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特表2024-522081耐プラズマ性被膜、関連する製造方法及び使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】耐プラズマ性被膜、関連する製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20240604BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240604BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C23C16/40
C23C16/455
H01L21/302 101G
H01L21/31 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023571903
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2022063672
(87)【国際公開番号】W WO2022243493
(87)【国際公開日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】20215604
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510275024
【氏名又は名称】ピコサン オーワイ
【氏名又は名称原語表記】PICOSUN OY
【住所又は居所原語表記】Tietotie 3, FI-02150 Espoo, Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】イェッセ カッリオマキ
【テーマコード(参考)】
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K030AA04
4K030AA11
4K030AA14
4K030BA02
4K030BA10
4K030BA22
4K030BA35
4K030BA42
4K030BA43
4K030BB12
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA11
4K030DA03
4K030EA03
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA01
4K030KA47
5F004AA15
5F004BB29
5F004BC08
5F004BD03
5F004BD04
5F045AA08
5F045AD01
5F045AE01
5F045BB15
5F045EC05
5F045EF05
5F045EM09
(57)【要約】
耐プラズマ腐食性の被膜付き基体を製造する方法、及び関連する被膜が提供される。方法は、基体の少なくとも一部の上へ、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、イットリウム含有耐プラズマ性被膜を堆積することを含む。いくつかの実施態様では、耐プラズマ性被膜は、例えば酸化アルミニウム化合物と酸化イットリウム化合物との混合物から成る混合膜で形成される。いくつかの事例では、金属フッ化物化合物から成る堆積膜と交互に位置する前記混合膜を含む多層積層構造が形成される。プラズマ処理装置内で使用するための被膜付き構成部分と、基体の耐プラズマ腐食性を改善する方法とがさらに提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法であって、前記方法は、
基体を得ること、及び
前記基体の少なくとも一部の上へ、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、耐プラズマ性被膜を堆積すること、
を含み、
前記耐プラズマ性被膜は、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含み、前記化合物の1種は、イットリウム化合物、具体的には酸化イットリウムである、
方法。
【請求項2】
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記堆積シーケンスの、前記第1化合物を堆積するための堆積サイクルの数と、前記第2化合物を堆積するための堆積サイクルの数との関係は、それぞれ2~10:1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合膜から成る堆積層の上に、金属フッ化物から成る付加的な堆積層を堆積する
ことをさらに含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合膜と、金属フッ化物から成る付加的な堆積層とを堆積する工程が、所期厚の積層被膜を生成するために、(n)回繰り返される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含む耐プラズマ性被膜であって、前記化合物の1種がイットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムである、耐プラズマ性被膜。
【請求項10】
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで、具体的には2~10の堆積サイクルで、第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、請求項9に記載の被膜。
【請求項11】
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項12】
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る、請求項9から11のいずれか1項に記載の被膜。
【請求項13】
混合膜中のイットリウムの含有率が、約4原子パーセント~約20原子パーセントの範囲内にある、請求項9から12のいずれか1項に記載の被膜。
【請求項14】
金属フッ化物から成る少なくとも1つの付加的な堆積層をさらに含む、請求項9から13のいずれか1項に記載の被膜。
【請求項15】
混合膜から成る複数の堆積層が、前記金属フッ化物から成る複数の堆積層と交互に位置する、請求項9から14のいずれか1項に記載の被膜。
【請求項16】
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、請求項14又は15に記載の被膜。
【請求項17】
約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約300nmの範囲内の厚さを有する、請求項9から16のいずれか1項に記載の被膜。
【請求項18】
請求項9から17のいずれか1項に記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体を含む被膜付き物品。
【請求項19】
プラズマ処理設備と一緒に使用され且つプラズマに暴露される表面を有する構成部分として形成された、請求項18に記載の被膜付き物品。
【請求項20】
シャワーヘッド、前記シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び容器から成る群から選択された構成部分として形成された、請求項18又は19に記載の被膜付き物品。
【請求項21】
請求項18から20のいずれか1項に記載の被膜付き物品、及び/又は請求項9から17のいずれか1項に記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体の、プラズマ支援型処理装置、例えばプラズマ・エッチング装置、プラズマ増強型化学蒸着装置、又はプラズマ支援型物理蒸着装置の処理チャンバ内での使用。
【請求項22】
プラズマ処理時のプラズマの侵食及び腐食に対する基体の耐性を改善する方法であって、前記方法が、第1組成物を有する堆積層が第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように複数の堆積層を、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して堆積することにより、基体表面の少なくとも一部の上へイットリウム含有耐プラズマ性被膜を形成することを含み、前記第1組成物を有する前記堆積層が、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜であり、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が金属フッ化物から成る、方法。
【請求項23】
前記第1組成物を有する堆積層が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成る混合膜であり、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が、金属フッ化物、具体的にはフッ化イットリウム(III)(YF)から成る、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概してプラズマ処理法において表面を保護する方法に関する。具体的には、本発明は、典型的にプラズマに暴露される基体、例えばプラズマ支援型処理装置の処理チャンバ内に設けられたハードウェア構成部分の表面上に耐プラズマ性被膜を、蒸気相における化学堆積法によって製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気相における化学堆積法、例えば化学蒸着(CVD)及び原子層堆積(ALD)が当該技術分野において幅広く記述されている。概してCVDプロセスのサブクラスとみなされるALD技術が、種々の三次元基体構造上に高品質のコンフォーマル被膜を製造するための効率的なツールであることが判っている。
【0003】
ALDは、交互の自己飽和表面反応に基づく。非反応性(不活性)気体状キャリア中の分子化合物又は元素として提供された種々異なる反応物質(プリカーサー)が、基体を収容する反応空間内へ連続的にパルスされる。反応物質の堆積に続いて、基体を不活性ガスによりパージする。従来のALDサイクル(堆積サイクル)は2つの半反応(第1プリカーサーのパルス-パージ;第2プリカーサーのパルス-パージ)で進行し、これにより材料層(堆積層)が自己制限的(自己飽和的)に形成され、その厚さは典型的には0.05~0.2nmである。サイクルは、所定の厚さを有する膜を得るために必要な回数だけ繰り返される。各プリカーサーの典型的な基体暴露時間は、0.1~10秒間である。一般的なプリカーサーは、金属酸化物、元素金属、金属窒化物、及び金属硫化物を含む。
【0004】
デバイス、例えば太陽光発電装置及び集積回路の製作中のプラズマ処理のために、真空プラズマ処理チャンバが使用される。プロセスガスを処理チャンバ内に流入させる一方、プロセスガスのプラズマを発生させるために、プロセスガスに場を印加する。
【0005】
プラズマはイオン化ガスである。このイオン化ガスの本質は、プラズマ処理法において使用される設備が、表面からの材料蒸発に関連する侵食、化学的腐食、表面構造及び形態に加えられる変化、並びにこれに類するものを被りやすいことを意味する。プラズマの侵食及び腐食は、プラズマ処理設備内に使用される構成部分の耐用時間を大幅に短くするおそれがある。運転コストを削減するために、プラズマ処理チャンバ内部の構成部分を耐プラズマ性であるように構成することによって、これらの構成部分の寿命を長くすることができる。
【0006】
酸化イットリウム(イットリア、Y)が、集積回路(IC)業界内で幅広く利用されるプラズマ支援型処理、例えばプラズマ・エッチング、又はプラズマ増強型化学蒸着(PECVD)中に生成される酸素プラズマ及びハロゲンプラズマ、例えばフッ素及び塩素プラズマに対して効果的な保護を提供することで知られている。
【0007】
典型的には、酸化イットリウムは、物理蒸着(PVD)法又はCVD法で堆積される。これらの技術との比較において、ALD法は、種々の三次元物品上の固有欠陥がより少ない、全体的にコンフォーマルな被膜を提供する。プラズマ支援型処理のための設備においてプラズマ腐食を極めて被りやすいシャワーヘッド、ガス分配板、弁などのような複雑な部分上に酸化イットリウムを堆積することにより、上述のデバイス及びこれらの部分が、付加的な耐腐食性、具体的には耐プラズマ腐食性を有するようにすることができ、ひいては設備の寿命を長くし、腐食によって誘発される修理及びメンテナンスに関連するコストを著しく削減する。
【0008】
ALDによる酸化イットリウム膜の堆積時に生じる主な厄介な事態の1つは、大規模な反応/堆積チャンバ内でイットリウム・プリカーサーを水と一緒に使用して均一な被膜を得ることの難しさと関連する。純粋な酸化イットリウム膜は吸湿性を有し、そして水分子を吸収する傾向がある。このことは以下の問題、すなわち、GPC(サイクル当たりの成長(Growth per Cycle))速度がドリフトする(プロセスは制御が難しくなり、このことは、特に厚膜を必要とする用途において問題を招く)こと、そしてプリカーサーとしての水がより上流側で吸収されるので、HOの高い局所変動が生じること(したがって、大型チャンバまでプロセスを規模拡大することを困難にする)という問題を不可避的に招く。さらに、水の吸収速度及び解離速度は基体の形状に依存する。このことは、複雑な3D部分の被覆には不都合である。問題は膜の堆積が増大するのに伴ってより顕著になり、この用途によって好まれる厚膜が所望されるときには特に問題をはらむことになる。
【0009】
他方において、酸化剤としてオゾン(O)を使用するプロセスは、安定した炭酸塩中間体を生成する。この中間体は分解のために高い温度(T>325℃)を必要とする。この温度は、商業的実現化のためのほとんどの場合には、結果として極端に高い温度となる。
【0010】
ALDで使用可能ないくつかの材料、例えば酸化アルミニウム(アルミナ、Al)が、高速堆積条件でも完全にコンフォーマルな被膜を製造することで知られている。しかしながら、プラズマ腐食に抗して純粋アルミナ被膜を使用するいくつかの試みは、その耐(プラズマ)エッチング性が乏しい(純粋Yの約10倍悪い)ことを明らかにした。
【0011】
さらに、ALDを介した純粋酸化イットリウムの堆積は、均一性の欠如、及び副生成物の形成に関連した。直面する別の問題は、イットリウム・プリカーサーが、極めて低い蒸気圧を有し、再凝結しやすいことである。これらのプリカーサーはまた、低濃度であっても極度に悪臭を伴う。
【0012】
これらすべての問題を軽減するためには、堆積サイクルを長くしなければならず、したがって、このことはプロセス全体の時間効果及びコスト効果を著しく減少させることになる。さらに、化学蒸着設備が、加熱されたポンプ導管なしで構成されている場合には、反応副生成物が排気導管内で凝結する傾向を有し、そして反応チャンバが開かれると、前記副生成物が周囲に放出され、設備操作者に健康上の危険をもたらす。
【0013】
これに関して、種々異なるタイプのプラズマに対して持続性のある保護被膜を堅牢且つコスト効果的に生成するのに適した反応性化合物を選択することに関連する難題に対処することに照らして、蒸気相の化学堆積法、例えばALDを介して耐プラズマ性被膜を製造する分野における最新化が今なお望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、関連技術分野の制約及び欠点から生じる問題点のそれぞれを解決すること、又は少なくとも軽減することである。この目的は、耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法、関連する耐プラズマ性被膜、及び使用の種々の実施態様によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1つの態様では、独立請求項1に定義されたものに基づき、耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法が提供される。
【0016】
1実施態様では、耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法が、基体を得ること、及び前記基体の少なくとも一部の上へ、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、イットリウム含有耐プラズマ性被膜を堆積することを含み、前記耐プラズマ性被膜が、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含み、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、具体的には酸化イットリウムである。
【0017】
1実施態様では、前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である。
【0018】
1実施態様では、前記堆積シーケンスの、前記第1化合物を堆積するための堆積サイクルの数と、前記第2化合物を堆積するための堆積サイクルの数との関係は、それぞれ2~10:1である。
【0019】
1実施態様では、前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つ、又は任意の非ランタニド酸化物である。
【0020】
1実施態様では、前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x、xは>1である)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る。
【0021】
別の実施態様では、方法は、前記混合膜から成る堆積層の上に、金属フッ化物から成る付加的な堆積層を堆積することをさらに含む。
【0022】
1実施態様では、前記方法において、前記混合膜と、金属フッ化物の付加的な堆積層化合物とを堆積する工程が、所望の厚さの積層被膜を生成するために、(n)回繰り返される。
【0023】
1実施態様では、前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される。好ましい金属元素はランタン及びイットリウムを含み、イットリウムが最も好ましい。
【0024】
1つの態様では、独立請求項9に定義されたものに基づく、耐プラズマ性被膜が提供される。
【0025】
1実施態様では、前記被膜は少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含み、前記化合物の1種がイットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムである。
【0026】
1実施態様では、前記被膜は、複数の堆積シーケンスで堆積される混合膜を含み、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで、具体的には2~10の堆積サイクルで、第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である。
【0027】
1実施態様では、前記被膜は、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成る前記混合膜を含み、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである。
【0028】
1実施態様では、前記被膜は、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)(xは>1である)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る前記混合膜を含む。
【0029】
1実施態様では、前記被膜は、イットリウムの含有率が、約4原子パーセント~約20原子パーセントの範囲内にある前記混合膜を含む。
【0030】
1実施態様では、前記被膜が、金属フッ化物から成る少なくとも1つの付加的な堆積層をさらに含む。
【0031】
1実施態様では、前記被膜は多層積層被膜として形成されており、イットリウム含有混合膜から成る複数の堆積層が、前記金属フッ化物から成る複数の堆積層と交互に位置する。
【0032】
1実施態様では、前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される。1実施態様では、前記耐プラズマ性被膜の前記付加的な堆積層が、金属フッ化物、例えばフッ化イットリウム(III)(YF)である。
【0033】
1実施態様では、前記被膜が、約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約300nmの範囲内の厚さを有する。
【0034】
別の態様では、独立請求項18に定義されたものに基づく被膜付き物品が提供される。被膜付き物品は、実施態様に基づく耐プラズマ性被膜で被覆された基体を含む。
【0035】
いくつかの事例では、基体は任意の1種の金属、金属合金、石英、半導体、及び/又はセラミックであってよい。
【0036】
1実施態様では、被膜付き物品は、プラズマ処理設備と一緒に使用され且つプラズマに暴露される表面を有する構成部分として形成されている。前記構成部分は、シャワーヘッド、前記シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び容器から成る群から選択された物品として形成することができる。
【0037】
さらなる態様では、独立請求項21に定義されたものに基づく、実施態様に基づく被膜付き物品及び/又は耐プラズマ性被膜で被覆された基体の、プラズマ支援型処理装置の処理チャンバ内での使用が提供される。
【0038】
さらなる態様では、独立請求項22に定義されたものに基づく、プラズマ処理時のプラズマの侵食及び腐食に対する基体の耐性を改善する方法が提供される。
【発明の効果】
【0039】
本発明の有用性は、本発明のそれぞれの具体的な実施態様に応じて、種々の理由から生じる。全体的に見れば、本発明は、アルミナ層をALD堆積するための既存の十分に確立された技術を用いて、単にすべてのタイプのプラズマ腐食に対して耐性を有する被膜を製造する方法を提供する。
【0040】
いくつかの実施態様に基づくAl-Y及びZrO-Y混合膜被膜を用いたプラズマ・エッチング試験は、イットリウムの含量が約4~20原子パーセント(at.%)の混合膜被膜が、純粋Yと同様の、ハロゲン及び酸素のプラズマに対する耐性をもたらすことを実証した。しかしながら、混合酸化物被膜は上述の吸水問題には直面しない。このことは、多結晶Y相の形成が別の非類似の酸化物化合物によって妨害されるという事実によって説明し得る。すなわち、Al(又はZrO2、又は任意の非ランタニド酸化物)は、イットリア相の形成を防止し、こうして吸湿バルクの問題を解決する。
【0041】
提案された方法は、純粋な酸化イットリウム膜の堆積のために必要なプロセスと比較して、著しく短時間で均一な均質被膜を製造するのを可能にする(試験は、堆積時間全体が約17分の1になることを実証した)。このことは短縮されたパージ時間によって説明される(典型的なY堆積は、水の後に不活性流体による長時間のパージを必要とする)。同時に、開示された方法に基づいて堆積された被膜は、純粋な酸化イットリウムと同様のプラズマ障壁特性を有する。
【0042】
他方において、提案された方法は、アルミナ膜の堆積のために開発されたものと同じプリカーサー化合物、及び本質的に同じ条件を活用する。しかしながら、ここで製造される固形膜の混合される性質と、固形膜内のイットリア成分の存在とに起因して、提案された方法によって堆積された被膜は、従来のアルミナ膜と比較して約85%薄くすることができ、しかも依然として同じ耐プラズマ性を維持することができる。堆積時間が短くなるほど、プロセスは同じ期間でより多くの試料を被覆することができ、ひいては製造関連の品質を維持しながら、プロセスに関連するコストを削減し得る。
【0043】
ALD法によって堆積された堆積層は、固有欠陥がより少なく、そして完全にコンフォーマルである。このことは、提案された技術を、複雑な3D形状を有する異形物品を被覆するのに極めて適したものにする。ここで提案された方法は、例えばハロゲン、酸素、及びアルゴンのプラズマに対する保護被膜層によって、異形基体、例えばシャワーヘッド及びシャワーヘッドのためのディフューザから、耐腐食性物品を製造することを可能にする。
【0044】
方法はさらに、プラズマに典型的に暴露される構成部分の動作寿命(構成部分がメンテナンス前に動作している時間)を長くすることを可能にする。
【0045】
本開示において、1マイクロメートル(μm)未満の層厚を有する材料は、「薄膜(thin films)」と呼ばれる。
【0046】
「反応性流体」及び/又は「プリカーサー流体」という表現は、本開示では、不活性キャリア中の少なくとも1種の化合物(プリカーサー化合物)(以後プリカーサー)を含む流体流を示す。
【0047】
「いくつかの(a number of)」という用語は、本明細書中では1から出発して例えば1、2、又は3までの任意の正の整数を意味するのに対して、「複数の(a plurality of)」という用語は、本明細書中では2から出発して例えば2、3、又は4までの任意の正の整数を意味する。
【0048】
「第1」及び「第2」という表現はいかなる順番、量、又は重要性をも意味しようとするものではなく、別段の明示がない限り、1つのエレメントを別のエレメントから区別するだけのために使用される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1図1は、1実施態様に基づいて製造された被膜10を有する基体20を示す概略図である。
図2図2A及び2Bは、別の実施態様に基づいて製造された被膜10を有する基体20を示す概略図であり、図2Aは、被膜10Aのための堆積スタックの形成を示す概略図である。
図3図3A及び3Bは、実施態様に基づく、被膜10の試験結果(膜組成)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図1、2A及び2Bは、実施態様に基づいて製造された耐プラズマ性被膜(以後、被膜)をそれぞれ符号10及び10Aで示している。
【0051】
「耐プラズマ性(plasma resistant)」という用語は、プラズマ処理装置の処理チャンバ内で生成されたプラズマ処理条件に暴露されたときのように、プラズマと頻繁に接触する基体材料の劣化と一般にみなされる侵食及び/又は腐食に対する耐性をここでは意味する。
【0052】
被膜10,10Aは有利には、プラズマ処理条件においてプラズマ腐食に少なくとも部分的に暴露された基体のために構成されている。このような基体は、プラズマ処理設備内に使用される通常のハードウェア構成部分、例えばプラズマ・エッチング装置、プラズマ増強型化学蒸着(PECVD)又はプラズマ支援型物理蒸着(PVD)のための反応器を含む。
【0053】
典型的なハードウェア構成部分の一例としては、シャワーヘッド、シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び種々の容器が挙げられる。
【0054】
プラズマによって引き起こされる材料の劣化を防止するために、新たに開発された被膜10,10Aで基体20を保護することが提案される(図1,2B)。被膜は少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜11を含み、又は混合膜11から成り、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、具体的には酸化イットリウムである。いくつかの形態において、混合膜を形成する別の化合物は、酸化イットリウムとは異なる金属酸化物である。
【0055】
いくつかの事例では、被膜は多層積層構造(10A)として実現され、多層積層構造内では、混合膜から成る堆積層が、金属ハロゲン化物、好ましくは金属フッ化物から成る堆積層と交互に位置する。前記積層構造内では、イットリウム含有混合膜が、純粋な金属フッ化物で形成された膜と交互に位置する。「純粋(pure)」という用語は、化合物、ここでは金属フッ化物が混合物の一部を形成しないという意味でここでは使用される。いくつかの事例では、積層構造10Aは、金属ハロゲン化物、好ましくは金属フッ化物から成る最も上側の堆積層でカバーされた混合膜を含む。
【0056】
堆積層は、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して基体上に形成される。
【0057】
ALD成長メカニズムの基本は当業者に知られている。ALDは連続的な自己飽和表面反応によって基体表面上に材料を堆積するために、少なくとも2種の反応性プリカーサー種を、反応容器内に配置された少なくとも1つの基体へ、一時的に分離された状態で導入することに基づいた化学堆積法である。しかしながら、例えばフォトン増強型ALD又はプラズマ増強型ALD、例えばPEALDを用いると、これらの反応性プリカーサーの1つをエネルギーによって置換することができ、これは単一プリカーサーALDプロセスにつながることを理解するべきである。例えば、純粋元素、例えば金属の堆積はただ1つのプリカーサーを必要とする。プリカーサー化学物質が堆積されるべき二元材料の元素の両方を含有すると、二元化合物、例えば酸化物を1種のプリカーサー化学物質で形成することができる。ALDによって成長させられた薄膜は緻密であり、固有欠陥がより少なく、そして均一な厚さを有する。
【0058】
実施全体に関しては、堆積設定は、フィンランド国Picosun Oyから入手可能なPICOSUN(登録商標)P-300B ALDシステム又はPICOSUN(登録商標)P-1000 ALDシステムとして商標登録されたALD設備に基づくものであってよい。とは言え、本発明の概念の根底を成す特徴は、例えばALD、MLD、又はCVDデバイス、又はこれらの任意のサブタイプ、例えばフォトン増強型原子層堆積(フォトALD又はフラッシュ増強型ALDとしても知られる)として具体化された任意の他の化学堆積反応器内へ組み込むことができる。
【0059】
例示的なALD反応器は、反応空間(堆積空間)を確立する反応チャンバを含む。この反応空間内では、本明細書に記載されるナノ積層被膜の製造が行われる。反応器は、流体流(プリカーサー化合物P1,P2を含有する不活性流体及び反応性流体)を反応チャンバ内へ媒介するように形成されたいくつかの器具をさらに含む。これらの器具は、例えばいくつかの取り込みライン/供給ライン、及び関連の切り換え及び/又は調整デバイス、例えば弁として提供される。
【0060】
基本的なALD堆積サイクルは、4つの連続ステップ、すなわちパルスA、パージA、パルスB、及びパージBから成る。パルスA及びBの期間中に反応チャンバに入る反応性流体は、好ましくは不活性キャリア(ガス)によって運ばれた所定のプリカーサー化学物質(P1,P2)を含む気体状物質である。反応空間内へのプリカーサー化学物質の送達、及び基体上の膜成長は、前記の調整器具、例えば三方向ALD弁、質量流コントローラ、又はこの目的に適した任意の他のデバイスによって調整される。
【0061】
上記堆積サイクルは、堆積シーケンスが所期厚の薄膜又は被膜を製造するまで繰り返すことができる。堆積サイクルはより単純又はより複雑であってもよい。例えば、サイクルは、パージ工程によって分離された3つ又はそれより多い反応物質蒸気パルスを含むことができ、いくつかのパージ工程は省略できる。他方において、フォト増強型ALDは、種々のパージ選択肢とともに、ただ1つの活性プリカーサーのような種々の選択肢を有している。これらすべての堆積サイクルは、論理ユニット又はマイクロプロセッサによって制御されるタイミング型堆積シーケンスを形成する。
【0062】
本発明の方法では、耐プラズマ性被膜10,10Aは、非特異的な巨視的な且つ/又は異形の3Dオブジェクトを含む任意の種類の基体20上に、150~350℃の範囲内の堆積温度、具体的には約300℃で、大規模ALD反応チャンバ内で均一に被着することができる。大規模ALDツールの一例は、Picosun(登録商標)のP-1000 ALDバッチシステムである。このシステムは最大断面470mm×470mm(正方形として)、最大直径600mm(円形として)、及び最大高さ700mmの反応チャンバを有する。
【0063】
本開示において論じられた方法はこのように、均一なイットリウム含有耐プラズマ性被膜を、大型ALDチャンバ内で基体上に堆積するのを可能にする。
【0064】
混合膜11から成る被膜10を示す図1を参照すると、混合膜11は複数の堆積シーケンス(S1,S2,S3…S)、例えばALD堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含む。混合膜を製造することを目的とする堆積シーケンスでは、第2化合物はイットリウム化合物である。
【0065】
いくつかの形態では、混合膜11はこのように、第1化合物と第2化合物との混合物から成っており、混合物では、第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである。
【0066】
いくつかの他の形態では、前記第1化合物は、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化ニオブ(IV)(NbO)、酸化ハフニウム(IV)(HfO)、又は酸化タンタル(V)(Ta)として提供される。任意の他の適宜の化合物、例えば非ランタニド酸化物は排除されない。
【0067】
1形態において、被膜10を形成する混合膜11は、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)(xは>1である)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る。
【0068】
「固溶体(solid solution)」という表現は、本開示においては「混合膜(mixture film)」という表現と相互置き換え可能に利用される。これは、固形媒体中に完全且つ均一に分散された第2成分を有する均質固相で存在する、(ナノ)材料の混合層を示すために使用される。いくつかの文献元によれば、固溶体中の成分の1種は、「ホスト」(溶液中の溶媒に相当)として作用し、そして他の成分は「ゲスト」(溶液中の溶解された物質に相当)の役割を担う。その種類の固溶体の試験データ(例えばX線スペクトル)は典型的には、純粋「ホスト」成分のデータに適合すると予想される。
【0069】
この例では、「ホスト」成分は第1化合物、ここでは非イットリウム金属酸化物(例えばAl)であるのに対して、酸化イットリウム(Y)は「ゲスト」(第2化合物)として作用する。堆積プロセス中に模範的固溶体/混合膜11を発生させるためには、下記堆積シーケンスが採用される。最初に、第1プリカーサーとして使用されるトリメチルアルミニウム(TMA,Al(CH)と、第2プリカーサーとして使用される水とから、Alがいくつかの堆積サイクルで堆積される。
【0070】
同じ堆積シーケンスは、例えばイットリウム・プリカーサー(第1プリカーサー)と水(第2プリカーサー)とからの酸化イットリウムを、1つの堆積サイクルで堆積することにより継続する。このことは「Y」のサブ単層を形成する(識別可能なY層又は粒子が「ホスト」物質内に存在しないので括弧に入れる)。
【0071】
堆積プロセスは次の堆積シーケンスによって継続する。Alの堆積に続いて、Yを堆積する。このようにすると、「Y」は固形媒体(Al又は他の適宜の「ホスト」化合物)中に完全かつ均一に分散され、これにより酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体を産出する。本開示において、酸化イットリウムアルミニウムの前記固溶体はAl-Yとも表される。
【0072】
他の適宜のプリカーサーの使用が排除されることはない。例えば、ジルコニア(ZrO)が第1化合物として使用される場合には、これは、テトラキス(エチルメチル-アミノ)ジルコニウム(TEMAZr)及びHOのプリカーサーを使用して堆積されてよい。
【0073】
薄いALD被膜は概ね非晶質であり(結晶性でない)、したがってここで形成された混合膜11は、ドープ型半導体又は秩序のある結晶性材料とは異なり、むしろ「溶体」と記されるべきである。
【0074】
混同を避けるために念のために述べておくが、図1及び2に破線で示された各堆積シーケンス(S1,S2,S3…S)によって製造された「層」間の境界は、単に例示を目的として役立つように意図される。実際には、混合膜層11は、上記のように均一な均質材料層として堆積される。
【0075】
堆積シーケンスにおける、第1化合物(例えばAl)を堆積するための堆積サイクルの数と、第2化合物(例えばY)を堆積するための堆積サイクルの数との関係は、それぞれ2~10:1である。いくつかの事例では、第1化合物は(堆積シーケンス:S1,S2,S3…S当たり)2~7サイクルで堆積することができる。しかしながら、第2(「ゲスト」)化合物は、堆積シーケンス当たり1サイクルで堆積される。
【0076】
したがって、混合膜11内のイットリウムの含量は、約4原子パーセント(at.%)~約20原子パーセント(at.%)の範囲内にある。いくつかの事例では、混合膜11内の総イットリウム含量は典型的には5~20at.%の範囲内にある。
【実施例
【0077】
混合膜11として提供される被膜10を製造するための模範的プロセスが実施例1に提示される。こうして形成された混合膜11は、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体である。
【0078】
実施例1 混合膜Al2-x(固溶体)として提供される被膜10の形成:
1. 第1化合物(Al)の形成:
1a. 第1化合物を形成するために第1プリカーサー(例えばTMA)をパルスし、
1b. 第1化合物を形成するために第2プリカーサー(HO又はO)をパルスする。
(総堆積サイクル数2~10を達成するために)1a及び1bを1~9回繰り返す。
2. 第2化合物(Y)の形成:
2a. 第2化合物を形成するために第1プリカーサーをパルスし(任意の適宜のY-プリカーサー、例えばトリス(メチルシクロペンタ-ジエチル)イットリウム(III)/Y(MeCp))、
2b. 第2化合物を形成するために第2プリカーサー(例えばHO)をパルスする。
第1堆積シーケンスの終わり。
堆積シーケンス(工程1(1a-1b)及び2(2a-2b))を所定の回数だけ繰り返すことにより、所期厚の混合膜11(被膜10とも言う)を生成する。
一例としては、約180nm~約9,900nmの範囲内の深さ/厚さを有する被膜を堆積するために、工程1及び2を1000~10,000回繰り返すことができる。
【0079】
いくつかの具体例では、混合膜11を製造するための堆積シーケンスは(第1化合物、ここではAlを製造するための)3つのTMA-HO堆積サイクルと、(第2化合物、ここではYを製造するための)1つのY(MeCp)-HOサイクルとを含む。この例では、混合膜11内の総イットリウム含量は約10at.%の範囲内にある。
【0080】
全体的に見れば、イットリウム化合物が、堆積シーケンス当たり1サイクルで(例えば1つのY-プリカーサー・HOサイクルとも言われる)堆積されることを我々は強調する。
【0081】
好適なY-プリカーサーの一例としては、Y(thd)(イットリウム(III)トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート));Y(Cp)(トリス(シクロペンタジエニル)イットリウム(III));Y(EtCp)(トリス(エチルシクロペンタジエニルエチルシクロペンタジエニル)イットリウム(III));Y(iPrCp)(トリス(i-プロピルシクロペンタジエニル)イットリウム(III));Y(n-BuCp)(トリス(n-ブチルシクロペンタジエニル)イットリウム(III));Y(s-BuCp)(トリス(s-ブチルシクロペンタジエニル)イットリウム(III));Y(EDMDD)(トリス(6-エチル-2,2-ジメチル-3,5-デカンジオネート)イットリウム);ARYA(登録商標)、YERBA(登録商標)(後者の2つはAir Liquideから入手可能である)が挙げられる。
【0082】
上記のように堆積された被膜10は典型的には、約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約300nmの範囲内の厚さを有している。いくつかの具体例において、被膜10は、厚さ約20~100nmで形成することができる。
【0083】
さらに、ここに利用されるALD技術は、1000nmを超える厚さ、例えば最大2又は3マイクロメートル(mm)、又は最大10マイクロメートルの厚さを有する被膜10の堆積を可能にする。
【0084】
混合膜11から成る耐プラズマ性被膜10は、両方ともPicosun(登録商標)のALDシステムP-300B及びP-1000を使用して堆積された。(純粋)Yから成る従来の被膜と比較して、被膜10(P-300B)が、耐プラズマ腐食性を最も維持することを、追跡試験は実証した。したがって、約20原子%のイットリウムを含有する混合膜11(及び前記膜から形成された被膜10)は、従来のY膜と同様の、プラズマに対する、例えばフッ素又は酸素のプラズマに対する耐腐食性(絶対的には80%、そしてアルミナ膜と比較すると約85%)を有し、そして同様の厚さのアルミナ(Al)膜と比較して、著しく高い耐腐食性を有する。
【0085】
混合膜11内のイットリウムの全含量を約4~20原子パーセントの範囲内に維持すると、既存の堅牢なALDプロセスに基づいて(すなわち、例えばアルミナ膜がTMA-HOから堆積されるのと同様に)、被膜10を製造することができる。
【0086】
図3A及び3Bは、(300℃でP-300B上で堆積された)被膜10の組成に関連する試験結果を示している。観察された膜組成は予想と合致し、膜を通して一貫していた(飛行時間型弾性反跳検出分析(Time-of-Flight Elastic Recoil Detection Analysis)(ToF ERDA)の分析結果を示す下記表1及び図3A参照)。不純物レベルは極めて低かった。
【表1】
【0087】
X線反射率(XRR)測定によれば、被膜10は3.45±0.05cmの密度と、0.74±0.01nmの粗さとを有した。
【0088】
固溶体被膜10の、633nm波長で測定された屈折率(n)から、膜組成を正確に推定することができる(図3B)。組成は堆積ツールに依存しない。結果を下記表2に要約した(図3Bも参照)。
【表2】
【0089】
表2及び図3Bを参照すると、試験モデルは線形フィットであり、ここではn値はYサイクル比に対してプロットされている。勾配及び交差は、被膜10を形成する固溶体(混合膜11)のイットリウム含量を推定することを可能にした。このことはToF-ERDA測定によって後で裏付けられた。
【0090】
大規模ALDシステムP-1000を使用して堆積された被膜10に対して、平らな表面上、及び異形3D物体上の被膜不均一性を試験した。プロセスが良好に規模拡大し、そしてALDツールP-1000として寸法設定された反応チャンバ内の大型基体上で、固有欠陥がより少ない均一な被膜を堆積することが見出された。試験において、堆積温度は300℃、非イットリウムのパルス継続時間は0.5s、そしてパージ継続時間は30~40sであった。
【0091】
全体的に見れば、TMA及び水のプリカーサーを使用した十分に確立されたプロセスを介して、混合膜11(固溶体Al2-x)を形成し得る(イットリウム化合物の堆積のためには堆積シーケンス当たり1サイクルのみが必要とされる)ことが実証された。重要な発見の1つは、混合膜によって所有される耐腐食性が、そのY含量と線形に相関しないことである。したがって、純粋Yのエッチング速度が1である場合、混合膜11で形成された被膜10のエッチング速度はその速度の1.5~2倍であり、これに対して純粋Alは(純粋)Yのエッチング速度の10xを示す。さらに、純粋イットリアから形成された被膜と比較して、混合膜10は均一であり、そしてその堆積は著しく速い。
【0092】
同時に、被膜10の耐プラズマ性は、コンベンショナルなアルミナ膜のそれよりも約5倍高かった。上述の障壁特性を有する被膜10は、いくつかの堆積シーケンスで堆積された。各堆積シーケンスは(Alを製造するための)3つのTMA-HO堆積サイクルと、(Yを製造するための)1つのY-プリカーサー-HOサイクルとを含んだ。したがって、同じ腐食防止特性を提供するために、アルミナ被膜と比較して著しく薄い被膜(10)を使用することができる。
【0093】
換言すれば、混合被膜10は、純粋イットリアから成る被膜と同様の、プラズマ、具体的にはフッ素プラズマに対する耐性(及び純粋アルミナ被膜と比較して約5倍良好な耐性)を有する。同時に、混合被膜(10)は、Alの堆積のために用いられるもののような、十分に確立された技術で堆積することができる。
【0094】
別の実施態様に基づく耐プラズマ性被膜の形成を示す図2A及び2Bが参照される。被膜10A(図2A,2B)を堆積するために、上で概して論じられ実施例1において提示された方法は、イットリウム含有混合膜11から成る堆積層の上に、付加的な堆積層12が堆積される仕方で、さらに拡大適用される。付加的な堆積層12は好ましくは金属フッ化物から成る。
【0095】
金属フッ化物中の金属成分は少なくとも以下の化学元素、すなわちイットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)によって形成される。
【0096】
金属フッ化物化合物の一例としては、フッ化イットリウム(III)(YF)、フッ化ランタン(III)(LaF)、フッ化ストロンチウム(II)(SrF)、フッ化ジルコニウム(IV)(ZrF)、フッ化マグネシウム(II)(MgF)、フッ化ハフニウム(IV)(HfF)、フッ化テルビウム(III)(TbF)、及びフッ化カルシウム(II)(CaF)が挙げられる。いかなる他の適宜の化合物をも利用することができる。好ましい化合物はLaF及びYFを含み、YFは最も好ましい。したがって、いくつかの特定の形態では、付加的な堆積層12はフッ化イットリウム(III)(YF)から成る。
【0097】
前記付加的な堆積層を形成する金属フッ化物は、前記化合物が混合物の一部を形成しないという意味において「純粋」とさらに呼ばれる。
【0098】
いくつかの他の事例では、付加的な堆積層は、金属フッ化物とは異なる金属ハロゲン化物、例えば金属塩化物(例えば塩化イットリウム)から成ってよい。
【0099】
図2Aは、混合膜11の上側に付加的な堆積層12を形成することを示している。前記付加的な堆積層12は、上記混合膜11(実施例1)の上に単一の最上層として堆積することができる。
【0100】
堆積プロセスは、所期厚の積層被膜を製造するために、混合膜11と、(図2Aに示された)金属フッ化物から成る付加的な堆積層12とを堆積する工程が、(n)回繰り返される仕方で継続する。図2Bは、交互の層11及び12を含む積層被膜10Aを示している。
【0101】
被膜10Aはこのように、「スタック」を形成するために互いの上側に配置された複数の堆積層(n回繰り返される層11,12参照)を含んでよい。層11,12は(図2Aに示された形式で)「サブスタック」を形成する。明確にするために念のために述べておくが、前記サブスタックの総数(n)及び堆積層の総数はそれぞれ、層の組成、被覆されるべき基体、基体の適用分野に応じて変化し得る。一例としては、「サブスタック」の総数は2~100の範囲内で変化してよい。大抵の事例では、nは5~20の範囲内で変化する。
【0102】
n回繰り返されるいくつかの「サブスタック」11,12を含む積層被膜10Aを製造するための模範的プロセスが、実施例2に提示される。この実施例では、堆積層11は、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の混合膜(固溶体)であり、そして堆積層12は金属フッ化物である。
【0103】
実施例2 積層被膜10Aの形成:
I. 堆積層11の形成
1. 第1化合物(Al)の形成:
1a. 第1化合物を形成するために第1プリカーサー(例えばTMA)をパルスし、
1b. 第1化合物を形成するために第2プリカーサー(HO又はO)をパルスする。
(総堆積サイクル数2~10を達成するために)1a及び1bを1~9回繰り返す。
2. 第2化合物(Y)の形成:
2a. 第2化合物を形成するために第1プリカーサーをパルスし(任意の適宜のY-プリカーサー、例えばトリス(メチルシクロペンタ-ジエニル)イットリウム(III)/Y(MeCp))、
2b. 第2化合物を形成するために第2プリカーサー(例えばHO)をパルスする。
第1堆積シーケンスの終わり。
堆積シーケンス(工程1(1a-1b)及び2(2a-2b))を所定の回数だけ繰り返すことにより、所期厚の混合膜11を生成する。一例としては、20nm~100nmの深さ/厚さを有する被膜を堆積するために、工程1及び2を200~500回繰り返すことができる。
II. 堆積層12の形成
3. 金属フッ化物(ここではフッ化イットリウム、YF)から成る付加的な堆積層の形成:
3a. 堆積層12を形成するために第1プリカーサーをパルスし(任意の適宜のY-プリカーサー、例えばY(hfac)EME);
3b. 堆積層12を形成するために第2プリカーサー(例えばO)をパルスする。
3a及び3bを100~600回繰り返す。
【0104】
工程I及びIIを所定の回数(n)だけ繰り返すことにより、交互の層11及び12を含む積層被膜10Aの目標厚に達することができる。
【0105】
所期厚の混合膜11を製造するために工程Iを所定の回数だけ繰り返し、これに続いて工程IIに基づいて最も上側の堆積層12を形成することによって、実施例2の堆積プロセスを行うことができる。混合膜11と、金属フッ化物から成る付加的な堆積層12とを含有する積層構造10Aはこうして形成される。
【0106】
使用される金属フッ化物がフッ化イットリウムである場合、フッ化イットリウムの堆積は種々異なるプリカーサーによって、例えばY(thd)-TiF4(P1-P2)の組み合わせ、又は混合膜11(及び被膜10)の堆積に関連して示唆されたY-プリカーサーを含む任意の他の適宜の化合物によって達成することができる。
【0107】
積層被膜10Aの場合には、プロセス段I及びII(それぞれ工程2a及び3a)がそれぞれ異なるイットリウム・プリカーサー(Y(MeCp)及びY(hfac)EME)を利用することが好ましい場合がある。しかしながら、プロセス全体を通して同じY-プリカーサーを利用することは排除されない。
【0108】
被膜10Aにおいて、複数の堆積層で形成されたスタックの厚さは約10nm~約1000nmの範囲内にあり、したがって、ここに提示された積層構造は「ナノ積層体」とも呼ばれる。被膜10Aに関して、「構造」(ナノ積層構造)という表現と、「スタック」(ナノ積層スタック)という表現とは、本開示において相互に置き換え可能に使用される。厚さが10nm~1000nmの範囲内、好ましくは50nm~500nmの範囲内、さらに好ましくは100~300nmの範囲内にあるナノ積層スタックを製造することができる。堆積されたナノ積層構造10Aの最も典型的な、そしていくつかの事例では好ましい範囲は、50~300nm、つまり50nm、100nm、150nm、200nm、250nm、及び300nmを含む。
【0109】
積層構造10Aにおいて、(被膜10を形成する)混合膜から成る堆積層11は、典型的には20~100nmの厚さを有する。
【0110】
さらに、ここで利用されるALD技術は、所定の回数(n)で工程I及びII(実施例2)を繰り返すことにより、1000nmを超える厚さ(最大約2~3マイクロメートル又は最大10マイクロメートル)を有する積層構造10Aを製造するのを可能にする。
【0111】
実際に、工程I及びII(実施例2)を5~20回繰り返すことにより、厚さが250nm~最大10,000nmの範囲内にある積層被膜を製造することができる。
【0112】
図2Bを参照すると、個々の堆積層(11),(12)は、いくつかの堆積サイクル数で形成される(上記例のあらゆるものの通り、基本的な順序はP1-パージ-P2-パージである)。
【0113】
被膜10,10Aのいずれか1つを製造するためのプロセスは、処理及び後処理の工程をさらに含んでよい。したがって、プロセスは、基体20を得、そして関連する化学堆積装置の反応/処理チャンバ内へ、例えばALD装置の処理チャンバ内へ基体を入れることをさらに含んでよい。チャンバ及び基体を150~325℃までさらに加熱することにより、チャンバを安定化させる。任意には、基体を前処理することにより、その表面をさらなる堆積のために調製する。すなわち基体を適宜のガスで現場で処理することができ、且つ/又は付加的なALD層を基体上に堆積することにより、例えば被膜10,10Aの付着性を改善することができる。被膜10,10Aを堆積した後、基体を好ましくは真空中、不活性雰囲気中、又は周囲空気中で冷やしておく。
【0114】
とは言え、シリコンでない(例えば金属)基体上に固溶体膜10として提供される被膜10を堆積する場合には、被膜10が付着するための前記基体の前処理は必要とされない。シリコン(Si)基体及び金属(ステンレス鋼)基体上に、被膜10がAl-Yの固形混合膜として提供されることを伴ういくつかの試験を実施した。被膜10の総厚は300nmであった。規格ISO 2409:2013(塗料及びワニス-クロスカット試験(Paints and varnishes-Cross-cut test))に基づいて、基体からの分離に対する被膜の耐性を評価した。被験試料は、1)10で被覆されたSi基体、前処理なし、2)10で被覆されたSS基体、前処理なし、3)O(30分)で前処理され、10で被覆されたSS基体、4)10で被覆され、洗浄処置*を施されたSS基体、5)O(30分)で前処理され、10で被覆され、そして洗浄処置*を施されたSS基体、を含んだ。
【0115】
*洗浄処置は下記工程、すなわち1)超音波で5分間にわたってRTでイソプロピルアルコール(IPA)、2)超音波で5分間にわたってRTで脱イオン水、3)工程1及び2を繰り返し、4)窒素ガス(N)で乾燥させる、工程を含んだ。
【0116】
すべての被験試料(1~5)において、被膜10は、いかなる前処理も存在しないステンレス鋼基体を含む基体に対する十分な接着性(クラス0)を示した。
【0117】
両被膜10,10Aは傑出した腐食防止特性をもたらす。例えば、固形混合物(Al-Y)膜として提供される被膜10は、Y膜の耐腐食性のほとんどを有する。積層構造10Aは、腐食防止特性を増強し、ひいては付加的な保護を基体に提供するように役立ち得る。
【0118】
被膜10,10Aは、フィンランド国Picosun OyのPicoArmour(登録商標)として商標登録されている。
【0119】
本発明はさらに、実施態様に基づく耐プラズマ性被膜10,10Aで被覆された基体20を含む被膜付き物品に関する。被膜付き物品は有利には、その表面の少なくとも一部の上に堆積された被膜10,10Aを有するハードウェア構成部分として形成される。
【0120】
構成部分は、化学堆積法によって被覆するのに適した三次元物品として形成することができる。本発明の概念は本質的に平らな、偏平な基体上での被膜の製造、そして高いアスペクト比のフィーチャ、例えば凹部及び/又は穿孔(一般にプロファイル(profiles)と呼ばれる)を含有する異形基体上での被膜の製造にも等しく適用可能である。前記異形基体は、穿孔付き基体、パターン化表面を有する基体、又は穿孔とパターン化表面との組み合わせを有する基体として形成することができる。プロファイルは不連続な状態で(例えば不連続な個別のアパーチャ/穴の形で)、又は連続的な状態で、例えば溝、チャネル(スルーカット・チャネル(through-cut channels)を含む)、トレンチ、及びこれに類するものの形で形成することができる。
【0121】
構成部分は典型的には、プラズマ処理設備と一緒に使用され、そしてプラズマに暴露される表面を有する。したがって、いくつかの事例では、構成部分は、シャワーヘッド、シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び種々の容器から成る群から選択される。
【0122】
1態様では、実施態様に基づく被膜付き物品、及び/又は耐プラズマ性被膜10,10Aで被覆された基体20の、プラズマ支援型処理装置の処理チャンバ内での使用が提供される。装置は、プラズマ・エッチング装置、プラズマ増強型化学蒸着装置、又はプラズマ支援型物理蒸着装置として形成することができる。装置は、ハロゲンプラズマ(例えばフッ素プラズマ、塩素プラズマ)、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ、及びこれに類するものを発生させるように形成することができる。
【0123】
別の態様では、プラズマ処理時のプラズマの侵食及び腐食に対する基体の耐性を改善する方法が提供される。この方法は、基体を得、そして前記基体を反応チャンバ内へ受容し、これに続いて、第1組成物を有する堆積層が第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように複数の堆積層を、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して堆積することにより、基体表面の少なくとも一部の上へ耐プラズマ性のイットリウム含有被膜を形成することを含む。この方法において、前記第1組成物を有する前記堆積層が、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜(11)であり、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムであるのに対して、前記第2組成物を有する前記堆積層(12)が金属フッ化物から成る。
【0124】
いくつかの形態では、前記第1組成物を有する堆積層が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成る混合膜11であり、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つ、又は任意の非ランタニド酸化物であり、これに対して前記第2組成物を有する前記堆積層12が、金属フッ化物、具体的にはフッ化イットリウム(III)(YF)から成る。
【0125】
当業者には明らかなように、技術の進歩に伴って、本発明の基本理念が種々の方法で実行され組み合わされてよい。本発明及びその実施態様はこのように上記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲の中で全体的に変化してよい。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0125
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0125】
当業者には明らかなように、技術の進歩に伴って、本発明の基本理念が種々の方法で実行され組み合わされてよい。本発明及びその実施態様はこのように上記実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲の中で全体的に変化してよい。
本開示は更に以下の態様を含んでいる:
《態様1》
耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法であって、前記方法は、
基体を得ること、及び
前記基体の少なくとも一部の上へ、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、耐プラズマ性被膜を堆積すること、
を含み、
前記耐プラズマ性被膜は、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含み、前記化合物の1種は、イットリウム化合物、具体的には酸化イットリウムである、
方法。
《態様2》
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、態様1に記載の方法。
《態様3》
前記堆積シーケンスの、前記第1化合物を堆積するための堆積サイクルの数と、前記第2化合物を堆積するための堆積サイクルの数との関係は、それぞれ2~10:1である、態様1又は2に記載の方法。
《態様4》
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y )であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al )及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO )のいずれか1つである、態様1から3のいずれか一つに記載の方法。
《態様5》
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al 2-x )の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al )と酸化イットリウム(III)(Y )との混合物から成る、態様1から4のいずれか一つに記載の方法。
《態様6》
前記混合膜から成る堆積層の上に、金属フッ化物から成る付加的な堆積層を堆積する
ことをさらに含む、態様1から5のいずれか一つに記載の方法。
《態様7》
前記混合膜と、金属フッ化物から成る付加的な堆積層とを堆積する工程が、所期厚の積層被膜を生成するために、(n)回繰り返される、態様6に記載の方法。
《態様8》
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、態様6又は7に記載の方法。
《態様9》
少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含む耐プラズマ性被膜であって、前記化合物の1種がイットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムである、耐プラズマ性被膜。
《態様10》
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで、具体的には2~10の堆積サイクルで、第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、態様9に記載の被膜。
《態様11》
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y )であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al )及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO )のいずれか1つである、態様9又は10に記載の被膜。
《態様12》
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al 2-x )の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al )と酸化イットリウム(III)(Y )との混合物から成る、態様9から11のいずれか一つに記載の被膜。
《態様13》
混合膜中のイットリウムの含有率が、約4原子パーセント~約20原子パーセントの範囲内にある、態様9から12のいずれか一つに記載の被膜。
《態様14》
金属フッ化物から成る少なくとも1つの付加的な堆積層をさらに含む、態様9から13のいずれか一つに記載の被膜。
《態様15》
混合膜から成る複数の堆積層が、前記金属フッ化物から成る複数の堆積層と交互に位置する、態様9から14のいずれか一つに記載の被膜。
《態様16》
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、態様14又は15に記載の被膜。
《態様17》
約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約300nmの範囲内の厚さを有する、態様9から16のいずれか一つに記載の被膜。
《態様18》
態様9から17のいずれか一つに記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体を含む被膜付き物品。
《態様19》
プラズマ処理設備と一緒に使用され且つプラズマに暴露される表面を有する構成部分として形成された、態様18に記載の被膜付き物品。
《態様20》
シャワーヘッド、前記シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び容器から成る群から選択された構成部分として形成された、態様18又は19に記載の被膜付き物品。
《態様21》
態様18から20のいずれか一つに記載の被膜付き物品、及び/又は態様9から17のいずれか一つに記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体の、プラズマ支援型処理装置、例えばプラズマ・エッチング装置、プラズマ増強型化学蒸着装置、又はプラズマ支援型物理蒸着装置の処理チャンバ内での使用。
《態様22》
プラズマ処理時のプラズマの侵食及び腐食に対する基体の耐性を改善する方法であって、前記方法が、第1組成物を有する堆積層が第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように複数の堆積層を、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して堆積することにより、基体表面の少なくとも一部の上へイットリウム含有耐プラズマ性被膜を形成することを含み、前記第1組成物を有する前記堆積層が、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜であり、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が金属フッ化物から成る、方法。
《態様23》
前記第1組成物を有する堆積層が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成る混合膜であり、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y )であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al )及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO )のいずれか1つであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が、金属フッ化物、具体的にはフッ化イットリウム(III)(YF )から成る、態様22に記載の方法
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐プラズマ性被膜付き基体を製造する方法であって、前記方法は、
基体を得ること、及び
前記基体の少なくとも一部の上へ、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して、耐プラズマ性被膜を堆積すること、
を含み、
前記耐プラズマ性被膜は、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含み、前記化合物の1種は、イットリウム化合物、具体的には酸化イットリウムである、
方法。
【請求項2】
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記堆積シーケンスの、前記第1化合物を堆積するための堆積サイクルの数と、前記第2化合物を堆積するための堆積サイクルの数との関係は、それぞれ2~10:1である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記混合膜から成る堆積層の上に、金属フッ化物から成る付加的な堆積層を堆積する
ことをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記混合膜と、金属フッ化物から成る付加的な堆積層とを堆積する工程が、所期厚の積層被膜を生成するために、(n)回繰り返される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜を含む耐プラズマ性被膜であって、前記化合物の1種がイットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムである、耐プラズマ性被膜。
【請求項10】
前記混合膜が複数の堆積シーケンスで堆積され、それぞれの前記堆積シーケンスが、少なくとも2つの堆積サイクルで、具体的には2~10の堆積サイクルで、第1化合物を堆積し、これに続いて単一の堆積サイクルで第2化合物を堆積することを含み、前記第2化合物が前記イットリウム化合物である、請求項9に記載の被膜。
【請求項11】
前記混合膜が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成っており、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つである、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項12】
前記混合膜が、酸化イットリウムアルミニウム(Al2-x)の固溶体を産出するために、酸化アルミニウム(III)(Al)と酸化イットリウム(III)(Y)との混合物から成る、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項13】
混合膜中のイットリウムの含有率が、約4原子パーセント~約20原子パーセントの範囲内にある、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項14】
金属フッ化物から成る少なくとも1つの付加的な堆積層をさらに含む、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項15】
混合膜から成る複数の堆積層が、前記金属フッ化物から成る複数の堆積層と交互に位置する、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項16】
前記付加的な堆積層を構成する、前記金属フッ化物中の金属成分が、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、テルビウム(Tb)、及びカルシウム(Ca)から成る群から選択される、請求項14に記載の被膜。
【請求項17】
約10nm~約1000nmの範囲内、好ましくは約50nm~約300nmの範囲内の厚さを有する、請求項9又は10に記載の被膜。
【請求項18】
請求項9又は10に記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体を含む被膜付き物品。
【請求項19】
プラズマ処理設備と一緒に使用され且つプラズマに暴露される表面を有する構成部分として形成された、請求項18に記載の被膜付き物品。
【請求項20】
シャワーヘッド、前記シャワーヘッドのためのディフューザ、ペデスタル、試料ホルダ、弁、弁ブロック、ピン、マニホルド、パイプ、シリンダ、蓋、及び容器から成る群から選択された構成部分として形成された、請求項18に記載の被膜付き物品。
【請求項21】
請求項18に記載の被膜付き物品、及び/又は請求項9又は10に記載の耐プラズマ性被膜で被覆された基体の、プラズマ支援型処理装置、例えばプラズマ・エッチング装置、プラズマ増強型化学蒸着装置、又はプラズマ支援型物理蒸着装置の処理チャンバ内での使用。
【請求項22】
プラズマ処理時のプラズマの侵食及び腐食に対する基体の耐性を改善する方法であって、前記方法が、第1組成物を有する堆積層が第2組成物を有する堆積層と交互に位置するように複数の堆積層を、蒸気相の化学堆積プロセスを介して、好ましくは原子層堆積(ALD)を介して堆積することにより、基体表面の少なくとも一部の上へイットリウム含有耐プラズマ性被膜を形成することを含み、前記第1組成物を有する前記堆積層が、少なくとも2種の化合物の混合物から成る混合膜であり、前記化合物の1種が、イットリウム化合物、好ましくは酸化イットリウムであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が金属フッ化物から成る、方法。
【請求項23】
前記第1組成物を有する堆積層が、前記第1化合物と前記第2化合物との混合物から成る混合膜であり、前記混合物では、前記第2化合物が酸化イットリウム(III)(Y)であり、そして前記第1化合物が酸化イットリウムとは異なる金属酸化物、例えば酸化アルミニウム(III)(Al)及び酸化ジルコニウム(IV)(ZrO)のいずれか1つであり、そして前記第2組成物を有する前記堆積層が、金属フッ化物、具体的にはフッ化イットリウム(III)(YF)から成る、請求項22に記載の方法。
【国際調査報告】