーム平面の8つの部分ビームの全てを同時に偏向する。したがって、この場合、64個の部分ビームに対して全部で8つのプリズムが必要となる。
【0008】
以下でx方向に対応する第1の次元においてビームを平行化するためにプリズムを使用することにより、個々の部分ビームのコリメーションが維持され、それにより、これらの部分ビームは音響光学変調器内でもはや発散しない。このようにして、音響光学変調器における最大切替え効率を達成し、部分ビームごとに可能な最大出力を加工平面に伝達することができる。さらに、ビームの平行化のためにプリズムを利用することにより、リレー光学系を使用する場合よりもコンパクトな装置が可能になる。さらに、プリズムは、追加の構成要素を伴わずに、プリズム集合体をなすように互いに接着又は接合することができるように構成されることが好ましい。特に、プリズムは、平行な上辺及び下辺を有する台形状の底面を有し、これらの辺はまた、光軸に対して平行である。
【0009】
有利な形態において、プリズムは、プリズム集合体の形成によって互いに強固に接続、例えば、接着又は接合される。それにより、プリズムの自由度が減少するため、装置の調節が非常に容易になる。第1の光学装置は、アフォーカルテレスコープを更に備え、それにより、部分ビームのビーム直径を、音響光学変調器内に必要な(そして依然として許容可能な)寸法に設定、特に縮小することが好ましい。アフォーカルテレスコープは、ビームスプリッターの後で互いに発散する(ただし、全て引き続きコリメートされる)部分ビームを更に分離するためにも利用される(発散角は、テレスコープの縮小率に直接関連する)。ビームスプリッターは、従来技術から既知であるように、例えば、少なくとも1つの回折光学素子(DOE)によって形成することができる。
【0010】
第1の次元(x方向)において部分ビームを平行化することにより、部分ビームは、それぞれの(この次元における)マルチチャネル音響光学変調器に互いに平行に当たり、その結晶入射面は、(x軸周りの回転によって)入射する部分ビームに対してブラッグ角で配置される。これに対して垂直な、以下でy方向に対応する第2の次元においては、部分ビームは平行化されない。第1の次元において平行な部分ビームを有する各ビーム平面に対して、マルチチャネル音響光学変調器が使用される。ビームスプリッターと動的ビーム偏向器との間に複数のビーム偏向要素、特にミラーを利用することにより、折り返されたビーム経路を生成することができ、これにより、装置のよりコンパクトな形態が可能になる。ここでは、ビームは、x方向に対して垂直な平面で偏向されることが好ましい。
【0011】
動的ビーム偏向器は、例えば、二次元ガルバノメータースキャナーの形態の、互いに垂直な軸の周りに旋回(回転)可能な2つのミラーを備えることが好ましい。
【0012】
有利な形態において、変調機構と動的ビーム偏向器との間に第2の光学装置が配置され、それにより、変調機構から出射する部分ビームは、加工平面における部分ビームの相互間隔が、この第2の光学装置を備えない形態よりも縮小又は拡大されるように偏向される。このようにして、加工平面における所望のスポット間隔を設定することができる。さらに、この第2の光学装置により、コリメートされた部分ビームの事前集束又はビーム直径を変更することもできる。このために、第2の光学装置において、入力光学系及び出力光学系を備えるテレスコープを使用することが好ましい。入力光学系と出力光学系との間には、複数のプリズムが更に配置され、それにより、加工平面における部分ビームの相互間隔が対応して縮小又は拡大される。このプリズムも、プリズム集合体の形成によって互いに強固に接続されることが好ましい。これに関して、特に、プリズムは、平行な上辺及び下辺を有する台形状の底面を有し、これらの辺はまた、光軸に対して平行である。個々の部分ビームはまた、第1の光学装置の場合と同様に、それぞれのプリズムを通過する際の2回の屈折によって偏向される。したがって、加工平面内又はワーク上のスポット間隔及びスポットサイズは、それぞれのマルチチャネル音響光学変調器のチャネル間隔とは独立して選択することが可能である。スポットサイズはテレスコープの寸法決定によって設定され、スポット間隔はプリズムの寸法決定によって設定される。
【0013】
提案されるレーザー材料加工用装置により、必要な光学素子のサイズ及び必要な設置空間を同時に削減しながら、例えば超短パルス領域における大きなレーザー出力(1kW超)を効率的に利用することが可能になる。本装置の拡縮性及び柔軟性により、特に表面構造化において産業上の利用可能性が存在する。これには、例えば航空機の翼の摩擦軽減用の機能面の生成、又は圧力ローラーの製造が挙げられる。装置の拡縮性により、より大きなスポットマトリックス(より多数のレーザースポット)によってより大きなレーザー出力をワークにもたらすことができるため、レーザー材料加工の用途の生産性が大幅に増大する。
【0014】
以下、提案される装置を、実施形態に基づいて、図面に関連して更により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】加工平面におけるスポットマトリックスの概略図(a)、及び例としてワークの加工の際の概略図(b)である。
図2】AOMを通過する発散ビーム束の概略図(a)、及びAOM内のビーム束のビームウエストの図(b)である。
図3】従来技術によるレーザー材料加工用装置の側面図(a)、及びこの装置の上面図(b)である。
図4】提案されるレーザー材料加工用装置の例示的な形態の側面図(a)、及びこの装置の上面図(b)である。
図5図4に係る装置におけるプリズムを通るビーム経路の側面図である。
図6図4の(b)と同様の、折り返されたビーム経路を有する提案される装置の一形態の例の上面図である。
図7】提案される装置の第2の光学装置の例示的な形態の側面図である。
図8】提案される装置の動的ビーム偏向器を通るビーム経路を示す例示的な形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
現在利用可能なレーザービーム源の全出力を効率的に利用するために、多くの場合、放射されたレーザービームが複数の部分ビーム1に分割され、それにより、マトリックス状のレーザースポットの二次元配置がワーク(被加工物)2上に得られる。これに関して、図1の(a)は、加工平面における個々の部分ビーム1による二次元スポットマトリックスを例として示している。各ハッチングは、それぞれ、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)によって個別にオンにすることができる部分ビームを示している。図1の(b)には、ワーク2の例示的な加工を示しており、ここでは、マトリックスの各行又はライン(それぞれ1つのハッチング)がワーク2の平面を加工する。マトリックス全体は、x及びyにおける個々の部分ビーム間の距離内で偏向される。任意の構造を加工することができるように、個々の部分ビーム1のそれぞれを別々にオン及びオフに切り替えることができなければならない。しかしながら、このために使用される音響光学変調器において、ビーム偏向の切替え速度及び回折効率は、ビーム直径、ビームとAOMとの間の入射角、及びビームの発散に大きく依存する。
【0017】
このために、図2の(a)は、ブラッグ(Bragg)角で音響光学変調器4に入射し、この変調器によって0次と1次との間で切り替えることができる発散入力ビーム3を示している。発散入力ビームの場合、周縁ビームはブラッグ角から逸脱し、それにより、偏向出力の割合が低減する。部分ビームを音響光学変調器内に導く、従来技術に係るリレー光学系を利用する場合、図2の(b)のビーム3によって示されているように、ビーム直径は、音響光学変調器4の中心において周縁部よりも小さくなる。0次と1次との間の切替え速度は、ビーム直径に依存する。最小ビーム直径は、AOM結晶の損傷閾値によって決まる。音響光学変調器における発散ビーム形成により、損傷閾値を維持しながら切替え速度が増加するか、又は切替え速度が同じままで損傷閾値を超える。
【0018】
図3は、部分ビーム1を平行化するために対応するレンズを備えるリレー光学系7が使用される、従来技術に係るレーザー材料加工用のレーザー装置の一形態を示している。ビーム源5から発出したレーザービーム10は、ビームスプリッター6を通って複数の部分ビームへと二次元的(x方向及びy方向)に分割される。ここで、部分ビーム1は、第1のリレー光学系7によって平行化され、マルチチャネル音響光学変調器4を通して導かれる。次いで、第2のリレー光学系8を介してこれらの部分ビーム1が適切に合成され、2Dスキャナー9を介して加工平面に向けられ、加工平面にわたって導かれる。これに関して、図3の(a)は、この第1の次元(x方向)のマルチチャネル音響光学変調器4を備える装置の側面図を示している。図4の(b)は、この装置の上面図を示しており、ここでは、対応する複数の音響光学変調器4が見て取れる。
【0019】
これに対して、提案される装置には、音響光学変調器4の前に部分ビーム1を平行化するリレー光学系は使用されない。これに関して、図4の(a)は、提案される装置の一例の側面図を示しており、図4の(b)は、上面図を示している。図3の形態における設計に起因して、リレー光学系7のレンズは、構造の全幅の直径を有しなければならないが、提案される装置ではこれはもはや当てはまらない。この例では、図4の(a)における装置の側面図に概略的に示されているように、プリズム集合体11を使用することによって、ビームスプリッター6を通して個々の部分ビーム1が分割される双方の次元(x方向及びy方向)のうちの一方における平行化が行われる。ここでは、いずれの場合も、プリズム12が、それぞれx-z平面に対して垂直に延在するビーム平面の全てのビームを偏向する。図4の(a)に示されているように、全てのプリズム12が合体して、1つの光学部材、すなわちプリズム集合体11をなす。このプリズム集合体11によって、平行化に際して、音響光学変調器4における部分ビームの必要なコリメーションが維持される。
【0020】
ビーム源5から発出して、コリメートされた生ビーム10は、ビームスプリッター6のビーム分割要素によって、二次元ビームマトリックスへと分割される。ビーム直径を低減するために、全てのビームを同時に縮小するアフォーカルテレスコープ13が使用される。ビームは、コリメートされて第1のテレスコープ13から出射するが、マトリックス展開の双方向に発散し、すなわち、互いに平行ではない。完全なビーム分離のために、ビームマトリックスは、空間内を自由に伝播する。ビームマトリックスのビーム平面ごとに、プリズム集合体11の個々のプリズム12が後続し、プリズム集合体11は、この平面のビームを、音響光学変調器4の入射平面に対して垂直に音響光学変調器4に入射するように偏向する。これは、プリズム集合体11とマルチチャネル音響光学変調器4とを備える装置の側面図を示す図5に概略的に示されている。
【0021】
プリズム集合体11は、第1の次元(x方向)の全ての部分ビーム1を平行化する一方で、図4の(b)に示されているように、第2の次元(y方向)の部分ビームは、音響光学変調器4の方向に更に発散する。この第2の次元における音響光学変調器4の結晶に対する部分ビーム1の最適な入射角を維持するために、個々の音響光学変調器4は、この次元において適切に位置合わせ及び配置することができる。
【0022】
音響光学変調器4は、ビーム経路を折り返すことによって装置の光学系全体の長さを低減するために、90度回転し、伝播軸(図6の一点鎖線)に対して垂直に配置することもできる。図6において、提案される装置の上面図に例として示されているように、適切に配置された偏向要素、例えば、偏向ミラー16によって、部分ビーム1のビーム偏向が行われる。
【0023】
音響光学変調器4を通過した後、部分ビーム1は、第2のテレスコープ15によって、再びそのビーム直径に好適に適合し、好ましくは拡大され、2Dスキャナー9の後に配置された集束光学系によって、加工平面において可能な限り小さな焦点を達成するようにする。集束光学系は、図4には示されていない。さらに、加工平面の個々のレーザースポットの間隔を第2のテレスコープ15とは独立して設定することができるように、第2のプリズム集合体14も使用される。
【0024】
第2のテレスコープ15と第2のプリズム集合体14とをこうして組み合わせることにより、ワーク上又は加工平面内のスポット直径及びスポット間隔の相反する条件を、音響光学変調器におけるビーム直径及びビーム間隔と一致させることが可能になる。また、プリズム集合体14は、第2のテレスコープ15に統合されることが有利である。このテレスコープ15は、既知の方法で入力光学系17及び出力光学系18を備え、入力光学系と出力光学系との間に第2のプリズム集合体14が統合される。このために、第2のプリズム集合体14と第2のテレスコープ15とは、互いに好適に適合させなければならない。この第2のプリズム集合体14の統合により、加工平面内のスポット間隔をビーム直径とは独立して設定することができる更なる自由度が生じる。図7は、本装置の対応する側面図を示している。音響光学変調器から、部分ビーム1がコリメートされ、平行に出射する。第2のテレスコープ15内にプリズム集合体14を統合することにより、入力光学系17及び出力光学系18(及びその間隔)の寸法決定によってスポット直径を、また、プリズム集合体14の寸法決定によってスポット間隔を、互いに独立して設定することができる。
【0025】
既に図4に概略的に示されているように、この第2のテレスコープ15の後ろで、二次元スキャナー9がビームマトリックス全体を偏向する。図8は、既知の方法で、互いに垂直な軸の周りに旋回(回転)可能な2つのミラー(以下、X’スキャナー20及びY’スキャナー21と称する)から形成される、この2Dガルバノメータースキャナー9の詳細図を示している。図8において、このスキャナーの側面図(図8の(a))、上面図(図8の(b))、及び正面図(図8の(c))が、ここでは概略的に示されている。スキャナー9と加工平面との間で、対物レンズ(集束光学系19)により、部分ビーム1が加工平面内又はワーク上に集束する。本形態において、第2のテレスコープ15は、双方の偏向ミラーの間、すなわち、X’スキャナー20とY’スキャナー21との間に全ての部分ビーム1の交点22があるように寸法決定される。この交点22は、図8に示されている。この形態により、ビーム偏向によって引き起こされる加工平面における対応する収差が回避される。
【符号の説明】
【0026】
1 部分ビーム
2 ワーク
3 発散入力ビーム
4 音響光学変調器(AOM)
5 ビーム源
6 ビームスプリッター
7 AOMの前のリレー光学系
8 AOMの後のリレー光学系
9 2Dスキャナー
10 コリメートされたレーザービーム
11 第1のプリズム集合体
12 プリズム
13 第1のテレスコープ
14 第2のプリズム集合体
15 第2のテレスコープ
16 偏向ミラー
17 入力光学系
18 出力光学系
19 集束光学系
20 X’スキャナー
21 Y’スキャナー
22 ビーム交点
図1a)】
図1b)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8a)】
図8b)】
図8c)】
【国際調査報告】