(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】抗CEACAM5/6抗原結合分子およびその処置方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240604BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240604BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240604BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240604BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240604BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240604BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240604BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240604BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240604BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240604BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240604BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240604BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240604BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20240604BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P35/00
A61P1/04
A61P11/06
A61K47/68
A61K51/10
G01N33/574 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571803
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-18
(86)【国際出願番号】 SG2022050336
(87)【国際公開番号】W WO2022245299
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】10202105379W
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】チュー,ブーン ファ アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】ゴー,ティン ウィー
(72)【発明者】
【氏名】ディン,メイ イー
(72)【発明者】
【氏名】レオン,ハウ ワン
(72)【発明者】
【氏名】ドルフミュラー,ジモーネ
(72)【発明者】
【氏名】タン,バン シオン
(72)【発明者】
【氏名】リム,チェック シック
(72)【発明者】
【氏名】シュトゥンケル,ヴァルター
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA95
4C076CC04
4C076CC27
4C076EE59
4C085AA26
4C085HH00
4C085KA03
4C085KA26
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、全体として、抗体技術の分野に関する。具体的には、本発明は、抗CEACAM5/6抗原結合分子およびその処置方法を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合分子であって:
(1)配列番号1のVHCDR1アミノ酸配列、配列番号2のVHCDR2アミノ酸配列、および配列番号3のVHCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号4のVLCDR1アミノ酸配列、配列番号5のVLCDR2アミノ酸配列、および配列番号6のVLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含み;
ここで、(1)で定義されたVHは、配列番号10または7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17または13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む、
抗原結合分子。
【請求項2】
a)(1)で定義されたVHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;
b)(1)で定義されたVHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;
c)(1)で定義されたVHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;または
d)(1)で定義されたVHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む、
請求項1に記載の抗原結合分子。
【請求項3】
a)VHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号10に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号17に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;
b)VHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号10に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号17に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;
c)VHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号7に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号17に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;または
d)VHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号7に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によって配列番号13に記載のVLアミノ酸配列とは区別される、
請求項1または2に記載の抗原結合分子。
【請求項4】
a)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってQVQLVQSGVEVKKPGASVKVSCKAS(配列番号19)またはQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKAS(配列番号20)に記載のVHFR1アミノ酸配列とは区別されるVHFR1;
b)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってWVRQAPGQGLEWMA(配列番号21)またはWVRQAPGQGLEWMG(配列番号22)に記載のVHFR2アミノ酸配列とは区別されるVHFR2;
c)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってRVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCAR(配列番号23)またはRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCAR(配列番号24)に記載のVHFR3アミノ酸配列とは区別されるVHFR3;
d)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってYWGQGTLVTVSS(配列番号25)に記載のVHFR4アミノ酸配列とは区別されるVHFR4;
e)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号26)またはDIVMTQSPDSLAVSLGERATINC(配列番号27)に記載のVLFR1アミノ酸配列とは区別されるVLFR1;
f)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってWYQQKPGKAPKLLIY(配列番号28)またはWYQLKPGQPPKLLLY(配列番号29)に記載のVLFR2アミノ酸配列とは区別されるVLFR2;
g)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号30)またはGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYC(配列番号31)に記載のVLFR3アミノ酸配列とは区別されるVLFR3;および/または
h)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってFGQGTKVEIK(配列番号32)またはFGGGTKLEIK(配列番号33)に記載のVLFR4アミノ酸配列とは区別されるVLFR4、
を含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項5】
a)QVQLVQSGX
1EVKKPGASVKVSCKAS(配列中、X
1はVまたはAである)(配列番号34)のVHFR1アミノ酸配列;
b)WVRQAPGQGLEWMX
2(配列中、X
2はAまたはGである)(配列番号35)のVHFR2アミノ酸配列;
c)RVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCAR(配列番号23)またはRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCAR(配列番号24)のVHFR3アミノ酸配列;
d)YWGQGTLVTVSS(配列番号25)のVHFR4アミノ酸配列;
e)DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号26)またはDIVMTQSPDSLAVSLGERATINC(配列番号27)のVLFR1アミノ酸配列;
f)WYQQKPGKAPKLLIY(配列番号28)またはWYQLKPGQPPKLLLY(配列番号29)のVLFR2アミノ酸配列;
g)GVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号30)またはGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYC(配列番号31)のVLFR3アミノ酸配列;および/または
h)FGQGTKVEIK(配列番号32)またはFGGGTKLEIK(配列番号33)のVLFR4アミノ酸配列
を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項6】
配列番号10または7のVHアミノ酸配列および配列番号17または13のVLアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項7】
a)配列番号10のVHアミノ酸配列および配列番号17のVLアミノ酸配列を含む;
b)配列番号10のVHアミノ酸配列および配列番号13のVLアミノ酸配列を含む;
c)配列番号7のVHアミノ酸配列および配列番号17のVLアミノ酸配列を含む;または
d)配列番号7のVHアミノ酸配列および配列番号13のVLアミノ酸配列を含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項8】
抗体またはその抗原結合断片である、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項9】
抗体またはその抗原結合断片は、完全長抗体、実質的にインタクトな抗体、Fab断片、scFab、Fab’、単鎖可変断片(scFv)またはワンアーム型抗体である、請求項8に記載の抗原結合分子。
【請求項10】
配列番号84と少なくとも70%の配列同一性を有する軽鎖配列、および配列番号85と少なくとも70%の配列同一性を有する重鎖配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項11】
CEACAM5および/またはCEACAM6に結合する、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項12】
放射性同位体または細胞毒にコンジュゲートされている、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項13】
細胞毒は、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)、モノメチルオーリスタチンF(MMAF)、メルタンシン(DM-1)、サポリン、ゲムシタビン、イリノテカン、エトポシド、ビンブラスチン、ペメトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、白金製剤(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン)、ビノレルビン、カペシタビン、ミトキサントロン、イクサベピロン、エリブリン、5-フルオロウラシル、トリフルリジンならびにチピラシルからなる群から選択される、請求項12に記載の抗原結合分子。
【請求項14】
ゲフィチニブ耐性肺がん細胞、オシメルチニブ耐性肺がん細胞、非小細胞肺がん細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、胃(もしくは胃の)がん細胞、小腸がん細胞、食道がん細胞または結腸直腸がん細胞に選択的に結合する、請求項1~13のいずれか一項に記載の抗原結合分子。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードする核酸配列を含む、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
1つ以上の制御配列との作動可能な連結で請求項15に記載のポリヌクレオチドを含むコンストラクト。
【請求項17】
請求項16に記載のコンストラクトを含有する宿主細胞。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項19】
医薬としての使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子または請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
対象においてがんまたは炎症性疾患を処置または予防する方法であって、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子または請求項18に記載の組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法。
【請求項21】
がんは、ゲフィチニブ耐性肺がん、オシメルチニブ耐性肺がん、非小細胞肺がん、乳がん、膵臓がん、胃(または胃の)がん、小腸がん、食道がんおよび結腸直腸がんからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
炎症性疾患はクローン病または喘息である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
対象においてがんの処置または予防に使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子または請求項18に記載の組成物。
【請求項24】
がんを処置または予防するための医薬の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子または請求項18に記載の組成物の使用。
【請求項25】
対象においてがんを検出するための方法であって、対象から得た試料を請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の抗原結合分子の結合レベルの上昇ががんを指示する、方法。
【請求項26】
がんにかかりやすい対象を特定するための方法であって、対象から得た試料を請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の結合レベルの上昇が対象はがんにかかりやすいことを指示する、方法。
【請求項27】
抗原結合分子は検出可能な標識を含む、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1~14のいずれか一項に記載の抗原結合分子を使用のための取扱説明書と一緒に含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の方法で使用される場合のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、抗体技術の分野に関する。具体的には、本発明は、抗CEACAM5/6抗原結合分子およびその処置方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
癌胎児性抗原関連細胞接着分子5(CEACAM5)および癌胎児性抗原関連細胞接着分子6(CEACAM6)は、癌胎児性抗原(CEA)ファミリーに属する。CEACAM5およびCEACAM6は、胃癌、乳癌、膵臓癌、結腸癌および非小細胞肺癌(NSCL)が含まれる多種多様ながんにおいて高度に発現されることが知られている、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型細胞表面糖タンパク質である。
【0003】
CEACAMの翻訳後グリコシル化は、CEACAMの二量体化特性を変更することができる、細胞のタイプおよび種類依存のプロセスである。口腔扁平上皮癌では、N-グリコシル化CEACAM6は、再発に関連する腫瘍マーカーであり、細胞の遊走および浸潤の増強にとって必要とされる。N末端グリコシル化CEACAM5は、結腸直腸がん(CRC)において上方制御される。さらに、N-グリコシル化CEACAM種のタンパク質発現は、CRC細胞の頂端膜上で主に見いだされるが、一方、正常な結腸細胞の内部に主として存在する。
【0004】
CEACAM5およびCEACAM6は有望ながん標的であるが、ヒトのがん処置向けに現在開発中である抗CEACAM5および抗CEACAM6のモノクローナル抗体の数には限りがある。したがって、がん療法として効果的であるこれらの標的に対する新規抗体を開発する必要がある。
【0005】
抗体のヒト化は、抗体をヒトでの臨床治療用途へと導く極めて重要なステップである。マウス抗体の抗体ヒト化には、定常領域のマウスIgGバックボーンと可変領域のフレームワーク領域をヒトバージョンに置き換えること、それとともに抗原結合を担う元来の相補性決定領域(CDR)を保持することを伴う。抗体のヒト化により、マウス由来の治療用抗体で発生することが知られている拒絶反応およびヒト抗マウス抗体(HAMA)応答のリスクが減少する。しかし、このプロセスにより、抗体の元来の機能および/または特異性が損なわれる場合が多い。
【0006】
したがって、上述の難題の1つ以上を克服または改善することが一般には望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本明細書で開示されているのは、抗原結合分子であって:(i)配列番号1のVHCDR1アミノ酸配列、配列番号2のVHCDR2アミノ酸配列、および配列番号3のVHCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに(ii)配列番号4のVLCDR1アミノ酸配列、配列番号5のVLCDR2アミノ酸配列、および配列番号6のVLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含み;ここで、(1)で定義されたVHは、配列番号10または7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17または13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む、抗原結合分子である。
【0008】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。
【0009】
本明細書で開示されているのは、1つ以上の制御配列との作動可能な連結で本明細書で定義されたポリヌクレオチドを含むコンストラクトである。
【0010】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義されたコンストラクトを含有する宿主細胞である。
【0011】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子および薬学的に許容される担体を含む組成物である。
【0012】
本明細書で開示されているのは、医薬としての使用のための本明細書で定義された抗原結合分子または組成物である。
【0013】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を処置または予防する方法であって、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法である。
【0014】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患の処置または予防に使用するための、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物である。
【0015】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を処置または予防するための医薬の製造における、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物の使用である。
【0016】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を検出するための方法であって:対象から得た試料を本明細書で定義された抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の抗原結合分子の結合レベルの上昇ががんまたは炎症性疾患を指示する、方法である。
【0017】
本明細書で開示されているのは、がんまたは炎症性疾患にかかりやすい対象を特定するための方法であって、対象から得た試料を本明細書で定義された抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の結合レベルの上昇が対象はがんまたは炎症性疾患にかかりやすいことを指示する、方法である。
【0018】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子を使用のための取扱説明書と一緒に含む、本明細書で定義された方法で使用される場合のキットである。
【0019】
以下、本発明の実施形態について非限定的な例としてのみ、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、CDRに下線を付した潜在的な可変重鎖(VH)フレームワーク翻訳配列を示す。
【
図2】
図2は、CDRに下線を付した潜在的な可変軽鎖(VL)フレームワーク翻訳配列を示す。
【
図3】
図3は、A)スクリーニングワークフローおよびB)スクリーニングワークフローの結果を示す。
【
図4】
図4は以下を示す:A)スクリーニングアウトカムの概要、およびB)~C)特異性の低下がもたらされた可変重鎖(VH)フレームワーク配列および可変軽鎖(VL)フレームワーク配列におけるキーとなる変化、黄色で強調。特異性を保った可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)はイタリック体である。
【
図5】
図5は、AB1抗体の重鎖配列および軽鎖配列を示す。AB1抗体は、
図1および2に示すように、LPH1 VH配列およびLPL2 VL配列を含む。AB2抗体(図示せず)は、AH1 VH配列およびAL1 VL配列を含む。可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)は太字体であり、CDRに下線を付した。
【
図6】
図6は、保存されたN256グリコシル化部位を有するヒトCEACAM5(配列番号86のアミノ酸1~360)およびヒトCEACAM6(配列番号87のアミノ酸1~344)の翻訳配列アラインメントを示す。
【
図7】
図7は、AB1抗原の特性評価を示す。AB1は、A549細胞溶解物中の2つのバンド、75kDaバンドと180kDaバンドを検出する。A549細胞をCEACAM5およびCEACAM6のシングルおよびダブルsiRNAノックダウンに供した。(A)siRNA処理細胞溶解物のウェスタンブロット解析が示すところは、AB1はCEACAM5シングルまたはダブルノックダウン試料中の180kDaバンドに結合しないこと、である。さらに示されるところは、AB1はCEACAM6シングルまたはダブルノックダウン試料中の75kDaバンドに結合しないこと、である。AB1は、スクランブル遺伝子siRNAノックダウン細胞溶解物および未処理細胞(モック試料)中に75kDaおよび180kDaのバンドを検出した。CEACAM5は、シングルノックダウン試料ならびにダブルノックダウン試料において、CEACAM6よりもノックダウンが効率的に劣った。ハウスキーピング遺伝子GAPDHの検出を、ローディング対照として使用する。(B).siRNAノックダウンの効率を、遺伝子発現解析によってモニタリングした。CEACAM5は、シングルノックダウン試料ならびにダブルノックダウン試料において、CEACAM6よりもノックダウンが効率的に劣った。
【
図8】
図8は、AB1抗原認識のN-グリコシル化依存性を示す。A549細胞溶解物を還元し、変性させ、PNGase Fで処理してN-結合型グリコシル化を除去し、AB1および市販のCEACAM5抗体およびCEACAM6抗体でプローブした。ウェスタンブロット解析が示すところは、75kDaバンド(CEACAM6)および180kDaバンド(CEACAM5)へのAB1結合が、還元後およびPNGase F処理後に消失すること、である。市販のCEACAM6抗体は、75kDaに還元されたタンパク質を検出し、より小さいサイズ(37kDa)に脱グリコシル化されたCEACAM6を検出するが、一方、市販のCEACAM5抗体は、脱グリコシル化CEACAM5が全く検出されないことから、これもまたN-グリカン依存であるように思われる。ハウスキーピング遺伝子GAPDHの検出を、ローディング対照として使用する。
【
図9】
図9は、AB1認識に関するN256グリコシル化依存性を示す。CEACAM5およびCEACAM6を発現していない肺がん細胞株NCI-H1299に、CEACAM5配列またはCEACAM6配列、およびN-グリコシル化位置256が突然変異された(N256A)CEACAM5またはCEACAM6の突然変異体配列をトランスフェクトした。この突然変異により、N256位にてのN-グリコシル化が消失する。平均蛍光強度(MFI)を、ヒトIgG1アイソタイプ対照に対して正規化(nMFI)する(
図9AおよびBの表を参照されたい)。AB1のフローサイトメトリー結合を、市販のCEACAM5抗体およびCEACAM6抗体ならびにコンペティター抗体と比較する。コンペティター抗体には、CEACAM6特異的チヌリリマブ(Bayer)、CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)、N-グリコシル化CEACAM5およびN-グリコシル化CEACAM6特異的NEO-201(Precision Biologics)およびCEACAM5およびCEACAM6特異的EBC-123へのバイオシミラーが含まれる。EBC-123は、L-DOS47(Helix Biopharma Corp)のバイオシミラーであり、元来の単量体ラクダ科の単一ドメインVHH 2A3がヒトFc上に移植されている。AB1は、CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299細胞に結合するが(A)、N256A突然変異型CEACAM5またはN256A突然変異型CEACAM6を発現する細胞には結合しない(B)ことが示されている。このことが指示するところは、CEACAM5およびCEACAM6のN256グリコシル化は、CEACAM5またはCEACAM6へのAB1の結合にとって重要であること、である。CEACAM6特異的コンペティター抗体(チヌリリマブ、EBC-123およびNEO-201)はいずれも、CEACAM6のN256グリコシル化に対するこの依存性を示さなかった(
図9A)。
【
図10】
図10は、ヒト初代末梢血細胞(上)またはヒト初代骨髄白血球(下)の異なる集団に対するAB1、AB2およびAB3のフローサイトメトリー結合を、市販抗体およびコンペティター抗体と比較して、示す。溶解させた赤血球とともに初代細胞を、CEACAM5およびCEACAM6を標的とするさまざまな一次抗体とともにインキュベートする。細胞を、顆粒球(CD15+)、T細胞(CD3+)またはB細胞(CD19+)用の蛍光標識系列マーカーで標識する。平均蛍光強度(MFI、上)または正規化MFI(下)(右)を、初代末梢血細胞の場合は3ドナー/2反復について、および初代ヒト骨髄白血球の場合は1ドナー/3反復について示す。AB1、AB2、またはAB3によるCD3
+T細胞への結合は見られない(すなわち無視できる結合が見られる)。AB1、AB2およびAB3は、チヌリリマブ(Bayer)、NEO-201(Precision Biologics)およびEBC-123(Helix Biopharma Corp)のようなCEACAM6特異的抗体と比較して、末梢血中の顆粒球(CD15+ 細胞集団)またはB細胞(CD 19+ 集団)にほとんど結合しないことがわかる。CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)はヒト白血球への結合を全く示さない。
【
図11】
図11は、(A)CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM5ならびに(B)CEACAM6およびN256A突然変異型CEACAM6に対するバイオレイヤー干渉法によるアフィニティー測定を示す。自社製Aviタグ付きのCEACAM5、CEACAM6およびN256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6を、Dip and Read SAバイオセンサーに固定化する。抗体AB1ならびにコンペティター抗体EBC-123(Helix Biopharma Corp)、NEO-201(Precision Biologics)およびツサミタマブ(Sanofi)を被検体として使用する。結果が示すところは、AB1は、2桁のナノモル範囲で同等の親和定数(KD)をもってCEACAM5とCECAM6の両方に結合すること、である。AB1のKDは、野生型CEACAM5およびCEACAM6のタンパク質と比較して、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6に対して10~100分の一小さい。コンペティター抗体は、類似の親和性をもって、CEACAM5、CEACAM6、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6に結合する。
【
図12】
図12は、抗原陽性および抗原陰性の細胞株への抗体AB1およびコンペティター抗体の内部移行を示す。A)は、NCI-H1299およびCEACAM5もしくはCEACAM6またはN256A突然変異型CEACAM5もしくはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299におけるAB1の内部移行を示す。B)は、NCI-H1299細胞およびCEACAM5またはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299細胞への、IgG1アイソタイプ対照抗体ならびにCEACAM5および/またはCEACAM6に特異的なコンペティター抗体と比較した、AB1の内部移行を示す。AB1は、CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299では内部移行するが、NCI-H1299またはN256A突然変異型CEACAM5もしくはN256A突然変異型CEACAM6を発現するNCI-H1299では内部移行しない(A)。CEACAM6特異的チヌリリマブ(Bayer)は、NCI-H1299細胞に非特異的に内部移行する。CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)は、CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299にのみ内部移行するが、一方、CEACAM5およびCEACAM6特異的NEO-201(Precision Biologics)およびEBC-123(Helix Biopharma Corp)は、CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299へのAB1と同等の速度で内部移行する(B)。
【
図13】
図13は、コンジュゲート抗体AB3を示す。AB3は、プロテアーゼで切断可能なマレイミドカルプロイルバリンシトルリン(vc-PAB)リンカーを介してモノメチルオーリスタチンE(MMAE)にコンジュゲートしているAB1からなる。
【
図14】
図14は、CellTiterGlo(商標)生存率アッセイによるインビトロ(in vitro)機能性、および72時間の細胞のインキュベーションの後のIC
50を推定する用量反応曲線を示す。A)左のパネルは、CEACAM6(クローン細胞株12)または突然変異型N256A CEACAM6(クローン細胞株19)を過剰発現するNCI-H1299と比較した、NCI-H1299によるAB3の用量反応曲線を示す。A)右パネルは、CEACAM5(クローン細胞株2F3)または突然変異型N256A CEACAM5(クローン細胞株6)を過剰発現するNCI-H1299と比較した、NCI-H1299によるAB3の用量反応曲線を示す。B)は、NCI-H1299細胞、ならびにCEACAM5、CEACAM6、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299細胞を用いて、AB3、IgG1アイソタイプ対照-MMAEおよび遊離MMAEで得られたIC
50を示す。2桁のナノモルIC
50が膜結合型CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299細胞については得られるが、一方、CEACAM5もCEACAM6も発現しないNCI-H1299細胞およびN256A突然変異型CEACAM5またはN256A突然変異型CEACAM6を発現するNCI-H1299細胞についてはより高いIC
50が得られる。同等の高いIC
50が、全ての細胞株についてIgG1-MMAEアイソタイプ対照により得られ、このことにより、AB3の特異性が実証される。遊離MMAEはピコモル範囲のIC
50を有する。C)MMAEにコンジュゲートしたCEACAM5特異的コンペティター抗体ツサミタマブ(Sanofi)と比較した、AB3でのIC
50を示す。AB3とツサミタマブ-MMAEの両方のIC
50を、がん細胞株Capan-1、CFPAC-1、HCC4006、SNU-16およびHT-29について比較する。AB3は、N256グリコシル化CEACAM5とN256グリコシル化CEACAM6に対するその二重特異性により、より広範囲のがん適応症を標的とする。
【
図15】
図15は、胃異種移植片モデルにおけるAB3を示す。SNU-16細胞は、AB1抗原CEACAM5とCEACAM6の両方を発現する。雌性Balb/cヌードマウス(n=10/群)にSNU-16細胞を移植し、IVで1回(またはドセタキセルの場合は週1回×3)処置する。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で1、3または5mg/kgで与える。AB3により、35日目にそれぞれ154%、147%および114%のTGIが得られる。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されない。5または1mg/kgにてのIgG1-MMAEによる処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGIを有する(それぞれ123%および95%)。さらに、AB3処置マウスのみが用量依存様式で完全奏功を示し、この場合、それぞれ5、3および1mg/kg AB3の単回用量の後に6/10、3/10および1/10のマウスが無腫瘍であるが、IgG1-MMAEのみでの処置の後では無腫瘍の動物は全く観察されない。Anova:一元配置ANOVA検定、これに続いてボンフェローニ多重比較検定、G1と比較して示された有意性レベル:p<0.0001=
****、p<0.001=
**、p<0.05=
*、ns=有意ではない;NA=該当なし;BW、体重(0日目/接種時の動物毎に100%設定、%表示の群平均値を示す);MTV、全ての/残留の動物の平均腫瘍体積;n=匹数;PR、部分寛解;CR、完全寛解;TGI、腫瘍増殖阻害率=平均腫瘍体積(対照35日目-処置35日目)/(対照21日目-対照0日目);TRD、治療関連死;NTRD、非治療関連死(例えば潰瘍化腫瘍、投薬過誤)。
【
図16】
図16は、膵臓異種移植片モデルCapan-1におけるAB3を示す。Capan-1細胞は、AB1抗原CEACAM5とCEACAM6の両方を発現する。雌性NSGマウス(n=10/群)にCapan-1細胞を移植し、IVで1回処置する。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で5mg/kgで与える。AB3により、21日目に110%のTGIが得られる。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されない。5、3または1mg/kgにてのIgG1-MMAEによる処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGIを有する(それぞれ28%、185および-8%)。Anova:一元配置ANOVA検定、これに続いてボンフェローニ多重比較検定、G1と比較して示された有意性レベル:p<0.0001=
****、p<0.001=
**、p<0.05=
*、ns=有意ではない;BW、体重(0日目/接種時の動物毎に100%設定、%表示の群平均値を示す);MTV、全ての/残留の動物の平均腫瘍体積;n=匹数;PR、部分寛解;CR、完全寛解;TGI、腫瘍増殖阻害率=平均腫瘍体積(対照21日目-処置21日目)/(対照21日目-対照0日目);TRD、治療関連死;NTRD、非治療関連死(例えば潰瘍化腫瘍、投薬過誤)。
【
図17】
図17は、膵臓異種移植片モデルBxPC-3におけるAB3を示す。BxPC-3細胞は、AB1抗原CEACAM5とCEACAM6の両方を発現する。雌性NOD-SCIDマウス(n=8/群)にBxPC-3細胞を移植し、IVで1回処置する。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で1または5mg/kgで与える。AB3により、21日目にそれぞれ107%および21%のTGIが得られる。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されない。5mg/kgにてのIgG1-MMAEによる処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGI 6%を有する。Anova:一元配置ANOVA検定、これに続いてボンフェローニ多重比較検定、G1と比較して示された有意性レベル:p<0.0001=
****、p<0.001=
**、p<0.05=
*、ns=有意ではない;BW、体重(0日目/接種時の動物毎に100%設定、%表示の群平均値を示す);MTV、全ての/残留の動物の平均腫瘍体積;n=匹数;PR、部分寛解;CR、完全寛解;TGI、腫瘍増殖阻害率=平均腫瘍体積(対照21日目-処置21日目)/(対照21日目-対照0日目);TRD、治療関連死;NTRD、非治療関連死(例えば潰瘍化腫瘍、投薬過誤)。
【
図18】
図18は、抗原陰性のNCI-H1299およびN256A突然変異型CEACAM5またはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299 対 CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現する抗原陽性のNCI-H1299の腫瘍成長プロファイルを示す。雌性NOD-SCIDマウス(n=6/群)にNCI-H1299細胞を移植し、週毎に3回、75日まで腫瘍体積を測定する。NCI-H1299、CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299、またはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299について、腫瘍発症または倍加時間に差異は観察されない。早期の腫瘍発症がCEACAM5を過剰発現するNCI-H1299について観察されるが、一方、N256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299については腫瘍発症が35日だけ遅延する。腫瘍発症後の腫瘍倍加時間は、全ての細胞株について同等である。
【
図19】
図19は、抗原陰性のNCI-H1299細胞およびN256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299細胞 対 CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現する抗原陽性NCI-H1299細胞を使用した異種移植モデルにおけるAB3を示す。雌性NOD-SCIDマウス(n=6/群)にNCI-H1299細胞を移植し、IVで1回処置する。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で5mg/kgで与える。AB3により、21日目に、抗原陰性細胞NCI-H1299およびN256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299についてそれぞれ32%および28%のTGIが得られる。AB3により、CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現する抗原陽性細胞NCI-H1299についてはそれぞれ109%および110%のTGIが得られる。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されない。Anova:一元配置ANOVA検定、これに続いてボンフェローニ多重比較検定、G1と比較して示された有意性レベル:p<0.0001=
****、p<0.001=
**、p<0.05=
*、ns=有意ではない;BW、体重(0日目/接種時の動物毎に100%設定、%表示の群平均値を示す);MTV、全ての/残留の動物の平均腫瘍体積;n=匹数;PR、部分寛解;CR、完全寛解;TGI、腫瘍増殖阻害率=平均腫瘍体積(対照21日目-処置21日目)/(対照21日目-対照0日目);TRD、治療関連死;NTRD、非治療関連死(例えば潰瘍化腫瘍、投薬過誤)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書は、CEACAM5および/またはCEACAM6に結合するヒト化抗原結合分子について教示するものである。本明細書は、(i)GNTFTSYVMHのVHCDR1アミノ酸配列(配列番号1)、YINPYNDGTKYNEKFKGのVHCDR2アミノ酸配列(配列番号2)およびSTARATPYFYAMDYのVHCDR3アミノ酸配列(配列番号3)を含む重鎖可変領域(VH);ならびに(ii)KSSQSLLWSVNQNSYLSのVLCDR1アミノ酸配列(配列番号4)、GASIRESのVLCDR2アミノ酸配列(配列番号5)およびQHNHGSFLPYTのVLCDR3アミノ酸配列(配列番号6)を含む軽鎖可変領域(VL)、を含むヒト化抗原結合分子について教示するものである。
【0022】
本明細書で開示されているのは、抗原結合分子であって:(1)配列番号1のVHCDR1アミノ酸配列、配列番号2のVHCDR2アミノ酸配列、および配列番号3のVHCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域(VH)、ならびに配列番号4のVLCDR1アミノ酸配列、配列番号5のVLCDR2アミノ酸配列、および配列番号6のVLCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(VL)を含み;ここで、(1)で定義されたVHは、配列番号10または7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%(少なくとも91%~99%およびそれらの間の全ての整数パーセンテージを含めて)の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17または13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%(少なくとも91%~99%およびそれらの間の全ての整数パーセンテージを含めて)の配列同一性を含む、抗原結合分子である。
【0023】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、マウス抗体をヒト化抗体に変換するプロセス過程で、多くの変異体が親マウス形態およびキメラ形態と比較して特異性および/または機能の低下を示すことを見いだした。キーとなるいくつか基準を特定して、インシリコ(in silico)でのヒト化最適化から結果として得られるヒト化変異体をランク付した。重要なことに、問題のあるモチーフの排除を可能とし、さらなる前臨床評価に向けて最終的な3分子に関して迅速に候補一覧にリストアップすることを可能としたのは凝集および部位特異性の読み出し情報であった。
【0024】
一実施形態では、抗原結合分子はCEACAM5および/またはCEACAM6に結合する。一実施形態では、抗原結合分子はCEACAM5に結合する。一実施形態では、抗原結合分子はCEACAM6に結合する。一実施形態では、抗原結合分子はCEACAM5およびCEACAM6に結合する。
【0025】
一実施形態では、抗原結合分子は、N256位でグリコシル化されている場合にCEACAM5および/またはCEACAM6に結合する。一実施形態では、抗原結合分子は、CEACAM5がN256位でグリコシル化されている場合にCEACAM5に結合する。一実施形態では、抗原結合分子は、CEACAM6がN256位でグリコシル化されている場合にCEACAM6に結合する。一実施形態では、抗原結合分子は、CEACAM5とCEACAM6の両方がN256位でグリコシル化されている場合、CEACAM5およびCEACAM6に結合する。
【0026】
本発明の抗原結合分子は、単離形態であっても、精製形態であっても、合成形態であっても、組換え形態であってもよい。適切な抗原結合分子は、モノクローナル抗体(MAb)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体およびそのような抗体の抗原結合断片を含めて、抗体およびそれらの抗原結合断片から選択することができる。抗原結合分子は、多価(例えば二価)であっても一価であってもよい。一部の実施形態では、抗原結合分子はFcドメインを含む。他の実施形態では、抗原結合分子はFcドメインを欠く。一部の実施形態では、抗原結合分子は、一価の抗原結合分子(例えば、Fab、scFab、Fab’、scFv、ワンアーム型(one-armed)抗体等)である。
【0027】
「抗原結合分子」とは、標的抗原に対する結合親和性を有する分子を意味する。この用語は、免疫グロブリン、免疫グロブリン断片および抗原結合活性を呈する非免疫グロブリン由来のタンパク質フレームワークに及ぶことが理解されるであろう。本発明の実施に際して有用である代表的な抗原結合分子には、抗体およびそれらの抗原結合断片が含まれる。「抗原結合分子」という用語には、抗体および抗体の抗原結合断片が含まれる。
【0028】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、標的抗原に特異的に結合するかまたはそれと特異的に相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味すると理解される。「抗体」という用語には、ジスルフィド結合によって相互結合された2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む完全長免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)が含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(HCVR、VHと省略される場合がある)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、CH1、CH2およびCH3の3つのドメインを通常には含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(LCVRまたはVLと省略される場合がある)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を通常には含むことになる。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)とも呼ばれる非常に保存性である領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VHおよびVLは、通常には、3つのCDRおよび4つのFRを含み、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。一部の実施形態では、本明細書に記載の抗原結合分子のFRは、標的種(すなわち、本明細書に記載の抗原結合分子またはその抗原結合断片が投与されることになる種)の生殖系配列のFRと同一である場合がある。一部の実施形態では、FRは自然に改変されていても人為的に改変されていてもよい。一般に、FR配列のそれぞれが、標的種の対象への投与に際して結合分子に対して起こされる免疫応答を最小限に抑えることを含めて、標的種の免疫グロブリン分子に由来するFR配列と同一であることが望ましいが、一方、一部の実施形態では、抗原結合分子またはその抗原結合断片は、そのFR配列の1つ以上にわたって、標的種由来の1つ以上のFR中の対応する位置に外来性となる1個以上のアミノ酸残基を含む場合がある。
【0029】
抗体には、任意のクラスの抗体、例えばIgG、IgAもしくはIgM(またはそれらのサブクラス)が含まれ、かつ抗体は特定の任意のクラスのものであることを要しない。その重鎖の定常領域の抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンはさまざまなクラスに割り当てることができる。IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMの5大免疫グロブリンクラスが存在し、これらのうちのいくつかはサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2にさらに分類することができる。さまざまな免疫グロブリンクラスに対応する重鎖定常領域は、それぞれ、α、δ、ε、γおよびμと呼ばれる。さまざまな免疫グロブリンクラスのサブユニット構造および三次元立体配置は、当業者であればよく知られている。軽鎖はカッパ軽鎖とラムダ軽鎖に分類することができる。
【0030】
一実施形態では、本発明の抗原結合分子は、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群より選択されるアイソタイプを有する。重鎖定常領域は、野生型ヒトFc領域であってもよく、または1個以上のアミノ酸置換を含むヒトFc領域であってもよい。抗体は、当技術分野で開示されているように(例えば、Angal et al., 1993. Mol. Immunol., 30:105-08)、免疫グロブリンの2つの重鎖間のジスルフィド結合を安定化させる突然変異、例えば、IgG4のヒンジ領域における突然変異を有することができる。例えば、U.S.2005/0037000も参照されたい。重鎖定常領域は、抗原結合分子の特性を改変する(例えば、Fc受容体結合、抗原結合分子のグリコシル化、脱アミド化、補体への結合、またはメチオニン酸化のうちの1つ以上を低下させる)置換を有することもできる。いくつかの例では、抗原結合分子は、米国特許第5,624,821号および同第5,648,260号に記載のものなどの突然変異を有していてもよい。一部の実施形態では、抗原結合分子は、エフェクター機能を減少させるかまたは排除するために改変される。重鎖定常領域はキメラであってもよく、例えば、Fc領域は、IgG4アイソタイプのIgG抗体のCH1ドメインおよびCH2ドメイン、ならびにIgG1アイソタイプのIgG抗体由来のCH3ドメインを含むことができる(例えば、米国特許出願公開第2012/0100140号A1を参照されたい)。
【0031】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」(CDR;すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3)という用語は、それらの存在が抗原結合に必要とされる、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、CDR1、CDR2およびCDR3として特定される3つのCDR領域を通常には有する。各相補性決定領域は、例えばKabatにより定義される「相補性決定領域」由来のアミノ酸残基[すなわち、軽鎖可変ドメインのおおよそ残基24~34(L1)、50~56(L2)および89~97(L3)ならびに重鎖可変ドメインの31~35(H1)、50~65(H2)および95~102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)]ならびに/または「超可変ループ」由来のアミノ酸残基[すなわち、軽鎖可変ドメインのおおよそ残基26~32(L1)、50~52(L2)および91~96(L3)ならびに重鎖可変ドメインの26~32(H1)、53~55(H2)および96~101(H3);Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)]を含むことができる。いくつかの例において、相補性決定領域は、Kabatにより定義されるCDR領域と超可変ループの両方に由来のアミノ酸を含むことができる。
【0032】
「抗原結合部位」(またはパラトープ)とは、抗原との相互作用を可能とする抗原結合分子の部位、すなわち、1つ以上のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)由来のアミノ酸残基を含む。ネイティブの免疫グロブリン分子は2つの抗原結合部位を通常には有し、Fab分子は単一の抗原結合部位を通常には有する。本明細書に記載の抗原結合分子の抗原結合部位は、典型的には、抗原に、より具体的には抗原のエピトープに特異的に結合する。
【0033】
「抗原結合断片」、「抗原結合部分」、「抗原結合ドメイン」および「抗原結合部位」という各用語は、本明細書で言い換え可能に使用されて、抗原結合に関与する抗原結合分子の一部分を指す。これらの用語には、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成性の、または遺伝子操作された任意のポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。
【0034】
抗体の抗原結合断片は、例えば、適切な任意の標準技法、例えば、タンパク質分解消化または抗体の可変ドメインおよび適宜定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を伴う組換え遺伝子操作技法を使用して、完全長抗体分子から導出することができる。そのようなDNAは、既知でありおよび/もしくは例えば商業的給源、DNAライブラリ(例えば、ファージ-抗体ライブラリを含めて)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変および/もしくは定常ドメインを適切な立体配置に配置するために、またはコドンを導入する、システイン残基を形成する、アミノ酸を改変、付加もしくは欠失させる等のために、配列決定することができかつ化学的にまたは分子生物学的技法を使用することによって操作することができる。
【0035】
抗原結合断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基から構成される最小認識単位[例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR)]、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドが含まれる。その他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ワンアーム型抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディ等)、小モジュール免疫薬(small modular immunopharmaceuticals)(SMIP)、ラクダ科動物VHHおよびサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現内に包含される。
【0036】
抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの可変ドメインを通常には含むことになる。可変ドメインは、任意のサイズであっても任意のアミノ酸組成であってもよく、1つ以上のフレームワーク配列に隣接するかまたは1つ以上のフレームワーク配列とインフレームである少なくとも1つのCDRを一般には含むことになる。VLドメインと会合したVHドメインを有する抗原結合断片では、VHドメインとVLドメインは、相互に対して適切な任意の配置下に設置することができる。例えば、可変領域は、二量体であってもよく、VH-VH、VH-VLまたはVL-VLの各二量体を含有することができる。代替的に、抗体の抗原結合断片は、単量体のVHドメインまたはVLドメインを含有する場合もある。
【0037】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合により連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有することができる。本発明の抗体の抗原結合断片内に見いだすことができる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的、例示的な立体配置としては、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3,(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2,(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが挙げられる。上に列記の例示的な立体配置のいずれをも含めて、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の立体配置では、可変ドメインおよび定常ドメインは、相互に直接的にどちらも連結される場合もあり、または完全なもしくは部分的なヒンジもしくはリンカー領域により連結される場合もある。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子内での隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間のフレキシブルまたは準フレキシブルな連結をもたらす少なくとも2個(例えば、5、10、15、20、40、60個またはそれ超)のアミノ酸から構成することができる。さらに、本開示の抗体の抗原結合断片は、相互におよび/または1つ以上の単量体のVHドメインもしくはVLドメインと非共有結合で会合している(例えば、ジスルフィド結合により)、上に列記の可変ドメインおよび定常ドメインの立体配置のいずれかのホモ二量体もしくはヘテロ二量体(または他の多量体)を含むことができる。多重特異性抗原結合分子は少なくとも2つの異なる可変ドメインを通常には含むことになり、この場合、各可変ドメインは別個の抗原にまたは同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。二重特異性抗原結合分子フォーマットを含めて、任意の多重特異性抗原結合分子フォーマットを、当技術分野で利用可能なルーチン技法を使用して、本開示の抗体の抗原結合断片の背景で使用するように構成することができる。
【0038】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗原結合分子を抗原に結合させることに関与する抗体重鎖または軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は一般に同様の構造を持ち、この場合、各ドメインは保存された4つのフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(またはCDR)を含む。例えば、Kindt et al., Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)を参照されたい。抗原結合特異性を付与するのに、単一のVHドメインまたはVLドメインで十分とすることができる。
【0039】
本明細書で使用される「定常ドメイン」または「定常領域」という用語は、可変領域以外の抗体のドメインの総体を意味する。定常領域は、抗原の結合に直接関与しないが、種々の免疫エフェクター機能を呈する。
【0040】
一実施形態では、抗原結合分子またはその抗原結合断片はヒト化である。「ヒト化」とは、抗原結合分子がヒトに適合するアミノ酸配列を含み、その結果、当該アミノ酸配列がヒト対象の免疫系によって異物とみなされる可能性は低いことを意味する。一実施形態では、ヒト化抗原結合分子は、1つ以上のヒト免疫グロブリン分子に由来する1つ以上の免疫グロブリンフレームワーク領域を含む。一部の実施形態では、ヒト化抗原結合分子のフレームワーク領域の全てが、1つ以上のヒト免疫グロブリン分子に由来することになる。ヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン分子に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよいとすることができる。
【0041】
「特異的に結合する」または「特異的結合」という各句は、生理学的条件下でバックグラウンドの少なくとも2倍である、より典型的にはバックグラウンドの分子会合の10~100倍超である、2つの分子間の結合反応を指す。タンパク質である1つ以上の検出可能な結合剤を使用する場合、特異的結合とは、そのタンパク質の存在を、複数のタンパク質およびその他の生物製剤の異種集団において、決定するものである。したがって、指定された免疫アッセイ条件下で、特定の抗原結合分子は特定の抗原性決定基に結合し、それによってその存在を特定する。そのような条件下での抗原性決定基への特異的結合には、当該決定基へのその特異性に関して選択される抗原結合分子が必要である。こういった選択は、他の分子と交差反応する抗原結合分子を取り除くことによって行うことができる。さまざまな免疫アッセイフォーマットを使用して、抗原結合分子(例えば免疫グロブリン)が特定の抗原と特異的に免疫反応性であるようにそれらを選択することができる。例えば、固相ELISA免疫アッセイは、タンパク質と特異的に免疫反応性である抗体を選択するためにルーチンで使用される[例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual (1988) for a description of immunoassay formats and conditions that can be used to determine specific immunoreactivityを参照されたい]。結合親和性および特異性を決定する方法はまた、当技術分野でよく知られている[例えば、Harlow and Lane, supra; Friefelder, “Physical Biochemistry: Applications to biochemistry and molecular biology” (W.H. Freeman and Co. 1976)を参照されたい]。
【0042】
「親和性」または「結合親和性」とは、分子(例えば抗原結合分子)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合相互作用の総合計の強度を指す。別段の定めが無い限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対、例えば抗原結合分子のメンバ間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)によって表すことができ、このKdは解離速度定数および会合速度定数(それぞれ、koffおよびkon)の比である。したがって、同等の親和性は、速度定数の比が同一のままである限り、異なる速度定数を含む場合がある。親和性は、本明細書に記載のものを含めて、当技術分野で既知の普通の方法によって測定することができる。親和性を測定するための特定の方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)である。親和性はまた、バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して測定することもできる。別の実施形態では、親和性を測定する方法は、細胞ベースの親和性測定技法を使用して決定される。
【0043】
「ポリペプチド」、「ペプチド」または「タンパク質」という各用語は、本明細書で言い換え可能に使用されて、アルファアミノ基と隣接する残基のカルボキシ基との間のペプチド結合によって、一方から他方へと連結されたアミノ酸残基の直鎖状のシリーズを示す。アミノ酸残基は普通は天然の「L」異性体形態である。しかし、所望の機能的特性がポリペプチドによって保持されている限り、任意のL-アミノ酸残基を「D」異性体形態の残基で置換することができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「改変抗体」という用語には、天然には存在しないものであるように変更されている合成形態の抗体、例えば、少なくとも2つの重鎖部分を含むが2つの完全な重鎖は含まない抗体(例えばドメイン欠失抗体またはミニボディ);2つ以上の異なる抗原にまたは単一の抗原上の異なるエピトープに結合するように変更された多重特異性形態の抗体(例えば、二重特異性、三重特異性等);scFv分子に連結された重鎖分子等が含まれる。scFv分子は、当技術分野で既知であり、例えば米国特許第5,892,019号に記載されている。加えて、「改変された抗体」という用語には、多価形態の抗体(例えば、同じ抗原の3つ以上のコピーに結合する三価、四価等の抗体)が含まれる。
【0045】
一実施形態では、a)(1)で定義されたVHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;b)(1)で定義されたVHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;c)(1)で定義されたVHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む;またはd)(1)で定義されたVHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含み、(1)で定義されたVLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域と少なくとも90%の配列同一性を含む。
【0046】
一実施形態では、a)VHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号10に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号17に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;b)VHは、配列番号10に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号10に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号13に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;c)VHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号7に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号17に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号17に記載のVLアミノ酸配列とは区別される;またはd)VHは、配列番号7に記載のVHアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号7に記載のVHアミノ酸配列と区別され、VLは、配列番号13に記載のVLアミノ酸配列のCDR以外の少なくとも1つの領域における1個以上のアミノ酸(例えば、1、2、3、4もしくは5個)の欠失、置換もしくは付加によって配列番号13に記載のVLアミノ酸配列とは区別される。
【0047】
一実施形態では、抗原結合分子は以下を含む:
a)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってQVQLVQSGVEVKKPGASVKVSCKAS(配列番号19)またはQVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKAS(配列番号20)に記載のVHFR1アミノ酸配列とは区別されるVHFR1;
b)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってWVRQAPGQGLEWMA(配列番号21)またはWVRQAPGQGLEWMG(配列番号22)に記載のVHFR2アミノ酸配列とは区別されるVHFR2;
c)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってRVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCAR(配列番号23)またはRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCAR(配列番号24)に記載のVHFR3アミノ酸配列とは区別されるVHFR3;
d)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってYWGQGTLVTVSS(配列番号25)に記載のVHFR4アミノ酸配列とは区別されるVHFR4;
e)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号26)またはDIVMTQSPDSLAVSLGERATINC(配列番号27)に記載のVLFR1アミノ酸配列とは区別されるVLFR1;
f)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってWYQQKPGKAPKLLIY(配列番号28)またはWYQLKPGQPPKLLLY(配列番号29)に記載のVLFR2アミノ酸配列とは区別されるVLFR2;
g)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号30)またはGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYC(配列番号31)に記載のVLFR3アミノ酸配列とは区別されるVLFR3;および/または
h)1個以上のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加によってFGQGTKVEIK(配列番号32)またはFGGGTKLEIK(配列番号33)に記載のVLFR4アミノ酸配列とは区別されるVLFR4。
【0048】
一実施形態では、抗原結合分子は以下を含む:
a)QVQLVQSGX1EVKKPGASVKVSCKAS(配列中、X1はVまたはAである)(配列番号34)のVHFR1アミノ酸配列;
b)WVRQAPGQGLEWMX2(配列中、X2はAまたはGである)(配列番号35)のVHFR2アミノ酸配列;
c)RVTLTTDSSTTTAYMELKSLQFDDTAVYYCAR(配列番号23)またはRVTMTRDTSTSTVYMELSSLRSEDTAVYYCAR(配列番号24)のVHFR3アミノ酸配列;
d)YWGQGTLVTVSS(配列番号25)のVHFR4アミノ酸配列;
e)DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC(配列番号26)またはDIVMTQSPDSLAVSLGERATINC(配列番号27)のVLFR1アミノ酸配列;
f)WYQQKPGKAPKLLIY(配列番号28)またはWYQLKPGQPPKLLLY(配列番号29)のVLFR2アミノ酸配列;
g)GVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYC(配列番号30)またはGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYYC(配列番号31)のVLFR3アミノ酸配列;および/または
h)FGQGTKVEIK(配列番号32)またはFGGGTKLEIK(配列番号33)のVLFR4アミノ酸配列。
【0049】
一実施形態では、抗原結合分子は、配列番号10または7のVHアミノ酸配列および配列番号17または13のVLアミノ酸配列を含む。
【0050】
一実施形態では、a)抗原結合分子は、配列番号10のVHアミノ酸配列および配列番号17のVLアミノ酸配列を含む;b)抗原結合分子は、配列番号10のVHアミノ酸配列および配列番号13のVLアミノ酸配列を含む;c)抗原結合分子は、配列番号7のVHアミノ酸配列および配列番号17のVLアミノ酸配列を含む;またはd)抗原結合分子は、配列番号7のVHアミノ酸配列および配列番号13のVLアミノ酸配列を含む。
【0051】
一実施形態では、抗原結合分子は抗体またはその抗原結合断片である。一実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、完全長抗体、実質的にインタクトな抗体、Fab断片、scFab、Fab’、単鎖可変断片(scFv)またはワンアーム型抗体である。
【0052】
一実施形態では、抗原結合分子は完全長抗体である。一実施形態では、完全長抗体はIgG(例えばIgG1)抗体である。
【0053】
一実施形態では、抗原結合分子は、配列番号84と少なくとも70%(少なくとも71%~99%およびそれらの間の全ての整数パーセンテージを含めて)の配列同一性を有する軽鎖配列、および配列番号85と少なくとも70%(少なくとも71%~99%およびそれらの間の全ての整数パーセンテージを含めて)の配列同一性を有する重鎖配列を含む。
【0054】
本明細書で使用される「配列同一性」という用語は、比較ウインドウにわたって、ヌクレオチド単位基準でまたはアミノ酸単位基準で、配列が同一である程度を指す。したがって「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウインドウにわたって最適にアライメントされた2つの配列を比較することによって、同一核酸塩基(例えば、A、T、C、GおよびI)または同一アミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が両方の配列で生じる位置の数を決定してマッチする位置の数を得ることによって、比較ウインドウの総位置数(すなわち、ウインドウのサイズ)でマッチした位置の数を除することによって、そしてその結果を100で乗じて配列同一性の割合を得ることによって算出する。
【0055】
本明細書で定義された抗原結合分子は、1つ以上の保存的アミノ酸置換を含むことができる。
【0056】
「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基を類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換える置換を意味すると理解されたい。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野において定義されており、下の表「アミノ酸分類」に示すように一般に下位分類することができる:
アミノ酸下位分類
【0057】
【0058】
また保存的アミノ酸置換は側鎖に基づくグループ分けを含む。例えば、脂肪族側鎖を有するアミノ酸のグループは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンである;脂肪族-ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸のグループは、セリンおよびスレオニンである;アミド含有側鎖を有するアミノ酸のグループは、アスパラギンおよびグルタミンである;芳香族側鎖を有するアミノ酸のグループは、フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファンである;塩基性側鎖を有するアミノ酸のグループは、リジン、アルギニンおよびヒスチジンである;ならびに含硫側鎖を有するアミノ酸のグループは、システインおよびメチオニンである。例えば、イソロイシンもしくはバリンによるロイシンの交換、グルタメートによるアスパルテートの交換、セリンによるスレオニンの交換、または構造的に関連のあるアミノ酸によるアミノ酸の同様の交換は、結果として得られる変異体ポリペプチドの特性に大きな影響を与えることはないと予測することは理にかなうことである。アミノ酸変化によって機能性のポリペプチドがもたらされるかどうかについては、その活性をアッセイすることにより容易に決定することができる。
【0059】
保存的置換についてはまた下に表中に示す(例示的および好ましいアミノ酸置換)。本発明の範囲内にあるアミノ酸置換は、全体として、(a)置換領域内のペプチドバックボーンの構造、(b)標的部位にての分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖の嵩を維持することに及ぼすそれらの影響の点ではなはだしく異なってはいない置換を選択することにより行われる。置換を導入した後、変異体は、本明細書の他の場所に記載の方法を含めて、当業者であれば既知の方法を使用して、抗原に特異的に結合するその能力についてスクリーニングすることができる。
例示的および好ましいアミノ酸置換
【0060】
【0061】
一実施形態では、抗原結合分子は、放射性同位体または細胞毒にコンジュゲートされている。
【0062】
一実施形態では、抗原結合分子は、細胞毒にコンジュゲートした完全長IgG(例えばIgG1)抗体である。抗原結合分子を、プロテアーゼで切断可能なマレイミドカルプロイルバリンシトルリン(vc-PAB)リンカーを介して細胞毒にコンジュゲートすることができる。
【0063】
一実施形態では、抗原結合分子は、マレイミドカルプロイルバリンシトルリン(vc-PAB)リンカーを介してモノメチルオーリスタチンE(MMAE)にコンジュゲートしているAB1からなる(すなわち、
図13に示すAB3)。一実施形態では、リンカー-毒素の組合せは、化学式C
58H
94N
10O
12を有し、化学名L-バリンアミド,N-メチル-N-[[[4-[[L-バリル-N5-(アミノカルボニル)-L-オルニチル]アミノ]フェニル]メトキシ]カルボニル]-L-バリル-N-[(1S,2R)-4-[(2S)-2-[(1R,2R)-3-[[(1R,2S)-2-ヒドロキシ-1-メチル-2-フェニルエチル]アミノ]-1-メトキシ-2-メチル-3-オキソプロピル]-1-ピロリジニル]-2-メトキシ-1-[(1S)-1-メチルプロピル]-4-オキソブチル]-N-メチルである。コンジュゲーションは、まず37℃にてTCEPでmAh鎖間ジスルフィド結合を還元し、次いで薬物のマレイミド部分を還元システインに連結させることにより、マレイミド-システインベースの方法によって行うことができる。薬物抗体比(DAR)は、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)で解析することができる。例えば、DAR比は3~4の間とすることができる。
【0064】
別の態様では、以下の式(I)の抗原結合分子または抗原薬物複合体(ADC):
Ab-(L-D)n (I)
またはその薬学的に許容される塩が提供される
(式中、
Abは、本明細書で定義された抗体またはその抗体断片である:
Lはリンカーである;
Dは細胞毒である)。
【0065】
一実施形態では、本発明はADCに関し、ここで、Lが以下の式(II):
【0066】
【化1】
のリンカーである
[式中、
L2はシクロアルキレン-カルボニル、(C2~C6)アルキルまたは(C2~C6)アルキル-カルボニルであり;
Wはアミノ酸単位であり;wは0~5で構成される整数であり;
Yは、PABが
【0067】
【化2】
であるPAB-カルボニルであり;
xはHであっても
【0068】
【化3】
であってもよく;
yは0または1であり;
アスタリスクはDへの付着点を指示し;
波線はAbへの付着点を指示する]。
【0069】
本発明の一実施形態はADCに関し、ここで、L2が以下の式:
【0070】
【化4】
のものである
[式中、
アスタリスクは(W)
wへの付着点を指示し;
波線は、式
【0071】
【化5】
のマレイミド部分の窒素原子への付着点を指示する]。
【0072】
本発明の一実施形態では、w=0、またはw=2、次いで(W)wは:
【0073】
【化6】
から選択される
[式中、
アスタリスクは(Y)
yへの付着点を指示し;
波線はL
2への付着点を指示する]。
【0074】
一実施形態では、本発明はADCに関し、ここで、Lが:
【0075】
【化7】
から選択される
(式中、アスタリスクはDへの付着点を指示し、波線はAbへの付着点を指示する)。
【0076】
別の実施形態では、本発明はADCに関し、ここで、Lが以下の式(III):
【0077】
【化8】
のリンカーである
[式中、
L’
2はシクロアルキレン-カルボニル、(C2~C6)アルキレン、または(C2~C6)アルキレン-カルボニルであり;
W’はアミノ酸単位であり;
w’は0から5の整数であり;
Y’は、PABが:
【0078】
【化9】
であるPAB-カルボニルであり;
xはHであっても
【0079】
【化10】
であってもよく;
y’は0または1であり;
R’はC
1~C
3アルケニルまたはHである]。
【0080】
一実施形態では、式(III)の化合物は、式(III’):
【0081】
【0082】
一実施形態では、式(III’)の化合物は、L2’がC2アルキレンカルボニルであり、w’が2であることで特徴付けられる。
【0083】
一実施形態では、式(III’)のリンカー化合物は:
【0084】
【0085】
別の実施形態では、式(III’)のリンカー化合物は:
【0086】
【0087】
別の実施形態では、式(III’)のリンカー化合物は:
【0088】
【0089】
本発明のリンカーは、アミド結合カップリングを使用して合成することができる。アミド合成には多くの方法が存在する。一部の方法が、それらに限定されないが、Montalbetti, Christian A. G. N[Tetrahedron 61(46), 2005, 10827-10852]に記載されている。代替的に、リンカーは、例えばペプチドまたはタンパク質のシンセサイザーを使用した、1つ以上の残基の標準的な段階的付加を使用して合成することができる。代替的に、アミド形成に使用することができる他の方法には、それらに限定されないが、ベックマン転位、シュミット反応、ニトリル加水分解、ウィルゲロット・キンドラー反応、パッセリーニ反応、ウギ反応、ボドルー反応、チャップマン転位、ロイカートアミド合成、リッター反応、エステルアミノリシス、ショッテン・バウマン反応、アルコールとアミンのルテニウムベースの触媒、またはオレフィンへのホルムアミドの光分解的付加が含まれる。
【0090】
一実施形態では、細胞毒は、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、メルタンシン(DM-1)、サポリン、ゲムシタビン、イリノテカン、エトポシド、ビンブラスチン、ペメトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、白金製剤(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン)、ビノレルビン、カペシタビン、ミトキサントロン、イクサベピロン、エリブリン、5-フルオロウラシル、トリフルリジンならびにチピラシルからなる群から選択される。
【0091】
抗原結合分子はまた、検出可能な部分にコンジュゲートすることができる。
【0092】
本発明によって企図される検出可能な部分には、例えば、インビトロ検出およびインビボ(in vivo)イメージングを含めて、診断用検出に適当である、当技術分野で既知の任意の種類が含まれる。検出可能部分は、例えば、フルオロフォア、放射性核種レポーター、金属含有ナノ粒子もしくは微粒子、超音波造影剤(例えば、ナノバブルもしくはマイクロバブル)、または光学イメージング色素とすることができる。検出可能部分にはまた、磁気共鳴画像法(MRI)および磁性粒子画像法(MPI)で視認可能な造影粒子も含まれる。フルオロフォアは、例えば、蛍光偏光、蛍光活性化セルソーティング、およびエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)検出と組み合わせた場合もありそうではない場合もある蛍光顕微鏡法、ならびに蛍光放出コンピュータ断層撮影(FLECT)イメージングによって検出および/または画像化することができる。放射性核種レポーターは、例えば、単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)、陽電子放出断層撮影法(PET)またはシンチグラフィーイメージングなどの放射性核種(核)検出によって検出および画像化することができる。金属含有ナノ粒子または微粒子は、常磁性ナノ粒子または微粒子とともに通常には使用されるMRIを含めて、および超常磁性粒子とともに一般には使用されるMPIを含めて、光学イメージングを使用して検出することができる。超音波造影剤は、造影超音波(CEU)を始めとする超音波イメージングを使用して検出することができる。
【0093】
検出可能な標識はまた、酵素基質標識とすることができる。酵素は、一般に、種々の技法を使用して測定することができる発色基質の化学的変化を触媒することができる。例えば、酵素は、種々の技法を使用して測定することができる発色基質の化学的変化を触媒することができる。例えば、その例は、分光測光法で測定することができる基質の変色を触媒することができる。代替的に、酵素は、基質の蛍光または化学発光を変化させることができる。蛍光の変化を定量化するための技法を上に記載する。化学発光基質は、化学反応によって電子的に励起されそして測定することが可能である(例えば化学発光計を使用して)光を次いで放出することができるか、または蛍光受容体にエネルギーを供与する。酵素標識の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼおよび細菌ルシフェラーゼ;米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、リンゴ酸脱水素酵素、ウレアーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などのペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、糖類酸化酵素(例えば、グルコース酸化酵素、ガラクトース酸化酵素、およびグルコース-6-リン酸塩脱水素酵素)、複素環酸化酵素(例えば、ウリカーゼおよびキサンチン酸化酵素)、ラクトペルオキシダーゼ、ミクロペルオキシダーゼ等が挙げられる。
【0094】
酵素-基質の組合せの例としては、例えば、
1)西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)は過酸化水素を利用して色素前駆体[例えば、オルトフェニレンジアミン(OPD)または3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン塩酸塩(TMB)]を酸化する;
2)発色基質としてのパラニトロフェニルリン酸とのアルカリホスファターゼ(AP);および
3)発色基質(例えば、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド)または蛍光発生基質(4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトシド)とのβ-D-ガラクトシダーゼ(β-D-Gal)
が挙げられる。
【0095】
本発明の別の実施形態では、抗原結合分子を標識する必要はなく、抗原結合分子に結合する標識抗体を使用してその存在を検出することができる。本発明の抗原結合分子は、既知の任意のアッセイ法、例えば競合結合アッセイ、直接および間接サンドイッチアッセイ、免疫組織化学アッセイおよび免疫沈降アッセイにおいて用いることができる。
【0096】
一実施形態では、抗原結合分子は、ゲフィチニブ耐性肺がん細胞、オシメルチニブ耐性肺がん細胞、非小細胞肺がん細胞、乳がん細胞、膵臓がん細胞、胃(もしくは胃の)[stomach(or gastric)]がん細胞、小腸がん細胞、食道がん細胞または結腸直腸がん細胞に選択的に結合する。
【0097】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子をコードする核酸配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。
【0098】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」という各用語は、本明細書では言い換え可能に使用されてヌクレオチドのポリマーを指し、これは、mRNA、RNA、cRNA、cDNAまたはDNAとすることができる。上記用語は、通常、リボヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチド、またはいずれかのタイプの改変型ヌクレオチドで、長さが少なくとも10塩基のポリマー形態のヌクレオチドを指す。上記用語には、一本鎖および二本鎖形態のDNAが含まれる。
【0099】
また、本明細書で開示されているのは、本明細書に記載の抗原結合分子をコードする核酸を含むベクターである。
【0100】
「ベクター」とは、核酸分子を意味し、好ましくは、例えば、その中に核酸配列を挿入またはクローン化することができるプラスミド、バクテリオファージまたはウイルスに由来するDNA分子を意味する。ベクターは、好ましくは、1つ以上のユニークな制限酵素部位を含有し、かつ標的細胞もしくは組織、または前駆細胞もしくはその組織を始めとする所定の宿主細胞内において自律増殖することができるか、または所定の宿主のゲノムと統合することができる可能性があり、その結果、クローン化配列が再産生可能である。したがって、ベクターは、自己複製ベクターとすることができる、すなわち、その複製が染色体の複製から独立している染色体外の実体として、例えば、線状または閉環状プラスミド、染色体外エレメント、小染色体、または人工染色体として存在するベクターとすることができる。ベクターは、自己複製を確実なものにするための任意の手段を含有することができる。代替的に、ベクターは、宿主細胞に導入される場合、ゲノム中に統合されかつベクターが統合された染色体と共に複製されるもの、であってもよい。ベクター系は、単一のベクターもしくはプラスミドを含んでもよく、宿主細胞のゲノムに導入される全DNAを一緒に含有する2つ以上のベクターもしくはプラスミドを含んでもよく、またはトランスポゾンを含んでもよい。ベクターの選択は、通常には、ベクターを導入する宿主細胞とのベクターの適合性に依存することになる。ベクターはまた、適切な形質転換体の選択に使用することができる抗生物質耐性遺伝子などの選択マーカーを含む場合もある。耐性遺伝子の例は、当業者であればよく知られている。
【0101】
本明細書で開示されているのは、1つ以上の制御配列との作動可能な連結で本明細書で定義されたポリヌクレオチドを含むコンストラクトである。
【0102】
「コンストラクト」という用語は、さまざまな供源からの単離された1つ以上の核酸配列を含む組換え遺伝分子を指す。したがって、コンストラクトは、異なる起源の2つ以上の核酸配列を単一核酸分子へとアセンブルしたキメラ分子であり、コンストラクトには以下を含有する任意のコンストラクトが含まれる:(1)天然では一緒に見いだされない調節配列とコード配列を含む、核酸配列(すなわち、ヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つがその他のヌクレオチド配列のうちの少なくとも1つに対して異種である)、または(2)天然には接合していない機能的RNA分子またはタンパク質の部分をコードする配列、または(3)天然には接合していないプロモーターの部分。代表的なコンストラクトには、プラスミド、コスミド、ウイルス、自律複製ポリヌクレオチド分子、ファージまたは線状もしくは環状の一本鎖もしくは二本鎖DNAもしくはRNAの核酸分子などの任意の組換え核酸分子であって、任意の給源に由来し、ゲノムへの統合または自律複製することができ、1つ以上の核酸分子が作動可能に連結されている核酸分子を含む、任意の組換え核酸分子が含まれる。本発明のコンストラクトは、目的の核酸配列の発現を方向付けるのに必要なエレメント、これもまた当該コンストラクトに含有されるのであるが、例えばターゲット核酸配列またはモジュレーター核酸配列などの必要なエレメントを全体として含むことになる。そのようなエレメントは、目的の核酸配列に操作可能に連結されている(核酸配列の転写を方向付けるように)プロモーターなどの制御エレメントまたは調節配列を含むことができ、そして多くの場合ポリアデニル化配列も含む。本発明のある特定の実施形態内では、コンストラクトをベクター内に含有せしめてもよい。コンストラクトの成分に加えて、ベクターは、例えば、1つ以上の選択可能マーカー、原核生物の起点および真核生物の起点などの1つ以上の複製の起点、少なくとも1つの多重クローニング部位、および/または宿主細胞のゲノム中へのコンストラクトの安定した統合を容易にするエレメントを含むことができる。2つ以上のコンストラクトを、単一の核酸分子、例えば単一のベクター内に含めてもよく、別々の2つ以上の核酸分子の中に、例えば別々の2つ以上のベクターの中に含めてもよい。「発現コンストラクト」は、一般に、目的のヌクレオチド配列に操作可能に連結された制御配列を少なくとも1つ含む。こうして、例えば、発現させようとするヌクレオチド配列と操作可能に連結されたプロモーターが、宿主細胞を始めとする生物体またはその一部における発現のための発現コンストラクト中に提供される。本発明の実施のための、コンストラクトと宿主細胞を調製および使用するための従来の組成物および方法については、当業者であれば十分に既知であり、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition Volumes 1, 2, and 3. J. F. Sambrook, D. W. Russell, and N. Irwin, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2000を参照されたい。
【0103】
「制御エレメント」、「制御配列」、「調節配列」等とは、本明細書で使用される場合、特定の宿主細胞において、作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な核酸配列(例、DNA)を意味する。原核細胞に適切である制御配列には、例えば、プロモーターが含まれかつオペレーター配列およびリボソーム結合部位などのシス作用配列が含まれてもよい。真核細胞に適切である制御配列には、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、転写エンハンサーなどの転写制御配列、翻訳エンハンサーおよび内部リボソーム結合部位(IRES)などの翻訳制御配列、mRNAの安定性をモジュレートする核酸配列、ならびに転写されたポリヌクレオチドによりコードされる産物を標的である細胞内の細胞内区画へとまたは細胞外環境へと向かわせるターゲティング配列が含まれる。
【0104】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義されたコンストラクトを含有する宿主細胞である。
【0105】
「宿主」、「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」という各用語は言い換え可能に使用され、そのような細胞の子孫を含めて外因性核酸が導入されている細胞を指す。宿主細胞には、「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれ、それらには初代形質転換細胞および継代の数に関係なくそれらに由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と核酸内容物の点で完全に同一ではない場合があるが、突然変異を含有する場合もある。最初に形質転換細胞中でスクリーニングされたまたは選択されたものと同じ機能または生物活性を有する突然変異体子孫は、本明細書に含まれる。宿主細胞とは、本発明の抗原結合分子を生成するために使用することができるあらゆるタイプの細胞系である。宿主細胞には、培養細胞、いくつか例を挙げると、例えば、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞またはハイブリドーマ細胞などの哺乳動物培養細胞、酵母細胞、昆虫細胞および植物細胞が挙げられるが、トランスジェニック動物、トランスジェニック植物または培養植物もしくは培養動物組織の中に含まれる細胞も挙げられる。
【0106】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。
【0107】
「薬学的に許容される担体」とは、生物学的にまたはそうでないにせよ望ましくないことのない材料から構成される薬学的媒体を意味する、すなわち、その材料は、いかなるまたは実質的な副作用を引き起こすことなく、選択された活性剤とともに対象に投与することができる。担体には、賦形剤およびその他の添加剤、例えば希釈剤、界面活性剤、着色剤、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、保存剤等が含まれ得る。
【0108】
代表的な薬学的に許容される担体には、当業者であれば既知であると思われる、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤(例えば、抗菌剤、抗真菌剤)、等張剤、吸収遅延剤、塩、保存剤、薬物、薬物安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤、色素、同様な物質およびその組合せが含まれる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed. Mack Printing Company, 1990, pp. 1289-1329を参照されたい)。どんな従来の担体でも有効成分と不適合である限りを除き、医薬組成物におけるその使用が企図される。
【0109】
医薬組成物はさまざまな形態とすることができる。これには、例えば、液体、半固体および固体の剤形、例えば液体の溶液(例えば注射用および注入用の溶液)、分散液または懸濁液、リポソームおよび坐剤が含まれる。好ましい剤形は投与および治療用途の企図される様式に依存する。適切な医薬組成物は、静脈内、皮下または筋肉内に投与することができる。一部の実施形態では、組成物は注射用および注入用の溶液の形態である。投与の好ましい様式は非経口(例えば静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。特定の実施形態では、医薬組成物は静脈内の注入または注射により投与される。他の実施形態では、医薬組成物は筋肉内注射または皮下注射により投与される。
【0110】
本明細書で使用される「非経口投与」および「非経口的に投与される」という各句は、経腸および局所投与以外の通常は注射による投与の様式を意味し、それらの句には、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、包膜内、嚢胞内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内の注射および注入が含まれる。
【0111】
非経口投与向けの調製物には、滅菌の水溶液または非水溶液、懸濁液および乳濁液が含まれる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、生理食塩水および緩衝化媒体を含めて、水、アルコール性溶液/水溶液、乳濁液または懸濁液が含まれる。本発明では、薬学的に許容される担体には、それらに限定されないが、0.01~0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝剤または0.8%生理食塩水が含まれる。その他の一般的な非経口媒体には、リン酸ナトリウム溶液、ブドウ糖・リンゲル液、ブドウ糖および塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液または不揮発性油が含まれる。静脈内媒体には、流体および栄養補給剤、ブドウ糖・リンゲル液をベースとするものなどの電解質補給剤等が含まれる。保存剤および他の添加剤、例えば抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、および不活性ガス等が存在してもよい。
【0112】
より具体的には、注射用用途に適した医薬組成物には、無菌注射液または分散系の即時調製用の無菌水溶液(水溶性の場合)または分散系および無菌粉末が含まれる。そのような場合では、組成物は無菌でなければならずかつ容易な通針性が存在する程度まで流動性である必要がある。組成物は、製造および貯蔵の条件下で安定である必要があり、好ましくは、細菌や真菌などの微生物の汚染作用から保護されることになる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコール等)ならびにそれらの適切な混合物を含有する溶媒または分散媒とすることができる。適当な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用によりおよび/または所要の粒度の維持により、維持することができる。特定の実施形態では、本開示の作用剤を細胞デリバリー用の媒体にコンジュゲートさせる場合がある。こういった実施形態では、作用剤を適切な媒体中にカプセル化して、標的細胞への作用剤のデリバリーを補助することができるか、または作用剤の安定性を向上させることができるか、または作用剤の起こり得る毒性を最小限にすることができる。当業者であれば理解されるように、さまざまな媒体が本開示の作用剤をデリバリーするのに適切である。適切な構造化流体デリバリーシステムの非限定的な例としては、ナノ粒子、リポソーム、マイクロエマルション、ミセル、デンドリマーおよび他のリン脂質含有システムを挙げることができる。本開示の作用剤をデリバリー媒体に組み入れる方法は当技術分野において既知である。種々の実施形態を以下に示すが、本明細書に記載の抗原結合分子をデリバリー媒体に組み入れるための当技術分野で既知の他の方法も企図されることが理解されるであろう。
【0113】
投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療応答)がもたらされるように調整される。例えば、単回ボーラスを投与してもよく、いくつかの分割した用量を時間経過とともに投与してもよく、治療状況の緊急性により指示される通り用量を比例して減少または増加させてもよい。本開示の抗原結合分子は、複数回にわたり投与してもよい。単回投薬どうしの間の間隔は、毎日、毎週、毎月または毎年とすることができる。間隔は、患者における改変されたポリペプチドまたは抗原の血中レベルを測定することによって指示される通りに、不規則であってもよい。代替的に、抗原結合分子は、徐放性製剤として投与される場合もあるが、この場合、より低頻度の投与が求められる。投薬量および頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期に応じて変動する。
【0114】
投与の容易さおよび投薬量の均一性のために、組成物を単位剤形で製剤化することは有利とすることができる。本明細書で使用される単位剤形とは、処置される対象のための単一の投薬量として適合された、物理的に別個の単位を指す;各単位は、所要の薬学的に許容される担体と関連して、所望の治療効果を生じるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の仕様は、(a)活性化合物のユニークな特性および達成されるべき特定の治療効果、および(b)個体の感受性の処置のためにこうした活性化合物を調合する際の当技術分野に固有の限界によって左右されかつそれらに直接的に依存する。
【0115】
抗原結合分子の投薬量および治療レジメンは、当業者が決定することができる。ある特定の実施形態では、抗原結合分子は、約0.01~50mg/kg、例えば0.01~0.1mg/kg、例えば約0.1~1mg/kg、約1~5mg/kg、約5~25mg/kg、約10~50mg/kgの用量で注射(例えば、皮下または静脈内)によって投与される。投与スケジュールは、例えば、週に1回から2、3または4週間毎に1回まで異なることができる。
【0116】
投薬量の値は軽減されるべき状態のタイプおよび重症度によって変動してもよいことに留意されたい。さらに、特定の任意の対象に対する具体的な投薬レジメンは、個体の必要性および組成物の投与を施すまたは投与を監督する者の専門的判断に従い時間経過と共に調整すべきであること、ならびに、本明細書に記載の投薬量の範囲は単なる例示であり、特許請求されている組成物の範囲または実施を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0117】
本明細書で開示されているのは、医薬としての使用のための本明細書で定義された抗原結合分子または組成物である。
【0118】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を処置または予防する方法であって、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、方法である。
【0119】
「処置する」、「処置」等の各用語は、本明細書では言い換え可能に使用されて、状態の1つ以上の症状を含めて、状態を緩和、縮小、軽減、改善またはそうでなければ抑制することを意味する。「予防する」、「予防すること」、「予防」、「予防的な」、「予防する傾向がある」等の各用語は、本明細書では言い換え可能に使用されて、状態の発症、または状態を発生させるリスクを予防または遅延させることを意味する。
【0120】
「処置する」、「処置」等の各用語にはまた、少なくとも一時期の間、状態の影響を緩和、縮小、軽減、改善またはそうでなければ抑制することも含まれる。「処置する」、「処置」等の各用語は、状態またはその症状が永続的に緩和、縮小、軽減、改善またはそうでなければ抑制されることを意味するものではなく、したがって、状態またはその症状の一時的な緩和、縮小、軽減、改善またはそうでなければ抑制も包含することも理解されたい。
【0121】
本明細書で言い換え可能に使用される「患者」、「対象」、「宿主」または「個体」という各用語は、治療または予防が切望される、任意の対象、特に脊椎動物の対象、さらに特に哺乳動物の対象を指す。本発明の範囲内にある適切な脊椎動物には、それらに限られないが、脊索動物亜門のあらゆるメンバが含まれ、それらには、霊長類[例えば、ヒト、サルおよび類人猿、ならびにMacaca属[例えば、Macaca fascicularisなどのカニクイザルおよび/またはアカゲザル(Macaca mulatta)]からのサルの種ならびにヒヒ(Papio ursinus)、ならびにマーモセット(Callithrix属からの種)、リスザル(Saimiri属からの種)およびタマリン(Saguinus属からの種)、ならびにチンパンジー(Pan troglodytes)などの類人猿の種が含まれる]、齧歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット)、ウサギ類(例えば、ウサギ、ノウサギ)、ウシ属の動物(例えば、ウシ)、ヒツジ(ovine)[例えば、メンヨウ(sheep)]、ヤギ(caprine)[例えば、ヤギ(goat)]、ブタ(porcine)[例えば、ブタ(pig)]、ウマ(equine)[例えば、ウマ(horse)]、イヌ科の動物(例えば、イヌ)、ネコ科の動物(例えば、ネコ)、鳥類(例えば、ニワトリ、七面鳥、アヒル、ガチョウ、カナリア、セキセイインコ等などのコンパニオンバード)、海生哺乳動物(例えば、イルカ、クジラ)、爬虫類(ヘビ、カエル、トカゲ等)、ならびに魚類が挙げられる。一実施形態では、対象はヒトの対象である。
【0122】
「がん」および「がん性」という各用語は、部分的に未制御の細胞増殖によって通常には特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたはそれについて記載するものである。本明細書で使用される場合、「がん」という用語は、初期ステージおよび後期ステージのがんを含めて、非転移性がんおよび転移性がんを指す。「非転移性」とは、原発部位にとどまりかつリンパ系もしくは血管系または原発部位以外の組織に侵入していないがんを意味する。「転移性がん」という用語は、身体のある部分から別の部分へと転移したかまたは転移するおそれのあるがんを指す。一般に、非転移性がんは、ステージ0、I、IIのがん、時おりステージIIIのがんである任意のがんである。他方で、転移性がんは普通にはステージIVのがんである。
【0123】
「がん」という用語には、それらに限定されないが、乳がん、大腸がん、肺がん、小細胞肺がん、胃の(胃)がん、肝臓がん、血液がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部がん/もしくは頸部がん、皮膚もしくは眼内黒色腫、子宮肉腫、卵巣がん、直腸もしくは結腸直腸がん、肛門がん、結腸がん、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸がん、外陰がん、扁平上皮癌、膣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、食道がん、小腸がん、内分泌がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織腫瘍、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、慢性もしくは急性白血病、リンパ球性リンパ腫、膀胱がん、腎臓がん、尿管がん、腎細胞癌、腎盂癌、CNS腫瘍、神経膠腫、星状細胞腫、多形神経膠芽腫、原発性CNSリンパ腫、骨髄腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、ブドウ膜黒色腫(眼内黒色腫としても知られる)、精巣がん、口腔がん、咽頭がん、またはそれらの組合せが含まれる。
【0124】
一実施形態では、がん細胞は固形がん細胞または血液がん細胞である。
【0125】
「血液がん」という用語は、白血病、リンパ腫、慢性骨髄増殖性疾患、ランゲルハンス細胞組織球症、多発性骨髄腫/形質細胞腫瘍、骨髄異形成症候群、骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍またはそれらの組合せのうちの1つ以上を指すことができる。一部の実施形態では、白血病は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、有毛状細胞性白血病(HCL)またはそれらの組合せのうちのいずれか1つまたはそれ以上である。一部の実施形態では、リンパ腫は、エイズ関連リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、菌状息肉腫、非ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、セザリー症候群、T細胞リンパ腫、皮膚リンパ腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、B細胞リンパ腫またはそれらの組合せのうちのいずれか1つ以上である。
【0126】
「固形がん」という用語は、以下のうちの1つ以上を指すことができる:乳がん、大腸がん、肺がん、小細胞肺がん、胃の(胃)がん、肝臓がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部がん/もしくは頸部がん、皮膚もしくは眼内黒色腫、子宮肉腫、卵巣がん、直腸もしくは結腸直腸がん、肛門がん、結腸がん、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸がん、外陰がん、扁平上皮癌、膣癌、食道がん、小腸がん、内分泌がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織腫瘍、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓がん、尿管がん、腎細胞癌、腎盂癌、CNS腫瘍、神経膠腫、星状細胞腫、多形神経膠芽腫、原発性CNSリンパ腫、骨髄腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、ブドウ膜黒色腫(眼内黒色腫としても知られる)、精巣がん、口腔がん、咽頭がん、肉腫またはそれらの組合せ。
【0127】
一実施形態では、がんは転移性がんである。がんは、難治性がんまたは再発性がんとすることができる。
【0128】
一実施形態では、がんは、ゲフィチニブ耐性肺がん、オシメルチニブ耐性肺がん、非小細胞肺がん、乳がん、膵臓がん、胃(または胃の)がん、小腸がん、食道がんおよび結腸直腸がんからなる群から選択される。
【0129】
一実施形態では、がんは、CEACAM5および/またはCEACAM6の過剰発現に関連するがんである。一実施形態では、がんは、グリコシル化CEACAM5および/またはCEACAM6の過剰発現に関連するがんである。一実施形態では、がんは、グリコシル化CEACAM5の過剰発現に関連するがんである。一実施形態では、がんは、グリコシル化CEACAM6の過剰発現に関連するがんである。一実施形態では、がんは、グリコシル化CEACAM5およびCEACAM6の過剰発現に関連するがんである。CEACAM5および/またはCEACAM6は、N256位でグリコシル化されているとすることができる。
【0130】
一実施形態では、炎症性疾患はクローン病または喘息である。喘息は好中球性炎症が原因で起こるとすることができる。
【0131】
本明細書で開示されている方法は、対象への作用剤(例えば、抗原結合分子、ポリヌクレオチド、コンストラクト、ベクター、宿主細胞または医薬組成物)の「治療有効量」の投与を含むことができる。本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語には、所望される治療効果をもたらすのに、作用剤または化合物に関して非毒性であるが十分な量が、その意味の範囲内に含まれる。必要とされる正確な量は、処置されている種、対象の年齢および全身状態、処置されている状態の重症度、投与されている特定の作用剤および投与様式等の要因に応じて対象毎に異なる。したがって、正確な「有効量」を明示することは不可能である。しかし、いかなる場合でも、適当な「有効量」は、ルーチンの実験のみを使用して、当業者であれば決定することができる。
【0132】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患の処置または予防に使用するための、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物である。
【0133】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を処置または予防するための医薬の製造における、本明細書で定義された抗原結合分子または組成物の使用である。
【0134】
医薬は、1つ以上のさらなる活性医薬成分とともに投与してもよい。一実施形態では、医薬は化学療法とともに投与されることになっている。
【0135】
本明細書で開示されているのは、対象においてがんまたは炎症性疾患を検出するための方法であって:対象から得た試料を本明細書で定義された抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の抗原結合分子の結合レベルの上昇ががんまたは炎症性疾患を指示する、方法である。
【0136】
本明細書で開示されているのは、がんまたは炎症性疾患にかかりやすい対象を特定するための方法であって、対象から得た試料を本明細書で定義された抗原結合分子と接触させることを含み、ここで、基準と比較して試料中の結合レベルの上昇が対象はがんまたは炎症性疾患にかかりやすいことを指示する、方法である。
【0137】
一実施形態では、試料は細胞、組織、または血液の各試料である。
【0138】
一実施態様では、抗原結合分子は検出可能な標識を含む。検出可能な標識は、蛍光標識、化学発光標識、酵素標識および放射性核種標識からなる群から選択することができる。検出可能な標識は、ビオチン、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、FITC、PEおよびCy Dyeからなる群から選択することができる。検出可能な標識は、フローサイトメトリー、組織切片、免疫蛍光法、免疫細胞化学法または免疫組織化学法から選択されるアッセイにおいて検出することができる。
【0139】
本明細書で開示されているのは、本明細書で定義された抗原結合分子を使用のための取扱説明書と一緒に含む、本明細書で定義された方法で使用される場合のキットである。
【0140】
本明細書および後出の陳述全体を通して、文脈から別段の必要がない限り、「含む(comprise)」という単語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変化形は、明記された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を含むがその他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を排除しないことを含意すると理解される。
【0141】
あらゆる先行刊行物(もしくはそれに由来する情報)または既知であるあらゆる事項への本明細書における参照は、先行刊行物(またはそれに由来する情報)または既知の事項が、本明細書が関連する試みの範囲における共通の一般的知識の一部を形成するということの、自認もしくは承認、または任意の形態の示唆と解釈されるものではなく、またそのように解釈されるべきではない。
【0142】
当業者であれば、本明細書に記載される発明は具体的に記載されているもの以外の変更および改変を受けやすいことを理解するであろう。本発明はその精神および範囲内に入るあらゆるそのような変更および改変を包含すると理解されたい。本発明はまた、本明細書において言及されている、または示されているステップ、特徴、組成物および化合物の全てを個々にまたは集合的に包含し、かつ前記ステップまたは特徴のいずれか2つ以上のありとあらゆる組合せを包含する。
【0143】
本発明のある特定の実施形態をこれより以下の実施例を参照して説明するが、これらの実施例は、例示の目的のためだけが意図されており、上記の一般性の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0144】
実施例1 ヒト化変異体の生成
GR6A04は、NSCLCに対して開発された従来から記載のマウスIgG1κモノクローナル抗体であり、フローサイトメトリーおよびがん組織試料で結腸直腸がん、胃がんおよび乳がん各株への特異性が実証されている。GR6A04は、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)にコンジュゲートした抗体薬物複合体としておよびネイキッド抗体として、インビトロおよびインビボで細胞傷害性活性を呈する。
【0145】
マウス抗体を臨床治療用途に適したヒト化抗体に変換するプロセス過程で、通常の抗体ヒト化プロセスとは異なり、多くの変異体が親マウス形態およびキメラ形態と比較して特異性および/または機能の低下を示すこと、が発見された。キーとなるいくつかの基準を特定して、インシリコでのヒト化最適化から結果として得られるヒト化変異体をランク付した。重要なことに、問題のあるモチーフの排除を可能とし、さらなる前臨床評価に向けて最終的な3分子に関して迅速に候補一覧にリストアップすることを可能としたのは凝集および部位特異性の読み出し情報であった。
【0146】
6つのフレームワーク重鎖配列および6つのフレームワーク軽鎖配列がインシリコでのヒト化から結果として得られ、したがって、マウス抗体、抗N-グリコシル化CEACAM5/6治療用抗体であるGR6A04のCDRを含有するヒト化変異体のユニークな17の重鎖/軽鎖の組合せがもたらされたが(
図1~3を参照されたい)、この抗体は、N256でグリコシル化されている場合にCEACAM5/6に特に結合する。
【0147】
これらの変異体を元来の機能性の保持と下流の開発可能性についてスクリーニングするために、キーとなる4つの基準を特定し、以下の順で評価した(
図3Aを参照されたい):(1)3種類のがん株のフローサイトメトリー結合(2種類の結合と1種類の非結合);(2)SECによる凝集傾向;(3)1種類のがん株との細胞ベースの結合親和性;および(4)N-グリカン結合部位を突然変異させる256位にてのN(アスパラギン)からA(アラニン)へのアミノ酸スイッチを伴うCEACAM6突然変異体の使用を通してのエピトープ部位特異性。
【0148】
重要なことに、ヒトフレームワークへのCDRの移植が比較的単純でありかつスクリーニングが結合および/または親和性に主として基づいているほとんどの標準ヒト化プロトコルとは異なり、本発明者らのワークフローは、SECによる凝集測定による初期の開発可能性スクリーニングおよびまたエピトープ部位特異性をもってして、これを補完するという点でユニークである。エピトープ部位特異性アッセイは、フローサイトメトリー結合および親和性試験で結果が上首尾であったいくつかの見込みがあった候補を排除したので、注目に値するものであった。これら2つの基準により、そうでなければ単純な結合および/または親和性スクリーニングでは見落とされていたと思われる極めて重要な特異性および製造性の情報がもたらされたのである。
【0149】
スクリーニングプロセスの各段階でクローンを排除することを通して、キーとなる4つの基準全てに合格した上にそのことによって元来のマウス抗体と最も類似した機能性を保持する3つの最終分子が特定された。これらの3つの最終分子とは、AH1/AL1、LPH1/LPL2、およびAH1/LPL2である。安定して発現したヒト化抗体を用いたさらなる評価、および直接コンジュゲートした抗体薬物複合体のインビトロ有効性により、臨床試験に向けて前進すべく最終リード分子の最終候補リストの作成が可能になる。
【0150】
実施例2 ヒト化変異体の特性評価
アラインメント試験
CEACAM5とCEACAM6のアラインメントは、保存されたN256グリコシル化部位を示す(
図6)。
【0151】
ウェスタンブロット試験
A549溶解物を使用したウェスタンブロット解析では、AB1(
図5に示す重鎖配列および軽鎖配列を有する)により、75kDaと180kDaに2つのバンドが検出された。
【0152】
ウェスタンブロットで見られる2つのバンドがCEACAM5およびCEACAM6であるかどうかを判定するために、A549細胞をCEACAM5およびCEACAM6のシングルおよびダブルsiRNAノックダウンに供した。siRNA処理細胞溶解物のウェスタンブロット解析が示すところは、AB1はCEACAM5シングルまたはダブルノックダウン試料中の180kDaバンドに結合しないこと、である。さらに示されるところは、AB1はCEACAM6シングルまたはダブルノックダウン試料中の75kDaバンドに結合しないこと、である(
図7A)。このことは、AB1の抗原はCEACAM5およびCEACAM6であることを指示する。siRNAノックダウンの効率を、遺伝子発現解析によってモニタリングした(
図7B)。CEACAM5は、シングルノックダウン試料ならびにダブルノックダウン試料において、CEACAM6よりもノックダウンが効率的に劣った。このことで、市販の抗CEACAM5抗体は、強度がより低いがシングルおよびダブルノックダウン試料でもCEACAM5をなおもピックアップした理由が説明される(
図7a)。市販の抗CEACAM6抗体はCEACAM6を検出したが、シングルおよびダブルノックダウンでは強度が有意により低かった(
図7a)。
【0153】
さらに示されたところは、N-グリコシル化がCEACAM5およびCEACAM6へのAB1の結合にとって重要であること、である。A549細胞溶解物を還元し、変性させ、PNGase Fで処理してN-結合型グリコシル化を除去した(
図8)。細胞溶解物を、AB1抗体および市販の抗CEACAM5抗体および抗CEACAM6抗体でプローブした。ウェスタンブロット解析が示すところは、75kDaバンド(CEACAM6)および180kDaバンド(CEACAM5)へのAB1結合が、還元後およびPNGase F処理後に消失すること、である。市販の抗CEACAM6抗体は、75kDaに還元されたタンパク質を検出し、より小さいサイズ(37kDa)に脱グリコシル化されたCEACAM6を検出する。市販の抗CEACAM5抗体は、より低い強度をもって還元CEACAM5に結合するが、脱グリコシル化CEACAM5が全く検出されないことから、これもまたN-グリカン依存であるように思われる。このことが示すところは、Nグリコシル化はCEACAM5またはCEACAM6へのAB1の結合にとって重要であること、である。
【0154】
FACS結合解析
AB1認識に関するN256グリコシル化依存性を、フローサイトメトリー解析によって示した。フロー結合解析(
図9)を、NCI-H1299またはN256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299もしくはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299またはCEACAM5を過剰発現するNCI-H1299もしくはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299で実行した。
【0155】
CEACAM5もCEACAM6も発現していない肺がん細胞株NCI-H1299に、CEACAM5配列またはCEACAM6配列、およびN-グリコシル化位置N256が突然変異された(N256A、アスパラギンからアラニンへと)CEACAM5またはCEACAM6の突然変異体配列をトランスフェクトした。この突然変異により、N-グリコシル化が消失する。平均蛍光強度(MFI)を、ヒトIgG1アイソタイプ対照に対して正規化(nMFI)した(
図9AおよびBの表を参照されたい)。AB1のフローサイトメトリー結合を、市販の抗CEACAM5抗体および抗CEACAM6抗体ならびにコンペティター抗体と比較した。コンペティター抗体には、CEACAM6特異的チヌリリマブ(Bayer)、CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)、N-グリコシル化CEACAM5およびN-グリコシル化CEACAM6特異的NEO-201(Precision Biologics)およびCEACAM5およびCEACAM6特異的EBC-123へのバイオシミラーが含まれた。EBC-123は、L-DOS47(Helix Biopharma Corp)のバイオシミラーであり、元来の単量体ラクダ科の単一ドメインVHH 2A3がヒトFc上に移植されている。AB1は、CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299細胞に結合するが(
図9A)、N256A突然変異型CEACAM5またはN256A突然変異型CEACAM6を発現する細胞には結合しない(
図9B)ことが示された。このことが指示するところは、CEACAM6のN256グリコシル化は、その抗原認識モチーフへのAB1の結合にとって重要であること、である。CEACAM6特異的コンペティター抗体(チヌリリマブ、EBC-123およびNEO-201)はいずれも、CEACAM6のN256グリコシル化に対するこの依存性を示さなかった(
図9A)。
【0156】
顆粒球結合
ヒト化リードは、末梢血または骨髄細胞中の顆粒球(CD15+細胞集団)またはB細胞(CD19+集団)への結合がより低いことにより、試験コンペティター化合物とは区別される(
図10)。
【0157】
コンペティター抗体と比較した、初代末梢血細胞(
図10上)または初代骨髄白血球(
図10下)の異なる集団に対するAB1、AB2およびAB3のフローサイトメトリー結合。溶解させた赤血球とともに初代細胞を、CEACAM5およびCEACAM6を標的とするさまざまな一次抗体とともにインキュベートした。細胞を、顆粒球(CD15+)、T細胞(CD3+)またはB細胞(CD19+)用の蛍光標識系列マーカーで標識した。平均蛍光強度(MFI、上)または正規化MFI(nMFI)(下)を、初代末梢血細胞の場合は3ドナー/2反復について、および初代ヒト骨髄白血球の場合は1ドナー/3反復について示す。AB1、AB2、またはAB3によるCD3
+T細胞への結合は見られなかった(すなわち無視できる結合が見られた)。AB1、AB2およびAB3は、チヌリリマブ(Bayer)、NEO-201(Precision Biologics)およびEBC-123(Helix Biopharma Corp)のようなCEACAM6特異的抗体と比較して、末梢血中の顆粒球(CD15+ 細胞集団)またはB細胞(CD 19+ 集団)にほとんど結合しないことがわかった。CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)はヒト白血球への結合を全く示さない。
【0158】
親和性試験
AB1の親和性測定は、Octet 384-Redを使用してバイオレイヤー干渉法によって行った(
図11)。自社製Aviタグ付きのCEACAM5、CEACAM6およびN256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6を、Dip and Read SAバイオセンサーに固定化した。抗体AB1ならびにコンペティター抗体EBC-123(Helix Biopharma Corp)、NEO-201(Precision Biologics)およびツサミタマブ(Sanofi)を被検体として使用する。
【0159】
結果が示すところは、AB1は、2桁のナノモル範囲で同等の親和定数(KD)をもってCEACAM5とCECAM6の両方に結合すること、である。AB1のKDは、CEACAM5およびCEACAM6のタンパク質と比較して、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6に対して10~100分の一小さかった。コンペティター抗体は、類似の親和性をもって、野生型と突然変異型の両方のCEACAM5およびCEACAM6に結合した。
【0160】
内部移行試験
抗原陽性および抗原陰性の細胞株へのAB1およびコンペティター抗体の内部移行について評価した(
図12)。
図12Aは、CEACAM5もしくはCEACAM6またはN256A突然変異型CEACAM5もしくはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299におけるAB1の内部移行を示す。
図12B)は、NCI-H1299およびCEACAM5またはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299への、IgG1アイソタイプ対照抗体ならびにCEACAM5および/またはCEACAM6に特異的なコンペティター抗体と比較した、AB1の内部移行を示す。細胞を抗体および抗ヒトFabFluor pH Red抗体とともにインキュベートした。抗体-FabFluor pH Red複合体は、低pHで赤色蛍光を呈する。内部移行を24時間までモニタリングし、積分強度をプロットした。
図12Aが示すところは、AB1は、CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299では内部移行するが、NCI-H1299またはN256A突然変異型CEACAM5もしくはN256A突然変異型CEACAM6を発現するNCI-H1299では内部移行しないこと、である。
図12Bが示すところは、CEACAM6特異的チヌリリマブ(Bayer)は、NCI-H1299細胞に非特異的に内部移行すること、である。CEACAM5特異的ツサミタマブ(Sanofi)は、CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299にのみ内部移行するが、一方、CEACAM5およびCEACAM6特異的NEO-201(Precision Biologics)およびEBC-123(Helix Biopharma Corp)は、CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299へのAB1と同等の速度で内部移行する。
【0161】
インビトロ細胞死滅データ(CellTiterGlo(商標)生存率アッセイ)
AB3のインビトロ細胞機能性を、CellTiterGlo(商標)生存率アッセイおよび72時間の細胞のインキュベーションの後のIC
50を推定する用量反応曲線によって実証した。
図14Aの左パネルは、CEACAM6(クローン細胞株12)または突然変異型N256A CEACAM6(クローン細胞株19)を過剰発現するNCI-H1299と比較した、NCI-H1299によるAB3の用量反応曲線を示す。
図14A)右パネルは、CEACAM5(クローン細胞株2F3)または突然変異型N256A CEACAM5(クローン細胞株6)を過剰発現するNCI-H1299と比較した、NCI-H1299によるAB3の用量反応曲線を示す。
図14Bは、NCI-H1299細胞、ならびにCEACAM5、CEACAM6、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299細胞を用いて、AB3、IgG1アイソタイプ対照-MMAEおよび遊離MMAEで得られたIC
50を示す。2桁のナノモルIC
50が膜結合型CEACAM5またはCEACAM6を発現するNCI-H1299細胞については得られたが、一方、CEACAM5もCEACAM6も発現しないNCI-H1299細胞およびN256A突然変異型CEACAM5またはN256A突然変異型CEACAM6を発現するNCI-H1299細胞についてはより高いIC
50が得られた。同等の高いIC
50が、全ての細胞株についてIgG1-MMAEアイソタイプ対照により得られたが、このことにより、AB3の特異性が実証される。遊離MMAEはピコモル範囲のIC
50を有するが、このことにより、AB3の特異性が実証される。
図14Cは、MMAEにコンジュゲートしたCEACAM5特異的コンペティター抗体ツサミタマブ(Sanofi)と比較した、AB3でのIC
50を示す。AB3は、N256グリコシル化CEACAM5とN256グリコシル化CEACAM6に対するその二重特異性により、より広範囲のがん適応症を標的とする。
【0162】
インビボデータ
AB3を、SNU-16を用いた1種類の胃がん異種移植モデル(
図15)および2種類の膵臓モデル(Capan-1、
図16およびBxPC-3、
図17)におけるインビボで示す。有効性試験のエンドポイントは、処置群で観察された腫瘍増殖阻害率(TGI)、忍容性(体重測定および臨床徴候のモニタリングによってモニタリングした)としたが、一部の試験では腫瘍細胞上のAB1抗原レベルも試験全体を通してモニタリングした(データは示さず)。
【0163】
SNU-16、Capan-1、およびBxPC-3各細胞は、AB1抗原CEACAM5とCEACAM6の両方を発現する。雌性Balb/cヌードマウス(n=10/群)にSNU-16細胞を移植し、雌性NSGマウス(n=10/群)にCapan-1細胞を移植し、雌性NOD-SCIDマウス(n=8/群)にBxPC-3細胞を移植した。マウスをIVで1回(またはドセタキセルの場合は週1回×3)処置した。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で、SNU-16およびCapan-1の場合は1、3または5mg/kgで与えた。BxPC-3モデルの場合は、3mg/kg用量は省いた。AB3により、SNU-16モデルにおいて35日目にそれぞれ154%、147%および114%のTGIが得られた。5または1mg/kgにてのHuIgG1-MMAE(アイソタイプ対照)による処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGIを有した(それぞれ123%および95%)。さらに、AB3処置マウスのみが用量依存様式で完全奏功を示し、この場合、それぞれ5、3および1mg/kg AB3の単回用量の後に6/10、3/10および1/10のマウスが無腫瘍であるが、HuIgG1-MMAEのみでの処置の後では無腫瘍の動物は全く観察されなかった(
図15を参照されたい)。
【0164】
Capan-1モデルでは、AB3により21日目に110%のTGIが得られた。5、3または1mg/kgにてのHuIgG1-MMAEによる処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGIを有した(それぞれ28%、185および-8%)(
図16を参照されたい)。
【0165】
BxPC-3モデルでは、AB3により、21日目にそれぞれ107%および21%のTGIが得られた。5mg/kgにてのHuIgG1-MMAEによる処置は、統計学的に有意に(p=0.05)より低いTGI 6%を有した。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されなかった(
図17を参照されたい)。
【0166】
腫瘍成長に関してCEACAM5、CEACAM6、N256A突然変異型CEACAM5およびN256A突然変異型CEACAM6の発現が実証された(
図18を参照されたい)。雌性NOD-SCIDマウスに細胞を移植し、腫瘍体積を、ノギスを使用してランダム化後に2次元で週に3回測定した。体積は、式:V=(L×W×W)/2を使用してmm
3で表した(式中、Vは腫瘍体積であり、Lは腫瘍の長さ(腫瘍の最長寸法)であり、Wは腫瘍幅(Lに対して垂直な最長の腫瘍寸法である)。腫瘍体積を75日まで測定し、
図18に提示した。NCI-H1299、CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299、またはN256A突然変異型CEACAM6を過剰発現するNCI-H1299について、腫瘍発症または倍加時間に差異は観察されなかった。早期の腫瘍発症がCEACAM5を過剰発現するNCI-H1299について観察されたが、一方、N256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299については腫瘍発症が35日だけ遅延した。腫瘍発症後の腫瘍倍加時間は、全ての細胞株について同等であった。
【0167】
インビボ有効性を、NCI-H1299細胞株およびCEACAM5もしくはCEACAM6またはN256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299を用いた肺がん異種移植モデルにおいて示した(
図19を参照されたい)。雌性NOD-SCIDマウス(n=6/群)に、NCI-H1299細胞またはN256A突然変異型CEACAM5もしくはCEACAM5もしくはCEACAM6を過剰発現するNCI-H1299細胞を移植し、IVで1回処置した。AB3を、0日目に単回投与のみの条件で5mg/kgで与えた。AB3により、21日目に抗原陰性細胞NCI-H1299およびN256A突然変異型CEACAM5を過剰発現するNCI-H1299についてそれぞれ32%および28%のTGIが得られた。AB3により、CEACAM5またはCEACAM6を過剰発現する抗原陽性細胞NCI-H1299についてはそれぞれ109%および110%のTGIが得られた(
図19を参照されたい)。処置は忍容性が良好であり、この場合、体重減は観察されなかった。
【配列表】
【国際調査報告】