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特表2024-522135膵臓癌の治療のためのオートタキシン(ATX)阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】膵臓癌の治療のためのオートタキシン(ATX)阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20240604BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 31/4709 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
A61K31/437
C07D471/04 107Z
A61P35/00
A61P1/18
A61K31/337
A61K31/7068
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/4709
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574275
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 EP2022065562
(87)【国際公開番号】W WO2022258693
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】2108245.8
(32)【優先日】2021-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524131796
【氏名又は名称】アイオンクチュラ・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゾーイ・ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】マルセル・ディーケン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ラーン
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィデ・メリシ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC422
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CB05
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC42
4C086ZC75
(57)【要約】
患者における膵臓癌の治療の方法での使用のためのオートタキシン(ATX)阻害剤またはその薬学的に許容される塩であり、任意に、当該方法は、TGF-β経路阻害剤及び/または追加の化学療法剤を投与することをさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における膵臓癌の治療の方法での使用のための、式I:
【化1】
の化合物、またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記膵臓癌が膵管腺癌(PDAC)である、請求項1に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項3】
前記式Iの化合物が、前記化合物またはその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される希釈剤、担体または賦形剤を含む薬学的組成物で投与され、前記薬学的組成物が経口投与に適している、請求項1または2に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項4】
前記方法が、治療有効量の追加の化学療法剤を投与することを含む、先行請求項のいずれかに記載の使用のための化合物または塩。
【請求項5】
前記追加の化学療法剤がゲムシタビンである、請求項4に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項6】
前記追加の化学療法剤がナブパクリタキセルである、請求項4に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項7】
2つの追加の化学療法剤が使用される、請求項4に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項8】
前記2つの追加の化学療法剤が、ゲムシタビン及びナブパクリタキセルである、請求項7に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項9】
前記方法が、治療有効量のTGF-β経路阻害剤を投与することを含む、先行請求項のいずれかに記載の使用のための化合物または塩。
【請求項10】
前記TGF-β経路阻害剤が、ガルニセルチブ、バクトセルチブ、LY3200882及びAVID200から選択される、請求項9に記載の使用のための化合物または塩。
【請求項11】
前記TGF-β経路阻害剤が、ガルニセルチブである、請求項9に記載の使用のための化合物または塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2021年6月9日に出願されたGB2108245.8の優先権を主張し、その内容及び要素は、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、膵臓癌の治療の方法に使用するための化合物またはその薬学的に許容される塩、及び当該化合物を含む併用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
膵臓癌は、膵臓の悪性腫瘍である。早期の膵臓癌は通常、症状を引き起こさないため、膵臓癌は「沈黙の」病気と呼ばれている。したがって、膵臓癌を初期段階で発見することは困難である。
【0004】
膵臓癌は最も致死率の高いがんの1つであり、5年生存率はわずか7%と非常に低い。膵臓癌患者のうち、診断時に手術の対象となるのはわずか25%であり、外科的切除を受けた患者のうち5年以上生存するのは約20%のみである。ゲムシタビンによる化学療法が標準治療であり、応答率は5~10%、平均全生存期間中央値は6か月である(Burris et al.1997)。
【0005】
膵臓癌の中で最も蔓延している形態の膵管腺癌(PDAC)は、世界中での死亡率の増加を伴う増大している健康問題であり、医療システムに多大な経済的負担を与え、患者の生活の質に重大な影響を与えている。一部の地域では、PDACが、がんによる死亡の第2位の原因になると予測されている。西洋諸国では膵臓癌の発生率が増加しており、医療専門家及び一般住民の両方に潜在的な予防策及び/または早期発見手段の情報を提供するために、この疾患に関連する危険因子及び症状についてより深く理解する必要がある。現在、患者の生存率を高める早期発見のための治療アプローチが不足している。
【0006】
膵臓癌の進行は通常、線維芽細胞、免疫細胞、及び高密度の細胞外マトリックスなどの著しい間質線維化反応を特徴とする。トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)経路は、この疾患の発症の主要な原因として特定されているシグナル伝達システムの1つである(Truty and Urrutia,2007)。高度に線維化した腫瘍微小環境のため、従来の化学療法及び放射線療法は、膵臓腫瘍では中程度の抗腫瘍活性しかない。同様に、他の種類のがんでは非常に効果的であるα-PD-1療法などの免疫療法は、膵臓癌では効果がないことが示されている。したがって、膵臓癌の新しい治療法が切実に必要とされている。
【0007】
現在、膵臓癌の発生、進行、転移の調節におけるリゾホスファチジン酸(LPA)の生理学的役割を裏付ける証拠が増えている(Chen et al.2021)。LPAは、少なくとも6つの受容体LPAR1~6に関与する生理活性リン脂質であり、各受容体は、細胞遊走、増殖、分化などのさまざまな細胞活動に関与する別個のGタンパク質に結合している。LPAはさまざまな体液中に存在し、血漿中のLPAレベルは血液凝固におけるその役割の点でよく特徴付けられている。
【0008】
LPAは、細胞外リゾPLDオートタキシン(ATX)によってリゾホスファチジルコリン(LPC)から生成され、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ2(ENPP2)とも呼ばれる。ATX発現の増加が、膵臓癌を含む複数のがんで報告されている。膵臓組織におけるATX及びLPAの両方の過剰発現が膵臓癌患者で報告されており、したがってATX-LPA軸は膵臓癌における潜在的な標的を表し得る。
【0009】
膵臓癌治療における標的療法の需要が高まっている。標的療法は、腫瘍内に存在する特定の受容体または酵素に向けられており、化学療法などの従来の治療法とは異なり、健康な組織を傷つけない。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、膵臓癌の治療に使用するための化合物に関する。この化合物はATX阻害剤である。本発明者らは、ATX阻害剤が膵臓癌の治療のための標的療法に有用である可能性があることを認識した。
【0011】
第1の態様では、本発明は、患者の膵臓癌の治療に使用するための、式I:
【化1】
の化合物またはその薬学的に許容される塩を提供する。式Iの化合物は、本明細書では「化合物1」と称され得る。
【0012】
膵臓癌という用語には、あらゆる外分泌性または神経内分泌性の膵臓癌の種類を含む。いくつかの場合では、膵臓癌は膵管腺癌(PDAC)である。PDACは膵臓の最も一般的な腫瘍性疾患であり、すべての膵臓悪性腫瘍の90%超を占める。
【0013】
好適には、化合物1は、化合物1またはその薬学的に許容される塩及び薬学的に許容される希釈剤、担体または賦形剤を含む医薬組成物で投与される。必須ではないが、好ましくは、医薬組成物は経口投与に適している。
【0014】
いくつかの場合では、治療は併用療法であり、1つまたは複数の追加の化学療法剤及び/またはTGF-β経路阻害剤を含む。本発明者らは、化合物1を承認された化学療法剤と一緒に投与すると、腫瘍増殖阻害が改善され、化学療法剤単独で観察される副作用が軽減されることを観察した。
【0015】
例えば、この方法は、治療有効量の追加の化学療法剤、任意に2つの追加の化学療法剤の投与を含み得る。好適な化学療法剤には、ゲムシタビン及びナブパクリタキセルが挙げられる。したがって、本発明の方法は、ゲムシタビン及び/またはナブパクリタキセルの投与を含み得る。
【0016】
本発明者らは、TGF-β経路阻害剤を投与した場合に、特に患者の生存に関して治療結果が改善されることを観察した。好適なTGF-β経路阻害剤には、ガルニセルチブ、バクトセルチブ、LY3200882及びAVID200が挙げられ得る。
【0017】
したがって、いくつかの場合では、この方法は、治療有効量のTGF-β経路阻害剤、例えば、ガルニセルチブを投与することを含む。いくつかの場合では、この方法は、化合物1またはその薬学的に許容される塩、TGF-β経路阻害剤及び追加の化学療法剤、任意に2つの追加の化学療法剤の三重療法を含む。いくつかの場合では、三重療法は、化合物1またはその薬学的に許容される塩、ガルニセルチブ、及びゲムシタビンである。
【0018】
本発明の原理を示す実施形態及び実験を、ここで添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】健康な組織と比較した膵臓癌サンプルにおけるATXの発現を示す。
図2】mPA6115-luc(MuPrime)マウスモデルにおける化合物1の抗腫瘍増殖活性を示す。
図3】Panc-1マウス異種移植モデルにおける化合物1の活性を示す。
図4】同所性Panc-1マウスモデルにおける化合物1プラスゲムシタビンの活性を示す。
図5】RC416同所性マウスモデルにおける化合物1プラスゲムシタビン及び/またはガルニセルチブの活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の態様及び実施形態を、ここで説明する。さらなる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本文において言及されるすべての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0021】
化合物1
WO2016124939には、化合物1を含む、様々なATX阻害剤化合物、及びATX活性が関与する増殖性疾患の治療におけるそれらの使用が記載されている。
【0022】
化合物1は、WO2016124939の実施例40であり、該文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。WO2016124939には200を超える実施例が記載されている。化合物1の構造は、式Iに従う。
【化2】
【0023】
IUPAC名は、N-[(S)-1-(4-クロロ-フェニル)-エチル]-3-[3-(4-トリフルオロメトキシ-ベンジル)-3H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-2-イル]-プロピオンアミドである。その合成及び特性評価は、それぞれWO2016124939の77ページ及び82ページに記載されており、その情報は特に参照により本明細書に組み込まれる。
【0024】
化合物1は、遊離塩基としてまたは医薬的に許容される塩として提供され得る。いくつかの場合では、化合物1は遊離塩基として提供され、投与される。
【0025】
製剤
好適には、化合物1は、経口投与用に製剤化された医薬組成物として提供される。この医薬組成物は、カプセルで提供される場合もあれば、錠剤で提供される場合もある。いくつかの場合では、タブレットで提供される。他の場合では、それは、カプセル、例えば、硬シェルまたは軟シェルカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロース(HPMC)カプセル内に粉末もしくは顆粒組成物、または液体組成物として提供される。言い換えれば、経口剤形が好ましい。
【0026】
製剤は、適切には、1つ以上の医薬的に許容される充填剤、崩壊剤、流動促進剤、及び/または滑沢剤を含む。
【0027】
化合物1を用いた膵臓癌の治療
化合物1は、ATX阻害剤である。ATXは細胞外で作用し、がんの増殖、生存、転移を複数のレベルで刺激するため、膵臓癌の治療にとって魅力的な標的である。
【0028】
LPA-ATX経路が膵臓癌において頻繁に活性化されることが当該技術分野において認識されている。したがって、本発明の方法は、ATX-LPA経路の上方制御を特徴とする膵臓癌の治療に関連し得る。したがって、本発明の方法は、患者のATX-LPA経路の調節による膵臓癌の治療に関連し得る。
【0029】
膵臓癌は、あらゆる外分泌性または神経内分泌性の膵臓癌の種類を含み得る。したがって、本発明の方法は、限定されないが、膵管腺癌(PDAC)及び膵神経内分泌腫瘍(PanNETまたはPNET)などの膵臓癌の治療を対象とする。いくつかの場合では、膵臓癌は膵管腺癌である。いくつかの場合では、膵臓癌は膵臓神経内分泌腫瘍である。
【0030】
本発明の方法
以下により詳細に記載するように、本発明者らは、驚くべきことに、化合物1が膵臓癌の前臨床モデルにおいて強力な抗腫瘍活性を示し、忍容性が良好であることを見出した。したがって、膵臓癌において抗腫瘍活性及び良好な安全性特性を有するATX阻害剤を提供することができる。
【0031】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、化合物1がゲムシタビンなどの標準治療化学療法の抗腫瘍活性を増加させることを見出した。したがって、膵臓癌における化学療法の効果を高めることができるATX阻害剤を提供することができる。
【0032】
したがって、いくつかの場合では、本発明の方法は併用療法を対象とし、この併用療法は、化合物1またはその薬学的に許容される塩及び追加の化学療法剤、例えば、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))またはナブパクリタキセル(Abraxane(登録商標))による患者の治療を含む。
【0033】
化合物1及び追加の化学療法剤は、必ずしもではないが、異なる時間及び/または異なるスケジュールで適切に投与され、異なる経路による投与用に製剤化され得ることが理解されるであろう。例えば、化合物1またはその薬学的に許容される塩は、経口用量、例えば、毎日の経口用量として与えられてもよく、一方、追加の化学療法剤は点滴として与えられてもよい。例えば、ゲムシタビンとナブパクリタキセルの両方が、28日サイクルで1日目、8日目、15日目に投与され得る。
【0034】
いくつかの場合では、この併用療法は、化合物1またはその薬学的に許容される塩、ゲムシタビン及びナブパクリタキセルで患者を治療することを含む。
【0035】
さらに、本発明者らは、化合物1、ガルニセルチブ(TGF-β経路阻害剤)及び化学療法の3つの組み合わせが、前臨床膵臓癌モデルにおける転帰のさらなる改善を示すことを見出した。いくつかの場合では、この方法は、TGF-β経路阻害剤の投与を含む。適切なTGF-β経路阻害剤には、ガルニセルチブ、バクトセルチブ、LY3200882及びAVID200が挙げられ得る。
【0036】
したがって、いくつかの場合では、本発明の方法は併用療法を対象とし、この併用療法は、化合物1またはその薬学的に許容される塩、ガルニセルチブ(LY2157299一水和物、Eli Lilley)などのTGF-β経路阻害剤及び追加の化学療法剤、及び、例えば、ゲムシタビン及び/またはナブパクリタキセル(Abraxane(登録商標))などの追加の化学療法剤による患者の治療を含む。
【0037】
化合物1及びTGF-β経路阻害剤は、必ずしもではないが、異なる時間及び/または異なるスケジュールで適切に投与され、異なる経路による投与用に製剤化され得ることが理解されるであろう。
【0038】
したがって、本発明者らは、驚くべきことに、化学療法の有無にかかわらず、またTGF-β経路阻害剤の有無にかかわらず、膵臓癌を化合物1で治療でき、この治療は忍容性が高いことを見出した。これにより、膵臓癌の治療に新しい単独療法と併用療法の選択肢が提供される。
【0039】
化合物1の用量は、1日1回(QD)、好ましくは1日2回(BID)で提供され得、好ましくは、経口投与されるが、そうである必要はない。他の投与方法を使用してもよい。好適な一日用量は、5mg~2g、例えば10mg~1gであり得る。場合によっては、化合物1が併用療法で投与される場合、化合物1の投与は、他の薬剤の投与の休止中(例えば、28日化学療法サイクルの21~28日目)継続される。
***
【0040】
前述の記載、または以下の特許請求の範囲、または添付の図面中で開示され、特定の形態で、または開示する機能を実行するための手段、または開示する結果を得るための方法もしくはプロセスと言う観点から表された特徴は、多様な形態で本発明を実現するために、必要に応じて、別々に、またはかかる特徴を任意に組み合わせて利用してもよい。
【0041】
本発明を、上記の例示的な実施形態と併せて説明してきたが、本開示が与えられた場合、多くの均等の修正及び変形が当業者には明らかであろう。したがって、上記の本発明の例示的な実施形態は、例示的であって、限定的ではないと見なされる。本記載の実施形態への様々な変更は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされる場合がある。
【0042】
誤解を避けるために、本明細書に提供する理論的な説明は、読者の理解を深めることを目的として提供されている。本発明者らは、これらの理論的説明のいずれにも拘束されることを望むものではない。
【0043】
本明細書で使用される任意のセクションの見出しは構成の目的のみのためであり、記載される対象物の限定として解釈されるべきではない。
【0044】
以下の特許請求の範囲を含む本明細書を通して、文脈が特別に要求しない限り、「含む(comprise)」及び「含む(include)」という単語、ならびに変形、例えば、「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」及び「含むこと(including)」は、明示された構成要素もしくはステップ、または構成要素もしくはステップの群を包含するが、他の構成要素もしくはステップ、または構成要素もしくはステップの群を除外しないことを示唆すると理解される。
【0045】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明確にそうでないと示されない限り、複数の指示物を包含することに留意されたい。範囲は、「約」ある特定の値から及び/または「約」別の特定の値までとして、本明細書において表現され得る。かかる範囲が表現されるとき、別の実施形態は、1つの特定の値から及び/または他方の特定の値までを含む。同様に、値が近似として表現される場合に、先行詞「約」の使用によって、特定の値が別の実施形態を形成することが理解されよう。数値に関連する「約」という用語は、任意であり、例えば、+/-10%を意味する。
【実施例
【0046】
実施例1
膵臓癌におけるATX(ENPP2)発現
ヒト膵臓癌サンプルにおけるENPP2(オートタキシンをコードする遺伝子)の発現を、TCGA(がん組織)及びGTEX(正常組織)データを使用して正常膵臓組織と比較した。腫瘍サンプルにおけるENPP2発現は、正常組織よりも1.85倍高いことが判明した(図1及び表1を参照)。
【表1】
【0047】
実施例2
同所性mPA6115-lucマウスモデルにおける化合物1の活性
化合物1の治療効果を、膵臓癌の同所性mPA6115-lucマウスモデルにおいて評価した。このモデルは、KPCマウスで自然発生したドナー腫瘍に由来するmPA6115-luc細胞を、雌の野生型C57BL/6レシピエントマウスの膵臓に移植することによって構成される。このモデルの病理と腫瘍微小環境はヒト膵臓癌によく似ており、免疫細胞の浸潤が限られていることを特徴とする。
【0048】
各マウスの膵臓の被膜下領域に、マトリゲル(1:1)を含む50uLのPBS中のmPA6115-luc腫瘍細胞(1×106)を接種した。腫瘍細胞接種日を0日目として示す。
【0049】
ランダム化は、総フラックス(p/s、最小フラックス>1E6)に基づいて、腫瘍細胞接種の4日後に開始した。1群当たり10匹のマウスを、ビヒクル(1%メチルセルロース)または化合物1(1%メチルセルロース中10mg/kg)によるBID強制経口投与による治療に割り当てた。腫瘍の増殖と転移は、生物発光イメージングによって週2回画像化した。
【0050】
図2に見られるように、化合物1によるmPA6115-luc腫瘍担持マウスの治療は、総生物発光に基づいて腫瘍増殖物の有意な減少を実証した。
【0051】
実施例3
異種移植PANC-1マウスモデルにおける化合物1の活性
化合物1の治療効果を、膵臓癌の皮下PANC-1マウスモデルにおいて評価した。
【0052】
BALB/cヌードマウスの右前脇腹領域に、0.1mlのPBS中のPANC-1腫瘍細胞(5×106)を皮下接種した。腫瘍細胞接種日を0日目として示す。平均腫瘍サイズ>100mm3の時点でランダム化を開始した。研究群ごとに10匹のマウスを登録した。腫瘍の増殖及び体重は週2回測定した。
【0053】
図3に見られるように、化合物1によるPANC-1腫瘍担持マウスの治療は、腫瘍増殖物の減少を実証した。
【0054】
実施例4
同所性PANC-1マウスモデルにおける化合物1プラスゲムシタビンの活性
ゲムシタビンを有する、または有さない化合物1の治療効果を、膵臓癌の同所性PANC-1マウスモデルにおいて評価した。このモデルは、BALB/Cヌードマウスの膵臓細胞へのPANC-1腫瘍細胞の移植によって構成される。
【0055】
各マウスの膵臓の被膜下領域に、マトリゲル(1:1)を含む50uLのPBS中のPANC-1腫瘍細胞(3×106)を接種した。腫瘍細胞接種の日を0日目として示した。体重に基づいて腫瘍細胞接種の10日後にランダム化を開始した。1群あたり10匹のマウスを、ビヒクル(1%メチルセルロース、BID)、ゲムシタビン(25mg/kg、Q4D)、化合物1(10mg/kg、BID)、または化合物1(10mg/kg、BID)及びゲムシタビン(25mg/kg、Q4D)による強制経口投与による治療に割り当てた。腫瘍のサイズは、42日目の終了後に重量で測定した。
【0056】
図4に示すように、PANC-1腫瘍担持マウスをゲムシタビン単独で処理すると、41%の腫瘍増殖阻害が示されたが、この治療は忍容性が低く、5匹のマウスが死亡するか、人道的エンドポイントに到達するために屠殺された。化合物1単独による治療では、5%という中程度の腫瘍増殖阻害となったが、化合物1とゲムシタビンの組み合わせでは、47%と腫瘍増殖阻害が改善されただけでなく、ゲムシタビン治療により死亡したマウスも2匹のみに減少した。表2も参照されたい。
【表2】
【0057】
実施例5
同所性RC416マウスモデルにおける化合物1プラスゲムシタビン及び/またはガルニセルチブの活性
ゲムシタビン及び/またはガルニセルチブを有する、または有さない化合物1の治療効果を、膵臓癌の同所性RC416マウスモデルにおいて評価した。このモデルは、KPCマウスで自然発生したドナー腫瘍に由来するRC416細胞を、雌の野生型C57BL/6レシピエントマウスの膵臓に移植することによって構成される。このモデルの病理と腫瘍微小環境はヒト膵臓癌によく似ており、ATX及びTGF-βの高い循環を特徴とする。
【0058】
各マウスの膵臓の被膜下領域に、RC416腫瘍細胞を接種した。腫瘍細胞接種の日を0日目として示した。体重に基づいて、腫瘍細胞接種の7日後にランダム化を開始した。1群あたり5匹のマウスを、ビヒクル(1%メチルセルロース、1日2回経口)、化合物1(10mg/kg、1日2回経口)、ガルニセルチブ(50mg/kg、1日2回経口)、ゲムシタビン(75mg/kg、毎週腹腔内)、または化合物1プラスゲムシタビン、化合物1プラスガルニセルチブ及びゲムシタビン、及びガルニセルチブプラスゲムシタビンの組み合わせで、マウスを最長28日間治療し、生存率によって抗腫瘍活性を測定した。
【0059】
図5に示した結果は、ゲムシタビン単独による治療では生存利益が限定的であることを示している。しかし、驚くべきことに、ゲムシタビンと化合物1またはガルニセルチブの組み合わせにより、生存率がほぼ2倍になった。さらに驚くべきことに、3つの治療すべてを組み合わせると、2匹のマウスが65日超生存し、全体の生存率がさらに向上した。
【0060】
参考文献
本発明及び本発明が属する技術水準をより完全に記載及び開示するために、多くの刊行物が上記で引用されている。これらの参考文献についての完全な引用を以下に提供する。これらの参照文献の各々の全体が本明細書に組み込まれる。
WO2016124939
Burris,H.A.et al.Improvements in survival and clinical benefit with gemcitabine as first-line therapy for patients with advanced pancreas cancer:a randomized trial.J Clin Oncol 15,2403―2413(1997).
Chen,J.,Li,H.,Xu,W.& Guo,X.Evaluation of serum ATX and LPA as potential diagnostic biomarkers in patients with pancreatic cancer.Bmc Gastroenterol 21,58(2021).
Truty,M.J.& Urrutia,R.Basics of TGF-β and Pancreatic Cancer.Pancreatology 7,423-435(2007).
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】