(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】刺激光の選択的照射のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20240604BHJP
【FI】
A61F9/007 190B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574431
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2022065326
(87)【国際公開番号】W WO2022258572
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519434547
【氏名又は名称】ドパビジョン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【氏名又は名称】森本 有一
(72)【発明者】
【氏名】ハメト バーマニ
(72)【発明者】
【氏名】イェシュバント ゼシャドリ
(72)【発明者】
【氏名】ティム シリング
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス バルザー
(57)【要約】
ユーザの視神経乳頭に刺激光を選択的に照射するための装置及び方法を開示する。この装置は、ユーザの視線に対する視神経乳頭の決定された位置に基づいて、視神経乳頭に作用するように放射された刺激光を位置決めするように構成された少なくとも1つの発光源と、少なくとも1つの画面上に表示されるコンテンツにユーザを関与させることによってユーザの視線を固定するように構成された少なくとも1つの画面と、刺激光を選択するプロセッサと、を備える。この方法及び装置は、例えば、近視の治療に使用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの左眼(30)及び右眼(30)のうちの一方の視神経乳頭(36)に刺激光(66)を選択的に照射するための装置(10)であって、前記装置(10)は、
前記ユーザの視線(33)に対する前記視神経乳頭(36)の決定された位置に基づいて、前記視神経乳頭(36)に作用するように放射された刺激光(66)を位置決めするように構成された少なくとも1つの発光源(60)と、
少なくとも1つの画面(50)であって、前記少なくとも1つの画面(50)上に表示されるコンテンツに前記ユーザを関与させることによって前記ユーザの視線(33)を固定するように構成された少なくとも1つの画面(50)と、
前記刺激光(66)を選択するためのプロセッサ(80)と、を具備する、装置(10)。
【請求項2】
前記放射された刺激光(66)は、メラノプシンを刺激するように構成される、請求項1に記載の装置(10)。
【請求項3】
前記放射された刺激光(66)は青色光である、請求項1又は2に記載の装置(10)。
【請求項4】
前記放射された刺激光(66)は、6Hzと20Hzとの間の周波数範囲内の周波数で点滅する、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項5】
前記刺激光(66)は、20メラノピックルクスを超える照度、好ましくは、約60メラノピックルクスの照度を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの発光源(60)は、前記ユーザの前記左眼(30)及び前記右眼(30)のうちの一方に作用するように、前記放射された刺激光(66)を位置決めするようにさらに構成される、請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つの光源(60)は、前記視神経乳頭(36)のサイズの80%に相当する前記視神経乳頭(36)の一部に作用するように、前記放射された刺激光(66)を寸法設定するように、さらに構成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの画面(50)は、前記ユーザの視線(33)に対して垂直に配置される、請求項1から7のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの画面(50)は、前記左眼(30)及び前記右眼(30)から一定の距離に配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの画面(50)は、前記少なくとも1つの画面(50)の少なくとも1つの標的エリア(52)内に前記コンテンツを表示すように構成されており、前記少なくとも1つの標的エリア(52)は、前記視線(33)が前記少なくとも1つの標的エリア(52)上に固定されているときに、前記左眼(30)及び前記右眼(30)の中心窩領域(39)内の1.0~5.0度の直径を有するエリアに相当する、請求項1から9のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項11】
前記少なくとも1つの標的エリア(52)は、前記少なくとも1つの画面(50)の中央に配置される、請求項10に記載の装置(10)。
【請求項12】
前記少なくとも1つの標的エリア(52)は、前記ユーザの前記左眼(30)と前記右眼(30)のうちの一方を固定するように構成される、請求項10又は11に記載の装置(10)。
【請求項13】
前記少なくとも1つの画面(50)は前記発光源(60)である、請求項1から12のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項14】
前記装置(10)はスマートフォン(50、60)であるか、スマートフォン(50、60)を具備する、請求項1から13のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項15】
仮想現実ヘッドセットをさらに具備する、請求項14に記載の装置(10)であって、前記スマートフォン(50、60)は前記仮想現実ヘッドセットに挿入可能である、装置(10)。
【請求項16】
前記装置(10)は仮想現実ヘッドセットである、請求項1から13のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項17】
前記仮想現実ヘッドセットは、前記ユーザの前記左眼(30)及び前記右眼(30)の少なくとも一方と2レンズ系を形成するための少なくとも1つのレンズを具備する、請求項14又は16に記載の装置(10)。
【請求項18】
前記仮想現実ヘッドセットは、前記少なくとも1つの画面(50)と前記左眼(30)との間に延びる1つの光路を具備し、前記少なくとも1つの画面(50)と前記右眼(30)との間に延びる別の光路を具備する、請求項14から17のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項19】
前記ユーザの前記左眼(30)及び前記右眼(30)は第一眼位にある、請求項1から18のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項20】
前記ユーザが前記少なくとも1つの画面(50)上に表示されるコンテンツに関与するように構成されたゲームコントローラをさらに具備する、請求項1から19のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項21】
前記ゲームコントローラは、較正中に前記画面(50)内の前記刺激光(66)の位置(60x,60y)を調整するようにさらに構成される、請求項20に記載の装置(10)。
【請求項22】
前記視神経乳頭(36)の前記位置に関するデータを保存するように構成されたメモリ装置であって、前記データは、ユーザ制御の較正、前記システム(10)への眼底画像データの入力及び母集団データのうちの1つから取得される、メモリ装置をさらに具備する、請求項1から21のいずれか1項に記載の装置(10)。
【請求項23】
ユーザの1つ又は複数の眼(30)の少なくとも1つの視神経乳頭(36)に刺激光(66)を選択的に照射する方法であって、前記方法は、
少なくとも1つの発光源(60)を位置(60x、60y)に位置決めするステップ(130)と、
少なくとも1つの画面(50)に表示されるコンテンツにユーザを関与させることによって、前記ユーザの視線(33)を固定するステップ(150)と、
前記少なくとも1つの発光源(60)によって、前記ユーザの視線(33)に対して刺激光(66)を、前記刺激光(66)が前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)に作用するように、放射するステップ(170)と、を含む、方法。
【請求項24】
前記ユーザの視線(33)に対して前記ユーザの前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)の位置を特定するステップ(110)をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)の位置を特定するステップは、ユーザ制御の較正からの結果を受信するステップ、眼底画像データの入力を受信するステップ及び母集団データを処理するステップのうちの1つを含む、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記視線(33)が前記少なくとも1つの標的エリア(52)に固定されているとき、前記1つ又は複数の眼(30)の中心窩領域(39)内で1.0~5.0度の直径を有するエリアに対応する前記少なくとも1つの画面(50)の標的エリア(52)内で、前記少なくとも1つの画面(50)上に前記コンテンツを表示するステップをさらに含む、請求項23又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記コンテンツは、前記ユーザの前記1つ又は複数の眼(30)のうちの1つに示される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記少なくとも1つの画面(50)によって前記刺激光(66)を生成するステップをさらに含む、請求項23から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)にてメラノプシンを刺激するステップをさらに含む、請求項23から28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記刺激光(66)が青色光である、請求項23から29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記刺激光(66)は、20メラノピックルクスを超える、好ましくは、約60メラノピックルクスを有する、請求項23又は30に記載の方法。
【請求項32】
前記刺激光(66)は、6~20Hzの周波数範囲内の周波数で点滅する、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記刺激光(66)は、前記ユーザの前記左眼(30)及び前記右眼(30)の一方に作用するように放射される、請求項23から32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)の一部、好ましくは、前記少なくとも1つの視神経乳頭(36)のサイズの約80%に相当する部分に作用するように、前記放射された刺激光(66)を寸法設定するステップをさらに含む、請求項23から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記方法は、少なくとも1分間から30分間まで、好ましくは、12分間から15分間のセッション持続時間にわたって実施される、請求項23から34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記方法は、1日に5回まで、好ましくは、1日に2回又は3回まで、前記セッション持続時間の間に実施される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記刺激光(66)を放射する前記ステップ(170)は、少なくとも1分間から20分間まで、好ましくは、8分間から10分間の刺激持続時間にわたって実施される、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
前記刺激光(66)を放射する前記ステップ(170)は、1つ又は複数の刺激間間隔によって中断される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記中断は、前記刺激光(66)を放射する前記ステップ(170)の30~120秒後に発生する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記1つ又は複数の刺激間間隔は、個別に少なくとも15秒間継続する、請求項38又は39に記載の方法。
【請求項41】
前記少なくとも1つの画面(50)上に表示される前記コンテンツはビデオゲームである、請求項23から40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記刺激光と、前記コンテンツを表す前記光とを除く光が前記左眼(30)及び前記右眼(30)に到達するのを遮断するステップをさらに含む、請求項23~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記方法の有効性を評価するために、前記ユーザの能力スコアを判定するステップをさらに含む、請求項23から42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
近視又は近視の進行を治療するための請求項1から22のいずれか1項に記載の装置の使用。
【請求項45】
近視又は近視の進行を治療するための請求項23から43のいずれか1項に記載の方法の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの眼の視神経乳頭に刺激光を選択的に照射するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
24時間の明暗(LD)サイクルは、地球環境の基本的な特徴である。動物とヒトの行動と生理機能はLDサイクルの影響を受け、LDサイクルに適応している。ヒトのほとんどの生化学的、生理学的及び行動的な変数が、LDサイクルに従って変動する。このような変動は、「概日リズム」と呼ばれ、身体の概日時間調節機構によってもたらされる。この概日時間調節機構により、身体は夜明けと夕暮れの始まりを予測し、それに応じて身体の生理系及び行動系を調整することができる。このような概日リズムは、身体と外部環境との間の時間的同期のほか、時間の経過に伴う多様な生理学的過程の内部調整を維持する概日時計によって時間的に組織化されることが現在認められている。
【0003】
身体の眼は、LDサイクルを身体の概日リズムと同期させるために、そのような明暗時間のキュー信号を入力するための感覚系を提供する。眼の網膜が受け取った光を、概日リズムを同期させるために身体の脳によってさらに処理する。哺乳類では、網膜視床下部路(RHT)と呼ばれる神経路が、明暗環境に関する情報を網膜から視神経円板経由で、視神経を通って直接、視交叉上核(SCN)に伝達する。SCNは、網膜神経節細胞(RGC)からRHTを介して、明から暗への移行を示す、変換された明暗時間キュー信号を受信する視床下部の細胞塊である。SCN塊は、内分泌経路及び神経経路を介して明暗時間キュー信号を身体のさまざまな系統に配信し、さまざまな系統が昼夜と同期を保てるようにする。このような経路が中断されると、身体の休息-活動のサイクルがLDサイクルに同期しなくなる。
【0004】
位相がずれた光のキューが、正常な概日リズムを妨害する可能性があることが知られている。例えば、生物学的な一日の遅い時間、即ち、夕暮れ頃に光に暴露されると、夜行性動物では活動の開始が遅れ、昼行性動物では休止の開始が遅れることになる。生物学的な一日の早い時間(夜明け)に光に暴露されると、昼行性の種では活動の開始が促進され、夜行性の種では睡眠の開始が促進されることになる。眼に到達する光の位相がずれると、身体の多くの生理学的機能が影響を受ける。さらに、望ましくない人工光が自然のLDサイクルを破壊する。光線療法がLDサイクルを再調整するのに効果的であることが示されている。(フォトセラピーとも呼ばれる)光線療法は、特定のスペクトル及び/又は特定の光放射輝度を有する光、日光又は人工光に、所定の期間、場合によっては特定の時刻に曝露することから構成される。
【0005】
当初、科学者たちには、概日リズムに対する光の影響のほか、他の非結像効果又は非視覚的効果は、視覚を媒介する古典的な光受容体によって媒介されるという暗黙の思い込みがあった。この見解は、当時知られていた「古典的な」光受容体の欠落したマウスにて非結像反応が示されたとき、打ち砕かれた。光が依然として概日位相シフト反応を誘発し、ホルモンのメラトニンが抑制されていることがわかった。
【0006】
メラトニンが松果体の主要なホルモンであり、多くの生物学的機能、特に、明暗の持続時間によって制御されるそのような生理学的機能のタイミングを仲介することが知られている。一部の視覚障害者では、光によるメラトニンの抑制が持続することが以前に示されていた。このようなデータのほか、ヒトでも非結像反応のスペクトル感度が視覚反応とは異なることが示されたのは、後にメラノプシンとして特定された新規の光受容システムが存在することと矛盾がなかった。
【0007】
光色素メラノプシンは、ヒトをはじめとする動物の内網膜に存在し、特に、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)と呼ばれる神経節細胞のサブクラスで発現される。桿体視細胞及び錐体視細胞に加えて、メラノプシン含有ipRGCが、光伝達が可能な第3のタイプの網膜細胞である。ipRGCは、入射光に反応して、メラノプシンを介して直接応答するほか、桿体視細胞及び錐体視細胞からの信号を介して間接的に応答する。メラノプシンは、主に短波長、特に、青色光に感受性があることが知られている。しかし、メラノプシンはこのほか、可視スペクトルの他の波長の光に感受性がある。光に対するメラノプシンの非結像反応又は非視覚的光反応は、多くの生理学的機能又は身体機能の概日同調を引き起こす。このような機能は、睡眠/覚醒状態(メラトニン合成)、網膜照明を調節するための瞳孔光反射、認知能力、気分、自発運動、記憶、体温などを含む。SCNを介したipRGCの間接入力は、松果体でのメラトニン生成の光感受性抑制を調節する。メラノプシンをコードする遺伝子Opn4を欠損したマウスでは、位相シフト、瞳孔収縮及び光に反応する活動の急性抑制がいずれも減弱する。桿体視細胞と錐体視細胞のほか、Opn4遺伝子を取り除くと、既知の結像効果と非結像効果がいずれも消失し、古典的光受容系と新規光受容系の両方がこのような応答に寄与していることを示す。
【0008】
ヒトの眼は、約380nmから約780nmの範囲内の波長を見ることができる。この可視光スペクトル内では、一部の波長が眼に急性の光損傷又は累積的な光損傷を引き起こす可能性があるが、他の波長はヒトの生物学的リズムを同期させる役割を演じる。歴史的に、周囲光及び/又は専用のタスク光を介して目から光線治療を適用してきた。従来の照明システムを介した治療の提供では、光は結像受容体と非結像受容体の両方によって知覚されるため、提供された光の視覚効果(例えば、光の結像機能)と提供された光の非視覚効果(例えば、概日リズムを制御する非結像機能)が分離されることも区別されることもない。
【0009】
光線治療及びこの治療に使用される装置の使用について考察した特許文献がいくつか知られている。例えば、特許文献1(国際公開第2016/162554号)は、光関連障害を治療するために、導波管を通して目に光を放射するヘッドマウントディスプレイ装置を開示している。ディスプレイ装置には、ipRGCに最適な有効波長に従って目に放射される光の波長を調整するコントローラモジュールがある。しかし、特許文献1の装置は、この方法が眼の中の非結像受容体と結像光受容体を区別することができないため、結像受容体の活性化を回避するものではない。
【0010】
特許文献2(国際公開第2010/076706号)は、対象に光線療法を施すためのさらに具体的な手法を教示しているが、この開示の方法は、LDサイクルの特別な時間枠、即ち、睡眠中又は就寝直前などに限定されている。開示された実施形態は睡眠マスクの形態をとっている。
【0011】
特許文献3(国際公開第2014/172641号)(Iridex Corporation)は、網膜手術中に、標的眼組織の温度上昇を制限するために熱緩和時間遅延を伴って複数の標的位置にて眼組織に一連の短時間光パルスを送達することを教示している。この特許出願では、視神経円板を標的とするシステムの使用については何も教示していない。
【0012】
特許文献4(米国特許第5923398号明細書)は、非視覚的刺激又は非結像刺激のための双方向光照射野による周辺光線療法を導入することによる、さらに実用的な手法を開示している。この手法は、周辺網膜が意識的な視覚、即ち、結像にあまり関与していないという事実を利用する。周辺光線療法は、意識的視覚又は結像視覚にあまり影響を及ぼさない。しかし、特許文献4で教示された装置は、軸外又は周辺の光子刺激では桿体視細胞及び錐体視細胞に依然として双方向光照射野が作用するため、眼内の結像受容体の刺激を完全に排除するものではない。
【0013】
ヒトの視覚系を治療するための装置及び方法が、特許文献5(米国特許出願公開第2007/0182928号明細書)(Sabel、Novavision Inc.に譲渡)から知られている。この方法は、ユーザの視野内での劣化した視覚の不感帯、即ち、結像知覚の低下した地帯の位置を特定して規定するステップを含む。この方法は、主に不感帯内に位置する治療部位を規定し、続いてヒトの視覚系に視覚刺激を提示することによってヒトの視覚系を治療するステップをさらに含む。視覚刺激は、例えば、コンピュータ画面上に提示される。特許文献5で使用された用語「不感帯」は、神経節細胞軸索が眼から離れて視神経を形成する点である「盲点」又は「視神経円板」という用語と同一視されるべきではないことに留意されたい。特許文献5に開示された方法は、ユーザの「盲点」又は「視神経円板」に光を選択的に照射するステップを含まない。
【0014】
特許文献6(国際公開第2016/145064号)は、眼鏡を使用する個人の概日機能に関連して照明を制御するためのシステム及び方法を開示している。光線療法による日常の意識的視覚又は結像視覚への干渉を排除する方法を開示していない。
【0015】
特許文献7(国際公開第2018/224671号)は、視神経円板を刺激するために視神経円板上に光を照射するための方法及び装置を例示している。特許文献7は、治療に使用される光の線量については開示していない。
【0016】
特許文献8(米国特許第10,444,505号)(Essilorに譲渡)は、ヘッドマウントディスプレイ装置に関するものである。このヘッドマウントディスプレイ装置は、発光源と、ヘッドマウントディスプレイ装置を装着者が装着しているときに、発光源から放射された光を収集し、収集された光を装着者の眼に導くように構成された光導波路と、発光源によって放射される放射スペクトル及び/又は放射輝度及び/又は光レベルを制御するように構成されたコントローラと、を備える。
【0017】
特許文献9(欧州特許出願公開第3281056号明細書)(Essilorに譲渡)は、ヘッドマウントディスプレイ装置を対象とする。このヘッドマウントディスプレイ装置は、発光源と、ヘッドマウントディスプレイ装置を装着者が装着しているときに、発光源から放射された光を収集し、収集された光を装着者の眼に導くように構成された光導波路と、発光源によって放射される放射スペクトル及び/又は放射輝度及び/又は光レベルを制御するように構成されたコントローラと、を備える。ここで、発光源によって放射された光及び光導波路から放射された光の入射角が、眼への照射が周辺に向かうように決定され、コントローラは、460nmと500nmとの間の発光に特定の空間的パターン及び時間的パターンを提供するように発光源を制御することによって、時間生物学的な調節又は同期及び/又は情動障害調節及び/又は近視の予防及び/又は軽減、及び/又はてんかん緩和治療を提供するように構成される。
【0018】
特許文献10(米国特許第9,283,401号明細書)(Myoliteに譲渡)は、眼鏡装着式電磁放射線屈折治療システムを対象とする。この眼鏡装着式電磁放射線屈折治療システムは、その電磁放射線を装着者の眼の所望の水晶体又は網膜領域に向ける電磁放射線源を備える。ここで、電磁放射線源は、(i)放射線の振幅、(ii)放射線の波長又はスペクトル特性、(iii)放射線の方向及び(iv)放射線に曝露される眼の眼球要素のエリアのうちの少なくとも1つを変化させるように構成される。
【0019】
視神経円板に照射される光の量が治療に影響を及ぼすことがあり、網膜の青色光への曝露量が増えると、それに伴う副作用が生じる可能性があることが知られている。このため、網膜の不必要な光曝露を回避しながらメラノプシンを刺激するために、効果的な投与計画を含む適切な光の線量を提供するシステム及び方法を設計する必要がある。
【0020】
臨床的背景
近視は、典型的には、過剰な眼の成長を特徴とし、白内障、緑内障、網膜剥離、近視性黄斑症など、成人期に視力を脅かす重篤な合併症のリスクを高める。眼の成長と近視の進行を制御する機構は眼30内に局在していると広く考えられている(McFaddenとWildsoet、2020)。現在、近視の進行に対する標準的な治療法は存在しないが、能動的な眼鏡、コンタクトレンズ、薬物治療を含むさまざまな近視制御の手法が利用可能である(Wildsoetら、2019)。
【0021】
アトロピンの局所投薬と、角膜矯正治療を含むさまざまなコンタクトレンズのタイプが近視の進行に対して効果的であることが示されている(Huangら、2016)が、どちらの治療法にも考慮すべきいくつかのリスクが伴う。たとえ低用量であったとしても、アトロピンの使用は適応外であり、光過敏症、近見視力の低下、一時的な刺痛又は灼熱感などの重大な副作用が生じる。隔膜矯正治療をはじめとするコンタクトレンズの副作用には、軽度のかすみ目、軽度の角膜びらん、角膜染色、レンズ結合、涙液膜の減少及び感染性角膜炎などが含まれることがある。感染性角膜炎は、角膜瘢痕を引き起こす可能性があり、角膜瘢痕の症例の10%で外科的治療が必要になる。
【0022】
試験ではこのほか、屋外で過ごす時間が近視の予防に及ぼす影響について調査されている。学童を対象としたランダム化比較試験では、屋外プログラムに参加している小児の近視発症率が大幅に減少したことが報告されている(Wildsoetら、2019)。最近のメタ分析によると、週に1時間余分に屋外で過ごすと、近視のリスクが2%減少する可能性がある。近視予防に対する屋外での時間の効果は顕著な結果をもたらしているが、近視の進行に対しては低い効果しか観察されていない(Huangら、2016)。可視光スペクトルの青色側に移行する傾向にある自然光の高照度又は分光組成が近視の予防又は進行に及ぼす影響は、現時点ではわかっていない。
一方、光線療法では、誤った時間(例えば、概日リズムと同期していない時間)にユーザに光が照射された場合、近視の治療に悪影響を及ぼすことがある。近視の予防を支援するために小児に光治療が必要な場合、問題が発生する可能性がある。小児が適切な時間に治療に取り組むことを信頼することはできない。特許文献7の方法及び装置は、眼を通して不可視光線治療又は非結像光線治療を可能にし、近視に対する最適な保護効果のためのルーチンを推奨する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】国際公開第2016/162554号公報
【特許文献2】国際公開第2010/076706号公報
【特許文献3】国際公開第2014/172641号公報
【特許文献4】米国特許第5923398号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2007/0182928号明細書
【特許文献6】国際公開第2016/145064号公報
【特許文献7】国際公開第2018/224671号公報
【特許文献8】米国特許第10,444,505号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第3281056号明細書
【特許文献10】米国特許第9,283,401号明細書
【発明の概要】
【0024】
ユーザの左眼及び右眼のうちの一方の視神経乳頭に刺激光を選択的に照射するための装置を開示する。この装置は、ユーザの視線に対する視神経乳頭の決定された位置に基づいて、視神経乳頭に作用するように放射された刺激光を位置決めするように構成された少なくとも1つの発光源と、少なくとも1つの画面であって、少なくとも1つの画面上に表示されるコンテンツにユーザを関与させることによってユーザの視線を固定するように構成された少なくとも1つの画面と、刺激光を選択するためのプロセッサと、を備える。
【0025】
放射された刺激光は、メラノプシンを刺激するように構成されてもよい。
【0026】
放射された刺激光は青色光であってもよい。
【0027】
放射された刺激光は、6Hzと20Hzとの間の周波数範囲内の周波数で点滅してもよい。
【0028】
刺激光は、20メラノピックルクスを超える照度、好ましくは、約60メラノピックルクスの照度を有してもよい。
【0029】
少なくとも1つの発光源は、ユーザの左眼及び右眼のうちの一方に作用するように、放射された刺激光を位置決めするようにさらに構成されてもよい。
【0030】
少なくとも1つの光源は、視神経乳頭のサイズの80%に相当する視神経乳頭の一部に作用するように、放射された刺激光を寸法設定するように、さらに構成されてもよい。
【0031】
少なくとも1つの画面は、ユーザの視線に対して垂直に配置されてもよい。
【0032】
少なくとも1つの画面は、左眼及び右眼から一定の距離に配置されてもよい。
【0033】
少なくとも1つの画面は、少なくとも1つの画面の少なくとも1つの標的エリア内にコンテンツを表示すように構成されてもよく、少なくとも1つの標的エリアは、視線が少なくとも1つの標的エリア上に固定されているときに、左眼及び右眼の中心窩領域内の1.0~5.0度の直径を有するエリアに相当してもよい。
【0034】
少なくとも1つの標的エリアは、少なくとも1つの画面の中央に配置されてもよい。
【0035】
少なくとも1つの標的エリアは、ユーザの左眼及び右眼のうちの一方を固定するように構成されてもよい。
【0036】
少なくとも1つの画面は発光源であってもよい。
【0037】
装置は、スマートフォンであっても、スマートフォンを備えてもよい。
【0038】
装置は、仮想現実ヘッドセットをさらに備えてもよい。ここで、スマートフォンは仮想現実ヘッドセットに挿入可能であってもよい。
【0039】
装置は仮想現実ヘッドセットであってもよい。
【0040】
仮想現実ヘッドセットは、ユーザの眼と2レンズ系を形成するための少なくとも1つのレンズを備えてもよい。
【0041】
仮想現実ヘッドセットは、少なくとも1つの画面と左眼との間に延びる1つの光路を備えてもよく、少なくとも1つの画面と右眼との間に延びる別の光路を備えてもよい。
【0042】
ユーザの左眼及び右眼は第一眼位にあってもよい。
【0043】
装置は、少なくとも1つの画面上に表示されるコンテンツにユーザが関与するためのゲームコントローラをさらに備えてもよい。
【0044】
ゲームコントローラは、較正中に画面内の刺激光の位置を調整するようにさらに構成されてもよい。
【0045】
装置は、視神経乳頭の位置に関するデータを保存するように構成されたメモリ装置をさらに備えてもよい。データは、ユーザ制御の較正、装置への眼底画像データの入力及び母集団データのうちの1つから取得されてもよい。
【0046】
ユーザの視神経乳頭に刺激光を選択的に照射する方法を開示する。この方法は、少なくとも1つの発光源を一定の位置に位置決めするステップと、少なくとも1つの画面に表示されるコンテンツにユーザを関与させることによって、ユーザの視線を固定するステップと、少なくとも1つの発光源によって、ユーザの視線に対して刺激光を、刺激光が視神経乳頭に作用するように、放射するステップと、を含む。
【0047】
方法は、ユーザの視線に対してユーザの視神経乳頭の位置を特定するステップをさらに含んでもよい。
【0048】
少なくとも1つの視神経乳頭の位置を特定するステップは、ユーザ制御の較正からの結果を受信するステップ、眼底画像データの入力を受信するステップ及び母集団データを処理するステップのうちの1つを含んでもよい。
【0049】
方法は、視線(33)が少なくとも1つの標的エリアに固定されているとき、1つ又は複数の眼の中心窩領域内で1.0~5.0度の直径を有するエリアに対応する少なくとも1つの画面の標的エリア内で、少なくとも1つの画面上のコンテンツを表示するステップをさらに含んでもよい。
【0050】
コンテンツは、ユーザの1つ又は複数の眼のうちの1つに示されてもよい。
【0051】
方法は、少なくとも1つの画面によって刺激光を生成するステップをさらに含んでもよい。
【0052】
放射された刺激光は、メラノプシンを刺激するように構成されてもよい。
【0053】
刺激光は青色光であってもよい。
【0054】
刺激光は、20メラノピックルクスを超える、好ましくは、約60メラノピックルクスを有する。
【0055】
刺激光は、6~20Hzの周波数範囲で点滅してもよい。
【0056】
刺激光は、ユーザの左眼及び右眼のうちの一方に作用するように放射されてもよい。
【0057】
方法は、少なくとも1つの視神経乳頭の一部、好ましくは、少なくとも1つの視神経乳頭のサイズの約80%に相当する部分に作用するように、放射された刺激光を寸法設定するステップをさらに含んでもよい。
【0058】
方法は、少なくとも1分間から30分間まで、好ましくは、12分間から15分間のセッション持続時間にわたって実施されてもよい。
【0059】
方法は、1日に5回まで、好ましくは、1日に2回又は3回まで、セッション持続時間にわたって実施されてもよい。
【0060】
刺激光を放射するステップは、少なくとも1分間から20分間まで、好ましくは、8分間から10分間の刺激持続時間にわたって実施されてもよい。
【0061】
刺激光を放射するステップは、1つ又は複数の刺激間間隔によって中断されてもよい。
【0062】
中断は、刺激光を放射するステップの30~120秒後に発生してもよい。
【0063】
1つ又は複数の刺激間間隔は、少なくとも15秒間継続してもよい。
【0064】
少なくとも1つの画面に表示されるコンテンツはビデオゲームであってもよい。
【0065】
方法は、刺激光と、コンテンツを表す光とを除く光が左眼及び右眼に到達するのを遮断するステップをさらに含んでもよい。
【0066】
方法は、方法の有効性を評価するために、ユーザの能力スコアを判定するステップをさらに含んでもよい。
【0067】
本開示はさらに、近視の治療のための本開示の装置の使用に関する。
【0068】
本開示はさらに、近視の治療のための本開示の方法の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【0070】
【0071】
【
図3】
図3は、青色光刺激光66のオフセットの60分後に測定されたb波振幅のパーセントの変化を示す。刺激持続時間は、10秒、60秒及び600秒の3つの測定条件について秒単位で表示される。
【0072】
【
図4】
図4は、時間(ミリ秒)の経過に伴う盲点、傍中心窩、周辺条件の青と赤の刺激に対する平均瞳孔変化(%)を示す。刺激の開始は0ミリ秒である。
【0073】
【
図5】
図5は、青色光に応答した盲点(実線)及び周辺(点線)条件の平均瞳孔変化(%)を示している。刺激の開始は0ミリ秒である。
【0074】
【
図6】
図6は、刺激前と青色光刺激20分後のFrACT(左)とTueCST(右)のコントラスト感度(logCS)の平均及び標準誤差(SEM)を示す。点線は、2cpd未満と2cpd超との間の分離を示す。
【0075】
【
図7】
図7は、近視者及び非近視者の盲点の青色光刺激後の10分及び20分での基準値に対するPERG P50-N95及びERG b波の振幅の変化の平均及び標準誤差(SEM)を示す。
【0076】
【
図8】
図8は、基準値及び盲点の1分間の青色光刺激の10、20、30、40、50及び60分後のb波振幅(μV)の平均及び標準誤差(SEM)を示す。
【0077】
【
図9】
図9は、基準値及び盲点の10分間の青色光刺激の10、20、30、40、50及び60分後のb波振幅(μV)の平均及び標準誤差(SEM)を示す。
【0078】
【
図10】
図10は、盲点刺激の20、30、40、50及び60分後に取得した測定値を平均した、青色光盲点刺激なし、青色光盲点刺激の10秒後、1分後及び10分後の基準値に対するb波振幅(%)の変化の平均及び標準誤差(SEM)を示す。
【0079】
【
図11】
図11は、全時点及び両方の屈折異常群にわたって平均した、基準値(μm)に対する中心窩下脈絡膜厚(ChT)の平均変化を示す。
【0080】
【
図12】
図12は、全時点及び両方の屈折異常群にわたって平均した、基準値(μm)に対する黄斑脈絡膜厚(ChT)の平均変化を示す。
【0081】
【
図13】
図13は、刺激光が見えなくなる眼球運動の許容範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0082】
網膜光受容体とは、瞳孔径を調節して網膜への照明を調節するものである。瞳孔光反応の初期段階は、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)と、程度は低いが桿体視細胞の両方によって形成される。さらに緩慢に作用するメラノプシン含有ipRGCが、1.7秒後の瞳孔光反応の唯一の原因であり、照明後瞳孔反応(PIPR)の回復が遅い原因である可能性がある。メラノプシンは、青色光に感受性があり、ラットのipRGCの細胞体、樹状突起及び近位軸索部で発現される(Hattarら、2002)。メラノプシンの吸収スペクトルは、約480nm、即ち、可視光スペクトルの青色範囲にピークがある。
【0083】
ipRGCの軸索と他の網膜神経節細胞の軸索は、視神経円板又は「盲点」を通過し、視神経の一部を形成する。視神経円板は、視神経乳頭又は視神経円板36とも呼ばれる。視神経円板には桿体視細胞又は錐体視細胞が含まれていない。視神経円板又は視神経乳頭36に入射する光は意識的に知覚されない、即ち、結像知覚をもたらさない。ipRGCの軸索のメラノプシンの存在が視神経円板、視神経円板又は視神経乳頭36を青色光に感受性にするかどうかは完全には理解されていない。
【0084】
図4は、0msで刺激を開始した場合の時間経過(ms)に伴う盲点、傍中心窩及び周辺条件の青及び赤の刺激に対する瞳孔変化(%)の平均及び標準誤差(SEM)を示す。
図5は、0msで刺激を開始した場合の青色光に反応した盲点(実線)及び周辺(点線)条件の瞳孔変化(%)の平均及び標準誤差(SEM)を示す(Schillingら、2020)。このため、青色光による若年成人の視神経円板又は視神経乳頭36の選択的刺激の方が、赤色光による刺激よりも大きな瞳孔反応(収縮)を誘発することがわかった。この結果は、視神経円板のipRGCの軸索にメラノプシンが存在することと矛盾がない。
【0085】
瞳孔光反応に対するメラノプシンの寄与は、盲点又は視神経円板に古典的な光受容体、即ち、桿体視細胞及び錐体視細胞が存在しないことを考慮すると、完全には理解されていない。
【0086】
盲点、傍中心窩及び周辺を光で刺激した後、PIPRの変化を検査した。
【0087】
メラノプシンの励起が、例えば、ipRGCから、ドーパミンを放出可能なドーパミン作動性アマクリン細胞への逆行性信号伝達を通じて、網膜のドーパミン作動系を調節し(Zhangら、2008)、ドーパミン駆動の明順応の調節と網膜の概日調節をもたらすかどうかはわかっていない。さらに、視神経円板又は視神経乳頭36でのメラノプシンの励起後にドーパミンが放出されるかどうかはわかっていない。ドーパミンは、網膜の多くの機能を支援しており、コントラスト感度にも寄与しているという証拠がある。健康な成人を対象とした行動試験では、レボドパとノミフェンシンの両方がドーパミン作用薬、即ち、ドーパミン受容体を活性化する化合物であり、中空間周波数及び高空間周波数、特に、1度あたり2サイクル(cpd)を超える周波数でのコントラスト感度を改善することがわかっている。ドーパミンはこのほか、網膜の明順応に関与している。
【0088】
青色光に対する視神経円板の感度は、網膜のドーパミンレベルの増大を引き起こす可能性がある。前述したように、網膜ドーパミンレベルの増大がコントラスト感度を高めることが知られている。
図6は、視神経円板36を青色光で刺激する前と20分後のフライブルク視力検査(FrACT)及びテュービンゲンコントラスト感度検査(TueCST)のコントラスト感度(logCS)の平均及び標準誤差(SEM)を示す。点線は、2cpd未満と2cpd超との間の分離を示す。視神経円板36(即ち、盲点)を青色光で刺激すると、メラノプシンによってドーパミンの増大が引き起こされることがわかっている。このドーパミンの増大により、2cpdより高い空間周波数の刺激に対するコントラスト感度が向上する。
【0089】
ON経路(Chakrabortyら、2015)とドーパミン(FeldkaemperとSchaeffel、2013)の両方の異常が、眼の成長調節と屈折異常の発生に関与している。ERG、即ち、近視発症の潜在的な網膜メカニズムを調べるための有用な非侵襲的技術を使用して近視を調査した試験では、近視のb波振幅の減少と、b波振幅と眼軸長との間の逆相関が報告されている。b波は、主にON双極細胞の活動を反映するヒトの網膜機能の評価基準である。動物モデルでは、実験的近視がさまざまな種の網膜ドーパミンレベルの低下と相関があった。ドーパミン作用薬が実験的近視の発症を抑制することがわかっている。明るい光条件下で動物を飼育すると、近視の発症に対して同じような抑制効果がある。(短波長光を使用すると場合によっては増大する)明るい光の抑制効果が、光による網膜ドーパミンの増大によって媒介されるかどうかは完全には理解されていない。さらに、強度近視の小児の方が、概日リズムの同調に関与することが知られているドーパミンに関する異常が原因である可能性がある睡眠障害を起こしやすくなる。近視の網膜では、内層に局在し、網膜のドーパミン作動系に及ぶ何らかの機能的変化があるかどうかはわかっていない。
【0090】
近視眼30のドーパミン作動性調節の潜在的な標的が、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)であり、そのメラノプシン含有軸索は視神経円板36を通過する。
【0091】
非近視者と比較した近視者の全視野ERG及びパターンERG(PERG)に対する視神経円板又は視神経乳頭36(「盲点」とも呼ばれる)の青色光刺激の影響を調査した。青色光による盲点メラノプシンの刺激に続く網膜の電気活動の変化が報告された。
図7は、近視者の反応の顕著な変化を示すが、非近視者の反応には顕著な変化はない。メラノプシンの刺激による網膜の電気活動の変化が、内網状層でのドーパミン放出の逆行性上方調節のほか、ドーパミンを介した網膜のプロセス及び活動に及ぶかどうかは完全には理解されていない(Amorim-de-Sousaら、2020)。
【0092】
さらに、ERGが、さまざまな持続時間(即ち、0秒、10秒、1分及び10分)の光刺激に、刺激後のこれより長時間にわたって、即ち、刺激後の10分、20分、30分、40分、50分及び60分にてどのように反応するかを検査した(
図8~
図10を参照)。b波振幅は、刺激なしの場合と比較して、試験したあらゆる刺激持続時間後に増大し、1分間及び10分間の刺激持続時間では増大が大きくなり、10秒間の刺激持続時間の効果は小さくなることが観察された。10分間の刺激後、b波振幅の増大は視神経乳頭36の刺激の60分後まで観察されなかった。一方、視神経乳頭36を1分間刺激した20分後に、b波振幅の増大が測定された。このような結果が、盲点の青色光刺激の持続時間を変えると網膜のON双極細胞の活動が上昇し、近視反応を軽減する効果がある可能性があることを意味するかどうかは完全には理解されていない。
【0093】
脈絡膜厚の変化が、眼の成長を調節し眼の大きさの長期的な変化に先行する視覚依存機構の短期的なバイオマーカーとなるかどうかは、完全には理解されていない。正視又は遠視に至る過程が脈絡膜の肥厚と相関しているのに対し、近視に至る過程は脈絡膜の菲薄化を伴う。脈絡膜は光への曝露の増大に反応して厚くなることがわかっており、周囲光には網膜のドーパミン作動性経路によって媒介される可能性のある過剰な眼の成長と近視に対する保護効果があるようである。
【0094】
脈絡膜厚の変化が、メラノプシン駆動信号伝達経路の固有の活動を表す臨床バイオマーカーとして使用することができるかどうかを検討した。光刺激がない場合と対照的に、視神経円板の青色光刺激が脈絡膜厚の増大と眼軸長の減少を引き起こすかどうかを調査した。脈絡膜厚の変化がメラノプシン駆動信号伝達経路の固有の活性を表す臨床バイオマーカーとして使用することができるかどうかを検討するために、光干渉断層撮影(OCT)試験を実施した。近視及び正視の若年成人が視神経乳頭36に1分間の刺激持続時間で青色光刺激(λ
peak=450nm;15Hz;22cd/m2)を受ける前後で脈絡膜厚を測定した。カスタム開発されたソフトウェアと、仮想現実ヘッドセットに挿入されたSamsung Galaxy S7を、光を供給するために使用した。ユーザは、刺激光66を自身の盲点位置に合わせて較正し、その後、基準値OCT画像化及び光学的生体認証を実施する前に、10分間の洗浄期間及び5分間の暗順応を受けた。刺激後のOCT測定値を0、10、20、30及び60分の時点で測定した。軸長を60分でのみ測定した。青色光を使用して視神経乳頭36でメラノプシンを活性化した後、急速かつ持続的な脈絡膜肥厚を60分間にわたって測定した。
図15は、中心窩下脈絡膜厚(ChT)の時間平均変化を示す。
図16は黄斑脈絡膜厚の時間平均変化を示す。短期的なバイオマーカーとして、脈絡膜厚の増大は、青色光刺激光66への繰り返し曝露による眼の成長の長期的な変化を示す可能性があり、このプロセスが網膜のドーパミン作動系に及ぶことがあり得る。
【0095】
本開示は、ユーザの視神経乳頭(
図2)、ソフトウェア又はソフトウェアアプリなどのコンピュータプログラム製品のほか、スマートフォン又は仮想現実(VR)装置などのコンピュータプログラム製品を実行するためのプロセッサ80を有する装置10(
図1)に刺激光を照射して、少なくとも1つの発光源60によって放射し(170)、青色光刺激光66を(盲点としても知られる)視神経乳頭36に供給する、即ち、放射する(170)方法を対象とする。青色光刺激光66は、ソフトウェア又はソフトウェアアプリによってユーザにコンテンツが提供されている間に、供給される、即ち、放射される(170)。一態様では、コンテンツは、装置10の画面50上に表示されたゲームである。ユーザはゲームに関与している。ユーザは、視線33を安定して画面50に向けたままにする。視線33は、コンテンツ、例えば、ゲームが表示される画面50の標的エリア52に固定される(150)。「視線」という用語は、ユーザの眼30がユーザの視野37内の点に向けられることとして理解されたい。この場合、眼30の他の部分の中でも、瞳孔、中心窩39及び視神経乳頭36は、例えば、ユーザの瞳孔、例えば、瞳孔の中心と、ユーザの視線33が向けられるユーザの視野37内の点55とを結ぶ線に対して規定された方向にある。本開示の一態様では、ユーザが関与しているコンテンツにユーザの視線33が向けられているとき、ユーザの眼30は第一眼位にある、即ち、真っ直ぐ前を向いている。
【0096】
画面50は、眼30の視野37内に位置する。少なくとも1つの発光源60は、眼30の視野37内に位置60x、60yを有する。少なくとも1つの発光源60の位置60x、60yは、画面50と重なっても、(
図1の態様に示す場合のように)重ならなくてもよい。本開示のいくつかの態様では、ソフトウェア又はソフトウェアアプリは、市販のスマートフォン、例えば、Android(登録商標)スマートフォン上で実行されてもよい。
【0097】
本開示の方法は、一態様では、スマートフォンをVRヘッドセット及び適切なゲームコントローラと組み合わせて使用して、実装されてもよい。VRヘッドセットは、ユーザの両方の眼33を刺激することを可能にする。VRヘッドセットを使用するとき、例えば、スマートフォン又はモバイル装置の画面50と眼30との間の距離は、実質的に一定に保たれ、これにより、刺激光に充分な照度を提供し、表示されたコンテンツの照度を調整するための計算が容易になる。さらに、画面50の向きは、VRヘッドセットを使用するときの視線33の方向に対して実質的に垂直であってもよい。さらに、VRヘッドセットを使用するとき、(以下でさらに説明するように)ユーザの左眼30及び右眼30に刺激光及びコンテンツが個別に提供されてもよい。
【0098】
本開示の一態様では、画面50は、刺激光及びコンテンツをユーザの左眼30及び右眼30に個別かつ別個に提供してもよい。換言すれば、本開示のこの態様では、左眼30に提供されたコンテンツ及び刺激光は、右眼30によって知覚されることも、右眼30に作用することもないことになる。同じように、本開示のこの態様では、右眼30に提供されたコンテンツ及び刺激光は、左眼30によって知覚されることも、左眼30に作用することもないことになる。
【0099】
コンテンツ及び刺激光は、画面50のほか、画面50のうちの追加の1つによって、右眼30及び左眼30に個別に提供されてもよい。これとは別に、画面50は、2つの部分、例えば、半分に分割され、その結果、画面50の一方の部分が刺激光及びコンテンツを左眼30に提供し、画面50の他方の部分が刺激光及びコンテンツを右眼30に提供してもよい。
【0100】
例えば、左眼30に提供された刺激光は、左眼30の視神経乳頭36に作用するように、位置60x、60yに位置決めされた発光源60によって放射されてもよい。しかし、刺激光は、右眼30の視神経乳頭36には作用しないことになる。さらに、右眼30に提供された刺激光は、右眼30の視神経乳頭36に作用するように、位置60x、60yのうちの別の1つに位置決めされた発光源60によって放射されてもよい。しかし、刺激光は、左眼30の視神経乳頭36には衝突しないことになる。本開示のこの態様では、装置10は、例えば、左眼30に刺激光を提供するための発光源60を備えてもよい。装置10は、例えば、右眼30に刺激光を提供するための光源60のうちの追加の1つをさらに備えてもよい。
【0101】
さらに、コンテンツは、例えば、標的エリア52内でユーザの左眼30に表示されてもよく、コンテンツは、例えば、標的エリア52のうちの別の1つの内部でユーザの右左眼30に表示されてもよい。本開示の追加の態様では、標的エリア52と標的エリア52のうちの追加の1つとは、部分的に重なってもよい。標的エリア52と標的エリア52のうちの追加の1つとの重なりが、画面50とユーザの眼30との間の距離に依存してもよい。
【0102】
本開示のこの態様では、刺激光及びコンテンツがユーザの左眼30及び右眼30に個別に提供され、2つの光路が提供される。2つの光路は、画面50とユーザの左眼30又は右眼30の一方との間に延びる。光路の一方が、例えば、左眼30への刺激光とコンテンツの提供を可能にする。光路の他方は、刺激光とコンテンツを、例えば、右眼30に提供する。一態様では、2つの光路は、左眼30及び右眼30のうちの一方を、左眼30及び右眼30のうちの他方に提供された刺激光及びコンテンツから遮蔽するバリアによって分離されてもよい。これとは別の態様では、2つの光路は、例えば、偏光フィルタを使用して、偏光によって分離されてもよい。1つの偏光フィルタ又は1組の偏光フィルタを使用して、刺激光及びコンテンツを左眼30に提供してもよい。別の偏光フィルタ又は別の1組の偏光フィルタを使用して、刺激光及びコンテンツを右眼30に提供してもよい。
【0103】
ソフトウェアアプリは、ゲームの使用中に、点滅する青色光刺激光66を盲点36に供給する。ゲームは、ユーザが成功するためにディスプレイ50又は画面50上の特定の1つの点又は必要な可視領域52を常に見なければならないように設計されている。本開示による方法は、必要な可視領域の外側の画面50を黒くする/暗くする。この必要な可視領域は、「フォーカスサークル」又は「標的エリア」52と呼ばれることになる。特に、VRヘッドセットがゲームの表示に使用される場合の本開示によるゲームと、青色光刺激光66がユーザの視神経乳頭36上に、表示される、即ち、作用する、即ち、視覚的に知覚することができないときの他のビデオゲームとの間には、ユーザにとって目に見える違いはほとんどない。
【0104】
本開示の一態様では、ゲームは、ユーザに表示された1つ又は複数のゲームレベルを含んでもよい。ユーザはゲームをプレーすることでゲームに関与する。1つ又は複数のゲームレベルは、ユーザによって連続的にプレーされてもよい。1つ又は複数のゲームレベルのうちの1つは、1つ又は複数のレベルのうちの対応するレベルをプレーする前にユーザに表示される指示を含んでもよい。
【0105】
1つ又は複数のゲームレベルのユーザへの表示は、複数の標的アイコン又はゲームアイコンのうちの少なくとも1つの表示を含んでもよい。この標的アイコン又はゲームアイコンの表示は、所定の期間にわたって実施されてもよい。ユーザによるゲームのプレーは、表示された複数の標的アイコンのうちの1つ又は複数を見て記憶することを含んでもよい。ユーザによるゲームのプレーは、複数の標的アイコンのうちの1つを記憶した後、ゲームコントローラを作動させること、例えば、ゲームコントローラのボタンを押すことをさらに含んでもよい。これとは別に、ユーザは、複数の標的アイコンのうちの少なくとも1つを記憶した後、ゲームが自動的に継続するのを待ってもよい。
【0106】
ゲームコントローラは無線ゲームコントローラであってもよい。
【0107】
ゲームのユーザへの表示は、複数の標的アイコンのうちの1つ又は複数の変更をさらに含んでもよい。変更は、複数の標的アイコンの修正又は表示される複数の標的アイコンのうちの異なる1つの選択を含んでもよい。複数の標的アイコンのうちの異なる標的アイコンの選択は繰り返されてもよい。
【0108】
ユーザによるゲームのプレーは、記憶された標的アイコンを表示すように選択した場合、複数の標的アイコンのうちの記憶された標的アイコンをユーザが識別すると、ゲームコントローラを作動させること、例えば、ゲームコントローラのボタンを押すことを含んでもよい。ユーザによるゲームのプレーは、記憶された標的アイコンを表示するように選択したときに、複数の標的アイコンのうちの記憶された標的アイコンを識別するためにユーザが必要とする反応時間を測定することをさらに含んでもよい。
【0109】
ユーザによるゲームのプレーは、測定された反応時間に基づいてユーザの能力スコアを判定することをさらに含んでもよい。ユーザの能力スコアの判定は、ゲームコントローラのユーザによる作動と相関する正確さを判定すること、即ち、記憶された複数の標的アイコンのうちの少なくとも1つを正しく識別してゲームコントローラが作動したかどうかを判定することをさらに含んでもよい。
【0110】
ゲームのプレーは、刺激間間隔中にゲームを中断することを含んでもよい。刺激間間隔は15秒間継続する場合がある。ユーザによるゲームのプレーは、1つ又は複数のゲームレベルのうちの次のゲームレベルの開始をユーザに示すことを含んでもよい。ユーザに示すことは、ユーザに音を提示すことを含んでもよい。ゲームのプレーは、プレーされる1つ又は複数のゲームレベルの最後の1つをユーザに通知することを含んでもよい。
【0111】
本開示の一態様では、治療のパラメータは以下のとおりであってもよい。
【0112】
青色光刺激光66の位置60x、60yが、青色光刺激光66が視神経円板又は視神経乳頭36の中心に作用するような位置であってもよい。視神経円板又は視神経乳頭36の位置は、眼科医/検眼医によって、例えば、眼30の眼底、即ち、水晶体の反対側であり、網膜、視神経乳頭36、黄斑、中心窩39及び後極を含む眼30の内面の画像に基づいて視神経乳頭36の位置を特定するステップ(110)にて、判定されてもよい、即ち、視神経乳頭36は同ステップにて位置を特定されてもよい(110)。任意選択で、この方法はこのほか、以前に判定された視神経乳頭36の位置に関する既に入手可能な情報を使用して実行されてもよい。眼科医/検眼医は、視神経乳頭36の判定された位置又は所定の位置を、刺激位置決め装置、例えば、装置10、発光装置60又は画面50に入力してもよい。本開示の一態様では、スマートフォンなどの刺激位置決め装置は、画面50と、データ処理ロジックを備えたプロセッサ80とを備え、プロセッサ上で実行されるソフトウェアアプリによる計算に基づいて、刺激光66を画面50上に位置決めする(130)。
【0113】
刺激光66の形状が円形であってもよい。円形の刺激光66のサイズが、2.2度(視角)の角サイズの半径を有してもよい。
【0114】
刺激光66は、点滅してもよく、例えば、15Hzの周波数を有してもよい。刺激光66は、例えば、15Hzの周波数を有する矩形関数であってもよい。別の態様では、刺激光66が点滅する周波数は、6~20Hzの範囲であってもよい。
【0115】
刺激光66の色が、RGBカラーコードを使用して設定されてもよい。色は、例えば、(0,0,255)に設定されてもよい。
【0116】
青色光刺激光66の輝度又は照度が、例えば、各青色光刺激光(66)に対して少なくとも約20メラノピックルクスである。追加の態様では、輝度は、青色ディスクのそれぞれから、即ち、それぞれの眼(30)への60のメラノピックルクスの放射(170)に対応する、スマートフォンモデル(即ち、Samsung Galaxy S7)の画面50によって供給可能な最大輝度であってもよい。
【0117】
ユーザの視線33を安定に保つために、コンテンツ(例えば、ゲーム)は、中心窩を含むユーザの網膜内の部分に対応する画面50上の標的エリア52に表示される。換言すれば、ユーザが画面50の標的エリア52に視線33を向けると、画面50の標的エリア52に表示されたコンテンツは、中心窩39を含む網膜の一部に結像される。さらに、ゲームなどのコンテンツは、ユーザの能動的な関与を伴う。ユーザの能力は、(能力スコアとも呼ばれる)ユーザの関与の指標として定量化される(精度と反応時間)。中心窩39は、鮮明な視覚のためにヒトの眼30が固定される、視野37内の領域、例えば、画面50上の標的エリア52に対応する網膜上の領域である。換言すれば、視線33の固定を維持しながら、凝視点の画像が中心窩39上に投影されるか結像される。
【0118】
任意選択で、画面50に対する標的エリア52の位置、ひいてはコンテンツが表示される位置は、ユーザセッションを通じて一定のままである。例えば、標的エリア52は、画面50の中央に配置されてもよい。さらに、表示されたコンテンツのサイズは、ユーザの視線33の変動を制限するために比較的小さくてもよく、これにより、青色光刺激光66が視神経乳頭36に向けられることになる。例えば、コンテンツのサイズは、約1.5度など、2度(視角)以下の半径を有する円に相当してもよい。
【0119】
この方法により、近視の発症及び/又は進行の速度を遅らせることができる。一態様では、この方法により、小児の近視の進行を遅らせることができる。小児の対象年齢は6歳から14歳であってもよい。しかし、他の年齢も可能である。本開示による方法は、進行の証拠(0.25D/年)を伴う-0.75~-5.00Dの屈折誤差を有する近視の小児に適応とされる。この目的のために、ユーザは、例えば、1日に少なくとも1回のセッションでこの方法を実施する。別の態様では、ユーザは1日に2回のセッションを実施する。任意選択で、1日に3回以上のセッションを実施してもよい。
【0120】
この方法を使用したセッションの推奨タイミングは以下のとおりである。この方法が適用される第1のセッションを、小児ユーザが学校に行く前の朝に実施してもよい。第2のセッションを、小児が学校から帰宅したとき(おそらく午後の早い時間)に実施してもよい。一態様では、第2のセッションは、第1のセッションの少なくとも2時間後、遅くとも就寝の3時間前までに実施される。
【0121】
本開示による方法により、網膜ドーパミン放出を増大させることが可能になる。網膜のドーパミン放出により、眼の成長調節が可能になる。眼の成長調節は、視神経乳頭36(又は「視神経円板」)にあるメラノプシン含有ipRGCの軸索を青色範囲の短波長光で刺激することによって達成される。この治療は、本開示の一態様では、VRヘッドセットに挿入されたスマートフォンを使用して適用される。
【0122】
本開示による方法により、視神経乳頭36又は盲点とも呼ばれる視神経円板の青色光刺激を使用して、網膜ドーパミンレベルを増大させることが可能になる。網膜に対する青色光の潜在的なあらゆる影響を最小限に抑えるために、この方法は、本質的に感光性の網膜神経節細胞の軸索が集まって視神経の一部を形成する視神経円板又は視神経乳頭36を標的とする。この方法でメラノプシン含有ipRGCの軸索を刺激すると、網膜ドーパミン活性が逆行的に増大する可能性があり、前述のように、網膜ドーパミンの増大により、最終的に眼の成長と近視の進行を遅らせる信号伝達カスケードが開始される可能性がある。
【0123】
本開示による方法の提案された作用機序を調査するために、一連の科学実験を実施した。
【0124】
いくつかの試験では、ユーザの安全に関する青色光のリスクを調査した。動物研究では、青色光が網膜に及ぼす潜在的な危険性を示しているが、このような動物試験では、本開示による方法の設定よりもかなり高い全体的な露光量をもたらす光パラメータ及び露光時間を使用した。スマートフォンなどの現在の発光装置が、ユーザの網膜に重大な急性又は亜急性のリスクを引き起こすとは考えられていない(Clarkら、2018)。これは、本開示の方法によれば、小児が1日2回、最大10分間の刺激持続時間(即ち、能動的刺激持続時間)だけ青色光刺激光66に暴露されるだけであることを考慮すると、特に当てはまる。比較すると、IEC 62471:2006規格(ランプ及びランプシステムの光生物学的安全性)によると、Samsung Galaxy S7から放出された青色光の安全な視聴限界は連続28時間である。
【0125】
他の重要な安全性の考慮事項には、概日リズムに対する青色光の潜在的な影響と、刺激光66の時間変調(点滅)の影響が含まれる。睡眠-覚醒サイクルに対する青色光の影響は充分に文書化されているが、睡眠-覚醒サイクルが青色光によってどの程度影響を受けるかは、曝露時間によって異なる。メラノプシン含有ipRGCは、概日リズムを太陽日に同調させる役割を担っており、夜間の青色光に最も感受性があると考えられている。夕方に青色光を照射する試験では、夕方の青色光が個人の睡眠-覚醒サイクルと睡眠の質に大きな影響を及ぼすことがあることに異論はない。青色光のこの影響は、治療セッションを完了するための推奨時刻を定義するときのほか、この方法を実装するソフトウェアが有効になるときに考慮されている。
【0126】
さらに、治療の有効性を高めるために、光刺激光66が点滅することになる。光の点滅が本開示の方法にどのような影響を及ぼすかは完全には理解されていない。点滅刺激が光過敏性発作を引き起こすことがあり得ることが認められているため、この治療は光過敏性のてんかん又は発作と診断されるか、その家族歴のある小児には適さない可能性がある。
【0127】
全体として、本開示は、青色光刺激が、使用説明書に従って照射された場合、安全性に重大な懸念を引き起こすことなく、眼の成長、ひいては近視の進行及び/又は近視の発症に有益な効果をもたらし得ることを示す。
【0128】
前述したように、研究では、ipRGCとドーパミン作動性アマクリン細胞との間の逆行性伝達に基づくドーパミン作動性アマクリン細胞との相互作用など、ipRGCが網膜内相互作用に多く関与していることが示唆されており、これによりドーパミン駆動の光適応プロセスと網膜の概日調節が促進される可能性がある。メラノプシンが存在しない場合、光に対するドーパミン作動性反応は制限され、光への適応は不完全になる。
【0129】
本開示の方法で使用した青色光刺激光66は、視神経乳頭36に向けられて、内因性光感受性神経節細胞(ipRGC)の軸索を刺激する。上記の生理学的態様に基づいて、青色光刺激はメラノプシン発現を効果的に誘発するように設計されており、これにより網膜ドーパミン放出が引き起こされる可能性がある。網膜ドーパミンの増大は、増大しなければさらに進行する眼球伸長、即ち、軸方向の眼の成長及び近視の小児の屈折異常の増大に好ましい影響を及ぼすことがわかっている。
【実施例】
【0130】
近視の進行を遅らせ、近視の発症を遅らせる近視のデジタル治療を開示する。一態様では、デジタル治療により、小児の近視の進行及び/又は発症を遅らせることができる。デジタル治療の方法では、スマートフォン対応ゲームを使用して視神経円板に青色光を照射する。そのゲームはユーザに表示され、ユーザを魅了する。青色光刺激光66は、青色光刺激光66を(主観的に「盲点」と呼ばれることがある)視神経乳頭36又は視神経円板に向けることによってユーザには見えなくなるように位置決めされる(130)。上述のように、青色光刺激光66の目的は、内因性光感受性網膜神経節細胞(ipRGC)を活性化することによって網膜のドーパミン放出を上方調節することである。ipRGCは網膜の神経節細胞層に存在し、青色範囲の光を優先的に吸収する光色素メラノプシンを含んでいる。この方法は、視神経円板を標的とすることにより、ipRGCの軸索内のメラノプシンを刺激する。網膜でのドーパミン放出を最大化するために、青色光刺激光66は時間的に変調される。
【0131】
本発明による方法を用いたデジタル治療の一実施例に、合わせて30分未満である1日2回の短いセッションが挙げられる。
【0132】
刺激パラメータ
照射量に影響を及ぼす要因は、青色光に起因する要因(刺激パラメータ、表1)と治療計画の影響(介入パラメータ)とに分類されている。この項では、発明者によって試験された装置及び方法の一実施例にて青色光刺激光66の関連特性を詳しく説明する。刺激光66の各パラメータの重要性、治療のために選択された値及び理論的根拠について概説する。介入パラメータについては、以下の別の項で詳細に考慮する。
【表1】
【0133】
表1。本開示の方法の実施例の照射量に影響を及ぼす刺激パラメータ及びその関連する値の概要。各パラメータについては以下で詳しく検討する。
【0134】
形状
簡略化のため、さらに、形状が円形から楕円形になる傾向がある視神経乳頭36又は視神経円板との重なりを容易にするために、刺激光66は丸形、例えば、実質的に円形である。
【0135】
サイズ
正しい位置60x、60y及び刺激光66のサイズを保証するために、例えば、スマートフォン画面50上に示される物体のサイズが網膜上の物体の画像のサイズにどのように変換されるかを理解する必要がある。視角を使用して、観察された物体の網膜像のサイズを示す。
【0136】
(例えば、mmで測定した)直線寸法を、画像が形成される網膜上でこのような直線寸法によって定められた角度に変換することは、「角度公式」と呼ばれる。
【0137】
公式の導出
刺激光66、例えば、スマートフォン画面50上に表示された青い円は、網膜に到達する前に2つのレンズを通過する。VRヘッドセットのレンズとユーザの眼30の水晶体は「2レンズ系」を形成する。入射刺激光66は、このようなレンズによって変更されて、網膜上に特定のサイズの視像を形成する。焦点距離42mmのレンズを備えたMerge VRヘッドセットを考慮すると、角度公式は2つのステップで計算することができる。
【0138】
まず、2つのレンズが網膜上の像をどれだけ拡大するかを決定するために「倍率」(M)を計算し、次に、網膜上の像が範囲を定める「視角」を計算する。
【0139】
倍率M
VRレンズの焦点距離はf1=42mmである。ヒトの眼の水晶体の焦点距離はf2=17mmである。2つのレンズ間の距離はd=28mmである。スマートフォンとVRレンズとの間の距離はs01=38mmである。
【0140】
2レンズ系の倍率Mを求める公式は次のようになる。
【数1】
ここで、
【数2】
【数3】
及び
【数4】
【0141】
倍率を次のように計算した。Si1=(1/42-1/38)-1=-399mm、S02=28-(-399)=427mm、Si2=(1/17-1/427)-1=17.704mm、M=(399*17.704)/(38*427)=0.435。
【0142】
Merge VRヘッドセットの倍率Mは、以下の式を使用して網膜上の画像のサイズを計算するために使用される。
網膜上のサイズ(mm)=M*スマートフォン画面上のサイズ(mm)
【0143】
これは、Merge VRヘッドセットを介してスマートフォン画面50に表示されるものはいずれも、ここでは網膜上で0.435倍に拡大されることを意味する。例えば、スマートフォン画面50上の1mmの寸法は、網膜上の0.435mmの寸法となることになる。
【0144】
視角
物体が範囲を定める視角は、網膜上のミリメートル単位の物体のサイズを使用して取得することができる。視角は、ヒトの水晶体の中心(節点)から網膜までの角度として定義される。ヒトの眼30は、前部、その後に厚い水晶体、その後に硝子体腔、次に網膜から構築される。水晶体の中心と網膜との間の距離は、全軸長よりも短い。
視角θ°
=tan-1(網膜上のサイズ(mm)/水晶体の中心と網膜との間の距離(mm))
=tan-1(網膜上のサイズ(mm)/17mm)
=tan-1(M*スマホ画面上のサイズ(mm)/17mm)
視角θ°=tan-1(M*スマホ画面上のサイズ(mm)/17mm) 2
スマホ画面上のサイズ(mm)=(17mm*tan(θ°)/M) 3
【0145】
公式の応用
刺激のサイズ:式2を使用すると、刺激光66の直径によって定められる4.4°の角度が、画面50上の直径3.005mmに対応する。
【0146】
刺激の位置60x、60y:中心窩39からの視神経乳頭36(又は盲点)の位置、例えば、角位置は、眼底画像から得られる。左の盲点が15.5°の水平角と1.5°の垂直角を有していた場合、式2を使用すると、視神経乳頭36のこのような角位置の値は、ユーザの視線33が点55に向けられたときの網膜上の中心窩39の位置に対応する点55(凝視点)から10.83mmだけ水平方向に移動し、1.02mmだけ垂直方向に移動する画面50上の位置60x、60yに対応する。
【0147】
眼球の長さによる公式の変化
視角を計算するには、水晶体の中心と網膜との間の一定の距離及びヒトの眼の水晶体の対応する焦点距離として17mmを使用する。
【0148】
水晶体の中心から網膜までの平均距離は、6歳から10歳の小児では約16.2mm、10歳以上の小児では約17mmである。一方、近視の小児では眼球の長さが長くなるため、値が短くなるのではなく、長くなると考えることができる。
【0149】
15.5度の角度での視神経乳頭36の位置について、16.2mmと17mmの2つの異なる眼軸長(即ち、水晶体の中心から網膜までの距離)に対する刺激光66の位置60x、60yの相対差は約0.5度である。この差は、ユーザに対するわれわれの試験が示しているように、刺激光66が見えない状態を維持する許容範囲が0.5度であるため、重要ではない。
【0150】
方程式の検証
この方程式は、網膜上の角サイズとスマートフォン画面50上の対応するサイズとを関係付ける。この方程式は次の方法で成功裏に検証されている。
【0151】
光学シミュレーションを使用する検証
Zemaxは工業グレードの光学シミュレーションソフトウェアである。上記のVRレンズ-眼システムを、ソフトウェアと倍率でシミュレーションし、ソフトウェアで測定された視角が、式で得られる視角と同一であることがわかった。
【0152】
眼底較正の成功
ユーザの視神経乳頭36又は網膜の盲点の位置、例えば、角位置は、眼底検査測定を使用して取得された眼底画像を使用して取得される、即ち、位置づけられる(110)。本開示による方法は、式(3)を使用して、ユーザの網膜上の盲点又は視神経乳頭36の位置に対応する画面50上の刺激光66の位置60x、60yを判定する、即ち、位置決めする(130)。公式を適用した結果が間違っている場合、刺激光66はユーザに見えるようになるはずである(刺激光66は視神経乳頭36又は盲点でのみ見えないため)。この公式を適用したユーザ試験(知識のあるユーザと情報のないユーザの両方)では、望ましい結果が得られ、公式が検証された。このため、刺激光66は、画面50上、即ち、ユーザの盲点に対応する位置60x、60yに正しく表示された。手動較正と眼底較正の比較の詳細については、以下を参照されたい。
【0153】
アイトラッキング
「Pupil Invisible」は、ユーザの瞳孔の動きをリアルタイムで追跡する装着型アイトラッカーである。装着型アイトラッカーの精度は約1度である。装着型アイトラッカーはVRヘッドセット内に装着することができる。
【0154】
充分に広い部屋で、ユーザはアイトラッカーを装着したまま、約1m離れた壁に向かって立っている。壁には凝視点がマークされており、凝視点の両側に2つの刺激点が設けられている。刺激点は、眼30の水平距離によって定められる角度が15度になるように、ユーザの眼の高さで凝視点から水平26.3cmに配置された(上記の式(3)、15度=tan-1(26.3cm/1m)から得られた)。
【0155】
ユーザは、アイトラッカーを装着している間、最初に視線33を凝視点に10秒間向け、次に両方の刺激点にそれぞれ10秒間向けるよう指示される。アイトラッカーからの出力では、凝視点と刺激点との間の差を取ることにより、15度の角度値に対応する値が得られる。
【0156】
この活動は、ユーザがヘッドセットを装着し、刺激光66がスマートフォン画面50上の凝視点から15度離れて配置されているときに繰り返され、ユーザは刺激点を見つめるように助言される。公式が正しい場合、実世界の試験から得られたアイトラッカー値はVR値と同一である必要がある。
【0157】
アイトラッキング値を分析し、正規曲線に当てはめることにより、以下が得られる。
【表2】
【0158】
アイトラッカー値が両方の設定でほぼ同一であるのに対し、標準偏差が標準偏差の差よりも大幅に大きいため、公式は成功裏に検証されたと考えられる。
【0159】
画面50から独立した角度の検証
【0160】
刺激光66は、画面50の特性(即ち、画面50の解像度及びサイズ)とは独立した方法でソフトウェアアプリによって表示されるため、いずれのスマートフォン画面50でも同一である必要がある。
【0161】
これは、定規を使用して、異なるスマートフォン画面50の刺激点のサイズ及び刺激点の凝視点からの距離を測定することによって検証された。
【表3】
【0162】
表示された刺激点は、所与のVRヘッドセットの画面50の特性に関係なく、画面50上で同じサイズであり、同じ位置60x、60yであることがわかった。これは、ユーザにとって視神経乳頭36又は眼30の盲点の位置が固定されているため、要件を満たす。例えば、ユーザの盲点が中心窩39から15度離れた位置にある場合、刺激光66はスマートフォン画面50の特性とは無関係に盲点(視神経乳頭36)に向けられることになる。
【0163】
異なるVRヘッドセットは、スマートフォン画面50を異なる倍率で拡大する異なるレンズを有する。その後、刺激点のサイズは、標準化されたサイズ及び位置60x、60yを有する刺激光66をユーザが確実に受け取るように、画面50の特徴に従って調整されることになる。
【0164】
結論として、さまざまな方法を使用して、VR環境で使用される視角システムが現実世界で使用される視角システムに対応していることが検証された。
【0165】
VR環境の視角システムに影響を及ぼす要因は、レンズの特性とヘッドセットの構造である。レンズの特性とヘッドセットの構造を測定して、方法を実装するためにソフトウェアアプリに入力することができる。次に、ソフトウェアアプリは、あらゆるヘッドセットと現実世界の視角システムとの間の一致を保証することになる。
【0166】
視角を使用することにより、例えば、医療行為で使用された光学システムからの眼科データを、本開示のソフトウェア又はソフトウェアアプリに直接入力することができることを確実なものにする。例えば、眼底鏡のような光学システムが、視神経乳頭36又は盲点の位置及びサイズを角度値で提供する。角度値はソフトウェア又はソフトウェアアプリに直接入力することができる。次いで、ソフトウェア又はソフトウェアアプリは、角度値に基づいて、視神経乳頭36又は盲点に作用するように刺激光66を直接位置決めする(130)。VRヘッドセットのレンズなどのVRヘッドセットの特性は、視角に影響を及ぼす。
【0167】
刺激光66が全小児の視神経乳頭36又は視神経円板内に確実に入るようにするために、直径での4.4度の視角(半径での2.2度の視角)の刺激サイズを使用する。これは、小児の平均視神経円板サイズの80%に相当するため、ユーザ間のサイズの自然なばらつきの主な原因となる。これはこのほか、小児では約2度の視角の直径を有する眼杯、視神経乳頭36又は視神経円板の中央部分(平均陥凹乳頭径比=0.381-0.386)の被覆を可能にする。
【0168】
平均視神経円板サイズの80%に相当するサイズを有する刺激光66の値には、光刺激が視神経円板の外に出る可能性を低減する効果がある。刺激光66のこのサイズにより、標的を外れた刺激の時間を短縮することが可能になる。現在までに、ユーザとしてこの方法を試験した小児と成人の両方が、セッション全体を通して刺激光66がほとんど見えなかったと報告している。これにより、選択した光刺激サイズが裏付けられる。
【0169】
強度
本明細書に開示する近視又は近視の進行を治療する方法に関して、そのような方法の有効性は視神経円板のipRGCの軸索でのメラノプシンの活性化に左右されると考えられる。メラノプシンは、可視スペクトルの青色範囲(380~500nm)の短波長光を優先的に吸収する光色素であり、約480nmの光に対して最大の感度を示す。視神経円板でメラノプシンを刺激するために、刺激光66は青色(RGB 0,0,255)であり、結果として得られる刺激光66のスペクトルは、画面50上で60メラノピックルクスの強度を有する。
【0170】
ルクスとは、錐体視細胞応答のスペクトル知覚に基づいて(発光効率関数に基づいて)重み付けされた輝度の単位である。メラノピックルクスは、錐体視細胞応答ではなくメラノピック細胞応答に基づいて輝度が重み付けされる特殊なタイプの測定基準である。一般に、メラノピックルクスは、「入射光によってメラノプシン細胞がどの程度活性化されることになるか」に関する情報を提供する。メラノピックルクス値が高いほど、メラノプシンの活性化が高いことを意味する。
【0171】
入射光のパワースペクトルは、μW/cm2/nmの単位でそのパワー寄与によって重み付けされる。入射光のスペクトルの各波長ビンΔλの寄与が考慮される。
【0172】
入力パワースペクトルは、メラノプシン応答曲線に基づいて重み付けされる。結果として得られる加重和により、メラノピックルクス値が得られる。例えば、入力パワースペクトルがλ=640nmでのみ非ゼロパワーを有する場合、赤色光(約625nm≦λ≦700nm)はメラノプシンにとって「不可視」であるため、メラノピックルクスの値はゼロになるであろう。一方、錐体視細胞は赤色光を検出する。このため、λ=640nmにて非ゼロパワーを有する入射光の照度は、>0メラノピックルクスのみとなるであろう。
【0173】
Samsung Galaxy S7の画面50上に表示された青色光刺激光66の輝度は、X-Riteからのi1Studioを使用して測定された。X-Riteからのi1Studioは、380~730nmの10nmごとの入射光のパワースペクトル(uW/cm2/nm)をcsvファイルの形式で提供する。
【0174】
i1Studioには、周囲の輝度とスポットの輝度を測定する2つの異なるセンサがある。青色光刺激光66を測定するために、画面50が青色光刺激光66に面するように、スポットセンサをS7画面50に対して平らに配置した。輝度を「スポット測定モード」で記録した。
【0175】
結果として得られる出力パワースペクトルをcsvファイルとして取得した。次に、ファイルをインポートし、提供されたオンラインツール(https://fluxometer.com/)を使用して分析した。このツールは、メラノピックルクス値(CIE S026/E2018標準)のほか、文献の値と比較するときに有用な量子値(光子/cm2/秒)などの他の値も計算する。
【0176】
Galaxy S7モバイル装置のうちのさまざまな装置にわたるメラノピックルクス値の一貫性を調査するために、本開示のソフトウェア又はソフトウェアアプリを、Galaxy S7モバイル装置のうちのランダムに選択された装置にインストールし、その結果得られる青色光の輝度を測定した。メラノピックルクス値は平均58.9±2.8で、これは平均2.59±0.11×1013光子/cm2/秒に相当する。
【0177】
この実験によれば、測定されたメラノピックルクス値58.9±2.8は、臨床試験での刺激光66の基準値として採用されることになる値である。実験では、メラノピックルクス値がさまざまなGalaxy S7モバイル装置間で一貫していることが確認された。本開示の方法では、メラノピックルクスは、異なるディスプレイ50又は画面50(異なるGalaxy S7又は他のモバイル装置)からの刺激光66を比較するために使用される単位である。
【0178】
実験に基づいて、Galaxy S7モバイル装置の個々の測定又は較正を個別に実施する必要がなく、Galaxy S7モバイル装置を臨床試験で使用することができる。眼科専門家による大まかな目視検査が実施される場合があり、何らかの異常が認められた場合は、Galaxy S7モバイル装置の追加の検査が実施されることになる。有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ又は画面50の場合、赤色及び緑色のOLEDフィルムの寿命は46,000~230,000時間であり、青色有機膜の寿命は現在約14,000時間である。画面使用時間が平均で年間1,500時間の場合、刺激光66の輝度に影響を及ぼす表示の劣化(画面の劣化)が予想されることはない。
【0179】
視神経乳頭36又は視神経円板に到達する刺激光66の輝度は、VRレンズと眼球の水晶体の両方の焦点距離、レンズの透過率、レンズのスペクトルフィルタリング及び散乱、レンズの形状、画面50、例えば、スマートフォン又はモバイル装置と眼30との間の距離などを含む複数のパラメータに依存する。
【0180】
このような要因による主な寄与には、VRレンズと眼の水晶体の両方の光透過率を容易に測定可能であることが挙げられる。散乱、モバイル装置と眼30との間の距離、VRレンズと眼の水晶体との間の距離などの他の要因からの寄与はいずれも、異なるヘッドセット間での比較でさえ無視できるほど小さい。
【0181】
試験全体を通じて1種類のモバイル装置と1つのVRヘッドセットのみを使用したため、前述の要因は影響を及ぼさず(例えば、同一のヘッドセットを使用したため透過率は常に同一であった)、モバイル装置の表面の輝度のみから充分な情報が得られる。
【0182】
他のモバイル装置を使用する場合、上記の方法論的アプローチが適用可能である。他のタイプのヘッドセットを使用する場合は、ディスプレイ技術と輝度、画面解像度とスペクトル出力、ディスプレイサイズと曲率、ソフトウェア準拠など、さらに多くのパラメータを考慮する必要がある。画面50上の刺激光66のサイズ及び位置60x、60yは変化する可能性があり、眼30に到達する光子の数を測定しなければならないことになる。他の要因が輝度出力に影響を及ぼすことがわかった場合、その影響を測定する。
【0183】
メラノピックルクスは、メラノプシンの分光感度関数に従って重み付けされた光の放射輝度を反映するため、測定単位として選択された。その際、メラノピックルクスの測定には、光源60の輝度と分光組成の両方が組み込まれ、同測定は、メラノプシンに影響を及ぼす光の強度を示す値を提供する。他のパラメータがいずれも変化しないと仮定すると、メラノピックルクスは、本開示による方法の影響を決定する単位である。
メラノピックルクスの値はこのほか、光源60のサイズに依存する。60メラノピックルクスの値が、スマートフォン画面50上の半径2.2度の青色光刺激光円に相当する。
【0184】
視神経円板の青色光刺激に対する瞳孔光反応を評価することにより、光源60からのメラノピックルクスがメラノプシンを活性化するのに充分であることが示された(Schillingら、2020)。
【0185】
ヒトのipRGC活性化を介してメラノピックルクスが網膜ドーパミンを刺激するかどうかを判定するために、ドーパミン放出の間接的な尺度としてコントラスト感度を測定した。いずれもドーパミン作用薬であるレボドパとノミフェンシンを健康な成人に投与すると、コントラスト感度が改善することが以前に示された。同じように、視神経乳頭36又は視神経円板の青色光刺激後に、中空間周波数から高空間周波数へのコントラスト感度の顕著な改善が測定された。このため、この試験の結果は、青色光刺激光66が、網膜ドーパミン作動系によって調節される網膜プロセスを調節することができるという証拠を提供する。
【0186】
時間的特徴
青色光刺激光66は、例えば、矩形波形と、例えば、15Hzの周波数とで時間的に変調される。いくつかの動物種を対象とした研究では、光のちらつきがドーパミン放出を刺激し、定常光よりもドーパミン放出には効果的であることが明らかになった。一般に、低周波(4Hz未満)及び高周波(20Hz)の点滅が、網膜でのドーパミン合成を減少させ、近視の移行を誘発する可能性がある。一方、中程度のフリッカー周波数(約6~15Hz)が、実験的に誘発された近視を抑制し、網膜のドーパミン合成を増大させることがわかっている。このため、15Hzの中間周波数が、青色光のドーパミン刺激効果を補完するはずである。15Hzで点滅する青色光刺激光66を、ヒトの実験で成功裏に使用した。
【0187】
位置
青色光刺激光66がipRGCの軸索のメラノプシンを活性化するために、青色光刺激光66は、青色光刺激光66が各ユーザの視神経円板に作用するように位置決めされる(130)。これは、例えば、眼科医によって実施される眼底鏡、即ち、検眼鏡による画像化を介して、小児の視神経乳頭36又は視神経円板の位置、例えば、角位置を判定すること、即ち、位置特定すること(110)によって達成される。視神経円板の位置は、中心窩39に対する水平方向及び垂直方向にて得られる、即ち、位置特定される(110)(凝視)。視神経円板の位置は、ソフトウェアに応じて、度又はマイクロメートルのいずれかで提供される。座標がマイクロメートルで指定されている場合、度の値は簡単な計算で取得することができる。この情報は、装置10及び/又はプロセッサ80上で実行されるソフトウェアアプリに入力され、次いで、各小児の固有の生理機能に従って刺激光66を位置決めする(130)。
【0188】
ここでの「較正」とは、半径2.2度の青色光刺激光66を、ユーザの左右の眼30の視神経乳頭36又は視神経円板上、例えば、視神経乳頭36の中心に位置決めするプロセス(130)を指す。青色光刺激光66が視神経乳頭36(又は視神経円板/盲点)に作用するように青色光刺激光66を位置決めすること(130)は、網膜で刺激光66と視神経乳頭36が重なる場合に、発生している、即ち、装置10(例えば、ディスプレイ/画面50又はVRヘッドセット)は較正されていると理解されたい。
【0189】
手動較正
手動較正中、ユーザは、凝視用十字を凝視し、コントローラ、例えば、Bluetooth(登録商標)コントローラを使用して、凝視用十字を凝視しているときに、刺激光66が視神経乳頭36又は盲点の内側に知覚的に入るか、視神経乳頭36又は盲点と重なるように、位置66x、66y、画面50内の青色光刺激光66を移動、即ち、調整する。網膜での視神経乳頭36又は盲点、例えば、視神経乳頭36の中心と、青色光刺激光66の位置60x、60yとの重なりが、青色光刺激光66が「見えない」ときに知覚的に識別される。
【0190】
眼底較正
眼底結像により、中心窩39及び視神経乳頭36を含む網膜の像が得られる。眼底結像により、中心窩39と視神経乳頭36との間の距離、例えば、角距離を判定することができる。いくつかの眼底鏡では、角度値が直接出力される。角度値はこのほか、眼底像と定規を使用して距離を測定することによって手動で取得されてもよい。このような角度値は、ソフトウェアアプリ及び/又は装置10に入力することができ、発光源60と通信するプロセッサ80によって、それに応じて青色光刺激光66を位置決めする。
【0191】
方法
眼底画像は、毛様体筋麻痺のない状態で取得される。眼底画像では、視神経乳頭36、例えば、視神経乳頭36の中心(ひいては盲点)は、網膜中心血管が位置する部分として識別される。中心窩39と視神経乳頭36との間の距離、例えば、角距離は、2つの方法を使用して取得することができる。
【0192】
方法1
中心窩39と視神経乳頭36との間の距離をミリメートル(mm)単位で測定し、その距離を以下のように角度値に変換する。眼底鏡の視野(度)を特定する(これは、典型的には、30度又は45度である)。眼底画像を印刷し、定規を使用して画像の端部間の距離(ミリメートル)を測定する。これは眼底鏡の視野に相当するであろう。次に、眼底鏡の角度を用紙幅で割って比率を求める。最後に、中心窩39と視神経乳頭36又は盲点との間の距離を測定する。この比率を使用して、中心窩と視神経乳頭36との間の角距離を取得する。
【0193】
方法2
眼底結像ソフトウェアから直接角度値を取得する。
結果
【表4】
【0194】
追加のユーザを眼底較正のみを使用して試験した。
【表5】
【0195】
眼底較正方法では、青色光刺激光66が視神経乳頭36の内部に作用するように、画面50上で刺激光66を位置決めすること(130)が成功裏に検証され、これにより青色光刺激光66がさらによく見えなくなる。
【0196】
ユーザには、手動較正を実施した直後に、眼底較正方法に関する自身のフィードバックを提供するよう求めた。以前に手動較正の経験があるユーザ(7~11歳の小児2人と18歳以上の成人2人)は、眼底較正により不可視性が向上することがわかった。
【0197】
ユーザはこのほか、複数のセッションに対して較正値を使用し、青色光刺激光66が全セッションで見えないことがわかった。
【0198】
追加の小児を、眼底較正の不可視性について試験したが、手動較正とは直接比較しなかった。さらに6歳から14歳までの3人の小児に眼底較正を提供し、刺激光66の不可視性に関するフィードバックを得た。3人の小児全員が、青色光刺激光66が見えていなかった。
【0199】
眼底較正は手動較正よりも信頼性が高くなる。
【0200】
手動較正を繰り返すと、その主観的な性質により、眼底較正と比較して手動較正の方が大きな差異が認められる。視神経乳頭36の領域は、青色光刺激光66が作用する網膜の領域よりも大きいため、正確に中心にない可能性も否定できない視神経乳頭の領域内に青色光刺激光66をユーザが配置する自由度が高くなる。青色光刺激光66が視神経乳頭36の中心に作用するように、青色光刺激光66を位置決めする(130)ことが好ましい。そのような位置決め(130)は、任意の方向へ微小に眼球が運動する場合に、青色光刺激光66の視認性を低下させる。
【0201】
客観的な性質により、眼底較正の変動は手動較正と比較して最小限である。眼底較正により、青色光刺激光66が視神経乳頭36の中心に作用するように、青色光刺激光66を位置決めする(130)ことができる。そのような位置決め(130)により、可能性のある眼球運動のあらゆる方向にて均等な盲点不可視性が可能となり、ひいては青色光刺激光66が見えるようになる確率が減少する。
【0202】
眼底較正は、手動較正よりも優れた許容誤差を提供する。
【0203】
眼底較正を試験した後、眼底値を+/-0.5度及び+/-1度変更して、青色光刺激光66が見えるようになる限界を試験した。眼底較正は、青色光刺激光66が再び見えるようになるまでの水平方向の許容誤差が0.5度であった。
【0204】
低年齢の小児にとって、手動較正は使いやすいものではない。
【0205】
手動試験から、ユーザ、特に、低年齢の小児は、手動較正を実施するのが難しいことがわかる。手動較正には、いつ青色光刺激光66が知覚的に見えなくなるのかと、不可視性をどのように認識するのかについてのある程度の理解が必要である。6歳から8歳の低年齢の小児にとって、凝視点を長時間見つめ、さまざまなボタンの組み合わせを使用して青色光刺激光66を動かし、同時に視神経乳頭36又は盲点を知覚的に識別することは、直観的なものではない。画像ベースの較正では、ユーザはこのような手順を自由にスキップするため、さらにユーザフレンドリーな手法が提示される。
【0206】
青色光刺激光66がソフトウェアアプリによって位置決め(130)された後、ユーザは画面50の標的エリア52内に視線33の焦点を合わせて、視神経円板上に青色光刺激光66を維持する。ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツ、例えば、仮想現実(VR)ゲームを調整して、特に、ユーザに提示される視覚コンテンツ及び画面50の背景に対してユーザの視線33の固定を容易にするように注意が払われている。
【0207】
本発明の追加の態様では、装置10は自動較正を提供する。この態様では、視神経乳頭36は、1つ又は複数の統計パラメータに基づいて位置特定される。統計パラメータは、ユーザ群についての視神経乳頭36の測定された位置のセットに基づくものであってもよい。視神経乳頭36の測定された位置は、例えば、装置10の手動較正中に収集された健康記録又はデータに由来してもよい。ユーザ群は、例えば、年齢などの特定の特徴を有する場合がある。統計パラメータには、平均と標準偏差が含まれるが、これに限定されない。
【0208】
視神経乳頭36の位置は、ユーザ群の視神経乳頭36の位置の平均に基づいて単純に決定されてもよい。平均値は、例えば、約15~16度の値を有する。
【0209】
別の態様では、装置10は、ユーザからのフィードバックを要求し、そのフィードバックと、例えば、人々のグループに対する視神経乳頭36の位置の標準偏差とに基づいて、視神経乳頭36の位置を調整してもよい。
【0210】
視覚コンテンツ
ソフトウェア又はソフトウェアアプリによって提供された視覚コンテンツは、約3.0度の直径を有するユーザの眼30の中心窩領域39のエリアに対応する、画面50の標的エリア52又は「フォーカスサークル」に限定される。ユーザの眼30の中心窩領域39のエリアは、約1.5度の半径を有する中央中心窩領域39内の円形のエリアであってもよい。コンテンツ、例えば、顕著なゲームコンテンツを画面50の標的エリア52内に提示すことによって、ユーザの視線33を画面50の標的エリア52内に維持し、継続的な視神経円板刺激を容易にする。フォーカスサークル、即ち、画面50上の標的エリア52のサイズは、視線追跡データを使用して計算される。詳細については以下で説明する。
【0211】
画面50は、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツ、例えば、ユーザが参加するゲームを表示する間、青色光刺激光66が最大60メラノピックルクスの輝度を有することを確実なものにするために、最大輝度に設定される。VRヘッドセットの他の暗い環境では、この輝度により、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツが、近くで見ることができるように、非常に明るく、コントラストが高いように見える。このため、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツのコントラストは、使いやすさを向上させ、目の疲れを軽減し、治療光カスケードへの影響を最小限に抑えるために減少する。
【0212】
ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツからの光がユーザの眼30に届く前に「減光」されるように、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツの上にアルファチャネルフィルタを実装した。このため、結果として生じるコントラストは、上記の全パラメータのバランスをとるために低減される。
【0213】
フィルタなしの完全な白の輝度の測定:ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツがアルファチャネルなしで提供する最大の可能な輝度を試験するために、画面50の標的エリア52に完全な白色光が表示され、その結果の輝度を治療中に測定した。輝度は、アルファチャネルなしで約130メラノピックルクスであると測定された。
【0214】
完全な白色光の最大輝度を測定するが、アルファチャネルフィルタを介して輝度を下げる。さらに快適な視聴を確保し、眼精疲労を軽減し、治療カスケードへの影響を最小限に抑えるために、標的エリア52を網羅するアルファチャネルフィルタを導入した。その結果、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツからの光のコントラストが最小限に抑えられる。アルファチャネルフィルタは0から1までの値をとる。ここで、0は光をまったく通過させず、1はあらゆる光を通過させる。結果として得られるアルファチャネル値は0.7が選択された。
【0215】
ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツがこのアルファチャネルを通じて供給する最大限の可能な輝度を試験するために、画面50上の標的エリア52が完全な白色光を表示し、その結果生じる輝度を測定した。輝度は約30メラノピックルクスであると測定され、フィルタを使用しない場合と比較して大幅に低下した。ユーザ試験から、アルファチャネルフィルタに基づいて輝度を下げた方が、ユーザにとって快適であることが明らかになった。
【0216】
ゲームアイコンの平均輝度の測定:完全に白色のアイコンは、白色には可視スペクトル全体が寄与しているため、最大輝度を測定するのに理想的な状況である。ゲームのプレー中に使用されたアイコンには色があるため、完全な白色と比較してスペクトルが変更されている。スペクトルが変更されると、白色光スペクトルと比較して輝度が低下する。
【0217】
使用されるかなりの数のアイコンに対応するために、さまざまなアイコンセットからランダムにアイコンを選択し、その輝度を測定することによって、平均輝度を測定した。平均輝度は、約11メラノピックルクスであると測定され、白色光の輝度の全スペクトルよりも大幅に低くなる。
【0218】
結論
使いやすさを向上させ、眼精疲労を軽減し、治療光カスケードへの影響を最小限に抑えるために、値0.7のアルファチャネルフィルタを追加することにより、ソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツからの光を減少させた。ソフトウェアアプリが提供するコンテンツで使用されるアイコンの平均輝度は、約11メラノピックルクスであることがわかった。これは、メラノピックルクスの90%以上の低下である。これは、フィルタを使用しない場合よりも輝度が大幅に低下している。この設定は、ユーザ試験中によく認識されることが明らかになったため、この値は治験用装置で使用される。
【0219】
ユーザの視線33をフォーカスサークル、即ち、画面50の標的エリア52の内側に固定するための同じ要件を満たす、ユーザに提示されるあらゆる視覚コンテンツが許容可能であると考えられることになる。提示された視覚コンテンツが、フォーカスサークル内でのユーザの視線33の同程度の固定(即ち、約60%、以下を参照)を支援しない場合、追加の分析を実施して、同等の効果的な刺激持続時間を達成するために刺激期間を適合させる必要があるかどうかを判定することになる。
【0220】
画面50の背景
画面50のフォーカスサークル又は標的エリア52の外側のエリアは、画面50の背景と呼ばれ、暗い色、例えば、黒色である。黒い画面背景は、ユーザが画面50のフォーカスサークル又は標的エリア52内に視線33を維持することを促す。暗い画面背景はさらに、青色光刺激光66以外の視覚コンテンツが治療に及ぼす影響を制御することを可能にする。さらに、暗い画面背景により、ユーザの眼30の薄暗い光への順応が可能となり、青色光刺激光66に対するipRGCの感度が高まり、ひいては引き起こされる反応が大きくなる。このほか、暗い画面背景により、明るい背景に比べて青色光刺激光66の放射輝度を低くすることができ、それによってユーザの安全性と快適性が確保される。画面50がVRヘッドセットと組み合わされるか、VRヘッドセットに挿入されるとき、刺激光66と、コンテンツを表す光、例えば、周囲光、あるいは位置60x、60y又は標的エリア52の外側からの光とは別の任意の光が、結果として、ユーザの眼30への到達を阻止される。
【0221】
青色光刺激光66を視神経円板又は視神経乳頭36上に維持するためのこのような努力にもかかわらず、眼球運動により、刺激光66の一部が標的から外れ、セッションの一部では視神経円板又は視神経乳頭36に到達しない可能性がある。メラノプシン活性、ひいては治療の有効性及び有用性を確保するために、刺激光66の丸い形状、例えば、実質的に円形の形状の30%に相当する三日月部分のみが、視神経乳頭36又は視神経円板の外側に入ることが許容される。
【0222】
ユーザ群、即ち、成人6人と小児2人から取得した視線追跡データでは、顕著なフォーカスサークル又は標的エリア52を使用して、ユーザが自然にこの「30%ルール」を比較的よく遵守していると判定した。取得されたユーザの視線33の固定は、視覚コンテンツ周りにガウス分布を形成し、平均して、ユーザが時間の約60%で許容範囲内に留まっていることが明らかになった。このため、眼球運動を考慮すると、青色光刺激光66は、平均して、青色光刺激光66が時間の約60%で視神経乳頭36又は視神経円板の表面又は内部に作用するように、位置決めされる(130)。この持続時間は、有効刺激持続時間と呼ばれ、本質的には、ユーザが能動的に治療を受ける時間の長さである。以下で詳しく説明するように、刺激持続時間を指定するときには、このような要素を考慮した。
【0223】
このほか、フォーカスサークル(又は標的エリア52)の大きさを判定するときには、ユーザの視線33の固定能力を考慮した。刺激光66の丸い形状の30%に相当する最大の可視三日月部分と、60%の凝視能力により、フォーカスサークルは、中心窩領域39、例えば、中央中心窩領域39のエリアに対応し、約3.0度の直径、例えば、約1.5度の半径を有し、フォーカスサークル(即ち、標的エリア52)の外側の眼球運動を充分に制限した。ユーザがフォーカスサークルに充分に固執している(即ち、視線33を標的エリア52内に固定している)場合、刺激光66は、セッションのかなりの部分にわたって視神経乳頭36又は視神経円板上に維持される。詳細については以下で説明する。
【0224】
刺激持続時間
有効刺激持続時間の(上記で定義した)理論的概念とは対照的に、刺激持続時間は、本開示による方法の点滅する青色光刺激光66がスマートフォン画面50上に存在する合計時間を指す。凝視が安定していると仮定すると、視神経円板の青色光刺激と網膜ドーパミン放出の上方調節を可能にする刺激持続時間は約60秒である。網膜電図(ERG)研究の所見に基づくと、ドーパミン作動系に及ぶ可能性が高い近視者の網膜電気活動の大幅な増大を誘発するには、60秒の刺激で充分である。この効果は刺激後20分で最大になるが、刺激後60分でも観察され続ける。本開示による方法を実施するときの推定凝視能力を考慮すると(「位置」節を参照)、60秒間の効果的な刺激が確実に達成されるようにするには、上記の実験で示したのと同じ効果が得られるように、治療は少なくとも100秒間(刺激持続時間)続けなければならない。
【0225】
網膜ドーパミンを活性化するには60秒間の刺激で充分であるが、分析により、10分間の刺激の方が大きな効果をもたらす可能性があることが明らかになった。視神経円板の青色光刺激の10分後に、網膜の電気応答が刺激を除去してから60分後に上昇する。持続的な反応は、ドーパミンによって開始される信号伝達カスケードを誘導して眼の成長を遅らせるのに有利であると考えられている。治療法の使いやすさと遵守を促進するために、10分間の刺激持続時間が推奨される。これは、1回のセッションあたり約6分の効果的な刺激持続時間に相当する。この効果的な刺激持続時間は、平均60%の凝視を想定している。しかし、これより凝視能力が多少低い場合は、治療効果に有意な影響を及ぼすとは考えられていない(
図3を参照)。刺激の10秒(変化なし)と60秒(大幅な変化)の間の補間が、効果を達成するには少なくとも30秒の刺激で充分であることを示唆している。ipRGCのピーク発火が、刺激の約30秒後に達成されるはずである。このため、本開示の方法を実施する場合の10分間の刺激持続時間が、それぞれ最小持続時間が約30秒である青色光刺激光66のいくつかの短かめの提示の合計である可能性がある。本開示の一態様では、刺激持続時間は少なくとも1分である。本発明の追加の態様では、刺激持続時間は20分以下である。
【0226】
刺激間間隔
発明者によって試験された本開示による装置及び方法の一実施例では、視神経円板への青色光の供給を容易にするゲーム化されたコンテンツを、さまざまな「レベル」に分割した。このようなレベルの間では、青色光刺激は発生しない。このような少なくとも15秒の短い中断は、刺激間間隔と呼ばれる。このような中断により、小児は仮想現実ヘッドセット内で自由に瞬きし、周囲を見回すことができるようになる。刺激間間隔中に、小児は前のレベルの終了を示す終了画面が表示され、続いて次のレベルの導入画面が表示される。このような治療の中断の目的は、ユーザがゲームプレーに熱中し、薄暗い光に順応した状態を保ちながら、眼精疲労及びそれに伴うドライアイなどの影響を最小限に抑えることである。青色光刺激光66は刺激間間隔中に提示されないため、中断の合計持続時間は刺激持続時間には含まれず、むしろ全体のセッション持続時間に含まれる。
【0227】
このような中断、即ち、刺激間間隔はこのほか、治療の有効性を支援する可能性がある。ipRGCは、従来の光受容体と同じように、周囲光への長時間の暴露に継続的に応答可能であるが、露光後には非感光性になる。これは、継続的に光に暴露されると、ipRGCの光に対する反応性が低下することを意味する。本開示による刺激光66の強度を考慮すると、最大の応答性を曝露の最初の60秒以内に達成し、その後、ipRGCは徐々に再分極することになる。この考えは、刺激間間隔中にipRGCを相対的な暗さ(即ち、青色光刺激なし)に戻すことによって、ipRGCが基準値状態に戻り始め、青色光刺激が再開されたときにさらに強く反応することができるようになるというものである。
【0228】
介入パラメータ
青色光刺激光66のパラメータの詳細及び本開示による方法を用いた治療に関するパラメータの影響を、これまで説明してきた。刺激光66自体のパラメータに加えて、方法を実施する際の時間的態様も結果に影響を及ぼす。このようなパラメータに関する情報と有用な例示的な値(表2)を次の表2に示す。
【表6】
【0229】
表2。本開示による方法の線量に影響を及ぼす介入パラメータ及びその関連する値の概要。
各パラメータについては以下で詳しく検討する。
【0230】
セッション持続時間
セッション持続時間は、この例示的な設定による方法を実施するのに必要な合計時間を指す。セッション持続時間は、刺激持続時間、レベル間の中断時間の合計及びセッションの設定及び終了(例えば、VRヘッドセットの配置、装置10の起動及び停止)に必要な時間を含む。小児の年齢と技術的リテラシーに応じて、セッション持続時間は15分を超えることはない。本開示の別の態様では、セッション持続時間は少なくとも1分になる。本開示のさらに別の態様では、セッション持続時間は30分以下になる。セッション持続時間は12~15分の範囲になることが好ましい。
【0231】
使用頻度
この例示的な設定では、治療スケジュールは1日2回のセッションから構成される。1日に複数のセッションを実施することが、本開示による方法の有効性と有用性の両方を支援する。網膜から強膜への信号伝達カスケードは依然として解明されていないが、定期的及び/又は持続的なドーパミン放出により、ドーパミン作動性信号が生成され、眼の成長が変化し、その後の機構に関与する可能性がある。1日2回のセッションを実施することで、強化されたドーパミン放出のほか、持続的なドーパミン反応が可能になる。例えば、2回のセッションは、治療が最も効果的であると予想される最初の午前のセッションから、脈絡膜が最も薄いときにドーパミン放出とドーパミン反応が誘発される次の正午のセッションまでの時間に設定されてもよい。
【0232】
使用時間
本開示の方法による治療は、好ましくは日中に実施される。一態様では、小児の場合、最初のセッションを登校前の朝に実施し、続いて下校直後に次のセッションを実施することが推奨される。この2回目のセッションは、できるだけ正午近くに実施する必要がある。午前と午後の両方で確実に治療が実施されるように、7:00~13:00及び11:00~18:00の時間帯を利用してもよい。以下に定義されたセッション間間隔を遵守しながら、各時間帯内で1回のセッションを完了してもよい。11:00から13:00までの間で2つの時間帯が重なることにより、小児が正午にセッションを実施する機会が確保される。しかし、セッション間間隔に応じて、11:00から13:00までの間で1回のセッションのみを実施することが好ましい。2回目のセッションは、概日リズムに対する青色光刺激光66の潜在的なあらゆる影響を最小限に抑えるために、小児の通常の就寝時間の少なくとも3時間前に完了することが好ましい。
【0233】
午前のセッションでは、概ね夜明けに発生するメラノプシンタンパク質発現のピークと時間的に重複させることができる。このため、午前中にセッションを実施すると、メラノプシン発現が高く、ipRGCが青色光刺激光66に対してさらに効率的に応答する可能性があるときに、本開示の方法による治療が可能になる。メラノプシン発現が高いことの結果として、ドーパミン作動性アマクリン細胞への逆行性信号伝達が支援される。
【0234】
正午のセッションでは、眼30の日内リズムを利用してもよい。日内リズムにより、治療効果を最適化することができる。ヒトでは、脈絡膜は午後の早い時間に最も薄くなり、これは眼30の軸長が最も長くなるのとほぼ同時である。脈絡膜厚の変化が、眼の成長を調節し、眼の大きさの長期的な変化に先行する視覚依存的な機構の短期的なバイオマーカーとなることを示唆する証拠がある。抗近視効果が知られている視覚刺激と、正視及び遠視につながる過程とが、脈絡膜の肥厚と相関がある。一方、近視に至る過程には、脈絡膜の薄化が伴う。正午に本開示の方法のセッションを実施すると、脈絡膜が典型的に最も薄いときに脈絡膜の肥厚が可能になり、眼の成長を阻害する信号が提供される。
【0235】
セッション間間隔
1日2回のセッションの間には、少なくとも2時間のセッション間間隔が観察されることが好ましい。この長さのセッション間間隔により、2回のセッションにわたるドーパミン放出が強化され、ユーザが午前中と正午の両方で治療を実施することが奨励される。
【0236】
視神経円板の青色光刺激に対する網膜の電気的反応の時間経過を調査したところ、10分間の青色光による刺激から60分後に効果が現れたことが明らかになった。このほか、網膜の電気的反応の増大が、60秒間の青色光刺激の60分後に観察されたが、程度は低かった。このため、青色光刺激光66に対する網膜反応が、刺激が除去されてから少なくとも60分間測定可能であり続ける。青色光刺激光66の影響は低下し始め、60分経過後のある時点で基準値に戻ることになると想定される。これは、わずかに暗い刺激光66に長時間暴露された後、消灯後少なくとも1時間持続することがわかっているipRGC応答と一致している。このため、2回目のセッションは、最初のセッションの完了後2時間以降に実施することが推奨される。
【0237】
治療期間
総治療期間は、例えば、2年であってもよい。しかし、治療期間はこの期間に限定されるものではない。本開示による方法を用いた治療は、近視の進行が検出可能である限り、臨床的に有意義であると考えられる。上述のように、理想的には、小児は推奨された治療時間帯中にこの方法を1日2回使用するであろう。他の態様では、この方法は、1日に3回又は1日に5回まで実施してもよい。1日1回のセッションは、治療期間の少なくとも80%が完了し、ユーザがVRゲームを能動的にプレーした、即ち、VRゲームに関与した場合に成功したと考えられる(ログデータを介して追跡される)。治療全体が成功したと考えられるためには、2年間にわたる合計セッションの少なくとも75%を、連続4週間以上の中断のない状態で完了する(即ち、「パープロトコール」)必要があることになる。
【0238】
本開示の方法による治療は、多くの刺激及び介入パラメータに基づくものである。刺激及び介入パラメータには、青色光刺激光66の特徴のほか、治療法の使用に関連する因子を含む。このようなパラメータは共に、本開示による方法の有効性及び有用性に影響を及ぼす。本発明者らは、実施が容易な効果的な治療を提供する刺激及び介入パラメータを発見した。刺激及び介入パラメータは、例えば、Samsung Galaxy S7から放射される(170)青色光で視神経乳頭36又は視神経円板を刺激することにより、網膜ドーパミン作動性システムの上方調節をもたらす。60メラノピックルクスでは、青色光刺激光66は、メラノプシン含有ipRGC軸索を活性化し、網膜のアマクリン細胞からのドーパミンの放出を逆行的に誘導するのに充分である。青色光刺激光66は、面白いゲームアプリケーションを介して供給されるか、同アプリケーションと共に供給され、即ち、放射され(170)、視神経円板に対応する、ユーザの視野37の一部、例えば、画面50の標的エリア52全体にわたって位置決めされるか、重なって位置決めされる(130)。換言すれば、青色光刺激光66は、ユーザの視神経乳頭36に作用するように、ユーザの視野37内に位置決めされる(130)。ゲームは、ipRGCの応答とユーザの関与を最大化するために短いレベルに分割される。顕著で中心に焦点を当てたゲームを使用することにより、治療セッション全体を通じて視神経乳頭36又は視神経円板の効果的な刺激を確保することができる。本開示による方法は、1日2回、即ち、1日あたり2回の治療セッションで使用してもよく、それぞれの治療セッションは約12分間(即ち、設定、10分間の刺激持続時間による刺激、レベル間の中断及び終了を含むセッション持続時間)続き、理想的には、午前中と正午に実施され、既存の日内眼リズムを利用する。
【0239】
ゲームプレー期間中、ユーザが視神経乳頭36内又は盲点内で丸い青色光刺激光、例えば、円形の青色光刺激光(ひいては非結像であり、知覚的に目に見えない刺激)を受け取る持続時間の割合を測定することが目的であった。刺激半径の30%超が盲点の外側にある場合、刺激は盲点の外側である(知覚的に見える)と定義される。計8人のユーザ又は参加者(成人6人、小児2人)を記録した。
【0240】
選択されたユーザは、凝視用十字及び凝視用十字の左、右、上及び下に3度の位置に視線33を集中させる。凝視用十字に対して所定の位置に視線33を集中させることで、視線追跡を較正することができる。この較正により、視野37の各角度の値を、VRゴーグルの内側に装着可能な眼鏡又はゴーグルの形で、Pupil Labが提供するアイトラッカーであるPupil Invisibleアイトラッカーによって出力される値と照合することが可能になる。Pupil Invisibleアイトラッカーは、200Hzの周波数及び1~2度の解像度でデータをサンプリングしたり、及び/又は記録したりする。
【0241】
ユーザは2~6分間反応ゲームをプレーするように求められ、眼球運動はPupil Invisibleアイトラッカーを使用して記録される。ゲームは、中心窩領域39、例えば、中央中心窩領域39内の直径3.0度のエリア、例えば、半径1.5度の円形エリアに対応する画面50の標的エリア52内に表示された。
【0242】
ユーザの視線33の固定と眼球運動を、Pupil Invisibleの「pupil player」ソフトウェアから抽出した。次に、ゲームの異なる持続時間中にユーザが視神経乳頭36で丸い青色光刺激光66を受け取った持続時間の割合をデータから分析した。ユーザが視覚的に知覚するのが刺激の半径の最大30%であるというのが制約であった。
【0243】
測定を繰り返し、ユーザに表示されるさまざまなコンテンツアプリ、即ち、さまざまなゲームについて比較した。
【0244】
各測定について、線量パラメータを特定し、例えば、刺激のサイズ、ゲームプレー中の最大の盲点刺激の可視性及び治療期間を記録した。
【0245】
方法
前述のように、8人のユーザ(参加者)(成人6人、小児2人)が試験に参加した。選択されたユーザは、凝視用十字と視線の左、右、上及び下の3度とを見ることによって視線追跡を調整した。これにより、視野37の各角度の値を、Pupil Invisibleアイトラッカーが出力した値と一致させることができる。
【0246】
ユーザには2~6分間反応ゲームをプレーしてもらい、眼球運動を記録した。コンテンツ、即ち、ゲームを、直径3.0度、例えば、半径1.5度の中心窩領域39、例えば、中央中心窩領域39内のエリアに対応する標的エリア52内に表示した。
【0247】
記録を自動的にPupil Cloudにアップロードし、生データとしてダウンロードした。Pupil Labは、0.5が中心となる0~1の(x,y)の値を出力する。
【0248】
Pupil Labに付属するPupil Play v2.4.0と呼ばれるソフトウェアは、生データを自動的に分析し、視線をExcel.csvファイルに抽出する。ソフトウェアから凝視を抽出するためのパラメータは、分散:1.2、最小凝視持続時間:100ms、最大凝視持続時間:450msであった。
【0249】
視線の安定性に関する主要能力評価指標(KPI)と分析方法の選択
【0250】
ソフトウェア又はソフトウェアアプリによって提供されたコンテンツ、例えば、反応ゲームは、ユーザが、ゲームを成功裏にプレーするために、画面50の非常に小さな標的エリア52(<<1.5度)に視線33を集中させなければならないように設計される。ユーザの視線は、ユーザが視線33を集中させなければならない「関心のあるエリア」(標的エリア52)の周囲に正規分布に従って分布される。ユーザの能力に応じて、正規分布は非常に狭くなる可能性も否定できない(ユーザの能力が非常に優れている場合、ユーザは視線33を少しだけ遠ざける)。ユーザの能力が悪い場合、正規分布は非常に広くなる(ユーザが視線33をあちこちに移動するが、主に「関心のあるエリア」に視線を向ける)。抽出された正規分布は2つの値「ミュー」と「シグマ」を与える。「ミュー」は分布の中心であり、「シグマ」は分布の標準偏差である。
【0251】
ユーザは、刺激光66が「見える」ようになる前に、刺激半径(2.2度)の30%に相当する刺激光66の一部を見なければならないと仮定すると、眼球運動の許容最大範囲は、視線33の焦点(即ち、凝視用十字)から1.21度となる。この範囲外で視線33を固定すると、刺激光66が見えるようになり、視神経円板又は視神経乳頭36の刺激が減少する可能性がある。眼球運動が凝視用十字又は標的エリア52(フォーカスサークル)の中心から1.21度の最大許容範囲を超える場合、ユーザは視線33を固定しない(
図17)。最大許容眼球運動は、((盲点のサイズ-刺激のサイズ)+刺激のサイズの30%)として計算することができる。
【0252】
このため、視線33の焦点の正規分布をプロットし、許容される眼球運動の間にある値のパーセンテージを「凝視能力」とする。
【0253】
KPIは非常に拡張性があり、充分に正確な能力結果を迅速に得られるため、このKPIを選択した。タイムスタンプを伴う他のKPIはあまり正確ではなく、拡張性もない。
【0254】
結果
較正所見
較正分析から、許容可能な眼球運動の視角1.21度は、アイトラッカーの値から0.0123の範囲内にあり、これはユーザ間で一貫していた。これは、視角の各角度が全ユーザの同一のアイトラッカー値に対応することを意味する。
【0255】
これは、全被験者に対して較正する必要がないことを意味する。ゲームプレーを記録し、視線データから得られた正規分布のアイトラッカー範囲0.0123の間にある値に注目するだけで充分である。
【0256】
能力計算結果
青色光刺激光のサイズを半径2.2度に設定し、最大許容眼球運動を刺激サイズの半径の30%に設定した。
【表7】
【0257】
許容可能眼球運動(=0.0123の範囲)の間にある値の確率分布により、「凝視能力」が決まる(上記の表を参照)。8人のユーザ(成人6人、小児2人)の分析から、能力は平均60%であった。
【0258】
線量パラメータの特定
能力に影響を及ぼすパラメータは2つある。即ち、刺激のサイズと、視神経乳頭36からの刺激光66の最大許容偏差である。刺激の半径を2.2度に設定し、視神経乳頭36からの刺激光66の最大許容偏差を刺激の半径の30%に設定した。
【0259】
8人のユーザの分析から、平均能力を60%であると判定した。小児のユーザのうちの1人は、76%という平均よりも優れた能力を示した。
【0260】
医学的効果を得るために視神経乳頭36又は盲点を少なくとも1分間継続的に刺激し、ユーザの60%の凝視能力と組み合わせると、最小刺激持続時間は1.4分となる。
【0261】
結論として、反応ゲームをプレーしている間、ユーザの盲点が刺激されるのは、眼球運動のために時間の60%のみであると判定した。効果的な刺激時間を得るには、ゲームプレーの持続時間を約1/0.6倍する必要があった。
【国際調査報告】