(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】セール推進要素、セール推進式移動体
(51)【国際特許分類】
B63H 9/061 20200101AFI20240604BHJP
B63H 9/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B63H9/061
B63H9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023572782
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 FR2022051019
(87)【国際公開番号】W WO2022248813
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】エッシンガー オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】フラニエール ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ケッシー エデュアール
(72)【発明者】
【氏名】ド カルベルマッテン ローラン
(57)【要約】
本発明は、セール推進要素であって、マスト(3)と、実質的に流体密封された2つの隣接面(5)から本質的になる膨張式又は非膨張式セール(1)であって、上記2つの隣接面(5)が、周縁部に沿って共に接合されることで、これらの間に少なくとも1つの閉じたキャビティを形成し、上記セールが、上側部分(6)、下側部分(7)、リーディングエッジ(8)及びトレーリングエッジ(9)を備え、セールは、その全長に沿って膨らみを形成する様々なキャンバーを含む、セールと、セールのキャビティの内側と外側の間に配置された導管と、上記キャビティに空気を注入するための少なくとも1つの手段であって、上記セールは、膨張すると、上記推進要素の動き、又は風の方向又は強さに関係なく、恒久的に対称のままであるプロファイルを有する、手段と、セールの上側部分に配置されたヘッドボード(10)と、セールの下側部分でリーディングエッジとトレーリングエッジの間に配置されたセールレセプタクル(11)とを備える、セール推進要素に関する。本発明による要素は、マストがセールの空気力学的推進力の中心の前方に位置すること、マストが360°自由に回転する又は回転しないこと、並びにセールは、セールに僅かな圧力を維持する少なくとも1つの手段を備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セール推進要素であって、
a. マスト(3)と、
b. 周縁に沿って接合された実質的に流体密封された2つの隣接面(5)から本質的になり、前記2つの隣接面の間に少なくとも1つの閉鎖キャビティを形成する膨張可能なセール(1)であって、前記セールは、上側部分(6)、下側部分(7)、リーディングエッジ(8)及びトレーリングエッジ(9)を含み、前記セールは、全長に沿って膨らみを形成する様々なキャンバーを含む、膨張可能なセール(1)と、
c. 前記セールの前記キャビティの内側と外側の間に配置された少なくとも1つの空気導管と、
d. 前記キャビティに空気を注入する少なくとも1つの手段であって、膨張した前記セールは、前記推進要素の動き又は風の方向及び強さに関係なく、恒久的に対称のままであるプロファイルを有する、手段と、
e. 前記セール(1)の上側部分(6)に配置されたヘッドボード(10)と、
f. 前記セールの下側部分(7)の前記リーディングエッジ(8)と前記トレーリングエッジ(9)との間に配置されたセールレセプタクル(11)と、
を備えるセール推進要素において、
前記マストが、前記セールの空気力学的推進力の中心より前方に位置し、前記マストが、360°自由に回転する又はせず、前記セールが、前記セールに僅かな圧力を維持する少なくとも1つの手段を含む、ことを特徴とする、セール推進要素。
【請求項2】
前記セール(1)の空気力学的推進力の中心が、前記マスト(3)から0~10mの長さだけ離れている、請求項1に記載の要素。
【請求項3】
前記圧力を維持する手段が、前記相対風に面して配置された吸気開口である、請求項1に記載の要素。
【請求項4】
前記マストの回転の間、前記回転を妨げないデバイスを用いてエネルギー及びコマンドが伝達される、請求項1に記載の要素。
【請求項5】
前記回転を妨げないデバイスが、回転ジョイント又はケーブル軸受チェーンから選択される、請求項4に記載の要素。
【請求項6】
前記吸気開口が、可動閉鎖フラップを含む、請求項3に記載の要素。
【請求項7】
1又は2以上の部品からなる少なくとも1本のガイドラインが、前記セールのホイスト及びドロップ操作のために、前記セールの閉鎖キャビティに配置され、前記ガイドラインは、ヘッドボード及びセール受けを通って前記セールのリーディングエッジからトレーリングエッジまで延びる、請求項1~6の何れか1項に記載の要素。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の少なくとも1つの要素と、ハルと、前記ハルに固定されるが依然として回転自在なマスト(3)と、を備えたセール推進又はハイブリッド推進の移動体であって、前記マスト(3)が、前記膨張式セールのキャビティ内に配置されている、ことを特徴とする移動体。
【請求項9】
前記セール(1)は、風向きに従って及び手動又は自動の前記移動体の走行方向に従って配向される、ことを特徴とする、請求項7に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張式セールに関し、セール推進又はハイブリッドセール推進の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
以下で使用される幾つかの定義の備忘録について、以下で説明する。
リーフィング(Reefing): 風の強さに合わせてセールの表面積を適応させるように、セールを底面から一部を巻き上げることにより、セールの表面積を低減することからなる。リーフィングは手動又は自動に行うことができる。
リーフィングバンド(Reefing band):、例えばグロメット又はプーリーを用いて、リーフィング・ターニング・ブロックを取り付けることができる部分的に補強された水平ゾーン。セールの表面積をリーフする可能性と同数のリーフィングバンドがある。
レイジージャック(Lazy jacks):セールのリーフ及びドロップの動作を実行するためにセールをガイドするデバイス。
ブーム(Boom):マストのベース近くにある水平スパーであり、特定のセールの向きを保持及び許容する。ブームはまた、セールをドロップしたときにセールを受けることができる。
ラフィング(Luffing):ラフィングしているセールは、ホーリングが不十分で、従って、部分的に収縮している。十分にトリミングされたセールは、ラフィングの限界に達している必要がある。セールが適切に満たされていればラフィングは起こらず、風の近くをセーリングすることができる。
リーディングエッジ(Leading edge):流体が2つの流れに分かれる動的プロファイル(翼、プロペラなど)の前面部分。
トレーリングエッジ(Trailing edge):それぞれの側で流体(空気、水など)の流れに晒されるあらゆるプロファイル(ウィング、キール、ラダーブレードなど)の特徴的な部分。方向感覚とは反対の部分、すなわち、言い換えれば、流れの方向で見た場合の後方部分を指す。
ヘッドボード:膨張式セールの上側輪郭に共形のセールの上端。
ドロッピング(Dropping):セールを降下させることからなる。
ホイスト(Hoisting):セールを上昇させることからなる。
リギング(Rigging):セールボートタイプのボートの固定部分及び可動部分の集合体であって、風の力を利用してボートを推進及び操縦できるようにする。
セールレセプタクル(Sail receptacle):ドロップしたセールを受けるだけでなく、セールから供給される張力に反応すること、或いはセールの動作に使用される他のアクチュエータ、エネルギー貯蔵センサ、及びコントロールモジュールを収容するなど、他の機能を組み込むことができる。
流体力学的抗力(Hydrodynamic drag):ボートと水の間の摩擦力。抗力が大きいほどボートはより減速する。
空気力学的抗力(Aerodynamic drag):流体を通って移動する物体が受ける力のうち、移動方向と反対方向に作用する成分。本発明によれば、セールは空気力学的抗力を発生させる。
空気力学的揚力(Aerodynamic lift):流体を通って移動する物体が受ける力のうち、移動方向に対して垂直方向に作用する力の成分。本発明によれば、セールは空気力学的揚力を発生させる。
相対風又は見かけの風(Relative or apparent wind):ボートの固有速度と実際の風速によって生じる風のベクトル和。
空気力学的合力(Aerodynamic resultant):空気力学的揚力及び空気力学的抗力のベクトル和。
セールの入射角:セールプロファイルの平面と相対風の方向との間の角度。
セールの角度:セールプロファイルの平面とボートの軸の間の角度。
【0003】
(先行技術)
対称的なプロファイルを有する膨張式セールを備えたセール推進要素は、文書WO2017/221117A1から既知である。この推進要素は、周縁に沿って互いに接合されて少なくとも1つの閉鎖キャビティを形成する、実質的に流体密封された2つの隣接する面から本質的になる膨張可能なセールを備える。この要素は更に、キャビティの内側と外側との間に配置された導管と、キャビティに空気を注入する手段とを備える。膨張すると、このセールは、要素の動き又は風の向きもしくは強さに関係なく、恒久的に対称のままであるプロファイルを有する。当該文献のセールは、セーリングに使用されている間、常に膨張している。
【0004】
残念なことに、このようなソフトセールは、その使用の様々な段階、特にホイスト及びドロップ段階に適した膨張レベルを提供しないという欠点がある。具体的には、ハードセールとは異なり、ソフトセールは、これらのハンドリング(ホイスト及びドロップ)の段階で明確に定義された位置を有していない。これらの段階では、セールをセールプロファイルの対称軸の近くに保つことが重要であり、セールが水中に落下すること、又は近くにある要素に巻き込まれること、又は明確に定義されていない領域で圧壊してコンパクトに収納できなくなることを避けるためである。更に、セールの寿命を縮める可能性があるため、セールがラフィングになるのを防ぐために、ドロップ又はリーフィング段階でセールに僅かな圧力を維持することが重要である。
【0005】
更に、自動セールハンドリングデバイス、すなわち、コントロール、センサ、アクチュエータ又は電気エネルギー供給部品が電子的又は電気的故障を起こした場合、本明細書に記載されたセールを正しく固定することはできない。
【0006】
格納式ボートセールを油圧調節するためのデバイスもまた、文献CN107878720Aから既知である。このセールは、下側部分及び上側部分の2つの部分から作られ、セーリング状況又は風向きに応じて、マストの周りを互いに独立して回転することができる。このデバイスは、風に応じてセールの2つの部分の各々の迎角を自動的に調整する。セールの格納性は、セーリング状況が悪い下でのボートの安全性を確保する。しかしながら、セールの格納性には、電子自動化デバイスが正しく作動することが必要である。故障時の代替手段は提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/221117号
【特許文献2】中国特許公開第107878720号明細書
【発明の概要】
【0008】
従って、連続的又は非連続的な膨張式セール、或いは非膨張式セール、又は引張セール、もしくは非対称プロファイルを有するハードセールであって、自動ハンドリングデバイスによる電子的故障が発生した場合に、セールにとっても船上の船員にとっても安全な安全位置に留まることができると同時に、この膨張式セールの揚力によって発生する力を最小限に抑えることができるセールに対する必要性が依然としてある。これを達成するためには、セールは、空気力学的揚力の発生を極めて大きく減少させ、空気力学的抗力だけを有するように、セール自体を風に面して配置することができる(及び/又は手動で配置できる)必要がある。これにより、リギング及びボートにかかる力を低減することができ、また、完全に安全に動作することができる。
【0009】
本発明の1つの主題は、セール推進要素であって、マストと、実質的に流体密封された2つの隣接面が周縁に沿って接合されて、これらの間に少なくとも1つの閉鎖キャビティを形成することから本質的になる膨張可能な又は非膨張可能なセールであって、上記セールは、上側部分、下側部分、リーディングエッジ及びトレーリングエッジを含み、セールは、その全長に沿って膨らみを形成する様々なキャンバーを含む、膨張可能なセールと、セールのキャビティの内側と外側の間に配置された空気導管と、キャビティに空気を注入する少なくとも1つの手段であって、膨張したセールは、推進要素の動き又は風の方向又は強さに関係なく、恒久的に対称のままであるプロファイルを有する、手段と、セールの上側部分に配置されたヘッドボードと、セールの下側部分のリーディングエッジとトレーリングエッジの間に配置されたセールレセプタクルと、を備える、セール推進要素である。
【0010】
本発明による推進要素は、マストがセールの空気力学的推進力の中心の前方に位置すること、マストが360°自由に回転又は回転しないこと、及びセールが、セールの僅かな圧力を維持する少なくとも1つの手段を備える、ことを特徴とする。
【0011】
好ましくは、本発明によれば、マストは、セールの入射角を調整するシステムによって回転するようにされ、マストが上記システムによって駆動されなくなった場合に自由に回転できる。このように、マストは、セールの入射角度を調整するシステムに作用する自動ハンドリングシステムを用いて回転させられ、故障又は事故が発生した場合、或いは自動ハンドリングシステムが意図的に作動を停止させられた場合であっても、マストは自由に回転できる状態のままにされる。従って、マストはそれ自体で複数回回転することができる。事故又は故障とは、例えばマスト駆動モータ又は自動ハンドリングシステムの電子構成要素への電力喪失、或いはマスト回転トルクが予め設定された限界値に達することを意味する。このような場合、マストは自由に回転できるようにしておき、セールを風に面して配置することで、リギング及びボートにかかる力を低減することができる。
【0012】
本発明によるセール推進要素は、以下の様々な利点を提供する。空気力学的推進力の中心は、マストから明確に区別され、そこからボートのスターンに向かって十分に離間して配置されている。マストをセールの空気力学的推進力の中心より前方に配置することは、全ての環境におけるセールにかかる空気力学的力の合力が、相対風がゼロであるときを除いて、セールを相対風に向かわせることを意味する。更に、例えばリーディングエッジ上にある受動的空気入口のお陰でセールを十分に膨張状態に保つことができることにより、セールのプロファイルを維持することができ、従って、能動的供給がなくてもセールがラフィングするのを防ぐことができる。相対的風がゼロである(従って、セールが膨張することができない)状況では、セールはラフィングしないことになる。このような電子機器故障の状況では、セールのラフィングによりセールに亀裂が生じ(スラッピングの意味で)、従って大きな荷重が生じることになり、セール又はマストが破壊される危険を伴う。最後に、電子機器が故障した場合、セールを手動モードで極めて迅速且つ容易に使用することができることで、安全にし、ひいてはボート及び乗組員の安全を守る能力を高めることができる。
【0013】
好ましくは、セールの空気力学的推進力の中心は、マストから0~10mの長さだけ離れている。
【0014】
好ましくは、圧力を維持する手段は、相対風に面して配置された吸気開口である。この吸気口によって、相対風によって維持される内部圧力をセールに維持することができる。
【0015】
好ましくは、マストの上記の回転の間、エネルギー及びコマンドは、回転を妨げないデバイスを使用して伝達される。
【0016】
好ましくは、回転を妨げないデバイスは、回転の自由度が無限ではなく回転数に制限されることが認められた場合、回転ジョイント又はケーブル軸受チェーンから選択される。
【0017】
好ましくは、吸気開口は、可動式の閉鎖フラップを含む。
【0018】
好ましくは、1つ又はそれよりも多い部分からなる少なくとも1つのガイドラインは、セールをホイスト及びドロップする操作のために、セールの閉じたキャビティに配置され、上記ガイドラインは、ヘッドボード及びセールレセプタクルを通ってセールのリーディングエッジからトレーリングエッジまで延びる。
【0019】
好ましくは、ガイドラインが存在するときには、ガイドラインは、1つの部分からなり、トレーリングエッジ上のセールレセプタクルに固定的に取り付けられ、リーディングエッジ上のローラによって移動可能であるか、或いは、トレーリングエッジ上のセールレセプタクルにおいてローラによって移動可能で、リーディングエッジに固定的に取り付けられることができ、ガイドラインは、トレーリングエッジとリーディングエッジの間の少なくとも1つのプーリーにわたって移動できるようにヘッドボードに沿って配置されている。
【0020】
好ましくは、ガイドラインが存在するときには、ガイドラインは、2つの部分からなり、トレーリングエッジの側での第1の部分は、固定されているか又はヘッドボード上のプーリーで移動可能であり、レセプタクル内のローラによって移動可能であり、リーディングエッジの側の第2の部分は、固定されているか又はヘッドボード上のプーリーで移動可能であり、レセプタクル内のローラによって移動可能である。
【0021】
本発明の別の主題は、本明細書で上述したような少なくとも1つのセール推進要素と、ハルと、上記ハルに固定されるが依然として回転自在なマストとを備えるセール又はハイブリッド推進を有する移動体である。この移動体は、マストが上述の膨張式セールのキャビティ内に配置されていることを特徴とする。
【0022】
車両が意味するのは、ホイールの有無にかかわらず、陸上、水上、氷上、雪上、又は泥上を移動するあらゆる船である。
【0023】
好ましくは、セールは、ボートの軸に沿った推力を最適化する、又は所望の推力を達成すると同時に、力、圧力及びヒールを許容可能な値に制限するように、手動又は自動で風向き及び車両の進行方向に従って配向される。
【0024】
マストが無限に回転できない場合、例えば、ケーブルベアリングチェーンを使用することで詰まりすることなく、簡単にそれ自体で一方向に2回転することができる。このような場合、セールのために正しい位置に戻るためには、反対方向に回転しなければならないことになる。
【0025】
本発明によるハイブリッド推進移動体が意味するのは、例えば、電動機又は内燃エンジンにより駆動されるプロペラを用いた推進等の別の推進源と結合されたセール推進であり、エネルギー貯蔵源として、バッテリー、水素(燃料電池と共に)、天然ガス、又は燃料油を有する。
【0026】
本発明について、以下の図を用いて説明し、これらの図は、概略的であり、必ずしも縮尺通りに描かれていない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】例えばモータセールボートタイプの船舶に加えられる様々な物理的力、及び特に結果として生じる空気力学的力の投影を示すものである。
【
図2】ボートハル上に配置された、本発明によるセール推進要素の概略断面図である。
【
図3A】異なる相対風角に応じた本発明による推進要素の位置を上方から見た概略図を示す。
【
図3B】異なる相対風角に応じた本発明による推進要素の位置を上方から見た概略図を示す。
【
図3C】異なる相対風角に応じた本発明による推進要素の位置を上方から見た概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の主題を形成するセール推進要素について、上述の図を用いてより詳細に説明する前に、上述の図の助けを借りて、幾つかの流体力学的及び空気力学的定義の備忘録を以下に示す。
【0029】
セール推進移動体(以下、セールボート又は船舶と呼ぶ)は、空気及び水と接触している。物理的な観点から、主たる要因は、ハル、セール及び付属物(センターボード、キール、ラダー、プロペラ)に作用する流体力学的及び空気力学的力である。
【0030】
図1に示すように、空気力学的力(又はセールの推進力)は、空気が少なくとも1つのセールによって偏向された結果である。空気力学的力は、セールと、相対風の位置及び強さとに関連している。抗力は、相対風の方向にあり、揚力は、相対風に垂直な方向であって、常にセールに垂直であるとは限らない。例えば、0°では、空気が、外弧面と内弧面にわたって厳密に同じ距離を進むので、対称的なプロファイルは揚力を発生しない。この時点では、抗力のみを発生する。
【0031】
セールによって発生する空気力学的力はまた、セールではなくボートの参照フレームにおいて、セール推進力(ボートの進行軸に沿った)と、ボートをヒールさせることができる(ヒールは、風などの外部現象によって引き起こされるようなボードの横方向の傾斜である)ドリフト力(ボートの軸に垂直)に分解することができる。
【0032】
流体力学的力は、ハル及びセンターボード又はキール及び様々な水中付属物に対する水の摩擦の結果である。その方向は、対抗する空気力学的力、ハイブリッドモードでの推進力、海面状態及び海流に依存する。長手方向成分は流体力学的抗力と呼ばれ、横方向成分はサイドフォース、アンチヒーリングフォース又は流体力学的揚力と呼ばれる。流体力学的力の方向及び強さは、空気力学的力のみに依存するわけではない。ハイブリッドモード(風力及び別のエネルギー源)で航行する水上船舶(ボート)の場合、流体力学的力は、エンジン又はモータ推進によって発生する船速、例えば海面状態及び海流に大きく依存する。
【0033】
セールの力が流体力学的力よりも大きいときに、ボートは加速する。セールの力が流体力学的力より小さいときに、ボートは減速する。更に、空気力学的力が大きいがボートの後方に向いている場合、ボートは減速する。流体力学的力がボートの進行方向にある場合(強い流れがあることに起因して)、ボート(セールボート)は加速することになる。
【0034】
セールのトリムを最適化することにより、ボート(セールボート)は、進行方向へのセールの推力という点で最大性能を発揮することになる。具体的には、相対風及びボートの進行方向に対するセールの角度を最適化することによって、及びセールの表面積をトリミングすることによって、ボートは、ボートの軸に沿ったセールの推進力の最大レベルを達成させることができる。これに加えて、セールの内部圧力を変化させることを含む追加のトリミングが存在することができる。これにより、ボートの速度を上げることが可能になり、他方、同じ速度を維持しながら、同時にセールパワーを優先して他のエネルギー源の消費を低減することが可能になる。
【0035】
図1は、前述の定義されたパラメータの各々を、全て以下に列挙するように、固有の特定の参照番号で再度示している。
a: 揚力
b: 抗力
c: 空気力学的合力
d: 空気力学的推進力(船の軸に沿った)
e: 空気力学的ドリフト力
f: 相対風
g: ウィング及びボート軸の相対角度(例えば15°)
h: 相対風とボート軸の角度(例えば30°)
i: プロペラ推進力
j: ハル
k: セール
l: マスト
m: 空気力学的推進力の中心
n: プロペラ
o: 固定部分のセンサ(ハル参照フレーム)
p: 可動部のセンサ(セール参照フレーム)
図1で与えられた情報により、ハル参照フレームのセンサからセール参照フレームのセンサへの移行、及びその逆が可能となる。
【0036】
図2は、セールボートタイプのボート上に搭載した本発明によるセール推進要素を運転位置で示している。この要素は、ボートのハル2上に取り付けられた全体参照番号1のセールを含む。この要素は、回転運動を許容しつつ、フット4がハル2に固定されているマスト3を含む。マスト3は自立している。マスト3は、物理的な力の荷重を吸収し、回転自由度を残すことを目的とした支持体(図示せず)を用いてハル2に接続される。荷重は支持体にて測定される。セール1は、閉じたキャビティを形成するように互いに接続された2つの隣接する面5(図では1つしか見えない)を含む。隣接する2つの面5に使用される材料は、空気消費量を低減し、関係する様々な荷重が反応及び伝達できるように、透過性を制限する必要がある。場合によっては、例えば特定の耐火性又は耐UV性及び又は帯電防止処置を確保するために、材料に様々な処理を加えることが必要とすることができる。
【0037】
セール1には、高さにわたって均等に分布した複数のキャンバー(図示せず)を有する(キャンバーはセールの下側部分で大きく、上側部分でより小さい)。キャンバーの高さは、多くの場合、プロファイルのコードの長さと連動している。
【0038】
キャンバーは、コンサーティーナのような外観を与える。セール1は、上側部分6、下側部分7、リーディングエッジ8及びトレーリングエッジ9を含む。少なくとも1つの空気入口18が、例えばセール1の下側部分7に配置される。他の空気流入口30もまた、リーディングエッジ8の表面に配置することができる。セールのキャビティに空気を注入するための少なくとも1つの能動的手段7aは、空気をセールのキャビティに注入できるように、空気導管の連続部に配置される。セールは更に、上側部分6に配置されたヘッドボード10と、リーディングエッジ8とトレーリングエッジ9の間の下側部分7に配置されたセールレセプタクル11とを備える。このレセプタクル11は、セールがドロップしたときにセールの全部又は一部を受けるためのものである。このレセプタクル11は、セール1をホイスト又はドロップの手動又は自動操作を容易にする様々なアクチュエータ及びセンサを備えることができる。
【0039】
本発明によるセール推進要素は、セール1のキャビティ内に配置されたガイドライン12を含む。このガイドラインは、セール1のホイスト及びドロップ操作、並びにリーフィング操作の間、セールをガイドすることを意図している。このライン12は、セール1の外周を実質的に覆うように延びる。ガイドライン12は、取り外し可能又は取り外し不能に固定されるが、トレーリングエッジ9とセールレセプタクル11との間の交点に近い端部13では移動できないようになっている。次いで、ラインは、セール1の上側部分6に向かって延びて、トレーリングエッジ9とリーディングエッジ8の間をヘッドボード10に沿って延在する。このガイドライン12は、各々がマスト3の各側部に位置する、少なくとも2つのプーリー又は他の回転ブロックシステム(図示されていない)の助けを借りて、ヘッドボード10に沿って移動することができる。このガイドライン12は、リーディングエッジ8に隣接し、セールレセプタクル11に向かっており、実質的にリーディングエッジ8でローラ19を使ってセールレセプタクル11上に固定される。ガイドライン12は、手動で作動された場合、留め外しクリートに向かって引き上げることができる。一方、自動化バージョンでは、ガイドライン12は、自動ローラに巻かれる。
【0040】
ガイドライン12は、およそ100m2の総表面積を有するセールに対して約50mの長さを有し、様々なドロップ及びホイスト操作中に状態にされる用途に応じて約50~250Nの張力を有する。
【0041】
マスト3は、伸縮式又は固定式である。マスト3が伸縮式である場合、ヘッドボード10は、伸縮式マスト3の最後の要素に固定され、マストに対して又は回転するマストの最後の要素と回転の自由度を維持することができる。マスト3が伸縮式である場合、マスト3は、拡張及び収縮するために互いに対して順次的にスライドする様々な要素から構成される。リーフィングがない場合(輸送船の場合)、伸縮式マストを形成する要素を順々に又は全て同時に拡張することが可能である。
【0042】
マスト3が固定されている場合、ヘッドボード10のみが、マスト3に沿って移動可能である。セール1は、ヘッドボード10に固定されており、これと共に上昇又は降下する。ヘッドボードは、自由に回転すること、回転しないようにすること、又はある荷重値まで回転しないようにすることもできる。また、セールの捩れを制御するために、ヘッドボードの角度位置をフィードバック制御することも可能である。具体的には、風速は全ての高度で同じではないので、相対風の様々な変化に適応させるために、様々な高度でセールの入射角を調整することが有利とすることができる。
【0043】
伸縮式マスト3とマスト3に沿ってスライドするヘッドボード10とを組み合わせることも可能である。
【0044】
ヘッドボード10は、様々なラインロープとマスト3との間に存在する物理的な力を付与することができる程度、及びセールが膨張していないときにセールの重量に耐えることができる程度の十分な剛性を有する。本発明による様々な実施形態によれば、ヘッドボード10は、要求通りに、マスト3の周りに自由に回転することができ、マスト3の周りを回転するのを防止することができ、許容可能な値(最大許容可能値は、システムの構成及び安全システムで保護されることになる部品に依存することになる)に荷重を制限するように最大制限トルク値までマスト3の周りに回転するのを防止することができ、或いは、代替的にセールの捩れを制御するようにフィードバック制御することができる。
【0045】
マスト3は、マストサポート14を使用してハル2に接続されて固定され、このマストサポート14の目的は、セールとボートの間の様々な物理的な力を反応させると同時に、マストに回転の自由度を残して、相対風に対して正しい角度に位置できるようにすることである。
【0046】
マスト3のフット、すなわち、ハル2では、入射角を調整するためのシステム15があり、マスト3及び上記マスト3に固定された全ての操縦部品を回転させることによって、セール1に回転するよう命じることができるようになる。このシステム15は、特にモータからなることができる。このシステム15により、セール1は、マスト3の回転軸の周りに回転できるようになり、従って、セール1の所望の入射角を命じることが可能になる。この入射角設定システムは、マスト3に対して、例えば「ネスト」(又はセールレセプタクル)上に固定的に取り付けることもでき、モータは、ピニオンを介して、ハルに固定されたリングギアを駆動する。
【0047】
入射角を測定することで、ボートの軸に対するセール1の角度的位置決めを決定することができることが想起されるであろう。このようなデバイスにより、セール1、ハル2及び相対的な風を、セール1上又はハル2上のどの地点で風を測定しても、1つの同じ参照フレームに配置することができる。このようなシステムにより、自動モードでのセーリングが簡単になる。
【0048】
ボートのハル上に配置された本発明によるセール推進要素は、マスト3のフットに配置され、及びセール1がハル2に伝達できる最大トルクを制限するために知られているトルクリミッターと組み合わせることもできる。
【0049】
ボートのハル上に配置された本発明による推進要素は、セールレセプタクル11内に配置された電子制御システム16を更に含むことができる。回転電気ジョイント17は、マスト3の下側ベースにてハル内に追加することができる。このジョイント17により、セールで実行することができるマスト3の周りの回転数を制限することなく、ハル2とセール1の下側部分7との間で電力及び電気コマンドを伝達することができる。ジョイント17はまた、従来の適切なケーブル軸受チェーンに置き換えることができる。本発明によるセール要素を作動するのに使用される動力は、例えば、油圧又は空気圧である場合、回転式油圧又は空気圧ジョイントを用いることができる。
【0050】
様々な測定センサのうち、セール1からハル2に伝達される荷重を測定するセンサ、ハル2の横軸の荷重を測定するセンサ、ハル2の長手方向軸の荷重を測定するセンサ、セール1の内部キャビティ内の圧力を測定するセンサ、及び相対風の速度と角度を測定するセンサが存在することができる。この最後の測定は、セール1上又はハル2上で同様に行うことができる。センサがマスト3に固定された部分に配置されている場合、センサはセール1の長手方向軸及び横軸に沿った荷重を測定する。
【0051】
セール1は、セールレセプタクル11又はヘッドボード10に収納されるセールニュートライザ(図示せず)を更に含むことができる。このようなニュートライザは、セールの下部から上方へ、又はセールの上部から下方へ展開されると、セールをカプセル化して、内部空気を排出することによって体積を減少させ、セールがラフィングするのを防止し、そのウィンデージを減少させる。
【0052】
図3A、3B及び3Cは、異なるセールの入射角を有することによって互いに異なる。
【0053】
図3Aでは、相対風はセールの軸に沿っている。
図3Bでは、セールの軸線は、相対風の方向に対して実質的に15°に等しい角度をなしており、
図3Cでは、セールの軸線は相対風の方向に対して
図3Bに描かれている角度と対称であり、
図3Bに描かれている角度と等しい角度をなしている。
【0054】
図3A、3B及び3Cにおいて、セール1は実質的に対称なプロファイルを有する。マスト3は円で表されている。相対風は矢印23で表される。
【0055】
図3Aは、風23に向かって安定した状態のセール1を描いている。様々な荷重は釣り合っている。(ウィングの対称的プロファイルに起因して、ウィングの両側で同一であるため)空気力学的揚力はゼロであり、セール1を相対風の軸に平行な軸上に保つ抗力24だけが存在する。
【0056】
図3Bは、軸が相対風の方向に対して約15°の角度をなすセール1を描いている。マスト3の回転軸は、プロファイルの対称軸に沿った空気力学的力の推進力中心25に対して、プロファイルの前方に向かってオフセットしている。
図3Bは、マスト3の回転中心から特定の距離で空気力学的力によって発生するトルクが、セールを相対風に面した位置に戻す傾向があることを示しており、セールの対称的なプロファイルのお陰でセールは安定した状態を保つことができる。
【0057】
マスト3の回転点と推進力中心25との間にオフセットがあることにより、本発明の推進要素は、風の方向から大きな角度偏差がある状況でも、小さな角度偏差がある状況でも、セール1を所定位置に保持することができる。マスト3の回転点と中心25との間のかかるオフセットは、セール1が当該位置から逸脱したときに、セールの中立位置、つまり風に面している位置に向かって戻るようにすることができることを意味する。このようなオフセットによって、セールが相対風の方向に対して適切及び最適な位置に自動的に戻るので、セーリングの安全性を向上させることが可能になり、これによって荷重を最小限に抑え、セールを風に面しておくことができる。しかしながら、この距離は、セールの回転に必要な力を過度に増加させないように最小にする必要がある。
【0058】
【実施例】
【0059】
以下の実施例は,単に説明のために示したものであり、限定ではない。以下の表は、様々な実施可能な状況を照合したものである。
【0060】
ボディとも呼ばれるセールの外部層は、外気と接触する外部と内部を含む織布で作られている。この織地は、ポリウレタンでコーティングされたポリエステル織物である。この織地の坪量は、約100m2のセール面積に対して110g/m2である。
【0061】
セールの上側はベルクロテープ式の面ファスナー及びループで固定することができる。セールの外側部分とリブとの接合(内部接合)及び外側部分の構成要素間の接合は、融着接合又は接着剤接合又はその他の接合手段(例えば、既存のインフレーションシステムと適合する十分に低いレベルの浸透性を確保しつつ、荷重の伝達を確保することができるジッパーファスナー)によって達成することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 セール
3 マスト
5 隣接面
6 上側部分
7 下側部分
8 リーディングエッジ
9 トレーリングエッジ
10 ヘッドボード
11 セールレセプタクル
【国際調査報告】