(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】電解触媒インク
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20240604BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240604BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240604BHJP
【FI】
H01M4/88 Z
H01M4/88 K
H01M4/86 B
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023563297
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-22
(86)【国際出願番号】 GB2022051434
(87)【国際公開番号】W WO2022258965
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス ボナストル、アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】マリン フロリド、ダニエル
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB11
5H018BB12
5H018EE03
5H018EE08
5H018EE10
5H018EE11
5H018EE12
5H018EE16
5H018EE18
5H126AA05
5H126BB06
(57)【要約】
本発明は、電解触媒インクを調製する方法を提供し、本方法は、分散液を分離材料と接触させる工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解触媒インクを調製する方法であって、前記方法が、
i)電解触媒材料、イオン伝導性材料、及び希釈剤を含む分散液を調製する工程と、次いで、
ii)前記分散液を、固体担体上に固定化されたピコリン酸エステル官能基又はピコリン酸アミド官能基を含む分離材料と接触させる工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記イオン伝導性材料が、プロトン伝導性アイオノマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解触媒材料が、白金族金属であるか、又は卑金属と白金族金属の合金である、電解触媒を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電解触媒が、担持材料上に担持されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程i)が、前記分散液中の凝集体を破壊する工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分散液中の凝集体を破壊する前記工程が、ボールミリングによって実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程ii)が、工程ii)で調製された前記分散液中に前記分離材料を分散させることを含み、前記方法が、前記分散液を濾過して、前記分離材料を除去する工程iii)を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分散液が、工程ii)において撹拌される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程ii)が、前記分離材料で充填されたカラムに前記分散液を通過させることを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程ii)が、前記分離材料を含有する容器を前記分散液中に入れることを含み、前記容器が、前記分散液に対しては透過性であるが、前記分離材料に対しては透過性ではない、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
電解触媒層を基材に適用する方法であって、前記方法が、
i)請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって電解触媒インクを調製する工程と、次いで、
ii)前記電解触媒インクを前記基材上に適用し、前記インクを乾燥させて、電解触媒層を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって取得可能な電解触媒層。
【請求項13】
ガス拡散電極を調製する方法であって、前記方法が、請求項11に記載の方法に従って、電解触媒層を基材に適用することを含み、前記基材が、ガス拡散層の面である、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法によって取得可能なガス拡散電極。
【請求項15】
触媒デカール転写基材を調製する方法であって、前記方法が、請求項11に記載の方法に従って電解触媒層を基材に適用することを含み、前記基材が、デカール転写基材の面である、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法によって取得可能な触媒デカール転写基材。
【請求項17】
触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する方法であって、前記方法が、請求項11に記載の方法に従って電解触媒層を基材に適用することを含み、前記基材が、イオン伝導性膜の面である、方法。
【請求項18】
触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する方法であって、前記方法が、請求項15に記載の方法に従って調製された触媒デカール転写基材からのデカール転写によって、電解触媒層をイオン伝導性膜に適用することを含む、方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の方法によって取得可能な触媒コーティングされたイオン伝導性膜。
【請求項20】
膜電極接合体を調製する方法であって、前記方法が、
i)請求項16に記載の方法に従ってガス拡散電極を調製する工程と、
ii)工程i)において調製された前記ガス拡散電極をイオン伝導性膜の面に適用する工程と、を含む、方法。
【請求項21】
膜電極接合体を調製する方法であって、前記方法が、
i)請求項17又は18に記載の方法に従って、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する工程と、
ii)ガス拡散層を前記電解触媒層に適用する工程と、を含む、方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の方法によって取得可能な膜電極接合体。
【請求項23】
請求項22に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解触媒インクを調製する方法を提供する。電解触媒インクは、高性能な膜電極接合体の電解触媒層を調製するために使用される。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学電池である。燃料、例えば、水素、メタノール若しくはエタノールなどのアルコール、又はギ酸が、アノードに供給され、酸化剤、例えば、酸素又は空気が、カソードに供給される。電気化学反応が電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーが電気エネルギー及び熱に変換される。電解触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、使用される電解質の性質に応じて分類される。多くの場合、電解質は固体ポリマー膜であり、この膜は、電子的に絶縁性であるがイオン伝導性である。プロトン交換膜燃料電池(proton exchange membrane fuel cell、PEMFC)において、イオン伝導性膜は、プロトン伝導性であり、アノードで生成されたプロトンは、イオン伝導性膜を横切ってカソードに輸送され、ここでプロトンは、酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEMFCの主な構成要素は、5つの層から本質的になる膜電極接合体である。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜の両面には、特定の電解反応用に設計された電解触媒を含有する電解触媒層が存在する。最後に、各電解触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電解触媒層に到達できるようにする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は、多孔質であり、導電性である必要がある。
【0005】
電解触媒層はまた、概して、プロトン伝導性ポリマーなどのプロトン伝導性材料を含み、アノード電解触媒からイオン伝導性膜への、及び/又はイオン伝導性膜からカソード電解触媒へのプロトンの移動を補助する。
【0006】
従来、膜電極接合体は、多くの方法によって構築することができる。典型的には、本方法は、電解触媒層の一方又は両方をイオン伝導性膜に適用して、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成することを伴う。その後、ガス拡散層を電解触媒層に適用する。代替的に、電解触媒層をガス拡散層に適用して、ガス拡散電極を形成し、次いで、イオン伝導性膜と組み合わせる。膜電極接合体は、これらの方法の組み合わせ、例えば、一方の電解触媒層をイオン伝導性膜に適用して、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成し、他方の電解触媒層をガス拡散電極として適用することによって調製することができる。電解触媒層は、従来、電解触媒材料、イオン伝導性ポリマー、溶媒及び/又は希釈剤、並びに電解触媒層内に含まれることが望ましい任意の薬剤を含む電解触媒インクを使用して適用される。
【0007】
電解触媒層は、概して、層がアノード又はカソードのどちらにおいて使用されるかに応じて、燃料酸化又は酸素還元反応に好適な金属又は金属合金を含む電解触媒材料を含む。燃料酸化及び酸素還元のための電解触媒は、通常、白金又は1つ以上の他の金属と合金化された白金に基づく。白金又は白金合金電解触媒は、担持されていないナノメートルサイズの粒子(例えば、金属ブラック)の形態であり得るか、又は担持材料(担持電解触媒)上に別個の非常に高い表面積のナノ粒子として堆積され得る。電解触媒はまた、担持材料上に堆積されたコーティング又は伸長フィルムの形態であってもよい。
【0008】
白金二成分合金、白金、単層電解触媒、白金皮膚電解触媒、及びナノ構造薄膜(nanostructured thin-film、NSTF)電解触媒などの広範囲の電解触媒概念が調査されてきた。報告された高活性電解触媒への別のアプローチは、脱合金化Pt-M概念のもの、すなわち、粒子表面からの卑金属の選択的浸出プロセスに供される、卑金属(M)リッチ粒子の合成によって取得される材料である。得られた、脱合金化された電解触媒粒子の白金リッチのシェルは、電子効果を介して、高活性酸素還元反応(oxygen reduction reaction、ORR)触媒をもたらす圧縮ひずみを呈する。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らは、膜電極接合体の調製中に電解触媒層に入る卑金属汚染物質を除去することによって、膜電極接合体の性能を改善することができることを実証した。例えば、卑金属種は、酸性イオン伝導性ポリマーの存在下で、凝集体の破壊に起因して、電解触媒インクの調製中に卑金属と白金族金属の合金から浸出し得る。これは、膜電極接合体の予想される電気化学性能よりも低い電気化学性能をもたらし得る。汚染卑金属種はまた、合金電解触媒を含まない電解触媒層中にも存在し得る。汚染物質は、例えば、電解触媒を作製するために使用される製造プロセスから、又はイオン伝導性ポリマーの製造中に生じ得る。したがって、卑金属種で汚染された膜電極接合体の性能を改善する必要性が特定された。
【0010】
したがって、第1の態様では、本発明は、電解触媒インクを調製する方法を提供し、本方法は、
i)電解触媒材料、イオン伝導性材料、及び希釈剤を含む分散液を調製する工程と、次いで、
ii)分散液を、固体担体上に固定化されたピコリン酸エステル官能基又はピコリン酸アミド官能基を含む分離材料と接触させる工程と、を含む。
【0011】
電解触媒インクは、電解触媒材料、イオン伝導性材料、及び希釈剤を含む分散液であり、乾燥すると、電解触媒層、好ましくは、燃料電池膜電極接合体中の電解触媒層、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池を形成する。したがって、本発明の第1の態様は、燃料電池電解触媒層、好ましくはプロトン交換膜燃料電池触媒層のための電解触媒インクを調製する方法であってもよい。
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、この方法によって作製されたインクを使用して調製された電解触媒層を含有する膜電極接合体が、工程ii)を含まない方法によって調製された電解触媒層を含有する膜電極接合体と比較して、改善された電気化学性能を呈し得ることを見出した。
【0013】
第2の態様では、本発明は、電解触媒材料、イオン伝導性材料、固体担体上に固定化されたピコリン酸エステル官能基又はピコリン酸アミド官能基を含む分離材料、及び希釈剤を含む分散体を提供する。かかる分散液は、本発明の第1の態様の方法の一部として調製される。
【0014】
第3の態様では、本発明は、電解触媒層を基材に適用する方法を提供し、本方法は、
i)本発明の第1の態様の方法によって電解触媒インクを調製する工程と、次いで、
ii)電解触媒インクを当該基材上に適用し、インクを乾燥させて、電解触媒層を形成する工程と、を含む。第4の態様では、本発明は、この方法によって取得可能な電解触媒層を提供する。
【0015】
第5の態様では、本発明は、ガス拡散電極を調製する方法を提供し、本方法は、本発明の第3の態様の方法に従って、電解触媒層を基材に適用することを含み、当該基材は、ガス拡散層である。第6の態様では、本発明は、この方法によって取得可能なガス拡散電極を提供する。
【0016】
第7の態様では、本発明は、触媒デカール転写基材を調製する方法を提供し、本方法は、本発明の第3の態様の方法に従って、電解触媒層を基材に適用することを含み、基材は、デカール転写基材の面である。第8の態様では、本発明は、この方法によって取得可能な触媒デカール転写基材を提供する。
【0017】
第9の態様では、本発明は、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する方法を提供し、本方法は、本発明の第3の態様の方法に従って、電解触媒層を基材に適用することを含み、当該基材は、イオン伝導性膜の面である。第10の態様では、本発明は、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する方法を提供し、本方法は、本発明の第7の態様の方法に従って調製された触媒デカール転写基材からのデカール転写によって、電解触媒層をイオン伝導性膜に適用することを含む。第11の態様では、本発明は、これらの方法によって取得可能な触媒コーティングされたイオン伝導性膜を提供する。
【0018】
第12の態様では、本発明は、膜電極接合体を調製する方法を提供し、本方法は、
i)本発明の第5の態様の方法に従ってガス拡散電極を調製する工程と、
ii)工程i)において調製されたガス拡散電極をイオン伝導性膜の面に適用する工程と、を含む。第13の態様では、本発明は、この方法によって取得可能な膜電極接合体を提供する。
【0019】
第14の態様では、本発明は、膜電極接合体を調製する方法を提供し、本方法は、
i)本発明の第9又は第10の態様の方法に従って、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する工程と、
ii)ガス拡散層を電解触媒層に適用する工程と、を含む。第15の態様では、本発明は、この方法によって取得可能な膜電極接合体を提供する。
【0020】
第16の態様では、本発明は、本発明による膜電極接合体を備える燃料電池を提供する。好ましくは、燃料電池は、プロトン交換膜燃料電池である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
これより、本発明の好ましいかつ/又は任意選択的な特徴が、記載される。本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせで、組み合わせることができる。
【0022】
実体が「本発明の」と呼ばれるとき(非限定的な例は、「本発明の電解触媒層」である)、これは、実体が本発明の対応する方法によって調製されるか、又は本発明の対応する方法によって取得可能であることを意味する。そのため、本発明の電解触媒層は、例えば、本発明の第3の態様の方法によって調製される電解触媒層であるか、又は本発明の第3の態様の方法によって取得可能な電解触媒層(すなわち、本発明の第4の態様)である。
【0023】
電解触媒は、アノード又はカソード電解触媒であってもよく、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池電解触媒である。したがって、電解触媒は、水素酸化反応(アノード)又は酸素還元反応(カソード)の電解触媒であり得る。電解触媒材料は、好ましくは白金族金属又は卑金属と白金族金属の合金、好ましくは卑金属と白金族金属の合金である電解触媒を含む。白金族金属としては、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウムが挙げられる。白金族金属及び合金電解触媒の両方において、好ましい白金族金属は、白金、パラジウム及びロジウムであり、最も好ましくは、白金である。卑金属は、貴金属ではないスズ又は遷移金属である。貴金属は、白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、若しくはオスミウム)、又は金である。合金電解触媒中の好適な卑金属は、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄、チタン、モリブデン、バナジウム、マンガン、ニオブ、タンタル、クロム、及びスズである。合金電解触媒中の好ましい卑金属としては、ニッケル、銅、コバルト、及びクロムが挙げられる。より好ましい卑金属は、ニッケル、コバルト、及び銅である。最も好ましい卑金属は、ニッケルである。合金電解触媒中の白金族金属の卑金属に対する比は、典型的には、3:1~1:3の範囲内(その上限及び下限を含む)である。合金電解触媒は、脱合金化された電解触媒であり得る。言い換えれば、電解触媒の表面における卑金属の白金族金属に対する原子組成は、電解触媒のバルク中の卑金属の白金族金属に対する原子組成よりも低く、バルクは、電解触媒の総組成である。例えば、電解触媒の表面における卑金属の白金族金属に対する原子組成は、電解触媒のバルク中の卑金属の白金族金属に対して、原子組成の20~99%、20~70%、又は30~55%の範囲内(その上限及び下限を含む)であり得る。
【0024】
電解触媒は、担持されていてもよく、又は担持されていなくてもよい。したがって、電解触媒は、担持材料上に担持されていてもよい。言い換えれば、電解触媒材料は、担持材料上に担持された電解触媒からなり得る(又は電解触媒のみを含み得る)。「担持される」という用語は、当業者によって容易に理解されるであろう。例えば、「担持される」という用語は、担持材料上に分散されており、かつ物理的若しくは化学的結合によって担持材料に結合されるか、又は固定されている電解触媒を含むことが理解されるであろう。例えば、電解触媒は、イオン結合若しくは共有結合、又はファンデルワールス力などの非特異的相互作用によって担持材料に結合又は固定されてもよい。
【0025】
担持材料は、例えば、市販のカーボンブラック(Cabot Corp.(Vulcan(登録商標)XC72R)若しくはAkzo Nobel(Ketjen(登録商標)ブラックシリーズ)など)又はこれらのカーボンブラック若しくはアセチレンブラックなどの他の市販のカーボンブラック(例えば、Chevron Phillips(Shawinigan Black(登録商標))又はDenkaから入手可能なもの)の黒鉛化バージョンであり得る、炭素担持材料、例えば、炭素粉末であり得る。担持材料はまた、国際公開第2013/045894号に記載されているものなど、燃料電池において使用するために、特別に設計されているものでもよい。
【0026】
代替的に、担持材料は、金属酸化物又は混合酸化物、特に、ニオビアドープチタニア、リンドープスズ酸化物及び混合白金族金属酸化物又は混合金属酸化物(国際公開第2012/080726号に開示される)などの導電性混合酸化物、炭化物(例えば、タングステンカーバイド、モリブデンカーバイド又はチタンカーバイド、好適にはタングステンカーバイド又はチタンカーバイド)、窒化物、特に導電性窒化物(例えば、窒化チタン又は窒化チタンアルミニウム)であり得る。
【0027】
電解触媒が担持材料上に担持されるとき、電解触媒担持量は、活性金属の重量パーセント、例えば、白金族金属の重量パーセントに関して表されてもよく、これは、誘導結合プラズマ質量分析(inductively coupled plasma mass spectrometry、ICPMS)を使用して決定することができる。担持量は、好適には、電解触媒及び担体の総重量に基づいて、少なくとも10重量%の白金族金属、典型的には、少なくとも20重量%の白金族金属であり得る。電解触媒担持量は、電解触媒及び担持材料の総重量に基づいて、好適には、90重量%以下の白金族金属、典型的には60重量%以下の白金族金属、例えば、50重量%以下の白金族金属であり得る。
【0028】
分離材料と接触した後の、及び必要な場合、分離材料の除去後の電解触媒インクの固形分は、特に限定されず、インクから電解触媒層を調製するために使用される印刷方法に依存する。固形分は、電解触媒材料、イオン伝導性材料、及び存在する任意の他の固体を含む。例えば、固形分は、電解触媒インクの総重量に基づいて25重量%以下、好適には少なくとも5重量%であり得る。特に、スクリーン印刷のために使用される電解触媒インクは、好適には20~25重量%の範囲内(その上限及び下限を含む)で固体を含有してもよく、スロットダイ印刷において使用される電解触媒インクは、好適には10~15重量%の範囲内(その上限及び下限を含む)で固体を含有してもよく、グラビア印刷において使用される電解触媒インクは、好適には10重量%以下の固体を含有し得る。
【0029】
イオン伝導性材料は、好適には、プロトン伝導性アイオノマーである。当業者は、アイオノマーが、電気的に中性の繰り返し単位と、側鎖を介してポリマー主鎖に共有結合されたイオン化可能な繰り返し単位の両方から構成されるポリマーであることを理解している。イオン伝導性材料は、パーフルオロスルホン酸(例えば、Nafion(登録商標)(Chemours Company)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.))などのアイオノマー、又はFuMA-Tech GmbHから入手可能なfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズの製品、JSR Corporation、Toyobo Corporationなどから入手可能なものなどの、スルホン化若しくはホスホン化されたポリマーである部分的にフッ素化又は非フッ素化炭化水素に基づくアイオノマーを含み得る。好適には、アイオノマーは、好ましくは、600~1200の範囲内(その上限及び下限を含む)のEWを有するパーフルオロスルホン酸であり、ここで、EW、つまり当量は、材料が酸形態にあるときのスルホン酸基1モル当たりの乾燥ポリマーのグラム数である。特定のパーフルオロスルホン酸アイオノマーは、Chemours社から入手可能なNafion(登録商標)の範囲、特に Nafion(登録商標)1100EW及びDE2020CS、Solvayから入手可能なAquivion(登録商標)の範囲、特に830EWを含む。イオン伝導性材料は好適には塩の形態ではなく、すなわち遊離酸として存在する。
【0030】
分散液はまた、希釈剤も含む。好適な希釈剤は、有機溶媒及び水、好ましくは1つ以上の有機溶媒と水との混合物を含む。しかしながら、水のみを希釈剤として使用してもよい。希釈剤の量は特に限定されず、インクから電解触媒層を調製するために使用される印刷方法に依存する。したがって、上で考察される、所望の固形分に対して調整されることになる。好適な有機溶媒は、アルコール系溶媒、好ましくはプロパノール又はエタノール、例えばプロパン-1-オールである。有機溶媒と水との混合物では、希釈剤の総重量に基づく有機溶媒の重量パーセントは、好適には85重量%以下及び少なくとも10重量%である。混合物が5重量%以下の有機溶媒、例えば1重量%以下を含有し、残りが水であるとき、分散液はまた、国際公開第2006/233187号に記載されるような鉱酸も含み得る。希釈剤の特定の例は、プロパン-1-オールと水の混合物、例えば、約80重量%のプロパン-1-オールを含有するプロパン-1-オールと水との混合物である。希釈剤の代替例は、例えば、10~50重量%、好適には、約25重量%のエタノールを含有する、エタノールと水との混合物である。希釈剤の代替例は、例えば、5~15重量%、好適には約10重量%のエタノール、及び50~70重量%、好適には約70重量%のプロパン-1-オール、残りが水の、エタノールよりも多くのプロパン-1-オールを含有し得る、エタノール、プロパン-1-オール、及び水の混合物である。
【0031】
分散液のpHは、イオン伝導性材料の性質に依存し、典型的には3未満、又は2.5未満である。典型的には、pHは、0より大きい。例えば、分散液のpHは、約2であってもよい。
【0032】
凝集体粒子の破壊は、好ましくは、高剪断混合、ミリング、ボールミリング、マイクロ流動化剤の通過、又はこれらの組み合わせなどの、当該技術分野で既知の方法によって、分離材料と接触する前に実施される。凝集体は、例えば、電解触媒材料が担持材料上に担持されているとき、緩く保持された個々の担体粒子又は弱い力によってともに保持された凝集体を含んでいてもよく、かかる低エネルギー撹拌によって個々の担体粒子又は凝集体に容易に破壊することができる。電解触媒が担持されていないとき、電解触媒の凝集体も形成する場合があり、かかる凝集体も、容易に分解することができる。
【0033】
本発明で使用される分離材料は、固体担体上に固定化されたピコリン酸アミド官能基、例えばピコリンアミド官能基、又はピコリン酸エステル官能基を含む。好ましくは、ピコリン酸アミド官能基、例えば、ピコリンアミド官能基。官能基は、共有結合リンカーを介して固体担体に接続され得る。例えば、ピコリンアミド官能基及び固体担体へのその接続は、式1によって示され得る。
【0034】
【化1】
式中、Lは、共有結合リンカーであり、Rは、H、又は任意選択的に置換された分枝鎖若しくは直鎖のC1~C6アルキルである。
【0035】
共有結合リンカー(例えば、L)の性質は、特に限定されない。C原子のうちの1個又は2個が任意選択的にヘテロ原子で置き換えられている、任意選択的に置換されたC1~C6アルキルであってもよい。ヘテロ原子は、O、N、S又はSi、典型的にはO又はN、典型的にはOから選択されてもよい。共有結合リンカーは、C1~C6アルキルであってもよい。
【0036】
Rは、典型的にはH又はC1~C6直鎖アルキル、例えば、H又はC1~3直鎖アルキルである。Rは、好ましくはHであってもよい。
【0037】
ピコリンアミド官能基は、2-ピコリンアミド、3-ピコリンアミド又は4-ピコリンアミド、好ましくは、低pHでニッケルをキレート化する2-ピコリンアミドであってもよい。
【0038】
2-ピコリンアミド及び固体担体へのその接続は、式2によって示され得る。
【0039】
【化2】
式中、Lは、共有結合リンカーであり、Rは、H、又は既に記載したような、任意選択的に置換された分枝鎖若しくは直鎖のC1~C6アルキルである。
【0040】
分離材料は、少なくとも10mg g-1のニッケル担持容量を有する。ニッケル担持容量は、pH2.0で200ppmのNi濃度を有する20mLの硫酸Ni溶液を0.062gの分離材料と接触させ、25℃で18時間撹拌することによって決定し得る。溶液中に残存するNiの濃度をICP-OESによって決定し、分離材料と接触させなかったブランク溶液と比較して、分離材料上に担持されたNiの質量(Ni担持容量)を決定する。
【0041】
固体担体は、典型的には、ポリマー又は樹脂固体担体である。ビーズの形態であってもよい。担体は、多孔質であってもよい。特に好適な固体担体は、シリカである。理論に束縛されることを望まないが、シリカ担体は、ピコリンアミド官能基のための高密度の接続点を提供し、Niのための高密度の結合部位を提供し、それによって、高いNi容量を有する分離材料を提供すると考えられる。他の適切な固体担体としては、任意選択的に架橋されたメタクリレートポリマー固体担体、シリカ-ポリマー複合体固体担体、及びポリスチレンが挙げられる。
【0042】
ピコリン酸アミド官能基を含む分離材料は、固体担体上にアミン官能基(好ましくは一級アミン)を提供し、ピコリン酸と反応させることを含む方法によって調製され得る。固体担体は、上で定義した通りであってよい。ピコリン酸との反応は、1,1’-カルボニルジイミダゾールの存在下で行われてもよい。ピコリン酸との反応は、例えば還流条件下で、少なくとも5時間、10時間、又は15時間行われてもよい。
【0043】
分離材料は、例えば、遊離卑金属種を吸着させることによって、分散液から遊離卑金属種(例えば、電解触媒の一部を形成しない卑金属)を除去する。したがって、本発明の第1の態様の工程ii)は、分散液を、固体担体上に固定化されたピコリン酸エステル官能基又はピコリン酸アミド官能基を含む分離材料と接触させて、分散液から遊離卑金属種の量を減少させる、すなわち、遊離卑金属種の量を少なくとも50%、少なくとも25%、又は少なくとも10%減少させる、好ましくは実質的に全ての遊離卑金属種を除去する工程である。卑金属は、貴金属ではないスズ又は遷移金属である。貴金属は、白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、若しくはオスミウム)、又は金である。好適な卑金属は、鉄、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄、チタン、モリブデン、バナジウム、マンガン、ニオブ、タンタル、クロム、及びスズである。分離材料と接触させる前の分散液中の遊離卑金属種の量は、特に限定されず、例えば、3000ppm以下、好適には2500ppm以下であり得る。分離材料は、卑金属種を吸着することができる。特に、例えばニッケル及びコバルト、好ましくはカチオン、例えばNi2+、Co2+のもの。分離材料は、特にニッケル種、好ましくはカチオン、例えばNi2+を吸着することができる。したがって、分散液から除去される遊離卑金属種は、好適には、ニッケル及びコバルト、好ましくはカチオン、例えばNi2+、Co2+、特にニッケル種、好ましくはカチオン、例えばNi2+であってもよい。本発明の要件ではないが、卑金属種は、合金電解触媒の意図しない浸出又は他の方法で生じ得る。例えば、遊離ニッケル及びコバルト種は、電解触媒材料、イオン伝導性材料、及び希釈剤を含む分散液の調製中に行われる凝集体破壊工程中に、ニッケル又はコバルトを有する白金族金属の合金である電解触媒の浸出から生じ得る。
【0044】
好適には、分離材料は、白金族金属を吸着せず、そのため分散液から白金族金属を分離せず、例えば、分離材料は、結合した金属種及び分離材料の総重量に基づいて、0.05重量%未満の白金族金属、好ましくは0.02重量%未満の白金族金属を吸着し得る。
【0045】
使用される分離材料の量は、分離材料の電解触媒材料に対する重量比で表すことができる。使用される量は、特に限定されないが、電解触媒材料に関して比較的少量が使用され得るということが有利である。好適には、分離材料の電解触媒材料に対する重量比は、1:20~1:1、好ましくは1:20~1:3、より好ましくは1:20~1:5の範囲内(その上限及び下限を含む)である。
【0046】
分離材料は、分離材料を分散液中に分散させることによって、分散液と接触させてもよい。分離材料を除去するために、分散液を濾過することができる。好ましくは、必要ではないが、分離材料を含有する分散液は、撹拌される。分散液が撹拌される方式は特に限定されず、当業者は、好適な撹拌方法、例えば、撹拌又はバレルローリングを認識するであろう。好ましい方法は、バレルローリングである。分散液は、72時間以下、例えば、48時間以下、好ましくは24時間以下の間、好適に撹拌される。分散液は、少なくとも1時間、好適に撹拌される。典型的には、分離材料は、電解触媒インクが電解触媒層の形成のために必要とされる時点で除去され、例えば、電解触媒インクが調製され、瞬時に使用される。しかしながら、これは必須要件ではなく、電解触媒インクの寿命内で電解触媒層を形成する前のいつでも、分離材料を除去することができる。インクを損傷する可能性があり、加熱は必要ない。
【0047】
代替的に、分離材料を充填したカラムに分散液を通すことによって、分離材料を分散液と接触させてもよい。好ましくは、分散液がかかるカラムを通過するときに、追加の希釈剤は添加されない。カラムのサイズ、使用される圧力及び分散液と分離材料と間の接触時間は、特に限定されず、当業者は、例えば、分散液の質量、成分、及び固形分に基づいて、適切な条件を特定することができるであろう。
【0048】
代替的に、分離材料を含有する容器を分散液中に入れることによって、分離材料を分散液と接触させてもよく、容器は、分散液に対しては透過性であるが、分離材料に対しては透過性ではない。したがって、分離材料は、分散液中に分散されない。むしろ、分散液は、容器の透過性壁を通って入り、それが容器内に留まる間に分離材料と接触する。有利には、濾過工程が必要とされず、分離材料を含有する容器は、必要な時間に、単に分散液から除去することができる。容器の属性は特に限定されず、例えば、分散液に対しては透過性であるが、分離材料に対しては透過性ではない正しい寸法の開口を有する密封されたメッシュバッグであり得る。例えば、容器は、熱密封可能なポリエチレン又はポリプロピレンメッシュを使用して調製され得る。容器が分散液中にある間、分散液は撹拌されてもよく、当業者は、好適な撹拌方法、例えば、撹拌又はバレルローリングを認識するであろう。
【0049】
分散液と分離材料との間の接触は、周囲温度、例えば、20~25℃の範囲内(その上限及び下限を含む)で実行することができ、インクを損傷する可能性がある加熱を必要としないということが有利である。また、本発明の利点は、分散液の自然pHを変える必要なく実現できること、すなわち、分離材料が3未満のpHで卑金属種を吸着することである。
【0050】
電解触媒インクは、好ましくは分離材料と接触した後に添加される追加の構成要素を含み得る。そのような構成要素としては、酸素発生触媒、過酸化水素分解触媒、反応物及び水輸送特性を制御するための疎水剤(例えば、表面処理を伴うか又は伴わない、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)又は無機固体などのポリマー)又は親水剤(例えば、酸化物などのポリマー又は無機固体)が挙げられるが、これらに限定されない。追加の構成成分の選択は、インクを使用して調製される電解触媒層の用途に応じて決定する当業者の能力の範囲内である。任意の追加の固体構成要素が、本明細書に列挙される電解触媒インク固形分内に含まれる。
【0051】
本発明の第3の態様はまた、電解触媒層を調製する方法として考慮に入れられ得る。本発明の第3の態様では、電解触媒インクは、当業者に知られている任意の好適な技術によって基材に適用され得る。かかる技術としては、限定されるものではないが、グラビアコーティング、スロットダイ(スロット、押出)コーティング、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、インクジェット印刷、スプレー、塗装、バーコーティング、パッドコーティング、ナイフ又はドクターブレードオーバーロールなどのギャップコーティング技術、及び計量ロッドの適用が挙げられる。適用された電解触媒インクは、乾燥によって電解触媒層に形成される。乾燥方法は、特に限定されず、当業者は好適な方法を特定することができるであろう。例えば、電解触媒インクは、50~250℃の範囲内(その上限及び下限を含む)の温度まで加熱されてもよい。
【0052】
電解触媒層は、好ましくはプロトン交換膜燃料電池のカソード又はアノードであり得る。電解触媒層の特性、例えば、厚さ、電解触媒担持量、多孔率、細孔径分布、平均細孔径、及び疎水性は、それがアノード又はカソードのどちらで使用されているかに依存する。特に、電解触媒層は、カソードで使用されるためのものである。プロトン交換膜燃料電池のアノードにおいて、電解触媒層の厚さは、好適には少なくとも1μm、典型的には少なくとも5μmである。アノードにおいて、電解触媒層の厚さは、好適には15μm以下、典型的には10μm以下である。プロトン交換膜燃料電池のカソードにおいて、電解触媒層の厚さは、好適には少なくとも2μm、典型的には少なくとも5μmである。カソードにおいて、電解触媒層の厚さは、好適には20μm以下、典型的には15μm以下である。
【0053】
電解触媒層における電解触媒担持量はまた、意図される用途に依存するであろう。この文脈では、電解触媒担持量は、電解触媒層中の活性金属、例えば、白金族金属の量を意味する。したがって、電解触媒が白金の合金であるとき、電解触媒担持量は、mg/cm2として表される単位面積当たりの白金の量である。燃料電池カソードにおいて、電解触媒担持量は、好適には少なくとも0.05mg/cm2、例えば、0.7mg/cm2以下、好ましくは0.3mg/cm2.以下である。燃料電池アノードにおいて、電解触媒層中の白金の担持量は、好適には少なくとも0.02mg/cm2、例えば、0.2mg/cm2以下、好ましくは0.15mg/cm2以下である。
【0054】
本発明の第5の態様では、電解触媒インクは、ガス拡散層上に堆積されて、本発明のガス拡散電極、すなわち、本発明の電解触媒層と組み合わされたガス拡散層を形成し得る。ガス拡散層は、ガス拡散基材を含み、好ましくは、微多孔質層を含む。微多孔質層が存在するとき、電解触媒インクは、微多孔質層上に堆積される。典型的なガス拡散基材としては、炭素繊維のネットワーク及び熱硬化性樹脂結合剤を含む不織布紙若しくはウェブ(例えば、Toray Industries Inc., Japanから入手可能な炭素繊維紙のTGP-Hシリーズ、若しくはFreudenberg FCCT KG、Germanyから入手可能なH2315シリーズ、若しくはSGL Technologies GmbH、Germanyから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、若しくはBallard Power Systems Inc.製のAvCarb(登録商標)シリーズ)、又は炭素繊維布が挙げられる。炭素紙、ウェブ、又は布は、電極の製造前に前処理を施し、それをより湿潤性(親水性)又はより耐湿潤性(疎水性)のいずれかにするために膜電極接合体に組み込まれ得る。任意の処理の性質は、燃料電池の種類及び使用される動作条件により異なる。基材は、液体懸濁液からの含浸による非晶質カーボンブラックなどの材料を組み込むことにより、湿潤性を高めることができ、又はPTFE若しくはポリフルオロエチレンプロピレン(polyfluoroethylenepropylene、FEP)などのポリマーのコロイド懸濁液で基材の細孔構造を含浸させ、続いてポリマーの融点を超えて乾燥及び加熱することによって、疎水性を高めることができる。典型的な微多孔質層は、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物を含む。
【0055】
本発明の第7の態様では、電解触媒インクは、本発明の触媒デカール転写基材を形成するために、デカール転写基材に適用され得る。本発明の触媒デカール転写基材は、本発明のデカール転写基材及び電解触媒層を含む。デカール転写基材の除去の前に、追加の層が、電解触媒層の露出面上に堆積されてもよく、例えば、イオン伝導性アイオノマー層は、電解触媒層の堆積に関して上で説明したように既知の任意の好適な堆積技術を使用して、アイオノマーの分散液から適用されてもよい。例えば、国際特許出願第GB2015/050864号に記載されているように、必要に応じて更なる追加の層を追加することができる。デカール転写基材は、適切な時間に電解触媒層から除去される。デカール転写基材は、電解触媒層が損傷することなく除去され得る、任意の好適な材料から形成され得る。好適な材料の例としては、フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ethylene tetrafluoroethylene、ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(perfluoroalkoxy polymer、PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(FEP-ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、及びポリオレフィン、例えば、二軸延伸ポリプロピレン(biaxially oriented polypropylene、BOPP)が挙げられる。
【0056】
本発明の第9の態様では、本発明の電解触媒インクは、イオン伝導性膜の一方又は両方の面に直接適用されて、本発明の触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成し得る。例えば、1つのインクは、カソード電解触媒を含有し、他方のインクは、アノード電解触媒を含有する。本発明の電解触媒インクがイオン伝導性膜の一方の面にのみ適用される場合、電解触媒層は、他の従来の手段によって他方の面に適用することができる。代替的に、本発明の第10の態様では、本発明の触媒コーティングされた膜は、本発明の触媒デカール転写基材からイオン伝導性膜の一方又は両方の面に、本発明の電解触媒層を転写することによって調製され得る。本発明の電解触媒層がイオン伝導性膜の一方の面に転写される場合、電解触媒層は、他の従来の手段によって他方の面に適用することができる。本発明のイオン伝導性膜はまた、本発明の第9及び第10の態様の混合物によって調製されてもよく、すなわち、一方の電解触媒層は、本発明の第9の態様の方法に従って適用されてもよく、他方の電解触媒層は、本発明の第10の態様の方法に従って適用されてもよい。
【0057】
本明細書で言及されるイオン伝導性膜の面は、イオン伝導性膜の厚さによって分離される。当業者は、貫通面であるz方向の測定値を意味する厚さを理解するであろう。対向する面は、厚さに対して垂直に、すなわちx-y平面において延在する。好ましくは、イオン伝導性膜は、プロトン交換膜燃料電池における使用に好適な任意の膜であり、例えば、膜は、Nafion(登録商標)(Chemours Company)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymers)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Group)、及びAciplex(登録商標)(Asahi Kasei Chemicals Corp.)などのペルフルオロ化スルホン酸材料をベースとしたものであってもよい。代替的に、膜は、FuMA-Tech GmbHからfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR、Toyobo Corporation、及び他の企業から入手可能なものなどの、スルホン化炭化水素膜をベースとしたものであってもよい。
【0058】
イオン伝導性膜の厚さは特に限定されず、イオン伝導性膜の意図される用途に依存する。例えば、典型的な燃料電池イオン伝導性膜は、少なくとも5μm、好適には少なくとも8μm、好ましくは少なくとも10μmの厚さを有する。典型的な燃料電池イオン伝導性膜は、50μm以下、好適には30μm以下、好ましくは20μm以下の厚さを有する。したがって、典型的な燃料電池イオン伝導性膜は、5~50μm、好適には8~30μm、好ましくは10~20μmの範囲内(その上限及び下限を含む)の厚さを有する。
【0059】
イオン伝導性膜は、過酸化物分解触媒及び/又はラジカル分解触媒、及び/又は再結合触媒などの追加の構成要素を含み得る。再結合触媒は、燃料電池のアノード及びカソードからそれぞれイオン伝導性膜に拡散して水を生成することができる未反応のH2及びO2の再結合を触媒する。イオン伝導性膜はまた、引き裂き抵抗の増加、並びに水和及び脱水時の寸法変化の減少などのイオン伝導性膜の機械強度の改善を提供し、したがって、膜電極接合体の耐久性及び本発明の触媒イオン伝導性膜を組み込んだ燃料電池の寿命を更に増加させるために、イオン伝導性膜の厚さ内に埋め込まれた平面多孔質材料(例えば、USRE37307に記載される発泡ポリテトラフルオロエチレン(expanded polytetrafluoroethylene、ePTFE))などの補強材料を含み得る。補強イオン伝導性膜を形成するための他のアプローチには、米国特許第7,807,063号及び米国特許第7,867,669号に開示されているものが含まれ、ここで、補強材は、ポリイミドなどの硬質ポリマーフィルムであり、その中に多数の細孔が形成され、その後、PFSAアイオノマーで充填される。
【0060】
存在する任意の補強材は、イオン伝導性膜の厚さ全体を横切って延在し得るか、又はイオン伝導性膜の厚さの一部のみに延在し得る。イオン伝導性膜の第1の表面及び第2の表面の周辺部をイオン伝導性膜の第1の表面及び第2の表面の中央面よりも大きい程度に補強することが更に有利であり得る。逆に、イオン伝導性膜の第1の表面又は第2の表面の中央をイオン伝導性膜の第1の表面又は第2の表面の周辺部よりも大きい程度に補強することが望ましい場合がある。
【0061】
本発明の第12の態様の膜電極接合体を調製するためのプロセスは、以下のように好適に実行され得る:
(i)本発明のガス拡散電極を、イオン伝導性膜の各面に適用する。好ましくは、次いで、層は、ともに積層され、
(ii)本発明のガス拡散電極を、一方の側面のみが電解触媒層を含む、触媒コーティングされたイオン伝導性膜の一方の面に適用し、ガス拡散層を電解触媒層に適用する。触媒コーティングされたイオン伝導性膜は、本発明の電解触媒層を含む、本発明の触媒コーティングされたイオン伝導性膜であり得る。
【0062】
本発明の第14の態様の膜電極接合体を調製するためのプロセスは、以下のように好適に実行され得る:
(i)本発明のイオン伝導性膜の両方の電解触媒層にガス拡散層を適用する、
(ii)ガス拡散電極を、一方の側面のみが電解触媒層を含む、発明のイオン伝導性膜の一方の面に適用し、電解触媒層にガス拡散層を適用する。ガス拡散電極は、本発明のガス拡散電極であり得る。
【0063】
本発明は、燃料電池電解触媒層のための電解触媒インクの調製におけるその使用に関して主に考察されているが、当業者は、本方法が、電解装置電解触媒層のための電解触媒インクの調製に適用可能であることを理解するであろう。卑金属汚染物質の除去に関連する利点は、電解装置電解触媒インクに適用される。したがって、本発明の第1の態様は、電解装置電解触媒層、好ましくはプロトン交換膜電解装置触媒層のための電解触媒インクを調製する方法であってもよい。また、本発明の電解触媒層は、電解装置電解触媒層、好ましくはプロトン交換膜電解装置電解触媒層であり得る。また、第17の態様では、本発明は、本発明の膜電極接合体を備える電解装置を提供する。好ましくは、電解装置は、プロトン交換膜電解装置である。
【実施例】
【0064】
調製例1-ピコリンアミド官能化シリカの調製
ピコリン酸(0.75g)を250mLの三つ口丸底フラスコ反応器に入れた。次いで、60mLのジクロロメタン(dichloromethane、DCM)を反応器に添加し、反応器を、気密スターラーグランド及び塩化カルシウムガードを有するオーバーヘッドモーターによって駆動されるパドルスターラーを備えたホットプレート上に配置した。ピコリン酸が完全に溶解するまで、混合物を撹拌した。次いで、1,1’-カルボニルジイミダゾール(1,1’-carbonyldiimidazole、CDI)(0.97g)を反応器にゆっくりと添加し(バブリング、CO2副生成物が放出される)、30分間混合した。シリカ-AP(5.0g乾燥質量、実施例1で調製したもの)を反応器に加えた。混合物を50rpmで撹拌し、一晩還流させた(外部温度50℃)。反応器を冷却させ、固体を濾過し、DCM、メタノール及び脱イオン水(各工程3×20mL)で洗浄し、真空オーブン中40℃で乾燥させた。
【0065】
この反応の反応スキームは、以下である。
【0066】
【0067】
調製例2-ピコリンアミド官能化ポリスチレンの調製
ピコリン酸(3.1g)を、オーバーヘッドスターラーで連続的に撹拌しつつ、100mLの3つ口丸底フラスコ中の30mLのDCM中に分散させた。次いで、CDI(4.1g)を反応器に添加すると、CO2の放出に起因していくらかの発泡が生じた。発泡が終了したら(約30分)、アミン官能化ポリ(スチレン-コ--ジビニルベンゼン)(Lewatit(登録商標)VP OC 1065、5.0g)を反応器に添加し、反応物を、無水条件(CaCl2)中、一晩加熱して環流させた。最終生成物を暗灰色固体として得て、これを濾別し、10サイクルのソックスレー抽出によってDCMで洗浄し、水で洗浄し、真空下、40℃で6時間乾燥させた。
【0068】
この反応の反応スキームは、以下である。
【0069】
【0070】
ニッケル充填
樹脂A(調製例1で調製したピコリンアミド官能化シリカ)及び樹脂B(調製例2で調製したピコリンアミド官能化ポリスチレン)のニッケル担持容量を、以下のプロトコルに従って一点容量試験を用いて試験した。
【0071】
樹脂の金属吸着容量の測定は、pH2.0で、200ppmのニッケル濃度を有する20mLの硫酸ニッケル溶液を用いて行った。金属溶液は、適切な質量の硫酸塩を脱イオン水に溶解し、硫酸でpHを調整することによって作製した。異なる材料を、0.062gの設定質量で複数の平行な管に秤量する。樹脂と溶液を接触させ、18時間撹拌した。未処理ブランクを含む全ての試料をICP-OESによって分析した。ブランク(未処理)試料の金属濃度を、処理済みサンプルの濃度と比較し、金属容量を、樹脂の質量当たりの吸着された金属の質量(mg g-1)として記載する。
【0072】
結果を以下の表2に示す。
【0073】
【0074】
これらの結果は、ピコリンアミド官能化シリカが、ピコリンアミド官能化ポリスチレンよりも高いニッケル容量を有することを示しているが、両方とも顕著なニッケル取り込みを示している。pH2でこのような容量を有する場合、分離材料は、インクのpHを変化させてインクを潜在的に損傷する必要なく、例えば、プロトン伝導性アイオノマーを含有するプロトン交換膜燃料電池触媒層電解触媒インクからニッケルイオンを除去するのに有益である。したがって、ニッケルイオンの除去に伴う利点を容易に実現することができる。
【0075】
ピコリン酸エステルの実施例
先の実施例は、ピコリン酸アミド(ピコリンアミド)官能基を利用した。しかしながら、本発明の他の実施例に従って、対応するピコリン酸エステル基を利用することも可能である。この点に関して、ピコリン酸エステルもニッケルをキレート化できることが見出された。例えば、2-ピコリン酸エチル(0.04M)及びニッケル(0.01M)の酸性溶液を調製し、キレート化を、緑色から、ニッケル-ピコリンアミド錯体と同じ色である青色への溶液の色変化によって確認した。したがって、同じ利点を、電解触媒インクにおいて実現することができる。
【0076】
電解触媒インクの調製
30重量%のPtNi/C電解触媒、PFSAアイオノマー、及び溶媒を混合して分散液を形成することによって、電解触媒インクを調製する。インクを、約12重量%の固形分(電解触媒及びアイオノマー)を含有するように調製する。使用した溶媒は、水中の80重量%の1-プロパノール、又は水中の10重量%のエタノール及び70重量%の1-プロパノールである。混合物を、ともにビーズミリングして、十分に分散したインクを形成する。
【0077】
次いで、電解触媒インクを密封容器に入れ、固体担体上に固定化されたピコリン酸エステル官能基又はピコリン酸アミド官能基を含む分離材料を添加する。分離材料の電解触媒材料(ミリング後)に対する重量比は、約1:3である。次いで、密封された容器を、48時間バレルローリングした後、分離材料を濾過により除去する。分離材料を、ニッケル含量について分析する。
【0078】
膜電極接合体の調製
アノード及びカソード触媒層をPTFEシート上に堆積させ、150℃~200℃の温度でPFSA強化膜(15μm厚)のいずれかの面に適切な層を転写することにより、50cm2の活性領域の触媒コーティングされたイオン伝導性膜を調製する。
【0079】
上記のように調製された電解触媒インクを使用して、0.2mgPt/cm2の担持量でカソード触媒層を調製する。アノード触媒層は、0.08mgPt/cm2の担持量でアノード電解触媒(炭素担体上の20重量%の白金の公称白金担持量を有するHiSPEC(登録商標)3000)を含む。
【0080】
ガス拡散層を、触媒コーティングされたイオン伝導性膜の各々の面に適用して、完全な膜電極接合体を形成する。ガス拡散層は、炭素を含有する疎水性微多孔質層と、触媒コーティングされたイオン伝導性膜と接触する面に適用されたPTFE(SGL Technologies GmbH製のSigracet(登録商標)22BB)と、を有する炭素繊維紙である。
【0081】
本発明を特定の実施例を参照して具体的に示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細における様々な変更を行うことができることが当業者には理解されよう。
【国際調査報告】