IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウニヴェルジテート・ウィーンの特許一覧

<>
  • 特表-量子光学メモリスタ 図1
  • 特表-量子光学メモリスタ 図2
  • 特表-量子光学メモリスタ 図3
  • 特表-量子光学メモリスタ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】量子光学メモリスタ
(51)【国際特許分類】
   G06N 10/40 20220101AFI20240604BHJP
   G06E 3/00 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G06N10/40
G06E3/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023568538
(86)(22)【出願日】2022-05-06
(85)【翻訳文提出日】2024-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2022062232
(87)【国際公開番号】W WO2022234058
(87)【国際公開日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】21172766.4
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523419174
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート・ウィーン
【氏名又は名称原語表記】Universitaet Wien
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(72)【発明者】
【氏名】スパニョーロ,ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】マッサ,フランチェスコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルター,フィリップ
(57)【要約】
量子光学メモリスタ(1)は、第1の光入力(3)、第1の光出力(5)、及び第2の光出力(6)を有するマッハ-ツェンダー干渉計(2)と、マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第2の光出力(6)における時間依存性の光信号n(t)を検出する検出器(9)と、マッハ-ツェンダー干渉計(2)の目標反射率Rtargetを計算するコントローラ(10)とを備える。マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第1の光入力(3)及び第1の光出力(5)はそれぞれ、量子光学メモリスタ(1)の第1の光入力(7)及び第1の光出力(8)である。コントローラ(10)は、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計(2)の反射率R(t)を更新する。コントローラ(10)は、時間に関する反射率の導関数に基づいて、目標反射率Rtargetを計算する。時間に関する反射率の導関数は、検出された信号n(t)の線形関数である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光子量子状態を操作するための量子光学メモリスタ(1)であって、
- 少なくとも第1の光入力(3)を有し、第1の光出力(5)及び第2の光出力(6)を有するマッハ-ツェンダー干渉計(2)と、
- 上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第2の光出力(6)における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器(9)と、
- 上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラ(10)とを備え、
上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第1の光入力(3)及び第1の光出力(5)はそれぞれ、上記量子光学メモリスタ(1)の第1の光入力(7)及び第1の光出力(8)であり、
上記コントローラ(10)は、上記計算された目標反射率Rtargetに一致するように上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の反射率R(t)を更新するように構成され、
上記量子光学メモリスタ(1)は、
上記コントローラ(10)は、時間に関する上記反射率の導関数
【数1】
に基づいて、上記目標反射率Rtargetを計算するように構成され、
時間に関する上記反射率の導関数
【数2】
は、上記検出された信号n(t)の関数であり、
上記関数は負の項を含むことを特徴とする、
量子光学メモリスタ(1)。
【請求項2】
上記関数は、上記検出された信号n(t)の線形関数であることを特徴とする、
請求項1記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項3】
上記負の項は、上記信号n(t)の期待値の最大値に比例する負のオフセットであることを特徴とする、
請求項2記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項4】
上記コントローラ(10)は、上記反射率の導関数
【数3】
に対する積分ステップを実行して上記目標反射率Rtargetを取得するように構成されることを特徴とする、
請求項1~3のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項5】
上記コントローラ(10)は、長さTの時間フレームにわたって時間窓積分ステップを実行して目標反射率Rtargetを取得するように構成されることを特徴とする、
請求項4記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項6】
上記時間フレームの長さTは構成可能であることを特徴とする、
請求項5記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項7】
時間フレームの長さTは、上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の光入力における光入力信号の変調周期以下になるように構成されることを特徴とする、
請求項6記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項8】
上記検出器(9)における信号n(t)は、検出された光子の個数に関連することを特徴とする、
請求項1~7のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項9】
光入力(20)及び光出力(21)を有する平行な経路(19)が提供され、
上記平行な経路(19)の光入力(20)及び光出力(21)はそれぞれ、上記量子光学メモリスタ(1)の第2の光入力(22)及び第2の光出力(23)であり、
上記平行な経路及びマッハ-ツェンダー干渉計(2)は、同じ光子源から供給を受けるように構成され、
上記平行な経路(19)は、本質的に、上記平行な経路(19)における光子の状態を操作しないことを特徴とする、
請求項1~8のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項10】
上記平行な経路(19)は、第1の空間モードに関連するように構成され、上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、上記キュービットは、上記第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化されることを特徴とする、
請求項9記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項11】
上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は2つのビームスプリッタ(14,15)を備え、
上記ビームスプリッタ(14,15)は50/50の分割比を有することを特徴とする、
請求項1~10のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項12】
上記量子光学メモリスタ(1)は、一体化されたフォトニックチップ(16)の一部として少なくとも部分的に提供され、
少なくとも上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は、上記一体化されたフォトニックチップ(16)の一部であることを特徴とする、
請求項1~11のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項13】
上記量子光学メモリスタ(1)は、一体化されたフォトニックチップ(16)の一部として少なくとも部分的に提供され、
少なくとも上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)及び上記平行な経路(19)は、上記一体化されたフォトニックチップ(16)の一部であることを特徴とする、
請求項9又は10記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項14】
上記量子光学メモリスタ(1)は、少なくとも部分的にガラスに基づき、上記ガラスにレーザ書き込みされ、
少なくとも上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は、ガラスに基づき、上記ガラスにレーザ書き込みされることを特徴とする、
請求項12又は13記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項15】
上記量子光学メモリスタ(1)は、少なくとも部分的にガラスに基づき、上記ガラスにレーザ書き込みされ、
少なくとも上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)及び上記平行な経路(19)は、ガラスに基づき、上記ガラスにレーザ書き込みされることを特徴とする、
請求項13記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項16】
上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は2つのビームスプリッタ(14,15)を備え、
上記ビームスプリッタ(14,15)は、ガイドされた方向性結合器(17,18)であることを特徴とする、
請求項1~15のうちのいずれか1つに記載の量子光学メモリスタ(1)。
【請求項17】
量子光学メモリスタ(1)を用いて光キュービットを操作する方法であって、
上記量子光学メモリスタ(1)は、
- 少なくとも第1の光入力(3)、第1の光出力(5)、及び第2の光出力(6)を有するマッハ-ツェンダー干渉計(2)と、
- 上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第2の光出力(6)における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器(9)と、
- 上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラ(10)とを備え、
上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の第1の光入力(3)及び第1の光出力(5)はそれぞれ、上記量子光学メモリスタ(1)の第1の光入力(7)及び第1の光出力(8)であり、
上記コントローラ(10)は、上記計算された目標反射率Rtargetに一致するように上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の反射率R(t)を更新するように構成され、
上記方法は、
- 上記量子光学メモリスタ(1)の第1の光入力(7)において上記量子光学メモリスタ(1)に1つ又は複数の光子を供給するステップと、
- 上記検出器(9)において光信号n(t)を測定するステップと、
- 上記計算された目標反射率Rtargetに一致するように、上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)の反射率R(t)を更新するステップとを含み、
上記目標反射率Rtargetは、時間に関する上記反射率の導関数
【数4】
に基づいて計算され、
上記反射率
【数5】
は、上記検出された信号n(t)の関数であり、
上記関数は負の項を含むことを特徴とする、
方法。
【請求項18】
上記量子光学メモリスタ(1)は、光入力(20)及び光出力(21)を有する平行な経路(19)を備え、
上記平行な経路(19)の光入力(20)及び光出力(21)はそれぞれ、上記量子光学メモリスタ(1)の第2の光入力(22)及び第2の光出力(23)であり、
上記量子光学メモリスタ(1)の第1の光入力(7)及び第2の光入力(22)は、同じ光子源から供給を受けるように構成され、
上記平行な経路(19)は、本質的に、上記平行な経路(19)における光子の状態を操作せず、
上記平行な経路(19)は、第1の空間モードに関連するように構成され、上記マッハ-ツェンダー干渉計(2)は、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、上記キュービットは、上記第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化され、
上記方法は、
- 上記第1及び第2の空間モードの重ね合わせである光子として符号化されたキュービットを上記量子光学メモリスタ(1)に供給することを特徴とする、
請求項17記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光子量子状態を操作するための量子光学メモリスタに関し、
- 少なくとも第1の光入力を有し、第1の光出力及び第2の光出力を有するマッハ-ツェンダー干渉計と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の第2の光出力における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラとを備え、
マッハ-ツェンダー干渉計の第1の光入力及び第1の光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第1の光入力及び第1の光出力であり、
コントローラは、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するように構成される。
【0002】
本発明はまた、量子光学メモリスタを用いて光キュービットを操作する方法に関する。子光学メモリスタは、
- 少なくとも第1の光入力、第1の光出力、及び第2の光出力を有するマッハ-ツェンダー干渉計と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の第2の光出力における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラとを備え、
マッハ-ツェンダー干渉計の第1の光入力及び第1の光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第1の光入力及び第1の光出力であり、
コントローラは、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するように構成され、
本方法は、
- 量子光学メモリスタの光入力において量子光学メモリスタに1つ又は複数の光子を供給するステップと、
- 検出器において光信号n(t)を測定するステップと、
- 計算された目標反射率Rtargetに一致するように、マッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するステップとを含む。
【背景技術】
【0003】
本願に至るプロジェクトは、欧州連合の助成契約第820474号のホライゾン2020リサーチアンドイノベーションプログラム(Horizon 2020 research and innovation programme)から財政支援を受け、「オーストリア科学財団:フォルシェルグルッペFG5(Austrian Science Fund (FWF): Forschergruppe FG5)」から財政支援を受け、オーストリア教育科学研究省(BMBWF)及びオーストリアデジタル化経済立地担当省(BMDW)から、それらのプログラム「QuantERA」を介して財政支援を受けている。
【0004】
メモリスタは、抵抗、キャパシタ、及びインダクタに加えて、第4の基本的な受動回路素子として仮定された。そのようなデバイスの基本的特性は、その過去の状態の記憶を抵抗性ヒステリシスの形式で保持することにある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Leon O Chua and Sung Mo Kang, "Memristive devices and systems", Proceedings of the IEEE 64, 209-223, 1976
【非特許文献2】Salmilehto, J., Deppe, F., Di Ventra, M., Sanz, M., & Solano, E., "Quantum memristors with superconducting circuits", Scientific reports, 7(1), 1-6, 2017
【非特許文献3】Pfeiffer, P., Egusquiza, I. L., Di Ventra, M., Sanz, M., & Solano, E., "Quantum memristors", Scientific reports, 6(1), 1-6, 2016
【非特許文献4】Mikel Sanz, Lucas Lamata, and Enrique Solano, "Invited article: Quantum memristors in quantum photonics", APL Photonics 3, 080801, 2018
【非特許文献5】Gonzalez-Raya et al, "Quantum Memristors in Frequency-Entangled Optical Fields", 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では、メモリスティブ(memristive)なデバイスのより一般的な概念が導入され、このメモリスティブなデバイスは次式によって定義される。
【0007】
【数1】
【0008】
ここで、u及びyは入力及び出力変数をそれぞれ示し、sは状態変数を示し、これらのすべては、時間tに依存すると暗黙に仮定される。デバイスはまず電子回路において実証され、ここで、u及びyは電流及び電圧であり、fは一般化された抵抗値である。量子メモリスタは、量子状態に符号化された情報を処理するときに量子コヒーレンスを保存することに加えて、古典的相当物を同じ挙動を可能にすることで、古典的相当物を越えうるはずである。入力及び出力変数の選択に依存して、量子メモリスタは下記の特徴を提供しなければならない。
(a)古典的限界におけるメモリスティブな挙動、すなわち、量子観測量の期待値が考慮される場合に上述の数式の動力学を示すこと。
(b)量子コヒーレント処理、すなわち、量子入力状態を出力状態の上にコヒーレントにマッピングする能力。
これらの2つの要件は、典型的には相互に排他的であり、このことは深刻な技術的障害となる。量子光子デバイスが、(a)の場合に必要とされるメモリ挙動を生じる唯一の状況は、何らかの形式の測定処理にわたる環境との相互作用を介する。実際には、このことは常に、何らかのレベルのデコヒーレンスに関連付けられ、したがって、点(b)を無効化し、このデバイスを古典的メモリスタと異ならざるものにする。この矛盾を克服するために、特徴(a)及び(b)が共存できるように、開放量子系を実装することが必要であり、環境との相互作用は、有効な非線形性をもたらす程度に十分に強くなければならず、ただし同時に、量子コヒーレンスを十分に保存する程度に十分に弱くなければならない。
【0009】
非特許文献2において、電子回路における量子メモリスタが示される。非特許文献2は、トンネルを掘って、準粒子によって誘起されたトンネリングと、超伝導電流の相殺とに基づく量子メモリスタを導入する。メモリスタは、超伝導量子干渉計(SQUID)及び超伝導回路を備える。しかしながら、電子メモリスタは、フォトニクス、すなわち、光キュービットの操作に適していない。一方、SQUID及び超伝導回路は光子を処理することができない。他方、電子メモリスタは電圧制御される。電圧が正の値及び負の値をとれることが本質的であり、このことは光信号の場合にはあてはまらない。従って、提示されたアルゴリズムもまた、光子メモリスタには適していない。
【0010】
非特許文献3において、超伝導回路に基づく量子電子メモリスタに関するプロトコル及び数値シミュレーションが示される。提案されたシステムは、メモリスタによるシャントを備える量子LC回路からなる。従って、この構成要素は、光子を処理するために使用可能ではない。本プロトコルは、メモリスタに印加される電圧の測定に基づく。再び、電圧が正の値及び負の値をとれることが本質的であり、このことは光信号の場合にはあてはまらない。従って、本プロトコルは、光子メモリスタには適していない。
【0011】
非特許文献4の論文において、光子領域で量子メモリスタを実現する可能性が指摘された。非特許文献4は、調整可能な遅延器を備えたマッハ-ツェンダー干渉計を用いることを提案している。マッハ-ツェンダー干渉計は、調整可能なビームスプリッタとして動作するのに対して、その反射率は遅延器によって変更可能である。以前に検出された信号に基づいて位相を適応化するためのモデルが提案されている。提案されたデバイスは、理論上、コヒーレント状態及びスクイーズド状態について上で概説したメモリスタの要件を満たす。モデルは、フォック(Fock)状態の場合の偏移挙動を示し、このことは、おそらくは、量子フォトニクス用途に最も関連している。フォック状態を有するそれらの例において、それらは、原点に近づかないヒステリシス図を取得する。物理的には、それらが、直交位相演算子と呼ばれる、入力量xinに基づくフィードバック関数を使用するので、このことは発生するが、ゼロの直交位相を有する入力状態は、ゼロの光子を有する出力状態を常に意味するわけではない。従って、それらの提案されたデバイスがメモリ挙動を示すことができたとしても、そのことは、メモリスティブなデバイスの定義と不整合であり、具体的には、必要とされる抵抗性ヒステリシスと不整合である。さらに、非特許文献4によって提案された方式は、それが直交位相演算子の調整及び測定を必要とし、このことが概してコヒーレントビームにより状態を混合することを必要とし、したがって、いかなる実験セットアップも大幅に複雑化されるので、実際に実装することが不可能でないにしても、非常に挑戦的である。さらに、入力状態は、フォック状態の重ね合わせによって与えられ、このことは、特に、そのような状態の平均直交位相がその相対位相項に依存し、それが厳密に制御されるべきであることを考慮すると、線形光学において実現可能であるものの非実用的である。さらなるチャレンジは、真空状態との重ね合わせにおいて符号化されたキュービットを後に操作することは、常に、自明性から大幅にかけ離れているという事実にある。ビームスプリッタの第2の出力において実行される測定を概略的に示しているが、非特許文献4は、提案された入力量xinをそのような測定から引き出す方法を開示していない。
【0012】
非特許文献5の論文は、量子フォトニクスセットアップにおける量子メモリスタの異なる実装を説明する。
【0013】
本発明の目的は、光子量子状態を操作することができる量子光学メモリスタ及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、冒頭に定義したようなデバイスを提案し、
コントローラ(10)は、時間に関する反射率の導関数
【数2】
に基づいて、目標反射率Rtargetを計算するように構成され、
時間に関する反射率の導関数
【数3】
は、検出された信号n(t)の関数であり、
関数は負の項を含む。
時間に関する反射率の導関数
【数4】
と、信号n(t)との関係に起因して、本デバイスは、量子光学キュービットのためのメモリスタとして、特に、フォック状態として符号化されたキュービットのためのメモリスタとしても動作する。本デバイスは、例えば量子ニューロモルフィック(neuromorphic)アーキテクチャのような、量子情報アーキテクチャのためのビルディングブロックに適している。信号n(t)が正の値だけをとることができるので、負の項は、その反射率の導関数
【数5】
もまた負になりうること、言いかえると、反射率R(t)が減少してもよいことを規定する。負の項は、信号n(t)の期待値の最大値に比例してもよい。
【0015】
a、b、及びpが任意の非ゼロの実数である場合、
【数6】
の形式を有する任意の関数は、変化するn(t)の値に対して関数が正及び負の値の両方をとれるように係数が選択されている限り、成り立つ。
また、pが奇数の整数である場合、
【数7】
の形式を有する任意の関数も成り立つ。
【0016】
概して、本開示の範囲内で、時間に関する反射率の導関数
【数8】
は、検出される信号n(t)の任意の関数であってもよい。
【0017】
オプションで、時間に関する反射率の導関数
【数9】
は、検出された信号n(t)の線形関数であってもよい。負の項は、オプションで、信号n(t)の期待値の最大値に比例する負のオフセットであってもよい。例えば、反射率の導関数
【数10】
は、
【数11】
の形式を有してもよい。
【0018】
本発明はまた、冒頭に定義したような方法に関し、
コントローラ(10)は、時間に関する反射率の導関数
【数12】
に基づいて、目標反射率Rtargetを計算するように構成され、
時間に関する反射率の導関数
【数13】
は、信号n(t)の関数であり、
上記関数は負の項を備え、
目標反射率Rtargetは、時間に関する反射率の導関数
【数14】
に基づいて計算される。
時間に関する反射率の導関数
【数15】
と、信号n(t)との関係に起因して、本方法は、量子光学キュービットを操作すること、特に、フォック状態として符号化されたキュービットを操作することにも適している。
【0019】
マッハ-ツェンダー干渉計として、われわれは、入力に到来する光子が2つ以上(M個)の出力のうちの第1の出力において放出される確率Pを調整できる任意のデバイスを理解する。ここで、
【数16】
であり、及びPは、合計M個の出力のうちの出力iにおいて光子が放出される確率である。
【0020】
マッハ-ツェンダー干渉計はビームスプリッタとして動作可能であり、確率は、光経路の相対位相を変更することで変更可能である。この実施形態において、干渉計は、調整可能なビームスプリッタとして動作可能であり、したがって、Pは、マッハ-ツェンダー干渉計の「反射率」と呼ばれてもよい。
【0021】
典型的な実施形態では、マッハ-ツェンダー干渉計は、第1のビームスプリッタを用いて入射光を2つの経路に分割し、例えば遅延器によって、2つの経路間の相対位相項を導入し、第2のビームスプリッタにおいて2つの経路を再結合するデバイスであってもよい。マッハ-ツェンダーの2つの出力のうちの第1の出力において入射光子が放出される確率Pは、2つの経路の相対位相項を変更することで変更可能である。この実施形態において、マッハ-ツェンダー干渉計の全体動作は、したがって、調整可能なビームスプリッタのそれと等価である。
【0022】
好ましいもう1つの実施形態では、コントローラは、反射率の導関数
【数17】
に対する積分ステップ、好ましくは、長さTの時間フレームにわたる時間窓積分ステップを実行して目標反射率Rtargetを取得するように構成される。時間窓積分ステップは、信号n(t)に基づいて、それぞれ、反射率の導関数
【数18】
に基づいて目標反射率Rtargetを推定するために使用される。好ましくは、Rtargetは次式を用いて推定される。
【数19】
このように、本デバイスは、tがt-Tより小さい場合、信号n(t)を無視する。言いかえると、最大でtまでの時間フレームt-Tにおける信号のみが、Rtargetの計算に関連する。物理的観点からは、実際のデバイスが無限に長い時間にわたってメモリを維持できないので、このことは必要であり、正当化される。定数項0.5及び-0.5は、上述したRtargetの式では相殺可能である。しかしながら、信号n(t)が決して負の値にならないとしても、信号n(t)が増大及び減少する可能性があるので、また、時間窓積分の限られた「ウィンドウサイズ」Tに起因して、Rtargetもまた増大及び減少する可能性がある。
【0023】
積分区間の下界が時間の(正の)関数である場合、これは負の項を含む導関数をもたらすことに注目すべきである。例えば、
【数20】
である場合、反射率の導関数は次式になる。
【数21】
右辺の第2の項は負の項である。言いかえると、目標反射率Rtargetを積分として定義する場合、時間に関する反射率の導関数
【数22】
は、上記積分の被積分関数に負の項が存在しない場合であっても、本開示の範囲において、負の項を含む関数であってもよい。
【0024】
オプションで、時間フレームの長さTは、マッハ-ツェンダー干渉計(2)の光入力における光入力信号の変調周期以下になるように構成可能であり、好ましくは、そのように構成される。光入力信号の変調周期と積分時間Tとの間の関係に依存して、2つの限定方式にアクセス可能である。積分時間Tが変調期間に比較して小さい場合、入力はほぼ一定であるとみなされてもよい。次いで、挙動は、単一の光子の場合には、R(t)=n(t)に簡単化される。対照的に、変調時間が積分時間Tに比較して小さくなるように、入力が非常に速く振動する場合、積分はゼロに近づき、その結果、R(t)=0.5になり、50%の一定反射率Rをもたらす。積分時間が変調期間に等しい場合、積分は変調期間の全体にわたり、従ってゼロになる。従って、1つよりも長い期間にわたって積分することは、冗長な結果をもたらす。この理由で、積分時間は、好ましくは、変調期間以下になる。
【0025】
例えば、検出器における信号n(t)は、検出された光子の個数(例えば光子カウント)に関連してもよい。特に、少数の光子が関連するアプリケーションの場合、特に、単一の光子として符号化されたキュービットを操作するために本デバイスが使用される場合、このことは特に有利である。検出器は、単一光子検出器(例えば光子カウンタ)であってもよい。好ましい実施形態において、量子光学メモリスタは、光入力及び光出力を有する平行な経路を備え、平行な経路の光入力及び光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第2の光入力及び第2の光出力であり、平行な経路及びマッハ-ツェンダー干渉計は、同じ光子源から供給を受けるように構成され、平行な経路は、本質的に、平行な経路における光子の状態を操作しない。平行な経路は、量子光学メモリスタが、マッハ-ツェンダー干渉計と相互作用させることなく、光子を送信する可能性を提供する。従って、光子は、操作されてもよく、又は、本質的にはそれらの元の状態のままで送信されてもよい。
【0026】
好ましくは、平行な経路は、第1の空間モードに関連するように構成され、マッハ-ツェンダー干渉計は、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、ここで、キュービットは、第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化される。このように、キュービットは、エネルギー状態の重ね合わせとして符号化されるのではなく、経路符号化されてもよい。経路符号化されたキュービットは、2つのエネルギーレベルの重ね合わせとして符号化されたキュービットに比較して、量子光学での取り扱いがより簡単である。この実施形態は、アプリケーションの可能性を大幅に広げる。
【0027】
好ましくは、量子光学メモリスタは、光入力及び光出力を有する平行な経路を備え、
平行な経路の光入力及び光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第2の光入力及び第2の光出力であり、
量子光学メモリスタの第1の光入力及び第2の光入力は、同じ光子源から供給を受けるように構成され、
平行な経路は、本質的に、平行な経路における光子の状態を操作せず、
平行な経路は、第1の空間モードに関連するように構成され、マッハ-ツェンダー干渉計は、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、ここで、キュービットは、第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化され、
本方法は、
- 第1及び第2の空間モードの重ね合わせである光子として符号化されたキュービットを量子光学メモリスタに供給することを含む。
本方法は、2つの空間モードの重ね合わせとして符号化されたキュービットに適し、このことは、一体化された量子フォトニクスの場合に特に有益かつ自然な選択である。
【0028】
オプションで、マッハ-ツェンダー干渉計は2つのビームスプリッタを備え、ビームスプリッタは50/50の分割比を有する。0及び1の間の範囲全体にわたって反射率の最大の調整可能性を達成するために、ビームスプリッタは50/50の分割比を有するべきである。
【0029】
好ましくは、量子光学メモリスタは、一体化されたフォトニックチップの一部として部分的に提供され、少なくともマッハ-ツェンダー干渉計は、一体化されたフォトニックチップの一部である。マッハ-ツェンダー干渉計は、2つのビームスプリッタ及び遅延器を含み、これらもまた、一体化されたフォトニックチップの一部であってもよい。遅延器は、マッハ-ツェンダー干渉計の2つのアームのうちの一方の一部であり、2つのアーム間の相対位相を変更するために使用される。一体化されたフォトニックチップの一部である、量子光学メモリスタの構成要素は、信頼できかつ再現可能な方法で製造可能であり、部品あたりのコストを低減可能である。さらに、光経路は堅く機械的に接続され、従って、位相デコヒーレンスを防止する。少なくとも検出器及びコントローラは、典型的には、外部部品である。
【0030】
オプションで、量子光学メモリスタは、一体化されたフォトニックチップの一部として部分的に提供され、少なくともマッハ-ツェンダー干渉計及び平行な経路は、一体化されたフォトニックチップの一部である。一体化されたフォトニックチップの一部である、量子光学メモリスタの構成要素は、信頼できかつ再現可能な方法で製造可能であり、部品あたりのコストを低減可能である。さらに、光経路は堅く機械的に接続され、従って、位相デコヒーレンスを防止する。少なくとも検出器及びコントローラは、典型的には、外部部品である。
【0031】
好ましい実施形態において、量子光学メモリスタは、少なくとも部分的にガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされ、少なくともマッハ-ツェンダー干渉計は、ガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされる。ガラスは、特に基板として適し、また、レーザ書き込みに適し、このことは、高いレベルの再現性を提供する。
【0032】
他の好ましい実施形態では量子光学メモリスタは、少なくとも部分的にガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされ、少なくともマッハ-ツェンダー干渉計及び平行な経路は、ガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされる。ガラスは、特に基板として適し、また、レーザ書き込みに適し、このことは、高いレベルの再現性を提供する。
【0033】
好ましくは、マッハ-ツェンダー干渉計は2つのビームスプリッタを備え、ビームスプリッタは、ガイドされた方向性結合器である。ガイドされた方向性結合器は、一体化されたフォトニクスにおける既製の信頼できる構成要素であり、本願に係るビームスプリッタとしての使用に適している。
【0034】
下記において、量子光学メモリスタと、本発明に係る量子光学メモリスタにより光キュービットを操作する方法との好ましい実施形態が、それらの好ましい組み合わせとともに定義される。
【0035】
1.光子量子状態を操作するための量子光学メモリスタは、
- 少なくとも第1の光入力を有し、第1の光出力及び第2の光出力を有するマッハ-ツェンダー干渉計と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の第2の光出力における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラとを備え、
マッハ-ツェンダー干渉計の第1の光入力及び第1の光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第1の光入力及び第1の光出力であり、
コントローラは、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するように構成され、
量子光学メモリスタは、
コントローラが、時間に関する反射率の導関数
【数23】
に基づいて、目標反射率Rtargetを計算するように構成され、
時間に関する反射率の導関数
【数24】
が、検出された信号n(t)の線形関数であることを特徴とする。
【0036】
2.実施形態1に係る量子光学メモリスタは、

線形関数が、信号n(t)の期待値の最大値に比例する負のオフセットを有することを特徴とする。
【0037】
3.実施形態1又は2に係る量子光学メモリスタは、
コントローラが、反射率の導関数
【数25】
に対する積分ステップ、好ましくは、長さTの時間フレームにわたる時間窓積分ステップを実行して目標反射率Rtargetを取得するように構成されることを特徴とする。
【0038】
4.実施形態3に係る量子光学メモリスタは、
時間フレームの長さTが、マッハ-ツェンダー干渉計(2)の光入力における光入力信号の変調周期以下になるように構成可能であり、好ましくは、そのように構成されることを特徴とする。
【0039】
5.実施形態1~4のうちのいずれか1つに係る量子光学メモリスタは、
検出器における信号n(t)が、検出された光子の個数に関連することを特徴とする。
【0040】
6.実施形態1~5のうちのいずれか1つに係る量子光学メモリスタは、
光入力及び光出力を有する平行な経路が提供され、
平行な経路の光入力及び光出力がそれぞれ、量子光学メモリスタの第2の光入力及び第2の光出力であり、
平行な経路及びマッハ-ツェンダー干渉計が、同じ光子源から供給を受けるように構成され、
平行な経路が、本質的に、平行な経路における光子の状態を操作しないことを特徴とする。
【0041】
7.実施形態6に係る量子光学メモリスタは、
平行な経路が、第1の空間モードに関連するように構成され、マッハ-ツェンダー干渉計が、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、ここで、キュービットが、第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化されることを特徴とする。
【0042】
8.実施形態1~7のうちのいずれか1つに係る量子光学メモリスタは、
マッハ-ツェンダー干渉計が2つのビームスプリッタ(14,15)を備え、
ビームスプリッタ(14,15)が50/50の分割比を有することを特徴とする。
【0043】
9.施形態1~8のうちのいずれか1つに係る量子光学メモリスタは、
量子光学メモリスタが、一体化されたフォトニックチップの一部として少なくとも部分的に提供され、
少なくともマッハ-ツェンダー干渉計が、一体化されたフォトニックチップの一部であることを特徴とする。
【0044】
10.実施形態6又は7に係る量子光学メモリスタは、
量子光学メモリスタが、一体化されたフォトニックチップの一部として少なくとも部分的に提供され、
少なくともマッハ-ツェンダー干渉計及び平行な経路が、一体化されたフォトニックチップの一部であることを特徴とする。
【0045】
11.実施形態9又は10に係る量子光学メモリスタは、
量子光学メモリスタが、少なくとも部分的にガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされ、
少なくともマッハ-ツェンダー干渉計が、ガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされることを特徴とする。
【0046】
12.実施形態10に係る量子光学メモリスタは、
量子光学メモリスタが、少なくとも部分的にガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされ、
少なくともマッハ-ツェンダー干渉計及び平行な経路が、ガラスに基づき、ガラスにレーザ書き込みされることを特徴とする。
【0047】
13.実施形態1~12のうちのいずれか1つに係る量子光学メモリスタは、
マッハ-ツェンダー干渉計が2つのビームスプリッタ(14,15)を備え、
ビームスプリッタ(14,15)が、ガイドされた方向性結合器(17,18)であることを特徴とする。
【0048】
14.量子光学メモリスタを用いて光キュービットを操作する方法であって、
量子光学メモリスタは、
- 少なくとも第1の光入力、第1の光出力、及び第2の光出力を有するマッハ-ツェンダー干渉計と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の第2の光出力における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成された検出器と、
- マッハ-ツェンダー干渉計の目標反射率Rtargetを計算するように構成されたコントローラとを備え、
マッハ-ツェンダー干渉計の第1の光入力及び第1の光出力はそれぞれ、量子光学メモリスタの第1の光入力及び第1の光出力であり、
コントローラは、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するように構成され、
コントローラが、時間に関する反射率の導関数
【数26】
に基づいて、目標反射率Rtargetを計算するように構成されることを特徴とし、
時間に関する反射率の導関数
【数27】
は、信号n(t)の線形関数であり、
本方法は、
- 量子光学メモリスタの第1の光入力において量子光学メモリスタに1つ又は複数の光子を供給するステップと、
- 検出器において光信号n(t)を測定するステップと、
- 計算された目標反射率Rtargetに一致するように、マッハ-ツェンダー干渉計の反射率R(t)を更新するステップとを含み、
目標反射率Rtargetが、時間に関する上記反射率の導関数
【数28】
に基づいて計算されることを特徴とし、
反射率
【数29】
は、上記検出された信号n(t)の線形関数である。
【0049】
15.実施形態14の方法は、
量子光学メモリスタが、光入力及び光出力を有する平行な経路を備え、
平行な経路の光入力及び光出力がそれぞれ、量子光学メモリスタの第2の光入力及び第2の光出力であり、
量子光学メモリスタの第1の光入力及び第2の光入力が、同じ光子源から供給を受けるように構成され、
平行な経路が、本質的に、平行な経路における光子の状態を操作せず、
平行な経路が、第1の空間モードに関連するように構成され、マッハ-ツェンダー干渉計が、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、ここで、キュービットが、第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化され、
本方法が、
- 第1及び第2の空間モードの重ね合わせである光子として符号化されたキュービットを量子光学メモリスタに供給することを含むことを特徴とする。
【0050】
本発明は、実施形態の特に好ましい実施例と図面とを参照して、下記でさらに説明される。しかしながら、本発明は、これらの実施形態に限定されることを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】第1の実施形態における量子光学メモリスタを概略的に示す。
図2】平行な経路を備える第2の実施形態における量子光学メモリスタを概略的に示す。
図3図2に係る量子光学メモリスタを用いて単一の光子を操作するための実験セットアップを概略的に示す。
図4図3の実験セットアップを用いて得られた実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、第1の実施形態における光子量子状態を操作するための量子光学メモリスタ1を示す。量子光学メモリスタ1は、第1の光入力3及び第2の光入力4を有し、第1の光出力5及び第2の光出力6を有するマッハ-ツェンダー干渉計2を備える。マッハ-ツェンダー干渉計の第1の光入力3及び第1の光出力5はそれぞれ、量子光学メモリスタ1の第1の光入力7及び第1の光出力8である。検出器9は、マッハ-ツェンダー干渉計2の第2の光出力6における時間依存性の光信号n(t)を検出するように構成される。
【0053】
さらに、コントローラ10は、マッハ-ツェンダー干渉計2の目標反射率Rtargetを計算するように構成され、コントローラ10は、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計2の反射率R(t)を更新するように構成される。マッハ-ツェンダー干渉計の反射率は、光子がマッハ-ツェンダー干渉計2における経路11,12を変更する確率である。従って、コントローラ10は、経路11,12の位相差を制御し、それによって反射率R(t)を制御する。経路11,12のうちの一方において、位相13を変更する手段、例えば位相遅延器が含まれ、それはコントローラ10によって制御される。コントローラ11は、時間に関する反射率の導関数
【数30】
に基づいて、目標反射率Rtargetを計算するように構成され、時間に関する反射率の導関数
【数31】
は、検出された信号n(t)の関数である。関数は線形関数であり、信号n(t)の期待値の最大値に比例する負のオフセットを有する。典型的には、信号n(t)の最大値は1であるか、又は、信号は1に正規化される。原則として、光子は、識別可能な瞬間に到来し、検出器において鋭い信号を生じさせる。典型的には、検出器はまた、低域通過フィルタのようなフィルタ、例えばRCフィルタを含む。フィルタは信号を平滑化する。従って、単一の光子は、信号において単一の鋭いスパイクではなく、むしろ、時間に関して広がった信号を生じさせる。
【0054】
この例示的な実施形態における時間に関する反射率の導関数
【数32】
は、下記の形式を有する。
【数33】
オフセットは、信号n(t)がゼロ及び正の値に制限されるものの、時間に関する反射率の導関数
【数34】
が負になりうることを保証する。より詳しくは、検出器は、信号nmeas(t)を直接的に測定し、この信号は、各時間における反射率R(t)を考慮することで信号n(t)を推定するために使用される。信号n(t)は次式によって推定される。
【数35】
それに対して、コントローラ1)が反射率R(t)を制御しているので、測定の時間における反射率R(t)は既知である。
【0055】
信号n(t)に基づいてRtargetを推定するために、コントローラ10は、反射率の導関数
【数36】
に対する積分ステップ、すなわち、次式による長さTの時間フレームにわたる時間窓積分ステップを実行するように構成される。
【数37】
反射率R(t)がちょうど0になることを防止するための制御が実施される。さもないと、フィードバックが破綻する可能性がある。このことはまた、デバイスの反射率がちょうど0に到達することがありえないので、合理的である。推定は、t-Tからtまでの時間フレーム内の信号n(t)のみを考慮する。このことは、現実のデバイスが不確定な信号を測定及び格納できないので、必要である。
【0056】
量子光学メモリスタの挙動は、時間フレームの長さTの選択によって調節可能であり、それは構成可能である。長さTは、好ましくは、マッハ-ツェンダー干渉計2の光入力7における光入力信号の変調又は振動周期Tosc以下になるように選択される。低域通過フィルタ、例えばRCフィルタが使用される場合、積分時間Tは、フィルタの時定数より大きくなければならない。光入力信号の変調周期と長さTとの間の関係に依存して、2つの限定方式にアクセス可能である。積分時間Tが変調期間に比較して小さい場合、入力は(ほぼ)一定であるとみなされてもよい。挙動は、R(t)=n(t)に簡単化される。対照的に、変調時間が積分時間Tに比較して小さくなるように、入力が非常に速く振動する場合、積分はゼロに近づき、その結果、R(t)=0.5になり、50%の一定反射率Rをもたらす。積分時間が変調期間に等しい場合、積分は変調期間の全体にわたり、従ってゼロになる。従って、1つよりも長い期間にわたって積分することは、冗長な結果をもたらす。この理由で、積分時間は、好ましくは、変調期間以下になる。
【0057】
検出器9における信号n(t)は、検出された光子の個数に関連する。この場合、検出器は、単一光子検出器である。マッハ-ツェンダー干渉計は2つのビームスプリッタ14,15を備え、それぞれ50/50の分割比を有する。この分割比は、反射率R(t)を制御するために特に有益である。
【0058】
量子光学メモリスタ1は、一体化されたフォトニックチップ16の一部として部分的に提供される。すなわち、ビームスプリッタ14,15と、遅延器のような、位相13を変更する手段とを含むマッハ-ツェンダー干渉計2は、一体化されたフォトニックチップの一部である。検出器9及びコントローラ10は、外部部品である。集積フォトニクスの分野において既知である高度な処理及び技術を用いることによって、量子光学メモリスタ1は、信頼でき、安定し、再現可能な方法で製造可能である。また、これらの処理は、比較的に容易にスケーリングすることができ、装置あたりの低いコストをもたらす。また、小さな寸法を有し、さらなる一体化されたフォトニクス構成要素に対して本質的な互換性を有する、量子光学メモリスタ1を実現することができる。さらに、量子光学メモリスタ1の関連する構成要素は、一体化されたフォトニックチップ16を介して互いに機械的に堅く接続される。このことは、量子光学メモリスタ1の特性に悪影響を与えかねない、キュービットの望ましくないレベルの位相デコヒーレンスを防止する。このコンテキストにおいて、位相13を変更するための手段として熱移相器が使用されてもよい。例えば、量子光学メモリスタ1は、ガラスに基づいてもよく、ガラスにレーザ書き込みされる。ビームスプリッタ14,15は、ガイドされた方向性結合器17,18である。ガイドされた方向性結合器17,18は、一体化されたフォトニクスにおける既製の信頼できる構成要素であり、本願に係るビームスプリッタ14,15としての使用に適している。
【0059】
量子光学メモリスタ1は、量子光学メモリスタ1の光入力7において量子光学メモリスタに1つ又は複数の光子を供給し、検出器9において光信号n(t)を測定し、計算された目標反射率Rtargetに一致するようにマッハ-ツェンダー干渉計2の反射率R(t)を更新することで、光子量子状態を操作するために使用されうる。
【0060】
一体化されたフォトニックチップの製造は、フェムト秒レーザ微細機械加工処理に基づいてもよい。1550nmにおける動作に最適化された単一モード光導波路が、異常収差補正環を備えた50倍の対物レンズ(0.65NA)を用いてレーザパルス(Yb:KYWのキャビティダンプされたモードロックレーザ:1030nmの波長、300fsのパルス継続時間、パルスあたり520nJのエネルギー、1MHzの反復レート)を合焦することで、アルミノ硼珪酸ガラス(Corning EAGLE XG、厚さ1.1mm)に書き込まれる。光回路全体は、40mm/sの等速で基板を並進移動することで、基板の底面から25μmにおいて書き込まれる。特に、所望の導波路経路に沿って、6回の重複したレーザスキャンが実行される。単一モード動作を達成し、導波路複屈折を低減するために、書き込み処理の後に、毎分12°Cずつ750°Cまで加熱する高速な立ち上がりランプと、その後に続いて、毎時12°Cずつ630°Cまで冷却し、毎時24°Cずつ500°Cまで冷却する、低速な2つの立ち下がりランプとを含む、熱アニーリングが行われる。その後、温度ランプを制御することなく、冷却処理は完了する。導波路製造処理の終了時において、測定された挿入損失は1.2dBであり、76%の伝送に対応する。
【0061】
マッハ-ツェンダー干渉計2は、2つの平衡な方向性結合器17,18(ゼロの相互作用長及び7.5μmの結合距離)から構成され、それらは、S字形に屈曲した導波路(40mmの曲率半径)と、直線導波路(分離p=127μm及び長さL=2mm)とによって、回路の残りの部分に接続されうる。移相動作の最大効率及び最小クロストークを保証するために、位相調節されると考えられる光導波路の両側において、熱遮断トレンチがアブレーションによって形成される。トレンチを製造するために、基板の底面における20倍の水浸対物レンズ(0.50NA)によって合焦されるレーザパルス(Light Conversion PHAROS:1030nmの波長、1ピコ秒のパルス継続時間、パルスあたり1.5μJのエネルギー、20kHzの反復レート)が使用される。このとき、後者は、蒸留水に完全に浸漬されて毎秒4mmで並進移動されている。この製造技術は、通常、水による支援を受けたレーザアブレーションと呼ばれる。深さD=300μm、幅W=97μm、及び長さL=L=2mmを有する単一のトレンチを実現するために、4つの矩形のガラスブロック(深さD=D/4=75μm)が、各ブロックの周のみをアブレーションしてそれを分離させて水に沈めることで、交互に除去される。このように、基板の底面側において、ほぼ1の歩留まりで、深いトレンチが製造される。その後、基板は裏返され、処理は、底面側において、熱移相器の製造により継続する。まず、標準的なピラニア洗浄浴の後に、3nmのクロム及び100nmの金からなる金属多層フィルムが、マグネトロンスパッタリングシステムを用いることによって、チップのエリア全体に堆積される。第2に、電気抵抗率の安定値に到達するために、また、移相動作の安定性を損なう電気的ドリフトを防ぐために、さらなる熱アニーリング(毎分10°Cずつ500°Cまで加熱する立ち上がりランプと、この温度で維持される60分間にわたる期間と、その後に続く、熱動作なしの冷却処理)が使用される。最後に、10倍の対物レンズ(0.25NA)によりチップ表面に合焦されたレーザパルス(Yb:KYWのキャビティダンプされたモードロックレーザ:1030nmの波長、300fsのパルス継続時間、669パルスあたり200nJのエネルギー、1MHzの反復レート)によって、熱移相器がパターン形成される。基板を毎秒2mmで並進移動することによって、コンタクトパッド及び電極は、選択的に金属を除去することで隔離される。それに代わって、幅W=p-W=30μm及び長さL=L=2mmを有する抵抗性マイクロヒータが、トレンチの存在によって隔離される。マイクロヒータの平均電気抵抗は38Ωであり、一方、2πの位相シフトを生じるために必要とされる、結果として生じる電力は、55mW程度と小さい。結局、フォトニックチップは、アルミニウムヒートシンクに取り付けられ、プリント回路基板にワイヤボンディングされ、入力及び出力両方の単一モード光ファイバに対してピッグテイルにより接続される。ピッグテイル処理の後、入力から出力ファイバまでの合計挿入損失は2dBであり、63%の伝送に対応する。
【0062】
図2は、量子光学メモリスタ1の他の実施形態を示す。図1に示す実施形態に加えて、量子光学メモリスタは、光入力20及び光出力21を有する平行な経路19を備える。平行な経路19の光入力20及び光出力21はそれぞれ、量子光学メモリスタ1の第2の光入力22及び第2の光出力2)である。平行な経路19及びマッハ-ツェンダー干渉計2は、同じ光子源から供給を受けるように構成される、言いかえると、量子光学メモリスタ1は、1つの光子源から供給を受ける。平行な経路1)は、本質的に、平行な経路19における光子の状態を操作しない。光子の状態を変更しうる追加の構成要素は、平行な経路19の一部ではない。平行な経路19は、第1の空間モードに関連するように構成され、マッハ-ツェンダー干渉計2は、キュービットの第2の空間モードに関連するように構成され、ここで、キュービットは、第1及び第2の空間モードの重ね合わせである単一の光子として符号化される。従って、量子光学メモリスタ1は、エネルギー状態の重ね合わせとして符号化されているのではなく、経路符号化されたキュービットを操作することに適している。経路符号化されたキュービットは、2つのエネルギーレベルの重ね合わせとして符号化されたキュービットに比較して、量子光学での取り扱いがより簡単である。マッハ-ツェンダー干渉計2に加えて、平行な経路19もまた、一体化されたフォトニックチップ16の一部(図示せず)として実現されてもよい。
【0063】
図3は、図2に係る量子光学メモリスタ1を包含及び使用する、単一の光子を操作するための実験セットアップを示す。コリニアのタイプIIのSPDCソースは、1550nmにおいて同一の光子のペアを放出する。ソースは、775から1550nmへのダウンコンバージョンに適応化された46.2μmのポーリング周期を有する30mmのPPKTP結晶24に基づく。結晶は、約80mWのポンプパワーを有する、CW増幅されたダイオードレーザ25(Toptica TA Pro 780)によってポンピングされる。結晶は、偏光もつれを有する光子を生成するサニャク干渉計26に挿入されるが、この特定の場合において、もつれは使用されない。
【0064】
光子の生成に使用される光学部品には、下記のラベルが付与される。
m…ミラー
dm…ダイクロイックミラー
QWP…4分の1波長板
HWP…半波長板
PBS…偏光ビームスプリッタ
PPKTB…PPKTB結晶24
論理演算(logic)…論理演算装置
【0065】
アイドラ(idler)と呼ばれる光子のうちの一方は、予告のために検出器27に直接的に送られ、信号と呼ばれる光子のうちの他方は、フォトニックチップ16の表面に直接的に接着された単一モードファイバ28を介して、一体化されたフォトニックチップ16に接続される。フォトニックチップ16において、信号の光子は、遅延器13aを有するマッハ-ツェンダー干渉計2aを含む状態準備段29を通過し、次いで、平行な経路19を含む量子光学メモリスタ1を通過し、それにより、2つのレール又は経路により符号化されたキュービットを操作することができる。従って、マッハ-ツェンダー干渉計2b及び遅延器13bを含む状態トモグラフィー段35が存在する。状態トモグラフィー段35は、デバイスが初期量子コヒーレンスのいずれかを保存することを示すために使用される。コントローラ10は、検出器に取り付けられた単一モードファイバ30に対してピッグテイルにより接続される。われわれは、95%を超える平均検出効率を有する、超伝導ナノワイヤ単一光子検出器9、27、34(PhotonSpot Inc.)を使用する。われわれは、3つの検出器27、9、34、すなわち、1つは予告(アイドラ)光子27のため、1つは信号n(t)9のため、及び1つは量子光学メモリスタ1の出力信号34のための検出器を使用する。
【0066】
検出器9、27、34の後段において、論理演算装置31は信号を解析する。アイドラ及び信号n(t)が一致するごとに、信号チャネルにおいて矩形電圧パルスの生成がトリガされる。結果として生じる信号は、オシロスコープ33aに概略的に示される(下側のパルス列)。同様に、アイドラ及び信号が一致するごとに、出力チャネルにおいて電圧パルスがトリガされる(オシロスコープ33aの上側のパルス列)。ソースにおける約80mWのポンプパワーを用いて、各チャネルにおける最大一致レートは、毎秒約3×10カウントである。次いで、両方のチャネルは、RC=100ミリ秒のフィルタ32を用いて低域通過フィルタリングされる。このことは、パルス列を平均化し、連続的な電圧信号を提供する効果を有する。ここで、電圧信号は、パルスレートに比例し、次いで、光子の個数に比例する。従って、RCフィルタ32の出力電圧を測定することは、光子の個数の測定を構成する。時定数RCは、積分時間Tよりずっと小さくされるべきであることに注意する。ここで、T=10秒が使用される。
【0067】
この点において、出力信号は、最終的なデータロギングのためにオシロスコープ33bに進み、一方、フィードバック信号はコントローラ10に進み、コントローラ10は、n(t)及びRtargetを計算し、量子光学メモリスタ1の反射率R(t)の値を更新する。コントローラ10は、マッハ-ツェンダー干渉計2の熱移相器に印加される電圧を変更することで、反射率R(t)の値を変更する。移相器は、消費された電力に比例する位相シフトを生成する。
【0068】
図4は、図3に示す実験セットアップにより得られた実験結果(点)と、シミュレーション(線)とを示す。ninは入力における信号であり、noutは出力信号である。振動周期Toscは10秒で一定に維持され、積分時間Tは1つの振動周期Toscの範囲において変更される。デバイスは、原点には近づかず、高い周波数において線形関係になり、低い周波数において非線形になるヒステリシス図を示す。高い周波数の限界が、この場合、T=Toscに同じであるので、実験結果は、デバイスの動的応答の完全な特性評価を提供する。実験データは、シミュレーションされた動力学に十分に一致している。具体的には、低い周波数の限界nout=nin-nin 及び高い周波数の限界nout=0.5*ninは、予想通りである。このことはまた、メモリスティブなデバイスの元の定義に一致している。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】