(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-11
(54)【発明の名称】曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板、並びにこの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240604BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240604BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20240604BHJP
C21D 9/52 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/38
C21D9/46 G
C21D9/52 101
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576364
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-12
(86)【国際出願番号】 KR2022016583
(87)【国際公開番号】W WO2023085660
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0155460
(32)【優先日】2021-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン-ワン
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
【テーマコード(参考)】
4K037
4K043
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA16
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB05
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB11
4K037FJ01
4K037FJ04
4K037GA05
4K037JA06
4K043AA01
4K043AB01
4K043AB02
4K043AB04
4K043AB10
4K043AB16
4K043AB20
4K043AB21
4K043AB25
4K043AB26
4K043AB27
4K043AB29
4K043BB03
4K043BB04
4K043CA04
4K043DA04
(57)【要約】
本発明は、曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板、並びにこの製造方法に関するものであり、より詳細には、急速低温テンパリングを活用した曲げ性及び伸びフランジ性に優れ、高降伏比及び超高強度を有する鋼板、並びにこの製造方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含み、
微細組織として、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含み、
下記関係式1から定義されるMの値が100~500の範囲を満たす、超高強度鋼板。
[関係式1]
M=P
size×P
number×[C]
0.5×[Mn]
2×[S]
(前記関係式1において、前記P
sizeは直径1μm以上の介在物の平均直径を示し、前記P
numberは直径1μm以上の介在物の平均個数を示す。前記[C]及び[Mn]は、それぞれ鋼板内の括弧内の元素の平均重量%含有量を示し、[S]は、鋼板内の括弧内の元素の平均ppm含有量を示す。)
【請求項2】
降伏強度は1140~1500MPaであり、引張強度は1470~1700MPaである、請求項1に記載の超高強度鋼板。
【請求項3】
降伏比は0.8以上である、請求項2に記載の超高強度鋼板。
【請求項4】
伸びフランジ性HERが25%以上であり、曲げ性R/tが4以下である、請求項1に記載の超高強度鋼板。
【請求項5】
重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含み、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含む微細組織を有する鋼板を用意する段階;及び
前記鋼板に焼戻しを行う段階;を含み、
下記関係式2で定義されるPの値が1.5~77.0の範囲を満たす、超高強度鋼板の製造方法。
【数1】
(前記関係式2において、前記Tは焼戻しの最高温度を示し、単位は℃である。また、前記t
effは有効熱処理時間を示し、単位はsecである。)
【請求項6】
前記Tは100~300℃の範囲を満たす、請求項5に記載の超高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記t
effは1~120secの範囲を満たす、請求項5に記載の超高強度鋼板の製造方法。
【請求項8】
下記関係式3を満たす、請求項5に記載の超高強度鋼板の製造方法。
[関係式3]
5≦t
total≦120
(前記関係式3において、前記t
totalは焼戻しの総熱処理時間を示し、単位はsecである。)
【請求項9】
下記関係式4を満たす、請求項5に記載の超高強度鋼板の製造方法。
[関係式4]
1≦t
heat≦119
(前記関係式4において、前記t
heatは焼戻しの昇温時間を示し、単位はsecである。)
【請求項10】
下記関係式5を満たす、請求項5に記載の超高強度鋼板の製造方法。
[関係式5]
1≦t
hold≦119
(前記関係式5において、前記t
holdは焼戻しの維持時間を示し、単位はsecである。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板、並びにこの製造方法に関するものであって、より詳細には急速低温テンパリングを活用した、曲げ性及び伸びフランジ性に優れ、高降伏比及び超高強度を有する鋼板、並びにこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板は、軽量化及び衝突安全性の確保という両立が難しい目標を満たすために、二相組織鋼(Dual Phase Steel、以下「DP鋼」という)、変態誘起塑性鋼(Transformation Induced Plasticity Steel、以下「TRIP鋼」という)、複合組織鋼(Complex Phase Steel、以下「CP鋼」という)などの様々な自動車用鋼板が開発されている。
【0003】
このような進歩した高強度鋼では炭素量を高めてより強度を高めることができるが、スポット溶接性などの実用的な側面を考慮するとき、実現可能な引張強度は約1200MPa級レベルが限界である。衝突安全性を確保するための構造部材への適用は、高温で成形後に水冷するダイ(Die)との直接接触を介して急冷により最終強度を確保する方法が注目を集めているが、設備投資費の過多と熱処理及び工程にかかる多額の費用のため、適用が広がっていない。
【0004】
水冷による急冷方式の代案として、一般的に徐冷方式を用いる。しかし、徐冷区間が存在する連続焼鈍炉及び連続焼鈍型溶融めっきラインでは、焼鈍熱処理後に90%以上の微細組織分率を有するマルテンサイト鋼は、降伏強度と引張強度の比が0.75未満と降伏強度が劣化する欠点がある。
【0005】
自動車の衝突時の抵抗力を高めるためには、降伏強度をより高めることが好ましく、このための改善方案が求められる。通常、マルテンサイト鋼の焼戻しは、マルテンサイト鋼の不十分な延性と靭性を改善するために行われるが、引張強度の下落を最大限抑えながら降伏強度を高める方案が必要である。
【0006】
また、マルテンサイト鋼をロールフォーミングあるいはプレス成形などを介して加工するためには、優れた曲げ性及び伸びフランジ性が必須である。しかし、通常のマルテンサイト鋼は、非常に高い強度によって成形するのに十分な曲げ性及び伸びフランジ性を確保することができない場合が多いため、これを高める研究も必要である。
【0007】
特許文献1(日本特許公報第2528387号)では、焼鈍後に室温まで急冷させる必要があるため、焼鈍炉と過時効炉の間に鋼板を急冷させることができる特別な設備を有するラインでなければ、製造できないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2(韓国公開特許公報第10-2010-0116608号)においては、Ms点、すなわち、マルテンサイト変態開始温度に到達した鋼板に対してマルテンサイト変態を起こすと同時に、変態後のマルテンサイトを焼戻しするオートテンパー処理によって高強度を得ることができるが、Ms直下の温度での熱処理条件の厳密な制御が必要であり、製造安定性に問題がある。
【0009】
また、特許文献3(韓国公開特許公報第10-2014-0030970号)では、目標物性を達成するために追加の熱処理を行うことを提示したが、その時間が長すぎて生産性が非常に低下したり、目標とする物性を達成するのに効率的な条件を設定するのが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本特許公報第2528387号
【特許文献2】韓国公開特許公報第10-2010-0116608号
【特許文献3】韓国公開特許公報第10-2014-0030970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一実施形態によると、曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板、並びにこの製造方法を提供する。
【0012】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、
重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含み、
微細組織として、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含み、
下記関係式1から定義されるMの値が100~500の範囲を満たす、超高強度鋼板を提供する。
[関係式1]
M=Psize×Pnumber×[C]0.5×[Mn]2×[S]
(上記関係式1において、上記Psizeは直径1μm以上の介在物の平均直径を示し、上記Pnemberは直径1μm以上の介在物の平均個数を示す。上記[C]及び[Mn]は、それぞれ鋼板内の括弧内の元素の平均重量%の含有量を示し、[S]は、鋼板内の括弧内の元素の平均ppm含有量を示す。)
【0014】
また、本発明のまた他の一実施形態によると、
重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含み、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含む微細組織を有する鋼板を用意する段階;及び
上記鋼板に焼戻しを行う段階;を含み、
下記関係式2で定義されるPの値が1.5~77.0の範囲を満たす、超高強度鋼板の製造方法を提供する。
【0015】
【0016】
(上記関係式2において、上記Tは焼戻しの最高温度を示し、単位は℃である。また、上記teffは有効熱処理時間を示し、単位はsecである。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によると、曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板、並びにこの製造方法を提供することができる。
【0018】
あるいは、本発明の一実施形態によると、徐冷区間が存在する連続焼鈍炉または連続焼鈍型溶融めっきラインで製造された降伏強度の低い鋼板に追加熱処理によって、マルテンサイト分率が90%以上のマルテンサイト鋼の降伏強度を向上させるか、あるいは曲げ性及び伸びフランジ性のうち1つ以上の特性を改善することができる。
【0019】
本発明の多様でありながらも有意義な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の比較例2及び発明例1~3から得られた鋼板を厚さ方向に切断した断面試験片について、微細組織を観察するために走査電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影した写真を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、いくつかの他の形態に変形することができ、本発明の範囲が以下説明する実施形態に限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野で平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0022】
一方、本明細書で用いられる用語は、特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定する意図ではない。例えば、本明細書において用いられる単数の形態は、関連定義がこれと明らかに反対される意味を示さない限り、複数の形態も含む。また、明細書において用いられる「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在または付加を除くものではない。
【0023】
従来には、急冷設備のない徐冷方式を用いる場合であって、徐冷区間が存在する連続焼鈍炉または連続焼鈍型溶融めっきラインの徐冷条件は、一般的に焼鈍後の冷却速度が3℃/sで650℃または溶融めっき浴の沈積温度である460℃まで冷却することからなる。上述した条件で製造された本発明の成分系を有する鋼板は、微細組織としてマルテンサイト分率が90%以上であるが、初期降伏強度が1000~1250MPaレベルであり、初期引張強度1200~1700MPaレベルであり、降伏比が0.75未満であるため、降伏強度が劣化するという欠点がある。
【0024】
ところで、自動車の衝突時に抵抗力を高めるためには、降伏強度の改善が要求されるだけでなく、ロールフォーミングあるいはプレス成形を介して加工するためには、曲げ性及び伸びフランジ性も向上させることが必要である。
【0025】
そこで、本発明は、このような低降伏強度を有する超高強度鋼板に対して、引張強度の下降を最大限抑制しながら降伏強度を向上させることに目的がある。
【0026】
本発明者らは、曲げ性及び伸びフランジ性などを向上させるだけでなく、上述した特性を満たす鋼板を得るために鋭意検討を行った結果、鋼内のC、Mn及びSの成分含量を制限された範囲に制御しながらも、鋼内の介在物特性を調節することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
以下、本発明に係る曲げ性及び伸びフランジ性に優れた超高強度鋼板について詳細に説明する。
【0028】
本発明に係る高強度鋼板は、重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%(但し、[N]は鋼中、窒素(N)の重量%含有量を示す)、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含む。
【0029】
以下では、本発明において、鋼板の成分添加の理由と含有量の限定理由について具体的に説明する。このとき、本明細書において各元素の含有量を示すときには、特に断りのない限り、重量%を示す。
【0030】
C:0.12~0.4%
炭素(C)は、マルテンサイトの強度を確保するための必須元素であり、0.12%以上添加される必要がある。しかし、C含有量が0.4%を超過すると、溶接性が悪化されるため、その上限を0.4%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記C含有量の下限は0.15%であることができ、あるいは上記C含有量の上限は0.30%であることができる。
【0031】
Si:0.5%以下(0%は除く)
シリコン(Si)は、フェライトの安定化のために添加される元素であり、上述した効果のために0%超過で存在する必要がある。但し、Siは、徐冷却の区間が存在する通常の連続焼鈍型溶融めっき熱処理炉で焼鈍後の徐冷時にフェライト生成を促進することで、強度を悪化させるという欠点がある。さらに、本発明のように相変態抑制のために多量のMnを添加する場合に、焼鈍時のSiによる表面酸化物の形成によって溶融めっきの特性の劣化、Siの表面濃化及び酸化によるデント欠陥の誘発のおそれがあるため、Si含有量の上限を0.5%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Si含有量の下限は0.1%であることができ、あるいは上記Si含有量の上限は0.45%であることができる。
【0032】
Mn:2.5~4.0%
マンガン(Mn)は、鋼中のフェライトの形成を抑制してオーステナイト形成を容易にする元素であり、上述した効果の確保のためにMnを2.5%以上添加する。鋼中のMn含有量が2.5%未満であると、連続焼鈍型溶融めっき熱処理炉の場合、徐冷却時にフェライト生成が容易になるという問題がある。また、上記Mn含有量が4.0%を超過すると、スラブ及び熱延工程で生じた偏析によるバンド形成が過度になり、転炉操業時の合金投入量の過多による合金鉄の原価増加の問題が生じる。したがって、本発明では、Mn含有量を2.5~4.0%に制限し、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Mn含有量の下限は2.7%であることができ、あるいは上記Mn含有量の上限は3.8%であることができる。
【0033】
P:0.03%以下(0%は除く)
リン(P)は、鋼中に不可避に含まれる不純物元素であり、0%超過で存在する。但し、P含有量が0.03%を超過すると、溶接性が低下し、鋼の脆性が発生するおそれが大きくなり、デント欠陥の誘発の可能性が高くなるため、P含有量の上限を0.03%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記P含有量の上限は0.012%であることができ、あるいは上記P含有量の下限は0.0005%であることができる。
【0034】
S:0.012%以下(0%は除く)
硫黄(S)は、Pと同様に鋼中に不可避に含まれる不純物元素であり、0%を超過して存在する。但し、Sは鋼板の延性及び溶接性を阻害する元素であるため、S含有量が0.012%を超過すると鋼板の延性及び溶接性を阻害する可能性が高いため、S含有量の上限を0.012%に制限することが好ましい。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記S含有量の上限は0.009%であることができ、あるいは上記S含有量の下限は0.0001%であることができる。
【0035】
Al:0.1%以下(0%は除く)
アルミニウム(Al)は、フェライト域を拡大する合金元素である。このようなAlは、本発明のように徐冷却が存在する連続焼鈍型溶融めっき熱処理工程を活用する場合に、フェライト形成を促進するという欠点があり、AlN形成による高温熱間圧延性の低下が可能であるため、Al含有量の上限を0.1%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Al含有量の下限は0.01%であることができ、あるいは上記Al含有量の上限は0.08%であることができる。
【0036】
Cr:1%以下(0%は除く)
クロム(Cr)は、フェライト変態を抑制することによって低温変態組織の確保を容易にする合金元素であり、上述した効果のために0%超過で含む。上記Crは、本発明のように、徐冷却が存在する連続焼鈍型溶融めっき熱処理工程を活用する場合に、フェライト形成を抑制するという利点があるが、1%を超過すると合金投入量の過多による合金鉄の原価が増加するという問題があるため、Cr含有量の上限を1%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Cr含有量の下限は0.01%であることができ、あるいは上記Cr含有量の上限は0.5%であることができる。
【0037】
Ti:48/14×[N]~0.1%(但し、上記[N]は、鋼中の窒素(N)の重量%含有量を示す)
チタン(Ti)は、窒化物形成元素であり、鋼中のNをTiNで析出させてスカベンジング(scavenging)を行う。また、Tiが未添加の場合、AlN形成による連続鋳造時にクラックが発生するおそれがあるため、上述した効果のためにTiを化学当量的に48/14×[N]%以上添加する必要がある。但し、Ti含有量が0.1%を超過すると、固溶窒素(N)の除去以外に追加的な炭化物の析出によってマルテンサイト強度の減少が行われるため、Ti含有量の上限を0.1%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Ti含有量の下限は0.01%であることができ、あるいは上記Ti含有量の上限は0.08%であることができる。
【0038】
Nb:0.1%以下(0%は除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析して焼鈍熱処理時にオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する元素であるため、0%超過で添加される必要がある。但し、Nb含有量が0.1%を超過すると、合金投入量の過多によって合金鉄の原価が増加するという問題があるため、Nb含有量の上限を0.1%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記Nb含有量の下限は0.01%であることができ、あるいは上記Nb含有量の上限は0.06%であることができる。
【0039】
B:0.005%以下(0%は除く)
ボロン(B)は、フェライト形成を抑制する元素であり、特に焼鈍後の冷却時にフェライトの形成を抑制するという利点があるため、0%超過で含む。但し、上記B含有量が0.005%を超過すると、却ってFe23(C、B)6の析出によってフェライト形成が促進されるという問題が生じるため、B含有量の上限を0.005%に制限する。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記B含有量の上限は0.003%であることができ、あるいは上記B含有量の下限は0.0005%であることができる。
【0040】
N:0.01%以下(0%は除く)
窒素(N)は、鋼中に不可避に含まれる不純物元素であり、0%を超過して存在する。但し、上記N含有量が0.01%を超過すると、AlN形成などによる連鋳時にクラックが発生するおそれが大きく増加する。したがって、本発明では、N含有量の上限を0.01%に限定することが好ましい。一方、上述した効果をより改善する実施形態から、上記N含有量の上限は0.008%であることができ、あるいは上記N含有量の下限は0.0005%であることができる。
【0041】
本発明の残りの成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲環境の変数により意図しない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の鉄鋼製造過程の技術者であれば、誰でも分かることであるため、そのすべての内容を特に本明細書では言及しない。
【0042】
本発明に係る超高強度鋼板は、微細組織として、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含む。上記微細組織を3次元的な概念である体積分率で測定する方法は容易でないため、通常の微細組織の観察時に活用される方法である厚さ方向に切断した断面観察を介して面積分率で微細組織を測定する。一方、上記超高強度鋼板の微細組織は、後述する熱処理(焼戻し)の前後に同じ微細組織を有することに留意する必要がある。
【0043】
微細組織の構成としては、硬質相(hard phase)であるマルテンサイトを主相として有することで、超高強度の確保に有利であるため、本発明ではマルテンサイトを90%以上含む。すなわち、上記超強度鋼板の微細組織中に、マルテンサイトが90%未満であると、目標とする強度を確保することができないという問題が生じることがある。上述した効果をより最大化する実施形態から、微細組織中に、上記マルテンサイト面積率の下限は94%であることができる。
【0044】
一方、超高強度の確保のための観点からは、硬質相であるマルテンサイトの分率が高いほど強度確保に有利であるため、上記マルテンサイト面積率の上限を特に限定しない。但し、本発明の一例として、上記マルテンサイト面積率の上限は99%であることができる。
【0045】
また、上記超強度鋼板の微細組織中に、フェライト及びベイナイトの合計が10%を超過すると、目標とする強度を確保することができないという問題が生じることがある。上述した効果をより最大化する観点から、微細組織中に、上記フェライト及びベイナイトの合計面積率の下限は1%であることができるか、2%であることができるか、あるいは上記フェライト及びベイナイトの合計面積率の上限は6%であることができる。
【0046】
あるいは、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上記超強度鋼板の微細組織として、面積%で、フェライト:1~5%及びベイナイト:1%以下(0%を含む)をさらに含むことができる。
【0047】
本発明に係る超高強度鋼板は、下記関係式1から定義されるMの値が100~500を満たす。下記Mの値が100未満であると、目標とする強度を確保することができないという問題が生じることがある。一方、下記Mの値が500を超過すると、鋼材の衝撃特性及び曲げ性が悪化するという問題が生じることがある。ここで、下記関係式1は経験的に得られる値であるため、別途の単位を定義しないことができ、下記に定義された各変数の単位のみを満たすと十分である。
[関係式1]
M=Psize×Pnumber×[C]0.5×[Mn]2×[S]
(上記関係式1において、上記Psizeは直径1μm以上の介在物の平均直径を示し、上記Pnemberは直径1μm以上の介在物の平均個数を示す。上記[C]及び[Mn]は、それぞれ鋼板内の括弧内の元素の平均重量%含有量を示し、[S]は鋼板内の括弧内の元素の平均ppm含有量を示す。)
【0048】
本発明者らは、引張強度の下落を最大限に制御しながら降伏強度を向上させ、これと同時に伸びフランジ性及び曲げ性を向上させた超高強度鋼材を提供するために鋭意研究を重ねた結果、鋼種のC、Mn及びSの成分含有量を制限された範囲に設定しながらも、鋼内の介在物を可能な範囲内で最小化することが重要であることを見出した。
【0049】
具体的に、本発明による超高強度鋼板を製造するためには、まず熱処理された鋼板のC、Mn、Sの成分の含有量を最適化された形態で組み合わせる必要がある。したがって、上記関係式1の中に、[C]は鋼板内の炭素(C)の平均重量%含有量を示し、[Mn]は鋼板内のマンガン(Mn)の平均重量%含有量を示す。一方、[S]は鋼板内の硫黄(S)の平均ppm含有量を示す。但し、上記[S]の値が30ppm(0.003wt%)未満の値を有する場合には、硫黄(S)による影響が30ppmの場合と類似するため、上記Mの値を計算時に[S]の値は30と定義する。
【0050】
一方、上記に言及された元素は、全て鋼内で介在物を生成する元素であり、その例としてMnSなどの硫化物と(Nb、Ti)Cなどの炭化物がある。本発明において最適な焼戻し効果を説明するために言及した硫化物及び炭化物の全てを含む上位の概念が介在物である。このような介在物の生成を抑制するために言及された元素の成分を最適に組み合わせて、生成された介在物の大きさ及び個数を上記関係式1を満たすように管理する必要がある。鋼内に生成された介在物はクラック発生の始点となり、これにより介在物の生成は鋼種の衝撃特性を低下させ、曲げ性の低下現象を引き起こすため、関係式1のように、上述した成分の含有量及び介在物の特性を制御することで、鋼板の強度特性及び伸びフランジ性を確保するだけでなく、曲げ性も向上させることができる。
【0051】
本明細書において、上記介在物とは、MnS及び(Nb、Ti)Cなどのような硫化物、炭化物を意味する。一般的に知られている介在物の種類には窒化物などもあるが、本発明において強度と曲げ性に大きな影響を及ぼすものはMn、C及びSから形成される介在物であるため、本明細書における介在物には硫化物、炭化物(炭窒化物を含む)のみを含み、但し、窒化物は含まない。
【0052】
また、上記介在物のうち、直径1μm以上の介在物の平均直径[μm]をPsizeと定義する。このとき、上述した介在物はMnS、炭化物などの様々な形態で構成されることができる。その形態が球形である時には、直径1μm以上を主要な介在物と判断し、球形でない場合には、同一面積を有する球形と仮定して直径を測定し、その値が1μm以上の場合、有効な介在物と判断する。一方、測定方法については別途限定しないが、判断を正確にするために倍率3000倍以上の高性能顕微鏡を活用して測定することが好ましい。
【0053】
また、上記介在物のうち、直径1μm以上の介在物の平均個数[個]をPnumberと定義する。上記介在物の平均個数の測定方法について特に限定するものではないが、本発明の実施例と同様に、倍率3000倍以上の高性能顕微鏡を活用して測定することが好ましく、一例として単位面積100~600μm2の範囲内に存在する直径1μm以上の介在物の平均個数を意味することができる。一方、本明細書において、上述した直径1μm以上の介在物の平均個数が1個未満であると、関係式1の値は1と定義する。このような単位面積当たり存在する介在物の個数値に対する統計的な正確性を高めるために、最小3回以上の測定値の平均値を用いることができる。
【0054】
一方、特に限定するものではないが、本発明の一実施形態によると、上述した効果をより改善する観点から、上記Mの値の下限は103であることができ、あるいは上記Mの値の上限は441であることができる。
【0055】
本発明の一実施例によると、特に限定するものではないが、上記超高強度鋼板は、降伏強度(YS)が1140~1500MPaであり、引張強度(TS)が1470~1700MPaであることができる。これは、衝突部材に適用される鋼板の特性上、該当数値の強度を有することが強度、軽量化、成形性及び生産性を考慮した時に適合するためである。一方、特に限定するものではないが、より好ましくは上記超高強度鋼板において、上記降伏強度の下限は1250MPaであることができ、あるいは上記降伏強度の上限は1350MPaであることができる。また、上記超高強度鋼板において、上記引張強度の下限は1480MPaであることができ、あるいは上記引張強度の上限は1600MPaであることができる。
【0056】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記超高強度鋼板は降伏比が0.8以上であることができる。これは、衝突部材に適用される鋼板の特性上、引張強度に対して降伏強度が高いことが有利であるためである。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記超高強度鋼板において、上記降伏比の下限は0.84であることができ、あるいは上記降伏比の上限は0.90であることができる。
【0057】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記超高強度鋼板は伸びフランジ性(HER)が25%以上であることができる。これは、超高強度鋼板をロールフォーミングあるいはプレス成形などを介して加工するためには、伸びフランジ性に優れたものが好ましいからである。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記超高強度鋼板において、上記伸びフランジ性(HER)の下限は28%であることができ、あるいは伸びフランジ性(HER)の上限は40%であることができる。
【0058】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記超高強度鋼板は曲げ性R/tが4以下であることができる。これは、超高強度鋼板をロールフォーミング或いはプレス成形などを介して加工するためには、曲げ特性に優れたことが好ましいからである。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記超高強度鋼板において、上記曲げ性(R/t)の下限は2.6であることができ、あるいは上記曲げ性(R/t)の上限は3.8であることができる。
【0059】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記超高強度鋼板は、伸び率(El)が3~13%の範囲であることができる。上記伸び率が3%未満であると、成形性が不足する問題が生じることがあり、13%超過であると鋼内のマルテンサイトを除いた軟質相が多量に形成されて、安定した目標強度を確保するための操業性に問題が生じることがある。
【0060】
次に、以下では、本発明のまた他の一実施形態に係る[超高強度鋼板の製造方法]について詳細に説明する。但し、本発明の超高強度鋼板が必ずしも以下の製造方法によって製造される必要があることを意味するものではない。
【0061】
まず、重量%で、C:0.12~0.4%、Si:0.5%以下(0%は除く)、Mn:2.5~4.0%、P:0.03%以下(0%は除く)、S:0.012%以下(0%は除く)、Al:0.1%以下(0%は除く)、Cr:1%以下(0%は除く)、Ti:48/14×[N]~0.1%、Nb:0.1%以下(0%は除く)、B:0.005%以下(0%は除く)、N:0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及びその他の不純物を含み、面積%で、マルテンサイト:90%以上、フェライト及びベイナイトの合計:10%以下を含む微細組織を有する鋼板を用意する。このとき、鋼板の合金組成及び微細組織については、上述した説明を同様に適用することができる。
【0062】
このとき、後述する熱処理(焼戻し)前の鋼板としては、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛合金化めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板などを用いることができ、熱処理の途中または熱処理後に冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛合金化めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板などの性質をそのまま維持したり、新しい形態の鋼板に変化させることができる。
【0063】
続いて、上記鋼板にインダクションヒーターなどを用いて焼戻し(または、急速焼戻し)を行う。このとき、上記焼戻しは、下記関係式2で定義されるPの値が1.5~77.0の範囲を満たすように制御する。
【0064】
【0065】
(上記関係式2において、上記Tは焼戻しの最高温度を示し、単位は℃である。また、上記teffは有効熱処理時間を示し、単位はsecである。)
【0066】
徐冷却区間が存在する連続焼鈍炉または連続焼鈍合金めっき炉を通過して製造される降伏比が0.75未満の超高強度鋼板は、マルテンサイト形成時に導入される電位に固溶炭素が固着される。このとき、上記固着した炭素を、インダクションヒーターを介した急速低温焼戻し熱処理によって自由に拡散挙動するようにして、降伏強度と引張強度との比を上昇させることができる。上記固着した炭素が自由に拡散挙動するようになると、電位を固着させることで素材の変形を抑制するようになり、結果的に降伏強度を増加させるようになる。上記固着した炭素を自由にすることは、通常の拡散挙動と同様に温度と時間の関数であるが、温度が高いほど且つ時間が長いほど自由に拡散することができるが、温度が高すぎて時間が長い場合には、炭化物の形成により却って降伏強度と引張強度が減少するようになる。
【0067】
また、このような降伏強度の上昇は、素材の伸びフランジ性を向上させる結果がある。一般的に、伸びフランジ性は、同じ等級の引張強度で降伏強度が高いほど靭性が増加して上昇する傾向にある。また、素材内の微細組織間の相間の強度差が少ないほど上昇する傾向にあるが、焼戻し熱処理を介して素材内の位置別の冷却差による相間の強度差を減少させることができる。
【0068】
しかしながら、焼戻し温度が高いか、または時間が長すぎると、生成した炭化物が過度に粗大化し、該当位置でクラック生成が誘発されて、伸びフランジ性を減少させる悪影響を及ぼす。曲げ特性も同じ等級の引張強度で降伏強度が高いほど材料の靭性が増加して上昇する傾向にある。
【0069】
それ故に、本発明で提示した適切な条件の焼戻し熱処理を介して曲げ特性を上昇させることが可能である。しかし、熱処理温度が高いか、熱処理時間が長くなると、生成した炭化物が過度に粗大化し、曲げ実験時にクラック発生の始発点となって曲げ特性が悪くなる傾向にある。
【0070】
したがって、本発明者らは、引張強度の下落を最大限制御しながら降伏強度を向上させ、これと同時に伸びフランジ性及び曲げ性を向上させた超高強度鋼材を提供するために鋭意研究を重ねた結果、上記関係式2で定義されるPの値が1.5~77.0の範囲を満たすように焼戻し条件を制御することで、上述した目的が達成可能であることを確認した。
【0071】
一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、上記関係式2で定義されるPの値の下限は15.8であることができ、あるいは上記関係式2で定義されるPの値の上限は54.7であることができる。
【0072】
本明細書において、上記teffは有効熱処理時間であり、上述した焼戻しの最高温度の90%以上に達した区間での滞留時間[sec]を示す。このとき、上記焼戻しの最高温度の90%以上に達したか否かは絶対温度[K]を基準として判断する。
【0073】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記T(焼戻しの最高温度)は100~300℃の範囲を満たすことができる。上記Tが100℃未満であると、上述した炭素の拡散挙動を誘発することが困難であることがあり、上記Tが300℃を超過すると、炭化物が過度に粗大化して目標とする物性を達成することが難しい。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記Tの下限は200℃であることができ、あるいは上記Tの上限は250℃であることができる。
【0074】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記teffは1~120secの範囲を満たすことができる。上記teffが1秒未満であると、非常に短い有効熱処理時間により安定して目標強度を確保することができないという問題が生じる可能性がある。また、上記teffが120秒を超過すると、熱処理時間が長くなって生産性の問題が発生することがあるのみならず、炭化物が粗大化して曲げ性が低下する可能性がある。
【0075】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記焼戻しは、下記関係式3を満たすようにすることができる。
[関係式3]
5≦ttotal≦120
(上記関係式3において、上記ttotalは焼戻しの総熱処理時間を示し、単位はsecである。)
【0076】
すなわち、焼戻しの総熱処理時間(ttotal)が5秒未満であると、炭素の拡散挙動を引き起こすのに十分な時間を確保することが困難であり、目標熱処理温度まで到達するにも設備上の制約が発生することがある。一方、焼戻しの総熱処理時間(ttotal)の上限を120秒以下に制御することは、発明の核心制御条件の一つであり、焼戻しの総熱処理時間(ttotal)が120秒を超過すると、炭化物が粗大化して、目標とする物性を達成することが難しく、特に曲げ特性に及ぼす悪影響が非常に大きい。また、熱処理時間が長くなるにつれて生産性が大きく下落し、別途の追加的な工程が必要な場合が生じることがある。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、上記焼戻しの総熱処理時間(ttotal)の下限は10秒であることができ、あるいは焼戻しの総熱処理時間(ttotal)の上限は30秒であることができる。
【0077】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記焼戻しは、下記関係式4を満たすようにすることができる。
[関係式4]
1≦theat≦119
(上記関係式4において、上記theatは焼戻しの昇温時間を示し、単位はsecである。)
【0078】
本発明の一実施形態によると、上記焼戻しの昇温時間(theat)が1秒未満であると、非常に短い昇温時間によって加熱設備の過負荷問題が発生したり、鋼材が均一に熱処理昇温できないという問題が生じることがある。また、上記焼戻しの昇温時間(theat)が119秒を超過すると、生産性が低下し、十分な維持時間を確保し難くなる問題が生じることがある。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点
から、上記焼戻しの昇温時間(theat)の下限は30秒であることができ、または焼戻しの昇温時間(theat)の上限は50秒であることができる。
【0079】
また、本発明の一実施形態によると、特に限定するものではないが、上記焼戻しは、下記関係式5を満たすようにすることができる。すなわち、焼戻しの維持時間(thold)が1秒未満であると、目標とする強度を確保することができず、鋼材の全ての位置で同じ物性を確保することができないという問題が生じることがある。また、焼戻し維持時間(thold)が119秒を超過すると、生産性が低下するだけでなく、炭化物が粗大化して曲げ性が低下するという問題が生じることがある。一方、特に限定するものではないが、上述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記焼戻しの維持時間(thold)の下限は15秒であることができ、あるいは焼戻しの維持時間(thold)の上限は、30秒であることができる。
[関係式5]
1≦thold≦119
(上記関係式5において、上記tholdは焼戻しの維持時間を示し、単位はsecである。)
【0080】
なお、本明細書において、上記関係式4及び5は、一般的な昇温-維持-冷却の形態で焼戻しが行われる際に満たす条件を意味する。したがって、鋼材の熱処理過程が昇温-維持-冷却の形態でない場合には、上記関係式4及び5の条件を満たさなくても十分であり、このときは上述した関係式3のみを満たすと十分である。一方、上述した鋼材の熱処理過程が昇温-維持-冷却の形態でない場合の例としては、熱処理時に昇温-維持-冷却を数回繰り返すか、維持又は冷却段階を省略する場合などがある。
【実施例】
【0081】
(実施例)
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、例示によって本発明を説明するためであって、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0082】
下記表1に記載の組成及び下記表2に記載の微細組織を有する鋼板を用意した後、上記鋼板に下記表3に記載の条件を満たすように急速焼戻しを行った。
【0083】
【0084】
但し、S*:S含有量の単位はppm
【0085】
【0086】
【0087】
T*=焼戻しの最高温度[℃]
teff*=焼戻しの最高温度の90%以上に達した区間での滞留時間[sec]
theat*=焼戻しの昇温時間[sec]
thold*=焼戻しの維持時間[sec]
ttotal*=総熱処理時間[sec]
【0088】
【0089】
上記表3の各発明例及び比較例から得られた鋼板を厚さ方向に切断した断面試験片を製造した後、上記断面で直径1μm以上の介在物の平均直径(Psize)と、直径1μm以上の介在物の平均個数(Pnumber)を400μm2の単位面積を基準として明細書で上述した方法と同様に測定して下記表4に示した。但し、直径1μm以上の介在物がない場合には、上記Psize及びPnumberはそれぞれ「1」で示した。
【0090】
また、常温引張実験を行い、ISO-6892の規格に従い、降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び降伏比(降伏強度/引張強度;YR)を計算して下記表5に示した。
【0091】
また、下記各比較例及び発明例について、焼戻し熱処理を行う前の各試験片に対する降伏強度(YS)及び引張強度(TS)値を測定した後、上記測定値を基準に、焼戻し熱処理後の各試験片に対する降伏強度の変化量(ΔYS)及び引張強度の変化量(ΔTS)を測定して、下記表5に示した。
【0092】
また、ISO-6892の規格に従って伸び率(El)を測定し、鋼材に10mm大きさの孔(Hole)を開け、一定の速力で孔を拡張する方法で伸びフランジ性(HER)を測定した。また、鋼材を一定の大きさのR値を有する圧子で押す形態の方法で曲げ性(R/t)を測定して、下記表5に示した。
【0093】
また、鋼材を長さ1000mm以上の大きさで切断した後、平坦なところに置いて波高を測定し、その波高の最大値を基準として鋼材の平坦度を評価した。このとき、波高の最大値が10mm未満の場合、形状が「良好」であると評価し、波高の最大値が10mm以上の場合、「不良」と評価して下記表5に示した。
【0094】
【0095】
M*=Psize×Pnumber×[C]0.5×[Mn]2×[S]
【0096】
【0097】
上記表5の実験結果から分かるように、本発明の合金組成及び製造条件を満たし、関係式1から定義されるMの値が100~500の範囲を満たす発明例1~4の場合、高い降伏強度及び引張強度を確保しながらも、降伏比、曲げ性及び伸びフランジ性に優れ、同時に平坦度も優れていることを確認した。
【0098】
一方、本発明の合金組成は満たすが、関係式2から定義されるPの値が1.5未満であるか、77.0を超過する比較例1~4の場合、焼戻し条件が適切でなく、強度、降伏比、曲げ性、伸びフランジ性及び平坦度のうち1つ以上の特性が劣化することを確認した。
【0099】
一方、本発明の合金組成を満たさない比較例5~7の場合、強度、曲げ性、伸びフランジ性及び平坦度が全て劣化した。
【0100】
具体的には、比較例5は本発明の含金組成を満たさない鋼種であり、具体的に炭素の含有量が不足する。侵入型強化元素である炭素は、鋼種の強度上昇に大きく寄与する元素であり、このような炭素が不足することによって引張強度及び降伏強度が本発明で目標とする数値に達しなかった。また、比較例5は、焼戻し工程で十分な時間と温度を確保することができず、式(2)のP値が本発明で目標とする数値未満であった。これにより、焼戻し工程で十分な降伏強度の上昇を確保することができず、焼戻し工程以降の降伏強度が不足した。
【0101】
比較例6は、本発明で目標とする合金組成と比較して硫黄の含有量が超過される鋼種を用いた場合である。鋼内に硫黄濃度が高いと、硫黄がマンガンと反応してマンガン硫化物などの介在物を生成し、このような介在物は鋼の曲げ特性及び伸びフランジ性を大きく低下させる。したがって、比較例6は、このような要素を考慮して数値化した式(1)のM値が本発明で目標とする数値を超過した。これにより、比較例6の曲げ特性を示す指標であるR/t及び伸びフランジ性を示す指標であるHERは、本発明で目標とする数値を満たさない。
【0102】
比較例7は、本発明で目標とする合金組成と比較してマンガンの含有量が超過される鋼種である。鋼内にマンガンの濃度が高いと、マンガンが硫黄と反応してマンガン硫化物などの介在物を生成し、このような介在物は鋼の曲げ特性及び伸びフランジ性を大きく低下させる。したがって、比較例7は、上述した要素を考慮して数値化した式(1)のM値が本発明で目標とする数値を超過した。これにより、比較例7の曲げ特性を示す指標であるR/t及び伸びフランジ性を示す指標であるHERは、本発明で目標とする数値を満たさないことを確認した。また、鋼内のマンガン濃度が高いと、マンガンが鋼内で帯状の構造(band structure)を形成するようになる。このようなマンガンによる構造的特徴は、鋼種の曲げ特性及び形状特性を低下させる原因となる。それだけでなく、マンガンの含有量の増加は、これ以外にも鋼種の硬化能を向上させて、鋼種の引張強度を上昇させるようになり、引張強度が本発明で目標とする数値を超過するようになると、鋼の生産時に形状が劣化し、このように劣化した形状を矯正することも難しくなるため、鋼種の形状が悪くなるという問題が発生する。それにより、比較例7は、鋼種の引張強度、HER、曲げ性、平坦度のいずれも本発明で目標とする数値を満たさなかった。
【国際調査報告】