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特表2024-522179免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法
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  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図1
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図2
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図3
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図4
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図5
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図6A
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図6B
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図6C
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図6D
  • 特表-免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】免疫エフェクタ細胞の活性化および標的化のための薬剤および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240604BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240604BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240604BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240604BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240604BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20240604BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240604BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240604BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240604BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20240604BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K35/17 ZNA
A61K48/00
A61K9/14
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C12N15/88 Z
C12N15/11 Z
C12N5/10
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575763
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-08
(86)【国際出願番号】 EP2022065596
(87)【国際公開番号】W WO2022258711
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2021/065290
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516294849
【氏名又は名称】バイオエヌテック セル アンド ジーン セラピーズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】BIONTECH CELL & GENE THERAPIES GMBH
【住所又は居所原語表記】An der Goldgrube 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】ウーステフーベ-ラウシュ, ジョイセリン
(72)【発明者】
【氏名】シュモルト, ハンス-ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】レングストル, ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ビルテル, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】オーム, ペトラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C076AA29
4C076CC27
4C084AA13
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA13
4C085BB31
4C085DD61
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA86
4H045EA20
(57)【要約】
本発明は、免疫エフェクタ細胞の活性化および活性化された免疫エフェクタ細胞の標的細胞への標的化送達のための薬剤および方法に関する。一実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に提供することを含む。一実施形態では、本発明は、CARに対する結合部分を含むペプチドまたはポリペプチド(活性化化合物)をコードするRNAを投与すること、および標的細胞に結合する結合部分(一次標的化部分)とCARに対するさらなる結合部分(二次標的)とを含むペプチドまたはポリペプチド(ドケッティング化合物)をコードするRNAを投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的抗原を発現する細胞を特徴とする疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を前記対象に提供すること;
(ii)前記CARに対する結合部分を含む第1のペプチドまたはポリペプチドをコードする第1のRNAを前記対象に投与すること;
(iii)前記CARに対する結合部分が前記免疫エフェクタ細胞による結合に利用可能であり、前記結合が前記免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらすように、前記対象における抗原提示細胞による前記第1のペプチドまたはポリペプチドの発現を可能にすること;
(iv)前記標的抗原に結合する結合部分と前記CARに対する結合部分とを含む第2のペプチドまたはポリペプチドをコードする第2のRNAを前記対象に投与すること;および
(v)前記第2のペプチドまたはポリペプチドが前記標的抗原を発現する細胞と会合し、前記CARに対する結合部分が前記免疫エフェクタ細胞による結合に利用可能であるように、前記対象における細胞による前記第2のペプチドまたはポリペプチドの発現を可能にすること
を含む、方法。
【請求項2】
前記抗原提示細胞が前記第1のRNAでトランスフェクトされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のRNAが、リポプレックス粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する細胞が、前記第2のRNAでトランスフェクトされる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のRNAが、脂質ナノ粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗原提示細胞が、前記第1のペプチドまたはポリペプチドが前記抗原提示細胞と会合したままであるように前記第1のペプチドまたはポリペプチドを発現する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のペプチドまたはポリペプチドが膜ペプチドまたはポリペプチドである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のペプチドまたはポリペプチドが、前記CARに対する結合部分と膜ペプチドまたはポリペプチドとの融合タンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記標的抗原を発現する細胞と会合した前記第2のペプチドまたはポリペプチドへの前記免疫エフェクタ細胞の結合が、前記標的抗原を発現する細胞の死滅をもたらす、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する前記細胞が、前記第2のペプチドまたはポリペプチドを分泌する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する前記細胞が、前記第2のペプチドまたはポリペプチドが血流中に放出されるように前記第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記標的抗原が細胞表面抗原である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドが、前記標的抗原に結合する前記結合部分と前記CARに対する前記結合部分との融合ペプチドまたはポリペプチドである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記標的抗原に結合する前記結合部分が、抗体または抗体誘導体を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記CARに対する前記結合部分がペプチドタグを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記CARが抗体または抗体誘導体を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記抗体誘導体が抗体断片である、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
CARを発現するように遺伝子改変された前記免疫エフェクタ細胞を前記対象に投与することを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
CARを発現するように遺伝子改変された前記免疫エフェクタ細胞を前記対象において生成することを含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患、障害または状態が癌である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
標的抗原を発現する前記細胞が疾患細胞である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
標的抗原を発現する前記細胞が癌細胞である、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記標的抗原が腫瘍抗原である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
標的抗原を発現する細胞を特徴とする疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を前記対象に提供すること;
(ii)前記CARが結合するペプチドタグを細胞外ドメインに含む膜タンパク質である第1のペプチドまたはポリペプチドが前記対象の抗原提示細胞で発現されるように、前記第1のペプチドまたはポリペプチドをコードする第1のRNAを前記対象に投与すること;および
(iii)前記標的抗原に結合する結合部分と前記CARが結合するペプチドタグとを含む第2のペプチドまたはポリペプチドが前記対象の細胞において発現され、前記対象の細胞によって分泌されるように、前記第2のペプチドまたはポリペプチドをコードする第2のRNAを前記対象に投与すること
を含む、方法。
【請求項25】
前記第1のペプチドまたはポリペプチドへの前記免疫エフェクタ細胞の結合が、前記免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらす、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
標的抗原に結合した前記第2のペプチドまたはポリペプチドへの前記免疫エフェクタ細胞の結合が、前記標的抗原を発現する細胞の死滅をもたらす、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記抗原提示細胞が前記第1のRNAでトランスフェクトされる、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のRNAが、リポプレックス粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する前記細胞が前記第2のRNAでトランスフェクトされる、請求項24~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記第2のRNAが、脂質ナノ粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される、請求項24~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記抗原提示細胞が、前記第1のペプチドまたはポリペプチドが前記抗原提示細胞と会合したままであるように前記第1のペプチドまたはポリペプチドを発現する、請求項24~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記第1のペプチドまたはポリペプチドが、前記CARが結合するペプチドタグと膜ペプチドまたはポリペプチドとの融合タンパク質である、請求項24~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドが血流中に分泌される、請求項24~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記標的抗原が細胞表面抗原である、請求項24~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第2のペプチドまたはポリペプチドが、前記標的抗原に結合する前記結合部分と前記CARが結合するペプチドタグとの融合ペプチドまたはポリペプチドである、請求項24~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記標的抗原に結合する前記結合部分が、抗体または抗体誘導体を含む、請求項24~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記CARが抗体または抗体誘導体を含む、請求項24~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記抗体誘導体が抗体断片である、請求項36または37に記載の方法。
【請求項39】
CARを発現するように遺伝子改変された前記免疫エフェクタ細胞を前記対象に投与することを含む、請求項24~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
CARを発現するように遺伝子改変された前記免疫エフェクタ細胞を前記対象において生成することを含む、請求項24~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記疾患、障害または状態が癌である、請求項24~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
標的抗原を発現する前記細胞が疾患細胞である、請求項24~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
標的抗原を発現する前記細胞が癌細胞である、請求項24~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記標的抗原が腫瘍抗原である、請求項24~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
(i)ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように免疫エフェクタ細胞を遺伝子改変するための核酸、またはペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞;
(ii)前記CARが結合するペプチドタグを細胞外ドメインに含む膜タンパク質である第1のペプチドもしくはポリペプチドをコードする第1のRNA、または前記第1のRNAを得るための核酸;ならびに任意に、
(iii)標的抗原に結合する結合部分と前記CARが結合するペプチドタグとを含む第2のペプチドもしくはポリペプチドをコードする第2のRNA、または前記第2のRNAを得るための核酸
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫エフェクタ細胞の活性化および活性化された免疫エフェクタ細胞の標的細胞への標的化送達のための薬剤および方法に関する。一実施形態では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に提供することを含む。一実施形態では、本発明は、CARに対する結合部分を含むペプチドまたはポリペプチド(活性化化合物)をコードするRNAを投与すること、および標的細胞に結合する結合部分(一次標的化部分)とCARに対するさらなる結合部分(二次標的)とを含むペプチドまたはポリペプチド(ドケッティング化合物)をコードするRNAを投与することを含む。一実施形態では、活性化化合物をコードするRNAは、その細胞表面上の抗原提示細胞によって発現される。活性化化合物の発現後、CARに対する結合部分は、免疫エフェクタ細胞による結合に利用可能であり得、前記結合は免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらし得る。一実施形態では、ドケッティング化合物をコードするRNAは、肝細胞などの対象の細胞によって発現および分泌される。ドケッティング化合物の発現後、一次標的化部分は、癌細胞上の癌抗原などの標的抗原に結合し得、次いで免疫エフェクタ細胞は二次標的を標的化して、それによって免疫エフェクタ細胞を癌細胞などの標的細胞に正確に送達し得る。活性化化合物に含まれるCARに対する結合部分およびドケッティング化合物に含まれるCARに対する結合部分は、ペプチドタグであってもよく、および/または同一であっても異なっていてもよい。
【背景技術】
【0002】
薬物療法および診断の多くの領域では、治療薬(薬物)または診断(例えばイメージング)薬などの薬剤を、患者などの対象の体内の特定の部位または限定された領域に選択的に送達することが望ましい。
【0003】
器官または組織の能動的標的化は、所望の活性部分(例えば細胞傷害性化合物)を、目的の標的部位で細胞表面に結合する標的化構築物に直接的または間接的にコンジュゲートすることによって達成され得る。そのような薬剤を標的化するために使用される標的化部分は、典型的には、細胞表面標的、例えば膜タンパク質に対する親和性を有する構築物であり、抗体または抗体断片を含む。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、例えば一次標的(例えば細胞表面抗原)に結合することによって標的細胞を標識する、RNAにコードされたドケッティング化合物を使用するアプローチに関する。ドケッティング化合物は、二次標的を標的化する抗原受容体を備えた免疫エフェクタ細胞によって最終的に標的化される二次標的を含む。したがって、本発明によれば、ドケッティング化合物をコードするRNAが投与される。RNAが発現された後、ドケッティング化合物は、例えば一次標的に結合することによって、標的細胞に結合し得る。免疫エフェクタ細胞は、それらの抗原受容体を介してドケッティング化合物上の二次標的に結合する。さらに、本発明によれば、活性化化合物をコードするRNAが投与される。RNAが発現された後、活性化化合物は、抗原提示細胞の細胞表面に存在し得、免疫エフェクタ細胞によって結合され得る部分を細胞表面に提示し得る。免疫エフェクタ細胞は、それらの抗原受容体を介して結合部分に結合し、前記結合は免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらす。本明細書に記載の概念は、広範囲の標的細胞を標的とするために単一の種類の免疫エフェクタ細胞を使用することを可能にする、すなわち、異なる一次標的を標的とし、かつ同一の二次標的を含む異なるドケッティング化合物と組み合わせて、単一の種類の免疫エフェクタ細胞および任意で単一の種類の活性化化合物を使用することによって、可能にする。
【0005】
一態様では、本発明は、標的抗原を発現する細胞を特徴とする疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に提供すること;
(ii)CARに対する結合部分を含む第1のペプチドまたはポリペプチドをコードする第1のRNAを対象に投与すること;
(iii)CARに対する結合部分が免疫エフェクタ細胞による結合に利用可能であり、前記結合が免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらすように、対象における抗原提示細胞による第1のペプチドまたはポリペプチドの発現を可能にすること;
(iv)標的抗原に結合する結合部分とCARに対する結合部分とを含む第2のペプチドまたはポリペプチドをコードする第2のRNAを対象に投与すること;および
(v)第2のペプチドまたはポリペプチドが標的抗原を発現する細胞と会合し、CARに対する結合部分が免疫エフェクタ細胞による結合に利用可能であるように、対象における細胞による第2のペプチドまたはポリペプチドの発現を可能にすること
を含む方法に関する。
【0006】
いくつかの実施形態では、抗原提示細胞は第1のRNAでトランスフェクトされる。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1のRNAは、リポプレックス粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される。
【0008】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する細胞は、第2のRNAでトランスフェクトされる。
【0009】
いくつかの実施形態では、第2のRNAは、脂質ナノ粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗原提示細胞は、第1のペプチドまたはポリペプチドが抗原提示細胞と会合したままであるように第1のペプチドまたはポリペプチドを発現する。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1のペプチドまたはポリペプチドは、膜ペプチドまたはポリペプチドである。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1のペプチドまたはポリペプチドは、CARに対する結合部分と膜ペプチドまたはポリペプチドとの融合タンパク質である。
【0013】
いくつかの実施形態では、標的抗原を発現する細胞と会合した第2のペプチドまたはポリペプチドへの免疫エフェクタ細胞の結合は、標的抗原を発現する細胞の死滅をもたらす。
【0014】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する細胞は、第2のペプチドまたはポリペプチドを分泌する。
【0015】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する細胞は、第2のペプチドまたはポリペプチドが血流中に放出されるように第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する。
【0016】
いくつかの実施形態では、標的抗原は細胞表面抗原である。
【0017】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドは、標的抗原に結合する結合部分とCARに対する結合部分との融合ペプチドまたはポリペプチドである。
【0018】
いくつかの実施形態では、標的抗原に結合する結合部分は、抗体または抗体誘導体を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、CARに対する結合部分はペプチドタグを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、CARは抗体または抗体誘導体を含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、抗体誘導体は抗体断片である。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に投与することを含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象においてCARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を生成することを含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、疾患、障害または状態は癌である。
【0025】
いくつかの実施形態では、標的抗原を発現する細胞は疾患細胞である。
【0026】
いくつかの実施形態では、標的抗原を発現する細胞は癌細胞である。
【0027】
いくつかの実施形態では、標的抗原は腫瘍抗原である。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、標的抗原を発現する細胞を特徴とする疾患、障害または状態を有する対象を治療するための方法であって、
(i)ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に提供すること;
(ii)CARが結合するペプチドタグを細胞外ドメインに含む膜タンパク質である第1のペプチドまたはポリペプチドが対象の抗原提示細胞で発現されるように、第1のペプチドまたはポリペプチドをコードする第1のRNAを対象に投与すること;および
(iii)標的抗原に結合する結合部分とCARが結合するペプチドタグとを含む第2のペプチドまたはポリペプチドが対象の細胞において発現され、対象の細胞によって分泌されるように、第2のペプチドまたはポリペプチドをコードする第2のRNAを対象に投与すること
を含む方法に関する。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1のペプチドまたはポリペプチドへの免疫エフェクタ細胞の結合は、免疫エフェクタ細胞の拡大をもたらす。
【0030】
いくつかの実施形態では、標的抗原に結合した第2のペプチドまたはポリペプチドへの免疫エフェクタ細胞の結合は、標的抗原を発現する細胞の死滅をもたらす。
【0031】
いくつかの実施形態では、抗原提示細胞は第1のRNAでトランスフェクトされる。
【0032】
いくつかの実施形態では、第1のRNAは、リポプレックス粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される。
【0033】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドを発現する細胞は、第2のRNAでトランスフェクトされる。
【0034】
いくつかの実施形態では、第2のRNAは、脂質ナノ粒子として製剤化されるような粒子製剤として投与される。
【0035】
いくつかの実施形態では、抗原提示細胞は、第1のペプチドまたはポリペプチドが抗原提示細胞と会合したままであるように第1のペプチドまたはポリペプチドを発現する。
【0036】
いくつかの実施形態では、第1のペプチドまたはポリペプチドは、CARが結合するペプチドタグと膜ペプチドまたはポリペプチドとの融合タンパク質である。
【0037】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドは血流中に分泌される。
【0038】
いくつかの実施形態では、標的抗原は細胞表面抗原である。
【0039】
いくつかの実施形態では、第2のペプチドまたはポリペプチドは、標的抗原に結合する結合部分とCARが結合するペプチドタグとの融合ペプチドまたはポリペプチドである。
【0040】
いくつかの実施形態では、標的抗原に結合する結合部分は、抗体または抗体誘導体を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、CARは抗体または抗体誘導体を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、抗体誘導体は抗体断片である。
【0043】
いくつかの実施形態では、本方法は、CARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を対象に投与することを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、本方法は、対象においてCARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞を生成することを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、疾患、障害または状態は癌である。
【0046】
いくつかの実施形態では、標的抗原を発現する細胞は疾患細胞である。
【0047】
いくつかの実施形態では、標的抗原を発現する細胞は癌細胞である。
【0048】
いくつかの実施形態では、標的抗原は腫瘍抗原である。
【0049】
さらなる態様では、本発明は、
(i)ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように免疫エフェクタ細胞を遺伝子改変するための核酸、またはペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞;
(ii)CARが結合するペプチドタグを細胞外ドメインに含む膜タンパク質である第1のペプチドもしくはポリペプチドをコードする第1のRNA、または前記第1のRNAを得るための核酸;ならびに任意に、
(iii)標的抗原に結合する結合部分とCARが結合するペプチドタグとを含む第2のペプチドもしくはポリペプチドをコードする第2のRNA、または前記第2のRNAを得るための核酸
を含むキットに関する。
【0050】
ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように免疫エフェクタ細胞を遺伝子改変するための核酸、ペプチドタグに結合するキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞、第1のRNA、第1のペプチドもしくはポリペプチド、第2のRNAおよび/または第2のペプチドもしくはポリペプチドの実施形態を、例えば本発明の方法との関連において、本明細書に記載する。
【0051】
一態様では、本発明は、本明細書に記載の方法において使用するための本明細書に記載の薬剤または組成物(例えば、免疫エフェクタ細胞を遺伝子改変するための核酸、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞、第1のRNA、第2のRNAおよび/またはキット)に関する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】モジュラーCAR-T細胞アプローチ 図は、ALFAタグ/NbALFAの例におけるモジュール相互作用対に基づくユニバーサルCAR-Tアプローチの概略図を含む。本明細書では、その表面にタグ結合部分(例えばNbALFA VHH)を担持する、一般的で容易に生成可能なCART細胞を作製する(1)。これらのCAR-T細胞を患者に投与し、膜アンカータンパク質ドメインに融合されたタグをコードするRNAリポプレックスを介してインビボで特異的に拡大させることができる(例えば切断型CLDN6)(2)。腫瘍抗原特異的リガンド(例えばscFv、VHHまたはFab断片)に融合したALFAタグからなる第2の結合部分、いわゆる標的化リガンド(TL)を、脂質ナノ粒子に製剤化されたRNAとして患者に投与する(3)。RNAは、インビボで二重特異性タンパク質に翻訳され、血流中に放出される。標的化リガンドが特定の腫瘍抗原へのその特異的結合に基づいて腫瘍中に蓄積された後、NbALFA-CAR T細胞によって結合され、結果として活性化されて腫瘍細胞の特異的溶解をもたらす(4)。異なる標的化リガンドを使用することによって、異なる腫瘍抗原が、患者の同じCART細胞産物を使用して連続的にまたは並行して対処され得る。
図2】アダプタはCAR+エフェクタ細胞に結合する Jurkat T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAでトランスフェクトした。モジュラーCAR発現細胞を可溶性アダプタで武装させ、アダプタ特異的抗体で染色した。図は、モジュラーCAR発現細胞の表面におけるアダプタ検出の頻度および強度を表す。
図3】初代ヒトT細胞はモジュラーCARを発現することができる 初代ヒトT細胞を活性化し、続いてmRNAを使用してモジュラーCARを発現するように操作した。CAR分子を染色し、フローサイトメトリ法を用いて発現を検出した。
図4】モジュラーCARを発現する初代ヒトT細胞を可溶性アダプタで武装させることができる モジュラーCAR T細胞を、核酸トランスフェクト細胞によって生成された可溶性アダプタ(100nM)で武装させた。アダプタを特異的抗体で染色し、フローサイトメトリ法を用いて発現を検出した。図は、モジュラーCAR発現T細胞の表面におけるアダプタ検出の頻度および強度を表す。
図5】モジュラーCAR-Tプラットフォームは腫瘍細胞溶解を媒介する アダプタで武装したモジュラーCAR T細胞を抗原陽性(Ag+)腫瘍細胞と共培養した。CAR-T細胞応答を、インピーダンスに基づく細胞傷害性方法を用いて評価した。細胞傷害性を、非mRNAトランスフェクトT細胞と共に培養した腫瘍細胞に対して正規化した。
図6A】iDCにトランスフェクトされたユニバーサル抗原によって刺激されたモジュラーCAR媒介増殖 ヒト未成熟樹状細胞に、膜アンカー結合部分をコードするmRNAをトランスフェクトした。同時に、T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAでトランスフェクトし、増殖色素で染色した。モジュラーCAR-T細胞およびCARVac発現iDCを共培養した。図6Aおよび図6Bでは、膜アンカー結合部分はALFAペプチドを含み、CARはVHH(aALFA)を含む。図6Aは、iDC上のそれらの標的との遭遇に応答した、アダプタで武装した操作されたCAR-T細胞の増殖を示す。図6Aと同様に、モジュラーCAR発現ヒトT細胞の増殖を測定する。ここで、モジュラーCARは、iDCの表面に発現されるその標的抗原に対する親和性が図6Aで使用されるVHH(aALFA)PE CARよりも高い、VHH(aALFA)配列番号30を使用した。
図6B】iDCにトランスフェクトされたユニバーサル抗原によって刺激されたモジュラーCAR媒介増殖 ヒト未成熟樹状細胞に、膜アンカー結合部分をコードするmRNAをトランスフェクトした。同時に、T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAでトランスフェクトし、増殖色素で染色した。モジュラーCAR-T細胞およびCARVac発現iDCを共培養した。図6Aおよび図6Bでは、膜アンカー結合部分はALFAペプチドを含み、CARはVHH(aALFA)を含む。図6Aは、iDC上のそれらの標的との遭遇に応答した、アダプタで武装した操作されたCAR-T細胞の増殖を示す。図6Aと同様に、モジュラーCAR発現ヒトT細胞の増殖を測定する。ここで、モジュラーCARは、iDCの表面に発現されるその標的抗原に対する親和性が図6Aで使用されるVHH(aALFA)PE CARよりも高い、VHH(aALFA)配列番号30を使用した。
図6C】iDCにトランスフェクトされたユニバーサル抗原によって刺激されたモジュラーCAR媒介増殖 図6Cおよび図6Dでは、膜アンカー結合部分はVHH(aALFA)を含み、CARはALFAペプチドを含む。
図6D】iDCにトランスフェクトされたユニバーサル抗原によって刺激されたモジュラーCAR媒介増殖 図6Cおよび図6Dでは、膜アンカー結合部分はVHH(aALFA)を含み、CARはALFAペプチドを含む。
図7】CD19特異的アダプタを負荷したモジュラーALFA CAR-T細胞は、CD19トランスフェクトiDCまたは初代ヒトB細胞に対する増殖を媒介する ヒト初代T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAでトランスフェクトし、増殖色素で染色した。モジュラーCAR T細胞を、B細胞(CD19+)またはCD19 mRNAトランスフェクトiDCと共培養した。増殖をフローサイトメトリによって評価した。
【発明を実施するための形態】
【0053】
配列表
配列の説明
以下の表は、本明細書で参照される特定の配列のリストを提供する。
【0054】
【表1】
【0055】
詳細な説明
本開示を以下で詳細に説明するが、この開示は本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されず、これらは異なり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図するものではなく、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0056】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”,H.G.W.Leuenberger,B.Nagel,and H.Kolbl,Eds.,Helvetica Chimica Acta,CH-4010 Basel,Switzerland,(1995)に記載されているように定義される。
【0057】
本開示の実施は、特に指示されない限り、当分野の文献(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition,J.Sambrook et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor 1989を参照)で説明されている化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組換えDNA技術の従来の方法を用いる。
【0058】
以下において、本開示の要素を説明する。これらの要素を特定の実施形態と共に列挙するが、それらは、さらなる実施形態を創出するために任意の方法および任意の数で組み合わせてもよいことが理解されるべきである。様々に説明される例および実施形態は、本開示を明示的に記載される実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載される実施形態を任意の数の開示される要素と組み合わせた実施形態を開示し、包含すると理解されるべきである。さらに、記述される全ての要素の任意の並び替えおよび組合せは、文脈上特に指示されない限り、この説明によって開示されていると見なされるべきである。
【0059】
「約」という用語は、およそまたはほぼを意味し、本明細書に記載の数値または範囲の文脈において、一実施形態では、列挙または特許請求される数値または範囲の±20%、±10%、±5%、または±3%を意味する。
【0060】
本開示を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)使用される「1つの」(”a” and “an”)および「その」(”the”)という用語ならびに同様の言及は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、単に、その範囲内に入る各々別個の値を個別に言及することの簡略方法として機能することが意図されている。本明細書で特に指示されない限り、各個々の値は、本明細書で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるありとあらゆる例または例示的言語(例えば「など」)の使用は、単に本開示をよりよく説明することを意図しており、特許請求の範囲に限定を課すものではない。本明細書中のいかなる言語も、本開示の実施に不可欠な特許請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0061】
特に明記されない限り、「含む」という用語は、本明細書の文脈において、「含む」によって導入されたリストのメンバーに加えて、さらなるメンバーが任意に存在し得ることを示すために使用される。しかしながら、「含む」という用語は、さらなるメンバーが存在しない可能性を包含することが本開示の特定の実施形態として企図され、すなわち、この実施形態の目的のためには、「含む」は、「からなる」または「から本質的になる」の意味を有すると理解されるべきである。
【0062】
本明細書の本文全体を通していくつかの資料を引用する。本明細書で引用される各資料(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、説明書などを含む)は、上記または下記のいずれでも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本開示がそのような開示に先行する権利を有しなかったことの承認と解釈されるべきではない。
【0063】
定義
以下において、本開示の全ての態様に適用される定義を提供する。以下の用語は、特に指示されない限り、以下の意味を有する。定義されていない用語は、それらの技術分野で広く認められている意味を有する。
【0064】
本明細書で使用される「低減する」、「減少させる」、「阻害する」または「損なう」などの用語は、好ましくは少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%またはさらにそれ以上のレベルの全体的な低下または全体的な低下を生じさせる能力に関する。これらの用語には、完全なまたは本質的に完全な阻害、すなわちゼロまたは本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0065】
「増加させる」、「増強する」または「超える」などの用語は、好ましくは、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、またはさらにそれ以上の増加または増強に関する。
【0066】
本開示によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合によって互いに連結された約2個以上、約3個以上、約4個以上、約6個以上、約8個以上、約10個以上、約13個以上、約16個以上、約20個以上、および最大約50個、約100個または約150個までの連続するアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」または「ポリペプチド」という用語は、大きなペプチド、特に少なくとも約150個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0067】
アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)に関して、「断片」は、アミノ酸配列の一部、すなわちN末端および/またはC末端で短縮されたアミノ酸配列である配列に関する。C末端で短縮された断片(N末端断片)は、例えば、オープンリーディングフレームの3’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。N末端で短縮された断片(C末端断片)は、例えば、トランケートされたオープンリーディングフレームが翻訳を開始するように働く開始コドンを含む限り、オープンリーディングフレームの5’末端を欠くトランケートされたオープンリーディングフレームの翻訳によって得ることができる。アミノ酸配列の断片は、例えば、アミノ酸配列からのアミノ酸残基の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%を含む。アミノ酸配列の断片は、好ましくは、アミノ酸配列からの少なくとも6個、特に少なくとも8個、少なくとも12個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも50個、または少なくとも100個の連続するアミノ酸を含む。
【0068】
本明細書における「変異体」とは、少なくとも1つのアミノ酸修飾によって親アミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を意味する。親アミノ酸配列は、天然もしくは野生型(WT)アミノ酸配列であり得るか、または野生型アミノ酸配列の改変形態であり得る。好ましくは、変異体アミノ酸配列は、親アミノ酸配列と比較して少なくとも1つのアミノ酸修飾、例えば、親と比較して1~約20個のアミノ酸修飾、好ましくは1~約10個または1~約5個のアミノ酸修飾を有する。
【0069】
本明細書における「野生型」または「WT」または「天然」とは、対立遺伝子変異を含む、自然界で見出されるアミノ酸配列を意味する。野生型アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質は、意図的に改変されていないアミノ酸配列を有する。
【0070】
本開示の目的のために、アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸付加変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。「変異体」という用語は、全ての突然変異体、スプライス変異体、翻訳後修飾変異体、立体配座変異体、アイソフォーム変異体、対立遺伝子変異体、種変異体、および種ホモログ、特に天然に存在するものを含む。「変異体」という用語は、特にアミノ酸配列の断片を含む。
【0071】
アミノ酸挿入変異体は、特定のアミノ酸配列中に単一または2つ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1個以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列の特定の部位に挿入されるが、得られた産物の適切なスクリーニングを伴うランダムな挿入も可能である。アミノ酸付加変異体は、1個以上のアミノ酸、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個、またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端融合物を含む。アミノ酸欠失変異体は、配列からの1個以上のアミノ酸の除去、例えば1、2、3、5、10、20、30、50個、またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。欠失は、タンパク質の任意の位置にあってよい。タンパク質のN末端および/またはC末端に欠失を含むアミノ酸欠失変異体は、N末端および/またはC末端切断変異体とも呼ばれる。アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも1個の残基が除去され、別の残基がその位置に挿入されていることを特徴とする。相同なタンパク質もしくはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列内の位置にある修飾、および/またはアミノ酸を類似の特性を有する他のアミノ酸で置き換えることが好ましい。好ましくは、ペプチドおよびタンパク質変異体におけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち、同様に荷電したアミノ酸または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、その側鎖が関連するアミノ酸のファミリーの1つの置換を含む。天然に存在するアミノ酸は、一般に4つのファミリー:酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン)アミノ酸に分けられる。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、時に芳香族アミノ酸として一緒に分類されることがある。一実施形態では、保存的アミノ酸置換は、以下の群内の置換を含む:
グリシン、アラニン;
バリン、イソロイシン、ロイシン;
アスパラギン酸、グルタミン酸;
アスパラギン、グルタミン;
セリン、トレオニン;
リジン、アルギニン;および
フェニルアラニン、チロシン。
【0072】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも約60%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%である。類似性または同一性の程度は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約60個、少なくとも約80個、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のアミノ酸、いくつかの実施形態では連続するアミノ酸について与えられる。いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野で公知のツールを用いて、好ましくは最良の配列アラインメントを使用して、例えばAlignを使用して、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::ニードル、マトリックス:Blosum62、ギャップオープン10.0、ギャップ伸長0.5を使用して行うことができる。
【0073】
「配列類似性」は、同一であるか、または保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのアミノ酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。2つの核酸配列間の「配列同一性」は、配列間で同一であるヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0074】
「%同一」、「同一性%」という用語または同様の用語は、特に、比較される配列間の最適なアラインメントにおいて同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージを指すことが意図されている。前記パーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列間の差は、比較される配列の全長にわたってランダムに分布していてもよいが、必ずしもそうではない。2つの配列の比較は、通常、対応する配列の局所領域を同定するために、最適なアラインメント後に、セグメントまたは「比較ウィンドウ」に関して配列を比較することによって行われる。比較のための最適なアラインメントは、手動で、またはSmith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482による局所相同性アルゴリズムを用いて、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443による局所相同性アルゴリズムを用いて、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA 88,2444の類似性検索アルゴリズムを用いて、もしくは前記アルゴリズムを使用したコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)を援用して実施し得る。いくつかの実施形態では、2つの配列の同一性パーセントは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(United States National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のウェブサイト(例えば、blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch&BLAST_SPEC=blast2seq&LINK_LOC=align2seq)で入手可能なBLASTNまたはBLASTPアルゴリズムを使用して決定される。いくつかの実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTNアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメータは、以下を含む:(i)10に設定された期待閾値;(ii)28に設定されたワードサイズ;(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致;(iv)1、-2に設定された一致/不一致スコア;(v)線形に設定されたギャップコスト;および(vi)使用されている低複雑度領域のフィルタ。いくつかの実施形態では、NCBIウェブサイトのBLASTPアルゴリズムに使用されるアルゴリズムパラメータは、以下を含む:(i)10に設定された期待閾値;(ii)3に設定されたワードサイズ;(iii)0に設定されたクエリ範囲内の最大一致;(iv)BLOSUM62に設定されたマトリックス;(v)存在:11、拡張:1に設定されたギャップコスト;および(vi)条件付き組成スコアマトリックス調整。
【0075】
同一性パーセントは、比較する配列が一致する同一の位置の数を決定し、この数を比較する位置の数(例えば、参照配列中の位置の数)で除して、この結果に100を乗じることによって得られる。
【0076】
いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照配列の全長の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%である領域について与えられる。例えば、参照核酸配列が200個のヌクレオチドからなる場合、同一性の程度は、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のヌクレオチド、いくつかの実施形態では連続するヌクレオチドについて与えられる。いくつかの実施形態では、類似性または同一性の程度は、参照配列の全長について与えられる。
【0077】
相同なアミノ酸配列は、本開示によれば、アミノ酸残基の少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98または少なくとも99%の同一性を示す。
【0078】
本明細書に記載のアミノ酸配列変異体は、例えば組換えDNA操作により、当業者によって容易に調製され得る。置換、付加、挿入または欠失を有するペプチドまたはタンパク質を調製するためのDNA配列の操作は、例えばSambrook et al.(1989)に詳細に記載されている。さらに、本明細書に記載のペプチドおよびアミノ酸変異体は、例えば固相合成および類似の方法などによる公知のペプチド合成技術を用いて容易に調製され得る。
【0079】
一実施形態では、アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)の断片または変異体は、好ましくは「機能的断片」または「機能的変異体」である。アミノ酸配列の「機能的断片」または「機能的変異体」という用語は、それが由来するアミノ酸配列のものと同一または類似の1つ以上の機能特性を示す、すなわち機能的に等価である任意の断片または変異体に関する。抗体などの結合剤の配列に関して、1つの特定の機能は、断片または変異体が由来するアミノ酸配列によって示される1つ以上の結合活性である。本明細書で使用される「機能的断片」または「機能的変異体」という用語は、特に、親分子または配列のアミノ酸配列と比較して1つ以上のアミノ酸によって変化しており、かつ親分子または配列の機能の1つ以上を依然として果たす、例えば標的分子に結合することができるアミノ酸配列を含む変異体分子または配列を指す。一実施形態では、親分子または配列のアミノ酸配列の改変は、分子または配列の特徴に有意に影響を及ぼさないかまたは変化させない。異なる実施形態では、機能的断片または機能的変異体の機能は、低減され得るが、依然として有意に存在し得、例えば、機能的変異体の結合は、親分子または配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%であり得る。しかしながら、他の実施形態では、機能的断片または機能的変異体の結合は、親分子または配列と比較して増強され得る。
【0080】
指定されたアミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)に「由来する」アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)は、最初のアミノ酸配列の起源を指す。好ましくは、特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列またはその断片と同一、本質的に同一または相同であるアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列の変異体またはその断片であり得る。例えば、本明細書での使用に適した配列は、天然配列の望ましい活性を保持しながら、それらが由来する天然に存在する配列または天然配列とは配列が異なるように改変され得ることが当業者に理解されるであろう。
【0081】
本明細書で使用される場合、「説明資料」または「説明書」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用することができる刊行物、記録、図、または任意の他の表現媒体を含む。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明の組成物を含む容器に貼付されてもよく、または組成物を含む容器と共に出荷されてもよい。あるいは、説明資料と組成物が受領者によって協働して使用されることを意図して、説明資料は容器とは別に出荷されてもよい。
【0082】
「単離された」は、天然状態から改変されたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存物質から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞などの非天然環境に存在し得る。
【0083】
本発明の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作を介して作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈における組換え核酸などの「組換え物」は、天然には存在しない。
【0084】
本明細書で使用される「天然に存在する」という用語は、物体が自然界で見出され得るという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室で人によって意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在する。
【0085】
「結合する」または「結合」という用語は、標的との非共有結合相互作用に関する。一実施形態では、「結合する」または「結合」という用語は、特異的結合に関する。本明細書で使用される「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、特定の標的分子を認識するが、試料または対象中の他の分子を実質的に認識しないまたは結合しない抗体または抗原受容体などの分子を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗体は、1つ以上の他の種由来のその抗原にも結合し得る。しかし、そのような種交差反応性は、それ自体で特異的としての抗体の分類を変化させることはない。別の例では、抗原に特異的に結合する抗体は、抗原の異なる対立遺伝子型にも結合し得る。しかしながら、そのような交差反応性は、それ自体で特異的としての抗体の分類を変化させることはない。
【0086】
場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、抗体、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関して、相互作用が化学種における特定の構造(例えば抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味するために使用することができる;例えば、抗体は、一般にタンパク質ではなく特定のタンパク質構造を認識して結合する。抗体がエピトープ「A」に特異的である場合、標識された「A」と抗体とを含む反応において、エピトープAを含む分子(または遊離の非標識A)の存在は、抗体に結合する標識されたAの量を減少させる。
【0087】
本明細書で使用される「生理学的pH」は、約7.5のpHを指す。
【0088】
「遺伝子改変」または単に「改変」という用語は、核酸による細胞のトランスフェクションを含む。「トランスフェクション」という用語は、細胞への核酸、特にRNAの導入に関する。本発明の目的のために、「トランスフェクション」という用語はまた、細胞への核酸の導入またはそのような細胞による核酸の取り込みを含み、細胞は、対象、例えば患者に存在し得る。したがって、本発明によれば、本明細書に記載の核酸のトランスフェクションのための細胞は、インビトロまたはインビボで存在することができ、例えば、細胞は患者の器官、組織および/または生物の一部を形成することができる。本発明によれば、トランスフェクションは一過性または安定であり得る。トランスフェクションのいくつかの用途では、トランスフェクトされた遺伝物質が一過性にのみ発現されれば十分である。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。トランスフェクションプロセスで導入された核酸は、通常、核ゲノムに組み込まれないので、外来核酸は有糸分裂によって希釈されるかまたは分解される。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大幅に低下させる。トランスフェクトされた核酸が実際に細胞およびその娘細胞のゲノムに残ることが望ましい場合は、安定なトランスフェクションが起こらなければならない。そのような安定なトランスフェクションは、トランスフェクションのためにウイルスベースのシステムまたはトランスポゾンベースのシステムを使用することによって達成することができる。一般に、抗原受容体を発現するように遺伝子改変される細胞は、抗原受容体をコードする核酸で安定にトランスフェクトされる。一般に、活性化化合物をコードする核酸および/またはドケッティング化合物をコードする核酸は、細胞に一過性にトランスフェクトされる。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。
【0089】
一次標的
本発明で使用される「一次標的」は、例えば治療方法において、結合されるか、さもなければ対処される標的に関する。
【0090】
一次標的は、ヒトまたは動物の体内の任意の適切な標的から選択することができ、細胞、病原体もしくは寄生生物であり得るか、または細胞、病原体もしくは寄生生物上に存在し得る。
【0091】
特定の実施形態によれば、一次標的は、細胞表面抗原または細胞表面受容体などの標的細胞の表面に存在するタンパク質などの構造体である。一次標的は、疾患、例えば感染または癌の間に上方制御され得る。疾患組織では、マーカは健康な組織とは異なり、治療、特に標的療法に固有の可能性を提供することができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、一次標的または単に「標的」は、腫瘍抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原などの疾患関連抗原である。
【0093】
「疾患関連抗原」という用語は、疾患に関連する任意の抗原を指すためにその最も広い意味で使用される。疾患関連抗原は、微生物、典型的には微生物抗原による感染に関連し得るか、または癌、典型的には腫瘍に関連し得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、一次標的または単に「標的」は、腫瘍抗原である。本発明の文脈において、「腫瘍抗原」または「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下では限られた数の組織および/もしくは器官で、または特定の発生段階で特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば腫瘍抗原は、正常条件下では胃組織、好ましくは胃粘膜、生殖器官、例えば精巣、栄養膜組織、例えば胎盤、または生殖系列細胞で特異的に発現され得、1つ以上の腫瘍または癌組織で発現されるかまたは異常発現される。これに関連して、「限られた数」は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下を意味する。本発明の文脈における腫瘍抗原としては、例えば、分化抗原、好ましくは細胞型特異的分化抗原、すなわち正常条件下では特定の分化段階で特定の細胞型において特異的に発現されるタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち正常条件下では精巣および時には胎盤において特異的に発現されるタンパク質、ならびに生殖系列特異的抗原が挙げられる。本発明に関連して、腫瘍抗原は、好ましくは癌細胞の細胞表面と会合しており、好ましくは正常組織では発現されないか、またはまれにしか発現されない。好ましくは、腫瘍抗原または腫瘍抗原の異常発現は、癌細胞を同定する。本発明に関連して、対象、例えば癌疾患に罹患している患者において癌細胞によって発現される腫瘍抗原は、好ましくは前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施形態では、本発明の文脈における腫瘍抗原は、正常条件下では非必須である組織もしくは器官、すなわち免疫系によって損傷された場合に対象の死をもたらさない組織もしくは器官において、または免疫系がアクセスできないかもしくはほとんどアクセスできない身体の器官もしくは構造において特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍抗原と癌組織で発現される腫瘍抗原とで同一である。
【0095】
腫瘍抗原の例としては、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディンファミリーの細胞表面タンパク質、例えばクローディン6、クローディン18.2およびクローディン12、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(またはhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、またはMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/メランA、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1またはRU2、SAGE、SART-1またはSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、サバイビン、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTEおよびWTが挙げられる。特に好ましい腫瘍抗原としては、クローディン18.2(CLDN18.2)およびクローディン6(CLDN6)が挙げられる。
【0096】
本発明によれば、免疫エフェクタ細胞は、標的、例えば標的細胞上の抗原に結合する部分をドケッティング化合物に提供することによって、標的細胞などの標的に特異的に送達され得る。ドケッティング化合物は、標的と免疫エフェクタ細胞とを一緒にするために、免疫エフェクタ細胞に対する結合部分をさらに含む。
【0097】
ドケッティング化合物
本発明によれば、RNAにコードされた「ドケッティング化合物」は、一次標的、例えば標的細胞または標的細胞上の抗原とドケッティング化合物との間に非共有結合などの結合を形成するために使用される。ドケッティング化合物は、免疫エフェクタ細胞への非共有結合などの結合を形成し得る。RNAにコードされたドケッティング化合物は、本明細書では「RiboDocker」とも呼ばれる。
【0098】
一実施形態では、ドケッティング化合物は、「標的に結合する結合部分」、特に「標的細胞上の標的に結合する結合部分」、または目的の一次標的に結合することができる「標的抗原に結合する結合部分」とも呼ばれる「一次標的化部分」を含む。本発明で使用される「一次標的化部分」は、一次標的に結合するドケッティング化合物の部分に関する。そのような標的化部分は、典型的には、細胞表面標的(例えば膜受容体)または構造タンパク質(例えばアミロイド斑)に対する親和性を有する部分である。これらの部分は、一次標的に結合する任意のペプチドまたはタンパク質(例えば抗体または抗体断片)であり得る。本明細書で使用するための適切な一次標的化部分の特定の実施形態は、細胞表面抗原結合ペプチドおよび抗体を含む。一次標的化部分の他の例は、受容体に結合するペプチドまたはタンパク質である。
【0099】
一次標的化部分は、好ましくは高い特異性および/または高い親和性で結合し、一次標的との結合は、好ましくは体内で安定である。
【0100】
上に列挙した一次標的の特異的標的化を可能にするために、ドケッティング化合物の一次標的化部分は、抗体、抗体断片、例えばFab2、Fab、scFV、VHHドメイン、および他のタンパク質またはペプチドを含むがこれらに限定されない化合物を含むことができる。
【0101】
本発明の特定の実施形態によれば、一次標的は受容体であり、適切な一次標的化部分は、そのような受容体のリガンドまたは依然として受容体に結合するその一部、例えば受容体結合タンパク質リガンドの場合は受容体結合ペプチドを含むが、これらに限定されない。
【0102】
タンパク質性の一次標的化部分の他の例としては、インターフェロン、例えばアルファ、ベータおよびガンマインターフェロン、インターロイキン、ならびにタンパク質成長因子、例えばトランスフォーミング成長因子(TGF)または血小板由来成長因子(PDGF)が挙げられる。
【0103】
本発明のさらなる特定の実施形態によれば、一次標的および一次標的化部分は、組織または癌もしくは感染などの疾患の特異的または増大した標的化をもたらすように選択される。これは、組織特異的、細胞特異的または疾患特異的発現を有する一次標的を選択することによって達成され得る。例えば、腫瘍抗原は、様々な腫瘍細胞型で過剰発現され得るが、正常細胞では発現されないかまたはより少ない量で発現される。
【0104】
ドケッティング化合物は、「二次標的」として、すなわち免疫エフェクタ細胞の結合パートナーを提供するドケッティング化合物の一部として働く基をさらに含む。免疫エフェクタ細胞に結合するドケッティング化合物に含まれる結合部分(「二次標的」)と、ドケッティング化合物に結合する免疫エフェクタ細胞に含まれる結合部分(すなわち抗原受容体)(「二次標的化部分」)とは、互いに結合する。
【0105】
一実施形態では、ドケッティング化合物は、免疫エフェクタ細胞上の一次標的に結合する結合ドメインと、二次標的化部分に結合する結合ドメインとを含む融合タンパク質を含む。
【0106】
本明細書で使用される「融合タンパク質」という用語は、2つ以上のサブユニットを含むポリペプチドまたはタンパク質を指す。好ましくは、融合タンパク質は、2つ以上のサブユニット間の翻訳融合である。翻訳融合は、リーディングフレーム内の1つのサブユニットのコードヌクレオチド配列をさらなるサブユニットのコードヌクレオチド配列と遺伝子操作することによって生成され得る。サブユニットは、リンカーによって散在され得る。
【0107】
一実施形態では、ドケッティング化合物は単一のペプチド鎖を含む。一実施形態では、単一ペプチド鎖は、免疫エフェクタ細胞上の一次標的に結合する抗体断片および二次標的化部分(すなわち抗原受容体)に結合するペプチド部分を含む。一実施形態では、抗体断片は、VHH、scFv、またはそれらの混合物である。
【0108】
一実施形態では、ドケッティング化合物に含まれる二次標的は、ペプチドまたはタンパク質、例えばペプチドタグを含み、免疫エフェクター細胞に含まれる二次標的化部分、すなわち抗原受容体は、ペプチドまたはタンパク質に結合する結合剤、例えば抗体断片を含む。
【0109】
一実施形態では、本明細書で使用される二次標的/二次標的化部分システムは、エピトープタグ/結合剤システムを含む。
【0110】
一実施形態では、エピトープタグ/結合剤システムは、配列SRLEEELRRRLTEを含むエピトープタグを含み、結合剤は、CDR1配列GVTISALNAMAMG、CDR2配列AVSERGNAM、およびCDR3配列LEDRVDSFHDYを含むラクダ科動物VHHドメインを含む。一実施形態では、エピトープタグ/結合剤システムは、配列SRLEEELRRRLTEを含むエピトープタグを含み、結合剤は、アミノ酸配列EVQLQESGGGLVQPGGSLRLSCTASGVTISALNAMAMGWYRQAPGERRVMVAAVSERGNAMYRESVQGRFTVTRDFTNKMVSLQMDNLKPEDTAVYYCHVLEDRVDSFHDYWGQGTQVTVSS、前記アミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列、または前記アミノ酸配列もしくは前記アミノ酸配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%もしくは80%の同一性を有するアミノ酸配列の断片を含むラクダ科動物VHHドメインを含む。
【0111】
本明細書で使用される場合、「エピトープタグ」は、抗体または抗体様機能を有するタンパク質性分子が結合することができるアミノ酸のストレッチを指す。
【0112】
一実施形態では、ドケッティング化合物は、RNAを発現する細胞からのドケッティング化合物の分泌を可能にするシグナルペプチド、例えばN末端シグナルペプチドを含む。
【0113】
活性化化合物
本開示は、T細胞などの免疫エフェクタ細胞の効率を高めるための活性化化合物をさらに含む。
【0114】
本明細書に記載されるように、抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞を投与することによって、または対象において抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞を生成することによって、対象に提供され得る。一実施形態では、抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞は、治療される対象において生成される。そのようなインビボ生成は、一般に、対象において少量の抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞のみを提供する。しかしながら、これらの少量の抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体に対する活性化化合物の提供によって達成される強力な刺激効果のために治療上有効であると予想される。一般に、本明細書に記載の方法は、本明細書に記載の免疫エフェクタ細胞が結合する部分を含む活性化化合物の投与をさらに提供し、前記結合が免疫エフェクタ細胞の活性化および/または拡大をもたらすので、抗原受容体操作免疫エフェクタ細胞は、治療量未満の量で対象に提供され得る。一実施形態では、抗原受容体を利用して免疫エフェクタ細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞などの二次リンパ器官の細胞上に存在する場合、活性化化合物に結合する。
【0115】
本発明の全ての態様の一実施形態では、活性化化合物をコードするRNAは、対象の細胞で発現されて、免疫エフェクタ細胞によって発現される抗原受容体による結合のための部分を提供し、前記結合は免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大をもたらす。
【0116】
活性化化合物は、免疫エフェクタ細胞が結合することができる部分を含む。特定の実施形態では、活性化化合物は、免疫エフェクタ細胞が結合することができるドケッティング化合物またはその断片もしくは変異体の二次標的に対応する部分、例えば本明細書に記載のペプチドタグを含む。
【0117】
活性化化合物は、免疫エフェクタ細胞が結合することができる部分を細胞表面、例えば抗原提示細胞の細胞表面に提示する部分をさらに含み得る。そのような部分は、膜タンパク質、例えば膜貫通タンパク質または受容体を含み得る。したがって、活性化化合物は、免疫エフェクタ細胞が結合することができる部分(例えばペプチドタグ)と、免疫エフェクタ細胞が結合することができる部分を細胞表面に提示する部分(例えば膜タンパク質)とを含む融合タンパク質を含み得る。免疫エフェクタ細胞が結合することができる部分は、一般に、細胞表面上、すなわち細胞外に存在する。
【0118】
一実施形態では、活性化化合物をコードするRNAを投与して、(適切な標的細胞によるRNAの発現後に)免疫エフェクタ細胞の刺激、プライミングおよび/または拡大のための活性化化合物を提供する。患者において刺激、プライミングおよび/または拡大されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞は、ドケッティング化合物を介して、抗原を発現する標的細胞集団または標的組織を認識し、疾患細胞の根絶をもたらすことができる。一実施形態では、活性化化合物をコードするRNAは、二次リンパ器官を標的とする。
【0119】
本明細書で使用される「活性化」または「刺激」は、検出可能な細胞増殖を誘導するのに十分に刺激されたT細胞などの免疫エフェクタ細胞の状態を指す。活性化はまた、シグナル伝達経路の開始、サイトカイン産生の誘導、および検出可能なエフェクタ機能に関連し得る。「活性化免疫エフェクタ細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を受けている免疫エフェクタ細胞を指す。
【0120】
「プライミング」という用語は、T細胞などの免疫エフェクタ細胞がその特異的抗原と最初に接触し、エフェクタT細胞などのエフェクタ細胞への分化を引き起こすプロセスを指す。
【0121】
「クローン拡大」または「拡大」という用語は、特定の実体が増加するプロセスを指す。本開示の文脈において、この用語は、好ましくは、リンパ球が抗原によって刺激され、増殖し、前記抗原を認識する特異的リンパ球が増幅される免疫学的応答に関連して使用される。好ましくは、クローン拡大はリンパ球の分化をもたらす。
【0122】
一般に、活性化化合物は、その抗原受容体結合部分が免疫エフェクタ細胞によって発現される抗原受容体による結合に利用可能であるように、細胞表面に発現される。
【0123】
「細胞表面に発現された」または「細胞表面と会合した」という用語は、受容体または抗原などの分子が細胞の原形質膜と会合して位置し、分子の少なくとも一部が前記細胞の細胞外空間に面しており、例えば細胞の外側に位置する抗原受容体によって前記細胞の外側からアクセス可能であることを意味する。これに関連して、一部とは、好ましくは少なくとも4個、好ましくは少なくとも8個、好ましくは少なくとも12個、より好ましくは少なくとも20個のアミノ酸である。会合は、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、会合は、1つ以上の膜貫通ドメイン、1つ以上の脂質アンカーによるものであってもよく、または他の任意のタンパク質、脂質、サッカリド、もしくは細胞の原形質膜の外葉に見出され得る他の構造との相互作用によるものであってもよい。例えば、細胞の表面と会合する分子は、細胞外部分を有する膜貫通タンパク質であってもよく、または膜貫通タンパク質である別のタンパク質と相互作用することによって細胞の表面と会合するタンパク質であってもよい。
【0124】
「細胞表面」または「細胞の表面」は、当技術分野におけるその通常の意味に従って使用され、したがって、タンパク質および他の分子による結合にアクセス可能な細胞の外側を含む。抗原は、細胞の表面に位置し、例えば細胞に添加された抗原特異的抗体による結合にアクセス可能である場合、前記細胞の表面に発現される。一実施形態では、細胞の表面に発現される抗原は、抗原受容体によって認識される細胞外部分を有する内在性膜タンパク質である。
【0125】
本発明の文脈における「細胞外部分」または「エキソドメイン」という用語は、細胞の細胞外空間に面しており、好ましくは、例えば細胞の外側に位置する抗体などの分子に結合することによって、前記細胞の外側からアクセス可能であるタンパク質などの分子の一部を指す。
【0126】
免疫エフェクタ細胞
本明細書で使用される免疫エフェクタ細胞は、二次標的化部分を含む。この二次標的化部分は、本明細書ではキメラ抗原受容体(CAR)または単に抗原受容体とも呼ばれる。二次標的化部分は、活性化化合物に含まれる免疫エフェクタ細胞および/またはドケッティング化合物に含まれる二次標的に対する結合部分の結合パートナーを形成する免疫エフェクタ細胞の部分に関する。免疫エフェクタ細胞は、好ましくは、所望の効果、例えば治療効果を提供するかまたはもたらすことができる。
【0127】
本発明に関連して使用され、抗原受容体をコードする核酸(DNAまたはRNA)が導入され得る免疫エフェクタ細胞は、特に、溶解能を有する細胞、特にリンパ系細胞などの免疫エフェクタ細胞を含み、好ましくはT細胞、特に、好ましくは細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞およびリンホカイン活性化キラー(LAK)細胞から選択される細胞傷害性リンパ球である。活性化されると、これらの細胞傷害性リンパ球はそれぞれ、標的細胞の破壊を引き起こす。例えば、細胞傷害性T細胞は、以下の手段のいずれかまたは両方によって標的細胞の破壊を引き起こす。まず、活性化すると、T細胞は、パーフォリン、グランザイム、およびグラニュライシンなどの細胞毒を放出する。パーフォリンおよびグラニュライシンは標的細胞に細孔を作り、グランザイムは細胞に進入し、細胞のアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する細胞質のカスパーゼカスケードを引き起こす。第2に、アポトーシスは、T細胞と標的細胞との間のFas-Fasリガンド相互作用を介して誘導され得る。本発明に関連して使用される細胞は、好ましくは自家細胞であるが、異種細胞または同種異系細胞を使用することができる。
【0128】
本発明の文脈における「エフェクタ機能」という用語は、例えば、腫瘍細胞などの疾患細胞の死滅、または腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍増殖の阻害および/もしくは腫瘍発生の阻害をもたらす免疫系の成分によって媒介される任意の機能を含む。好ましくは、本発明の文脈におけるエフェクタ機能は、T細胞媒介エフェクタ機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4T細胞)の場合、サイトカインの放出ならびに/またはCD8リンパ球(CTL)および/もしくはB細胞の活性化を含み、CTLの場合、例えばアポトーシスまたはパーフォリン媒介細胞溶解を介した、細胞、すなわち抗原の発現を特徴とする細胞の排除、IFN-gおよびTNF-αなどのサイトカインの産生、ならびに抗原を発現する標的細胞の特異的細胞溶解性死滅を含む。
【0129】
本発明の文脈における「免疫エフェクタ細胞」または「免疫反応性細胞」という用語は、免疫反応中にエフェクタ機能を発揮する細胞に関する。一実施形態における「免疫エフェクタ細胞」は、活性化化合物によって提示される抗原などの抗原(例えばペプチド抗原)および二次標的としてのドケッティング化合物に結合することができる。例えば、免疫エフェクタ細胞は、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、および樹状細胞を含む。好ましくは、本発明の文脈において、「免疫エフェクタ細胞」は、T細胞、好ましくはCD4および/またはCD8T細胞、最も好ましくはCD8T細胞である。本発明によれば、「免疫エフェクタ細胞」という用語はまた、適切な刺激で免疫細胞(T細胞、特にTヘルパー細胞、または細胞溶解性T細胞など)に成熟することができる細胞を含む。免疫エフェクタ細胞は、CD34造血幹細胞、未成熟および成熟T細胞ならびに未成熟および成熟B細胞を含む。T細胞前駆体の細胞溶解性T細胞への分化は、抗原に曝露された場合、免疫系のクローン選択に類似する。
【0130】
本発明に従って使用される免疫エフェクタ細胞は、T細胞受容体もしくはB細胞受容体などの内因性抗原受容体を発現してもよく、または内因性抗原受容体の発現を欠いていてもよい。
【0131】
「リンパ系細胞」は、任意で適切な修飾後、例えばTCRまたはCARなどの抗原受容体の移入後に、細胞性免疫応答などの免疫応答を生成することができる細胞、またはそのような細胞の前駆細胞であり、リンパ球、好ましくはTリンパ球、リンパ芽球、および形質細胞を含む。リンパ系細胞は、本明細書に記載される免疫エフェクタ細胞であり得る。好ましいリンパ系細胞は、細胞表面に抗原受容体を発現するように改変することができるT細胞である。一実施形態では、リンパ系細胞は、T細胞受容体の内因性発現を欠く。
【0132】
「T細胞」および「Tリンパ球」という用語は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4T細胞)および細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8T細胞)を含む。
【0133】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属し、細胞性免疫において中心的な役割を果たす。これらは、T細胞受容体(TCR)と呼ばれるこれらの細胞表面上の特別な受容体の存在によって、B細胞およびナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球型と区別することができる。胸腺は、T細胞の成熟に関与する主要な器官である。T細胞のいくつかの異なるサブセットが発見されており、それぞれが異なる機能を有する。
【0134】
Tヘルパー細胞は、数ある機能の中でも特に、B細胞の形質細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。これらの細胞は、その表面にCD4糖タンパク質を発現するので、CD4T細胞としても公知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原と共に提示された場合に活性化される。活性化されると、これらは速やかに分裂し、能動免疫応答を調節または補助するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。
【0135】
細胞傷害性T細胞は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD8糖タンパク質を発現するので、CD8T細胞としても公知である。これらの細胞は、身体のほぼあらゆる細胞の表面に存在する、MHCクラスIに関連する抗原に結合することによってそれらの標的を認識する。
【0136】
「制御性T細胞」または「Treg」は、免疫系を調節し、自己抗原に対する寛容を維持し、自己免疫疾患を予防するT細胞の亜集団である。Tregは免疫抑制性であり、一般にエフェクタT細胞の誘導および増殖を抑制または下方制御する。Tregは、バイオマーカCD4、FoxP3、およびCD25を発現する。
【0137】
本明細書で使用される場合、「ナイーブT細胞」という用語は、活性化T細胞またはメモリT細胞とは異なり、末梢内でそれらの同族抗原に遭遇したことがない成熟T細胞を指す。ナイーブT細胞は、一般に、L-セレクチン(CD62L)の表面発現、活性化マーカCD25、CD44またはCD69の非存在、およびメモリCD45ROアイソフォームの非存在を特徴とする。
【0138】
本明細書で使用される場合、「メモリT細胞」という用語は、以前にそれらの同族抗原に遭遇し、それに応答したT細胞のサブグループまたは亜集団を指す。抗原との2回目の遭遇時に、メモリT細胞は、免疫系が抗原に応答した最初の時間よりも速くかつより強力な免疫応答を開始するように再生することができる。メモリT細胞はCD4またはCD8のいずれかであり得、通常、CD45ROを発現する。
【0139】
本発明によれば、「T細胞」という用語はまた、適切な刺激でT細胞に成熟することができる細胞を含む。
【0140】
T細胞の大部分は、いくつかのタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から産生され、α-TCR鎖およびβ-TCR鎖と呼ばれる2つの別個のペプチド鎖から構成される。γδ T細胞(ガンマデルタT細胞)は、その表面に異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットである。しかし、γδ T細胞では、TCRは1本のγ鎖と1本のδ鎖で構成される。このT細胞の群は、αβ T細胞よりもはるかにまれである(全T細胞の2%)。
【0141】
全てのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞に由来する造血前駆細胞は胸腺に存在し、細胞分裂によって拡大して未成熟な胸腺細胞の大きな集団を生成する。最初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現せず、したがって二重陰性(CD4CD8)細胞として分類される。発達が進むにつれて、それらは二重陽性胸腺細胞(CD4CD8)になり、最終的に単一陽性(CD4CD8またはCD4CD8)胸腺細胞に成熟し、次いで胸腺から末梢組織に放出される。
【0142】
T細胞は、一般に、標準的な手順を用いてインビトロまたはエクスビボで調製され得る。例えば、T細胞は、市販の細胞分離システムを使用して、患者などの哺乳動物の骨髄、末梢血または骨髄もしくは末梢血の画分から単離され得る。あるいは、T細胞は、関連するまたは関連のないヒト、非ヒト動物、細胞株または培養物に由来し得る。T細胞を含む試料は、例えば、末梢血単核細胞(PBMC)であり得る。
【0143】
本明細書で使用される場合、「NK細胞」または「ナチュラルキラー細胞」という用語は、CD56またはCD16の発現およびT細胞受容体の非存在によって定義される末梢血リンパ球のサブセットを指す。本明細書で提供される場合、NK細胞はまた、幹細胞または前駆細胞から分化させることもできる。
【0144】
抗原受容体
本明細書に記載の免疫エフェクタ細胞は、それぞれ活性化化合物およびドケッティング化合物上にキメラ抗原受容体(CAR)結合抗原などの抗原受容体を発現するように、治療されている対象において、エクスビボ/インビトロまたはインビボで遺伝子改変され得る。一実施形態では、抗原受容体を発現するための改変は、エクスビボ/インビトロで行われる。その後、改変された細胞を患者に投与し得る。
【0145】
キメラ抗原受容体を発現するCAR操作されたT細胞を用いた養子細胞移入療法は、CAR修飾T細胞が実質的に任意の腫瘍抗原を、好ましくはMHC非依存的に標的とするように操作され得るので、有望な抗癌治療法である。例えば、患者のT細胞を、患者の腫瘍細胞上の抗原に特異的に向けられるCARを発現するように遺伝子操作(遺伝子改変)し、その後患者に注入して戻し得る。
【0146】
本明細書に記載の開示は、自己免疫エフェクタ細胞の使用に限定されない。
【0147】
本開示によれば、免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体を発現するように遺伝子改変され得る。したがって、免疫エフェクタ細胞は、抗原受容体を発現するようにエクスビボまたはインビボで遺伝子改変され得る。そのような遺伝子改変は、エクスビボまたはインビトロで行われ、その後免疫エフェクタ細胞が治療を必要とする対象に投与され得るか、または治療を必要とする対象においてインビボで行われ得る。
【0148】
様々な実施形態では、治療される対象または異なる対象のいずれかからの免疫エフェクタ細胞が、治療される対象に投与される。投与される免疫エフェクタ細胞は、投与前にエクスビボで遺伝子改変され得るか、または投与後に本明細書に記載の抗原受容体を発現するように対象においてインビボで遺伝子改変され得る。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、治療される対象において内因性であり(したがって、治療される対象に投与されない)、本明細書に記載の抗原受容体を発現するように対象においてインビボで遺伝子改変される。
【0149】
本発明によれば、「CAR」(または「キメラ抗原受容体」)という用語は、「キメラT細胞受容体」および「人工T細胞受容体」という用語と同義であり、標的構造(例えば抗原)を認識し、すなわち標的構造に結合し(例えば抗原結合ドメインの抗原への結合によって)、細胞表面に前記CARを発現するT細胞などの免疫エフェクタ細胞に特異性を付与し得る単一の分子または分子の複合体を含む人工受容体に関する。そのような細胞は、認識のために抗原のプロセシングおよび提示を必ずしも必要とせず、むしろ任意の抗原を、好ましくは特異的に認識し得る。好ましくは、CARによる標的構造の認識は、前記CARを発現する免疫エフェクタ細胞の活性化をもたらす。CARは、本明細書に記載の1つ以上のドメインを含む1つ以上のタンパク質ユニットを含み得る。「CAR」という用語は、T細胞受容体を含まない。
【0150】
CARは、一般にCARの細胞外ドメインの一部である抗原結合部分または抗原結合ドメインとも呼ばれる標的特異的結合要素を含む。具体的には、本発明のCARは、活性化化合物およびドケッティング化合物上の抗原を標的とする。
【0151】
本発明の一実施形態では、抗原結合ドメインは、抗原に対する特異性を有する免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)および抗原に対する特異性を有する免疫グロブリンの軽鎖の可変領域(VL)を含む。一実施形態では、免疫グロブリンは抗体である。一実施形態では、前記重鎖可変領域(VH)および対応する軽鎖可変領域(VL)は、ペプチドリンカーを介して接続されている。好ましくは、CAR中の抗原結合部分の一部はscFvである。本発明の一実施形態では、抗原結合ドメインはVHHドメインを含む。
【0152】
CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含むように設計される。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR中のドメインの1つと天然には会合していない。一実施形態では、膜貫通ドメインは、CAR中のドメインの1つと天然に会合している。一実施形態では、膜貫通ドメインは、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのそのようなドメインの結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、アミノ酸置換によって改変される。膜貫通ドメインは、天然源または合成源のいずれかに由来し得る。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来し得る。本発明において特に使用される膜貫通領域は、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154に由来し得る(すなわち、少なくともその膜貫通領域(1つ以上)を含む)。あるいは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、その場合、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。好ましくは、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に見出される。
【0153】
場合によっては、本発明のCARは、膜貫通ドメインと細胞外ドメインとの間に連結を形成するヒンジドメインを含む。
【0154】
CARの細胞質ドメインまたはさもなければ細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが配置されている免疫細胞の正常なエフェクタ機能の少なくとも1つの活性化を担う。「エフェクタ機能」という用語は、細胞の特殊な機能を指す。T細胞のエフェクタ機能は、例えば、細胞溶解活性またはサイトカインの分泌を含むヘルパー活性であり得る。したがって、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達し、特殊な機能を果たすように細胞に指示するタンパク質の部分を指す。通常、細胞内シグナル伝達ドメイン全体を使用することができるが、多くの場合、鎖全体を使用する必要はない。細胞内シグナル伝達ドメインのトランケートされた部分が使用される限り、そのようなトランケートされた部分は、それがエフェクタ機能シグナルを伝達する限り、無傷の鎖の代わりに使用され得る。したがって、細胞内シグナル伝達ドメインという用語は、エフェクタ機能シグナルを伝達するのに十分な細胞内シグナル伝達ドメインの任意のトランケートされた部分を含むことを意味する。
【0155】
TCRのみを介して生成されるシグナルは、T細胞の完全な活性化には不十分であり、二次シグナルまたは共刺激シグナルも必要であることが公知である。したがって、T細胞の活性化は、2つの異なるクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCRを介して抗原依存性の一次活性化を開始するもの(一次細胞質シグナル伝達配列)および抗原非依存的に作用して二次シグナルまたは共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)によって媒介されると言うことができる。
【0156】
一実施形態では、CARは、CD3ゼータに由来する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。さらに、CARの細胞質ドメインは、共刺激シグナル伝達領域と組み合わされたCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含み得る。
【0157】
共刺激ドメインの同一性は、CARによる標的部分の結合時に細胞増殖および生存を増強する能力を有するという点でのみに限定される。適切な共刺激ドメインには、CD28、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーのメンバーであるCD137(4-1BB)、TNFRスーパーファミリーの受容体のメンバーであるCD134(OX40)、および活性化T細胞上に発現されるCD28スーパーファミリー共刺激分子であるCD278(ICOS)が含まれる。当業者は、これらの記載された共刺激ドメインの配列変異体が、それらがモデルとするドメインと同じまたは類似の活性を有する場合、本発明に悪影響を及ぼすことなく使用できることを理解する。そのような変異体は、それらが由来するドメインのアミノ酸配列と少なくとも約80%の配列同一性を有する。本発明のいくつかの実施形態では、CAR構築物は2つの共刺激ドメインを含む。特定の組合せには、4つの記載されたドメインの全ての可能な変形が含まれるが、具体的な例としてはCD28+CD137(4-1BB)およびCD28+CD134(OX40)が挙げられる。
【0158】
CARの細胞質シグナル伝達部分内の細胞質シグナル伝達配列は、ランダムな順序または指定された順序で互いに連結され得る。任意で、好ましくは2~10アミノ酸長の短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカーが連結を形成し得る。グリシン-セリンダブレットは、特に適切なリンカーを提供する。
【0159】
一実施形態では、CARは、新生タンパク質を小胞体内に誘導するシグナルペプチドを含む。一実施形態では、シグナルペプチドは抗原結合ドメインに先行する。一実施形態では、シグナルペプチドは、IgGなどの免疫グロブリンに由来する。
【0160】
CARは、融合タンパク質の形態で一緒に上記ドメインを含み得る。そのような融合タンパク質は、一般に、N末端からC末端の方向に連結された抗原結合ドメイン、1つ以上の共刺激ドメイン、およびシグナル伝達配列を含む。しかしながら、本発明のCARはこの配置に限定されず、他の配置も許容され、結合ドメイン、シグナル伝達ドメイン、および1つ以上の共刺激ドメインを含む。結合ドメインは抗原に自由に結合できなければならないため、融合タンパク質中の結合ドメインの配置は、一般に、細胞の外側で領域の表示が達成されるような配置であることが理解されるであろう。同様に、共刺激およびシグナル伝達ドメインは細胞傷害性リンパ球の活性および増殖を誘導する働きをするので、融合タンパク質は、一般に、細胞の内部でこれら2つのドメインを表示する。
【0161】
一実施形態では、CAR分子は、
i)標的抗原(例えばエピトープタグ)結合ドメイン;
ii)膜貫通ドメイン;ならびに
iii)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含む。
【0162】
一実施形態では、抗原結合ドメインはscFvを含む。一実施形態では、膜貫通ドメインは、T細胞受容体のアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD154、KIRDS2、OX40、CD2、CD27、LFA-1(CD11a、CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD40、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD160、CD19、IL2Rベータ、IL2Rガンマ、IL7Ra、ITGA1、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CDlld、ITGAE、CD103、ITGAL、CDlla、LFA-1、ITGAM、CDllb、ITGAX、CDllc、ITGBl、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、DNAMl(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRT AM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGLl、CDIOO(SEMA4D)、SLAMF6(NTB-A、Lyl08)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびNKG2C、またはそれらの機能的変異体からなる群より選択されるタンパク質の膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、膜貫通ドメインはCD8α膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、抗原結合ドメインは、ヒンジドメインによって膜貫通ドメインに接続されている。一実施形態では、ヒンジドメインはCD8αヒンジドメインである。
【0163】
一実施形態では、本発明のCAR分子は、
i)標的抗原結合ドメイン;
ii)CD8αヒンジドメイン;
iii)CD8α膜貫通ドメイン;ならびに
iv)4-1BB共刺激ドメインおよびCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメイン
を含む。
【0164】
様々な方法を使用して、CAR構築物などの抗原受容体をT細胞などの細胞に導入して、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞を産生し得る。非ウイルスベースのDNAトランスフェクション、非ウイルスベースのRNAトランスフェクション、例えばmRNAトランスフェクション、トランスポゾンベースのシステム、およびウイルスベースのシステムを含むそのような方法。非ウイルスベースのDNAトランスフェクションは、挿入突然変異誘発のリスクが低い。トランスポゾンベースのシステムは、組み込み要素を含まないプラスミドよりも効率的に導入遺伝子を組み込むことができる。ウイルスベースのシステムには、γ-レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用が含まれる。γ-レトロウイルスは、T細胞を産生し、効率的かつ永続的に形質導入することが比較的容易であり、初代ヒトT細胞における組み込みの観点から安全であることが予備的に証明されている。レンチウイルスベクターも、T細胞を効率的かつ永続的に形質導入するが、製造コストがより高い。それらはまた、潜在的にレトロウイルスベースのシステムよりも安全である。
【0165】
本明細書で使用される「レンチウイルス」は、レトロウイルス科(Retroviridae)の一属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染することができるという点でレトロウイルスの中で独特である;それらは、宿主細胞のDNAに有意な量の遺伝情報を送達することができるので、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIV、およびFIVは全てレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子導入を達成する手段を提供する。
【0166】
一実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体を、抗原受容体をコードする核酸で、エクスビボまたはインビボのいずれかでトランスフェクトする。一実施形態では、エクスビボトランスフェクションとインビボトランスフェクションの組合せを使用し得る。一実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象に由来する。本発明の全ての態様の一実施形態では、T細胞またはT細胞前駆体は、治療される対象とは異なる対象に由来する。
【0167】
CAR T細胞は、T細胞を標的とするナノ粒子を使用して、インビボで、したがってほぼ瞬時に産生され得る。例えば、ポリ(β-アミノエステル)ベースのナノ粒子を、T細胞上のCD3に結合するために抗CD3e F(ab)断片にカップリングし得る。T細胞に結合すると、これらのナノ粒子はエンドサイトーシスされる。それらの内容物、例えば抗腫瘍抗原CARをコードするプラスミドDNAは、微小管関連配列(MTAS)および核局在化シグナル(NLS)を含有するペプチドを含むため、T細胞核に誘導され得る。CAR遺伝子発現カセットに隣接するトランスポゾンおよび高活性トランスポザーゼをコードする別個のプラスミドを含めることにより、染色体へのCARベクターの効率的な組み込みが可能になり得る。ナノ粒子注入後のCAR T細胞のインビボ産生を可能にするそのようなシステムは、Smith et al.(2017)Nat.Nanotechnol.12:813-820に記載されている。
【0168】
さらに、ヒトCD8細胞を特異的に標的とするレンチウイルスベクターCD8-LVを使用して、CD19-CAR T細胞をインビボで直接作製することができる(Pfeiffer A.et al.,EMBO Mol.Med.Nov;10(11),2018,9158)。
【0169】
別の可能性は、CRISPR/Cas9法を使用して、CARコード配列を特定の遺伝子座に意図的に配置することである。例えば、CARをノックインし、それを、さもなければTCR発現を抑える内因性プロモータの動的調節制御下に置く一方で、既存のT細胞受容体(TCR)をノックアウトし得る;例えば、Eyquem et al.(2017)Nature 543:113-117を参照。
【0170】
一実施形態では、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、抗原受容体をコードする核酸で安定にまたは一過性にトランスフェクトされる。したがって、抗原受容体をコードする核酸は、細胞のゲノムに組み込まれるか、または組み込まれない。
【0171】
一実施形態では、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、内因性T細胞受容体および/または内因性HLAの発現に関して不活性化される。
【0172】
一実施形態では、本明細書に記載の細胞は、治療される対象に対して自家、同種異系または同系であり得る。一実施形態では、本開示は、患者からの細胞の取り出しおよびその後の患者への細胞の再送達を想定する。一実施形態では、本開示は、患者からの細胞の取り出しを想定しない。後者の場合、細胞の遺伝子改変の全ての工程はインビボで実施される。
【0173】
「自家」という用語は、同じ対象に由来するものを表すために使用される。例えば、「自家移植」は、同じ対象に由来する組織または器官の移植を指す。そのような手順は、さもなければ拒絶反応をもたらす免疫学的障壁を克服するので有利である。
【0174】
「同種異系」という用語は、同じ種の異なる個体に由来するものを表すために使用される。2つ以上の個体は、1つ以上の遺伝子座の遺伝子が同一でない場合、互いに同種異系であると言われる。
【0175】
「同系」という用語は、同一の遺伝子型を有する個体または組織、すなわち、一卵性双生児もしくは同じ近交系の動物、またはそれらの組織に由来するものを表すために使用される。
【0176】
「異種」という用語は、複数の異なる要素からなるものを表すために使用される。一例として、ある個体の骨髄を異なる個体に移入することは、異種移植を構成する。異種遺伝子は、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0177】
結合部分および薬剤
本開示は、抗体または抗体誘導体などの結合部分または結合剤を記載する。
【0178】
「エピトープ」という用語は、結合剤によって認識される分子または抗原の一部または断片を指す。例えば、エピトープは、抗体または任意の他の結合タンパク質によって認識され得る。エピトープは、抗原の連続部分または不連続部分を含み得、約5~約100、例えば約5~約50、より好ましくは約8~約30、最も好ましくは約8~約25アミノ酸長であり得、例えば、エピトープは、好ましくは9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。一実施形態では、エピトープは、約10~約25アミノ酸長である。「エピトープ」という用語は、構造エピトープを含む。
【0179】
「免疫グロブリン」という用語は、2対のポリペプチド鎖、1対の軽(L)低分子量鎖および1対の重(H)鎖からなり、4つ全てがジスルフィド結合によって相互接続されている、構造的に関連する糖タンパク質のクラスを指す。免疫グロブリンの構造は十分に特徴付けられている。例えば、Fundamental Immunology Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.(1989))を参照。簡潔には、各重鎖は、典型的には重鎖可変領域(本明細書ではVまたはVHと略す)および重鎖定常領域(本明細書ではCまたはCHと略す)から構成される。重鎖定常領域は、典型的にはCH1、CH2、およびCH3の3つのドメインから構成される。ヒンジ領域は、重鎖のCH1ドメインとCH2ドメインとの間の領域であり、非常に柔軟である。ヒンジ領域内のジスルフィド結合は、IgG分子内の2つの重鎖間の相互作用の一部である。各軽鎖は、典型的には軽鎖可変領域(本明細書ではVまたはVLと略す)および軽鎖定常領域(本明細書ではCまたはCLと略す)から構成される。軽鎖定常領域は、典型的には1つのドメイン、CLで構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)とも呼ばれる超可変性の領域(または配列および/もしくは構造的に定義されたループの形態が超可変であり得る超可変領域)にさらに細分され得る。各VHおよびVLは、典型的には、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端へと配置された3つのCDRおよび4つのFRで構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4(Chothia and Lesk J.Mol.Biol.196,901-917(1987)も参照のこと)。特に明記されない限り、または文脈と矛盾しない限り、本発明における定常領域のアミノ酸位置への言及は、EUナンバリングに従う(Edelman et al.,Proc Natl Acad Sci U S A.1969 May;63(1):78-85;Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition.1991 NIH Publication No.91-3242)。一般に、本明細書に記載のCDRはKabatによって定義される。
【0180】
本明細書で使用される「位置...に対応するアミノ酸」という用語は、ヒトIgG1重鎖におけるアミノ酸位置番号を指す。他の免疫グロブリン中の対応するアミノ酸位置は、ヒトIgG1とのアラインメントによって見出され得る。したがって、別の配列中のアミノ酸またはセグメント「に対応する」1つの配列中のアミノ酸またはセグメントは、典型的にはデフォルト設定で、ALIGN、ClustalWまたは同様の標準的な配列アラインメントプログラムを使用して他のアミノ酸またはセグメントと整列するものであり、ヒトIgG1重鎖と少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の同一性を有する。配列または配列中のセグメントを整列させ、それによって本発明によるアミノ酸位置に対応する配列中の位置を決定する方法は、当技術分野で周知であると考えられる。
【0181】
本発明の文脈における「抗体」(Ab)という用語は、抗原に結合する、好ましくは特異的に結合する能力を有する免疫グロブリン分子、免疫グロブリン分子の断片、またはそれらのいずれかの誘導体を指す。一実施形態では、結合は、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約4時間、少なくとも約8時間、少なくとも約12時間、約24時間以上、約48時間以上、約3、4、5、6、7日間以上など、または任意の他の関連する機能的に定義された期間(例えば、抗原への抗体結合に関連する生理学的応答を誘導、促進、増強および/もしくは調節するのに十分な時間)などの、有意な期間の半減期を有する典型的な生理学的条件下で起こる。免疫グロブリン分子の重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。本明細書で使用される「抗原結合領域」、「結合領域」または「結合ドメイン」という用語は、抗原と相互作用し、典型的にはVH領域とVL領域の両方を含む領域またはドメインを指す。本明細書で使用される場合の抗体という用語は、単一特異性抗体だけでなく、複数、例えば2つ以上、例えば3つ以上の異なる抗原結合領域を含む多重特異性抗体も含む。抗体(Ab)の定常領域は、免疫系の様々な細胞(エフェクタ細胞など)および補体活性化の古典的経路における第1成分であるC1qなどの補体系の成分を含む宿主組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。上記のように、本明細書で使用される抗体という用語は、特に明記されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、抗原結合断片である、すなわち抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の断片、および抗体誘導体、すなわち抗体に由来する構築物を含む。抗体の抗原結合機能は、完全長抗体の断片によって実施され得ることが示されている。「抗体」という用語に包含される抗原結合断片の例としては、(i)Fab’もしくはFab断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、または国際公開第2007059782号(Genmab)に記載されている一価抗体;(ii)F(ab’)断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VHおよびCH1ドメインから本質的になるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインから本質的になるFv断片、(v)VHドメインから本質的になり、ドメイン抗体とも呼ばれる(Holt et al;Trends Biotechnol.2003 Nov;21(11):484-90)dAb断片(Ward et al.,Nature 341,544-546(1989));(vi)ラクダ科動物またはナノボディ分子(Revets et al;Expert Opin Biol Ther.2005 Jan;5(1):111-24)ならびに(vii)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメイン、VLおよびVHは別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を用いて、VL領域とVH領域とが対合して一価分子を形成する単一のタンパク質鎖(一本鎖抗体または一本鎖Fv(scFv)として公知であり、例えば、Bird et al.,Science 242,423-426(1988)およびHuston et al.,PNAS USA 85,5879-5883(1988)を参照)としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって連結され得る。そのような一本鎖抗体は、特に明記されない限り、または文脈によって明確に指示されない限り、抗体という用語に包含される。そのような断片は一般に抗体の意味の範囲内に含まれるが、それらは、集合的におよびそれぞれ独立して本発明の固有の特徴であり、異なる生物学的特性および有用性を示す。本発明の文脈におけるこれらおよび他の有用な抗体断片、ならびにそのような断片の二重特異性フォーマットを本明細書でさらに論じる。抗体という用語は、特に明記されない限り、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、キメラ抗体およびヒト化抗体などの抗体様ポリペプチド、ならびに酵素的切断、ペプチド合成、および組換え技術などの任意の公知の技術によって提供される抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体断片(抗原結合断片)も含むことも理解されるべきである。
【0182】
「一本鎖Fv」または「scFv」という語句は、従来の二本鎖抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(VHおよびVL)が結合して一本鎖を形成している抗体を指す。任意で、適切な折り畳みおよび活性結合部位の創出を可能にするために、リンカー(通常はペプチド)が2本の鎖の間に挿入される。
【0183】
ナノボディとしても公知の単一ドメイン抗体は、単一の単量体可変抗体ドメインからなる抗体断片である。一実施形態では、単一ドメイン抗体は、重鎖抗体の可変ドメイン(V)である。これらはVHH断片と呼ばれる。全抗体と同様に、単一ドメイン抗体は、特定の抗原に選択的に結合することができる。第1の単一ドメイン抗体を、ラクダ科動物に見出される重鎖抗体から操作した。軟骨魚類も重鎖抗体(IgNAR、「免疫グロブリン新規抗原受容体」)を有し、そこからVNAR断片と呼ばれる単一ドメイン抗体を得ることができる。別のアプローチは、ヒトまたはマウス由来の一般的な免疫グロブリンG(IgG)からの二量体可変ドメインを単量体に分割することである。単一ドメイン抗体に関するほとんどの研究は、現在、重鎖可変ドメインに基づいているが、軽鎖に由来するナノボディも、標的エピトープに特異的に結合することが示されている。
【0184】
抗体は、任意のアイソタイプを有することができる。本明細書で使用される場合、「アイソタイプ」という用語は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる免疫グロブリンクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM)を指す。特定のアイソタイプ、例えばIgG1が本明細書で言及される場合、この用語は、特定のアイソタイプ配列、例えば特定のIgG1配列に限定されないが、抗体が他のアイソタイプよりもそのアイソタイプ、例えばIgG1に配列が近いことを示すために使用される。したがって、例えば本発明のIgG1抗体は、定常領域の変異を含む、天然に存在するIgG1抗体の配列変異体であり得る。
【0185】
様々な実施形態では、抗体は、IgG1抗体、より具体的にはIgG1カッパもしくはIgG1ラムダアイソタイプ(すなわちIgG1κ、IgG1λ)、IgG2a抗体(例えばIgG2aκ、IgG2aλ)、IgG2b抗体(例えばIgG2bκ、IgG2bλ)、IgG3抗体(例えばIgG3κ、IgG3λ)またはIgG4抗体(例えばIgG4κ、IgG4λ)である。
【0186】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。したがって、「ヒトモノクローナル抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する、単一の結合特異性を示す抗体を指す。ヒトモノクローナル抗体は、不死化細胞に融合されたヒト重鎖導入遺伝子および軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する、トランスジェニックマウスなどのトランスジェニックまたはトランスクロモソーマル非ヒト動物から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって産生され得る。
【0187】
本明細書で使用される「キメラ抗体」という用語は、可変領域が非ヒト種に由来し(例えばげっ歯動物に由来)、定常領域がヒトなどの異なる種に由来する抗体を指す。治療用途のためのキメラモノクローナル抗体は、抗体免疫原性を低下させるために開発されている。キメラ抗体の文脈で使用される「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の両方のCDRおよびフレームワーク領域を含む領域を指す。キメラ抗体は、Sambrook et al.,1989,Molecular Cloning:A laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,Ch.15に記載されているような標準的なDNA技術を使用することによって作製され得る。キメラ抗体は、遺伝子操作された、または酵素的に操作された組換え抗体であり得る。キメラ抗体を作製することは当業者の知識の範囲内であり、したがって、本発明によるキメラ抗体の作製は、本明細書に記載される以外の方法によって行われ得る。
【0188】
本明細書で使用される「ヒト化抗体」という用語は、ヒト抗体定常ドメインと、ヒト可変ドメインに対して高レベルの配列相同性を含むように改変された非ヒト可変ドメインとを含む、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。これは、一緒になって抗原結合部位を形成する6つの非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を相同なヒトアクセプタフレームワーク領域(FR)に移植することによって達成され得る(国際公開第92/22653号および欧州特許第0629240号を参照)。親抗体の結合親和性および特異性を完全に再構成するために、親抗体(すなわち非ヒト抗体)からのフレームワーク残基のヒトフレームワーク領域への置換(復帰突然変異)が必要とされ得る。構造相同性モデリングは、抗体の結合特性に重要なフレームワーク領域内のアミノ酸残基を同定するのに役立ち得る。したがって、ヒト化抗体は、非ヒトCDR配列、主に、任意で非ヒトアミノ酸配列への1つ以上のアミノ酸復帰突然変異を含むヒトフレームワーク領域と、完全ヒト定常領域とを含み得る。任意で、必ずしも復帰突然変異ではないさらなるアミノ酸修飾を適用して、親和性および生化学的特性などの好ましい特徴を有するヒト化抗体が得られ得る。
【0189】
本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を指す。ヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入された突然変異)を含み得る。しかしながら、「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、マウスまたはラットなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列に移植された抗体を含むことを意図しない。ヒトモノクローナル抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えばKohler and Milstein,Nature 256:495(1975)の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む、様々な技術によって作製することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が原則として好ましいが、モノクローナル抗体を作製するための他の技術、例えば、Bリンパ球のウイルスもしくは発癌性形質転換、またはヒト抗体遺伝子のライブラリを用いるファージディスプレイ技術を使用することができる。ヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための適切な動物系は、マウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ産生は非常によく確立された手順である。免疫化プロトコルおよび融合のために免疫化された脾細胞を単離するための技術は、当技術分野で公知である。融合パートナー(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順も公知である。したがって、ヒトモノクローナル抗体は、例えば、マウス系またはラット系ではなくヒト免疫系の一部を担持するトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルマウスまたはラットを使用して作製することができる。したがって、一実施形態では、ヒト抗体は、動物免疫グロブリン配列の代わりにヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列を担持する、マウスまたはラットなどのトランスジェニック動物から得られる。そのような実施形態では、抗体は、動物に導入されたヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来するが、最終的な抗体配列は、前記ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列が内因性動物抗体機構による体細胞超変異および親和性成熟によってさらに修飾された結果であり、例えばMendez et al.1997 Nat Genet.15(2):146-56を参照。
【0190】
本明細書で使用される場合、文脈と矛盾しない限り、「Fabアーム」、「結合アーム」または「アーム」という用語は、1つの重鎖-軽鎖対を含み、本明細書では「半分子」と互換的に使用される。
【0191】
抗体に関連して使用される場合の「完全長」という用語は、抗体が断片ではないが、自然界でそのアイソタイプについて通常見出される特定のアイソタイプのドメイン、例えばIgG1抗体のVH、CH1、CH2、CH3、ヒンジ、VLおよびCLドメインの全てを含むことを示す。
【0192】
本明細書で使用される場合、文脈と矛盾しない限り、「Fc領域」という用語は、免疫グロブリンの重鎖の2つのFc配列からなる抗体領域を指し、前記Fc配列は、少なくともヒンジ領域、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む。
【0193】
本明細書で使用される場合、所定の抗原またはエピトープへの抗体の結合に関連して「結合する」または「結合することができる」という用語は、典型的には、バイオレイヤー干渉法(BLI)を使用して決定した場合、または、例えば、抗原をリガンドとし、抗体を分析物として使用するBIAcore 3000装置での表面プラズモン共鳴(SPR)技術を使用して決定した場合、約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下、約10-10M以下、または約10-11Mもしくはさらにそれ以下のKに対応する親和性での結合である。抗体は、所定の抗原または密接に関連する抗原以外の非特異的抗原(例えばBSA、カゼイン)への結合に対するその親和性よりも少なくとも10倍低い、例えば少なくとも100倍低い、例えば少なくとも1,000倍低い、例えば少なくとも10,000倍低い、例えば少なくとも100,000倍低いKに対応する親和性で所定の抗原に結合する。親和性がより低い程度量は抗体のKに依存するので、抗体のKが非常に低い(すなわち、抗体が非常に特異的である)場合、抗原に対する親和性が非特異的抗原に対する親和性よりも低い程度は、少なくとも10,000倍であり得る。
【0194】
本明細書で使用される「k」(秒-1)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数を指す。前記値は、koff値とも呼ばれる。
【0195】
本明細書で使用される「K」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を指す。
【0196】
本発明はまた、本明細書に記載の抗体のVL領域、VH領域、または1つ以上のCDRの機能的変異体を含む抗体を想定する。抗体に関連して使用されるVL、VH、またはCDRの機能的変異体は、依然として、抗体が「参照」または「親」抗体の親和性および/または特異性/選択性の少なくともかなりの割合(少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%以上)を保持することを可能にし、場合によっては、そのような抗体は、親抗体よりも高い親和性、選択性および/または特異性に関連し得る。
【0197】
そのような機能的変異体は、典型的には、親抗体に対する有意な配列同一性を保持する。
【0198】
例示的な変異体には、主に保存的置換によって親抗体配列のVH領域および/またはVL領域および/またはCDR領域とは異なるものが含まれる;例えば、変異体における置換の最大10個、例えば9、8、7、6、5、4、3、2または1個は保存的アミノ酸残基置換である。
【0199】
VL領域もしくはVH領域などの本明細書に記載の抗体配列、またはVL領域もしくはVH領域などの本明細書に記載の抗体配列とある程度の相同性もしくは同一性を有する抗体配列の機能的変異体は、好ましくは非CDR配列の改変または変異を含むが、CDR配列は、好ましくは不変のままである。
【0200】
本明細書で使用される「特異性」という用語は、文脈と矛盾しない限り、以下の意味を有することが意図されている。2つの抗体は、同じ抗原および同じエピトープに結合する場合、「同じ特異性」を有する。
【0201】
「競合する」および「競合」という用語は、同じ抗原に対する第1の抗体と第2の抗体との間の競合を指し得る。あるいは、「競合する」および「競合」は、内因性リガンドの対応する受容体への結合についての抗体と内因性リガンドとの間の競合も指し得る。抗体が内因性リガンドのその受容体への結合を妨げる場合、そのような抗体は、リガンドとその受容体との内因性相互作用を遮断すると言われ、したがって内因性リガンドと競合している。標的抗原への結合についての抗体の競合を試験する方法は、当業者に周知である。そのような方法の一例は、例えばELISAとしてまたはフローサイトメトリによって実施され得る、いわゆる交差競合アッセイである。あるいは、バイオレイヤー干渉法を用いて競合を決定してもよい。
【0202】
標的抗原への結合について競合する抗体は、抗原上の異なるエピトープに結合することができ、エピトープは互いに非常に近接しているので、一方のエピトープに結合する第1の抗体が他方のエピトープへの第2の抗体の結合を妨げる。しかしながら、他の状況では、2つの異なる抗体が抗原上の同じエピトープに結合することができ、競合結合アッセイにおいて結合について競合する。同じエピトープに結合するそのような抗体は、本明細書では同じ特異性を有すると見なされる。したがって、一実施形態では、同じエピトープに結合する抗体は、標的分子上の同じアミノ酸に結合すると見なされる。抗体が標的抗原上の同じエピトープに結合することは、当業者に公知の標準的なアラニンスキャニング実験または抗体-抗原結晶化実験によって決定され得る。好ましくは、異なるエピトープに結合する抗体または結合ドメインは、それらのそれぞれのエピトープへの結合について互いに競合していない。
【0203】
上記のように、様々な形式の抗体が当技術分野で記載されている。本発明の結合剤は、原則として、任意のアイソタイプの抗体を含むことができる。アイソタイプの選択は、典型的には、所望のFc媒介エフェクタ機能、例えばADCC誘導、またはFc媒介エフェクタ機能を欠く抗体(「不活性」抗体)の必要性によって導かれる。例示的なアイソタイプは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4である。ヒト軽鎖定常領域カッパまたはラムダのいずれかを使用し得る。本発明の抗体のエフェクタ機能は、様々な治療的使用のために、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgD、IgA、IgE、またはIgM抗体へのアイソタイプスイッチングによって変化し得る。一実施形態では、本発明の抗体の両方の重鎖は、IgG1アイソタイプ、例えばIgG1κである。任意で、重鎖は、本明細書の他の箇所に記載されるように、ヒンジおよび/またはCH3領域で修飾されていてもよい。
【0204】
好ましくは、抗原結合領域またはドメインの各々は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含み、前記可変領域は各々、3つのCDR配列、それぞれCDR1、CDR2およびCDR3、ならびに4つのフレームワーク配列、それぞれFR1、FR2、FR3およびFR4を含む。さらに、好ましくは、抗体は2つの重鎖定常領域(CH)および2つの軽鎖定常領域(CL)を含む。
【0205】
一実施形態では、結合剤は、完全長IgG1抗体などの完全長抗体を含む。
【0206】
他の実施形態では、結合剤は、Fab’もしくはFab断片などの抗体断片、VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片、国際公開第2007059782号(Genmab)に記載されている一価抗体、F(ab’)断片、Fd断片、Fv断片、dAb断片、ラクダ科動物もしくはナノボディ、または単離された相補性決定領域(CDR)を含む。
【0207】
本発明の文脈における「結合剤」という用語は、所望の抗原に結合することができる任意の薬剤を指す。本発明の特定の実施形態では、結合剤は、抗体、抗体断片、もしくは任意の他の結合タンパク質、またはそれらの任意の組合せであるか、またはそれらを含む。
【0208】
本発明の文脈における「結合部分」という用語は、所望の抗原に結合することができる任意の部分、基またはドメインを指す。本発明の特定の実施形態では、結合部分は、抗体、抗体断片、もしくは任意の他の結合タンパク質、またはそれらの任意の組合せであるか、またはそれらを含む。
【0209】
核酸
本明細書で使用される「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学合成された分子などのDNAおよびRNAを含むことが意図されている。核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。RNAは、インビトロ転写されたRNA(IVT RNA)または合成RNAを含む。本発明によれば、ポリヌクレオチドは、好ましくは単離されている。
【0210】
核酸は、ベクターに含まれ得る。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージなどのファージベクター、レトロウイルス、アデノウイルスもしくはバキュロウイルスベクターなどのウイルスベクター、または細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)もしくはP1人工染色体(PAC)などの人工染色体ベクターを含む、当業者に公知の任意のベクターを含む。前記ベクターは、発現ベクターおよびクローニングベクターを含む。発現ベクターは、プラスミドおよびウイルスベクターを含み、一般に、所望のコード配列および特定の宿主生物(例えば、細菌、酵母、植物、昆虫もしくは哺乳動物)またはインビトロ発現系における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要な適切なDNA配列を含む。クローニングベクターは、一般に、特定の所望のDNA断片を操作および増幅するために使用され、所望のDNA断片の発現に必要な機能的配列を欠いていてもよい。
【0211】
本発明の全ての態様の一実施形態では、本明細書に記載の活性化化合物をコードするRNAは、治療される対象の細胞で発現されて活性化化合物を提供する。活性化化合物が2つ以上のポリペプチド鎖を含む場合、異なるポリペプチド鎖は、同じまたは異なるRNA分子によってコードされ得る。
【0212】
本発明の全ての態様の一実施形態では、本明細書に記載のドケッティング化合物をコードするRNAは、治療される対象の細胞で発現されてドケッティング化合物を提供する。ドケッティング化合物が2つ以上のポリペプチド鎖を含む場合、異なるポリペプチド鎖は、同じまたは異なるRNA分子によってコードされ得る。
【0213】
本明細書に記載の核酸は、組換えおよび/または単離された分子であり得る。
【0214】
本開示では、「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含む核酸分子に関する。好ましい実施形態では、RNAは、リボヌクレオチド残基の全部または大部分を含む。本明細書で使用される場合、「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドを指す。RNAは、限定されないが、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的に精製されたRNAなどの単離されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組換え生産されたRNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然に存在するRNAとは異なる修飾RNAを包含する。そのような改変は、内部RNAヌクレオチドへの、またはRNAの末端(一方もしくは両方)への非ヌクレオチド物質の付加を指し得る。本明細書では、RNA中のヌクレオチドが、化学合成されたヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドであり得ることも企図される。本開示では、これらの改変されたRNAは、天然に存在するRNAの類似体と見なされる。
【0215】
本開示の特定の実施形態では、RNAは、ペプチドまたはタンパク質をコードするRNA転写物に関連するメッセンジャRNA(mRNA)である。当技術分野で確立されているように、mRNAは、一般に、5’非翻訳領域(5’-UTR)、ペプチドコード領域および3’非翻訳領域(3’-UTR)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、インビトロ転写または化学合成によって生成される。一実施形態では、mRNAは、DNA鋳型を使用するインビトロ転写によって生成され、DNAは、デオキシリボヌクレオチドを含む核酸を指す。
【0216】
一実施形態では、RNAはインビトロ転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0217】
本開示の特定の実施形態では、RNAは、「レプリコンRNA」または単に「レプリコン」、特に「自己複製RNA」または「自己増幅RNA」である。特に好ましい一実施形態では、レプリコンまたは自己複製RNAは、ssRNAウイルス、特にアルファウイルスなどのプラス鎖ssRNAウイルスに由来するか、またはそれに由来する要素を含む。アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質で複製する(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose et al.,Future Microbiol.,2009,vol.4,pp.837-856を参照)。多くのアルファウイルスの全ゲノム長は、典型的には11,000~12,000ヌクレオチドの範囲であり、ゲノムRNAは、典型的には5’キャップおよび3’ポリ(A)尾部を有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾および複製ならびにタンパク質修飾に関与する)および構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。典型的には、ゲノム中に2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1~nsP4)は、典型的には、ゲノムの5’末端付近から始まる第1のORFによって一緒にコードされ、一方アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流に見出され、ゲノムの3’末端付近に延びる第2のORFによって一緒にコードされる。典型的には、第1のORFは第2のORFよりも大きく、比率はおよそ2:1である。アルファウイルスに感染した細胞では、非構造タンパク質をコードする核酸配列のみがゲノムRNAから翻訳され、一方構造タンパク質をコードする遺伝情報は、真核生物のメッセンジャRNA(mRNA;Gould et al.,2010,Antiviral Res.,vol.87,pp.111-124)に類似したRNA分子であるサブゲノム転写物から翻訳可能である。感染後、すなわちウイルス生活環の初期段階に、(+)鎖ゲノムRNAは、非構造ポリタンパク質(nsP1234)をコードするオープンリーディングフレームの翻訳のためにメッセンジャRNAのように直接作用する。アルファウイルス由来のベクターは、外来遺伝情報を標的細胞または標的生物に送達するために提案されている。単純なアプローチでは、アルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームによって置き換える。アルファウイルスに基づくトランス複製系は、2つの別個の核酸分子上のアルファウイルスヌクレオチド配列要素に依存する:一方の核酸分子はウイルスレプリカーゼをコードし、他方の核酸分子はトランスで前記レプリカーゼによって複製されることができる(したがってトランス複製系という名称)。トランス複製は、所与の宿主細胞中にこれらの核酸分子の両方が存在することを必要とする。トランスでレプリカーゼによって複製され得る核酸分子は、アルファウイルスレプリカーゼによる認識およびRNA合成を可能にするために特定のアルファウイルス配列要素を含まなければならない。
【0218】
一実施形態では、本明細書に記載のRNAは修飾ヌクレオシドを有し得る。いくつかの実施形態では、RNAは、少なくとも1つの(例えば全ての)ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0219】
本明細書で使用される「ウラシル」という用語は、RNAの核酸中に存在し得る核酸塩基の1つを表す。ウラシルの構造は:
【0220】
【化1】
【0221】
である。
【0222】
本明細書で使用される「ウリジン」という用語は、RNA中に存在し得るヌクレオシドの1つを表す。ウリジンの構造は:
【0223】
【化2】
【0224】
である。
【0225】
UTP(ウリジン5’-三リン酸)は、以下の構造:
【0226】
【化3】
【0227】
を有する。
【0228】
プソイドUTP(プソイドウリジン5’-三リン酸)は、以下の構造:
【0229】
【化4】
【0230】
を有する。
【0231】
「プソイドウリジン」は、ウリジンの異性体である修飾ヌクレオシドの一例であり、ウラシルは、窒素-炭素グリコシド結合の代わりに炭素-炭素結合を介してペントース環に結合している。
【0232】
別の例示的な修飾ヌクレオシドはN1-メチルプソイドウリジン(m1Ψ)であり、これは、構造:
【0233】
【化5】
【0234】
を有する。
【0235】
N1-メチルプソイドUTPは、以下の構造:
【0236】
【化6】
【0237】
を有する。
【0238】
別の例示的な修飾ヌクレオシドは5-メチルウリジン(m5U)であり、これは、構造:
【0239】
【化7】
【0240】
を有する。
【0241】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNA中の1つ以上のウリジンは、修飾ヌクレオシドで置き換えられる。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは修飾ウリジンである。
【0242】
いくつかの実施形態では、RNAは、少なくとも1つのウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。いくつかの実施形態では、RNAは、各ウリジンの代わりに修飾ヌクレオシドを含む。
【0243】
いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)および5-メチルウリジン(m5U)から独立して選択される。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドはプソイドウリジン(ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドはN1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは5-メチルウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、2種類以上の修飾ヌクレオシドを含んでもよく、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)および5-メチルウリジン(m5U)から独立して選択される。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)およびN1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)および5-メチルウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)および5-メチルウリジン(m5U)を含む。いくつかの実施形態では、修飾ヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)および5-メチルウリジン(m5U)を含む。
【0244】
いくつかの実施形態では、RNA中の1つ以上、例えば全てのウリジンを置換する修飾ヌクレオシドは、3-メチルウリジン(mU)、5-メトキシウリジン(moU)、5-アザウリジン、6-アザウリジン、2-チオ-5-アザウリジン、2-チオウリジン(sU)、4-チオウリジン(sU)、4-チオプソイドウリジン、2-チオプソイドウリジン、5-ヒドロキシウリジン(hoU)、5-アミノアリルウリジン、5-ハロウリジン(例えば5-ヨードウリジンもしくは5-ブロモウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmoU)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmoU)、5-カルボキシメチルウリジン(cmU)、1-カルボキシメチルプソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chmU)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchmU)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcmU)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン(mcmU)、5-アミノメチル-2-チオウリジン(nmU)、5-メチルアミノメチルウリジン(mnmU)、1-エチルプソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオウリジン(mnmU)、5-メチルアミノメチル-2-セレノウリジン(mnmseU)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン(cmnmU)、5-プロピニルウリジン、1-プロピニルプソイドウリジン、5-タウリノメチルウリジン(τmU)、1-タウリノメチルプソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオプソイドウリジン)、5-メチル-2-チオウリジン(mU)、1-メチル-4-チオプソイドウリジン(mΨ)、4-チオ-1-メチルプソイドウリジン、3-メチルプソイドウリジン(mΨ)、2-チオ-1-メチルプソイドウリジン、1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザプソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチルジヒドロウリジン(mD)、2-チオジヒドロウリジン、2-チオジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシウリジン、2-メトキシ-4-チオウリジン、4-メトキシプソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオプソイドウリジン、N1-メチルプソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acpU)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acpΨ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inmU)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオウリジン(inmU)、α-チオウリジン、2’-O-メチルウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチルウリジン(mUm)、2’-O-メチルプソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチルウリジン(sUm)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチルウリジン(mcmUm)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチルウリジン(ncmUm)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチルウリジン(cmnmUm)、3,2’-O-ジメチルウリジン(mUm)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチルウリジン(inmUm)、1-チオウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジン、または当技術分野で公知の任意の他の修飾ウリジンのいずれか1つ以上であり得る。
【0245】
一実施形態では、RNAは、他の修飾ヌクレオシドを含むか、またはさらなる修飾ヌクレオシド、例えば修飾シチジンを含む。例えば、一実施形態では、RNAにおいて、シチジンが5-メチルシチジンで部分的または完全に、好ましくは完全に置換されている。一実施形態では、RNAは、5-メチルシチジンと、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)および5-メチルウリジン(m5U)から選択される1つ以上とを含む。一実施形態では、RNAは、5-メチルシチジンおよびN1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)を含む。いくつかの実施形態では、RNAは、各シチジンの代わりに5-メチルシチジンを含み、各ウリジンの代わりにN1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)を含む。
【0246】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは5’キャップを含む。一実施形態では、本開示のRNAは、キャップされていない5’-三リン酸を有さない。一実施形態では、RNAは、5’キャップ類似体によって修飾され得る。「5’キャップ」という用語は、mRNA分子の5’末端に見出される構造を指し、一般に、5’-5’三リン酸結合を介してmRNAに接続されたグアノシンヌクレオチドからなる。一実施形態では、このグアノシンは7位でメチル化されている。RNAに5’キャップまたは5’キャップ類似体を提供することは、5’キャップがRNA鎖に共転写的に発現されるインビトロ転写によって達成され得るか、またはキャッピング酵素を使用して転写後にRNAに結合され得る。
【0247】
いくつかの実施形態では、RNAのためのビルディングブロックキャップは、m 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApG(時にm 7,3’OG(5’)ppp(5’)m2’-OApGとも呼ばれる)であり、これは、以下の構造:
【0248】
【化8】
【0249】
を有する。
【0250】
以下は、RNAおよびm 7,3’OG(5’)ppp(5’)m2’-OApGを含む例示的なキャップ1 RNAである:
【0251】
【化9】
【0252】
以下は、別の例示的なキャップ1 RNA(キャップ類似体なし)である:
【0253】
【化10】
【0254】
いくつかの実施形態では、RNAは、一実施形態では、構造:
【0255】
【化11】
【0256】
を有するキャップ類似体アンチリバースキャップ(ARCAキャップ(m 7,3’OG(5’)ppp(5’)G))を使用して、「キャップ0」構造で修飾される。
【0257】
以下は、RNAおよびm 7,3’OG(5’)ppp(5’)Gを含む例示的なキャップ0 RNAである:
【0258】
【化12】
【0259】
いくつかの実施形態では、「キャップ0」構造は、構造:
【0260】
【化13】
【0261】
を有するキャップ類似体ベータ-S-ARCA(m 7,2’OG(5’)ppSp(5’)G)を使用して生成される。
【0262】
以下は、ベータ-S-ARCA(m 7,2’OG(5’)ppSp(5’)G)およびRNAを含む例示的なキャップ0 RNAである:
【0263】
【化14】
【0264】
ベータ-S-ARCAの「D1」ジアステレオマーまたは「ベータ-S-ARCA(D1)」は、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマー(ベータ-S-ARCA(D2))と比較してHPLCカラムで最初に溶出し、したがってより短い保持時間を示すベータ-S-ARCAのジアステレオマーである(参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2011/015347号を参照)。
【0265】
特に好ましいキャップは、ベータ-S-ARCA(D1)(m 7,2’-OGppSpG)またはm 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApGである。
【0266】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは、5’-UTRおよび/または3’-UTRを含む。「非翻訳領域」または「UTR」という用語は、転写されるがアミノ酸配列に翻訳されないDNA分子内の領域、またはmRNA分子などのRNA分子内の対応する領域に関する。非翻訳領域(UTR)は、オープンリーディングフレームの5’側(上流)(5’-UTR)および/またはオープンリーディングフレームの3’側(下流)(3’-UTR)に存在し得る。5’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の開始コドンの上流の5’末端に位置する。5’-UTRは5’キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば5’キャップに直接隣接している。3’-UTRは、存在する場合、タンパク質コード領域の終止コドンの下流の3’末端に位置するが、「3’-UTR」という用語は、好ましくはポリ(A)配列を含まない。したがって、3’-UTRはポリ(A)配列(存在する場合)の上流にあり、例えばポリ(A)配列に直接隣接している。
【0267】
いくつかの実施形態では、RNAは、配列番号1のヌクレオチド配列、または配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む5’-UTRを含む。
【0268】
いくつかの実施形態では、RNAは、配列番号2もしくは3のヌクレオチド配列、または配列番号2もしくは3のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含む3’-UTRを含む。
【0269】
特に好ましい5’-UTRは、配列番号1のヌクレオチド配列を含む。特に好ましい3’-UTRは、配列番号2または3のヌクレオチド配列を含む。
【0270】
いくつかの実施形態では、本開示によるRNAは、3’-ポリ(A)配列を含む。
【0271】
本発明で使用される場合、「ポリ(A)配列」または「ポリA尾部」という用語は、典型的にはRNA分子の3’末端に位置するアデニル酸残基の連続的または断続的な配列を指す。ポリ(A)配列は当業者に公知であり、本明細書に記載のRNAの3’UTRに後続し得る。連続的なポリ(A)配列は、連続するアデニル酸残基を特徴とする。自然界では、連続的なポリ(A)配列が典型的である。本明細書に開示されるRNAは、転写後に鋳型非依存性RNAポリメラーゼによってRNAの遊離3’末端に結合されたポリ(A)配列、またはDNAによってコードされ、鋳型依存性RNAポリメラーゼによって転写されたポリ(A)配列を有し得る。
【0272】
約120個のAヌクレオチドのポリ(A)配列は、トランスフェクトされた真核細胞におけるRNAのレベル、およびポリ(A)配列の上流(5’側)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに有益な影響を及ぼすことが実証されている(Holtkamp et al.,2006,Blood,vol.108,pp.4009-4017)。
【0273】
ポリ(A)配列は任意の長さであり得る。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのAヌクレオチド、特に約120個のAヌクレオチドを含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなる。これに関連して、「から本質的になる」は、ポリ(A)配列中のほとんどのヌクレオチド、典型的にはポリ(A)配列中のヌクレオチドの数の少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%がAヌクレオチドであるが、残りのヌクレオチドが、Uヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、またはCヌクレオチド(シチジル酸)などのAヌクレオチド以外のヌクレオチドであることを許容することを意味する。これに関連して、「からなる」は、ポリ(A)配列中の全てのヌクレオチド、すなわちポリ(A)配列中のヌクレオチドの数の100%がAヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」または「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0274】
いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、コード鎖に相補的な鎖中に反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)を含むDNA鋳型に基づいて、RNA転写中、例えばインビトロ転写RNAの調製中に結合される。ポリ(A)配列をコードするDNA配列(コード鎖)は、ポリ(A)カセットと呼ばれる。
【0275】
いくつかの実施形態では、DNAのコード鎖に存在するポリ(A)カセットは、本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、およびdT)のランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、10~30、または10~20ヌクレオチド長であり得る。そのようなカセットは、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/005324A1号に開示されている。国際公開第2016/005324A1号に開示されている任意のポリ(A)カセットを本発明で使用し得る。本質的にdAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)が均等に分布し、例えば5~50ヌクレオチドの長さを有するランダムな配列によって中断されているポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)におけるプラスミドDNAの持続的な増殖を示し、RNAレベルでは、RNAの安定性および翻訳効率を支持することに関して有益な特性と依然として関連している。その結果として、いくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNA分子に含まれるポリ(A)配列は、本質的にAヌクレオチドからなるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)のランダムな配列によって中断されている。そのようなランダムな配列は、5~50、10~30、または10~20ヌクレオチド長であり得る。
【0276】
いくつかの実施形態では、Aヌクレオチド以外のヌクレオチドは、その3’末端でポリ(A)配列に隣接していない、すなわち、ポリ(A)配列は、A以外のヌクレオチドによってその3’末端でマスクされていないか、または後続されていない。
【0277】
いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドを含み得る。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、本質的に、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドからなり得る。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも80個、または少なくとも100個、および最大500個、最大400個、最大300個、最大200個、または最大150個までのヌクレオチドからなり得る。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は少なくとも100個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は約150個のヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリ(A)配列は約120個のヌクレオチドを含む。
【0278】
いくつかの実施形態では、RNAは、配列番号4のヌクレオチド配列、または配列番号4のヌクレオチド配列と少なくとも99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、もしくは80%の同一性を有するヌクレオチド配列を含むポリ(A)配列を含む。
【0279】
特に好ましいポリ(A)配列は、配列番号4のヌクレオチド配列を含む。
【0280】
本開示によれば、活性化化合物は、好ましくは、RNAを投与されている対象の細胞に入るとそれぞれのタンパク質に翻訳される一本鎖5’キャップmRNAとして投与される。好ましくは、RNAは、安定性および翻訳効率に関するRNAの最大の有効性のために最適化された構造要素(5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列)を含む。
【0281】
本開示によれば、ドケッティング化合物は、好ましくは、RNAを投与されている対象の細胞に入るとそれぞれのタンパク質に翻訳される一本鎖5’キャップmRNAとして投与される。好ましくは、RNAは、安定性および翻訳効率に関するRNAの最大の有効性のために最適化された構造要素(5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列)を含む。
【0282】
一実施形態では、ベータ-S-ARCA(D1)をRNAの5’末端の特異的キャッピング構造として利用する。一実施形態では、m 7,3’-OGppp(m 2’-O)ApGをRNAの5’末端の特異的キャッピング構造として利用する。一実施形態では、5’-UTR配列はヒトアルファ-グロビンmRNAに由来し、任意で翻訳効率を高めるために最適化された「コザック配列」を有する。一実施形態では、「スプリットのアミノ末端エンハンサ」(AES)mRNA(Fと呼ばれる)およびミトコンドリアコード12SリボソームRNA(Iと呼ばれる)に由来する2つの配列要素(FI要素)の組合せをコード配列とポリ(A)配列との間に配置して、より高い最大タンパク質レベルおよびmRNAの長期持続性を確実にする。これらは、RNAの安定性を付与し、総タンパク質発現を増強する配列のエクスビボ選択プロセスによって同定された(参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/060314号を参照)。一実施形態では、ヒトベータ-グロビンmRNAに由来する2つの再反復3’-UTRをコード配列とポリ(A)配列との間に配置して、より高い最大タンパク質レベルおよびmRNAの長期持続性を確実にする。一実施形態では、30個のアデノシン残基のストレッチと、それに続く10個のヌクレオチドリンカー配列および別の70個のアデノシン残基とからなる、110ヌクレオチド長と測定されるポリ(A)配列が使用される。このポリ(A)配列は、RNAの安定性および翻訳効率を高めるように設計された。
【0283】
本発明の全ての態様の一実施形態では、活性化化合物をコードするRNAは、治療される対象の細胞で発現されて活性化化合物を提供する。本発明の全ての態様の一実施形態では、RNAは対象の細胞で一過性に発現される。本発明の全ての態様の一実施形態では、RNAはインビトロ転写RNAである。本発明の全ての態様の一実施形態では、活性化化合物の発現は細胞表面においてである、すなわち、活性化化合物は細胞と会合したままである。
【0284】
本発明の全ての態様の一実施形態では、ドケッティング化合物をコードするRNAは、治療される対象の細胞で発現されてドケッティング化合物を提供する。本発明の全ての態様の一実施形態では、RNAは対象の細胞で一過性に発現される。本発明の全ての態様の一実施形態では、RNAはインビトロ転写RNAである。本発明の全ての態様の一実施形態では、ドケッティング化合物の発現は細胞外空間内である、すなわち、ドケッティング化合物は分泌される。
【0285】
本開示の文脈において、「転写」という用語は、DNA配列中の遺伝暗号がRNAに転写されるプロセスに関する。その後、RNAはペプチドまたはタンパク質に翻訳され得る。
【0286】
本発明によれば、「転写」という用語は「インビトロ転写」を含み、「インビトロ転写」という用語は、RNA、特にmRNAが、好ましくは適切な細胞抽出物を使用して、無細胞系においてインビトロで合成されるプロセスに関する。好ましくは、クローニングベクターが転写物の生成に適用される。これらのクローニングベクターは、一般に転写ベクターと呼ばれ、本発明によれば「ベクター」という用語に包含される。本発明によれば、本発明で使用されるRNAは、好ましくはインビトロ転写RNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のインビトロ転写によって得られ得る。転写を制御するためのプロモータは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモータであり得る。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3、およびSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、本発明によるインビトロ転写は、T7またはSP6プロモータによって制御される。インビトロ転写のためのDNA鋳型は、核酸、特にcDNAをクローニングし、それをインビトロ転写のための適切なベクターに導入することによって得られ得る。cDNAは、RNAの逆転写によって得られ得る。
【0287】
RNAに関して、「発現」または「翻訳」という用語は、mRNAの鎖がペプチドまたはタンパク質を作製するようにアミノ酸の配列のアセンブリを指示する、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0288】
一実施形態では、例えばRNA脂質粒子として製剤化された、本明細書に記載のRNAの投与後、RNAの少なくとも一部が発現のために細胞に送達される。一実施形態では、RNAの少なくとも一部が標的細胞のサイトゾルに送達される。一実施形態では、RNAは、標的細胞によって翻訳されて、それがコードするペプチドまたはタンパク質を産生する。
【0289】
「コードする」は、定義されたヌクレオチドの配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または定義されたアミノ酸の配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおける他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列の固有の特性、およびそれから生じる生物学的特性を指す。したがって、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物系においてタンパク質を産生する場合、その遺伝子はタンパク質をコードする。ヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常は配列表に提供されるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として使用される非コード鎖の両方が、その遺伝子またはcDNAのタンパク質または他の産物をコードすると呼ばれ得る。
【0290】
一実施形態では、本発明に従って投与される活性化化合物をコードするRNAは、非免疫原性である。
【0291】
一実施形態では、本発明に従って投与されるドケッティング化合物をコードするRNAは、非免疫原性である。
【0292】
本明細書で使用される「非免疫原性RNA」という用語は、例えば哺乳動物への投与時に免疫系による応答を誘導しないか、または非免疫原性RNAを非免疫原性にする修飾および処理に供されていないという点においてのみ異なる同じRNAによって誘導されるよりも弱い応答を誘導する、すなわち標準RNA(stdRNA)によって誘導されるよりも弱い応答を誘導するRNAを指す。好ましい一実施形態では、本明細書において修飾RNA(modRNA)とも呼ばれる非免疫原性RNAは、自然免疫受容体のRNA媒介活性化を抑制する修飾ヌクレオシドをRNAに組み込み、二本鎖RNA(dsRNA)を除去することによって非免疫原性にされる。
【0293】
修飾ヌクレオシドの組み込みによって非免疫原性RNAを非免疫原性にするために、RNAの免疫原性を低下させるまたは抑制する限り、任意の修飾ヌクレオシドを使用し得る。自然免疫受容体のRNA媒介活性化を抑制する修飾ヌクレオシドが特に好ましい。一実施形態では、修飾ヌクレオシドは、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換を含む。一実施形態では、修飾核酸塩基は修飾ウラシルである。一実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、3-メチル-ウリジン(mU)、5-メトキシ-ウリジン(moU)、5-アザ-ウリジン、6-アザ-ウリジン、2-チオ-5-アザ-ウリジン、2-チオ-ウリジン(sU)、4-チオ-ウリジン(sU)、4-チオ-プソイドウリジン、2-チオ-プソイドウリジン、5-ヒドロキシ-ウリジン(hoU)、5-アミノアリル-ウリジン、5-ハロ-ウリジン(例えば5-ヨード-ウリジンまたは5-ブロモ-ウリジン)、ウリジン5-オキシ酢酸(cmoU)、ウリジン5-オキシ酢酸メチルエステル(mcmoU)、5-カルボキシメチル-ウリジン(cmU)、1-カルボキシメチル-プソイドウリジン、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジン(chmU)、5-カルボキシヒドロキシメチル-ウリジンメチルエステル(mchmU)、5-メトキシカルボニルメチル-ウリジン(mcmU)、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオ-ウリジン(mcmU)、5-アミノメチル-2-チオ-ウリジン(nmU)、5-メチルアミノメチル-ウリジン(mnmU)、1-エチル-プソイドウリジン、5-メチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(mnmU)、5-メチルアミノメチル-2-セレノ-ウリジン(mnmseU)、5-カルバモイルメチル-ウリジン(ncmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-ウリジン(cmnmU)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオ-ウリジン(cmnmU)、5-プロピニル-ウリジン、1-プロピニル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-ウリジン(τmU)、1-タウリノメチル-プソイドウリジン、5-タウリノメチル-2-チオ-ウリジン(τm5s2U)、1-タウリノメチル-4-チオ-プソイドウリジン、5-メチル-2-チオ-ウリジン(mU)、1-メチル-4-チオ-プソイドウリジン(mΨ)、4-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、3-メチル-プソイドウリジン(mΨ)、2-チオ-1-メチル-プソイドウリジン、1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、2-チオ-1-メチル-1-デアザ-プソイドウリジン、ジヒドロウリジン(D)、ジヒドロプソイドウリジン、5,6-ジヒドロウリジン、5-メチル-ジヒドロウリジン(mD)、2-チオ-ジヒドロウリジン、2-チオ-ジヒドロプソイドウリジン、2-メトキシ-ウリジン、2-メトキシ-4-チオ-ウリジン、4-メトキシ-プソイドウリジン、4-メトキシ-2-チオ-プソイドウリジン、N1-メチル-プソイドウリジン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン(acpU)、1-メチル-3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)プソイドウリジン(acpΨ)、5-(イソペンテニルアミノメチル)ウリジン(inmU)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2-チオ-ウリジン(inmU)、α-チオ-ウリジン、2’-O-メチル-ウリジン(Um)、5,2’-O-ジメチル-ウリジン(mUm)、2’-O-メチル-プソイドウリジン(Ψm)、2-チオ-2’-O-メチル-ウリジン(sUm)、5-メトキシカルボニルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(mcmUm)、5-カルバモイルメチル-2’-O-メチル-ウリジン(ncmUm)、5-カルボキシメチルアミノメチル-2’-O-メチル-ウリジン(cmnmUm)、3,2’-O-ジメチル-ウリジン(mUm)、5-(イソペンテニルアミノメチル)-2’-O-メチル-ウリジン(inmUm)、1-チオ-ウリジン、デオキシチミジン、2’-F-アラ-ウリジン、2’-F-ウリジン、2’-OH-アラ-ウリジン、5-(2-カルボメトキシビニル)ウリジン、および5-[3-(1-E-プロペニルアミノ)ウリジンからなる群より選択される。特に好ましい一実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドは、プソイドウリジン(ψ)、N1-メチルプソイドウリジン(m1ψ)または5-メチルウリジン(m5U)、特にN1-メチルプソイドウリジンである。
【0294】
一実施形態では、修飾核酸塩基を含むヌクレオシドによる1つ以上のウリジンの置換は、ウリジンの少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、少なくとも4%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%の置換を含む。
【0295】
T7 RNAポリメラーゼを使用したインビトロ転写(IVT)によるmRNAの合成中、酵素の通常とは異なる活性のために、二本鎖RNA(dsRNA)を含む有意な量の異常な産物が産生される。dsRNAは炎症性サイトカインを誘導し、エフェクタ酵素を活性化してタンパク質合成の阻害をもたらす。dsRNAは、例えば、非多孔質または多孔質C-18ポリスチレン-ジビニルベンゼン(PS-DVB)マトリックスを使用するイオン対逆相HPLCによって、IVT RNAなどのRNAから除去することができる。あるいは、ssRNAではなくdsRNAを特異的に加水分解し、それによってIVT RNA調製物からdsRNA夾雑物を除去する大腸菌RNaseIIIを用いた酵素ベースの方法を使用することができる。さらに、セルロース材料を使用することによってdsRNAをssRNAから分離することができる。一実施形態では、RNA調製物をセルロース材料と接触させ、dsRNAのセルロース材料への結合を可能にし、かつssRNAのセルロース材料への結合を許容しない条件下で、ssRNAをセルロース材料から分離する。
【0296】
「除去する」または「除去」は、この用語が本明細書で使用される場合、dsRNAなどの第2の物質の集団の近傍から分離されている、非免疫原性RNAなどの第1の物質の集団の特徴を指し、ここで、第1の物質の集団は必ずしも第2の物質を欠くわけではなく、第2の物質の集団は必ずしも第1の物質を欠くわけではない。しかしながら、第2の物質の集団の除去を特徴とする第1の物質の集団は、第1の物質と第2の物質との分離されていない混合物と比較して、第2の物質の含有量が測定可能に低い。
【0297】
一実施形態では、非免疫原性RNAからのdsRNAの除去は、非免疫原性RNA組成物中のRNAの10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.3%未満、または0.1%未満がdsRNAであるようなdsRNAの除去を含む。一実施形態では、非免疫原性RNAは、dsRNAを含まないか、または本質的に含まない。いくつかの実施形態では、非免疫原性RNA組成物は、一本鎖ヌクレオシド修飾RNAの精製調製物を含む。例えば、いくつかの実施形態では、一本鎖ヌクレオシド修飾RNAの精製調製物は、二本鎖RNA(dsRNA)を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、精製調製物は、他の全ての核酸分子(DNA、dsRNAなど)と比較して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、または少なくとも99.9%の一本鎖ヌクレオシド修飾RNAである。
【0298】
一実施形態では、非免疫原性RNAは、同じ配列を有する標準RNAよりも効率的に細胞内で翻訳される。一実施形態では、翻訳は、その非修飾対応物と比較して2倍増強される。一実施形態では、翻訳は3倍増強される。一実施形態では、翻訳は4倍増強される。一実施形態では、翻訳は5倍増強される。一実施形態では、翻訳は6倍増強される。一実施形態では、翻訳は7倍増強される。一実施形態では、翻訳は8倍増強される。一実施形態では、翻訳は9倍増強される。一実施形態では、翻訳は10倍増強される。一実施形態では、翻訳は15倍増強される。一実施形態では、翻訳は20倍増強される。一実施形態では、翻訳は50倍増強される。一実施形態では、翻訳は100倍増強される。一実施形態では、翻訳は200倍増強される。一実施形態では、翻訳は500倍増強される。一実施形態では、翻訳は1000倍増強される。一実施形態では、翻訳は2000倍増強される。一実施形態では、倍数は10~1000倍である。一実施形態では、倍数は10~100倍である。一実施形態では、倍数は10~200倍である。一実施形態では、倍数は10~300倍である。一実施形態では、倍数は10~500倍である。一実施形態では、倍数は20~1000倍である。一実施形態では、倍数は30~1000倍である。一実施形態では、倍数は50~1000倍である。一実施形態では、倍数は100~1000倍である。一実施形態では、倍数は200~1000倍である。一実施形態では、翻訳は、任意の他の有意な量または量の範囲だけ増強される。
【0299】
一実施形態では、非免疫原性RNAは、同じ配列を有する標準RNAよりも有意に低い自然免疫原性を示す。一実施形態では、非免疫原性RNAは、その非修飾対応物よりも2倍低い自然免疫応答を示す。一実施形態では、自然免疫原性は3倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は4倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は5倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は6倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は7倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は8倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は9倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は10倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は15倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は20倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は50倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は100倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は200倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は500倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は1000倍低下する。一実施形態では、自然免疫原性は2000倍低下する。
【0300】
「有意に低い自然免疫原性を示す」という用語は、自然免疫原性の検出可能な低下を指す。一実施形態では、この用語は、検出可能な自然免疫応答を誘発することなく有効量の非免疫原性RNAを投与することができるような低下を指す。一実施形態では、この用語は、非免疫原性RNAによってコードされるタンパク質の産生を検出可能に減少させるのに十分な自然免疫応答を誘発することなく非免疫原性RNAを繰り返し投与することができるような低下を指す。一実施形態では、低下は、非免疫原性RNAによってコードされるタンパク質の検出可能な産生を排除するのに十分な自然免疫応答を誘発することなく非免疫原性RNAを繰り返し投与することができるようなものである。
【0301】
「免疫原性」は、RNAなどの異物がヒトまたは他の動物の体内で免疫応答を引き起こす能力である。自然免疫系は、比較的非特異的で即時的な免疫系の成分である。これは、適応免疫系と共に、脊椎動物免疫系の2つの主要成分のうちの1つである。
【0302】
本明細書で使用される場合、「内因性」は、生物、細胞、組織または系からの、またはそれらの内部で産生される任意の物質を指す。
【0303】
本明細書で使用される場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織または系から導入されるか、またはそれらの外部で産生される任意の物質を指す。
【0304】
本明細書で使用される「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義される。
【0305】
本明細書で使用される場合、「連結された」、「融合された」、または「融合」という用語は、互換的に使用される。これらの用語は、2つ以上の要素または成分またはドメインの結合を指す。
【0306】
コドン最適化/G/C含有量の増加
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の活性化化合物のアミノ酸配列および/または本明細書に記載のドケッティング化合物のアミノ酸配列は、コドン最適化されたコード配列および/またはそのG/C含有量が野生型コード配列と比較して増加しているコード配列によってコードされる。これはまた、コード配列の1つ以上の配列領域がコドン最適化されており、および/または野生型コード配列の対応する配列領域と比較してG/C含有量が増加している実施形態を含む。一実施形態では、コドン最適化および/またはG/C含有量の増加は、好ましくはコードされるアミノ酸配列の配列を変化させない。
【0307】
「コドン最適化された」という用語は、好ましくは核酸分子によってコードされるアミノ酸配列を改変することなく、宿主生物の典型的なコドン使用頻度を反映するための核酸分子のコード領域中のコドンの改変を指す。本発明の文脈内で、コード領域は、好ましくは、本明細書に記載のRNA分子を使用して治療される対象における最適な発現のためにコドン最適化される。コドン最適化は、翻訳効率が、細胞におけるtRNAの出現の異なる頻度によっても決定されるという所見に基づく。したがって、RNAの配列は、頻繁に生じるtRNAが利用可能であるコドンが「希少コドン」の代わりに挿入されるように改変され得る。
【0308】
本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載のRNAのコード領域のグアノシン/シトシン(G/C)含有量は、野生型RNAの対応するコード配列のG/C含有量と比較して増加しており、RNAによってコードされるアミノ酸配列は、好ましくは野生型RNAによってコードされるアミノ酸配列と比較して改変されていない。RNA配列のこの改変は、翻訳される任意のRNA領域の配列がそのmRNAの効率的な翻訳のために重要であるという事実に基づく。G(グアノシン)/C(シトシン)含有量が増加した配列は、A(アデノシン)/U(ウラシル)含有量が増加した配列よりも安定である。いくつかのコドンが全く同じアミノ酸をコードする(いわゆる遺伝暗号の縮重)という事実に関して、安定性のために最も好ましいコドンを決定することができる(いわゆる代替コドン使用頻度)。RNAによってコードされるアミノ酸に応じて、その野生型配列と比較して、RNA配列の修飾には様々な可能性がある。特に、Aおよび/またはUヌクレオチドを含むコドンは、これらのコドンを、同じアミノ酸をコードするがAおよび/もしくはUを含まないかまたはより低い含有量のAおよび/もしくはUヌクレオチドを含む他のコドンで置換することによって改変することができる。
【0309】
様々な実施形態では、本明細書に記載のRNAのコード領域のG/C含有量は、野生型RNAのコード領域のG/C含有量と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、またはさらにそれ以上増加している。
【0310】
核酸含有粒子
活性化化合物をコードするRNAおよび/またはドケッティング化合物をコードするRNAなどの本明細書に記載の核酸は、粒子として製剤化されて投与され得る。
【0311】
本開示の文脈において、「粒子」という用語は、分子または分子複合体によって形成される構造化された実体に関する。一実施形態では、「粒子」という用語は、媒体中に分散したマイクロサイズまたはナノサイズの緻密な構造体などのマイクロサイズまたはナノサイズの構造体に関する。一実施形態では、粒子は、DNA、RNAまたはそれらの混合物を含む粒子などの核酸含有粒子である。
【0312】
ポリマーおよび脂質などの正に帯電した分子と負に帯電した核酸との間の静電相互作用は、粒子形成に関与する。これは、核酸粒子の複合体化および自発的形成をもたらす。一実施形態では、核酸粒子はナノ粒子である。
【0313】
本開示で使用される場合、「ナノ粒子」は、非経口投与に適した平均直径を有する粒子を指す。
【0314】
「核酸粒子」を使用して、目的の標的部位(例えば細胞、組織、器官など)に核酸を送達することができる。核酸粒子は、少なくとも1つのカチオン性もしくはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質、プロタミンなどの少なくとも1つのカチオン性ポリマー、またはそれらの混合物および核酸から形成され得る。核酸粒子には、脂質ナノ粒子(LNP)ベースおよびリポプレックス(LPX)ベースの製剤が含まれる。
【0315】
いかなる理論にも拘束されることを意図するものではないが、カチオン性もしくはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質および/またはカチオン性ポリマーは、核酸と一緒になって凝集体を形成し、この凝集はコロイド的に安定な粒子をもたらすと考えられる。
【0316】
一実施形態では、本明細書に記載の粒子は、カチオン性もしくはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質以外の少なくとも1つの脂質もしくは脂質様物質、カチオン性ポリマー以外の少なくとも1つのポリマー、またはそれらの混合物をさらに含む。
【0317】
いくつかの実施形態では、核酸粒子は2種類以上の核酸分子を含み、核酸分子の分子パラメータは、モル質量または基本的な構造要素、例えば分子構造、キャッピング、コード領域もしくは他の特徴に関するように、互いに類似し得るかまたは異なり得る。
【0318】
本明細書に記載の核酸粒子は、一実施形態では、約30nm~約1000nm、約50nm~約800nm、約70nm~約600nm、約90nm~約400nm、または約100nm~約300nmの範囲の平均直径を有し得る。
【0319】
本明細書に記載の核酸粒子は、約0.5未満、約0.4未満、約0.3未満、または約0.2以下の多分散指数を示し得る。例として、核酸粒子は、約0.1~約0.3または約0.2~約0.3の範囲の多分散指数を示し得る。
【0320】
RNA脂質粒子に関して、N/P比は、脂質中の窒素基対RNA中のリン酸基の数の比を与える。窒素原子(pHに依存する)は通常正に帯電し、リン酸基は負に帯電するので、これは電荷比と相関する。電荷平衡が存在する場合、N/P比はpHに依存する。正に帯電したナノ粒子はトランスフェクションに有利であると考えられているので、脂質製剤は、4より大きく12までのN/P比で形成されることが多い。その場合、RNAはナノ粒子に完全に結合していると見なされる。
【0321】
本明細書に記載の核酸粒子は、少なくとも1つのカチオン性もしくはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質および/または少なくとも1つのカチオン性ポリマーからコロイドを得ること、ならびにコロイドを核酸と混合して核酸粒子を得ることを含み得る広範囲の方法を使用して調製することができる。
【0322】
本明細書で使用される「コロイド」という用語は、分散した粒子が沈降しない均一な混合物の一種に関する。混合物中の不溶性粒子は微視的であり、粒径は1~1000ナノメートルである。混合物は、コロイドまたはコロイド懸濁液と呼ばれ得る。「コロイド」という用語は、混合物中の粒子のみを指し、懸濁液全体を指すのではない場合がある。
【0323】
少なくとも1つのカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質および/または少なくとも1つのカチオン性ポリマーを含むコロイドの調製のために、リポソーム小胞を調製するために従来使用され、適切に適合された方法が本明細書で適用可能である。リポソーム小胞を調製するために最も一般的に使用される方法は、以下の基本的段階を共有する:(i)有機溶媒中での脂質溶解、(ii)得られた溶液の乾燥、および(iii)乾燥した脂質の水和(様々な水性媒体を使用して)。
【0324】
膜水和法では、脂質を最初に適切な有機溶媒に溶解し、乾燥させてフラスコの底部に薄膜を得る。得られた脂質膜を、適切な水性媒体を用いて水和して、リポソーム分散液を得る。さらに、さらなる小型化工程が含まれてもよい。
【0325】
逆相蒸発は、水相と脂質を含有する有機相との間の油中水型エマルジョンの形成を含む、リポソーム小胞を調製するための膜水和の代替方法である。この混合物の短時間の超音波処理は、系の均質化のために必要である。減圧下での有機相の除去により、その後リポソーム懸濁液に変わる乳白色のゲルが得られる。
【0326】
「エタノール注入技術」という用語は、脂質を含むエタノール溶液を、針を通して水溶液に迅速に注入するプロセスを指す。この作用は、溶液全体に脂質を分散させ、脂質構造形成、例えばリポソーム形成などの脂質小胞形成を促進する。一般に、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、コロイド状リポソーム分散液にRNAを添加することによって得られる。エタノール注入技術を使用して、そのようなコロイド状リポソーム分散液は、一実施形態では、以下のように形成される:カチオン性脂質およびさらなる脂質などの脂質を含むエタノール溶液を、撹拌しながら水溶液に注入する。一実施形態では、本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、押出工程なしで得られる。
【0327】
「押し出す」または「押出」という用語は、固定された断面プロファイルを有する粒子の作製を指す。特に、これは粒子の小型化を指し、それによって粒子は、規定された細孔を有するフィルタを通過させられる。
【0328】
有機溶媒を含まない特性を有する他の方法もまた、コロイドを調製するために本開示に従って使用され得る。
【0329】
LNPは、典型的には4つの成分:イオン化可能なカチオン性脂質、リン脂質などの中性脂質、コレステロールなどのステロイド、およびポリエチレングリコール(PEG)-脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含む。各成分はペイロード保護を担い、有効な細胞内送達を可能にする。LNPは、エタノールに溶解した脂質を水性緩衝液中で核酸と迅速に混合することによって調製され得る。
【0330】
「平均直径」という用語は、長さの次元を有するいわゆるZ平均、および無次元である多分散指数(PI)を結果として提供する、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ分析を伴う動的レーザ光散乱(DLS)によって測定される粒子の平均流体力学的直径を指す(Koppel,D.,J.Chem.Phys.57,1972,pp 4814-4820,ISO 13321)。ここで、粒子の「平均直径」、「直径」または「サイズ」は、このZ平均の値と同義で使用される。
【0331】
「多分散指数」は、好ましくは、「平均直径」の定義で言及されているように、いわゆるキュムラント解析による動的光散乱測定に基づいて計算される。特定の前提条件下では、これは、ナノ粒子の集合体のサイズ分布の尺度と見なすことができる。
【0332】
様々な種類の核酸含有粒子が微粒子形態の核酸の送達に適することが以前に記載されている(例えばKaczmarek,J.C.et al.,2017,Genome Medicine 9,60)。非ウイルス核酸送達ビヒクルの場合、核酸のナノ粒子封入は、核酸を分解から物理的に保護し、特定の化学的性質に応じて、細胞取り込みおよびエンドソーム脱出を助けることができる。
【0333】
本開示は、核酸、少なくとも1つのカチオン性もしくはカチオンにイオン化可能な脂質もしくは脂質様物質、および/または核酸と会合して核酸粒子を形成する少なくとも1つのカチオン性ポリマーを含む粒子、ならびにそのような粒子を含む組成物を記載する。核酸粒子は、非共有結合相互作用によって様々な形態で粒子に複合体化される核酸を含み得る。本明細書に記載の粒子は、ウイルス粒子、特に感染性ウイルス粒子ではない、すなわち、それらは細胞にウイルス感染することができない。
【0334】
適切なカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質およびカチオン性ポリマーは、核酸粒子を形成するものであり、「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語に含まれる。「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語は、核酸と会合して核酸粒子を形成する任意の成分に関する。そのような成分には、核酸粒子の一部であり得る任意の成分が含まれる。
【0335】
カチオン性ポリマー
ポリマーは、それらの高度な化学的柔軟性を考慮して、ナノ粒子ベースの送達のために一般的に使用される材料である。典型的には、カチオン性ポリマーは、負に帯電した核酸をナノ粒子に静電的に凝縮するために使用される。これらの正に帯電した基は、多くの場合、5.5~7.5のpH範囲でプロトン化の状態を変化させるアミンからなり、エンドソーム破裂をもたらすイオンの不均衡につながると考えられる。ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、プロタミンおよびポリエチレンイミンなどのポリマー、ならびにキトサンなどの天然に存在するポリマーは全て核酸送達に適用されており、本明細書におけるカチオン性ポリマーとして適している。さらに、一部の研究者は、特に核酸送達のためのポリマーを合成した。ポリ(β-アミノエステル)は、特に、その合成の容易さと生分解性のために核酸送達において広く使用されている。そのような合成ポリマーは、本明細書におけるカチオン性ポリマーとしても適している。
【0336】
本明細書で使用される「ポリマー」は、その通常の意味、すなわち、共有結合によって連結された1つ以上の繰り返し単位(モノマー)を含む分子構造体という意味を与えられる。繰り返し単位は、全て同一であってもよく、または場合によっては、ポリマー内に2種類以上の繰り返し単位が存在してもよい。場合によっては、ポリマーは生物学的に誘導される、すなわちタンパク質などの生体高分子である。場合によっては、さらなる部分、例えば本明細書に記載されるような標的化部分もポリマー中に存在し得る。
【0337】
2種類以上の繰り返し単位がポリマー内に存在する場合、そのポリマーは「コポリマー」であると言われる。本明細書で使用されるポリマーはコポリマーであり得ることが理解されるべきである。コポリマーを形成する繰り返し単位は、任意の方法で配置され得る。例えば、繰り返し単位は、ランダムな順序で、交互の順序で、または「ブロック」コポリマーとして、すなわちそれぞれが第1の繰り返し単位(例えば第1のブロック)を含む1つ以上の領域、およびそれぞれが第2の繰り返し単位(例えば第2のブロック)を含む1つ以上の領域、等を含むように配置され得る。ブロックコポリマーは、2つ(ジブロックコポリマー)、3つ(トリブロックコポリマー)、またはそれ以上の数の異なるブロックを有することができる。
【0338】
特定の実施形態では、ポリマーは生体適合性である。生体適合性ポリマーは、典型的には中程度の濃度で有意な細胞死をもたらさないポリマーである。特定の実施形態では、生体適合性ポリマーは生分解性であり、すなわち、ポリマーは、体内などの生理学的環境内で、化学的および/または生物学的に分解することができる。
【0339】
特定の実施形態では、ポリマーは、プロタミンまたはポリアルキレンイミン、特にプロタミンであり得る。
【0340】
「プロタミン」という用語は、アルギニンに富み、(魚のような)様々な動物の精子細胞中で体細胞ヒストンの代わりに特にDNAと会合して見出される、比較的低分子量の様々な強塩基性タンパク質のいずれかを指す。特に、「プロタミン」という用語は、強塩基性で、水に可溶性であり、熱によって凝固せず、加水分解時に主にアルギニンを生成する、魚の精子中に見出されるタンパク質を指す。精製形態では、それらは、インスリンの長時間作用型製剤において、ヘパリンの抗凝固作用を中和するために使用される。
【0341】
本開示によれば、本明細書で使用される「プロタミン」という用語は、天然源または生物源から得られるまたはそれに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列およびその断片、および前記アミノ酸配列またはその断片の多量体形態、ならびに人工の、特定の目的のために特別に設計された、天然源または生物源から単離することができない(合成された)ポリペプチドを含むことが意図されている。
【0342】
一実施形態では、ポリアルキレンイミンは、ポリエチレンイミンおよび/またはポリプロピレンイミン、好ましくはポリエチレンイミンを含む。好ましいポリアルキレンイミンはポリエチレンイミン(PEI)である。PEIの平均分子量は、好ましくは0.75×10~10Da、好ましくは1000~10Da、より好ましくは10000~40000Da、より好ましくは15000~30000Da、さらにより好ましくは20000~25000Daである。
【0343】
本開示によれば、直鎖状ポリエチレンイミン(PEI)などの直鎖状ポリアルキレンイミンが好ましい。
【0344】
本明細書での使用が企図されるカチオン性ポリマー(ポリカチオン性ポリマーを含む)には、核酸に静電的に結合することができる任意のカチオン性ポリマーが含まれる。一実施形態では、本明細書での使用が企図されるカチオン性ポリマーは、例えば核酸と複合体を形成することによって、または核酸が封入もしくはカプセル化された小胞を形成することによって、核酸が会合することができる任意のカチオン性ポリマーを含む。
【0345】
本明細書に記載の粒子はまた、カチオン性ポリマー以外のポリマー、すなわち非カチオン性ポリマーおよび/またはアニオン性ポリマーを含み得る。集合的に、アニオン性および中性ポリマーは、本明細書では非カチオン性ポリマーと呼ばれる。
【0346】
脂質および脂質様物質
「脂質」および「脂質様物質」という用語は、本明細書では、1つ以上の疎水性部分または基、および任意で1つ以上の親水性部分または基も含む分子として広く定義される。疎水性部分および親水性部分を含む分子はまた、しばしば両親媒性物質として示される。脂質は、通常、水に難溶性である。水性環境では、両親媒性の性質は、分子が組織化された構造体と様々な相とに自己集合することを可能にする。それらの相の1つは、それらが水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜中に存在する場合、脂質二重層からなる。疎水性は、長鎖飽和および不飽和脂肪族炭化水素基、ならびに1つ以上の芳香族、脂環式、または複素環式基で置換されたそのような基を含むがこれらに限定されない無極性基を含むことによって付与され得る。親水性基は、極性基および/または荷電基を含み得、炭水化物、リン酸基、カルボン酸基、硫酸基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトロ基、ヒドロキシル基、および他の同様の基を含む。
【0347】
本明細書で使用される場合、「両親媒性」という用語は、極性部分と非極性部分の両方を有する分子を指す。多くの場合、両親媒性化合物は、長い疎水性尾部に結合した極性頭部を有する。いくつかの実施形態では、極性部分は水に可溶性であるが、非極性部分は水に不溶性である。さらに、極性部分は、形式正電荷または形式負電荷のいずれを有していてもよい。あるいは、極性部分は、形式正電荷と形式負電荷の両方を有してもよく、双性イオンまたは内部塩であってもよい。本開示の目的のために、両親媒性化合物は、1つ以上の天然または非天然脂質および脂質様化合物であり得るが、これらに限定されない。
【0348】
「脂質様物質」、「脂質様化合物」または「脂質様分子」という用語は、構造的および/または機能的に脂質に関連するが、厳密な意味で脂質とは見なされ得ない物質に関する。例えば、この用語は、水性環境で小胞、多層/単層リポソーム、または膜中に存在する場合に両親媒性層を形成することができる化合物を含み、界面活性剤、または親水性部分と疎水性部分の両方を有する合成化合物を含む。一般的に言えば、この用語は、脂質の構造と類似していても類似していなくてもよい、異なる構造組織を有する親水性部分と疎水性部分とを含む分子を指す。本明細書で使用される場合、「脂質」という用語は、本明細書で特に指示されない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、脂質および脂質様物質の両方を包含すると解釈されるべきである。
【0349】
両親媒性層に含まれ得る両親媒性化合物の具体的な例としては、リン脂質、アミノ脂質およびスフィンゴ脂質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0350】
特定の実施形態では、両親媒性化合物は脂質である。「脂質」という用語は、水に不溶性であるが、多くの有機溶媒に可溶性であることを特徴とする有機化合物の群を指す。一般に、脂質は、8つのカテゴリ:脂肪酸、グリセロ脂質、グリセロリン脂質、スフィンゴ脂質、サッカロ脂質、ポリケチド(ケトアシルサブユニットの縮合に由来する)、ステロール脂質およびプレノール脂質(イソプレンサブユニットの縮合に由来する)に分けられ得る。「脂質」という用語は時に脂肪の同義語として使用されるが、脂肪はトリグリセリドと呼ばれる脂質のサブグループである。脂質はまた、脂肪酸およびその誘導体(トリグリセリド、ジグリセリド、モノグリセリド、およびリン脂質を含む)などの分子、ならびにコレステロールなどのステロール含有代謝物を包含する。
【0351】
脂肪酸、または脂肪酸残基は、末端がカルボン酸基である炭化水素鎖からなる多様な分子の群である;この配置は、分子に、極性の親水性末端と水に不溶性の非極性の疎水性末端とを付与する。典型的には4~24炭素長である炭素鎖は、飽和であっても不飽和であってもよく、酸素、ハロゲン、窒素、および硫黄を含む官能基に結合していてもよい。脂肪酸が二重結合を含む場合、シスまたはトランス幾何異性のいずれかの可能性があり、これは分子の立体配置に有意に影響を及ぼす。シス二重結合は脂肪酸鎖を屈曲させ、これは、鎖中のより多くの二重結合と組み合わされる影響である。脂肪酸カテゴリにおける他の主要な脂質クラスは、脂肪酸エステルおよび脂肪酸アミドである。
【0352】
グリセロ脂質は、一置換、二置換、および三置換グリセロールから構成され、最もよく知られているのは、トリグリセリドと呼ばれるグリセロールの脂肪酸トリエステルである。「トリアシルグリセロール」という語は、「トリグリセリド」と同義に使用されることがある。これらの化合物では、グリセロールの3つのヒドロキシル基はそれぞれ、典型的には異なる脂肪酸によってエステル化されている。グリセロ脂質のさらなるサブクラスは、グリコシド結合を介してグリセロールに結合した1つ以上の糖残基の存在を特徴とするグリコシルグリセロールによって代表される。
【0353】
グリセロリン脂質は、エステル結合によって2つの脂肪酸由来の「尾部」に、およびリン酸エステル結合によって1つの「頭部」基に結合したグリセロールコアを含む両親媒性分子(疎水性領域と親水性領域の両方を含む)である。通常リン脂質と呼ばれる(スフィンゴミエリンもリン脂質として分類されるが)グリセロリン脂質の例は、ホスファチジルコリン(PC、GPChoまたはレシチンとしても公知)、ホスファチジルエタノールアミン(PEまたはGPEtn)およびホスファチジルセリン(PSまたはGPSer)である。
【0354】
スフィンゴ脂質は、スフィンゴイド塩基骨格という共通の構造的特徴を共有する化合物の複雑なファミリーである。哺乳動物における主要なスフィンゴイド塩基は、一般にスフィンゴシンと呼ばれる。セラミド(N-アシル-スフィンゴイド塩基)は、アミド結合脂肪酸を有するスフィンゴイド塩基誘導体の主要なサブクラスである。脂肪酸は、典型的には、16~26個の炭素原子の鎖長を有する飽和または一不飽和である。哺乳動物の主要なスフィンゴリン脂質はスフィンゴミエリン(セラミドホスホコリン)であるが、昆虫は主にセラミドホスホエタノールアミンを含有し、真菌はフィトセラミドホスホイノシトールおよびマンノース含有頭部基を有する。スフィンゴ糖脂質は、グリコシド結合を介してスフィンゴイド塩基に結合した1つ以上の糖残基から構成される分子の多様なファミリーである。これらの例は、セレブロシドおよびガングリオシドなどの単純なおよび複雑なスフィンゴ糖脂質である。
【0355】
コレステロールおよびその誘導体、またはトコフェロールおよびその誘導体などのステロール脂質は、グリセロリン脂質およびスフィンゴミエリンと共に膜脂質の重要な成分である。
【0356】
サッカロ脂質は、脂肪酸が糖骨格に直接連結され、膜二重層と適合性である構造を形成する化合物を表す。サッカロ脂質では、単糖が、グリセロ脂質およびグリセロリン脂質に存在するグリセロール骨格の代わりになる。最もよく知られているサッカロ脂質は、グラム陰性菌のリポ多糖のリピドA成分のアシル化グルコサミン前駆体である。典型的なリピドA分子は、7本もの脂肪アシル鎖で誘導体化されている、グルコサミンの二糖である。大腸菌での増殖に必要な最小限のリポ多糖は、2つの3-デオキシ-D-マンノ-オクツロソン酸(Kdo)残基でグリコシル化されたグルコサミンのヘキサアシル化二糖である、Kdo2-リピドAである。
【0357】
ポリケチドは、古典的な酵素、ならびに脂肪酸シンターゼと機構的特徴を共有する反復およびマルチモジュール酵素によるアセチルおよびプロピオニルサブユニットの重合によって合成される。それらは、動物、植物、細菌、真菌および海洋源からの多数の二次代謝物および天然産物を含み、大きな構造的多様性を有する。多くのポリケチドは、その骨格がグリコシル化、メチル化、ヒドロキシル化、酸化、または他のプロセスによってさらに修飾されることが多い環状分子である。
【0358】
本開示によれば、脂質および脂質様物質は、カチオン性、アニオン性または中性であり得る。中性脂質または脂質様物質は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在する。
【0359】
カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質
本明細書に記載の核酸粒子は、粒子形成剤として少なくとも1つのカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含み得る。本明細書での使用が企図されるカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、核酸に静電的に結合することができる任意のカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含む。一実施形態では、本明細書での使用が企図されるカチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、例えば核酸と複合体を形成することによって、または核酸が封入もしくはカプセル化された小胞を形成することによって、核酸と会合することができる。
【0360】
本明細書で使用される場合、「カチオン性脂質」または「カチオン性脂質様物質」は、正味の正電荷を有する脂質または脂質様物質を指す。カチオン性脂質または脂質様物質は、静電相互作用によって負に帯電した核酸に結合する。一般に、カチオン性脂質は、ステロール、アシル鎖、ジアシルまたはそれ以上のアシル鎖などの親油性部分を有し、脂質の頭部基は、典型的には正電荷を担持する。
【0361】
特定の実施形態では、カチオン性脂質または脂質様物質は、特定のpH、特に酸性pHでのみ正味の正電荷を有するが、生理学的pHなどの異なる、好ましくはより高いpHでは、好ましくは正味の正電荷を有さず、好ましくは電荷を有さず、すなわち中性である。このイオン化可能な挙動は、生理学的pHでカチオン性のままである粒子と比較して、エンドソーム脱出を助け、毒性を低減することによって有効性を高めると考えられる。
【0362】
本開示の目的のために、そのような「カチオンにイオン化可能な」脂質または脂質様物質は、状況と矛盾しない限り、「カチオン性脂質または脂質様物質」という用語に含まれる。
【0363】
一実施形態では、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質は、正に帯電しているかまたはプロトン化され得る少なくとも1つの窒素原子(N)を含む頭部基を含む。
【0364】
カチオン性脂質の例としては、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);N,N-ジメチル-2,3-ジオレイルオキシプロピルアミン(DODMA)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、3-(N-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、2,3-ジ(テトラデコキシ)プロピル-(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアザニウム(DMRIE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DMEPC)、l,2-ジミリストイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP)、1,2-ジオレイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE)、および2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-l-プロパナミウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシブタン-4-オキシ)-1-(シス、シス-9,12-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5’-(コレスト-5-エン-3-ベータ-オキシ)-3’-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(シス、シス-9’,12’-オクタデカジエンオキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N’-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、2,3-ジリノレオイルオキシ-N,N-ジメチルプロピルアミン(DLinDAP)、1,2-N,N’-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、1,2-ジリノレオイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinCDAP)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノエチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-XTC2-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-KC2-DMA)、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル-4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMA)、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(DMRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(シス-9-テトラデセニルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMORIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DLRIE)、(±)-N-(3-アミノプロピル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(GAP-DMRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)-1-プロパナミニウムブロミド(βAE-DMRIE)、N-(4-カルボキシベンジル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(オレオイルオキシ)プロパン-1-アミニウム(DOBAQ)、2-({8-[(3β)-コレスト-5-エン-3-イルオキシ]オクチル}オキシ)-N,N-ジメチル-3-[(9Z,12Z)-オクタデカ-9,12-ジエン-1-イルオキシ]プロパン-1-アミン(オクチル-CLinDMA)、1,2-ジミリストイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DMDAP)、1,2-ジパルミトイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DPDAP)、N1-[2-((1S)-1-[(3-アミノプロピル)アミノ]-4-[ジ(3-アミノ-プロピル)アミノ]ブチルカルボキサミド)エチル]-3,4-ジ[オレイルオキシ]-ベンズアミド(MVL5)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン(DOEPC)、2,3-ビス(ドデシルオキシ)-N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチルプロパン-1-アモニウムブロミド(DLRIE)、N-(2-アミノエチル)-N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミニウムブロミド(DMORIE)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)8,8’-((((2(ジメチルアミノ)エチル)チオ)カルボニル)アザンジイル)ジオクタノエート(ATX)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(ドデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DLDMA)、N,N-ジメチル-2,3-ビス(テトラデシルオキシ)プロパン-1-アミン(DMDMA)、ジ((Z)-ノン-2-エン-1-イル)-9-((4-(ジメチルアミノブタノイル)オキシ)ヘプタデカンジオエート(L319)、N-ドデシル-3-((2-ドデシルカルバモイル-エチル)-{2-[(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-2-{(2-ドデシルカルバモイル-エチル)-[2-(2-ドデシルカルバモイル-エチルアミノ)エチル]-アミノ}-エチルアミノ)プロピオンアミド(リピドイド98N12-5)、1-[2-[ビス(2-ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル-[2-[4-[2-[ビス(2ヒドロキシドデシル)アミノ]エチル]ピペラジン-1-イル]エチル]アミノ]ドデカン-2-オール(リピドイドC12-200)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0365】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、粒子中に存在する総脂質の約10モル%~約100モル%、約20モル%~約100モル%、約30モル%~約100モル%、約40モル%~約100モル%、または約50モル%~約100モル%を構成し得る。
【0366】
さらなる脂質または脂質様物質
本明細書に記載の粒子はまた、カチオン性またはカチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質以外の脂質または脂質様物質、すなわち非カチオン性脂質または脂質様物質(非カチオンにイオン化可能な脂質または脂質様物質を含む)を含み得る。集合的に、アニオン性および中性脂質または脂質様物質は、本明細書では非カチオン性脂質または脂質様物質と呼ばれる。イオン化可能/カチオン性脂質または脂質様物質に加えて、コレステロールおよび脂質などの他の疎水性部分の添加によって核酸粒子の製剤を最適化することにより、粒子の安定性および核酸送達の有効性を高め得る。
【0367】
核酸粒子の全体的な電荷に影響を及ぼしても及ぼさなくてもよいさらなる脂質または脂質様物質を組み込み得る。特定の実施形態では、さらなる脂質または脂質様物質は、非カチオン性脂質または脂質様物質である。非カチオン性脂質は、例えば、1つ以上のアニオン性脂質および/または中性脂質を含み得る。本明細書で使用される場合、「アニオン性脂質」は、選択されたpHで負に帯電している任意の脂質を指す。本明細書で使用される場合、「中性脂質」は、選択されたpHで非荷電または中性の双性イオン形態で存在するいくつかの脂質種のいずれかを指す。好ましい実施形態では、さらなる脂質は、以下の中性脂質成分の1つを含む:(1)リン脂質;(2)コレステロールもしくはその誘導体;または(3)リン脂質とコレステロールもしくはその誘導体との混合物。コレステロール誘導体の例としては、コレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2’-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4’-ヒドロキシブチルエーテル、トコフェロールおよびそれらの誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0368】
使用することができる特定のリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリンまたはスフィンゴミエリンが挙げられるが、これらに限定されない。そのようなリン脂質としては、特に、ジアシルホスファチジルコリン、例えばジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジペンタデカノイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン(DAPC)、ジベヘノイルホスファチジルコリン(DBPC)、ジトリコサノイルホスファチジルコリン(DTPC)、ジリグノセロイルファチジルコリン(DLPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(18:0ジエーテルPC)、1-オレオイル-2-コレステリルヘミスクシノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(OChemsPC)、1-ヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(C16 Lyso PC)およびホスファチジルエタノールアミン、特にジアシルホスファチジルエタノールアミン、例えばジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジステアロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイル-ホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジラウロイル-ホスファチジルエタノールアミン(DLPE)、ジフィタノイル-ホスファチジルエタノールアミン(DPyPE)、およびさらに様々な疎水性鎖を有するホスファチジルエタノールアミン脂質が挙げられる。
【0369】
特定の好ましい実施形態では、さらなる脂質は、DSPC、またはDSPCとコレステロールである。
【0370】
特定の実施形態では、核酸粒子は、カチオン性脂質とさらなる脂質の両方を含む。
【0371】
一実施形態では、本明細書に記載の粒子は、ペグ化脂質などのポリマーコンジュゲート脂質を含む。「ペグ化脂質」という用語は、脂質部分とポリエチレングリコール部分の両方を含む分子を指す。ペグ化脂質は当技術分野で公知である。
【0372】
理論に拘束されることを望むものではないが、少なくとも1つのさらなる脂質の量と比較した少なくとも1つのカチオン性脂質の量は、電荷、粒径、安定性、組織選択性、および核酸の生物活性などの重要な核酸粒子特性に影響を及ぼし得る。したがって、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、または約3:1~約1:1である。
【0373】
いくつかの実施形態では、非カチオン性脂質、特に中性脂質(例えば1つ以上のリン脂質および/またはコレステロール)は、粒子中に存在する総脂質の約0モル%~約90モル%、約0モル%~約80モル%、約0モル%~約70モル%、約0モル%~約60モル%、または約0モル%~約50モル%を構成し得る。
【0374】
リポプレックス粒子
本開示の特定の実施形態では、本明細書に記載のRNAは、RNAリポプレックス粒子中に存在し得る。
【0375】
本開示の文脈において、「RNAリポプレックス粒子」という用語は、脂質、特にカチオン性脂質、およびRNAを含有する粒子に関する。正に帯電したリポソームと負に帯電したRNAとの間の静電相互作用は、RNAリポプレックス粒子の複合体化および自発的形成をもたらす。正に帯電したリポソームは、一般に、DOTMAなどのカチオン性脂質、およびDOPEなどのさらなる脂質を使用して合成され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子はナノ粒子である。
【0376】
特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、カチオン性脂質およびさらなる脂質の両方を含む。例示的な実施形態では、カチオン性脂質はDOTMAであり、さらなる脂質はDOPEである。
【0377】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約10:0~約1:9、約4:1~約1:2、または約3:1~約1:1である。特定の実施形態では、モル比は、約3:1、約2.75:1、約2.5:1、約2.25:1、約2:1、約1.75:1、約1.5:1、約1.25:1、または約1:1であり得る。例示的な実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質対少なくとも1つのさらなる脂質のモル比は、約2:1である。
【0378】
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子は、一実施形態では、約200nm~約1000nm、約200nm~約800nm、約250nm~約700nm、約400nm~約600nm、約300nm~約500nm、または約350nm~約400nmの範囲の平均直径を有する。特定の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約200nm、約225nm、約250nm、約275nm、約300nm、約325nm、約350nm、約375nm、約400nm、約425nm、約450nm、約475nm、約500nm、約525nm、約550nm、約575nm、約600nm、約625nm、約650nm、約700nm、約725nm、約750nm、約775nm、約800nm、約825nm、約850nm、約875nm、約900nm、約925nm、約950nm、約975nm、または約1000nmの平均直径を有する。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約250nm~約700nmの範囲の平均直径を有する。別の実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約300nm~約500nmの範囲の平均直径を有する。例示的な実施形態では、RNAリポプレックス粒子は、約400nmの平均直径を有する。
【0379】
本明細書に記載のRNAリポプレックス粒子およびRNAリポプレックス粒子を含む組成物は、非経口投与後、特に静脈内投与後の標的組織へのRNAの送達に有用である。RNAリポプレックス粒子は、脂質のエタノール溶液を水または適切な水相に注入することによって得られ得るリポソームを使用して調製され得る。一実施形態では、水相は酸性pHを有する。一実施形態では、水相は、例えば約5mMの量の酢酸を含む。リポソームは、リポソームをRNAと混合することによってRNAリポプレックス粒子を調製するために使用され得る。一実施形態では、リポソームおよびRNAリポプレックス粒子は、少なくとも1つのカチオン性脂質および少なくとも1つのさらなる脂質を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)および/または1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのさらなる脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、コレステロール(Chol)および/または1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)を含む。一実施形態では、少なくとも1つのカチオン性脂質は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)を含み、少なくとも1つのさらなる脂質は、1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。一実施形態では、リポソームおよびRNAリポプレックス粒子は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)および1,2-ジ-(9Z-オクタデセノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)を含む。
【0380】
脂質ナノ粒子(LNP)
一実施形態では、本明細書に記載のRNAなどの核酸は、脂質ナノ粒子(LNP)の形態で投与される。LNPは、1つ以上の核酸分子が結合している、または1つ以上の核酸分子が封入されている粒子を形成することができる任意の脂質を含み得る。
【0381】
一実施形態では、LNPは、1つ以上のカチオン性脂質および1つ以上の安定化脂質を含む。安定化脂質は、中性脂質およびペグ化脂質を含む。
【0382】
一実施形態では、LNPは、カチオン性脂質、中性脂質、ステロイド、ポリマーコンジュゲート脂質、および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0383】
一実施形態では、LNPは、40~55モル%、40~50モル%、41~49モル%、41~48モル%、42~48モル%、43~48モル%、44~48モル%、45~48モル%、46~48モル%、47~48モル%、または47.2~47.8モル%のカチオン性脂質を含む。一実施形態では、LNPは、約47.0、47.1、47.2、47.3、47.4、47.5、47.6、47.7、47.8、47.9または48.0モル%のカチオン性脂質を含む。
【0384】
一実施形態では、中性脂質は、5~15モル%、7~13モル%、または9~11モル%の範囲の濃度で存在する。一実施形態では、中性脂質は、約9.5、10または10.5モル%の濃度で存在する。
【0385】
一実施形態では、ステロイドは、30~50モル%、35~45モル%または38~43モル%の範囲の濃度で存在する。一実施形態では、ステロイドは、約40、41、42、43、44、45または46モル%の濃度で存在する。
【0386】
一実施形態では、LNPは、1~10モル%、1~5モル%、または1~2.5モル%のポリマーコンジュゲート脂質を含む。
【0387】
一実施形態では、LNPは、40~50モル%のカチオン性脂質;5~15モル%の中性脂質;35~45モル%のステロイド;1~10モル%のポリマーコンジュゲート脂質;および脂質ナノ粒子内に封入された、または脂質ナノ粒子と会合したRNAを含む。
【0388】
一実施形態では、モルパーセントは、脂質ナノ粒子中に存在する脂質の総モルに基づいて決定される。
【0389】
一実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPE、DOPG、DPPG、POPE、DPPE、DMPE、DSPE、およびSMからなる群より選択される。一実施形態では、中性脂質は、DSPC、DPPC、DMPC、DOPC、POPC、DOPEおよびSMからなる群より選択される。一実施形態では、中性脂質はDSPCである。
【0390】
一実施形態では、ステロイドはコレステロールである。
【0391】
一実施形態では、ポリマーコンジュゲート脂質はペグ化脂質である。一実施形態では、ペグ化脂質は、以下の構造:
【0392】
【化15】
【0393】
またはその薬学的に許容される塩、互変異性体もしくは立体異性体を有し、ここで、
12およびR13は、それぞれ独立して、10~30個の炭素原子を含む直鎖または分岐の飽和または不飽和アルキル鎖であり、アルキル鎖は、1つ以上のエステル結合によって中断されていてもよく、wは、30~60の範囲の平均値を有する。一実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、12~16個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖である。一実施形態では、wは、40~55の範囲の平均値を有する。一実施形態では、平均wは約45である。一実施形態では、R12およびR13は、それぞれ独立して、約14個の炭素原子を含む直鎖の飽和アルキル鎖であり、wは約45の平均値を有する。
【0394】
いくつかの実施形態では、LNPのカチオン性脂質成分は、式(III):
【0395】
【化16】
【0396】
の構造、またはその薬学的に許容される塩、互変異性体、プロドラッグもしくは立体異性体を有し、ここで、
またはLの一方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)-、-O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-であり、LまたはLの他方は、-O(C=O)-、-(C=O)O-、-C(=O)O-、-S(O)-、-S-S-、-C(=O)S-、SC(=O)-、-NRC(=O)-、-C(=O)NR-、NRC(=O)NR-、-OC(=O)NR-または-NRC(=O)O-または直接結合であり;
またはGは、それぞれ独立して、置換されていないC-C12アルキレンまたはC-C12アルケニレンであり;
は、C-C24アルキレン、C-C24アルケニレン、C-Cシクロアルキレン、C-Cシクロアルケニレンであり;
は、HまたはC-C12アルキルであり;
およびRは、それぞれ独立して、C-C24アルキルまたはC-C24アルケニルであり;
は、H、OR、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NRC(=O)Rであり;
はC-C12アルキルであり;
は、HまたはC-Cアルキルであり;ならびに
xは、0、1または2である。
【0397】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIA)または(IIIB):
【0398】
【化17】
【0399】
の1つを有し、ここで、
Aは、3~8員のシクロアルキルまたはシクロアルキレン環であり;
は、各存在において、独立してH、OHまたはC-C24アルキルであり;
nは、1~15の範囲の整数である。
【0400】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は構造(IIIA)を有し、他の実施形態では、脂質は構造(IIIB)を有する。
【0401】
式(III)の他の実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIC)または(IIID):
【0402】
【化18】
【0403】
の1つを有し、ここで、yおよびzは、それぞれ独立して、1~12の範囲の整数である。
【0404】
式(III)の前述の実施形態のいずれかでは、LまたはLの一方は-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-O(C=O)-である。前述のいずれかのいくつかの異なる実施形態では、LおよびLは、それぞれ独立して、-(C=O)O-または-O(C=O)-である。例えば、いくつかの実施形態では、LおよびLの各々は-(C=O)O-である。
【0405】
式(III)のいくつかの異なる実施形態では、脂質は、以下の構造(IIIE)または(IIIF):
【0406】
【化19】
【0407】
の1つを有する。
【0408】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、脂質は、以下の構造(IIIG)、(IIIH)、(IIII)、または(IIIJ):
【0409】
【化20】
【0410】
のうちの1つを有する。
【0411】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、nは、2~12、例えば2~8または2~4の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、nは、3、4、5または6である。いくつかの実施形態では、nは3である。いくつかの実施形態では、nは4である。いくつかの実施形態では、nは5である。いくつかの実施形態では、nは6である。
【0412】
式(III)の前述の実施形態のいくつかの他の実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、2~10の範囲の整数である。例えば、いくつかの実施形態では、yおよびzは、それぞれ独立して、4~9または4~6の範囲の整数である。
【0413】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、RはHである。前述の実施形態の他の実施形態では、RはC-C24アルキルである。他の実施形態では、RはOHである。
【0414】
式(III)のいくつかの実施形態では、Gは非置換である。他の実施形態では、G3は置換されている。様々な異なる実施形態では、Gは、直鎖C-C24アルキレンまたは直鎖C-C24アルケニレンである。
【0415】
式(III)のいくつかの他の前述の実施形態では、RもしくはR、またはその両方がC-C24アルケニルである。例えば、いくつかの実施形態では、RおよびRは、それぞれ独立して、以下の構造:
【0416】
【化21】
【0417】
を有し、ここで、
7aおよびR7bは、各存在において、独立してHまたはC-C12アルキルであり;ならびに
aは2~12の整数であり、
ここで、R7a、R7bおよびaはそれぞれ、RおよびRがそれぞれ独立して6~20個の炭素原子を含むように選択される。例えば、いくつかの実施形態では、aは、5~9または8~12の範囲の整数である。
【0418】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、R7aの少なくとも1つの存在はHである。例えば、いくつかの実施形態では、R7aは、各存在においてHである。前述の実施形態の他の異なる実施形態では、R7bの少なくとも1つの存在はC-Cアルキルである。例えば、いくつかの実施形態では、C-Cアルキルは、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ヘキシルまたはn-オクチルである。
【0419】
式(III)の異なる実施形態では、RもしくはR、またはその両方が、以下の構造:
【0420】
【化22】
【0421】
の1つを有する。
【0422】
式(III)の前述の実施形態のいくつかでは、Rは、OH、CN、-C(=O)OR、-OC(=O)Rまたは-NHC(=O)Rである。いくつかの実施形態では、Rは、メチルまたはエチルである。
【0423】
様々な異なる実施形態では、式(III)のカチオン性脂質は、以下の表に示される構造の1つを有する。
【0424】
式(III)の代表的な化合物。
【0425】
【化23】
【0426】
【化24】
【0427】
【化25】
【0428】
【化26】
【0429】
【化27】
【0430】
【化28】
【0431】
いくつかの実施形態では、LNPは、式(III)の脂質、RNA、中性脂質、ステロイドおよびペグ化脂質を含む。いくつかの実施形態では、式(III)の脂質は化合物III-3である。いくつかの実施形態では、中性脂質はDSPCである。いくつかの実施形態では、ステロイドはコレステロールである。いくつかの実施形態では、ペグ化脂質はALC-0159である。
【0432】
ALC-0159:
【0433】
【化29】
【0434】
いくつかの実施形態では、カチオン性脂質は、LNP中に約40~約50モル%の量で存在する。一実施形態では、中性脂質は、LNP中に約5~約15モル%の量で存在する。一実施形態では、ステロイドは、LNP中に約35~約45モル%の量で存在する。一実施形態では、ペグ化脂質は、LNP中に約1~約10モル%の量で存在する。
【0435】
いくつかの実施形態では、LNPは、約40~約50モル%の量の化合物III-3、約5~約15モル%の量のDSPC、約35~約45モル%の量のコレステロール、および約1~約10モル%の量のALC-0159を含む。
【0436】
いくつかの実施形態では、LNPは、約47.5モル%の量の化合物III-3、約10モル%の量のDSPC、約40.7モル%の量のコレステロール、および約1.8モル%の量のALC-0159を含む。
【0437】
N/P値は、好ましくは少なくとも約4である。いくつかの実施形態では、N/P値は、4~20、4~12、4~10、4~8、または5~7の範囲である。一実施形態では、N/P値は約6である。
【0438】
本明細書に記載のLNPは、一実施形態では、約30nm~約200nm、または約60nm~約120nmの範囲の平均直径を有し得る。
【0439】
RNA標的化
本開示のいくつかの態様は、本明細書に開示されるRNA(例えば、活性化化合物をコードするRNAおよび/またはドケッティング化合物をコードするRNA)の標的化送達を含む。
【0440】
一実施形態では、本開示は、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることを含む。投与されるRNAが活性化化合物をコードするRNAである場合、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓を標的とすることが特に好ましい。
【0441】
一実施形態では、標的細胞は脾臓細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓内のプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞である。一実施形態では、標的細胞は、脾臓内の樹状細胞である。
【0442】
「リンパ系」は、循環系の一部であり、リンパを運ぶリンパ管のネットワークを含む免疫系の重要な部分である。リンパ系は、リンパ器官、リンパ管の伝導ネットワーク、および循環リンパからなる。一次または中枢リンパ器官は、未成熟な前駆細胞からリンパ球を生成する。胸腺および骨髄は、一次リンパ器官を構成する。リンパ節および脾臓を含む二次または末梢リンパ器官は、成熟したナイーブリンパ球を維持し、適応免疫応答を開始する。
【0443】
RNAは、いわゆるリポプレックス製剤によって脾臓に送達され得、製剤中でRNAはカチオン性脂質および任意でさらなる脂質またはヘルパー脂質を含むリポソームに結合して、注射可能なナノ粒子製剤を形成する。リポソームは、脂質のエタノール溶液を水または適切な水相に注入することによって得られ得る。RNAリポプレックス粒子は、リポソームをRNAと混合することによって調製され得る。脾臓を標的とするRNAリポプレックス粒子は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2013/143683号に記載されている。正味の負電荷を有するRNAリポプレックス粒子は、脾臓組織または脾臓細胞、例えば抗原提示細胞、特に樹状細胞を選択的に標的とするために使用し得ることが見出された。したがって、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、脾臓においてRNAを発現させるために使用され得る。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、肺および/または肝臓におけるRNA蓄積および/またはRNA発現は、全く起こらないかまたは本質的に起こらない。一実施形態では、RNAリポプレックス粒子の投与後、脾臓ではプロフェッショナル抗原提示細胞などの抗原提示細胞におけるRNA蓄積および/またはRNA発現が起こる。したがって、本開示のRNAリポプレックス粒子は、そのような抗原提示細胞においてRNAを発現させるために使用され得る。一実施形態では、抗原提示細胞は、樹状細胞および/またはマクロファージである。
【0444】
本開示のRNAリポプレックス粒子の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する電荷とRNA中に存在する電荷との合計である。電荷比は、少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する正電荷対RNA中に存在する負電荷の比である。少なくとも1つのカチオン性脂質中に存在する正電荷対RNA中に存在する負電荷の電荷比は、以下の式によって計算される:電荷比=[(カチオン性脂質濃度(モル))*(カチオン性脂質中の正電荷の総数)]/[(RNA濃度(モル))*(RNA中の負電荷の総数)]。
【0445】
生理学的pHでの本明細書に記載の脾臓を標的とするRNAリポプレックス粒子は、好ましくは、約1.9:2~約1:2、または約1.6:2~約1:2、または約1.6:2~約1.1:2の正電荷対負電荷の電荷比などの正味の負電荷を有する。特定の実施形態では、生理学的pHでのRNAリポプレックス粒子中の正電荷対負電荷の電荷比は、約1.9:2.0、約1.8:2.0、約1.7:2.0、約1.6:2.0、約1.5:2.0、約1.4:2.0、約1.3:2.0、約1.2:2.0、約1.1:2.0、または約1:2.0である。
【0446】
ドケッティング化合物は、肝臓または肝臓組織へのRNAの選択的送達のための製剤中のドケッティング化合物をコードするRNAを対象に投与することによって対象に提供され得る。そのような標的器官または組織へのRNAの送達は、特に、大量のコードされたペプチド/ポリペプチドを発現させることが望ましい場合、および/またはコードされたペプチド/ポリペプチドの全身的な存在、特に有意な量での存在が望ましいかもしくは必要とされる場合に好ましい。
【0447】
RNA送達システムは、肝臓に対して固有の選択性を有する。これは、脂質ベースの粒子、カチオン性および中性ナノ粒子、特にリポソーム、ナノミセルおよびバイオコンジュゲート中の親油性リガンドなどの脂質ナノ粒子に関連する。肝臓蓄積は、肝血管系の不連続な性質または脂質代謝(リポソームおよび脂質もしくはコレステロールコンジュゲート)によって引き起こされる。
【0448】
肝臓へのRNAのインビボ送達のために、薬物送達システムを使用して、その分解を防止することによってRNAを肝臓に輸送し得る。例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)被覆表面およびmRNA含有コアからなるポリプレックスナノミセルは、ナノミセルが生理学的条件下でRNAの優れたインビボ安定性を提供するので、有用な系である。さらに、高密度PEGパリセードで構成されるポリプレックスナノミセル表面によって提供されるステルス特性は、宿主の免疫防御を有効に回避する。
【0449】
肝臓を標的とするための適切な免疫賦活剤の例は、T細胞の増殖および/または維持に関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例としては、IL2またはIL7、その断片および変異体、ならびにこれらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質が挙げられる。
【0450】
別の実施形態では、免疫賦活剤をコードするRNAは、リンパ系、特に二次リンパ器官、より具体的には脾臓へのRNAの選択的送達のための製剤中で投与され得る。そのような標的組織への免疫賦活剤の送達は、特に、この器官または組織における免疫賦活剤の存在が望ましい(例えば免疫応答を誘導するために、特にT細胞プライミング中にまたは常在免疫細胞の活性化のためにサイトカインなどの免疫賦活剤が必要とされる場合)が、免疫賦活剤が全身的に、特に有意な量で存在することは望ましくない(例えば免疫賦活剤が全身毒性を有するため)場合に好ましい。
【0451】
適切な免疫賦活剤の例は、T細胞プライミングに関与するサイトカインである。適切なサイトカインの例としては、IL12、IL15、IFN-αまたはIFN-β、それらの断片および変異体、ならびにこれらのサイトカイン、断片および変異体の融合タンパク質が挙げられる。
【0452】
医薬組成物
活性化化合物をコードするRNA、ドケッティング化合物をコードするRNAおよび/または免疫エフェクタ細胞などの本明細書に記載の薬剤は、医薬組成物または医薬品で投与されてもよく、任意の適切な医薬組成物の形態で投与されてもよい。
【0453】
本発明の全ての態様の一実施形態では、本明細書に記載の成分は、薬学的に許容される担体を含み得、任意で1つ以上のアジュバント、安定剤などを含み得る医薬組成物で投与され得る。一実施形態では、医薬組成物は、治療的または予防的処置のため、例えば疾患を治療または予防するのに使用するためのものである。
【0454】
「医薬組成物」という用語は、治療上有効な薬剤を、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤と共に含む製剤に関する。上記医薬組成物は、前記医薬組成物を対象に投与することによって疾患または障害を治療する、予防する、またはその重症度を低下させるのに有用である。医薬組成物は、当技術分野では医薬製剤としても公知である。
【0455】
本開示による医薬組成物は、一般に、「薬学的有効量」および「薬学的に許容される調製物」で適用される。
【0456】
「薬学的に許容される」という用語は、医薬組成物の活性成分の作用と相互作用しない物質の非毒性を指す。
【0457】
「薬学的有効量」または「治療有効量」という用語は、単独でまたはさらなる用量および/もしくは薬剤と共に所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患の治療の場合、所望の反応は、好ましくは疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅らせること、特に疾患の進行を中断するまたは逆転させることを含む。疾患の治療における所望の反応はまた、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の予防であり得る。本明細書に記載の組成物の有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、サイズおよび体重を含む患者の個々のパラメータ、治療の期間、付随する治療の種類(存在する場合)、特定の投与経路ならびに同様の因子に依存する。したがって、本明細書に記載の組成物の投与される用量は、そのような様々なパラメータに依存し得る。患者の反応が初期用量では不十分である場合、より高い用量(または異なる、より局所的な投与経路によって達成される効果的により高い用量)を使用し得る。
【0458】
「治療量未満の量」という用語は、典型的には、医薬品の標準治療量未満を指し、所望の効果に必要な量が、医薬品が単独で使用される場合よりも低いことを意味する。本明細書で使用される場合、「治療量未満の量」という用語は、特定の医薬品の投与量または量が、他の化合物、薬物または医薬品の非存在下で、例えば活性化化合物の非存在下で所望の薬理学的作用を達成するのに不十分であることを意味する。そのような所望の薬理学的作用には、固形腫瘍の完全なまたは本質的に完全な拒絶が含まれ得る。治療量未満の量および用量は、通常、治療用量または量の約5%以上、典型的には約10%以上、典型的には約75%以下、より典型的には約60%以下である。通常、ヒトのCAR T細胞療法のために投与される(対象におけるインビボ生成を含む)免疫エフェクタ細胞の数は、用量あたり約10個(1,33×10/kgに相当)またはそれ以上(1.3×10/kgに相当)である。さらに、いくつかの治療アプローチは、用量漸増による安全性を改善するためおよび/または患者における有効なT細胞の数を維持するために、短期間(例えば4週間未満)にCAR T細胞を反復投与することを含む。これは、そのような期間内にさらに高い「累積用量」をもたらす。したがって、免疫エフェクタ細胞の「治療量未満の量」は、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも28日間またはそれ以上の期間にわたる、10以下、10以下、10以下、10以下、10以下、10以下またはさらに低い、初期用量および/または蓄積用量あたりのそのような細胞の量である。一実施形態では、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞の「治療量未満の量」は、10以下、10以下、10以下、10以下、10以下、10以下またはさらに低い量のそのような細胞の単一用量に関する。「単一用量」という用語は、1つの用量の治療物質を長期間投与することを意味する。「長期」という用語は、少なくとも14日間、少なくとも21日間、少なくとも28日間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間またはさらにそれ以上の期間を含む。
【0459】
本開示の医薬組成物は、塩、緩衝剤、防腐剤および任意で他の治療薬を含有し得る。一実施形態では、本開示の医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。
【0460】
本開示の医薬組成物で使用するための適切な防腐剤には、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールが含まれる。
【0461】
本明細書で使用される「賦形剤」という用語は、本開示の医薬組成物中に存在し得るが、活性成分ではない物質を指す。賦形剤の例としては、限定されないが、担体、結合剤、希釈剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、緩衝剤、香味剤または着色剤が挙げられる。
【0462】
「希釈剤」という用語は、希釈するおよび/または希薄にする薬剤に関する。さらに、「希釈剤」という用語は、流体、液体または固体の懸濁液および/または混合媒体のいずれか1つ以上を含む。適切な希釈剤の例としては、エタノール、グリセロールおよび水が挙げられる。
【0463】
「担体」という用語は、医薬組成物の投与を容易にする、増強するまたは可能にするために活性成分が組み合わされる、天然、合成、有機、無機であり得る成分を指す。本明細書で使用される担体は、対象への投与に適した1つ以上の適合性の固体もしくは液体充填剤、希釈剤または封入物質であり得る。適切な担体としては、限定されないが、滅菌水、リンゲル、乳酸リンゲル、滅菌塩化ナトリウム溶液、等張食塩水、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレンおよび、特に、生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーが挙げられる。一実施形態では、本開示の医薬組成物は等張食塩水を含む。
【0464】
治療的使用のための薬学的に許容される担体、賦形剤または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.(A.R Gennaro edit.1985)に記載されている。
【0465】
医薬担体、賦形剤または希釈剤は、意図される投与経路および標準的な製薬慣行に関して選択することができる。
【0466】
一実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、静脈内、動脈内、皮下、皮内または筋肉内に投与され得る。特定の実施形態では、医薬組成物は、局所投与または全身投与用に製剤化される。全身投与は、消化管を介した吸収を含む経腸投与、または非経口投与を含み得る。本明細書で使用される場合、「非経口投与」は、静脈内注射などによる、消化管を介する以外の任意の方法での投与を指す。好ましい実施形態では、医薬組成物は筋肉内投与用に製剤化される。別の実施形態では、医薬組成物は、全身投与用、例えば静脈内投与用に製剤化される。
【0467】
本明細書で使用される「同時投与」という用語は、活性化化合物をコードするRNA、ドケッティング化合物をコードするRNA、および任意で免疫エフェクタ細胞などの異なる化合物または組成物を同じ患者に投与するプロセスを意味する。異なる化合物または組成物は、同時に、本質的に同時に、または連続的に投与され得る。
【0468】
治療
したがって、本明細書に記載の薬剤、組成物および方法は、疾患、例えば抗原を発現する疾患細胞(一次標的としての役割を果たし得る)の存在を特徴とする疾患を有する対象を治療するために使用することができる。特に好ましい疾患は癌疾患である。例えば、抗原がウイルスに由来する場合、薬剤、組成物および方法は、前記ウイルスによって引き起こされるウイルス性疾患の治療に有用であり得る。抗原が腫瘍抗原である場合、薬剤、組成物および方法は、癌細胞が前記腫瘍抗原を発現する癌疾患の治療に有用であり得る。
【0469】
本明細書に記載の薬剤、組成物および方法は、様々な疾患の治療的または予防的処置において使用され得る。一実施形態では、本明細書に記載の薬剤、組成物および方法は、抗原が関与する疾患の予防的および/または治療的処置に有用である。
【0470】
本明細書に記載の方法および薬剤は、特に、ドケッティング化合物が指向する抗原を発現する疾患細胞を特徴とする疾患の治療に有用である。細胞は、ドケッティング化合物による認識のために細胞表面に抗原を発現し得る。本方法は、抗原を発現するそのような細胞の選択的根絶を提供し、それによって抗原を発現しない正常細胞に対する有害作用を最小限に抑え得る。ドケッティング化合物への結合を介して細胞を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞は、遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞の対象への投与または対象における遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞の生成などによって、対象に提供される。
【0471】
一実施形態では、本明細書に記載の免疫エフェクタ細胞はT細胞である。一実施形態では、免疫エフェクタ細胞は、腫瘍または癌に対するものである。一実施形態では、標的細胞集団または標的組織は、特に固形腫瘍の、腫瘍細胞または腫瘍組織である。一実施形態では、標的抗原(一次標的)は腫瘍抗原である。
【0472】
一態様では、本発明は、一般に、疾患細胞、特に腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する細胞を標的とすることによる疾患の治療を包含する。一実施形態では、癌細胞または癌組織は固形癌である。標的細胞は、細胞表面に抗原を発現し得る。一実施形態では、抗原は腫瘍関連抗原であり、疾患は癌である。そのような治療は、抗原を発現する細胞の選択的根絶を提供し、それによって抗原を発現しない正常細胞に対する有害作用を最小限に抑える。
【0473】
一実施形態では、CARを発現するように遺伝子改変された免疫エフェクタ細胞は、治療量未満の量で対象に提供される。
【0474】
「疾患」という用語は、個体の身体に影響を及ぼす異常な状態を指す。疾患はしばしば、特定の症状および徴候に関連する医学的状態として解釈される。疾患は、感染症などの外部源に由来する因子によって引き起こされ得るか、または自己免疫疾患などの内部機能不全によって引き起こされ得る。ヒトでは、「疾患」はしばしば、罹患した個体に疼痛、機能不全、窮迫、社会的問題、もしくは死亡を引き起こす、または個体と接触するものに対して同様の問題を引き起こす状態を指すためにより広く使用される。このより広い意味では、疾患は時に、損傷、身体障害、障害、症候群、感染、孤立した症状、逸脱した挙動、ならびに構造および機能の非定型の変化を含む場合があるが、他の状況および他の目的では、これらは区別可能なカテゴリと見なされ得る。多くの疾患を患い、それらと共に生活することは、人生観および人格を変える可能性があるため、疾患は通常、身体的だけでなく感情的にも個体に影響を及ぼす。
【0475】
本文脈において、「治療」、「治療する」または「治療介入」という用語は、疾患または障害などの状態と闘うことを目的とした対象の管理およびケアに関する。この用語は、症状もしくは合併症を緩和するため、疾患、障害もしくは状態の進行を遅らせるため、症状および合併症を緩和もしくは軽減するため、ならびに/または疾患、障害もしくは状態を治癒もしくは排除するため、ならびに状態を予防するための治療上有効な化合物の投与などの、対象が罹患している所与の状態に対するあらゆる範囲の治療を含むことが意図されており、予防は、疾患、状態または障害と闘うことを目的とした個体の管理およびケアとして理解されるべきであり、症状または合併症の発症を防止するための活性化合物の投与を含む。
【0476】
「治療的処置」という用語は、個体の健康状態を改善する、および/または寿命を延長する(増加させる)任意の治療に関する。前記治療は、個体における疾患を排除し得る、個体における疾患の発症を停止もしくは遅延させ得る、個体における疾患の発症を阻害もしくは遅延させ得る、個体における症状の頻度もしくは重症度を低下させ得る、および/または現在疾患を有しているかもしくは以前に有していたことがある個体における再発を減少させ得る。
【0477】
「予防的処置」または「予防処置」という用語は、個体において疾患が発生するのを防ぐことを意図した任意の治療に関する。「予防的処置」または「予防処置」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0478】
「個体」および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。これらは、疾患もしくは障害(例えば癌)に罹患し得るかまたは罹患しやすいが、疾患もしくは障害を有していてもよくまたは有していなくてもよいヒトまたは別の哺乳動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長動物)を指す。多くの実施形態では、個体はヒトである。特に明記されない限り、「個体」および「対象」という用語は特定の年齢を示すものではなく、したがって成人、高齢者、小児、および新生児を包含する。本開示の実施形態では、「個体」または「対象」は「患者」である。
【0479】
「患者」という用語は、治療のための個体または対象、特に疾患個体または対象を意味する。
【0480】
本開示の一実施形態では、目的は、腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する疾患細胞に薬学的に活性な薬剤(化合物および細胞を含む)を送達し、腫瘍抗原などの抗原を発現する細胞が関与する癌疾患などの疾患を治療することである。
【0481】
「抗原が関与する疾患」、「抗原を発現する細胞が関与する疾患」という用語または同様の用語は、抗原に関係する任意の疾患、例えば抗原の存在を特徴とする疾患を指す。抗原が関与する疾患は、感染症、または癌疾患もしくは単に癌であり得る。上記のように、抗原は、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、または細菌抗原などの疾患関連抗原であり得る。一実施形態では、抗原が関与する疾患は、好ましくは細胞表面に抗原を発現する細胞が関与する疾患である。
【0482】
「感染症」という用語は、個体から個体へ、または生物から生物へと伝播することができ、微生物因子によって引き起こされる任意の疾患(例えば普通の風邪)を指す。感染症は当技術分野で公知であり、例えば、それぞれウイルス、細菌、および寄生虫によって引き起こされる、ウイルス性疾患、細菌性疾患、または寄生虫性疾患が含まれる。これに関して、感染症は、例えば、肝炎、性感染症(例えばクラミジアまたは淋病)、結核、HIV/後天性免疫不全症候群(AIDS)、ジフテリア、B型肝炎、C型肝炎、コレラ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、鳥インフルエンザ、およびインフルエンザであり得る。
【0483】
「癌疾患」または「癌」という用語は、典型的には無秩序な細胞増殖を特徴とする、個体における生理学的状態を指すかまたは表す。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病が挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、そのような癌の例としては、骨癌、血液癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮癌、性器および生殖器の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉癌、脊髄軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、および下垂体腺腫が挙げられる。本開示による「癌」という用語は、癌転移も含む。
【0484】
本明細書で使用される「固形腫瘍」または「固形癌」という用語は、例えばHarrison’s Principles of Internal Medicine,14th editionにおいて当技術分野で周知のように、癌性腫瘤の発現を指す。好ましくは、この用語は、血液以外の、好ましくは血液、骨髄およびリンパ系以外の体組織の癌または癌腫を指す。例えば、限定するものではないが、固形腫瘍には、前立腺の癌、肺癌、結腸直腸組織、膀胱、中咽頭/喉頭組織、腎臓、乳房、子宮内膜、卵巣、子宮頸部、胃、膵臓、脳および中枢神経系の癌が含まれる。
【0485】
本明細書に記載の方法および薬剤は、特に、ドケッティング化合物が対象とする抗原を発現する疾患細胞を特徴とする癌、例えば固形癌の治療に有用である。
【0486】
本開示の一実施形態では、目的は、腫瘍抗原を発現する癌細胞などの抗原を発現する疾患細胞に対する免疫応答を提供し、腫瘍抗原などの抗原を発現する細胞が関与する癌疾患などの疾患を治療することである。
【0487】
治療的または部分的もしくは完全に保護的であり得る、抗原に対する免疫応答が誘発され得る。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、免疫応答を誘導または増強するために適用可能である。したがって、本明細書に記載の医薬組成物は、抗原が関与する疾患の予防的および/または治療的処置に有用である。
【0488】
本明細書で使用される場合、「免疫応答」は、抗原または抗原を発現する細胞に対する統合された身体応答を指し、細胞性免疫応答および/または体液性免疫応答を指す。
【0489】
「細胞媒介性免疫」、「細胞性免疫」、「細胞性免疫応答」、または同様の用語は、抗原の発現を特徴とする、特にクラスIまたはクラスII MHCによる抗原の提示を特徴とする細胞に対する細胞応答を含むことが意図されている。細胞応答は、「ヘルパー」または「キラー」のいずれかとして働くT細胞またはTリンパ球と呼ばれる細胞に関する。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも呼ばれる)は、免疫応答を調節することによって中心的な役割を果たし、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞またはCTLとも呼ばれる)は、癌細胞などの疾患細胞を死滅させ、さらなる疾患細胞の産生を防止する。
【0490】
本開示は、保護的、防御的、予防的および/または治療的であり得る免疫応答を企図する。本明細書で使用される場合、「免疫応答を誘導する(または誘導すること)」は、誘導前に特定の抗原に対する免疫応答が存在しなかったことを示し得るか、または誘導前に特定の抗原に対する基礎レベルの免疫応答があり、これが誘導後に増強されたことを示し得る。したがって、「免疫応答を誘導する(または誘導すること)」は、「免疫応答を増強する(または増強すること)」を含む。
【0491】
「マクロファージ」という用語は、単球の分化によって産生される食細胞のサブグループを指す。炎症、免疫サイトカインまたは微生物産物によって活性化されるマクロファージは、マクロファージ内の外来病原体を、病原体の分解をもたらす加水分解および酸化攻撃によって非特異的に貪食し、死滅させる。分解されたタンパク質由来のペプチドは、マクロファージ細胞表面に提示され、そこでT細胞によって認識され得、B細胞表面の抗体と直接相互作用して、T細胞およびB細胞の活性化ならびに免疫応答のさらなる刺激をもたらすことができる。マクロファージは抗原提示細胞のクラスに属する。一実施形態では、マクロファージは脾臓マクロファージである。
【0492】
「樹状細胞」(DC)という用語は、抗原提示細胞のクラスに属する食細胞の別のサブタイプを指す。一実施形態では、樹状細胞は、造血骨髄前駆細胞に由来する。これらの前駆細胞は、最初に未成熟な樹状細胞に変わる。これらの未成熟細胞は、高い食作用活性と低いT細胞活性化能とを特徴とする。未成熟な樹状細胞は、ウイルスおよび細菌などの病原体について周囲環境を絶えずサンプリングする。それらは、提示可能な抗原と接触すると、活性化されて成熟樹状細胞となり、脾臓またはリンパ節に移動し始める。未成熟樹状細胞は病原体を貪食し、それらのタンパク質を小さな断片に分解し、成熟すると、MHC分子を使用してそれらの細胞表面にそれらの断片を提示する。同時に、それらは、CD80、CD86およびCD40などのT細胞活性化における共受容体として機能する細胞表面受容体を上方制御し、T細胞を活性化するそれらの能力を大幅に増強する。それらはまた、樹状細胞が血流を通って脾臓に、またはリンパ系を通ってリンパ節に移動するように誘導する走化性受容体であるCCR7を上方制御する。ここで、それらは抗原提示細胞として働き、非抗原特異的共刺激シグナルと共に抗原を提示することによってヘルパーT細胞およびキラーT細胞ならびにB細胞を活性化する。したがって、樹状細胞は、T細胞またはB細胞に関連する免疫応答を能動的に誘導することができる。一実施形態では、樹状細胞は脾臓樹状細胞である。
【0493】
「抗原提示細胞」(APC)という用語は、少なくとも1つの抗原または抗原断片をその細胞表面上に(またはその細胞表面で)表示、獲得、および/または提示することができる様々な細胞の1つである。抗原提示細胞は、プロフェッショナル抗原提示細胞と非プロフェッショナル抗原提示細胞とに区別することができる。
【0494】
「プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、ナイーブT細胞との相互作用に必要な主要組織適合遺伝子複合体クラスII(MHCクラスII)分子を構成的に発現する抗原提示細胞に関する。T細胞が抗原提示細胞の膜上のMHCクラスII分子複合体と相互作用する場合、抗原提示細胞は、T細胞の活性化を誘導する共刺激分子を産生する。プロフェッショナル抗原提示細胞は、樹状細胞およびマクロファージを含む。
【0495】
「非プロフェッショナル抗原提示細胞」という用語は、MHCクラスII分子を構成的に発現しないが、インターフェロンガンマなどの特定のサイトカインによる刺激を受けると発現する抗原提示細胞に関する。例示的な非プロフェッショナル抗原提示細胞としては、線維芽細胞、胸腺上皮細胞、甲状腺上皮細胞、グリア細胞、膵臓ベータ細胞または血管内皮細胞が挙げられる。
【0496】
「抗原プロセシング」は、抗原の、前記抗原の断片であるプロセシング産物への分解(例えばタンパク質のペプチドへの分解)、および抗原提示細胞などの細胞による特異的T細胞への提示のためのMHC分子とこれらの断片の1つ以上との会合(例えば結合による)を指す。
【0497】
本明細書で参照される文書および試験の引用は、前述のいずれかが関連する先行技術であることの承認として意図されていない。これらの文書の内容に関する全ての記述は、出願人が入手可能な情報に基づいており、これらの文書の内容の正確さに関するいかなる承認も構成しない。
【0498】
以下の説明は、当業者が様々な実施形態を作成および使用することを可能にするために提示される。特定の装置、技術および用途の説明は、例としてのみ提供される。本明細書に記載される例に対する様々な変更は、当業者には容易に明らかであり、本明細書で定義される一般的な原理は、様々な実施形態の精神および範囲から逸脱することなく他の例および用途に適用され得る。したがって、様々な実施形態は、本明細書に記載され、示される例に限定されることを意図するものではなく、特許請求の範囲と一致する範囲を与えられるべきである。
【実施例
【0499】
mRNA構築物
全ての構築物を、以下に記載される配列要素を含むかまたはコードする遺伝子合成によって作製した:
配列要素
【0500】
【表2】
【0501】
以下の実施例に使用される構築物によってコードされるタンパク質は以下の通りである。
【0502】
【表3】
【0503】
実施例1:ユニバーサルCARTアプローチ。
図1に示すこの実施例では、キャッチャが認識ドメインとしてキメラ抗原受容体のヒンジ、膜貫通および細胞内シグナル伝達ドメインに融合されているCAR-T細胞を作製する。コストを削減し、迅速な患者供給を可能にするために、同種異系CAR-T細胞がこの目的のために好ましく、これは、αβ T細胞枯渇の遺伝子操作のような確立された方法によって作製することができる。一般的なCAR-T細胞を患者に投与し、患者において、本発明者らが最近発表したCARVACアプローチ(Reinhard et al.,2020)に基づき、膜アンカータンパク質ドメインに融合されたCAR特異的タグをコードする、リポソームに製剤化されたmRNAを介してそれらを増幅することができる。第2の成分として、腫瘍特異的標的化リガンド、例えば抗CLDN6 scFvをタグ配列に融合し、脂質ナノ粒子に封入されたRNAとして患者に投与する。脂質ナノ粒子は肝細胞によって取り込まれ、次いで、肝細胞は二重特異性融合タンパク質を発現し、それを血流中に放出する。標的化リガンドは腫瘍部位に蓄積し、そこで、最終的に一般的なCAR-T細胞が結合して、腫瘍細胞死滅を媒介することができる。記載された手順は、理論上、様々な腫瘍抗原に普遍的に適用可能であり、原則として有効性を高め、異なる標的化リガンドをコードするRNAの混合物を提供することによっていくつかの抗原の同時標的化も可能にする。このアプローチの別の主要な利点は、標的化リガンドの非存在下でのCAR-T細胞の安全な持続性である。これにより、全ての腫瘍細胞が排除された場合、CAR-T細胞を枯渇させることなく治療を一時停止することが可能になり、同時に、腫瘍再発の場合に同じまたは別の標的化リガンドを使用して治療を継続する選択肢が提供される。
【0504】
実施例2:Jurkat細胞におけるモジュラーCAR-T
Jurkat T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAで操作し、24時間後にフローサイトメトリによって分析した。可溶性モジュラーCARアダプタを核酸トランスフェクト細胞によって作製した。モジュラーCAR上のアダプタの結合を検出するために、モジュラーCAR Jurkat細胞を1または10nMの可溶性アダプタで武装させ、アダプタ特異的抗体(aCLDN6抗体に対する抗イディオタイプ抗体)で対比染色した。フローサイトメトリ法を使用して、アダプタ結合CARを検出した。モックJurkat細胞(非mRNAトランスフェクト)を、細胞の表面のアダプタ部分が検出されない対照として使用した。アダプタは、モジュラーCARを発現するように改変されたT細胞株(VHH(aALFA)-G4S-CAR、配列番号30)の表面で検出される。使用した用量範囲は、モジュラーCAR-T細胞が低用量(1nM、アダプタ結合細胞の%)でアダプタに有効に結合することができ、結合の強度(MFI)をより高用量のアダプタで増加させることができることを示す。この実験では、ALFA-VH-VLアダプタフォーマットを使用した(配列番号34)。図2は、CARおよびアダプタのアセンブリを示す。
【0505】
実施例3:初代細胞におけるモジュラーCAR-T
初代ヒトT細胞を、CD3アゴニスト抗体を使用して5日間にわたって活性化し、その後、モジュラーCARをコードするmRNA(VHH(aALFA)-G4S-CAR、配列番号30)でトランスフェクトした。24時間後、CAR分子を標識ALFAペプチドで染色した。フローサイトメトリ法を用いて発現を検出した。図3は、CARが初代ヒトT細胞において良好に発現される(39.5%)ことを示す。
【0506】
並行して、上記のように活性化し、トランスフェクトした初代細胞を、核酸トランスフェクト細胞によって生成された100nM可溶性アダプタで武装させ、24時間後にアダプタ特異的抗体で染色した。CAR結合アダプタのパーセントを、フローサイトメトリ法を用いて評価した。アダプタは、操作された初代ヒトT細胞の表面に発現されたモジュラーCARに結合する(100nMアダプタに対して12.4%)。この実験では、ALFA-VH-VL-Hisタグアダプタフォーマット(配列番号34)を使用した。図4は、モジュラーCARが構築されたことを示す。図2と比較してアダプタのより低い検出は、ここでは2つのタグで囲まれたVH-VLドメインのアクセス可能性に基づく。
【0507】
実施例4:モジュラーCAR-T細胞は腫瘍細胞溶解を媒介する
抗原陽性腫瘍細胞をEプレート(ACEA)に播種し、共培養の前に24時間インキュベートした。モジュラーCARを発現するように操作された活性化初代ヒトT細胞(図3を参照)を、トランスフェクションの24時間後に、核酸トランスフェクト細胞によって生成された10nMまたは100nMの可溶性アダプタで武装させた。武装したモジュラーCAR-T細胞を、10:1のエフェクタ対標的比で腫瘍細胞と共培養した。武装していないモジュラーCAR-T細胞を陰性対照として使用した。腫瘍細胞溶解を、xCELLigenceシステムでインピーダンスベースの方法を用いて27時間にわたって評価した。細胞傷害性を、非mRNAトランスフェクトT細胞に対して正規化し、Triton-Xによって達成される最大溶解に関連して計算した。
【0508】
武装していないモジュラーCAR-T細胞は、抗原発現腫瘍細胞の細胞傷害性溶解を誘導しなかった。アダプタで武装したモジュラーCAR-T細胞は、強い細胞溶解活性を促進した。図5は、アダプタ用量依存的様式での腫瘍細胞の死滅を示す。
【0509】
実施例5:mRNAトランスフェクトiDCを含有するユニバーサルALFAペプチドによって誘導されるモジュラーCAR-T細胞の増殖
ヒト未成熟樹状細胞(iDC)を、GM-CSFおよびIL-4を介してCD14陽性細胞から分化させた。膜アンカー結合部分(CARVac)をコードするmRNAでiDCをトランスフェクトした。自己T細胞を、モジュラーCARをコードするmRNAでトランスフェクトし、増殖色素ブリリアントバイオレットで染色した。モジュラーCAR-T細胞およびCARVac発現iDCを、10:1のエフェクタ対標的比で4日間共培養した。モジュラーCAR-T細胞増殖を、フローサイトメトリ法を用いて娘世代にわたる増殖色素の減少によって評価した。モックmRNAトランスフェクトiDCを陰性対照(対照)とした。図6Aおよび6Bにおいて、iDC上に発現される膜アンカー結合部分はALFAペプチドを含み、CARは抗ALFA VHHを含む。図6Cおよび6Dでは、iDC上に発現される膜アンカー結合部分は抗ALFA VHHを含み、CARはALFAペプチドを含む。
【0510】
モジュラーCAR-T細胞は対照iDCに対して増殖しなかったが、VHH(aALFA)CAR(配列番号30)T細胞ならびに同様のVHH(aALFA)PE-CARは、ALFAペプチドを含有するCARVac構築物に対して顕著な増殖を示した(図6Aおよび6B)。ここで、モジュラーCARの標的を、膜貫通固定のための2つの異なる足場を使用して抗原提示細胞の表面に発現させた。TNFL9アンカー(配列番号31)または(EA3K)GPIアンカー(配列番号32)。図6Cおよび6Dにおいて、モジュラーCAR(配列番号27および28)は、VHH含有iDC提示構築物(配列番号33)に対して顕著な増殖を促進する。
【0511】
実施例6:CD19特異的アダプタを負荷したモジュラーALFA CAR-T細胞は、CD19トランスフェクトiDCまたは初代ヒトB細胞に対する増殖を媒介する
ヒト初代T細胞を、ALFA CARを発現するように操作し、増殖色素ブリリアントバイオレットで標識した。次いで、それらを、核酸操作された産生細胞から作製された0、1または10nMアダプタ(nbALFA/VHH(aALFA)-抗CD19(FMC63))の存在下で、初代ヒトB細胞(左)またはCD19コードmRNAでトランスフェクトした自己iDCのいずれかと4日間共インキュベートした。B細胞の場合、エフェクタ対標的比を10:1から1:1、1:10まで変化させた。標的細胞としてのiDCの場合、使用したE:T比は10:1であった。フローサイトメータの取得および分析後に、増殖中のCAR-T細胞の頻度を示す。
【0512】
図7で観察されるように、操作されたALFA-CAR T細胞の増殖は、アダプタならびにCD19標的を発現する標的細胞の存在を必要とした。
【0513】
この実施例では、アダプタは、scFv抗原結合ドメインに連結されたVHH(aALFA)抗原結合ドメインで作製されることに留意されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
【配列表】
2024522179000001.app
【国際調査報告】