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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】セイル推進要素、セイル推進移動体
(51)【国際特許分類】
   B63H 9/061 20200101AFI20240604BHJP
   B63H 9/08 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
B63H9/061
B63H9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573403
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(85)【翻訳文提出日】2024-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2022051018
(87)【国際公開番号】W WO2022248812
(87)【国際公開日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】2105608
(32)【優先日】2021-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ベルクロ
(71)【出願人】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】エッシンガー オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】フラニエル ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ケッシ エドゥアール
(72)【発明者】
【氏名】ド カルバーマッテン ローラン
(57)【要約】
本発明は、セイル推進要素に関し、セイル推進要素は、マスト(3)と;周縁に沿って一緒に接合された、実質的に2つの流体密な隣接面(4a、4b)で構成され、隣接面(4a、4b)の間にマスト(3)の周囲に閉じられた少なくとも1つの空洞が形成され、上部、下部、前縁(6)、及び後縁(7)を含む、膨張式セイル(1)と;セイルの空洞の内側と外側との間に配置された少なくとも1つの空気導管と;空洞に空気を注入するための少なくとも1つの手段であって、セイルは膨張すると、推進要素の動き又は風の方向や強さに関係なく、永久に対称を保つプロファイルを有する、少なくとも1つの手段と;セイルの上部に配置されたヘッドボードと;セイルの下部の前縁(6)と後縁(7)の間に配置されたセイルレセプタクルと;を備える。セイル推進要素は、セイルが、セイルの長さ方向に複数のセル(5)を備え、セル(5)の各々が、前縁(6)から後縁(7)まで延び、セル(5)が、空気を通す第1の軟質材料で作られているリブ(8)によって離間されていることを特徴としている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイル推進要素であって、
a.マスト(3)と、
b.実質的に2つの流体密な隣接面(4a、4b)で構成された膨張式セイル(1)であって、前記隣接面(4a、4b)は、それらの周縁に沿って一緒に接合され、それらの間に前記マスト(3)の周囲に閉じられた少なくとも1つの空洞が形成され、前記セイルが上部、下部、前縁(6)、及び後縁(7)を含む、膨張式セイル(1)と、
c.前記セイルの前記空洞の内側と外側との間に配置された少なくとも1つの空気導管と、
d.前記空洞に空気を注入するための少なくとも1つの手段であって、前記セイルは膨張すると、前記推進要素の動き又は風の方向や強さに関係なく、永久に対称を保つプロファイルを有する、少なくとも1つの手段と、
e.前記セイルの前記上部に配置されたヘッドボードと、
f.前記セイルの前記下部の前記前縁(6)と前記後縁(7)の間に配置されたセイルレセプタクルと、
を備え、
前記セイルは、前記セイルの長さ方向に複数のセル(5)を備え、前記セル(5)の各々は、前記前縁(6)から前記後縁(7)まで延び、前記セル(5)は、空気を通す第1の軟質材料で作られているリブ(8)によって離間されていることを特徴とする、セイル推進要素。
【請求項2】
前記リブ(8)の各々は、前記マスト(3)の周りに境界が定められ、複合材料の第2の軟質材料で作られた補強ゾーン(11)を備える、請求項1に記載の要素。
【請求項3】
前記第1の軟質材料と前記第2の軟質材料は、異なる織り方を有する織物材料である、請求項2に記載の要素。
【請求項4】
前記第1の軟質材料は、約2から4mmのメッシュサイズを有する、請求項1又は3に記載の要素。
【請求項5】
前記第2の軟質材料は、約2から4mmのメッシュサイズを有する、請求項2又は3に記載の要素。
【請求項6】
前記リブは、前記前縁から前記後縁まで延びる中央バンドを備える、請求項1に記載の要素。
【請求項7】
前記中央バンドは、前記第2の軟質材料から作られている、請求項2及び6に記載の要素。
【請求項8】
前記中央バンドは、1から10cmの範囲の幅を有する、請求項5又は6に記載の要素。
【請求項9】
前記セルは、0.8mから2mの距離だけ離間している、請求項1に記載の要素。
【請求項10】
個別の補強部材が、前記前縁に沿って均等に配置されている、請求項1から9のいずれかに記載の要素。
【請求項11】
前記セイルをホイスティング又はドロッピングする操作のために、前記セイルの前記閉じた空洞内にガイドラインが配置され、前記ガイドラインは、前記セイルの前記前縁から前記後縁まで延び、前記ヘッドボード及びセイルレセプタクルを通過し、前記ガイドラインは前記個別の補強部材を通過する、請求項10に記載の要素。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の少なくとも1つの要素と、ハルと、前記ハルに固定されるが依然として回転自由度を保持するマストとを備えるセイル推進又はハイブリッド推進を備える移動体であって、前記マストの大部分は、前記膨張式セイルの前記空洞内に配置される、移動体。
【請求項13】
前記セイルは、風向きに従って、及び手動又は自動で前記移動体の進行方向に従って方向付けされる、請求項12に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨張式セイルに関し、セイル推進又はハイブリッドセイル推進の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
以下で使用されるいくつかの定義のメモを以下に示す。
-リーフィング:風の強さに合わせてセイルの表面積を適合させるために、セイルを部分的に底からファーリングして、表面積を小さくすること。リーフィングは手動又は自動で行われる。
-リーフィングバンド:リーフィング・ターニング・ブロックを、グロメット又はプーリーなどで取り付けるための、部分的に補強された水平ゾーン。これらのリーフィングバンドは、セイルの各リブのリーフィングポイントの高さに配置される。セイルをリーフする可能性の数だけリーフィングバンドがある。
-レイジージャック:セイルのリーフィング又はドロッピング操作時にセイルをガイドするための装置。
-ブーム:マストの付け根に連結された水平のスパーで、特定のセイルを保持し、その方向付けを可能にする。ブームは、セイルがドロッピングされている場合にセイルを受け取る場合もある。特定のヨットはマストローラーを有し、その場合、セイルはマストに収納される。
-ラフィング:ラフィングしているセイルは、セイルの針路変更(haul)が不十分で、部分的にしぼんでいる。しっかりとトリミングされたセイルはラフィングの限界に達している必要がある。セイルが適切に満たされていればラフィングは起こらず、風をとらえて帆走することができる。
-前縁:空気力学的プロファイル(ウイング、プロペラなど)の前部であり、流体が2つの流れに分かれる部分。
-後縁:流体(空気、水など)の流れを両側から受ける何らかのプロファイル(ウイング、キール、ラダーブレードなど)の特徴的部分。方向概念とは反対側の部分、又は、換言すれば、流れの方向から見た場合の後部を指す。
-ヘッドボード:セイルの上部の輪郭に適合するセイルの上端。
-ドロッピング:セイルを降下させること。
-ホイスティング:セイルを上昇させること。
-リギング:セイルボードタイプのボートの固定及び可動部品の集合であり、ボートの推進及び操縦を可能にする。
-セイルレセプタクル:ドロップしたセイルを受け取ることに加えて、セイルから供給される張力に対応する、又はセイルの動作に使われる他のアクチュエータ、エネルギー貯蔵センサ、コントロールモジュールなどを収納する他の機能を組み込むことができる。
-流体力学的抗力:ボートと水との間の摩擦力。抗力が大きいほどボートは遅くなる。
-空気力学的抗力:流体中を移動する物体が受ける力のうち、移動方向と反対方向に作用する成分。本発明によれば、セイルは空気力学的抗力を発生させる。
-空気力学的揚力:流体中を移動する物体が受ける力のうち、移動方向に対して垂直方向に作用する力の成分。本発明によれば、セイルは空気力学的揚力を発生させる。
-相対風又は見かけの風:ボート自身の速度と実際の風速によって生じる風のベクトル和。
-空気力学的合力:空気力学的揚力と空気力学的抗力のベクトル和。
【0003】
対称プロファイルを有する膨張式セイルを含むセイル推進要素は、国際公開第2017/221117号から公知である。この推進要素は、周縁に沿って互いに接合されて少なくとも1つの閉鎖キャビティを形成する、実質的に流体密封された2つの隣接する面から本質的になる膨張可能なセールを備える。この要素はさらに、空洞の内側と外側との間に配置された導管と、空洞に空気を注入する手段とを備える。膨張すると、このセイルは、要素の動き、又は風の方向もしくは強さに関係なく、恒久的に対称を保つプロファイルを有する。この文献のセイルは、帆走に使用されている間、常に膨張している。
【0004】
残念なことに、このような軟式セイルは、その使用の様々な段階、特にホイスティング及びドロッピング段階に適した膨張レベルを提供できないという欠点がある。具体的には、硬式セイルとは異なり、軟式セイルはこれらの操作(ホイスティング及びドロッピング)段階において明確に規定された位置がない。これらの段階では、セイルが水の中に落下する又は近くの要素に引っ掛かるのを防止するように、又はコンパクトに収納するのに適した山型に崩れないのを防ぐように、セイルをセイルプロファイルの対称軸の近くに保つことが重要である。さらに、セイルの寿命を短くする可能性があるので、セイルがラフィングになるのを防止するように、セイルのドロッピング又はリーフィング段階の間にセイル内にわずかな圧力を維持することが重要である。
【0005】
最後に、このようなセイルは、ファーリングされる場合にホイスティングすることができるように、多くの空気注入口を必要とし、結果として、さらにファーリングされたセイルの迅速で確実な展開を可能にすることなく、セイルが作られる生地の構造に適合させる必要がある。
【0006】
同様に、国際公開第2009/043823号には、前縁から後縁まで延びるウイングのプロファイルが、セイルの長さ方向に複数のセルを備え、これらがリブによって互いに間隔をあけて配置されたパラグライダーが開示されている。このようなパラグライダーは、飛行中に第1の貯蔵空間を満たす役割を果たす様々な空気吸入口を下流側に備えている。
【0007】
残念なことに、このようなセイルは、空気の通過を意図した開口部を有するか又は有しないかの異なる種類のセルで構成されている。これらのセルは、畳まれたセイルが完全に展開されるまで、セルからセルへ空気を均一かつ連続的に送るためだけでなく、セイルが水中に落下する危険性なしに、セイルの部分的又は全体的な降下時に空気を排出するためにも設けられている。最後に、セイルの容積にわたる開口部の不規則な分散配置は、空気を通すために開口部が適切に配置されていない結果、開口部で閉塞が起こる可能性が高いため、セイルを展開する際に困難性が生じる傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/221117号
【特許文献2】国際公開第2009/043823号
【発明の概要】
【0009】
従って、ドロッピング/膨張の際に、マストに沿った対称軸上に正しく留まりながら、ラフィングすることなく及び損傷するリスクなしで、空気をセイルの全容積を通して均一かつ均等に伝達し、手動又は自動で、完全に又は部分的に繰り返して展開できる膨張式セイルに対する必要性が依然として存在する。さらに、展開位置においても、膨張デバイスの消費を最小限に抑え、電力供給を簡素化するために、膨張デバイスをセイルレセプタクル内に配置できるようにする必要がある。
【0010】
本発明の1つの主題は、セイル推進要素であり、この要素は、マストと;周縁に沿って互いに接合された実質的に2つの流体密な隣接面で構成され、それらの間にマストの周囲に閉じられた少なくとも1つの空洞が形成され、上部、下部、前縁及び後縁を含む、膨張式セイルと;セイルの空洞の内側と外側との間に配置された少なくとも1つの空気導管と;空洞に空気を注入するための少なくとも1つの手段であって、セイルは膨張すると、推進要素の動き又は風の方向や強さに関係なく、永久に対称を保つプロファイルを有する、少なくとも1つの手段と;セイルの上部に配置されたヘッドボードと;セイルの下部の前縁と後縁との間に配置されたセイルレセプタクルと;を備える。
【0011】
本発明による推進要素は、セイルが、セイルの長さ方向に複数のセルを備え、各セルが前縁から後縁まで延び、セルが、空気を通す第1の軟質材料、例えば3Dタイプの構造体で構成されるリブによって離間されていることを特徴とする。
【0012】
従って、リブは2つの隣接するセルの輪郭を描き、複数のリブは、セイルの様々なセルの輪郭を描くために提供される。リブが空気を通すことは、圧力損失を最小にするために有利であるが、荷重を伝達することもできる。セイルが膨張するときに空気が受ける圧力損失、つまり空気が全経路を移動するために解消する必要がある圧力のレベルを最小にできることの重要性は、ここで強調されるべきである。具体的には、セイルがドロッピングされ、オペレータがセイルを空気で膨張させようとする場合、本発明の解決策では、セイルの底部から到着する吹き込み空気が、最下部のボックスセクション(又は底部セル)に閉じ込められたままにならず、膨張の間に、セイルの上部(セイルの上部セル)にできるだけ簡単に到達できるようにすることが重要である。本発明が提案するように、空気を通過させることができるリブを各セルの間に配置することは、今度は空気を通過させるためにリブの全表面積を使用することができるため、この問題に対する解決策をもたらすことができる。従って、空気がリブに形成された数個の穴を通る必要があり、セイルをドロッピングさせるときにリブの積み重ね方法によって圧力損失が大きくなる可能性がある先行技術の構成とは対照的に、ここでは、空気は、常に全てのセル、特にセイル上部のセルを満たすための簡単な経路を何とか見つけることができる。
【0013】
本発明による推進要素には、以下のような様々な利点がある。
【0014】
各リブを通る空気の連続的な通路のおかげで、空気は1つのセルから別のセルへ均等かつ均一に循環する。具体的には、単一の空気注入点しか存在しないにもかかわらず、リブが実質的にその表面積全体にわたって空気を通過させることにより、容積全体にわたって実質的に均一な内圧を得ることが可能になり、それによってセイルのプロファイルの精度が保証される。このようなリブがあることで、特に、セイルレセプタクル内に存在し、従ってセイルの下部にあるファンだけを使用した、セイルが収縮した後の自動的な膨張及びファーリングが容易になり、外部からの介入を一切必要としない。空気透過性リブは、ファンをセイルの下部に位置付けながら、既存の解決策と比較して空気の伝達を改善する。従って、先行技術の膨張式セイルでは、空気は、セイルの前縁に配置された複数のオリフィス及びファンを通って到着するので、ファンを接続するために電力供給ケーブルは、様々なセルを通過する必要がある。実質的に全表面積にわたって空気透過性リブを使用することで、アクチュエータ(ファン)への電力供給が簡素化され、その結果、アクチュエータは、セイル収容式レセプタクル、つまりセイルの下部に配置することができ、同時にセイルの全容積にわたって均一な膨張を可能にする。ファンは、例えば送風機又は加圧空気供給装置などの空気を注入する他の手段で置き換えることができる。
【0015】
対称プロファイルとは、ウイングの内弧面側と外弧面側の圧力が等しいときには完全に対称であるが、セイルの内弧面側と外弧面側との間の圧力差によってプロファイルがわずかに変形する場合、セイル(ちなみに膨張したセイルについて言及する場合はウイングと呼ばれる)の柔軟性を考慮して、わずかに変化することができるプロファイルのことである。
【0016】
好ましくは、各リブは、マストの周りに境界が定められ、複合材料の軟質材料で作られた補強ゾーンを備え、リブは、荷重を伝達できるように補強されている。
【0017】
好ましくは、第1の軟質材料及び第2の軟質材料は、異なる織り方を有する織物材料である。
【0018】
好ましくは、第1の軟質材料は、約2から4mmのメッシュサイズを有する。
【0019】
好ましくは、第2の軟質材料は、約2から4mmのメッシュサイズを有する。
【0020】
好ましくは、リブは、前縁から後縁まで延びる中央バンドを備える。
【0021】
好ましくは、中央バンドは第2の軟質材料から作られている。本発明の代替形態では、中央バンドは固体(solid)である。
【0022】
好ましくは、中央バンドは、1から10cmの範囲の幅を有する。
【0023】
好ましくは、セルは、0.8と2mとの間の距離だけ離間している。
【0024】
好ましくは、個別の強化部材が、前縁に沿って均等に配置されている。
【0025】
好ましくは、セイルをホイスティング又はドロッピングする操作のために、セイルの閉じた空洞内にガイドラインが配置され、ガイドラインは、セイルの前縁から後縁まで延び、ヘッドボード及びセイルレセプタクルを通過し、ガイドラインは個別の補強部材を通過する。ガイドラインは、操作中でホイスティング又はドロッピング段階の間に、セイルを幾何学的に正しく位置決めされるようにするために、ラインロープ索類で作り出されるデバイスであることが想起される。具体的には、例えばこのセイルの高さの途中と考えられるセイルのリブは、その目的で形成された穴にマストを通すという事実によって位置的に拘束されているが、セイルの剛性(これは低い)を別にすれば、セイルに加えられる圧力の作用でマストに対して回転することを妨げるものは何もない。このような回転は、セイルにねじれを生じさせ、その結果として、その性能に悪影響を及ぼす方法でセイルのプロファイルを変更する作用をもたらすことになる。このねじれを回避するため、各リブは、マストから十分に離れた位置でそれを通過するガイドラインを有する。ホイスティング又はドロッピング時、リブはマストに沿って及びこのガイドラインに沿ってスライドする。
【0026】
好ましくは、ガイドラインが存在する場合、それは1つの部品として形成され、後縁でセイルレセプタクルに固定的に取り付けられ、前縁でローラーによって移動可能であるか、あるいは後縁でセイルレセプタクル内のローラーによって移動可能でありかつ前縁に固定的に取り付けられ、ガイドラインは、後縁と前縁との間の少なくとも1つのプーリー上を移動できるように、ヘッドボードに沿って配置される。
【0027】
好ましくは、ガイドラインが存在する場合、それは2つの部品として形成され、後縁側の第1の部品は固定されるか、あるいはヘッドボード上のプーリーで移動可能であり、セイルレセプタクルのローラーによって移動可能であり;前縁側の第2の部品は固定されるか、さもなければヘッドボード上のプーリーで移動可能であり、セイルレセプタクルのローラーによって移動可能である。
【0028】
本発明の別の主題は、本明細書で上述した少なくとも1つのセイル推進要素と、ハルと、ハルに固定されるが依然として回転自由度を保持するマストとを備えるセイル推進又はハイブリッド推進を備える移動体である。この移動体は、マストの大部分が上述の膨張式セイルの空洞の内部に配置されていることを特徴としている。
【0029】
好ましくは、マストは膨張式セイルの空洞の内部に配置されている。
【0030】
好ましくは、セイルは、風向きに従って、手動又は自動で移動体の進行方向に従って方向付けされる。
【0031】
本発明によるハイブリッド推進移動体が意味するのは、例えば、電気モーター又は内燃機関によって駆動されるプロペラによる推進などの別の推進源と結合されたセイル推進であり、エネルギー貯蔵源として、電池、水素(燃料電池付き)、天然ガス又は燃料油を有する。
【0032】
移動体が意味するのは、車輪の有無を問わず陸上又は水上を移動するあらゆる船である。
【0033】
本発明は、以下の図を用いて説明されるが、これらの図は概略的なものであり、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】例えばモーターセイルボードタイプの船舶に加えられる様々な物理的な力、特に、結果として生じる空気力学的力の投影を示す。
図2】完全にホイスティングされた、本発明によるセイル推進要素の概略正面図である。
図3】部分的にリブを含むセイル推進要素の概略正面図である。
図4】本発明によるセイル推進要素のリブを含む部分の拡大概略図である。
図5】本発明によるセイル推進要素を完全にファーリングした状態のリブ概略正面図である。
図6】リブの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の主題をなすセイル推進要素を上述の図を用いてより詳細に説明する前に、いくつかの流体力学的及び空気力学的定義のメモを以下に示す。
【0036】
セイルボート又は船舶と呼ばれるセイル推進移動体は、空気及び水と接触している。物理的な観点からは、ハル、セイル、付属品(センターボード、キール、ラダー、プロペラ)に加わる流体力学的力及び空気力学的力が主な要因である。
【0037】
図1に示すように、空気力学的力(又はセイルの推力)は、少なくとも1つのセイルによって空気が偏向された結果である。空気力学的力はセイルの位置及び表面積、及び相対風の位置及び強さに関連する。抗力は、相対風の方向にあり、揚力は、相対風に垂直な方向にあって、常にセイルに垂直であるとは限らない。例えば、0°では、空気が、外弧面と内弧面にわたって厳密に同じ距離を進むので、対称プロファイルは揚力を発生しない。この時点では、抗力のみが発生する。
【0038】
また、セイルによって発生する空気力学的力は、セイルではなくボートの参照フレームにおいて、セイル推進力(ボートの進行軸に沿った)と、ボートをヒールさせることができる(ヒールは、風などの外部現象によって引き起こされるようなボードの横方向の傾斜である)ドリフト力(ボートの軸に垂直)に分解することができる。
【0039】
流体力学的力は、ハル及びセンターボード又はキール及び様々な水中付属物に対する水の摩擦の結果である。その方向は、対抗する空気力学的力、ハイブリッドモードでの推進力、海面状態及び海流に依存する。長手方向成分は流体力学的抗力と呼ばれ、横方向成分はサイドフォース、アンチヒーリングフォース又は流体力学的揚力と呼ばれる。流体力学的力の方向及び強さは、空気力学的力のみに依存するわけではない。ハイブリッドモード(風力及び別のエネルギー源)で航行する水上船舶(ボート)の場合、流体力学的力は、エンジン又はモーター推進によって発生する船速、例えば海面状態及び海流に大きく依存することになる。
【0040】
セイルの力が流体力学的力よりも大きい場合、ボートは加速する。セイルの力が流体力学的力より小さい場合、ボートは減速する。さらに、空気力学的力が大きいがボートの後方に向いている場合、ボートは減速する。流体力学的力がボートの進行方向にある場合(流れが強いので)、ボート(セールボート)は加速することになる。
【0041】
セイルのトリムを最適化することで、セイルボートは進行方向へのセイルの推力という点で最大の性能を発揮することになる。具体的には、相対風及びボートの進行方向に対するセイルの角度を最適化し、セイルの表面積をトリミングすることで、ボートの軸に沿ってセイルの推進力を最大レベルにすることができる。風の状態に応じて、セイルの内圧を変化させるために、追加のトリミング動作が必要になる場合もある。これは、セイルの推進力によってボートの速度を上昇させること、又は、他方で同じ速度を維持しながら同時に他のエネルギー源の消費を低減することを可能にする。
【0042】
図1は、上述の定義されたパラメータの各々を、全て以下に列挙するように、固有の特定の参照番号で再度示している。
a:揚力
b:抗力
c:空気力学的合力
d:空気力学的推進力(船の軸に沿った)
e:空気力学的ドリフト力
f:相対風
g:ウイング及びボート軸の相対角度(例えば15°)
h:相対風とボート軸の角度(例えば30°)
i:プロペラ推進力
j:ハル
k:セイル
l:マスト
m:空気力学的推進力の中心
n:プロペラ
o:固定部分のセンサ(ハル参照フレーム)
p:可動部のセンサ(セイル参照フレーム)
図1で与えられた情報により、ハル参照フレームのデータのセンサからセイル参照フレームのデータのセンサへの移行、及びその逆が可能となる。
【0043】
図2は、本発明による全体的な参照番号1を有する推進要素を示し、推進要素は、自立マスト3を使用してセイルボートタイプのボートのハル2に取り付けられている。マスト3は、物理的な力の荷重を吸収するための支持体(図示せず)を使用してハルに結合されている。荷重は、支持体又はマスト自体で測定される。セイルは、閉じた空洞を形成するように互いに結合された2つの隣接する表面4a、4bで構成される。各表面4a、4bは、機械的強度、気密性、耐火性、紫外線性抵抗性などの様々な特性を達成するために、複数の層を有する材料で作ることができる。
【0044】
セイル1は、長さ方向にセイル1の全高にわたって分散配置された複数のセル5を備える。各セル5は、前縁6から後縁7まで延びている(図5に示すように)。セル5は、約1mだけ相隔たっている。
【0045】
図3に示すように、セル5はリブ8によって互いに分離されている。各リブ8は、第1の材料、例えば、約3mmの横糸で満たされた縦糸で構成された織物材料で作られており、糸は潜在的にPVCのような化合物で被覆されている。このタイプの3D織りは、セイルがドロップモードでファーリングされた状態でも空気の正しい通過を保証する。
【0046】
織物とすることができるこの第1の材料は、接着手段、縫い付け、融着、又はしっかりした取り付けを可能にする他の手段によってセイルに取り付けられる。これは材料の気孔を塞ぎ、空気が正しく循環するのを阻止するので、その後のコーティングは行わない。
【0047】
セイル1の外層を構成する材料とリブ8の第1の織物材料との間に漸進的な移行をもたらす織物を第1の織物材料として使用することも可能である。フィラメント膜を使用することも可能である。
【0048】
図4に示すように、各セル5はリブ8によって分離されている。ホイスティング/ドロッピングの間に、ファン又は何らかの他の膨張手段によって扱われ、例えばセイルレセプタクルにある空気は、セイルの空洞に吸引又は吸い込まれる。空気はリブ8を上から下へ、又は下から上へ(セイルが膨張するか縮むかによって)通り抜けるので(矢印9)、セイルが完全に展開した状態でも、リーフィングによってセイル面積が減少した状態でも、リブが積み重なった状態で膨張し始めた状態でも、セイル1内の内圧を実質的に均一に分布させることができる。
【0049】
また、リブ6の構成は、セイル1の内圧に関連する荷重に反応するだけでなく、セイル1のプロファイルに加えられる空気力学的圧力をマスト3に伝えることも可能にする。実際には、リブはセイルの内圧に反応し、さらに空気力学的力を伝達することもできる。
【0050】
象徴されるように(矢印10)、セイルの内圧はセイルの壁に作用する。
【0051】
リブ8のために本発明による第1の織物材料の特別な選択、特にこの材料が作られている糸の配向は、空気力学的力をセイルからマスト3に正しく伝達するのを可能にする。マスト3の周りで空気の通過が制限されても不都合はない。最も重要なのは、空気がリブの前部(前縁に向かって)及び後部(後縁に向かって)を通過できるようにすることである。換言すれば、リブはマストに固定されておらず、「浮いている」。それにもかかわらず、これは、空気力学的力が伝達されると同時に、セイルの容積全体に空気を均一に分散させることを可能にする。
【0052】
セイルの表面上に分散配置された個別のオリフィスとは異なり、空気が通過し、本発明に従って荷重に反応する第1の材料を使用する第1の利点は、セイル1の空洞内の空気の正しい循環にはるかに大きな有害な影響を及ぼすであろう、1又は2以上のオリフィスの部分的又は完全な閉塞を避けることである。
【0053】
第2の利点は、圧力降下を著しく減少させると同時に、荷重を伝達するのに十分な強度を維持することが可能になり、その結果、膨張デバイスの出力、従ってエネルギー消費を低減できることである。
【0054】
この第1の材料の最終的な利点は、前縁のファンを省くことができることである。本発明の解決策では、セイルレセプタクルに配置されたファンは、空気を吸引する又は引き出すことを課するほとんどの操作を満足させることになる。
【0055】
図5に示すように、セル5は、セイル1をホイスティングするために、空気が本発明による完全にホイスティングされた要素上を上向きに通過するのを可能にする(矢印9)。
【0056】
図6の概略図は、セイルの下部に、マスト3の周囲に境界が定められた補強ゾーン11を示す。このゾーンは、約7.5m2の表面積を有する。これは、第1の材料とは異なる第2の材料で作られ、これは、例えば同じ材料を用いて製造されるが、角度が異なっており、例えば、第1の材料は、0°と90°の織り角度を有し、第2の材料は、第1の材料に対して±45°の角度を有する。別の態様では、この補強は、リブの織布と同じ織布を使用し、2層の織布を互いに45°の角度で重ね合わせることによって達成することができる。
【0057】
この第2の材料は、約3mmの大きさのメッシュ開口部によって画定される。
【0058】
図5はさらに、補強材で作られているバンド12の存在を示している。このバンド12の幅は約80mmである。
【0059】
その機能は、リーフィングライン又はガイドラインのような様々なライン索類が通過する箇所において、力を分散し、アブレシブ摩耗を制限することである。
【0060】
個別の補強部材(図示せず)は、リブ6の前縁及び/又は後縁に沿って均等に配置することができる。
【実施例
【0061】
以下の実施例は、単なる例示であり、非限定的である。以下の表は、様々な可能な状況を並べたものである。
【0062】
ボディとも呼ばれるセイルの外層は、外気と接触する外部と内部を含む織布で作られている。この織地は、ポリウレタンで被覆されたポリエステル織物である。この織地の坪量は、約100m2のセイル面積に対して180g/m2である。
【0063】
セイルの上部はベルクロテープ式の面ファスナー及びループで固定することができる。セイルの外側部分とリブとの間の接合(内部接合)及び外側部分の構成要素間の接合は、融着接合又は接着剤接合又はその他の接合手段(例えば、ジッパーファスナー)によって達成することができ、これは、例えば、既存のインフレーションシステムと適合する十分に低いレベルの浸透性を保証しつつ、荷重の伝達を保証することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 膨張式セイル
2 ハル
3 マスト
4a 表面
4b 表面
5 セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】