(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】溶融亜鉛メッキ鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20240604BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240604BHJP
C21D 1/26 20060101ALI20240604BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C21D1/26 N
C22C38/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575455
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 CN2022097291
(87)【国際公開番号】W WO2022257902
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】202110633247.7
(32)【優先日】2021-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘 勇
(72)【発明者】
【氏名】陳 濛 瀟
(72)【発明者】
【氏名】王 利
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA06
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA18
4K037EA28
4K037EB05
4K037EB09
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4K037FA03
4K037FC04
4K037FE01
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4K037FG01
4K037FH01
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK05
4K037FK06
4K037FK08
4K037FL02
4K037GA05
(57)【要約】
溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法及び溶融亜鉛メッキ鋼板が提供される。方法は、スラブを熱間圧延して鋼板を得て、巻取りした後に酸洗い・冷間圧延すること、焼鈍温度を840~870℃とし、焼鈍露点を-10~0℃とし、≦10℃/sの冷却速度で710~730℃まで冷却し、さらに≧50℃/sの冷却速度で220~320℃まで冷却し、410~460℃まで再加熱し、20~100s保温する連続焼鈍を行うこと、亜鉛メッキして、化学元素組成がC:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物である溶融亜鉛メッキ鋼板を得ること、を含む。本発明の溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法であって、前記方法は、以下のステップを含む:
S1:スラブを熱間圧延して鋼板を得て、前記鋼板を巻取りした後に酸洗い・冷間圧延を行う;
S2:焼鈍温度を840~870℃とし、焼鈍露点を-10~0℃とし、≦10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで冷却し、さらに≧50℃/sの冷却速度で急冷終了温度220~320℃まで冷却し、再加熱温度410~460℃まで加熱し、20~100s保温する連続焼鈍を行う;
S3:亜鉛メッキを行う;前記亜鉛メッキ完了後に、室温まで冷却し、前記溶融亜鉛メッキ鋼板を得る;
ただし、前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物;
溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライトと、分配処理マルテンサイトと、準安定オーステナイトとからなり、体積比で、前記フェライトの相の割合は30~50%であり、前記分配処理マルテンサイトの相の割合は40~60%であり、前記準安定オーステナイトの相の割合は10~20%である、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記フェライトの統計的に蓄積する転位密度は5.0×10
13/m
2~1×10
14/m
2であり、前記フェライトの硬度は180~230HVであり、前記分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、前記分配処理マルテンサイトと前記フェライトの硬度の比≦1.8、請求項2に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である、請求項3に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ステップS1では、前記スラブに対し前記熱間圧延を行う前に、1230~1260℃の温度下で加熱・保温する、請求項1~4のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記ステップS1では、前記熱間圧延の圧延終了温度は920±30℃である、請求項1~5のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記ステップS1では、前記巻取りの温度は450~550℃であり、前記冷間圧延では、冷間圧延の歪み量は20~60%である、請求項1~6のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項8】
ステップS2では、2~10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで冷却する、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項9】
ステップS2では、50~100℃/sの冷却速度で前記急冷開始温度から急冷終了温度220~320℃まで冷却する、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度の比は1.4~1.8である、請求項3に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項11】
溶融亜鉛メッキ鋼板であって、前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物;
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライトと、分配処理マルテンサイトと、準安定オーステナイトとからなり、体積比で、前記フェライトの相の割合は30~50%であり、前記分配処理マルテンサイトの相の割合は40~60%であり、前記準安定オーステナイトの相の割合は10~20%である、溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項12】
前記フェライトの統計的に蓄積する転位密度は5.0×10
13/m
2~1×10
14/m
2であり、前記フェライトの硬度は180~230HVであり、前記分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、前記分配処理マルテンサイトと前記フェライトの硬度の比≦1.8、請求項11に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項13】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である、請求項13に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項14】
前記分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度の比は1.4~1.8である、請求項12に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項15】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、請求項1と5~9のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される、請求項11~14のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料およびその加工方法、特に溶融亜鉛メッキ鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の重量が10%減少すると、燃料消費は5%~8%節約でき、同時にCO2温室ガスおよびNOx、SO2などの汚染物の排出が相応に減少できると推測される。自動車の鋼板は車体の主な材料であり、車体重量の約60~70%まで占める。そのため、鋼板の強度を高めることで、鋼板の厚さを薄くするのは、近年鋼板の発展方向の一つになっている。しかし、冶金のメカニズムが原因で、通常の高強度スチールは、強度が高まると、一般的には可塑性が下がるため、複雑な形状を有する自動車構造部品における高強度スチールの応用は限定的である。準安定オーステナイトの相転移強化を主要の強化メカニズムとする高成形性TRIP鋼は、従来では超高強度および高成形性が同時に得られないという矛盾を克服し、自動車車体構造材において良好な応用性を示し、その開発や応用が世界各スチール大手企業および自動車企業の研究の中心になりつつある。
【0003】
TRIP鋼(変態誘起塑性鋼、Transformation Induced Plasticity Steel)は、マルテンサイトもしくはベイナイトの組織中に一定量の準安定オーステナイトを導入したものであり、準安定オーステナイトの動的相転移で高強度および高可塑性を実現する。しかし、従来のTRIP鋼では組織構成が複雑であり、加工硬化性が高く、特に従来の材料デザインや方法では、軟相と硬相の間に大きな硬度差があるため、高強度TRIP鋼は予め切り込みを入れる際に局所的な変形性が悪く、特にフランジ加工性や穴広げ性が通常の超高強度スチールに比べると明らかに悪化している。例えば、780MPaレベルの二相鋼(DP)の穴広げ率は30%以上であるが、同じレベルのTRIP鋼はわずか10~15%である。通常、自動車部品の成形工程では複数の成形方法が使われ、全体成形性に関係する従来の引抜き、張出しなど以外にも、局所的な成形性に関係するフランジ加工、穴広げ、弯曲などの成形方法も存在する。低い穴広げ率が原因で、TRIP鋼は、フランジ加工や穴広げ成形が多く使われる部品での使用が限定的で、TRIP鋼による高可塑性が存分に発揮できず、TRIP鋼の自動車部品製造での応用も制限される。
【0004】
従来技術では、高強度のTRIP鋼の製造方法に関する特許が多数存在するが、これらの発明は、鋼板の全体成形性を保つために、軟相+硬相+準安定オーステナイトという組織デザインを採用する傾向があり、伸び率が同レベルのスチールに対し著しく上昇しているが、多相複合構造では、異なる相の間に硬度差が大きく、局所的に変形する際に軟硬相の変形が合わなく、相界面に割れが生じ、材料のフランジ加工性や穴広げ性、冷間曲げ性などの局所的な成形性が損なわれる。
【0005】
また、普通の冷間圧延鋼板の製品に比べると、溶融亜鉛メッキ製品は、耐食性が遥かに優れるために、自動車において大量に応用され、その使用量は平均で80%以上にいたり、一部の車種では使用量が100%にもいたる。しかし、安定性や、十分な体積割合の準安定オーステナイトを実現するために、TRIP鋼にはSi、Al、Mnなどの合金元素が多く添加される。これらの元素は、化学性質が活発であり、熱処理工程では表面酸化を起こしやすく、メッキ性が下げられ、高いメッキ層品質を有する溶融亜鉛メッキ製品の安定した製造は実現しにくい。そのため、スチール材のメッキ性を高めるために、低いSi、Mn含有量のデザインが通常採用される。しかし、Si、Mnはスチール中における一番効果的なローコスト強化元素であり、低いSi、Mn含有量のデザインだとスチールの性能が下がるため、Cr、Mo、Nbなど高価な合金元素で補うしかなく、スチール材のコストが上がり、そして製品の製造性が下がる可能性がある。
【0006】
検索で、以下の特許が見つかった:
JP 2010255097は加工性に優れる高強度溶融亜鉛メッキ鋼板およびその製造方法を開示した。成分組成として、質量%で、C:0.04~0.15%、Si:0.7~2.3%、Mn:0.8~2.2%、P:<0.1%、S:0.01%未満、Al:<0.1%、N:0.008%未満を含有し、残部は鉄と不可避的不純物からなる。組織は、70%以上のフェライト相、2%以上かつ10%以下のベイナイト相および0%以上かつ12%以下のパーライト相、1%以上かつ8%以下の残留オーステナイト相からなる。フェライトの平均結晶粒径は18μm以下であり、残留オーステナイトの平均結晶粒径は2μm以下である。この発明のスチールは590MPa以上の引張強度を有し、加工性(伸び性と穴広げ性)も優れる。しかし、この発明では、引張強度はわずか600~700MPaレベルであり、超高強度スチールには満たさない。
【0007】
WO 2020151856 A1は1380MPaレベルの冷間圧延超高強度スチールおよびその製造方法を開示した。成分の質量パーセントは:C:0.15~0.25%、Si:0.7~1.6%、Mn:2.2~3.2%、Mo:≦0.2%、Cr:≦0.8%、Al:0.03~1.0%、Nb/V:≦0.04%、Ti:0.01~0.04%、B:0.001~0.005%、Cu:≦0.15%、Ni:≦0.15%、Ca:≦0.01%であり、残部はFeと不可避免不純物である。この発明は複相組織であり、40%以上の焼戻しマルテンサイト、40%以下のベイナイト、20%以下のフレッシュマルテンサイト、2~20%の残留オーステナイトを含む。この発明では、穴広げ率が40%以上に達するが、伸び率がわずか5%であり、複雑な部品における高成形性に満たさない。
【0008】
WO 2020128574 A1は引張強度が1470MPa以上である溶融亜鉛メッキ超高強度スチールおよびその製造方法を開示した。成分の質量パーセントは:C:0.3~0.4%、Si:0.8~1.60%、Mn:2.0~4.0%、Al:0.01~0.6%、Mo:0.15~0.50%、Cr:0.3~1.0%、Ti:≦0.06%、Nb:≦0.06%、V:≦0.2%、Ni:≦0.8%、B:0.0003~0.0005%であり、残部はFeと不可避免不純物である。このスチールの顕微組織構造は炭素含有量が0.7%以上の15~30%の残留オーステナイトと、70~85%の焼戻しマルテンサイトと、5%のフレッシュマルテンサイトからなる。この発明では、1470MPa以上の引張強度および13%以上の伸び率、15%以上の穴広げ率および0.7以下のLME指数が実現される。この発明では、スチールの炭素含有量が高く、それに大量のNb、V、Ti合金元素が添加されるため、材料のコストが大幅に高まるだけでなく、鋳造、熱間圧延、溶接などにおいての製造も難しくなる。同時に、材料の穴広げ率が高くなく、これらの製品の応用が限定的である。
【0009】
CN 109023053 Bは、良好なフランジ加工性能を有する600MPaレベル多相鋼板を開示し、その組成は:C:0.060~0.100%、Si:0.060~0.400%、Mn:1.20~2.00%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.015~0.070%、Cr:0.15~0.35%、Ti:0.010~0.035%、Nb:0.010~0.035%、N:0.006%以下である。このスチールの生産プロセスは以下のことを含む:成分に従い通常の製錬をした後に鋳造する;熱間圧延工程を行う;冷間圧延工程を行う;室温まで自然冷却し、使用する。この発明では、スチールの降伏強度が360~440MPaに達し、引張強度が600~700MPaであり、伸び率が19%以上であり、穴広げ率が45%以上である。顕微組織は、パーライト、ベイナイト、フェライトおよび少量のマルテンサイトおよび残留オーステナイト組織を含むため、高強度が保たれると同時に、良好な成形性、フランジ加工性および衝突エネルギー吸収性も保たれる。この発明では、スチールの穴広げ率と伸び率はいずれも良好であるが、スチールレベルが低く、引張強度がわずか600MPaレベルであるため、自動車における高強度・薄肉化の需要に満たさない。
【0010】
WO 2013144376 A1は自動車用冷間圧延超高強度スチールを開示し、その組成は:C:0.1~0.3%、Si:0.4~1.0%、Mn:2.0~3.0%、Nb:≦0.01である。このスチールは複相組織を含有し、5~20%の残留オーステナイト、80%以上のベイナイト/ベイナイトフェライト/焼戻しマルテンサイト、10%以下の多角形フェライトを含み、引張強度が980MPa以上であり、伸び率が4%以上であり、穴広げ率が20%以上であり、強伸度積が13000%MPa以上であり、穴広げ率強度積が40000%MPa以上である。この発明では、スチールの強度が高いものの、伸び率と穴広げ率がいずれも高くなく、成形性が悪く、複雑な部品の成形の需要には満たさない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術で製造される高強度の溶融亜鉛メッキ鋼板には、メッキ層品質が悪く、局所的に変形する際に、軟硬相の変形が合わないゆえに、相界面に割れが生じ、材料のフランジ加工性や穴広げ性、冷間曲げ性など局所的な成形性が損害される問題が存在するが、その問題を克服するために、本発明は、溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供し、この方法では、高い耐食性が求められる自動車構造部品や安全部品に適用できる、高強度と、良好なメッキ層品質と、優れた局所的な成形性とを有する溶融亜鉛メッキ鋼板を製造することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法は、以下のステップを含む:
S1:スラブを熱間圧延して鋼板を得て、鋼板に対し巻取りを行った後に酸洗い・冷間圧延を行う;
S2:焼鈍温度を840~870℃とし、焼鈍露点を-10~0℃とし、≦10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで徐冷し、さらに≧50℃/sの冷却速度で急冷終了温度220~320℃まで急冷し、再加熱温度410~460℃まで加熱し、20~100s保温する連続焼鈍を行う;
S3:亜鉛メッキを行う;亜鉛メッキ完了後に、室温まで冷却し、溶融亜鉛メッキ鋼板を得る;
ただし、この溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物。
【0013】
上記の技術案では、焼鈍工程では連続焼鈍が採用され、そして-10~0℃の焼鈍露点を有する弱酸化性雰囲気が採用されるため、鋼板のサブ表面に内部酸化が発生し、Si、Mnなどの元素の表面への蓄積が防がれ、表面でのSi/Mn酸化物膜の生成が抑制されるため、表面酸化によるメッキ性悪化の問題が解決され、そして、実験では、焼鈍露点が-10~0℃であると、溶融亜鉛メッキ鋼板のメッキ層品質が良好であることがわかった。焼鈍温度は840~870℃と高めに設置することで、均一なオーステナイト組織を形成でき、スチールの強度の向上には有利である。≦10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで徐冷することで、局所的なフェライトを形成し、急冷での温度差を減少させ、板の形を改善する。≧50℃/sで急冷終了温度220~320℃の間の温度まで急冷することで、オーステナイトを一部分配処理マルテンサイトに変化させる。その後、再加熱温度410~460℃まで加熱し、20~100s保温することで、その間、炭素が分配処理マルテンサイトからオーステナイト中に入り、分配処理マルテンサイトにおける炭素が減って硬度が下がり、オーステナイトにおける炭素が増えて安定化し、同時にフェライトが回復して硬度が上がる。最後に亜鉛メッキを行うことで、高いメッキ層品質を有する溶融亜鉛メッキ製品を得る。
【0014】
連続焼鈍および亜鉛メッキ工程では、炭素が分配処理マルテンサイトとオーステナイトの間で再分配するため、オーステナイトにおける炭素が増えて安定性が増加し、より多くの準安定オーステナイトが得られ、可塑性が高める一方、より重要なことに、分配処理マルテンサイトにおける炭素含有量が下がり、分配処理マルテンサイトに焼き戻しが発生しない限り、分配処理マルテンサイトの硬度が効果的に下げられる。顕微組織中では、フェライトが焼鈍および亜鉛メッキ工程において回復し、分配処理マルテンサイトの相転移での体積膨張によって生じるフェライト中の高密度可動転位が大幅に減らされ、フェライトの硬度が上がる。分配処理マルテンサイトの硬度低下およびフェライトの硬度上昇により、分配処理マルテンサイト-フェライトの相間硬度差が効果的に減らされ、材料の穴広げ性やフランジ加工性が高まる。通常の方法では、焼戻し分配処理マルテンサイトを生成することで分配処理マルテンサイトの硬度を下げる必要がある。つまり、分配処理マルテンサイト中の過飽和炭素が焼戻し温度下で溶出し、炭化物が生成される。このような方法では、大量の炭化物が生成し、これらの炭素は残留オーステナイトの安定化に貢献できないため、材料中での有効炭素含有量が下がる。本発明の製造方法では、分配処理マルテンサイトの硬度が下がるだけでなく、同時に分配処理マルテンサイトの焼戻しが回避され、炭化物が生成されず、材料中の合金元素が存分に利用されるため、低いコストで高い効率が実現されるデザインである。高いSi含有量により、スチール中の準安定オーステナイトは亜鉛メッキ工程において基本的に分解せず、最終的に求められる組織形態が得られる。
【0015】
本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板は、最終的な顕微組織はフェライト、分配処理マルテンサイトおよび準安定オーステナイトからなる。準安定オーステナイトの動的相転移と、軟相フェライトと硬相分配処理マルテンサイトとの組み合わせで、溶融亜鉛メッキ鋼板に高強度および高可塑性の利点をもたらす。本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法で作製される溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライト、分配処理マルテンサイトおよび準安定オーステナイトからなる。体積比で、フェライト相の割合は30~50%であり、分配処理マルテンサイト相の割合は40~60%であり、準安定オーステナイト相の割合は10~20%である。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法では、フェライトの統計的に蓄積する転位(Statistically Stored Dislocation、略してSSD)密度は5.0×1013/m2~1×1014/m2であり、フェライトの硬度は180~230HVであり、分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度比≦1.8。一実施形態では、分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度比は1.4~1.8である。
【0017】
上記の形態では、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板は高強度、高穴広げ性を有する。本発明の一実施形態では、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法で得られる溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法では、熱間圧延する前に、1230~1260℃の温度下でスラブを加熱・保温する。
【0019】
一実施形態では、2~10℃/sの徐冷冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで徐冷する。一実施形態では、50~100℃/sの急冷速度で急冷終了温度220~320℃まで急冷する。
【0020】
好ましくは、高温加熱炉で保温する。そうすることで、CとN化合物は充分に溶解しやすく、除去しづらいスピネル系酸化スケールの生成が回避される。
【0021】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法のステップS1では、熱間圧延の圧延終了温度は920±30℃である。
【0022】
ここで、高い圧延終了温度では、冷却前の鋼板が完全オーステナイト状態に留まりやすく、相転移が起きない。
【0023】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法のステップS1では、巻取りのとき、温度は450~550℃であり、冷間圧延のとき、冷間圧延の歪み量は20~60%である。
【0024】
ここで、低い巻取り温度では、酸化スケールによる共析反応が減少しやすく、酸洗い効率の降下や、表面品質の悪化などの問題が防がれる。
【0025】
本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法では、高いSi、Mn含有量の元に、製錬、熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍および亜鉛メッキ工程で溶融亜鉛メッキ鋼板の強度を高め、良好な伸び率を持たせる。また、適切なフェライトと分配処理マルテンサイトの硬度を有する顕微組織を形成し、穴広げ性を高める。同時に、鋼板のメッキ層が良好であり、自動車用溶融亜鉛メッキ超高強度スチールの要求に満たす。
【0026】
本発明はさらに、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板を提供し、溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物。この溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライトと、分配処理マルテンサイトと、準安定オーステナイトとからなり、フェライトの相の割合は30~50%であり、分配処理マルテンサイトの相の割合は40~60%であり、準安定オーステナイトの相の割合は10~20%である。
【0027】
本発明の溶融亜鉛メッキ鋼板には、上記化学成分の範囲が採用されるが、その原因は以下の通りである:
C:スチール中における最も基本的な強化元素であり、またオーステナイトの安定化元素でもあり、オーステナイト中におけるC含有量が高いと準安定オーステナイトの割合や材料の性能が高まりやすい。しかし、高いC含有量では、スチール材の溶接性が悪化する。そのため、期待の効果を実現するために、本発明では、C含有量は0.17~0.21wt%の範囲内とする。
【0028】
Si:炭化物の形成を抑制する元素であり、炭化物中での溶解度が非常に小さく、炭化物の形成を効果的に抑制もしくは遅らせることができ、溶融亜鉛メッキ工程においてオーステナイトの分解を抑制しやすいため、分配処理過程では炭素の多いオーステナイトを形成させ、準安定オーステナイトとして室温まで保留させることができる。しかし、高いSi含有量では、材料のメッキ性が悪化する。そのため、本発明のSi含有量は1.2~1.7wt%の範囲内とする。溶融亜鉛メッキ鋼板は、製造の際に、メッキ性が高まり、亜鉛メッキの品質が確保される。
【0029】
Mn:オーステナイト安定化元素である。Mnの存在により、分配処理マルテンサイトの転移温度が下がり、準安定オーステナイトの含有量が増加する。また、Mnは固溶強化元素であり、鋼板の強度向上には有利である。しかし、Mn含有量が高すぎると、スチール材の焼入れ性が高すぎて、材料の組織の精密制御には不利である。また、Siとは似ていて、Mnが多いと鋼板のメッキ性が同様に悪化する。そのため、本発明のSi含有量は1.2~1.7wt%の範囲内とする。溶融亜鉛メッキ鋼板は、製造の際に、メッキ性が高まり、亜鉛メッキの品質が確保される。
【0030】
Al:Siとは似ていて、主に固溶強化ができ、炭化物の形成を抑制し、準安定オーステナイトの安定性を向上させる効果がある。しかしAlの強化効果はSiより弱い。本発明では、Al含有量は0.02~0.05%とする。
【0031】
N:介在物の制御に対するNの不利な影響を減らすため、製錬時ではNをできるだけ低いレベルに、つまり≦0.008wt%にするべきである。
【0032】
本発明の溶融亜鉛メッキ鋼板の最終的な顕微組織は30~50%フェライト、40~60%分配処理マルテンサイト、10~20%準安定オーステナイトからなり、溶融亜鉛メッキ鋼板は高強度と高可塑性の利点を有する。
【0033】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板では、フェライトのSSD密度は5.0×1013/m2~1×1014/m2であり、フェライトの硬度は180~230HVであり、分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度比≦1.8。
【0034】
本発明の他の実施形態によれば、本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である。
【発明の効果】
【0035】
本発明による溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法は、Si、Mn成分の含有量が高く、メッキ層品質が良好であり、局所的な成形性が良好で、強度が高いなどの利点があり、自動車安全構造部品において良好な応用性があり、例えば強化フレーム、エネルギー吸収箱やA、B柱などの、特に複雑な形状を有し、全体成形性、局所的な成形性および耐食性に対し高い標準を有する車両構造部品や安全部品の製造には適している。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品が、フランジ加工工程で処理される結果を示す。
【
図2】
図2は、比較例1の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品が、フランジ加工工程で処理される結果を示す。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品における亜鉛層の接着力の測定の結果を示す。
【
図4】
図4は、比較例1の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品における亜鉛層の接着力の測定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下では詳細な説明を行うが、本明細書および特許請求の範囲において、使用される成分の量を示す全ての数値は、任意の実施例または他の方式で指摘される場合を除き、全ての場合において「約」という用語によって修正されると理解されるべきである。従って、反対の教示がない限り、以下の明細書および特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、本願において得られる所望の特性に応じて変化する近似値である。少なくとも、均等の原則を特許請求の範囲のみに適用しようとすることなく、各数値パラメータは、少なくとも、開示された有効桁数に従って、通常の捨入を適用して解釈されるべきである。
【0038】
本願で使用される用語は、具体的な実施態様を説明する目的でのみ使用され、限定的に解釈されるべきではない。本明細書で使用される単数形「一つ」および「前記」は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数形も含まれることは理解されるべきである。「……の少なくとも一つ(種)」のような表現は、要素リストの前または後にある場合、リストの個々の要素を指すのではなく、要素リストの全体を指す。
【0039】
さらに、明細書において使用される「含む」または「からなる」という用語は、本明細書において使用される場合、記載される特徴、領域、全体、様式、操作、要素、および/または構成要素の存在を示すが、1つまたは複数の追加の特徴、領域、全体、様式、操作、要素、構成要素および/またはその集合の存在または追加を排除するものではない。
【0040】
本願で使用される「約」又は「ほど」は、記載された値を含むと共に、例えば、議論された測定値及び特定量の測定に関連する誤差(すなわち、測定システムの限界)を考慮して当業者によって決定される特定値からの偏差の許容範囲内を意味する。別段の教示がない限り、開示されるすべてのパラメータ範囲は、端値及びその間のすべての値を含む。
【0041】
本発明の説明において、用語は、別段の教示がない限り、当業者が一般に理解するものと同じ意味を有するが、異なる場合は、本発明における定義が優先されるべきである。試験方法は、別段の教示がない限り、慣用的な方法である。本発明で使用する原料および試験材料は、別段の教示がない限り、普通に購入可能なものである。
【0042】
本発明の目的、技術案および利点をより明確にするために、本発明の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を以下の好ましい実施例1~5でさらに説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。また、本発明の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法とは異なる比較例1~3により、本発明の技術効果を説明する。
【0043】
実施例1
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1250℃で加熱・保温した。その後熱間圧延を行い、ある厚さの鋼板を得た。厚さは最終製品に必要な厚さで決め、圧延終了温度を920℃とした。500℃で巻取りを行った。酸洗い・冷間圧延を行い、冷間圧延の歪み量を40%とした。
【0044】
S2:連続焼鈍を行った。焼鈍温度を制御し、焼鈍段階では焼鈍露点を用いた。≦10℃/sの冷却速度で急冷開始温度まで冷却し、さらに≧50℃/sの冷却速度で急冷終了温度まで冷却した。その後、再加熱温度まで加熱し、一定の時間で保温した。具体的なパラメータは表1に参照する。
【0045】
S3:鋼板を亜鉛釜に入れて亜鉛メッキを完了させた。最後は室温まで冷却した。
溶融亜鉛メッキ鋼板の化学元素組成では、C、Si、Mn、Al、Nの含有量は表2に示され、残部はFeと不可避的不純物である。
【0046】
実施例2
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1260℃で加熱・保温した。その後熱間圧延を行い、ある厚さの鋼板を得た。厚さは実施例1と同じで、圧延終了温度を930℃とした。450℃で巻取りを行った。酸洗い・冷間圧延を行い、冷間圧延の歪み量を20%とした。
【0047】
S2:連続焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:鋼板を亜鉛釜に入れて亜鉛メッキを完了させた。最後は室温まで冷却した。
【0048】
溶融亜鉛メッキ鋼板の化学元素組成では、C、Si、Mn、Al、Nの含有量は表2に示され、残部はFeと不可避的不純物である。
【0049】
実施例3
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1230℃で加熱・保温した。その後熱間圧延を行い、ある厚さの鋼板を得た。厚さは実施例1と同じで、圧延終了温度を950℃とした。550℃で巻取りを行った。酸洗い・冷間圧延を行い、冷間圧延の歪み量を60%とした。
【0050】
S2:連続焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:鋼板を亜鉛釜に入れて亜鉛メッキを完了させた。最後は室温まで冷却した。
【0051】
溶融亜鉛メッキ鋼板の化学元素組成では、C、Si、Mn、Al、Nの含有量は表2に示され、残部はFeと不可避的不純物である。
【0052】
実施例4
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1240℃で加熱・保温した。その後熱間圧延を行い、ある厚さの鋼板を得た。厚さは実施例1と同じで、圧延終了温度を890℃とした。470℃で巻取りを行った。酸洗い・冷間圧延を行い、冷間圧延の歪み量を50%とした。
【0053】
S2:連続焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:鋼板を亜鉛釜に入れて亜鉛メッキを完了させた。最後は室温まで冷却した。
【0054】
溶融亜鉛メッキ鋼板の化学元素組成では、C、Si、Mn、Al、Nの含有量は表2に示され、残部はFeと不可避的不純物である。
【0055】
実施例5
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1250℃で加熱・保温した。その後熱間圧延を行い、ある厚さの鋼板を得た。厚さは実施例1と同じで、圧延終了温度を900℃とした。520℃で巻取りを行った。酸洗い・冷間圧延を行い、冷間圧延の歪み量を30%とした。
【0056】
S2:連続焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:鋼板を亜鉛釜に入れて亜鉛メッキを完了させた。最後は室温まで冷却した。
【0057】
溶融亜鉛メッキ鋼板の化学元素組成では、C、Si、Mn、Al、Nの含有量は表2に示され、残部はFeと不可避的不純物である。
【0058】
比較例1
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを熱間圧延して、鋼板を得た。圧延終了温度を850℃とした。400℃で巻取りを行った後に酸洗い・冷間圧延を行った。
【0059】
S2:焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:亜鉛メッキを完了させた。室温まで冷却した。
【0060】
化学元素組成では、含有量は表2に示され、化学成分の含有量は本発明の製造方法による化学含有量の範囲内にあり、Si、Mn含有量が高い。
【0061】
比較例2
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを熱間圧延して、鋼板を得た。圧延終了温度を850℃とした。400℃で巻取りを行った後に酸洗い・冷間圧延を行った。
【0062】
S2:焼鈍を行った。具体的なパラメータは表1に参照する。
S3:亜鉛メッキを完了させた。室温まで冷却した。
【0063】
化学元素組成では、含有量は表2に示され、化学成分の含有量は本発明の製造方法による化学含有量と異なり、C、Mn含有量が低い。
【0064】
比較例3
S1:通常のスチール生産ラインもしくは薄スラブ連続鋳造連続圧延生産ラインで生産し、連続鋳造後にスラブを得た。スラブを1162~1189℃で加熱・保温した。スラブを熱間圧延して、鋼板を得た。圧延終了温度を862~882℃とした。571~590℃で巻取りを行った後に酸洗い・冷間圧延を行った。
【0065】
S2:連続焼鈍を行った。その間、焼鈍温度を835~847℃とし、急冷開始温度を626~639℃とし、急冷終了温度を385~395℃とした。再加熱温度を310~346℃とした。
【0066】
S3:亜鉛メッキを完了させた。室温まで自然冷却した。
化学元素組成では、含有量は表2に示され、化学成分の含有量は本発明の製造方法による化学含有量と異なり、C、Si、Mn、Al含有量が低いが、Cr、NbおよびTiが添加される。
【0067】
実施例1~5と比較例1~3の焼鈍工程のパラメータは表1に示され、実施例1~5と比較例1~3の化学成分の含有量は表2に示される。
【0068】
【0069】
【0070】
性能測定:
本発明では、上記実施例1~5および比較例1~3で得られる溶融亜鉛メッキ鋼板に対し性能測定を行った。実施例1~5に対し測定した性能には、顕微組織における各相の割合、動的性能(降伏強度、引張強度、伸び率、穴広げ率)、統計的に蓄積する転位密度、顕微組織における各相の硬度および亜鉛層の接着力が含まれる。比較例1~3に対し測定した性能には、動的性能が含まれ、さらに比較例1に対する統計的に蓄積する転位密度、顕微組織における各相の硬度および亜鉛層の接着力の測定が行われた。
【0071】
動的性能の測定方法は、米国材料試験協会の基準 ASTM E8/E8M-13《金属材料引張試験方法(Standard Test Methods For Tension Testing of Metallic Materials)》に参照し、伸び試験は、 ASTM 基準の50mmピッチ伸びサンプルを使い、伸び方向は圧延方向に垂直する。
【0072】
統計的に蓄積する転位密度の測定方法は、 Y. Zhong、 F. Yin、 T. Sakaguchi、 K. Nagai、 K. Yang、 Dislocation structure evolution and characterization in the compression deformed Mn-Cu alloy、 Acta Materialia、 Volume 55、 Issue 8、 2007、 Pages 2747-2756に参照する。具体的には、鋼板上から 10×20mmサイズのサンプルを切り取り、表面研磨後に、 XRD(X-ray diffraction)スペクトルを測定し、スペクトルに対し MWAA(Modified Warren-Averbach Analysis)法で全パターンフィッティング及び計算を行い、サンプルにおける統計的に蓄積する転位密度値を得る。
【0073】
亜鉛層の接着力の測定方法は以下の内容を含む:鋼板上から300×70mmサイズの板サンプルを切り取り、折り曲げ機上で3倍の板厚を曲げ直径として180°までに冷間曲げし、その後ではセロハンテープを、洗った後の曲げ角の外側に貼り付け、テープをとった後に、テープ上に剥離物の転移があるかどうかを確認する。剥離物が発見されていない場合、亜鉛層の接着力は合格(OK)と判定し、そうでない場合では、不合格(NG)と判断する。
【0074】
顕微組織の各相の割合の測定は、X線回折定量相分析法を使う。
硬度の測定方法:GB/T 4340.1-2012 金属材料 ビッカース硬さ試験 第1部:試験法。
【0075】
測定結果は下記の通りである。実施例1~5および比較例1~3の顕微組織相の割合及び動的性能の測定結果は表3に示され、実施例1~5および比較例1の統計的に蓄積する転位密度、顕微組織の硬度および亜鉛層の接着力の測定結果は表4に示される。
【0076】
【0077】
【0078】
表3からわかるように、体積比で、本発明の実施例1~5による溶融亜鉛メッキ鋼板では、フェライト相の割合は30~50%であり、分配処理マルテンサイト相の割合は40~60%であり、準安定オーステナイト相の割合は10~20%である。動的性能に関しては、降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPaであり、伸び率(ASTM50mm)は25~35%であり、穴広げ率は35~60%であり、形成される製品は高穴広げ率、高引張強度を有する高成形性・超高強度の溶融亜鉛メッキ製品である。比較例1では、SiとMnの含有量が高いため、得られる溶融亜鉛メッキ製品は降伏強度と引張強度を有し、高強度の溶融亜鉛メッキ製品ではあるが、伸び率と穴広げ率が低く、局所的な成形性が悪いという問題が存在する。比較例2と3では、SiとMn含有量が減るため、得られる溶融亜鉛メッキ製品は伸び率と穴広げ率が高いものの、降伏強度と引張強度が低く、高強度の溶融亜鉛メッキ製品ではない。つまり、本発明で製造される溶融亜鉛メッキ製品は、高強度と、局所的な成形性が優れるなどの利点がある。
【0079】
図1は本発明の実施例1で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品がフランジ加工工程で処理される結果を示し、
図2は比較例1で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品がフランジ加工工程で処理される結果を示すが、そのように、比較例1ではフランジの位置において割れが生じ、一方で、実施例1では割れが生じないため、本発明で製造される溶融亜鉛メッキ鋼板製品は、フランジ性能が著しく高まり、全体成形性が高い水準にあり、同様な部品上では割れが効果的に避けられるがわかる。
【0080】
表4からわかるように、本発明の実施例1~5による溶融亜鉛メッキ鋼板では、フェライトの統計的に蓄積する転位密度は5.0×10
13/m
2~1×10
14/m
2の範囲内にあり、フェライトの硬度は180~230HVの範囲内にあり、分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HVの範囲内にある。分配処理マルテンサイトとフェライト硬度の比≦1.8。比較例1では、フェライトの統計的に蓄積する転位密度が本発明の範囲を超え、分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度の比>1.8。本発明の実施例ではメッキ性が良好で、メッキ層の品質が良好であるが、比較例1では、メッキ層の品質が悪い。
図3は本発明の実施例1における亜鉛層の接着力の測定結果を示し、
図4は比較例1における亜鉛層の接着力の測定結果を示すが、そのように、本発明の高穴広げ率・超高強度の溶融亜鉛メッキ鋼板では、メッキ層の品質と接着力が著しく高まり、測定中には亜鉛層の剥離欠陥が生じなかった。
【0081】
上記の内容は、具体的な実施態様による本発明のさらなる詳細な説明であるが、本発明の具体的な実施態様はこれらの記載に限定されることを意味しない。本発明が属する技術分野における通常の技術者にとって、本発明の概念から逸脱することなく、簡単な推論または置換を行うことができ、それらは本発明の保護範囲に属するものとみなされるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法であって、前記方法は、以下のステップを含む:
S1:スラブを熱間圧延して鋼板を得て、前記鋼板を巻取りした後に酸洗い・冷間圧延を行う;
S2:焼鈍温度を840~870℃とし、焼鈍露点を-10~0℃とし、≦10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで冷却し、さらに≧50℃/sの冷却速度で急冷終了温度220~320℃まで冷却し、再加熱温度410~460℃まで加熱し、20~100s保温する連続焼鈍を行う;
S3:亜鉛メッキを行う;前記亜鉛メッキ完了後に、室温まで冷却し、前記溶融亜鉛メッキ鋼板を得る;
ただし、前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物;
溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライトと、分配処理マルテンサイトと、準安定オーステナイトとからなり、体積比で、前記フェライトの相の割合は30~50%であり、前記分配処理マルテンサイトの相の割合は40~60%であり、前記準安定オーステナイトの相の割合は10~20%である、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記フェライトの統計的に蓄積する転位密度は5.0×10
13/m
2~1×10
14/m
2であり、前記フェライトの硬度は180~230HVであり、前記分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、前記分配処理マルテンサイトと前記フェライトの硬度の比≦1.8、請求項2に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である、請求項3に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ステップS1では、前記スラブに対し前記熱間圧延を行う前に、1230~1260℃の温度下で加熱・保温する、請求項
1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記ステップS1では、前記熱間圧延の圧延終了温度は920±30℃である、請求項
1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記ステップS1では、前記巻取りの温度は450~550℃であり、前記冷間圧延では、冷間圧延の歪み量は20~60%である、請求項
1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項8】
ステップS2では、2~10℃/sの冷却速度で急冷開始温度710~730℃まで冷却する、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項9】
ステップS2では、50~100℃/sの冷却速度で前記急冷開始温度から急冷終了温度220~320℃まで冷却する、請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度の比は1.4~1.8である、請求項3に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項11】
溶融亜鉛メッキ鋼板であって、前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、以下の質量パーセントの化学元素からなる:C:0.17~0.21wt%;Si:1.2~1.7wt%;Al:0.02~0.05%;Mn:1.60~2.1wt%;N:≦0.008wt%;残部としてのFeと不可避的不純物;
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の顕微組織はフェライトと、分配処理マルテンサイトと、準安定オーステナイトとからなり、体積比で、前記フェライトの相の割合は30~50%であり、前記分配処理マルテンサイトの相の割合は40~60%であり、前記準安定オーステナイトの相の割合は10~20%である、溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項12】
前記フェライトの統計的に蓄積する転位密度は5.0×10
13/m
2~1×10
14/m
2であり、前記フェライトの硬度は180~230HVであり、前記分配処理マルテンサイトの硬度は315~380HV、好ましくは320~380HVであり、前記分配処理マルテンサイトと前記フェライトの硬度の比≦1.8、請求項11に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項13】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板の降伏強度は400~600MPaであり、引張強度は730~900MPa、好ましくは780~900MPaであり、伸び率は25~35%であり、穴広げ率は35~60%である、請求項
11に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項14】
前記分配処理マルテンサイトとフェライトの硬度の比は1.4~1.8である、請求項12に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【請求項15】
前記溶融亜鉛メッキ鋼板は、請求項1と5~9のいずれ一項に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法により製造される、請求項1
1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板。
【国際調査報告】