(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】不顕性拒絶反応の非侵襲的診断
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240604BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240604BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240604BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20240604BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240604BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20240604BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/6813 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/115 Z
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573196
(86)(22)【出願日】2022-05-25
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2022064247
(87)【国際公開番号】W WO2022248573
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】516200884
【氏名又は名称】センター ホスピタリア ユニバーシタイア デ ナント
(71)【出願人】
【識別番号】519134337
【氏名又は名称】ナント ユニベルシテ
(71)【出願人】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブルアール,ソフィ
(72)【発明者】
【氏名】デンジャー,リチャード
(72)【発明者】
【氏名】ギラル,マガリ
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4H045
【Fターム(参考)】
2G045DA13
2G045DA14
2G045JA01
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4H045AA30
4H045CA40
4H045EA50
(57)【要約】
本明細書に記載の本発明は、互いに独立してまたは組み合わせであるかによらず、2つの遺伝子、AKR1C3およびTCL1Aのレベル、量、または濃度に基づいて不顕性拒絶反応を診断する方法に関する。組み合わせの場合、2つの遺伝子のレベル、量、または濃度を、複合スコアの形態で臨床パラメータとさらに組み合わせることができる。本発明はさらに、対象が本発明の方法を用いて不顕性拒絶反応と診断された場合/診断されたときに、対象における不顕性拒絶反応を処置する方法、ならびに、不顕性拒絶反応を診断する方法を実装するためのコンピュータシステムおよび部品キットも提供する。
【選択図】図なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における不顕性腎拒絶反応を診断する方法であって、
a)前記対象から以前に採取されたサンプル中の、TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するステップと;
b)前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記レベル、量、または濃度を、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度と比較するステップであって、
前記少なくとも1人の参照対象が:
‐腎移植を受けていない対象、
‐不顕性腎拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエント、または
‐腎移植前に不顕性腎拒絶反応そのものに関して検査された対象
であるステップと;
c)前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記レベル、量、または濃度が、前記少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度よりも統計学的に有意に低い場合、前記対象が、不顕性腎拒絶反応を有していると結論付けるステップと
を含む方法。
【請求項2】
ステップa)が、CD40、CTLA4、ID3、および/またはMZB1のレベル、量、または濃度を決定することを含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)が、TCL1Aおよび/またはAKR1C3以外のバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定することを含まない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)が、前記対象から以前に採取された前記サンプル中のTCL1Aの前記レベル、量、または濃度を決定することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)が、前記対象から以前に採取された前記サンプル中のAKR1C3の前記レベル、量、または濃度を決定することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)が、前記対象から以前に採取された前記サンプル中のTCL1AおよびAKR1C3の両方の前記レベル、量、または濃度を決定することを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記レベル、量、または濃度が、絶対的または相対的なレベル、量、または濃度に関して表され、好ましくは、1つまたはいくつかの参照マーカーの前記レベル、量、または濃度に対して正規化された相対レベル、量、または濃度に関して表される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
a)TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される前記少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方の前記レベル、量、または濃度によって複合スコアを決定するステップであって、前記複合スコアが、式(1)を使用して確立される:
【数1】
(式中:
「β
i」は、前記少なくとも1つのバイオマーカーのそれぞれの前記レベル、量、または濃度の回帰係数を表す;
「X
i」は、前記少なくとも1つのバイオマーカーのそれぞれの前記レベル、量、または濃度の予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す)ステップと;
b)前記複合スコアを、前記少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)前記複合スコアが、前記少なくとも1人の参照対象において決定された前記参照複合スコアより実質的に高い場合、前記対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a)
‐TCL1AおよびAKR1C3からなる群、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方からなる群から選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの前記レベル、量、または濃度;ならびに
‐以下から選択される1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータ:
・採血前の拒絶反応エピソードの経験、
・レシピエントの性別、および
・採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくは採血時のタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取
によって複合スコアを決定するステップであって、
前記複合スコアが、式(2)を使用して確立される:
【数2】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
ISの摂取」、および「β
レシピエントの性別」は、前記バイオマーカーの前記レベル、量、または濃度と前記臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=「以前の拒絶反応エピソードなし」、1=「以前の拒絶反応エピソードが1つまたは複数ある」である;
「ISの摂取」は、採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくはタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取を定義する予測変数を表し、0=「CsAの摂取なし」または「タクロリムスの摂取」、1=「CsAの摂取」または「タクロリムスの摂取なし」である;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す)ステップと;
b)前記複合スコアを、前記少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)前記複合スコアが、前記少なくとも1人の参照対象において決定された前記参照複合スコアより実質的に高い場合、前記対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取が、前記採血時のタクロリムスの摂取である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取が、前記採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記複合スコアが:
‐TCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、または濃度、ならびに
‐以下の3つの臨床パラメータ:(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、(ii)レシピエントの性別、および(iii)採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取
によって決定される、請求項9または11に記載の方法。
【請求項13】
前記不顕性腎拒絶反応が、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)および/またはsTCMR/sABMR混合型である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
a)
‐TCL1AおよびAKR1C3からなる群、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度;ならびに
‐以下から選択される1つ、2つ、3つ、または好ましくは4つの臨床パラメータ:
・採血前の拒絶反応エピソードの経験、
・レシピエントの性別、
・同種移植ランク、および
・ドナーとレシピエントのHLA不一致の数
によって複合スコアを決定するステップであって、
前記複合スコアが、式(3)を使用して確立される:
【数3】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
同種移植ランク」、「β
HLA不一致」および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=「以前の拒絶反応エピソードなし」、1=「以前の拒絶反応エピソードが1つまたは複数ある」である;
「同種移植ランク」は、以前の移植の発生を定義する予測変数を表し、0=「以前の移植なし」、1=「1回または複数回の以前の移植あり」である;
「HLA不一致」は、ドナーとレシピエントのHLA不一致の発生を定義する予測変数を表し、0=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が3つ以下」、1=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が厳密に3つを超える」である;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す)ステップと;
b)前記複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)前記複合スコアが、前記少なくとも1人の参照対象において決定された前記参照複合スコアより実質的に高い場合、前記対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
不顕性腎拒絶反応が、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)からなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1人の参照対象が、2人以上の参照対象を含む参照集団である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
コンピュータ実装されている、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
それを必要とする対象における不顕性腎拒絶反応を診断するためのコンピュータシステムであって、
i)少なくとも1つのプロセッサと、
ii)前記プロセッサによって実行されたときに、前記プロセッサに
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信すること、
b.前記入力レベル、量、または濃度を分析し、変換して、請求項8に記載の式(1)を使用して確立される複合スコアを導出すること、
c.前記複合スコアである出力を生成すること、および
d.前記出力に基づいて、前記対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供すること
を実行させる、前記プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードを保存する少なくとも1つの記憶媒体と
を含むコンピュータシステム。
【請求項19】
前記プロセッサによって読み取り可能な前記少なくとも1つのコードが、前記プロセッサによって実行されたときに、前記プロセッサに
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、
(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、
(ii)レシピエントの性別、および
(iii)採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくは採血時のタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取
から選択される1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータの値を入力すること、
b.前記入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析し、変換して、請求項9に記載の式(2)を使用して確立された複合スコアを導出すること、
c.前記複合スコアである出力を生成すること、ならびに
d.前記出力に基づいて、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供すること
を実行させる、請求項18に記載のコンピュータシステム
【請求項20】
前記採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取が、前記採血時のタクロリムスの摂取である、請求項19に記載のコンピュータシステム。
【請求項21】
前記採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取が、前記採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取である、請求項19に記載のコンピュータシステム。
【請求項22】
前記不顕性腎拒絶反応が、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)および/またはsTCMR/sABMR混合型である、請求項18~21のいずれか一項に記載のコンピュータシステム。
【請求項23】
前記プロセッサによって読み取り可能な前記少なくとも1つのコードが、前記プロセッサによって実行されたときに、前記プロセッサに、
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される前記少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、
(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、
(ii)レシピエントの性別、
(iii)以前の移植、および
(iv)ドナーとレシピエントのHLA不一致の数
から選択される1つ、2つ、3つ、または好ましくは4つの臨床パラメータの値を入力すること、
b.前記入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析し、変換して、請求項14に記載の式(3)を使用して確立された複合スコアを導出すること、
c.前記複合スコアである出力を生成すること、ならびに
d.前記出力に基づいて、前記対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供すること
を実行させる、請求項18に記載のコンピュータシステム。
【請求項24】
不顕性腎拒絶反応が、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)からなる、請求項23に記載のコンピュータシステム。
【請求項25】
前記対象が、前記出力が、少なくとも1人の参照対象において得られる同じ出力よりも実質的に高い場合に、不顕性腎拒絶反応に罹っていると診断され、前記参照対象が、腎移植を受けていない対象、不顕性拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエント、腎移植前に不顕性拒絶反応そのものに関して検査された前記対象である、請求項18~24のいずれか一項に記載のコンピュータシステム。
【請求項26】
プロセッサによって実行されたときに、請求項17に記載のコンピュータ実装方法を実行するように適合させた前記プロセッサによって読み取り可能なソフトウェアコードを含むコンピュータプログラム。
【請求項27】
コンピュータによって実行されたときに、請求項17に記載のコンピュータ実装方法をプロセッサに実行させるコードを含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項28】
TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段、および任意により、少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段、および前記方法を実施するための使用説明書を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実施するための部品キット。
【請求項29】
前記手段が、核酸プローブ、抗体、およびアプタマーからなる群から選択される、請求項28に記載の部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不顕性拒絶反応(SCR)の分野に関し、非侵襲性マーカーを使用して、日常的な方法でSCRを診断するための手段および方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
腎移植、不顕性拒絶反応(SCR)、特に抗体媒介性不顕性拒絶反応(sABMR)は、同種移植の好ましくないアウトカムに関連する大きな脅威である(Filippone&Farber,2020.Transplantation;Loupy et al.,2015.J Am Soc Nephrol.26(7):172131;Mehta et al.,2016.Transplantation.100(8):16108;Rush & Gibson,2019.Transplantation.103(6):e139e145;Shishido et al.,2003.J Am Soc Nephrol.14(4):104652)。
【0003】
それにもかかわらず、急性および慢性拒絶反応の診断は、同種移植片の機能不全から臨床的に疑われ、組織学的に確認することができるが、定義上、SCRは、移植片病変が確立されている間の安定した移植片機能と関連している。したがって、その診断は、血清中クレアチニンまたは糸球体濾過率などの従来の腎機能測定に依存することはできない。初期の無症状病変を診断して予防し、最終的に処置するために、追跡後最初の1年以内のサーベイランス生検が、日常的な診療において提唱されている(Hoffman et al.,2019.Transplantation.103(7):14571467;Loupy et al.,2015.J Am Soc Nephrol.26(7):172131;Moreso et al.,2004.Transplantation.78(7):10648;Nankivell et al.,2004.Transplantation.78(2):2429;Rush et al.,1998.J Am Soc Nephrol.9(11):212934)。しかし、移植片生検は、リスクを伴う介入である(Fereira etal.,2004.Transplantation.77(9):14756)が、これは、すべての移植施設で実施されているわけではない(CouvratDesvergnes et al.,2019.NephrolDialTransplant.34(4):703711;Mehta et al.,2017.ClinTransplant.31(5))。臓器生検の結果はまた、特に生検領域が臓器全体の健康状態を表さない場合には、不正確であり得る。
【0004】
1年サーベイランス生検を実施する場合、半数は、正常または正常未満の組織像を示し、SCRは、症例のわずか25%を表す(CouvratDesvergnesetal.,2019.NephrolDialTransplant.34(4):703711;Loupyetal.,2015.JAmSocNephrol.26(7):172131;Nankivelletal.,2004.Transplantation.78(2):2429)。
【0005】
したがって、初期のSCRを検出するのみでなく、重篤な組織学的病変を有しない大多数の患者に対する侵襲的手順を回避するために、移植片機能の低下がない非侵襲性バイオマーカーが必要とされている。中心生検の習慣に関係なく、そのような非侵襲性バイオマーカーは、サーベイランス生検のニーズを誘導し、患者の管理を改善するためのスクリーニングツールとして使用できる可能性がある(Friedewald&Abecassis,2019.AmJTransplant.19(7):21412142)。
【0006】
血液遺伝子シグネチャなど、SCRのいくつかのバイオマーカーがこれまでに提唱されている(国際公開第2015/179777号;国際公開第2019/217910号;Crespo et al.,2017.Transplantation.101(6):14001409;Friedewald et al.,2019.AmJTransplant.19(1):98109;Van Loon et al.,2019.EBioMedicine.46:463472;Zhang et al.,2019.JAmSocNephrol.30(8):14811494)。
【0007】
Zhangは、移植後3ヶ月で、89%の陰性適中率および73%の陽性適中率でSCRおよび急性細胞性拒絶反応を診断できる17個の遺伝子のシグネチャを公表した(Zhang et al.,2019.J Am Soc Nephrol.30(8):14811494)。同様に、51個の遺伝子のシグネチャは、移植後24ヶ月でのSCRの同定を可能にする(Friedewald et al.,2019.Am J Transplant.19(1):98109)。しかし、これらの研究はいずれも、細胞性拒絶反応および境界領域拒絶反応のみに焦点を当てている。Van Loonは、抗体媒介拒絶反応のみを診断するための8つの遺伝子のシグネチャについて報告した(Van Loon et al.,2019.EBioMedicine.46:463472)。最後に、kSort試験の17個の遺伝子シグネチャもまた、6ヶ月の不顕性ABMR(sABMR)を診断するために提唱されている(Crespo et al.,2017.Transplantation.101(6):14001409)が、1,134人の患者の大規模コホートでは検証されなかった(Van Loon et al.,2021.Am J Transplant.21(2):740750)。したがって、これらのシグネチャはいずれも、現在はまだ日常的に使用されていない。
【0008】
したがって、日常的な方法でSCRを検出することが可能な非侵襲性バイオマーカーの必要性が依然として存在する。
【0009】
ここで、発明者らは、2つの遺伝子、TCL1AおよびAKR1C3が、互いに独立して、SCRに罹っている患者の特定を可能にすること、およびこれら両方の遺伝子を組み合わせることで、さらに優れた識別が可能になることを示す。本発明者らはさらに、移植後1年でSCRのない患者を特定するための3つの臨床変数(採血前の拒絶反応エピソードの経験、移植片レシピエントの性別、および採血時のシクロスポリンA[CsA]またはタクロリムスのいずれかの免疫抑制剤の摂取)と組み合わせたTCL1AおよびAKR1C3の発現に基づく複合スコアを提唱する。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、それを必要とする対象における不顕性腎拒絶反応を診断する方法であって、
a)対象から以前に採取されたサンプル中の、TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するステップと;
b)少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度と比較するステップであって、
ここで、少なくとも1人の参照対象は:
‐腎移植を受けたことがない対象、
‐不顕性腎拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエント、または
‐腎移植前に不顕性腎拒絶反応そのものに関して検査された対象である、ステップと;
c)少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度が、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度よりも統計学的に有意に低い場合、対象が、不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップとを含む方法に関する。
【0011】
いくつかの実施形態では、ステップa)は、CD40、CTLA4、ID3、および/またはMZB1のレベル、量、または濃度を決定することを含まない。いくつかの実施形態では、ステップa)は、TCL1Aおよび/またはAKR1C3以外のバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定することを含まない。
【0012】
いくつかの実施形態では、ステップa)は、対象から以前に採取されたサンプル中のTCL1Aのレベル、量、または濃度を決定することを含む。いくつかの実施形態では、ステップa)は、対象から以前に採取されたサンプル中のAKR1C3のレベル、量、または濃度を決定することを含む。いくつかの実施形態では、ステップa)は、対象から以前に採取されたサンプル中のTCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、または濃度を決定することを含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度は、絶対的または相対的なレベル、量、または濃度に関して表される;好ましくは、1つまたはいくつかの参照マーカーのレベル、量、または濃度に対して正規化された相対レベル、量、または濃度に関して表される。
【0014】
いくつかの実施形態では、方法は、
a)TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、または濃度によって複合スコアを決定するステップであって、複合スコアが、式(1)を使用して確立される:
【数1】
(式中:
「β
i」は、少なくとも1つのバイオマーカーのそれぞれのレベル、量、または濃度の回帰係数を表す;
「X
i」は、少なくとも1つのバイオマーカーのそれぞれのレベル、量、または濃度の予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す);ステップと;
b)複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)複合スコアが、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアより実質的に高い場合、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップとを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、方法は、
a)
‐TCL1AおよびAKR1C3からなる群、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度;ならびに
‐
・採血前の拒絶反応エピソードの経験、
・レシピエントの性別、および
・採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくは採血時のタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取;
から選択される1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータによって複合スコアを決定するステップであって:
複合スコアが、式(2)を使用して確立される:
【数2】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
ISの摂取」、および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=「以前の拒絶反応エピソードなし」、1=「以前の拒絶反応エピソードが1つまたは複数ある」である;
「ISの摂取」は、採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくはタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取を定義する予測変数を表し、0=「CsAの摂取なし」または「タクロリムスの摂取」、1=「CsAの摂取」または「タクロリムスの摂取なし」である;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す);ステップと;
b)複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)複合スコアが、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアより実質的に高い場合、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと、を含む。
【0016】
本実施形態において、採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取は、採血時のタクロリムスの摂取であってもよく、または採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取であってもよい。
【0017】
この実施形態では、複合スコアは:
‐TCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、または濃度、および
‐以下の3つの臨床パラメータ:(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、(ii)レシピエントの性別、および(iii)採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取
によって決定され得る。
【0018】
この実施形態では、不顕性腎拒絶反応は、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)および/またはsTCMR/sABMR混合型である。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、
a)
‐TCL1AおよびAKR1C3からなる群、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3の両方からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度;ならびに
‐
・採血前の拒絶反応エピソードの経験、
・レシピエントの性別、
・同種移植ランク、および
・ドナーとレシピエントのHLA不一致の数
から選択される1つ、2つ、3つ、または好ましくは4つの臨床パラメータによって複合スコアを決定するステップであって:
複合スコアが、式(3)を使用して確立される:
【数3】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
同種移植ランク」、「β
HLA不一致」および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=「以前の拒絶反応エピソードなし」、1=「以前の拒絶反応エピソードが1つまたは複数ある」である;
「同種移植ランク」は、以前の移植の発生を定義する予測変数を表し、0=「以前の移植なし」、1=「1回または複数回の以前の移植あり」である;
「HLA不一致」は、ドナーとレシピエントのHLA不一致の発生を定義する予測変数を表し、0=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が3つ以下」、1=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が厳密に3つを超える」である;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す);ステップと;
b)複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)複合スコアが、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアより実質的に高い場合、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと、を含む。
【0020】
この実施形態では、不顕性腎拒絶反応は、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)からなる。
【0021】
いくつかの実施形態では、少なくとも1人の参照対象は、2名以上の参照対象を含む参照集団である。
【0022】
いくつかの実施形態では、方法は、コンピュータ実装されている。
【0023】
本発明はまた、それを必要とする対象における不顕性腎拒絶反応を診断するためのコンピュータシステムであって、
i)少なくとも1つのプロセッサと、
ii)プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信すること、
b.入力レベル、量、または濃度を分析し、変換して、請求項8に記載の式(1)を使用して確立される複合スコアを導出すること、
c.複合スコアである出力を生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる、プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードを保存する少なくとも1つの記憶媒体と
を含むコンピュータシステムにも関する。
【0024】
いくつかの実施形態では、プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードは、プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、以下:
(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、
(ii)レシピエントの性別、および
(iii)採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取、好ましくは採血時のタクロリムスまたはシクロスポリンA(CsA)の摂取から選択される1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータの値を入力すること、
b.入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析し、変換して、請求項9に定義される式(2)を使用して確立された複合スコアを導出すること、
c.複合スコアである出力を生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる。
【0025】
この実施形態では、採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取は、採血時のタクロリムスの摂取であってもよく、または採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取であってもよい。
【0026】
この実施形態では、不顕性腎拒絶反応は、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)および/またはsTCMR/sABMR混合型である。
【0027】
いくつかの実施形態では、プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードは、プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、
(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、
(ii)レシピエントの性別、
(iii)以前の移植、および
(iv)ドナーとレシピエントのHLA不一致の数から選択される1つ、2つ、3つ、または好ましくは4つの臨床パラメータの値を入力すること、
b.入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析し、変換して、請求項14に定義される式(3)を使用して確立された複合スコアを導出すること、
c.複合スコアである出力を生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性腎拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる。
【0028】
この実施形態では、不顕性腎拒絶反応は、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)からなる。
【0029】
いくつかの実施形態では、対象は、出力が、少なくとも1人の参照対象において得られる同じ出力よりも実質的に高い場合に、不顕性腎拒絶反応に罹っていると診断され、ここで、参照対象は、腎移植を受けていない対象、不顕性拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエント、腎移植前に不顕性拒絶反応そのものについて検査された対象である。
【0030】
本発明はまた、プロセッサによって実行されたときに、本明細書に開示される不顕性腎拒絶反応を診断するコンピュータ実装方法を実行するように適合させたプロセッサによって読み取り可能なソフトウェアコードを含むコンピュータプログラムにも関する。
【0031】
本発明はまた、コンピュータによって実行されたときに、本明細書に開示される不顕性腎拒絶反応を診断するコンピュータ実装方法をプロセッサに実施させるコードを含む非一時的コンピュータ可読記憶媒体にも関する。
【0032】
本発明はまた、本明細書に開示される不顕性腎拒絶反応を診断する方法を実施するための部品キットにも関し、本部品キットは、TCL1AおよびAKR1C3からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段、および任意により、少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段、および方法を実施するための使用説明書を含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、本手段は、核酸プローブ、抗体、およびアプタマーからなる群から選択される。
【0034】
定義
本発明において、以下の用語は、以下の意味を有する:
【0035】
「AKR1C3」は、アルドケトレダクターゼファミリー1メンバーのC3タンパク質をコードする遺伝子を指す。天然に存在するヒトAKR1C3遺伝子は、Genbankアクセッション番号NM_001253908(2021年5月9日のバージョン2)に示されるヌクレオチド配列を有し、天然に存在するヒトアルドケトレダクターゼファミリー1メンバーC3タンパク質は、Genbankアクセッション番号NP_001240837(2021年5月9日のバージョン1)またはUniProtアクセッション番号P42330(2010年10月5日のバージョン4)に示されるアミノ酸配列を有する。
【0036】
「TCL1A」は、T細胞白血病/リンパ腫タンパク質1Aをコードする遺伝子を指す。天然に存在するヒトTCL1A遺伝子は、Genbankアクセッション番号NM_001098725(2021年4月18日のバージョン2)に示されるヌクレオチド配列を有し、天然に存在するヒトT細胞細胞白血病/リンパ腫タンパク質1Aは、Genbankアクセッション番号NP_001092195(2021年4月18日のバージョン1)またはUniProtアクセッション番号P56279(1998年7月15日のバージョン1)に示されるアミノ酸配列を有する。
【0037】
「生物学的サンプル」とは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、尿サンプル、リンパサンプル、または生検などの、対象、好ましくは移植対象から得られる任意のサンプルを指す。
【0038】
「免疫抑制療法」または「免疫抑制処置」とは、移植対象への1つ以上の免疫抑制薬(または免疫抑制剤)の投与を指す。移植処置で使用され得る免疫抑制薬としては、薬物および他の医療製品の分類のために世界保健機関(WHO)によって開発された解剖学的治療化学分類システム(ATC/DDDインデックス2021)の治療サブグループL04に記載されているすべての薬物が挙げられる。これらは、参照により本明細書に組み込まれる。さらなる例としては、これらに限定されないが、以下が挙げられる:プリン合成阻害剤(アザチオプリン、ミコフェノール酸、ミコフェノール酸モフェチル)、ピリミジン合成阻害剤(例えば、レフルノミド、テリフルノミド)、葉酸拮抗薬(例えば、メトトレキサート)、タクロリムス、シクロスポリン、ピメクロリムス、ボクロスポリン、アベティマス、グスペリムス、免疫調節イミド薬 (例えば、レナリドマイド、ポマリドミド、サリドマイド、アプレミラスト)、IL1受容体アンタゴニスト(例えば、アナキンラ)、mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス、リダフォロリムス、テムシロリムス、ウミロリムス、ゾタロリムス)、抗補体成分5抗体(例えば、エクリズマブ)、抗TNF抗体(例えば、アダリムマブ、アフェリモマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ネレリモマブ)、TNF阻害剤(例えば、エタネルセプト、ペグスネルセプト)、抗インターロイキン5抗体(例えば、メポリズマブ)、VEGF阻害剤(例えば、アフリベルセプト)、抗免疫グロブリンE抗体(例えば、オマリズマブ)、抗インターフェロン抗体(例えば、ファラリモマブ)、抗インターロイキン6抗体(例えば、クラザキズマブ、エルシリモマブ、フィルゴチニブ)、抗インターロイキン12および/またはインターロイキン23抗体(例えば、レブリキズマブ、ウステキヌマブ)、抗インターロイキン17A抗体(例えば、セクキヌマブ)、インターロイキン1阻害剤(例えば、リロナセプト)、抗CD3抗体(例えば、ムロモナブCD3、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ)、抗CD4抗体(例えば、クレノリキシマブ、ケリキシマブ、ザノリムマブ)、抗CD11a抗体(例えば、エファリズマブ)、抗CD18抗体(例えば、エルリズマブ(erlizumab))、抗CD20抗体(例えば、オビヌツズマブ、リツキシマブ、オクレリズマブ、パスコリズマブ)、抗CD23抗体(例えば、ゴミリキシマブ、ルミリキシマブ)、抗CD40抗体(例えば、テネリキシマブ、トラリズマブ)、抗CD62L/Lセレクチン抗体(例えば、アセリズマブ)、抗CD80抗体(例えば、ガリキシマブ)、抗CD147抗体(例えば、gavilimomab)、抗CD154抗体(例えば、ルプリズマブ(ruplizumab))、抗BLyS抗体(例えば、ベリムマブ、ブリシビモド)、抗CTLA4抗体(例えば、アバタセプト)、CTLA4融合タンパク質(例えば、アバタセプト、ベラタセプト)、抗CAT抗体(例えば、ベルティリムマブ(bertilimumab)、レルデリムマブ(lerdelimumab)、メテリムマブ)、抗インテグリン抗体(例えば、ナタリズマブ、ベドリズマブ)、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、トシリズマブ)、抗LFA1抗体(例えば、オデュリモマブ)、抗インターロイキン2受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ、イノリモマブ)、抗CD5抗体(例えば、ゾリモマブ・アリトックス(zolimomab aritox))、ポリクローナル抗体の注入(例えば、抗胸腺細胞グロブリン、抗リンパ球グロブリン)、および他のモノクローナル抗体、例えば、アトロリムマブ、セデリズマブ、フォントリズマブ、マスリマブ(maslimomab)、モロリムマブ(morolimumab)、ペキセリズマブ、レスリズマブ、ロベリズマブ、シプリズマブ、タリズマブ、テリモマブアリトックス(telimomab aritox)、バパリキシマブ(vapaliximab)、ベパリモマブ。これらの薬物は、単独療法または併用療法において使用され得る。
【0039】
「臓器移植」とは、疾患臓器、臓器の一部、組織を健康な臓器または組織に置き換える処置を指す。移植される臓器または組織は、対象自身(「自家移植片」と称する)、別のヒトのドナー(「同種移植片」と称される)、または動物(その後、「異種移植片」と称する)から得ることができる。移植される臓器は、人工または天然、全体(腎臓、心臓、および肝臓など)または部分的(心臓弁、皮膚、および骨など)であってもよい。
【0040】
「不顕性(腎)拒絶反応」または「SCR」とは、バンフ分類に従って組織学的に定義された腎移植片の病変を指し、典型的には、移植後のフォローアップ中のサーベイランス生検によって特定される(リスクを伴う介入であり、すべての移植施設で実施されるわけではない)が、腎移植片の機能の悪化を伴わない(ベースライン値の10%、20%、または25%を超えない血清中クレアチニンレベルとして変動可能に定義される、すなわち、成人男性では約0.6~約1.2mg/dL、成人女性では約0.5~1.1mg/dLの範囲の血清中クレアチニンレベルを有するが、腎移植レシピエントは、典型的には、成人男性では約1.0~約1.9mg/dLであり、女性対象では約0.8~約1.5mg/dLの範囲の血清中クレアチニンレベルを有する)。これは、上記で定義したベースライン値の10%、20%、または25%を超える血清中クレアチニンの上昇によって測定される機能的腎障害を特徴とする急性または慢性拒絶反応とは臨床的に異なる。SCRは2つのカテゴリーに分類できる:1つは主に、ドナー抗原に対して特異的に活性化され、移植された臓器に直接浸潤し、攻撃し、および損傷させるようになる細胞傷害性Tリンパ球による細胞応答である「不顕性T細胞媒介拒絶反応」または「sTCMR」である。もう1つは、液性応答液性であり、臓器レシピエントの免疫系により、ドナー臓器に対するドナー特異的抗体(DSA)を生じ、これにより、移植された臓器に対する免疫攻撃および傷害である「不顕性抗体媒介拒絶反応」または「sABMR」をもたらす。これら2つの免疫機構は、共存することもあり、その場合「sTCMRおよびsABMR混合型」または「混合型SCR」と称される。
【0041】
「対象」とは、これらに限定されないが、ヒト、ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、他の類人猿およびサル種など)、家畜(例えば、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、およびブタなど)、飼育動物(domestic animal)(例えば、ウサギ、イヌ、およびネコ)、実験動物(例えば、ラット、マウスおよびモルモットなど)などの任意の哺乳動物を指す。この用語は、特に明記されない限り、特定の年齢または性別を示すものではない。特に、対象は、ヒトであり、「患者」とも呼ばれる。特定の実施形態では、対象は、移植された対象であり、「グラフトまたは移植組織レシピエント」または「グラフトまたは移植された対象」とも呼ばれる。
【0042】
「移植された対象」(または「グラフトもしくは移植組織レシピエント」または「グラフトされた対象」)は、臓器移植を受けた対象を指す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を診断する方法に関する。
【0044】
用語「診断」およびその語形変化は、対象が所与の疾患または状態に罹っているか否かを推定もしくは決定すること、または所与の疾患もしくは状態の重症度(例えば、不顕性拒絶反応)を推定または決定することを指す。診断には、特定の疾患の有無を100%の精度で判断する能力は必要なく、さらには、特定の経過または結果が発生する可能性が、発生しない場合よりも高いということさえも必要ない。代わりに、「診断」は、対象が特定の疾患または状態に罹っていない確率と比較して、対象が特定の疾患または状態に罹っている確率が上昇していることを指す。
【0045】
一実施形態では、対象は、哺乳動物である。特定の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0046】
一実施形態では、対象は、移植された対象である。特定の実施形態では、対象は、腎移植レシピエントである。一実施形態では、腎移植レシピエントはさらに、腎ドナーの膵臓および/または十二指腸の一部をグラフトされていてもよい。
【0047】
一実施形態では、対象は、本発明の方法を実施する約1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月または1年前に腎臓をグラフトされた。
【0048】
一実施形態では、対象は、免疫抑制療法を受けている、すなわち、対象は、1つ以上の免疫抑制薬を投与されている。
【0049】
一実施形態では、対象は、腎移植片の機能悪化を示さない。一実施形態では、対象の血清中クレアチニンレベルは、3mg/dL未満、2.5mg/dL未満、2mg/dL未満である。一実施形態では、対象の血清中クレアチニンレベルは、約0.5~約2.0mg/dLの範囲である。
【0050】
一実施形態では、対象は、急性拒絶反応に罹っていない。
【0051】
一実施形態では、対象は、臨床的免疫寛容である腎移植レシピエントである。一実施形態では、対象は、臨床的免疫寛容である腎移植レシピエントである。腎移植レシピエントが臨床的免疫寛容であるか否かを決定する手段および方法は、当技術分野、特に国際公開第2018/015551号またはDanger et al.,2017(Kidney Int.91(6):14731481)に記載されている。
【0052】
一実施形態では、対象は、不顕性拒絶反応のリスクがある。不顕性拒絶反応のリスク因子の例としては、これらに限定されないが、免疫抑制療法、以前の急性拒絶反応、慢性同種移植片腎症(CAN)、組織不適合性、感作の程度、ドナーの年齢などが挙げられる。
【0053】
一実施形態では、方法は、対象からサンプルを提供するステップを含む。
【0054】
「サンプル」という用語は、一般に、バイオマーカーの発現レベルについて試験され得る対象からの任意のサンプルを指す。
【0055】
一実施形態では、サンプルは、身体組織または体液サンプルである。
【0056】
一実施形態では、サンプルは、身体組織サンプルである。対象から採取された身体組織サンプルは、「生検」とも呼ばれる。身体組織の例としては、これらに限定されないが、腎臓、肝臓、筋肉、心臓、肺、膵臓、脾臓、胸腺、食道、胃、腸、脳、神経、精巣、前立腺、卵巣、毛髪、皮膚、骨、乳房、子宮、膀胱、および脊髄が挙げられる。
【0057】
一実施形態では、サンプルは、腎組織サンプルである。
【0058】
一実施形態では、サンプルは、体液である。体液の例としては、これらに限定されないが、血液、血漿、血清、リンパ、腹水、嚢胞液、尿、胆汁、乳頭滲出液、関節液、気管支肺胞洗浄液、喀痰、羊水、腹水、脳脊髄液、胸水、心膜液、精液、唾液、汗、糞便、大便、および肺胞マクロファージが挙げられる。
【0059】
一実施形態では、サンプルは、血液、血漿、および血清を含むかまたはこれらからなる群から選択される体液である。
【0060】
一実施形態では、サンプルは、対象から事前に採取されたものである、すなわち、本発明の方法は、対象からサンプルを採取するステップを含まない。したがって、この実施形態によれば、本発明の方法は、非侵襲的方法または「in vitro法」である。
【0061】
一実施形態では、方法は、サンプル中のTCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するステップを含む。
【0062】
一実施形態では、方法は、サンプル中のTCL1Aのレベル、量、または濃度を決定するステップを含む。
【0063】
一実施形態では、方法は、サンプル中のAKR1C3のレベル、量、または濃度を決定するステップを含む。
【0064】
一実施形態では、方法は、サンプル中のTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を決定するステップを含む。
【0065】
一実施形態では、方法は、サンプル中のTCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される最大2つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するステップを含む。したがって、一実施形態では、方法は、サンプル中のTCL1Aおよび/またはAKR1C3以外のバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定することを含まない。特に、方法は、CD40、CTLA4、ID3、およびMZB1のいずれかのレベル、量、または濃度を決定することを含まない。
【0066】
一実施形態では、レベル、量、または濃度は、少なくとも1つのバイオマーカーの転写レベル(すなわち、mRNAの発現)または翻訳レベル(すなわち、対応するタンパク質の発現)に対応する。
【0067】
一実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度は、RNAレベル、すなわち転写レベルで決定される。バイオマーカーの転写レベルを決定する方法は、当技術分野で周知である。このような方法の例としては、これらに限定されないが、リアルタイム定量的PCR(qPCR)、RT PCR、RT qPCR、ハイブリダイゼーション技術(例えば、マイクロアレイ、NanoString(登録商標)法などを使用して)、ノーザンブロット、およびそれらの組み合わせ、例えば、これに限定されないが、RTPCRによって得られたアンプリコンのハイブリダイゼーション、シーケンシング(例えば、次世代DNAシーケンシングまたは「全トランスクリプトームショットガンシークエンシング」などとしても知られるRNAseq)などが挙げられる。
【0068】
一実施形態では、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度は、タンパク質レベル、すなわち翻訳レベルで決定される。バイオマーカーの翻訳レベルを決定するための方法は、当技術分野で周知である。このような方法の例としては、これらに限定されないが、免疫組織化学、マルチプレックス法(Luminex)、ウエスタンブロット、酵素免疫吸着検定法(ELISA)、サンドイッチELISA、フローサイトメトリー、蛍光連結免疫吸着検定法(FLISA)、酵素免疫検定法(EIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、質量分析法(例えば、タンデム質量分析法[MS/MS])、クロマトグラフィー質量分析法およびそれらの組み合わせ)などが挙げられる。
【0069】
一実施形態では、レベル、量、または濃度は、絶対的または相対的なレベル、量、または濃度に関して表すことができる。
【0070】
相対レベル、量、または濃度に関して表される場合、レベル、量、または濃度は、1つまたはいくつかの参照マーカーのレベル、量、または濃度に対して正規化される。「参照マーカー」は、「ハウスキーピングマーカー」とも呼ばれ得、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度がRNAレベルで決定される場合は、「ハウスキーピング遺伝子」であり得、または、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度がタンパク質レベルで決定される場合は、「ハウスキーピングタンパク質」であり得る。したがって、「ハウスキーピングマーカー」という用語は、構成的に発現され、基本的な維持および必須の細胞機能に必要な遺伝子またはタンパク質を指す。ハウスキーピングマーカーは通常、細胞または組織依存的で発現されず、ほとんどの場合、所与の生物体内のすべての細胞によって発現される。ハウスキーピングマーカーはまた、比較的安定した、または安定した発現を有し、したがって、それらは、対象のバイオマーカーのレベル、量、または濃度を正規化するための好適なマーカーとして作用する。ハウスキーピングマーカーおよびデータ正規化におけるそれらの使用は、当技術分野で周知である。
【0071】
一実施形態では、方法は、上記に記載のとおり、TCL1AおよびAKR1C3バイオマーカーを含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3バイオマーカーのうちの2つのレベル、量、または濃度によって複合スコアを決定するステップを含む。
【0072】
一実施形態では、複合スコア(以下「SCRスコア」)は、以下の式(1)を使用して確立される:
【数4】
(式中:
「β
i」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度の間の各予測子iの回帰係数を表す;
「X
i」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度の中の各予測子iの予測変数(独立変数、x変数、または入力変数とも称される)を表す;
「β
0」は、方程式の切片、すなわち予測変数がゼロに等しいときの基準の値を表す)。
【0073】
一実施形態では、各予測子iの回帰係数β
iは、次式(4)を使用して確立される:
【数5】
(式中:
「オッズ比
予測子」は、特定の予測子のオッズ比を表す)。
【0074】
本明細書で使用する「オッズ比」という用語は、2つの事象の間、特に予測子と所与の疾患または状態、すなわち不顕性拒絶反応との間の関連の強さを指す。換言すれば、オッズ比は、所与の疾患または状態のオッズ、すなわち、予測子の存在下での不顕性拒絶反応と、所与の疾患または状態の非存在下(すなわち、不顕性拒絶反応、またはその逆)での予測子のオッズとの比として定義することができる。オッズ比が1より大きい場合、2つの事象には正の相関がある。逆に、オッズ比が1未満の場合、2つの事象は、負の相関関係にある。
【0075】
オッズ比は、例えば、実施例の節に示すように、所与の疾患または状態、すなわち不顕性拒絶反応の診断を伴う各予測子の単変量または多変量ロジスティック回帰分析によって決定され得る。
【0076】
一実施形態では、オッズ比は、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズの比であり得る。
【0077】
式(1)を使用して確立されたSCRスコアは、以下の実施例1で実証されるように、概して、不顕性拒絶反応、すなわち、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)、および/またはsTCMR/sABMR混合型を診断するのに特に好適である。
【0078】
加えてまたはあるいは、方法は、以下によりSCRスコアを決定するステップを含む:
‐上述のように、TCL1AおよびAKR1C3バイオマーカーを含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカー、好ましくはTCL1AおよびAKR1C3バイオマーカーのうちの2つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度;
‐1つ、2つ、3つ、または4つの臨床パラメータ、好ましくは3つまたは4つの臨床パラメータ。
【0079】
一実施形態では、臨床パラメータは、(i)試験時の腎臓レシピエント対象の年齢、および(ii)移植時の腎臓レシピエント対象の年齢において選択されない。
【0080】
一実施形態では、臨床パラメータは、以下から選択される:
‐採血前の拒絶反応エピソードの経験(あり/なし);
‐レシピエントの性別(M/F);
‐採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取(あり/なし);
‐同種移植ランク、以前の移植の経験とも称される(以前の移植なし/以前の移植が1回またはそれ以上);および
‐HLA-A、-B、および/または-DRの不一致の数(0~3/>3)。
【0081】
一実施形態では、臨床パラメータは、(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験(あり/なし)、(ii)レシピエントの性別(M/F)、および(iii)採血時の免疫抑制剤(IS)の摂取(あり/なし)から選択される。
【0082】
一実施形態では、免疫抑制剤(IS)の摂取は、タクロリムスの摂取またはシクロスポリンA(CsA)の摂取である。一実施形態では、免疫抑制剤(IS)の摂取は、タクロリムスの摂取である。一実施形態では、免疫抑制剤(IS)の摂取は、シクロスポリンA(CsA)の摂取である。
【0083】
一実施形態では、SCRスコアは、上記の式(1)を使用して確立される(式中、
「βi」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子iの回帰係数を表す;
「Xi」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子iの予測変数を表す;
「β0」は、方程式の切片を表す)。
【0084】
一実施形態では、SCRスコアは、次式(2)を使用して確立される:
【数6】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
ISの摂取」、および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=以前の拒絶反応エピソードなし、1=以前の拒絶反応エピソードが少なくとも1つまたは複数ある、である;
「ISの摂取」は、採血時の免疫抑制剤の摂取を定義する予測変数を表す、0=CsAの摂取なしまたはタクロリムスの摂取あり、1=CsAの摂取ありまたはタクロリムスの摂取なし;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片、すなわち予測変数がゼロに等しいときの基準の値を表す)。
【0085】
一実施形態では、免疫抑制剤(IS)の摂取は、タクロリムスの摂取であり、式(2)は、以下のように読む:
【数7】
(式中:
「β
タクロリムスの摂取」は、予測子「採血時のタクロリムスの摂取」の回帰係数を表す;
「タクロリムスの摂取」は、採血時のタクロリムスの摂取を定義する予測変数を表し、0=タクロリムスの摂取あり、1=タクロリムスの摂取なしである)。
【0086】
一実施形態では、免疫抑制剤(IS)の摂取は、シクロスポリンA(CsA)の摂取であり、式(2)は、次のように読む:
【数8】
(式中:
「β
CsAの摂取」は、予測子「採血時のCsAの摂取」の回帰係数を表す;
「CsAの摂取」は、採血時のシクロスポリンAの摂取を定義する予測変数を表し、0=CsAの摂取なし、1=CsAの摂取である)。
【0087】
一実施形態では、オッズ比は、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比であり、オッズ比TCL1A、オッズ比AKR1C3、オッズ比レシピエントの性別、およびオッズ比タクロリムスの摂取が1未満である。
【0088】
一実施形態では、オッズ比が、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比であり、オッズ比以前の拒絶反応エピソードおよびオッズ比CsAの摂取は1より大きい。
【0089】
例示的な実施形態では、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比は、表3に定義されるとおりである。例として、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比は、表3に定義されている95%信頼レベル内にある。
【0090】
あるいは、オッズ比は、対象が不顕性拒絶反応に罹っていないオッズの比であってもよい。この実施形態によれば、不顕性拒絶反応に罹っている対象について、上記で定義されたオッズ比が逆転する、すなわち、オッズ比TCL1A、オッズ比AKR1C3、オッズ比レシピエントの性別、およびオッズ比タクロリムスの摂取が1より大きいこと、ならびにオッズ比以前の拒絶反応エピソードおよびオッズ比CsAの摂取が1未満であることが予想される。
【0091】
式(2)を使用して確立されたSCRスコアは、以下の実施例1で実証されるように、概して、不顕性拒絶反応、すなわち、不顕性T細胞媒介腎拒絶反応(sTCMR)、不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)、および/またはsTCMR/sABMR混合型を診断するのに特に好適である。
【0092】
一実施形態では、SCRスコアは、次式(3)を使用して確立される:
【数9】
(式中:
「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
同種移植ランク」、「β
HLA不一致」および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=「以前の拒絶反応エピソードなし」、1=「以前の拒絶反応エピソードが1つまたは複数ある」である;
「同種移植ランク」は、以前の移植の発生を定義する予測変数を表し、0=「以前の移植なし」、1=「1回または複数回の以前の移植あり」である;
「HLA不一致」は、ドナーとレシピエントのHLA不一致の発生を定義する予測変数を表し、0=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が3つ以下」、1=「HLA-A、-B、および/または-DR不一致が3つを超える」である;
「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
「β
0」は、方程式の切片を表す)。
【0093】
一実施形態では、オッズ比が、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比であり、オッズ比TCL1A、オッズ比AKR1C3、およびオッズ比レシピエントの性別が1未満である。
【0094】
一実施形態では、オッズ比は、不顕性拒絶反応に罹っている対象のオッズ比であり、オッズ比以前の拒絶エピソード、オッズ比同種移植ランク、およびオッズ比HLA不一致は、1より大きい。
【0095】
あるいは、オッズ比は、対象が不顕性拒絶反応に罹っていないオッズの比であってもよい。この実施形態によれば、不顕性拒絶反応に罹っている対象について上で定義されたオッズ比が逆転する、すなわち、オッズ比TCL1A、オッズ比AKR1C3、およびオッズ比レシピエントの性別が1より大きく、オッズ比以前の拒絶反応エピソード、オッズ比同種移植ランク、およびオッズ比HLA不一致が1未満であることが予想される。
【0096】
例示的な実施形態では、不顕性拒絶反応に罹っていない対象のオッズ比は、
図15Aに定義されているとおりである。
【0097】
式(3)を用いて確立されたSCRスコアは、以下の実施例2で実証されるように、不顕性拒絶反応の特定のサブタイプ、すなわち不顕性抗体媒介腎拒絶反応(sABMR)を診断するのに特に好適である。
【0098】
一実施形態では、方法は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度と比較するステップを含む。
【0099】
一実施形態では、参照対象は、腎移植前の対象自身である。
【0100】
一実施形態では、参照対象は、実質的に健康な対象、好ましくは腎移植を受けていない対象である。
【0101】
一実施形態では、参照対象は、不顕性拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエントである。
【0102】
数人の参照対象からの多数のサンプルを含めることによって、少なくとも1つのバイオマーカーの中央値および/または平均レベル、量、または濃度を計算することも考えられる。
【0103】
したがって、一実施形態では、本方法は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を、参照集団において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーの中央値および/または平均レベル、量、または濃度と比較するステップを含む。
【0104】
一実施形態では、参照集団は、2人以上、例えば2人、5人、10人、20人、30人、40人、50人またはそれ以上の実質的に健康な対象、好ましくは腎移植を受けていない2人以上の対象を含むか、またはそれらからなる。
【0105】
一実施形態では、参照集団は、不顕性拒絶反応に罹っていない2人以上、例えば、2人、5人、10人、20人、30人、40人、50人またはそれ以上の腎移植対象を含むか、またはそれらからなる。
【0106】
一実施形態では、方法は、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を以下:
-上記で定義された少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、もしくは濃度、または上記で定義された参照集団において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度の中央値および/または平均レベル;および
-不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、もしくは濃度、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーの中央値および/または平均レベル
と比較するステップを含む。
【0107】
加えて、または代わりに、方法は、複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップを含む。
【0108】
一実施形態では、参照対象は、腎移植前の対象自身である。
【0109】
一実施形態では、参照対象は、実質的に健康な対象、好ましくは腎移植を受けていない対象である。
【0110】
一実施形態では、参照対象は、不顕性拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエントである。
【0111】
複数の参照対象からの多数のサンプルを含めることにより、中央値および/または平均参照複合スコアを計算することも考えられる。
【0112】
したがって、一実施形態では、方法は、複合スコアを、参照集団において決定された中央値および/または平均参照複合スコアと比較するステップを含む。
【0113】
一実施形態では、参照集団は、2人以上、例えば2人、5人、10人、20人、30人、40人、50人またはそれ以上の実質的に健康な対象、好ましくは腎移植を受けていない2人以上の対象を含むか、またはそれらからなる。
【0114】
一実施形態では、参照集団は、不顕性拒絶反応に罹っていない2人以上、例えば、2人、5人、10人、20人、30人、40人、50人またはそれ以上の腎移植対象を含むか、またはそれらからなる。
【0115】
一実施形態では、方法は、複合スコアを以下:
‐上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコア、または上記で定義された参照集団において決定された中央値および/または平均参照複合スコア;ならびに
‐不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定された複合スコア、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定された中央値および/または平均複合スコア
と比較するステップを含む。
【0116】
一実施形態では、方法は、前のステップでの比較に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けるステップを含む。あるいは、方法は、前のステップでの比較に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けるステップを含んでもよい。
【0117】
一実施形態では、不顕性拒絶反応は、不顕性T細胞媒介拒絶反応(sTCMR)または不顕性抗体媒介拒絶反応(sABMR)である。一実施形態では、不顕性拒絶反応は、不顕性T細胞媒介拒絶反応である(sTCMR)である。一実施形態では、不顕性拒絶反応は、不顕性抗体媒介拒絶反応(sABMR)である。一実施形態では、不顕性拒絶反応は、sTCMR/sABMR混合型である。
【0118】
一実施形態では、TCL1AおよびAKR1C3のうちの少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、もしくは濃度が、上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、もしくは濃度より、または上記で定義した参照集団において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーの中央値および/または平均レベル、量、もしくは濃度よりも実質的に低い場合は、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けられる。
【0119】
一実施形態では、TCL1Aのレベル、量、または濃度が、上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定されたTCL1Aのレベル、量、もしくは濃度、または上記で定義した参照集団において決定されたTCL1Aの中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度よりも実質的に低い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けられる。
【0120】
一実施形態では、AKR1C3のレベル、量、または濃度が、上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定されたAKR1C3のレベル、量、もしくは濃度、または上記で定義した参照集団において決定されたAKR1C3の中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度よりも実質的に低い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けられる。
【0121】
一実施形態では、TCL1AおよびAKR1C3の両方のバイオマーカーのレベル、量、または濃度が、上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定されたTCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、もしくは濃度、または上記で定義した参照集団において決定されたTCL1AおよびAKR1C3の両方の中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度よりも実質的に低い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けられる。
【0122】
「実質的に低い」とは、所与のバイオマーカーの絶対的または相対的なレベル、量、または濃度が、少なくとも1人の参照対象または参照集団における同じバイオマーカーと比較して、統計学的に有意に減少している、例えば、少なくとも1人の参照対象または参照集団における同じバイオマーカーと比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、またはそれ以上減少していることを意味する。
【0123】
一実施形態では、TCL1AおよびAKR1C3のうちの少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度が、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、もしくは濃度、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーの中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度と実質的に等しいか、もしくはそれより高い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けられる。
【0124】
一実施形態では、TCL1Aのレベル、量、または濃度が、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定されたTCL1Aのレベル、量、もしくは濃度、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定されたTCL1Aの中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度と実質的に等しいか、もしくはそれより高い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けられる。
【0125】
一実施形態では、AKR1C3のレベル、量、または濃度が、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定されたAKR1C3のレベル、量、もしくは濃度、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定されたAKR1C3の中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度と実質的に等しいか、もしくはそれより高い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けられる。
【0126】
一実施形態では、TCL1AおよびAKR1C3の両方のバイオマーカーのレベル、量、または濃度が、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定されたTCL1AおよびAKR1C3の両方のレベル、量、もしくは濃度、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定されたTCL1AおよびAKR1C3の両方の中央値および/もしくは平均レベル、量、もしくは濃度と実質的に等しいか、もしくはそれより高い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けられる。
【0127】
「実質的に等しい」とは、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において、特定のバイオマーカーの絶対的または相対的なレベル、量、または濃度が、同じバイオマーカーのレベル、量、または濃度と統計学的に有意に異なっていないこと、例えば、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団における同じバイオマーカーのレベル、量、または濃度の±10%以内であることを意味する。
【0128】
「実質的に高い」とは、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において、特定のバイオマーカーの絶対的または相対的なレベル、量、または濃度が、同じバイオマーカーと比較して統計学的に有意に増加している、例えば、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において、同じバイオマーカーと比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、またはそれ以上増加していることを意味する。
【0129】
加えて、または代わりに、複合スコアが、上記で定義した少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアよりも実質的に高い場合、または上記で定義した参照集団において決定された中央値および/または平均参照複合スコアよりも実質的に高い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けられる。
【0130】
「実質的に高い」とは、複合スコアが、少なくとも1人の参照対象または参照集団の参照複合スコアと比較して、統計学的に有意に増加している、例えば、少なくとも1人の参照対象または参照集団の参照複合スコアと比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%またはそれ以上増加していることを意味する。
【0131】
一実施形態では、複合スコアが、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象において決定された複合スコア以下、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団において決定された中央値および/もしくは平均複合スコア以下である場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていないと結論付けられる。
【0132】
「実質的に等しい」とは、複合スコアが、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象、または、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団における複合スコアよりも統計学的に有意ではないこと、例えば、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団における複合スコアの±10%以内であることを意味する。
【0133】
「実質的に低い」とは、複合スコアが、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象、または、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団における複合スコアと比較して、統計学的に有意に減少していること、例えば、不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している少なくとも1人の対象、または不顕性拒絶反応に罹っていることが判明している対象の集団における複合スコアと比較して、10%、20%、30%、40%、50%またはそれ以上減少することを意味する。
【0134】
本発明はまた、それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を処置する方法にも関する。
【0135】
「処置」という用語およびその語形変化は、所与の疾患または状態の進行を阻止、阻害、遅延または逆転させるため、および/または所与の疾患もしくは状態の臨床症状を改善するため、および/または所与の疾患もしくは状態のさらなる臨床症状、例えば不顕性拒絶反応の出現を予防するために、対象に処置レジメンを施すことを指す。特に、不顕性拒絶反応は、移植片にとって有害であり得、処置しないままであると、慢性同種移植片腎症(CAN)、慢性間質性線維症および尿細管萎縮(tubular atrophy)、腎機能不全、クレアチニンクリアランスの低下、慢性拒絶反応、および最終的には移植片の生存期間の短縮に進行し得る。
【0136】
一実施形態では、方法は、上で詳述した方法を使用して、対象における不顕性拒絶反応を診断する第1のステップを含む。
【0137】
一実施形態では、本方法は、第1のステップにおいて対象が不顕性拒絶反応と診断された場合または診断されたときに、免疫抑制療法により対象を処置する第2のステップを含む。
【0138】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、以前に完了した免疫抑制療法を再開することを含む。
【0139】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、現在施されている免疫抑制療法の投与レジメンを増大させることを含む。
【0140】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、現在投与されている免疫抑制療法をより積極的な処置に変更することを含む。
【0141】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、現在投与されている免疫抑制療法に加えて、別の免疫抑制療法を投与することを含む。
【0142】
好適な免疫抑制療法の例は、本明細書の前半で十分に詳述されている。
【0143】
免疫抑制療法の例示的な処置プロトコルとして、腎移植レシピエントは、典型的には、タクロリムス(0.1mg/kg/日)、ミコフェノール酸モフェチル(2g/日)およびコルチコイド(1mg/kg/日)と併用したバシリキシマブの2回注射からなる導入処置を受け、コルチコイド処置は、処置終了まで5日ごとに10mgずつ徐々に減少させる。より積極的なプロトコルには、0日目からミコフェノール酸モフェチル(2g/日)およびコルチコステロイド(1mg/kg/日)を併用して、抗胸腺細胞グロブリン(例えば、0日目~7日目)、その後タクロリムス(0.1mg/kg/日;例えば、7日目から処置終了まで)の短期間のものが含まれ、コルチコイド処置は、処置終了まで5日ごとに10mgずつ徐々に減少させる。
【0144】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、例えば、血漿交換(PLEX)またはIgG分解酵素(イミフィダーゼなど)の投与により、また、任意でIVIg(静脈内免疫グロブリン)をさらに投与することにより、対象における免疫グロブリンの数を除去または減少させることを含む。この処置コースでは、対象が抗体媒介拒絶反応(sABMR)に罹っていると診断されたときに特に好適であり得る。
【0145】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、抗胸腺細胞グロブリン(ATG)および/またはT細胞枯渇抗体を投与することを含む。この処置コースでは、対象が抗体媒介拒絶反応(sABMR)に罹っていると診断されたときに特に好適であり得る。
【0146】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、対象の脾臓の外科的脾臓摘出術、脾臓塞栓術、および/または脾臓放射線照射を行うことを含む。
【0147】
一実施形態では、不顕性拒絶反応と診断された対象を処置することは、補体阻害剤を投与することを含む。補体阻害剤のいくつかの例としては、これらに限定されないが、C5阻害剤(例えば、抗C5抗体エクリズマブ)、またはC1エステラーゼ阻害剤が挙げられる。この処置コースは、対象が抗体媒介拒絶反応(sABMR)を有すると診断されたときに特に好適であり得る。
【0148】
sABMRに特有の処置については、Schinstock et al.,2020(Transplantation.104(5):911922))を参されたい。その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0149】
当業者であれば、これらの処置コースが排他的ではなく、医師の健全な医学的判断の範囲内で組み合わせることができることを容易に理解するであろう。
【0150】
本発明はまた、免疫抑制療法を受けている対象を、免疫抑制療法の中止または最小化の候補として同定するための方法にも関する。
【0151】
一実施形態では、方法は、上で詳述した方法を使用して、対象における不顕性拒絶反応を診断する第1のステップを含む。
【0152】
一実施形態では、本方法は、対象が第1のステップにおいて不顕性拒絶反応と診断されなかった場合または診断されなかったときに、好ましくは、さらに、対象が臨床的免疫寛容の腎移植レシピエントであると決定された場合または決定されたときに、対象における免疫抑制療法を軽減し、最終的に抑制する第2のステップを含む。腎移植レシピエントが臨床的免疫寛容であるか否かを決定する手段および方法は、当技術分野、特に国際公開第2018/015551号またはDanger et al.,2017(Kidney Int.91(6):14731481)に記載されている。
【0153】
本発明はまた、それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を診断するためのコンピュータシステムにも関する。本発明は、それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を診断するためのコンピュータ実装方法にも関する。
【0154】
本明細書で使用される場合、「コンピュータシステム」という用語は、そのようなデバイスが電子的、機械的、論理的、または仮想的な性質であるか否かに関係なく、情報を保存および処理できる、および/または保存された情報を使用してデバイス自体の動作または実行を制御できるいずれかのおよびすべてのデバイスに関する。「コンピュータシステム」という用語は、1つのコンピュータを指すこともできるが、コンピュータシステム上でまたはコンピュータシステムによって実行されると説明されている機能を実行するために、協働する複数のコンピュータも含む。コンピュータシステムを使用して実装される方法は、「コンピュータ実装方法」と称する。
【0155】
一実施形態では、本発明によるコンピュータシステムは、
(ii)少なくとも1つのプロセッサと、
(iii)プロセッサによって読み取り可能なコードを保存する少なくとも1つのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体とを含む。
【0156】
本明細書で使用される場合、「プロセッサ」という用語は、例えば、記憶媒体からアクセスする命令、コード、コンピュータプログラム、およびスクリプトを実行するなど、少なくとも1つの命令ワードで動作を実行することが可能な任意の集積回路または他の電子デバイスを含むことを意味する。しかし、「プロセッサ」という用語は、ソフトウェアを実行できるハードウェアに限定するものと解釈されるものではなく、例えば、コンピュータ、マイクロプロセッサ、集積回路、またはプログラマブルロジックデバイス(PLD)を含み得る一般的な意味での処理デバイスを指す。プロセッサは、コンピュータグラフィックスおよび画像処理または他の機能に利用されるか否かに関係なく、1つ以上のグラフィックス処理ユニット(GPU)を含んでもよい。さらに、関連する機能および/または結果として生じる機能を実行することを可能にする命令および/またはデータは、プロセッサ読み取り可能な任意の媒体、例えば、これらに限定されないが、集積回路、ハードディスク、磁気テープ(フロッピーディスクおよびzipディスケットなど)、光ディスク(Blu-ray、CDおよびデジタルバーサタイルディスク)、フラッシュメモリ(メモリカード、およびUSBフラッシュドライブ)、ランダムアクセスメモリ(RAM)(ダイナミックRAMおよびスタティックRAMを含む)、読み取り専用メモリ(ROM)またはキャッシュに保存され得る。命令は、特に、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはそれらの任意の組み合わせに保存され得る。
【0157】
プロセッサの例としては、これらに限定されないが、中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、汎用マイクロプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルロジックアレイ(FPGA)、および他の同等の集積論理回路または個別論理回路が挙げられる。
【0158】
一実施形態では、本発明によるコンピュータシステムは、TCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度に関連する実験的に決定されたシグナルを受信するスキャナーなどに連結される。
【0159】
あるいは、サンプル発現レベルにおけるTCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度は、任意により、上記で定義した1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータと共に、他の手段で入力することも可能である。
【0160】
本発明はまた、プロセッサによって実行されたときに、本明細書に記載のコンピュータ実装方法を実行するように適合させたプロセッサによって読み取り可能なソフトウェアコードを含むコンピュータプログラムにも関する。
【0161】
一実施形態では、本発明によるコンピュータシステムは、少なくとも1つのコンピュータプログラムを含む。コンピュータプログラムは、指定されたタスクを実行するために書かれた、デジタル処理デバイスのCPUで実行可能な一連の命令を含み得る。コンピュータ可読命令は、特定のタスクを実行する、または特定の抽象データ型を実装する、関数、オブジェクト、アプリケーションプログラミングインターフェース(API)、データ構造などのプログラムモジュールとして実装され得る。コンピュータプログラムは、様々なバージョンの様々な言語で書かれてもよい。
【0162】
一実施形態では、コンピュータプログラムは、部分的または全体的に、1つ以上のウェブアプリケーション、1つ以上のモバイルアプリケーション、1つ以上のスタンドアロンアプリケーション、1つ以上のウェブブラウザプラグイン、拡張子、アドイン、またはアドオン、またはそれらの組み合わせを含む。
【0163】
本発明は、プロセッサによって読み取り可能なコードを含むコンピュータ読み取り可能な記憶媒体にも関し、これは、プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに本明細書に記載のコンピュータ実装方法のステップを実施させる。
【0164】
コンピュータ読み取り可能な記憶媒体の例としては、これらに限定されないが、集積回路、ハードディスク、磁気テープ(フロッピーディスクおよびzipディスケットなど)、光ディスク(Blu-ray、CDおよびデジタルバーサタイルディスク)、フラッシュメモリ(メモリカード、およびUSBフラッシュドライブ)、ランダムアクセスメモリ(RAM)(ダイナミックRAMおよびスタティックRAMを含む)、読み取りメモリ(ROM)またはキャッシュが挙げられる。
【0165】
一実施形態では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、非一時的コンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。
【0166】
一実施形態では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存されたコードは、コンピュータシステムのプロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.TCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信すること、
b.各入力レベルを整理および/または変更して、確率スコア、フィッティングスコア、および分類ラベルのうちの少なくとも1つを導出することによって、入力レベル、量、または濃度を分析および変換すること、
c.出力を生成することであって、出力が、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つである、生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる。
【0167】
一実施形態では、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つは、上記で定義された式(1)による複合スコア「SCRスコア」である。
【0168】
一実施形態では、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存されたコードは、コンピュータシステムのプロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.TCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、上記で定義された1つ、2つ、3つ、または4つの臨床パラメータ、好ましくは3つまたは4つの臨床パラメータの値を入力すること、
b.各入力を整理および/または変更して、確率スコア、フィッティングスコア、および分類ラベルのうちの少なくとも1つを導出することで、入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析および変換すること、
c.出力を生成することであって、ここで、出力は、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つである、生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる。
【0169】
一実施形態では、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つは、上で定義された式(2)による複合スコア「SCRスコア」である。
【0170】
一実施形態では、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つは、上で定義された式(3)による複合スコア「SCRスコア」である。
【0171】
本発明は、部品キットにも関する。
【0172】
本明細書で使用される場合、用語「部品キット」は、本発明による方法を実施するための1つ以上の手段または試薬が充填された1つ以上の容器を含む製品を指す。
【0173】
一実施形態では、部品キットは、サンプル中のTCL1AおよびAKR1C3を含むかまたはそれらからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するための少なくとも1つの手段を含む。このような手段は、例えば、少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を、RNAまたはタンパク質レベルで決定するためのプローブであり得る。
【0174】
一実施形態では、キットは、部品キットは、上記に記載の少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するための少なくとも1つの手段を含む。このような手段は、例えば、RNAまたはタンパク質レベルで、少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するためのプローブであり得る。
【0175】
一実施形態では、部品キットは、TCL1AおよびAKR1C3以外の他の任意のバイオマーカー、および任意により少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段を含まない。特にキットは、部品キットは、CD40、CTLA4、ID3、およびMZB1のいずれかのレベル、量、または濃度を決定するための手段を含まない。
【0176】
少なくとも1つのバイオマーカーおよび/または少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度をRNAレベルで決定するためのプローブの例としては、これらに限定されないが、核酸プローブ(例えば、TaqMan(商標)プローブ、NanoStringプローブ、Scorpions(登録商標)プローブ、Molecular Beacon、およびLNA(登録商標)(Locked Nucleic Acid)プローブ)が挙げられる。
【0177】
少なくとも1つのバイオマーカーおよび/または少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度をタンパク質レベルで決定するためのプローブの例としては、これらに限定されないが、抗体(例えば、抗AKR1C3抗体および抗TCL1A抗体)およびアプタマーが挙げられる。
【0178】
一実施形態では、プローブは、例えばアレイなどの固体支持体上に固定化され得る。
【0179】
一実施形態では、プローブは、少なくとも1つの検出可能な標識を含む。好適な検出可能な標識の例としては、これらに限定されないが、FAM(5または6カルボキシフルオレセイン)、HEX、CY5、VIC、NED、フルオレセイン、FITC、IRD700/800、CY3、CY3.5、CY5.5、TET(5テトラクロロフルオレセイン)、TAMRA、JOE、ROX、BODIPY TMR、オレゴングリーン、ローダミングリーン、ローダミングリーンレッド、テキサスレッド、ヤキマイエロー、Alexa Fluor PET、BIOSEARCH BLUE(商標)、MARINA BLUE(登録商標)、BOTHELL BLUE(登録商標)、ALEXA FLUOR(登録商標)、350 FAM(商標)、SYBR(登録商標)Green 1、EvaGreen(商標)、ALEXA FLUOR(登録商標)488 JOE(商標)、25 VIC(商標)、HEX(商標)、TET(商標)、CAL FLUOR(登録商標)Gold 540、YAKIMA YELLOW(登録商標)、ROX(商標)、CAL FLUOR(登録商標)Red 610、Cy3.5(商標)、TEXAS RED(登録商標)、ALEXA FLUOR(登録商標)568 CRY5(商標)QUASAR(商標)670、LIGHTCYCLER RED640(登録商標)、ALEXA FLUOR(登録商標)633QUASAR(商標)705、LIGHTCYCLER RED705(登録商標)、ALEXA FLUOR(登録商標)680、SYT0(登録商標)9、LC GREEN(登録商標)、LC GREEN(登録商標)Plus+、およびEVAGREEN(商標)が上げられる。
【0180】
本明細書では以下も開示される:
【0181】
E1:それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を診断する方法であって
a)対象から以前に採取されたサンプル中の、AKR1C3およびTCL1Aからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するステップと;
b)少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度と比較するステップと;
c)少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度が、少なくとも1人の参照対象において決定された同じ少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度よりも統計学的に有意に低い場合、対象は、不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと;
を含む方法。
【0182】
E2:ステップa)が、対象から以前に採取されたサンプル中のAKR1C3のレベル、量、または濃度を決定することを含む、E1に記載の方法。
【0183】
E3:ステップa)が、対象から以前に採取されたサンプル中のTCL1Aのレベル、量、または濃度を決定することを含む、E1に記載の方法。
【0184】
E4:ステップa)が、対象から以前に採取されたサンプル中のAKR1C3およびTCL1Aの両方のレベル、量、または濃度を決定することを含む、E1~E3のいずれか1つに記載の方法。
【0185】
E5:少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度は、絶対的または相対的なレベル、量、または濃度に関して表され、;好ましくは、1つまたはいくつかの参照マーカーのレベル、量、または濃度に対して正規化された相対レベル、量、または濃度に関して表される、E1~E4のいずれか1つに記載の方法。
【0186】
E6:
a)
‐AKR1C3およびTCL1Aからなる群、好ましくはAKR1C3およびTCL1Aの両方からなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度;および
‐1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータ
によって複合スコアを決定するステップと、
b)複合スコアを、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアと比較するステップと;
c)複合スコアが、少なくとも1人の参照対象において決定された参照複合スコアより実質的に高い場合、対象が不顕性拒絶反応に罹っていると結論付けるステップと
を含む、E1~E5のいずれか1つに記載の方法。
【0187】
E7:臨床パラメータが、(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、(ii)レシピエントの性別、および(iii)採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取から選択される、E6に記載の方法。
【0188】
E8:複合スコアが以下の式を使用して確立される、E6またはE7に記載の方法:
【数10】
(式中:
‐「β
TCL1A」、「β
AKR1C3」、「β
以前の拒絶反応エピソード」、「β
CsAの摂取」、および「β
レシピエントの性別」は、バイオマーカーのレベル、量、または濃度と臨床パラメータにおける各予測子の回帰係数を表す;
‐「以前の拒絶反応エピソード」は、採血前の拒絶反応エピソードの経験を定義する予測変数を表し、0=以前の拒絶反応エピソードなし、1=以前の拒絶反応エピソードが少なくとも1つまたは複数ある、である;
‐「CsAの摂取」は、採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取を定義する予測変数を表し、0=CsAの摂取なし、1=CsAの摂取である;
‐「レシピエントの性別」は、移植レシピエントの性別を定義する予測変数を表し、0=「女性」、1=「男性」である;
‐「Expr(TCL1A)」および「Expr(AKR1C3)」は、それぞれTCL1AおよびAKR1C3のレベル、量、または濃度を定義する予測変数を表す;
‐「β
0」は、方程式の切片を表す)。
【0189】
E9:少なくとも1人の参照対象が、腎移植を受けていない対象および/または不顕性拒絶反応に罹っていない腎移植レシピエントである、E1~E8のいずれか1つに記載の方法。
【0190】
E10:少なくとも1人の参照対象が、腎移植前の対象自身である、E1~E8のいずれか1つに記載の方法。
【0191】
E11:少なくとも1人の参照対象が、2人以上の参照対象を含む参照集団である、E1~E10のいずれか1つに記載の方法。
【0192】
E12:本明細書において、それを必要とする対象における不顕性拒絶反応を診断するためのコンピュータシステムであって、
i)少なくとも1つのプロセッサと、
ii)プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.AKR1C3およびTCL1Aからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信すること、
b.各入力レベルを整理および/または変更して、確率スコア、フィッティングスコア、および分類ラベルのうちの少なくとも1つを導出することによって、入力レベル、量、または濃度を分析および変換すること、
c.出力を生成することであって、ここで、出力は、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つである、生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供すること
を実行させる、プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードを保存する少なくとも1つの記憶媒体
とを含む、コンピュータシステムが開示される。
【0193】
E13:プロセッサによって読み取り可能な少なくとも1つのコードが、プロセッサによって実行されたときに、プロセッサに:
a.AKR1C3およびTCL1Aからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーの入力レベル、量、または濃度を受信し、(i)採血前の拒絶反応エピソードの経験、(ii)レシピエントの性別、および(iii)採血時のシクロスポリンA(CsA)の摂取から選択される1つ、2つ、または好ましくは3つの臨床パラメータの値を入力すること:
b.各入力を整理および/または変更して、確率スコア、フィッティングスコア、および分類ラベルのうちの少なくとも1つを導出することで、入力レベル、量、または濃度、および入力値を分析および変換すること、
c.出力を生成することであって、ここで、出力は、分類ラベル、フィッティングスコア、および確率スコアのうちの少なくとも1つである、生成すること、ならびに
d.出力に基づいて、対象が不顕性拒絶反応に罹っているか否かの診断を提供することを実行させる、E12に記載のコンピュータシステム。
【0194】
E14:前記分類ラベル、前記フィッティングスコア、および前記確率スコアのうちの少なくとも1つが、請求項8に記載の複合スコアである、E13に記載のコンピュータシステム。
【0195】
E15:AKR1C3およびTCL1Aからなる群から選択される少なくとも1つのバイオマーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段、および任意により少なくとも1つの参照マーカーのレベル、量、または濃度を決定するための手段を含む、E1~E11のいずれか1つに記載の方法を実施するための部品キット。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【
図1】この試験の患者の選択基準を示すフロー図である。
【
図2】qPCR遺伝子発現によって安定した機能を有する患者の評価された450の生検の組織学的診断を表す図である。2015年バンフ分類による腎生検の組織学的特徴(Loupy etal.,2017.AmJTransplant.17(1):2841)、6つの組織学的分類(正常、iIFTA、境界領域、その他、液性および細胞性拒絶反応)および2つの群(NRおよびSCR)を上のパネルで色分けする。下のパネルには、cSoTを構成する6つの遺伝子のqPCR測定からのスケーリングされた-ΔΔCt値を、高い遺伝子発現および低い遺伝子発現を黄色および青色で表す。
【
図3A-3B】2つのグラフのセットを示し、1~2年のcSoTスコア値が、腎機能(MDRD)に関連することを示す。
図3A:450人の患者において、rピアソン相関によって示されるように、cSoTスコアは、移植後12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、および48ヶ月の腎機能(MDRD式、単位mL/min/1.73m
2)と有意に関連している。P値と分析されたペアの数をそれぞれ棒グラフの上および中に示す。
図3B:ドットプロットは、cSoTスコア値と対応させて、移植後12ヶ月の機能(MDRD)を表す。
【
図4A-4B】は、NR群およびSCR群(
図4A)ならびに6つの組織学群(
図4B)のそれぞれにおけるcSoTスコアを表す2つのバイオリンプロットのセットである。NRとSCRを比較する多重検定のために補正したStudentのt検定からのp値(
図4A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図5A-5B】NRおよびSCR群(
図5A)ならびに6つの組織学群(
図5B)のそれぞれにおけるAKR1C3発現を表す2つのバイオリンプロットのセットである。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値を表す。NRとSCRを比較する多重検定用に補正されたスチューデントt検定からのp値(
図5A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図6A-6B】NRおよびSCR群(
図6A)ならびに6つの組織学群(
図6B)のそれぞれにおけるTCL1A発現を表す2つのバイオリンプロットのセットである。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値を表す。NRとSCRを比較する多重検定のために補正したスチューデントt検定からのp値(
図6A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図7A-7B】NRおよびSCR群(
図7A)ならびに6つの組織学群のそれぞれ(
図7B)における移植後12ヶ月の機能(MDRD式、単位mL/min/1.73m
2)を表す2つのバイオリンプロットのセットを示す。NRとSCRを比較する多重検定のために補正したスチューデントt検定からのp値(
図7A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図8A-8D】原因を調べる生検および/または1年間の血清中クレアチンレベルが160μmol/Lを超えた150人の患者の6つの組織学群のそれぞれにおける、cSoTスコア(
図8A)、AKR1C3発現(
図8B)、TCL1A発現(
図8C)および移植後12ヶ月の機能(MDRD式、単位mL/min/1.73m
2)(
図8D)を表す4つのバイオリンプロットのセットを示す。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値を表す。正常組織群と他の組織学群を比較したダンの事後検定を用いたクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図9】SRCリスクのロジスティック回帰モデルをまとめたフォレストプロットである。値は、オッズ比を示し、
*および
***は、それぞれp値<0.05および<0.001を表す。
【
図10A-10B】t検定p値を有するNR患者対SCR患者の複合スコア(SCR-s)値を示すバイオリンプロット(
図10A)と、SCR-sの特異度および感度を示すROC曲線(太い黒の曲線)、3つの臨床パラメータ(ロジスティック回帰)(斜線の曲線)、および移植後12ヶ月の機能(灰色の曲線)(
図10B)を示す2つのグラフのセットである。元のサンプルと同じ数の対照および症例によるブートストラップ検定を使用したROC曲線比較からのp値を示す。
【
図11A-11C】複合スコアSCR-sにより、sABMR患者およびsTCMR患者をNR患者と識別できることを示す3つのグラフのセットである。バイオリンプロットは、正常とsABMRおよびsTCMRとを比較するダンの事後検定を伴うクラスカル=ウォリスによる、NRとsABMR患者およびsTCMR患者とを比較するSCR-s値を示す(
図11A)。正常とsABMR(
図11B)および正常とsTCMR(
図11C)を比較する対応するROC曲線を、AUCと共に示す。
【
図12A-12B】NRおよびSCR群(
図12A)ならびに6つの組織学群(
図12B)のそれぞれにおけるAKR1C3発現を表す2つのバイオリンプロットのセットである。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値およびNanoString尺度の正規化されたカウントのlog
2を表す。NRとSCRを比較する多重検定用に補正されたスチューデントt検定からのp値(
図12A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図13A-13B】NRおよびSCR群(
図13A)および6つの組織学群(
図13B)のそれぞれにおけるTCL1A発現を表す2つのバイオリンプロットのセットである。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値およびNanoString尺度の正規化されたカウントのlog
2を表す。NRとSCRを比較する多重検定のために補正されたスチューデントt検定からのp値(
図13A)、および正常群と他の群を比較するダンの事後検定を使用したクラスカル=ウォリスのp値を示す。
【
図14A-14D】cSoT(
図14A)、AKR1C3(
図14B)およびTCL1A(
図14C)発現レベルが、他の患者と比較して、sAMR患者からの血液中で有意に減少し、腎機能(MDRD式、単位mL/min/1.73m
2)は、2つの群間で有意差がない(
図14D)ことを示す4つのバイオリンプロットのセットを示す。遺伝子発現は、qPCR測定からの-ΔΔCt値を表す。2つの群を比較するマン・ホイットニー検定のp値を示す。
【
図15A-15B】4つの臨床パラメータおよび2つの遺伝子が、移植1年後にsAMRに罹っていない患者の同定を可能にすることを示す一連のグラフである。
図15Aのフォレストプロットには、sABMR-sのロジスティック回帰モデルを要約する。数値は、オッズ比を示し、
*、
**、
***は、それぞれp値<0.05、<0.01、<0.001を表す。
図15Bのバイオリンプロットは、qPCR(左)またはNanoString(右)を使用して、第1コホートにおけるマン・ホイットニーp値により、他の患者と比較したsABMRのsABMR-s値を示す。点線は、最適な閾値を示す(qPCR式およびNanoString式に関してそれぞれ2.40および3.45)。
【
図16A-16C】血液の遺伝子発現が測定方法に依存しないことを実証するグラフのセットを示す。2つのバイオリンプロットは、他の群と比較して、sABMR群おけるAKR1C3発現(
図16A)およびTCL1A発現(
図16B)を表す。個々のqPCRを使用してNanoString値と比較したAKR1C3およびTCL1A発現を
図16Cに示す。遺伝子発現は、qPCR測定の場合は-ΔΔCt値、NanoString測定の場合は正規化カウントのlog2で表される。sABMRと他のsABMRを比較するマン・ホイットニー検定のp値を示す。
【
図17A-17D】免疫抑制処置が、sABMR-sの識別能力を変化させないことを示す、4つのバイオリンプロットのセットである。バイオリンプロットは、患者がタクロリムス(
図17A)、コルチコステロイド(
図17B)、抗増殖剤(
図17C)、または枯渇導入処置(
図17D)を摂取しているか否かに応じて、他の患者と比較したsABMR患者のsABMR-s値を示す。点線は、最適な閾値(2.40)を示す。クラスカル=ウォリス検定およびダンの事後検定のp値を示す。
【0197】
実施例
本発明を、以下の実施例によってさらに説明する。
【0198】
実施例1
材料および方法
試験集団
この非介入研究プロジェクトは、University Hospital of Nantes(France)、ParisNecker Hospital(France)およびUniversity Hospital of Lyon(France)における腎移植患者の追跡調査を含んだ。これらのデータは、多施設DIVATデータベースに前向きに収集され、French「National Commission on Informatics and Liberty」[CNIL](DR2025087 N 914184,Feb. 15, 2015)およびthe French Ministry of Higher Education and Research(file 13.334cohort DIVAT RC12_0452,www.divat.fr)によって承認された。
【0199】
各患者について、移植から1年後のサーベイランス生検の際に、PAXgene(商標)チューブ(PreAnalytix,Qiagen,Hilden,Germany)に血液サンプルを採取した。サンプルを、参加した3つの病院のlocal Biological Resource Center(CRB)に保管し、共通のソフトウェア上で仮想的に相互利用した(CENTAURE biocollectionは、2008年8月13日以降、N PFS08017の下で、Ministry of Researchに宣言した。www.fondationcentaure.org)。各サンプルは、DIVATデータベースの臨床データに関連する。すべての患者について書面による同意を得た。報告されている臨床研究活動は、イスタンブール宣言の原則と一致しており、University Hospital of Nantesの推奨実践に沿っている。
【0200】
合計600人の単独の患者および一連の患者が、移植後1年の時点で、PAXgene(商標)血液サンプルとサーベイランス生検との組み合わせによる選択基準を満たした。これら600人の患者のうち、450人は、1年後(血清中クレアチニンレベルが160μmol/L未満;平均eGFR(MDRD)=57.79±14.86mL/min/1.73m
2)およびプロトコル生検において良好な機能を示し、SCRの非侵襲性バイオマーカーの恩恵を受けるが、150人の患者が、適応症の生検を受け、160μmol/Lを超える1年血清中クレアチニン値を有した(
図1)。臨床的特徴を表1に要約する:成人、2008年1月から2016年1月の間に腎移植を受け、ABO適合性、心臓の鼓動があるドナーまたは死亡したドナーからの腎移植。多臓器移植を受けた患者を含めなかった。入手可能なデータは、レシピエントの特徴(年齢、性別、糖尿病歴、心血管疾患歴および悪性腫瘍歴、初期の腎疾患(再発の有無)、腎代替療法およびサイトメガロウイルス(CMV)血清学)を含んだ。ベースライン移植パラメータは、移植ランク、低温虚血時間、HLA-A-B-DR不適合の数、移植前ドナー特異的抗体(DSA)、導入療法(枯渇型と非枯渇型)および移植片機能遅延(DGF、術後1週間以内の透析の必要性によって定義される)であった。ドナーの特徴は、年齢、性別、ドナーの種類(生存または死亡)、および最後の血清中クレアチニンレベルに関係した。移植後1年目に収集したパラメータは、移植後3ヶ月および12ヶ月の血清中クレアチニンレベル、拒絶反応数、12ヶ月後の維持処置(シクロスポリンA(CsA)、タクロリムス、mTORi、MMF/MPA、ステロイド)およびt移植後12ヶ月でのde novoDSAの存在であった。追跡調査およびデータ収集は、透析への逆戻り、死亡、または再移植時に中止する。
【0201】
表1:450人の移植患者の特徴
表1は、選択基準を満たし、対応のあるプロトコル生検を受け、移植後1年で正常な機能(血清中クレアチニンレベル<160μmol/L)を伴う血液RNAサンプルを有する450人の患者の臨床特徴を示す。
【表1】
【0202】
生検の評価
腎生検を、2015年のバンフ分類に従って、本発明者らの施設の腎臓病理学者によって解釈し、再検討した(Loupy etal.,2017.AmJTransplant.17(1):2841)。450のプロトコル生検を2つの群に分類した(
図1および
図2)。
(1)SCR群(SCR、n=45):SCRのエビデンスを有する生検、抗体(sABMR、n=33)媒介拒絶反応またはT細胞(sTCMR、n=12)媒介拒絶反応のいずれかを示し、患者は、それに応じて処置を受けた;
(2)非拒絶反応群(NR、n=405):生検間質性線維症および尿細管萎縮(IFTA)および炎症性孤立性IFTAグレード1(iIFTA)を示す、正常および正常以下の組織学を有する生検生検をプールし、正常な生検とみなした(正常、n=342);グレード2および3の炎症を伴うIFTAを有する生検(iFIAT、n=9)、患者が処置を受けていない境界領域の変化を有する生検(境界線、n=18)、および他の病変、例えば再発性糸球体腎炎(n=5)またはde novo糸球体腎炎(n=3)、BKウイルス腎症(n=2)、およびCNI毒性(n=1)を伴う生検(その他、n=36)。
【0203】
RNAの単離
末梢血サンプルを、PAXgene(商標)チューブ(PreAnalytix)に収集し、保管し、80℃で発送した。総RNAの抽出および精製は、University Hospital of NantesのCRBで、製造業者のプロトコルに従って、PAXgene(商標)Blood miRNA Kit(Qiagen,Hilden,Germany)を使用して実施した。Nanodrop ND-1000を使用して総RNAを定量し、500ngをリアルタイム定量PCR(qPCR)およびNanoString法に使用した。
【0204】
cSoTスコアの遺伝子発現
qPCRのために、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific, Waltham;MA,USA)を使用して、cDNAを合成した。TaqMan(登録商標)Fast Advancedマスターミックスを、StepOnePlus(商標)リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)により、最終容量10μLを用いて、使用した。遺伝子発現は、市販のTaqMan(登録商標)プローブ(表2に記載)を用いて評価し、B2MおよびHPRT1参照遺伝子の定量サイクル値(Cq)の幾何平均によって正規化した。遺伝子発現を二連で実行し、0.5サイクルを超える差または35を超えるCqを有する遺伝子発現を再度測定し、矛盾する場合は、廃棄した。末梢血白血球からの総RNAの市販サンプル(Takara Bio Europe SAS、SaintGermainenLaye,France)をキャリブレーターとして使用して、2-ΔΔCt法に従って遺伝子発現を計算した。
【0205】
表2:NanoStringおよびTaqMan(登録商標)情報を使用して解析した遺伝子。
測定した13個の遺伝子について、TtaqMan(登録商標)プローブ参照(Thermo Fisher Scientific)およびNanoString標的配列を示す。
【表2】
【0206】
NanoString PlexSet(商標)Technology(NanoString Technologies,Seattle,WA,USA)を使用して、製造業者の説明書に従って、6つの遺伝子(AKR1C3、CD40、CTLA4、ID3、MZB1、およびTCL1A)および6つの参照遺伝子を測定した。MS4A1遺伝子(CD20をコードする)も並行して測定した。
【0207】
これらの6つの遺伝子は、これら6つの遺伝子の発現レベルと2つの臨床パラメータ(移植時および採血時の移植患者の年齢)を含む、腎移植レシピエントにおける自然発生の臨床的免疫寛容(すなわち、複数年にもわたる免疫抑制のない安定した許容可能な移植片機能)に関連する複合スコア(cSoT)について記載する、本発明者らによる以前の研究(国際公開第2018/015551号;Danger et al.,2017.KidneyInt.91(6):14731481)に基づいて選択された。
【0208】
目的の遺伝子の捕捉プローブは、NanoString supportによって設計され、Integrated DNA Technologies(IDT,Coralville,IA)によって合成された。滴定実験により、プロバイダーの推奨に従って、カートリッジシグナルを飽和させないように、500ngの総RNA投入量を選択して、非標識プローブを使用して、3つの高発現遺伝子(ACT、B2M、GAPDH)の99%のシグナル減衰を実施した。2つのロットの試薬間のキャリブレーションを、qPCRに使用される一般的なキャリブレーターサンプルによりNanoString supportによって実施した。ID3値は、以下のように計算した発現閾値を下回っていたため、廃棄した:
【数11】
【0209】
6つの参照遺伝子(ACT、B2M、GAPDH、HPRT1、TUBA4A、およびYWHAZ)の幾何平均を使用して、NanoString nSolver(商標)ソフトウェア4.0を使用して遺伝子発現を正規化した。品質管理が不良で、値が発現閾値を下回るサンプルは、廃棄した。反復実験のサンプルについては、相関関係が0.95を超えた場合に、発現値の平均を計算した。正規化されたカウントのLog2または-ΔΔCtを、それぞれNanoString値およびqPCR値の下流の分析に使用した。
【0210】
統計分析
2つの群の比較を、30を超えるサンプルによるスチューデントt検定を使用して実施し、複数群の比較を、連続変数についてはノンパラメトリッククラスカル=ウォリスとダンの事後検定を使用して実施し、カテゴリー変数については、χ2検定またはフィッシャーの直接確率検定を使用して実施した。ピアソン相関を使用して、連続データ間の関係を評価した。段階回帰を使用して組織学的群と説明変数との間の関係を評価するためにロジスティック回帰を構築し、赤池情報量基準(AIC)を使用して比較した。適合性の欠如の非存在を、重み付けされていない二乗和検定を使用して評価した(Hosmer et al.,1997.StatMed.16(9):96580)(パッケージrmsを使用)。受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)、および95%信頼区間(CI)を使用して、モデルの性能を評価し、元のサンプル(パッケージpROC)と同じ数の対照および症例を使用したブートストラップ検定(n=1000)を使用して、ROC曲線の比較を実行した(Robin et al.,2011.BMC Bioinformatics.12:77)。内部検証を、caretパッケージを用いて、ブートストラップ(n=1000)によって実施した(Steyerberg et al.,2001.JClinEpidemiol.54(8):77481)。適切な場合には、多重検定を、Benjamini-Hochberg法の補正により補正した。分析を、R4.0.3およびGraphPad Prism v.9(GraphPad Software,La Jolla,CA,USA)を使用して実施した。
【0211】
結果
移植患者コホートの人口統計学的説明
選択基準を満たし、移植後1年でプロトコル生検と血液RNAサンプルをペアで採取し、血清中クレアチニンレベルが160μmol/L未満であった450人の腎移植患者の臨床的特徴を表1に要約する。患者は、主にカルシニューリン阻害剤(CNI:93.3%;主にタクロリムス:85.1%)、抗増殖剤(86.0%、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、ミコフェノール酸(MPA)またはアザチオプリンを含む)、およびコルチコステロイドレジメン(74.4%)による標準維持免疫抑制療法を受けた。74人の患者(16.4%)が移植時に抗HLA DSAを有し、89人(19.78%)が移植の1年後にDSAを示した。
【0212】
cSoTスコアは、SCR患者では、移植後1年で低下する。
移植後1年において、良好な機能(血清中クレアチニンレベルが160μmol/L未満)を有する450人の患者において、本発明者らは、cSoTスコア(国際公開第2018/015551号およびDange et al.,2017.Kidney Int.91(6):14731481に記載)が、移植後12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月、および48ヶ月で、腎機能(MDRD)に有意に関連する(p<0.01))(
図3Aおよび
図3B)ことを見出した。この分類により、本発明者らは、NR患者と比較して、SCR患者の血液中では、cSoTスコアが顕著に低下しており(調整p=0.013、
図4Aおよび4B)、ROC AUCが0.615(95%CI=[0.5300.700])であることを見出した。
【0213】
cSoTスコアから、SCRを示す可能性が低い患者を診断するには、AKR1C3およびTCL1Aで十分である。
本発明者らは、最初に、cSoTスコアを構成する6つの遺伝子および2つの臨床パラメータを、正常な腎機能を有する450名の患者のSCRを診断する能力について、独立して、および関連付けて検定を行った。本発明者らは、最初に、2つの臨床パラメータ(移植時および採血時のレシピエントの年齢)が、NR患者と比較して、SCR患者においては意差がなく(それぞれp=0.932および0.936)、したがってcSoTスコアが患者を識別する能力に影響を有しないことを示す。
【0214】
6つの遺伝子のうち、NR患者と比較して、SCR患者の血液中では、AKR1C3およびTCL1A発現のみが有意に減少し(それぞれ、補正p値=0.016および<0.0001)(AKR1C3については、
図5Aおよび
図5B、TCL1Aについては
図6Aおよび
図6B)、SCR群の45人の患者の平均減少率は、AKR1C3について45.9%、TCL1Aについて81.3%であった。
【0215】
単独で使用する場合、AKR1C3およびTCL1Aは、それぞれ、AUC0.623(95%CI=[0.604~0.741])および0.640(95%CI=[0.558~0.721])でSCR患者の識別を可能にしたできた。共に関連付けると、これら2つの遺伝子は、、AUC0.703(95%CI=[0.629~0.777])で、SCR患者のさらに高度かつ良好な識別を可能にした。
【0216】
次に、これら450人の患者の組織学的診断を調べた。両方の遺伝子は、正常な組織型を有する患者と比較して、sABMR患者では有意に減少した(AKR1C3およびTCL1Aについて、それぞれp=0.0067およびp=0.0145)。正常な組織像を有する患者と比較して、sTCMRを有する患者では、AKR1C3の減少傾向も観察された(p=0.073)(
図5B)。2つの遺伝子の関連性により、sABMRと正常な組織像との差異がさらに強化される(p=0.0002)。比較すると、移植後1年での腎機能は、正常な組織像とsABMRまたはsTCMRのいずれかとの間で差はなかった(
図7Aおよび7B)。
【0217】
最後に、機能異常および/または原因生を調べる検評価を有する150人の患者の異なる組織学群の間で、AKR1C3およびTCL1Aのいずれに関しても、差異は観察されなかった。(
図8A~
図8D)。
【0218】
新しい複合モデルは、移植後1年でSCRに罹っていない患者を特定することを可能にする。
単変量解析でNRと比較して、SCRに有意に関連する臨床パラメータを、採血前の拒絶反応エピソードの経験(p<0.0001)、移植前および採血時のDSAの存在(それぞれ、p<0.001およびp=0.0025)、レシピエントの性別(p=0.0057)、コルチコステロイドおよびCsAの摂取(それぞれp=0.012およびp=0.018)(表3)として決定した。採血前の拒絶反応エピソードの経験、レシピエントの性別、および採血時のCsAの摂取のみを、多変量解析においてSCRと有意に関連するものとして保持した(
図9および表3)。
【0219】
表3:SCR診断の臨床パラメータの単変量および多変量ロジスティック回帰分析
【表3】
【0220】
次に、2つの遺伝子AKR1C3およびTCL1Aの発現、ならびにこれら3つの臨床変数に基づいて複合モデルを実施し、正常な移植片機能を有する450人の患者において、その識別能力を試験した。このスコア(SCR-sと称する)は、ロジスティック回帰を使用して構築され、拒絶反応エピソードの経験およびCsAの摂取は、SCRのリスクと正の相関があり、レシピエントの性別(レシピエントの男性対女性)、ならびにTCL1AおよびAKR1C3の発現は、SCRのリスクと負の相関があった(尤度比p<0.0001;
図9)。あるいは、本発明者らは、拒絶反応エピソードの経験およびCsAの摂取の経験が、NR状態と負に関連するが、レシピエントの性別(レシピエントの男性対女性)、ならびにTCL1AおよびAKR1C3の発現は、NR状態と正に関連すると定義することができる。
【0221】
代替のスコアでは、CsAの摂取を考慮するのではなく、このパラメータを、臨床現場でシクロスポリンAよりもはるかに多く使用されている別の免疫抑制剤であるタクロリムスの摂取に置き換えた。SCR-sでは、タクロリムスの摂取は、SCRのリスクと負に関連した(あるいは、NR状態と正に関連した)。SCR-sにおけるCsAの摂取およびタクロリムスの摂取の差は、自明であり、患者がCsAを摂取する場合は、典型的には、タクロリムスを摂取せず、このパラメータは、SCRのリスクと正に関連する;逆に、患者がタクロリムスを摂取する場合、典型的には、CsAを摂取せず、このパラメータは、SCRのリスクと負に関連する。
【0222】
このSCR-sは、NR群と比較して、SCR群で有意に高く(SCR群の患者45人中、平均67.70%の増加)(p<0.0001;
図10A)、AUC0.838(95%CI=[0.779~0.897])で、高い識別能力を示し、臨床パラメータのみよりも有意に高かった(AUC=0.797(95%CI=[0.726~0.867]);p=0.0126;
図10B)。さらに、SCR-sは、NRと比較して、sABMRまたはsTCMRにおいて有意に高い値を示し(p<0.0001)、両群で独立して試験した場合に、同様のAUCを示した(sABMRおよびsTCMRは、それぞれ、AUC=0.843(95%CI=[0.773~0.914]および0.850(95%CI=[0.761~0.939]であった;
図11A~C)。最適閾値(ヨーデン指標)では、特異度および感度はそれぞれ0.78および0.80であり、405人のNR患者のうち317人の患者が真陰性と同定され、45人のSCR患者のうち36人が真陽性と同定された(
図10A)。このような閾値では、陰性適中率(NPV)は97.2%であり、陽性適中率(PPV)は29.0%であった。最後に、ブートストラップリサンプリング(n=1000)を使用して、モデルの最適性を補正する内部検証により、AUC 0.810(95%CI=[0.73~0.89)で高い性能が得られた。
【0223】
独立したプラットフォームでのSCRの検証
SCR-sは、事前に使用した標準qPCRとは異なるプローブを使用した酵素非含有プローブハイブリダイゼーションベースのNanoString法を使用して測定した。本発明者らは、qPCRとNanoString遺伝子発現との間に高く有意な相関があることを見出した(TCL1AおよびAKR1C3についてそれぞれr=0.92および0.778;p<0.001)(表4)。
【0224】
表4:血液遺伝子発現は、測定方法に依存しない
相関図は、450人の患者のqPCRとNanoString測定値との間の遺伝子発現のrピアソン相関(1~-1)を表す。
【表4】
【0225】
酵素を含まないプローブハイブリダイゼーションベースのNanoString法を使用して、NR患者と比較して、SCR患者におけるAKR1C3およびTCL1Aの有意な下方制御(それぞれp=0.0045および0.013)(AKR1C3については
図12A~B、TCL1Aについては
図13A~B)およびSCR-sがAUC0.815(95%CI=[0.7280.880])でSCR患者を識別する能力を確認した。
【0226】
独立した多施設検証セットにおけるSCR-sの検証
検証セットは、SCRを有する患者11人を含む110人の患者を含んだ。このコホートでは、確立されたSCR-sは、11人のSCR患者のうち9人の正確な分類を可能にし、0.884(95%CI=[0.701~0.99])のAUCをもたらした(
図14)。
【0227】
訓練セットで決定された最適閾値(ヨーデン指標)を使用すると、特異度および感度は、それぞれ0.798おおよび0.909であり、NPVは、98.7%であった。
【0228】
考察
SCRは、正常な同種移植片の機能を有する患者からのプロトコル生検でのみ検出され、移植後1年において、腎生検の最大25%に影響を及ぼし、その発生率は、移植後時間と逆相関している(CouvratDesvergnes et al.,2019.NephrolDialTransplant.34(4):703711;Loupy et al.,2015.JAmSocNephrol.26(7):172131;Nankivell etal.,2004.Transplantation.78(2):2429)。
【0229】
このような病変の検出は、好ましくない結果に関連し(Filippone&Farber,2020.Transplantation;Loupy et al.,2015.JAmSocNephrol.26(7):172131;Mehta et al.,2017.ClinTransplant.31(5);Nankivell et al.,2004.Transplantation.78(2):2429;Rush&Gibson,2019.Transplantation.103(6):e139e145;Shishido et al.,2003.JAmSocNephrol.14(4):104652)、早期処置は、グラフトのアウトカムにとって有益である(Kee et al.,2006.Transplantation.82(1):3642;Parajuli et al.,2019.Transplantation.103(8):17221729;Rush et al.,1998.JAmSocNephrol.9(11):212934)。したがって、非侵襲的診断ツールを使用してそのような潜行性病変を検出することにより、移植の結果が改善され、SCRに罹っていない患者を診断することは、重篤な組織学的病変のない患者に対する侵襲的処置を回避し、患者管理を改善するのにも役立ち得る(CouvratDesvergnes et al.,2019.NephrolDialTransplant.34(4):703711;Friedewald&Abecassis,2019.AmJTransplant.19(7):21412142)。
【0230】
以前、本発明者らは、臨床的免疫寛容である患者の検出を可能にする6遺伝子血液シグネチャを報告した(Brouard et al.,2012.AmJTransplant.12(12):3296307;Danger et al.,2017.KidneyInt.91(6):14731481;国際公開第2018/015551号)。さらに、このスコアは、抗HLA抗体を生じた患者では低下することが見出され、このことはそれが免疫寛容の喪失に関連することを示唆した。
【0231】
これらのデータに基づいて、本発明者らは、このスコアが免疫拒絶反応のリスクが低いことを示す理想的なシグネチャであるとの仮説を立て、移植後早期に安定なグラフト機能を有する患者においてこのスコアがSCRを診断能力を試験した。本明細書において、本発明者らはこのスコアがSCRに関連しているのみでなく、それが改善されたことを示した。
【0232】
発明者らは、2つの遺伝子、AKR1C3およびTCL1Aのみが、互いに独立して、SCRに罹っている患者の特定を可能にすること、およびこれら両方の遺伝子の組み合わせが、さらに優れた識別を可能にすることを示す。
【0233】
次に、これら2つの遺伝子の発現および3つの臨床変数(以前の拒絶反応エピソードの経験、免疫抑制剤の摂取(特にCsAの摂取またはタクロリムスの摂取)、レシピエントの性別)に基づいて、複合スコア(SCR-s)を構築し、移植後1年でSCRのないことを高い検出で検出することが可能になる。
【0234】
血液遺伝子シグネチャを含む、SCRのいくつかのバイオマーカーがこれまでに提唱されている(国際公開第2015/179777号;国際公開第2019/217910号;Crespo et al.,2017.Transplantation.101(6):14001409;Friedewald et al.,2019.AmJTransplant.19(1):98109;Van Loon et al.,2019.EbioMedicine.46:463472;Zhang et al.,2019.JAmSocNephrol.30(8):14811494)。Zhangは、17個の遺伝子のシグネチャが、移植後3ヶ月で、89%NPV、73%PPVでSCRおよび急性細胞性拒絶反応を診断できることを発表した(Zhang et al.,2019.J Am Soc Nephrol.30(8):14811494)。同様に、51個の遺伝子のシグネチャは、移植後24ヶ月でのSCRの特定を可能にする(Friedewald et al.,2019.Am J Transplant.19(1):98109)。これらのシグネチャは、AKR1C3およびTCL1Aを含まなかったが、これは、両方の試験においては主に細胞性拒絶反応および境界領域拒絶反応が分析されたという事実によって説明され得る。Van Loonは、8つの遺伝子のシグネチャについて報告したが、これは、ABMRを単に診断するためであり、sABMRに対する本発明者らのSCR-sと同等の性能を示した(Van Loon et al.,2019.EbioMedicine.46:463472)。最後に、kSort研究の17個の遺伝子シグネチャもまた、6ヶ月のsABMRを診断するために提唱されている(Crespo et al.,2017.Transplantation.101(6):14001409)が、1,134人の患者の大規模コホートでは検証されなかった(Van Loon et al.,2021.Am J Transplant.21(2):740750)。
【0235】
本発明者らは、本明細書において移植後1年で1つの血液サンプルで正常な移植片機能を有するSCRのない患者の検出を可能にする、2つのみの遺伝子および3つの臨床パラメータを含む複合スコア(SCR-s)を報告する。この非侵襲的ツールは、腎移植レシピエントの大規模集団の中で、SCRを示す可能性が低い患者の生検を回避するために使用され得る。実際、このSCR-sは、97.2%NPVに達し、これは、検査陰性が、高い確率で真の陰性であることを意味する。一例として、これにより、450人の患者のコホートにおいて、317件の生検が回避される。さらに、および上記で詳述した従来の解決法とは対照的に、本発明者らのSCR-sは、不顕性T細胞媒介拒絶反応(sTCMR)およびsABMRの両方の検出を可能にした。このSCR-sは、マイクロアレイまたはRNAシーケンシングベースのシグネチャとは異なり、臨床施設で広く利用可能なqPCRを使用して、日常的に容易に実施され得る。本発明者らはまた、古典的なqPCRプラットフォームおよびNanoStringプラットフォームの両方を使用してモデルを検証し、技術的な堅牢性およびコスト効率を強化した。
【0236】
本発明者らは、110人の患者(サーベイランス生検中にSCRと診断された患者11人)を含む独立した多施設検証セットで、SCR-sの最初の検証を実施した。SCR-sでは、11人のSCR患者のうち9人について、正確な分類を提供した。
【0237】
本発明者らのモデルは、独立した患者コホートでさらなる検証が必要であるにもかかわらず、本発明者らの仮説に基づく試験は、ごく少数の遺伝子の測定に焦点を当てていたため、フィッシング試験において発生し得るパラメータの「偶然」の関連が減少した。さらに、本発明者らの分析は、大規模な患者コホートに対する事前の患者選択を行わずに、「現実の」シナリオで行われている。
【0238】
実施例2
実施例1のSCR-sにより、本発明者らは、T細胞媒介拒絶反応(sTCMR)および不顕性抗体媒介拒絶反応(sABMR)のいずれであるかにかかわらず、SCRを診断することができ、不顕性抗体媒介拒絶反応(sABMR)のみに特異的である代替複合モデルを開発することを目指した。
【0239】
材料および方法
実施例1と同じである。
【0240】
結果
sABMRに関連する遺伝子および臨床パラメータの同定
選択基準を満たす試験コホートの腎移植患者のうち、生検により証明されたsABMR(
図1のSCR「液性」)を有する33人を選択した。
【0241】
本発明者らは、sABMR群のこれらの患者の血液では、cSoT(国際公開第2018/015551号およびDanger et al., 2017.KidneyInt.91(6):14731481に記載)が、NR群の患者およびsTCMR患者と比較して有意に減少し(p=0.0102、
図14A)、AUCは、0.578(95%CI=[0.4650.691])であることを見出した。
【0242】
cSoTを構成する6つの遺伝子のうち、AKR1C3およびTCL1Aの発現レベルは、他のすべての患者と比較して、これら33人のsABMR患者の血液中で有意に減少した(それぞれ、p=0.0034および0.0011)(
図14Bおよび
図14C)。単独で使用した場合、AKR1C3およびTCL1Aは、それぞれ0.652(95%CI=[0.570~0.734])および0.669(95%CI=[0.578~0.760])のAUCでsABMR患者を識別することができた。2つの遺伝子を組み合わせると、AUC0.711(95%CI=[0.624~0.797])でsABMR患者をうまく識別できたが、腎機能は2つの群間で有意差はなかった(p=0.136)(
図14D)。
【0243】
11の臨床パラメータ、すなわち採血前の拒絶反応エピソードの経験(p<0.0001)、同種移植ランク(p<0.0001)、欠失導入処置(deleting induction treatment)の使用(p=0.00235)、レシピエントの性別(p=0.00477)、レシピエントのCMV陽性率(p=0.0279)、移植後12ヶ月のコルチコステロイドの摂取p=0.0318)、およびドナーとレシピエントとの間のHLA-A、-B、および-DRの不適合性数が厳密に3を超える(p=0.0362)が、単変量解析においてsABMRと有意に関連した(p<0.20)
【0244】
sABMR(sABMR-s)を検出するためのスコアの構築
これら11の臨床パラメータと、単変量解析でsABMRに有意に関連する2つの遺伝子から、sABMRの洗練された複合スコア(sABMR-s)は、段階的な選択およびブートスケープリサンプリングによる多変量ロジスティック回帰を使用して構築した:採血前の拒絶反応エピソードの経験、同種移植片のランク、およびHLAの不一致は、sABMR状態と正に関連し、TCL1AおよびAKR1C3の血液遺伝子発現およびレシピエントの性別は、このsABMR-sにおいてsABMR状態と負に関連した(
図15A)。sABMR-sは、他の診断を受けた群(NR群およびsTCMR群)よりもsABMR群で有意に低く(p<0.0001、
図15B)、AUC0.860(95%CI=[0.794-0.925])で高い識別能力を示した。
【0245】
移植後1年間のドナー特異的抗体(DSA)の存在は、単変量解析においてsABMRと有意に関連していたが(p<0.0001)、このパラメータでは、2つの遺伝子を合わせた場合よりも有意にsABMRを識別することはできなかった(AUC=0.768(95%CI=[0.686~0.849])、p=0.307)。
【0246】
DSA測定とは独立して、sABMR病変のないde novoDSA(dnDSA)陽性患者の高い有病率に基づいてsABMRスコアを構築するため(本発明者らのコホートでは患者64人、文献(例えば、Yamamoto et al.,2016.Transplantation.100(10):21942202、またはBertrand et al.,2020.Transplantation.104(8):17261737を参照されたい)によれば60%)、DSAの経験を、sABMR-sの構築には使用しなかった。本発明者らのsABMR-Sは、移植1年目のDSA経験よりも識別能力が高く(p=0.00923)、sABMR-sにDSA経験を追加しても、その識別性能が大幅に改善することはなかった(AUC=0.877;95%CI=[0.809~0.944]);p=0.222)。興味深いことに、sABMR-sは、sABMR以外の診断を受けたDSA陽性患者と比較して(p=0.0011)、sABMR患者では有意に減少したままであり、AUCは、0.77(95%CI=[0.6660.875])であった。
【0247】
さらに、医療適用のために生検を受けた147人の患者のうち、sABMR-sはまた、他の診断による原因を調べる生検を受けた124人の患者と比較して、sABMRおよび原因を調べる生検の23人の患者について、有意に減少した(p=0.0023)。
【0248】
特異度および感度を最大化する最適な閾値(ヨーデン指標)では、値2.40に対応し、sABMR-sは、それぞれ0.840および0.758の特異度および感度を示した。この閾値では、sABMR-sは、陰性適中率(NPV)97.7%、陽性適中率(PPV)27.7%を有し、sABMR以外の診断を受けた患者408人のうち342人の患者が真陰性と同定され(83.8%)、sABMR患者33人のうち25名(75.8%)が真陽性と特定された。最後に、ブートストラップリサンプリング(n=1000)を使用して、モデルの最適性を補正する内部検証により、AUC 0.830(95%CI=[0.74~0.92)で高い性能が得られた。
【0249】
独立した技術プラットフォームでのsABMR-sの検証
sABMR-sは、AKR1C3およびTCL1A測定用の標準qPCR法を使用して構築した。大規模での使用を可能にするために、本発明者らは、qPCRに使用されるプローブとは異なるプローブを使用した酵素非含有プローブハイブリダイゼーションベースのNanoStringプラットフォームを使用して、この技術を検証した。本発明者らは、他の群と比較して、sABMRにおけるAKR1C3およびTCL1Aの有意な下方制御が確認され(それぞれ、p=0.013および0.0004)(
図16A~B)、qPCRとNanoString遺伝子発現との間には有意な高い相関を有していた(TCL1AおよびAKR1C3について、それぞれ、r=0.901および0.757、p<0.0001)(
図16C)。qPCR測定およびNanoString測定は、異なるダイナミックレンジを示したことから、sABMR-sパラメータを使用して、NanoStringデータで係数を調整した。NanoStringデータを使用したsABMR-sの識別能力は、qPCRと同様の識別能力に達し、AUCは0.859であった(95%CI=[0.793~0.925])(p<0.0001;
図15B)。
【0250】
免疫抑制は、sABMR-sの識別能力を変更しなかった。
sABMR-sは、コルチコステロイドまたは抗胸腺細胞グロブリン(ATG)枯渇導入療法のいずれかで処置された、sABMR病変を有しない患者では、sABMR病変がなく、コルチコステロイドを服用しない、または非枯渇処置を受けたもしくは導入療法を受けていない患者と比較して、わずかに減少した(それぞれ、p=0.0002および<0.0001)。タクロリムス(
図17A)、コルチコステロイド(
図17B)、抗増殖剤(
図17C)または枯渇導入処置(
図17D)で処置した患者のサブセットでは、sABMRを他の処置と比較するAUCの値は、それぞれ、0.864(95%CI=[0.802~0.926])、0.839(95%CI=[0.767~0.911])、0.855(95%CI=[0.790~0.921])、0.811(95%CI=[0.726~0.896])であった。したがって、sABMR-sは、処置に関係なく、sABMR病変を有する患者と有しない患者を依然として識別することができた。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-02-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】