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特表2024-5221993’-O-アミノ-2’-デオキシリボヌクレオシドトリホスフェートモノマーを使用したポリヌクレオチドの酵素合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】3’-O-アミノ-2’-デオキシリボヌクレオシドトリホスフェートモノマーを使用したポリヌクレオチドの酵素合成
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/34 20060101AFI20240604BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20240604BHJP
【FI】
C12P19/34 Z ZNA
C12N9/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576065
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022065839
(87)【国際公開番号】W WO2022258809
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】21305796.1
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516304610
【氏名又は名称】ディーエヌエー スクリプト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ホルガン, アドリアン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA21
4B064CB30
(57)【要約】
本発明は、3’-O-アミノ-ヌクレオシドトリホスフェートモノマーを用いるポリヌクレオチドの酵素的合成法の改良に向けられており、O-置換ヒドロキシルアミンまたはポリヒドロキシルアミンであるアルデヒド捕捉剤は、成長するポリヌクレオチド鎖の疑似キャッピングを減少または防止し、それにより完全長生成物の収率を増加させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチドを合成する方法であって、
(a)それぞれ遊離の3’-ヒドロキシルを有する開始剤を用意する工程と、
(b)反応混合物中で、ポリヌクレオチドが形成されるまで、(i)伸長条件下で、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する開始剤または伸長断片を、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートおよび鋳型非依存性ポリメラーゼと接触させて、開始剤または伸長断片が3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートの取り込みにより伸長して3’-O-アミノ伸長断片を形成すること、および(ii)伸長断片を脱保護して遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長断片を形成するサイクルを繰り返す工程と、を含み、
有効量の少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤が、反応混合物に存在する、方法。
【請求項2】
少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤の前記有効量が、少なくとも1つの合成試薬によって前記反応混合物に送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルデヒド捕捉剤の前記有効量が、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートもしくは鋳型非依存性ポリメラーゼ、またはその両方の混合物を含む前記合成試薬によって反応混合物に送達される、請求項1から2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチドがDNAであり、前記鋳型非依存性ポリメラーゼが末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルデヒド捕捉剤が、O-置換モノ-またはポリヒドロキシルアミンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記O-置換モノ-またはポリヒドロキシルアミンが、以下の式で定義される化合物からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記有効量が、前記反応混合物中の1~100mMの範囲の前記アルデヒド捕捉剤の濃度によって供される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
テンプレートフリーポリメラーゼを使用してポリヌクレオチドを合成するためのキットであって、各々が少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤を有効量含む1つまたは複数の合成試薬のバイアルを含むキット。
【請求項9】
前記アルデヒド捕捉剤が、O-置換モノ-またはポリヒドロキシルアミンである、請求項8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ポリヌクレオチド合成に対する酵素的手法への関心が高まっているのは、合成生物学、CRISPR-Cas9アプリケーション、およびハイスループットシーケンシングなどの多くの分野で合成ポリヌクレオチドへの需要が高まっているためだけでなく、生成物の長さの上限、湿気に弱いモノマーの使用、および環境に優しくない溶媒の使用など、ポリヌクレオチド合成に対する化学的手法の限界のためでもある、Jensenら、Biochemistry、57:1821-1832(2018)。
【0002】
現在、DNAおよびRNA合成のためのほとんどの酵素的手法は、3’-O-保護ヌクレオシドトリホスフェートを開始鎖または伸長鎖に伸長させ、所望の配列のポリヌクレオチドが得られるまで脱保護するサイクルを繰り返すために使用されるテンプレートフリーポリメラーゼを採用しており、例えば、HiattおよびRose、国際特許公開WO96/07669。Championらは、Steven Bennerが開発した可逆的に保護された3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートモノマーを、成長するポリヌクレオチド鎖に効率よく組み込むTdTバリアントを設計した(Championら、米国特許第10752887号、および国際特許公開WO2020/099451;Bennerら、米国特許第7544794号、同第8034923号、同第8212020号、同第10472383号、およびHutterら、Nucleosides Nucleotides Nucleic Acids、29(11):879-895(2010))。残念なことに、この保護化学は、アミノ保護基をキャッピング基に変換するか、または早期に除去する効果を有するいくつかの副反応の影響を受けるため、キャップされた種の存在によって効率が低下するか、または早期に脱保護されたモノマーの連続添加によって誤った配列が生成する。Bennerはモノマー合成の改良によって後者の問題に対処したが(米国特許第10472383号)、疑似キャッピング問題は依然として残っている。
【0003】
テンプレートフリーポリヌクレオチドの酵素的合成の応用を拡大することに関心が集まっていることから、酵素的ポリヌクレオチド合成において3’-アミノ保護基の疑似キャッピングの問題を回避する方法が利用できれば、この分野は進歩するだろう。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、3’-O-アミノ保護ヌクレオシドトリホスフェートモノマーを使用するポリヌクレオチドのテンプレートフリー酵素合成のための改良された方法およびキットに向けられている。特定の操作理論によって限定されることを意図するものではないが、本発明者らは、モノマーを含む反応混合物または試薬を外来または環境アルデヒドに曝露することにより、そのようなアルデヒドが3’-O-アミノ保護基を3’-オキシムに変換し、それにより影響を受ける鎖をキャッピングする効果を有し、それによって収率が低下すると考えている。本発明者らは、合成に使用する反応混合物またはその他の試薬に少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤を配合することにより、生成物の収率が大幅に向上することを発見した。
【0005】
いくつかの実施形態では、本発明は、ポリヌクレオチドを合成する方法に向けられており、本方法は、(a)それぞれ遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を用意する工程、(b)反応混合物中で、ポリヌクレオチドが形成されるまで、(i)伸長条件下で、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する開始剤または伸長断片を、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートおよび鋳型非依存性ポリメラーゼと接触させて、開始剤または伸長断片が3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートの取り込みにより伸長して3’-O-アミノ伸長断片を形成すること、および(ii)伸長断片を脱保護して遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長断片を形成するサイクルを繰り返す工程を含み、有効量の少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤は反応混合物中に存在する。
【0006】
1つまたは複数の実施形態では、当該少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤の当該有効量は、少なくとも1つの合成試薬によって当該反応混合物に供給される。
【0007】
1つまたは複数の実施形態では、当該アルデヒド捕捉剤の有効量は、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートもしくは鋳型非依存性ポリメラーゼ、またはその両方の混合物を含む当該合成試薬によって反応混合物に送達される。
【0008】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは所定の配列を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ポリヌクレオチドのテンプレートフリー酵素合成法を図式化したものである。
図2A】アルデヒド捕捉剤濃度の関数としての生成物収率の増加に関するデータである。
図2B】アルデヒド捕捉剤濃度の関数としての生成物収率の増加に関するデータである。
図2C】アルデヒド捕捉剤濃度の関数としての生成物収率の増加に関するデータである。
図3A】本発明の方法で使用することができる例示的なO-置換モノ-およびポリヒドロキシルアミンアルデヒド捕捉剤の式を示す。
図3B】本発明の方法で使用することができる例示的なO-置換モノ-およびポリヒドロキシルアミンアルデヒド捕捉剤の式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一般原理は、本明細書において、特に、図面に示され詳細に説明されるような実施例によって、より詳細に開示される。しかしながら、本発明を記載された特定の実施形態に限定する意図はないことを理解されたい。本発明は、様々な変更および代替形態に従うことが可能であり、その具体的な内容は、いくつかの実施形態について示されている。その意図は、本発明の原理および範囲に含まれるすべての変更、同等物、代替物をカバーすることである。
【0011】
本発明の実施は、別途指示がない限り、当業者の技術範囲内にある有機化学、分子生物学(組換え技術を含む)、細胞生物学および生化学の従来の技術および記載を用いることができる。このような従来技術としては、合成ペプチド、合成ポリヌクレオチド、モノクローナル抗体、核酸クローニング、増幅、シーケンシングおよび解析、ならびに関連技術の調製および使用を挙げることができるが、これらに限定されない。このような従来技術のプロトコールは、メーカーの製品資料および標準的な実験マニュアル、例えば、Genome Analysis:A Laboratory Manual Series(I~IV巻);PCR Primer:A Laboratory Manual;Molecular Cloning:A Laboratory Manual(すべてCold Spring Harbor Laboratory Pressから);LutzおよびBornscheuer編、Protein Engineering Handbook(Wiley-VCH、2009年);Hermanson、Bioconjugate Techniques、第2版(Academic Press、2008年)などに見ることができる。
【0012】
本発明は、3’-O-アミノ-ヌクレオシドトリホスフェート、特に3’-O-アミノ-デオキシヌクレオシドトリホスフェートを使用するポリヌクレオチドの酵素合成におけるアルデヒド捕捉剤の使用に向けられている。本明細書で使用される場合、「アルデヒド捕捉剤」という用語は、ケトン捕捉剤を含む。いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、式R-C(=O)HまたはR-C(=O)-Rの化学基を有する化合物と反応する薬剤であり、式中、R、RおよびRは典型的にはアルキルまたはアリールである。より詳細には、いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、化合物上のR-C(=O)HまたはR-C(=O)-R基と十分に高い速度で反応する薬剤であり、そのような化合物は3’-O-アミノ-ヌクレオチドの3’-アミン基と反応しない(または無視できる程度にしか反応しない)。本明細書で使用される場合、「捕捉剤」という用語は、不要な反応生成物をもたらす不純物または化合物を除去または不活性化するために混合物に添加される化学物質を意味する。上述したように、酵素合成は、反応剤、洗浄液、脱保護バッファー、酵素などを含むか、またはそれらからなることができる様々な試薬(本明細書では「合成試薬」と呼ぶ)を使用して実施することができる。「合成試薬」という用語は、モノマー、特に3’-O-アミノ-ヌクレオシドトリホスフェートを開始剤または伸長断片に結合させるために合成サイクルで使用される任意の試薬を意味し、例えば、テンプレートフリーポリメラーゼを含むバッファー、3’-O-保護-ヌクレオチドモノマーを含むバッファー、脱保護(または脱ブロック)バッファーなどが挙げられる。様々な実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、1つまたは複数の合成試薬の成分であってもよい。いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、別個の合成試薬として(他の反応剤、洗浄バッファーまたは酵素を含まない)反応混合物に添加することができる。いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、テンプレートフリーポリメラーゼを含む合成試薬の成分として反応混合物に添加される。いくつかの実施形態では、1つ以上のアルデヒド捕捉剤が使用される。
【0013】
上記のように、ポリヌクレオチドを合成するための本発明の方法は、(a)それぞれ遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を用意する工程、(b)反応混合物中で、ポリヌクレオチドが形成されるまで、(i)伸長条件下で、遊離3’-O-ヒドロキシルを有する開始剤または伸長断片を、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートおよび鋳型非依存性ポリメラーゼと接触させて、開始剤または伸長断片が3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートの取り込みにより伸長して3’-O-アミノ伸長断片を形成すること、および(ii)伸長断片を脱保護して遊離3’-ヒドロキシルを有する伸長断片を形成するサイクルを繰り返す工程を含み、有効量のアルデヒド捕捉剤は、少なくとも1つの合成試薬によって反応混合物に送達される。
【0014】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、最終合成生成物における伸長配列の疑似キャッピングパーセンテージを減少させるのに十分な量または濃度を意味する。当業者であれば、特定のアルデヒド捕捉剤の有効量を、従来技術、例えば生成物からポリヌクレオチドの試料を採取して配列決定ことにより、容易に決定できることが理解される。いくつかの実施形態では、例えばSudoら(以下に引用する)によって開示された、または図3A~3Bに列挙されたアルデヒド捕捉剤を用いる場合、有効量は、1~500mMの範囲の濃度、または他の実施形態では1~200mMの範囲の濃度、または他の実施形態では1~100mMの範囲の濃度によって供される。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明で使用されるアルデヒド捕捉剤は、O-置換ヒドロキシルアミンまたはポリヒドロキシルアミンを含む。いくつかの実施形態では、本発明で使用されるO-置換ヒドロキシルアミンは、式:
-ONH
で定義され、Sudoら、米国特許公開第2020/0061225号、またはKitasakaら、米国特許第7241625号によって開示されているものなどであり、これらは参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、Rは、ハロゲン原子;C1~6アルキルオキシ基;C1~6ハロアルキル基;C1~6ハロアルキルオキシ基;カルボキシ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;シアノ基;ニトロ基;ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C1~6アルキルオキシ基、C1~6ハロアルキル基、C1~6ハロアルキルオキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよいC6~14アリール基;ハロゲン原子、C1~6アルキル基、C1~6アルキルオキシ基、C1~6ハロアルキル基、C1~6ハロアルキルオキシ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基またはニトロ基で置換されていてもよいC4~14ヘテロアリール基;下記の式で表されるアルコキシカルボニル基:
-(C=O)-O-R
および下記の式で表されるカルバモイル基:
-(C=O)-NR(R
からなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1~18直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基であり、式中、Rは、化学的に許容される任意の位置において、カルボキシ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;ハロゲン原子;C1~6アルキルオキシ基;C1~6ハロアルキルオキシ基;C6~14アリール基;およびC4~14ヘテロアリール基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1~18直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基であり;式中、各Rは、同一であっても異なっていてもよく、各々独立して、カルボキシ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;ハロゲン原子;C1~6アルキルオキシ基;C1~6ハロアルキルオキシ基;C6~14アリール基;およびC4~14ヘテロアリール基;C6~14アリール基、C4~14ヘテロアリール基、または水素原子からなる群から選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよいC1~18直鎖状、分岐鎖状または環状アルキル基である。
【0016】
特に、本発明で使用することができる例示的なO-置換ヒドロキシルアミンまたはポリヒドロキシルアミンは、図3Aおよび図3Bに化合物(1)~(14)として示されており、化合物(1)はまた本明細書では「BOX」試薬とも呼ばれる。
【0017】
いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、Pacificiの米国特許第5446195号またはBurdeniucらの米国特許公開第20160369035号により開示されたカルボニル化合物を含み、これらは参照により本明細書に組み込まれ、式:
で定義され、式中、RおよびR’は、CH3またはH[O(CH2)m]nO-であり、式中、mおよびnは、m=1およびn=1、3~19;m=2およびn=2~19;またはm=3およびn=1~19からなるmおよびnの組み合わせの群から選択され、Yは、--CH2-または--CH2-CO-CH2--である。
【0018】
様々な実施形態では、本発明のアルデヒド捕捉剤は、溶液中であってもよく、保存もしくは合成に用いられる材料に固定化されていてもよく、または本発明の方法に用いられる試薬、例えばTdTのなどのテンプレートフリーポリメラーゼと結合していてもよい。
【0019】
DNAのテンプレートフリー酵素合成
一般に、テンプレートフリー(または等価的に「鋳型非依存性」)酵素的DNA合成またはRNA合成の方法は、所定の3’-O-保護ヌクレオチドが(i)各サイクルにおいて開始剤または成長鎖に結合し、(ii)脱保護される工程(図1に図示)の反復サイクルを含む。ポリヌクレオチドのテンプレートフリー酵素合成の一般的な要素は、以下の文献:ChampionらのWO2019/135007;Hiattらの米国特許第5763594号;およびJensenらのBiochemistry、57:1821-1832(2018))に記載されている。
【0020】
開始ポリヌクレオチド(100)は、例えば、遊離3’-ヒドロキシル基(130)を有する固体支持体(120)に付着して供される。開始ポリヌクレオチド(100)(またはその後のサイクルにおける伸長した開始ポリヌクレオチド)に、3’-O-保護-dNTPまたは3’-O-保護-rNTP、およびテンプレートフリーポリメラーゼ、例えば、TdTもしくは通常はDNA合成のためのそのバリアント(例えば、YbertらのWO/2017/216472;ChampionらのWO2019/135007)、またはポリAポリメラーゼ(PAP)もしくはポリUポリメラーゼ(PUP)もしくは通常はRNA合成のためのそのバリアント(例えば、HeinischらのWO2021/018919)を、開始ポリヌクレオチド(100)(または伸長した開始ポリヌクレオチド)の3’末端上への3’-O-保護-NTPの酵素的組込みに有効な条件(140)下で添加する。この反応により、3’-ヒドロキシルが保護された伸長した開始ポリヌクレオチドが生成される(106)。もし伸長した配列が完全でなければ、もう1サイクルの添加が実行される(108)。伸長した開始ポリヌクレオチドが完成した配列を含む場合、3’-O-保護基を除去、または脱保護し、所望の配列を元の開始ポリヌクレオチドから切断することができる(110)。このような切断は、例えば、元の開始ポリヌクレオチド内の所定の位置に切断可能なヌクレオチドを挿入することによって、様々な一本鎖切断技術のいずれかを用いて実施することができる。例示的な切断可能なヌクレオチドは、ウラシルDNAグリコシラーゼによって切断されるウラシルヌクレオチドであってもよい。伸長した開始ポリヌクレオチドが完成した配列を含まない場合、3’-O-保護基を除去して遊離の3’-ヒドロキシル(103)を露出させ、伸長した開始ポリヌクレオチドをヌクレオチド付加および脱保護の別のサイクルに供する。
【0021】
本明細書で使用される場合、ヌクレオチドまたはヌクレオシドの3’-ヒドロキシルなどの特定の基に関する「保護された」および「ブロックされた」という用語は、互換的に使用され、特定の基に共有結合して、化学的または酵素的プロセス中にその基の化学的変化を防止する部分を意味することが意図される。特定の基が、ヌクレオシドトリホスフェートの3’-ヒドロキシル、または3’-保護された(またはブロックされた)ヌクレオシドトリホスフェートが組み込まれた延長断片(または「延長中間体」)である場合は常に、防止された化学変化は、延長断片(または「延長中間体」)の酵素的カップリング反応によるさらなる、またはその後の延長である。
【0022】
本明細書で使用される場合、「開始剤」(または「開始断片」、「開始核酸」、「開始オリゴヌクレオチド」などの同等の用語)は、その末端に遊離3’-ヒドロキシルを有する短いオリゴヌクレオチド配列を指し、これはTdTなどのテンプレートフリーポリメラーゼによってさらに伸長することができる。一実施形態では、開始断片はDNA開始断片である。別の実施形態では、開始断片はRNA開始断片である。いくつかの実施形態では、開始断片は3~100ヌクレオチド、特に3~20ヌクレオチドを有し、これらは全てまたは部分的にポリCである。いくつかの実施形態では、開始断片は一本鎖である。別の実施形態では、開始断片は二本鎖であってもよい。いくつかの実施形態では、開始オリゴヌクレオチドは、その5’末端によって合成支持体に結合することができ、他の実施形態では、開始オリゴヌクレオチドは、例えば共有結合を介して、合成支持体に直接結合される相補的オリゴヌクレオチドと二重鎖を形成することによって、合成支持体に間接的に結合することができる。いくつかの実施形態では、合成支持体は固体支持体であり、平面固体の不連続部位であってもよいし、ビーズであってもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、開始剤は、例えば、Baigaの米国特許公開第2019/0078065号および同第2019/0078126号のTdTが3’-O-保護dNTPと結合することができる遊離ヒドロキシルを有する非核酸化合物を含むことができる。
【0024】
開始剤を付着させる合成支持体は、ポリマー、ビーズやミクロスフェアを含む多孔質または非多孔質の固体、スライドガラスなどの平面、膜などを含むことができる。いくつかの実施形態では、固体支持体、すなわち合成支持体は、磁気ビーズ、アガロースなどの粒子ベースの樹脂などを含むことができる。
【0025】
合成支持体としては、ポリエチレングリコール(PEG)支持体、デンドリマー支持体などを含むポリマー支持体などの可溶型支持体;ポリスチレン粒子、ダイナビーズなどの非膨潤型固体支持体;アガロースを含む樹脂またはゲルなどの膨潤型固体支持体が挙げられるが、これらに限定されない。合成支持体はまた、フィルタープレートのフィルター膜のような反応チャンバの一部を形成することもできる。可溶型支持体の選択に関するガイダンスは、文献Bonoraら、Nucleic Acids Research、212(5):1213-1217(1993年);Dickersonら、Chem.Rev.102:3325-3344(2002年);Fishmanら、J.Org.Chem.、68:9843-9846(2003年);Gavertら、Chem.Rev.97:489-509(1997年);Shchepinovら、Nucleic Acids Research、25(22):4447-4454(1997年):および同様の文献に見られる。固体支持体の選択に関するガイダンスは、Brownら、Synlett 1998年(8):817-827;Maetaら、米国特許第9045573号;BeaucageおよびIyer、Tetrahedron、48(12):2223-2311(1992年)などに見られる。オリゴヌクレオチドを固体支持体に付着させるためのガイダンスは、Arndt-Jovinら、Eur.J.Biochem.、54:411-418(1975年);Ghoshら、Nucleic Acids Research、15(13):5353-5372(1987年);Integrated DNA Technologies、「Strategies for attaching oligonucleotides to solid supports」、2014年(第6版);Gokmenら、Progress in Polymer Science 37:365-405(2012);および同様の文献に見られる。
【0026】
いくつかの実施形態では、固相支持体は、典型的には、樹脂またはゲルの形態の多孔性ビーズまたは粒子で構成される。ポリヌクレオチド合成のための固相支持体としては、数多くの材料が適している。本明細書で使用される場合、「粒子」という用語としては、「微小粒子」または「ナノ粒子」または「ビーズ」または「マイクロビーズ」または「ミクロスフェア」が挙げられるが、これらに限定されない。本発明に有用な粒子またはビーズとしては、例えば、直径1~300ミクロン、または直径20~300ミクロン、または直径30~300ミクロン、または直径300ミクロンより大きいビーズが挙げられる。開始剤を含む粒子は、ガラス、プラスチック、ポリスチレン、樹脂、ゲル、アガロース、セファロース、および/または他の適切な材料で作製することができる。特に興味深いのは、アガロースビーズなどの多孔性樹脂粒子またはビーズである。例示的なアガロース粒子としては、Sepharose(商標)ビーズが挙げられる。いくつかの実施形態では、40~165μmの範囲の直径を有する臭化シアン活性化4%架橋アガロースビーズを、本発明の方法で使用するために開始剤で誘導体化することができる。他の実施形態では、200~300μmの範囲の直径を有する臭化シアン活性化6%架橋アガロースビーズを、本発明の方法と共に使用することができる。後者の2つの実施形態では、5’-アミノリンカーを有するオリゴヌクレオチド開始剤を、本発明で使用するためにSepharose(商標)ビーズに結合させることができる。アガロースビーズに望ましい他のリンカーとしては、チオールおよびエポキシリンカーが挙げられる。
【0027】
いくつかの実施形態では、開始剤で誘導体化された多孔性樹脂支持体は、少なくとも10nm、または少なくとも20nm、または少なくとも50nmの平均孔径を有する。他の実施形態では、このような多孔性樹脂支持体は、10nm~500nmの範囲、または50nm~500nmの範囲の平均孔径を有する。
いくつかの実施形態では、開始剤は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるHorganらの国際特許公開WO2020/020608によって記載されているような、試薬のインクジェット送達を介したオリゴヌクレオチドの大量並列合成のために、平面支持体に付着される。いくつかの実施形態では、このような平面支持体は、保護された3’-ヒドロキシルを有する開始剤の均一なコーティングを含み、例えば、不連続な反応部位は、不連続な位置に脱保護溶液を送達することによって規定することができる。他の実施形態では、このような平面支持体は、各々が開始剤を含む不連続な反応部位のアレイを含み、これらは、例えば、Brennanの米国特許第5474796号;Peckらの米国特許第10384189号;Indermuhleらの米国特許第10669304号;FixeらのMaterials Research Society Symposium Proceedings.第723巻、Molecularly Imprinted Materials - Sensors and Other Devices.学会(2002年4月2~5日、カリフォルニア州サンフランシスコ);または同様の文献のフォトリソグラフィ法によって基板上に形成することができる。
【0028】
合成が完了した後、所望のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドは、切断によって開始剤および固体支持体から放出される。この目的のために、多種多様な切断可能な連結または切断可能なヌクレオチドを使用することができる。いくつかの実施形態では、所望のポリヌクレオチドを切断することは、切断された鎖上に天然の遊離5’-ヒドロキシルを残すが、しかしながら、代替的な実施形態では、切断工程は、例えば、ホスファターゼ処理などによって、その後の工程で除去され得る部分、例えば、5’-ホスフェートを残し得る。切断工程は、化学的、熱的、酵素的、または光化学的方法で実施することができる。いくつかの実施形態では、切断可能なヌクレオチドは、特定のグリコシラーゼ(例えば、それぞれウラシルデオキシグリコシラーゼに続いてエンドヌクレアーゼVIII、および8-オキソグアニンDNAグリコシラーゼ)によって認識されるデオキシウリジンまたは8-オキソデオキシグアノシンなどのヌクレオチドアナログであってもよい。いくつかの実施形態では、切断は、デオキシイノシンを最後から2番目の3’ヌクレオチドとして開始剤に供することによって達成することができ、これは、例えば、Cretonの国際特許公開WO/2020/165137によって教示されるように、放出されたポリヌクレオチド上に5’-リン酸を残して、開始剤の3’末端でエンドヌクレアーゼVによって切断することができる。
【0029】
図1に戻ると、いくつかの実施形態では、各合成工程において、3’-O-保護されたNTPの存在下で、TdTなどのテンプレートフリーポリメラーゼを使用して、ヌクレオチドの順序配列が開始核酸に結合される。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドを合成する方法は、(a)遊離3’-ヒドロキシルを有する開始剤を用意する工程(100);(b)開始剤または遊離3’-ヒドロキシルを有する延長中間体を、3’-O-保護ヌクレオシドトリホスフェートの存在下、テンプレートフリーポリメラーゼと延長条件下で反応させて(104)、3’-O-保護延長中間体を生成する工程(106);(c)延長中間体を脱保護して、遊離3’-ヒドロキシルを有する延長中間体を生成する工程(108);および(d)ポリヌクレオチドが合成されるまで、工程(b)および(c)を繰り返す工程(110)を含む。(「延長中間体」および「伸長断片」という用語は互換的に使用されることもある)。いくつかの実施形態では、開始剤は、固体支持体に、例えばその5’末端によって付着したオリゴヌクレオチドとして供される。上記の方法はまた、各反応、すなわち延長工程の後、および各脱保護工程の後に洗浄工程を含むこともできる。例えば、反応させる工程は、所定のインキュベーション期間または反応時間の後に、例えば洗浄によって、取り込まれていないヌクレオシドトリホスフェート酸を除去する下位工程を含むことができる。このような所定のインキュベーション期間または反応時間は、通常、数秒、例えば30秒から数分、例えば30分である。
【0030】
合成支持体上のポリヌクレオチドの配列が逆相補的部分配列を含む場合、逆相補的領域間の水素結合の形成により、二次的な分子内構造または分子横断構造が形成される可能性がある。いくつかの実施形態では、環外アミンの塩基保護部位は、保護された窒素の水素が水素結合に関与できないように選択され、それによってそのような二次構造の形成を防止する。すなわち、塩基保護部分は、例えばヌクレオシドAとTとの間およびGとCとの間のような、通常の塩基対形成で形成されるような水素結合の形成を防止するために採用することができる。合成の最後に、塩基保護部分を除去し、ポリヌクレオチド生成物を、例えばその開始剤から切断することによって、固体支持体から切断することができる。
【0031】
塩基保護基を有する3’-O-保護NTPモノマーを供することに加えて、熱的に安定なテンプレートフリーポリメラーゼを使用して、より高い温度で伸長反応を行うことができる。例えば、40℃を超える活性を有する熱安定なテンプレートフリーポリメラーゼを採用することができ、または、いくつかの実施形態では、40~85℃の範囲の活性を有する熱安定なテンプレートフリーポリメラーゼを採用することができ、または、いくつかの実施形態では、40~65℃の範囲の活性を有する熱安定なテンプレートフリーポリメラーゼを採用することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、伸長(またはカップリング)条件は、水素結合または塩基の積層を阻害する溶媒を伸長反応混合物に添加することを含み得る。このような溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノールなどの誘電率の低い水混和性溶媒が挙げられる。同様に、いくつかの実施形態では、伸長条件は、n-ブタノール、エタノール、塩化グアニジニウム、過塩素酸リチウム、酢酸リチウム、塩化マグネシウム、フェノール、2-プロパノール、ドデシル硫酸ナトリウム、チオウレア、尿素などを含むがこれらに限定されないカオトロピック剤の供給を含み得る。いくつかの実施形態では、伸長条件は、二次構造を抑制する量のDMSOの存在を含む。いくつかの実施形態では、伸長条件は、二次構造の形成を阻害するDNA結合タンパク質の供給を含むことができ、このようなタンパク質としては、一本鎖結合タンパク質、ヘリカーゼ、DNAグリコラーゼなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
塩基保護されていない3’-O-アミノ-dNTPは、市販の供給業者から購入するか、公開されている技術、例えばBennerの米国特許第7544794号および同第8212020号を使用して合成することができる。
【0034】
塩基保護されたdNTPが採用される場合、図1の方法は、塩基保護部分を除去する工程(e)をさらに含むことができ、この工程は、アシル保護基またはアミジン保護基の場合、(例えば)濃アンモニアで処理することを含むことができる。
【0035】
上記の方法はまた、カップリング(または伸長)工程後の洗浄工程に加えて、1つまたは複数のキャッピング工程を含むことができる。第1のキャッピング工程は、部分的に合成されたポリヌクレオチド上の未反応の3’-OH基をキャップするか、またはさらなる伸長に対して不活性にすることができる。このようなキャッピング工程は、通常、カップリング工程の後に実施され、キャッピング化合物が使用される場合は常に、成長する鎖にカップリングしたばかりのモノマーの保護基と反応しないように選択される。いくつかの実施形態では、このようなキャッピング工程は、部分的に合成されたポリヌクレオチドを、例えばTdTとのさらなるカップリングを不可能にするキャッピング化合物をカップリングすることによって(例えば、第2の酵素カップリング工程によって)実施することができる。このようなキャッピング化合物は、ジデオキシヌクレオシドトリホスフェートであってもよい。
【0036】
伸長工程(延長工程またはカップリング工程とも呼ばれることがある)の例示的な反応条件は、以下の2.0~20.μMの精製TdT;125~600μMの3’-O-ブロックdNTP(例えば、3’-O-NH-ブロックdNTP);約1~約100mMのアルデヒド捕捉剤(例えば、図3A~3Bの化合物(1)~(14)から選択される);約10~約500mMのカコジル酸カリウムバッファー(pHは6.5~7.5)および約0.01~約10mMの二価カチオン(例えば、CoClまたはMnCl)であり、伸長反応は、50μLの反応容量中で、室温~45℃の範囲内の温度で、3~5分間実施することができる。いくつかの実施形態では、3’-O-ブロックdNTPが3’-O-NH-ブロックdNTPである場合、脱ブロック工程の反応条件は、以下の700~1500mMのNaNO;500~1000mMの酢酸ナトリウム(酢酸でpHを4.8~6.5の範囲に調整する)を含むことができ、脱ブロック反応は、50μLの容量で、室温~45℃の範囲内の温度で、30秒~数分間実施することができる。洗浄は、カップリング反応の成分(例えば、酵素、モノマー、二価カチオン)を含まないカコジル酸バッファーで行うことができる。
【0037】
ポリヌクレオチド合成のためのテンプレートフリーポリメラーゼ
本発明の方法に使用するために、様々な異なるテンプレートフリーポリメラーゼが利用可能である。テンプレートフリーポリメラーゼとしては、polXファミリーポリメラーゼ(DNAポリメラーゼβ、λおよびμを含む)、ポリ(A)ポリメラーゼ(PAP)、ポリ(U)ポリメラーゼ(PUP)、DNAポリメラーゼθなどが挙げられるが、これらに限定されず、以下の文献、Ybertらの国際特許公開WO2017/216472;Championらの米国特許第10435676号;Championらの国際特許公開WO2020/099451;Heinischらの国際特許公開WO2021/018919に記載されている。特に、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)およびそのバリアントは、テンプレートフリーDNA合成に有用である。
【0038】
いくつかの実施形態では、TdTバリアントは、3’-O-アミノヌクレオシドトリホスフェートに関して増大した組み込み活性を示す本発明で採用される。例えば、このようなTdTバリアントは、参照により本明細書に組み込まれるChampionらの米国特許第10435676号に記載されている技術を使用して生成することができる。いくつかの実施形態では、TdTバリアントは、(a)配列番号7~20、および24~39のいずれかのアミノ酸配列を有するTdTと少なくとも80%同一なアミノ酸配列、および(b)表1に列挙された1つまたは複数の置換を有するTdTバリアントを採用し、TdTバリアントは、(i)鋳型なしで核酸断片を合成することができ、(ii)核酸断片の遊離3’-ヒドロキシル上に3’-O-修飾ヌクレオチドを組み込むことができる。いくつかの実施形態では、上記のTdTバリアントは、表1に列挙されたすべての位置に置換を含む。いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも85パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも90パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも95パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも97パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも98パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも99パーセント同一性である。本明細書で使用される場合、参照配列とバリアント配列との比較に使用するパーセント同一性値は、バリアント配列の置換を含む明示的に指定されたアミノ酸位置を含まず、すなわち、パーセント同一性関係は、参照タンパク質の配列と、バリアントの置換を含む明示的に指定された位置以外のバリアントタンパク質の配列との間にある。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明のTdTバリアントは、配列番号40~75から選択されるアミノ酸配列と少なくとも80%同一なアミノ酸配列、および表2に列挙された置換のうちの1つまたは複数を含むTdTから誘導され、TdTバリアントは、(i)鋳型なしで核酸断片を合成することができ、(ii)核酸断片の遊離3’-ヒドロキシル上に3’-O-修飾ヌクレオチドを組み込むことができる。いくつかの実施形態では、上記のTdTバリアントは、表2に列挙されたすべての位置に置換を含む。いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも85パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも90パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、示された配列番号と少なくとも95パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも97パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも98パーセント同一性であり、いくつかの実施形態では、上記パーセント同一性値は、少なくとも99パーセント同一性である。上記と同様に、参照配列とバリアント配列との比較に使用するパーセント同一性値は、バリアント配列の置換を含む明示的に指定されたアミノ酸位置を含まず、すなわち、パーセント同一性関係は、参照タンパク質の配列と、バリアントの置換を含む明示的に指定された位置以外のバリアントタンパク質の配列との間にある。
配列番号40~54、56、59、61、63、65、67、69、70、73および74のTdTバリアントは、4位(または機能的に同等な位置)のグルタミンの安定化置換に加えて、表2に記載されているように、示されたアミノ酸位置の1つまたは複数における置換を含む。他の実施形態では、本発明のTdTバリアントは、4位のグルタミンの安定化置換に加えて、示されたアミノ酸位置の一つ一つに置換を有する、表2に列挙されたような天然のTdTに由来する。いくつかの実施形態では、グルタミンに置換されたそのような安定化アミノ酸は、E、S、DおよびNからなる群から選択される。他の実施形態では、安定化アミノ酸はEである。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の方法と共に使用するためのさらなるTdTバリアントは、表2に示すように、メチオニン、システイン、アルギニン(1位)、アルギニン(2位)またはグルタミン酸の置換の1つまたは複数を含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、配列番号55、57、58、60、62、64、66、68、71、72、および75~112のアミノ酸配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含むTdTバリアントもまた、本発明で使用することができる。
【0042】
本発明で使用するためのTdT、PAPおよびPUPバリアントはそれぞれ、示された置換の存在を条件として、指定された配列番号とパーセント配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、このように記載された本発明のバリアントと指定された配列番号との間の配列の相違の数および種類は、置換、欠失および/または挿入によるものであってもよく、置換、欠失および/または挿入されたアミノ酸は、任意のアミノ酸を含んでもよい。いくつかの実施形態では、そのような欠失、置換および/または挿入は、天然に存在するアミノ酸のみを含む。いくつかの実施形態では、置換は、Grantham、Science、185:862-864(1974)に記載されているように、保存的、すなわち同義のアミノ酸変化のみからなる。すなわち、あるアミノ酸の置換は、その同義のアミノ酸のセットのメンバー間でのみ起こりうる。いくつかの実施形態では、採用され得る同義のアミノ酸のセットを表3Aに記載する。
【0043】
いくつかの実施形態では、採用され得る同義のアミノ酸のセットを表3Bに記載する。
本発明で使用するTdT、PAPおよびPUPバリアントは、従来のバイオテクノロジー技術によって生成され、精製用のアフィニティタグを含むことができ、このタグはテンプレートフリーポリメラーゼのN末端、C末端または内部の位置に結合させることができる。いくつかの実施形態では、アフィニティタグは、テンプレートフリーポリメラーゼを使用する前に切断される。他の実施形態では、アフィニティタグは使用前に切断されない。いくつかの実施形態では、ペプチドアフィニティタグはTdTバリアントのループ2領域に挿入される。本発明のTdTバリアントと共に使用するための例示的なN末端His-タグは、MASSHHHHHHSSGSENLYFQTGSSG-(配列番号6))である。ペプチドアフィニティタグを選択するためのガイダンスは、以下の文献:Terpe、Appl.Microbiol.Biotechnol.、60:523-533(2003年);Arnauら、Protein Expression and Purification、48:1-13(2006年);Kimpleら、Curr.Protoc.Protein Sci:Unit-9.9(2015年);Kimpleら、米国特許第7309575号;Lichtyら、Protein Expression and Purification、41:98-105(2005年)などに記載されている。ペプチドアフィニティタグを選択するためのガイダンスは、以下の文献:Terpe、Appl.Microbiol.Biotechnol.、60:523-533(2003年);Arnauら、Protein Expression and Purification、48:1-13(2006年);Kimpleら、Curr.Protoc.Protein Sci.、73:Unit-9.9(2015年);Kimpleら、米国特許第7309575号;Lichtyら、Protein Expression and Purification、41:98-105(2005年)などに記載されている。
【0044】
ヌクレオチド組み込み活性の測定
本発明で使用されるバリアントによるヌクレオチドの組み込み効率は、延長、または伸長アッセイによって測定することができ、例えば、Bouleら(以下に引用);Bentolilaら(以下に引用);およびHiattら、米国特許第5808045号に記載され、後者は参照により本明細書に組み込まれる。簡単に説明すると、このようなアッセイの一形態では、遊離3’-ヒドロキシルを有する蛍光標識オリゴヌクレオチドを、可逆的にブロックされたヌクレオシドトリホスフェートの存在下、所定の時間、延長条件下でTdTなどのテンプレートフリーポリメラーゼと反応させ、その後、延長反応を停止し、ゲル電気泳動による分離後に延長生成物および未延長オリゴヌクレオチドの量を定量する。このようなアッセイによって、テンプレートフリーバリアントポリメラーゼの組み込み効率を、他のバリアントまたは野生型または参照ポリメラーゼの組み込み効率と容易に比較することができる。いくつかの実施形態では、テンプレートフリーポリメラーゼ効率の尺度は、等価なアッセイにおいて、テンプレートフリー野生型ポリメラーゼ、または参照ポリメラーゼを使用した延長生成物の量に対するテンプレートフリーバリアントポリメラーゼを使用した延長生成物の量の比(パーセンテージとして与えられる)であってもよい。
【0045】
いくつかの実施形態では、TdTの組み込み効率を測定するために、以下の特定の延長アッセイを使用することができる。使用したプライマーは以下の通りである:
5’-AAAAAAAAAAAAAAGGGG-3’(配列番号5)
このプライマーはまた、5’末端にATTO蛍光色素を有する。代表的な修飾ヌクレオチド(表6ではdNTPと記す)としては、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシヌクレオチド-5’-トリホスフェート(-ONH、Firebird Biosciences製)、例えば、3’-O-アミノ-2’,3’-ジデオキシアデノシン-5’-トリホスフェートが挙げられる。試験された異なるバリアントごとに、1本のチューブが反応に使用される。試薬は水から始め、表4の順序でチューブに添加する。37℃で30分後、ホルムアミド(Sigma)を添加して反応を停止させる。
活性バッファーは、例えば、CoClを添加したTdT反応バッファー(New England Biolabsから入手可能)を含む。
【0046】
アッセイ生成物を通常のポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析する。例えば、上記のアッセイの産物を16%ポリアクリルアミド変性ゲル(Bio-Rad)で分析することができる。ポリアクリルアミドをガラス板の中に流し込んで重合させ、分析直前にゲルを作る。電気泳動工程のためにTBEバッファー(Sigma)を満たした適合タンクにガラスプレート内のゲルを取り付ける。分析する試料をゲルの上部にロードする。ゲルの上下間に500~2,000Vの電圧を室温で3~6時間印加する。分離後、ゲルの蛍光を、例えばTyphoonスキャナー(GE Life Sciences)を使用してスキャンする。ゲル画像は、ImageJソフトウェア(imagej.nih.gov/ij/)またはそれに相当するものを使用して解析し、修飾ヌクレオチドの組み込み率を算出する。
【0047】
テンプレートフリーポリメラーゼの伸長効率はまた、以下のヘアピン完成アッセイでも測定することができる。このようなアッセイでは、試験ポリヌクレオチドは、反応条件下では実質的に一本鎖であるが、TdTバリアントのようなポリメラーゼで延長すると、一本鎖ループおよび二本鎖ステムを含む安定なヘアピン構造を形成するような遊離3’ヒドロキシルを有する。これで、二本鎖ポリヌクレオチドの存在により3’末端の延長を検出することができる。二本鎖構造は、(i)二本鎖構造へのインターカレーションにより優先的に蛍光を発する蛍光色素、(ii)延長ポリヌクレオチド上のアクセプター(またはドナー)と、新たに形成されたヘアピンステムと三重鎖を形成するオリゴヌクレオチド上のドナー(またはアクセプター)との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、(iii)試験ポリヌクレオチドに共に結合し、ヘアピンの形成時にFRET近接状態になるFRETアクセプターおよびドナーなどを含むが、これらに限定されない様々な方法で検出することができる。いくつかの実施形態では、単一ヌクレオチドによる延長後の試験ポリヌクレオチドのステム部分は、4~6塩基対の範囲の長さであり、他の実施形態では、このようなステム部分は、4~5塩基対の長さであり、さらに他の実施形態では、このようなステム部分は、4塩基対の長さである。いくつかの実施形態では、試験ポリヌクレオチドは、10~20ヌクレオチドの範囲の長さを有し、他の実施形態では、試験ポリヌクレオチドは、12~15ヌクレオチドの範囲の長さを有する。いくつかの実施形態では、延長なしのステムと延長ありのステムの融解温度の差を最大にするヌクレオチドで試験ポリヌクレオチドを延長することが有利または好都合であり、したがって、いくつかの実施形態では、試験ポリヌクレオチドは、dCまたはdGで延長される(したがって、試験ポリヌクレオチドは、ステム形成に適切な相補的ヌクレオチドを有するように選択される)。
【0048】
ヘアピン完成アッセイのための例示的な試験ポリヌクレオチドとしては、dGTPで延長することにより完成するp875(5’-CAGTTAAAAACT)(配列番号2)、dCTPで延長することにより完成するp876(5’-GAGTTAAAACT)(配列番号3)、およびdGTPで延長することにより完成するp877(5’-CAGCAAGGCT)(配列番号4)が挙げられる。このような試験ポリヌクレオチドに対する例示的な反応条件は、2.5~5μMの試験ポリヌクレオチド、1:4000希釈のGelRed(登録商標)(カリフォルニア州フリーモントのBiotium,Incからのインターカレート色素)、200mMカコジル酸KOH pH6.8、1mMのCoCl、0~20%のDMSO、および所望の濃度の3’-ONH dGTPおよびTdTを含むことができる。ヘアピンの完成は、TECANリーダなどの従来の蛍光光度計を使用して、28~38℃の反応温度で、励起フィルターを360nmに設定し、吸収フィルターを635nmに設定して、GelRed(登録商標)色素の蛍光の増加によってモニタリングすることができる。
【0049】
キット
本発明には、3’-O-アミノ-ヌクレオシドトリホスフェートモノマーを使用してポリヌクレオチドを酵素的に合成する方法を実施するための様々なキットが含まれる。一態様では、本発明のキットは、合成試薬の1つまたは複数の容器(またはボトル、またはバイアル)を含み、そのうちの少なくとも1つは有効量のアルデヒド捕捉剤を含む。いくつかの実施形態では、キットは、テンプレートフリーポリメラーゼのバイアル、および有効量の少なくとも1つのアルデヒド捕捉剤を含む。いくつかの実施形態では、アルデヒド捕捉剤は、少なくとも1つのO-置換ヒドロキシルアミンまたはO-置換ポリヒドロキシルアミンを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのO-置換ヒドロキシルアミンまたはO-置換ポリヒドロキシルアミンは、図3A~3Bの化合物(1)~(14)の群から選択される。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのO-置換ヒドロキシルアミンまたはO-置換ポリヒドロキシルアミンは、テンプレートフリーポリメラーゼと同じバイアルに含まれる。いくつかの実施形態では、そのようなテンプレートフリーポリメラーゼはTdTバリアントである。
【0050】
さらなる実施形態では、キットは、別個に、または上記のアイテムと共に、以下のアイテム、(i)3’-O-アミノ-dNTPを含む1つまたは複数の容器、(ii)本明細書に記載されるような脱保護または脱ブロック工程を実施するための脱保護または脱ブロック試薬、(iii)開始剤が付着した固体支持体、(iv)完成したポリヌクレオチドを固体支持体から放出するための切断試薬、(iv)酵素的付加またはカップリング工程の最後に未反応の3’-O-アミノ-dNTPを除去するための洗浄試薬またはバッファー、および(v)精製カラム、脱塩試薬、溶出試薬などの合成後処理試薬のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【実施例
【0051】
実施例1
この例では、伸長(またはカップリング)工程の時間を10分に設定した以外は、上記のように2つの試験ポリヌクレオチドを合成した。試験ポリヌクレオチドは20T(または20量体のポリT)およびM19(ZZZZZZZZZZZZ)であった。簡単に説明すると、伸長反応条件は、wwPTFEロングドリップフィルタープレート(PALL)、dI fluo樹脂(内部呼称R366、Cretonの国際特許公開WO2020/165137参照)、500μMの3’-O-アミノ-dNTP、20%DMSO、20μMのM77(配列番号106)、500mMのCaco pH7.4、2mMのCoCl、0.01%tweenを用いて、ヒーター上59℃、V2脱ブロックで行った。合成試薬は96ヘッドで分注した。BOX(図3Aの化合物(1))を酵素合成試薬に最終濃度0、0.5、2.5、5、または25mMで添加した。ポリヌクレオチド生成物は、Creton(前出)の教示に従って支持体から切断し、ゲル電気泳動で分析した。結果を図2Aの電気泳動図に示す。
その結果、バンド(204-低捕捉剤濃度)とバンド(206-高捕捉剤濃度)との比較により、伸長反応におけるアルデヒド捕捉剤の濃度が高くなるにつれて(濃度範囲1~25mMにわたって)、疑似キャッピング不全配列の画分が単調に低下することが明らかになった。図2Bは、配列20T(灰色のバーと実線)およびM19(網状のバーと破線)の平均純度(バー)およびキャップされた不純物(曲線)を、生成物に対するパーセンテージで示したものである。
【0052】
実施例2
この実施例では、(i)使用したBOXの濃度が0、1、10、25、および50mMであること、ならびに(ii)異なる試験ポリヌクレオチドを使用したこと以外は、実施例1と同じ合成および分析手順に従い、ヘアピンを含むM1、3量体セグメントCCAおよびCTAを含むM10、3量体セグメントCCAを含むM18、およびG四重鎖を含むM25である。結果を図2Cに示す。少なくとも約25mMの濃度までは、捕捉剤濃度が増加するにつれて純度が増加し、失敗配列のパーセンテージが減少するという同じパターンが示されている。
【0053】
定義
本明細書で特に定義しない限り、本明細書で使用される核酸化学、生化学、遺伝学、および分子生物学の用語および記号は、この分野の標準的な論文およびテキスト、例えば、KornbergおよびBaker、DNA Replication、第2版(W.H.Freeman、ニューヨーク、1992年);Lehninger、Biochemistry、第2版(Worth Publishers、ニューヨーク、1975年);StrachanおよびRead、Human Molecular Genetics、第2版(Wiley-Liss、ニューヨーク、1999年)に従う。
【0054】
2つ以上の異なるTdTのアミノ酸位置に関する「機能的に同等」とは、(i)それぞれの位置のアミノ酸がTdTの活性において同じ機能的役割を果たし、(ii)アミノ酸がそれぞれのTdTのアミノ酸配列において相同なアミノ酸位置に存在することを意味する。配列アラインメントおよび/または分子モデリングに基づいて、2つ以上の異なるTdTのアミノ酸配列において、位置的に同等または相同なアミノ酸残基を同定することが可能である。いくつかの実施形態では、機能的に同等なアミノ酸位置は、進化的に関連する種、例えば属、ファミリーなどのTdTのアミノ酸配列間で保存されている非効率性モチーフに属する。このような保存された非効率性モチーフの例は、Moteaら、Biochim.Biophys.Acta.1804(5):1151-1166(2010年);Delarueら、EMBO J.、21:427-439(2002年)、および同様の文献に記載されている。
【0055】
「キット」とは、本発明のシステムまたは装置によって実施される方法を実施するための材料または試薬を送達するための、包装などの任意の送達システムを指す。いくつかの実施形態では、消耗品材料または試薬は、本明細書において「キット」と呼ばれる包装で、本発明のシステムまたは装置のユーザに送達される。本発明の文脈では、このような送達システムとしては、通常、合成支持体、オリゴヌクレオチド、3’-O-保護-dNTPなどのような材料の貯蔵、輸送、または送達を可能にする包装方法および材料が挙げられる。例えば、キットは、ポリC開始剤が付着した固体支持体および/または支持材料を含む1つまたは複数の筐体(例えば、箱)を含むことができる。このような内容は、意図された受取人に一緒に、または別々に届けられることがある。例えば、第1の容器はポリC開始剤が付着した固体支持体を含み、第2またはそれ以上の容器は3’-O-保護デオキシヌクレオシドトリホスフェート、テンプレートフリーポリメラーゼ、例えば特定のTdTバリアント、および適切なバッファーを含む。
【0056】
「変異体」または「バリアント」は、互換的に使用され、本明細書に記載される天然または参照TdTポリペプチドに由来し、1つまたは複数の位置で修飾または改変、すなわち置換、挿入、および/または欠失を含むポリペプチドを指す。変異体は、当技術分野で公知の様々な技術によって得ることができる。特に、野生型タンパク質をコードするDNA配列を変化させる技術の例としては、部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、配列シャッフリング、合成オリゴヌクレオチド構築などが挙げられるが、これらに限定されない。突然変異誘発活動は、タンパク質、または本発明の場合にはポリメラーゼの配列中の1つまたは数個のアミノ酸の欠失、挿入、置換からなる。以下の用語は置換を示すために使用される:L238Aは、参照配列、すなわち野生型配列の238位のアミノ酸残基(ロイシン、L)がアラニン(A)に変更されていることを示す。A132V/I/Mは、親配列の132位のアミノ酸残基(アラニン、A)が、以下のアミノ酸、バリン(V)、イソロイシン(I)、またはメチオニン(M)のいずれかで置換されていることを示す。この置換は保存的置換あってもよく、または非保存的置換であってもよい。保存的置換の例としては、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン、アスパラギンおよびスレオニン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、システインおよびバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)、低級アミノ酸(グリシン、アラニンおよびセリン)が挙げられる。
【0057】
「ポリヌクレオチド」または「オリゴヌクレオチド」は互換的に使用され、それぞれヌクレオチドモノマーまたはそのアナログの直鎖状ポリマーを意味する。ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを構成するモノマーは、ワトソン・クリック型の塩基対形成、塩基スタッキング、フグスティーン型または逆フグスティーン型の塩基対形成など、モノマー対モノマー相互作用の規則的なパターンによって、天然のポリヌクレオチドに特異的に結合することができる。そのようなモノマーおよびそれらのヌクレオシド間連結は、天然に存在するものであってもよく、またはそのアナログ、例えば天然に存在するアナログまたは天然に存在しないアナログであってもよい。天然に存在しないアナログとしては、PNA、ホスホロチオエートヌクレオシド間連結、フルオロフォアなどの標識の結合を可能にする連結基を含む塩基、またはハプテンなどが挙げられる。オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの使用が、ポリメラーゼによる延長、リガーゼによるライゲーションなどの酵素的処理を必要とする場合はいつでも、当業者であれば、そのような場合のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、ヌクレオシド間連結、糖部分、または塩基のいずれかまたはいくつかの位置の特定のアナログを含まないことを理解するであろう。ポリヌクレオチドの大きさは、通常、「オリゴヌクレオチド」と呼ばれる場合、数個、例えば5~40個の単量体単位から数千個の単量体単位までである。ポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドが「ATGCCTG」などの文字列(大文字または小文字)で表される場合は常に、別途指示がない限り、または文脈から明らかな場合を除いて、ヌクレオチドは左から右へ5’→3’の順序であり、「A」はデオキシアデノシンを示し、「C」はデオキシシチジンを示し、「G」はデオキシグアノシンを示し、「T」はチミジンを示し、「I」はデオキシイノシンを示し、「U」はウリジンを示すことが理解される。特に断りのない限り、用語および原子番号を付ける方法は、StrachanおよびRead、Human Molecular Genetics 2(Wiley-Liss、ニューヨーク、1999年)に開示されているものに従う。通常、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって連結された4つの天然ヌクレオシド(例えば、DNAの場合はデオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、デオキシチミジン、またはRNAの場合はそれらのリボース対応物)を含むが、しかしながら、例えば修飾塩基、糖、またはヌクレオシド間連結を含む非天然ヌクレオチドアナログを含むこともできる。酵素が活性のために特定のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質、例えば一本鎖DNA、RNA/DNA二重鎖を要求する場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチド基質のための適切な組成物の選択は、特にSambrookら、Molecular Cloning、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク、1989年)などの論文、および同様の文献からのガイダンスにより、当業者の知識の範囲内であることは当業者には明らかである。同様に、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドは、一本鎖形態または二本鎖形態のいずれか(すなわち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとそのそれぞれの相補体の二重鎖)を指すことができる。どちらの形態が意図されているか、または両方の形態が意図されているかは、用語の用法の文脈から当業者には明らかであろう。
【0058】
「プライマー」とは、天然または合成のオリゴヌクレオチドであって、ポリヌクレオチドの鋳型と二重鎖を形成する際に、核酸合成の開始点として作用し、鋳型に沿ってその3’末端から延長して延長した二重鎖を形成することができるオリゴヌクレオチドを意味する。プライマーの延長は通常、DNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼなどの核酸ポリメラーゼを用いて行われる。延長プロセスで付加されるヌクレオチドの配列は、鋳型ポリヌクレオチドの配列によって決定される。通常、プライマーはDNAポリメラーゼによって延長される。プライマーは通常、14~40ヌクレオチドの範囲、または18~36ヌクレオチドの範囲の長さを有する。プライマーは、様々な核酸増幅反応、例えば、単一のプライマーを使用する直鎖状増幅反応、または2つ以上のプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応に使用される。特定の用途のためにプライマーの長さおよび配列を選択するためのガイダンスは、参照により組み込まれる以下の文献、Dieffenbach編、PCR Primer:A Laboratory Manual、第2版(Cold Spring Harbor Press、ニューヨーク、2003年)によって証明されるように、当業者には周知である。
【0059】
「配列同一性」とは、2つのポリペプチド配列または2つのポリヌクレオチド配列など、2つの配列間の一致(例えば、同一のアミノ酸残基)の数(または画分、通常はパーセンテージで表される)を指す。配列同一性は、配列のギャップを最小限に抑えながら、重なりおよび同一性を最大にするようにアライメントされた配列を比較することによって決定される。特に、配列同一性は、2つの配列の長さに応じて、多数の数学的グローバルアラインメントまたはローカルアラインメントアルゴリズムのいずれかを使用して決定することができる。類似した長さの配列は、好ましくは、配列を全長にわたって最適に整列させるグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman-Wunschアルゴリズム;NeedlemanおよびWunsch、1970年)を使用して整列させ、一方、実質的に異なる長さの配列は、好ましくは、ローカルアラインメントアルゴリズム(例えば、Smith-Watermanアルゴリズム(SmithおよびWaterman、1981年)またはAltschulアルゴリズム(Altschulら、1997年;Altschulら、2005年))を使用して整列させる。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のアラインメントは、例えば、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/またはttp://www.ebi.ac.uk/Tools/emboss/などのインターネットウェブサイトで利用可能な一般に利用可能なコンピューターソフトウェアを使用するなど、当業者であれば様々な方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の完全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、Needleman-Wunschアルゴリズムを使用して2つの配列の最適なグローバルアラインメントを作成するペアワイズ配列アラインメントプログラムEMBOSS Needleを使用して生成された値を指し、すべての検索パラメータがデフォルト値、すなわち、スコアリングマトリックス=BLOSUM62、ギャップオープン=10、ギャップエクステンド=0.5、エンドギャップペナルティ=false、エンドギャップオープン=10、エンドギャップエクステンド=0.5に設定されている。
【0060】
「置換」とは、アミノ酸残基が別のアミノ酸残基で置き換えられることを意味する。好ましくは、「置換」という用語は、天然に存在する標準20アミノ酸残基、稀に天然に存在するアミノ酸残基(例えば、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、アロヒドロキシリジン、6-N-メチルリジン、N-エチルグリシン、N-メチルグリシン、N-エチルアスパラギン、アロイソロイシン、N-メチルイソロイシン、N-メチルバリン、ピログルタミン、アミノ酪酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン)、および合成的に作られることが多い天然に存在しないアミノ酸残基(例えば、シクロヘキシルアラニン)から選択される別のアミノ酸残基によるアミノ酸残基の置換を指す。好ましくは、「置換」という用語は、天然に存在する標準20アミノ酸残基から選択される別のアミノ酸残基によるアミノ酸残基の置換を指す。「+」という記号は、置換の組み合わせを示す。アミノ酸は、以下の命名法に従って、1文字または3文字のコードで表される:A:アラニン(Ala);C:システイン(Cys);D:アスパラギン酸(Asp);E:グルタミン酸(Glu);F:フェニルアラニン(Phe);G:グリシン(Gly);H:ヒスチジン(His);I:イソロイシン(Ile);K:リジン(Lys);L:ロイシン(Leu);M:メチオニン(Met);N:アスパラギン(Asn);P:プロリン(Pro);Q:グルタミン(Gln);R:アルギニン(Arg);S:セリン(Ser);T:スレオニン(Thr);V:バリン(Val);W:トリプトファン(Trp)およびY:チロシン(Tyr)。本文書では、以下の用語を使用して置換を示す:L238Aは、親配列の238位のアミノ酸残基(ロイシン、L)がアラニン(A)に変更されていることを示す。A132V/I/Mは、親配列の132位のアミノ酸残基(アラニン、A)が以下のアミノ酸のいずれかで置換されていることを示す:バリン(V)、イソロイシン(I)、またはメチオニン(M)。この置換は保存的な置換あってもよく、または非保存的な置換であってもよい。保存的置換の例としては、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジンおよびヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン、アスパラギンおよびスレオニン)、疎水性アミノ酸(メチオニン、ロイシン、イソロイシン、システインおよびバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)、低級アミノ酸(グリシン、アラニンおよびセリン)が挙げられる。
【0061】
本開示は、記載された特定の形態の範囲に限定されることを意図したものではなく、本明細書に記載された変型例の代替物、修正物、および同等物を網羅することを意図したものである。さらに、本開示の範囲は、本開示に鑑みて当業者に自明となり得る他の変形例を完全に包含する。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
【配列表】
2024522199000001.app
【国際調査報告】