(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】がん治療における使用のためのミトフェリン-2のインヒビター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20240604BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20240604BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240604BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240604BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240604BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20240604BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240604BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240604BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240604BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N15/115 Z ZNA
C07K14/47
C07K16/18
C12Q1/02
A61P35/00
A61K45/00
A61K31/713
A61P43/00 111
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K39/395 T
A61K39/395 E
G01N33/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571846
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2022063693
(87)【国際公開番号】W WO2022243502
(87)【国際公開日】2022-11-24
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502227745
【氏名又は名称】ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム スチフトゥング デス エッフェントリヒェン レヒツ
(71)【出願人】
【識別番号】509223977
【氏名又は名称】ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャハルガネ,ダージュス
(72)【発明者】
【氏名】クリーグ,シュテファン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA36
2G045FA16
2G045FB03
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QR51
4B063QS33
4B063QX02
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC411
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4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
(57)【要約】
本発明は、対象におけるミトフェリン-1の活性低下を伴うがんの治療に使用するためのミトフェリン-2のインヒビターに関する。本発明はまた、(a)(i)ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞、及び(ii)ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞を、ミトフェリン-2の候補インヒビターと接触させる工程、(b)工程(a)の宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定する工程、(c)工程(b)において、ミトフェリン-1の活性が低下した宿主細胞では増殖停止及び/又は異常形態が検出されるが、ミトフェリン-1の活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合に、ミトフェリン-2のインヒビターと同定する工程、を含む、ミトフェリン-2のインヒビターの同定方法に関する。本発明は更に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる対象の同定方法であって、(A)前記対象のサンプル、好ましくはがん細胞のサンプルにおけるミトフェリン-1活性を決定する工程、及び(B)工程(A)の決定に基づいて、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者を同定する工程を含む上記方法に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるミトフェリン-1の活性低下を伴うがんの治療における使用のための、ミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項2】
前記対象がヒトである、請求項1に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項3】
ミトフェリン-1の活性が低下した前記がんが、染色体8pの欠失を伴うがんである、請求項2に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項4】
前記がんが固形がんであり、好ましくは肝臓がん、肺がん、膵臓がん、又は結腸がんである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項5】
前記ミトフェリン-2のインヒビターが、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、及び/又は鉄キレート剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、ミトフェリン-2をコードする遺伝子の発現を低下させる活性を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項7】
前記ミトフェリン-2のインヒビターが、(i)ミトフェリン-2をコードする遺伝子の少なくとも部分的なノックアウト、(ii)ミトフェリン-2遺伝子発現のRNA干渉、及び(iii)ミトフェリン-2遺伝子発現のサイレンシング、のうちの少なくとも1つを媒介する、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項8】
前記ミトフェリン-2のインヒビターが、siRNA、shRNA、及び/又はmiRNAを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項9】
前記ミトフェリン-2のインヒビターが、アプタマー、抗体、又はそれらのフラグメントを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項10】
前記ミトフェリン-2のインヒビターが、ミトフェリン-2特異的インヒビターである、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
【請求項11】
ミトフェリン-2のインヒビターの同定方法であって、
(a)(i)ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞、及び(ii)ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞を、ミトフェリン-2の候補インヒビターと接触させる工程、
(b)工程(a)の宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定する工程;
(c)工程(b)において、ミトフェリン-1の活性が低下した宿主細胞では増殖停止及び/又は異常形態が検出されるが、ミトフェリン-1の活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合、ミトフェリン-2のインヒビターと同定する工程、
を含む、上記同定方法。
【請求項12】
ミトフェリン-1活性が低下した前記細胞が、染色体8p欠失を含むヒト細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる対象の同定方法であって、
(A)前記対象のサンプル、好ましくはがん細胞のサンプルにおけるミトフェリン-1活性を決定する工程、及び
(B)工程(A)の決定に基づいて、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者を同定する工程、
を含む上記方法。
【請求項14】
前記標準試料が、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できることが分かっている細胞のサンプルであり、工程(A)において決定された発現が標準試料と本質的に同一であるか又はそれよりも低い場合に、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できる患者と同定されるか、或いは、前記標準試料が、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果を期待できないことが分かっている細胞のサンプルであり、工程(A)で決定された発現が標準試料よりも低い場合に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者として同定される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ミトフェリン-1遺伝子発現測定手段とミトフェリン-2インヒビターとを含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象におけるミトフェリン-1の活性低下を伴うがんの治療における使用のためのミトフェリン-2のインヒビターに関する。本発明はまた、(a)(i)ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞、及び(ii)ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞を、ミトフェリン-2の候補インヒビターと接触させる工程、(b)工程(a)の宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定する工程、(c)工程(b)において、ミトフェリン-1の活性が低下した宿主細胞では増殖停止及び/又は異常形態が検出されるが、ミトフェリン-1の活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合に、ミトフェリン-2のインヒビターと同定する工程、を含む、ミトフェリン-2のインヒビターの同定方法に関する。本発明は更に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる対象の同定方法であって、(A)前記対象のサンプル、好ましくはがん細胞のサンプルにおけるミトフェリン-1活性を決定する工程、及び(B)工程(A)の決定に基づいてミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者を同定する工程、を含む上記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん細胞は、非がん細胞と比較して、遺伝子が増幅されていたり、ゲノムから遺伝子が失われていたり等、そのゲノムに劇的な変化(change)を含んでいる可能性がある。このような変化は、しばしばがんの種類に特異的であったり、或いは対象に特異的であったりさえする。その他の変形(modification)はかなり広範囲に及んでおり、それらの同定や治療的アプローチへの利用が可能であれば、多くのがん患者に利益をもたらす可能性がある。例えば、第8番染色体の短腕(染色体領域8p)の欠失は、ヒトのがんにおいて最大70%の頻度で起こることが発見されている。
【0003】
ヒトの染色体領域8pにコードされる遺伝子の1つは、ミトコンドリアの鉄輸送体タンパク質であるミトフェリン-1をコードするSLC25A37遺伝子である。Kang et al.(2019), Autophagy 15(1):172は、細胞内のミトフェリン-1及びミトフェリン-2の量が増加すると腫瘍形成が促進されると記述している。Shen et al,(2018), J Cell Biochem 119(11):9178は、肝細胞がんにおけるSLC25A37遺伝子発現と新生物病期、がん腫瘍ステージ、組織学的悪性度、及び関連する腫瘍パラメータとの間に有意な相関を見いださなかった。対照的に、Li et al.(2018), Dev Cell 46(4):441は、SLC25A37遺伝子の高発現はヒト膵臓がんにおける予後不良と関係があるが、ミトフェリン-2をコードするSLC25A28遺伝子の場合は明らかに関係がなかったと報告した。
【0004】
だが、より改良されたがんの治療方法、及び特定の治療を施すことのできる対象を同定するための手段及び方法が依然として必要とされている。この問題は、特許請求の範囲において特徴付けられ、本明細書中以下に記載される実施形態によって解決される。
【発明の概要】
【0005】
従って、本発明は、対象におけるミトフェリン-1の活性低下を伴うがんの治療における使用のためのミトフェリン-2のインヒビターに関する。
【0006】
一般に、本明細書で使用される用語は、当業者にとって通常の慣用的な意味を与えられ、別段の指示がない限り、特別な意味やカスタマイズされた意味に限定されるものではない。以下に使用される場合、「有する」、「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」という用語又はそれらのあらゆる文法的変形は、非排他的な意味で使用される。従って、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴の他に、この文脈で説明される実体(entity)の中に更なる特徴が存在しない状況と、1つ以上の更なる特徴が存在する状況の両方を指し得る。一例として、"AはBを有する"、"AはBを含む"、及び "AはBを包含する"という表現は、A中にBの他に他の要素が存在しない状況(即ち、AがBのみから構成される状況)、及び実体A中にBの他に要素C、要素C及びD、又は更に他の要素等、1つ若しくは複数の更なる要素が存在する状況の両方を指す場合がある。また、当業者に理解されるように、「を含む」という表現は、好ましくは「1つ以上を含む」を指す、即ち「少なくとも1つを含む」と等価である。従って、複数のうちの1つのアイテムに関する表現は、別段の指示がない限り、好ましくは少なくとも1つのそのようなアイテム、より好ましくは複数のアイテムに関する;従って例えば「細胞」を同定する、とは、少なくとも1つの細胞を同定すること、好ましくは複数の細胞を同定することに関する。本明細書で用いる「複数」という用語は、2以上の数に関する。
【0007】
更に、以下で使用されるように、用語「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「特に」、「より特に」、「具体的に」、「より具体的に」又は同様の用語は、更なる可能性を制限することなく、任意選択の特徴と組み合わせて使用される。従って、これらの用語によって導入される特徴は、任意選択の特徴であり、特許請求の範囲を何ら制限することを意図するものではない。本発明は、当業者が認識するように、代替的な特徴を用いて実施することができる。同様に、「実施形態において」又は類似の表現によって導入される特徴は、任意選択の特徴であるものとし、本発明の更なる実施形態に関するいかなる制限もなく、本発明の範囲に関するいかなる制限もなく、そのように導入される特徴を本発明の他の任意選択の若しくは任意選択ではない特徴と組み合わせる可能性に関するいかなる制限もない。
【0008】
本明細書で使用される場合、「標準条件」という用語は、特に断らない限り、IUPAC標準環境温度及び圧力(SATP)条件、即ち、好ましくは、25℃及び絶対圧100kPaに関し、また好ましくは、標準条件はpH7を含む。更に、別段の指示がない限り、「約」という用語は、関連分野で一般に認められた技術的精度を有する指示値(indicated value)に関するものであり、好ましくは、指示値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関する。更に、「本質的に」という用語は、記載された結果若しくは使用に影響を及ぼす偏差がないこと、即ち、潜在的な偏差が、記載された結果に±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%を超える偏差をもたらさないことを示す。従って、「から本質的になる」とは、記載された成分を含むが他の成分を含まない(不純物として存在する材料や、成分を提供するために使用されるプロセスの結果として存在する不可避の材料、及び本発明の技術的効果を達成する以外の目的で添加される成分を除く)ことを意味する。例えば、「から本質的になる」という句を用いて定義される組成物は、公知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体等を含む。好ましくは、一組の成分から本質的になる組成物は、5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、更に好ましくは1重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の記載されていない成分を含む。
【0009】
本明細書は遺伝子産物に関する。「遺伝子産物」という用語は当業者に公知である。好ましくは、この用語は、遺伝子から宿主細胞又はin vitro発現系によって産生される若しくは産生可能なあらゆる産物を含む。従って、この用語は好ましくは、遺伝子から転写されたRNA(具体的にはスプライシングされていないRNA、部分的にスプライシングされたRNA、及び完全にスプライシングされたRNA、編集されていないRNA及び編集されたRNA)、並びに前述のRNAの1つ(好ましくはmRNA)から好ましくはタンパク質生合成によって産生される任意のポリペプチドを含む。従って、遺伝子産物は、好ましくはmRNA及び/又はそれによってコードされるポリペプチドである。当業者は、本明細書で言及される遺伝子産物が、異なる対立遺伝子から複数のアイソフォームとして発現され得ること、並びに/或いは、例えば細胞内輸送及び/又は分泌される間に細胞内で更にプロセシングされ得るアイソフォーム及び/又は前駆体として発現され得ることを認識している。また、当業者は、非ヒト種由来の対象が、好ましくは、本明細書中に記載される特定の配列の相同体を発現することを認識しており、この相同体は、好ましくは、配列アラインメント及び/又はそれに基づく検索アルゴリズム(例えばBLASTアルゴリズム等)、及び適当なデータベース(好ましくは公的に利用可能なデータベース)によって同定され得る。好ましくは、記載されるような遺伝子産物の核酸又はアミノ酸配列は、本明細書で言及される特定の遺伝子産物配列と少なくとも50%、より好ましくは75%、なおより好ましくは85%、更により好ましくは少なくとも95%、更により好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%同一である。
【0010】
2つの生物学的配列、好ましくはDNA、RNA、又はアミノ酸配列の間の同一性の程度(例えば、「同一性%」として表される)は、当該分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一性の程度は、比較ウインドウ上に最適にアラインメントされた2つの配列を比較することによって決定されるが、最適なアラインメントに絞るためには、比較ウインドウの中の配列のフラグメントは、その比較対象となる配列と比較して付加又は欠失(例えばギャップやオーバーハング)を含み得る。パーセンテージは、好ましくはポリヌクレオチド又はポリペプチドの全長にわたって、両方の配列において同一の残基が出現する位置の数を決定して一致した位置の数を得、一致した位置の数を比較ウインドウ内の位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith and Waterman (1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理系(Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Dr., Madison, WIの中のGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)、又は目視検査によって実施することができる。比較される2つの配列を同定したら、好ましくはGAP及びBESTFITを用いてそれらの最適アラインメントと同一性の程度を決定する。好ましくは、ギャップウェイトに対して5.00及びギャップウェイト長に対して0.30のデフォルト値が使用される。本明細書で言及する生物学的配列の文脈において、「本質的に同一」という用語は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性%値を示す。理解されるように、本質的に同一という用語は100%の同一性を含む。前述のことは、「本質的に相補的」という用語にも準用される。
【0011】
生物学的高分子、好ましくはポリヌクレオチド又はポリペプチドの「フラグメント」という用語は、本明細書において、記載された配列、構造及び/又は機能を含むそれぞれの生物学的高分子の任意のサブパート、好ましくはサブドメインに関する広い意味で使用される。従って、この用語は、生物学的高分子の実際の断片化によって生成されたサブパーツだけでなく、抽象的な方法でそれぞれの生物学的高分子から派生したサブパーツ(例えばインシリコ(in silico)等)も含む。配列情報、特に核酸配列及び/又はポリペプチド配列の文脈において、「サブ配列」という用語は、より長い配列の一部のみを表す配列に対して使用される。
【0012】
本明細書で別段の指示がない限り、記載された化合物、特にポリヌクレオチド、ポリペプチド、又はそれらのフラグメント、例えばミトフェリン-2のインヒビターは、より大きな構造で構成されてもよく、例えば、アクセサリー分子、キャリア分子、遅延剤、及び他の賦形剤と、共有結合若しくは非共有結合により結合させたものであってもよい。特に、記載されたようなポリペプチドは、例えば精製及び/又は検出するためのタグとして、リンカーとして、又は化合物のin vivo半減期を延ばすために役立ち得る更なるペプチドを含む融合ポリペプチドとして構成されてもよい。「検出可能なタグ」という用語は、融合ポリペプチドに付加又は導入されるアミノ酸のストレッチを指し、好ましくは、タグは融合ポリペプチドのC末端又はN末端に付加される。前記アミノ酸のストレッチがあることにより、好ましくは、タグを特異的に認識する抗体によって融合ポリペプチドを検出することが可能になる;又は好ましくは、キレート剤のような機能的コンフォメーションを形成することが可能となる;又は好ましくは、蛍光タグの場合等のように可視化することが可能となる。好ましい検出可能タグは、Mycタグ、FLAGタグ、6-Hisタグ、HAタグ、GSTタグ、又は蛍光タンパク質タグ(例えばGFPタグ等)である。これらのタグはすべて当技術分野で周知である。融合ポリペプチドに好ましくは含まれる他の更なるペプチドは、更なるアミノ酸、或いは分泌のメディエーターとして、血液脳関門通過のメディエーターとして、細胞透過性ペプチドとして、及び/又は免疫刺激剤として機能し得る他の修飾を含む。ポリペプチドに融合され得る更なるポリペプチド又はペプチドは、シグナル配列及び/又は輸送配列及び/又はリンカー配列である。ポリヌクレオチド、特にミトフェリン-2のポリヌクレオチドインヒビターは、細胞内において、より長いポリヌクレオチドのサブ配列として、例えば更に他の遺伝子のポリヌクレオチドインヒビターを追加的に含んで構成又は産生され得る。また、ポリヌクレオチドは、好ましくは細胞内への侵入を媒介するより大きな構造体として、例えば塩化カルシウム、ジエチルアミノエチル(DEAE)含有ポリマー(例えばDEAEデキストラン等)、リポソーム、ウイルスカプシド等のような化学物質との複合体として構成されてもよい。また、ポリヌクレオチドは、発現制御配列を含む発現可能なコンストラクトの中に、及び/又はベクターの中に含まれ得る。好ましくは、ミトフェリン-2のポリヌクレオチドインヒビター、より好ましくは本明細書で以下に記載するshRNAは、好ましくは配列番号2、4、6又は8の核酸配列を含む(より好ましくはそれらのいずれかからなる)発現コンストラクト及び/又はベクターの中に含まれる。
【0013】
上記に従って、「遺伝子発現を決定する」とは、本明細書において上記に記載したような任意の遺伝子産物を決定することに関する。遺伝子の発現は、定性的、半定量的、又は定量的に決定することができ、これらの用語は基本的に当業者に公知である。定性的な決定は、例えば、遺伝子が細胞によって発現されているか否かをその遺伝子産物がアッセイの検出レベルを超えて発現しているか否かを決定することによって、二値的に評価するものであってもよい。しかし、定性的発現は、遺伝子が細胞内に存在するか否かを決定するものであってもよい;即ち、本明細書でいうように、細胞から欠失している遺伝子は発現していないとみなされる。半定量的決定は、発現を低発現、中発現、高発現等の発現カテゴリーに分類することを含んでなり得る。定量的決定という用語は、当業者には、細胞内の遺伝子産物の量に関する情報を提供する各々及び全ての決定、並びに、特に濃度、平均値(mean)、中央値、又は代表値(average)の計算、正規化、及び類似の計算を包含する、少なくとも1つの標準的な数学的手法によってそのような量から導出される全ての値を包含すると理解される。従って、遺伝子発現を決定する方法は、好ましくは、遺伝子産物としてのRNA(好ましくはmRNA)を決定する方法、例えばRNAハイブリダイゼーション法;RT-PCR(好ましくはqRT-PCR);シングルセルRNA配列決定等を含み;また、遺伝子発現を決定する方法は、好ましくは、ポリペプチドを決定する方法(特に免疫学的方法)のみならず、レポーター遺伝子系を決定する方法も含み、これらはすべて当業者に周知である。遺伝子発現を決定する方法はまた、好ましくは、遺伝子産物としてのポリペプチドを決定する方法も包含する;適切な方法は当技術分野で広く知られており、特に、ポリペプチドの活性を測定する方法及び免疫学的方法(例えばELISA法及び当業者によって適切であるとみなされる任意の他の免疫測定法)を包含する。上記の観点から、遺伝子発現を決定する方法は、好ましくは、例えば、核型分析、in situハイブリダイゼーション、細胞DNAを鋳型とするPCR等によって細胞のゲノムにおける遺伝子の存在を決定する方法を更に包含する。遺伝子発現の決定は、好ましくは全長遺伝子産物を決定すること、より好ましくは少なくとも1つの遺伝子産物の少なくともフラグメントを決定することを含む。遺伝子産物のフラグメントが決定される場合、前記フラグメントは好ましくは特異的フラグメント、即ちその遺伝子が発現している場合にのみ検出されることが知られているフラグメントである。より好ましくは、前記フラグメントは、ユニークなフラグメント、即ち、遺伝子の存在が決定される場合には細胞の全ゲノムと比較して、RNAが決定される場合には細胞の全トランスクリプトームと比較して、ポリペプチドが決定される場合には細胞の全プロテオームと比較して、その遺伝子産物にのみ生じる核酸配列又はアミノ酸配列を少なくとも1つ含むフラグメントである。
【0014】
本明細書で使用する「ミトフェリン-2」という用語は、この名称で知られているミトコンドリアの鉄取り込みを媒介する溶質輸送ポリペプチドファミリーのメンバーに関する。ヒトにおいて、ミトフェリン-2は、染色体位置10q24.2のSLC25A28遺伝子によってコードされる(Genbank Gene ID: 81894, HUGO Gene Nomenclature Committee (HGNC) ID:HGNC:23472)。SLC25A28遺伝子から発現されるmRNA配列は、例えばGenbank Acc.NM_031212.4から入手可能であり;ミトフェリン-2のアミノ酸配列は、例えば、Genbank Acc.NP_112489.3から入手可能である。
【0015】
本明細書で使用する「ミトフェリン-1」という用語は、この名称で知られているミトコンドリアの鉄取り込みを仲介する溶質輸送ポリペプチドファミリーのメンバーに関する。ヒトにおいて、ミトフェリン-1は、染色体位置8p21.2のSLC25A37遺伝子によってコードされる(Genbank Gene ID: 51312, HGNC ID: HGNC:29786)。SLC25A37遺伝子から発現されるmRNA配列は、例えばGenbank Acc.NM_016612.4から入手可能であり、ミトフェリン-2のアミノ酸配列は、例えばGenbank Acc.NP_001304741.1から入手可能である。
【0016】
本明細書で使用される「ミトフェリン-2のインヒビター」という用語は、ミトフェリン-2活性を阻害する活性を有するあらゆる化合物を含む;従って、ミトフェリン-2のインヒビターは、好ましくは、ミトフェリン-2によるミトコンドリア内膜上の鉄輸送を阻害する。好ましくは、前記インヒビターで処理されていない同じ細胞型と比較して、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、なおより好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%阻害する。ミトフェリン-2のインヒビターは、直接的インヒビターであっても間接的インヒビターであってもよい。本明細書中で使用される「ミトフェリン-2の直接的インヒビター」という用語は、ミトフェリン-2に結合し、それによってミトフェリン-2の活性を阻害する化合物に関する。好ましくは、ミトフェリン-2の直接的インヒビターは、ミトフェリン-2を阻害する活性を有するアプタマー、抗体、又はそれらのフラグメントである。従って、用語「ミトフェリン-2の間接的インヒビター」は、ミトフェリン-2に結合しないあらゆるミトフェリン-2のインヒビターを包含する。従って、ミトフェリン-2の間接的インヒビターは、例えば、SLC25A28遺伝子の発現を低下させることによって、又はミトフェリン-2の分解を促進することによって、SLC25A28遺伝子を除去することによって、又はミトフェリン-2の基質(即ち細胞内鉄、好ましくはFe2+)を細胞内で利用しにくくすることによって、細胞内のミトフェリン-2の量を減少させる化合物であってもよい。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターはミトフェリン-2特異的インヒビターである、即ちミトフェリンを特異的に阻害する、より好ましくはミトフェリン-2を特異的に阻害する化合物である。従って、ミトフェリン-2のインヒビターは、好ましくは非ミトフェリン-2イオン輸送体を阻害せず、好ましくは非ミトフェリン-2ミトコンドリアイオン輸送体を阻害せず、より好ましくは非ミトフェリン-2鉄輸送体を阻害せず、最も好ましくはミトフェリン-1を阻害しない。
【0017】
好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、好ましくは、ミトフェリン-2をコードする遺伝子の発現を、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、なおより好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%低下させる活性を好ましくは有するポリヌクレオチドを含む、好ましくはそのようなポリヌクレオチドである。目的の遺伝子の発現を阻害するポリヌクレオチドは、教科書的な方法に従って当業者により提供され、標的配列の提供という形で市販されている。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、サイレンシングポリヌクレオチドを含み、及び/又は宿主細胞、好ましくはがん細胞においてサイレンシングポリヌクレオチドの発現を引き起こす。用語「サイレンシングポリヌクレオチド」とは、本明細書で使用される場合、宿主細胞において標的遺伝子(好ましくはSLC25A28)の発現を低下させる又は防止する活性を有する任意のポリヌクレオチドに関する。好ましくは、サイレンシングポリヌクレオチドはRNA又はDNAであり、より好ましくはRNAである。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、siRNA、shRNA、及び/又はmiRNA、或いは宿主細胞における前記のうち少なくとも1つの発現を媒介するポリヌクレオチドを含み、好ましくはそれらである。好ましくは、サイレンシングポリヌクレオチドは、核酸配列5'-TTCAGTGCTACTTCACTTGCCA-3'(配列番号1)又は5'-TTTAAAGGCTTTTTATTAGGAA-3'(配列番号3)を含み、好ましくはこれらからなる。
【0018】
好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、RNA干渉を誘導するポリヌクレオチドである。本明細書で使用される場合、「RNA干渉」は、「RNAi」とも呼ばれ、標的遺伝子から転写されるRNA(標的RNA)の分解による、選択された標的遺伝子の配列特異的な、転写後遺伝子のサイレンシングを指す。RNAiには、標的RNAと配列が相同なdsRNAが細胞内に存在することが必要である。「dsRNA」という用語は、2本の相補的で反平行な核酸鎖を含む二重鎖構造を持つRNAを指す。dsRNAを形成するRNA鎖は、同じヌクレオチド数でも異なるヌクレオチド数でもよく、それによってdsRNAの鎖の一方を標的RNAとすることができる。しかしながら、dsRNAが、例えばステムループ形成によって、同じRNA分子上の2つの配列ストレッチの間で形成されることも想定される。哺乳類を含む動物の遺伝子をサイレンシングさせるためのRNAiの使用に関する方法は、当技術分野で公知である(例えば、Hammond et al.(2001)、Nature Rev. Genet.2, 110119; Elbashir et al.(2001), Nature 411: 494-498を参照)。従って、ミトフェリン-2のインヒビターは、好ましくはRNAi剤(agent)である。本明細書中で使用される場合、用語「RNAi剤」は、以下に記載されるようなshRNA剤、siRNA剤、又はmiRNA剤を指す。本発明のRNAi剤は、標的RNAと安定に相互作用するのに十分な長さと相補性を有する、即ち、標的RNAに相補的なヌクレオチドを少なくとも15、少なくとも17、少なくとも19、少なくとも21、少なくとも22個含む。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、(i)ミトフェリン-2をコードする遺伝子の少なくとも部分的なノックアウト、(ii)ミトフェリン-2遺伝子発現のRNA干渉、及び(iii)ミトフェリン-2遺伝子発現のサイレンシングのうちの少なくとも1つを媒介する。
【0019】
本明細書でいう「siRNA剤」という用語は以下のa)b)c)を包含する:a)少なくとも15、少なくとも17、少なくとも19、少なくとも21個の連続したヌクレオチドが塩基対を形成(即ち相補的なヌクレオチドと水素結合を形成)したものからなるdsRNA;b)低分子干渉RNA(siRNA)分子又はsiRNA分子を含む分子。siRNAは、好ましくは15ヌクレオチド長以上、好ましくは15~49ヌクレオチド、より好ましくは17~30ヌクレオチド、及び最も好ましくは17~30ヌクレオチド、好ましくは17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ヌクレオチド長の一本鎖RNA分子である。用語「siRNA分子を含む分子」は、好ましくは、細胞(好ましくは哺乳動物細胞)によってsiRNAがプロセシングされる源となるRNA分子を含む。従って、siRNA分子を含む分子は、好ましくは、shRNAとしても知られる低分子ヘアピンRNAである。本明細書で使用する場合、「shRNA」という用語は、同じmRNA分子上の相補的配列と塩基対をなす(即ちdsRNAとなっている)少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個、より好ましくは少なくとも17個、最も好ましくは少なくとも20個のヌクレオチドを含む部分(「ステム」)と、それらの間に介在する塩基対をなしていないヌクレオチドからなるストレッチ(「ループ」)と、を含むステムループ構造を形成する(好ましくは人工的な)RNA分子に関する;c)a)又はb)をコードするポリヌクレオチドであって、好ましくは、発現制御配列に作動可能に連結されている前記ポリヌクレオチド。従って、標的遺伝子の発現を阻害するsiRNA剤の機能は、前記発現制御配列によって調節することができる。好ましい発現制御配列は、外因性刺激によって調節され得るものであり、例えば、テトラサイクリンによってその活性が制御され得るtetオペレーターや、熱誘導性プロモーターがある。或いは、又はそれに加えて、siRNA剤の組織特異的発現(例えばがん細胞特異的発現)を可能にする1つ以上の発現制御配列を使用することができる。好ましくはsiRNA剤、より好ましくはshRNAは、配列番号1又は3の核酸配列を含み、好ましくはそれからなる。
【0020】
しかしながら、RNAi剤がmiRNA剤であることも想定される。本明細書で意味する「miRNA剤」は、以下を包含する:a)マイクロRNA前駆体、即ち、塩基対をなしていないヌクレオチドからなるストレッチ(「ループ」)によって区切られた、同一mRNA分子上の相補的配列と塩基対をなす少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70個のヌクレオチド(「ステム」)(即ちdsRNAとして)を含むmRNA;b)マイクロRNA前駆体、即ち、ループによって区切られた、同一RNA分子のヌクレオチドによって形成された少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25個の塩基対をなすヌクレオチドからなるストレッチ(ステム)を含むdsRNA分子;c)マイクロRNA(miRNA)、即ち2つの別々のRNA鎖上の少なくとも15、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも21個のヌクレオチドを含むdsRNA;d)a)又はb)をコードするポリヌクレオチドであって、好ましくは、上記記載の発現制御配列に作動可能に連結されている前記ポリヌクレオチド。
【0021】
また好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、ガイドRNA(gRNA)としても知られる少なくとも1つのCRISPR/Casオリゴヌクレオチドを含む。CRISPR/Cas系は、ノックアウト変異、即ち、好ましくは染色体遺伝子の欠失を誘導するための便利なシステムとして数年前から知られている。当業者であれば、目的のDNA配列の欠失を誘導するために、好ましくはベクターから発現される適切なオリゴヌクレオチドをどのように設計すればよいか分かる。好ましくは、前記欠失は部分欠失であり、より好ましくは、機能に必須な遺伝子の一部の欠失であり;最も好ましくは、前記欠失は、少なくとも全コード領域の完全欠失である。従って、好ましくは、SLC25A28遺伝子に二本鎖切断を導入するために1つのgRNAが使用され、この二本鎖切断は、エラーが生じやすい非相同末端結合(NHEJ)プロセスにおいて細胞により修復され、SLC25A28遺伝子に欠失/挿入を導入する。より好ましくは、SLC25A28遺伝子の前述の少なくとも部分的欠失が生じるように選択された、少なくとも2つのgRNAが提供される。従って、好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、(i)少なくとも1つのガイドRNA、及び(ii)Casヌクレアーゼ又は宿主細胞(好ましくはがん細胞)においてCasヌクレアーゼの発現を引き起こすポリヌクレオチドを含む。好ましくは、CRISPR/Casオリゴヌクレオチド(gRNA)は、核酸配列5'-GGTGACCGCCTATTTCCGAG-3'(配列番号5)又は5'-TTCAGGACGGTATATCAAGT-3'(配列番号7)を含み、好ましくはそれからなる。より好ましくは、CRISPR/Casオリゴヌクレオチド(gRNA)は、配列番号6又は8の核酸配列を含み、好ましくはそれらからなる。
【0022】
また好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、ポリペプチドを含む(好ましくはポリペプチドである)。好ましくは前記ポリペプチドはアプタマー、抗体、又はそのフラグメントである。しかしながら、ポリペプチドは、アンチカリン又はDARPinであってもよい。「ポリペプチド」という用語は、本明細書で使用する場合、ペプチド結合によって互いに共有結合している多数の、典型的には少なくとも10個のアミノ酸を含む、好ましくはそれらからなる分子を指す。ペプチド結合により共有結合した10個未満のアミノ酸からなる分子もまた、「ペプチド」と呼ばれ得る。好ましくは、ポリペプチドは、20~2000個、より好ましくは50~1000個、更に好ましくは75~750個、最も好ましくは100~500個のアミノ酸を含む。好ましくは、本明細書で言及される任意の特異的ペプチド又はポリペプチドは、融合ポリペプチド及び/又はポリペプチド複合体として含まれ得る。
【0023】
本明細書で使用する場合、「アプタマー」という用語は、その三次元構造によって標的分子に特異的に結合するポリペプチドに関する。好ましくは、アプタマーは8~80アミノ酸、より好ましくは10~50アミノ酸、最も好ましくは15~30アミノ酸を含む。アプタマーは、例えば、パン酵母のような適切な宿主系におけるランダム化ペプチド発現ライブラリーから単離することができる(例えば、Klevenz et al., Cell Mol Life Sci. 2002, 59: 1993-1998を参照)。アプタマーは、好ましくは、遊離ポリペプチドである;しかしながら、アプタマーが「足場」として機能するポリペプチドに融合されることも想定される;これは、前記ポリペプチドへの共有結合が、前記アプタマーの三次元構造を特定のコンフォメーションに固定する役割を果たすことを意味する。より好ましくは、アプタマーは輸送シグナル、特に細胞膜透過性ペプチドに融合される。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、IgA、IgD、IgE、IgG、又はIgMのクラスのいずれかから得た可溶性免疫グロブリンであって、本明細書中上記に記載されるように、ミトフェリン-2と直接相互作用してミトフェリン-2活性を阻害する活性を有する可溶性免疫グロブリンに関する。ミトフェリン-2に対する抗体は、精製されたミトフェリン-2ポリペプチド又はそれから得られる適切なフラグメントを抗原として用いて周知の方法により調製することができる。抗原として好適なフラグメントは、当技術分野で周知の抗原性決定アルゴリズムによって同定することができる。フラグメントはまた、ミトフェリン-2ポリペプチドからタンパク質分解消化により得られてもよく、合成ペプチドであってもよく、組換えにより発現させたものであってもよい。このようにして作製された抗体のミトフェリン-2のインヒビターとしての適性は、本明細書の他の箇所に記載されるようなアッセイによって試験することができる。好ましくは、本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ヒト若しくはヒト化抗体、又はその霊長類化抗体、キメラ抗体、或いはそれらのフラグメントである。より好ましくは、抗体は、一本鎖抗体、シングルドメイン抗体、ナノ抗体、又はFab、scFab等の抗体フラグメントである。また、本発明の抗体として、二重特異性抗体、合成抗体、又は上述の抗体のいずれかの化学修飾誘導体も含まれる。好ましくは、本発明の抗体は、上記記載のミトフェリン-2ポリペプチドに特異的に結合する(即ち、他のポリペプチド又はペプチドと交差反応しない)ものとする。特異的結合は、種々の周知の技術によって試験することができる。抗体又はそのフラグメントは、例えば、Harlow and Lane "Antibodies, A Laboratory Manual", CSH Press, Cold Spring Harbor, 1988に記載されている方法を用いて得ることができる。モノクローナル抗体は、例えば、Kohler and Milstein, Nature.1975.256: 495; 及びGalfre, Meth.Enzymol.1981, 73: 3に元々記載されている技術によって調製することができ、この技術は、マウス骨髄腫細胞と免疫化哺乳動物由来の脾臓細胞との融合を含む。
【0025】
本明細書で使用する場合、「アンチカリン」という用語は、ミトフェリン-2に特異的に結合し、ミトフェリン-2活性を阻害する、リポカリン由来の人工ポリペプチドに関する。同様に、「人口(designed)アンキリンリピートタンパク質」又は「DARPin」は、本明細書で使用される場合、幾つかのアンキリンリピートモチーフを含み、ミトフェリン-2に特異的に結合してミトフェリン-2活性を阻害する人工ポリペプチドである。
【0026】
また好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、分子量が好ましくは最大で1kDaの低分子化合物を含み、好ましくはそのような低分子化合物である。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは鉄キレート剤である。本明細書で使用する場合、「鉄キレート剤」という用語は、鉄イオン、好ましくはFe2+ 及び/又はFe3+ と安定な錯体を形成する化合物に関する。好ましくは、鉄キレート剤は、その鉄錯体の少なくとも1つに対するlog安定度定数が、少なくとも3、より好ましくは少なくとも5、より好ましくは10、なおより好ましくは少なくとも20、更により好ましくは少なくとも25、最も好ましくは少なくとも30である化合物である。好ましくは、log安定度定数は、水溶液中でのFe/鉄キレート剤錯体の形成に関する平衡定数のlogであり、好ましくは、標準条件下で決定され、好ましくは、本明細書の他の箇所で規定される通りである;好ましくは、鉄キレート剤のlog安定度定数は、水、鉄イオン、及び鉄キレート剤からなる溶液中で決定される。鉄キレート剤は、基本的に当分野で公知であり、2-ピリドン構造、ヒドロキサメート構造、(チオ)セミカルバゾン構造、ビス(2-ヒドロキシフェニル)-1H-1,2,4-トリアゾール構造、α-ヒドロキシケトン構造、アリールヒドラゾン構造、及びカテコール構造のうち少なくとも1つを含む化合物を包含する。
【0027】
本明細書で使用する「薬学的に適合する」という用語は、そのレシピエントに有害でないという意味で薬学的に許容され、好ましくは、その製剤の任意選択された他の成分と適合する化合物に関する。好ましくは、薬学的に適合する化合物は、せいぜい中程度の副作用を引き起こす化合物であり、好ましくはせいぜい軽度の副作用を引き起こす化合物である。本明細書で使用される場合、「軽度の」副作用という用語は、皮膚発疹、頭痛、消化障害、疲労等のような、医学的介入を必要としない副作用に関し;「中等度の」副作用は、医学的介入を必要とするが、生命を脅かす可能性のない副作用である。
【0028】
従って、「薬学的に適合する鉄キレート剤」とは、本明細書において上記に記載したような薬学的に適合する上記鉄キレート剤である。従って、好ましくは、薬学的に適合する鉄キレート剤は、臨床的に使用されている、好ましくは、食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMEA)及びBundesinstitut fur Arzneimittel und Medizinprodukte(BfArM)の少なくとも1つによって臨床使用が承認されている化合物を含む鉄キレート剤である。より好ましくは、薬学的に適合する鉄キレート剤は、鉄キレート剤として臨床使用されている、好ましくは、前述の機関の少なくとも1つによって臨床使用が承認されている化合物を含む鉄キレート剤である。従って、好ましくは、鉄キレート剤は、シクロピロックス(2(1H)-ピリジノン、6-シクロヘキシル-1-ヒドロキシ-4-メチルピリジン-2(1H)-オン;CAS-No:29342-05-0)、デフェロキサミン(DFO、CAS No.70-51-9)又はヒドロキシカルバミド(CAS No.127-07-1)、ニトロフラール(CAS No.59-87-0)、3-アミノピリジン-2-カルボキサルデヒドチオセミカルバゾン(トリアピン、CAS No.236392-56-6)又は5-ヒドロキシピリジン-2-カルボキサルデヒドチオセミカルバゾン(HPCT、CAS No.19494-89-4)、デフェラシロクス(CAS No.201530-41-8)、iv)デフェリプロン(Cas No.30652-11-0)、又はN,N′N″-トリス(2-ピリジルメチル)-シス,シス-1,3,5-トリアミノシクロヘキサン(Tachpyr)である。
【0029】
「治療する」及び「治療」という用語は、本明細書で言及される疾患若しくは障害、又はそれに伴う症状を有意な程度まで改善することを指す。本明細書で使用される前記治療には、本明細書で言及される疾患又は障害に関する健康の全回復も含まれる。本明細書で使用される用語としての治療は、治療される全ての対象において有効であるとは限らないことを理解されたい。しかしながら、この用語は、好ましくは、本明細書で言及される疾患又は障害に罹患している対象のうち統計的に有意な割合で、治療に成功し得ることを必要とする。ある割合が統計的に有意であるか否かは、当業者であれば、更に詳しく調べなくても、様々な周知の統計学的評価ツール(例えば、信頼区間の決定、p値の決定、Student’s t-検定、Mann-Whitney検定等)を用いて、決定することができる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、治療は、所与のコホート即ち集団の対象の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、又は少なくとも90%に対して有効であるものとする。好ましくは、がんを治療することは、対象における腫瘍量を軽減することである。当業者には理解されるように、例えばがん治療の有効性は、例えばがんステージ及びがんタイプを含む様々な因子に依存する。好ましくは、治療は、腫瘍の増殖を停止させる効果、より好ましくは腫瘍の退縮を引き起こす効果、より好ましくは腫瘍を消失させる効果を有する。
【0030】
本明細書で使用する「がん」という用語は、体細胞 (「がん細胞」) 群による制御不能な増殖を特徴とする、人間を含む動物の疾患に関する。この制御不能な増殖は、周辺組織への侵入と破壊を伴うことがあり、場合によっては体内の他の場所へのがん細胞の拡散を伴うこともある。好ましくは、がんという用語には再発も含まれる。従って、好ましくは、がんは固形がん、転移、又はその再発である。がんは、感染因子、好ましくはウイルス、より好ましくはがん原性ウイルス、より好ましくはエプスタイン-バーウイルス、肝炎ウイルス、ヒトTリンパ向性ウイルス1、パピローマウイルス、又はヒトヘルペスウイルス8によって誘導され得る。しかしながら、がんはまた、例えば発がん物質等の化合物により誘発されるものであり、又は例えば自然突然変異によって誘発される等の内因性のものであることもある。
【0031】
好ましくは、がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、副腎皮質がん、補助関連リンパ腫、肛門がん、虫垂がん、星細胞腫、非定型奇形腫、基底細胞がん、胆管がん、膀胱がん、脳幹神経膠腫、乳がん、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、小脳星細胞腫、子宮頸がん、脊索腫、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸がん、結腸直腸がん、頭蓋咽頭腫、子宮内膜がん、上衣芽細胞腫、上衣腫、食道がん、頭蓋外胚細胞腫瘍、顎外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、線維肉腫、胆嚢がん、胃がん、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛腫瘍、毛様細胞白血病、頭頸部がん、肝細胞がん、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、視床下部及び視覚路神経膠腫、眼内黒色腫、カポジ肉腫、喉頭がん、髄芽腫、髄上皮腫、黒色腫、メルケル細胞がん、中皮腫、口腔がん、多発性内分泌腫瘍症候群、多発性骨髄腫、菌状息肉腫、鼻腔・副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓がん、乳頭腫症、副鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系リンパ腫、前立腺がん、直腸がん、腎細胞がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、セザリー症候群、小細胞肺がん、小腸がん、軟部肉腫、扁平上皮がん、扁平上皮頸部がん、精巣がん、咽頭がん、胸腺がん、胸腺腫、甲状腺がん、尿道がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンストレーム・マクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍からなるリストから選択される。より好ましくは、がんは固形がん、転移、又はその再発である。より好ましくは、前記がんは、肝臓がん、好ましくは肝細胞がん;肺がん、好ましくは肺腺がん;膵臓がん、好ましくは膵臓腺がん;又は結腸がん、好ましくは結腸腺がんである。また好ましくは、がんは他の腺がん、例えば乳腺がん、食道腺がん、前立腺腺がん、子宮頸部腺がん、又は胃腺がんである。
【0032】
化合物(好ましくはミトフェリン-1)の「活性の低下」という用語は、当業者により理解されるものである。好ましくは、活性は、コントロール細胞(好ましくは非がん細胞、より好ましくはSNU387細胞)と比較して、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%、なおより好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%低下する。ミトフェリン-1の活性の低下は、細胞内におけるミトフェリン-1の鉄輸送活性を測定することによって測定することができる。より好ましくは、細胞内におけるミトフェリン-1の活性は、前記細胞内におけるミトフェリン-1ポリペプチド及び/又はミトフェリン-1をコードするmRNAの量を決定することによって決定される;しかしながら、ミトフェリン-1の活性は、細胞内におけるミトフェリン-1をコードする遺伝子の存在を決定することによって決定することもできる。従って、本明細書で使用される場合、SLC25A37遺伝子を含んでいない若しくはSLC25A37遺伝子を発現していない細胞は、ミトフェリン-1活性が低下している細胞であり、また、SLC25A37遺伝子の1つのコピーのみを含む細胞、即ち、好ましくは、SLC25A37遺伝子のヘテロ接合性欠失(heterozygous deletion)を含む細胞は、ミトフェリン-1活性が(好ましくは少なくとも50%)低下しているとみなされる。従って、好ましくは、ミトフェリン-1の活性が低下しているがんは、ミトフェリン-1をコードする遺伝子の発現が低下しているがんである。好ましくは、対象はヒトであり、がんは染色体領域8p21.2(より好ましくは染色体8p)の欠失を伴うがんである。
【0033】
用語「対象」は、本明細書で使用する場合、動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、好ましくはウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ等のような家畜、ネコやイヌのような伴侶動物、又はラット、マウス、モルモットのような実験動物に関する。好ましくは、哺乳動物は霊長類、より好ましくはサル、最も好ましくはヒトである。好ましくは、対象はがん、好ましくは固形がんに罹患しており、より好ましくは肝臓がん、肺がん、膵臓がん、又は結腸がんに罹患しており、最も好ましくは染色体8pが欠失している。
【0034】
好都合なことに、本発明の基礎となる研究において、ミトコンドリアにおける鉄の取込みはミトフェリン-1及びミトフェリン-2の活性に依存すること、及び例えば染色体8p欠失によってミトフェリン-1の活性が失われると、細胞、特にがん細胞はミトフェリン-2の阻害に対して非常に感受性が高くなることが見出された。従って、染色体8p欠失を伴うがんは、ミトフェリン-2のインヒビターを用いて治療可能であり、また、細胞内におけるミトフェリン-1の阻害は、ミトフェリン-2のインヒビターのスクリーニングを可能にする。
【0035】
上記定義は、以下に準用される。また、以下に追加する定義及び説明も、本明細書に記載されるすべての実施形態に準用される。
【0036】
本発明は更に、
(a)(i)ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞、及び(ii)ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞を、ミトフェリン-2の候補インヒビターと接触させる工程、
(b)工程(a)の宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定する工程;
(c)工程(b)において、ミトフェリン-1の活性が低下した宿主細胞では増殖停止及び/又は異常形態が検出されるが、ミトフェリン-1の活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合、ミトフェリン-2のインヒビターと同定する工程;
を含む、ミトフェリン-2のインヒビターの同定方法に関する。
【0037】
本発明のミトフェリン-2のインヒビターの同定方法は、好ましくは、in vitro法である。更に、この方法は、上記で明示的に述べた工程に加えて、更に工程を含んでいてもよい。例えば、更なる工程は、工程(a)のための宿主細胞を提供する工程等に関するものであってもよい。更に、前記工程の1つ以上は、自動化された装置によって補助又は実行されてもよい。当業者には理解されるように、記載されるようなミトフェリン-2のインヒビターの同定方法は、ミトフェリン-2特異的インヒビターを同定するために特に適している。
【0038】
「宿主細胞」という用語は、本明細書で使用される場合、ミトフェリン-2活性を持つ脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、更により好ましくはヒト細胞に関する。好ましくは、宿主細胞は培養細胞、好ましくは細胞株である。ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞」という用語は、本明細書の記載を参照すれば、「当業者に理解される。従って、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞は、好ましくは、特異的ミトフェリン-1インヒビター(例えば、本明細書中において上記に記載したようなサイレンシングポリヌクレオチド)と接触させた宿主細胞、ミトフェリン-1をコードする遺伝子を発現していない細胞、及び/又はミトフェリン-1をコードする遺伝子が欠失した細胞(例えば染色体8pが欠失しているヒト細胞)である。従って、「ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞」とは、見かけ上健康な対象の体細胞に天然に存在する範囲のミトフェリン-1活性を有する細胞である。従って、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞は、好ましくは、特異的ミトフェリン-1インヒビターと接触しておらず、ミトフェリン-1をコードする遺伝子を発現している宿主細胞である。好ましくは、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞と、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞とは、ミトフェリン-1の発現以外は類似しており、好ましくは本質的に同一である。従って、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞は、染色体8pが欠失している腫瘍細胞であってもよく、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞は、前記腫瘍を取り囲む組織の細胞であって染色体8pが欠失していない細胞であってもよい。好ましくは、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞は、染色体8pが欠失している腫瘍細胞であり、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞は、ミトフェリン-1をコードする遺伝子を発現する染色体8pが欠失しているヒト細胞である。しかしながら、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞は、ミトフェリン-1の特異的インヒビター(例えばサイレンシングポリヌクレオチド)と接触させた宿主細胞(例えば細胞株)であってもよく、一方、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞は、ミトフェリン-1の特異的インヒビターと接触させていない前記宿主細胞であってもよい。
【0039】
「ミトフェリン-2の候補インヒビター」という用語は、当業者がミトフェリン-2のインヒビターである可能性があると思う任意の化合物に関連し得る。従って、ミトフェリン-2の候補インヒビターは、好ましくは、生物学的高分子、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド(好ましくは本明細書中上記記載のもの)又は多糖類等である。より好ましくは、ミトフェリン-2の候補インヒビターは、本明細書において上記に記載されるような低分子化合物である。
【0040】
宿主細胞の「増殖の決定」という用語は当業者に理解される。好ましくは、この用語は細胞増殖を決定すること、即ち培養中の細胞数が増加するか、一定のままか、減少するかを決定することに関する。また、宿主細胞の「形態を決定する」という用語も当業者に理解される。好ましくは、この用語は、細胞サイズ、細胞形状、細胞小器官の数及び/又は形状、細胞伸長部の数及び/又は形状等を決定することを含む。
【0041】
ミトフェリン-2のインヒビターは、宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定した結果に基づいて同定される。従って、好ましくは、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞についての前記決定の結果は、標準試料(reference)として、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞の結果と比較される。従って、工程(b)において、ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞では増殖停止、細胞溶解、及び/又は異常形態が検出されるが、ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合、候補化合物はミトフェリン-2のインヒビターと同定される。
【0042】
更に、本発明は、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる(susceptible to cancer treatment)対象の同定方法であって、
(A)前記対象のサンプル中のミトフェリン-1活性を決定する工程、及び
(B)工程(A)の決定に基づいて、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者を同定する工程、
を含む上記方法に関する。
【0043】
本発明の対象の同定方法は、好ましくは、in vitro法である。更に、上記で明示した工程に加えて、更なる工程を含んでいてもよい。例えば、更なる工程は、例えば、工程(A)のためにがん細胞のサンプルを提供する工程、及び/又は、好ましくは本明細書において上記で規定されるようなミトフェリン-2のインヒビターの投与を含む、前記対象にがん治療を提供する工程に関連し得る。更に、前記工程のうち1つ以上は、自動化された装置によって補助又は実行され得る。
【0044】
ミトフェリン-1活性の発現を決定するための方法は、本明細書中のミトフェリン-1活性の低下を決定する工程のところで上述されたものである。従って、ミトフェリン-1活性を決定する工程は、好ましくは、ミトフェリン-1をコードする遺伝子の発現を決定する工程を含み、より好ましくは、細胞内におけるミトフェリン-1をコードする遺伝子の存在を決定する工程を含む。
【0045】
「サンプル」という用語は、分離された細胞のサンプル、又は組織若しくは器官、好ましくは腫瘍から得たサンプルを指す。従って、サンプルは、好ましくはがん細胞、好ましくは腫瘍細胞を含む、又は含むとみなされる。従って、好ましくは、サンプルは腫瘍サンプル、例えば生検である。当業者に公知であるように、組織又は器官のサンプルは、例えば、生検、手術、又は当業者が適切と考える他の方法によって、任意の組織又は器官から得ることができる。分離された細胞は、遠心分離や細胞選別等の分離技術によって、リンパ液、血液、血漿、血清、羊水(liquor)等の体液から、或いは組織や器官から得ることができる。好ましくは、サンプルは、細胞を含む組織又は体液サンプルである。好ましくは、サンプルは体液のサンプル、好ましくは血液サンプルである。体液サンプルは、当業者に周知の常套技術、例えば、静脈又は動脈穿刺、洗浄、又は当業者が適切と考える他の方法によって、対象から得ることができる。
【0046】
ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者は、ミトフェリン-1活性の測定結果に基づいて決定される。従って、ミトフェリン-1活性、遺伝子発現、及び/又は遺伝子量(gene dosage)が標準試料と比べて少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、更により好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%低下していると決定される場合、対象は、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できると同定される。ミトフェリン-1活性が比べられる標準試料は、好ましくは(例えばがんに隣接した非がん組織の)非がん細胞である。しかしながら、この標準試料は、ミトフェリン-1活性が低下していないことが分かっている細胞、例えば細胞株に由来するものであってもよいし、一組の対象又は細胞株全体の発現の平均値であってもよい。また好ましくは、標準試料は、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できることが分かっている細胞のサンプルである;このような場合、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者は、好ましくは、工程(A)で決定された発現が標準試料と本質的に同一であるか、又はそれより低い場合に同定される。また好ましくは、標準試料は、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できないことが分かっている細胞のサンプルであり;その場合、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者は、好ましくは、工程(A)で決定された発現が標準試料よりも低い場合に同定される。好ましくは、対象は、ミトフェリン-1をコードする遺伝子、好ましくはヒト細胞の場合にはSLC25A37遺伝子の少なくとも一方の、好ましくは両方の対立遺伝子が、例えばin situハイブリダイゼーション及び/又は核型分析によって、細胞から欠失していることが判明した場合に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できると同定される。従って、本方法は、工程(A)として、がん細胞のサンプルのin situハイブリダイゼーション及び又は核型分析を行い、前記サンプルが染色体8p欠失を含むがん細胞を含んでいるかどうかを決定する工程を含んでいてもよい。しかし、工程(a)は、がん細胞をミトフェリン-1について免疫組織化学的に染色する工程を含み得る。
【0047】
本発明はまた、ミトフェリン-1遺伝子の発現を測定する手段と、ミトフェリン-2のインヒビターとを含むキットに関する。
【0048】
本明細書で使用する「キット」という用語は、前述の化合物、手段又は試薬をまとめたものを意味し、これらは一緒に包装されていてもいなくてもよい。好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビターは、キット中の組成物、好ましくは医薬品として構成される。収容手段(housing)は、当業者によって適切とみなされる任意の種類の容器及び/又はパッケージであってよい。キットの構成要素は別個のバイアルで(即ち、別個のパーツからなるキットとして)構成されてもよいし、単一のバイアルで提供されてもよい。好ましくは、収容手段は、キットの構成要素がユニットとして一緒に輸送され得るような仕様で作製される。更に、好ましくは、キットは、本明細書の他の箇所で言及される方法を実施するために使用されることが理解される。好ましくは、すべての構成要素は、上記で言及された方法を実施するために、すぐに使用できるように提供されることが想定される。更に、キットは、好ましくは、前記方法を実施するための説明書を含む。説明書は、紙又は電子形態のユーザマニュアルによって提供され得る。更に、マニュアルは、本発明のキットを用いて前記方法を実施するための用法/用量の指示を含み得る。好ましくは、キットは希釈剤及び/又は投与手段を含む。適切な希釈剤は当業者に公知であり;投与手段は、ミトフェリン-2のインヒビターを対象に投与するのに適した全ての手段である。投与手段は、化合物の投与のための送達ユニット、及び投与するまで前記化合物を貯蔵するための貯蔵ユニットを包含し得る。しかしながら、本発明の手段は、このような実施形態において別個の器具としてもよく、そして好ましくは、前記キットの中に一緒にパッケージングされることも想定される。好ましい投与手段は、専門技術者の特別な知識がなくても適用できるものである。好ましい実施形態において、投与手段は、本発明の化合物又は組成物を含む、より好ましくは注射針を有する注射器である。別の好ましい実施形態において、投与手段は、化合物又は組成物を含む静脈内注入(IV)器具である。
【0049】
本発明は更に、がんに罹患している対象の治療方法であって、前記対象にミトフェリン-2のインヒビターを投与することを含む上記方法に関する。
【0050】
本発明はまた、がんを治療するための医薬品の製造のためのミトフェリン-2のインヒビターの使用に関する。
【0051】
本明細書で使用される「医薬組成物」及び「医薬品」という用語は、本明細書に記載される化合物を薬学的に許容される形態及び好ましくは薬学的に許容される担体中に含む組成物に関する。化合物は、薬学的に許容される塩として処方することができる。許容される塩としては、酢酸塩、メチルエステル塩、塩酸塩、硫酸塩、塩化物塩等が挙げられる。医薬組成物は、好ましくは、局所的又は全身的に投与される。薬物投与に従来使用されている適切な投与経路は、経口投与、静脈内投与、又は非経口投与、及び吸入である。好ましくは、本発明の医薬組成物は、非経口経路により、好ましくは皮下、筋肉内、又は腹腔内に投与される。しかしながら、ポリヌクレオチド化合物はまた、ウイルスベクター、ウイルス又はリポソームを使用することによる遺伝子治療アプローチで投与してもよく、また局所的に、例えば軟膏として又は腫瘍内に投与してもよい。更に、化合物は、他の薬剤と組み合わせて、1つの医薬組成物として又は別々の医薬組成物として投与することができ、前記別々の医薬組成物は、複数パーツからなるキットの形態で提供してもよい。特に、化学療法剤との併用が想定される。
【0052】
化合物は、好ましくは、従来の手順に従って薬剤を標準的な医薬担体と組み合わせることによって調製された従来の剤形で投与される。これらの手順として、所望の製剤に適した成分の混合、造粒、圧縮又は溶解が挙げられる。薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び特性は、配合される有効成分の量、投与経路及びその他の周知の変数によって決まることが理解されよう。担体は、製剤の他の成分と適合性があり、且つそのレシピエントに有害でないという意味で許容可能なものでなければならない。採用される医薬担体は、例えば、固体、ゲル又は液体のいずれかである。固体担体の例としては、ラクトース、テラアルバ、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アカシア、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等が挙げられる。液体担体の例としては、リン酸緩衝生理食塩水、シロップ、ピーナッツ油やオリーブ油等の油、水、乳剤、各種湿潤剤、無菌溶液等が挙げられる。同様に、担体又は希釈剤としては、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルの単独又はワックスとの併用等、当分野で周知の遅延物質(time delay material)が挙げられ得る。前記好適な担体は、上記のもの及び当分野で周知の他のものを含み、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,Pennsylvaniaを参照されたい。希釈剤は、好ましくは、ミトフェリン-2のインヒビター及び潜在的な更なる薬学的活性成分の生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液、ブドウ糖溶液、及びハンク溶液である。更に、医薬組成物又は製剤はまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療的、非免疫原性の安定剤等を含み得る。
【0053】
治療的有効量は、本明細書で言及される状態を予防、改善又は治療する、本発明の医薬組成物に使用される化合物の量を指す。化合物の治療的有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物において標準的な薬学的手順により、例えば、ED50(集団の50%において治療的に有効な用量)及び/又はLD50(集団の50%に対して致死的な用量)を決定することによって決定することができる。治療効果と毒性効果との用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比で表すことができる。投与レジメンは、主治医が、好ましくは関連する臨床因子を考慮し、好ましくは、本明細書の他の箇所に記載されている方法のいずれか1つに従って決定する。医療分野で周知であるように、ある患者に対する投与量は、その患者の体格、体表面積、年齢、投与する具体的な化合物、性別、投与時間及び投与経路、総体的な健康状態、及び同時に投与する他の薬剤を含む多くの因子に依存し得る。経過は、定期的な評価によってモニターすることができる。典型的な用量は、例えば、1μg~10000μgの範囲とすることができるが、特に前述の因子を考慮すると、この例示的範囲を下回る若しくは上回る用量が想定される。一般に、レジメンは、1μg~10mgの化合物の投与を含むが、対象及び投与様式に応じて、物質の投与量は、好ましくは、体重1kgあたり約0.01mg~体重1kgあたり約1mgとなるように広範囲で変化し得る。本明細書で言及される医薬組成物及び製剤は、本明細書に記載される疾患又は状態を治療するために少なくとも1回投与される。しかしながら、前記医薬組成物は、1回以上、例えば、好ましくは1~4回、より好ましくは2又は3回投与してもよい。インヒビターの特定のタイプによっては、医薬組成物は、定期的に、例えば、1週間に1回、毎日、又は1日に2回投与されることもある。
【0054】
特定の医薬組成物は、医薬技術分野で周知の方法で調製され、少なくとも1つのミトフェリン-2のインヒビターが活性化合物として、薬学的に許容される担体又は希釈剤と混和されて、又は会合されて含まれる。それらの特定の医薬組成物を製造するために、活性化合物は、通常、担体又は希釈剤と混合されるか、又はカプセル、小袋、カシェ、紙若しくは他の適切な容器又はビヒクルに封入されるか或いはカプセル化される。得られた製剤は、投与形態、即ち錠剤、カプセル剤、坐剤、溶液剤、又は懸濁剤等の形態で採用される。推奨投与量(dosage)は、考えられるレシピエントに応じて投与量(dose)を調整することを想定して、処方者又は使用者の説明書に記載されなければならない。
【0055】
以上の観点から、以下の実施形態が具体的に想定される。
実施形態1:対象におけるミトフェリン-1の活性低下を伴うがんの治療における使用のための、ミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態2:前記対象がヒトである、実施形態1に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態3:ミトフェリン-1の活性低下を伴う前記がんが、ミトフェリン-1をコードする遺伝子の発現が低下したがんである、実施形態1又は2に記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態4:ミトフェリン-1の活性が低下した前記がんが、染色体8pの欠失を伴うがんである、実施形態1~3のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態5:前記がんが固形がんであり、好ましくは、肝臓がん、肺がん、膵臓がん、又は結腸がんである、実施形態1~4のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態6:前記ミトフェリン-2のインヒビターがポリヌクレオチドを含む、実施形態1~5のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態7:前記ポリヌクレオチドが、ミトフェリン-2をコードする遺伝子の発現を低下させる活性を有する、実施形態1~6のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態8:前記ミトフェリン-2のインヒビターが、サイレンシングポリヌクレオチドを含み、及び/又は宿主細胞、好ましくはがん細胞においてサイレンシングポリヌクレオチドの発現を媒介し、好ましくは、前記ミトフェリン-2のインヒビターが、配列番号1又は3の核酸配列を含む、実施形態1~7のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態9:前記ミトフェリン-2のインヒビターが、(i)ミトフェリン-2をコードする遺伝子の少なくとも部分的なノックアウト、(ii)ミトフェリン-2遺伝子発現のRNA干渉、及び(iii)ミトフェリン-2遺伝子発現のサイレンシングのうちの少なくとも1つを媒介する、実施形態1~8のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態10:前記ミトフェリン-2のインヒビターが、siRNA、shRNA、及び/又はmiRNAを含む、実施形態1~9のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施施形態11:実施形態1~7のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビターであって、前記ミトフェリン-2のインヒビターが、(i)少なくとも1つのガイドRNA、及び(ii)Casヌクレアーゼ又は宿主細胞(好ましくはがん細胞)においてCasヌクレアーゼの発現を引き起こすポリヌクレオチドを含み、好ましくは、前記gRNAが、配列番号5又は7の核酸配列を含む、ミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態12:前記インヒビターがポリペプチドを含む、実施形態1~11のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態13:前記インヒビターが、アプタマー、抗体、又はそれらのフラグメントを含む、実施形態1~のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態14:実施形態1~13のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビターであって、好ましくは分子量が最大でも1kDaである低分子量化合物を含む前記ミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態15:前記ミトフェリン-2のインヒビターが鉄キレート剤である、実施形態1~14のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態16:前記ミトフェリン-2のインヒビターが、ミトフェリン-2特異的インヒビターである、実施形態1~のいずれかに記載の使用のためのミトフェリン-2のインヒビター。
実施形態17:ミトフェリン-2のインヒビターの同定方法であって:
(a)(i)ミトフェリン-1活性が低下した宿主細胞、及び(ii)ミトフェリン-1活性が低下していない宿主細胞を、ミトフェリン-2の候補インヒビターと接触させる工程、
(b)工程(a)の宿主細胞の増殖及び/又は形態を決定する工程;
(c)工程(b)において、増殖停止及び/又は異常形態が、ミトフェリン-1の活性が低下した宿主細胞では検出されるが、ミトフェリン-1の活性が低下していない宿主細胞では検出されない場合、ミトフェリン-2のインヒビターと同定する工程、
を含む、上記方法。
実施形態18:前記細胞が脊椎動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞、より好ましくはヒト細胞である、実施形態17に記載の方法。
実施形態19:ミトフェリン-1活性が低下した前記細胞が、染色体8pが欠失しているヒト細胞である、実施形態17又は18に記載の方法。
実施形態20:ミトフェリン-1活性が低下していない前記細胞が、ミトフェリン-1をコードする遺伝子を発現する染色体8pが欠失しているヒト細胞である、実施形態17~19のいずれかに記載の方法。
実施形態21:ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる対象の同定方法であって、
(A)前記対象のサンプル中のミトフェリン-1活性を決定する工程、及び
(B)工程(A)の決定に基づいて、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者を同定する工程、
を含む、上記同定方法。
実施形態22:前記サンプルががん細胞のサンプルである、実施形態21に記載の方法。
実施形態23:前記対象がヒトである、実施形態21又は22に記載の方法。
実施形態24:前記サンプルが染色体8pを欠失しているがん細胞を含むか否かを決定することによってミトフェリン-1発現が決定される、実施形態21~23のいずれかに記載の方法。
実施形態25:ミトフェリン-1遺伝子発現を標準試料と比較する、実施形態21~24のいずれかに記載の方法。
実施形態26:前記標準試料が、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できることが分かっている細胞のサンプルであり、工程(A)において決定された発現が標準試料と本質的に同一であるか、又は標準試料よりも低い場合に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者と同定される、実施形態21~25のいずれかに記載の方法。
実施形態27:前記標準試料が、ミトフェリン-2のインヒビターによる治療効果が期待できないことが分かっている細胞のサンプルであり、そして工程(A)において決定された発現が標準試料よりも低い場合に、ミトフェリン-2のインヒビターによるがん治療効果が期待できる患者と同定される、実施形態21~26のいずれかに記載の方法。
実施形態28:ミトフェリン-1遺伝子の発現を決定するための手段と、ミトフェリン-2のインヒビターとを含むキット。
実施形態29:がんに罹患している対象の治療方法であって、前記対象にミトフェリン-2のインヒビターを投与する工程を含む方法。
実施形態30:がん治療用の医薬品を製造するための、ミトフェリン-2のインヒビターの使用。
実施形態31:実施形態2~16のいずれかの特徴を有する、実施形態29の方法及び/又は実施形態30の使用。
【0056】
本明細書で引用した全ての文献は、その開示内容全体及び本明細書で特に言及した開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1-1】がん細胞株におけるMFRN1とMFRN2の発現。(A)一般的なヒト肝がん細胞株におけるMFRN1タンパク質レベルを示す免疫ブロット。ローディングコントロールとしてビンキュリンを用いた。(B)一般的な肝がん細胞株及び(C)マウス初代肝がん細胞株におけるMFRN1及びMFRN1 mRNAの発現レベル。
【
図2】MFRN1-2KOは明らかな増殖停止及び形態変化を引き起こす。(A)MFRN1(MFRN1KO)、MFRN2(MFRN2KO)、又はMFRN1及びMFRN2の両方(MFRN1-2KO)を標的とするガイドを含むCRISPR/Cas9発現コンストラクトをトランスフェクトしたSNU387細胞におけるMFRN1のウェスタンブロット。(B)CRISPR/Cas9を介したMFRN1(MFRN1KO)、MFRN2(MFRN2KO)、又はそれら両方(MFRN1-2KO)のKOから8日後のSNU387細胞の明視野像。コントロールとしてEV=空ベクターを用いた。
【
図3】細胞のMFRN1の状態は、MFRN2-KOに対する反応に影響する。(A)HUH6細胞(MFRN1低発現細胞)又は(B)SNU387細胞(MFRN1高発現細胞)の競合アッセイであり、MFRN1KO細胞とMFRN1KO細胞(MFRN1+MFRN1/EV)、MFRN1KO細胞とMFRN2KO細胞(MFRN1+MFRN2/EV)、又はMFRN1KO細胞とMFRN1-2KO細胞(MFRN1+MFRN1/MFRN2)の細胞増殖の比較を示す。MFRN1を標的とするsgRNAを含む若しくはsgRNAを含まない(EV)レンチウイルスCRISPR/Cas9発現コンストラクトで、細胞をトランスフェクトした。これらの細胞を、MFRN2を標的とする第2のsgRNAを含む若しくはsgRNAを含まない(EV)レンチウイルスGFP発現コンストラクトで再度トランスフェクトした。これらの遺伝子修飾細胞をMFRN1KO細胞と混合し、Guava(登録商標)easyCyteでGFP陽性を測定した。下のパネル:図中に記載された遺伝子修飾を含むHUH6細胞(左)とSNU387細胞(右)のコロニー形成アッセイ。
【
図4】HUH6細胞に対するshRNAを介したMFRN2のノックダウンの効果。(A)ウミシイタケ(Renilla)を標的とするshRNA(shRenilla)又はMFRN2を標的とするshRNA(MFRN2.1、MFRN2.2)とGFPドキシサイクリン(DOX)依存性を発現するTet-誘導性(Tet-incucible)レンチウイルスコンストラクトでトランスフェクトしたHUH6細胞のクローン形成細胞増殖を示すコロニー形成アッセイ。(B)DOX含有培地中で、shRenilla又はMFRN2を標的とするshRNA(MFRN2.1、MFRN2.2)のいずれかを発現するHUH6細胞と非修飾HUH6細胞との混合細胞の細胞増殖の比較を示す、HUH6細胞の競合アッセイ。(C)それぞれの誘導性shRNAコンストラクト(shRenilla、MFRN2.1、MFRN2.2)をトランスフェクトしたHUH6細胞をDOX含有培地中又はDOX除去下で培養した場合のMFRN2のウェスタンブロット。
【
図5-1】マウスの異種移植モデルを用いて、MFRN1及びMFRN2の欠失をin vivoで再現している。(A)細胞調製から免疫不全マウスへの皮下注射までのワークフローを模式的に示す。(B)上パネル:図中に記載された変更を宿す個々の腫瘍移植片の腫瘍体積の経時変化。下パネル:明視野(BF)照射とGFPチャンネルによるマクロ写真を用いた実体顕微鏡画像。同じサンプルのGFPを異なる倍率で免疫組織化学的に染色したもの。スケールバー:500μmと100μm。
【
図6】マウスの異種移植モデルを用いて、MFRN1及びMFRN2の欠失をin vivoで再現している。左側パネル:図中に記載された変更を宿す個々の腫瘍異種移植片の腫瘍体積の経時変化。右側パネル:明視野(BF)照射とGFPチャンネルによる例示的な腫瘍のマクロ写真を用いた実体顕微鏡画像。同じサンプルのGFPの免疫組織化学染色(IHC α-GFP)を異なる倍率で示す。スケールバー:500μmと100μm。
【
図7】マウスの異種移植モデルを用いて、MFRN1及びMFRN2の欠失をin vivoで再現している。左側パネル:図中に記載された変更を宿す個々の腫瘍異種移植片の腫瘍体積の経時変化。右側パネル:BF(明視野)照射とGFPチャンネルによる例示的な腫瘍のマクロ写真を用いた実体顕微鏡画像。同じサンプルのGFPの免疫組織化学染色(IHC α-GFP)を異なる倍率で示す。スケールバー:500μmと100μm;OE:過剰発現。
【
図8】正常肝組織サンプル及び肝がんサンプルにおけるMFRN1の発現レベル。実施例10で示したように、染色強度に応じて個別にスコア化(MFRN1-Score)した患者サンプルの代表的な画像;HCC:肝細胞がん。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0058】
以下の実施例は、単に本発明を説明するものである。これらは、いかなる場合も本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【0059】
実施例1(
図1A参照)
プロテアーゼインヒビター(Complete Mini; Roche)とホスファターゼインヒビターの両方を添加した細胞溶解バッファー(Cell Signaling Technology)を用いて、図中に記載された細胞株のタンパク質ライセートを調製した。確実に溶解するため、細胞を氷上で5分間超音波処理し、続いて4℃、13,000rpmで遠心分離し、タンパク質ライセートを回収した。更に、BCAタンパク質アッセイ(Thermo Scientific社)を用いてこれらのタンパク質ライセートを同じ濃度に調整し、等量のタンパク質をLaemmliバッファー(100 mM Tris-HCl pH6.8、5%グリセロール、2% SDS、5% 2-メルカプトエタノール)と混合し、95℃で5分間煮沸した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、抗MFRN1抗体(Proteintechカタログ番号26469-1-AP)を用いた免疫ブロッティングで検出した。画像検出は、Clarity Western ECL基質溶液(Bio-Rad)を用いてAlphaViewソフトウェア(ProteinSimple)により行った。
【0060】
実施例2(
図1B及びC参照)
RNeasy Mini Kit(Qiagen)とRnase-Free Dnaseセット(Qiagen)を用いて、製造元のプロトコールに従って全RNAを単離した。1μgの精製RNAをTaqMan(登録商標)逆転写試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写し、1:20に希釈してからqPCRに供した。qPCR反応では、cDNAをPower SYBR(登録商標)Greenマスターミックス(Thermo Fisher Scientific)及び標的特異的プライマーと混合したものを3つ作製して行った。転写量は、チューブリンmRNAの発現量に対して正規化し、デルタCt(ΔCt)法を用いて算出した。QuantStudio 3 Real-Time PCR system(Applied biosystems)を用いてqPCRを行った。以下のプライマーを使用した:
ヒト-Mfrn1 ff qPCR CGGTGGACTCGGTGAAGAC; 配列番号9
ヒトMfrn1 rev qPCR GGGCTCCGTAGATACTTGTGTA; 配列番号10
ヒト-Mfrn2 ff qPCR GGCTGAACGTCACAGCAAC; 配列番号11
ヒトMfrn2 rev qPCR GCACCATTGGCAATATGGCT; 配列番号12
mm-Mfrn1 ff qPCR TTGAATCCAGATCCCAAAGC; 配列番号13
mm-Mfrn1 rev qPCR GTTTCCTTGGTGGCTGAAAA; 配列番号14
mm-Mfrn2 ff qPCR TCGTCAAGCAGAGGATGCAGAT; 配列番号15
mm-Mfrn2 rev qPCR GTTAAAGTGCTCTTGCAGGAAC; 配列番号16
【0061】
実施例3(
図2A参照)
レンチウイルスを産生するために、トランスフェクションの1日前にHEK293T細胞を10cmプレートにプレーティングし、コンフルエントに近い状態に達した時点で、pMD.2G(2.5μg)、psPAX2(8μg)(Addgeneプラスミド#12259及び#12260)、及びそれぞれのガイドを保有するpLenti CRISPR v2(10μg)からなるプラスミドミックスを1000μlの無血清DMEMと60μlのポリエチレンイミン(PEI、1μg/μl)に添加したものを用いてトランスフェクトした。SLC25A28ガイドは以下の配列を有するものであった。
5' - caccGGTGACCGCCTATTTCCGAGtttAAGAGCTATGCTGGAAACAGCATAGCAAGTTTAAATAAGGCTAGTCCG
TTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTT - 3'(配列番号6)。
【0062】
次の配列を有するガイドでも同じ結果が得られた。
5' - caccGTTCAGGACGGTATATCAAGTGtttAAGAGCTATGCTGGAAACAGCATAGCAAGTTTAAATAAGGCTAGTC
CGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGCTTTTTT - 3'(配列番号8)。
【0063】
プラスミドミックスを5分間ボルテックスし、室温で30分間インキュベートした後、細胞に滴下した。トランスフェクションから24時間後に培地を交換し、トランスフェクションから48時間後に0.45μm セルロースアセテートメンブレンフィルター(VWR)を用いてレンチウイルス上清を回収し、使用するまで-80℃で保存した。SNU387 細胞を10cmプレートにプレーティングし、プレーティングの1日後、ポリブレン(4μg/ml)存在下にて、ウイルス上清で細胞に形質導入した。形質導入の2日後、細胞をピューロマイシン(2μg/ml)で選択した。選択から3日後、プロテアーゼインヒビター(Complete Mini; Roche)とホスファターゼインヒビターの両方を添加した細胞溶解バッファー(Cell Signaling Technology)を用いて、タンパク質ライセートを調製した。確実に溶解するため、細胞を氷上で5分間超音波処理し、続いて4℃、13,000rpmで遠心分離し、タンパク質ライセートを回収した。更に、BCAタンパク質アッセイ(Thermo Scientific)を用いてこれらのタンパク質ライセートを同じ濃度に調整し、等量のタンパク質をLaemmliバッファー(100 mM Tris-HCl pH6.8、5%グリセロール、2% SDS、5% 2-メルカプトエタノール)と混合し、95℃で5分間煮沸した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、抗MFRN1抗体(Proteintechカタログ番号26469-1-AP)を用いた免疫ブロッティングで検出した。画像検出は、Clarity Western ECL基質溶液(Bio-Rad)を用いてAlphaViewソフトウェア(ProteinSimple)により行った。
【0064】
実施例4(
図2B参照)
CRISPR/Cas9を介してMFRN1、MFRN2、又はそれら両方をKOした(それぞれMFRN1KO、MFRN2KO、 MFRN1-2KO)8日後に、SNU387細胞の顕微鏡画像を得た(実施例3)。コントロールとしてEV=空ベクターを用いた。
【0065】
実施例5(
図3A参照)
レンチウイルスを産生するため、トランスフェクションの1日前にHEK293T細胞を10cmプレートにプレーティングし、コンフルエントに近い状態に達した時点で、pMD.2G(2.5μg)、psPAX2(8μg)(Addgeneプラスミド#12259及び#12260)、及び各ガイドを保有するpLenti CRISPR v2(10μg)からなるプラスミドミックスを1000μlの無血清DMEM及び60μlのポリエチレンイミン(PEI、1μg/μl)に添加したものでトランスフェクトした。SLC25A28ガイドは実施例3と同じものであった。次に、プラスミドミックスを5分間ボルテックスし、室温で30分間インキュベートした後、細胞に滴下した。トランスフェクションから24時間後に培地を交換し、トランスフェクションから48時間後に0.45μm酢酸セルロースメンブレンフィルター(VWR)を用いてレンチウイルス上清を回収し、使用するまで-80℃で保存した。HUH6細胞を10cmプレートにプレーティングし、プレーティングの1日後、細胞をポリブレン(4μg/ml)存在下にて、ウイルス上清で形質導入した。形質導入の2日後、細胞をピューロマイシン(2μg/ml)で選択した。選択から3日後、MFRN1KO細胞を、MFRN1KO細胞(MFRN1+MFRN1/EV)、MFRN2KO細胞(MFRN1+MFRN2/EV)、又はMFRN1及び2KO細胞(MFRN1+MFRN1/MFRN2)と混合し(それぞれマーカーとしてGFPを共発現させる)、Guava(登録商標)easyCyteベンチトップフローサイトメーター(Merck Millipore社製)を用いて、経時的なGFP発現細胞の相対分布を測定した。コロニー形成能を評価するため、500個の細胞を6ウェルプレートにプレーティングしたものを3つ作製した。細胞をメタノールで固定し、10日後に0.05%クリスタルバイオレットで染色した。
【0066】
実施例6(
図3B参照)
レンチウイルスの産生は、基本的に実施例5と同様に行った。SNU387細胞を10cmプレートにプレーティングし、プレーティングの1日後、細胞をポリブレン(4μg/ml)存在下にて、ウイルス上清で形質導入した。形質導入の2日後、細胞をピューロマイシン(2μg/ml)で選択した。選択から3日後、MFRN1KO細胞を、MFRN1KO細胞(MFRN1+MFRN1/EV)、MFRN2KO細胞(MFRN1+MFRN2/EV)、又はMFRN1及び2 KO細胞(MFRN1+MFRN1/MFRN2)と混合し(それぞれマーカーとしてGFPを共発現させる)、Guava(登録商標)easyCyteベンチトップフローサイトメーター(Merck Millipore社製)を用いて、経時的なGFP発現細胞の相対分布を測定した。コロニー形成能を評価するため、500個の細胞を6ウェルプレートにプレーティングしたものを3つ作製した。細胞をメタノールで固定し、10日後に0.05%クリスタルバイオレットで染色した。
【0067】
実施例7(
図4A)
レトロウイルスを産生するため、トランスフェクションの1日前にHEK-gp-細胞を10cmプレートに入れ、コンフルエントに近い状態に達した時点で、pMD.2G(2.5μg)及びそれぞれのshRNAを保有するレトロウイルスプラスミドLT3GEPIR(20μg)からなるプラスミドミックスを1000μlの無血清DMEMと60μlのポリエチレンイミン(PEI、1μg/μl)に添加したものでトランスフェクションした。SLC25A28 shRNA発現コンストラクトは、以下の配列を有するものであった。
5' - ctcgactagggataacagggtaattgtttgaatgaggcttcagtactttacagaatcgttgcctgcacatcttgg
aaacacttgctgggattacttcgacttcttaacccaacagaaggctcgagaaggtatattgctgttgacagtgagcgcTG
CTGTTGACAGTGAGCGCGGCAAGTGAAGTAGCACTGAATAGTGAAGCCACAGATGTATTCAGTGCTACTTCACTTGCCAT
GCCTACTGCCTCGGAatgcctactgcctcggacttcaaggggctagaattcgagcaattatcttgtttactaaaactgaa
taccttgctatctctttgatacatttttacaaagctgaattaaaatggtataaattaaatcactttttt - 3'(配列番号2、shMFRN2.1)及び
5' - ctcgactagggataacagggtaattgtttgaatgaggcttcagtactttacagaatcgttgcctgcacatcttgg
aaacacttgctgggattacttcgacttcttaacccaacagaaggctcgagaaggtatattgctgttgacagtgagcgcTG
CTGTTGACAGTGAGCGCTCCTAATAAAAAGCCTTTAAATAGTGAAGCCACAGATGTATTTAAAGGCTTTTTATTAGGAAT
GCCTACTGCCTCGGAatgcctactgcctcggacttcaaggggctagaattcgagcaattatcttgtttactaaaactgaa
taccttgctatctctttgatacatttttacaaagctgaattaaaatggtataaattaaatcactttttt - 3'(配列番号4、shMFRN2.2)。
【0068】
次にプラスミドミックスを5分間ボルテックスし、室温で30分間インキュベートした後、細胞に滴下した。トランスフェクションから24時間後に培地を交換し、トランスフェクションから48時間後に0.45μm酢酸セルロースメンブレンフィルター(VWR)を用いてレンチウイルス上清を回収し、使用するまで-80℃で保存した。HUH6細胞を10cmプレートにプレーティングし、プレーティングの1日後、細胞をポリブレン(4μg/ml)存在下にてウイルス上清で形質導入した。形質導入の2日後、細胞をピューロマイシン(2μg/ml)で選択した。選択から3日後に500個の細胞を6ウェルプレートにプレーティングしたものを3つ作製し、shRNAの発現を可能にするため、ドキシサイクリンを添加したものと添加しないものとで培養した(1μg/ml)。細胞をメタノールで固定し、10日後に0.05%クリスタルバイオレットで染色した。
【0069】
実施例7(
図4B参照)
図中に記載したshRNAで形質導入したHUH6細胞を、形質導入していない親細胞と混合し、ドキシサイクリン(1μg/ml)存在下で培養し、形質導入細胞内でのshRNA及びGFP発現を可能にした。経時的なGFP発現細胞の相対分布を、Guava(登録商標)easyCyteベンチトップフローサイトメーター(Merck Millipore社製)を用いて経時的に測定した。
【0070】
実施例8(
図4C参照)
図中に記載したshRNAコンストラクトを保有するHuH6細胞をDOXあり又はなしで4日間増殖させ、プロテアーゼインヒビター(Complete Mini; Roche)とホスファターゼインヒビターの両方を添加した細胞溶解バッファー(Cell Signaling Technology)を用いてタンパク質ライセートを調製した。確実に溶解するため、細胞を氷中で5分間超音波処理し、続いて4℃、13,000rpmで遠心分離し、タンパク質ライセートを回収した。更に、BCAタンパク質アッセイ(Thermo Scientific)を用いてこれらのタンパク質ライセートを同じ濃度に調整し、等量のタンパク質をLaemmliバッファー(100 mM Tris-HCl pH6.8、5%グリセロール、2% SDS、5% 2-メルカプトエタノール)と混合し、95℃で5分間煮沸した。タンパク質をSDS-PAGEで分離し、PVDF膜に転写し、抗MFRN2抗体(Abcamカタログ番号ab80467)を用いた免疫ブロッティングで検出した。画像検出は、Clarity Western ECL基質溶液(Bio-Rad)を用いてAlphaViewソフトウェア(ProteinSimple)により行った。
【0071】
実施例9:in vivo実験
図5に関連して、sgMfrn1又はsgCTRを保有するSpCas9と共にshMfrn2.1、shMfrn2.2又はshRenilla(shRen)のいずれかを発現するコンストラクトを安定に発現する初代マウスMyc/Trp53肝がん細胞を、NMRIヌードマウスに皮下注射した(1群につきn=5匹の雌マウス)。腫瘍体積が100 mm
3に達した後、マウスにDOX含有飼料を与え、腫瘍サイズを定期的に測定した。
図5(B)に示すように、MFRN1とMFRN2を二重欠失させた異種移植片は顕著な増殖阻害を示した。
【0072】
図6に関連して、sgMFRN1又はsgCTRを保有するSpCas9と共にshMFRN2又はshRenilla(shRen)を発現するコンストラクトを安定に発現するSNU387細胞を、NSGヌードマウスに皮下注射した(1群あたりn=5匹の雌マウス)。腫瘍体積が100 mm
3に達した後、マウスにDOX含有飼料を与え、腫瘍サイズを定期的に測定した。
図6に示すように、MFRN1とMFRN2を二重に欠失させた異種移植片は、ほぼ全ての症例で完全な退縮を示した。
【0073】
図7に関連して、MFRN1 cDNA又は空の発現カセット(EV)と共にshMFRN2又はshRenのいずれかを発現するコンストラクトを安定に発現するPLC細胞を、NSGヌードマウスに皮下注射した(1群あたりn=5匹の雌マウス)。腫瘍体積が100 mm
3に達した後、マウスにDOX含有飼料を与え、腫瘍サイズを定期的に測定した。
図7に示すように、MFRN1の過剰発現により、MFRN2の枯渇によって誘導された増殖障害を回避することができる。
【0074】
実施例10:腫瘍サンプルにおけるMFRN1の発現
正常肝組織及び様々な悪性度の肝細胞がん(HCC)から得られたヒトサンプルをMFRN1発現について染色し、MFRN1発現レベルの5つのグループ(O:検出不能、1:低発現、2:中発現、3:高発現、4:超高発現)のいずれかに割りふった。
図8に示すように、正常肝組織は平均してMFRN1の発現が高いが、HCCサンプルは有意に低い。例えば、グレード3のHCCサンプルでは、70%を超えるサンプルでMFRN1の発現が検出されないか、低いことがわかった。
【0075】
参考文献
- Elbashir et al. (2001), Nature 411: 494-498
- Hammond et al. (2001), Nature Rev. Genet. 2, 110-119
- Kang et al. (2019), Autophagy 15(1): 172
- Klevenz et al., Cell Mol Life Sci. 2002, 59: 1993-1998
- Li et al. (2018), Dev Cell 46(4):441
- Shen et al. (2018), J Cell Biochem 119(11):9178
【配列表】
【国際調査報告】