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特表2024-522170オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240604BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240604BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240604BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C21D9/46 Q
C21D8/02 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575582
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 KR2022008454
(87)【国際公開番号】W WO2022270814
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】10-2021-0080002
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,サンソク
(72)【発明者】
【氏名】パク,ミナム
(72)【発明者】
【氏名】ジョ,キフン
【テーマコード(参考)】
4K032
4K037
【Fターム(参考)】
4K032AA04
4K032AA13
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA24
4K032AA25
4K032AA31
4K032BA01
4K032CF03
4K032CG01
4K032CG02
4K032CH04
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA12
4K037EA15
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA21
4K037EA27
4K037EB06
4K037EB09
4K037FB00
4K037FF03
4K037FF05
4K037FG01
4K037FJ05
4K037JA07
(57)【要約】
【課題】ベンディングされた部位に表面クラックがなく、表面粗さに優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなり、厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下であり、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率が10%以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなり、
厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下であり、180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率が10%以下であることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼
【請求項2】
前記ベンディングされた部位の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で0.5μm以下、十点平均粗さ(Rz)で3μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
30℃、3.5%NaCl溶液による孔食電位値が250mV以上であることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延する段階と、
常温で圧下率40%以上で冷間圧延する段階と、
下記式(1)で表されるΩ値が-10以上10以下を満たすように冷延焼鈍する段階と、を含むことを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
式(1):Ω=406-2127*[C]-26.2*[Mn]-31.5*[Ni]-127*[N]-48.2*[Nb]-0.108*Temp
(式(1)において、[C]、[Mn]、[Ni]、[N]、[Nb]は、各元素の重量%を意味し、Tempは、冷延焼鈍温度(℃)を意味する。)
【請求項5】
前記熱間圧延する段階後に焼鈍せずに冷間圧延することを特徴とする請求項4に記載のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、ベンディングされた部位に表面クラックがなく、表面粗さに優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にオーステナイト系ステンレス鋼は、優れた成形性、加工硬化能及び溶接性により運送用部品及び建築用部品など多様な用途に使用されている。しかし、304系ステンレス鋼または301系ステンレス鋼は、降伏強度が200~350MPaレベルに過ぎないので、構造物ヘの適用には限界がある。したがって、汎用300系ステンレス鋼においてより高い降伏強度を得るために、調質圧延工程を経ることが一般的な方法である。しかし、調質圧延工程を経る方法は、コスト上昇の問題とともに素材の伸び率が非常に劣るという問題がある。
【0003】
特許文献1では、平均結晶粒のサイズを10μm以下で製造するために600~700℃の範囲で48時間以上熱処理を行う方法が開示された。しかし、特許文献1に開示された方法は、実際の生産ラインで実施するには生産性が低く、製造コストが上昇するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-050940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題を解決するためになされた本発明の目標とするところは、ベンディング成形性及及びベンディング部の健全な表面性状を実現する超細粒製造技術を提示することにより、ベンディングされた部位の表面クラックがなく、表面粗さに優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなり、厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下であり、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率が10%以下であることを特徴とする。
【0007】
前記ベンディングされた部位の表面粗さが算術平均粗さ(Ra)で0.5μm以下、十点平均粗さ(Rz)で3μm以下であることがよい。
前記ステンレス鋼は、30℃、3.5%NaCl溶液による孔食電位値が250mV以上であることがよい。
【0008】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延する段階、常温で冷間圧延する段階、及び下記式(1)で表されるΩ値が-10以上10以下を満たすように冷延焼鈍する段階を含むことを特徴とする。
式(1):Ω=406-2127*[C]-26.2*[Mn]-31.5*[Ni]-127*[N]-48.2*[Nb]-0.108*Temp
式(1)において、[C]、[Mn]、[Ni]、[N]、[Nb]は、各元素の重量%を意味し、Tempは、冷延焼鈍温度(℃)を意味する。
【0009】
前記製造方法は、前記熱間圧延する段階後に焼鈍せずに冷間圧延することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施例によれば、ベンディング成形性及及びベンディング部の健全な表面性状を実現する超細粒製造技術によって、ベンディングされた部位の表面クラックがなく、表面粗さに優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】発明例5に対する180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面性状及び表面クラックの有無を示す写真である。
図2】比較例4に対する180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面性状及び表面クラックの有無を示す写真である。
図3】発明例5に対する180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面粗さを示す写真である。
図4】比較例14に対する180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面粗さを示す写真である。
図5】発明例5に対して後方散乱電子回折パターン分析器(EBSD)を通じて厚さ方向中心部の微細組織を撮影した写真である。
図6】発明例14に対して後方散乱電子回折パターン分析器(EBSD)を通じて厚さ方向中心部の微細組織を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなり、厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下であり、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率が10%以下であることが好ましい。
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な異なる形態に変形されてもよく、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当技術分野において平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本出願で使用される用語は、単に特定の例示を説明するために使用されるものである。したがって、例えば、単数の表現は、文脈上明らかに単数でなければならないものでない限り、複数の表現を含む。さらに、本出願で使用される「含む」または「備える」などの用語は、明細書上に記載された特徴、段階、機能、構成要素、またはそれらを組み合わせたものが存在することを明確に指すために使用されるものであり、他の特徴や段階、機能、構成要素またはそれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除するために使用されるものではないことに留意しなければならない。
【0014】
一方、特に定義のない限り、本明細書で使用されるすべての用語は、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者によって一般に理解されるのと同じ意味を持つものとみなすべきである。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定の用語が過度に理想的または形式的な意味で解釈されるべきではない。例えば、本明細書において単数の表現は、文脈上、明らかに例外のない限り、複数の表現を含む。
また、本明細書において「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるとき、その数値またはその数値に近い意味で使用され、本発明の理解を助けるために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために使用される。
【0015】
本発明の一例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りはFe及び不可避な不純物からなる。
以下、前記合金組成を限定した理由について具体的に説明する。
【0016】
C(炭素)の含量は、0.005~0.03%である。
Cは、オーステナイト相安定化元素である。これを考慮して、Cは0.005%以上添加されることがよい。しかし、Cの含量が過剰な場合には、低温焼鈍時にクロム炭化物を形成して粒界耐食性を低下させるという問題が発生する虞がある。これを考慮して、C含量の上限は、0.03%に制限されることがよい。
【0017】
Si(シリコン)の含量は、0.1~1.0%である。
Siは、製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であり、光輝焼鈍(Bright Annealing)工程を経る場合、不動態膜にSi酸化物を形成して鋼の耐食性を向上させる効果がある。これを考慮して、Siは、0.1%以上添加されることがよい。しかし、Siの含量が過剰な場合には、鋼の延性を低下させるという問題が発生する虞がある。これを考慮して、Si含量の上限は1.0%に制限されることがよい。
【0018】
Mn(マンガン)の含量は、0.1~2.0%である。
Mnは、オーステナイト相安定化元素である。これを考慮して、Mnは0.1%以上添加されることがよい。しかし、Mnの含量が過剰な場合には、耐食性を低下させるという問題が発生する虞がある。これを考慮して、Mn含量の上限は、2.0%に制限されることがよい。
【0019】
Ni(ニッケル)の含量は、6.0~12.0%である。
Niは、オーステナイト相安定化元素であり、鋼材を軟質化する効果がある。これを考慮して、Niは6.0%以上添加されることがよい。しかし、Ni含量が過剰である場合には、コストが上昇するという問題が発生する虞がある。これを考慮して、Ni含量の上限は、12.0%に制限されることがよい。
【0020】
Cr(クロム)の含量は、16.0~20.0%である。
Crは、ステンレス鋼の耐食性を改善するための主要な元素である。これを考慮して、Crは16.0%以上添加されることがよい。しかし、Crの含量が過剰な場合には、鋼材が硬質化し、冷間圧延時に変形有機マルテンサイト変態を抑制させるという問題が発生する虞がある。これを考慮して、Cr含量の上限は、20.0%に制限されることがよい。
【0021】
N(窒素)の含量は、0.01~0.2%である。
Nは、オーステナイト相安定化元素であり、鋼材の強度を向上させる。これを考慮して、Nは0.01%以上添加されることがよい。しかし、Nの含量が過剰な場合には、鋼材が硬質化し、熱間加工性が低下するという問題が発生する虞がある。これを考慮して、N含量の上限は、0.2%に制限されることがよい。
【0022】
Nb(ニオブ)の含量は、0.25%以下である。
Nbは、添加時にNb系z相析出物を形成して結晶粒の成長を抑制する効果がある。しかし、Nbの含量が過剰な場合には、コストが上昇するという問題が発生する虞がある。これを考慮して、Nb含量の上限は、0.25%に制限されることがよい。
【0023】
残りの成分は、鉄(Fe)である。更に、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が不可避的に混入することがあり、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば誰でも知ることができるので、そのすべての内容を特に本明細書で言及するものではない。
【0024】
本発明の一例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、前記合金成分組成比を制御することにより、厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下であり、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率が10%以下であることがよい。
一般に超細粒微細組織を実現するためには、オーステナイト相からマルテンサイト相に変態するTRIP変態を促進させる方法が用いられる。しかし、TRIP変態を促進させる方法を用いる場合には、冷間変形時の加工誘起マルテンサイト変態量が多くなる。その結果、素材の硬度が上昇し、素材を加工する場合には加工部分の表面性状が悪くなる虞がある。
したがって、本発明の一例によれば、C、Mn、Ni、N、Nbなどの合金成分組成比を制御することにより、超細粒微細組織を実現するとともに、ベンディング部で測定されるマルテンサイトの面積分率を下げて表面性状に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を提供することができる。
【0025】
以下、本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼の物性について詳細に説明する。
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の中心線平均粗さ(Ra)は、0.5μm以下であり、十点平均粗さ(Rz)は、3μm以下であることがよい。前記180°ベンディング実験は、ベンディング部曲率R値が素材の厚さと同一であり、1回曲げを行う方法で進行されることがよい。
孔食電位(pitting potential)は、不動態化した金属材料に孔状に腐食が発生する臨界電位であり、本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、NaCl溶液に浸漬して電位を印加して孔食が発生する電位(pitting potential)を測定した結果が250mV以上であることがよい。ここで、前記NaCl溶液の温度は30℃であり、濃度は3.5%である。
【0026】
以下、本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法について詳細に説明する。
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.005~0.03%、Si:0.1~1%、Mn:0.1~2%、Ni:6~12%、Cr:16~20%、N:0.01~0.2%、Nb:0.25%以下、残りのFe及び不可避な不純物からなるスラブを熱間圧延した後、常温で冷間圧延する段階及び下記式(1)で表されるΩ値が-10以上10以下を満たすように冷延焼鈍する段階を含むことがよい。
式(1):Ω=406-2127*[C]-26.2*[Mn]-31.5*[Ni]-127*[N]-48.2*[Nb]-0.108*Temp
式(1)において、[C]、[Mn]、[Ni]、[N]、[Nb]は、各元素の重量%を意味し、Tempは、冷延焼鈍温度(℃)を意味する。
【0027】
各合金元素の成分範囲を限定した理由は、上述した通りであり、以下の製造段階についてより詳細に説明する。
前記合金組成を有するスラブは、熱間圧延工程を通じて熱間圧延材に製造されてもよい。その後、前記熱間圧延材は、常温で冷間圧延して冷間圧延材に製造することができる。
【0028】
次に、前記製造された冷間圧延材は、冷延焼鈍される。冷延焼鈍は、前記式(1)で表されるΩ値が-10以上10以下を満たすために、前記冷延焼鈍は、700~850℃の範囲で行われることがよい。
冷延焼鈍の温度が700℃未満の場合には再結晶が十分でないため、延伸率が低くなる。一方、冷延焼鈍の温度が850℃を超える場合には、粒子が粗大化して5μm以下の超細粒粒子が形成されにくいため、オーステナイト系ステンレス鋼のベンディングされた部位の表面クラックが発生し、表面粗さが不良となるという問題が発生する虞がある。
【0029】
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、熱間圧延した後、焼鈍せずに冷間圧延してもよい。熱間圧延後に別途の焼鈍過程を経ない場合には生産性が高まり、製造原価が節減できる。
以下、本発明の好ましい実施例を通じてより詳細に説明する。
【実施例
【0030】
下記表1の成分を有するスラブを熱間圧延した後、1000~1150℃で焼鈍を行うか、または焼鈍を行わずに、常温で総板厚減少率40%以上で冷間圧延した。その後、700~850℃の範囲で焼鈍して冷延焼鈍材を製造した。
前記製造された冷延焼鈍材の式(1)の値を下記表1に示した。以下の表1において、式(1)の値は、式(1):Ω=406-2127*[C]-26.2*[Mn]-31.5*[Ni]-127*[N]-48.2*[Nb]-0.108*Tempで定義されるパラメータから導出された値を意味する。
前記式(1)において、[C]、[Mn]、[Ni]、[N]、[Nb]は、各元素の重量%を意味し、Tempは、冷延焼鈍温度(℃)を意味する。
【0031】
【表1】
【0032】
上記で製造された冷延焼鈍材から0.1~3.0mm厚の試片を作製した。その後、前記試片について厚さ方向中心部の平均結晶粒のサイズ(d)、孔食電位、ベンディング部のマルテンサイト面積分率、ベンディング部のクラック、ベンディング部の性状、ベンディング部の中心線平均粗さ(Ra)及びベンディング部の十点平均粗さ(Rz)を測定した結果を以下の表2に示した。
平均結晶粒のサイズ(d)は、モデル名がe-Flash FSである後方散乱電子回折パターン分析器(Electron Backscatter Diffraction:EBSD)を用いて厚さ方向中心部の方位を分析して測定した。
【0033】
孔食電位とは、NaCl溶液に浸漬して電位を印加して孔食が発生する電位値を意味する。NaCl溶液は、温度が30℃であり、濃度が3.5%の溶液を使用した。
ベンディング部のマルテンサイト面積分率(%)は、180°ベンディング実施後、ベンディング部でのマステンサイト面積分率(%)を意味する。マルテンサイト面積分率(%)は、モデル名がFMP30であるフェライト含有量測定器を使用して測定した。
ベンディング部のクラック、ベンディング部の性状、ベンディング部の中心線平均粗さ(Ra)及びベンディング部の十点平均粗さ(Rz)は、180°ベンディング実施後に測定した。180°ベンディング実験は、ベンディング部曲率(R)値が冷延焼鈍材の厚みと同一であり、1回曲げを行う方法で行った。
【0034】
下記表2のベンディング部のクラックにおいて、「○」はベンディング部のクラックがなく、形状が良好な場合を意味する。「×」は、ベンディング部のクラックが発生した場合を意味する。
下記表2のベンディング部の性状において、「○」はベンディング部の性状が良好な場合を意味する。「×」は、ベンディング部の性状が不良な場合を意味する。
【0035】
【表2】
【0036】
前記表1及び2を参照すると、発明例1~13は、いずれも式(1)のΩ値が-10以上10以下の条件を満たす範囲を有し、平均結晶粒のサイズ(d)値が5μm以下の条件を満たした。また、発明例1~13は、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率(%)が10%以下であった。
これにより、発明例1~13は、いずれもベンディングされた部位で表面クラックが発生せず、表面粗さは、中心線平均粗さ(Ra)が0.5μm以下、十点平均粗さ(Rz)が3μm以下で、良好な表面部性状を有していた。
【0037】
一方、比較例1~11は、式(1)のΩ値が-10以上10以下の条件を満たさず、180°ベンディング実施後のベンディングされた部位で測定されるマルテンサイト面積分率(%)が10%を超えた。これにより、比較例1~11では、ベンディングされた部位で表面クラックが発生した。
比較例12~14は、素材を軟質化させることができるNiが比較例1~11に比べてさらに添加されたことにより、ベンディングされた部位に表面クラックは発生しなかった。しかし、比較例12~14は、冷延焼鈍温度が低く、バンド形態の未再結晶部分が発生した。したがって、比較例12~14は、ベンディングされた部位の表面粗さが中心線平均粗さ(Ra)で1.16~3.92μm、十点平均粗さ(Rz)で7.05~16.20μmと測定され、表面部の性状が不良であった。
【0038】
図1及び図2は、発明例と比較例の180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面クラックの有無を比較するための写真である。図1は、発明例5に対する写真であり、図2は、比較例4に対する写真である。図1及び図2を比較すると、本発明の発明例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、表面クラックが発生していないことが確認できる。
【0039】
図3及び図4は、発明例と比較例の180°ベンディング実施後、ベンディングされた部位の表面性状を比較するための写真である。図3は、発明例5に対する写真であり、図4は、比較例14に対する写真である。図3及び図4を比較すると、本発明の発明例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、表面性状が良好であることが確認できる。
【0040】
図5及び図6は、発明例と比較例に対して後方散乱電子回折パターン分析器(EBSD)を通じて厚さ方向中心部微細組織を撮影した写真である。図5は、発明例5に対する写真であり、図6は、比較例14に対する写真である。図5及び図6を比較すると、本発明の発明例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、バンド形態の未再結晶部分がない超細粒粒子であることが確認できる。
【0041】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、当該技術分野で通常の知識を有する者であれば、以下に記載する請求範囲の概念と範囲から逸脱しない範囲内で、様々な変更及び変形が可能であることが理解できるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の一例によれば、ベンディング成形性及及びベンディング部の健全な表面性状を実現する超細粒製造技術を通じて、ベンディングされた部位に表面クラックがなく、表面粗さに優れたオーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】