(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】MUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に対する多重特異性抗体構築物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240604BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240604BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240604BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240604BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240604BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240604BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240604BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240604BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240604BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240604BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240604BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20240604BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20240604BHJP
A61K 38/43 20060101ALI20240604BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240604BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240604BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20240604BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240604BHJP
A61K 51/10 20060101ALI20240604BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240604BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C07K16/46 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P35/02
A61K9/51
A61K9/127
A61K47/68
A61K47/69
A61K39/00 G
A61K45/00
A61K38/19
A61K38/43
A61K41/00
A61K47/65
A61K38/02
A61K49/00
A61K51/10 100
A61P43/00 121
A61P35/04
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573353
(86)(22)【出願日】2022-05-27
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 US2022031431
(87)【国際公開番号】W WO2022251695
(87)【国際公開日】2022-12-01
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523446527
【氏名又は名称】エックスワイワン セラピューティクス インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】399052796
【氏名又は名称】デイナ ファーバー キャンサー インスティチュート,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】カルバンダー サレンダー
(72)【発明者】
【氏名】パンチャモーシー ゴビンダスワミー
(72)【発明者】
【氏名】キーフ ドナルド ダブリュー.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
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4C076EE41
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4C076FF68
4C084AA12
4C084AA17
4C084BA44
4C084DA01
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4C084DC50
4C084MA02
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4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
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4C085CC23
4C085EE01
4C085EE03
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4C085HH11
4C085HH13
4C085JJ05
4C085JJ20
4C085KA26
4C085KA27
4C085KA28
4C085KB82
4C085LL18
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA40
4H045BA41
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、MUC1-C/細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)と、CD3(分化抗原群3)を含む少なくとも1つの他の結合標的とに結合する多重特異性抗体構築物に関する。そのような構築物を用いて、MUC1抗原を発現するがんを処置する方法も提供する。組換え多重特異性抗体の配列をさらに開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO: 2によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する組換え抗体構築物であって、
(a)CD3;
(b)CD16;
(c)CD28;
(d)骨髄特異的抗原;
(e)ErbB2;
(f)EGFR;
(g)CD3およびPD1;
(h)CD16およびPD1;
(i)CD47;
(j)SIRPα;
(k)NKG2D、または
(l)Siglec 9
にも結合する、前記抗体構築物。
【請求項2】
二価である、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項3】
三価である、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項4】
四価である、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項5】
MUC1-C/ECD結合について2つの個別の結合特異性を有する、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項6】
それぞれSEQ ID NO: 3、5、および7の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列と、それぞれSEQ ID NO: 4、6、および8の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列とから生じるMUC1結合特異性;ならびに/または、それぞれSEQ ID NO: 9、11、および13の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列と、それぞれSEQ ID NO: 10、12、および14の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列とから生じるMUC1結合特異性を有する、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項7】
2つの個別の抗体鎖をロックする1つまたは複数の変異を含有する、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項8】
IgG配列を含有する、請求項7記載の抗体構築物。
【請求項9】
マウス抗体のヒト化バージョンである、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項10】
前記ヒト化抗体構築物が、IgG配列を含有する、請求項9記載の抗体構築物。
【請求項11】
標識をさらに含む、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項12】
前記標識が、ペプチドタグ、酵素、磁性粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素である、請求項11記載の抗体構築物。
【請求項13】
前記抗体構築物に連結された抗腫瘍薬物をさらに含む、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項14】
前記抗腫瘍薬物が、光解離性リンカーを介して前記抗体構築物に連結されている、請求項13記載の抗体。
【請求項15】
前記抗腫瘍薬物が、酵素的に切断されるリンカーを介して前記抗体構築物に連結されている、請求項13記載の抗体構築物。
【請求項16】
前記抗腫瘍薬物が、毒素、ラジオアイソトープ、サイトカイン、または酵素である、請求項13記載の抗体構築物。
【請求項17】
SEQ ID NO: 22~42の配列を含む、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項18】
前記抗体構築物が、SEQ ID NO: 22~42に対して80%、85%、90%、95%、または99%の相同性を有する配列を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項19】
ナノ粒子またはリポソームにコンジュゲートされている、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項20】
細胞死の誘導が、抗体依存性細胞の細胞傷害または補体介在性細胞傷害を含む、請求項1記載の抗体構築物。
【請求項21】
対象におけるMUC1陽性がん細胞と、請求項1~20のいずれか一項記載の抗体構築物とを接触させる工程を含む、がんを処置する方法。
【請求項22】
前記MUC1陽性がん細胞が、固形腫瘍細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記固形腫瘍細胞が、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記MUC1陽性がん細胞が、白血病または骨髄腫である、請求項21記載の方法。
【請求項25】
前記白血病または骨髄腫が、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記MUC1陽性がん細胞と、第二の抗がん剤または処置とを接触させる工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項27】
前記第二の抗がん剤または処置が、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法から選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記第二の抗がん剤または処置が、細胞内MUC1機能を阻害する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記第二の抗がん剤または処置が、前記抗体構築物と同時に与えられる、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記第二の抗がん剤または処置が、前記抗体構築物の前および/または後に与えられる、請求項26記載の方法。
【請求項31】
前記MUC1陽性がん細胞が、転移性がん細胞、多剤(multiply drug)耐性がん細胞、または再発がん細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項32】
前記抗体が、例えば抗体依存性細胞の細胞傷害または補体介在性細胞傷害によって、細胞死の誘導を結果としてもたらす、請求項21記載の方法。
【請求項33】
請求項1~20のいずれか一項記載の抗体構築物を発現する、細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本出願は、2021年5月28日に申請された米国仮出願第63/194,597号に対する優先権の恩典を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書によって組み入れられる。
【0002】
配列表の参照
本出願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出され、その全体が参照により本明細書に組み入れられる、配列表を含有する。2022年5月26日に作成された前記ASCIIコピーは、GENU0048WO_ST25.txtと名付けられ、サイズは112 KBである。
【0003】
1.分野
本開示は、概して、医学、腫瘍学、および免疫療法学の分野に関係する。特に、MUC1陽性がんの処置における使用のための多重特異性免疫試薬の開発に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術
ムチンは、主として上皮細胞によって発現される広範囲にわたってO-グリコシル化されたタンパク質である。分泌型および膜結合型のムチンは、毒素、微生物、および外部環境との界面で生じる他の形態のストレスによって誘導されるダメージから上皮細胞の頂端境界を保護する物理的バリアを形成する。膜貫通型ムチン1(MUC1)は、また、細胞の内部にシグナルを送達し得る。MUC1は、ウニ精子タンパク質-エンテロキナーゼ-アグリン(SEA)ドメインの存在を除いて、他の膜結合型ムチンと配列類似性を有しない(Duraisamy et al., 2006)。それに関して、MUC1は単一ポリペプチドとして翻訳され、次いでSEAドメインにおいて自己切断を受ける(Macao, 2006)。
【0005】
MUC1は、がんにおけるその役割のために、本発明者らおよび他者によって広範囲にわたって研究されている。上述のように、ヒトMUC1は、小胞体において単一ポリペプチドとして翻訳されかつN末端およびC末端のサブユニット(MUC1-NおよびMUC1-C)に切断される、ヘテロ二量体糖タンパク質である(Ligtenberg et al., 1992;Macao et al., 2006;Levitin et al., 2005)。大部分のヒト癌腫において見出されるMUC1の異常な過剰発現(Kufe et al., 1984)は、足場非依存的成長および腫瘍形成能を付与する(Li et al., 2003a;Huang et al., 2003;Schroeder et al., 2004;Huang et al., 2005)。他の研究により、MUC1の過剰発現は、酸化ストレスおよび遺伝毒性抗がん剤によって誘導されるアポトーシスに対する耐性を付与することが実証されている(Yin and Kufe, 2003;Ren et al., 2004;Raina et al., 2004;Yin et al., 2004;Raina et al., 2006;Yin et al., 2007)。
【0006】
拘束型および分泌型のムチンのファミリーは、上皮細胞表面の保護バリアを提供することに機能を果たす。上皮層へのダメージとともに、細胞はヘレグリン誘導性修復プログラムを開始させるため、近隣細胞との間の密着接合が分断されかつ極性が失われる(Vermeer et al., 2003)。MUC1-Nは細胞表面からのシェディングを受け(Abe and Kufe, 1989)、MUC1-Cを細胞の内部への環境ストレスシグナルの変換因子として機能させる。これに関して、MUC1-CはErbB受容体ファミリーのメンバーと細胞表面複合体を形成し、かつMUC1-Cは、ヘレグリン刺激に応答して核を標的とする(Li et al., 2001;Li et al., 2003c)。MUC1-Cは、MUC1細胞質ドメイン(CD)とカテニンファミリーのメンバーとの間の直接相互作用を介して、ErbB受容体およびWntシグナル伝達経路を統合することにおいても機能を果たす(Huang et al., 2005;Li et al., 2003c;Yamamoto et al., 1997;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Li and Kufe, 2001)。他の研究により、MUC1-CDは、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β、c-Src、プロテインキナーゼCδ、およびc-Ab1によってリン酸化されることが実証されている(Raina et al., 2006;Li et al., 1998;Li et al., 2001;Ren et al., 2002)。前述の相互作用のいずれかを阻害することは、MUC1関連がんに対する治療的介入の潜在的地点となる。
【発明の概要】
【0007】
概要
ゆえに、本開示に従って、SEQ ID NO: 2によって規定されるMUC1-C細胞外ドメイン(MUC1-C/ECD)に選択的に結合する組換え抗体構築物が提供され、該抗体構築物は、
(a)CD3;
(b)CD16;
(c)CD28;
(d)骨髄特異的抗原;
(e)ErbB2;
(f)EGFR;
(g)CD3およびPD1;
(h)CD16およびPD1;
(i)CD47;
(j)SIRPα;
(k)NKG2D、
(l)Siglec 9
にも結合する。抗体構築物は、二価、三価、または四価であり得る。抗体構築物は、MUC1-C/ECDに対して2つの個別の結合特異性を有し得る。抗体構築物は、それぞれSEQ ID NO: 3、5、および7の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列と、それぞれSEQ ID NO: 4、6、および8の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列とから生じるMUC1結合特異性、ならびに/または、それぞれSEQ ID NO: 9、11、および13の重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列と、それぞれSEQ ID NO: 10、12、および14の軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3配列とから生じるMUC1結合特異性を有し得る。
【0008】
抗体構築物は、2つの個別の抗体鎖をロックする1つまたは複数の変異を含有し得る。抗体構築物は、IgG配列を含有し得、かつ/またはマウス抗体のヒト化バージョン、例えば、IgG配列を含有するヒト化抗体構築物であり得る。抗体構築物は、標識、例えば、ペプチドタグ、酵素、磁性粒子、発色団、蛍光分子、化学発光分子、または色素をさらに含み得る。抗体構築物は、それに連結された抗腫瘍薬物をさらに含み得、例えばここで、抗腫瘍薬物は、光解離性リンカーまたは酵素的に切断されるリンカーを介して該抗体構築物に連結されている。抗腫瘍薬物は、毒素、ラジオアイソトープ、サイトカイン、または酵素であり得る。
【0009】
抗体構築物は、SEQ ID NO: 22~42の配列を含み得る。抗体構築物は、SEQ ID NO: 22~42に対して80%、85%、90%、95%、または99%の相同性を有する配列を含み得る。抗体構築物は、ナノ粒子またはリポソームにコンジュゲートされ得る。細胞死の誘導は、抗体依存性細胞の細胞傷害または補体介在性細胞傷害を含み得る。
【0010】
また、対象におけるMUC1陽性がん細胞と、本明細書に規定されるような抗体構築物とを接触させる工程を含む、がんを処置する方法が提供される。MUC1陽性がん細胞は、固形腫瘍細胞、例えば、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞であり得る。MUC1陽性がん細胞は、白血病または骨髄腫、例えば、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫であり得る。
【0011】
方法は、前記MUC1陽性がん細胞と、第二の抗がん剤または処置とを接触させる工程をさらに含み得、例えばここで、該第二の抗がん剤または処置は、化学療法、放射線療法、免疫療法、ホルモン療法、または毒素療法から選択される。第二の抗がん剤または処置は、細胞内MUC1機能を阻害し得る。第二の抗がん剤または処置は、前記抗体構築物と同時に与えられ得るか、または前記抗体構築物の前および/もしくは後に与えられ得る。MUC1陽性がん細胞は、転移性がん細胞、多剤(multiply drug)耐性がん細胞、または再発がん細胞であり得る。抗体構築物は、例えば抗体依存性細胞の細胞傷害または補体介在性細胞傷害によって、細胞死の誘導を結果としてもたらし得る。
【0012】
また、本明細書に記載されるような抗体構築物を発現する細胞が提供される。
【0013】
本明細書に記載される任意の方法または組成物を、本明細書に記載される他の任意の方法または組成物に対して実行できることが企図される。
【0014】
特許請求の範囲および/または本明細書において、「a」または「an」という単語の使用は、「含む(comprising)」という用語と合わせて用いられる場合に、「1つ」を意味し得るが、それはまた、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つよりも多く」という意味とも矛盾しない。「約」という単語は、明記された数のプラスまたはマイナス5%を意味する。
【0015】
本開示の他の目的、特質、および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明から、本開示の精神および範囲の内での様々な変化および改変が当業者に明らかになるであろうため、詳細な説明および具体的な例は、本開示の具体的な態様を示すと同時に、単なる例証として与えられることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、かつ本開示のある特定の局面をさらに実証するために含まれる。本開示は、本明細書において提示される具体的な態様についての詳細な説明と組み合わせて、これらの図面のうちの1つまたは複数を参照することにより、よりよく理解され得る。
【0017】
【
図1A】
図1A~Nは、二重特異性抗体の様々な形態の概略図を示す。(
図1A)
h3D1-hCD3二重特異性抗体(構築物ペア「A」)。二価hMUC1-C(h3D1クローン)および二価ヒトCD3(hCD3)結合パラトープのホモ二量体を作るために、二重特異性DNA構築物を作製した(構築物A)。h3D1(VH-CH1)-hFc-hCD3(VL-VH) + h3D1(VL-CL)。本発明者らはまた、任意のFc受容体介在性エフェクターメカニズムを消失させるためにLALA-PG変異を作製した(SEQ ID NO: 30+31)。(
図1B)
h7B8-1-hCD3二重特異性抗体(構築物ペア「B」)。本発明者らは、h7B8-1抗体の別個の軽鎖を含有する単量体を作製した。h7B8-1-hCD3二重特異性構築物を、より良好な安定性を有し、かつ二量体化しない単量体Fcを組み込むことによって、単一のMUC1-C結合部位を有するように作製した(SEQ ID NO: 32+33)。(
図1C)
h3D1-hCD3二重特異性抗体(構築物ペア「C」)。本発明者らは、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体を作製した。この構築物は、Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによるヘテロ二量体化により、MUC1-Cに対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位を有する。ノブ-イントゥ-ホール技術は、「ノブ」を作り出すために一方の鎖に大きなアミノ酸を適用し、他方の鎖における対応する「ホール」のためにより小さなアミノ酸を採用する。加えて、単鎖可変フラグメント(scFv)技術と組み合わせた、2本の反対に帯電した重鎖の静電ステアリングにより、正しい鎖の集合が保証される(SEQ ID NO: 22+23)。(
図1D)
h3D1-hCD3二重特異性抗体(scFv)(構築物「D」)。この形式の二重特異性抗体は、MUC1-CおよびCD3に対して各々1つの結合部位を有する単鎖可変フラグメント(scFv)を有し、示された変異により単量体のままである(SEQ ID NO: 22)。(
図1E)
h3D1-hCD3-hPD-1三重特異性抗体(構築物ペア「E」)。この形式は、
図1Cと同じヘテロ二量体化の戦略を採用するが、PD-1に対する結合部位を含む(SEQ ID NO: 22+34)。(
図1F)
h3D1-hCD3-hPD-1三重特異性抗体(構築物ペア「F」)。この形式は、
図1Cのようなヘテロ二量体化の戦略を採用するが、PD-1に対する結合部位を含むだけでなく、h3D1およびhPD-1に対する異なる配向の重鎖および軽鎖を伴う(SEQ ID NO: 24+35)。(
図1G)
h7B8-1-hCD3-hPD-1三重特異性抗体(構築物ペア「G」)。この形式は、
図1Cと同じヘテロ二量体化の戦略を採用するが、PD-1に対する結合部位を含む(SEQ ID NO: 26+36)。(
図1H)
h7B8-1-hCD3-hPD-1三重特異性抗体(構築物ペア「H」)。この形式は、
図1Cのようなヘテロ二量体化の戦略を採用するが、PD-1に対する結合部位を含むだけでなく、h7B8-1およびhPD-1に対する異なる配向の重鎖および軽鎖を伴う(SEQ ID NO: 28+37)。(
図1I)
h7B8-1-hCD3二重特異性抗体(構築物ペア「I」)。本発明者らは、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体を作製した。この構築物は、Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによるヘテロ二量体化により、MUC1-Cに対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位を有する。ノブ-イントゥ-ホール技術は、「ノブ」を作り出すために一方の鎖に大きなアミノ酸を適用し、他方の鎖における対応する「ホール」のためにより小さなアミノ酸を採用する。加えて、単鎖可変フラグメント(scFv)技術と組み合わせた、2本の反対に帯電した重鎖の静電ステアリングにより、正しい鎖の集合が保証される(SEQ ID NO: 26+27)。(
図1J)
h7B8-1-hCD3二重特異性抗体(scFv)(構築物「J」)。この形式の二重特異性抗体は、MUC1-CおよびCD3に対して各々1つの結合部位を有する単鎖可変フラグメント(scFv)を有し、示された変異により単量体のままである(SEQ ID NO: 26)。(
図1K~N)
4つの異なる設計におけるバイパラトピック二重特異性MUC1-C/CD3構築物。
【
図2】二重特異性抗体の精製。示された構築物をすべて、CHO-K1細胞において発現させ、各二重特異性形式の単一細胞クローンを作製した。クローン由来の細胞を拡大増殖させ、浮遊培養を維持し、プロテインAカラムを用いて二重特異性抗体を精製した。精製タンパク質を、SDS-PAGEによってチェックした。レーン1~3は、示された二重特異性タンパク質を還元条件で含有する。レーン4~6は、同じタンパク質を非還元条件で含有する。A=h3D1(VH-CH1)-hFc-hCD3(VL-VH) + h3D1(VL-CL);B=h7B8-1(VH-CH1)-mhFc-hCD3(VL-VH) + h7B8-1(VL-CL);D=h3D1(VH-VL)-hFc-hCD3(VL-VH)-scFv。
【
図3】フローサイトメトリーによるZR-75-1ホルモン依存性乳がん細胞上のMUC1-C抗原に対する二重特異性抗体結合の評価。細胞を、4 ug/mlの試験抗体またはIgG1アイソタイプ対照抗体と60分間、続いて適切な二次抗体とインキュベートした。細胞表面に対する抗体結合を、フローサイトメトリーを用いて解析した。乳腺癌細胞株ZR75-1上の細胞表面MUC1-Cに対するh3D1-hCD3二重特異性抗体の結合。アイソタイプが一致したヒトIgG1およびh3D1を、結合についてのそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。
【
図4】フローサイトメトリーによるJurkat T細胞株上のCD3に対する二重特異性抗体構築物結合の評価。T細胞株Jurkat上のCD3に対するh3D1-hCD3二重特異性抗体構築物の結合。アイソタイプが一致したヒトIgG1および抗hCD3を、結合についてのそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。
【
図5A】
図5A~Cは、二重特異性抗体によるT細胞活性化を示す。標的細胞ウェルを、96ウェルプレートにおいて増殖培地中にプレーティングし、一晩インキュベートした。様々な濃度の二重特異性抗体(示されたもの)を細胞に添加し、続いてTCR/CD3エフェクター細胞(NFAT-Jurkat)を添加し、6時間インキュベートした。Bio-Glo(商標)試薬を添加し、発光を、Molecular Devices FilterMax F5リーダーを用いて定量した。データを、GraphPad Prismソフトウェアを用いて4PL曲線にフィットさせた。(
図5A)20μg/mlから始まる2倍連続希釈の示された二重特異性抗体、および100,000細胞/ウェルのNFAT-Jurkatで処理した、ZR-75-1乳腺癌細胞(10,000細胞/ウェル)。(
図5B)30μg/mlから始まる3倍連続希釈の示された二重特異性抗体、および100,000細胞/ウェルのNFAT-Jurkatで処理した、ZR-75-1乳腺癌細胞(40,000細胞/ウェル)。(
図5C)10μg/mlから始まる3倍連続希釈の示された二重特異性抗体、および100,000細胞/ウェルのNFAT-Jurkatで処理した、MUC1を発現するHCT116(HCT/MUC1)またはベクター(HCT116/ベクター)細胞(10,000細胞/ウェル)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例証的な態様の説明
本発明者らは、MUC1-Cタンパク質の外部ドメインの58アミノ酸のシェディングを受けない部分、ならびに少なくとも1つのおよび任意で2つの他の結合標的に対する結合特異性を有する、多重特異性抗体構築物を作製した。そのような構築物はまた、複数のMUC1-Cエピトープに対する結合特異性を有するように操作することができる。これらの抗体は、T細胞を刺激する能力が実証されており、したがって、MUC1関連がんの処置において有用である。本開示のこれらのおよび他の局面は、下記でより詳細に説明される。
【0019】
I.MUC1
A.構造
MUC1は、正常な分泌上皮細胞の頂端境界に発現されるムチン型糖タンパク質である(Kufe et al., 1984)。MUC1は、単一ポリペプチドとしての合成および小胞体における2つのサブユニットへの前駆体の切断の後、ヘテロ二量体を形成する(Ligtenberg et al., 1992)。切断は、自己触媒過程によって媒介され得る(Levitan et al., 2005)。>250 kDaのMUC1 N末端(MUC1-N)サブユニットは、高度に保存されたバリエーションを有して不完全であり、かつO-結合型グリカンによって修飾される、可変数の20アミノ酸タンデムリピートを含有する(Gendler et al., 1988;Siddiqui et al., 1988)。MUC1-Nは、58アミノ酸の細胞外領域、28アミノ酸の膜貫通ドメイン(下線)、および72アミノ酸の細胞質ドメイン(CD;太字)を含む、約23 kDaのC末端サブユニット(MUC1-C)との二量体化によって、細胞表面に拘束される(Merlo et al., 1989)。本開示の抗体が結合するのは、MUC1-C/ECDの58アミノ酸部分(斜体)である。ヒトMUC1-C配列を、下記に示す。
太字の配列はCDを示し、下線の部分はオリゴマー阻害ペプチドである。正常な上皮の癌腫への形質転換とともに、MUC1は、サイトゾルにおいておよび細胞膜全体にわたって異常に過剰発現される(Kufe et al., 1984;Perey et al., 1992)。細胞膜に結合したMUC1は、クラスリン介在性エンドサイトーシスによってエンドソームを標的とする(Kinlough et al., 2004)。加えて、MUC1-Cは、核(Baldus et al., 2004;Huang et al., 2003;Li et al., 2003a;Li et al., 2003b;Li et al., 2003c;Wei et al., 2005;Wen et al., 2003)およびミトコンドリア(Ren et al., 2004)を標的とするが、MUC1-Nはそうではない。
【0020】
B.機能
MUC1-Cは、ErbB受容体ファミリーのメンバー(Li et al., 2001b;Li et al., 2003c;Schroeder et al., 2001)、およびWntエフェクター、β-カテニン(Yamamoto et al., 1997)と相互作用する。上皮成長因子受容体およびc-Srcは、Y-46上でMUC1細胞質ドメイン(MUC1-CD)をリン酸化し、それによってMUC1とβ-カテニンとの結合を増加させる(Li et al., 2001a;Li et al., 2001b)。MUC1とβ-カテニンとの結合はまた、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3βおよびプロテインキナーゼCδによっても調節される(Li et al., 1998;Ren et al., 2002)。MUC1は、核においてβ-カテニンと共局在し(Baldus et al., 2004;Li et al., 2003a;Li et al., 2003c;Wen et al., 2003)、かつWnt標的遺伝子の転写を共活性化する(Huang et al., 2003)。他の研究により、MUC1はまた、p53に直接結合し、かつp53標的遺伝子の転写を調節することが示されている(Wei et al., 2005)。留意すべきことに、MUC1-Cの過剰発現は、足場非依存的成長および腫瘍形成能を誘導するのに十分である(Huang et al., 2003;Li et al., 2003b;Ren et al., 2002;Schroeder et al., 2004)。
【0021】
II.モノクローナル抗体の産生
A.一般的な方法
MUC1-C/ECDに対する抗体は、当技術分野において周知である標準的な方法によって産生され得る(例えば、Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988;米国特許第4,196,265号を参照されたい)。モノクローナル抗体(MAb)を作製するための方法は、一般的に、ポリクローナル抗体を調製するためのものと同じ方針に沿って始まる。これら両方の方法に対する第一の工程は、適当な宿主の免疫付与、または先行する自然感染が理由で免疫がある対象の同定である。当技術分野において周知であるように、免疫付与のための所与の組成物は、その免疫原性の点で変動し得る。したがって、ペプチドまたはポリペプチド免疫原をキャリアに共役させることによって達成され得る、宿主免疫系をブーストすることがしばしば必要である。例示的なかつ好ましいキャリアは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンも、キャリアとして用いられ得る。ポリペプチドをキャリアタンパク質にコンジュゲートするための手段は当技術分野において周知であり、かつグルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス-ジアゾ化(biazotized)ベンジジンを含む。また当技術分野において周知であるように、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫応答の非特異的刺激因子の使用によって増強され得る。例示的なかつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(殺傷された結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する、免疫応答の非特異的刺激因子)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。
【0022】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質ならびに免疫付与に用いられる動物によって変動する。多様な経路を用いて、免疫原を投与することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)。ポリクローナル抗体の産生は、免疫付与後の様々な時点において、免疫付与された動物の血液をサンプリングすることによってモニターされ得る。第二のブースター注入も与えられ得る。適切な力価が達成されるまで、ブーストおよび力価測定の過程を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られた時点で、免疫付与された動物を採血し得、そして単離されかつ保管された血清および/または該動物を用いて、MAbを作製することができる。
【0023】
免疫付与の後、MAb作製プロトコールにおける使用のために、抗体、具体的にはBリンパ球(B細胞)を産生する潜在力を有する体細胞を選択する。これらの細胞は、生検された脾臓もしくはリンパ節から、または循環血から獲得され得る。次いで、免疫付与された動物由来の抗体産生Bリンパ球と、不死の骨髄腫細胞の細胞、一般的には免疫付与された動物と同じ種のもの、またはヒト細胞もしくはヒト/マウスキメラ細胞とを融合させる。ハイブリドーマ産生融合手順における使用に適した骨髄腫細胞株は、好ましくは抗体非産生性であり、高い融合効率を有し、かつ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの成長を支持するある特定の選択培地中でその後成長し得ない状態にする酵素欠陥を有する。
【0024】
当業者に公知であるように、多数の骨髄腫細胞のうちのいずれか1種が用いられ得る(Goding, pp.65-66, 1986;Campbell, pp.75-83, 1984)。例えば、免疫付与された動物がマウスである場合、P3-X63/Ag8、X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bu1を用い得;ラットに関しては、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用い得;そしてU-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6はすべて、ヒト細胞融合に関して有用である。1つの特定のマウス骨髄腫細胞はNS-1骨髄腫細胞株(P3-NS-1-Ag4-1とも称される)であり、それは、細胞株レポジトリー番号GM3573を依頼することによって、NIGMSヒト遺伝子変異体細胞レポジトリー(Human Genetic Mutant Cell Repository)から容易に入手可能である。用いられ得る別のマウス骨髄腫細胞株は、8-アザグアニン耐性マウス骨髄腫SP2/0非産生細胞株である。より最近では、KR12(ATCC CRL-8658);K6H6/B5(ATCC CRL-1823);SHM-D33(ATCC CRL-1668);およびHMMA2.5(Posner et al., 1987)を含めた、ヒトB細胞との使用のためのさらなる融合パートナー株が記載されている。本開示における抗体は、SP2/0株のIL-6分泌性誘導体であるSP2/0/mIL-6細胞株を用いて作製された。
【0025】
抗体産生性の脾臓またはリンパ節の細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドを作製するための方法は、通常、体細胞と骨髄腫細胞とを2:1の比率で混合する工程を含むが、とはいえ該比率は、細胞膜の融合を促進する1種または複数種の作用物質(化学的または電気的)の存在下で、それぞれ約20:1~約1:1に変動し得る。センダイウイルスを用いた融合法がKohler and Milstein(1975;1976)によって記載されており、かつ37%(v/v)PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いたものがGefter et al.(1977)によって記載されている。電気的に誘導される融合法の使用も適当である(Goding, pp.71-74, 1986)。
【0026】
融合手順は、通常、約1×10-6~1×10-8という低い頻度で、生存能力があるハイブリッドを産生する。しかしながら、生存能力がある融合ハイブリッドは、選択培地中で培養することによって親の非融合(infused)細胞(特に、通常無限に分割し続ける非融合骨髄腫細胞)と区別されるため、これは問題を引き起こさない。選択培地は、一般的に、組織培養培地中でヌクレオチドのデノボ合成を遮断する作用物質を含有するものである。例示的なかつ好ましい作用物質は、アミノプテリン、メトトレキサート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートは、プリンおよびピリミジンの両方のデノボ合成を遮断し、一方でアザセリンは、プリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキサートが用いられる場合、ヌクレオチドの供給源として、培地にヒポキサンチンおよびチミジンを補充する(HAT培地)。アザセリンが用いられる場合、培地にヒポキサンチンを補充する。B細胞供給源が、エプスタイン・バールウイルス(EBV)を形質転換されたヒトB細胞株である場合、ウアバインを添加して、骨髄腫に融合していないEBV形質転換株を除去する。
【0027】
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを含むHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を作動させ得る細胞のみが、HAT培地中で生存することができる。骨髄腫細胞は、サルベージ経路の主要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)に欠陥があり、かつそれらは生存することができない。B細胞はこの経路を作動させ得るが、それらは培養下で限定された寿命を有し、かつ一般的に約2週間以内で死滅する。したがって、選択培地中で生存し得る細胞のみが、骨髄腫およびB細胞から形成されるそれらのハイブリッドである。本明細書にあるように、融合に用いられるB細胞の供給源がEBV形質転換B細胞の株である場合、EBV形質転換B細胞は薬物殺傷に感受性である一方で、用いられる骨髄腫パートナーはウアバイン耐性であるように選出されるため、ウアバインもハイブリッドの薬物選択に用いられる。
【0028】
培養することにより、特異的ハイブリドーマが選択される由来のハイブリドーマの集団が提供される。典型的に、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおいて単一クローン希釈によって細胞を培養し、それに続いて(約2~3週間後に)個々のクローン上清を所望の反応性について試験することによって実施される。アッセイは、放射免疫アッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞傷害アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイなど、高感度で簡易でかつ迅速であるべきである。
【0029】
次いで、選択されたハイブリドーマを連続希釈しまたはフローサイトメトリー選別によって単一細胞選別し、かつ個々の抗体産生細胞株にクローン化し、次いでクローンを無限に繁殖させて、mAbを提供することができる。MAb産生のために、細胞株は2つの基本的な方式で活用され得る。ハイブリドーマのサンプルを動物(例えば、マウス)(しばしば、腹膜腔内)に注入し得る。任意で、注入前に、動物を炭水化物、とりわけプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油でプライムする。この方式においてヒトハイブリドーマが用いられる場合、SCIDマウスなどの免疫不全マウスに注入して、腫瘍拒絶を阻止することが最適である。注入された動物は、融合した細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生させる。次いで、血清または腹水など、動物の体液を採集して、高濃度のMAbを提供することができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、そこではMAbは培養培地中に天然に分泌され、そこからそれらは高濃度で容易に獲得され得る。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで用いて、細胞上清中に免疫グロブリンを産生することができる。細胞株を血清不含培地中での成長に順応させて、高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収し得る能力を最適化することができる。
【0030】
所望の場合、いずれかの手段によって産生されたMAbは、濾過、遠心分離、およびFPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーなどの様々なクロマトグラフィー法を用いてさらに精製され得る。本開示のモノクローナル抗体のフラグメントは、ペプシンもしくはパパインなどの酵素による消化、および/または化学的還元によるジスルフィド結合の切断によるものを含めた方法によって、精製モノクローナル抗体から獲得され得る。あるいは、本開示によって包含されるモノクローナル抗体フラグメントは、自動ペプチド合成機を用いて合成され得る。
【0031】
分子クローニング手法を用いて、モノクローンを作製し得ることも企図される。これに関しては、RNAをハイブリドーマ株から単離し得、そして抗体遺伝子をRT-PCRによって獲得し得かつ免疫グロブリン発現ベクター内にクローニングし得る。あるいは、組み合わせ免疫グロブリンファージミドライブラリーを、細胞株から単離されたRNAから調製し、かつ適当な抗体を発現するファージミドを、ウイルス抗原を用いてふるい分けすることによって選択する。従来のハイブリドーマ技法を上回るこの手法の利点は、およそ104倍もの多くの抗体が単一ラウンドで産生され得かつスクリーニングされ得ること、ならびに適当な抗体を見出す好機をさらに増加させるH鎖およびL鎖の組み合わせによって、新たな特異性が生み出されることである。
【0032】
本開示において有用な抗体の産生を教示する、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる他の米国特許には、組み合わせ手法を用いたキメラ抗体の産生を記載している米国特許第5,565,332号;組換え免疫グロブリン調製を記載している米国特許第4,816,567号;および抗体-治療剤コンジュゲートを記載している米国特許第4,867,973号が含まれる。
【0033】
B.本開示の抗体
本開示による抗体は、第1の例では、それらの結合特異性によって定義され得、この場合ではMUC1-C/ECDに関し、特に、
である。当業者は、当業者に周知の技術を用いて所与の抗体の結合特異性/アフィニティーを評価することによって、そのような抗体が本特許請求の範囲内に入るかどうかを決定することができる。
【0034】
一態様において、抗体構築物は、免疫グロブリンG(IgG)抗体アイソタイプ配列を保持する。ヒトにおける血清免疫グロブリンのおよそ75%に相当するため、IgGは循環中に見出される最も豊富な抗体アイソタイプである。IgG分子は、形質B細胞によって合成されかつ分泌される。ヒトには、血清中でのそれらの豊富さの順序で名付けられた4つのIgGサブクラス(IgG1、2、3、および4)が存在する(IgG1が最も豊富である)。Fc受容体に対する高いアフィニティーを有するからアフィニティーなしまでの範囲。
【0035】
IgGは、血中および細胞外液中で見出される主要な抗体アイソタイプであり、それが身体組織の感染を制御するのを可能にする。ウイルス、細菌、および真菌に相当する、多くの種類の病原体に結合することによって、IgGは感染から身体を保護する。それは、いくつかの免疫メカニズムを介してこれを行う:IgG介在性の病原体の結合は、凝集を介してそれらの固定化およびまとまった結合を引き起こす;病原体表面のIgGコーティング(オプソニン化として知られる)により、食作用を有する免疫細胞によるそれらの認識および摂取が可能となる;IgGは、病原体除去をもたらす免疫タンパク質産生のカスケードである、補体系の古典的経路を活性化する;IgGは、毒素にも結合しかつ中和する。IgGは、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)および細胞内抗体介在性タンパク質分解においても重要な役割を果たし、それはTRIM21(ヒトにおける、IgGに対する最大のアフィニティーを有する受容体)に結合して、印付けられたビリオンをサイトゾル内のプロテアソームへ向かわせる。IgGは、II型およびIII型過敏症とも関連している。IgG抗体は、クラススイッチおよび抗体応答の成熟の後に作られ、ゆえに主として二次免疫応答に参加する。IgGはサイズが小さい単量体として分泌され、それが組織に簡単に浸み込むのを可能にする。それは、ヒト胎盤を通じた通過を容易にする受容体を有する唯一のアイソタイプである。母乳中に分泌されるIgAとともに、胎盤を通じて吸収された残りのIgGは、新生児に、それ自身の免疫系が発達する前に液性免疫を提供する。初乳、とりわけウシ初乳は、高いパーセンテージのIgGを含有する。病原体に対する先行免疫を有する個体において、IgGは、抗原刺激の約24~48時間後に出現する。
【0036】
加えて、本発明の抗体は、少なくとも二次結合特異性、すなわち、CD3、CD16、骨髄特異的抗原、EGFR、ErbB2、TIL、CD3/PD1またはCD16/PD1に対する結合を有するであろう。別の局面において、抗体は、それらの結合特異性を決定する配列によって規定され得る。下記に続く実施例において配列が提供される。
【0037】
本開示で採用される抗体の特定の例は7B8-1および3D1と名付けられたものであり、それらのCDRを表1に示す。
【0038】
【0039】
さらに、抗体配列は、下記でより詳細に記述される方法を任意で用いて、上記で提供される配列から変動し得る。例えば、(a)可変領域は、軽鎖の定常ドメインから隔離され得る、(b)アミノ酸は示されるものから変動し得るが、それによって残基の化学的特性に劇的に影響を及ぼすわけではない(いわゆる保存的置換)、(c)アミノ酸は、上記で示されるものから所与のパーセンテージ変動し得る、例えば80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相同である、という点において、アミノ配列は、上記で示されるものから変動し得る。あるいは、抗体をコードする核酸は、(a)軽鎖の定常ドメインから隔離され得る、(b)上記で示されるものから変動し得るが、それによって、コードされる残基を変化させるわけではない、(c)上記で示されるものから所与のパーセンテージ変動し得る、例えば70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相同である、または(d)約50℃~約70℃の温度において約0.02M~約0.15M NaClによって提供されるものなど、低塩および/もしくは高温の条件によって例示される高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし得る能力によって、上記で示されるものから変動し得る。
【0040】
アミノ酸配列において保存的変化を作製する際、アミノ酸の疎水性(hydropathic)指標が考慮され得る。タンパク質に相互作用的な生物学的機能を付与することにおける疎水性アミノ酸指標の重要性は、当技術分野において一般的に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的な疎水性特徴は、結果として生じるタンパク質の二次構造に寄与し、それが今度は、タンパク質と他の分子、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが認められている。
【0041】
類似したアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に作製され得ることも当技術分野において理解されている。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その近接アミノ酸の親水性によって支配される、タンパク質の最大の局部的平均親水性が、該タンパク質の生物学的特性と相関することを明記している。米国特許第4,554,101号において詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:塩基性アミノ酸:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5);酸性アミノ酸:アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2);親水性非イオン性アミノ酸:セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびスレオニン(-0.4);含硫アミノ酸:システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3);疎水性非芳香族アミノ酸:バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0);疎水性芳香族アミノ酸:トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
【0042】
アミノ酸は、同程度の親水性を有する別のものに置換され得、かつ生物学的にまたは免疫学的に改変されたタンパク質を産生し得ると理解されている。そのような変化において、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるものは特に好ましく、かつ±0.5以内のものはさらにより特に好ましい。
【0043】
上記で概説されるように、アミノ酸置換は、一般的にアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えばそれらの疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。前述の様々な特徴を考慮に入れる例示的な置換は、当業者に周知であり、かつアルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0044】
C.抗体構築物の操作
様々な態様において、発現の改善、交差反応性の改善、オフターゲット結合の軽減、または補体の活性化もしくは免疫細胞(例えば、T細胞)の動員などの1つもしくは複数の天然エフェクター機能の無効化などの多様な理由で、同定された抗体の配列を操作することを選び得る。特に、IgM抗体をIgG抗体に転向し得る。以下は、抗体操作のための関連技法についての一般的記述である。
【0045】
ハイブリドーマを培養し得、次いで細胞を溶解し得、かつ全RNAを抽出し得る。RTとともにランダムヘキサマーを用いて、RNAのcDNA複製物を作製し得、次いで、すべてのヒト可変遺伝子配列を増幅することが予想されるPCRプライマーの多重混合物を用いてPCRを実施し得る。PCR産物をpGEM-T Easyベクター内にクローニングし得、次いで標準的なベクター用プライマーを用いた自動DNAシーケンシングによってシーケンスし得る。結合および中和のアッセイを、ハイブリドーマ上清から収集された抗体を用いて実施し得、かつプロテインGカラムを用いたFPLCによって精製し得る。重鎖および軽鎖Fv DNAをクローニングベクターからLonza pConIgG1またはpConK2プラスミドベクター内にサブクローニングすることによって、組換え全長IgG抗体を作製し得、293 Freestyle細胞またはLonza CHO細胞にトランスフェクトし得、そしてCHO細胞上清から収集しかつ精製し得る。
【0046】
最終的なcGMP製造過程と同じ宿主細胞および細胞培養の過程で産生される抗体の迅速な入手可能性は、過程開発プログラムの継続期間を短縮する可能性を有する。Lonzaは、CHO細胞における少量(最高50g)の抗体の迅速な産生のための、CDACF培地中で成長したプールされたトランスフェクタントを用いた包括的方法を開発している。実際の一過性システムよりもわずかに遅いものの、利点には、より高い産物濃度、ならびに産生細胞株と同じ宿主および過程の使用が含まれる。使い捨てバイオリアクター内でモデル抗体を発現させる、GS-CHOプールの成長および産生力の例:流加培養様式で作動される使い捨てバッグバイオリアクター培養(5Lの運転容量)において、トランスフェクションの9週間以内に、2g/Lの収穫抗体濃度が達成された。
【0047】
pConベクター(商標)は、抗体全体を再発現させるための簡単な方式である。定常領域ベクターは、pEEベクター内にクローニングされた広範な免疫グロブリン定常領域ベクターを与えるベクターのセットである。これらのベクターは、ヒト定常領域を有する全長抗体の簡単な構築およびGS System(商標)の利便性を与える。
【0048】
ヒト療法において用いられる場合にいかなる免疫反応をも減衰させるために、非ヒト宿主において産生された抗体を「ヒト化する」ことが望ましくあり得る。そのようなヒト化抗体は、インビトロまたはインビボの状況で研究され得る。ヒト化抗体は、例えば抗体の免疫原性部分を、対応するが非免疫原性の部分で置き換えることによって産生され得る(すなわち、キメラ抗体)。PCT出願第PCT/US86/02269号;EP出願第184,187号;EP出願第171,496号;EP出願第173,494号;PCT出願第WO 86/01533号;EP出願第125,023号;Sun et al. (1987);Wood et al. (1985);およびShaw et al. (1988)、その参考文献のすべては参照により本明細書に組み入れられる。「ヒト化」キメラ抗体の一般的な概説はMorrison (1985)によって提供されており、それも参照により本明細書に組み入れられる。あるいは、「ヒト化」抗体は、CDRまたはCEA置換によって産生され得る。Jones et al. (1986);Verhoeyen et al. (1988);Beidler et al. (1988)、そのすべては参照により本明細書に組み入れられる。
【0049】
本開示はまた、アイソタイプ改変も企図する。異なるアイソタイプを有するようにFc領域を改変することによって、異なる機能性が達成され得る。例えば、IgG4への変化は、他のアイソタイプに関連する免疫エフェクター機能を低減させることができる。
【0050】
改変抗体は、標準的な分子生物学的技法による発現またはポリペプチドの化学的合成を含めた、当業者に公知の任意の技法によって作製され得る。組換え発現のための方法が、本文書における他の箇所で対処されている。
【0051】
D.発現
本開示に従った核酸は、任意で他のタンパク質配列に連結された抗体をコードする。本出願において使用するとき、「MUC1-C抗体構築物をコードする核酸」という用語は、全細胞核酸から遊離した単離されている核酸分子を指す。ある特定の態様において、本開示は、本明細書において明示される配列のいずれかによってコードされる抗体に関する。
【0052】
【0053】
本開示のDNAセグメントには、上記で記載される配列の生物学的機能等価のタンパク質およびペプチドをコードするものが含まれる。そのような配列は、核酸配列内、ゆえにコードされるタンパク質内に天然に存在することが知られるコドン冗長性およびアミノ酸機能等価性の結果として生じ得る。あるいは、機能等価のタンパク質またはペプチドは、組換えDNA技術の適用により創出され得、そこでのタンパク質構造の変化は、交換されているアミノ酸の特性についての考慮に基づいて操作され得る。人間によって設計される変化は、部位指向性突然変異誘発技法の適用により導入され得る、または下記で記載されるように、無作為に導入され得かつ後に所望の機能についてスクリーニングされ得る。
【0054】
ある特定の態様内において、発現ベクターを採用してMUC1-Cリガンド捕捉体を発現させて、それから発現されるポリペプチドを産生しかつ単離する。他の態様において、発現ベクターを遺伝子療法において用いる。発現は、ベクター内で適当なシグナルが提供されることを要し、それには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を推進する、ウイルスおよび哺乳類供給源の両方由来のエンハンサー/プロモーターなど、様々な調節エレメントが含まれる。宿主細胞においてメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するように設計されるエレメントも規定される。薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に関連付けるエレメントであるように、産物を発現する永久的な安定した細胞クローンを確立するためのいくつかの優性薬物選択マーカーの使用のための条件も提供される。
【0055】
本出願を通して、「発現構築物」という用語は、配列をコードする核酸の一部またはすべてが転写され得る遺伝子産物をコードする核酸を含有する任意のタイプの遺伝子構築物を含むことを意味する。転写産物はタンパク質に翻訳され得るが、それは必要であるわけではない。ある特定の態様において、発現には、遺伝子の転写および遺伝子産物へのmRNAの翻訳の両方が含まれる。他の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみが含まれる。
【0056】
「ベクター」という用語は、それが複製され得る細胞内への導入のために、その中に核酸配列を挿入し得るキャリア核酸分子を指すために用いられる。核酸配列は「外因性」であり得、それは、ベクターが導入されている細胞にとってそれが外来物であること、または配列が、細胞内におけるしかしながら該配列が普通見出されない宿主細胞核酸内の箇所における配列と相同であることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルス、および植物ウイルス)、および人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者であれば、両方とも参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)およびAusubel et al. (1994)に記載されている、標準的な組換え技法によりベクターを構築する能力を十分に備えているであろう。
【0057】
「発現ベクター」という用語は、転写され得る遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含有するベクターを指す。ある場合には、RNA分子は、次いでタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳される。他の場合、例えばアンチセンス分子またはリボザイムの産生において、これらの配列は翻訳されない。発現ベクターは、特定の宿主生物における機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳に必要な核酸配列を指す、多様な「制御配列」を含有し得る。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、同様に他の機能を果たしかつ下記で記載される核酸配列を含有し得る。
【0058】
1.調節エレメント
「プロモーター」とは、そこで転写の開始および割合が制御される核酸配列の領域である制御配列である。それは、そこで調節タンパク質および分子がRNAポリメラーゼおよび他の転写因子などに結合し得る遺伝子エレメントを含有し得る。「機能的に位置付けされた」、「機能的に連結した」、「制御下にある」、および「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、核酸配列に関して正しい機能的な位置および/または配向にあって、その配列の転写開始および/または発現を制御することを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性に関与するシス作用性調節配列を指す「エンハンサー」と合わせて用いられ得るまたは用いられ得ない。
【0059】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって獲得され得る、遺伝子または配列に天然に伴うものであり得る。そのようなプロモーターは、「内因性」と呼ばれ得る。同様に、エンハンサーは、その配列の下流または上流のいずれかに位置する、核酸配列に天然に伴うものであり得る。あるいは、その天然環境において核酸配列に通常伴わないプロモーターを指す組換えのまたは異種のプロモーターの制御下にコード核酸セグメントを位置付けすることによって、ある特定の利点が得られる。
【0060】
組換えのまたは異種のエンハンサーとは、その天然環境において核酸配列に通常伴わないエンハンサーも指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意の原核細胞、ウイルス細胞、または真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変更する変異を含有するプロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成により産生することに加えて、配列は、本明細書において開示される組成物と合わせて、PCR(商標)を含めた組換えクローニングおよび/または核酸増幅技術を用いて産生され得る(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号、米国特許第5,928,906号を参照されたい)。さらに、ミトコンドリア、葉緑体などの非核細胞小器官内の配列の転写および/または発現を指揮する制御配列が同様に採用され得ることが企図される。
【0061】
当然、発現のために選出された細胞タイプ、細胞小器官、および生物におけるDNAセグメントの発現を有効に指揮するプロモーターおよび/またはエンハンサーを採用することが重要であろう。分子生物学の技術分野における当業者であれば、一般的に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、および細胞タイプの組み合わせの使用を知っており、例えば参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al. (1989)を参照されたい。採用されるプロモーターは、構成的であり得、組織特異的であり得、誘導性であり得、かつ/または、組換えタンパク質および/またはペプチドの大規模な産生において有利であるなど、導入されたDNAセグメントの高レベルの発現を指揮する適当な条件下で有用であり得る。プロモーターは、異種または内因性であり得る。
【0062】
表3は、本開示の状況において、遺伝子の発現を調節するために採用され得るいくつかのエレメント/プロモーターを列挙している。このリストは、発現の促進に関与する考え得るすべてのエレメントについて網羅的であることを意図されるわけではないが、単なるそれらの例示である。表4は、特異的刺激に応答して活性化され得る、核酸配列の領域である誘導性エレメントの例を提供している。
【0063】
【0064】
【0065】
組織特異的プロモーターまたはエンハンサーの同定、ならびにそれらの活性を特徴付けするアッセイは、当業者に周知である。そのような領域の例には、ヒトLIMK2遺伝子(Nomoto et al. 1999)、ソマトスタチン受容体2遺伝子(Kraus et al., 1998)、マウス精巣上体レチノイン酸結合遺伝子(Lareyre et al., 1999)、ヒトCD4(Zhao-Emonet et al., 1998)、マウスα2(XI)コラーゲン(Tsumaki, et al., 1998)、D1Aドーパミン受容体遺伝子(Lee, et al., 1997)、インスリン様成長因子II(Wu et al., 1997)、ヒト血小板内皮細胞接着分子-1(Almendro et al., 1996)が含まれる。腫瘍特異的プロモーターも、本開示における用途を見出すであろう。いくつかのそのようなプロモーターが、表5に明示されている。
【0066】
(表5)がん遺伝子療法のための組織特異的プロモーター候補
【0067】
コード配列の効率的な翻訳には、特異的な開始シグナルも要され得る。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは近接配列が含まれる。ATG開始コドンを含めた外因性の翻訳制御シグナルが提供される必要があり得る。当業者であれば、容易にこれを決定することができかつ必要なシグナルを提供することができるであろう。インサート全体の翻訳を確実にするために、開始コドンは、所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」でなければならないことは周知である。外因性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然または合成のいずれかであり得る。発現の効率は、適当な転写エンハンサーエレメントの包含によって増強され得る。
【0068】
2.IRES
本開示のある特定の態様において、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを用いて、多重遺伝子、つまりポリシストロン性のメッセージを創出する。IRESエレメントは、5'メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャンモデルを迂回し得、かつ内部部位での翻訳を始動し得る(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルスファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント(Pelletier and Sonenberg, 1988)、同様に哺乳類メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が記載されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結され得る。それぞれがIRESによって分離された多数のオープンリーディングフレームが一緒に転写され得、ポリシストロン性のメッセージが創出される。効率的な翻訳のために、IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームはリボソームに接近可能である。単一メッセージを転写する単一プロモーター/エンハンサーを用いて、多数の遺伝子を効率的に発現させ得る(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,925,565号および第5,935,819号を参照されたい)。
【0069】
3.多目的クローニングサイト
ベクターは、多数の制限酵素部位を含有する核酸領域であるマルチクローニングサイト(MCS)を含み得、そのうちのいずれかを標準的な組換え技術と合せて用いて、ベクターを消化し得る。参照により本明細書に組み入れられるCarbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照されたい。「制限酵素消化」とは、核酸分子内の特異的位置でのみ機能する酵素による核酸分子の触媒的切断を指す。これらの制限酵素の多くが市販されている。そのような酵素の使用は、当業者によって広く理解されている。頻繁に、MCS内で切る制限酵素を用いてベクターを線状化またはフラグメント化して、外因性配列がベクターにライゲーションされるのを可能にする。「ライゲーション」とは、互いに連続的であっても連続的でなくてもよい2つの核酸フラグメント間でホスホジエステル結合を形成する過程を指す。制限酵素およびライゲーション反応を伴う技法は、組換え技術の技術分野における当業者に周知である。
【0070】
4.スプライシング部位
大部分の転写された真核生物RNA分子は、一次転写産物からイントロンを取り除くRNAスプライシングを受ける。真核生物ゲノム配列を含有するベクターは、タンパク質発現のために、転写産物の適正なプロセシングを確実にする、ドナーおよび/またはアクセプターのスプライシング部位を要し得る(参照により本明細書に組み入れられるChandler et al., 1997を参照されたい)。
【0071】
5.終結シグナル
本開示のベクターまたは構築物は、概して、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写産物の特異的終結に関与するDNA配列から構成される。ゆえに、ある特定の態様において、RNA転写産物の産生を終わらせる終結シグナルが企図される。望ましいメッセージレベルを達成するために、インビボにおいてターミネーターが必要であり得る。
【0072】
真核生物システムにおいて、ターミネーター領域は、ポリアデニル化部位を曝露するために、新たな転写産物の部位特異的切断を可能にする特異的DNA配列も含み得る。これは、転写産物の3'末端に約200個のA残基(ポリA)の伸長を付加するように、特化した内因性ポリメラーゼにシグナルを送達する。このポリAテールを修飾されたRNA分子は、より安定でありかつより効率的に翻訳されるように見える。ゆえに、真核生物を伴う他の態様において、ターミネーターは、RNAの切断のためのシグナルを含むことが好ましく、かつターミネーターシグナルは、メッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。ターミネーターおよび/またはポリアデニル化部位エレメントは、メッセージレベルを増強し、かつ/またはカセットから他の配列までの読み通しを最小限にする働きをし得る。
【0073】
本開示における使用のために企図されるターミネーターには、例えばウシ成長ホルモンターミネーターなどの遺伝子の終結配列、または例えばSV40ターミネーターなどのウイルス終結配列を例えば含むがそれらに限定されない、本明細書において記載されるまたは当業者に公知である任意の公知の転写のターミネーターが含まれる。ある特定の態様において、終結シグナルは、配列の切り取りなどによる、転写可能なまたは翻訳可能な配列の欠如であり得る。
【0074】
6.ポリアデニル化シグナル
発現、特に真核生物の発現においては、典型的に、転写産物の適正なポリアデニル化をもたらすポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化シグナルの性質は、本開示の実践の成功に決定的ではないと思われ、かつ/または任意のそのような配列が採用され得る。好ましい態様は、好都合でありかつ/または様々な標的細胞において上手く機能することが知られる、SV40ポリアデニル化シグナルおよび/またはウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルを含む。ポリアデニル化は、転写産物の安定性を増加させ得る、または細胞質輸送を促し得る。
【0075】
7.複製の起点
宿主細胞においてベクターを繁殖させるために、それは、そこで複製が開始される特異的核酸配列である、複製部位の1つまたは複数の起点(しばしば、「ori」と称される)を含有し得る。あるいは、宿主細胞が酵母である場合、自律複製配列(ARS)が採用され得る。
【0076】
8.選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
本開示のある特定の態様において、本開示の核酸構築物を含有する細胞は、発現ベクター内にマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定され得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含有する細胞の簡単な同定を可能にする、細胞に同定可能な変化を付与する。一般的に、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーは、マーカーの存在によりその選択が可能となるものであり、一方で陰性選択可能なマーカーは、その存在によりその選択が阻止されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0077】
通常、薬物選択マーカーの包含は、形質転換体のクローニングおよび同定に役立ち、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択可能なマーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、その根拠が比色分析であるGFPなどのスクリーニング可能なマーカーを含めた他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などのスクリーニング可能な酵素も利用され得る。当業者であれば、おそらくFACS解析と合わせて、どのように免疫学的マーカーを採用するのかも知っているであろう。用いられるマーカーは、それが、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限り、重要ではないと思われる。選択可能なマーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
【0078】
9.ウイルスベクター
ある特定のウイルスベクターが、効率的に細胞に感染しまたは侵入し、宿主細胞ゲノム内に組み込まれ、かつウイルス遺伝子を安定して発現する能力は、多数の異なるウイルスベクターシステムの開発および適用につながっている(Robbins et al., 1998)。エクスビボおよびインビボにおける遺伝子移入のためのベクターとしての使用のために、ウイルスシステムが現在開発されつつある。例えば、がん、嚢胞性線維症、ゴーシェ病、腎疾患、および関節炎などの疾患の処置のために、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、およびアデノ随伴ウイルスベクターが現在評価されつつある(Robbins and Ghivizzani, 1998;Imai et al., 1998;米国特許第5,670,488号)。下記で記載される様々なウイルスベクターは、特定の遺伝子療法適用に応じて、特異的な利点および不利な点を提示する。
【0079】
アデノウイルスベクター
特定の態様において、発現構築物の送達のために、アデノウイルス発現ベクターが企図される。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)構築物のパッケージングを支持し、かつ(b)その中にクローニングされている組織特異的または細胞特異的な構築物を最終的に発現するのに十分なアデノウイルス配列を含有するそうした構築物を含むことを意味する。
【0080】
アデノウイルスは、サイズが30~35kbに及ぶゲノムを有する、線状二本鎖DNAを含む(Reddy et al., 1998;Morrison et al., 1997;Chillon et al., 1999)。本開示に従ったアデノウイルス発現ベクターは、アデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。アデノウイルス遺伝子移入の利点には、非分裂細胞を含めた多種多様な細胞タイプに感染し得る能力、中型サイズのゲノム、操縦の容易さ、高い感染力、および高い力価に成長し得る能力が含まれる(Wilson, 1996)。さらに、アデノウイルスDNAは、他のウイルスベクターに伴う潜在的な遺伝毒性を有することなくエピソーム様式で複製し得るため、宿主細胞のアデノウイルス感染は、染色体への組み込みをもたらさない。また、アデノウイルスは構造的に安定しており(Marienfeld et al., 1999)、かつ広範囲にわたる増幅後にゲノム再編成は検出されていない(Parks et al., 1997;Bett et al., 1993)。
【0081】
アデノウイルスゲノムの際立った特質は、初期領域(E1、E2、E3、およびE4遺伝子)、中間領域(pIX遺伝子、Iva2遺伝子)、後期領域(L1、L2、L3、L4、およびL5遺伝子)、主要後期プロモーター(MLP)、逆向き末端反復(ITR)、およびΨ配列(Zheng, et al., 1999;Robbins et al., 1998;Graham and Prevec, 1995)である。初期遺伝子E1、E2、E3、およびE4は、感染後にウイルスから発現され、かつウイルス遺伝子発現、細胞遺伝子発現、ウイルス複製、および細胞アポトーシスの阻害を調節するポリペプチドをコードする。さらに、ウイルス感染の間にMLPが活性化され、アデノウイルスのカプシド形成に要されるポリペプチドをコードする後期(L)遺伝子の発現がもたらされる。中間領域は、アデノウイルスカプシドの構成要素をコードする。アデノウイルス逆向き末端反復(ITR;長さが100~200bp)はシスエレメントであり、かつ複製の起点として機能し、かつウイルスDNA複製に必要である。Ψ配列は、アデノウイルスゲノムのパッケージングに要される。
【0082】
遺伝子移入ベクターとしての使用のためのアデノウイルスを作製するためのよく見られる手法は、E2、E3、およびE4プロモーターの誘導に関与するE1遺伝子の欠失(E1-)である(Graham and Prevec, 1995)。その後、E1遺伝子の代わりに1つまたは複数の治療用遺伝子を組換えにより挿入することができ、該治療用遺伝子の発現は、E1プロモーターまたは異種プロモーターによって推進される。次いで、E1ポリペプチドをトランスに提供する「ヘルパー」細胞株(例えば、ヒト胎児腎臓細胞株293)において、E1-複製欠陥ウイルスを増幅する。ゆえに、本開示において、E1コード配列が取り除かれている箇所に形質転換構築物を導入することが好都合であり得る。しかしながら、アデノウイルス配列内での構築物の挿入の箇所は、本開示にとって決定的ではない。あるいは、E3領域、E4領域の一部分、またはその両方を欠失させ得、遺伝子移入における使用のために、真核細胞において作動可能なプロモーターの制御下にある異種核酸配列を、アデノウイルスゲノム内に挿入する(それぞれ参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,670,488号;米国特許第5,932,210号)。
【0083】
アデノウイルスに基づくベクターは、他のベクターシステムを上回るいくつかの固有の利点を与えるものの、それらは、ベクターの免疫原性、組換え遺伝子の挿入のためのサイズ制約、および低レベルの複製によってしばしば制限される。全長ジストロフィン遺伝子および複製に要される末端反復を含み、すべてのオープンリーディングフレームを欠失した組換えアデノウイルスベクターの調製(Haecker et al., 1996)は、上記で言及されるアデノウイルスの欠点に、いくつかの潜在的に有望な利点を与える。該ベクターは、293細胞においてヘルパーウイルスとともに高力価まで成長し、かつmdxマウスにおいて、インビトロでの筋管において、およびインビボでの筋線維においてジストロフィンを効率的に形質導入し得た。ヘルパー依存型ウイルスベクターが下記で記述される。
【0084】
アデノウイルスベクターを用いることにおける大きな懸案事項は、パッケージング細胞株におけるベクター産生の間または個体の遺伝子療法による処置の間の、複製能を有するウイルスの生成である。複製能を有するウイルスの生成は、意図しないウイルス感染の深刻な脅威、および患者に対する病理学的因果関係をもたらし得る。Armentanoら(1990)は、複製能を有するアデノウイルスの不注意な生成の可能性を除去すると主張した、複製欠損アデノウイルスベクターの調製を記載している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,824,544号)。複製欠損アデノウイルス法は、欠失されたE1領域および再配置されたタンパク質IX遺伝子を含み、ベクターは異種の哺乳類遺伝子を発現する。
【0085】
アデノウイルスベクターが複製欠損であるまたは少なくとも条件付きで欠損であるという要件以外、アデノウイルスベクターの性質は、本開示の実践の成功に決定的ではないと思われる。アデノウイルスは、42種の異なる公知の血清型および/またはサブグループA~Fのいずれかのものであり得る。サブグループCのアデノウイルス5型は、本開示における使用のための条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを獲得するための好ましい開始材料である。これは、アデノウイルス5型が、それについての大量の生化学的および遺伝学的な情報が公知であるヒトアデノウイルスであり、かつそれは、ベクターとしてアデノウイルスを採用する大部分の構築に歴史的に用いられてきたためである。
【0086】
上記で明記されるように、本開示に従った典型的ベクターは、複製欠損でありかつアデノウイルスE1領域を有しない。アデノウイルスの成長および操縦は当業者に公知であり、かつインビトロおよびインビボで幅広い宿主範囲を呈する(米国特許第5,670,488号;米国特許第5,932,210号;米国特許第5,824,544号)。このグループのウイルスは、高い力価で、例えば1mlあたり109~1011プラーク形成単位で獲得され得、かつそれらは高度に感染性である。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノム内への組み込みを要しない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であり、したがって宿主細胞に対する低い遺伝毒性を有する。多くの実験、革新、前臨床研究、および臨床試験が、現在、遺伝子送達ベクターとしてのアデノウイルスの使用のための検討下にある。例えば、肝疾患(Han et al., 1999)、精神疾患(Lesch, 1999)、神経疾患(Smith, 1998;Hermens and Verhaagen, 1998)、冠動脈疾患(Feldman et al., 1996)、筋疾患(Petrof, 1998)、胃腸疾患(Wu, 1998)、ならびに結腸直腸(Fujiwara and Tanaka, 1998;Dorai et al., 1999)、膵臓、膀胱(Irie et al., 1999)、頭頸部(Blackwell et al., 1999)、乳房(Stewart et al., 1999)、肺(Batra et al., 1999)、および卵巣(Vanderkwaak et al., 1999)などの様々ながんに対して、アデノウイルス遺伝子送達に基づく遺伝子療法が開発されつつある。
【0087】
レトロウイルスベクター
本開示のある特定の態様において、遺伝子送達のためのレトロウイルスの使用が企図される。レトロウイルスは、RNAゲノムを含むRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスによって感染した場合、ゲノムRNAはDNA中間体に逆転写され、それが感染細胞の染色体DNA内に組み込まれる。この組み込まれたDNA中間体は、プロウイルスと呼ばれる。レトロウイルスの特定の利点は、それらが、免疫原性のウイルスタンパク質を発現することなく、宿主DNA内に組み込まれることによって、関心対象の遺伝子(例えば、治療用遺伝子)を分裂細胞に安定して感染させ得ることである。理論上、組み込まれたレトロウイルスは、感染した宿主細胞の寿命の間維持され、関心対象の遺伝子が発現される。
【0088】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列によって隣接された3つの遺伝子:gag、pol、およびenvを有する。gag遺伝子は、内部構造(マトリックス、カプシド、およびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし;pol遺伝子は、RNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし;かつenv遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他のすべてのシス作用性配列を含有する。
【0089】
本開示の組換えレトロウイルスは、天然ウイルスの構造的な感染性遺伝子の一部が取り除かれかつその代わりに標的細胞に送達される対象となる核酸配列と置き換えられているような方式で遺伝子改変され得る(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,858,744号;米国特許第5,739,018号)。ウイルスによる細胞の感染後、ウイルスはその核酸を該細胞内に注入し、かつレトロウイルス遺伝物質は宿主細胞ゲノム内に組み込まれ得る。移入したレトロウイルス遺伝物質は、次いで、宿主細胞内で転写されかつタンパク質に翻訳される。他のウイルスベクターシステムと同様に、ベクター産生の間または療法の間の、複製能を有するレトロウイルスの生成は大きな懸案事項である。本開示における使用に適したレトロウイルスベクターは、概して、標的細胞に感染し得、それらのRNAゲノムを逆転写し得、かつ逆転写されたDNAを標的細胞ゲノム内に組み込み得るが、標的細胞内で複製して感染性レトロウイルスベクター粒子を産生し得ない欠損レトロウイルスベクターである(例えば、標的細胞内に移入したレトロウイルスゲノムは、ビリオン構造タンパク質をコードする遺伝子であるgag、および/または逆転写酵素をコードする遺伝子であるpolを欠損している)。ゆえに、プロウイルスの転写および感染性ウイルスへの会合は、適当なヘルパーウイルスの存在下において、または混入ヘルパーウイルスの同時産生なしでカプシド形成を可能にする適当な配列を含有する細胞株において生じる。
【0090】
レトロウイルスの成長および維持は、当技術分野において公知である(それぞれが参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,955,331号;米国特許第5,888,502号)。Nolanらは、異種遺伝子を含む、安定した高力価でヘルパー不含のレトロウイルスの産生を記載している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,830,725号)。両性(amphoteric)または同種指向性(ecotrophic)の宿主範囲を有する、ヘルパー不含組換えレトロウイルスの作製に有用なパッケージング細胞株を構築するための方法、ならびに組換えレトロウイルスを用いて、インビボおよびインビトロにおいて真核細胞内に関心対象の遺伝子を導入する方法が、本開示において企図される(米国特許第5,955,331号)。
【0091】
現在、ベクター介在性遺伝子送達に関するすべての臨床試験の大多数は、マウス白血病ウイルス(MLV)に基づくレトロウイルスベクター遺伝子送達を用いている(Robbins et al., 1998;Miller et al., 1993)。レトロウイルス遺伝子送達の不利な点には、安定した感染のために進行中の細胞分裂を要すること、および大型遺伝子の送達を妨げるコーディング許容量が含まれる。しかしながら、ある特定の非分裂細胞に感染し得るレンチウイルス(例えば、HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、およびウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)など、近年のベクターの開発により、遺伝子療法適用のためのレトロウイルスベクターのインビボ使用が潜在的に可能となっている(Amado and Chen, 1999;Klimatcheva et al., 1999;White et al., 1999;Case et al., 1999)。例えば、ニューロン(Miyatake et al., 1999)、膵島(Leibowitz et al., 1999)、および筋細胞(Johnston et al., 1999)などの非分裂細胞に感染するために、HIVに基づくベクターが用いられている。レトロウイルスを介した遺伝子の治療用送達が、現在、炎症性疾患(Moldawer et al., 1999)、AIDS(Amado and Chen, 1999;Engel and Kohn, 1999)、がん(Clay et al., 1999)、脳血管疾患(Weihl et al., 1999)、および血友病(Kay, 1998)などの様々な障害の処置に対して査定されつつある。
【0092】
ヘルペスウイルスベクター
単純ヘルペスウイルス(HSV)I型およびII型は、70~80種の遺伝子をコードする、およそ150kbの二本鎖線状DNAゲノムを含有する。野生型HSVは、細胞に溶解的に(lytically)感染し得、かつある特定の細胞タイプ(例えば、ニューロン)において潜伏を確立し得る。アデノウイルスと同様に、HSVも、筋肉(Yeung et al., 1999)、耳(Derby et al., 1999)、目(Kaufman et al., 1999)、腫瘍(Yoon et al., 1999;Howard et al., 1999)、肺(Kohut et al., 1998)、神経(Garrido et al., 1999;Lachmann and Efstathiou, 1999)、肝臓(Miytake et al., 1999;Kooby et al., 1999)、および膵島(Rabinovitch et al., 1999)を含めた多様な細胞タイプに感染し得る。
【0093】
HSVウイルス遺伝子は、細胞RNAポリメラーゼIIによって転写されかつ一時的に調節され、大体3つの識別可能な相または動力学的クラスにある、転写およびその後の遺伝子産物の合成をもたらす。遺伝子のこれらの相は、前初期(IE)またはα遺伝子、初期(E)またはβ遺伝子、および後期(L)またはγ遺伝子と呼ばれる。新たに感染した細胞の核内へのウイルスのゲノムの到着直後に、IE遺伝子が転写される。これらの遺伝子の効率的な発現は、先行するウイルスタンパク質合成を要しない。IE遺伝子の産物は、転写を活性化しかつウイルスゲノムの残りを調節するのに要される。
【0094】
治療用遺伝子送達における使用のために、HSVは複製欠損にされなければならない。複製欠損HSVヘルパーウイルス不含細胞株を作製するためのプロトコールが記載されている(それぞれが参照によりその全体として本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,879,934号;米国特許第5,851,826号)。α4またはVmw175としても知られる1種のIEタンパク質ICP4は、ウイルス感染性およびIEから後期転写への移行の両方に絶対的に要される。ゆえに、その複雑な多機能の性質およびHSV遺伝子発現の調節における中心的役割のために、ICP4は、典型的にHSV遺伝学的研究の標的とされている。
【0095】
ICP4を欠失したHSVウイルスについての表現型研究により、そのようなウイルスは、遺伝子移入目的に潜在的に有用であろうことが示されている(Krisky et al., 1998a)。それらを遺伝子移入にとって望ましいものにする、ICP4を欠失したウイルスの1つの特性は、それらが、ウイルスDNA合成を指揮するタンパク質ならびにウイルスの構造タンパク質をコードするウイルス遺伝子の発現なしに、他の5種のIE遺伝子:ICP0、ICP6、ICP27、ICP22、およびICP47のみを発現することである(DeLuca et al., 1985)。この特性は、宿主細胞代謝に対する考え得る有害な影響、または遺伝子移入後の免疫応答を最小限に抑えるのに望ましい。さらに、ICP4に加えて、IE遺伝子のICP22およびICP27の欠失は、HSV細胞傷害性の低下を実質的に向上させ、かつ初期および後期ウイルス遺伝子発現を阻止した(Krisky et al., 1998b)。
【0096】
遺伝子移入におけるHSVの治療的潜在性は、パーキンソン病(Yamada et al., 1999)、網膜芽細胞腫(Hayashi et al., 1999)、脳内腫瘍および皮内腫瘍(Moriuchi et al., 1998)、B細胞悪性腫瘍(Suzuki et al., 1998)、卵巣がん(Wang et al., 1998)、ならびにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Huard et al., 1997)などの疾患に対する、様々なインビトロモデルシステムおよびインビボで実証されている。
【0097】
アデノ随伴ウイルスベクター
パルボウイルスファミリーのメンバーであるアデノ随伴ウイルス(AAV)は、遺伝子送達治療法にますます用いられつつあるヒトウイルスである。AAVは、他のウイルスシステムには見出されないいくつかの有利な特質を有する。第一に、AAVは、非分裂細胞を含めた広範な宿主細胞に感染し得る。第二に、AAVは、種々の種由来の細胞に感染し得る。第三に、AAVは、いかなるヒトまたは動物の疾患とも関連しておらず、かつ組み込みがあっても、宿主細胞の生物学的特性を変更しないように見える。例えば、ヒト集団の80~85%がAAVに曝露されていると推定される。最後に、AAVは、広範な物理的および化学的な条件において安定であり、それ自身を産生、保管、および運搬の要件に添える。
【0098】
AAVゲノムは、4681個のヌクレオチドを含有する線状一本鎖DNA分子である。AAVゲノムは、一般的に、長さがおよそ145bpの逆向き末端反復(ITR)によって各末端で隣接された内部非反復ゲノムを含む。ITRは、DNA複製の起点およびウイルスゲノムに対するパッケージングシグナルとしてを含めた多数の機能を有する。ゲノムの内部非反復部分は、AAVの複製(rep)およびカプシド(cap)遺伝子として知られる、2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。repおよびcap遺伝子は、ウイルスが複製しかつウイルスゲノムをビリオン内にパッケージするのを可能にするウイルスタンパク質をコードする。少なくとも4種のウイルスタンパク質のファミリーは、それらの見かけの分子量に従って名付けられた、AAV rep領域のRep78、Rep68、Rep52、およびRep40から発現される。AAV cap領域は、少なくとも3種のタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。
【0099】
AAVは、AAVビリオンを形成するために、ヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、またはワクシニア)との共感染を要するヘルパー依存型ウイルスである。ヘルパーウイルスとの共感染の非存在下において、AAVは、ウイルスゲノムが宿主細胞染色体内に挿入された潜伏状態を確立するが、感染性ビリオンは産生されない。ヘルパーウイルスによる後続感染は、組み込まれたゲノムを「レスキュー」し、それが複製しかつそのゲノムを感染性AAVビリオン内にパッケージするのを可能にする。AAVは種々の種由来の細胞に感染し得るものの、ヘルパーウイルスは、宿主細胞と同じ種のものでなければならない(例えば、ヒトAAVは、イヌアデノウイルスを共感染させたイヌ細胞において複製する)。
【0100】
AAVは、AAVゲノムの内部非反復部分を欠失させ、かつITR間に異種遺伝子を挿入することによって、関心対象の遺伝子を送達するように操作されている。異種遺伝子は、標的細胞において遺伝子発現を推進し得る異種プロモーター(構成的、細胞特異的、または誘導性)に機能的に連結され得る。異種遺伝子を含有する感染性組換えAAV(rAAV)を産生するために、適切な産生細胞株に、異種遺伝子を含有するrAAVベクターをトランスフェクトする。AAV repおよびcap遺伝子を、それらそれぞれの内因性プロモーターまたは異種プロモーターの制御下に持つ第二のプラスミドを、産生細胞に同時にトランスフェクトする。最後に、産生細胞にヘルパーウイルスを感染させる。
【0101】
いったんこれらの因子が集合すると、あたかもそれが野生型AAVゲノムであるかのように、異種遺伝子は複製されかつパッケージされる。結果として生じるrAAVビリオンを標的細胞に感染させた場合、異種遺伝子は標的細胞に侵入しかつそこで発現される。標的細胞は、repおよびcap遺伝子ならびにアデノウイルスヘルパー遺伝子を欠いているため、rAAVはさらに複製する、パッケージする、または野生型AAVを形成することができない。
【0102】
しかしながら、ヘルパーウイルスの使用は、いくつかの問題を提示する。第一に、rAAV産生システムにおけるアデノウイルスの使用は、宿主細胞にrAAVおよび感染性アデノウイルスの両方を産生させる。混入する感染性アデノウイルスは、熱処理(56℃1時間)によって不活性化し得る。しかしながら、熱処理は、機能的rAAVビリオンの力価のおよそ50%降下をもたらす。第二に、これらの調製物中には、変動する量のアデノウイルスタンパク質が存在している。例えば、そのようなrAAVビリオン調製物において獲得される全タンパク質のおよそ50%またはそれを上回る割合は、遊離アデノウイルス線維タンパク質である。完全に取り除かれない場合、これらのアデノウイルスタンパク質は、患者から免疫応答を引き出す可能性を有する。第三に、ヘルパーウイルスを採用するAAVベクター産生法は、多量の高力価感染性ヘルパーウイルスの使用および操縦を要し、それは、特にヘルペスウイルスの使用に関して、いくつかの健康上および安全上の懸案事項を提示する。第四に、rAAVビリオン産生細胞におけるヘルパーウイルス粒子の付随産生は、多量の宿主細胞資源をrAAVビリオン産生からそらし、より低いrAAVビリオン収量を潜在的にもたらす。
【0103】
レンチウイルスベクター
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節的または構造的な機能を有する他の遺伝子を含有する複合レトロウイルスである。潜伏感染の経過において見られるように、より高い複雑性は、ウイルスがその生活環を変調させるのを可能にする。レンチウイルスの一部の例には、ヒト免疫不全ウイルス:HIV-1、HIV-2、およびサル免疫不全ウイルス:SIVが含まれる。レンチウイルスベクターは、HIV毒性(virulence)遺伝子を多重減衰させることによって作製されており、例えばenv、vif、vpr、vpu、およびnef遺伝子を欠失させ、ベクターを生物学的に安全にする。
【0104】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染し得、かつインビボおよびエクスビボの両方における遺伝子移入ならびに核酸配列の発現に用いられ得る。レンチウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列によって隣接された、レトロウイルスに見出される3種の遺伝子:gag、pol、およびenvを有する。gag遺伝子は、内部構造(マトリックス、カプシド、およびヌクレオカプシド)タンパク質をコードし;pol遺伝子は、RNA指向性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)、プロテアーゼ、およびインテグラーゼをコードし;かつenv遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。5'および3' LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化を促進する働きをする。LTRは、ウイルス複製に必要な他のすべてのシス作用性配列を含有する。レンチウイルスは、vif、vpr、tat、rev、vpu、nef、およびvpxを含めた付加的な遺伝子を有する。
【0105】
ゲノムの逆転写に(tRNAプライマー結合部位)および粒子内へのウイルスRNAの効率的なカプシド形成に(Psi部位)必要な配列が、5' LTRに近接している。カプシド形成(または感染性ビリオン内へのレトロウイルスRNAのパッケージング)に必要な配列がウイルスゲノムから失われている場合、シス欠損はゲノムRNAのカプシド形成を妨げる。しかしながら、結果として生じる変異体は、依然としてすべてのビリオンタンパク質の合成を指揮し得る。
【0106】
レンチウイルスベクターは当技術分野において公知であり、Naldini et al., (1996);Zufferey et al., (1997);米国特許第6,013,516号;および第5,994,136号を参照されたい。一般的に、ベクターは、プラスミドに基づくまたはウイルスに基づくものであり、かつ外来核酸を組み入れるための、選択のための、および宿主細胞内への核酸の移入のための必須の配列を運ぶように構成される。関心対象のベクターのgag、pol、およびenv遺伝子も、当技術分野において公知である。ゆえに、選択されたベクター内に関連遺伝子をクローニングし、次いでそれを用いて、関心対象の標的細胞を形質転換する。
【0107】
適切な宿主細胞に、パッケージング機能を持する2種またはそれを上回る種類のベクター、つまりgag、pol、およびenv、ならびにrevおよびtatをトランスフェクトする、非分裂細胞に感染し得る組換えレンチウイルスが、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記載されている。これは、パッケージング細胞を産出するための、ウイルスgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を提供し得る第一のベクター、ならびにウイルスenvをコードする核酸を提供し得る別のベクターを記載している。本開示におけるSTAT-1α遺伝子などの異種遺伝子を提供するベクターをそのパッケージング細胞内に導入することにより、関心対象の外来遺伝子を持する感染性ウイルス粒子を放出する産生細胞が産出される。envは、好ましくは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性(amphotropic)エンベロープタンパク質である。
【0108】
ウイルスenv核酸配列を提供するベクターを、調節配列、例えばプロモーターまたはエンハンサーと機能的に関連付けする。調節配列は、例えばモロニーマウス白血病ウイルスプロモーター-エンハンサーエレメント、ヒトサイトメガロウイルスエンハンサー、またはワクシニアP7.5プロモーターを含めた、任意の真核生物プロモーターまたはエンハンサーであり得る。ある場合には、モロニーマウス白血病ウイルスプロモーター-エンハンサーエレメントなど、プロモーター-エンハンサーエレメントは、LTR配列の中または近接に位置する。
【0109】
本明細書におけるSTAT-1αをコードするポリヌクレオチド配列など、異種または外来の核酸配列を調節核酸配列に機能的に連結する。好ましくは、異種配列をプロモーターに連結し、キメラ遺伝子をもたらす。異種核酸配列は、また、ウイルスLTRプロモーター-エンハンサーシグナルまたは内部プロモーターのいずれかの制御下にあり得、かつレトロウイルスLTR内の保持されたシグナルは、移入遺伝子の効率的な発現をなおも引き起こし得る。マーカー遺伝子を利用して、ベクターの存在についてアッセイし得、ゆえに感染および組み込みを確認し得る。マーカー遺伝子の存在は、インサートを発現するそうした宿主細胞のみの選択および成長を保証する。典型的な選択遺伝子は、抗生物質および他の毒性物質、例えばヒスチジノール、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、メトトレキサートなどに対する耐性を付与するタンパク質、および細胞表面マーカーをコードする。
【0110】
トランスフェクションまたは感染により、ベクターをパッケージング細胞株内に導入する。パッケージング細胞株は、ベクターゲノムを含有するウイルス粒子を産生する。トランスフェクションまたは感染のための方法は、当業者によって周知である。パッケージング細胞株へのパッケージングベクターおよび移入ベクターの共トランスフェクションの後、組換えウイルスを培養培地から回収し、かつ当業者によって用いられる標準的方法によって力価測定する。ゆえに、パッケージング構築物は、一般的にneo、DHFR、Gln合成酵素、またはADAなどの優性選択可能なマーカーと一緒に、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクション、またはエレクトロポレーションによってヒト細胞株内に導入され得、その後に、適当な薬物の存在下における選択およびクローンの単離が続く。選択可能なマーカー遺伝子は、構築物内のパッケージング遺伝子に物理的に連結され得る。
【0111】
Naldiniら(1996)のレンチウイルス移入ベクターは、インビトロで成長を停止させたヒト細胞に感染させるために、および成体ラットの脳内への直接注入後にニューロンに形質導入するために用いられている。ベクターは、インビボでマーカー遺伝子をニューロン内に移入するのに効率的であり、かつ検出可能な病変なしで長期発現が達成された。ベクターの単回注入の10ヶ月後に解析された動物は、移入遺伝子発現の平均レベルの減少を示さず、かつ組織病変または免疫反応の兆候を示さなかった(Blomer et al., 1997)。ゆえに、本開示において、エクスビボにおいて組換えレンチウイルスを感染させた細胞をグラフトし得るもしくは移植し得る、またはインビボにおいて細胞に感染させ得る。
【0112】
他のウイルスベクター
遺伝子送達のためのウイルスベクターの開発および実用性は、絶えず改善しかつ進化しつつある。ポックスウイルス;例えばワクシニアウイルス(Gnant et al., 1999;Gnant et al., 1999)、アルファウイルス;例えばシンドビスウイルス、セムリキ森林ウイルス(Lundstrom, 1999)、レオウイルス(Coffey et al., 1998)、およびインフルエンザAウイルス(Neumann et al., 1999)などの他のウイルスベクターが、本開示における使用のために企図され、かつ標的システムの不可欠な特性に従って選択され得る。
【0113】
ある特定の態様において、ワクシニアウイルスベクターが、本開示における使用のために企図される。ワクシニアウイルスは、異種遺伝子を発現するための特に有用な真核生物ウイルスベクターシステムである。例えば、組換えワクシニアウイルスが適正に操作された場合、タンパク質が合成され、プロセシングされ、かつ原形質膜に輸送される。遺伝子送達ベクターとしてのワクシニアウイルスは、ヒト腫瘍細胞に遺伝子、例えばEMAP-II(Gnant et al., 1999)を、内耳に(Derby et al., 1999)、神経膠腫細胞に例えばp53(Timiryasova et al., 1999)を、および様々な哺乳類細胞に例えばP450(米国特許第5,506,138号)を移入することが近年実証されている。ワクシニアウイルスの調製、成長、および操縦は、米国特許第5,849,304号および米国特許第5,506,138号(それぞれ参照により本明細書に具体的に組み入れられる)に記載されている。
【0114】
他の態様において、シンドビスウイルスベクターが、遺伝子送達における使用のために企図される。シンドビスウイルスは、ベネズエラの西部および東部ウマ脳炎ウイルス(Sawai et al., 1999;Mastrangelo et al., 1999)などの重要な病原体を含む、アルファウイルス属の種である(Garoff and Li, 1998)。インビトロにおいて、シンドビスウイルスは、多様なトリ細胞、哺乳類細胞、爬虫類細胞、および両生類細胞に感染する。シンドビスウイルスのゲノムは、長さが11,703ヌクレオチドの一本鎖RNAの単一分子からなる。ゲノムRNAは感染性であり、5'末端でキャッピングされ、かつ3'末端でポリアデニル化され、そしてmRNAとして働く。ワクシニアウイルス26S mRNAの翻訳は、ウイルスプロテアーゼとおそらく宿主によってコードされるプロテアーゼとの組み合わせによって、同時翻訳的におよび翻訳後に切断されるポリタンパク質を産生して、3種のウイルス構造タンパク質、カプシドタンパク質(C)および2種のエンベロープ糖タンパク質(E1およびPE2、ビリオンE2の前駆体)を与える。
【0115】
シンドビスウイルスの3つの特質により、それが、異種遺伝子の発現のための有用なベクターであろうことが示唆される。第一に、天然および実験室の両方におけるその広い宿主範囲。第二に、遺伝子発現は宿主細胞の細胞質で生じ、そして迅速かつ効率的である。第三に、RNA合成において温度感受性変異が入手可能であり、それを用いて、感染後の様々な時間において培養物を非許容温度に単に移すことによって、異種コード配列の発現を変調し得る。シンドビスウイルスの成長および維持は、当技術分野において公知である(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,217,879号)。
【0116】
キメラウイルスベクター
キメラまたはハイブリッドウイルスベクターが、治療用遺伝子送達における使用のために開発されつつあり、かつ本開示における使用のために企図される。キメラポックスウイルス/レトロウイルスベクター(Holzer et al., 1999)、アデノウイルス/レトロウイルスベクター(Feng et al., 1997;Bilbao et al., 1997;Caplen et al., 1999)、およびアデノウイルス/アデノ随伴ウイルスベクター(Fisher et al., 1996;米国特許第5,871,982号)が記載されている。
【0117】
これらの「キメラ」ウイルス遺伝子移入システムは、2種またはそれを上回る種類の親ウイルス種の好ましい特質を活用し得る。例えば、Wilsonらは、下記で記載される、アデノウイルスの一部分、AAV 5'および3' ITR配列、ならびに選択された移入遺伝子を含むキメラベクター構築物を提供している(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。
【0118】
アデノウイルス/AAVキメラウイルスは、アデノウイルス核酸配列をシャトルとして用いて、組換えAAV/移入遺伝子ゲノムを標的細胞に送達する。ハイブリッドベクターにおいて採用されるアデノウイルス核酸配列は、ハイブリッドウイルス粒子を産生するためにヘルパーウイルスの使用を要する最小限の配列量から、欠失した遺伝子産物が、選択されたパッケージング細胞によるハイブリッドウイルス産生過程で供給され得る、アデノウイルス遺伝子の選択された欠失のみに及び得る。最低でも、pAdAシャトルベクターにおいて採用されるアデノウイルス核酸配列は、そこから全ウイルス遺伝子が欠失され、かつあらかじめ形成されたカプシド頭部内にアデノウイルスゲノムDNAをパッケージするために要されるそうしたアデノウイルス配列のみを含有する、アデノウイルスゲノム配列である。より具体的には、採用されるアデノウイルス配列は、アデノウイルスのシス作用性5'および3'逆向き末端反復(ITR)配列(複製の起点として機能する)、ならびに天然5'パッケージング/エンハンサードメインであり、それは、線状Adゲノムをパッケージするために必要な配列およびE1プロモーターに対するエンハンサーエレメントを含有する。所望の機能が除去されない限り、アデノウイルス配列は、所望の欠失、置換、または変異を含有するように改変され得る。
【0119】
上記のキメラベクターにおいて有用なAAV配列は、そこからrepおよびcapポリペプチドコード配列が欠失しているウイルス配列である。より具体的には、採用されるAAV配列は、シス作用性5'および3'逆向き末端反復(ITR)配列である。これらのキメラは、宿主細胞への高力価の移入遺伝子送達、および宿主細胞染色体内に移入遺伝子を安定して組み込み得る能力を特徴とする(参照により本明細書に具体的に組み入れられる米国特許第5,871,983号)。ハイブリッドベクター構築物において、AAV配列は、上記で記述される選択されたアデノウイルス配列によって隣接される。5'および3' AAV ITR配列自体は、下記で記載される、選択された移入遺伝子配列および関連付けされた調節エレメントに隣接する。ゆえに、移入遺伝子ならびに隣接5'および3' AAV配列によって形成される配列は、ベクターのアデノウイルス配列における任意の欠失部位に挿入され得る。例えば、AAV配列は、望ましくは、アデノウイルスの欠失したE1a/E1b遺伝子の部位に挿入される。あるいは、AAV配列は、E3欠失、E2a欠失などに挿入され得る。アデノウイルス5' ITR/パッケージング配列および3' ITR配列のみがハイブリッドウイルスにおいて用いられる場合、AAV配列はその間に挿入される。
【0120】
ベクターの移入遺伝子配列および組換えウイルスは、アデノウイルス配列にとって異種の遺伝子、核酸配列、またはその逆転写産物であり、それは、関心対象のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドフラグメントをコードする。移入遺伝子は、移入遺伝子転写を可能にする様式で調節性構成要素に機能的に連結される。移入遺伝子配列の組成は、結果として生じるハイブリッドベクターを処するであろう用途に依存する。例えば、1つのタイプの移入遺伝子配列には、宿主細胞において所望の遺伝子産物を発現する治療用遺伝子が含まれる。これらの治療用遺伝子または核酸配列は、典型的に、遺伝性もしくは非遺伝性の遺伝子欠損を置き換えるもしくは補正するための、または後成的な障害もしくは疾患を処置するための、インビボまたはエクスビボでの患者における投与および発現のための産物をコードする。
【0121】
10.非ウイルス性形質転換
本開示との使用のための細胞小器官、細胞、組織、または生物の形質転換のための核酸送達のための適切な方法は、本明細書において記載されるまたは当業者に公知であろう、それによって核酸(例えば、DNA)が細胞小器官、細胞、組織、または生物内に導入され得る事実上任意の方法を含むと思われる。そのような方法には、マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられるHarland and Weintraub, 1985;米国特許第5,789,215号)を含めた注入によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号、および第5,580,859号);エレクトロポレーションによって(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号);リン酸カルシウム沈殿によって(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990);DEAE-デキストラン、それに続いてポリエチレングリコールを用いることによって(Gopal, 1985);直接超音波負荷によって(Fechheimer et al., 1987);リポソーム介在性トランスフェクションによって(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987;Wong et al., 1980;Kaneda et al., 1989;Kato et al., 1991);微弾丸衝撃によって(microprojectile bombardment)(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるPCT出願第WO 94/09699号および第95/06128号;米国特許第5,610,042号、第5,322,783号、第5,563,055号、第5,550,318号、第5,538,877号、および第5,538,880号);炭化ケイ素繊維による撹拌によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるKaeppler et al., 1990;米国特許第5,302,523号および第5,464,765号);またはプロトプラストのPEG介在性形質転換によって(それぞれが参照により本明細書に組み入れられるOmirulleh et al., 1993;米国特許第4,684,611号および第4,952,500号);乾燥/阻害(desiccation/inhibition)によるDNA取り込みによって(Potrykus et al., 1985)などのDNAの直接送達が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらなどの技法の適用を通じて、細胞小器官、細胞、組織、または生物は、安定してまたは一過性に形質転換され得る。
【0122】
注入
ある特定の態様において、核酸は、例えば皮下へ、皮内へ、筋肉内へ、静脈内へ(intervenously)、または腹腔内へのいずれかなど、1回または複数回の注入(すなわち、針による注入)を介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物に送達され得る。ワクチンの注入の方法は、当業者に周知である(例えば、生理食塩液を含む組成物の注入)。本開示のさらなる態様は、直接マイクロインジェクションによる核酸の導入を含む。直接マイクロインジェクションは、アフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞内に核酸構築物を導入するために用いられている(Harland and Weintraub, 1985)。
【0123】
エレクトロポレーション
本開示のある特定の態様において、核酸は、エレクトロポレーションを介して、細胞小器官、細胞、組織、または生物内に導入される。エレクトロポレーションは、細胞とDNAとの懸濁物の高電圧放電への曝露を伴う。この方法のいくつかの変種において、ペクチン分解酵素などのある特定の細胞壁分解酵素を採用して、標的レシピエント細胞を、未処理細胞よりも、エレクトロポレーションによる形質転換に対してより感受性にする(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号)。あるいは、レシピエント細胞を、機械的創傷によって、形質転換に対してより感受性にし得る。
【0124】
エレクトロポレーションを用いた真核細胞のトランスフェクションは、かなり成功している。この様式で、マウス前Bリンパ球にヒトκ-免疫グロブリン遺伝子がトランスフェクトされており(Potter et al., 1984)、そしてラット肝細胞にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子がトランスフェクトされている(Tur-Kaspa et al., 1986)。
【0125】
例えば植物細胞などの細胞においてエレクトロポレーションによる形質転換を達成するために、細胞もしくは胚発生カルスの懸濁培養物など、いずれか砕けやすい組織を採用し得る、あるいは、未成熟胚もしくは他の組織化された組織を直接形質転換し得る。この技法において、選出された細胞の細胞壁は、それらをペクチン分解酵素(ペクトリアーゼ)または機械的創傷に制御された様式で曝露することによって、部分的に分解されると考えられる。無傷細胞のエレクトロポレーションによって形質転換されているいくつかの種の例には、トウモロコシ(米国特許第5,384,253号;Rhodes et al., 1995;D'Halluin et al., 1992)、小麦(Zhou et al., 1993)、トマト(Hou and Lin, 1996)、大豆(Christou et al., 1987)、およびタバコ(Lee et al., 1989)が含まれる。
【0126】
植物細胞のエレクトロポレーションによる形質転換には、プロトプラストも採用し得る(Bates, 1994;Lazzeri, 1995)。例えば、子葉由来プロトプラストのエレクトロポレーションによるトランスジェニック大豆植物の作製が、参照により本明細書に組み入れられる国際特許出願第WO 92/17598号においてDhirおよびWidholmによって記載されている。プロトプラスト形質転換が記載されている種の他の例には、大麦(Lazerri, 1995)、モロコシ(Battraw et al., 1991)、トウモロコシ(Bhattacharjee et al., 1997)、小麦(He et al., 1994)、およびトマト(Tsukada, 1989)が含まれる。
【0127】
リン酸カルシウム
本開示の他の態様において、核酸は、リン酸カルシウム沈殿を用いて細胞に導入される。この技法を用いて、ヒトKB細胞にアデノウイルス5 DNAがトランスフェクトされている(Graham and Van Der Eb, 1973)。またこの様式で、マウスL(A9)、マウスC127、CHO、CV-1、BHK、NIH3T3、およびHeLa細胞にネオマイシンマーカー遺伝子がトランスフェクトされ(Chen and Okayama, 1987)、そしてラット肝細胞に多様なマーカー遺伝子がトランスフェクトされた(Rippe et al., 1990)。
【0128】
DEAE-デキストラン
別の態様において、核酸は、DEAE-デキストラン、それに続いてポリエチレングリコールを用いて細胞内に送達される。この様式で、レポータープラスミドが、マウス骨髄腫および赤白血病細胞内に導入された(Gopal, 1985)。
【0129】
超音波処理負荷
本開示の付加的な態様は、直接超音波負荷による核酸の導入を含む。LTK-線維芽細胞に、超音波処理負荷によってチミジンキナーゼ遺伝子がトランスフェクトされている(Fechheimer et al., 1987)。
【0130】
リポソーム介在性トランスフェクション
本開示のさらなる態様において、核酸は、例えばリポソームなどの脂質複合体内に封入され得る。リポソームとは、リン脂質二重層膜および内部の水性媒体を特徴とする小胞性構造物である。多重膜リポソームは、水性媒体によって分離した多数の脂質層を有する。それらは、リン脂質が過度の水溶液中に懸濁された場合に自然発生的に形成される。脂質構成要素は、閉ざされた構造物の形成前に自己再編成を受け、かつ脂質二重層の間に水および溶解した溶質を封入する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。Lipofectamine(Gibco BRL)またはSuperfect(Qiagen)と複合した核酸も企図される。
【0131】
インビトロにおける外来DNAのリポソーム介在性核酸送達および発現は、非常に成功している(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987)。培養されたニワトリ胚、HeLa、および肝細胞がん細胞における、外来DNAのリポソーム介在性送達および発現についての実現可能性も実証されている(Wong et al., 1980)。
【0132】
本開示のある特定の態様において、リポソームを血球凝集ウイルス(HVJ)と複合させ得る。これは、細胞膜との融合を促し、かつリポソームに封入されたDNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態様において、リポソームを、核非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合させ得るまたはそれと合わせて採用し得る(Kato et al., 1991)。さらにさらなる態様において、リポソームを、HVJおよびHMG-1の両方と複合させ得るまたはそれとともに採用し得る。他の態様において、送達ビヒクルは、リガンドおよびリポソームを含み得る。
【0133】
受容体介在性トランスフェクション
なおさらに、核酸は、受容体介在性送達ビヒクルを介して、標的細胞に送達され得る。これらは、標的細胞において生じているであろう受容体介在性エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的取り込みの利点を生かす。様々な受容体の細胞タイプ特異的分布を考慮すると、この送達法は、本開示に別の程度の特異性を付加する。
【0134】
ある特定の受容体介在性遺伝子ターゲティングビヒクルは、細胞受容体特異的リガンドおよび核酸結合剤を含む。他のものは、送達される対象となる核酸が機能的に付着している細胞受容体特異的リガンドを含む。いくつかのリガンドが受容体介在性遺伝子移入に用いられており(Wu and Wu, 1987;Wagner et al., 1990;Perales et al., 1994;Myers、EPO 0273085)、それは該技法の操作性を確立している。別の哺乳類細胞タイプの状況における特異的送達が記載されている(参照により本明細書に組み入れられるWu and Wu, 1993)。本開示のある特定の局面において、リガンドは、標的細胞集団上で特異的に発現される受容体に対応するように選出される。
【0135】
他の態様において、細胞特異的核酸標的ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成要素は、リポソームと組み合わせた特異的結合リガンドを含み得る。送達される対象となる核酸はリポソーム内に収容され、かつ特異的結合リガンドはリポソーム膜に機能的に組み入れられる。ゆえに、リポソームは、標的細胞の受容体に特異的に結合しかつ内容物を細胞に送達する。そのようなシステムは、例えばEGF受容体の上方調節を呈する細胞への核酸の受容体介在性送達において上皮成長因子(EGF)が用いられるシステムを用いて、機能的であることが示されている。
【0136】
なおさらなる態様において、標的指向型送達ビヒクルの核酸送達ビヒクル構成要素は、細胞特異的結合を指揮する1種または複数種の脂質または糖タンパク質を好ましくは含むリポソームそれ自体であり得る。例えば、ガラクトース末端アシアロガングリオシド(asialganglioside)であるラクトシル-セラミドがリポソームに組み入れられ、かつ肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加が観察されている(Nicolau et al., 1987)。本開示の組織特異的形質転換構築物は、同様の様式で標的細胞内に特異的に送達され得ることが企図される。
【0137】
11.発現システム
上記で記述される組成物の少なくとも一部またはすべてを含む数々の発現システムが存在する。本開示との使用のために、原核生物および/または真核生物に基づくシステムを採用して、核酸配列、またはそれらの同族ポリペプチド、タンパク質、およびペプチドを産生することができる。多くのそのようなシステムは、商業的にかつ広く入手可能である。
【0138】
両方とも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,871,986号および第4,879,236号に記載されているもの、ならびに例えばInvitrogen(登録商標)からMaxBac(登録商標)2.0という名でおよびClontech(登録商標)からBacPack(商標)Baculovirus Expression Systemという名で購入され得るものなど、昆虫細胞/バキュロウイルスシステムは、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらし得る。
【0139】
発現システムの他の例には、合成エクジソン誘導性受容体を伴うStratagene(登録商標)のComplete Control(商標)Inducible Mammalian Expression System、または大腸菌(E. coli)発現システムであるそのpET Expression Systemが含まれる。誘導性発現システムの別の例がInvitrogen(登録商標)から入手可能であり、それは、全長CMVプロモーターを用いる誘導性哺乳類発現システムである、T-Rex(商標)(テトラサイクリンにより調節される発現)システムを持する。Invitrogen(登録商標)は、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)Expression Systemと称される酵母発現システムも提供しており、それは、メチロトローフ酵母ピキア・メタノリカにおける組換えタンパク質の高レベルの産生のために設計されている。当業者であれば、核酸配列、またはその同族ポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを産生する、発現構築物などのベクターをどのように発現させるかを知っているであろう。
【0140】
初代哺乳類細胞培養物は、様々な方式で調製され得る。インビトロにある間および発現構築物と接触させている間に細胞を生きた状態に保つために、該細胞は、正しい比率の酸素および二酸化炭素ならびに栄養素との接触を維持し、しかしながら微生物混入から保護されることを確実にすることが必要である。細胞培養技法は、十分に文書化されている。
【0141】
前述のうちの一態様は、タンパク質の産生のための細胞を不死化するために、遺伝子移入の使用を伴う。関心対象のタンパク質に対する遺伝子を、上記で記載されるように適当な宿主細胞内に移入し得、その後に適当な条件下での細胞の培養が続く。事実上任意のポリペプチドに対する遺伝子は、この様式で採用され得る。組換え発現ベクターの作製およびそこに含まれるエレメントは、上記で記述されている。あるいは、産生される対象となるタンパク質は、問題の細胞によって通常合成される内因性タンパク質であり得る。
【0142】
有用な哺乳類宿主細胞株の例は、VeroおよびHeLa細胞、ならびにチャイニーズハムスター卵巣、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、NIH3T3、RIN、およびMDCK細胞の細胞株である。加えて、挿入された配列の発現を変調する、または所望の様式で遺伝子産物を修飾しかつプロセシングする宿主細胞系統が選出され得る。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセシング(例えば、切断)は、該タンパク質の機能に重要であり得る。種々の宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセシングおよび修飾に関して、特徴的かつ特異的なメカニズムを有する。適当な細胞株または宿主システムは、発現した外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングを保証するように選出され得る。
【0143】
それぞれtk-、hgprt-、またはaprt-細胞におけるHSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むがそれらに限定されない、いくつかの選択システムを用い得る。また、耐性を付与するdhfr;ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt;アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo;およびハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroの選択の根拠として、代謝拮抗物質耐性を用いることができる。
【0144】
E.精製
ある特定の態様において、本開示の抗体を精製し得る。本明細書において用いられる「精製された」という用語は、他の構成要素から単離可能な組成物を指すことを意図され、タンパク質はその天然に獲得可能な状態と比べて任意の程度精製されている。したがって、精製されたタンパク質とは、それが天然に存在し得る環境から遊離したタンパク質も指す。「実質的に精製された」という用語が用いられる場合、この名称は、タンパク質またはペプチドが、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれを上回る割合をなすなど、組成物の主要な構成要素を形成している組成物を指す。
【0145】
タンパク質精製技法は、当業者に周知である。これらの技法は、あるレベルにおける、ポリペプチド性および非ポリペプチド性画分に対する、細胞環境の粗分画を伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離した場合、クロマトグラフィーおよび電気泳動による技法を用いて関心対象のポリペプチドをさらに精製して、部分的なまたは完全な精製(または均一性までの精製)を達成し得る。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点集束(isoelectric focusing)である。タンパク質精製のための他の方法には、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた沈殿、または熱変性それに続く遠心分離によるもの;ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティーによるクロマトグラフィー;ならびにそのようなものと他の技法との組み合わせが含まれる。
【0146】
本開示の抗体構築物を精製することにおいて、原核生物または真核生物発現システムでポリペプチドを発現させ、かつ変性条件を用いてタンパク質を抽出することが望ましくあり得る。ポリペプチドは、該ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティーカラムを用いて、他の細胞構成要素から精製され得る。当技術分野において一般的に知られるように、様々な精製工程を行う順序は変化し得る、またはある特定の工程は省略され得、かつ実質的に精製されたタンパク質もしくはペプチドの調製にとって適切な方法をなおももたらし得ると思われる。
【0147】
一般に、完全抗体は、該抗体構築物のFc部分に結合する物質(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。あるいは、抗原を用いて、適当な抗体を同時に精製しかつ選択し得る。そのような方法は、カラム、フィルター、またはビーズなどの支持体に結合した選択物質をしばしば利用する。抗体を支持体に結合させ、混入物を取り除き(例えば、洗い流し)、かつ条件(塩、熱など)を適用することによって抗体は放出される。
【0148】
本開示に照らして、タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化するための様々な方法は、当業者に公知であろう。これらには、例えば活性画分の特異的活性を判定すること、またはSDS/PAGE解析によって画分内のポリペプチドの量を査定することが含まれる。画分の純度を査定するための別の方法は、画分の特異的活性を算出し、それを初回抽出物の特異的活性と比較し、かつゆえに純度の程度を算出することである。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、当然、精製に続くために選出された特定のアッセイ技法、および発現したタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を呈するか否かに依存する。
【0149】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの種々の条件によって、ときには大幅に変動し得る(Capaldi et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件の下で、精製されたまたは部分的に精製された発現産物の見かけの分子量は変動し得ると解されるであろう。
【0150】
F.多重特異性抗体構築物の形式
多重特異性抗体とは、少なくとも2つの異なるエピトープまたは抗原に対する結合特異性を持する抗体である。形式は、重鎖/軽鎖可変領域アームに移植された異なる結合特異性を有する従来の二価抗体であるように見えるものとは異なる。他の形式は、二重または三重の単鎖編成を用い、Fc構成要素を採用するものもあれば、採用しないものもある。様々な形式を、
図1A~Jに示す。
【0151】
本出願の多重特異性抗体は、MUC1-Cに対して1つまたは2つの個別の結合特異性を有することに加えて、以下の抗原のうちの1つまたは2つにも結合し得る。
【0152】
CD3。CD3(分化抗原群(cluster of differentiation)3)は、タンパク質複合体であり、細胞傷害性T細胞(CD8+ナイーブT細胞)およびTヘルパー細胞(CD4+ナイーブT細胞)の両方の活性化に関与するT細胞共受容体である。それは、4つの個別の鎖から構成されている。哺乳動物において、複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、および2本のCD3ε鎖を含有する。これらの鎖は、T細胞受容体(TCR)およびζ鎖(ゼータ鎖)と会合して、Tリンパ球において活性化シグナルを生成する。TCR、ζ鎖、およびCD3分子は、一緒にTCR複合体を構成する。
【0153】
CD3γ、CD3δ、およびCD3ε鎖は、単一の細胞外免疫グロブリンドメインを含有する免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γε/CD3δε/CD3ζζ/TCRαβ複合体の細胞外領域および膜貫通領域の構造が、CryoEMで解明され、いかにCD3膜貫通領域がオープンバレルにおいてTCR膜貫通領域を囲んでいるかが初めて示された。CD3鎖の膜貫通領域は、アスパラギン酸残基を含有し、負に帯電しており、この特性は、これらの鎖が正に帯電したTCR鎖と会合することを可能にする。CD3γ、CD3ε、およびCD3δ分子の細胞内テールは各々、TCRのシグナル伝達能に必須である、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ、または略してITAMとして知られる単一の保存されたモチーフを含有する。CD3ζの細胞内テールは、3つのITAMモチーフを含有する。
【0154】
CD3に対する市販の抗体には、ムルモナブ(murmonab)、オルテリキシズマブ(oltelixizumab)、テプリズマブ、およびビシリズマブが含まれる。
【0155】
CD16。CD16は、FcγRIIIとしても知られ、ナチュラルキラー細胞、好中球、単球、およびマクロファージの表面上に見出される分化抗原群分子である。CD16は、シグナル伝達に参加する、Fc受容体FcγRIIIa(CD16a)およびFcγRIIIb(CD16b)として特定されている。NK細胞による溶解の誘発に関係する最もよく研究された膜受容体であるCD16は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)に関与する免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)の分子である。CD16を対象とする抗体を用いて、CD16を、蛍光活性化細胞選別(FACS)または磁気活性化細胞選別を通じて特定の免疫細胞の集団を単離するために用いることができる。
【0156】
CD16は、III型Fcγ受容体である。ヒトにおいて、CD16は、2つの異なる形態:FcγRIIIa(CD16a)およびFcγRIIIb(CD16b)で存在し、これらは、細胞外免疫グロブリン結合領域において96%の配列類似性を有する。FcγRIIIaは、膜貫通受容体として肥満細胞、マクロファージ、およびナチュラルキラー細胞上に発現されるのに対して、FcγRIIIbは、好中球上にのみ発現される。加えて、FcγRIIIbは、グリコシル-ホスファチジルイノシトール(GPI)リンカーによって細胞膜に固定される唯一のFc受容体であり、カルシウム動員および好中球脱顆粒の誘発においても有意な役割を果たす。FcγRIIIaおよびFcγRIIIbはともに、脱顆粒、食作用、および酸化バーストを活性化することができ、これは、好中球がオプソニン化病原体を一掃することを可能にする。
【0157】
CD28に対する市販の抗体は、Novus Biologicals、Invitrogen-Thermo Fisher Scientific、Bio-Rad、Miltenyi Biotec、BD Biosciences、およびAgilentから入手可能である。
【0158】
CD28。CD28(分化抗原群28)は、T細胞の活性化および生存に必要とされる共刺激シグナルを提供する、T細胞上に発現されるタンパク質の1つである。T細胞受容体(TCR)に加えてCD28を介したT細胞刺激は、様々なインターロイキン(特にIL-6)の産生のための強力なシグナルを提供することができる。
【0159】
CD28は、CD80(B7.1)タンパク質およびCD86(B7.2)タンパク質の受容体である。Toll様受容体リガンドによって活性化されると、CD80発現は、抗原提示細胞(APC)において上方制御される。抗原提示細胞上のCD86発現は、構成的である(発現は、環境要因に依存しない)。CD28は、ナイーブT細胞上に構成的に発現される唯一のB7受容体である。CD28:B7相互作用を伴わないナイーブT細胞のTCRとMHC:抗原複合体との会合は、アネルギー性であるT細胞を結果としてもたらす。
【0160】
CD28は、その有効なシグナル伝達に重大であるいくつかの残基を有する細胞内ドメインを有する。特にチロシン170で始まるYMNMモチーフは、SH2ドメイン含有タンパク質、特にPI3K、Grb2、およびGadsの動員に重大である。Y170残基は、mTORを介したBcl-xLの誘導およびPKCθを介したIL-2転写の増強に重要であるが、増殖に対していかなる効果も有せず、IL-2産生のわずかな低下を結果としてもたらす。N172残基(YMNMの一部として)は、Grb2およびGadsの結合に重要であり、IL-2 mRNAの安定性を誘導できるが、NF-κBの転位は誘導できないようである。NF-κBの誘導は、YMNMおよび分子内の2つのプロリンリッチモチーフの両方に対するGadsの結合に、よりいっそう依存しているようである。しかしながら、PI3Kには結合できないが、Grb2およびGadsには結合できる、モチーフの最後のアミノ酸であるM173の変異は、NF-κBまたはIL-2をほとんど与えず、これは、それらのGrb2およびGadsが、PI3Kの喪失を補償できないことを示唆する。IL-2転写は、2つのステージを有するように見える;転写を可能にするY170依存性、PI3K依存性の初期段階、および、IL-2 mRNA安定性の増強を結果としてもたらす、免疫シナプスの形成に依存するPI3K非依存性の第2段階。両方が、IL-2の完全な産生に必要とされる。
【0161】
CD28はまた、SH3含有タンパク質に結合することができる2つのプロリンリッチモチーフを含有する。ItkおよびTecは、Y170 YMNMのすぐ後に続くこれらの2つのモチーフのN末端に結合することができ;Lckは、C末端に結合する。ItkおよびLckは両方とも、チロシン残基をリン酸化することができ、これは次いで、SH2含有タンパク質のCD28に対する結合を可能にする。TecのCD28に対する結合は、それぞれ、そのSH3ドメインおよびPHドメインのCD28およびPIP3に対する結合に依存して、IL-2産生を増強する。CD28中のC末端プロリンリッチモチーフは、Lckおよび脂質ラフトを、フィラミン-Aを介して免疫シナプス中に導くのに重要である。C末端モチーフ内の2つのプロリンの変異は、増殖およびIL-2産生の低下を結果としてもたらすが、Bcl-xLの正常な誘導をもたらす。PYAPモチーフ内のチロシン(成熟ヒトCD28中のY191)のリン酸化は、srcキナーゼLckのSH2ドメインに対する高親和性結合部位を形成し、これが次に、セリンキナーゼPKCθに結合する。
【0162】
CD28に対する市販の抗体は、Novus Biologicals、Invitrogen-Thermo Fisher Scientific、Bio-Rad、Miltenyi Biotec、BD Biosciences、およびBeckman Coulterから入手可能である。
【0163】
骨髄特異的抗原。骨髄特異的抗原であるCD33またはSiglec-3(シアル酸結合Ig様レクチン3、SIGLEC3、SIGLEC-3、gp67、p67)は、骨髄系統の細胞上に発現される膜貫通受容体である。それは通常、骨髄特異的と考えられているが、いくつかのリンパ系細胞上にも見出され得る。それは、シアル酸に結合し、したがって、レクチンのSIGLECファミリーのメンバーである。この受容体の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン(1つのIgVドメインおよび1つのIgC2ドメイン)を含有し、これにより、CD33は免疫グロブリンスーパーファミリーに入る。CD33の細胞内部分は、細胞活性の阻害に関係する、免疫受容体チロシンベース抑制性モチーフ(ITIM)を含有する。
【0164】
CD33は、糖タンパク質または糖脂質などのシアル酸残基を有する任意の分子によって刺激され得る。結合時に、タンパク質の細胞質部分に存在する、CD33の免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(ITIM)が、リン酸化され、SHPホスファターゼのようなSrc相同性2(SH2)ドメイン含有タンパク質に対するドッキング部位として作用する。これは、細胞における食作用を阻害するカスケードを結果としてもたらす。
【0165】
CD33は、急性骨髄性白血病を有する患者の処置のための抗体-薬物コンジュゲートである、ゲムツズマブオゾガマイシン(商品名:Mylotarg(登録商標);Pfizer/Wyeth-Ayerst Laboratories)の標的である。薬物は、二官能性リンカー(4-(4-アセチルフェノキシ)ブタン酸)を介して細胞傷害性抗腫瘍抗生物質カリケアマイシン(N-アセチル-γ-カリケアマイシン)に共有結合した、組換えヒト化抗CD33モノクローナル抗体(IgG4κ抗体hP67.6)である。2017年9月1日に、FDAは、PfizerのMylotargを承認した。ゲムツズマブオゾガマイシンは当初、2000年に米国食品医薬品局によって承認された。しかしながら、市販後の臨床試験中に、研究者らは、ゲムツズマブオゾガマイシンを受けた患者の群における、化学療法単独を受けた患者と比較したより多数の死亡に気づいた。これらの結果に基づいて、Pfizerは、2010年半ばにゲムツズマブオゾガマイシンを自主的に市場から撤退させたが、2017年に市場に再導入された。CD33はまた、Seattle Geneticsによってこの会社のADC技術を活用して開発されている新規抗体-薬物コンジュゲートである、バダスツキシマブタリリン(SGN-CD33A)の標的である。
【0166】
マクロファージ特異的抗原。CD47は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する、遍在性の50 kDaの5回膜貫通受容体である。インテグリン関連タンパク質としても知られるこの受容体は、膜貫通シグナル調節タンパク質SIRPαおよびSIRPγに対するライゲーションによって細胞間コミュニケーションを媒介し、かつインテグリンと相互作用する。CD47はまた、トロンボスポンジンとのライゲーションを介して、細胞と細胞外マトリックスとの相互作用にも関係している。さらに、CD47は、アポトーシス、増殖、接着、および遊走を含む、多くのかつ多様な細胞プロセスに関与している。また、多くの免疫応答および心血管応答において鍵となる役割を果たす。ゆえに、この多面的な受容体は、腫瘍微小環境における中心的な作用者であり得る。固形腫瘍は、活発に増殖するがん細胞だけでなく、腫瘍微小環境を作り上げる免疫細胞および線維芽細胞を含む、他の細胞タイプからも構成される。腫瘍細胞の増殖は、新たな血管の連続的な出芽によって強く持続され、これはまた、転移への入り口に相当する。さらに、炎症細胞の浸潤が、大部分の新生物において観察される。浸潤白血球ががんの進行を促進することを示す多くの証拠が、蓄積している。腫瘍微小環境を構成する様々な細胞タイプすべて上でのその遍在的な発現を考慮すると、CD47を標的とすることは、腫瘍学の分野において独創的な治療戦略に相当し得る。
【0167】
重大な生得的マクロファージチェックポイントは、CD47(分化抗原群47)を過剰発現するがん細胞の破壊を阻害する抗食作用シグナルをマクロファージに送達する、創薬可能な標的であるCD47/シグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)経路である。CD47を過剰発現する腫瘍には、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群(MDS)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、マントル細胞リンパ腫、および辺縁細胞リンパ腫、ならびに、膀胱がん、脳腫瘍、乳がん、結腸がん、食道がん、胃がん、腎臓がん、平滑筋肉腫、肝臓がん、肺がん、黒色腫、卵巣がん、膵臓がん、および前立腺がんが含まれる。CD47拮抗作用は、マクロファージ媒介性食作用を促進することに加えて、樹状細胞およびナチュラルキラー細胞の細胞傷害性の増加に関連しており、これは、CD47/SIRPα拮抗作用が生成する関心の高まりに寄与する。
【0168】
マグロリマブは、CD47に対するモノクローナル抗体、かつマクロファージ上のSIRPα受容体によるCD47の認識を干渉するように設計されているマクロファージチェックポイント阻害剤であり、ゆえに、マクロファージによって摂取されることを回避するためにがん細胞が用いるシグナルを遮断する。CD47に対する他の抗体は、Abcam、Invitrogen-Thermo Fisher、R&D Systems、Bio-Rad、およびBiovision Inc.から市販されている。
【0169】
SIRPα。シグナル調節タンパク質α(SIRPα)は、主に骨髄系細胞によって、およびまた幹細胞またはニューロンによって発現される、SIRPファミリー由来の調節膜糖タンパク質である。SIRPαは、抑制性受容体として作用し、「私を食べないで(don't eat me)」シグナルとも呼ばれる広く発現される膜貫通タンパク質CD47と相互作用する。この相互作用は、宿主細胞食作用などの自然免疫細胞のエフェクター機能を負に制御する。SIRPαは、マクロファージ膜上で横に拡散し、食作用シナプスで蓄積してCD47に結合し、「自己」シグナルを送り、これが、マクロファージによる食作用の細胞骨格集中的プロセスを阻害する。これは、Ig様受容体またはLy49受容体を介してMHCクラスI分子によってNK細胞に提供される自己シグナルに類似している。右に示したタンパク質は、SIRPαではなくCD47である。
【0170】
SIRPαの細胞質領域は、ラット、マウス、およびヒトの間で高度に保存されている。細胞質領域は、ITIMとして作用する可能性が高い、多数のチロシン残基を含有する。CD47結合時に、SIRPαは、リン酸化され、SHP1およびSHP2のようなホスファターゼを動員する。細胞外領域は、3つの免疫グロブリンスーパーファミリードメイン、すなわち単一のVセットおよび2つのC1セットIgSFドメインを含有する。SIRPβおよびγは、類似した細胞外構造を有するが、対照的なタイプのシグナルを与える異なる細胞質領域を有する。SIRPαの多型が、リガンド結合IgSF Vセットドメインに見出されるが、リガンド結合には影響を及ぼさない。1つの考えは、多型が、病原体結合の受容体を保護するために重要であるというものである。SIRPαは、生細胞を死細胞から区別する抗食作用シグナルであるCD47を認識する。CD47は、単一のIg様細胞外ドメインおよび5つの膜貫通領域を有する。SIRPαとCD47との間の相互作用は、エンドサイトーシスもしくは受容体の切断、またはサーファクタントタンパク質との相互作用によって修飾される場合がある。サーファクタントタンパク質AおよびDは、SIRPαのCD47と同じ領域に結合し、したがって結合を競合的に遮断することができる、肺において高発現される可溶性リガンドである。
【0171】
SIRPαの細胞外ドメインは、CD47に結合し、その細胞質ドメインを通じて細胞内シグナルを伝達する。CD47結合は、SIRPαのNH2末端V様ドメインを通じて媒介される。細胞質領域は、リガンドの結合後にリン酸化される4つのITIMを含有する。リン酸化は、チロシンキナーゼSHP2の活性化を媒介する。SIRPαは、ホスファターゼSHP1、アダプタータンパク質SCAP2、およびFYN結合タンパク質にも結合することが示されている。SHPホスファターゼの膜への動員は、細胞表面でのミオシン蓄積の阻害につながり、食作用の阻害を結果としてもたらす。
【0172】
がん細胞は、SIRPαを活性化し、マクロファージ媒介性破壊を阻害する、CD47を高発現していた。ある研究において、がん細胞上のCD47に拮抗し、がん細胞の食作用を増加させる、SIRPαの高親和性バリアントが操作された。(マウスにおける)別の研究により、抗SIRPα抗体は、単独で、および他のがん処置との相乗作用で、マクロファージががんの増殖および転移を低下させるのを助けたことが見出された。
【0173】
Bio X Cell、Biolegend、Sino Biological、Thermo-Fisher、R&D Systems、およびArigo Bioのような会社から、数多くの抗SIRPα抗体が市販されている。
【0174】
erbB2。受容体チロシン-プロテインキナーゼerbB-2は、CD340(分化抗原群340)、癌原遺伝子Neu、Erbb2(げっ歯類)、またはERBB2(ヒト)としても知られ、ヒトではERBB2遺伝子によってコードされるタンパク質である。ERBBは、鳥類のゲノムから単離された遺伝子である赤芽球癌遺伝子Bから略されている。それはまた、頻繁にHER2(ヒト上皮成長因子受容体2から)またはHER2/neuとも呼ばれる。
【0175】
HER2は、ヒト上皮成長因子受容体(HER/EGFR/ERBB)ファミリーのメンバーである。この癌遺伝子の増幅または過剰発現は、ある特定の侵襲型の乳がんの発生および進行において重要な役割を果たすことが示されている。近年、タンパク質は、乳がん患者のおよそ30%にとって重要なバイオマーカーかつ治療の標的になっている。
【0176】
HER2は、ヒト上皮成長因子受容体、またはHER1に類似した構造を有するため、そのように名付けられている。Neuは、神経腫瘍のタイプであるげっ歯類膠芽腫細胞株に由来したため、そのように名付けられている。ErbB-2は、EGFRをコードすると後に見出された癌遺伝子であるErbB(鳥類赤芽球症癌遺伝子B)に対するその類似性のために名付けられた。遺伝子の分子クローニングにより、HER2、Neu、およびErbB-2はすべて、同じオルソログによってコードされていることが示された。
【0177】
erbBファミリーは、4つの原形質膜結合型受容体チロシンキナーゼからなる。そのうちの1つは、erbB-2であり、他のメンバーは、上皮成長因子受容体、erbB-3(ニューレグリン結合;キナーゼドメインを欠く)、およびerbB-4である。4つはすべて、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメイン、ならびに、多数のシグナル伝達分子と相互作用し、リガンド依存的活性およびリガンド非依存的活性の両方を示すことができる細胞内ドメインを含有する。留意すべきことに、HER2に対するリガンドは、まだ特定されていない。HER2は、他の3つの受容体のいずれかとヘテロ二量体化することができ、他のErbB受容体の好ましい二量体化パートナーであると考えられる。二量体化は、受容体の細胞質ドメイン内のチロシン残基の自己リン酸化を結果としてもたらし、様々なシグナル伝達経路を開始する。
【0178】
トラスツズマブ、ペルツズマブ、およびマルゲツキシマブを含む、erbB2に対する市販の抗体がある。
【0179】
EGFR。上皮成長因子受容体(EGFR;ErbB-1;ヒトではHER1)は、細胞外タンパク質リガンドの上皮成長因子ファミリー(EGFファミリー)のメンバーに対する受容体である膜貫通タンパク質である。上皮成長因子受容体は、4つの密接に関連する受容体チロシンキナーゼのサブファミリーである、受容体のErbBファミリーのメンバーである:EGFR(ErbB-1)、HER2/neu(ErbB-2)、Her 3(ErbB-3)、およびHer 4(ErbB-4)。多くのがんタイプにおいて、EGFRの発現または活性に影響を及ぼす変異が、がんを結果としてもたらす場合がある。ヒトにおけるEGFRおよび他の受容体チロシンキナーゼのシグナル伝達の欠損は、アルツハイマー病などの疾患に関連しており、一方で過剰発現は、多種多様な腫瘍の発生に関連している。受容体の細胞外ドメイン上のEGFR結合部位を遮断すること、または細胞内チロシンキナーゼ活性を阻害することのいずれかによる、EGFRシグナル伝達の妨害は、EGFR発現腫瘍の成長を阻止し、患者の状態を改善することができる。
【0180】
EGFRは、上皮成長因子およびトランスフォーミング成長因子α(TGFα)を含む、その特異的リガンドの結合によって活性化される、膜貫通タンパク質である。ErbB2は、既知の直接的な活性化リガンドを有せず、構成的に活性化状態にあるか、またはEGFRなどの他のファミリーメンバーとのヘテロ二量体化時に活性になる可能性がある。EGFRは、その成長因子リガンドによる活性化時に、不活性単量体形態から活性ホモ二量体への移行を起こすが、あらかじめ形成された不活性二量体がまた、リガンド結合前に存在し得るといういくつかの証拠がある。EGFRは、リガンド結合後にホモ二量体を形成することに加えて、ErbB2/Her2/neuなどのErbB受容体ファミリーの別のメンバーとペアになって、活性化ヘテロ二量体を作り出す可能性がある。活性化されたEGFRのクラスターが形成されることを示唆する証拠もあるが、このクラスター化が、活性化自体に重要であるか、または個々の二量体の活性化に続いて起こるのかは、不明のままである。
【0181】
EGFRの二量体化は、その内在性の細胞内プロテイン-チロシンキナーゼ活性を刺激する。結果として、EGFRのC末端ドメイン中のいくつかのチロシン(Y)残基の自己リン酸化が起こる。隣接する図に示されるように、これらには、Y992、Y1045、Y1068、Y1148、およびY1173が含まれる。この自己リン酸化は、それ自体のホスホチロシン結合SH2ドメインを介してリン酸化チロシンと会合するいくつかの他のタンパク質による、下流の活性化およびシグナル伝達を惹起する。これらの下流シグナル伝達タンパク質は、いくつかのシグナル伝達カスケード、主としてMAPK、Akt、およびJNK経路を開始し、DNA合成および細胞増殖につながる。そのようなタンパク質は、細胞の遊走、接着、および増殖などの表現型を調節する。受容体の活性化は、ヒト皮膚における自然免疫応答にとって重要である。EGFRのキナーゼドメインはまた、それがともに凝集している他の受容体のチロシン残基交差リン酸化することもでき、それ自体がその様式で活性化されることができる。
【0182】
セツキシマブ、パニツムマブ、ニモツズマブ、およびネシツムマブを含む、EGRFに対する市販の抗体がある。
【0183】
PD1。プログラム細胞死タンパク質1は、PD1およびCD279(分化抗原群279)としても知られ、T細胞の炎症活性を抑制することにより免疫系を下方制御し、自己寛容を促進することによって、人体の細胞に対する免疫系の応答を調節する役割を有する、細胞の表面上のタンパク質である。これは、自己免疫疾患を阻止するが、免疫系ががん細胞を殺傷するのも阻止することができる。PD-1は、免疫チェックポイントであり、2つのメカニズムを通じて自己免疫を監視する。第一に、リンパ節における抗原特異的T細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を促進する。第二に、制御性T細胞(抗炎症性、抑制性T細胞)におけるアポトーシスを低下させる。PD-1を遮断する新たなクラスの薬物であるPD-1阻害剤は、免疫系を活性化して腫瘍を攻撃し、ある特定のタイプのがんを処置するために用いられる。
【0184】
ヒトにおけるPD-1タンパク質は、PDCD1遺伝子によってコードされる。PD-1は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞表面受容体であり、T細胞およびプロB細胞上に発現される。PD-1は、2つのリガンド、PD-L1およびPD-L2に結合する。PD-1は、288アミノ酸のI型膜タンパク質である。PD-1は、T細胞調節物質の拡張CD28/CTLA-4ファミリーのメンバーである。タンパク質の構造は、細胞外IgVドメイン、それに続く膜貫通領域および細胞内テールを含む。細胞内テールは、免疫受容体チロシンベース抑制性モチーフおよび免疫受容体チロシンベーススイッチモチーフに位置する2つのリン酸化部位を含有し、これは、PD-1がT細胞受容体TCRシグナルを負に調節することを示唆する。これは、リガンド結合時のPD-1の細胞質テールに対するSHP-1およびSHP-2ホスファターゼの結合と矛盾しない。加えて、PD-1のライゲーションは、T細胞受容体の下方調節を誘発するE3-ユビキチンリガーゼであるCBL-bおよびc-CBLを上方制御する。PD-1は、活性化T細胞、B細胞、およびマクロファージの表面上に発現され、これは、CTLA-4と比較して、PD-1が、より広く免疫応答を負に調節することを示唆する。
【0185】
PD-1は、B7ファミリーのメンバーである2つのリガンド、PD-L1およびPD-L2を有する。PD-L1タンパク質は、LPSおよびGM-CSF処理に応答してマクロファージおよび樹状細胞(DC)上で、ならびにTCRおよびB細胞受容体のシグナル伝達時にT細胞およびB細胞上で上方制御されるのに対して、安静時のマウスにおいて、PD-L1 mRNAを、心臓、肺、胸腺、脾臓、および腎臓で検出することができる。PD-L1は、IFN-γでの処理時に、PA1骨髄腫、P815肥満細胞腫、およびB16黒色腫を含む、ほぼすべてのマウス腫瘍細胞株上で発現される。PD-L2発現は、より制限されており、主にDCおよび少数の腫瘍株によって発現される。
【0186】
いくつかの系統の証拠は、PD-1およびそのリガンドが、免疫応答を負に調節することを示唆する。PD-1ノックアウトマウスは、それぞれ、C57BL/6およびBALB/cのバックグラウンドで、ループス様糸球体腎炎および拡張型心筋症を発症することが示されている。インビトロで、抗CD3刺激T細胞のPD-L1-Igでの処理は、T細胞増殖およびIFN-γ分泌の低下を結果としてもたらす。IFN-γは、T細胞の炎症活性を促進する鍵となる炎症誘発性サイトカインである。T細胞増殖の低下はまた、IL-2分泌の減衰と相関しており、合わせて、これらのデータは、PD-1がT細胞応答を負に調節することを示唆する。
【0187】
PD-L1トランスフェクトDC、ならびにPD-1を発現するトランスジェニック(Tg)CD4+ T細胞およびCD8+ T細胞を用いた実験は、CD8+ T細胞が、PD-L1による阻害をより受けやすいことを示唆するが、これは、TCRシグナル伝達の強さに依存し得る。CD8+ T細胞応答を負に調節する役割と一貫して、慢性感染症のLCMVウイルスベクターモデルを用いて、Rafi Ahmedのグループは、PD-1-PD-L1相互作用が、ウイルス特異的CD8+ T細胞の活性化、拡大増殖、およびエフェクター機能の獲得を阻害し、これを、PD-1-PD-L1相互作用を遮断することによって逆転できることを示した。
【0188】
腫瘍細胞上のPD-L1の発現は、エフェクターT細胞上のPD-1の関与を通じて、抗腫瘍活性を阻害する。腫瘍上のPD-L1の発現は、食道がん、膵臓がん、および他のタイプのがんにおける生存率の低下と相関しており、この経路を免疫療法の標的として強調する。単球上に発現され、単球の活性化時に上方制御されるPD-1を、そのリガンドであるPD-L1によって誘発することは、CD4 T細胞の機能を阻害するIL-10の産生を誘導する。
【0189】
マウスにおいて、この遺伝子の発現は、抗CD3抗体を注射した場合に胸腺で誘導され、多数の胸腺細胞がアポトーシスを起こす。BALB/cバックグラウンドで交配された、この遺伝子が欠損したマウスは、拡張型心筋症を発症し、うっ血性心不全で死亡した。これらの研究は、この遺伝子産物がまた、T細胞機能において重要であり、自己免疫疾患の予防に寄与し得ることを示唆する。
【0190】
ペムロリズマブ(pemrolizumab)、ニボルマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、デュラバルマブ(duravalumab)、およびアベルマブを含む、PD1に対する多くの市販の抗体がある。
【0191】
NKG2D。NKG2Dは、C型レクチン様受容体のNKG2ファミリーに属する膜貫通タンパク質である。NKG2Dは、マウスでは6番染色体、ヒトでは12番染色体にあるNK遺伝子複合体(NKC)に位置する、KLRK1遺伝子によってコードされる。マウスにおいては、NK細胞、NK1.1+ T細胞、γδT細胞、活性化CD8+αβT細胞、および活性化マクロファージによって発現される。ヒトにおいては、NK細胞、γδT細胞、およびCD8+αβT細胞によって発現される。NKG2Dは、ストレスを受けた、悪性形質転換された、および感染した細胞の表面上に現れる、MICおよびRAET1/ULBPファミリー由来の誘導性自己タンパク質を認識する。
【0192】
ヒトNKG2D受容体複合体は、六量体構造に集合する。NKG2D自体は、ホモ二量体を形成し、そのエクトドメインは、リガンド結合のために働く。各NKG2D単量体は、DAP10二量体と会合している。この会合は、NKG2Dの膜貫通セグメントに存在する正に帯電したアルギニンと、DAP10二量体の両方の膜貫通領域内の負に帯電したアスパラギン酸とのイオン性相互作用によって維持される。DAP10は、アダプタータンパク質として機能し、その後の下流事象を担うPI3Kのp85サブユニットおよびGrb2-Vav1複合体を動員することによって、リガンド結合後のシグナルを伝達する。
【0193】
マウスにおいて、選択的スプライシングにより、2つの個別のNKG2Dアイソフォーム:長いもの(NKG2D-L)および短いもの(NKG2D-S)が生成する。NKG2D-Lは、ヒトNKG2Dに類似してDAP10に結合する。対照的に、NKG2D-Sは、2つのアダプタータンパク質:DAP10およびDAP12と会合する。DAP10は、PI3Kのp85サブユニットおよびGrb2とVav1との複合体を動員する。DAP12は、ITAMモチーフを持ち、プロテインチロシンキナーゼSykおよびZap70のシグナル伝達を活性化する。
【0194】
NKG2Dは、そのリガンドが、感染またはがんにおけるようなゲノムストレスのいずれかの結果として、細胞ストレス中に誘導されるため、形質転換細胞および感染細胞の検出および排除のための主要な認識受容体である。NK細胞において、NKG2Dは、活性化受容体として働き、それ自体が、細胞傷害を誘発することができる。CD8+ T細胞上のNKG2Dの機能は、共刺激シグナルを送って活性化することである。
【0195】
NKG2Dリガンドは、正常細胞の表面上には完全に存在しないか、または低レベルでのみ存在する誘導性自己タンパク質であるが、感染した、形質転換された、老化した、およびストレスを受けた細胞によって過剰発現される。それらの発現は、様々なストレス経路によって異なるステージ(転写、mRNAおよびタンパク質の安定化、細胞表面からの切断)で調節される。その中で、最も顕著なストレス経路の1つは、DNA損傷応答である。遺伝毒性ストレス、失速したDNA複製、腫瘍形成における調節不良の細胞増殖、ウイルス複製、またはいくつかのウイルス産物は、ATMキナーゼおよびATRキナーゼを活性化する。これらのキナーゼは、NKG2Dリガンド上方制御に参加する、DNA損傷応答経路を開始する。DNA損傷応答は、ゆえに、潜在的に危険な細胞の存在を免疫系に警告することに参加する。
【0196】
NKG2Dリガンドはすべて、MHCクラスI分子と相同であり、2つのファミリー:MICおよびRAET1/ULBPに分けられる。NKG2Dに対する市販の抗体は、Invitrogen、Abcam、BioLegend、Bio X Cell、R&D Systems、EMD Millipore、およびMilteny Biotecから入手可能である。
【0197】
Siglec-9。がんに存在する異常なグリコシル化のために、MUC1が持する複数のO-結合型グリカンは、正常上皮細胞によって発現されるMUC1上に見られる長い分岐鎖とは対照的に、主に短く、シアリル化されている。癌腫において、MUC1の異常なO-結合型グリコシル化は、MUC1と免疫系のレクチンとの相互作用を変化させることができ、それによって、腫瘍-免疫系の相互作用に影響を及ぼす場合がある。Siglec-9は、主として骨髄系細胞上に発現される。Siglec(「シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン」)は、免疫系の様々な細胞上に発現されるシアル酸結合レクチンのファミリーである。大部分のSiglecの細胞質ドメインは、チロシンホスファターゼSHP-1およびSHP-2を動員する免疫受容体チロシンベース抑制性モチーフ(ITIM)を含有し、ゆえに、自然免疫応答および適応免疫応答の細胞を調節する。がんにおいて見られる過剰シアリル化は、これらのレクチンに対する結合を誘導するため、Siglecががん免疫抑制において役割を有することが、明らかになってきた。
【0198】
III.がんの薬学的製剤および処置
A.がん
がんは、組織由来の細胞のクローン集団の増生により生じる。発がんと呼ばれるがんの発生は、いくつかの方式でモデル化され得かつ特徴付けされ得る。がんの発生と炎症との間の関連は長い間認識されてきた。炎症応答は、微生物感染に対する宿主防御に関与し、かつまた組織の修復および再生を推進する。相当な証拠により、炎症と、がんを発生させるリスクとの間のつながりが指摘されており、すなわち慢性炎症は異形成につながり得る。
【0199】
本開示の方法を適用し得るがん細胞には、MUC1を発現する、より特にMUC1を過剰発現する、概して任意の細胞が含まれる。適当ながん細胞は、乳がん、肺がん、結腸がん、膵臓がん、腎臓がん、胃がん、肝臓がん、骨がん、血液がん(例えば、白血病またはリンパ腫)、神経組織がん、黒色腫、卵巣がん、精巣がん、前立腺がん、子宮頸がん、膣がん、または膀胱がんの細胞であり得る。加えて、本開示の方法を、広範な種、例えばヒト、非ヒト霊長類(例えば、猿、ヒヒ、またはチンパンジー)、馬、牛、ブタ、ヒツジ、ヤギ、犬、猫、ウサギ、モルモット、アレチネズミ、ハムスター、ラット、およびマウスに適用することができる。がんは、再発性、転移性、かつ/または多剤耐性でもあり得、そして本開示の方法を特にそのようながんに適用して、それらを切除可能な状態にし得、寛解を長引かせ得もしくは再誘導し得、血管新生を阻害し得、転移を阻止し得もしくは限定し得、かつ/または多剤耐性がんを処置し得る。細胞レベルにおいて、これは、がん細胞を殺傷すること、がん細胞成長を阻害すること、またはそうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させるもしくは低下させることになり得る。
【0200】
B.製剤および投与
本開示は、抗MUC1-C抗体構築物を含む薬学的組成物を提供する。具体的な態様において、「薬学的に許容される」という用語は、動物における、より特にヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって認可された、または米国薬局方もしくは他の一般的に認められている薬局方に列挙されたことを意味する。「キャリア」という用語は、それとともに治療法が施される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的キャリアは、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油など、石油、動物性、植物性、または合成の起源のものを含めた、水および油などの滅菌した液体であり得る。他の適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、生理食塩水、ブドウ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0201】
組成物は、中性または塩の形態として製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなど、陰イオンで形成されたもの、および水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなど、陽イオンで形成されるものが含まれる。
【0202】
本開示の抗体は、古典的な薬学的調製物を含み得る。本開示に従ったこれらの組成物の投与は、標的組織がその経路を介して利用可能である限り、任意の一般的経路を介するものである。これには、経口、経鼻、口腔、直腸、膣内、または局所が含まれる。あるいは、投与は、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注入によるものであり得る。そのような組成物は、通常、上記で記載される薬学的に許容される組成物として投与される。特に関心対象なのは、直接腫瘍内投与、腫瘍の灌流、あるいは例えば局部的もしくは領域的な血管系もしくはリンパ系における、または切除された腫瘍床における腫瘍への局部的もしくは領域的な投与である。
【0203】
活性化合物は、非経口的にまたは腹腔内にも投与され得る。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製され得る。分散体は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で、ならびに油中でも調製され得る。保管および使用についての普通の条件下で、これらの調製物は、微生物の成長を阻止する保存剤を含有する。
【0204】
C.組み合わせ療法
本開示の状況において、本明細書において記載される抗MUC1-C抗体構築物は、化学療法もしくは放射線療法による介入または他の処置と合わせて、同様に用いられ得ることも企図される。特に、抗MUC1-C/ECD抗体と、MUC1細胞質ドメインを標的とするペプチドおよび小分子など、MUC1機能の異なる局面を標的とする他の療法とを組み合わせることも有効であると判明し得る。
【0205】
本開示の方法および組成物を用いて、細胞を殺傷する、細胞成長を阻害する、転移を阻害する、血管新生を阻害する、またはそうでなければ腫瘍細胞の悪性表現型を逆転させるもしくは低下させるために、一般的に、「標的」細胞と、本開示に従った抗MUC1-C抗体構築物および少なくとも1種の他の作用物質とを接触させる。これらの組成物は、細胞を殺傷するまたは細胞の増殖を阻害するのに有効な合わせた量で提供される。この過程は、細胞と、本開示に従った抗MUC1-C抗体構築物および他の作用物質または因子とを同時に接触させる工程を伴い得る。これは、細胞と、両方の作用物質を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤とを接触させることによって、または細胞と、一方の組成物は本開示に従った抗MUC1-C抗体構築物を含みかつ他方は他の作用物質を含む、2つの個別の組成物もしくは製剤とを同時に接触させることによって達成され得る。
【0206】
あるいは、抗MUC1-C抗体構築物療法は、数分間から数週間に及ぶ間隔で、他の作用物質による処置に先行し得るまたはその後に続き得る。他の作用物質および抗MUC1-C抗体構築物を細胞に別個に適用する態様において、一般的に、作用物質および発現構築物が、依然として細胞に対して有利に組み合わせた効果を発揮し得るであろうように、それぞれの送達の時間の間で大幅な期間が期限切れとならなかったことが保証される。そのような場合には、細胞と両方の様態とを互いの約12~24時間以内に、より好ましくは互いの約6~12時間以内に接触させ、約12時間のみの遅延時間が最も好ましいことが企図される。しかしながら、ある状況では、処置のための期間を大幅に延ばすことが望ましくあり得、それぞれの投与の間に数日間(2、3、4、5、6、または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0207】
抗MUC1抗体構築物または他の作用物質のいずれかの1回を上回る回数の投与が望まれるであろうことも考えられる。下記で例示されるように、本開示に従った抗MUC1-C抗体構築物が「A」でありかつ他の療法が「B」である、様々な組み合わせが採用され得る。
【0208】
他の組み合わせが企図される。再度、細胞殺傷を達成するために、両方の作用物質は、細胞を殺傷するのに有効な合わせた量で細胞に送達される。
【0209】
がん療法に適した作用物質または因子には、細胞に適用した場合にDNA損傷を誘導する任意の化学的化合物または処置方法が含まれる。そのような作用物質および因子には、照射、マイクロ波、電子放散など、DNA損傷を誘導する放射線および波動が含まれる。「化学療法剤」または「遺伝毒性物質」としても記載されている多様な化学的化合物が用いられ得る。これは、局在した腫瘍部位を照射することによって達成され得る;あるいは、対象に治療上有効量の薬学的組成物を投与することによって、腫瘍細胞を作用物質と接触させ得る。
【0210】
様々なクラスの化学療法剤が、本開示との使用のために企図される。例えば、タモキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン(アフィモキシフェン(Afimoxfene))、フェソロデックス(Falsodex)、ラロキシフェン、バゼドキシフェン、クロミフェン、フェマレル(Femarelle)、ラソフォキシフェン、オルメロキシフェン、およびトレミフェンなどの選択的エストロゲン受容体アンタゴニスト(「SERM」)。
【0211】
有用であると企図される化学療法剤には、例えばカンプトテシン、アクチノマイシン-D、マイトマイシン-Cが含まれる。本開示は、シスプラチンとのX線の使用またはエトポシドとのシスプラチンの使用など、放射線に基づくものまたは実際の化合物にかかわらず、1種または複数種のDNA損傷作用物質の組み合わせの使用も包含する。作用物質は、それと上記で記載されるMUC1ペプチドとを組み合わせることによって、組み合わせた治療用組成物としてまたはキットとして調製され得かつ用いられ得る。
【0212】
ヒートショックタンパク質90は、多くの真核細胞に見出される調節タンパク質である。HSP90阻害剤は、がんの処置において有用であることが示されている。そのような阻害剤には、ゲルダナマイシン、17-(アリルアミノ)-17-デメトキシゲルダナマイシン、PU-H71、およびリファブチンが含まれる。
【0213】
DNAを直接架橋するまたは付加物を形成する作用物質も想定される。シスプラチンなどの作用物質、および他のDNAアルキル化剤が用いられ得る。シスプラチンは、合計3コースの間、3週間ごとに5日間20mg/m2という、臨床応用において用いられる有効用量で、がんを処置するために広く用いられている。シスプラチンは経口吸収されず、したがって静脈内への、皮下への、腫瘍内への、または腹腔内への注入を介して送達されなければならない。
【0214】
DNAに損傷を与える作用物質には、DNA複製、有糸分裂、および染色体分離を妨害する化合物も含まれる。そのような化学療法化合物には、ドキソルビシンとしても知られるアドリアマイシン、エトポシド、ベラパミル、ポドフィロトキシンなどが含まれる。新生物の処置のための臨床設定において広く用いられる場合、これらの化合物は、ドキソルビシンに関して21日間隔で25~75mg/m2から、エトポシドに関する静脈内への35~50mg/m2に及ぶ用量で静脈内へのボーラス注入により、または静脈内用量の2倍で経口的に投与される。タキサンなどの微小管阻害剤も企図される。これらの分子は、イチイ(Taxus)属の植物によって産生されるジテルペンであり、かつそれらには、パクリタキセルおよびドセタキセルが含まれる。
【0215】
イレッサなどの上皮成長因子受容体阻害剤、FK506結合タンパク質12-ラパマイシン関連タンパク質1(FRAP1)としても知られる、ラパマイシンの哺乳類標的であるmTORは、細胞成長、細胞増殖、細胞運動性、細胞生存、タンパク質合成、および転写を調節するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。したがって、ラパマイシンおよびその類似体(「ラパログ(rapalog)」)が、本開示に従ったがん療法における使用のために企図される。
【0216】
別の考え得る療法は、全身性炎症に関与するサイトカインであり、かつ急性期反応を刺激するサイトカインのグループのメンバーであるTNF-α(腫瘍壊死因子-α)である。TNFの主要な役割は、免疫細胞の調節にある。TNFは、また、アポトーシス細胞死を誘導し得、炎症を誘導し得、かつ腫瘍形成およびウイルス複製を阻害し得る。
【0217】
核酸の前駆体およびサブユニットの合成および忠実度を混乱させる作用物質も、DNA損傷につながる。そのようなものとして、いくつかの核酸前駆体が開発されている。特に有用なのは、広範囲にわたる試験を受けておりかつ容易に入手可能である作用物質である。そのようなものとして、5-フルオロウラシル(5-FU)などの作用物質は、新生組織によって優先的に用いられ、新生細胞へのターゲティングにとってこの作用物質を特に有用にしている。かなり有害であるものの、5-FUは、局所性のものを含めた広範なキャリアに適用可能であるが、しかしながら3~15mg/kg/日に及ぶ用量での静脈内投与がよく用いられている。
【0218】
DNA損傷を引き起こしかつ広範囲にわたって用いられている他の因子には、γ線、x線として一般に知られているもの、および/または腫瘍細胞へのラジオアイソトープの指向性送達が含まれる。マイクロ波およびUV照射など、他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子のすべては、DNAの前駆体、DNAの複製および修復、ならびに染色体の会合および維持に対して広範な損傷DNAをもたらす可能性が最も高い。x線に関する投与量範囲は、長期的期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンの1日線量から、2000~6000レントゲンの単回線量に及ぶ。ラジオアイソトープに関する投与量範囲は幅広く変動し、かつ同位体の半減期、放散される放射線の強度およびタイプ、ならびに新生細胞による取り込みに依存する。
【0219】
放射線治療薬の送達のための特定の様式は、ナノ粒子である。例えば、金ナノ粒子(NP)は、腫瘍治療について小動物において試験された最初のNPベースの放射線増強剤であった。外部ビーム放射の効力を増大させるその能力は、光電効果を介して、および金原子と外部ビームによって産生される低エネルギー光子との間の相互作用によって生じるオージェ電子シャワーによって媒介されることが見出された。これらの初期の知見に基づいて、とりわけ、ビスマス、ハフニウム、およびガドリニウムから構成されるものを含む、様々な無機NPが、同様に放射線療法の効力を高めるために開発されてきた。腫瘍ターゲティングを助けるための抗体でのNPの機能化を通じたものを含む、様々なアプローチが、前臨床腫瘍モデルにおいて放射線増強剤の内在化を改善するために採択されてきた。コンピュータ断層撮影法(CT)または磁気共鳴画像法による同じNP構築物の画像化を介した、放射のタイミングの最適化にもまた、努力が集中している。
【0220】
ヒドロゲル中で腫瘍内に注射された酸化ハフニウムベースのNP(NBTXR3)は、CTによって効果的に画像化され、移植後の腫瘍床内部での残留性および注射部位の外部への限定された拡散を実証した。並行して、静脈内(IV)投与されたガドリニウム含有NP(AGuIX)は、磁気共鳴画像法による追跡に成功し、腫瘍の位置確認後のみの放射線療法を可能にした。アプローチは両方とも、有望であり、臨床応用において放射線増強剤として働く、無機NPの一般化された能力を支持する。造影剤のIV注射は、多数のがんに対するアクセスを可能にするが、IV経路を介して投与されたNPは、NANO-RAD試験(NCT02820454)において観察されたように、腫瘍細胞によって内在化されない場合には腫瘍から急速に洗い流されることが示されている。
【0221】
最近の研究において、Detappe et al. (2020)は、腫瘍環境内に留まるように操作されたNPは、分割放射線処置の線量をより効果的に増強でき、かつ放射線増強剤の反復投与の必要性を除去でき、これが、潜在的な罹患率および/または処置関連コストを減少させることができると仮説を立てた。著者らは、複数のNPを単一の腫瘍特異的モノクローナル抗体(mAb)にコンジュゲートして、腫瘍細胞に送達される放射線増強剤の線量を増加させた。これらの抗体コンジュゲートNPの標的として、彼らは、様々な固形悪性腫瘍および血液悪性腫瘍にわたるその高い発現レベルに基づいて、ムチン1(MUC1)を選択した。MUC1-C抗体コンジュゲートNPの放射線増強特性をその非コンジュゲート対応物と比較するために、著者らは、NANO-RAD試験において用いられたのと同じタイプのナノ粒子を使用し、両方の組成物を、単回高線量の外部ビームまたは分割放射線療法のいずれかと組み合わせて投与し、処置効果を、肺がんおよびトリプルネガティブ乳がんの様々なモデルにおいて比較した。腫瘍内に蓄積した抗MUC1-C/NPの%ID/gは、その非コンジュゲート対応物のものに類似していることが見出された。重要なことに、抗MUC1-C/NPは、インビボ腫瘍微小環境において長期間の保持を実証し;結果として、放射線ブーストが、分割療法(3×5.2 Gy)の経過中維持された。著者らは、抗MUC1-C/NPをXRTとともに投与することによって、XRTを伴う対照NPの投与(31.1±2.4日)またはXRT単独(27.3±1.6日;P<.01、ログランク)と比較して、腫瘍成長阻害を有意に増大でき、動物の全生存期間を延長できた(46.2±3.1日)ことを見出した。
【0222】
加えて、免疫療法、ホルモン療法、毒素療法、および外科手術が用いられ得ることも企図される。特に、アバスチン、アービタックス、グリベック、ハーセプチン、およびリツキサンなどの標的療法を採用し得る。
【0223】
組み合わせ療法への特に有利な一手法は、MUC1を標的とする第二の作用物質を選択することである。本発明者らによって申請された同時係属中の出願において、少なくとも4個の連続したMUC1残基かつ多くて20個の連続したMUC1残基でありかつCQC配列を含むMUC1ペプチドであって、CQCのアミノ末端システインはそのNH
2末端上で、天然MUC-1膜貫通配列に対応する必要はない少なくとも1個のアミノ酸残基によって覆われているMUC1ペプチドを対象に投与する工程を含む、対象におけるMUC1陽性腫瘍細胞を阻害する方法が開示されている。該ペプチドは、少なくとも5個の連続したMUC1残基、少なくとも6個の連続したMUC1残基、少なくとも7個の連続したMUC1残基、少なくとも8個の連続したMUC1残基を含み得、かつ該配列は、より具体的には、
を含み得る。該ペプチドは、MUC1の多くて10個の連続した残基、11個の連続した残基、12個の連続した残基、13個の連続した残基、14個の連続した残基、15個の連続した残基、16個の連続した残基、17個の連続した残基、18個の連続した残基、または19個の連続した残基を含有し得る。該ペプチドは、ポリ-D-R、ポリ-D-P、またはポリ-D-Kなどの細胞送達ドメインに融合され得る。該ペプチドは、すべてのLアミノ酸、すべてのDアミノ酸、またはLおよびDアミノ酸の混合を含み得る。米国特許第8,524,669号を参照されたい。
【0224】
この技術に関するバリエーションが、米国特許出願第13/026,858号に記載されている。その出願では、少なくとも4個の連続したMUC1残基かつ多くて20個の連続したMUC1残基でありかつCQC配列を含むMUC1ペプチドであって、(i)CQCのアミノ末端システインはそのNH2末端上で、天然MUC1膜貫通配列に対応する必要はない少なくとも1個のアミノ酸残基によって覆われており;かつ(ii)該ペプチドは、天然MUC1残基に対応するそれらの正に帯電したアミノ酸残基に加えて、3~5個の連続した正に帯電したアミノ酸残基を含む、MUC1ペプチドと細胞とを接触させる工程を含む、MUC1陽性がん細胞を阻害する方法が開示されている。MUC1陽性細胞は、肺がん細胞、脳腫瘍細胞、頭頸部がん細胞、乳がん細胞、皮膚がん細胞、肝臓がん細胞、膵臓がん細胞、胃がん細胞、結腸がん細胞、直腸がん細胞、子宮がん細胞、子宮頸がん細胞、卵巣がん細胞、精巣がん細胞、皮膚がん細胞、または食道がん細胞などの固形腫瘍細胞であり得る。MUC1陽性細胞は、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、または多発性骨髄腫などの白血病または骨髄腫の細胞であり得る。該ペプチドは、ステープルドペプチド、環化ペプチド、ペプチド模倣体、またはペプトイドであり得る。該方法は、第二の抗がん剤を該ペプチドの前に、該ペプチドの後に、または該ペプチドと同時に接触させるなど、細胞と第二の抗がん剤とを接触させる工程をさらに含み得る。阻害することには、がん細胞成長、がん細胞増殖を阻害すること、またはアポトーシスなどによってがん細胞死を誘導することが含まれ得る。
【0225】
当業者であれば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第15編、第33章、特に624~652ページに方向づけられる。投与量のいくらかの変動は、処置されている対象の条件に応じて必然的に生じるであろう。いかなる場合でも、投与に対して責任がある人が、個々の対象に対する適当な用量を決定する。さらに、ヒト投与に関しては、調製物は、FDA生物製剤部(Office of Biologics)の規準によって要求される、無菌性、発熱原性、全般的安全性、および純度の規準を満たすべきである。
【0226】
IV.キット
なおさらなる態様において、本明細書に記載の方法とともに使用するための免疫検出キットが存在する。ゆえに、キットは、適切な容器手段中に、本明細書に記載の抗体構築物を含む。キットの構成要素は、水性媒体状または凍結乾燥形態のいずれかでパッケージされ得る。キットはまた、抗体構築物を使用するための説明書を含み得る。
【0227】
キットの容器手段には、一般的に、その中に抗体構築物が置かれ得る、または好ましくは適切に等分され得る、少なくとも1種のバイアル、試験管、フラスコ、瓶、シリンジ、または他の容器手段が含まれる。キットは、商業的販売のために密に閉じ込めた状態で抗体、抗原、および他の任意の試薬容器を含有するための手段も含む。そのような容器には、その中に所望のバイアルが保持される、射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器が含まれ得る。
【実施例】
【0228】
V.実施例
以下の実施例は、好ましい態様を実証するために含まれる。後に続く実施例において開示される技法は、態様の実践において上手く機能することが本発明者らによって発見された技法に相当し、ゆえにその実践のための好ましい様態をなすと見なされ得ることが、当業者によって解されるべきである。しかしながら、当業者であれば、本開示に照らして、本開示の精神および範囲から逸脱することなく、多くの変化が、開示されている具体的な態様においてもたらされ得、かつ依然として類似したまたは同様の結果を獲得し得ることを解するべきである。
【0229】
実施例1
別個の軽鎖を有するh3D1-hCD3二重特異性抗体。h3D1-hCD3は、二価h3D1および二価hCD3結合パラトープを、任意のFc受容体介在性エフェクターメカニズムを消失させるためのLALA-PG変異とともに含有する、ホモ二量体である。scFv形式を含有する構築物を、以下の順序で2つの異なる抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。ScFvのN末端は、3D1抗体のVHドメインをCH1ドメインとともに含有し、ヒトIgG1のFc領域がそれに続く。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVLドメインおよびVHドメインに融合させた。h3D1のVL領域およびCL領域を含有する第二の構築物もまた、作製した。これらの2つの構築物を、CHO細胞において共発現させると、h3D1の軽鎖をh3D1の重鎖とペアにすることによって、標準的な免疫グロブリン構造が強制的に形成され、またタンパク質のホモ二量体が、天然免疫グロブリン分子のようにFc領域中のジスルフィドリンカーを介して、強制的に形成される。ヒトIgG1 Fcは、造血細胞のFc受容体、および補体系の構成要素であるC1qに対する結合を無効にする3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含み、それによって、サイトカイン放出症候群および補体活性化などの二次的免疫反応を最小限に抑えることができる。
図1Aを参照されたい。
【0230】
h7B8-1-hCD3二重特異性抗体。h7B8-1-hCD3は、別個の軽鎖を含有する単量体である。ヒト化7B8-1(h7B8-1)の親和性は、ヒト化3D1よりも10倍高い。したがって、h7B8-1-hCD3二重特異性構築物を、より良好な安定性を有し、かつ二量体化しない単量体Fcを組み込むことによって、単一のMUC1結合部位を有するように作製した。構築物を、以下の順序で7B8-1および抗CD3抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、7B8-1抗体のVHドメインをCH1ドメインとともに含有し、単量体ヒトFc領域がそれに続く。単量体ヒトFcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVLドメインおよびVHドメインに融合させた。h3D1のVHとペアになることができる、h3D1抗体のVLドメインおよびVHドメインを含有する第二の構築物もまた、発現させた。
図1Bを参照されたい。
【0231】
h3D1-hCD3二重特異性抗体。h3D1-hCD3は、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体である。この構築物は、Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによるヘテロ二量体化により、MUC1に対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位を有する。ノブ-イントゥ-ホール技術は、「ノブ」を作り出すために一方の鎖に大きなアミノ酸を適用し、他方の鎖における対応する「ホール」のためにより小さなアミノ酸を採用する。加えて、単鎖可変フラグメント(scFv)技術と組み合わせた、2本の反対に帯電した重鎖の静電ステアリングにより、正しい鎖の集合が保証される。構築物を、以下の順序でヒト化3D1およびヒト化CD3抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、h3D1抗体のVHドメインを含有し、グリシン-セリンリンカーを用いてVLドメインと融合させ、ヒトIgG1のFc領域がそれに続いた。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVLドメインおよびVHドメインに融合させた。Fc領域は、ホールを形成する3つの変異(T366S、T368A、Y407V)、および適正な鎖のペア形成のための静電ステアリングを作り出すもう1つの変異(K392D)を含有する。グリシン-セリンリンカーを介してVLドメインに融合したVHドメインを含有し、ノブを形成する変異を有するhIgG1のFc領域がそれに続く第二の構築物を、作製した(T366W)。ヒトIgG1 Fcは、造血細胞のFc受容体、および補体系の構成要素であるC1qに対する結合を無効にする3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含み、それによって、サイトカイン放出症候群および補体活性化などの二次的免疫反応を最小限に抑えることができる。
図1Cを参照されたい。
【0232】
h3D1-hCD3二重特異性抗体(scFv)。この形式の二重特異性抗体は、MUC1およびCD3に対して各々1つの結合部位を有する単鎖可変フラグメント(scFv)を有し、示された変異により単量体のままである。構築物を、h3D1のVLドメインをヒトIgG1のFcと融合させ、続いてヒト化CD3抗体のVLドメインを付加することによって作製した。両端上のグリシン-セリンリンカーを用いて、h3D1のVHドメインを、構築物のN末端に付加し、ヒト化CD3抗体のVHドメインを、構築物のC末端に付加した。ヒトIgG1のFcは、Fc受容体介在性エフェクターメカニズムおよびC1q結合を無効にする変異(L234A、L235A、P329G)を含有する。
図1Dを参照されたい。
【0233】
h3D1-hCD3-hPD1三重特異性抗体。このDual Immune Cell Engager(DICE)形式は、
図1Cと同じヘテロ二量体化の戦略を採用するが、第二の構築物のN末端にPD1に対する結合部位を含む。PD-1結合部位の付加は、PD-1とPD-L1との相互作用により引き起こされるチェックポイント阻害を遮断することによって、T細胞活性化を増強する。
図1Eを参照されたい。
【0234】
h3D1-hCD3-hPD1三重特異性抗体。h3D1-hCD3-hPD1は、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体である。この構築物は、MUC1に対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位およびPD1に対する一価結合部位を有する。Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによる、ヘテロ二量体化。構築物を、以下の順序でヒト化h3D1ならびにヒト化CD3およびPD1抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、h3D1抗体のVLドメインを含有し、グリシン-セリンリンカーを用いてVHドメインと融合させ、ヒトIgG1のFc領域がそれに続いた。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVHドメインおよびVLドメインに融合させた。このDual Immune Cell Engager(DICE)は、第二の構築物のN末端にまた、PD1に対する結合部位を含む。PD-1結合部位の付加は、PD-1とPD-L1との相互作用により引き起こされるチェックポイント阻害を遮断することによって、T細胞活性化を増強する。Fc領域は、ホールを形成する3つの変異(T366S、T368A、Y407V)、および適正な鎖のペア形成のための静電ステアリングを作り出すもう1つの変異(K392D)を含有する。グリシン-セリンリンカーを介してVHドメインに融合したVLドメインを含有し、ノブを形成する変異を有するhIgG1のFc領域がそれに続く第二の構築物を、作製した(T366W)。ヒトIgG1 Fcは、造血細胞のFc受容体、および補体系の構成要素であるC1qに対する結合を無効にする3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含み、それによって、サイトカイン放出症候群および補体活性化などの二次的免疫反応を最小限に抑えることができる。
図1Fを参照されたい。
【0235】
h7B8-1-hCD3-hPD1三重特異性抗体。h7B8-1-hCD3-hPD1は、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体である。この構築物は、MUC1に対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位およびPD1に対する一価結合部位を有する。Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによる、ヘテロ二量体化。構築物を、以下の順序でヒト化h7B8-1ならびにヒト化CD3およびPD1抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、h7B8-1抗体のVHドメインを含有し、グリシン-セリンリンカーを用いてVLドメインと融合させ、ヒトIgG1のFc領域がそれに続いた。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVLドメインおよびVHドメインに融合させた。このDual Immune Cell Engager(DICE)は、第二の構築物のN末端にまた、PD1に対する結合部位を含む。Fc領域は、ホールを形成する3つの変異(T366S、T368A、Y407V)、および適正な鎖のペア形成のための静電ステアリングを作り出すもう1つの変異(K392D)を含有する。グリシン-セリンリンカーを介してVLドメインに融合したVHドメインを含有し、ノブを形成する変異を有するhIgG1のFc領域がそれに続く第二の構築物を、作製した(T366W)。ヒトIgG1 Fcは、造血細胞のFc受容体、および補体系の構成要素であるC1qに対する結合を無効にする3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含み、それによって、サイトカイン放出症候群および補体活性化などの二次的免疫反応を最小限に抑えることができる。
図1Gを参照されたい。
【0236】
h7B8-1-hCD3-hPD1三重特異性抗体。h7B8-1-hCD3-hPD1は、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体である。この構築物は、MUC1に対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位およびPD1に対する一価結合部位を有する。Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによる、ヘテロ二量体化。構築物を、以下の順序でヒト化h7B8-1ならびにヒト化CD3およびPD1抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、h7B8-1抗体のVLドメインを含有し、グリシン-セリンリンカーを用いてVHドメインと融合させ、ヒトIgG1のFc領域がそれに続いた。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVHドメインおよびVLドメインに融合させた。このDual Immune Cell Engager(DICE)は、第二の構築物のN末端にまた、PD1に対する結合部位を含む。Fc領域は、ホールを形成する3つの変異(T366S、T368A、Y407V)、および適正な鎖のペア形成のための静電ステアリングを作り出すもう1つの変異(K392D)を含有する。グリシン-セリンリンカーを介してVHドメインに融合したVLドメインを含有し、ノブを形成する変異を有するhIgG1のFc領域がそれに続く第二の構築物を、作製した(T366W)。ヒトIgG1 Fcは、3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含む。
図1Hを参照されたい。
【0237】
h7B8-1-hCD3二重特異性抗体。h7B8-1-hCD3は、scFvがノブ-イントゥ-ホール結合を介して寄せ集められたヘテロ二量体である。この構築物は、Fc領域中に示された変異(T366Wに対してT366S、T368A、Y407V)を有するノブ-イントゥ-ホール技術を用いることによるヘテロ二量体化により、MUC1に対する二価結合部位およびCD3に対する一価結合部位を有する。ノブ-イントゥ-ホール技術は、「ノブ」を作り出すために一方の鎖に大きなアミノ酸を適用し、他方の鎖における対応する「ホール」のためにより小さなアミノ酸を採用する。加えて、単鎖可変フラグメント(scFv)技術と組み合わせた、2本の反対に帯電した重鎖の静電ステアリングにより、正しい鎖の集合が保証される。構築物を、以下の順序でヒト化7B8-1およびヒト化CD3抗体の様々なドメインを融合させることによって作製した。構築物のN末端は、h7B8-1抗体のVHドメインを含有し、グリシン-セリンリンカーを用いてVLドメインと融合させ、ヒトIgG1のFc領域がそれに続いた。FcのC末端を、個々のドメインの可動性およびフォールディングを可能にするグリシン-セリンリンカーを介して、CD3抗体のVLドメインおよびVHドメインに融合させた。Fc領域は、ホールを形成する3つの変異(T366S、T368A、Y407V)、および適正な鎖のペア形成のための静電ステアリングを作り出すもう1つの変異(K392D)を含有する。グリシン-セリンリンカーを介してVLドメインに融合したVHドメインを含有し、ノブを形成する変異を有するhIgG1のFc領域がそれに続く第二の構築物を、作製した(T366W)。ヒトIgG1 Fcは、造血細胞のFc受容体、および補体系の構成要素であるC1qに対する結合を無効にする3つの変異(L234A、L235A、P329G)を含み、それによって、サイトカイン放出症候群および補体活性化などの二次的免疫反応を最小限に抑えることができる。
図1Iを参照されたい。
【0238】
h3D1-hCD3二重特異性抗体(scFv)。この形式の二重特異性抗体は、MUC1およびCD3に対して各々1つの結合部位を有する単鎖可変フラグメント(scFv)を有し、示された変異により単量体のままである。構築物を、h7B8-1のVLドメインをヒトIgG1のFcと融合させ、続いてヒト化CD3抗体のVLドメインを付加することによって作製した。両端上のグリシン-セリンリンカーを用いて、h7B8-1のVHドメインを、構築物のN末端に付加し、ヒト化CD3抗体のVHドメインを、構築物のC末端に付加した。ヒトIgG1のFcは、Fc受容体介在性エフェクターメカニズムおよびC1q結合を無効にする変異(L234A、L235A、P329G)を含有する。
図1Jを参照されたい。
【0239】
様々な二重特異性抗体の精製。示された構築物をすべて、CHO-K1細胞において発現させ、各二重特異性形式の単一細胞クローンを作製した。クローン由来の細胞を拡大増殖させ、浮遊培養を維持し、プロテインAカラムを用いて二重特異性抗体を精製した。精製タンパク質を、SDS-PAGEによってチェックした。レーン1~3は、示された二重特異性タンパク質を還元条件で含有する。レーン4~6は、同じタンパク質を非還元条件で含有する。タンパク質Dは、78,500ダルトンの分子量を有する単鎖であり、還元レーンおよび非還元レーンにおいて同じサイズを示す。タンパク質Aは、各々23,515ダルトンの2本の軽鎖および75,679ダルトンのより大きなフラグメントを有する。これらのバンドは、ゲルの還元条件で見られ、非還元条件では、約200,000ダルトンのバンドが見られる。タンパク質Bは、75,679ダルトンのより大きな鎖および23,885ダルトンの軽鎖を有し;それらは、還元条件で観察され、非還元条件では100,000のバンドが観察される。これらの結果は、正しいタンパク質の産生を確証する。
図2を参照されたい。
【0240】
フローサイトメトリーによる乳腺癌細胞株ZR75-1上の細胞表面MUC1に対するh3D1-hCD3二重特異性抗体結合の評価。ZR75-1細胞を、採取し、非特異的結合部位をブロックするために1% BSA/PBSと20分間インキュベートし、4ug/mlの試験抗体(二重特異性抗体)またはIgG1アイソタイプ対照抗体とインキュベートした。アイソタイプが一致したヒトIgG1およびh3D1を、結合についてのそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。60分間のインキュベーション後に、細胞を、PBSで2回洗浄した。細胞を、適切な二次抗体と45分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲートヤギF(ab')2抗ヒト免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、フローサイトメトリーを用いて評価し、データを、FlowJoソフトウェアを用いて解析した。
図3を参照されたい。
【0241】
フローサイトメトリーによるT細胞株Jurkat上の細胞表面CD3に対するh3D1-hCD3二重特異性抗体結合の評価。Jurkat細胞を、採取し、非特異的結合部位をブロックするために1% BSA/PBSと20分間インキュベートし、4 mg/mlの試験抗体(二重特異性抗体)またはIgG1アイソタイプ対照抗体とインキュベートした。アイソタイプが一致したヒトIgG1および抗hCD3を、結合についてのそれぞれ陰性対照および陽性対照として用いた。60分間のインキュベーション後に、細胞を、PBSで2回洗浄した。細胞を、適切な二次抗体と45分間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲートヤギF(ab')2抗ヒト免疫グロブリンを、二次試薬として用いた。細胞表面に対する抗体結合を、フローサイトメトリーを用いて評価し、データを、FlowJoソフトウェアを用いて解析した。
図4を参照されたい。
【0242】
MUC1を内因性に発現する細胞(ZR75-1)における二重特異性抗体によるT細胞活性化。標的細胞(ZR75-1、乳腺癌細胞)を、96ウェルプレートにおいて増殖培地中にプレーティングし(10,000細胞/ウェル)、一晩インキュベートした。様々な濃度の二重特異性抗体(D、B、またはA)を、20 ug/mlから始まる2倍連続希釈で細胞に添加し、続いてTCR/CD3エフェクター細胞(NFAT-Jurkat、100,000細胞/ウェル)を添加し、6時間インキュベートした。Bio-Glo(商標)試薬を添加し、発光を、Molecular Devices FilterMax F5リーダーを用いて定量した。データを、GraphPad Prismソフトウェアを用いて4PL曲線にフィットさせた。
図5Aを参照されたい。
【0243】
二重特異性抗体によるT細胞活性化。標的細胞(ZR75-1、乳腺癌細胞)を、96ウェルプレートにおいて増殖培地中にプレーティングし(40,000細胞/ウェル)、一晩インキュベートした。様々な濃度の二重特異性抗体(BまたはA)を、30 ug/mlから始まる3倍連続希釈で細胞に添加し、続いてTCR/CD3エフェクター細胞(NFAT-Jurkat、100,000細胞/ウェル)を添加し、6時間インキュベートした。Bio-Glo(商標)試薬を添加し、発光を、Molecular Devices FilterMax F5リーダーを用いて定量した。データを、GraphPad Prismソフトウェアを用いて4PL曲線にフィットさせた。
図5Bを参照されたい。
【0244】
HCT116/ベクターおよびHCT116/MUC1安定発現細胞における二重特異性抗体によるT細胞活性化。MUC1を発現するHCT116(HCT/MUC1)またはベクター(HCT116/ベクター)細胞(10,000細胞/ウェル)を、10 ug/mlから始まる3倍連続希釈の示された二重特異性抗体(D、B、またはA)、および100,000細胞/ウェルのNFAT-Jurkatで処理し、6時間インキュベートした。Bio-Glo(商標)試薬を添加し、発光を、Molecular Devices FilterMax F5リーダーを用いて定量した。データを、GraphPad Prismソフトウェアを用いて4PL曲線にフィットさせた。
図5Cを参照されたい。
【0245】
MUC1-C抗原に対するバイパラトピック二重特異性抗MUC1-C構成要素の結合。MUC1-C抗原に対するバイパラトピック二重特異性抗MUC1-C構成要素の結合を、陽性対照(3D1)および陰性対照としての培地を用いて、ELISAによって測定した。結果を、以下の表に示す。
【0246】
(表6)バイパラトピック二重特異性抗体(設計4)のELISA(トランスフェクションをチェックするため)
【0247】
実施例2‐抗体構築物の配列
1)
h3D1(VH-VL)-hFc-hCD3(VL-VH)-scFv
リーダー配列-3D1重鎖可変領域-(G4S)3-3D1軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-CD3軽鎖可変領域-(G4S)3-CD3重鎖可変領域:
2)
h3D1(VH-VL)-hFc-scFv
リーダー配列-3D1重鎖可変領域-(G4S)3-3D1軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc:
3)
h3D1(VL-VH)-hFc-hCD3(VH-VL)-scFv
リーダー配列-3D1軽鎖可変領域-(G4S)3-3D1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-CD3重鎖可変領域-(G4S)3-CD3軽鎖可変領域:
4)
h3D1(VL-VH)-hFc-scFv
リーダー配列-3D1軽鎖可変領域-(G4S)3-3D1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc:
5)
h7B8-1(VH-VL)-hFc-hCD3(VL-VH)-scFv
リーダー配列-7B8-1重鎖可変領域-(G4S)3-7B8-1軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-CD3軽鎖可変領域-(G4S)3-CD3重鎖可変領域:
6)
h7B8-1(VH-VL)-hFc-scFv
リーダー配列-7B8-1重鎖可変領域-(G4S)3-7B8-1軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc:
7)
h7B8-1(VL-VH)-hFc-CD3(VH-VL)-scFv
リーダー配列-7B8-1軽鎖可変領域-(G4S)3-7B8-1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-CD3重鎖可変領域-(G4S)3-CD3軽鎖可変領域:
8)
h7B8-(VL-VH)-hFc-scFv
リーダー配列-7B8-1軽鎖可変領域-(G4S)3-7B8-1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc:
9)
h3D1(VH-CH1)-hFc-hCD3(VL-VH)-scFv
ヒト化抗MUC-1抗体3D1のVH、ヒトIgG1のCH1、LALA-PG変異を有するヒトIgG1のFc、リンカー=抗ヒトCD3 VL、リンカー=抗ヒトCD3 VH:
10)
h3D1(VL-CL)
ヒト化抗MUC-1抗体3D1のVL、ヒトIgG1のCL:
11)
h7B8-1(VH-CH1)-mhFc-hCD3(VL-VH)-scFv
ヒト化抗MUC-1抗体7B8-1のVH、ヒトIgG1のCH1、ヒトIgG1のmhFc、リンカー=抗ヒトCD3 VL、リンカー=抗ヒトCD3 VH:
12)
h7B8-1(VL-CL)
ヒト化抗MUC-1抗体7B8-1のVL、ヒトIgG1のCL:
13)
h3D1(VH-VL)-hFc-hPD-1(VL-VH)-scFv
リーダー配列-3D1重鎖可変領域-(G4S)3-3D1軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-PD1軽鎖可変領域-(G4S)3-PD1重鎖可変領域:
14)
h3D1(VL-VH)-hFc-hPD-1(VH-VL)-scFv
リーダー配列-3D1軽鎖可変領域-(G4S)3-3D1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-PD1重鎖可変領域-(G4S)3-PD1軽鎖可変領域:
15)
h7B8-1(VH-VL)-hFc-hPD-1(VL-VH)-scFv
リーダー配列-7B8重鎖可変領域-(G4S)3-7B8軽鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-PD1軽鎖可変領域-(G4S)3-PD1重鎖可変領域:
16)
h7B8-1(VL-VH)-hFc-hPD-1(VH-VL)-scFv
リーダー配列-7B8軽鎖可変領域-(G4S)3-7B8重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc-G4S-PD1重鎖可変領域-(G4S)3-PD1軽鎖可変領域:
【0248】
h7B8/h3D1-hCD3バイパラトピック二重特異性
7B8(VH-CH1)-Fc-CD3(VL-VH):
リーダー配列-7B8重鎖可変領域(VH5)-ヒトIgG1定常領域-CD3(VL-VH)
7B8(VH-CH1)-Fc-CD3(VH-VL):
リーダー配列-7B8重鎖可変領域(VH5)-ヒトIgG1定常領域-CD3-CD3(VH-VL)
h7B8軽鎖(VL-CL):
リーダー配列-7B8軽鎖可変領域(VL3)-ヒトIgκ定常領域
3D1(VH5-VL1)-Fcアロタイプ2:
リーダー配列-3D1重鎖可変領域-(G4S)3リンカー-3D1軽鎖可変領域-ヒトIgG1 Fc
3D1(VL1-VH5)-Fcアロタイプ2:
リーダー配列-3D1軽鎖可変領域-(G4S)3-3D1重鎖可変領域-G4S-ヒトIgG1 Fc
【0249】
本明細書において開示されかつ主張される組成物および方法のすべては、本開示に照らして、過度の実験なしになされ得かつ遂行され得る。本開示の組成物および方法は、好ましい態様の観点から記載されているものの、本開示の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書において記載される組成物および方法に、ならびに方法の工程または工程の配列において、変動が適用され得ることは当業者に明らかであろう。より具体的には、両方とも化学的かつ生理学的に関連しているある特定の作用物質を、本明細書において記載される作用物質の代わりに置換し得ると同時に、同じまたは同様の結果が達成されるであろうことは明らかであろう。当業者に明らかであるそのようなすべての同様の代用物および改変は、添付の特許請求の範囲によって規定される、本開示の精神、範囲、および概念の内にあると見なされる。
【0250】
VI.参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書において示されるものに対して補足的である例示的な手順の詳細または他の詳細を提供する程度まで、参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【配列表】
【国際調査報告】